シャルバート星での一件により戦争目前となった地球連邦を盟主とする銀河連合とボラー連邦だが地球連邦が示した退去期限までの短い時間の中で地球連邦政府は開戦を避けようとしていた。
地球連邦は戦争準備を進める傍ら、大統領は何度もベムラーゼ首相とホットラインで開戦を避けようと協議をした。しかしベムラーゼ首相からの返答は変わらず、シャルバート星からの全面撤退とルダ王女の引き渡しであった。
勿論、地球連邦としては飲み込める条件ではある、しかし何度も人類滅亡の危機に瀕した地球にとって一つの平和的な国家を見殺しには到底できなかった。それに銀河連合盟主としての立場もある。また報道も過熱していた。
シャルバート星の一件がニュースになると国民からはシャルバート星救援を求める声が多く挙がった、国民の中でも無防備な国家に攻撃を仕掛けようとしているボラー連邦を許せないといった声が大きかったのだ。中でも共感を得たのは「我々がイスカンダルのスターシャ女王の様に救いの手を差し伸べるべきである」という声であった。国民もまた平和的な国家を見捨てることができないのであった。
3月16日、この日総長執務室には統括司令部総長と総参謀長のゴップ大将そして連邦大統領が集まっていた。
「外交交渉は手詰まりですか」
大統領からの報告を聞いた総長は少し残念そうに言った。まぁベムラーゼ首相が交渉で譲るような人物ではないと思っていたのでそれほど驚きはしなかったが。
「すまないね。私の努力不足で。ベムラーゼ首相の意向で外交チャンネル確保のために両国とも大使館の引き上げを行わない事以外何も進展が無かった。とりあえず大使館には機密情報の消去は命じておいたがね」
大統領は申し訳なさそうに言った。
「気にしないで下さい大統領。我々もあのベムラーゼ首相が外交交渉で食い下がるとは思っていませんでしたので。それにボラー連邦内で活動しているコントロールからはベムラーゼ首相が本気で対決する姿勢を示しているとの報告も上がっています」
総長はそう言い大統領をフォローする。
事実、諜報機関のコントロールからはベムラーゼ首相がかなり強硬姿勢であるという情報が報告されていた。
「そう言ってもらうと私も少し気が楽になるよ」
大統領は少し笑顔で言うと疑問を口に出した。
「しかし大使館の引き上げを要求しないとはどの様な意図があると総長は思うかね。通常であれば大使館は引き上げ、和平交渉などをするとなればホットラインもしくは第三国を使用すると思うのだよ。これについては議会でも多く疑問の声があってね、総長の意見が欲しい」
この大統領の疑問に対して総長は直ぐに答えた。
「簡単ですよ。ベムラーゼ首相は双方の大使館の引き上げを行わないことで本国に対する直接の攻撃を控えさせるつもりなんですよ。仮に大使館の引き上げを行えば我々は開戦直後にコロニーレーザーをボラー連邦本星に撃ち込むことさえできるんですから」
「なるほど」
大統領は納得した声を出した。
「大使館要員は一種の盾みたいなもんですよ。ベムラーゼ首相も頭を使ったものです。まぁこの方が諜報活動はしやすいですけどね」
総長はそう言った。
総長がこう言ったのは諜報機関コントロールの拠点はボラー連邦各地にあるが中核は大使館内にあるからであった。
「なるほどね。それなら大使館引き上げを行わない理由として納得できるな」
大統領は謎が解けたと安堵したのか本題を切り出した。
「それでは総長、対ボラー連邦戦の説明をお願いする」
「了解しました」
大統領に対ボラー連邦戦の説明を求められた総長は説明を始めた。
「まず対ボラー連邦戦ですが、我々は内外から攻めボラー連邦陣営の切り崩しを図ります。ご存じの通りボラー連邦は一種の恐怖政治的な体制を敷いている国家です。ですので我々は国交がある親ボラー連邦国家やボラー連邦の属国をボラー連邦本体から切り崩し我々の銀河連合に取り込む、もしくは中立化させます。既にいくつかの親ボラー連邦国家は中立の立場を取ると内密にですが言質を取っています。ただどの国家もボラー連邦からの圧力がありますから少しはボラー連邦寄りにはなるでしょうがそれは仕方ありません。そして軍の動きについてはゴップ大将から」
総長はそう言うとゴップ大将に譲った。
「それでは軍の動きについて説明します。完全に決まっているのは初戦だけですが、主力艦隊の一部は銀河連合の同盟国に一個艦隊ずつ派遣し同盟国の防衛に当たらせます。また背後の脅威を排除する為にボラー連邦の属国であるバース星に攻め込み占領します。バース星は他のボラー連邦領から離れているため比較的占領しやすいと思われます。それと並行しボラー連邦の重要星系アルゼ星系に侵攻し、占領もしくは惑星全てを破壊します。アルゼ星系はボラー連邦内でも有数の資源産出地と一大軍需工場がある星系の為、ここが陥落することはボラー連邦にとって戦争継続に当たり僅かながらも打撃となります。さらに次元潜航艦や潜宙艦などを使い徹底した通商破壊作戦も行います」
ゴップ大将はそう説明すると、総長が補足する。
「補足しますと、バース星占領後は属国解放ということを大々的に報じます。コントロールを通じての情報ですが、バース星は無理やりボラー連邦の保護国となったようなものなので解放したことを宣言すればその他の無理やり属国や保護国になった国にも大きな影響を与えることができるでしょう。また通商破壊作戦はボラー連邦船籍のみに実施し、親ボラー連邦国家の船は攻撃しません。親ボラー連邦国家も最近ではボラー連邦からは距離を取りつつある為、攻撃はしませんがボラー連邦と共に攻撃してきた場合は無差別攻撃許可法を使用してでも叩き潰します」
「なるほど。これが序盤の動きか」
総長の説明に「無差別攻撃許可法を使用」なんて物騒なことがあったが大統領は納得した表情で聞いていた。
「そうです。序盤を圧倒的有利に進めることができれば親ボラー連邦国家も完全にボラー連邦から離れる可能性があるでしょう。また親ボラー連邦国家が銀河連合に加入もしくは銀河連合寄りの体制になるように工作も仕掛けます。兎に角この戦争はボラー連邦を叩きに叩き、親ボラー連邦国家並びにボラー連邦の属国が銀河連合寄りの体制になるようにします。さらに以前からコントロールが工作を進めていたベムラーゼ首相の失脚をベムラーゼ首相の政敵、主に地球融和派と協力しボラー連邦の現体制の崩壊も目指します。説明は以上です」
「了解した。総長、対ボラー連邦戦は宜しく頼む」
総長達からの説明を聞いた大統領はそう言い頭を下げた。
転生者達はボラー連邦との国交開設以降からこの方針を会合で決めていた。
ボラー連邦と戦争が勃発し長期戦になっても銀河交錯事件が起きれば地球及び銀河連合の勝ちなのだが、その場合戦後処理が面倒なのでここは短期決戦でボラー連邦を叩きまくり親ボラー連邦国家や属国をまとめて地球連邦の勢力圏に入れてしまおうと考えていたのだ。その為に転生者達は諜報機関であるコントロールを使い、様々な情報の収集を行ったりベムラーゼ首相の失脚活動、地球融和派との接触を行っていた。
なお一部の転生者曰く「この機会だ、奪えるものは全部奪うまでやっちまえ」とのことである。
その頃、シャルバート星宙域では奇妙な状態が続いていた。開戦しているはずのガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦ですら一切の砲火を交えず、ボラー連邦軍は防衛艦隊第十主力艦隊、ガルマン・ガミラス帝国デスラー親衛艦隊と睨み合いを続けていた。
「バルコム司令本当によろしいのですか」
「かまわん。地球が指定した開戦時間5分前に一斉攻撃開始だ」
「わかりました」
そしてボラー艦隊ではこのような会話が行われていた。バルコム司令にとって結果的に勝てばよいという考えであった。