旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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奇獣 ガンQ
[エラーコード No.00]

破壊獣 カイロポット

X獣 ペドレオン

登場





第5夜 【連鎖する恐怖】

 

 

 

太平洋 フィリピン海北部海底 日本国排他的経済水域(EEZ)

大東諸島北東250km地点

 

 

ズウゥゥゥーーン……ズズゥゥン…!

 

 

 日本と目と鼻の先にあるフィリピン海。その海底では、ゴジラとパワードペスターによる殴り合い、噛みつき合いの応酬が繰り広げられていた。

 どちらかがよろける度に海底の岩塊などに激突。その度に岩塊の崩落音と怪獣の咆哮が無音の海中に響き渡る。

 

 第8潜水隊はそれらから距離約5000の位置で大型特殊生物__怪獣同士の戦闘を傍観していた。

 

「"ジーズラ"、"アンノウン"の戦闘により、周囲の岩塊が崩壊している模様。雑音多数、聴音不可能です」

 

 なお、同潜水隊旗艦("しんりゅう")艦長の前原により、パワードペスターとゴジラにはそれぞれ識別を目的とした一時的な呼称が付けられていた。

 

「海中プロレスの真っ最中のようだな」

 

 ソナー要員からの報告を統計し、ありのまま思ったことを前原は口にした。

 

「前原艦長、我々はこのまま静観していてよろしいのですか?」

 

 副長が何もせずの現状に思う事があったらしく前原にすかさず問うた。

 

「実際、"ジーズラ"には三隻の潜水艦による雷撃が全く効かなかった。こちらの武装はその魚雷と、対艦ミサイルのハープーンのみだ。下手にあちらのサシの勝負に手を出してかかってこられたらまずこちらは助からん。………それに、"アンノウン"は敵ではない…そう思うのだ」

 

 この待機・監視命令の理由と根拠を前原は一つひとつ諭すように説明する。

 

「…それはなぜです?」

 

 彼は何故、"アンノウン"__ゴジラが敵ではないと言い張れるのか。

 副艦長の疑問に答えるように前原は自分の考えを話していく。

 

「勘…というやつかもしれん。…人間にも良いやつ悪いやつがいるのと同じさ。"アンノウン"は我が"しんりゅう"と"ひりゅう"、そして手か何かを伸ばせば"こうりゅう"さえ撃沈できるタイミングがあったのにもかかわらず、"ジーズラ"目掛けて突進していった。あの時にアイツが"ジーズラ"へ向かってくれていなければ、俺たちは今頃冷たい海の底だったろう」

 

 艦隊全滅の危機を、ゴジラが救ったと考えるのはあくまで勘だと前原は前置きしつつ、ゴジラに敵対の意思は無いという可能性を事実と交えて副長に語った。

 

「……しかし…相手はどちらも特殊生物です。向こうの動きをこちらの常識では計れない。我々など眼中に無かっただけ、若しくはただの気まぐれでこちらは生かされた線もあるのでは?」

 

 決して艦長の言動に反感を持ち合わせているわけではないのだが、副長はまた別のの()()()を前原に挙げる。

 

「その時はその時だろう。こちらより速く、そしてこちらの攻撃が全く効かんのだ。諦めも肝心さ」

 

 前原は意外にも()()…勘が外れた際に関する考えはあっさりとしていた。

 それは人によっては潔い考えと取れるし、逆に無責任な発言にも取れるものでもあった。

 

「そうですか…?」

 

「そうだとも」

 

 その時、ソナー要員から新たな報告が上がってきた。

 

「"ジーズラ"が急速浮上!!また、それを追跡する形で"アンノウン"も海面へと浮上を開始しました!!」

「鹿屋の第13飛行隊の対潜哨戒機(P-1)が2機、監視・観測のために本海域に急行しているとのことです!!」

 

「艦長、どうしますか」

 

「うむ。それならば、こちらも潜望鏡深度まで浮上開始!!焦らなくて良い、ゆっくりだ…ゆっくりといくぞ。我々は、あの二体の戦いを見届ける必要がある」

 

 

 

 場面はヒトより離れてフィリピン海洋上へ。

 

 

 

 海上で睨み合う巨躯の怪獣が二体。

 その片方であるパワードペスターは目の前の存在にただただ驚き、戦慄していた。

 なぜこちらの攻撃が効いていないのだ。噛みつきも引っ掻きも、体当たりも、どれも全く効いていないように感じる。

 つい先ほど、右側のヒレ部分をほとんど持っていかれてしまった。

 今までこんなことは無かった。()()()の世界に、こんな奴はいなかった。

 これはおかしい、一方的に攻撃され、こちらの攻撃は全て防がれるのはおかしい…ペスターは感じたことのない違和感に襲われていた。

 

 なぜ、このような()()()がここにいるのだ。ペスターの本能が警報を鳴らしていた。遅すぎはしたが、命がある間に気づくことができた。目の前の、この怪物は、自分の手には負えない。勝てないのだと悟る。

 

 今すぐ逃げねば。

 

 戦意の喪失したペスターは身を翻してゴジラから離れていく。

 しかしゴジラはそれを見逃さず、追撃に移る。

 乱入してきたのはゴジラの方であるが、勝負に乗った相手は誰であれ逃さないということなのだろう。

 

ズザッパァアーーン!!!

 

 ペスター、ゴジラの二体が大きな水飛沫を上げて海上を()()

 何度目かの海上跳躍を経たのち、ペスターは相手との距離が遠のくことが無いと分かるや否や、逃走を諦めた。

 振り向いてゴジラへ再び臨戦態勢をとった。

 黒き巨龍に、その全幅100メートルに迫る巨体を大きく広げて威嚇する。

 

キュオオオオオオ!!!

 

ギャオオオオーーーン!!!

 

 ペスターとゴジラは互いに咆哮を上げる。

 先に仕掛けたのはペスターだった。

 ゴジラへ向け体内に溜めていた石油を使い、口部から超高温の火炎放射を浴びせかける。

 対してゴジラは身に纏わりつく火炎を浴びながらもペスターへと真っ直ぐ突き進み、距離を縮める。

 ペスターにはこれ以外に有効な手段が思いつかなかったのか、火炎放射をやめなかった。

 

 ゴジラはペスターとの距離を詰めるや否や、火炎を吐き続けていたペスターの顔面を右腕の鉤爪で切り裂いた。ペスターの頭部は縦に大きく裂け、おびただしい量の体液と摂取していた石油がどくどくと溢れ流れ出る。

 

キュオオオオオオオオオオ!!!!

 

 ペスターはあまりの痛みに絶叫し、暴れだした。

 ゴジラはそれを無視し、トドメを刺そうと体内のエネルギーを淡々と溜め始める。

 

ジジジッ……ブォン…ヴォンヴォンヴォン!

 

 すると黒き龍(ゴジラ)の背びれに青い稲妻が疾る。背部に集中した放射能エネルギーがスパークし、青白く発光し始めた。

 周囲には特大のファンをかき回すような音が響き渡る。

 ペスターは相手が自分に何をしようとしているのか理解し、全力で威嚇するが、ここにきてそんなものは気休めにもならない。

 ゴジラは特段妨害を受けることも無く、エネルギーを溜め終えた。

 

 次の瞬間、ゴジラが目一杯に口を開け、"放射熱線"を吐き出した。

 

 

___ゴォオオオオオオオオオオオオーーー!!!!

 

 

 直後、ゴジラの口から放たれた強力な熱線がペスターに()()した。そう。直撃なんて言葉が生優しく思えるものと捉えていいだろう。

 ペスターは熱線の余波に押されて、大きく後方へと吹き飛び、海面に倒れる……が、ゴジラは勢いを緩めることなくさらに熱線を浴びせ続ける。

 もはやオーバーキルだった。熱線に()()()()()()ペスターは高熱と衝撃波によって見るに堪えないほど押し潰されていく。

 

キュォオォォォ……

 

ドゴォオオオオオオオオオオーーーーン!!!

 

 浴びせられた熱線とペスター自身が取り込んでいた石油が顕著な反応を示し、大爆発を引き起こして肉片すら残さず跡形も無く綺麗に消滅した。

 

 ゴジラはペスターを斃し、ゆっくりと日本海溝へ続く海上を進む。そこにある、自分の住処へと帰るためだ。

 しばらくしてゴジラは頭から海中へと潜り、背部__背鰭部分だけを海面に出してそのまま泳ぎ去っていく。

 

 第8潜水隊は、潜望鏡深度にて戦闘の一部始終を観測していたのだが、戦闘の終結とゴジラの離脱を確認し、潜水隊は浮上していた。

 

「………"アンノウン"が勝ったか…いやはや、凄まじいの一言に尽きる攻撃だったな…」

 

「前原艦長!やはり"アンノウン"は危険です!!我々の、潜水艦の雷撃を耐えた奴を一撃で葬った…。あんなのが本土に上陸でもしたら!!」

 

「やつは日本本土ではなく、東…日本海溝方面へ向かっている。上陸して街を火の海にするようなことは、ない。こちらからの攻撃は厳禁だ。再度各艦に通達、確認させてくれ」

 

 どの道、力の差は歴然であった。こちらから仕掛けても勝算は無い。

 獲物として"アンノウン(ゴジラ)"が潜水隊を残しているとすれば、このやり取りの間に全滅させているに違いない。それほどの戦闘能力を、ゴジラは有している。

 ならば、である。海江田を信じ、"アンノウン"__ゴジラを信じよう。"しんりゅう"のみならず第8潜水隊の全クルーは皆、腹を決めていた。

 

「……分かりました。艦長のことです。自分は信じます」

 

 遠ざかるゴジラの背中を見やりながら副長が言った。

 

「ありがとう」

 

ゴォオオオオオオオオ___

 

「〈P-1〉現着!!」

 

 日の丸を胴体に付けた白銀の機体が2機、潜水隊の真上を通過する。

 

『こちらジュピター1。これより、当海域東方へ移動中の目標、"アンノウン"の追跡を行なう。送れ』

 

 その後、前原たち第8潜水隊は潜水艦隊司令部の命令により、P-1飛行隊に排他的経済水域(EEZ)までの"アンノウン"の追跡及び哨戒任務を引き継いでもらい、佐世保基地へと帰投した。

 

 結果として"アンノウン''による日本本土並びに島嶼上陸は発生しなかった。同特殊生物は"ジーズラ"との戦闘後はあのまま東進を続け、伊豆・小笠原諸島間の海域を通過し日本海溝南端に差し掛かったところで潜航。空自海自航空機による観測を振り切り、その姿はヒトが踏み入ることは許されない深海へと消えたのだった。

 

 第8潜水隊と〈P-1〉哨戒機による撮影により"アンノウン"は、以前国内にて発見された古代の書物『護国聖獣伝説』に登場する聖獣の一体___地の護国聖獣"呉爾羅(ごじら)"とその姿が酷似していたため、それを引用する形で日本政府によって"ゴジラ"と命名されることとなる。

 

 

_________

 

 

 

 時はやや少し遡り……

 

 

 

九州北部上空

 

 

 

 遥か空の上では、秋津率いる__空自の有する第五世代戦闘機〈F-35JA ライトニングⅡ〉一個飛行中隊12機で構成された__506飛と日米安保の拡大解釈を経て今回出撃した在日米海軍の〈F/A-18E スーパーホーネット〉戦闘攻撃機を主力とする空母航空中隊12機の合計24機が合流。現在は6機V字の四個編隊で飛行していた。

 

 そんな時、秋津に対して通信が入る。

 恐らくは今ちょうど編隊から外れ、自分の機のすぐ左横につけてきた米軍機(ホーネット)のパイロットからだろうと推測した。

 

『よう!カスガベースのライトニング中隊!俺達はイワクニベースの第102戦闘攻撃飛行隊、"ダイヤモンドバックス"だ! 俺は中隊長のトム・ボーデン。階級は少佐、TACネームはガウス1だ。アンタがニホンのエースパイロットか、"空飛ぶサムライ"の噂は聞いてるぜ!よろしくな!』

 

 威勢の良い声が聞こえてきた。

 声の主__トムの自己紹介を含めた挨拶に、秋津も応える。

 

「こちらは第10航空団第506飛行隊、トレノ隊隊長の秋津竜太二等空佐だ。よろしく頼むガウス1! ……総員いいか!我々の任務はこのまま熊本県阿蘇市上空まで南下、第8師団の防衛線を突破し、熊本市へ向けて侵攻中の"ベータ"に我々、そして後続の攻撃隊が空爆を行えるよう、"アルファ"を撃退ないし撃破し制空権を確保することだ!第8師団の仇を取るぞ!」

 

「「「了!」」」

 

『よぉしクソ野郎共、聞いたな?俺達の任務は今アキツ中佐から聞いた通りだ!いくぞ!ドラゴン狩りだ!』

 

『『『Copy(了解)!』』』

 

 今回の作戦内容を日米両航空隊が確認し、全隊員の士気が上がったところで、機体のレーダーが"アルファ(メルバ)"と思われる反応を探知した。

 

『秋津二佐、レーダーに反応あり。恐らく"アルファ"です!』

『おいおいキャップ、随分と予定よりも早いお出ましじゃねえか!!』

『黙ってろマイク!……アキツ中佐、ちっとばかし嫌な感じがする。クソドラゴンとの交戦空域はここじゃあねえよな?』

『秋津空佐、管制機(767)と連絡が取れません! まさか、撃墜されたのでしょうか…』

 

 戦闘予想空域を大幅に逸れての、早すぎる目標感知。

 そしてもう一つ。秋津が気掛かりだったのは、航空戦を総括する〈E-767 早期警戒管制機〉からの目標接近の報どころか、何の通達も寄越さないという点だった。

 不穏だった。言いようの無い違和感が確かに感じてとれた。

 

「我々を誘導した後、作戦空域から即座に離脱すると通達したのが最後だったが…"アルファ"に捕捉されたのか? いや、それならなぜ救援要請を寄越さない?」

 

 こうして思考している間にも、メルバ__"アルファ"との相対距離が縮まる。また、それに伴いミサイルの有効射程圏内まで間もなくであった。

 自分たちが知り得ていない何かがあると感じつつも秋津は部隊に空対空誘導弾の発射態勢に入るよう指示を出す。

 

「全機、空対空ミサイル発射準備!」

 

『お前らぁ!ミサイルをクソ野郎の土手っ腹にぶち込むぞ!攻撃準備!!』

 

 日米連合全ての機体がメルバをレーダー上に捉えていた。

 そして発射態勢に入った。直後、レーダーに映るメルバの反応が急接近していることに彼らは気づく。

 

『な、なんだ!?一気に近づいたぞ!!』

 

『この速度は…マッハ4以上!』

 

「__なるほど、全て合点がいった。奴め、自分の出せる速度を大幅に落としていたか……全機攻撃開始!誘導弾による飽和攻撃で"アルファ"を撃墜する!」

 

 秋津は、E-767がなぜ何も信号を出さずにやられたのかを即座に理解した。

 管制機は信号を出さなかったのではなく、()()()()()()のだ。何もできず空に散った管制機の隊員たちはさぞ無念だっただろう。予想以上に狡猾な手段を取るメルバに対して秋津は怒りを覚えた。

 だが、今の自分たちの任務はレーダーに映っている光点の抹消__目標の撃破である。

 戦場で感情に囚われれば、周りを見る目は曇る…自分が後輩に伝えた言葉を自分自身の心の中で復唱する。何度も、何度も落ち着かせるように呟いていた。

 一度瞬きを挟んだ秋津の目に、もう迷いはなかった。

 

『空対空誘導弾、発射!』

 

『発射!』

 『発射!』

 

『目標の追尾開始!』

 『FOX3!FOX3!』

  『くらえ!!』

 

バシュッ! バシュッ! バシュウン!

 

ゴォオオオオオオオー!

 

 空自のF-35と米軍のF/A-18それぞれから、"99式空対空誘導弾"及び"AIM-120 AMRAAM"が一斉にメルバ目掛けて放たれた。

 

 レーダーにはミサイルを示す大量の光点が、こちらへ戦闘機を凌ぐ超高速で近づいてきている反応__メルバへと向かっていく様子が確認できた。

 

 メルバを表している光点とミサイルの光点群が重なり、レーダー上から光点が消失した。

 これの表す意味とは対象の撃墜、である。

 

 自衛隊機、米軍機両方の通信チャンネルから歓声が上がっていた。

 

『"アルファ"のレーダー反応、消失しました!』

『これは効いたようですね』

『ミサイルは全弾命中した模様』

 

『ドラゴン撃墜!』

『ハッハー!やってやったぜ!ざまあみろ!!』

『これでオレ達はドラゴンスレイヤーだぜ!!』

 

『うるせぇぞクソ野郎ども!まだ任務は終わってねぇ!気を抜くとやられちまうぞ!!』

 

『『『__ッハ!!Sir yes sir!』』』

 

 トムの部下への叱責を尻目に、先程と同様の違和感を覚えていた。

 違和感の正体がどうであれ、一筋縄ではいかない相手であるのは変わらない。

 

「おかしい……呆気なさすぎる。…全機、そのまま警戒態勢を維持、気を緩めるな」

 

『『『了…!』』』

 

 秋津がトレノ全機に警戒するよう促した直後、『ピッ!』っとレーダーに反応が再度現れた。光点が一つ、編隊の左翼、トレノ隊の第二分隊の後方に映った。

 __やられた…ヤツはミサイルの直撃と同時に急降下していたのか!だとしたら下から来る!__

 それに気づいた秋津は反射的に叫んだ。

 

「トレノ8!!後方に未確認機反応!下から来るぞ!回避しろ!!」

 

 咄嗟の秋津の声を聞き逃さなかったトレノ8。

 

『!! トレノ8、ブレイク!ブレ___』ブチッ!

 

 しかし、赤い巨翼を持つ龍は嘲笑うかのようにそのささやかな足掻きを容赦無く叩き潰した。

 

__ドォオン!

 

 トレノ8との通信が乱雑に途切れた瞬間、レーダーから友軍機反応が一つ消えた。

 同時に背後で発生した()()の閃光に自身の背が照らされたことでトレノ8のF-35が撃墜されたのだと察した。

 ほぼ完全な奇襲だった。機体ごとやられたに違いない。パイロットは脱出を許されず即死だろう。

 

『鎌田ぁあーー!!!』

 

 戦友の名と共に悲痛な叫びが無線でこだまする。

 

『クソッ!体当たりでトレノをバラバラにしやがった!!』

 

 悪態を吐く米パイロット。飛行型怪獣の戦法は、人類(こちら)とは根本的に違った。

 体当たりと言う捨て身とも取れる技をなんの躊躇もなく、それでいて健在のメルバに航空隊は戦慄する。

 

『と、トレノ8がやられた!?』

『アルファ急上昇!速すぎる!!』

 

 友軍機の脱落を確認する間もなく、メルバは航空隊よりも遥か上空へと直角に迫る角度から急激に上昇。分厚い白雲へとその身を投げ入れた。

 目視ではメルバを確認できないが、今度はレーダー上で捕捉できている。次は如何にしてこちらへ仕掛けてくるのかは把握できた。

 

「慌てるな!全機、編隊を維持しろ!!どうやら奴の攻撃は体当たりのみのようだ!!次にヤツが襲ってくる時に散開し仕掛ける!!」

 

『『『了!!』』』

 

 トレノ隊から初の殉職者が出たことは、彼らにとって許容し難いものだったが、隊内に走る動揺を抑えるために、秋津が一喝した。

 死んだ者は生きる者が逆立ちしようとも戻っては来ない。

 

『トカゲ野郎がぁ…オレ達のダチに何しやがった!!トレノ8の仇を取ってやる!!』

 

 友軍がやられた光景を目の当たりした1機のF/A-18__ガウス4のパイロットは隊長であるトムの静止を聞かず、編隊から外れ雲の中へと消えたメルバへ追撃に入った。

 

『馬鹿野郎!!アンディ、今すぐ戻ってこい!聞いてるのかガウス4!!』

 

 レーダーで敵の位置を探知しているとは言え、それは危険な行動…逸脱行為であった。

 

『キャップ!コイツは、コイツだけは許せねぇ!!トレノ8を虫けらみたいに潰しやがって…人様をなんだと思ってんだ!!ぶっ殺してやる!!!』

 

 怒りに駆られたガウス4__アンディの機体がバーナーを噴かし最大速でメルバに詰め寄らんとする。

 止めるのは無駄だと言うように雄叫びを上げながら彼のF/A-18が雲海へと突入していく。

 

キュイイイイィイーーーン!!

 

 メルバは雲の中で小さな灰色の鳥が一匹、追手として迫っていることに気づいていた。

 そこからはすぐさま目にも止まらぬ速さで身を翻してのクイックターンを行ない反転し、ガウス4とのヘッドオンの状態へと移る。

 レーダー上での動きだけを見れば、メルバが突如として高速で後進したと錯覚するだろう。

 しかしメルバはそこから更に動きを見せた。

 かの怪獣の両眼が煌めいたかと思えば、次の瞬間には指向性を持った電撃状の橙色の二連光線__"メルバニック・レイ"を小さな追手目掛けて放ったのである。

 一寸先さえ雲一杯であったアンディの視界がオレンジ一色に染まった。

 

『な、なんだ!?うわぁあああ!!』

 

__ドォオン!

 

 メルバの両眼から発された光線を受けて、ガウス4のF/A-18は爆発し木っ端微塵になった。アンディは何をされたのかも理解できぬ内に散った。

 秋津達の見ているレーダーからまた一つ、友軍機の反応を示す光点が無遠慮に消失した。…それは帰らぬ者が一人、また増えてしまったことを意味する。

 

『アンディイイイ!!!!』

 

 追手を片付けたメルバはそのままの勢いで、編隊を組んで飛んでいる()へと向かう。

 

『ガウス4ォオ!!キャップ!アンディがぁ!!』

『"アルファ"、光波熱線の発射を確認!』

『畜生…怪獣ってのはなんでもありなのかよ!?』

 

 秋津はメルバが光線を放つことができたことに驚愕こそすれど、すぐに指示を飛ばす。

 隙を見せれば途端に全滅する…そんな予感がしたからだ。錯乱すればそれこそ良い的になるだけだと。

 

「全機散開!固まるとやられるぞ!残っている機体でエレメントを組むんだ!!いいか!?絶対に1対1(サシ)で"アルファ"とやりあうな!!」

 

 空の上では鋼鉄の鳥達と太古の竜による乱戦が始まった。

 

『っ!?__バルカンが弾かれた!!!まるで効いてない!!!』

『FOX2!FOX2!』

『ミサイルを全弾避けられた!!』

 

 異種間ドッグファイトは、数と知の優位に勝る航空隊(人類)ではなく、個として人類を凌駕する力を持つ怪獣たるメルバが優勢という形で進んでいた。

 

『なんて機動性だ!あんな図体のど___』

 

__ドォン!

 

キュイイイイィイーーーン!!

 

 背後を取られた1機のF-35がメルバの光線の直撃を受けて爆ぜる。

 

『トレノ6が!!』

『クソがっ!!またレーザーを撃ちやがった!!』

 

 レーダー上の友軍機の光点が次々と消えてていく…何とかしなければならない…と秋津は思ったが、戦闘機よりも旋回、速度、攻撃など全ての要素において、メルバが優っているのは明らかだった。

 

『マズい!"アルファ"に回り込まれた!!援護頼む!!』

『ダメだ!振り切れない!!』

 

キュイイイイィ!!!

 

ズバッ!__ドォオン! ドォオオン!

 

『『うわああ!!!』』

 

 続けてメルバは2機のF-35の背後を取り、両腕の鎌で真っ二つに切り裂いた。さらに、付近のF/A-18数機を片手間に翼によるローリングで叩き落とす。

 それにより、レーダー上の複数の光点が恐ろしい速度で消えていく。

 

「くっ!部隊の損耗率が3割を……越えた……!!」

 

 秋津は焦っていた。このペースで撃墜されれば、自分も含めてあと5分も持たないと。しかも確実にこちらを潰しにきてあのペースである。

 トムも仲間と共に踏ん張ってはいるがやられるのも時間の問題だ。

 打開策か何かを見出せない限り、自分たちに逆襲のチャンスどころか、生き残るチャンスはない。

 

 キュイイイ………!!

 

 メルバは自身と戦っている敵の群れの中で善戦している__動きの良い者たちを見つけた。

 恐らくはそれらが群れのリーダーであり、練度が非常に高い者であると、並行世界での…長年の狩りの経験からメルバは確信していた。

 そしてメルバは狩猟の一つの鉄則を知っている。その群れの優秀な頭を潰せば、群れは秩序と統率を失い、こちらが大した抵抗を受けることは無くなると。

 

 メルバは秋津とトムの機へと狙いを定めた。

 

『キャップ!アイツはキャップとアキツ中佐を狙ってる!!!』

『空佐!"アルファ"が!!』

 

 ガウスの一人とトレノ2__隼人が叫ぶ。

 

「来るなら来い…最後にミサイルを全て叩きこんでやる!!」

 

 目視でメルバを捉えている秋津。その目は死んではいなかった。

 せめて、行き掛けの駄賃はくれてやると。

 

『ただではくたばってやらねえぞ、クソドラゴン!』

 

 トムも同様に、諦めてはいないらしく、迫るメルバに喰って掛かる勢いであった。

 

 メルバが再び悠々と戦闘機__秋津とトムの背後を取り、ここでまとめて落とそうと掛かったその時。

 

キュイイイイアァアア!!!

 

______ババシュッ!!

 

キュイイァアア!!??

 

 正面下から()()が数発、メルバの進路を遮るように飛んできた。光弾はメルバの飛行翼を掠める。

 それはメルバの勢いを削ぐには十分な役割を果たした。

 

『な、なんだ!?光の球が飛んできたぞ!!』

『いや、矢尻のようなものが……』

 

 メルバだけでなく、航空隊もまた今の状況を測りかねていた。

 

『レーダーに反応あり!マッハ3以上で接近する物体を新たに確認!!」

『撃ってきたのはそいつか!?』

 

 未知なる第三者が戦闘空域に近づきつつあることだけは確かであった。

 

「これは、チャンスだ!この間に振り切る!!」

 

 回避行動をとって飛行姿勢のバランスを崩されたメルバは減速。秋津達を仕留めるには至らなかった。

 秋津とトムはその隙を見逃さず、メルバの追撃を振り切ることに成功。残存する航空隊に合流する。

 

 そしてたった今報告にあった、謎の反応がコックピットから目視できる距離まで迫った。そこで件の第三者の正体が彼にも分かった。

 あのシルエットには見覚えがある、自分を一度救ってくれた存在。忘れるわけが無かった。

 

「………ウルトラマンか…また、助けられた」

 

 これで二度目か…と、思う秋津を他所に両腕を広げ飛翔するナハトは、メルバへ更に光撃を繰り出しつつ向かっていく。

 

『ウルトラマンナハト!!」

『身体が赤いような…何かあったのか?』

『マジかよ……クマモトに現れたって噂のヒーローが助けてくれたぜ!』

『コイツがナハトか!すげぇ、飛んでるぞ。スーパーマンかよ!?』

 

 駆けつけたハジメ__ナハトは空域の状態からすべてを察した。

 

《自衛隊とアメリカ軍が……これ以上はやらせない!あとは俺が!!》

 

ヘアッ!!

 

キュイイイイアーーー!!!!

 

 光の巨人と闇の飛龍。

 人智の及ばぬ激しい空中戦が勃発した。

 牽制光弾__ナハトショットと破壊光線__メルバニック・レイの撃ち合いに発展。当たれば死に繋がる美しい閃光が飛び交う。

 

「始まったか…」

 

『秋津空佐、自分たちはどうすれば?』

 

 メルバの意識がナハト一つに向けられたために、航空隊の被害は終息しており態勢を立て直す時間を手にすることができた。

 

「……これより、我々トレノ隊はウルトラマンナハトを援護する!!各機、兵装の残弾数に注意せよ!!」

 

 隼人の問い掛けへの答えは決まっていた。

 

『『『了!!』』』

 

 「光の巨人と共に戦う」。

 

 ()()()()の勇気ある防人達も、同じ選択をしたのである。

 

『なら俺たちもやるぞ!!いいかお前ら!!ヒーローを助けるのもアメリカ水兵の仕事だ!!』

 

『『『うおおおおおーー!!!』』』

 

 秋津の独断により、日米連合航空隊はナハトを援護するという自分たちの役割を果たすべく動く。

 

キュイアァアアァアアアーーーー!!!!

 

ズガッ! バキッ! ズバッッッ!!

 

グゥッ!!

 

《は、速い!足の遅いパワー型のガッツだと…このままじゃダメだ!!…あの切り裂き攻撃、くっそ痛いなあ…!!》

 

 ナハトはメルバとの空中戦に苦戦していた。

 そもそも、ナハトもといハジメに空での戦いなんてものを経験した試しは皆無であった。さらに言えば、光の巨人__ウルトラマンとして経験しているのは地上戦が2回のみ。陸での戦いですらまだまだ荒削りが目立っている。未経験の空での戦いがどうなるかなど、見ずとも分かっていた。

 

 地に足つけて生きているどの人間もそうであるが、翼などの飛行関連器官を持ち得ていないハジメは生まれてこの方、当然()()()空を飛んだことなど、無い。

 

 言わば、空の上はメルバの独壇場に等しかった。

 

 一撃離脱による鎌や鉤爪による格闘攻撃でナハトを翻弄していた。飛行するのみで精一杯なナハトが動きについていけていないのだ。

 そして時折飛んでくる破壊光線も厄介だ。単発での威力はそう高くは無いが、ハジメの神経を削り、焦らせることには効果大であった。

 

 ハジメはなんとかスタイルチェンジすることが出来ないかと考えているが、メルバは隙を見せることはせずに何度も攻撃を畳み掛けてくる。

 やはりこちらを自由にはさせてくれる気配は無い。

 

《少しだけ…ほんの少しだけ、時間があれば……!》

 

キュイイイイィイーーーン!!

 

 両腕でメルバの攻撃を受けて耐え凌ぐしかなかった。

 

バシュッ! バシュゥウウーーン!!

 

ドドガァアーーン!!

 

 ナハトに向かっていたメルバの横腹に、光の槍__誘導弾が連続して突き刺さる。

 メルバの攻勢を削いだのは、科学の翼であった。

 今度は人類が、光の巨人を助けたのだ。

 彼らは臆せずに再び立ち向かっていた。

 

キィィイ!?

 

《今のは!?》

 

 ミサイルの着弾によってコンマ数秒、メルバの意識がナハトから他に向けられた。

 ナハトのすぐ横を秋津とトムたちの駆る戦闘機が通り過ぎてゆく。

 

「今だ!ウルトラマン!!」

 

「頼むぜヒーロー!!」

 

 彼らの決死の援護によって紡がれた小さなチャンスを無駄にはしない。

 

《ありがとう!……スタイル、チェンジ!スピリット!!》

 

 メルバの連撃(ラッシュ)から抜け出し、すぐさま腕を顔の前でクロスさせる。

 すると額のランプ__クリスタルが輝き、ナハトが光に包まれる。

 光が収まると、そこにはメインカラーが紅色から紺碧色に変化したナハトがいた。

 体格は細身であり、色覚的にも俊敏なイメージを与える姿であった。

 

「おお!!スゲエなウルトラマン!!レッドからブルーになったぜ!?」

 

「なるほど。あれで空戦特化の形態になったのか」

 

 紺碧の俊敏戦士__ウルトラマンナハト スピリットスタイル。

 スピード・連撃重視のこの形態は、メルバ特攻と言って差し支えなかった。

 

《これでやりあえる!さあ来い!!》

 

シェア!!

 

 新たな力を得たナハトは、"空を切り裂く怪獣(メルバ)"と正面より相対する。

 

キュイイイイン!!

 

 飛行する傍ら、相手の姿が変わったことにメルバは気づいたが、単なるこけおどしにしか過ぎないと判断したようだ。

 自慢の鎌でトドメを刺さんとナハトの側面へ回り込む。

 切り刻もうと振りかぶった。

 

___ハァアアッ!!

 

 しかし、鎌はナハトに届かなかった。直前で背を曲げ、紙一重で避けていたのだ。

 鎌の軌道を読み、空を斬らせたナハト。

 

《……"ストリームクラッシュ"!!!》 

 

ドドドドドガアッ!‼︎

 

 そこからはナハトのターンであった。

 空振りに終わり、大きな隙を見せたメルバに待っていたのは手痛い反撃だ。

 これまでのお返しだと言わんばかりに、超速かつ不可避の連続蹴り__"ストリームクラッシュ"をメルバは叩き込まれ、さらに上方へと打ち上げられた。

 それだけでは終わらない。ナハトにより間髪入れずに次の一手が打たれる。

 

ハアッ!!

 

《いけぇえ!"ハルシオン光弾"!!》

 

 ナハトが澄み切った海のように青く煌めく正確無比の必殺光弾__"ハルシオン光弾"を放ったのである。

 

キッ!………

 

_____ドォオオオオオオォン!!!

 

 牽制光弾よりも二回りほど大きなそれは、青い光の尾を描いてメルバの中心__胴体に見事命中。腹部中央を穿った。

 メルバは断末魔の悲鳴を上げる間もなく、爆発四散したのだった。

 

「サイコーだぜ!ウルトラマン!!ありがとよ!!」グッ!

 

「聞こえているかは分からないが……ありがとう。おかげで助かった」

 

 こうして、ナハトは日米連合航空隊の援護との共闘を経て、メルバを撃破することができた。

 ゴルザ("ベータ")をナハトが撃破していたことを基地経由の通信で知った秋津たちは、作戦終了の命を受け戦闘が終結したことを理解し、命令に従ってそれぞれの基地へと帰投していく。

 

 ナハトはそんな彼らの横をしばらく並走し、航空隊にサムズアップを送り宇宙(そら)へと飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

 防衛省は今回の陸海空での初の実戦において、特殊生物に対して自衛隊の兵器が全く通用しなかったと言う事実を受け目下推進中の各プロジェクトの予算追加、ブラジルでの前例から知見を得た()()()()()()()()()()()()選抜特殊部隊__"対特殊生物特選群"なる戦闘部隊の設立と特殊生物専門の"第四の自衛隊"を発足させることを改めて決定。

 さらに、防衛装備庁には前述のプロジェクト群に追加して、通常兵器の攻撃を弾く強固な特殊生物の外皮を貫通し内部を破壊することを主眼にした、対特殊生物用徹甲誘導弾__"フルメタル・ミサイル"の開発を指示した。

 また、自衛隊は今回の戦闘により損害の出た第8師団機甲部隊や春日基地航空隊の再編に追われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

_________

 

 

 

 ゴルザ、メルバ撃破から凡そ十数分後。

 

 ハジメは変身を解いた後、光の粒子体となって学園艦…黒森峰に戻っていた。

 

「ふぅ…!なんとか黒森峰に着いた…エリさん達と合流しないと…」

 

 たしか…指定された避難場所が学園校舎だったはずだ。

 それをハジメは覚えていたので、一目散に黒森峰校舎へと向かった。

 

「これはまんま避難所だな…」

 

 ハジメは学園正門をくぐり校舎前のグラウンドを見ると、避難用のテントが設置されており、その隣には救急車やパトカーなどが並んで駐車していた。

 自分が思い描いていた避難所と遜色が無かった。

 そこは早速、非日常の光景であった。

 

 ハジメは生徒用避難テントの中の一つにエリカ達を見つけ、そちらへと手を振りつつ向かう。

 

「エリさぁーん!みんなぁー!!大丈夫だった?」

 

 大声での呼びかけと、片手を大袈裟に振りながら走ってくる人物は目立つわけで、エリカ達戦車道メンバーもハジメのエリカを呼ぶ声を聞いた時点で気づいていた。

 目が合ったメンバーから順に、何度か「心配掛けて申し訳ない…」と言うように小さい会釈を何度か挟みながら、彼女達の下に駆け寄った。

 

「ハ〜ジ〜メ〜!!アンタね、そのセリフはこっちのものよ!!!また一人ではぐれて……!!あのまま緊急出港してたら、アンタ取り残されてたかも知れないのよ!?あの時はウルトラマンが来てくれたから良かったものの!!」

 

 エリカが恨めしいような声でハジメを呼んだかと思えば、つかつかと近づき、いつもより少しトゲのある説教を始めた。しかしながら、説教の後半からは叱責と言うよりも、彼女のハジメに対する心配が吐露されていた。

 

「すんません……」

 

「…アンタに何かあったら…あったら…!」

 

「え、えっと…エリさん…?」

 

 それを聞いていたハジメは何とも居た堪れなくなり、謝罪の言葉を掛けることしかできず、普段見せないエリカの姿を見てオロオロとしていた。

 

「だいたいアンタは_____」

 

 これは長丁場になりそうだと察したまほ達が、二人の仲裁に入ってきてくれた。

 

「まあまあ、エリカ。ハジメ君が現にこうして無事だったんだからいいじゃないか。確かに彼にもいくらか落ち度はあるが、ここはその気持ちを落ち着けてほしい」

 

「で、ですが隊長!」

 

 尚も食い下がるエリカ。

 しかしそこへまほに続き小梅が加わる。

 

「ハジメさんも、あんまりエリカさんを心配させたらダメです!実はエリカさん、何回も学園艦から降りてハジメさんを探しに行こうとしていたんですよ?」

 

 子供に叱るような口調で「いいですか?」とハジメを諭す小梅。

 彼女の口からはハジメがいない間のエリカの行動が赤裸々に語られた。

 

「え?そうなの?」

 

 キョトンとするハジメ。

 「あのエリさんが?」と言いたげな、何とも言えない顔でにわかに信じ難い件の話を持ってきた小梅と、目の前のエリカを交互に見やる。

 

「ちょっ!小梅余計なこと言うんじゃないわよ!!」

 

 慌てて小梅を口止めしようとわーわーとらしくなく喚くエリカ。

 

「それを止めた私たちの身にもなってよぉ!エリカちゃん、ハジメは私がいないとダメなんだ〜って、すごい力と気迫だったんだよ?」

 

 しかし塞がなければならない口はもう一つあった。

 気づけばどこからともなく現れていたレイラがハジメの横で愚痴っていたのだ。

 

「あ、えっと…あ、ありがとう…?」

 

 ポリポリと頰を人差し指で掻きながら、エリカに礼をぎこちなくハジメは伝えた。その目は恥ずかしさを紛らわすためか、彼女とは目線を合わせず、どこか別の方に向けられていた。

 それが余計に心理的ダメージとなったらしく、エリカの顔は段々と紅潮していった。

 

「あああーー!!レイラ、アンタも黙りなさい!!」

 

 エリカの頭が上から下まで真っ赤になって、ある瞬間に「ボンッ!」と爆発した。……勿論比喩である。

 恥ずかしさでのオーバーヒートが原因だった。

 

 顔を両の手のひらで覆い、しゃがみ込んでこれ以上の追求から自身の心を守る態勢に移行していた。

 無言を貫き、ダンゴムシの如く丸く固まるエリカを他所にして、今度は整備科メンバーがハジメに殺到してきた。

 

「このヤロー!親友を心配させやがってえ!!」

「ハジメぇ!!生きてる!!コイツ触れるぞぉ!!」

「ストームリーダー!!」

「嵐先輩!今までどこにいたんすか!!」

 

 無事を喜ぶヒカルたちに揉みくちゃにされ絡まれるハジメ。

 しかし、彼は誰かに肩周りをバシバシ叩かれる毎に、一瞬ながら小さく顔が苦しげに歪んでいた。

 周りのメンバーはその僅かな差異に気づいていなかったが、エリカだけは違った。

 

「………あ!!ハジメ、肩から…それに上腕まで…血が出てるじゃない!!怪我してたのなら言いなさいよ!!」

 

 先ほど、話題の対象から脱しマリモの如く丸まり動かずにいたエリカが急にすくっと立ち上がり声を上げた。

 些細なハジメの様子の変化から、彼が負傷していると勘付いたのである。

 

「え?…ああ本当だ」

 

 ハジメは自分の肩を見てみるとYシャツの両肩部分が指摘通り赤く滲んでいた。

 ナハトに変身していた時に受けたメルバの攻撃によってできた切り傷が元なのだろう。

 本人__ハジメ自身、エリカに言われるまで気づいていなかった。

 

「ほら!艦内病院に行くわよ。まーた怪我なんかして…自分の身体なんだからもっと大事にしなさいって前も言わなかった?」

 

 腕を__いつもよりやや優しく__エリカに引っ張られ、艦内病院へとハジメは連れて行かれることとなった。

 

「うっ……申し訳ない……」

 

 …その遠のく二つの後ろ姿を、やれやれといった風に見送る大勢の影があったことを付け加えておく。

 

 

 

 病院へ向かう道中の二人の会話より少々抜粋。

 

 

 

「ん……ねえ、ハジメ。アンタ制服の柔軟剤変えた?」

 

 「こんな時に聞くのはアレだったかもしれないけど…」と断りながらエリカが質ねる。

 

「うん?いや全然?」

 

 特に最近、服装や洗濯に関するルーティンを改めた覚えの無いハジメは、「心当たりが無いや」と首を横に振る。

 

「そうなの?」

 

 本人からの確認を得たものの、それでも気になるエリカは念押しするように問い直した。

 

「そうだけど…なんで?」

 

 質問の真意が理解できないハジメはうーんと唸りながら、なぜと逆に彼女に問う。

 すると、彼女はどこか得意げで、イタズラっぽい笑みを浮かべ上機嫌に歩みを進める。

 

「ふーん…そうなのね♪」

 

 エリカの足取りは軽かった。

 

「?」

 

 本当に質問の意味が分からず、意味深とも取れる笑みを返してきたエリカにハジメはただただ困惑していた。

 上記の、エリカが何故そのような質問をしてきたのかをこれから数日の間、体臭が臭いことを遠回しに言ってきたのかとハジメが不必要に深読みし悩むこととなる。

 

 

 

「なんか最近、ハジメからお日様のような匂いが…まあ、悪くないから良いけど♪」

 

 

 

 銀髪の少女の小さな独り言は、隣の鈍感な幼馴染に聞かれることなく、夕時に迫る茜空に消えていった。

 

 

 

__________

 

 

 

東アジア 中華人民共和国 上海 市街地

 

 

 

 中国が世界に誇る臨海観光都市、上海。かの都市は西側式の自由経済を導入するまでと、導入してからの時期にあった中華人民共和国という国家の根底を支えた重要都市でもある。

 さて、そんな街は、いつも通りならば昼間は観光客や市民によりごった返し、騒々しくも賑やかになっているはずなのだが、今日は…いや数日前から違った。

 海沿いや市街地中心部に続く交通網は短機関銃で武装した警官隊と中国人民解放軍陸軍の歩兵隊が規制しており、物々しい雰囲気の中、市民や観光客らは市街地中心部から退去するよう指示、誘導されている。装甲車まで持ち出していることから彼らの、有事一歩手前に迫る緊張の度合いが窺えた。

 各国の現地報道機関も上海から締め出されつつおり、何人も立ち入りを許されていないようだった。

 

バタバタバタバタ…

 

 上海の空を見れば、狙撃隊員や特殊部隊を乗せた警察ヘリや、中国軍の最新攻撃ヘリ__〈Z-10 武直10型〉が編隊を組み市街地周辺空域を旋回していた。

 彼らは()()へ目を光らせ、そして時折同空域に入ってこようとする民間機へ警告を発していた。

 

『こちらは中国人民解放軍である!本空域に接近しつつある民間報道ヘリに警告する!上海上空の飛行は現在許可しない!!直ちに当空域から退去せよ!!退去しない場合は撃墜する!!繰り返す___』

 

 上のような文言を、市街地に近寄る警察、解放軍以外の相手に対して無線並びに外部スピーカーを用いて立ち去るよう投げつけていた。

 

「なあマイト?なんで中国軍はこんなにピリピリしてるんだ?」

 

 特ダネの匂いを察知してやってきたイギリス系の報道ヘリもまた、退去命令に等しい、解放軍ヘリからの勧告を受けている。

 

 その報道ヘリのパイロットが、こちらへ機関砲の砲身を向けている攻撃ヘリを睨みながら、同乗させているカメラマン__マイトに訊ねる。

 

「んー。SNSに上がってたんだが、すぐに削除されてさ。情報が錯綜しているんだ。デカイ目玉が出ただの、やれ隕石が降ってきただの…」

 

 外の様子__攻撃ヘリの動向と、自身の片手で操作しているスマホの液晶画面を交互に見やりながら、上海で起こった出来事を順を追ってパイロットに簡潔に説明していた。

 

「くそが!軍のヘリまで出してきやがって!」

 

 都市の封鎖措置を急遽打ち出したのもそうだが、それの警備に装甲車と攻撃ヘリ__国軍を投入してきた中国の対応に、パイロットは悪態を吐いた。

  

「しょうがない…テレビ局に戻るぞ。今回は奴らにミサイルは使わせないでやろうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 このような異常事態が起きている原因は、警察と軍によって封鎖されている上海市街地中心部にあった。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()が落下した同市街地中央広場周辺には中国軍が装甲車や歩兵を展開させており、落下地点を取り囲むように有刺鉄線や規制テープがこれでもかと張り巡らされている。

 

「…対象に変化無し。監視を続ける」

 

 対NBC防護服に身を包んだ兵士が淡々と無線を介して報告していた。

 

『本部了解。警戒レベルを一段階引き上げ、監視を続行せよ』

 

「了解」

 

 対策本部との定時連絡を終えた一人の兵士が視線を広場へと移す。

 そこには例の巨大な隕石があった。

 隕石は不可思議だと言われるだけあり、見た目はまるで()()()()()()()()()である。

 これが、この隕石こそが、今回の上海市封鎖の原因であった。

 

 交代待ちで後方に控えている監視要員の兵士が数人でたむろして駄弁っていた。

 

「一体なんなんだ…この目玉隕石は?」

 

 兵士の一人が件の隕石に背を向け、親指でぶっきらぼうに指して訊ねる。

 

「…小日本の熊本にまた化け物が出たらしい。今度は二体だと。米軍も少なからず被害を受けたと聞いている」

 

 アレ…隕石も化け物の類かもしれないなと、別の兵士が自身の見解を述べた。

 

「コイツもできるなら、あちらに落っこちてほしかったものだ…」

「アレを見ていると気味が悪い。鳥肌が治まらん」

 

 また別の兵士が溢した言い分も最もであった。

 誰も好き好んで巨大な目玉と等しい異物を見続けたいとは思わないだろう。

 

「目玉に似てるとはいえ、目を合わせるといったことはしてこないが…」

「全くだ。だがもう少ししたら工兵部隊が爆破処理をしてくれる。それまでは耐えよう」

 

 東部戦区司令部からは、工兵部隊を上海市街地へ派遣し、高性能爆薬を用いた破壊措置を取る旨が現場へと伝えられていた。

 

「「「了解だ」」」

 

 現場の兵士達は、この気色の悪い隕石を拝むのもあと片手で数えるくらいなのだと互いに激励し合う。

 

 

ギョロッ……キュキュキュ……

 

 

 そんな兵士らの後ろ姿を見据えて、奇怪なる隕石__ガンQが密かに…そして不気味に笑っていたことを彼らは知らない。

 

 

 

_____________

 

 

 

西ヨーロッパ フランス共和国 パリ 某市街地

 

 

 

 パリ市内のとある街中の交番で、一人の少年と定年間近だろう初老の警官が話していた。

 

「だから信じてよ!!こーーんなにデッカイ紫色のムカデが口をガバァッ!って開けてリスをパックリと食べてたんだって!!」

 

 少年は特殊生物をこの大都市__パリの中で目撃したと言う。

 その顔は必死であり、彼は自身の小さな身体を最大限活用して身振り手振りで事の深刻さを何とかして老警官に伝えようと努めていた。

 

「おいおい坊や、わしが老いぼれだからと言ってな…お巡りさんをからかっちゃいかんぞ? こう見えてもな、最近結構忙しいんだ。いなくなってしまった人達を探したりでね」

 

 交番の玄関先で目撃談を語る少年を尻目に、老警官は掛けている眼鏡を時折クイっと上げ直しながらデスクで日報を書いていた。

 

「本当に見たんだよ!!」

 

 適当にあしらったつもりであったが、まだ少年は引き下がっていなかった。

 

「うーむ…。よし、分かった。そこまで言うのなら今から準備してくるから、坊やは外で待ってなさい」

 

 年端のいかぬ少年の突拍子の無い話とはいえ、情勢が情勢だった。

 子供の「人喰いの化け物を見たんだ!」という証言を単なる妄想や冗談だと一笑に伏して済む時代は終わりつつあった。

 

 日報の作成をやめ立ち上がると、くの字に曲がり掛けている腰に手を当てながら交番の奥に老警官は消える。

 ロッカーに長らく使ってこず埃を被っている防弾チョッキを取りに行くためだ。

 

「うん!分かった!早く来てねお巡りさん!!」ダッ!

 

 そう言って少年は交番から飛び出し、警官が用意を整えてくるまでの暇つぶしとして向かいの公園に向かおうとした……が、交番前のマンホールの蓋が微かに開いたことに気がついた。

 否、気づいてしまったのだ。

 

 中に何かいるのだろうか?

 

 少年は好奇心に抗えなかった。

 

「なんだろ?」

 

ガシッ!

 

 マンホールの隙間から中を見ようとしゃがんだ少年は、突如何かに頭を強く掴まれた。

 

「う!?」

 

 ()()()()()()()に掴まれた少年は、誰にも見られる事無く小さな呻き声を最後に地下へと引き摺り込まれたのだった。

 頭を掴んだ相手が、先ほど警官に話していた紫ムカデそのものであることに少年が気づいた。しかし、気づいたところで彼の運命は変わらない。

 

「おーい坊や!準備できたぞ〜!案内してくれないか〜!!………これは…帰っちまったかぁ?」

 

 暫し遅れて老警官が交番から出てきた。

 日本やブラジルの件もあり、念のため装備を引っ張り出してきたよぼよぼの警官は、待っているはずの少年を呼びかけて探すものの、一向に現れる気配がない。

 警官はふと足元を見てみると、地面に帽子が落ちているのに気がついた。

 

「おや?この野球帽は…さっきの坊やのか? 一体どこに……」

 

 

 

 

 

 

ゴリッ…ボリボリ……

 

シャアァアアア…ミシャアァア……!

 

 警官の立っている地面の真下、マンホールと分厚いアスファルトで隔たれた下水道通路の中ではボリボリと、つい先ほどまで少年だったモノを貪り食っている異形の生物が何匹も蠢いていた。

 

 

 

__________

 

 

 

北米 アメリカ合衆国バージニア州 

ノーフォーク海軍基地

 

 

 

 

 灯火管制を敷かれた基地内の燃料区画を、クリアリングしつつ進む歩兵部隊がいる。

 彼らは基地の夜間警備とは思えないほどの完全な重装備であり、所持している銃全てにサプレッサーが装着されてあった。

 

『………近いぞ…』

 

 何者かの気配を察知した旨を、先鋒の隊員が首部に装着している骨伝導マイクで声を発さず、ハンドサインと交えて後続に伝える。

 

『オイルの漏れた跡だ…』

 

 何者かが残した痕跡を発見したようである。

 先鋒を務めていた隊員が地面の一点を指差し、より一層の注意を払うようアイコンタクトで他隊員らに促した。

 

『サーマル用意!』

 

 ヘルメット上部に取り付けられた熱源探知__サーマルゴーグルを各々が起動させる。

 

『サーマル!』

『サーマル!』

『サーマル…! 目標確認。前方のコンテナ上部』

 

 目標を確認した。

 

 その言葉を聞くや否や、彼らは一斉に銃の照準を()()がいるとされるコンテナ上に向けた。

 

 銃の下部や側面に取り付けられたフラッシュライトやレーザーサイトがその目標とやらにこれでもかとしつこいぐらいに当てられた。

 ライトを当てられた目標の姿はハッキリと確認できた。彼らが見つけたのはドロドロに蠢いているスライム状の不定形生物…アメーバやナメクジと言った存在を所構わず混ぜ合わせたようなモノであった。

 汚らしい虹色の光沢を放っているそれが、彼らが追跡していた獲物__目標そのものだった。

 

『3点射、撃て』

 

 獲物は捕獲や排除ではなく、駆除の対象だった。

 感情を感じさせない、起伏の乏しい冷静な声で隊長格の男が他の隊員に射撃を命じた。

 

シュパパパッ! シュパパパ!

 

 小銃弾が不定形粘体特殊生物__小型ペドレオン、通称"クライン"に殺到した。

 ペドレオンにとって、それは最悪の奇襲攻撃だった。

 

ピギイィイイィィイイイイィ!!!

 

 スライムともアメーバとも形容できない身体を苦痛から逃れるために必死に捻らせる。されど銃撃は止まず、更に勢いを増していった。

 銃弾がペドレオンに命中する度にその着弾部位の表面が赤く発光し球状に膨張していく。

 

「攻撃有効。継続」

 

シュパパパ! シュパパパ! シュパパパ!

 

 人類の攻撃の手は緩まなかった。

 かの怪獣の反撃の一切を許さない。

 一方的に、銃弾がペドレオンに殺到する。

 

ギィイイイイ!!

 

ドパァアン!!!

 

 度重なる銃撃に身体が耐えられなかったのだろう。

 ペドレオンが派手に破裂し、肉体の一部は水色の粒子となり消えていったが、残りは辺り一面にガソリンなどと類似した異臭を放つ、ヒトにとっては不快でしかない体液となって周囲に飛散した。

 

「目標撃破。周囲の焼却処理を求む」

 

 骨伝導マイクを切り、肩の無線機を掴んで淡々と報告する隊長格の男。

 

「他の部隊も接触したようです。E班の一人が食われたとか」

 

 通信要員の隊員が基地内の別区域で同じように駆除活動をしていた部隊の近況を皆に伝える。

 

「……まさかアメリカ最大の海軍施設に特殊生物が現れるとは…」

 

 合衆国にも、遂に特殊生物が出現したという事実は、お世辞にも自慢できるものではない。

 彼らの内の何人かは、今後も発生するだろう対特殊生物戦闘を想像し、身震いしていた。

 

「兎にも角にも、見つけ次第奴らは駆除、焼却処分だ。いいな」

 

 だが彼らがやることは変わらない。

 合衆国民を守り、合衆国に害を為す存在を排除するのみである。

 

「「「了解」」」

 

 軍港内の他区域でも駆除対象__ペドレオンが多数発見、殲滅されている状況を改めて脳内で整理していた一人の隊員が、誰も考えようとしなかった一つの仮説に行き着いた。

 その仮説を、ポツリと呟く。

 

「コイツら、もしかしたら……もう相当数まで数を増やして、とっくに街へ散らばってるんじゃないか?」

 

 特殊生物もまた、()()である。

 増殖、成長し、ここ…海軍基地より拡散してその版図を広げているのではないか、と。そんな嫌な考えが過ぎる。

 こんな人間大の種が、人類側の駆除能力を上回るような行動をしたのなら?

 果たして、なす術は今の人類にあるのだろうか?

 

 

 

 そんな問いに答えるかのように、この夜間戦闘から数日後、ノーフォーク周辺の数箇所のガソリンスタンドにて正体不明のガソリン泥棒の通報や、行方不明者捜索についての相談が同市警察署に殺到することとなる。

 

 

 

_______________

 

 

 

東アジア 日本国九州地方 長崎県 姫神島

 

 

 

 人目につかない山奥の洞窟で黒い鳥のようなモノが生まれてから数日後、姫神島の異変に最初に気づいたのは島民である9歳の子どもとその母親であった。

 

「おかーさん!今日もタヌキのポン吉とポン太がご飯食べに来てないよ?」

 

「ほんとう?………あら、たしかにご飯減ってないわね」

 

 母親はガラス越しに家の外に置いているエサ皿には盛られたペットフードが残っていることを確認した。

 息子の言う通り、夕方になると山奥から人里に二匹のタヌキが定期的に下りてくるはずなのだが、最近はめっきりその姿を見かけることがなくなっていた。

 さらには近所のお年寄りの方々に可愛がられていた野良猫までパッタリといなくなってしまったと言う。

 極め付けには魚屋の店主が放し飼いしていた番犬が散歩に行ったきり帰って来ず、連日店主と奥さんが探しているが見つからずにいるらしい。

 

「そっか……じゃあ明日は豪華なご飯作りましょう!そしたらポン太たちも来るかもね!」

 

 そう言って母親はリビングから台所へと行き、夕飯の準備を再開した。

 少年はまだ外を見ていると夕方の空を飛んでいる影を見つける。

 

「あ!おっきい鳥!カラスさんかな?」

 

 最近では、鳥さえも見なくなってきたと言うのに、久々に見た()()に不安を覚える島民は誰一人いなかった。今のところは。

 

 

 

 破滅の翼に乗って、破壊と混乱の火種はあちこちで静かに燃え始めていた。

 

 

 

 





 あと
 がき

【2023年版編集】
 オリジナルガンQとパニック漫画『ハカイジュウ』からワーム型特殊生物__紫ムカデが登場ですね。紫ムカデが分からない人は検索してみましょう。

 怪獣特効の怪獣に怪獣をぶつけたら……まあ、ああなりますよね…。ペスター君南無阿弥陀。

 ハジメ君はヒカルやダイトと同じようにガタイが良いので、よく荷物・教材運搬を先生や他生徒から頼まれたりします。
 あと、エリカさんの頼みは基本断りません。

 質問感想あればよろしくお願いします。
 怪獣・人物図鑑も毎回更新しております。良かったらそちらもどうぞ。

_________

 次回
 予告

 熊本に来襲したゴルザとメルバを倒してから数日後、ハジメ達にはまたいつもの日常が戻りつつあった。

 一方、大洗へと逃げるように転校していた西住みほは、同町海岸で一人座りこれからのことについて思い悩んでいた。
 ふと波打ち際を見ると真っ白な卵と勾玉を見つける。
 それは新たな出会いの始まりであった!

 手の平の小さな希望が、今、産声を上げる……!!

 次回!ウルトラマンナハト、
【勇気はキミの手の中に】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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