旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

13 / 59


凶悪宇宙人 ザラブ星人
イルマ

来訪





第8夜 【異邦友人】

 

 

 

ピコンピコンピコンピコン…

 

 

 

《__このままだと…負ける………!》

 

 クモンガの放った強酸ネットに捕らえられ、拘束状態に陥っているナハト。

 それに加えて生体光学迷彩を纏ったカマキラスの死角からの執拗な斬撃。

 二体の怪獣が優勢にナハトとの戦闘を進めていた。

 既にライフゲージが赤色点滅へ突入しており後が無く、ナハト__ハジメも敗北の文字が脳裏にちらつきつつあった。

 

 体力を奪われ、身動きの取れないナハトにトドメを刺すべく、クモンガとカマキラスが畳み掛ける。

 クモンガはナハトの真上に跳躍し、カマキラスは光学迷彩を解き大鎌を振りかぶった。

 万事休す…絶対絶命であった。

 

 しかし突然、空より緑色のレーザー光線が二体にそれぞれ降り注ぎ、直撃した。

 光線で怯んだ二体がナハトから距離を取る。

 二体の視線はナハトの後方上空を向いている。

 

《………な、なんだ?誰かが助けてくれたのか?》

 

 ハジメ__ナハトは状況をいまひとつ飲み込めずにいた。

 

《赤い…ウルトラマン…!?》

 

 ナハトは驚愕した。

 二体の怪獣が自身から後退したかと思えば、いつの間にか目の前には真っ赤な巨人__新たなウルトラマンがこちらに背中を向けて立っていたのだから。

 赤色のウルトラマンはナハトへ振り向く。

 ハジメ__ナハトの疑問はお構い無しに、頭部のトサカ__"アイスラッガー"を外し、それをナイフの如く扱ってナハトを拘束していた強酸ネットを切断。

 ナハトは窮地を脱した。

 

《__大丈夫か、ウルトラマンナハト》

 

 赤のウルトラマンがアイスラッガーを頭頂部に戻し、念話__テレパシーでナハトに語りかけてきた。

 

《あ、あなたは?》

 

 何がなんだか分からなかった。

 まさか、自分以外のウルトラマンが他にもおり、それが救援に訪れてくれるなど、ハジメは考えたこともなかった。

 そしてそこに、件のウルトラマンからテレパシーが送られてきたのである。

 動揺するのも無理はなかった。結局、対面の赤きウルトラマンへの返答はお粗末なものになってしまった。しかも、先に尋ねられているのはこちらであるのにも関わらず逆に問い返していた。

 「質問を質問で返すな」と言われたら、それまでの答え方だった。

 

 されどそんなことは気にせずに赤きウルトラマンはハジメの問いに勇ましく答える。

 自分が何者で、何を成しにやってきたのかを。

 

《私はウルトラセブン。ナハト、キミを助けに来た。…立てるか?》

 

《…はい!!》

 

 ナハトは赤きウルトラマン…ウルトラセブンが差し伸べた手を掴み、力強い返事を返して立ち上がる。

 依然としてライフゲージは点滅しているが、気力を振り絞り両の足に力を入れ踏み締める。

 ナハトの戦意は消えてはいなかった。

 

 ナハト、セブンはそれぞれファイティングポーズを構え、クモンガ及びカマキラスと正面から相対。

 

シュアッ!!

 

ダァアッ!!

 

 2対2の第二ラウンドが始まった。

 

 

 

 

__ゴォオオオオオオオオーーーッ!!!!

 

 佐世保上空に目を向ければ、航空自衛隊__秋津率いるトレノ隊の姿があった。

 

「…あの赤い巨人は……」

 

 ナハトとセブンが二体の怪獣相手に格闘戦へ移ったため、佐世保湾内に展開していた海自護衛艦群並びに上空の空自トレノ隊は、ウルトラマンへの誤射を防ぐために誘導弾及び艦砲による射撃を中止、待機を命じられていた。

 

『空佐、あの巨人は一体…?』

 

 秋津の目を引いたのは、カマキラスへ緑色レーザー光線___"エメリウム光線"を複数回照射し牽制しつつ、拳での豪打を仕掛けている人型巨大存在…ナハトに続く、この世界に現れた第二の光の巨人___ウルトラセブンであった。

 

「恐らく、ナハトのピンチに現れた同胞なのだろう。少なくとも敵ではないはずだ」

 

 部下の隼人からの問いに、現状からの推察を口にした。

 カマキラスの動きの尽くを完封し、無人と化した佐世保港コンテナターミナルへとそれをセブンは追い立てている。

 そこからは人類文明の被害を抑えようと努力している意思、若しくは人類に対する一種の配慮のようなモノが垣間見えた気がした。

 ()も、ナハトと同じく力無き者達を守る為に戦う戦士なのだと、秋津は直感していた。

 

『す、すごい……あの巨人、片手で"マンティス"を放り投げたぞ!』

『なんて腕力…!あんなに軽々と大型を』

『まるで真っ赤に燃える戦士だ』

 

 高空を飛ぶトレノ隊は目まぐるしい変化を見せる地上の戦闘を見つめていた。

 

 

 

___

 

 

 

同市 国道204号線

黒森峰学園戦車道機甲科バス1号車内

 

 

 

『見えていますでしょうか!?新たな巨人…赤いウルトラマンがこの佐世保に現れ、ウルトラマンナハトに加勢しています!!』

 

 現地の報道陣の一つ__「笑顔テレビ」の中継映像を皆が固唾を飲んで観ていた。

 ウルトラセブンの登場には、機甲科少女一同も驚いていた。

 

「赤い、ウルトラマン…か」

「ウルトラマンは一人じゃなかったんですね」

「顔の形も色もナハトとだいぶ違う…」

「ナハトと何か喋ってたようにも見えたよね」

「うんうん。手、差し伸べてたもん」

「ナハトの家族…友達?どうなんだろ?」

 

 1号車搭乗の機甲科少女達の話題はナハトの窮地に駆け付けたセブン一色だった。

 

「___これで、2対2。流れは変わった」

 

 皆がざわざわと話す中、ぽつりと、安堵を滲ませた声色で呟いたのはエリカだ。

 

「戦力の分断…これまでナハトは1対1の戦闘では勝利を収めてます。と言うことは______」

 

「_____怪獣撃破の、勝利への道筋は整った…と言うワケだな?」

 

 エリカの呟きを聞いていた隣席の小梅と、一つ後ろの席に座っていたまほが頷きながら、エリカの言いたいことを確認し合うように言葉を繋いだ。

 

 今回も、ナハトは人々のために邪智暴虐の限りを尽くす怪獣達に立ち向かっている。

 一度、眼前でナハトの戦いをエリカ達は見ている。故郷__熊本を守ったヒーローの勝利を願うのは必然だった。

 彼女達は無意識に拳を握り、スマホ画面に映る二人の巨人の戦いぶりを見守るのである。

 

「あ!ナイフみたいなのでカマキリの腕を斬り落としちゃった!!」

 

 前方からレイラの歓声が聞こえた。

 画面では、セブンが手に持った得物__アイスラッガーを奮いカマキラスを、一閃。鎌腕の片方を根本から切断していた。

 歓声を含んだどよめきが車内を埋め尽くす。

 

 ナハトが窮地から脱したことで彼女達は安堵しているものの、真剣な顔つきで映像を見続ける。

 生徒たちの殆どは戦闘の行く末を見守っている。

 

「………エリカさん?」

 

 一方でエリカは一人、スマホの電話帳アプリを開いて__「アラシ・ハジメ」のコールを何度もタップして呼び出しを繰り返しつつ、画面を睨み着信履歴を逐一確認するという行動に移っていた。

 

「______っ、やっぱり出ないわね…」

 

 ハジメへのコール回数が二桁に入ろうとしたあたりで、エリカが一度スマホを耳から離し、苛立ちの混じった苦い顔で言った。

 ハジメの安否不明という状況が続いていることに、焦燥感を覚えているのがありありと彼女から伝わってくる。

 

「ダメですか?」

 

 意気消沈するか否かの一歩手前の友人を小梅が気遣う。

 銀髪のカーテンによって遮られた目の表情を、おずおずと横下から覗き込んで確認する小梅。

 

「アイツ……なんで自分から危ないとこに首突っ込んでいくのよ……死んじゃったらどうするのよぉ……!」

 

 声が段々と弱々しくなっていた。

 エリカの目元には涙が溜まっている。

 スマホを握る彼女の手は微かに震えていた。

 

「エリカさん…」

 

 それを見た小梅は、彼女の手の上にそっと自身の手を添える。

 

「…エリカさん。きっと、きっと大丈夫です。ハジメさんを…ストームリーダーさんを信じましょう」

 

 意を決して小梅が口を開いた。下を見ていたエリカの瞳が動いた。

 

「小梅…」

 

 ただ、今の自分にできるのはこれぐらいなのだと、そう思いながら小梅は彼女に付き添う。

 ささやかで、微力だとは思うけれど…と、自信無さげな精一杯の笑みを見せながら。

 

 これに触発されたのだろう。エリカの瞳に()が戻った。

 エリカは下を見るのをやめ、小梅へと向き直り礼を言う。

 そこから、いつもの獰猛で好戦的な笑みをたっぷりと浮かべ___

 

「……もし怪我なんかしてたらまたぶっ叩いてやるんだから!!」

 

 ___幼馴染の…ハジメの無事を信じ、()()()への宣言をするのだった。

 

 

___

 

 

 

同市 干尽町

港湾隣接区域 

 

 

 

 場面はセブンの戦いへと移る。

 

ギギィイイイイ!!!

 

 頭部にセブンのエメリウム光線を受けたカマキラスは生体光学迷彩の機能を操る器官を損傷し扱うことができなくなっていた。

 されどもカマキラスは戦意を失っておらず、背部の翅を振動させナハトを翻弄した高速飛行でセブンに迫る。

 先ほどは不意打ちとは言え片腕を奪われたり投げ飛ばされ掛けたりもしたが、大局的に見れば微々たるものだ。機動戦に持ち込めばこちらに敵うまい。逆に身軽になれた。カマキラスに表情筋があったならばほくそ笑んでいただろう。

 

デュワッ!

 

___キンッ!

 

 カマキラスは正面から高速飛翔で急接近。巨鎌を奮って胴切りを繰り出した。

 すれ違いざまにセブンはアイスラッガーを抜き取り、カマキラスへ刃を向ける。

 カマキラスがセブンの真横を通過。セブンは振り抜いたアイスラッガーを頭頂へと素早く戻す。

 

ギギィイ……?

 

 無視出来ない痛烈な一撃をセブンに刻み、与えたと確信したカマキラス。

 そのまま手近にあった橙色のガントリークレーン上に着地。器用に六本の脚を用いて居座る。

 カマキラスは、物も言わずこちらを見据えて不動の姿勢を崩さないセブンに違和感を覚えていた。

 

___ズルッ!

 

 その時突然、自身の残りの右腕が、大鎌が根本からズレ落ちた。

 クレーン真下に重力に従って腕が落下し、ドボンッ!とやや大きい水飛沫を形成した。

 

デュアッ!!

 

 カマキラスの思考に空白が生じた。

 そのコンマ数秒のロスは、戦闘ではあまりに致命的だ。

 カマキラスの動揺を察したセブンがカマキラスへすかさずアイスラッガーを投擲。するとスラッガーは意思を持つかのように飛翔・追撃を開始した。それは最早、曲芸…自我を持った空飛ぶナイフであった。

 

 しかし、セブンの操るスラッガーの切れ味__切断性は我々の知るあらゆる刃物のそれを容易く凌駕する。

 

 幾多の特殊生物__怪獣の強固な身体構造のみならず、侵略用大型ロボットの耐実弾・耐粒子装甲すら原子レベルで切断し屠ってきた百戦錬磨のかのスラッガーは、カマキラスを四方八方から目にも止まらぬスピードで強襲。

 最高速度が光速に迫る自立近接武器(アイスラッガー)は、容赦なく幾度もカマキラスに襲いかかる。

 光速で乱舞する近接武器への迎撃手段を持ち合わせないカマキラスにとって、それは詰みの一手に等しい。

 

ギィイイイイイ!!!

 

スパッ! スパ! スパァッ!

 

 無事だった翅、脚、腹__身体のパーツが次々に海上へとボトボトと落ち、その度に海面を荒立たせる。

 カマキラスは悲鳴とも取れる咆哮を上げながら、バランスを崩して___支えとなっていた脚が全て切断されたため___クレーンから落下する。

 

ザッパァアアーーン!!!!

 

 海上に特大の水柱が上がった。

 ダルマと化したカマキラスはその中心で身体をくねらせもがき苦しんでいる。

 鎌も、脚も、翅も、全て落とされた。

 カマキラスに取れる択の中で、逆転に繋がるモノは残っていなかった。

 

デュアアッ!!

 

 セブンは畳み掛けるように両の腕をL字状に組んだ。それは、セブンの有する技の中でも、最大級の火力を有する必殺光線__"ワイドショット"の発射姿勢であった。

 

___ビィイイイイイイイイーーッッッ!!!!

 

 黄金光線__ワイドショットがセブンから放たれカマキラスに直撃。

 カマキラスはこれを受けて原型を留めずバラバラに爆散したのだった。

 

 

 

 カマキラス撃破から時間は少し遡り、今度はナハトとクモンガの戦いへ。

 

シャァアアアーーー!!

 

シュアッ!

 

《二度も同じ手は…効かない!!》

 

 カマキラスとのタッグプレーを封じられ分断されたクモンガは目の前のナハトを第一の目標として排除するべく、強酸ネットを放射状に射出した。

 それをナハトは光エネルギーを纏わせた手刀で斬り払い無力化する。

 たじろぐクモンガにナハトは臆さず反撃を加える。

 

ハァッ!!

 

バババシュッ!

 

 ナハトは横にローリングを数回挟み、片膝立ちの体勢で牽制光弾___光刃型(ソウ)"ナハトショット"を三発素早く発射。光弾は全てクモンガに突き刺さり炸裂。火花を散らせその巨体を仰け反らせた。

 光弾の直撃によってクモンガは頭部を負傷。全ての眼を潰されたクモンガは慟哭とも取れる奇声を上げ、その場でやたらめったらに脚の振り上げと振り下ろしを繰り返し、駄々っ子のように暴れている。

 ナハトにとって、碌な抵抗も出来なくなったクモンガは脅威では無かった。

 

《これで決める!》

 

 脳裏に新たなビジョンが疾ったハジメ__ナハトは、何かに促されるように迷い無く右腕を天に掲げた。

 すると、周囲の空間から白・黒のプラズマが発生し、それらが右腕の装具__"ナハトブレス"のクリスタルサークルへ集まっていく。

 媒体であるナハトブレスにエネルギーが結集し、右腕全体が淡い灰色の光を帯び始める。

 

 ブレスがプラズマを目一杯取り込んだのを直感したナハトが、掲げていた右腕を思い切り引き込む。

 そこから勢いよく、光纏う右腕を前へと、クモンガへと突き出した。

 

《ナハトォォ……スパァアアアアアーーーク!!!》

 

 刹那、ブレスが眩い閃光を放つ。

 閃光と共に、白と黒…モノクロの電撃を纏った白銀の必殺光線"ナハトスパーク"が繰り出された。

 シルバーの光線はもがき続けていたクモンガに直撃。体内の液体という液体が気化し、体全体がボコボコと膨張していく。そして遂に膨張に耐えうる臨界を超え、クモンガは断末魔を上げることすら出来ずに爆散し絶命したのだった。

 爆散、蒸発を免れたクモンガの肉片や体液は、湾内と施設区画の一部に飛散し、シュウシュウと紫色の有害そうな蒸気を上げ泡立っていた。これらの除染除去作業は骨が折れることだろう。

 

ピコンピコンピコンピコン…!

 

 一時の静寂に包まれる港湾都市。

 ただナハトの心臓__ライフゲージの鼓動のみが静寂の中で音を刻む。

 佐世保の街に現れた怪獣を撃破したナハトとセブンの視線が重なった。

 ゆっくりと、穏やかな頷きを互いに返す。

 

……シュワッチ!!

 

 ナハトとセブン、二人のウルトラマンは颯爽と空へと飛び去って行った。

 

 これにて佐世保に出現した二大昆虫怪獣が引き起こした特殊生物災害はナハトとセブンの活躍により幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 

「おのれぇ…!並行世界のウルトラマン……!!」

 

 

 

 

 

 

_________

 

 

 

同市 臨海部市街地 某所

 

 

 

 大多数の人々が避難したことによって人っ子一人いなくなった佐世保市のある街の一角で、変身を解いたハジメと人間体に戻ったセブンが向かい合う。

 

「…あなたが、ウルトラセブンですか?」

 

 目の前にいる、陽が傾き始めた無人の港町には場違いだろう真っ赤なアロハシャツを着た老人にハジメは尋ねる。

 こうして、このタイミングで無人街の真ん中で人と会う確率など、たかが知れている。解は既に出ているというもの。それでもハジメは確かめずにはいられなかった。

 

「ああ。地球にいる時はモロボシ・ダンと名乗っているよ。ダンと呼んでくれ。___さて。ナハト、地球人としての…キミの名前を聞かせてほしい」

 

 少年の問いに老人__セブンはそうだと頷き、もう一つの名前を彼に教えた。

 そして、ナハトのヒトとしての名前を今度はダンが尋ねる。

 

「ハジメ…アラシ・ハジメです!今回は、助けてもらって……ありがとうございました!!」

 

 目の前にいるダンの佇まい、そして静かに発するオーラからこの人物が幾多の熾烈な戦いを潜り抜けてきた歴戦の勇士なのだと悟ったハジメが背を正し、地面に叩きつける勢いで頭を下げ、此度の戦いへの助太刀に感謝を伝えた。

 

 ハジメからの感謝の言葉を受け、ダンは笑いながら___

 

「いやいや当然のことをしたまでさ。()()と同じように、最後まで諦めず戦うキミの力になりたかったんだ」

 

 ___それ以上の理由はいらないだろう、と答える。

 

「……その…ダンさんはどこから来たんですか?なんでウルトラマンに?それに、()()って言ってましたけど他にもウルトラマンがいるんですか?」

 

 知りたい事が山ほどあった。光の超人としての力を得てから、ハジメは同じ力を持つ…若しくは同じ境遇の人物と会うことが無かった。ある種の孤独だったのである。これは一体何なのか、あれはどういうものなのか、尋ねようにも相手がいなかったのだ。

 矢継ぎ早に質問を重ねたことに申し訳なさと恥ずかしさを覚え、目線をコンクリートの大地に向けるハジメ。

 ダンは「どこから話したものかな…」と皺が刻まれた頬をに手を当てつつ苦笑する。

 

「まず、私は…地球人じゃない。こことは別の宇宙…M78星雲・光の国の住人で、我々光の国の住人は光の超人(ウルトラマン)となる力を授かった種族なんだ。ハジメ君達が言うところの異星人、宇宙人の類いだよ」

 

 「M78星雲人と名乗った方が良いのかもしれないね」と穏やかな口調でダンは言う。

 

 ダンの故郷である母星__通称「光の国」は、こことは別の世界…数多ある並行世界(パラレル・ワールド)の一つ、"M78スペース"に存在する。なお、ハジメ達の世界は"ナハトスペース"と今後呼称していく。

 

 M78スペースの地球からおおよそ300万光年ほど離れた銀河の中に光の国は位置しており、同星のサイズは地球の約60倍あるとされている。

 また、光の国の総人口は凡そ180億人で、人工太陽__"プラズマスパーク"の開発・打ち上げや、「生命の固形化」をはじめとした数々の革新的技術を生み出した超高度科学文明を有している種族なのだとダンは委細丁寧に説明した。

 

「___えぇ!?」

 

 まさかのダンの正体と彼の故郷の話を聞いてにハジメは仰天した。

 自分達地球人と全く変わらない姿をしている目の前のダンを見て、異星人であるという結論に辿り着くことができなかったからである。パラレル・ワールド云々の話もかなり突飛かつ興味を唆る内容だが…。

 そんなハジメの反応が新鮮だったらしく、ダンは「昔は私達も、地球人と同じ容姿をしていたんだ」と軽く補足を入れながら、笑みを絶やさず話を続ける。

 

「___そして、光の国の住人である私達は、その強大な力を宇宙の平和を守るために使おうと決意し"宇宙警備隊"を結成した」

 

 "宇宙警備隊"。

 ダン曰く、宇宙規模の治安維持組織__警察と消防と軍隊を足して上手く割ったような組織であり、ウルトラマンとしての力を持つ者と光の国と友好的な他惑星種族の協力者達で構成されているのだと言う。

 

「私はそこの隊員として所属している者の一人だ。警備隊は様々な並行宇宙で活動している。凶悪怪獣の撃破、侵略異星人の撃退、未探査宇宙の調査など…活動内容は多岐にわたっている」

 

 一時期は、M78スペースの地球にも隊員を送り、人類と共に戦っていたこともあったらしい。ダンもまたその地球駐在員だった者の一人で、歴代で二番目の古参隊員にあたるとのこと。彼から滲み出ていた戦士のオーラはこれが所以なのかもしれない。

 

「___それじゃあ、まだ他にもウルトラマンは沢山いて、色んな宇宙で警備隊は任務を?」

 

「ああ。我々は様々な宇宙・世界に散って、今、この瞬間も活動している。宇宙警備隊には100万人のウルトラ戦士が所属している。その中にはキミのように地球など、光の国以外の出身(ルーツ)の隊員もいる。それに、我々が把握している中でも、宇宙警備隊に属しはしていないものの、独自の治安維持活動を展開しているウルトラ戦士とそれをサポートする組織も多数ある」

 

 あらゆる時空で、大切なモノを守るために戦うウルトラマンが、確かにいる。

 

 「キミは独りじゃない」。

 

 直接的な表現こそしなかったが、ダンがそう言ってくれているようにハジメ思えた。

 

「そ、そんなにいるんですか…それに…別世界の地球を守っているウルトラマンが…」

 

 ウルトラマンナハトに変身するハジメが何を言うかと言われればそうだが、膨大なスケールの話に少年は眼を輝かせる。

 

「………さて、私が今回この世界の地球に訪れたもう一つの理由をそろそろハジメ君に話しておかなければならないね」

 

 先ほどまでの笑みを消し、ダンの眼差しは戦士のそれになった。

 ここからは本題に移るから真剣に、心して聞いてほしいと目でハジメに訴えていた。

 

「……はい」

 

 ハジメはそれにただ強く頷いた。一語一句聞き逃すまいという姿勢が見て取れる。

 

「…所謂、()()と言うものになる」

 

 一拍置いて、ダンは()()の中身について話していく。

 

「______本来、ハジメ君たちの住むこの地球に怪獣や侵略異星人が現れるのは遥か先のことであると我々は推測していた。また、この世界の宇宙にはウルトラマンが存在することは無いと言うのが科学技術局の提唱していた通説だった。しかし…実際には怪獣が出現し、ハジメ君が我々見把握の光の巨人、ウルトラマンナハトとなって戦っている…」

 

 遥か先の未来…凡そ数千年後、ナハトスペースの地球人類が星系間進出期に入るだろう時代に、怪獣や異星人が()()()()()現れるハズだったのだと言う。

 数千年の誤差、ズレというのはあまりに不可解であることは、ハジメにも理解できた。

 ならば、そのズレとやらの引き金となったイレギュラーだろう事象や存在__原因が必ずあるハズである。

 

「この世界で、地球で、何が起こってるんですか?」

 

 ダンの方…宇宙警備隊内ではその原因となるモノに粗方の目星は付けていたらしく、小さく頷き答えた。

 

「ハジメ君達の地球…その上空に、惑星規模の異常磁場が形成されている。この磁場は地球の怪獣を活性化させ、既存生物に急速な突然変異を促し怪獣化させる。また、その磁場が宇宙や別世界の怪獣・異星人を呼び寄せるサインや、ワームホール形成の根源となっていることも分かっている。これは過去に複数世界の地球でも起こった事象群と似ている」

 

「その異常磁場を、どうにか…できないんですか」

 

 ダンは残念ながら異常磁場自体への干渉方法等は無いのだと申し訳なさを滲ませていた。

 だが、解決の道筋が見えていないわけではないとダンは言う。

 

「___異常磁場を操る存在がいる。ハジメ君、心当たりはあるか?」

 

 ハジメの脳裏には、演習場を発つ際に遭遇した黒紫のローブを羽織った人型存在がチラついていた。

 それ以外に心当たりは無い。

 

「……はい。黒ずくめの怪しい男と会いました」

 

 やはりそうか…と、ダンが合点のいった顔になる。

 

「黒ずくめの男…それが異常磁場を操っている存在、地球を狙っている張本人で間違いない。私の後輩__メビウスが別宇宙の地球で以前戦ったことがあると言っていた。ヤツらは全並行世界の地球を混沌に陥れようと画策している、負のエネルギーの集合体だ。我々はヤツらのことを"影法師"と呼んでいる」

 

 何故そこまで地球に拘るのかは、ダン達__宇宙警備隊でも量りかねているとのことだが、これで一つ…ハッキリした。

 

「"影法師"…」

 

 ()()が、諸悪の根源。打ち倒さねばいけない存在なのだと分かった点である。

 ダンの口から出た「影法師」と言う、超常存在の名を確かめるように、噛み締め忘れぬように、ゆっくりと何度もハジメは呟く。

 

「しかし嬉しい誤算もあった。ハジメ君の、ウルトラマンナハトの存在だ。ナハトが戦っていることで、この世界の地球はまだやつらに支配されていない」

 

 ただ影法師側も地球の対外免疫抗体(カウンター・ウェポン)__ウルトラマンが早期に出現したことは想定外だったに違いない。

 ナハトスペースの地球を手に入れるには、対人類の前に対ウルトラマン及び対地球産怪獣に当てる戦力を影法師は追加で配置・投入し、それらに勝利しなければならない。

 時間的にも、資源的にも、影法師には余裕は無い。無論、対応が後手に回ってしまうハジメ__ウルトラマンにも余裕は無い。

 

 現状、互いに不足の事態__イレギュラーの発生によって、拮抗した状態に陥っていると言うことになる。

 そしておそらく、この拮抗状態を打破する一手を繰り出した側に追い風が吹くだろう。また、この均衡が崩れるのも時間の問題と言える。

 

「…これからは影法師によって呼び寄せられた、若しくは召喚された多くの外来怪獣、地球侵略を企む敵性異星人が続々と現れることだろう。私は光の国へ戻らなくてはならないが、我々宇宙警備隊はこの地球に隊員派遣を行なうことを決定した」

 

 宇宙警備隊からの応援部隊。

 ダンのような強靭で勇敢な戦士達が共に戦ってくれるのだという。

 ハジメにとって、この上なく頼もしいものだった。まだ見ぬ戦士達にハジメは想いを馳せる。

 

 そこでダンが一度言葉を区切り、瞬きを経てから改めてハジメに目を合わせる。

 「最後に…」と前置きし、ダンが口を開いた。

 

「…ハジメ君。キミの、ウルトラマンナハトの奮闘を祈る!」

 

 短い、されど力強い激励。

 真っ赤な闘志を激らせる歴戦の戦士__ウルトラセブンからの言葉を、ハジメは正面から受け取る。

 

「はいっ!!」

 

 長々とした決意表明はいらなかった。ただ、「やる」と誓ったのだと、それをもってして目の前のダンに応えた。

 ダンはハジメの凛とした返事を聞き届け、光の球になって空へと飛んでいく。

 それをハジメは手を振って見送る。

 

「…もっと、頑張らないとな」

 

 ほうっと息を吐き、空を見上げて決意を新たにしたハジメは、乗ってきたトラックへと戻ろうと歩き出した。

 しかしその時だった。

 

「おーい!ウルトラマーン!!」

 

 不意に後ろから声を掛けられた。

 地球人としでなく、日本人としてでもなく、ヒトとしてでなく、アラシ・ハジメとしてでもなかったのが問題である。

 

「!!」バッ!

 

 もう一つの姿__光の巨人に変身できることを、先のダンの件を除けばハジメは誰にも明かしてはいない。

 そうであるにも関わらず、背後からの呼び掛けには明らかにハジメがウルトラマンであると確証を得ている声色であった。

 

 噂をすれば何とやら。

 早速、影法師か…またはその手先がやって来たのか。

 ハジメが警戒の反応を示すのは当然と言えた。

 

 突然自分を()()()()()()として呼んできた存在へ即座に振り向き、ハジメは我流ながらも肉弾戦に応ずる構えを取り臨戦態勢に入った。

 

「わわっ!ごめんよぉ…そんなに警戒しないで!」

 

 振り向いた先には、同い年と思われる容姿の少年がいた。

 謎の少年は、構えを見せたハジメに落ち着いてくれと両手を上げて敵意が無いことを懸命に伝える。

 

「お前は…誰だ!!」

 

 尚も警戒を解かないハジメ。その目は鋭かった。

 この目の前にいる、自身より一回り小柄な少年への懐疑心を捨てるまでには至っていなかった。

 …仮に、この段階でハジメが変身装具__「αカプセル」の護身用波動弾射出機能、"ステップシューター"を把握していたのなら、迷いなくそれを使って振り向き様にその少年に1〜2発撃ち込んでいたかもしれなかったと、後にハジメ本人は語っている。また、それをしなくて本当に良かったとも。

 

「ぼ、僕はイルマだよ!ザラブ星人、イルマだ!!」

 

 ここでのハジメの問いは、善か悪か、ヒトであるかヒトではないか、そう言った意味合いが込められていたが、何者かと問われた謎の少年改め、ザラブ星人イルマは文面上の、そのままの意味で慌てて、必死に答えた。

 

「星人……ダンさんが言っていた侵略者の一人か!?」

 

 地球人に非ずと言う文言によって、ハジメの態度は更に硬化した。

 

「ち、違うよ!僕は、キミの…ウルトラマンの力になりたくて地球に来たんだ!!」

 

 オドオド、オロオロと相変わらず右往左往といった様子だが、伝えなければならないことはしっかりと伝えたイルマ。

 侵略の意思も、人類への害意も無いのだと、その点を強調し相手__ハジメの誤解を解くべき会話を重ねていく。

 

「……俺の、助け?」

 

 ハジメの表情と構えが緩んだ。

 怪訝な顔のままではあるものの、先ほどと比べていくらか彼の態度が軟化したように見受けられる。

 

「うん。僕、ウルトラマンが、ヒーローが大好きなんだ!憧れてたんだ!だから、キミがウルトラマンに変身するところを偶然見て、本人と話せるチャンスだと思って…こうして声を掛けに来たんだ!!」

 

 イルマがヒーロー__ウルトラマンを語る際の表情は輝いていた。

 ハジメはイルマが幼い頃から今日までの自分と重なって見えた。何かを追い続け夢中になることで生まれる、その輝きに自分と通ずるモノをあると感じたのである。

 イルマの、時折覗く前髪に隠れた瞳は爛々と光っていた。その真っ直ぐな視線は、ハジメを見ていた。

 

「……お前は人に危害は加える気はないのか?その言葉を、信じていいんだな?」

 

「もちろんだよ。そんなことしたら僕の住むところが…ホントに無くなっちゃうからね」

 

 イルマからの返しを聞いたハジメは拳、腕、肩に入っていた力を徐々に抜いていく。

 最終的には臨戦態勢を完全に解いたのだった。

 取り敢えずは、不幸な行き違いからの交戦…には発展するに至らなかったわけである。

 

「?、なんでだ?お前もまだ子供なんだろ?父さんと母さんがいるはず…」

 

「僕の両親は…死んでるんだ…」

 

「!」

 

 突然のカミングアウトだった。

 

「………そっか、そうだったのか…それは……」

 

 先の、含みを持たせた彼の言い方に隠れていた違和感の正体が分かった。

 彼は、イルマは孤独だったのだ。

 異星人とは言え、ここまで所作からイルマの精神年齢は自分とほぼ同じだろうとハジメは考えていた。それ故に、今彼から出た言葉の重みが分かるのである。

 ハジメも高校に上がる前に父親を亡くしている。

 ここらの歳で、家族の死が、それも自分を産み育ててくれた両親の死が、どれほど重くのしかかるのか。分かるのだ。

 

「僕はもう天涯孤独の身だったし、せめてウルトラマンに会えたらと思ってこの地球に来たんだ。……だから友達も家族も、いない」

 

 聞けば、イルマは故郷__ザラブ本星で地球人換算にして凡そ14歳の頃に両親を同時期に亡くし、さらには母星から追い出されたのだ言う。

 

 そんな異星よりやって来た少年への、ハジメの答えはもう決まっていた。

 迷うことなく、口を開いた。

 

「___なら、俺が友達になるよ」

 

 「もしかして俺が第一号になったりする?」と尋ねがら。

 まさかの提案にイルマは一瞬フリーズした。

 

「え?いいの?」

 

 そんなアッサリと…それでいいのか。

 信じてくれるのか。友達になってくれるのか。

 

「なんでそんなことを聞くんだ? 話してたらイルマは良いやつだって思った。ただそれだけだよ」

 

 やっぱりさっきまでアレだったから友達はちょっと嫌か、と少し苦笑していた。後頭部に両腕を回し、やや気恥ずかしそうな仕草を交えながら。

 

「えぇ…でも、そんな簡単に…?」

 

 イルマは困惑気味だった。

 自分が言うのも何だが、これはあまりにも無用心過ぎるのではないかと。もし自分が彼の定義する敵対存在__侵略者だった場合、この意思決定は甘すぎると思った。信じるにしてもそれはそれでいいのかと。

 されど、その彼の決断が心の底から嬉しかった。

 差し出し続けている彼の手は言葉では表せられないほど、嬉しくて。

 こちらを見やる彼の笑顔は太陽のように暖かく、眩しかった。

 

「いいんだ。なると言ったらなる!それに、異星人の友達ってなんかカッコいいだろ?」

 

 もう一度、手を差し伸べてニッと笑う。

 

「っ!!」

 

 歳相応の邪気の無い考えを語ったハジメに、イルマもまた自身との共通点を見出していた。

 そうだ、彼も、ウルトラマンである前に…地球人である前に、僕と同じ一人の男の子なんだと。僕と、何ら変わらない一人の少年なのだと。

 

「…ありがとう、ハジメ。これから、よろしくね!」

 

「ああ。よろしく!!」

 

 イルマは笑顔で目の前の少年を掴んだ。

 ハジメとイルマ、故郷は違うが、心根は同じ所に在る二人は堅い握手を交わしたのである。

 

 

 ここに、地球人の少年と異星人の少年による小さな同盟が生まれた。

 

 

「______それで、イルマはこっからどうするんだ? 泊まるとことか、メシとか」

 

 晴れて友人となった二人。

 ハジメはまず第一にイルマの地球での衣食住の具合が気になっていた。

 地球にやって来たと言うのだから、宇宙船等を所有しているのは予想できるが、今後地球にいるとなると、何かと不便を被るのでは無いかという懸念を覚えたからである。

 

「僕は一応自分の宇宙船に戻れば衣食住には困らないから心配しないでよ。…でも、たまにで良いから地球の料理も食べてみたいかな」

 

 ハジメの予想通り、搭乗してきた宇宙船があったらしい。

 衣食住の方は心配いらないと本人が言うのだから、これ以上蒸し返す必要も踏み込む必要も無いかとハジメは思った。

 

「んじゃ、定期的に俺の部屋に来てくれよ。料理なら少しできるから」

 

 今度、幼馴染エリカ直伝のチーズハンバーグを振る舞おうかと心に決めたハジメであった。

 イルマは目をキラキラさせブンブンと首を縦に勢いよく振っていた。

 初めて出来た地球の友人の家に遊びに行ける + 一緒に食事まで出来ると言う思考に至ったからだろう。

 行く、絶対行くとイルマはハジメに豪語していた。

 

「ん?」

 

 ハジメはズボンポケットに仕舞い込み存在を忘れていたスマホがヴーヴー!と振動していることに気づく。

 ハジメはポッケからそれを取り出して開いてみると______

 

「ぅうおっ!?」

 

 _____画面いっぱいに、鬼電や電凸と遜色無い量の、怒涛の連絡通知が表示されていた。それらは例外なく、全て幼馴染(エリカ)からのものであった。

 ハジメがアカウントを所有している、かつエリカと繋がっている各種SNSで、それぞれ連絡が来ていた。

 エリカで埋まっている通知を目にしたハジメが上のような素っ頓狂な声を上げてひっくり返りかけた。

 

「ど、どうしたのハジメ?」

 

 突然奇声を上げて倒れる手前で踏み止まった新たな友人の一連の様子を見て、イルマは心配になり尋ねた。

 

「ああ。大丈夫…だと思う。えっと、友達から恐ろしいほどの安否確認の連絡があって…」

 

 それも、怒ると鬼のように…いや、鬼以上に恐ろしい幼馴染からのモノなんだとハジメは付け足す。

 

「ああ。なるほど。ハジメはウルトラマンになってること、周りの人には口外して無いんだね」

 

 呑気に一人納得するイルマ。

 

「と、とにかく!通話だと殺される気がするからメールを送ろう…!」

 

 既読しちゃったから急がないと。そう呟きつつハジメが凄まじいスピードでエリカ宛にメッセージをタイピングしていく。それはそれは「シュババババーッ!」と言う感じの効果音が聞こえてきそうな勢いであった。

 …通話を避け、文面で乗り切ろうとしているハジメだが、それはただ問題の先送りでしかないことを知らない。結局は直に顔を合わせることになるのだから、ここで避けたら余計にその幼馴染の感情のボルテージは恐ろしいことになるのでは、とイルマは訝しんでいた。されど口にはしなかった。

 

___シュポッ! ___ピロン!

 

 ハジメは意訳として「ぼくはぶじです」に相当する簡潔なメッセージをエリカへ送信した。するとメッセージを送ってコンマ数秒という段階でなんと既読マークが表示された。

 さらにそこからの彼女の返信はハジメの先の音速タイピング返信を超える神がかったスピードで繰り出された。1秒掛かるか掛からないかの手前で返信が返ってきたのである。

 

 一体どのような指捌きをすればこのような芸当ができるのか。ハジメは一人戦慄していた。エリカ本人に一度根掘り葉掘り聞いてみたいが、それを聞く前に間もなく彼女による説教タイムがやってくる。それを終えてから聞いても彼女には火に油だろうし、そこまで図太い精神をハジメは持ち合わせてはいない。

 彼女のことを良く知る小梅やまほ、レイラあたりに尋ねてみれば神速タイピングの活力が何処からやってきているのかはすぐに分かるかもしれないが。

 

 なお、エリカの趣味の一つにボクササイズというものがあるがもしかすればこの神速タイピングに関係が………よそう、これ以上は不毛な考察になる。

 

 一人で身震いしていたハジメだが、今いる場所はと個人チャット上にて聞かれたので、ハジメは素直に返信するとエリカからは「そこにいろ。今からそっち向かうからどこにも行くな。もし破ったらハンバーグにするぞ」と言う旨の脅迫メールが返ってきたのだった。

 

「な、なあイルマ?」

 

 これから起こることを静かに悟ったハジメは、全身に走る悪寒を抑えながら、震える声でイルマに尋ねた。

 

「ん?どうしたの?」

 

「今からさっき話した友達がこっちに来るんだけど…一緒に話を合わせてくれないか?」

 

「そんなことならお安い御用さ!」

 

 早速の出番だね、と喜ぶイルマは肩をグルグルと回して張り切る。

 それとは正反対にハジメは顔を青くしていた。

 

「ありがとう…あと、背中の傷に包帯巻くの手伝ってくれ。こっちもバレたら殺される…」

 

 イルマはそれも快く承諾し、ハジメの傷の手当てを手伝った。

 

 

 

 

___ブロロロロロロッ!!

 

 凡そ20分後、顔面蒼白で涙目な後輩の田中が運転するトラックがハジメとイルマがいる通りにやって来た。助手席に鬼の形相をしたエリカを乗せて。

 

バタンッ!

 

 停車後、エリカが勢いよくドアを開け放ち、華麗に降車すると近年稀に見ない猛ダッシュでこちらへと駆け出した。駆け出すと同時に、彼女の鋭い光を灯した蒼い瞳がハジメを捉えた。蛇に睨まれたようにハジメは動けなくなる。

 エリカとハジメを隔てる距離は凡そ100m弱。そんな距離の壁を易々とぶち壊してハジメを金縛りの状態に追い込むほどにその眼光は強烈なものだった。

 

 しかし、それで終わりではない。

 

 …エリカのフィジカルは陸上選手に迫る、否、超えるものがある。彼女の趣味の一つに、先ほどボクササイズを挙げたが、それ以外にも彼女は___憧れであり追いつくべき目標である人物(先輩)___西住まほの日課である早朝ジョギングに同行していたり、戦車道の訓練や試合にて激しく揺れる車上での耐性を付けるべく自身で一から組んだ体幹系を筆頭にした各種トレーニングを日々欠かさず行なっている。一般男子高校生相手ならば肉体スペックは軽く勝っているのは間違いない。

 

 さて。某ネオドイツのゲルマン忍者も感心しそうなほどのストイックな肉体強化をこなしているそんな戦車道少女が、受け身も何も取っていない整備科の幼馴染の無防備な腹に最高速で頭から突っ込んだら…頭突きをしたらどうなるだろう。

 

 答えは至極単純。その幼馴染が致命的な一撃を被るのである。

 

 ゴッツーン!!とコミック調でありながらも痛々しい音が聞こえたかもしれないが気にしてはいけない。

 無言でダッシュしてきたフィジカルゲルマンクノイチな幼馴染に突撃され、白目を剥きながら仰向けにハジメはパッタリと倒れ伏した。

 ちなみに取り残されたイルマは口をあんぐりと開けて一部始終を見ていた。

 

「ぐぅうう……いってぇ…ご、ごめんエリさん……」

 

 ハジメは胴に走った幼馴染由来の鈍痛に苦悶の声を上げながら、腹に頭をめり込ませているエリカに顔を向ける。

 普通ならば声も上がることもできず昏倒・気絶しているはずだが、流石は光の力を宿している少年である。無意識にエリカの確殺ヘッドバットのダメージを軽減していた。

 

「ごめんじゃないわよバカァアッ!!!!」

 

 エリカはハジメの謝罪の言葉にすぐ反応し、勢いよく顔を上げる。

 爆発中のエリカは、ほぼゼロ距離でハジメに開口一番に叫んだ。

 目元には涙の線が伝っている。

 

「うっ…」

 

 エリカがここまで感情を爆発させるぐらいには心配させた事実は揺るがないワケであり、ハジメもそれを理解できないほど鈍感ではない。

 

「アンタどれだけ私を心配させれば気が済むの!?!?」

 

 コッヴ、ゴルザ・メルバに続き、三度目の無断離脱である。

 彼女の怒りはごもっともだ。

 どこの世界に危険地帯へ友人を笑顔で送り出せる、見送れる人間がいようか。

 

 側から見れば少し大きめの子供がその保護者に叱責されている光景にも見えるわけである。ただまあ、それほど微笑ましい光景でもないが。

 そこからハジメが「え、エリさん、落ち着いて…」と宥めようとし、それにエリカが「その悩みの種に言われても落ち着けるわけないでしょ!?」と返すやりとりを複数回経てから、馬乗り状態だったエリカがハジメから退き、ハジメも立ち上がる。

 

「フゥーーッ!フゥーーッ!……スゥー………それで、今回はどんな無茶をしたのよ」

 

 落ち着きを取り戻したエリカは、取り敢えずアンタの言い訳は聞いてやると言わんばかりに腕を組んでしかめっ面を崩さず、ハジメをジトっと見ている。

 

「えっと…佐世保の友達が港近くで遊んでるって話聞いてたから、その友達をトラックに乗せて避難して…ここに……ハイ…」

 

 しどろもどろに答えるハジメ。

 

「……ふーん。その友達って隣の子?」

 

 エリカの視線が、正面のハジメから遠巻きに立っていたイルマに向けられる。

 エリカもヒカルやまほほどではないが、目つきは常人と比較すれば悪い部類に入る。なお本人もそれは自覚している。

 そんな彼女にフォーカスされたイルマが必要の無い萎縮を起こしていた。それでも、自己紹介はキッチリやるらしく___

 

「は、はじめまして!ハジメの友達のイルマです!!ご迷惑をお掛けしてすいませんでした!!」

 

 ___エリカとのファースト・コンタクトは可もなく不可も無くのスタートを飾った。

 

「迷惑なんか掛けてないから気にしなくていいわ。大体、コイツが何も連絡寄越さずに無鉄砲なことするのが悪いんだから。____逸見エリカよ。よろしくね。イルマ」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 イルマはその後、二人との会話を幾分かその場で交わし、家に戻ると言って一人早くそそくさと離脱した。

 ちなみに、イルマの乗ってきた宇宙船は各種カモフラージュを起動させ阿蘇山の中央火口丘内に隠匿している。彼は自身が作った、携帯テレポート装置を使って外界と船内を行き来するため、宇宙船が発見されることはまず無いだろう。

 

 周りにはハジメとエリカ、そしてトラック車内の運転席でどこか遠くを見ている田中のみとなった。

 

「さ、帰るわよ。みんなも心配してるんだから。今度はちゃんとついて来なさいよ?」

 

「アッ、ハイ。了解です…(ふぅ…怪我はバレなかったみたいだ…)」

 

 イルマと二人で行なった応急処置の賜物か、背中に出来た新たな傷はエリカには悟られなかった。

 ハジメは内心で安堵の溜め息を吐きながら、一度田中とエリカが乗ってきたトラックへと向かう。

 

「田中、アンタ大丈夫?」

 

 助手席へ乗り込みながら、ここまで運転してきた___何故か満身創痍な田中にエリカが体調を気遣って尋ねる。

 

「うぇ!?あ!だだ、だだだ大丈夫っす!!」

 

 その心労の根源が、ブチギレてた逸見先輩(あなた様)ですなどと言った日には田中は黒森峰から姿を消し、その翌日にガレージの真ん中で物言わぬ遺体となって見つかることになるかもしれない。

 

「ごめんな…田中」

 

 無理やり付き合わされた田中にハジメは申し訳なさそうに謝った。

 割と洒落にならない行動をした自身の先輩に、田中が幽霊と相違無いおどろおどろしい顔でハジメを見る。

 

「ひどいっすよぉ…俺、道中ずぅっと般若の顔した無言の逸見先輩と一緒だったんですよぉ?」

 

 次もこんなんあったら先輩のことマジで呪いますからね。命大事にですよ、と付け加えて。

 それにハジメは今度ラーメンの奢りで礼はするからと言い合掌して謝意を伝えた。

 

「___田中?早くトラック出しなさい。帰りたくないの?」

 

「は、はい!……先輩、ラーメンの件、絶対約束ですからね……!」

 

「分かった」

 

 ハジメ達はこうして黒森峰___学園艦への帰路につくのだった。

 

 余談だが、無論ハジメは黒森峰に帰り学園の戦車ガレージへと戻るや否や、機甲科隊長のまほにはこっ酷く叱られ、レイラと小梅は安心したと胸を撫で下ろし、整備科の悪友達からは無事を喜ばれ揉みくちゃにされた。あとこちらを心配させたとして整備科同級生5人からは一人一回、ケツをシバかれた。

 

 

 

 

 

 

黒森峰学園 学園艦

学園男子寮

 

 

 

 そして時間は夜になり、ハジメの個人部屋にはイルマがテレポートを用いてお邪魔していた。

 

 ちなみにハジメの部屋は2階にあり、室内レイアウトは畳敷きの和室である。

 寮部屋のレイアウトは寮母さんにリクエストすれば変更が可能だったりする。なお、リクエストは半年に一回であり、リクエストのストックは不可とされている。

 

 寮に関連して更なる余談だが、黒森峰の男子寮、女子寮共に集団部屋はなく、個人部屋のみの構成だ。どの部屋もガス、水道、電気、そしてフリーWi-Fiを完備し、温水式ヒーター、扇風機が一台ずつ設置されている。ベランダも必ず二畳ほどあり、洗濯物も難なく干せる。

 寮全体のイメージとしては、トタン屋根の木造アパートだろうか。一応、間取りと設備は充実しており、本土の格安薄壁賃貸住宅のような脆弱な構造ではないことは留意しておいてほしい。

 

 黒森峰の男女両学園寮は高等部校舎から徒歩十数分圏内に位置しており、男子寮と女子寮の間には寮食堂があり、屋根付きの自転車置き場…駐輪場も整備されてある。

 徒歩十分前後で寮と学園に行き来が可能なのは上述の通りなのだが、殆どの寮生、特に戦車道履修部の男子・女子生徒は皆、チャリ所持者だ。理由としては、学園の正面生徒玄関と学園側駐輪場から、戦車ガレージ及び部室棟までの距離が徒歩で向かうにはやや長かったりするためである。要は学園敷地内が広すぎ、校舎外での移動手段の一つとして利用されているからなのだ。最も、自転車があれば艦上の何処へでも気軽に行けるため、どの学園艦でも生徒の自転車所持率・利用頻度は本土の生徒よりも高かったりする。

 

 

 閑話休題。

 

 

 イルマは本来の__ザラブ星人の姿でハジメと会話している。

 最初こそハジメもその姿に驚いていたが、座布団に正座して座るなどの…地球文化への順応を見せられたインパクトにやられ特に気にすることも無くなった。

 地球人の、特に日本人の()()と言うものはまったく恐ろしいものである。

 

 イルマは出生から地球に来るまでのことを包み隠さず全てハジメに話した。

 

 自分は、並行宇宙__アナザーM78スペース第8銀河系にあるザラブ星の人間であること。

 ザラブ星人は覇権主義を唱える惑星軍事国家を形成しており、他種族の排他・浄化を是とし、宇宙文明間での侵略戦争を頻繁に行なっていること。

 そして、攻撃的思考が目立つ自種族には珍しい穏健・融和思考を持った惑星議員の両親の下に自分が生まれたこと。

 両親はその平和主義思想が災いし、惑星議会と本星軍から不穏分子として危険視され拘束、処刑されてしまったこと。

 当時幼かった自分は本星追放…事実上の流刑となり、宇宙を彷徨ったこと。

 過去に父親が話してくれた、ウルトラマンと地球人に憧れを抱き、地球を探して様々な並行宇宙を渡ったこと。

 その長旅の末、この宇宙__ナハトスペースで地球を見つけたこと。

 

 実際にウルトラマンを見たのは佐世保での出来事が初めてだったらしい。

 そして、ハジメの戦いぶりを間近で見たことで、改めて力になりたいと思ったことなどを伝えた。

 

 ハジメはその間、一言も発さず、彼の話を真剣な表情で時折頷きによる相槌を打ちながら聞き入っていた。

 

「___それでね?僕なら、ハジメがウルトラマンに変身している間のアリバイを作ることが出来るよ!」

 

 今は、イルマの身の上話が終わり、彼の種族…ザラブ星人が持つ特殊能力__擬態能力についてと、それを使ってのハジメのサポートについての話がされていた。

 

「どうやって?」

 

「こうやってさ!」

 

 瞬間、イルマの姿が徐々に地球人のそれになっていった。その姿は初めて会った時の目隠れ系少年ではなく、目の前のハジメそのものであった。

 

「うぉ……まるで怪盗二十面相みたいだな……いや、星人二十面相の方が正しいか。うん、これならいけるかもしれない……が、イルマ?俺の目ってそんなにつり眼だったか?」

 

 イルマ曰く、ザラブ星人の擬態は光学技術と併用して行なうものであり、外見を操るのみに留まるのだと言う。それでも、地球人には到底真似できぬものであるし、外見だけの縛りがあるとは言え十分に驚異的な能力だろうとハジメは思っていた。

 

「いや、僕らの擬態は対象の情報を集めれば集めるほど精巧になっていくんだけど、まだハジメの情報は少ないからね。だからハジメの…オリジナルとの差異が現れるのさ」

 

 ザラブ星人の擬態は不完全なものになることが常らしい。具体的には変身対象__オリジナルと比べて人相が悪く…邪悪な外見になったり、身体や服装の細かな箇所が尖ってしまったりするというのが挙げられた。なお、特定の条件下…濃霧や夜間であれば、即興の簡易擬態でも案外バレなかったりするらしい。

 完璧な擬態と言うのは、彼の種族の性なのか不可能とされており、必ず差異が残るのだとイルマは話す。

 

 しかし、そのイルマは種族の中でも珍しい特異体質で、擬態対象__オリジナルのデータさえ十二分に取れれば完全再現の擬態が可能であり、擬態対象の各種能力まで使えるのだという。つまり…情報さえあればウルトラマンにも()()ことができるワケだ。ニセモノとは言え、その身体能力や特殊能力まで扱えるのである。

 

「ほーん。なら、俺の情報取っていいよ」

 

 一通り擬態能力の詳細を聞いたハジメは、特に何も考えず自身の身体情報の提供を承諾し、両腕を鳥のように目一杯広げて、さあどうぞどうぞ、と無防備に体を晒した。

 

「キミは信頼したらとことん警戒心が無くなるんだなぁ……それならそれで、こちらも遠慮なく」

 

 異星人のイルマですら困惑、心配するぐらいにはハジメはオープンらしい。

 イルマは腰のホルスターから、ビデオカメラとピストルを掛け合わせたデザインの機械を抜き取り、銃口___カメラレンズをちゃぶ台の向いでくつろいでいるハジメへ向け、引き金を引いた。

 するとレンズ部分から半透明の光線が、ハジメの身体全体に照射された。

 

 そこから暫くして、情報の取得は終わったよ、とイルマが言った。

 

「これなら…どうかな!」

 

「おおー!すげぇ!!ソックリだ!!」

 

今度はしっかりと細部までハジメに擬態出来ていたのだった。

 

「どうやら成功したみたいだね。これならハジメがウルトラマンになっていても怪しまれないよ」

 

 ハジメから手鏡を受け取りつつ、自身が再現した顔__ハジメの顔をイルマは確認する。

 

「ああ。ホントに助かる。そろそろヤバいと思ってたから。まさか宇宙から来た友人が助けてくれるとは思わなかったし。…それにダンさんにもね」

 

「ああ。ウルトラセブンだね。セブンはM78星雲・光の国のウルトラ戦士の中でも屈指の強さを持ってるんだ。"ウルトラ兄弟"っていう、エリート集団に属する戦士の一人で、僕らの宇宙ではかなり名前は通ってたよ」

 

 ハジメの前にいるハジメ__イルマが得意げにウルトラセブンについての話を披露する。

 もう一人の自分から話を聞くという経験はハジメには無かった。ただただ何とも言えない違和感を覚えつつ話を聞く。

 …最も、そんな経験は地球人全体を見ても限り無くゼロだろう。

 

「イルマ、お前ウルトラマン博士だなぁ」

 

 素直に感嘆し、イルマの知識量に賞賛を贈るハジメ。

 

「伊達に父さんの話を聞いていたワケじゃないからね!………さて、擬態の確認はできたことだし、後は地球の乗り物の操縦とか何やらを習得できれば…大丈夫かな?地球の言語も全体の半分までなんとか覚えれたし」

 

 実はこれ翻訳機使わずに直で話してるんだよ、とイルマはハジメの顔のままドヤ顔を見せた。

 

「全部独学かよ!? だって、地球に来たのって、たしか数日前って言ってたよな!?」

 

 仰天する他なかった。

 ハジメの学業成績は中の中。ドイツ語も英語もなあなあである彼からすれば、複数の言語…それも異星の言葉を辞書や翻訳機の力を借りずにたった数日で理解し実践できているイルマが眩しく見えた。今度、勉強手伝ってもらおうか…と密かに考えながら。

 

「___あとこのバッジを渡しておくよ」

 

 イルマが思い出したようにズボンのポケットから、自身が寮部屋にお邪魔する前に__宇宙船内で__開発したというアイテム…バッジを取り出しハジメへ手渡した。

 

「バッジ?」

 

 それは親指よりやや大きいぐらいのサイズで、特徴的な形状をしたバッジであった。

 

「うん。バッジ。これを、ハジメが変身するから僕と入れ替わりたいって時に握ってくれれば、すぐに僕がバッジからの信号をキャッチしてテレポートで駆け付けるからさ」

 

「ありがとう…()()のデザインか…なかなかカッコいいじゃないか!」

 

 イルマが渡したバッジのデザインを知る人が見たのであれば、M78スペースの地球人類が初めて結成した地球防衛組織___"国際科学警察機構 科学特別捜査隊"…通称「科特隊(SSSP)」のエンブレムを想起することだろう。

 

「これで少しでもキミの力になれればいいんだけど」

 

「謙遜しなくたっていいって。…多分、このバッジ一つで今後すごい助かると思うんだ」

 

 バッジを優しく握りながら、ありがとうな、とハジメが笑顔で礼を言った。その真っ直ぐな感謝の言葉を受けたイルマは、照れ隠しに頰をかく。

 

 部屋の木柱に掛けられた時計の短針が「11」を指そうとしていた。それに気づいたイルマが宇宙船に帰るために持ってきた荷物を片付け始めた。

 

「じゃ、おやすみイルマ」

 

「うん。おやすみ」

 

 帰る準備も挨拶も終え、いざテレポートしようとなった時、イルマは確認するように一つだけハジメに質問した。

 

 

 

「…ねえ、ハジメ。嫌われ者で極悪な宇宙人が、ヒーローに憧れちゃ……ダメかな?」

 

 

 

 それに対して、ハジメは思い切り首を横に振り___

 

「ダメなもんか。どんなやつだってヒーローに憧れていいと俺は思う。だから、そんなことイルマは考えなくていい」

 

 その答えを聞いたイルマは数秒の沈黙の後、返答への感謝を小さく言ってから今度こそテレポートで阿蘇山の宇宙船へと転移し帰ったのだった。

 

 

 

 

 

「___父さん、母さん。僕、僕は……地球に辿り着けて良かったと今強く思ってるよ。だから…僕だけにしかできないこと、精一杯やってみる。地球で出来た友達の、ヒーローの力になってみせるんだ」

 

 異邦少年は星空の下で誓いを立てるのであった。

 

 

 

____

 

 

 

同国関東地方 茨城県東茨城郡 大洗町 

茨城港学園艦停泊地 大洗女子学園 学園艦 

学生寮

 

 

 

『二体の怪獣による佐世保市の被害は先のコッヴ襲来に迫るものがあります。現場の自衛隊と消防、警察による救助活動は瓦礫の撤去作業に遅れが生じており難航しているとのことで…同市被災地では明日の早朝からは民間の災害ボランティアを加えた大規模捜索が行われる予定です。 また、新たに出現した、自衛隊が"レッド"と呼称・識別している赤いウルトラマンですが、ウルトラマンナハトの同族とする説が専門家の間では挙げられてはいるものの、詳細は不明なままです。 内閣府関係者の話によりますと、政府はウルトラマンとの共同戦線の構築を考えているらしく、こちらも動向に注目したい内容となっております。 ……次にフランスで目撃が相次いでいる紫ムカデ__"カイロポット"についてです。パリ市内では行方不明の__』

 

「今度は佐世保で怪獣が出たんだ………もしこっちで怪獣が出たら、ピイ助が守ってくれるよね!______なーんてピイスケに言っても分からないか〜」

 

 みほは部屋で少し遅めの夕飯を摂りながら、クモンガ・カマキラスの佐世保襲撃にまつわるニュースを見ていた。最近は、どこの報道番組も特殊生物___怪獣とそれらの動向によって動く株価・為替の話題をひたすら取り上げており、有名芸能人のスキャンダルや大手企業の不祥事等に関する話題の提供割合は激減しつつあった。

 

 テーブルに行儀良く乗るピイ助に話しかけながらも、恐らくこちらの話を理解してくれていないだろうと思いつつ小さな頭を指で優しく撫でてやる。するとピイ助はそれを嫌がるようにみほからプイッと顔を背けて離れていく。そしてみほの向かい側、テーブルの逆端へと移動した。

 

「あ、ごめんね? もしかして…どこか痛かったの?」

 

 そしたらピイ助はムッとしたような顔をした。その後、「よく見とけよ!」と言うような振り向きをしてから、なんと足から青いミストのような粒子を放出して宙にふらふらと不安定ながらも浮かび出したのだ。

 これにはみほも心底驚いたようで、思わずそのピイ助の()()を目の当たりにし素っ頓狂な声を上げる。

 

「ふぇえぇえええええーー!?!? と、飛んでる……ピイ助すごいよ!?!? ど、どういう仕組み!?どうやったの!?」

 

 みほが予想通りの、求めていた反応をしたことにピイ助は機嫌を良くしたようで、そのままみほの周りをクルクルと何周か旋回飛行をする。その次はブルーインパルス顔負けのアクロバット飛行を披露した。

 しかし、うまく制御が出来なかったらしく、正常な軌道を外れてベッドの枕に勢いよく突っ込んでしまった。おそらく衝突先が壁であった場合、大変なことになっていただろう。

 幸い、枕が文字通りクッションの役割を果たし、ピイスケと部屋両方に大したダメージは無かった。また、飛行時に噴出していた青色のミストには可燃性を有していなかったため、枕への不時着後に部屋が火事になるといった事態にもならなかった。

 

 みほは立ち上がってベッドの前まで行き、枕の中でもぞもぞもがくピイスケを拾い上げる。

 

「大丈夫?怪我とかしてない?…ピイスケがすごいのは分かったから、当分それは禁止だよ?」

 

「ピイッ!」

 

 みほの問いかけにピイスケは元気よく鳴いて返事をした。みほはそんな無邪気なピイスケの、先の一般的な亀ならざる行動を思い出し、この同居人の今後の処遇をどうしようかと考えていた。

 

(まさか、ピイ助は怪獣の子供だったりするのかな?まさか、ね……)

 

 少なくとも、みほは垂直離陸しアクロバット飛行までしてしまう亀など知らなければ見たこともない。目の前の可愛らしい小亀は先程まで確かに未知の推進力をもって()()していたのだ。この事実から、既存地球生命の枠組みから逸脱した存在__怪獣の幼体なのではないかと言う考えに彼女が至るのは当然だった。

 

 それでも人間、信じたくないものや関わりたくないものを認識してしまった時は逃避に走ってしまうものである。

 

「……さ、さすがに怪獣みたいに火は吐かないよね?」

 

 一縷の望みというか、これ以上は一般的な亀のそれではないことをしないでほしいな、と言う心から生まれた独り言だった。…世間ではそういった類いのモノはフラグ発言だとすることもある。

 

 

 

___ボォッ!

 

 

 

 それはあまりにも無情だった。見事にフラグは回収されたのである。

 

 

 

 みほに持ち上げられたピイ助が何をしたのか。

 答えは簡単。首を上に向け、()()を確保して、小さな火を吐いてみせたのだ。

 

 この亀、少しドヤ顔気味である。「どう?すごいでしょ?」と目を細めてるような顔である。

 

「___あわわわ!ほんとうに出来ちゃったよ!!」

 

 現在、地球上の既存生物に、火炎や光弾、光線を吐いたり、未知の動力を体内で生成しそれを用いて飛行すると言った種は特殊生物を除いて存在しない。またしてもみほは仰天した。

 

「ピイーッ!!」

 

 やってやったぜ!、と高らかにアピールしているような鳴き方であった。

 そこに慌ててみほが人差し指を口に押し当てて、静かにしてとジェスチャーを交えて小さな同居人に伝えた。

 

「も、もう!!火を吐くのも禁止!分かった?」

 

 ぷりぷりと怒りながらも彼女は、新たな家族であり同居人でもある不思議なカメの存在は絶対に誰にも明かさないようにしようと心に決め、あとでカメについてもっと調べてみようと思うのであった。

 ………近い将来、新しく出来る学園の友人たちにバレてしまうのは少し先の話である。

 

 

 

___

 

 

 

ナハトスペース

太陽系 海王星周辺宙域

 

 

 

 第9惑星の冥王星が、太陽系外縁天体へと分類変更され準惑星となってからは、太陽系で最も()()を公転する惑星は第8惑星__海王星となっている。

 そんな太陽系最高密度を誇る青色ガス惑星が間近に見える宙域には一隻の、直径100mに迫る巨大円盤が地球へ向けて航行していた。

 

「代表。当宇宙の地球を確認しました」

 

 円盤内の司令室には、人型生命体__異星人の姿が複数あった。同胞から"代表"と呼ばれた、室内の中央に設置されている座席に座る者が「地球発見」の報を聞き満足気に深く頷いた。同時に、司令室のメインモニターに、ナハトスペースの地球が最大望遠で映し出される。司令室にいた人員から、感嘆の声が上がった。

 

「……美しい星だ。向こうに着いたらまずは地球の惑星統一機構とコンタクトを取らなければな」

 

 彼らは地球の代表機関との接触を考えているようだ。

 

「しかし、本当なのかね。この次元の宇宙には地球に駐在するウルトラマンが存在しないと言うのは」

 

 ()()を憂慮する声が司令室の一角から上がる。

 

「はい。"星間同盟"による30年周期前の調査結果によると、存在は確認されなかったとのことです」

 

 心配は無用だと、先の報告員がその疑問に答えた。彼らは"星間同盟"なる広域宇宙組織との繋がりを持っているらしく、同組織から譲り受けた情報を元に、今回地球へとやってきたらしい。

 

「例のメッセージは?」

 

「特段のトラブルなく発信を完了しました。現在、地球側が解析を行なっている模様です」

 

「そうか。伝わってくれているといいのだが」

 

 ここまでのやり取りを見ていると、地球人類との交流が()()ではないと思えてくる。彼らの()()は何なのか。

 

 

 

「___早く地球に降りたいものだよ」

 

 

 

 新たな知的生命体とのコンタクトは目前に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

おまけ 『(ᓀ‸ᓂ)<バニタス』

 

 

 

 

 ある日のガレージであったかもしれないし無かったかもしれないハジメとエリカのどーでもいい雑談より一部抜粋。

 

「昨日さ〜」

「うん」

「夢見たんだけどさ〜」

「うん」

「エリさん出てきたんだよね」

「へぇ〜、どんな私?」

「なんか――」

 

「――過酷なハイレグレオタードと青いバニースーツの上から修道服着てて、背中には天使の羽まで付いててさ…」

「うん?」

「『これが私の覚悟…! たとえ、全てが虚しいのだとしても、私は…私はルビコン少女キュア⭐︎ラプチャー十六夜。よろしく頼むわね』って言いながら…」

「なんか途中から色々混じってない?」

「車椅子に座って紅茶飲んでた」

「私は聖グロの生徒だった…?」

 

「とにかく、起きた時は寝汗やばかった」

「ねぇ…こういうのって本人には言わないもんじゃない?」

「あまりに衝撃的すぎて今日学校で誰かに言いたいと何度か思ったんだけどこれは本人にしか吐き出せないかなって…それでエリさんに直で行こうってことになってこうなった」

「……アンタが普段私のことどう思ってるか気になってきたわ…」

 

「えっと、夢って頭の情報を整理して映像化してるモノだって聞いたことがあるから…多分前日のゲームと夜更かしが――」

「――へぇ。つまり私のことはその夢通りの痴女って認識でいつも接してるわけね?」

「え…その解釈は飛躍し過ぎてるってエリさん!?ちょ、ちょっと待っ___」

「そう…あとからたっぷりお話は聞いてあげるから……取り敢えずアンタを今からハンバーグにしてやるわ。今日は特大サービスよ。感謝なさい」

 

 ゲンコツグリグリハンバーグの刑は即座に実行され、ガレージ内にハジメの悲鳴が虚しく響き渡ったのだった。

 

 

 

 





 あと
 がき

【2023年版編集】

 本作のサポート異星人枠、ザラブ星人のイルマ君が登場です。

 イルマ君の人間体は、野球漫画『ダイヤのA』に登場する、青道高校二塁手"小湊春一"君(一年生時)を黒髪にしたイメージを持ってもらえればいいと思います。ちなみに投稿者のダイヤのA推しキャラは、キャプテンかつ一塁手のテツさんです。

 イルマ君がハジメ君の影武者を引き受けてくれましたので、これでエリカさんがブッツンすることは無くなりそう…(無くなるとは言ってない)
 そんなイルマ君ですが、実は現在執筆に使っている台本__ストーリーノート(紙)には一切登場も設定もしていなかった、ぶっつけ本番でGOしたキャラだったりします。一人称が「僕」でマモル君と被ってたり、語尾や口調がタクミ君と被ってたりするのは、キャラの草案が固まっておらずゆらゆらしてた時の名残りだからです。
 しかし、某暗黒星人に匹敵する完全擬態能力を持ってるので非常に優秀なキャラなのは間違いありません。

 ナハトスペースに介入するM78スペースもまた、向こうの…【ウルトラシリーズ】の原典世界から分かれた並行近似宇宙となります。アナザーM78スペースと今後は呼称していきます。

 ピイ助君、やんちゃ坊主でした。拾ってくれたのが西住殿でなければどうなっていたことか…。

 おまけのお話ですが、過酷な覚悟+わちゃわちゃキメラネタとなります。皆さんも、ばにたすわっぴー!!アレがハジメ君の性癖かな…?

 さて、毎度行なっているプチ情報コーナーですが、今回は黒森峰について触れます。
 …本世界の黒森峰学園の先生方、実は良い人が多いです。(給食学食が大好きな先生だったり、「壁」をハンマーでぶち壊してくれる湘南の先生だったり、夢にときめき明日に煌めく先生だったり…)
 ただ、トップが嫌ーな奴で固まってるので、上手くいってない感じ。共学化に伴い、男性教師の採用も積極的に行なってたりします。詳しいお話は本編で後ほど…。

 次回も、お楽しみに。

____

 次回
 予告

 初の地球外知的生命体が地球に来訪。国際連合にコンタクトを取ってきた。
 人類の手助けをしたいと言う彼らは、手と手を携える新たな隣人であるのか、それとも歩み寄りの姿勢を踏み躙る卑劣な侵略者なのか?

 次回!ウルトラマンナハト、
【ようこそ、地球へ!】!


サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。