水先案内録カイジ:ARIA×賭博黙示録カイジ   作:ゼリー

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よろしくお願いします。


第3話~初日~

シャカ・・・シャカ・・・シャカ・・・・

 

シャカ・・・シャカ・・・シャカ・・・・・

 

シャカ・・・シャカ・・・シャカ・・・・・・

 

 竹箒が床を擦る小気味良い音が響き渡る。

 

シャカ・・・シャカ・・・シャカ・・・・・・・

 

 

 カイジは掃除をしていた。

 現在、ARIAカンパニーのデッキ部分を掃いている。ちなみに、二回目である。初めに室内から掃き始めて、デッキへ移り、もう一度室内を掃いて今に至る。無心で掃いている。オレにはこれしかないからね、とばかりに無心である。

 お前は掃き掃除しか出来ないのか、と問いたくなるがしかたがない。このようなパステルカラーでふわふわしたような洒落ている会社の掃除などしたことがないし、そもそも、初日なのだ。どこを掃除していいのか分からないのは当然であった。

 それはそうと、何故カイジが掃除しているかと問われれば、時間を少し巻き戻さねばならない。

 

 

――カイジがARIAカンパニーに目出度く入社することが決まって束の間、アリシアは予約があると告げて、さっそく仕事へ出掛けていった。

 

 

「じゃあカイジくん、私これから予約が入っているから、あとはよろしくお願いできるかしら」

「え・・・・ちょ、ちょっと・・・何すればいいんですか・・・?」

「うーん、受付だとか電話対応はまだ無理だから……そうね、掃除してくれるかしら?」

「あ、はい・・・・それなら任せてくださいっ・・・・!」

「うん! じゃあよろしくお願いね。それと……一応、今日は看板を下げておきますね」

「そうしてくれるとありがたいです・・・・・」

 

 扉の前でくるっと振り返って手を振るアリシア。

 

「それじゃあ、いってきます!」

「・・・・っ! ・・・・・・・・・・いってらっしゃい・・・っ!」

 

くそっ・・・・!犯罪的だ・・・・っ! 犯罪的微笑みだっ・・・・!

狙ってやがるのか・・・っ!オレを・・・・っ!

 

断じてそんな事はない。天地がひっくり返ろうとそれだけはあり得ない。しかし締め付けられるカイジの胸。救いようのないアホで、脳内がお花畑であった。

 

「ぷいにゅ!」

「うへぇあ・・・・っ!」

 

 しかめっ面をしながらドアの方を見つめていたカイジに、アリア社長が後ろから飛びつく。

 

「社長か・・・驚かせんなよっ・・・まったくっ・・・!」

 

 そう言ってアリア社長をみつめる。

 

見れば見るほどふざけた生物だな・・・・・

猫のくせになんでこんなデカいんだよ・・・・・

うん・・・? 柔らかそうだな・・・・

 

 カイジはアリア社長のほっぺをつまみ引き伸ばしてみる。

 

「ぷいにゅ~~!」

「おっと・・・すまん・・・でも柔らかいな・・・」

「ぷいにゅう!」

 

ハハハ・・・かわいいなコイツ・・・

・・・っと・・・こんな事してる場合じゃなかった・・・掃除掃除っと・・・・!

 

「社長、箒がある場所知ってるか・・・――

 

 

 

 それから、もう2時間も掃いていた。

 時たま空を見上げたり、意味もなくラジオ体操じみた動きをするが、基本的に掃きっぱなしである。

 そんな中ふと、カイジはとあることに気が付いた。

 

ていうか・・・ここって何の会社なんだ・・・?

 

 

馬鹿・・・・っ! 圧倒的馬鹿・・・・っ!

何の会社か知らずに入社・・・・っ! ナメきっているっ・・・!

世の中を・・・っ! 社会を・・・・っ!

普通なら許されない・・・っ!そんな行為っ・・・・!

 

 

 予約って言ってたよなたしか・・・なんの予約なんだろう・・・?

 

 しかしそこで思考停止してしまうカイジ。普段であればあり得ないだろうが、しかしここはアクアでありネオ・ヴェネツィア。蔓延しているのだ。緩やかな時を刻めと、そういった空気感が蔓延しているのだ。

 

・・・まあいいか・・・

よし・・・・っ! もう一回中を掃くか・・・っ!

 

 

 

 

 三度目の室内掃き掃除も終わり、カイジはようやく満足を覚えた。仕上げにもう一度デッキを掃除しようと外へ出る。

 その時だった。

 デッキの柵の向こう側からこちらを覗いている顔が見えた。

 カイジは突然現れた顔にひどく驚いた。

 

「ひ、ひぃ~・・・っ! 生首・・・・っ!」

「……って誰が生首よ!」

「は・・・?」

 

 よくみると誰かがデッキに手をのせてこちらを窺っているだけであった。青みがかった髪を三つ編みにしている少女のようだ。カイジはほっとするも、怪訝な表情を浮かべて相手に話しかけた。

 

「えっと・・・なんか用・・・?」

「アリシアさんは? ていうかアンタ誰?」

「はあ・・・・?」

 

 どうやらゴンドラに乗っているらしい。それを階段下につけると、少女は当たり前のようにデッキへと上がってきた。

 

「なにアンタ、もしかして泥棒?」

「あぁ・・・? ち、違う違う・・・・っ! ここで働いてる社員っ・・・!」

「しゃい~ん? 怪しいわね~、まず風貌が怪しい!」

 

 手をバタバタさせてうろたえるカイジに、ビシッと指先を突き付ける少女。

 

・・・・んだこのガキっ・・・・!

こいつの方こそ怪しいじゃねぇか・・・・!

・・・しかしまずいな・・・証明するものがなにもねぇ・・・っ

 

 するとそこへ、何処からか脱兎のごとくアリア社長が駆けてきた。そのままカイジの頭へ飛びつく。

 

「ぷいにゅ~!」

「ほへぇあ・・・っ!」

 

 いつまで経っても飛びかかってくるアリア社長に慣れないカイジは置いておき、その少女はなにやらアリア社長に話しかけている。

 

「アリア社長! このおっさんって本当に社員?」

「ぷいにゅ!」

「お、おっさんって・・・おいおい・・・っ」

 

 苦笑いを浮かべるカイジの頭から飛び降りたアリア社長は、少女の質問に対し首を振って(がえん)ずる。

 少女は驚愕の表情を浮かべる。そしてカイジの方へ向き直った。

 

「アンタ、ホントに社員だったのね」

「だからそう言ってるだろ・・・・っ!」

「驚きだわ……まさかARIAカンパニーに男の社員が入るなんて」

「はあ・・・・」

「しかもその社員がこんなもっさいおっさんだなんて……可哀そうアリシアさん……」

「・・・・・っ!」

 

言わせておけば・・・・いけしゃあしゃあと・・っ!

何様だこのクソガキ・・・・っ!

 

 しかし、言い得て妙だろう、好青年のかけらがまるで見当たらないカイジをもっさいおっさんというのは。それに年下と思われる少女に内心とはいえ、この激昂である。大人げないにもほどがあるというもの。

 ともあれ、一旦落ち着くカイジ。もしこの少女がアリシアの知り合いだった場合、下手な事は出来ない。

 

「・・・・・オレは伊藤カイジ・・・今日からここで働かせてもらうことになった・・・」

「ふぅ~ん……あっそう。んで、アリシアさんは?」

 

 ビキっと、こめかみあたりの血管が少々浮き出るカイジ。

 

落ち着け・・・落ち着くんだ・・・っ!

ここでキレてもしょうがない・・・っ!

 

「・・・・で、アンタは誰なんだ・・・?」

「なんでアンタにそんなこと教えなきゃなんないのよ?」

「くっ・・・! オレが教えたんだ・・・普通返すだろ・・・っ!」

「別に頼んでないわよ。ま、いいわ、私は藍華。藍華・S・グランチェスタよ」

「ふぅ~ん・・・あっそ・・・ていうかアンタ、ストーカー・・・・?」

 

 カイジは意趣返しとばかりにドヤ顔を見せつける。おそろしくダサかった。

「はぁあ? 違うわよ! 単純にアリシアさんを見に来ただけじゃない。あわよくば話せればいいかなって……それだけよ!」

 

それを世間ではストーカーと呼ぶんだよボケっ・・・・・!

 

 藍華と名乗った少女に心の中でツッこむカイジ。ここで声に出さなかったのは偉い。

 

「へぇー・・・・アリシアさんの知り合いか・・・?」

「まあね。私の先輩がアリシアさんと仲いいらしいのよ。だから私もちょくちょく訪ねてるの。もちろん話したりもするわよ?」

「ほお・・・へえ・・・」

「いずれはオール捌きなんかも教えてもらいたいわ……アリシアさんは天才的なウンディーネだもん」

 

 両手を握りしめて目を瞑りながら楽しそうに話す藍華。

 カイジは一応この少女を信用したが、それ以上にある事に興味が湧いた。

 

「その、うんでーねって・・・何・・・?」

「――~~……はぁあああ!?」

「いや、なんていうか・・・・・まあ・・・知らないんだ・・・」

「アンタ、バッカじゃないの!? ウンディーネも知らないのにARIAカンパニーで働くの!? ――冗談よね!? ふざけるのも大概にしなさいよっ! ……って、マジ?」

「あ、ああ・・・・」

 

 カイジは恥ずかしさにもじもじと体をくねらせた。おまけに指も弄っている。そのままくねくねしていると、気持ち悪そうにこちらを見る藍華に気付いたカイジは、朝、アリシアに説明した内容を簡潔に藍華へと語った。

 藍華は黙って聞いていたが、そのうち不憫そうにカイジを見つめた。

 

「……そうだったの。じゃあしょうがないわね。それよりアリシアさんは本当に良い人ねえ。まるで天使!」

「そうそう・・・・・っ! ほんっと・・・・天使っ・・・・! それっ・・・!」

「何よいきなり。気持ち悪いわね。まあいいわ、ウンディーネっていうのはね――」

 

 カイジは、藍華からネオ・ヴェネツィアの観光業について大まかに説明を受けた。

 藍華は水先案内人(ウンディーネ)のことや、その会社について、そしてアリシアがいかに優れたウンディーネであるかを滔々と語った。そのうち、アリシアの表情にまで言及し始めた。

 カイジはアリシアの表情について講義を受けることは(やぶさ)かではないと思いいつつも、一旦、話を止め、お礼を述べた。

 

「大体分かった・・・・助かったよ・・・えーっと、ぐらんてすと、だっけ・・・?」

「藍華・S・グランチェスタ! 藍華でいいわよ」

「すまん・・・・藍華、ありがとう・・・・・」

「どういたしまして。それでアリシアさんは?」

「たしか・・・予約があるとか言って出掛けたな・・・・」

「まあそうよね。アリシアさん程になれば引く手数多だもん」

「そうなのか・・・・」

「そうよ。今散々話したじゃない! もしかして聴いてなかったの?」

「いやっ・・・! 聞いてた聞いてた・・・っ! ちゃんと・・・全部・・・っ!」

「あっそう。はあ~アリシアさん早く帰って来ないかなあ……」

 

 またもや祈るようなポーズで幸せそうな顔をする藍華。

 忙しい奴だなと思いいつつも、カイジは藍華に話しかける。

 

「用はアリシアさんを見に来ただけか・・・・?」

「うん、悪い?」

「別に・・・・ふぅん、そうか・・・・」

「ていうかアンタは何してんのよ」

「オレか・・・・? オレは掃除をしてるんだが・・・」

 

 見てわからないのかとばかりに竹箒を指差すカイジ。

 

「……」

 

 すると藍華は考え込むように下を向いて唸りはじめた。考えがまとまったようでパッと顔をあげる。

 

「ねえカイジ、私もその掃除手伝ってあげるわ」

「は・・・・・?」

 

呼び捨てかよコイツ・・・・・オレの方が年上だろ・・・・どう考えても・・・・

ていうか手伝う・・・・? マジかコイツ・・・・・?

怪しすぎるが・・・どうすっかな・・・・・

 

 

どうするんだカイジ・・・・っ!?

 

 

 

第4話へ続く・・・・・・・・・・・・・

 


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