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ある日のこと、俺は日課であるゴミ山の探索をしていた。
何か使えるものがないかを探して散策するだけの簡単な日課だが今のところめぼしい成果は上がっていない。
というか自分で探索しておいてなんだが『使えるもの』の定義がかなり曖昧だ。特にこれと言った目的がないので何を探せば良いのか自分でも解らなかった。加えてそもそもゴミとは人間用に作られた物の成れ果てである。当然オリジムシの身体では使えるようにできていない。もし仮にこのゴミ山の中からハンドガンを見つけたとしてもそれを俺が使うことはできないのだった。
よって雑誌や新聞紙ぐらいが使えるものということになる。例え情報収集ができなくても暇を潰すことぐらいはできた。
『おっ、あったあった…』
埋まっていた新聞紙を掘り起こす。
土で汚れてはいるもののこれならば読むことができるだろう。あとは日当たりの良いところまで運べば…。
『あっ!?』
その時、森の中では珍しく強い風が吹いた。
飛ばされた新聞紙がバサバサと宙を舞う。少しのあいだ空を泳いだ新聞紙はかなりの飛距離を稼ぐとゴミ山の向こう側へ落ちていった。
慌てて最高速で進んでいった俺はゴミ山を迂回する。新聞紙の元まで急ぎ、その直前。新聞の上にがさりと何かが乗った。それは一匹のオリジムシだった。触角を無造作に動かす彼は新聞紙の上を占領し、動かなくなってしまった。
『…』
『えっーと…』
ジッとガラス玉のような瞳が俺を見つめている。
ただ静かに向かい合ったオリジムシは一言も発せず、また表情といったものも無いため何を考えているか解らない。何か気に障る事でもあったのだろうか。もしかするとゴミ漁りなんて言うオリジムシらしからぬ行為に興味を持った、俺と同じ転生者かも――――
『タベモノ!』
しれないと思った矢先に彼は食べ物の匂いにつられて新聞紙の上からどいた。
…どうやら止まっていたのは本当にたまたまだったらしい。所詮はオリジムシ、会話を交わせるような知性なんてない。
でもまぁそんなこと最初から期待していないし、それに俺には新聞紙があるから――
『あっ』
オリジムシの粘液でべちょべちょになってしまった新聞紙の前で、俺は触角を天に向けた。
・・・
『ん…あれは』
ザーザーと強く降っている雨から逃れ、食事がてら洞窟にいたある日の事。
ざわざわと行き交うオリジムシたちの中で俺は見慣れない「ムシ」の姿を見かけた。洞窟の奥に進んでいくその後姿を俺はオリジムシの合間をすり抜けて追いかける。
辿り着いたのは洞窟の片隅。今まで気がつかなかったが、この片隅の壁は黄色くぼんやりと輝いていた。見れば石壁から突出した黒い鉱石が淡く脈動する橙色の光を放っている。
『もしかしてこれ全部源石なのか?』
アークナイツ世界で最も人に近い天災、それこそが源石である。
例によって俺は詳しく知っているわけではないが、絶大な力をもたらす半面、それが鉱石病の原因になってしまっているということだけは知っていた。
野生の源石なんてあるのか解らないが、壁に群生する鉱石たちはゲームで見た源石と酷似しているように思う。さしずめ源石の原石といったところか。そしてそんな壁一面の源石に群がり食事をしているムシたちがいた。
その虫の名前をバクダンムシ。6本の足を持つ黄色いクモのような虫であり、その名前の通り衝撃を与えると爆発してしまうちょっと可哀そうな存在である。そんな彼らは一心不乱に壁にむしゃぶりつき、源石を身体に取り込んでいるように見えた。
嬉々として食事をするバクダンムシたちの腹は壁の源石と呼応して輝いている。もしあのお腹が源石を溜め込んでいるのなら、確かに衝撃で爆発してもおかしくなさそうだった。
それにしてもこいつらはいつからここにいたのだろうか。数日前には巣穴の中にバクダンムシなんて見なかったように思う。俺が今まで見逃していたか、それとも他の巣穴からやってきたのか。
だが俺の頭の中ではもっと別の考えが浮かんでいた。もしバクダンムシたちが本当にいなかったとしたら。もし彼らが元々は俺と同じようなオリジムシだったとしたら。
『なるほど…そういうことか!』
オリジムシが源石を食べるとバクダンムシになる。恐らくだが源石を食べ過ぎるとオリジムシはバクダンムシに突然変異するのだろう。
そして考えるにこれがオリジムシ唯一の自己強化方法だ。オリジムシとはもともと突然変異で生まれた種である。よってその遺伝子は弱く、環境によって簡単に変わってしまう。ポンペイがあのような姿に進化できたのも火山という環境で「食性」を保ったからにほかならない。皮肉なことにオリジムシは弱いからこそ進化しやすかった。
止まっていた思考が加速する。もしオリジムシが食べたものによって進化するならば。
ひとまず源石を食べないほうがいいだろう。少量ならともかく、食べ過ぎればバクダンムシになるのがオチだ。俺はまだ特攻することでしか攻撃できない悲しい自爆生命体にはなりたくなかった。
まだ具体的に何を食べれば進化できるかは解らない。それでもこれが大きな一歩であることは間違いない。何を食べ、どう進化するか。これが初めて俺の抱いた希望だった。
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