水先案内録カイジ:ARIA×賭博黙示録カイジ   作:ゼリー

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よろしくお願いします。


第5話~会食~

 翌日、カイジは(つんざ)くようなアリア社長の鳴き声で目を覚ました。頭の横ではアリア社長がカイジの耳元で鳴いている。まだまだ眠いカイジは布団をかぶって無視する。が、アリア社長は一層大きな声で追撃する。

 

「お、おいっ・・・・!うるせえぞデブ猫っ・・・・!」

「ぷいにゅう~~!」

「わかったっ・・・!分かったからっ・・・起きるから・・・っ!」

 

 仕方なく起きあがったカイジは、腹いせにアリア社長のもちもちぽんぽんに鉄拳を抉り込む。

 

「んなっ・・・!効いてないっ・・・!?」

 

 両腕をあげてマッスルポーズをとるアリア社長。へたり込むカイジ。長閑な朝であった。

 

・・・・・・・・

 

 アリア社長に鳴き起こされたカイジは、パジャマを脱ぎ、アリシアから支給された仮の制服に袖を通す。カイジが常に着ていたよれよれの緑のシャツは昨日洗濯に出していた。仮の制服は何故か詰襟であった。漆黒の生地に金色のボタンが特徴的な、所謂(いわゆる)学生服である。ちなみに下はいつものジーパンだ。

 鏡の前で自身の姿を確認するカイジ。横を向いたり、振りかえったりしている。

 

これは・・・・なかなかどうして・・・・

・・・・・悪くないっ・・・・!

 

 自画自賛して鏡を見つめていると、アリア社長が傍でその様子をじっとみつめていた。それに気付くとカイジは軽く頬を染めて咳払いをした。相当気持ちが悪いぞカイジ。

 社長を打ち遣っておくと、カイジは机の上に置かれた紙きれに目をやる。それは紙幣であった。一万円札である。カイジが沼攻略後、優しいおじさんから頂いた三万円の一枚である。それがポケットに紛れ込んでいたようで、夜、着替える時に気がついたのだ。

 

これが・・・俺と過去を繋ぐ唯一のものか・・・・・

それが金とは・・・クククク・・・・・どうやってもオレはコイツとは縁が切れねえらしいな・・・・・

とにかくこれは保管しておくか・・・・・・

 

 カイジは自嘲気味に笑うと、アイデンティティともいうべきその紙幣をしっかりと机の引き出しにしまい、階段を下りていった。

 事務所兼客間となっている2階にはアリシアの姿はなく店舗である1階も同じであった。どうやらまだ、アリシアは出社していないようである。

 アリシアは、以前はこのARIAカンパニーに下宿していたのだが、今は近くに自身の家があり、そこから毎朝この会社に通っているのだ。それを聞いたカイジは、一つ屋根の下的な展開を幾らか期待していただけに、静かに握りこぶしを解いてズボンで汗を拭いのであった。人生はそんなに甘いものではない。

 ちなみにアリシアが部屋を空けたのは、なんでも近いうちに新たな社員が来るかららしい。その新入社員が来るまではカイジがその部屋を使ってもいいとのことであった。

 

よしっ・・・・!朝飯を作るかっ・・・!

 

 昨日の朝、アリシアが振る舞ってくれた朝食の再現とまではいかないが、(つたな)くともとりあえず目玉焼きとトーストは出来あがった。

 

「社長メシだぞ・・・・」

「ぷいにゅ!」

「しかし太りすぎだろお前・・・・ちったあ痩せろよ・・・・」

「ぷいにゅう~」

「糖尿病って知ってるか・・・・・・?」

「ぷいぷいにゅ!」

「いやなってるって社長っ・・・・!絶対っ・・・!」

 

 いつの間にか会話が成り立っている二人であった。

 

 食事を終えてコーヒーを飲んでいると、アリシアが出社してきた。瞬間、勢いよく立ちあがり直立不動の格好になるカイジ。

 

「おはようーカイジくん、社長」

「ぷいにゅう!」

「どうもっ・・・・おはようございますっ・・・・! 今日もいい天気ですねまったくっ・・・・!」

「あらあら、そうね。もうだいぶ温かくなってきわね~~……それはそうとカイジくんは朝ごはんもう食べたの?」

「はいっ・・・・! さっき・・・・社長と・・・・」

「早いのねぇ、それなら私も明日からもうちょっと早く来て朝ごはん作ろうかしら?」

「いえっ・・・・それには及びませんっ・・・・! そこまで御迷惑をお掛けするわけには・・・・っ!」

「全然迷惑じゃないわよ? 一緒に私も食べたいだけ」

 

 そう言ってカイジに微笑むアリシア。それをみてカイジは、以下略。

 

・・・・・・

 

その後、カイジはアリシアから初歩的な仕事を教わった。客が店に来るまで、受付などを一通り教わると、ものは試し、実際にやって慣れるのが一番、ということで1階のカウンターで客対応をすることになった。

 現在、カイジはカウンターから顔をのぞかせてそわそわしている状態である。アリシアは何か困ったことがあったら呼んでね~と残して2階へ上がっていってしまった。一応、カイジは以前コンビニでバイトをしていたこともあり、それなりの客対応は出来ると自負している。しかし、ここはネオ・ヴェネツィア。全くの門外漢であるカイジにとってコンビニの経験が役に立つとは限らない。ただ、アリシアからレクチャーされた業務内容を考えると、それほど突飛な注文はなさそうである。とはいいつつもやはり緊張はする。

 

 しかし似合わない。

 凪いだ春の海に可愛らしく建っているARIAカンパニーと、その1階部分から顔を出してそわそわしている男はまるで似合わない。滑稽である。この世の違和感という違和感を背負って体現しているかのようである。それでも本人は至って真面目。真剣そのもの。

 

「いらっしゃいませっ・・・・!」

 

 早速、カイジにとって初めての客が来た。

 映えある第一号の客は、髪が長く鼻と顎が異常に鋭い男がニコニコしている様子に若干気圧されるも、ゴンドラ観光をしたいとカイジに伝えた。カイジは緊張はしていたが、度胸はどこに出しても恥ずかしくない程の超一流。料金やコース、時間の説明などアリシアに教わったことを明確に提示することが出来た。それに対し客が納得すると、アリシアを呼ぶ。

 

「すごいじゃないカイジくん! 一回で出来ちゃうなんて!」

「いや・・・それほどでも・・・」

「ううん、本当に凄いわ! もうお客様への対応はばっちりね!」

「そうですかね・・・・・・ありがとうございます・・・」

 

 むさくるしい男どもから刹那的に褒められるという事は、今まで結構あったが、うら若き女性から褒められるという経験が全くなかったカイジは体をもじもじさせて照れていた。

 

「それじゃあ行ってきますね!後の事はよろしくお願いしますね」

「合点っ・・・合点承知っ・・・・!いってらっしゃいっ・・・!」

 

フフフ・・・・なんだなんだっ・・・!やっぱりできるじゃねえか・・・!

ちょっと・・・いやかなり不安だったけど()きたっ・・・!あの経験が・・!

コンビニで働いてた経験が活きやがったっ・・・・!

ククク・・・・コココ・・・・・カカカ・・・・!

 

 アリシアが客を連れて去った後、一人不敵な笑みを浮かべて悦に入るカイジ。そうしているとアリア社長に横からどつかれる。

 

「な、なんだよ・・・・!」

「ぷいにゅ~」

「なになに・・・あんまり調子に乗るなってっ・・・?」

「にゅ!」

「分かってるよっ・・・・言われなくてもそんなこと・・・・!」

 

 なら良いんだとばかりに首を振ってどこかへ走り去るアリア社長。カイジはほっと息を吐くと、気を取り直してカウンターに座りなおす。

 

客が来るまで家事でもやっておくか・・・・

 

 その後、軽く掃除や洗濯などと併行して、新たにやってきた客にアリシアの戻ってくる時刻などを伝えたりしているとあっという間に時間が過ぎていった。アリシアは最初の客から、計5回ほど戻ってきたが、その都度すぐさまカイジに伝えられた次の客との集合場所へ急いでゴンドラを漕いで行った。

ウンディーネは街に出て客を待つタクシーのような仕事請け負いが普通であるが、アリシアの場合その人気ゆえに、客自ら店までやってくる。つまり基本的に客が途切れないのだ。

 

 夕方、カイジがカウンターでぼーっと凪いでいる海を見つめているとアリシアが帰ってきた。なにやらアリシアの後ろにもう一人ゴンドラを操る人影がいる。はてなと思いいつつもすぐさまデッキの上へ出たカイジはアリシアを迎える。

 

「おかえりなさいっ・・・アリシアさんっ・・・・!」

「ただいまカイジくん」

「お疲れ様ですっ・・・・! 少し休みますか・・・・?」

「ううん、大丈夫よ。それより紹介するわね、こちら私の友達で同業者のアテナちゃん! それでこっちが昨日から働いてもらってるカイジくん!」

「はぁ・・・・」

「どうも……アテナ・グローリィです……」

「え・・・? あ、ども・・・伊藤カイジです・・・・」

 

 ぼそぼそと初対面の挨拶を交わす二人。そこはかとなく気まずい雰囲気が流れていると感じるカイジであったが、アリシアの友達ということで無碍(むげ)にするのは悪いなと考えていた。

 

「さっきここへもどってくる途中、偶然会ったの。ご飯に誘われたんだけど私これからまだ仕事が残ってるし・・・・カイジくん、社長と一緒にアテナちゃんとディナーしてきていただけるかしら?」

 

 アリシアはこの気まずい雰囲気を意に介さず斜め上の提案をする。そんなアリシアの言葉を、アテナと呼ばれた女性は微動だにせず黙って聞いているが、カイジは見て分かるくらいに動揺していた。

 

「いやっ・・・!? え・・・・? マジっスか・・・?」

「ふふふ。うん、マジよ」

 

 そう微笑んでウインクするアリシア。今回ばかりは赤くならずに、咄嗟(とっさ)にやんわり断ろうとするカイジ。

 

「いやでも・・・・・そのアトムさんって方に悪いですよ・・・・! いきなりオレみたいな男と食事なんてっ・・・・!」

 

 手をバタつかせながらカイジがそう言うと、なにやらアテナが下を向いて小刻みに震えている。

 

「いやいやっ・・・・・! 別にオレは食事がしたくないって言うんじゃなくて・・・・っ! そのなんていうか・・・・・その・・・・・あれですよっ・・・・」

 

何コイツ怒ってやがんだよっ・・・・!

初対面の奴と食事だぞっ・・・・普通断るだろっ・・・・!お見合いかよっ・・・・

アリシアさんもなんだってんだいきなり・・・・

あーあ・・・・どうしよ・・・怒っちゃってるよ・・・・

 

「あらあら、アテナちゃん笑いすぎよっもう」

「え・・・・?」

 

 ふい~と息を落ち着かせるアテナ。どうやら怒っているとみえたのは、彼女的に大笑いをしているだけであった。

 

紛らわしいんだよっ・・・・!

声出せ声・・・・っ!

 

「多分カイジくんが名前を間違えちゃったからかしらね? アトムじゃなくてアテナよ」

「へ・・・? あっ・・・! すいませんっ・・・・!」

「いいの別に。初めてそんな名前で呼ばれたからついつい笑っちゃっただけ」

 

や、やっちまった~~~っ・・・・!

 

「じゃあそれでいいかしらアテナちゃん?」

「うん、私は構わないわ」

「ありがとう!そういうことだからカイジくん! ちゃんとエスコートしてあげてね?」

「いや・・・・ちょ、ちょっと・・・・・!」

 

 アリシアはそう言ってカイジに夕飯代を渡すとすぐさま最後の仕事へ行ってしまった。残された二人。夕闇の少々冷たい風が吹きつける。

 

「夜になると冷えるからいきましょうか」

「あ、ああ・・・・ちょっと待って・・・・! 社長呼んでくるから・・・!」

「ぷいにゅう~!」

 

あのデブ猫っ・・・・・もう乗ってやがるゴンドラにっ・・・・!

 

「それで行くのか・・・・?」

 

 カイジは水面へと続く階段の下につけられたゴンドラを指して問いかける。

 

「ええ。どうかしたの?」

「いや別に・・・・初めて乗るから・・・・・」

 

 正確には初めてではない。アリシア達がサン・マルコ広場で熟睡しているカイジを会社まで運ぶ時に一度乗せられている。が、そんなことカイジは分からない。ゆえにカイジにとって一応初めての乗船である。

 階段を下りていき船に足を掛けようとすると、アテナが手を差し出した。

 

「掴まって」

「悪いな・・・・・・」

 

 アテナの手に掴まりゴンドラに乗るカイジ。思ったほど揺れない。

 カイジがゴンドラの客席に座ると、すぐさまアリア社長がカイジの膝の間にすっぽりと居座る。アテナはその様子をみてまた小刻みに震えだした。前を向いて、いまかいまかと発進を待つカイジは、いつまでたっても進まないゴンドラを(いぶか)って振りむく。

 

「って・・・・・また笑ってんのかよ・・・・・」

「~~~~~~!」

「今度は何が可笑しいんだ・・・・・?」

「だって……~~~~っ……親子みたいなんだもんっ~~~~!」

「あぁ・・・・?」

「ぷいにゅ~?」

「アリア社長と~~っカイジ君がっ~~~~~!」

「おいっ・・・・! 離れなさいっ・・・・! 社長っ・・・・!」

「ぷぷぷいにゅ!」

「んごっ・・・・・・!」

 

 膝の間からアリア社長が飛び跳ね、頭突きをくらうカイジ。アテナはそれを見て一層激しく震える。結局、船が発進するのに10分以上もかかってしまった。

 カイジはもうなんでもいいやとおとなしくアリア社長を膝の間に居座らせた。

 

「では、いきまーす」

「ったく・・・・ああ、早くしてくれ・・・・・」

 

・・・・・・・・

 

 ゴンドラは緩やかに紺色をした夕闇の中進んでいく。

 歩いて街を眺めるのとはまた違った趣で、カイジはただただ視界に入ってくる景色に見惚れていた。大運河(カナル・グランデ)を進むときは街と水路の壮大な光景に圧倒され、建物と建物の細い水路を進むときは、ノスタルジックな夕餉の生活音が心地よかった。アテナの操舵は繊細かつ巧みで、ほとんど揺れる事なくカイジは景色を楽しむ事が出来た。

 

ちょっと阿呆な人かと思ったが・・・・・素人の俺でもわかる程上手いな・・・・

そういや手袋してないな・・・プリマってヤツだったか・・・・?確か・・・

 

 30分ほどで目的地まで辿り着いた。日はすでに落ちていて、街は電燈の光で昼間とは違った装いだ。目的の店は水路に面してテラス席のある小洒落たところであった。

 一行は、そのテラス席に陣取って、寄ってきたウェイトレスに注文を述べた。

 

「ここのピッツァすごくおいしいの」

「へえ~・・・・・そりゃあ楽しみだ・・・・・」

「ぷいにゅ~!」

「・・・・とりあえず社長さんよ・・・頭の上から降りてくれっ・・・!」

「にゅ!」

「いいからっ・・・! 降りろって・・・・達磨野郎っ・・・!」

 

 カイジはアリア社長を掴もうと手を伸ばすが、アリア社長はそれをひょいっとかわして隣の席に着地する。

 

「くそっ・・・! 身軽なデブ猫めっ・・・・」

「ぷいにゅ~~」

「ふふふっ。そう言えばアリア社長と初めて会った時も、ここで食事したわね」

 

 カイジ達の方を見ながらアテナは遠い目をする。

 

「アリシアちゃんともその時に初めて会ったのよ。まだみんなシングルでね~。あれからみんなで一緒に集まって練習したなー」

「ふ~ん・・・・じゃあ昔からの馴染みなんだな・・・・」

「うん、そう。今は忙しくってあんまり会えないんだけどね。あの頃は毎日のように集まって練習してたの」

「へぇ~・・・へえ~・・・・!」

 

 ウェイトレスが大きな皿を持ってやってくる。テーブルに置かれたのは特大マルガリータだ。アリア社長は待ち切れなかったようでアテナに取り分けられるとすぐさまかぶりつく。

 

「おいおい・・・・また太るぞ社長っ・・・」

「モチャモチャモチャぷいモチャにゅう!」

「きたねえなっ・・! 食べながら喋んなよ・・・・」

「相変わらずくいしんぼさんね、アリア社長は」

 

 そう言いながら大量にタバスコをかけているアテナ。

 

「お、おい・・・・アンタ・・・・それ・・・」

 

 アテナは、え?とカイジの方を向くがすでにその真っ赤に染まったピッツァを口に入れている。

 

「~~~~っ!」

「ほらっ・・・! 水っ・・・・・!」

「~~っ! んん~~~~っ!」

 

 水を受け取って飲み干すがまだ辛いのか、目をギュッと瞑って必死に耐えているアテナ。カイジはその様子に呆れつつもウェイトレスに水を頼んだ。アテナは新しく注がれた水に手を伸ばそうとしたが、袖がお皿に引っ掛かり皿を落としてしまった。

 パリーッンと無残な音が虚空に消えていく。

 

「ちょっ・・・・! 大丈夫かっ・・・!?」

 アテナは辛さで顔を真っ赤にさせて何事かとかけてきたウェイトレスに必死に頭を下げている。カイジはウェイトレスを手伝いながら散らばった破片を拾っていたが、隣で破片を拾おうとしゃがんだアテナがテーブルに頭を思い切りぶつけたのをみて、さらに呆れ返る。

 

おいおい愚図すぎるだろ・・・・・・大丈夫かこの人・・・・?

これでプリマってんだから驚きだな・・・・

 

 片付けも終わり、ようやく仕切り直しと席に着く二人。アリア社長は我関せずを貫き、ピッツァを食べ続けていた。もうお皿には何も残っていない。とりあえずもう一枚注文して、一息ついた。

 

「ふぅ~・・・・それにしてもアンタ、ドジだな・・・・」

「ええ、よく言われるわ……。ごめんなさい」

「いや・・・・っ! 別にいいけどさ・・・・・」

「私いつもこうなの。会社でも同室の子に、先輩はホントにおっちょこちょいだから常に気を配ってないといつか大惨事になりますよって言われてるの……」

「ははは・・・・! ちがいねえな・・・・!」

「……うん」

 

 いくらかしょんぼりしてしまったアテナを見て慌てたカイジは、他の話を振る。

 

「え、え~と・・・! アテナはどこの会社に所属しているんだ・・・・っ?」

「……オレンジぷらねっとよ」

「ああ・・・・っ!知ってるっ・・・そこ・・・! ほら・・・あれだろっ・・・! 確か一番大きいだかなんだかのっ・・・・!」

「そうなの?」

「へ・・・・? だって・・・・アンタの会社だろ・・・・?」

「私あんまりそっちの方面は詳しくないの」

「あっそうなの・・・・・・・・でもっプリマだろアンタ・・・・すげえなっ・・・・!」

「うん、ありがとう」

「・・・・・・・」

 

 どう会話したらいいか分からなくなるカイジ。とりあえず運ばれてきたピザに口をつける。美味だなと舌鼓を打っているとアテナがカイジに問いかけてきた。

 

「カイジ君はなんでARIAカンパニーに?」

「え・・・? アリシアさんから聞いてないの・・・・・?」

「うん、新人の男性が入った程度しか・・・」

「そうか・・・・」

 

どうするか・・・・?

ていうかアリシアさんの馴染みだったらどうせいつか知るよな・・・・・・

ちょっと虚仮(こけ)てるしこの人・・・・いいか・・・・

 

「いや実はさ~・・・・」

 

 カイジは軽い調子で一昨日の出来事を話した。

 案外話してみると、今はこうやってアリシアに救われているからか、そこまで不幸なことでもないなと感じるカイジ。確かに、ぶっ飛んだ出来事ではあるが今はこうして生きている。身一つあればなんとでもなる。ここは地獄の釜の底のようなあの地下でもない。と言うよりもあの閉塞的だったカイジの日常よりもずっと素敵な場所のように思われた。

 

「ってことなんだ・・・・」

「えっぐ……大変だったのねっ……えっぐ」

「は・・・?」

 

はあ・・・・!? 泣いてるよコイツっ・・・・!

豊かすぎるだろっ・・・・感受性がっ・・・・!

 

「でもでもっ・・・・! こんなことに比べればもっと酷い事いくらでもあったしっ・・・! 全然平気だって・・・・っ! オレは・・・!」

「そう……なにか相談したいことあったらいつでも言ってね」

 

 (なだ)めるつもりが逆に心配させてしまっていた。

 しかし戸惑うカイジではあったが、逆に新鮮でもあった。今までこんな風に涙を流して本気で心配してくれる人がいただろうか?というか、こんな簡単にカイジの話した事を信じるであろうか?アリシアも(しか)りだが、このネオ・ヴェネツィアに住む人々は根本的にカイジの周りにいた人間とは違うようだ。

 皆常にお金に汚い連中であった。それは勿論カイジもそうであったが、ここの人々は同じ人間なのかと疑うほどに乖離(かいり)していた。どうしてだろうか。カイジにはそれが疑問であった。

 

「悪いな・・・・心配させちまって・・・っ」

「ううん、いいの……」

「ははは・・・・さあ食べちまうかこのピザっ・・・!」

「そうね」

 

そういって微笑んだアテナはアリシアのそれに劣らない優しい笑顔であった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「多分ね……」

 

 食事も終わりそろそろ出ようかという頃、アテナが話し始めた。

 

「アリシアちゃんはカイジ君に早く慣れてもらおうとしてるんじゃないかな」

「・・・・・?」

「カイジ君ネオ・ヴェネツィア初めてだよね? だから早くこの町に溶け込めるようにって……私と食事をさせたんだと思うな」

「・・・・」

「そういう気遣いとっても上手だからアリシアちゃんは。カイジ君も……この町でたくさん人と出会えばもっと素敵なこと増えるだろうし」

「・・・・・っ!」

「どんな人でも必ず誰かが見守っていてくれる……そういう場所だから……ここは」

「・・・・・・・」

「ね?」

「・・・・・ああ・・・・そうだな・・・っ」

「うんっ! では改めて……これからよろしくお願いします」

「うっ・・・ぐ・・・! よろしくお願いしますっ・・・・・・!」

 

 涙を堪えるカイジとアテナはしっかりと握手をする。

 

 カイジは実感した。そいうことなのだと。ネオ・ヴェネツィア全体がなにか優しいもので包まれているのだと。だからそこに住む人々はこんなにも温かいのだと。

 

奇跡だ・・・・・っ!

 

 カイジはそう思う。ここは奇跡で出来た町なんだと。そしてカイジもそこにいる限り精一杯生きなければいけないのだと。

 

「あ!アリシアちゃんだ。おーい」

「ぷいにゅう~!」

 

 仕事が終わって偶然店の前を通ったアリシアに声をかけるアテナと社長。

 

「あらあら、ふふふ。どうだった? カイジくんとのディナーは」

「すごい楽しかったよ。ね? 社長」

「にゅ!」

「ふふふ、羨ましいわ。今度は私も参加させてもらうわね!」

「ぷいにゅ!!」

「うんまた休みが会う時にでもいきましょう、今度は私の後輩も連れてくるわ」

「あらあら、じゃあ晃ちゃんと藍華ちゃんもよばなくちゃね?」

「にゅ!」

 

 

 少し離れたところでその楽しげな光景を見つめていたカイジ。

 カイジくんと呼ばれると、そんな(まばゆ)い場所に自分が行っていいものなのかと少し躊躇(ためら)われた。しかし、今は精一杯生きると決めたカイジは、目に溜まった涙をごしごし拭いて前を向いた。

 

 

 

 そうして笑顔を浮かべながら街燈の下、明るいその輪の中に入っていったのだった・・・・。

 

 

 

第5話 終・・・・・・・・・・・

 


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