水先案内録カイジ:ARIA×賭博黙示録カイジ   作:ゼリー

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よろしくお願いします。


第4話 その 特別な春の日は…

「断りますっ・・・・・・!」

 

 春先の優しい陽がふんわりとARIAカンパニーを包む中、藍華は自身の申し出を断られていた。

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

「うーん! ……はぁ」

 

 昨夜の雨が綺麗にあがり(まばゆ)い光がネオ・ヴェネツィアに降りそそいでいる。厳しい冬が去り、徐々に暖かくなってきた町は、朝のこの時間帯、すでに活気で満ち溢れていた。

 そんな中、藍華は大きな伸びをしてベッドから起きあがった。そのまま部屋の窓を開けて空を眺める。

 

「いい天気ね~!ヒメ社長」

 

 窓を開けると同時に、窓枠へ器用に飛び乗った『姫屋』の社長である黒猫にそう声をかける。ヒメ社長はにゃ~と一声鳴くと藍華と一緒に空を眺めている。

 

「こんな日は訓練も兼ねてアリシアさんに会いに行くのが一番ね!」

「にゃ~」

「うん! そうと決まれば朝ごはん朝ごはん」

 

 藍華は、部屋に備え付けられたキッチンで適当に朝ごはんを作り、食べ終わるとすぐに制服に着替える。鏡で自身の格好を確認すると、よしっ!とばかりに身を翻して部屋から出た。

 

 エントランスまで来ると通りかかった従業員たちから声を掛けられる。

 

「――おはようございます、藍華さん」

「――お出かけですか?」

「――藍華さん、おはようございます」

 

 声を掛けられるたびに適当に返事をする藍華。相手の中には自分よりも年長の者が多いが皆口を揃えて敬語である。それに対して心の中で少々不快感を示す藍華であるが、立場上、しかたがあるまいと割り切っている。

 

「おい藍華! ちょっと待て!」

 

 そうした中でも、なんの敬いもなく声を掛ける人物がいた。

 

「なんですか晃さん?」

「お前、訓練をサボって何処へ行くつもりだ?」

「失礼なっ! サボりませんよ! これからするつもりです~!」

「とか何とか言ってどうせアリシアのところにでも行くつもりだろお前」

「んなっ……ち、違いますよ! とにかく私はもう行きますからね! それじゃ!」

 

 そう言って往来へ飛び出していく藍華。エントランスでは晃と呼ばれた女性が溜息をつきながら走り去る藍華の後ろ姿に声をかける。

 

「夜、忘れるなよ!」

 

 藍華は、はーいと返事をしながら駆けていってしまった。

 

「まったく……あいつは……」

 

 そう言いながらも、その女性の口元には小さな笑みが湛えられていた。

 

 

 

 

う~ん、すぐにアリシアさんのところへ向かうのはなんとなく気が引けるわね……

一応訓練も兼ねてって思ってたし……

よしっ! 今日は細い運河を抜けてARIAカンパニーに行こっと

あそこの水路は難しいけど大丈夫かな~……

 

 

 予想通り、藍華は水路を抜けていくのに手間取っていた。前から来るゴンドラを、オール一つで躱していかなければならない。相手も訓練中だったらまだいいのであるが、客を乗せたウンディーネや、大荷物を運ぶゴンドラであった場合、衝突したらことである。いつも以上に神経を使って捌いていかなければならないのだ。

 また、水路の角を曲がるのにも一苦労である。水路を曲がるときには「ゴンドラ通ります」と声を掛けて相手に自身の存在を知らせるのが鉄則であるが、なんとか曲がろうと神経を張り詰めている藍華は、たびたびそれを忘れてぶつかりかけたことが何度もあった。その都度、次はしっかりしようと思うのだが、結局元の木阿弥であった。

 

 そんなこんなで、運河を抜けてARIAカンパニーに到着する頃には正午近くになってしまった。

 

はぁ……やっぱりうまくいかないわね~

どうしてプリマたちはあんなにうまく捌けるのかしら……

まあ、とりあえず今はアリシアさん!

もし、話す機会があったらそこのところ訊いてみよう!

 

 そう考えながらARIAカンパニーのデッキの下にゴンドラをつける。そこから背伸びをしてデッキに顔を出す。藍華はARIAカンパニーへ無断で来ると、こうして中の様子を窺うのだ。

 

え~とアリシアさんは、っと……え?

 

 見知らぬ男が会社の中から出てきた。真面目な顔をして出てきたが、藍華の方を一瞥すると失礼な叫び声をあげて尻もちをついた。

 

だ、誰よあいつっ! ……って

 

「……誰が生首よ!」

 

失礼なヤツねまったく……で、誰なのよあいつは?

 

 疑り深い目でその男を見ていると、男の方も不審そうにこちらをみながら藍華に用件を尋ねてきた。

 

「アリシアさんは? ……ていうかアンタ誰?」

 

 藍華は答えるとゴンドラを下りてデッキの上へあがっていく。男の前に立つと、案外大きいことに驚いた。

 

何よコイツ……デカイわね

風貌も怪しいし、なにより胡散臭い……

……はっ! もしかして泥棒!?

 

「何、もしかして泥棒?」

 

 男にそう言い放つと、手を思い切り振りだして必死に否定している。藍華はなお怪しそうに男を見つめるが、その男が社員と言い出すと指を突き付け言葉を挟んだ。

 

「しゃい~ん……?」

 

こんなもっさいおっさんが社員? ないない……あり得ないでしょそれは……

だいたい一般人かどうかも怪しいわよ……

 

 藍華が訝っていると受付カウンターからアリア社長が飛び出してきて、その男の頭に飛び乗る。男は短い悲鳴をあげた。

 

ちょうどいいわ……アリア社長に訊いてみよう!

 

 藍華は、アリア社長が男の頭上に飛び乗っている時点で、両者は全くの無関係ではないと考えつつも一応、尋ねる。

 

「アリア社長! このおっさんって本当に社員?」

 

 するとアリア社長は元気よく鳴くと、そうだ! といわんばかりに首を縦に振った。

 

本当なの!?この男が……!?

 

 もう一度男の風体を眺める。

 

えぇ~……ARIAカンパニーにまったくマッチしてないわね~

 

「アンタ、ホントに社員だったのね」

 

 藍華は驚きながらも男にそう言った。

 その後、男は自分を伊藤カイジと名乗り、藍華も自分の名前を渋々伝えた。藍華の名前を聞いた男が、藍華をストーカーかと疑問を呈すると、むっとした藍華はただ見に来ただけだと否定する。

 しかし、藍華はちょっと考えてみる。

 

あれ?もしかして私ストーカーかも?

……いやいや、違う違う! だってアリシアさんとは(れっき)とした知り合いだし……

うん、絶対ストーカーではないわよね

でも知り合いがストーカーする場合もあるし……

ああ! もう!

 

 不安になった藍華は、一応カイジに知り合いだと弁解する。そう言えばアリシアにオール捌きを教えてもらえたらなと考えていたことをふいに思い出すと、直前に自身がストーカーではないかと疑っていたとは思えぬ程楽しげに話しだした。

 その様子を見て若干引きつつも納得した様子のカイジは、ウンディーネとは何かという質問を藍華に投げかけた。

 

「……はぁあああ!?」

 

 心底驚きを隠せない藍華であったが、カイジの置かれていた状況を聞くと憐憫(れんびん)を禁じ得なかった。

 

そんなことってあるのかしら?

でも現に目の前に居るし……このやさぐれた感じはそういうことだったのかしら……

可哀そうではあるし少しはやさしくしてあげた方がいいわね……一応アリシアさんの同僚?なわけだし……

それはそうとホントにアリシアさんって素晴らしい人ね……わざわざ運んであげるなんて!

 

 そう考えた藍華はウンディーネと水先案内店について大まかに説明することにした。このカイジという男は本当に何も知らないようで、いちいち感心して聞いていた。

 藍華は知らず知らずのうちに、プリマの話からアリシアへ移り、如何に自分がアリシアを尊敬しているかや、その人となりまで克明に語っていた。気持ちよさそうに語っていたが、カイジに容喙(ようかい)され話を止める。

 その後、アリシアが予約で街に出ていることを知った藍華であったが、予てから危惧していたことではあり、それほど落胆はしなかった。むしろそれが当たり前で、いきなり行ったところで簡単には会えるとは思っていなかった部分もあったのだ。

 しかし、カイジとの次の会話で今日の予定を思いついた。

 

「ていうかアンタは何やってんのよ」

 

 カイジは、掃除をしているという。

 

掃除ね~……まあ今日から仕事始めたばっかりだし他の事は出来ないわよね

うーん、結局アリシアさんに会えないみたいだしそろそろ帰ろうかしら……! そうだ!コイツの掃除を手伝ってアリシアさんの帰ってくるのを待てばいいんじゃないの!

帰ってきたアリシアさんに良いところ見せたいし……そうね、夕飯も用意すればもっといいかも! 多分コイツ料理とかできなさそうだしイイ案ね!

 

 以上から、カイジに申し出る。

 

「ねえカイジ、私もその掃除手伝ってあげるわ!」

 

 藍華の申し出に面喰っていたカイジは、なにやら考えていたが、結局こう言い放った。

 

「断りますっ・・・・・・!」

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

「なんでよ!別にいいじゃない手伝ってあげようってんだから!」

「変じゃん・・・・! どう考えても・・・・」

「はあ? 何が変なのよ?」

「いや・・・下心が丸見えっていうか・・・お前アリシアさんに会いたいだけだろ・・・・・!」

「ぐぐっ……なかなか鋭いわね」

「誰だって気がつくだろ・・・・・そんなもん・・・! 異様じゃん・・・普通初対面の人の仕事手伝わないだろ・・・っ」

「そうよ! アリシアさんに会いたいわよ! なんか文句あんの!?」

「別に・・・そこには文句はないけど・・・とりあえず昼飯にしようかなって・・・結構時間食っちゃったし・・・」

「もうそんな時間?」

「ああ・・・さっき時計を確認したら12時だったしもう1時近いだろ・・・・・」

「じゃあお昼ごはん食べたら手伝うわよ」

「・・・・・ああ・・・・それならまあいいかもな・・・粗方終わっちまってるけどな・・・・」

「ふーん、とりあえずお昼ごはんね。カイジ、あんたお金ないんだったわね。一食分くらい奢るけどどう?」

「え・・・・?」

 

    ざわ・・・

       ざわ・・・

 

 昨日同様ポカンとするカイジ。

 

なんなんだっ・・・・! 奢るか・・・・っ!? 普通・・・・っ!?

わけのわからない見ず知らずの他人だぞっ・・・・・!

抜けてる・・・・っ! コイツの頭はどこか抜けてる・・・・っ!

大事なネジが・・・・!

 

 それならばアリシアはどうなのか、ということになるが、カイジとしてはアリシアはすでに普通の人間ではなく天使や菩薩、そういった超自然的な存在としての位置を占めている。

 しかし藍華は別だ。普通の少女。無償の施しを甘んじて享受するには、カイジは捻くれて過ぎている。到底無理。当然読む、背理を。

 

「返せねーぞ・・・一度奢っちまったらっ・・・! 金は・・・・もう戻ってこねぇぞ・・・・! いいのかよっ・・・・・それでもっ・・・・!」

(こす)い・・・・!驚異の狡さ・・・・っ!

謙遜するっ・・・・!普通であったら年下の施しは謙遜する・・・・っ!

それがカイジ・・・・っ!取引後の話・・・すでにその話・・・・!

第一これは取引ではない・・・・!唯の善意・・・っ!

カイジにはそれが分からないっ・・・・・!

駄目っ・・・それがもう駄目っ・・・・!

欠落っ・・・!社会性の圧倒的欠落っ・・・!

 

「……はあ? なに言ってんのよ。お金ないんでしょ? だから奢ってあげるって言ってんの! 普通の事じゃない普通の」

「・・・・・っ!」

「何黙ってんのよ? じゃあ行くわよ~私姫屋の近くの美味しいパスタ屋さん知ってるの、そこ行きましょ。アリア社長も一緒にどう?」

「ぷいにゅ!」

「あ、ああ・・・・お願いしますっ・・・・!」

 

 すでに歩き始めた藍華の後ろ姿へと盛大に頭を下げるカイジであった。

 

・・・・・・

 

 パスタ屋に着いた一行はそこで遅めの昼を済ませ店を出た。

 カイジはその豪快なスパゲティの食べっぷりに藍華に散々文句を言われた。それに辟易(へきえき)していたカイジではあったが、奢ってもらう立場上黙って食わせろとは言えず、終始媚び笑いをしながらフォークを動かしていた。卑屈すぎるぞカイジ。

 

「それにしてもアンタ、スパゲティの食べ方も知らないなんて……はあ」

「ごちそうさまでしたっ・・・! 美味しかったです・・・っ!」

「まあいいわ、それじゃあ戻りましょ」

「ぷいにゅ!」

 

 カイジはARIAカンパニーへの帰り道、改めて街を眺めていた。水路と遊歩道、それに迫るように建っている煉瓦造りの建物に感嘆の声が自然と口をついて出た。それほど美しい街並みであった。ほとんどそういうことに興味や造詣がないカイジにとってもそれは本当に素敵な場所であった。

 一行はそのまま帰らずに、藍華が夕飯の材料を買いたいと言うので、一旦リアルト市場へ寄ってから、ARIAカンパニーへ戻った。帰ってくる頃にはもう4時前であった。

 

「遅くなっちゃったけどそれじゃあやるわよ掃除!」

 

 藍華は腕まくりをしながら元気よくカイジとアリア社長に声を掛ける。

 

「あ、ああ・・・・やろうか・・・」

「ぷいにゅ~~!」

「で、カイジはどこまで掃除をしたんだったっけ?」

「室内もデッキの上も全部掃いたぜっ・・・・・」

「それから?」

「は・・・? いやそれだけ・・・だが・・・・?」

 

 なんか文句でもあるのか? と顔で語っているカイジに、やれやれと溜息を吐きながら額に手をあてる藍華。なんとなくは分かっていたけどやっぱりこの男駄目だ、そうひとりごちる。

 

「あのね~掃除っていうのは掃くだけじゃダメなの! 分かる?」

「はぁ・・・・」

「まあいいわ、とりあえずバケツに水を用意して。あと、なんでもいいから雑巾ね!」

「お、おう・・・・了解したっ・・・」

 

 その後、藍華はカイジに拭き掃除やちょっとした擦り洗いなどを教え、自分が使用したベッドのシーツや掛け布団の洗濯、干し方などを簡単に説明した。

 

「洗濯と干すのは明日以降でいいけど……アンタ社員なんだからそれくらい出来ないと駄目よ?」

「はい・・・・そうっすね・・・・」

「ま、せいぜい精進なさい」

 

・・・・・っく! しょうがねえだろ・・・・! 初日だぞ初日・・・・っ!

初出勤っ・・・・! 分かるわけねーだろっ・・・・ふざけろっ・・・・・・っ!

 

 そんなことを考えながらもこれからここで働く以上、しっかり頭に叩き込むカイジ。アリシアには迷惑をかけられない。なんとか恩を返すためにも必死であった。

 

「よし、それじゃあ掃除は終りね。じゃあ夜ごはんの支度をするわよ」

「え・・・・? あれ自分のじゃなかったの・・・・?」

「違うわよ。アリシアさんのために作ろうと思って買ったの。さあカイジも手伝いなさいね」

「いや・・・オレ料理は得意じゃないんだよね・・・・」

「料理は、じゃなくて料理も、でしょ、お馬鹿っ! いいから手伝いなさいよ。洗うとか皮を剥くくらいは出来るでしょ?」

 

馬鹿ってっ・・・・! コイツいま馬鹿って言いやがったっ・・・・!

くそっ・・・・舐めやがってっ・・・・! くそっ・・・! くそっ・・・!

 

「はい・・・・それくらいならできます・・・・」

「うん、じゃあお願いね」

 

 カイジは簡単な手順を四苦八苦しながらこなしていく。その隣では溜息をつきながら藍華が見守っていた。剥きすぎて歪になったニンジンやジャガイモが藍華の手によって素早く調理されていく。その様子にただただ感心するカイジ。

 

「へぇ~・・・・うまいもんだな・・・・」

「当然よこれくらい。ていうかアンタもしっかり見て覚えなさいよね? これからアリシアさんにアンタが作る機会があるでしょうから」

「・・っ! そうだな・・・・すまねえ・・・・・」

「はい、これでおしまい。あとは少し煮込むだけよ」

「おおっ・・・ウマそうじゃん・・・・っ!」

 

 作られたのはカレーであった。これくらいなら料理に(うと)いカイジでも簡単に作れるだろうと、藍華が考えた末のことであった。それに気付いたカイジは改めて藍華に今日のこととともに礼を述べる。心の中で悪態は散々吐いたものの、やはり大きく世話になっているのも認めざるを得なかったのだ。

 

「何から何まで・・・・ありがとうございますっ・・・・!」

 

 年下に精一杯頭を下げるカイジ。偉い、偉いぞカイジ。

 

「どういたしまして。まあ頑張んなさいよこれから」

「ああ・・・・っ」

「それじゃあ食器の用意しちゃうわよ」

「はいっ・・・!」

 

 

 そこへ仕事を終えたアリシアがタイミングよく戻ってきた。

 帰ってきたアリシアにアリア社長が飛びつく。時刻は19時を回ったところであった。

 

「ただいま~」

「あ、おかえりなさいアリシアさん!」

「あらあら、藍華ちゃん来てたの? いらっしゃい」

「はい! 夜ごはんの用意できてますから、座ってください。カイジと一緒に作ったんですよ、カレー」

「アリシアさん・・・・おかえりなさいっ・・・・!」

「あらあら、ふふふ。ただいまカイジくん。ありがとう、二人とも」

「いえいえ、それじゃあ私はこれで」

 

 そういって帰り支度を始める藍華。

 

「あら? 食べていかないの藍華ちゃん?」

「ええ。ちょっとこれから晃さんと用事があるので……すいません」

「あら、そうなの~残念ね。それじゃあ、晃ちゃんによろしくね」

「はい、それじゃあまた! じゃあねカイジ」

「え・・・・? ちょ・・・は・・・?」

「ありがとうっ藍華ちゃんまた何時でも来てね~!」

 

 なにがなんだか分からないカイジ。とりあえず玄関先まで見送ることにする。

 

「お前・・・食べていかないのか・・・・?」

「うん、これから用事あるし」

「・・・・っ! すまねえ・・・・オレのためにわざわざ・・・っ!」

「アンタの為じゃないわよ。アリシアさんのためによ」

「それでも・・・っ! 恩に着る・・・・っ!」

 

 ふふっと笑う藍華。そして右手をカイジに差し出す。

 

「それよりアンタ、頑張りなさいよ? 社員なんだからさ。ふふっ、それとこれからよろしくね、カイジ」

「っ・・! ああ・・・っ! よろしく・・・! よろしく頼む、藍華さんっ・・・・!」

 

 胸に熱いものが込み上げながらも右手をしっかり握り握手を交わす。今日、自分の至らなさを散々馬鹿にされたカイジであったが、それらは自分が成長するためには間違いなく必要であったと、心底感謝する。

 

「それじゃあね、また今度」

「ぐぐっ・・・・!さいなら・・・・っ!」

 

 涙を(たた)えながら手を振るカイジ。藍華がゴンドラに乗って暗闇に溶けるまで振り続けていた。

 

「藍華ちゃんに感謝しなきゃね」

 

 いつのまにか後ろに来ていたアリシアがカイジにそう告げる。

 

「はい・・・・っ」

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 カイジは不器用ながらもなんとか並べられた食器にカレーを盛り付けた。それは本当に美味しそうなカレーであった。

 

「まあ美味しそうね! さあ、冷めないうちに頂きましょう」

「はい・・・どうぞっ・・・召し上がれ・・・・っ!」

「ぷいにゅ~!」

 

 

 カイジは、食事を楽しみながら、今日あったことを楽しげに話す。アリア社長は相槌を打ち、アリシアは微笑みながらそれを聞いていた。

 賑やかな三人の話し声はその日の夜遅くまで続いた。

 

 

 

第4話 終・・・・・・・・・・・

 

 


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