東アジア 日本国九州地方 長崎県佐世保市
佐世保市立多目的演習場 場内屋外ガレージ
「おーい!パンターの履帯のチェックは終わったのかぁ!」
「丁度いま終わったとこ!」
「ユウ先輩!予備の機関砲弾ってどこですか!」
「トラック3号車の荷台にあるはずだ」
「あと30分もないからな〜!巻きで点検やってこ〜!」
晴天の青空広がる市営演習場。
その敷地内に存在する簡易ガレージ__雨風を凌げる屋根の無い、それでいて家屋を支える柱や壁も無い…一般的な野外駐車場と相違ないもの__にずらりと並んでいるのは
それらは第二次世界大戦時の、屈強な独国戦車達である。
どの戦車にも"黒森峰"のエンブレムが貼られていた。
「青の工具箱、どこにあったっけ?」
「田中が持ってましたよ。呼んできます?」
「あー、そうしてほしい」
そんなドイツ戦車群の周りで時折大声でやりとりし、慌ただしく動いているのは黒森峰の戦車道整備科のハジメたちである。
この時点で、佐世保のサンダース大学附属高校との試合まで、残り2時間を切っていたが、ハジメ達整備科による試合前最後の点検は終盤に差し掛かっており、余裕を持って終えることができそうな様子であった。
「弾薬積み込み終わり!」
「おーし、チェックチェック」
「ラングの方はどうだー?」
「終わっとるよ〜」
サンダース大附属高校。
日本の友好国__アメリカ合衆国風の学校であり、佐世保港を母港とする大型学園艦だ。
同学園艦は「大附属」と付いているように、日本本土にある私立サンダース大学の附属校である。ちなみに同大学には幼稚園、小学校、中学校、短期大学の附属校も存在している。
同じ大型学園艦__黒森峰以上の生徒数を誇るマンモス校として知られており、学園艦を巡る資金は潤沢で、超がつくほどのリッチ校でもある。
「何度見ても広い演習場だよな。市立の演習場とは言え、この敷地を毎年全部貸し切りってよぉ…」
かの学園艦は、戦車道や艦内設備、そして学園艦産業__再生可能エネルギー発電、農水畜産業等への投資に余念が無く、日本の保有する学園艦の中でも発展の度合いは群を抜いている。
また、国産学園艦の中で唯一黒森峰を除いて艦内鉄道網を有している船でもある。
「サンダースが全部払ってるんですよね。ここの使用料…」
「正直、文科省の戦車道推進支援金使わずにコレって、脱帽もんよな。俺、その額見たくねえよ?腰抜ける自信しかねぇよ?」
「駒凪センパイでそれだったら、自分ら一年がそれ見たらどうなっちゃうんですか」
「うーん…全身複雑骨折からのショック死?」
「どこの致死性ミームですか。嫌ですよそれ」
「ウチ__黒森峰も相当すっけど、サンダース側も相当っすよね…」
サンダースでは、特に戦車道への力の入れようが尋常でなく、日本の高校戦車道において最大の人員数と戦車保有数__一軍から三軍、そして整備科まで一挙に構成できる規模を誇り、質・量共に堅実なアメリカ戦車を多数有する強豪校の一つとして君臨している。
「…そのくせ、サンダースの子達って皆んなフレンドリーかつフランクでナイスバディときたものだからね…困ったものだよホントに」
「困ったもんなのはお前のピンク脳だよエロメガネ」
「タクミ、お前はどうせ太ももとニーソしか見てねえだろ」
校風が校風なため、アメリカ合衆国との繋がりは当然ながら強く、メリーランド州に提携校の学園艦を持つ。毎年、サンディエゴ若しくはハワイへ航行し提携校との相互親善訪問を行なっているのだとか。
また、民間の交流だけでなく、アメリカ軍統合軍の一つ__アメリカインド太平洋軍と、その副統合軍に籍を置く在日米軍との繋がりも強い。
事実、サンダース大附属高校の戦車道チームが取り扱っている資産の殆どが米軍からのお下がりや寄贈品である。…なお残りは自腹での購入品だったりする。
「パワー・オブ・マネー」とは良く言ったモノだが…。
米国の底力、恐るべし。
「くそ…属性盛りすぎだぞ米帝め…!最高か?」
「すーぐそっち系の話に行くよな…」
「こうでもしないとやってられないんやろなぁ」
担当戦車の試合前点検を終えた整備科の男子達が上のようなやり取りをしているのも、サンダースの資金と人的資源__そして女子生徒の発育__のスケールの大きさに舌を巻いている故に出るものだった。
「___エンジン、履帯チェックは…あとはまほさんのティーガーⅠだけ…あっちはマモルがやるから……うん。これで終わりかな」
そんな友人達の会話が現在進行形で進んでいることは露知らず、ハジメは自身の担当戦車___エリカが車長を務める重戦車〈ティーガーⅡ〉の整備点検を終えて、周りの進行状況を確認していた。
「ストーム先輩、こっちも整備は終わったのでこれから俺たちはどうすれば?」
「ん?あー…各自ゆっくりしていいよ。もう少ししたら観客席に行くから、移動の準備だけしておいてほしいかな。はい、青工具箱ありがと」
「分かりました!」
ハジメが車輌の最終メンテを終えた後の予定を、工具箱を渡しに来た連絡係の後輩___一年生の田中に伝えると、もう一度チェックシートに目を通す。
「ハーイ!整備科のみんな、久しぶりね!!」
するとそこに、本日の対戦相手__サンダースのパンツァージャケットを着た、いかにも人懐っこそうな顔の金髪女子が現れた。
手を大袈裟に振りつつ、満面の笑顔でハジメ達の方へと歩いてくる。
また、先程の野郎の話の例に漏れず、どういった所がダイナマイトでアメリカンとは言わないが__出るとこが出ている、そんな少女であった。
その後ろには、まほとエリカもいる。
「「「ケイさん!」」」
ケイと呼ばれた金髪美少女は、サンダース大附属高校戦車道チームの隊長だ。三年生であり、黒森峰側の隊長のまほとは同級生かつ戦車道でのライバルとして面識がある。
スポーツマンシップを第一に掲げ、フェアプレー精神を重んじる人徳者としてサンダース内と高校戦車道界隈ではその名前が通っている人物でもある。
…叔父にあたる人物がアメリカ合衆国の大統領だという噂もあったりするが、彼女が自分から話すこともしないため、その真相は定かではない。
「ケイさん、ご無沙汰っす!お元気そうで!!」
彼女とハジメたち黒森峰二年生にとっては、去年の定期交流戦…毎年行われる練習試合ぶりの再会であった。
まず最初にケイに挨拶をかましたのはヒカルだった。
それにケイははにかみながら気前よく応える。
「そっちも元気そうね!!」
相対したケイとヒカルが「イエーーイ!!」と某バスケットボール題材の少年漫画の名シーンのようなハイタッチを交わす。
人との距離感等から、彼女がかなり他者にフレンドリーな人物であるかはここで改めて理解できるだろう。
「先輩方、サンダース大附の人とかなりのお知り合いなんですか?」
一年生の田中は面識がまだ無かったらしく、あまりにも相手校の隊長__それも金髪で、出るとこが出ている黒森峰にいないタイプの美少女__と親しく接している整備科のNo.2の片割れであるヒカルと、それを笑いながら見ている他のハジメ達二年生の様子を見て首を傾げている。
「かなりのって…田中ぁ。流石にお前相手校の隊長の顔ぐらいは覚えとけって。何あるか今の世の中分かんねぇぞ? 今みたく、かわいい子いました〜つって、ペラペラ話してたら、その子はなんとライバル校のスパイでした!…は笑えねぇから。な?」
ヒカルに勝るとも劣らない体躯を持つ巨漢ダイトに背中をバシバシと叩かれる田中。ダイトの加減が下手なせいだろう。若干むせこんでいる。
「他所の学校の子から
「祓われても文句は言えんな」と、ユウも話に加わり田中にいつもの朗らかな笑みを崩さず言い聞かせる。
…その常時ニコニコ顔が、後輩達からは恐れられていることをユウ本人は知らない。
「…分かってるとは思うが、ナギはあれでいて線引きやらは出来てるヤツだから例外な」
実際、先のダイトとユウの言い分はごもっともなものだ。
日本戦車道では、相手チームに対する__施設や車輌、選手に対する傷害・破壊行為と言った、度の超えたものは許されてはいない。
だが、諜報活動は別であり、特段それを咎めたり、罰するよう明確に定めた規則は日本戦車道をはじめとした各国戦車道には現在存在していない。つまりは諜報活動…もとい偵察行為が国際的に合法、容認判定を受けており、規則にもそこら辺の話はしっかり明記されている。
そのため、戦車道の存在する中学校、高校、大学には、生徒・学生で構成された情報機関__学部学科、委員会や部活の類いとは思えないほどのハイレベルな、下手をすれば国家レベルの組織すら相手にできる集団を持っている学校がいくつかあったりする。特段無くても支障は無いのだが。…素直に頭おかしい。
日本での例を挙げるならば、英国戦車を操る神奈川の英国式淑女育成の名門校__聖グロリアーナ女学院だろう。
同校の情報処理学部第6課___通称"GI-6"は、戦車道チームとの協力体制を確立しており、日夜ライバル校、強豪校の練習内容から一隊員の恋愛事情に至るまで、あらゆる情報の収集を行なっていると言う。
さらには、現戦車道チーム隊長と、現GI6リーダーの間柄は親しく、その情報網は例年の規模を超える拡大の一途を辿っているとか。
風の噂では、防衛省の機密サーバーに
「…ま、逆に、近づいた者は生きて帰れぬと知れ!!…みたいなレベルまでの警戒は求めてないけどな」
そうダイトが何処ぞの地上最強の格闘士を思わせる仁王立ちをしつつ戯けて見せた。
競技として、戦車道としての偵察・諜報活動に関する話題の続きであるが。
「じゃあどのくらいのレベルまでやっちゃっていいのか?」と聞かれれば、結論からして「やれるだけはやれる。ただ、己の良心に従え」と言える。
日本の同盟国であるアメリカ合衆国の
なお、これと同格の偵察活動を、のちに立ち上げられる大洗女子の戦車道チームに属する癖っ毛がトレードマークの
「は、はい!以後は気をつけます!!」
「次やらかさなければオッケーオッケー。それに、あくまで俺達が関わってるのはスポーツだしな」
上の内容の補足となるが、偵察活動が容認されているように、潜入してきたスパイ生徒の捕縛もまた容認されている。
こちらに関しても、拷問等の行為は厳禁とし許されてはいないものの、捕縛され捕虜となった場合は解放されるまでの一定期間、潜入先の学校で
ちなみに、捕虜となった生徒が所属する学園艦に帰れない期間は、事前若しくは事後連絡をすれば、なんと公欠扱い。太っ腹である。
「どの一年坊も返事はいいんだけどなぁ…」
ケイとの再会劇を終えて戻ってきたヒカルが坊主頭をボリボリと掻きながら嘆いた。
その後すぐに、「ま、ケイさんのホットパンツ君が虐待されてるって言いたいのは分かる。ありゃあ、みほさんと良い勝負だ」と生真面目な顔で意味不明な物言いさえなければ、良識はちゃんと持ってる先輩という認識で終わることが叶っていたかもしれない。
「…そこの佐山と宮崎、今のお前らもだ。鼻の下、伸ばし過ぎだぞ」ビシッ!
「「あいた!す、すいません!!」」
田中以外にこの場にいた一年生二人__佐山、宮崎と呼ばれた後輩たちが、ユウが繰り出した手刀を脳天に食らった。
「うんうん。そーゆう年頃だもんね〜!今の内にしっかり見ときなよ〜?」
佐々木コンビと一年生衆の会話をどこから聞いていたかは不明だが、ヒカルに付いてくる形でケイもこちらの輪に入ってきていた。
彼女は「全然気にしてないから、ヘーキだよ〜」と言ってニシシと笑っている。寧ろ、どんとこいの…グラマラスなポーズで彼らに応えていた。
見てた側の一年生__佐山、宮崎がケイの反応に困惑している。
相変わらず人柄が良いな…と言うよりポジティブ思考の極みみたいな人だなと、ハジメは呑気に思っていた。
「ふむふむ…黒森峰もかわいい後輩達に恵まれたんだね、マホ!」
「ああ。機甲科にも、整備科にも、優秀な人材が入ってきてくれた。嬉しい限りだよ。来年のチームが今から楽しみなぐらいには、ね。去年の轍は踏まないと…誓ったから」
「妹さんのことね…」
一時、しんみりとした空気が漂った。
さて、ここまで全員草原で立ち話をしているわけだが、ケイと言う対戦校の人物が何故ここにやって来たのか、と言う疑問を解決するため、そしてこの陰鬱な空気を変えるべく整備科側__タクミが動いた。
「……えっと…それで、ケイさんは西住隊長と逸見さんと一体どんなご用件でこっちに?」
タクミ…そして他のメンバーが思い出した疑問に答えたのはまほだった。
「ああ。ケイがな、試合前によかったら少し食事でもしないかと誘ってくれたんだ。整備科のみんなもどうだ?」
後ろで聞き耳を立てていた残りの整備科男子達__一年生から歓声…雄叫びが上がった。
もちろん、願ってもない誘いにハジメ達も喜ばずにはいられない。
「だからアンタたちを呼びにきたわけ」
何故か得意げな表情で理由を補足してくれるエリカ。
「いいんですか?」
そんなエリカをハジメはスルーして、ケイ本人にもう一度確認をとる。
「もっちろんよ!!」
向こうがいいと言っているのならお言葉に甘えようと、整備科メンバーもサンダースの待機場に行くことを快く決めたのだった。
そしてエリカをスルーしたハジメにはエリカの
「ならば俺たちも行かせてもらいましょか!」
「ゴチになりに行こう!」
「すいません、ダブルチーズハンバーガーの倍パテにポテトLLと麦茶Sのセットを一つお願いします」
「誰だ外食専門の呪文詠唱したの」
「…もしかして、各料理のサイズって一回り大きくなったりします?」
整備科の一、二年メンバーが食事会への思いを口々に言っていた。
「サンダースはアメリカモチーフだからな。安心していっぱい食べるといいぞ、一年生諸君」
「西住隊長〜?整備科にナチュラルな飯トレ発言してないですか…?」
「何人でもドンとこいよ!さあ行きましょ!カモンカモン!!」
そうして各自が旧ドイツ国防軍が採用していた大型四駆__〈重統制型乗用車 ホルヒ108 typ40〉に乗り込み、ケイとまほの案内の下、サンダース側の待機場まで向かうのだった。
数十分後。
「いやぁ揚げポテ美味いっすね〜」
「どれも食べ放題とか太っ腹だよね。ホント、サンダース様様だよ」
「なんで身体に悪いもんほどこんなに美味いんだろうな?」
ハジメたち黒森峰戦車道チームは、機甲科、整備科関係なく皆でサンダース主催の試合前交流会…バイキング料理を楽しんでいた。
「あー。黒森峰名物の、ノンアルビールとソーセージのセット、引っ張り出してくりゃ良かったな…」
「また別の機会の時に振る舞うとしようや」
「ナギ…お前、ここで食い過ぎたら昼の弁当入んないんじゃないか?」
「二時間ありゃあ全部消化するからいけるいける」
「お前はピンクの悪魔か」
「地獄見るのは本人だからな…これ以上は俺達は何も言うまい」
「一年、遠慮すんな!機甲科の子達の倍は食っとけ、俺達の仕事は試合後だぞ」
「飯トレで思い出した。今年も部室棟で整備科野郎合宿開催するか…」
「ぇ?本気?あのむさ苦しいやつやっちゃうの?今年の夏も?」
男子勢の食べっぷりは書かなくとも分かるだろう。大柄連中は凄まじいの一言で十分だった。
本当に無駄口叩きながら食べてるとは思えないペースで彼らのテーブルにある皿は空いていく。
先程も説明したように、サンダースは人員だけでなく、物資も豊富な学園艦であり、戦車道周囲の力の入れようもそれに比例している。
そのため競技車輌だけでなく、兵站に関係する各種補助車両、さらには競技用戦車や人員を輸送するための航空機まで保有している。
この場にある補助車輌だけでも、入浴車、理髪車に野外調理が可能なキッチン車などなど…実にヴァリエーションに富んでいた。
果たして、ここまで揃える必要があったのかと聞きたくなるほどに設備が充実しているのは確かだった。
「みんな!遠慮なく楽しんでね!」
両校の英気を養うために、食事以外も何でもござれの空間が出来上がっていた。
「「「はーい!」」」
黒森峰の戦車道機甲科・整備科でも流石にここまではできない。
普段の試合や練習、訓練等では体験できないものを味わうことができるのが、サンダースとの夏季定期交流戦の醍醐味であると、黒森峰側は認識しており、試合前後の交流会を楽しみとしている生徒が毎年一定数いるのも事実だ。
「ケイ、カレー…カレーライスは無いのか?」
「ワーオ…マホ、その顔とムーブは生きた人間がするものじゃないよ!?」
黒森峰…特に整備科の食いっぷりを眺めて満足そうに腕を組みニコニコとしているケイ。
そんな彼女の前に、皆と同様に食事を楽しんでいるはずのまほが、ゾンビを思わせる生気を失った顔と体の挙動で、自身の大好物__カレーライスを求めて彷徨っていたのである。
ハロウィンはまだ先だぞと言うように、ケイがツッコミに回った。
「向こうの屋台に行けばあるわよ!チキンにビーフにポーク…どんなカレーだって揃えてるからね!」
任せておけ!とケイがビシッとサムズアップをまほに返し、彼女の好物を扱っている屋台の位置をジェスチャーを交えて教えてやった。
「む。では行ってくる」
するとどうだろうか。
先程までヨロヨロフラフラしていたまほが急にいつもの調子を取り戻した。
ケイも一瞬目が点になるほどの変わりようだった。
「アハハ…なんだかんだで一番楽しんでるのは、マホなのかもね!」
自信と希望に満ちた確かな足取りでずんずんと、カレーライスを出している屋台へと向かっていくまほの背中を見てケイが上のように溢した。
「だぁかぁら〜!半分こにして交換すれば二種類のハンバーグを同時に楽しめるのよ!?分けっこしなさいよ!!」
屋外に広げられた数多くのテーブルの一つ、エリカとハジメが座っている場所に場面を移す。
上のように、エリカが声を荒げていた。どうやら食事…エリカの大好物であるハンバーグ絡みらしい。
「俺はこのデミグラスを丸々一つ食べたいんだよ! ケイさんが言ってたじゃないか、バイキングだからおかわりは自由だって! いま食べてるハンバーグを食べ終えたらエリさんが自分でまたとってくりゃいいじゃないか!!」
怒鳴られている相手はハジメであった。どうやら、ハジメが皿によそっていたデミグラスハンバーグを食べてみたいとエリカは思ったらしく……要は、隣の芝生は何とやらと言うやつだ。
それに珍しくハジメが大声で言い返している。
エリカはフォークを用いて、ハジメの皿に乗っているハンバーグをなんとか強奪しようとしているが、ハジメも皿を持って動くなどしてささやかに抵抗する。
「つべこべ言わずによこしなさい!」
「断ります!!」
「「ぐぬぬぬ……!!」」
ハジメとエリカがハンバーグを懸けた死闘を繰り広げているのを、周りに座っている黒森峰のメンバーたちは温かい目で見守っている。
「エリカさんのああいうところもまた、良いですね♪」
「ああ〜エリカちゃんかわいいよぉ〜!」
小梅はまるで母親のようなことを呟き、レイラはエリカの様子を見て限界化していた。
「ハジメもあげてやればいいのにな」
「どちらも素直じゃないというか、なんというか…」
「譲れない何かがあるんじゃない?」
「なあ、アレでまだ付き合ってねえの?」
ユウ、マモル、タクミ、ヒカルもまた二人の死闘もとい
「やれやれ、夫婦喧嘩はほどほどにしとけよな〜」
「「夫婦じゃない!!」」
そして、楽しい時間はすぐに過ぎ去った。
試合開始まで1時間を切ったところで食事会は解散。
両校それぞれの待機場所に戻って試合の準備に再び取り掛かった。
遂に黒森峰の今年の夏季シーズン初試合が開幕する。
ドォオン! ドォン! ……ドドォン!
オオオオオオーーーーーッッ!!!!
試合開始から凡そ三十分ほど。
巨大スクリーンが対面に並ぶ、観客用仮設スタンドの一角にハジメたち整備科メンバーはひと塊のグループとなって、スクリーン内で繰り広げられている黒森峰とサンダース、白熱の様相を呈している戦車戦を観戦していた。
「シャーマン対ティーガーなんて初めてこんな大画面で見ましたよ先輩!! こんな日が来るなんて…!!」
「ど迫力だぁ…」
「あの重装甲重火力、たまらないです!」
スクリーンに映る戦況は、黒森峰側がやや優勢で推移しつつあった。
サンダース大附属高校戦車道チームはアメリカ戦車を扱うのはご存知の通りだが…練習試合、非公式及び公式試合では、"偉大なる凡作"とも呼ばれ、第二次世界大戦のアメリカと、彼の国の底無しの工業力を象徴する戦車__中戦車〈M4 シャーマン〉シリーズを主力に据えている。
M4 シャーマン中戦車。優秀な75mm砲と堅実な傾斜装甲を有し、北アフリカ戦線、ヨーロッパ戦線で活躍した他、対日戦__太平洋戦線にも投入されたことでも知られ、太平洋各地での島嶼攻防戦では機甲戦力にて米国に数段劣る旧日本陸軍を大いに苦しめた戦車だ。
また、その高い汎用性から様々な派生・改造車輌が生まれ、戦後は半島有事__朝鮮戦争や中東戦争にも投入された記録が残っている。
過去、陸上自衛隊にも
日本人にとっては因縁浅からぬ戦車ではあったが、本史世界でも戦後黎明期の日本国防の一翼を担ってくれた頼もしい戦車であったのは確かである。
また、同校は件のシャーマン以外にも、訓練や偵察、他活動用に〈M3 グラント〉軽戦車、〈M5 スチュアート〉軽戦車等を多数保有しており、コレクション目的で二次大戦時代の米陸軍のレア戦車を収集していたりもする。
やはり、本家アメリカをそのままコピー&ペーストしたようなリッチ校。恐るべき資金力である。
『___サンダース大附属高校、M4A1行動不能!!』
ワァアーーーッ!!
スクリーンに映る試合の流れとしては、まず黒森峰が試合開始直後より第二次大戦のドイツ生まれの傑作中戦車〈Ⅴ号戦車 パンター〉の火力と機動力を前面に押し出した、副隊長エリカが指揮する速攻電撃戦を仕掛けた。
結果として作戦はサンダースに見事刺さった。黒森峰に負けず劣らずの部隊統制力を持つサンダース相手に、である。
これがサンダース主力…シャーマンによる火力集中ドクトリンを封じることに繋がり、逆に各個撃破に持ち込んだところで、今に至る。
「かっこいいだろ〜?黒森峰に入ってきて良かったな」
「「「はい!」」」
やはり心躍るものがあるのだろう。二年生の問い掛けに答えた一年生の面々の様子を見れば一目瞭然だ。
このサンダースとの定期戦が黒森峰の夏季初となる対外試合であると触れたが、整備科の一年生にとっては、これが入学してから初の試合観戦にあたる。
その理由だが、黒森峰では機甲科一年生は入学後、隊長や三年生からの指名によって即戦力に組み込まれるといったイベントが特段無ければ、春季期間は座学と実車訓練をまず叩き込まれることになる。
これは去年発足した整備科…男子一年生達も同じであり、そのため、現機甲科と整備科第二期生以降の一年生は滅多なことが無ければ、学園艦から出ての訓練や試合は夏季以降となるのである。
なお、機甲科を発端にし、整備科にも適用されたこの黒森峰戦車道チームの通過儀礼ともされている一年生春季時のカリキュラムだが、これの例外__免除及び即レギュラー選出となった人物としては、機甲科の西住姉妹と逸見エリカ、そして整備科第1期生であるハジメ達__現二年生男子メンバー6人が当て嵌まる。
女学園時代から数えても歴代で上記の例外措置__レギュラーメンバーの参加を許された履修生は数少ない。過去に同様の例外措置を受けたのは現西住流師範__西住しほとその友人かつハジメの母親__嵐アオバのみである。
「……うんうん。ちゃんと動いてるね」
「自分たちが整備した戦車たちが問題なくしっかり動いてる…これほど嬉しいものは無いってな」
「動かなくならないか怖くていつもお腹痛くなるの、僕だけかな?」
「イッチのチェックは整備科ん中で一番入念だろ。気にし過ぎてもよく無いと思うぞ」
「隊長車を触るっていうプレッシャーもあるかもだけど、ナギの言う通りだよ。マモルはもっと自信持っていいって」
一方で二年生は、実際に動いている試合中の戦車の動きを確認しつつの観戦をしていた。
各車輌の整備班長__監督者としての仕事であり義務だからだろう。
メモ帳とボールペンを持ちつらつらと何か気づいた点を書き留めている者がいれば、ただ無言でスクリーンを見ながら頷いている者も見受けられた。
無論、自分の整備能力と機甲科女子__選手達の車輌運用能力を信じて見届けるだけだと、ひたすら観戦に徹している者もいる。
「……おいストームリーダーさんよ、なに余所見してんだ。愛しの逸見さんが活躍してるのに」
ヒカルはハジメが明後日の方向__スクリーンや発砲可能区域とは違う、あらぬ方向に目を向けていることに気がつき、それを指摘した。
「……ああ、ごめん。気のせいだった」
しかし、返答は予想していたものとは大きく違った。
ヒカルの茶化しも拾わず、軽く謝ったのである。
指摘されてからはスクリーンの方に向き直ってハジメは観戦に意識を戻したようだったが。
「「「?」」」
らしくもない反応を返したハジメに一同は首を傾げるも、「ハジメでもこんな時はあるか」と、同じく意識をスクリーンに再び戻し、試合観戦に努めた。
(……明らかに誰かの視線を感じた……誰だ?俺を見ていたのは?)
観戦そっちのけで
気のせいだと言ったものの、内心ではそんなことを微塵も思っていなかった彼は、仮設スタンド左横後方にある森林…視線を感じた方向をもう一度横目で見やった。
光の超人__ウルトラマンの力を扱うようになってから、発現しつつある第六感由来の察知能力はまだ未熟であった。
違和感…視線の正体となるようなモノを見つけられなかった。
最終的には、ハジメも皆と同じように試合へ完全に意識を向けたのだった。
「見つけたぞ……ウルトラマン…!」
そんなハジメたちを空から観察する、黒いローブを羽織った悪意ある超常存在___影法師の姿があった。
_________
同市佐世保新港町 第二船着場
新港町第二船着場。
戦後、佐世保港が学園艦用に大改装される当たって新たに造られたこの船着場には今日もフェリーなどから大勢の観光客が佐世保へと降りることでごった返しており、盛況の模様を呈していた。
そして、フェリーより下船している観光客の集団の中に、一際目立つ赤基調のアロハシャツに身を包んだ老齢の男がいた。
その顔には並々ならぬ貫禄があり、若者にも負けない活力を未だに持っているように感じる、そんな瞳をした男が佐世保の大地に降り立った。
「随分と久しぶりだな…
そう誰にも聞こえないほどの声で、懐かしさを滲ませた呟きを放った男は、ある人物に会うべく、持ってきた地図を開く。
「さて、
男が地図のある一点を確認するように指差した。
そこには、現在高校戦車道の練習試合で使われている、佐世保市立多目的演習場が記されていた。
「
船着場の向かいにある佐世保の大型港に停泊している黒森峰とサンダース、二隻の学園艦を見ての感想を呟きながら、男は新港町と佐世保中央市街地を繋ぐバスが往来するターミナル施設の中へと消えていったのだった。
_________
更に一時間後。
同市 佐世保市立多目的演習場
「「「お疲れ様でしたー!!」」」
「よし。今から1時間を休憩並びに昼食時間とする。食事を摂りながら、個人個人で午前の試合の振り返りをしておいてほしい。また、午後からはサンダースとの合同練習だ。着替えておきたい者は演習場の更衣室を使って休憩時間内に着替えておけ。午後練習開始5分前にもう一度機甲科整備科両方に集合を掛ける。以上。それでは、全員一時解散」
「「「はい!!」」」
黒森峰対サンダースの練習試合は、黒森峰の勝利と言う結果で終わった。
今は試合後。
戦車道チーム代表のまほが機甲科と整備科メンバーを集め、試合後…午後以降の予定についての説明を終えたところであった。
「サンダースの物量は健在ね…当分シャーマンは見たくないかも。特にファイアフライ……」
各自が昼食…弁当を取りに行ったり、試合で汚れたジャケット・シャツを着替えるべく演習場の更衣室へ向かったりする中、ハジメを見つけて一人寄ってきたエリカの顔はやつれていた。
試合中、シャーマンとの連戦が余程堪えたらしかった。
「うへ〜」と声が出てもおかしくない、彼女らしからぬ顔をしている。
「エリさんお疲れ。序盤の電撃戦指揮と終盤のフラッグ車との立ち回りはすごかったよ!!」
エリカに気づいたハジメが、試合の健闘を讃えながら、片手に持っていた新品のスポーツドリンクを手渡す。
「あ、ありがとう。…ああ。そうそう、今日のティーガーはいつにも増して動きやすかったってウチの操縦手…サクラが喜んでたから伝えとくわ」
幼馴染へ諸々の礼を言いつつそのドリンクを開けて勢いよく傾ける。
一度喉を潤した後、エリカが一呼吸置いてからチームメイトの伝言…謝辞を伝えた。
「良かったぁ…そう言ってもらえると頑張れるよ」
安心したと、胸を撫で下ろしながら安堵の笑顔を見せるハジメ。
「アンタたち整備科がいてくれるから、私たちはなにも心配せず戦車に乗れて、試合に集中して臨めてるのよ?もっと胸張りなさい」
トントンとエリカが幼馴染の胸板を軽く叩き、「ほれほれもっと誇っていいんだぞ」とイタズラっぽい笑みを見せる。
エリカ、ハジメが二人で話をしているところに、向こうの隊長であるケイがサンダースの誇る凄腕砲手であり副隊長のナオミを連れてやってきた。
「午後からの練習もよろしくね!ランチタイムに入るとこ悪いんだけれど…午後からの練習内容についてマホとエリカと少しディスカッションしたくて。いいかな?」
午後の合同練習についての相談だった。
全体解散後にまだ動いていなかった__エリカとハジメの近くにいたまほが二つ返事で了承する。
「分かった。行くぞエリカ」
「はいっ!」
話し合いの時間で潰れた休憩時間の補填は、午後練開始時刻をずらすことで賄う旨を説明しながら、ケイが日本人らしい手合わせ__合掌で「ゴメン!ホントーに助かるわ!!」と感謝を伝えていた。
エリカも「んじゃ、午後練前のティーガーの再整備よろしくね」とハジメに手を振ってその場を後にする。
「よし、飯食ったらすぐに戦車の調整だな!」
残されたハジメは、整備科のメンツが集まっている場所に向かいつつ、大きめの独り言を彼らに投げかけた。
「おいハジメ、逸見さんと一緒に行かなくて良かったんかぁ?」
ヒカルが肘でハジメを軽く小突く。その顔はややニヤけていた。
「行かなくていいだろ?練習についての話し合いするのになんで俺たちが?」
心の底からの困惑を滲ませた顔のハジメ。
「くそ、こいつ
ノリが悪いなちくしょう…と、ヒカルが口を尖らせる。
「「「ナギ滑ってるぞー」」」
「「「先輩、ちょっと寒いです」」」
追い討ちか、大してウマいギャグでも無かったと外野からの野次が飛ぶ。
「皆まで言うな!うるさいわい!てか早く昼食摂るぞ!」
整備科は平常運転だった。
「あ、弁当の中身、ジャーマンポテトとうどん、おにぎりだけだ…」
「ダイト…お前おかずも主食もオール炭水化物かよ、なぜそんなことに…」
「寮母さんにエネルギー重視でお願いしますって言ったのが、原因かなぁ?」
「わはははは!?今日の大喜利はダイトが優勝だな!!」
ウウウウウウウゥゥウウウウー!!!
「「「!!」」」
皆が昼食をとり始めた時だった。
突然、佐世保市内のスピーカーより、国民保護サイレンが発信された。
それから少し遅れて何かが爆発するような音が__腹を殴りつけてくるような轟音が、立て続けに臨海部から。
目を臨海部に向ければ、真っ黒な煙が各所より立ち上りつつある光景が広がっていた。
黒煙と爆発の間に、ゆらりと…二つの巨大かつ異形の黒影が認められた。
「な、なんだあの煙!空襲か!?…いや、怪獣だ!」
「おいおいおい、また怪獣かよ!」
「各トラックのエンジン掛けておけ!」
「はい!自分たちが行ってきます!」
「港の方に怪獣…それも二体なのか…!」
混乱しているハジメ達整備科の所に、先ほどケイたちと共に合同練習についての打ち合わせに行ったまほとエリカが深刻な顔つきで戻ってきた。
「全員聞いてくれ!たった今、市の方から通達があった。見ての通り、佐世保の港湾地区に二体の怪獣が出現したとのことだ。午後からの練習は中止、すぐに荷物をまとめてバスに乗車!整備科も各々が乗ってきたトラック若しくは四駆に乗るんだ!!」
まほが試合時と大差無い声量で昼食を摂っていた、若しくは更衣室より戻ってきた周囲の黒森峰メンバーに伝える。
「戦車はいいから人命優先よ!急ぎなさい!!サンダースも準備してるとこだから!」
エリカが続いて皆に避難を促す。
「ま、まほさん、逃げるってどこにですか!?」
「学園側からはここより北に位置する松浦市まで移動するよう連絡を受けている。マモル君達も急いでくれ」
「一般道にしろ高速にしろ、渋滞が発生する前にいかなくちゃな…」
「各自、乗車!怪獣が内陸にまで侵攻してくるかもしれないわ!急ぎなさい!!」
まほ、エリカの指示の下、機甲科、整備科の面々はすぐに避難準備に取り掛かった。
避難のための車輌の準備と、履修生の乗車を終えた黒森峰。
エリカたち機甲科の生徒が乗るバス数台が先頭、整備科のトラック群はやや距離を開けてそれの後方を追従するという形で、演習場内よりバス・トラックが発進しつつあった。
ブロロロロロロ…!
「バス4号車出たぞー!次は俺たち整備科だ!タクミ、トラックの先頭は頼むぞ!」
トラック1号車の運転席に座るタクミがハジメに頷く。
「任せて!……黒森峰、大丈夫かな?」
先ほどの自信に溢れた顔から打って変わり、学園艦が怪獣の魔の手に掛からないかと、不安そうな顔で憂うタクミ。
「きっと大丈夫だ。俺は殿だからな、先に行ってくれ」
「…うん。分かった。ハジメも、急ぐんだよ!」
___ブロロロロロロ……!
「嵐隊長!港湾地区…臨海部に出たっていう怪獣はカマキリとクモの二体らしいっす!」
タクミの1号車から順に、続々と整備科のドイツ製物資輸送車__多目的トラック〈クルップ・プロッツェ Kfz.81〉が発進していく。
それを見送るハジメの背後より、残る一年生二人__佐山と田中が走ってきた。
「カマキリとクモ?」
少しでも襲来した怪獣の情報を得たかったハジメが聞き返す。
「数週間前にインドとブラジルで暴れていたヤツらの亜種だなんだってネットではお祭り騒ぎっす!」
「今佐世保を荒らしてるクモンガ、カマキラスは…どっちも大型種です!」
クモンガ、カマキラス。
どちらも海外…ブラジル、インドにてその存在を確認された特殊生物たちだ。
日本には大型はおろか、小型種さえ出現してこなかった二種の怪獣。
当然、日本での戦闘経験しか無いハジメ__ナハトにとっては初見の相手だ。
これまでもウルトラマンとしての戦闘はぶっつけ本番だったとは言え、やはり未知の敵と戦うことには未だ抵抗はある。
しかし、戦わない選択肢はハジメの脳裏には無かった。
「……分かった。二人も早くトラック出せ。俺を抜かせば二人で最後だ」
残るはハジメと佐山、田中の三人である。
ハジメは二人に他のメンバーと同じく避難するよう促す。
「はい!リーダーもすぐに来てくださいよ!」
「スミマセン!先に行ってます、嵐隊長!」
____ブロロロロロ………!
「………よし、行くか…」
後輩たちの乗るトラックが演習場ゲートから出て見えなくなったところで、ハジメはスマホを使い港湾地区への最短距離を調べつつ最後のトラックのドアを開け、乗ろうとした。
「絶望せよ」
「っ!?」
その時だった。
頭上より、しわがれた…それでいておどろおどろしさを滲ませる声が聞こえた。
トラックの上に何者かが__声の主が立っていることに気づく。
明らかに人間ではない。
ハジメの頭の中では本能からの警鐘がひっきりなしに響いている。
こいつは悪意を持っている何かであると。自然とローブを羽織った存在相手に身構えていた。
「誰だ。お前……!」
様子を窺いつつ、相手に問いかける。
ツナギの胸内ポケットのアルファカプセルに手を伸ばしながら。
「ハハハハハ……ウルトラマン、お前は地球を、人類を救えるか?」
「(!!、こいつ…俺のことを知ってるのか?)……ああ、救うとも!みんなを守ってやる!!絶対に!!」
黒紫のローブを羽織る異常存在は、ハジメがウルトラマンであると確信を持った口調で語りかけてきた。
虚を突かれたハジメの手が止まった。
「フフフ……今回が………お前の最後だ…この地球は絶望に包まれる……止めてみろ、ウルトラマン!……ハハハハハハハハハハ…」スゥ…
言いたいことは言ったとばかりに、相手__影法師の姿は高らかな笑い声と共に、空気に溶け込み消え去っていった。
「あ!おい!!………消えた……まずは怪獣をなんとかしないと!」
姿を眩ました影法師を、ハジメは追うことはできない。
今やらねばならないことは、影法師の捜索ではなく、佐世保港付近で暴れ回っている二体の大型特殊生物__クモンガ、カマカラス__をどうにかすることであった。
ハジメはすぐさまトラックに飛び乗り、演習場の駐車スペースからゲートを発進。
エリカやタクミたちが行った方向とは逆へとハンドルを切る。アクセルを思い切り踏みこみ、佐世保港へと向かう。
「間に合えよぉ…!」
ハンドルを握る両手には、汗が滲んでいた。
___
同市 干尽町
港湾隣接区域
ギチギチギチ……ギギィイイイーー!!
キシャアアアーーーー!!
ドドォオオオーーン!!!
「キャー!!」
「うわあーー!なんだあのカマキリ!!」
「どっから来たんだよ!?」
「ここも危ないぞ!逃げろ逃げろ!」
「自衛隊も警察も頼りにできるか!!」
佐世保港の周辺地域は、突拍子も無く__空中に現出したワームホールより襲来したカマキラスとクモンガによって、混乱の極みに陥っていた。
クモンガが跳躍し、付近の建物に体当たりする度に逃げ遅れた人々や、倒壊する建物の下にいた大勢の人々の命が瞬く間に消えてゆく。
カマキラスが飛翔し、港湾地区の高層施設・設備群を腕の巨鎌で次々に切り裂き、建造物が傾斜、倒壊する度に三桁の人命が一瞬で掻き消される。
巨大存在はその体躯と質量で動き回るだけで、人類の脅威となる。
加えてそれらが、個々の特異能力を奮ってきたのなら…個の力にて大きく劣る人類は苦戦を強いられるのは想像に難くない。
『誰もこちらの言うことを聞いてくれない!誘導は不可能だ!!』
『火災発生現場までの道路が寸断されている!? う、上だ!上にカマキリが___』
『背の高い建物から離れろ、巻き込まれる!』
この事態に、佐世保市警並びに消防隊、市内消防団は人々の避難誘導、火災の消火に奔走していた___
『デカい蜘蛛が糸の束を出してる!アレに市民が大勢巻き込まれて…!』
『ぱ、パトカーが溶けてる!中の乗員まで!!』
『団のポンプ車じゃこの規模の火災に対処はできん!退避させろ!!』
___が、事は順調には進まない。
戦場と化した港湾周辺地域での諸活動は困難を極め、彼らの中からも徐々に死傷者が発生し始めていた。
『官邸より特殊防衛出動命令を確認』
『各艦に通達。
『射撃は待て。民間人の避難完了の報を受けていない』
『特防が発令されても、怪物を攻撃できないとは…』
『陸自、大村の第16普連、急行中。先鋒現着は最短20分』
無論、日本の国防組織_自衛隊も現状を打破するべく動き出していた。
海上自衛隊佐世保基地にて停泊中であった第5、第6、第8護衛隊の艦艇が、緊急出航中の学園艦__サンダース及び黒森峰、そして湾内施設防衛のため佐世保湾内に展開。
対艦誘導弾による多重攻撃が準備されつつあった。
『米軍は湾外への退避を優先中。戦闘への本格介入の報せは今の所…』
『"アルファ"戦以降に執り行われたって言う
『ともかく向こうの
また、一足遅れて同基地より在日米軍___合衆国海軍第7艦隊所属の揚陸艦群が主力艦艇の護衛を受け湾外へ退避するべく出航を始めていた。
『港湾地区とはいえ、市街地上空での作戦行動となるか』
『海自の誘導弾攻撃に合わせる。同地区に奴らが居座っている間に片を付けるぞ』
『"アラクネ"…クモンガはブラジル軍の航空機を捕捉、撃墜したと聞く。航空隊の投入は時期尚早なのでは?』
『ここで食い止められなければ二体の大型特殊生物による九州横断もあり得る。今、航空戦力の投入を渋れば、犠牲者は増加する!』
『いずれにせよ、現在即応可能な陸海空の部隊は数えるほど。事態は一刻を争う。戦力の逐次投入は本来避けるべきだが…結集を待てるほどの猶予は無い。動ける部隊は直ちに出すべきだ』
海自の動きに呼応し、航空自衛隊西部航空方面隊隷下の春日基地では二体の大型特殊生物出現の報を受け、対メルバ…"アルファ"戦以降に再編された新生第506飛行隊__トレノ隊がスクランブル発進している最中であった。
ゴォオオオオオオオオーーーッ!!!!
十数機のF-35が編隊を組み、佐世保市へと飛ぶ。
『トレノ1からトレノチームへ。我々の役割は、海自艦艇が佐世保湾内に展開するまでの間、"マンティス"、"アラクネ"を同湾内に押し留め、彼らと共に誘導弾による飽和攻撃を仕掛けることだ。行くぞ!!』
『『『了!!』』』
人々が避難して閑散とした佐世保市内を爆走する一台のトラックがあった。
ハジメの運転しているトラックである。
「もうあんなに…!これ以上やらせるか!」
佐世保市の惨状を目の当たりにし、焦燥感に駆られるハジメ。
それに、付近には未だ出港できていないサンダースと黒森峰の学園艦もある。
自衛隊による攻撃も今のところ見られない。
二体の怪獣の興味がいつ学園艦に移るか分からない。
何より、これ以上の被害拡大と、大勢の人が不幸になることをハジメは許せなかった。
トラックを路肩に停め、すぐに降り懐からアルファカプセルを取り出し、ボタンを押す。
ハジメは光に包まれるとウルトラマンナハトへと変身した。
「すごい……
そんな様子を少し離れたビルの影にて、目を輝かせながら巨人を見上げている不思議な少年がいたことに気づかずに。
ミシャアーーーッ!!!
クモンガが逃げ惑う市民に向け、強酸性の糸を撒き散らし捕食せんとしていた。
しかし、糸の射出器官を備える腹を、地上へと向けることが出来ない。
強力な力が自分を抑えていると理解したクモンガは、意識を背後へと向ける。
するとそこには、自身の腹部を掴んで離さない黒い巨人__ウルトラマンナハトがいた。
シェアッ!
キシャアアアーー!!
未知の存在相手に威嚇し、身体の自由を奪い返そうと躍起になるクモンガ。
されど光の巨人はクモンガに体の自由を簡単には返さない。
《よし!このままコイツを向こうに投げてすぐにトドメを____うぐっ!?》
冷静にクモンガの対処を考えていたハジメ__ナハトの背中が不意に斬り付けられた。
もう一体の怪獣_カマキラスの仕業である。
突然降り掛かった斬撃の痛みに、一瞬ナハトの注意はカマキラスへと向けざるを得ず、クモンガの拘束を解いてしまった。
ブブブブブブブ…ギチギチギチ…
《背中を斬られた…けど、敵の姿が見えない…?》
周囲からは時折、カマキラスのものと思われる羽音と鳴き声が聞こえる。
しかし、ナハトが周囲を見渡してもカマキラスの姿も形も見えない。
…このマジックのタネは、カマキラスの有する特異な能力_生体光学迷彩だった。
周囲の風景と同化し、ナハトの目を欺いているのだ。
カマキラスの光学迷彩の透過率はほぼ100%。流石に完全同化は出来ず歪み__ブレもあるが、飛翔による高速移動を組み合わせれば、その弱点も消える。
ズバァッ!!
《うぐっ!…いったいどこから!!》
正に神出鬼没。全方位から間髪入れずに繰り出される不可視の斬撃は、ナハトの動きと思考を鈍らせるには十分過ぎる役割を果たした。
高速移動を交えた連続攻撃は、カマキラスが複数体いるのでは錯覚するほど。
目で捉えられない攻撃に対し、まともな防御態勢へ瞬時に移ることが出来るわけもなく。
再度、意識外からの__痛烈な一撃を受けてナハトは前のめりに吹き飛んでしまった。
ミシャアアーーーッ!!
そこに、ノーマークとなっていたクモンガが加わった。
クモンガは標的を小さな人間から、自身の狩りの邪魔をしたナハトに切り替え、ダウンしているそれに目掛けて強酸性の糸を繰り出す。
《しまった…くそっ!切れない!!》
クモンガから放たれた糸は束となってナハトの上半身の可動域を大幅に狭めた。
序盤とは真逆の構図。
形勢は逆転していた。
身体の自由だけでなく、強酸を含む糸によってナハトは体力をジワジワと奪われていく。
ギチギチ…ギチギチ…_ズバッ!
ピコン ピコン ピコン ピコン…
ナハトが身動きをまともに取れないのをいいことに、カマキラスが死角から幾度も幾度も斬撃を繰り出す。
いよいよ無視できないレベルまでダメージは蓄積していた。
胸部の蒼玉_ライフゲージの輝きが、赤色に変わり不安を煽る点滅を始めた。
グゥウ………!!
《力が、入らない…》
1対2、そして身体の自由を取り上げられた状況。
劣勢を通り越して窮地に陥ったナハト。
敗北は時間の問題だった。
___
同市 国道204号線
黒森峰学園戦車道機甲科バス1号車内
「あー!!ウルトラマンが捕まっちゃった!!どどどどうしよう!?」
「落ち着こうレイラ?どうするもこうするも、私達じゃ…」
「それに、なんだか苦しそう…。あの糸に何かあるのかな」
「よく見ると胸に付いてる光の玉…?_が先程までは青かったのに今は赤くなって点滅している…」
学園側からの避難指示に従い、バス及びトラックで佐世保市より国道204号線に沿って北上している最中の黒森峰戦車道チーム。
避難をするに至った原因である特殊生物が暴れる佐世保港湾地区から徐々に離れつつあるからか、各バス車内の空気は比較的落ち着いていた。
「もしかして…アレはピンチのサインってこと?」
機甲科バス1号車には、主にサンダースとの試合に選手として参加したメンバーが乗っている。
まほやエリカ、小梅、レイラがそうであった。
エリカ達1号車の生徒は、皆がスマホにて現地の報道陣らによる命懸けの生中継を視聴していた。
ライフゲージを点滅させ、肩で息をしているようにも見受けられる画面の中のナハトを見て彼女達も光の巨人の劣勢を察している。
エリカも、ナハトの目に見える様子の変化からライフゲージ__蒼玉の明滅の意味が何に繋がっているのか考察できるぐらいには、落ち着いていた。
_ピリリリリリリリリッ!!
「ん…?田中から連絡?」
そんな矢先、整備科の後輩の一人_よくハジメ達二年生に可愛がられている一年生である田中から、直接電話がかかってきた。
「田中君からですか?」
隣に座る小梅がエリカの持つスマホの液晶画面をそろっと覗いていた。
「ええ…。後続で何かトラブルとかあったのかしら…?でも、整備科なら整備科で、ハジメに連絡すれば済むハズ…」
これはエリカがその副隊長と言う役割から、隊長のまほの仕事を少しでも減らすべく、出席確認の補助を買って出ていたために叶ったものであった。無論、機甲科隊長のまほ、整備科隊長のハジメも同様に、履修生たちの欠席・早退などを確認、把握し、戦車道履修部内で共有するために履修生全員の連絡先を交換している。
また、それぞれ学年別、科目別で上記の三人が連絡を受ける相手というのは固定されていた。
故にエリカは一瞬不思議に思うも、スマホ画面を応答の表示へとスライドさせ通話に出た。
「もしも_『すいません逸見先輩!』__っ!?」
開口一番に田中の全力であろう謝罪を耳に受けたエリカ。
声量に押されて、咄嗟にスマホ画面を顔から話すが、通話相手__田中の切羽詰まりようを知りとにかく一度落ち着くよう促す。向こうの田中の狼狽振りは相当であった。
十数秒置けども、田中が落ち着く様子が無かった。
そのためエリカが本題は何かと率直に聞く。
「…それで、電話なんかかけてきてどうしたの?」
こうなればちゃちゃっと聞いてしまった方が早い。下手に説明を待つよりも効率は良いとエリカは判断した。
『リーダー…ハジメ先輩の運転するトラックが後ろからついて来ていないんです!!』
本題がエリカに伝えられた。
本題とされる内容に耳を疑った。
「
エリカの脳内を真っ白にするには、それだけで十分過ぎるものだった。
「__は、はぁ!!?? どういうことよ!!説明しなさい!!」
だが直ぐにエリカは後輩からの緊急報告の内容を無理矢理脳内で処理した。ハジメに関する話題__それも、彼の命に掛かる内容であればエリカは黙ってられなかった。
いきなりエリカが走行中のバス座席から声を荒げながら立ち上がったので、車内にいる全員の視線がエリカに集中していた。
隣に座っていた小梅は内容が聞こえていたのだろう、状況を理解して彼女の顔は蒼白になっていた。
『あうっ…えっと、ハジメ先輩に早く行けって言われてすぐにトラックを出した後、先輩に連絡を取ったんですが全然応答がなくて…』
エリカの激昂具合に、田中がたじろぎそうになったが、逆に自分が詳細を話せなければこちらにも食ってかかってくるのではないかと考えすんでのところで踏ん張りつつ彼女に最後まで報告するべく努めた。
「……あんのバカジメ!…自分の命粗末にしてまた誰かを助けてるわね……!!あれほど言ったのに……!!!!」
後輩の報告を全て、一言一句溢すことなく聞き取ったエリカ。
エリカの背中からは、沸々と…烈火の如き怒りが込み上げつつあった。
『ヒエッ…!』
電話越しでも分かるのだろう。先程よりも強まったエリカの剣幕と声色に、田中が小さく、〆られた鳥類のような悲鳴を上げる。
「………分かったわ。連絡ありがとう。あなたたちはそのままついてきなさい。いいわね?」
しかし、いつまでも馬鹿みたく騒ぐエリカではなかった。
またしても独断かつ無断の行動を取ったハジメへの怒りやら何やらは胸の中で渦巻いているが、こんな時こそ冷静にと、自分に心の中で言い聞かせる。
激しい感情を一呼吸置き鎮めたエリカは、田中に指示を飛ばした。
「は、はい!了解しました!!」ガチャッ!
ツー…ツー…ツー…
逃げるように田中が素早く通話を終了させた。
エリカはそれを気に留めなかった。
「アイツ…何度心配させれば……!こっちの気も知らないで…ホントに、無鉄砲なヤツ…!!」
通話を終えたエリカはドスン!と全体重をかけて座席に座り直し、肩を組んで小刻みな貧乏ゆすりを始めた。
エリカのただでさえキツい目つきが更に鋭くなっていた。最早ヘビやワニのそれに近かった。
彼女のことをよく知っているそれを見た小梅やまほ、レイラ…1号車内にいる全機甲科少女達はこう思った。
「ああ、これはもう完全におかんむりだな…」と。
エリカとハジメ双方への同情と呆れが混ざった、小さな小さな溜め息が車内を埋め尽くした。
小梅はこの場のエリカの様子とハジメの安否を案じているし、前の席に座るレイラはいつもの数段増しでキレているエリカが気になってソワソワしている。まほはまほで「ハジメ君の行動は予測がつかないな…」と頭を抱えながら、彼の安否を気に掛けていた。
「…どこかでバスが止まったら、後続の整備科のトラックを一台とっ捕まえて……」ブツブツ
「(あ、これエリカさんがハジメさんを追いに行くパターンだ)」
小梅が心の中で何か呟いている間も、皆のスマホ画面に映っているナハトの戦いは劣勢のままであった。
小梅が自身のスマホの画面に目を戻したタイミングで、画面内のクモンガに光の矢のようなものが何本も飛んでいき、突き刺さると多数の爆炎を形成した。
誘導弾…ミサイルによる攻撃だ。
湾内側から続いて、明色の火線がクモンガとカマキラスに殺到する。艦砲射撃のようだった。
自衛隊が動き出したのか。
しかし、それらの猛攻を受けているハズの巨大存在たちは焼け石に水だ、どこ吹く風と、ナハトへの執拗な攻撃を緩めることなく継続している。果たして人類の攻撃にどれほどの効果があるのか。
いずれにせよ、小梅を始めとしたバス車内の彼女らは、自衛隊の参戦ではこの戦況が変わるとは思えなかった。
___
同市 佐世保港付近某所
「うぅ…足が挟まって動けない……」
カマキラスによって破壊された沿岸部の建造物群。
倒壊した一棟の低層ビル…その下には、佐世保市に上陸していたサンダース大附属所属の男子生徒の一団がいた。
「タカシ!今助ける!!うおおおー上がれぇえー!!」
「だ、駄目だ…このコンクリート、びくともしない……」
「シット!サンダースの緊急出航、始まっちまった!間に合わないぞ!」
「でも!タカシを置いて行けない!!」
彼らの中の一人__タカシ少年が、逃げる際に建造物が倒壊したことによって降り注いできた瓦礫で、足を挟まれ身動きが取れなくなってしまったのである。
彼の友人達が瓦礫を除き助けようとしているが、そのコンクリートの塊はあまりの重さでびくともせず、状況は一向に好転しない。
ウルトラマンが現れたことでカマキラスとクモンガの注意がそちらへと向いたが、ウルトラマンは苦戦しており、ここにカマキラスが、若しくはクモンガがやって来ないとも限らない。
そんな状況に一同は焦っていた。
「ごめん…俺のせいで、学園艦に… 俺のことはいい!だからみんなは早く避難場所に!!」
「バカヤロウ!どうしてそんなこと言うんだ!!」
「お前を置いてなんかいけるか!!」
「諦めない、諦めないぞ!」
半ば自棄になりつつあったタカシ少年に、友人達が励ましの言葉を掛け続ける。
諦めず友を助けようとする、そんな彼らに奇跡が起きる。
「そうだ!!諦めるな!!!」
「「「え?」」」
どこからか聞こえてきた声の主を探していると、いつの間にかタカシ少年に被さっている瓦礫を退かそうとしている友人たちの前に、赤いアロハシャツの男が立っていた。
男は、佐世保の船着場にいた人物である。
そして、両者の間に面識は無かった。
「"大切なのは最後まで諦めず、困難に立ち向かうことだ!"」
赤の他人であるはずの老人が、彼らに助力する。
「無理だよおじさん!」
「じいさんもここにいちゃダメだ!」
「だって、俺たちでもどかせ__ど、退かせた……退かせたよ!!」
「すごい!ミラクルマンだ!!」
人の何倍もの質量を持っているハズの瓦礫は、老人が加わっただけで、軽々と退かすことができたのである。
「キミ、大丈夫か?」
「は、はい。ありがとう…ございます!」
老人から差し出された手を握る立ち上がるタカシ少年。
握った手は、まるで歴戦の戦士を思わせる、老人とは思えないほどのゴツゴツとした逞しいものだった。
「おじさん、ありがとう!おじさんが来てくれたおかげだよ!」
「じいさんが来てくれなかったら…」
「本当にありがとう!」
口々に彼らは老人に感謝の言葉を伝える。
「いや、キミたちが諦めずに友を救おうしたから、できたことだ。さあ、早く行きなさい」
「「「はい!」」」
サンダースの生徒たちは老人に促され、彼らは素直に従って港付近の避難所__国民保護シェルターのある地点へ向かい走っていく。
「あ!そうだよ、おじさんも早く逃げないと…」
タカシ少年が気づいた。
老人もまた自分達と同じ人間である。怪獣相手に非力なのは変わりない。
共に逃げようと声を掛けるために彼らは老人が立っているだろう方向に振り向く。
「おじさん!おじさんも……あれ?」
「さっきまでいたよな?」
「いったい何処に…」
しかし、自分たちを救ってくれた老人にも避難するよう言うべく振り向けば、そこにはもうアロハシャツの男の姿は影も形もなかった。
「__今助けるぞ!ウルトラマンナハト!!」
先ほどサンダースの生徒たちはを救出し姿を消していた老人は街の一角にて空へと叫ぶ。
彼_"モロボシ・ダン"は、懐から太陽を彷彿とさせる真紅のメガネ若しくはゴーグル状のアイテム、"ウルトラアイ"を取り出すと__
「デュワッ!!」
デュルルルルルルルウウ!!!
__雄々しい掛け声と共にそれを目に装着した。
するとどうだろうか。
全身がみるみると赤き戦士の姿へと変わっていき、巨大化。
両肩と胸部に黄金のプロテクターを身につけた真っ赤な巨人が佐世保に立つ。
ダァアアッ!!!
ダンは、こことは違う世界…並行宇宙に存在するM78星雲の光の国の住人、正義の宇宙人なのだ。
彼は本来の姿___宇宙警備隊員の一人であり、かつて“遊星間侵略戦争期”の只中にあった同宇宙の地球を守り抜いた勇敢で勇猛なる"ウルトラ兄弟"の一人_赤き闘士、ウルトラセブンへと変身したのである。
あと
がき
【2023年版編集】
どうもです。投稿者の逃げるレッドであります。
ここで説明しますが、エリカのヒーローは原作開始前〜TVアニメ本編を1期、大学選抜戦の劇場版を2期…というように物語が展開していきます。
トラックに乗って現場に律儀に向かい変身したハジメ君ですが、何故すぐに変身しなかったと言いますと、巨人形態と光球__発光飛翔形態に切り替えられるコトをまだ知らないからです。
巨人形態で現場までズンズン走ってインフラや人を潰してしまったらアレですし、こちらは無意識下で本人はやってますが__変身バレのアシを付けないため…というのが現地変身に現時点のハジメ君が拘っている理由です。
本作第一章のエリカさんのイメージソング①は
『秒針を噛む』で、
イメージソング②は
『少女レイ』です。
田中、佐山、宮崎君は容姿とか下の名前は設定してません。今後の活躍次第では半モブからサブへの昇格を経てバックストーリーとか生まれるかもとだけ。なので、今は読者の方々が思い描く__「ぼくのかんがえた最強の」田中、佐山、宮崎君で補完していただければと。
次回もよろしくお願いします。
____
次回
予告
ナハトの窮地に、ウルトラセブンが駆けつけた!
ウルトラセブン__モロボシ・ダンがこの地球に来た理由とは何か?
ハジメの姿を見ていた謎の少年の正体とは?
そして、侵略の魔の手は静かに地球に伸びつつあった…!!
次回!ウルトラマンナハト、
【異邦友人】!
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
-
紗希のトモダチ
-
ミチビキさん サンダース編
-
ミライVSマホ カレー対決
-
ハジメ、迷い家にて