アスターテ星系、それは地球連邦の勢力圏でありボラー連邦の勢力圏と接している星系である。
アスターテ星系はボラー連邦と地球連邦が戦争状態になる前はボラー連邦との交易拠点として栄えていた星系であった。しかしボラー連邦と地球連邦が開戦した今、交易は無くなりこの星系には交易拠点となっていたハイランドと呼ばれている10基のコロニー群に官民合わせて20万人が残るだけであった。
このコロニー群の防衛に地球連邦防衛軍はコロニー防衛部隊としてレパント級フリゲート10隻、バラクーダ級無人砲艦10隻と50機のコスモタイガーⅢを駐留させており、更に星系防衛艦隊としてドレッドノート級トライアンフを旗艦にエンケラドゥス級巡洋艦火力増強型2、サラミス級4、フレッチャー級駆逐艦8が展開していた。
またこれらとは別に星系外縁部のボラー連邦側にゼダンの門と名付けられた宇宙要塞ア・バオア・クーを一回り小さくした形をした要塞にジェガン100機とリゼル20機、駐留艦隊としてドイッチュラント級20、ドレイク級突撃艦15、磯風改型8、レイピア級10、バラクーダ級無人砲艦20が駐留している。
そしてこのゼダンの門は上記の通り地球圏に建設された要塞ア・バオア・クーを一回り小さくした形の要塞でありキノコのような形をしている。
要塞の至る所にはビーム砲台やミサイル発射装置などの各種武装が施されていると共に要塞内部には多数の艦艇を収容できるように設計されており、非常に強固な要塞であるためボラー連邦に睨みを利かせていた。
ゼダンの門司令室
「状況はどうなっている」
CICのような作りとなっているゼダンの門兼アスターテ星系防衛司令部の司令室で基地司令は深刻な表情をして尋ねた。
「状況は変わりません。潜宙艦U4が確認したボラー連邦艦隊約250隻は約3光年離れた小惑星帯に展開しています。ただ補給部隊は撤退したようですが、変わりに揚陸艦らしき艦艇が確認されています」
「そうか」
オペレーターからの報告を聞いた基地司令はそう答えた。
事態が発覚したのは2日前であった。
索敵及び通商破壊作戦に出撃した潜宙艦U4がアスターテ星系から約3光年離れた小惑星帯に補給部隊を伴ったボラー連邦艦隊を発見したのだ。この報告を受け基地司令はボラー連邦のアスターテ星系への侵攻が近いと判断、星系全体の防衛体制を整えていたのだ。
因みにボラー連邦側からアスターテ星系への進入路はこのゼダンの門を必ず通らなければならないようにされており、他の進入路は空間歪曲装置と機雷源で完全に封鎖されていた。
「補給部隊が撤退したということは艦隊が攻めてくるな。此方の部隊の状況は」
基地司令は部隊配置が記されたディスプレイを見ながら言った。
そのディスプレイにはアスターテ星系及びゼダンの門周辺に展開している艦隊や民間船、機雷源の状況が記されていた。
「味方の部隊ですが此処の駐留艦隊は全て出港させてあります。これはハイランドも同様です。また星系防衛艦隊はハイランドに張り付いては居ますがいつでも此処への増援として来られる体制を取っています」
オペレーターはそう言いながらディスプレイに記された各部隊を棒で指しながら状況を説明した。
「上がもっと事前に艦艇を派遣してくれていれば安心できたのだがなぁ」
司令はそう呟いた。事実アスターテ星系の艦艇数はボラー連邦が攻め込んできた時の事を考えると少なかった。だがこれには理由はあった。
防衛軍は平時においてボラー連邦との緊張を高めないように少ない戦力をアスターテ星系に駐留させていたのだが、いざ開戦となった時に防衛軍は本土及び各地領土の防衛、同盟国への艦隊派遣、ボラー連邦支配地域への攻略作戦などでアスターテ星系への増援艦艇が迅速に多数用意できなかったのだ。
その為、今までに派遣出来た増援戦力はドイッチュラント級10隻とレイピア級10隻、ドレイク級10隻、ジェガン50機のみであった。なお戦力を用意できなかった要因としてガトランティス戦役以降に地球連邦政府が強力に推し進めていたフロンティア計画もあった。
このフロンティア計画は人類の生存圏を拡大し人類全滅のリスクを減らそうという計画である。これにより生存圏の拡大は急速に進んでいたが、その生存圏の広さが防衛艦隊の戦力で満足に防衛できる領域を超えていたのであった。
勿論防衛艦隊もこの状況を重大視し、少し値段が掛かるが火力もあり使い勝手も良いドイッチュラント級を急遽量産し基地防衛戦力や遅滞戦術を実施するための戦力として配備していた。
閑話休題
司令はそう呟いた後に「過去のことを考えても仕方がない」と思い一呼吸置き部下に問いかけた。
「増援の方はどうなっている」
司令はそう尋ねた、統括司令部が派遣すると伝えてきた増援艦隊の所在でについてであった。
「はい。統括司令部が送ってきた情報によれば後1時間で増援の第八機動艦隊がアスターテ星系に到着します。なお第八機動艦隊はアスターテ星系到着後にこの司令部の指揮下に入るとのことです」
「了解した。第八機動艦隊には星系到着時に戦闘が始まっていた場合は独自の判断で行動するように伝えておいてくれ」
基地司令はそう言うと用意されていたコーヒーを口に運んだ。
コーヒーを一口飲んだ司令は続けた。
「兎に角ボラー連邦艦隊の動きを注視してくれ、少なくとも1時間経てば此方が有利になる。だが今すぐにでもボラー連邦艦隊が攻めてきても問題ないように各部隊は準備してくれ」
司令はそう指示をだした。それを聞いたオペレーター達は何かを意見を言うことも無く淡々と各部隊に指示を伝えていった。
だが現実は非情であったボラー連邦の侵攻は司令が指示を出した30分後に始まったのである。
そして30分後司令部は慌ただしくなっていた。
「ボラー連邦艦隊侵攻を開始!現在外縁部機雷源を強引に突破しつつあります!」
ボラー連邦艦隊の侵攻が始まりゼダンの門司令室は緊迫した状態になっていた。
「ドレイク級と磯風改型で一撃離脱の攻撃を仕掛けさせろ、敵の足を止めるんだ!それと星系防衛艦隊及びコロニー防衛部隊はコロニー防衛を第一に行動しろ。ゼダンの門は30分持ち堪えればいいのだ!」
司令はそう気迫のある声で言った。
そして命令は直ぐに実行され、無人のドレイク級と磯風改型が機雷源突破を試みるボラー連邦艦隊に向けて突撃していった。
一方ボラー連邦艦隊は機雷源突破に苦戦していた。
「まだ、突破できんのか!早くせんと要塞の艦隊が攻めてくるぞ!」
ボラー連邦軍アスターテ星系攻略部隊司令は旗艦の戦闘空母の司令席に座りながら怒鳴っていた。
「はっ、機雷がそこら中にばら撒かれており突破に時間が掛かっておりますが間もなく前衛が突破できます」
部下がそう言うと司令は少し機嫌がよくなったのか落ち着いた声で「よろしい」と返答した。
だが脅威は既に迫っていた。
「突撃速度を緩めるな!最大速度で一撃離脱戦法を決めるぞ!」
一撃離脱の攻撃を仕掛けている突撃部隊で唯一の有人艦となっている磯風改型陽江で艦長兼部隊司令が部下に発破をかけていた。
突撃部隊は最前衛にドレイク級に搭載されている波動防壁搭載型UAV『メビウス』が展開し艦艇は陽江を先頭に磯風改型8隻が弓形陣で突撃し、その後方にドレイク級が続いていた。
それから間もなく攻撃の時は直ぐにやって来た。
「機雷源を突破したボラー連邦艦隊捕捉!射程圏内まであと30秒」
「よし、射程に入り次第ミサイルをプレゼントだ!」
司令はどこか楽しそうにも聞こえる声で言ったが艦橋内では誰も気にしない。それどころか気にする時間もなくボラー連邦艦隊が発砲し激しい攻撃が飛来してくる、だが攻撃はUAV『メビウス』が攻撃を受け止め突撃部隊への被弾を許さなかった、そして攻撃の時は来た。
「射程入りました!」
「攻撃開始!」
突撃部隊はボラー連邦艦隊を射程に捉えると磯風改型とドレイク級は次々とミサイルを発射する、更にドレイク級はリニアカノンを一斉射し部隊はそのまま敵艦隊の前でUターンを決めて離脱していった。
一方突撃部隊の強襲を受けたボラー連邦艦隊は混乱していた。
「味方前衛被害甚大!」
「突破していたデストロイヤー艦12隻轟沈、後続のデストロイヤー艦4隻と戦艦A型3隻、B型2隻も被弾航行不能」
「航行不能艦がこじ開けた機雷の穴を塞いでいます」
ボラー連邦艦隊旗艦の艦橋は被害報告が飛び交っていた。そしてその報告を司令はイライラしながら聞いていた。
「おのれぇぇ。あの小型艦を沈めろ!」
「ダメです、敵の離脱速度が速すぎて既に射程圏外です」
「ならば、追いつけ!機雷は艦砲で破壊しつくせ!」
司令は小型艦の強襲をいともたやすく許したことに完全に腹が立っている状態であった。だが司令の命令を無視するわけにもいかず、ボラー連邦艦隊は数に物を云わせ機雷を破壊しデストロイヤー艦を8隻失うも機雷源を突破したのであった。
だが突破するまでも時間が掛かり地球側は増援部隊到着までの時間を稼ぐことに成功したのであった。