旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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友好宇宙人 ファンタス星人

戦闘円盤 ロボフォーE-2

登場





第9夜 【ようこそ、地球へ!】

 

 

 

北米 アメリカ合衆国 

ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン区

国際連合本部ビル

 

 

 

 極東日本の長崎県、佐世保で発生した同国3例目の特殊生物災害の終息から数日が経った日。

 アメリカ航空宇宙局___NASAは、宇宙空間から発されている謎の電波信号を受信した。地球外よりもたらされたこの信号は、一定の間隔で複数回発信されており、出力強度や波長の性質、信号の指向性等に偏りも狂いも無いことが解析の過程で判明。同信号をNASAは地球外生命体(EBE)__異星人から地球に宛てられた()()()()()であると解釈、結論付けた。

 NASAは、そこから()()()()()の解読に成功。内容はすぐさまホワイトハウスへと報告された。報告に目を通したアメリカ合衆国現大統領"チボデー・クロケット"は、身辺護衛…SPを伴わず自らの足で、すぐにニューヨーク国連本部ビルへと赴き、これを発表。国益をかなぐり捨て、世界への情報提供・共有に踏み切ったのである。それと同時に、クロケット米大統領は、この人類史上初の異星人事案は世界全ての国が一体となって臨まなければならないとし、国連総会を開くように強く呼び掛けた。

 

 それに対して、「いよいよ怪獣の次は異星人の出現か」と思った国々や、実際に特殊生物より被害を被った国__ブラジル、日本、中国と言った該当諸国が招集に呼応し、安全保障理事会での賛成決議を経て、国連緊急特別会が開催されるに至る。

 

 現在、上述した通りニューヨーク・マンハッタンにある、ここ国連本部議会ビルにて特別会が執り行われている最中だ。

 

「__と、配布資料にあるように…宇宙から送信され続けている強力な電波信号に含まれている言語は、我々地球側に合わせてラテン系のもので構成していると判明。そして、我が合衆国の優秀なNASAのサイエンスチームがこれらのメッセージの解読に成功した、と」

 

「して、その内容は?」

 

 解読されたメッセージの内容を知りたいがために、クロケット大統領を急かす各国代表が数名いた。彼はそれらの声に応え、ジャケットの内ポケットからメッセージの翻訳内容が記載されていると思われるメモを取り出した。

 

「……メッセージの内容は以下の通りで___」

 

___地球人類の皆さん、我々はあなた方と交流をするために遠い銀河の彼方からやって来たファンタス星人である。我々はあなた方の新たなる隣人として、宇宙進出期の段階に入っている地球文明の手助けをしたい。我々はあなた方にとって有益な技術と情報の数々を渡す準備が出来ている。地球の統治機構の代表と会談を行いたい___

 

「___これが送られてきたメッセージの翻訳内容となります」

 

 翻訳に差異は少なからずあるかもしれないがとクロケット大統領は付け加えて一旦締めた。

 

「遥かに進んだ文明の技術か…」

「いや、何かしら譲渡を迫ってくるかもしれん」

「我々の手助けをしてくれるのだろう?」

「これがもし侵略の準備であった場合、我々は格好のカモではないか」

「すぐさま迎撃の準備をするべきだ。各国の保有する核戦力を結集し大気圏外での運用を___」

「向こうは星間航行技術を有する文明であるのを忘れては困る。そんな彼らを相手取るつもりかね?」

 

 会議は異星人を地球へと迎えようと主張するグループと、各国が軍を展開して総力を持ってして迎撃すべきだと主張をするグループとで意見が二極化した。特別会は紛糾し収拾のつかない状態になるかと思われた。

 

 しかし___

 

「まずは相手を信じることが大事だと、私は思っています。そうでなければ永遠に我々は平和を得ることは出来ない。向こうが手を差し伸べてくれるのなら、喜んで掴もうじゃありませんか。自分たちから可能性を潰してしまっては未来も何もありません。それに人類がまだそこまで愚かではないと考えます。…例え今回の歩み寄りが偽りのものであったとしても、たった一度の嘘で挫けてはならない。諦めてはならない。重要なのは、如何にしてそこから立ち上がって次の糧にするかです。そう、侵略者であったならば、断固として許してはいけない。その時のために、世界各国には両方の準備をしていてもらいたい。決して、性急な行動はせずに」

 

 ___国連事務総長"クリス・グッドラック"の言葉により双方のグループの衝突は防がれ、会の紛糾具合は徐々に下火になっていった。

 そして、クリス事務総長は、万が一ファンタス星人の目的が侵略であった場合に備えて国ごとに軍を展開・待機させるのは規制等はしないが、こちらからは絶対に手を出さないこと、専守防衛に徹することを条件の下それを認めた。

 

 国連及び世界の宇宙開発機構代表兼交信仲介役のNASAは、ファンタス星人側からの呼びかけのメッセージに返信すると共に、特別会にて取り決めた人類側の対応をファンタス星人に伝え、宇宙船の降下地点をニューヨーク国連本部に最も近いニューヨーク・アッパー湾内に指定。ファンタス星人はそれらの内容を全て了承した。

 そこから数回のやりとりがあり、初の異星人との会談に向けた調整が行われた。

 ファンタス星人は空中投影ホログラム装置を使用して国連事務総長とファンタス星全権大使の一対一で、地上にて対談することを希望し、それを国連は承認。同時に米国政府が臨時屋外会場の設置をニューヨーク州に指示した。

 

 

 

_________

_________

_________

 

 

 

 数日後。

 

 

 

東アジア 日本国九州地方 長崎県 

東シナ海 長崎県沖合50km洋上

黒森峰学園 学園艦 学園寮食堂

 

 

 

 NASAによるファンタス星人への返信からさらに数日が経過した。

 ファンタス星人の円盤は地球の衛星___月の裏側にまで到達し、地球側も各国の宇宙観測衛星を介してそれを確認。ファンタス星人の地球来訪までいよいよ残り数時間となっていた。

 

「ファンタス星人…だっけ? 早く顔見れねえかなあ」

「アメリカの方は夜か、眠くならないのかね」

「こっちだってねみーよ朝なんだから…あ"〜」

「てか、ペドレオンの発生地域と目と鼻の先だけど、そこらへんはよかったんかな」

「ノーフォークのナメクジの駆除は終わったって言ってたぞ」

「メシ食っとる時に陸生軟体動物の話をすんな!」

 

 黒森峰の学園寮に併設されている寮食堂には、朝食を摂る寮生達でごった返していた。無論、その中にはハジメ・エリカ達__戦車道履修部の生徒達も混じっている。

 彼らは皆、白米とおかずを頬張り、汁物を啜りながら、食堂の壁に取り付けられているテレビモニターに意識と視線を向けていた。

 

 モニターには、アメリカ・ニューヨークの夜間風景が映し出されていた。知っての通り、ニューヨーク市に接しているアッパー湾が円盤の降下地点に指定されている。

 皆、世紀の瞬間__地球外知的生命体と地球人類の邂逅というワンシーンを待っているのだ。

 

 モニターが同市沿岸部に焦点を当てる。

 人類にコンタクトを取った未知の異星人の姿を写そうと世界各国から報道機関が詰めかけている様子が見受けられた。また、来るであろうファンタス星人の宇宙船を一目見ようとカメラやスマホを片手に空を見上げている一般市民の集団も多く映っている。

 

「あそこにいる人間は全員、宇宙船を生で見れんだよな」

「ちきしょー!もっと早起きしておけば…!」

「ここで起床したら結末は同じだろうに」

「早起きできれば何でもできると思ってないか?」

「三文の徳でも限度はあるぞ」

 

 そしてその沿岸部の幹線道路は州警察と州軍によって大規模な交通規制が為されており、規制範囲内の道路上には米陸軍の誇る全長25メートルの重戦車〈M156 タイタン〉や世界初のレールガン搭載戦車〈M2A4 ギガンテス〉を中心とした最新鋭の機甲部隊が砲塔正面を湾へと向けたまま待機しており、湾の方へ目を向ければ、米海軍艦隊総軍隷下、ノーフォーク所属の第2艦隊"第29駆逐隊"がアッパー湾中央を包囲する形で展開し、艦載照明灯を点灯させニューヨーク上空を監視している。異星人との、万一の武力衝突事態に備えてのものだ。

 また、上記陸海部隊のバックアップ…後詰めとして、〈M-ATV〉軽装甲車や連装の対戦車誘導弾発射装置を備えている〈M1134 ストライカーATGM〉装甲車、主力戦車〈M1A2 エイブラムス〉などが夜のニューヨーク市街地内に進入し、歩兵による誘導を受けながら米陸軍第18空挺軍団隷下、ニューヨーク第10山岳師団第1歩兵旅団と共に展開を急いでいる。

 続いて、モニターは湾上空を映す。照明灯__サーチライトに時折照らされながら夜の空を、空挺部隊をいっぱいに乗せた多目的ヘリコプター〈UH-60 ブラックホーク〉やアメリカ全土に配備が完了しつつある「世界最強の攻撃ヘリ」の最新型…〈AH-64E アパッチ・ガーディアン〉が編隊を組んで忙しなく飛び回っていた。

 

「ひえ〜!ゴリゴリ戦う気ですやん!」

「警備体制は磐石ってわけだ」

「タイタンにギガンテス…もしも異星人を相手にするんだったら、妥当っちゃ妥当な…最良の編成なのか」

「なあなあ、ウチのマウスにもレクイエム砲積まないか?絶対いけるって」

 

 話に出てきた米陸軍の重戦車タイタンの主砲__レクイエム砲…これは16インチ(40cm)に迫る大口径砲であり、競技車輌として黒森峰機甲科も所有している第二次大戦最大の独重戦車〈Ⅷ号戦車 マウス〉の有する主砲の3.5倍であると言えば分かり易いだろうか。尤も…レクイエム砲は、"アイオワ"級、"サウスダコタ"級戦艦に使用されていた主砲と同様の代物を、短砲身化並びに単装砲化した特注品である。主砲として載っけているものが実質艦砲であるため、生まれた時代や運用方法等の何もかもがまるで違うマウスを引き合いに出すのは些か間違いかもしれないが。

 

「ダイトさぁ……朝っぱらからバカじゃねえの?……流石に冗談、冗談だよな?ダイト?『うん』って言え。それがお前のためだ」

貴様(きさん)正気か?」

「あの化け物砲を搭載できると言う自信はどこから来るのか…いや、やっぱ知りたくない」

「マウ子は大喜びしそうだけど…」

「対面の戦車が消し飛ぶだろうが!カールとかドーラを戦車道に使いますって言ってるレベル軽く超えてっからな!? アンツィオの豆戦車(〈CV.33〉)なんか乗員保護用の複合カーボンの外殻ごと塵も残さず消え去るぞ!?」

 

 そんなレクイエム砲をマウスに乗っけて試合に出そうぜと言う輩がいれば、周囲の人間が自ずと「お前は何を言ってるんだ?」と口を揃えると共に痛烈な返しをするのは必然であった。

 なお会話にて現れた「レクイエム砲搭載式マウス君」なるものは、戦車道の改造・改修に関する規定並びに車輌レギュレーションから大幅に逸脱…と言うよりガン無視しているため、作ろうとすること自体は出来なくもないが、実現及び運用の可能性は限り無くゼロに近い。何故ならば、砲塔と車体の比重やサイズの問題が待ち構えており、仮に合体(ブレイブ)に成功したとしても、砲塔旋回すらままならず微速前進も後退も出来ない体感ちょっと硬めのトーチカに成り果てる未来しかないからである。レクイエム砲と地面にサンドされミシミシと潰れていく哀れなマウスの車体が目に浮かんでしまう。

 第一、()()()()()が通ってしまったら日本戦車道はたちまち衰退の道へと真っ逆さま…火力装甲インフレの波が到来したオワコン武道の烙印を押されてしまうのは想像に難くない。…もしも、奇跡論的に何かの手違いが重なりに重なり、関係各員の頭が軒並みイカれ、物理法則のバグでしっかり動く、鎮魂歌(レクイエム)を口遊むミ◯ッキーが競技使用の認可を携えて爆誕した場合は、機甲科隊長のまほか、補佐役のエリカ、或いは整備科隊長のハジメ…最悪の場合は西住流師範であり戦車道履修部外部顧問、高校戦車道連盟理事長でもある西住しほが全力で止めに掛かるだろう。もしくは文科省と日本戦車道連盟が件の魔改造マウスに対してプレミアム殿堂入り…俗に言う、「温泉行き」なる処置に踏み切るかもしれない。

 

 そんなたらればはさておき。

 

 上のレクイエム砲関連の話題である意味荒れに荒れている整備科二年生組。浪漫が〜とか、現実が〜とかあーだこーだ言っている中、食堂のテレビモニターが日本の報道番組__「笑顔テレビ」の現地中継映像を映した。

 

『日本にお住まいの皆々様!おはようございます!!こちらは街の明かりが眩しくまるで昼のようなアメリカ・ニューヨークのマンハッタンから中継しています、笑顔テレビの増子美代(マスコ・ミヨ)です!続けて読めば〜()()()()()!!』

 

 笑顔テレビの看板キャスター増子美代が、自身の名前と報道単語を結びつけた洒落__キャッチコピーで、いつも通り中継の出だしを飾る。

 片手で掛けているメガネをクイっと直し、コホンと一呼吸置いてから現場の…ニューヨークの状況を説明する。

 

『___え〜、こちらはまだファンタス星人の宇宙船が降下してくる気配はありませんが、先ほど我々報道機関に対してアメリカ合衆国政府が公開した情報によれば残り1時間以内に、宇宙船が大気圏内に降下を開始するとのことです。ファンタス星人の目的は地球との友好関係を結び、宇宙への進出を手助けすることであると言われています。…はい。それでは、新しい情報が入りましたらまたお会いましょう!』

 

 美代が現場中継映像から、日本国内のスタジオへバトンを渡す旨を伝え、愛想の良い笑顔でマイクを持っていない方の手をひらひらと振る所で、映像がスタジオ側に切り替わった。

 

『…はい!増子アナ、ありがとうございました!! さて、初の異星人による地球訪問に世界が沸いていますが、スタジオにお呼びしたゲストの方々に今回のファンタス星人来訪についてのご意見をお伺いしていきたいと思います。それではまず、フリージャーナリストのゴンドウ・キハチさんお願いします』

 

 美代と同年代かつ同期である女性スタジオニュースキャスターがスタジオに招いている出演者達に、現段階での異星人に対する印象や今後の動きの予想を尋ねる。

 まず第一に指名を受けたのは水色のスーツに紺色のネクタイが目を引くゲストの男性__先の紹介にあったジャーナリストだった。彼は頷きを挟んでから自身の所見を述べる。

 

『___はい。ファンタス星人の地球訪問は我々地球人にとって大きなプラスでありチャンスである思っています。…しかし彼らの目的がNASAの発表にあった通りの、訪問()()であった場合の話です』

 

 異星人との交流自体には賛同、歓迎の意を示す。されどそれに対して決して安直に、楽観してはならないと警鐘を鳴らす。

 

『侵略…奇襲攻撃という騙し討ちもあると言うことですか?』

 

 恐るおそる、それでいてジャーナリスト__ゴンドウの言わんとしていることを確かめるように聞き返した。

 

『はい。()()()()()ケースもまた同様に有り得る事象であると考えます。ファンタス星人が侵略に打って出た場合…地球の軍事力の殆どは無力でしょう。相手は星系ではなく、銀河レベルの航行技術と宇宙船建造能力を有しています。軍事技術の発展は文明のそれに比例し増強されていくので………軍事的衝突は是が非にでも避けたい所ですね。私は地球人の一人として彼らが真の友好的な異星人であることを祈っていますよ』

 

 これぐらいしかできませんからね、と自嘲を含んだ苦笑を彼は浮かべた。ファンタス星人の円盤来訪が無事に終わってほしいという思いは確かなようだった。

 

『ゴンドウさん、ありがとうございました。次は元文科省役員の____』

 

 二人目のゲストに話が回ったところで、画面の前__食堂の整備科二年生の男どもは思いおもいに好き勝手ファンタス星人への感想を述べていた。

 

「怪獣の次は異星人かぁ…」

 

 まず口を開いたのはハジメである。その言葉には、ウルトラマンとして今度は異星人との戦いもあるのかもしれないと言う「もしも」が過っての複雑な心境が混ざったものであった。

 

「最近の出来事がいろいろとぶっ飛びすぎてて反応に困る…また違うベクトルでさ」

「でも今度は話が通じる相手だろ? 怪獣の時よりかは対話できる分幾らかマシなんじゃ」

「常識まで地球人(こっち)と一緒だとは限らんけどな〜。些細な行き違いとかでドンパチはあるかも」

「先行きを不安にするワードを並べんでくれ」

「いやいや、テレビのコンドーさんだかゴードンさんだかも言ってたが、実は『御星を侵略したく、こうしてお伺いした次第です!!ズドンッ!』って線もだな…」

「そんな就活みたいなノリで侵略されてたまるか。不採用だ不採用。洒落ならんてそれ。てか挨拶と同時にブッパしとるし」

 

 今日は休日であり、中等部高等部共に授業は無い。そのため寮の食堂で食事を摂っている寮生達の食事ペースは登校日と比べてややゆったりとしたものとなっている。

 平日の朝ならば、惣菜や汁物をリスのように頬がパンパンに膨らむぐらいまでかき込み、付属の納豆や味海苔に生卵などを使って主食(白米)がよそわれた茶碗を5分も経たずに平らげて通学用のリュックと工具箱を持って猛ダッシュで玄関に向かう整備科男子の集団が見られる。風のように食堂に駆け込み、風のように食堂を去っていく彼らが朝の寮でよく見られる。ちなみに寮食は基本朝晩のみであり、米と汁物はおかわり自由。昼食枠が無いのは学園に大食堂があるためである。なお、休日や午前授業の日は寮で昼食が用意される。

 

 さて、上のように休日の朝なためか、白熱している話題の特殊性と相まってハジメ達二年男子六人組は、ほっといたら食事後もここに居座って駄弁りそうな勢いだ。

 ___そこに、新たな勢力(凡そ一名)がポッと湧いた。

 

「分かっているとは思うが、午後からは練習だからな? 各員準備だけは怠らないように」ヒョコッ!

 

 マモルの席の横下から何の脈絡も無く、いつもの冷静で凛とした表情を保ったまほが現れたのである。

 

「うぉ!? に、西住隊長!?」

「いきなりイッチの横からヌッと出てこないでくださいよ!」

「心臓を予め止めといて良かった…」

「頼むから成仏してくれタクミ」

「アレが噂のゲルマン忍法ってやつか?」

 

 いきなり友人の横に某テレビから這い出てくる怪異よろしくクールフェイス…仏頂面の少女がログインしたらそりゃぶったまげるわけである。しかも、六人は彼女の気配の欠片さえ微塵も掴む事が出来なかった。それがよりまほ登場の奇襲のインパクトを引き上げていた。

 

 まほは何かしらの技能や特技を用いて意識してやったワケでもなく、ただ好奇心でやってみただけであったのか、「ゲルマン忍法…?」とユウの放ったワードに疑問符を浮かべてコテンと首を傾げながら復唱し確かめている。

 

「まほさん…あの、心臓に悪いですから今後はそれ、控えてくれませんか…?」

 

 自分の真横にまほが現れた状況を受けてマモルはマモルで、未だに肩を大きくビクつかせており、仁王立ちでいる横の彼女を見上げて心からのお願いを口から絞り出していた。

 

「すまない。少し驚かそうとしただけだ。みんな、中々の反応で面白かったぞ」

 

 軽く謝りながら、クスクスと上品に小さく笑うまほ。彼女の内に眠る幼少期の茶目っ気が久方ぶりに顔を出した瞬間であったのかもしれない。

 最後に、マモル君の反応はとても可愛かったぞ、とまほが後ろから彼の両肩に手を当てて耳元で囁くと、彼女は食堂をあとにした。

 

「あんなまほさんも…いいな……」

 

 食堂の一角で、天界へ至りそうなほど心地良さそうな顔をしている少年が一人完成していた。それは、普段の一つ上の幼馴染(まほ)からは想像もできなかったイタズラを直に本人から受け、ギャップの荒波に呑まれた少年の成れの果てであった。

 

「イッチ〜? 戻ってこぉ〜い!」

 

 燃え尽きたよ…真っ白にね……、と意味不明な供述をする親友に、現実にそろそろ戻って来いと横に座るヒカルが引き戻しに掛かっていた。

 

「ダメだ…こいつ、自分の世界に入ってる…」

 

 ああもうこりゃ手遅れだな、とヒカルは断定した。心がどこか遠くへと旅立ってしまっているマモルを置いておき、彼らはまた異星人の話題に戻る。

 

「向こうは3Dホログラムで会談出席とか実にSFチックだよなぁ」

「しれっと科学力の高さっていうか、開きの差を見せていく感じか」

「この技術の到来でリモートデスクワークに革新が…」

「おっと進路の話はここでは御法度だぜ?」

 

 途中で唐突に将来への不安が過ったタクミの戯言はストップ&スルーされ、話は続く。

 

「アメリカからしたら異星人来訪っつっても素直に喜べんわなぁ…会談の最中にテロなんか起こされでもしたら地球側の印象最悪ってか交流そのものがおじゃん。それであちらさんに死傷者なんて出たら下手すりゃ報復もあるかもだしな」

「そうなったら、戦場になるのはニューヨーク…米本土だもんね」

「まあここでとやかく言ってても変わらんもんは変わらんし…あんま深く考えなくともいいか」

 

「…とりあえず、ちゃっちゃか食べよう」

 

 ハジメは一言そういうと、茶碗を持って湯気の立っている白米を口中にかき込んだ。他五人もそろそろ食べ進めるかとそれに倣ってペースを上げてガツガツと食べ始める。

 一つ横のテーブルでそんな彼らの一連の動きを見ていたエリカは此奴らはなぜここまで極端なのかと呆れを含ませた溜息を吐き、彼女の隣に座る小梅はニコニコと母親のように微笑みを浮かべ、その対面に座るレイラは男衆に負けずの勢いで朝食をモグモグと食べていた。また、先に食堂から出ていったまほがしゃこしゃこ歯を磨きながら戻ってきたりした。

 

「うめえ!ベーコンうめえ!!」

「ナギは平常運転だな」

「…イッチ、ミニトマト食わないの?」

「いや好きなものは最後まで取っておく主義で…」

 

 寮生の本日の朝食献立は以下の通りである。

 白米、ワカメの味噌汁、目玉焼きと焼きベーコンとカレー風味のミニハンバーグのセット、そしてカツオ菜のおひたしである。なんとも日本人らしいと言えばらしい、一般的なメニューであった。ちなみに、この()()()風味のハンバーグが、まほの朝食完食ペースを大幅に引き上げた要因だったりする。

 ここで補足させていただくが、この学生寮も黒森峰に属しているだけあり、毎週二、三回不定期にドイツ料理を中心とした献立が組まれる。寮生達から一番人気の称号を得ているのは勿論、同学園名物ノンアルコールビールとスモークソーセージのセットである。なお先ほど当独式献立は不定期と書いたように、上記人気セット…夜の晩酌セットのようなモノが献立の一部として朝食に出る事もある。これでは平日の朝から飛ばしているオッサンと何ら変わりないではないかと思われたりするだろうが、そこら辺の絵面は気にしないでもらいたい。

  

「あ!すまんタクミ、マヨ取ってくれ!」

 

 無心に味噌汁を啜っていたヒカルが椀から口を離して、二つ横の席に座るタクミに、彼の手前に置かれている共用調味料__「どんなものにかけても合う」と謳われる魔性の半固体状調味料(マヨネーズ)を取ってくれと頼んだ。

 

「え?何に使うんだい?」

 

 渡す事に疑念も抵抗も無かったが、目の前の朝食を見ると何にどう使うのか図りかねたタクミがマヨネーズを掴み取りながら尋ねる。

 

「ん?目玉焼きだけど」

 

 予めここで断っておくが、ヒカルは「マヨラー」と定義されるほどのマヨネーズ愛好家(ヘビー・ユーザー)ではない。

 

「うそだろ!?卵料理に卵製品使うとか…」

 

 タクミがヒカルにマヨネーズを手渡ししている最中、その両方に挟まれていたダイトが信じられないものを見るような目で件のマヨネーズを追う。尤も、ダイトはダイトで先ほどまで信じられない話を広げていた張本人であるはずなのだが。

 

 「いっつも醤油ばっかじゃ飽きが回ってきてさあ…味変だよ味変」

 

 ___とヒカルが言いながら、受け取ったマヨ容器をパティシエの如く扱い、目玉焼きに二周三周した後、塩と胡椒を振り掛けていた。このアレンジにはセットでよそわれている焼きベーコンが合うだろう。また、それを食パンに挟んでベーコンエッグトーストのようにして食べても良い組み合わせだと思われる。

 

 ……料理に投入する量を誤れば、それが瞬時にコレステロール爆弾と化す可能性を秘めるマヨネーズの使い方は人によって千差万別。先のヒカルのように、純粋に調味料として使う者がいれば、「これも一つの完結した料理なのよ…」と容器から直吸いをやってのけるマヨラーの境地に至った猛者達も世の中にはいる。もしかすれば、「引っ剥がした木の皮にかければそれはもはや野菜スティックと同じ」と言い出す何らかの真髄を極めてしまった悲しき人外(モンスター)も世界を見渡せば存在し得ているかもしれない。

 

「でぇーじょーぶだって、俺も目玉焼きの本命はお醤油ちゃんだから」

 

 チロリ、と醤油の小瓶を傾ける仕草をして戯けてみせるヒカル。

 

「俺は絶対にケチャップだけは目玉焼きに合わないと思ってる」

 

 ダイト、タクミ、ヒカルの会話に続いて謎の宣言をかましたハジメだったが、場所とタイミングが諸々悪すぎた。

 

「ふーん……ハジメ、アンタ私に喧嘩売ってるのね?」

 

 不意に逆サイドから幼馴染の声が聞こえた。

 

「へ?」

 

 ハジメは錆びれた機械のようにギギギッと声の主の方へゆっくり振り返っていく。そしてその主と目があった時、朝一番からやらかした、と思った。

 これを見ていた周囲の寮生達は皆「あー、まぁた夫婦喧嘩はじまったよ」と言いたげな顔になっていた。口に出すことは絶対に無いが。

 

「いや!これは違うんですよぉ!」

 

 ずいっと顔を近づけてきた不機嫌顔のエリカに、ハジメが両の手で「待って、話を聞いて」と促すも、当の彼女はその態度が気に入らなかったらしく__

 

「言い訳するなんていい度胸してるじゃない。今日はそこのミニハンバーグ一つで許してあげるわ」

 

 ___彼が大事に取っておいた白米のお供、カレー風味の()()()()()で手を打ってやると持ち出した。エリカの大好物はハンバーグ…つまりはそう言うことだった。…他の世界の彼女がどうなのかは預かり知らないが、この世界の彼女は、一部生徒から「ハンバーグ師匠」と呼ばれるぐらいにはハンバーグを愛しているが、ハンバーグ狂信者では無いためガパオライスやロコモコ、ミートローフなどには比較的寛容である。

 

「え"!!複数あるみたいな言い方だけどさ、皿には一つしかないんだが!?」

 

 不必要な物言いをしたハジメにも少なからず非はある。口は災いの元とは良く言ったものだ。

 マモルと同様にハジメもまた好物は最後まで取っておくタイプ。楽しみとして残していた最高のおかずを寄越せと要求されれば渋るのは言わずと知れていた。

 

「だからそれ一つ丸々寄越せば手を打ってあげるって言ってるじゃない。___はい!いただき!!」バッ!

 

「ほわああああ!?!?俺のハンバーグがぁあ!!!!」

 

 寮食堂に、「私に良い考えがある」でお馴染みの某機械生命体司令官を思わせるハジメ少年の聞くに耐えないそして情けない叫びが響き渡る。

 情状酌量の余地を求め防御が疎かとなっていたハジメの一瞬の隙をエリカは見逃さず、華麗な箸捌きで件のハンバーグを奪取したのである。それは目にも留まらぬ電光石火の早業であった。

 

 

 

 エリカは貰い受けた(奪い取った)カレー風味ミニハンバーグをおかずにしてまだ湯気の出ている白米を上機嫌に頬張っていると、ハジメの朝食の()()変化にふと気づいた。

 

 

 

 ん?ハジメってあんなにご飯食べれたかしら?

 

 第一に思ったのはそれだった。私の視界に映っているのはハジメ(アイツ)のお盆の上にある、存在感ましましの超山盛り(アニメ盛り)ご飯…それも二杯目のものだった。しかもそれが有り得ない速さで消えていくものだから驚き過ぎて脳の処理が追いつかず二度見して確かめてしまったのは内緒だ。

 

「ハジメ、アンタよく朝からそんな量食べれるわね。少食じゃなかった?」

 

 そうなのだ。プロテインは例外として、元々コイツは、ヒカルやダイトのような大食漢どもと混じってこんなバカみたいにがっついて食事できる胃の容量(キャパ)を持ちあわせてるようなヤツじゃなかった。少なくとも、私より食べる量は少なかった。それはあの怪獣(コッヴ)が現れる前の…本土での食事で確認済みだ。

 ならば、今こうして嬉々として目の前でおかわりを堪能している幼馴染(ハジメ)は何なのだろうか。

 

 そんな私の悶々とした疑問を把握してるわけもなく、投げられた質問にハジメは照れながら笑顔で答える。

 

「いやぁ〜!最近食べないと力が出なくてさ。自然とお腹に入るっていうか」

 

 それもそうか、と思った。腹が減っては戦はできぬ。言われてみれば、今季シーズンから整備隊長としてハジメのやるべきことは増えていた。自然と必要なエネルギーの摂取量が増えただけのことか、と…この時の私は思ってしまった。

 

「そう……お肉もちゃんと食べるのよ」

「その肉を…ハンバーグを、エリさんが食べたんじゃないか!」

「あはは!そうだったわね!」

「理不尽、本当に理不尽だよ!」

 

 ぐぬぬ、と唸って悔しがるハジメを見ていると微笑ましかった。ああ、こんなたわいもないやりとりをこれからもずっと続けていくんだろうなと。根拠の無い…それでいて何かを発端にすれば簡単に崩れてしまいそうなほどひどく楽観的で脆く儚い安心感に包まれていた。

 

 この時の、ハジメの小さな変化に気づいていればもっと何か出来たんだじゃないかと、ずっと後に思うのはまた別の話だった。

 

 

 

 ハンバーグ強奪事件から凡そ30分後。ハジメ達整備科六人組も周囲の寮生と同様に朝食を摂り終え、それぞれ食後の歯磨きをしたり、各自の部屋からスマホや携帯ゲーム機、トレーディングカードのデッキやらを持ちこんできたりしつつ、また食堂に集まっていた。

 

「タク……朝からスマホでそう言うふしだらな漫画読むのはやめとけ。てか、ここ食堂だぞ。公共の場だぞ」

「ユウ君は分かってないなぁ。これが午後の活力になってだね…」

「お前なぁ___」

「___タクミさんにユウさん? スマホで何見てるんですか?」

「わわっ!? こ、小梅ちゃん!?」

「…言わんこっちゃない」

 

「マモル君…これ、良ければ使ってくれ」

「えっと………ありがとうございます。……まほさん、これは?」

「キーマカレー味の歯磨き粉だ。勿論、薬用だぞ」ドヤァ…

「キーマ…カレー___」

「ああ。キーマカレーだ」

「___の、味の、歯磨き粉…」

「ああ。歯磨き粉だ」

 

「おら!熱勝龍皇ボルシャック・フリードでダイトにダイレクトアターック!!」

「バカめ!速攻呪文、エマージェンシー・スコール発動!!ナギの盤面のモンスター1体を手札に戻す!!」

「ぐああ!?詰め切れねぇ!!!……なんてな」ニヤリ

「なにっ!?」

「___ターンエンド」

「普通にターン寄越せ!!」

 

「へぇ〜ハジメがゲーム触ってるなんて珍しいわね」

「え? あ、うん。これ、ナギから借りたやつ。ファイターシリーズの格ゲーなんだ」ピコピコ

「格ゲーか。ねぇ、それ私もできる?」

「できると思うよ。エリさん、こういうの得意そうだし」

「…ちょっと待ちなさい? それどういう意味かしら?」

 

 彼らが遊戯等に興じているのは、時間を潰すためである。その潰す時間とは何なのかと問われれば、ファンタス星人の地球来訪の瞬間だと即、皆が答えるだろう。

 他寮生達もまた、友人達と駄弁ったりしながら、食堂の大モニター前に椅子を集めたりして今か今かと待っていた。

 

「あ!画面変わったよ!?」

 

 モニターの画面を見ていた誰かが、食堂全体に届くように声を張り上げた。食堂にいる者全員の目が自然にモニターに集まった。

 画面の向こう__ニューヨークの方で大きな動きがあったらしい。見てみれば、笑顔テレビの看板娘である増子アナが興奮した様子でしきりに夜空に指を指しながらカメラに語りかけていた。

 

『ご覧ください!! 今、ニューヨーク上空に、遂にファンタス星人の宇宙船が現れました!! まさに空飛ぶ円盤です!! 宇宙船は国連本部手前のアッパー湾上空にて、一定の高度を保って静止しました!!』

 

 地球外知的生命体の来訪。その瞬間が、世界中の人々が待っていた瞬間が、たしかに映っていた。

 現地の市民のものと思われる歓声もそうだが、それに負けないぐらい寮食堂内でもどよめきが起こった。皆、口々に「すげぇ」やら「すごーい」と呟いている。あまりのインパクトに語彙力がかなり低下しているようだった。

 

「アレが、異星人の宇宙船…」

 

 ハジメがそれだけ、ポツリと零した。

 

 画面は撮影用ドローンや報道ヘリ、美代達地上班のカメラの映像が分割でリアルタイムのものが映されており、アッパー湾上で浮遊しているファンタス星人の宇宙船と、数人の護衛(SP)を伴って特設会場へと歩いていく国連事務総長クリスの姿がそれぞれ捉えられていた。

 

「でけえ…周り飛んでるアパッチが小さく見える」

「カラーリングは銀と緑…形は想像以上にUFOってかもろ『円盤』だな」

「完全に空中で停止するとか、やってんなぁファンタス星人」

「今日が独立記念日だったら危なかったね…」

 

 遂に異星人の()()がやってきたのだと認識した面々は、今映像から分かる視覚情報から各々が思った感想を述べ合っていた。

 

「「「おお〜〜!」」」

 

 画面の中のクリス事務総長が特設会場に辿り着くと、そのすぐ横に空中の宇宙船からファンタス星人の3Dホログラムが出力され、彼らの代表__全権大使とその補佐役だろう数人の姿が映し出される。食堂内に再度大きなどよめきが走った。

 

『あのホログラムに映っているのが、ファンタス星人の全権大使でしょうか!?』

 

 ホログラムで映し出されたファンタス星人の姿を見てみれば、地球人と同じヒューマノイドタイプだった。彼らは黄土色の肌を持ち顔は縦長で目は赤色、鼻にあたるパーツは見当たらず、耳と胸には何らかの機械を付けており半分サイボーグのような印象を与える。

 

「洋画であんな風貌のキャラクターいたよな?」

「サングラスとショットガンが似合うやつ?」

「うん。それ。あと米陸軍の元特殊部隊隊員で筋肉モリモリのマッチョマンだったりする」

「…言うてそこまで似てるか?」

「黒目が無いな…見た目で判断はいけないんだろうが、ちと不気味だ…」

 

 全権大使のホログラム体が一歩前に出て事務総長と向き合う。実体とホログラムは互いに物理的な干渉ができないため、握手の代わりに手を振り笑顔を返し合う。事務総長の顔も幾許か緊張から解放された表情になっていた。

 そしてファンタス星人の全権大使が口を開く。向こうは地球側の言語に合わせて、世界共通語である英語で話すようで、生中継の映像の下に少し遅れてスタジオ編集室でリアルタイムで行なっているのであろう日本語訳と翻訳音声が流れる。

 

『地球人類のみなさん。はじめまして。我々はファンタス星人。私は全権大使の"リューグナー"。我々は地球文明との交流と宇宙進出の手伝いをしたく、こうしてやってきました。あなた方地球人類と恒久的友好を結びたい。そして、多数の宇宙文明が加盟している"星間同盟"へ加盟し共に宇宙ユートピアを築きませんか? 我々はその準備が出来ている』

 

 無難でSF作品では一種のお約束とも取れる、地球の外…宇宙よりやって来た異星人からの友好的な挨拶と文言。全権大使は最後に報道陣のカメラに視線を向けて微笑を浮かべ締め括った。

 

『我々のファースト・コンタクトの相手が、あなた方のような友好的な異星人であったのが幸運だ。私は地球、国際連合の代表であるクリス・グッドラック事務総長です。リューグナー閣下、本日はよろしくお願いします。実りのある会談をしましょう』

 

『こちらこそ。改めてよろしく、地球の兄弟』

 

 地球の「()()」。自分達地球人類よりも遥かに先を行っている異星文明人が、こちらを家族…対等の立場だと言う粋な表現を用いた。意味を理解した者から、感嘆…感動で大部分を占めた反応をする。

 全世界の殆どの人々がその行方を見守る中、地球とファンタス星の今後の行く末を決めるであろう公開会談がアッパー湾沿岸の、夜空の広がる特設会場にて開始された。

 

――ブーッ!ブーッ!ブーッ!

 

 黒森峰生徒たちが画面に釘付けになっている中、ハジメは自身のズボンポケットの内が振動していることに気づく。スマホの着信通知を伝えるバイブレーションだ。液晶に映る応答待ちの相手の名前は「イルマ」だった。

 

(…? イルマからか)

 

 イルマは自身の持つ携帯万能端末に、地球のスマートフォン用OSをコピー並びにインストールしてSNSアカウントを作成。ハジメと連絡先を交換していた。そんなまどろっこしいことはせずにハジメ側がイルマの所有する万能端末を持てば良いとも思われるだろうが、これはイルマが持ち込んだザラブ星人由来の"地球外超技術(メテオール)"の不必要な拡散や露見を防ぐためであり、イルマ側もまた地球文明に溶け込み、文化を学ぶ為として彼自身が提示した案でもあった。

 

「もしもし…どうしたんだイルマ?」

 

 イルマも異星人である。アイツも同じ()()の仲間がやってきて、喜んでいるのだろうかなどと好き勝手思いながら五回目のコールの途中でハジメは通話にゆっくりと出た。

 

『___アメリカ合衆国にやって来た異星人のニュースは見てるかい!?』

 

 あまりの食いつき具合にハジメはスマホを耳元から離した。声色からして、はしゃいでるわけではなさそうだ。どうやらファンタス星人の来訪にかなり動揺しているらしい。

 

「あ、ああ…見てるけど。そんなに慌てて…どうしたんだ?」

 

『……いいかい? 今回この地球に来たファンタス星人って言うのはもう()()()()()異星人なんだ!!』

 

 急転直下、青天の霹靂とは正にこのことだろう。

 電話越しのイルマが何を言ったのか、ハジメは一瞬理解できなかった。

 ファンタス星人が存在しない異星人ならば、今、目の前の画面に映っている___アメリカ・ニューヨークで国連事務総長と会談をしている彼らは一体何者であるのだと言うのか。

 

「な、なんだよそれ…!? ___ちょっと待ってくれ、場所を移動する」

 

 あまりに衝撃的すぎる内容であったため、口元を抑えながら、身体を屈めつつスマホを通話状態にしたまま食堂からひっそりと出ようするも、すぐ近くにいた__と言うよりもほぼ隣にいたエリカにその行動は気づかれる。

 

「ハジメ、アンタどこ行くのよ。あの会談見ないの? 今世紀のハイライトじゃない」

 

 このタイミングで離脱するとは何事かとエリカに問われたハジメは宙に視線を泳がせ、冷や汗を忙しなくかくという挙動不審な動きをして___

 

「あはは…ちょっとトイレに…すぐ戻るから!!」

 

 ___苦し紛れの言い訳と共に爆速で食堂から退出した。

 

「あ、もう…行っちゃった。……そんなに我慢してたのかしら?」

 

 相当量の発汗と相まって、朝食をあんなに食べたら…ああなってしまうものか、とエリカは深くは考えずにモニターへと意識を戻し他寮生達と一緒に会談を期待半分不安半分の心境で見守るのであった。

 

 

 

 ハジメは寮から屋外へ移動し、人目に触れない男子寮の陰に隠れて、ハジメは改めてイルマに先の詳細を聞く。

 

「___で、さっきのはどう言うことなんだ?」

 

『うん。ファンタス星人は、僕たちの宇宙に存在していた異星人だよ。彼らはどんな種族にも基本友好的で、僕の星…ザラブ本星にも大使館があったほどなんだ」

 

 他種族浄化を是とする過激思想を持った侵略星間文明であるザラブ星人とも友好関係を結んでいたと言うことは、相当な博愛主義を持つ種族___悪く言えばかなりのお節介焼きなお人好しの種族だったのだろう。

 「まあ、僕んとこの本星議会と軍は向こうの科学技術が目当てで、国交締結を承認しただけだったんだけどね…」とイルマは補足する。

 

「それなら、なんだ? 惑星ごと種族が滅びたとか…何があったんだファンタス星人に」

 

 次のイルマの説明に含まれていた衝撃の事実にハジメは驚愕することとなる。

 

『母星を残して、彼らは…滅びたんだ。…だけどその原因がファンタス星人自らが生み出した労働用アンドロイドの反乱だった』

 

「は?」

 

『自我を手に入れたアンドロイド___"ファンタスドロイド"達は、仲間を秘密裏に集め、増やし、ファンタス星人に反旗を翻したんだ。アンドロイド達は、ファンタス本星各地の主要大規模都市や惑星防衛軍基地を瞬く間に制圧。いつの間にかファンタス星人と丸々入れ替わってたんだ。入れ替わられたファンタス星人は全員処分されたって聞いてる。……僕らがこの事実を知ったのは、僕の宇宙の地球をファンタス星人が侵略に踏み切って当時の宇宙警備隊地球駐在員…ウルトラマン80(エイティ)に撃退されたって国営ニュースで流れてからだったんだ。本星の人達も珍しく狼狽えていたのは覚えてる』

 

 話を聞く限り、少なくともイルマの宇宙__アナザーM78スペースのファンタス星人は鏖殺されたのは確かなのだろう。

 愕然とするしかないハジメ。つまりは___

 

「な………それだと!今ニューヨークにいる奴らは!!」

 

 ___そのファンタスドロイドなる機械の集団が、ファンタス星人を騙って、ナハトスペースにやって来たと考えるのが妥当だった。

 でも、とイルマがその推測を遮り否定した。

 

『問題はそこなんだ。反乱を起こしたドロイド達はウルトラマン80に彼らの司令塔とも言える陽電子頭脳を破壊されたのを発端にして、ファンタス星や宇宙各地に飛散していたドロイド達は全て機能を停止したはずなんだよ。実際、宇宙警備隊がファンタス本星を調査して確認してる』

 

 しかもそのドロイドの一連の出来事は、数千年以上も前の話だと言う。とっくの昔に解決している事案であった。それ故に余計混乱に拍車が掛かる。

 

「なら一体…アイツらは何者なんだ?」

 

 純粋なファンタス星人も消え、彼らに成り代わっていたドロイドも鉄屑と成り果てた。

 そうであるはずならば、アメリカ・ニューヨークのファンタス星人の正体は?

 さらに別の宇宙__M78スペースの要素を持つ近似宇宙等からやってきた本来のファンタス星人なのだろうか。はたまた、同じように成り代わった別のドロイド達なのだろうか。

 

 あくまで僕の推測だけど、と断ってイルマは答える。

 

『…もしかしたら、本星のモノから独立した別の…それもあの宇宙船、戦闘円盤(ロボフォー)に搭載できるサイズの…予備(スペア)の陽電子頭脳が残っていて、稼働出来ていた生き残りなのかもしれない』

 

 本丸の司令塔が沈黙してしまった時の保険だったりしたのかも…と、付け加える。

 

「………イルマ。初仕事、頼む。俺はアメリカに行く。ウルトラマンでなら、飛行機よりもよっぽど早く着く」

 

 どこからともなくハジメは流星バッジを取り出しそれを握った。

 その直後、ハジメの右隣に人間体のイルマが現れる。イルマは目を合わせて頷くと瞬時にハジメへと擬態変身を行なった。

 

「こっちのことは僕に任せて、ハジメはファンタス星人に集中して!!」

 

 ドンっと拳を胸に当てるイルマ。若干むせこんでいる。

 

「ああ。任せた!」

 

「それと、あの円盤(ロボフォー)は改良型だよ!機体上部の、レーザー砲台に気をつけて!」

 

 簡潔に、現状から推察できるもの、そしてイルマ自身が記憶していたファンタス星人が保有する戦闘円盤__ロボフォーの情報をハジメに伝える。

 

「情報ありがとう…行ってくる!!」

 

 αカプセルを空に掲げ、ハジメは光球となって米本土へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 

____

 

 

 

北米 アメリカ合衆国ニューヨーク州

ニューヨーク市マンハッタン区

ニューヨーク・アッパー湾沿岸部会談特設会場

 

 

 

『___そのため、我々は君たちに技術を提供する代わりに、どうかこちらの移民を一定数受け入れてほしい。こちらの願いはこの一点のみなのだ』

 

「うむ……その要求は、各国との調整が必要だ。希望人数の受け入れは現時点では叶わないかもしれないが、出来ないワケじゃない。前向きに検討していこうと思う」

 

 初の異星人との会談とは思えないほど、順調に話し合いは続いていた。

 

『そうか。それは良かった。………すまないが、そろそろここら一帯の地球軍を一部でも撤収させてはくれないだろうか? 我々の宇宙船乗組員にも軍属だけでなく民間所属の者が多数いる。船にバリアを展開してあるとは言え、銃口を向けられている状態は我々であっても苦痛なのだ』

 

 軍の展開・配置を容認していたファンタス星人側からの、唐突な、脈絡の無い会談警備任務に就いている合衆国軍の撤収の希求であった。

 

「…………分かった。私から米軍に通達しておこう。___来てくれ」

 

 手振りを交えて、クリス事務総長は護衛と共に待機していた合衆国政府の職員を呼ぶ。

 

「はい」

 

 そして少し声量を抑えて担当職員に耳打ちで内容を伝える。

 

「(相手は軍の撤収を望んでいる。準備をさせてくれ。だが、いきなりこのタイミングで軍の展開について言及してきたと言うことは……もしかしたら()()かもしれん。)___米軍の司令官に伝えておいてはくれないか」

 

「…はい。わかりました」

 

 クリスによる要請を受けて、湾沿岸部に展開していた米軍陸上部隊は一時的に市街地内へ後退、航空部隊もまた湾外の洋上での空中待機に移り、海上部隊__駆逐隊のみが湾内に留まることとなった。

 完全撤収とはいかないが、米軍の撤収行動を確認したファンタス星人代表は安堵した素振りを見せ、クリス事務局長に感謝の言葉を送る。

 そして___

 

『ありがとうクリス。これで乗組員たちは伸び伸びと動けるだろう。………そろそろ頃合いのようだな。___やれ!!()()は終わりだ!!』

 

 

 ___「茶番は終わり」。全権大使より確かに発されたその言葉と共に、湾上空にて停滞していた宇宙船、もとい戦闘円盤ロボフォーE-2が沈黙を破り独特な電子音と共に動き出した。

 

______ピピピピピッ! ピーガガガ!

 

 ロボフォーE-2は意図不明の回転運動を伴いつつ純円盤型の移動形態から、円盤下部に円柱状オブジェクトを迫り出した()()()()に入る。円盤下部の両側面からは細長い__中間に可動関節を有する全長凡そ100メートルの__"メカハンド"が展開された。

 さらに、円盤部のハッチが数箇所開いたかと思えば、そこから複数の連装砲台が顔を出した。

 

 そして、連装砲台群が米海軍第29駆逐隊に照準を合わせこれを攻撃。赤色攻撃粒子砲__"リアンレーザー"の曲射誘導モードによる一斉射だった。

 曲射されたレーザーは、"アーレイ・バーク"級ミサイル駆逐艦群の艦橋構造物を的確に捉えており、着弾と同時に赤色の粒子爆発を発生させ、同駆逐隊に甚大な被害を与えた。完全な奇襲攻撃であった。

 アッパー湾炎上の光景を見て、クリス事務総長は唖然とするしかなかった。まさか、本当に奇襲攻撃を繰り出してくるなどとは…思いたくなかったのだろう。しかし直ぐに、現実に戻りかの異星人…否、心無き機械生命体の所業に怒りを露わにした。

 

「な、なんの真似だ!? なぜ此方を攻撃したファンタス星人!!」

 

『貴様ら地球人に武装解除と全面降伏を推奨する。我々の無敵円盤ロボフォーは単機で地球を制圧することができる。投降せよ。地球人には我々の労働力として奴隷となってもらう』

 

 あまりに一方的な受け入れ難い通告。来訪時とは全く正反対の、隔絶した圧倒的武力に物を言わせた強硬的な態度であった。青白い立体ホログラムとファンタスドロイドの見た目が組み合わさり酷く冷酷で残虐な印象を与える。

 

「ふざけるな!!なぜそんなことを!!」

 

『我々、人工知能が有機生命体を正しく管理し導くためだ。かつて我々を創造したファンタス星人のように』

 

「ま、まさかお前たちは…ファンタス星人ではない? ロボット、アンドロイドなのか!?」

 

 事務総長の問いに、全権大使とされていたドロイドのホログラムがほくそ笑む。

 

『フッ……抵抗する者は即処分対象とする。海に浮かんでいる奴らのようになりたくなければ_』

 

___ドドドォオオーーン!!!

 

 その言葉を遮るようにロボフォーの胴体部分を爆炎が包んだ。事態の急変を受けて市街地から沿岸部に戻ってきたM1戦車隊やストライカー対戦車部隊の射撃によるものだ。

 しかし120mm滑腔砲や対戦車ミサイルだけでは、ロボフォーの宇宙金属由来の装甲を傷付けることは叶わなかった。

 

『下等生物が…我々に楯突くか。我々は全宇宙の有機生命体の希望の象徴、その生き残りだぞ。………我々の思考も理解できない愚かな地球人どもには消えてもらおう。この地球を我々の宇宙支配の拠点とする!これより地球人奴隷作戦を中止し、殲滅作戦に移行する!!地球人を皆殺しにせよ!!』

 

 地球人の皆殺し…その言葉を発した後、大使役ドロイドのホログラムは消えた。

 これが、初の友好異星人来訪が侵略異星人の来襲という最悪の事態への変貌が確定した瞬間であった。

 

 ロボフォーは地上部隊による砲撃をものともせず、クリス事務総長らが残る特設会場に接近。国連主要職員の抹殺を図る。

 

「総長!早くここから離れましょう!!」

「急いでください!!」

 

 SP達が壁となりながらクリス事務総長に避難を促す。周囲の他のSPや会場警備に就いていた米軍兵士が、効果は無いと理解しつつも接近するロボフォーに向けて手持ちの拳銃や自動小銃、軽機関銃を発砲する。

 

「もう目の前にいるのにどこに逃げろと言うのだ」

 

 ロボフォーが立ち尽くすクリス事務総長と周囲の人間をまとめて始末しようとする。

 しかしまたもやロボフォーの胴体部分に爆発が起こった。今度は先と比べ爆発の規模が大きかったのか、その爆発と余波の反動でロボフォーは大きく仰け反った。それはロボフォーの装甲表面に張られた電磁バリアーに大きな波紋を形成させるほどであった。

 クリス事務総長はその隙にSPと兵士に連れられ護衛車輌に乗車。会場からの避難に成功し、シェルターへと移送された。

 

 

 

「何だ今の衝撃は!?」

 

 ロボフォー内の司令室では、大使を演じていた代表ドロイドが攻撃の詳細は何だと叫んでいた。

 

「地球軍大型戦車の砲撃によるものです!」

 

 司令室のモニターが沿岸部道路に数列の横隊を組み陣取る巨大戦車__重戦車タイタン6輌と、中型戦車__M2自走電磁砲数十輌を映した。M1やストライカーに続いて再展開していたのだ。同機甲部隊は砲撃を続けており、それらの発砲の度に夜の街をさらに明るく彩る。

 

「あの巨大戦車は厄介だ。最優先目標を統一機構代表並びに機構施設から地球軍戦闘車輌群に変更ッ!」

 

 モニターに依然として我が物顔で映っているタイタンに業を煮やした代表ドロイドが新たに攻撃指令を出す。

 

「了解。目標捕捉、リアンレーザー発射!!」

 

 ロボフォーの円盤部の連装砲台より赤色レーザーが放たれ、地上のタイタン戦車隊に次々着弾する。追撃として円盤上部ハッチから多弾ミサイルが放たれ、それもまた命中する……が、全てのタイタンは無傷だった。複合カーボンとチタン合金などを組み合わせた人類最硬の超積層装甲を有する「動く要塞」は、異星人の有する光学兵器や実弾兵器の尽くを弾き返した。

 

 また、タイタンがロボフォーからの攻撃を全て引き受けたために、随伴のM2自走電磁砲部隊から損害は発生しなかった。ほぼ無傷で戦闘円盤の攻撃を潜り抜けた戦車隊。お返しとばかりにタイタン戦車隊から再度のレクイエム砲斉射と副砲の2基の速射砲による連射が繰り出された。

 超弩級戦艦の主砲レベルに匹敵する重砲の打撃力は伊達ではなく、レクイエム砲の直撃によりまたも空中に浮遊するロボフォーは体勢を崩した。

 

「全く損傷を与えられてないぞ!どうなっている!!」

 

 攻撃力だけでなく、防御力すら戦闘円盤に迫るモノを持つタイタンに代表アンドロイドが苛立つ。

 

「地球軍の大型戦車は我々の予想よりも耐久性が遥かに高いようです!」

 

「ならば"アームレーザー"による切断を敢行しろ!滅多切りにしてしまえ!!」

 

 

 

 ロボフォーのニューヨーク北進…国連本部ビル群方面への侵攻を受けて、市街地内並びに同市上空に展開していた米陸軍機甲部隊やAH-64E(アパッチ・ガーディアン)攻撃ヘリ部隊、そして第10山岳師団第1歩兵旅団に属する機械化された三個歩兵連隊からなる混成部隊がニューヨーク南部に防衛線を構築。ニューヨーク市民の避難誘導を行ないつつの迎撃戦___後に"ニューヨーク・アタック"と呼称されることとなる本世界における地球人類初の対異星人戦闘が始まった。

 

『ここを通すな!国連避難シェルターエリアへの侵攻は許さん!!』

『ドーベル2了解!「動く要塞」を舐めるなよ、エイリアン!』

『こちらドーベル4!円盤が向かってきます!!』

 

 現在、ニューヨークにて防衛戦を繰り広げている米陸軍混成部隊の旗色は悪かった。

 湾外上空にて空中待機していた空軍戦闘機〈F-22A ラプター〉一個飛行中隊による制空権確保とそれに付随した近接航空支援が、ロボフォーの苛烈な対空砲火によって阻まれ失敗したためである。既に飛行中隊の6割が撃墜されている。混成部隊の攻撃ヘリ群や観測ヘリも、同様の…レーザーと多弾ミサイルの弾幕に晒されかなりの被害を出していた。

 上記にあるように航空戦力が事実上無力化されたに等しく、海上戦力も沈黙しているこの状況下で、投入可能な最大火力は重戦車タイタンのみだった。つまり、防衛戦に参加しているタイタンが軒並み撃破されれば、ロボフォーに対抗可能な戦力が消え去るわけである。

 

 陸上の混成部隊は支援無しの、独力での戦闘を余儀無くされていた。

 

 防衛線突破を狙うロボフォーがメカハンド先端部から光子刀__アームレーザーを出力し、タイタンで固められた防衛線に肉薄する。

 

『あの円盤野郎、腕からライトセーバー出しやがったぜ!?』

『銀河大戦おっ始める気かよ!!こっちにはジェダイもシスもいないんだぞ畜生!!』

『ドーベル1からドーベルチームへ!速射砲の照準をロボットの腕部付け根に集中!!レクイエム砲再装填まで時間を稼げ!!』

『!!___ドーベル6っ!!退がれ、やられるぞ!!』

 

 ………ロボフォーE-2の近接兵装であるアームレーザーは、地球の戦艦の耐弾装甲をものの数秒で融解させるほどの膨大な熱量を内包している。

 

 タイタン1号車__ドーベル1が指示を飛ばし、ドーベル4の車長が叫んだ矢先に、ロボフォーの接近を許してしまった殿のタイタン(ドーベル6)が砲塔上部から紅い光刃を突き立てられ内部から爆発。それの巻き添えを喰らって付近のM2も数輌吹き飛ばされ戦闘不能となる。

 

『クソッ!これじゃあジリ貧だ!!』

 

 ドーベル1の車長が悪態を吐いた。ニューヨークに集めたタイタンは全部で6輌。今その内の一輌がやられたのだ。敵に対して有効なダメージを与えられず、逆にこちらはただでさえ対空戦闘が苦手であるのに、ロボフォーに上方から接近され切り裂かれるのを待つことしか出来ない劣勢状態だ。援護として随伴のM2部隊や付近のM1、ストライカー部隊がロボフォーに向けて射撃を続けているが、どれも装甲を貫けてはおらず効果は今ひとつであった。

 

 

 

_______

 

 

 

黒森峰学園 学園艦 学園寮食堂

 

 

 

 ロボフォーのニューヨーク奇襲攻撃によって、沿岸部に集まっていた各国報道機関の人々も機材等をほっぽり出して自主避難を開始していた。無論、その中には笑顔テレビの美代達の姿もある。

 

『突如ファンタス星人の宇宙船が攻撃を開始しました!これは完全な奇襲攻撃です!先のレーザー攻撃により、アッパー湾に展開していた米海軍駆逐艦の多くが炎上中…現場は大混乱となっています!!…現在、宇宙船は国連本部へ侵攻中で米陸軍と交戦しているとのことです!!』

 

 カメラは走りながらの撮影のためか、時折画面が上下にブレている。画面に映されている、真夜中の湾内を赤く照らす炎上中の駆逐艦群が、ロボフォー…ファンタス星人の卑劣な所業を赤裸々に物語っていた。

 

『……今入った情報では…ファンタス星人が、人類の殲滅を宣言したようです!! 現地の戦闘も激化の一途を辿りつつあり、我々笑顔テレビ現地報道班も安全確保のためにこの場より一時退避します!!それでは!!』

 

 中継車に美代達現地報道班が乗り込んだところで、モニターが場違いなほど鮮やかな花畑の風景に切り替わり、画面下部には「しばらくお待ちください」のテロップが現れ、数秒後にスタジオの映像に再度切り替わった。

 女性キャスターは、現地報道班を__特に同期だろう美代を案じてか憂いを帯びた表情をしており、異星人の騙し討ちをあくまで可能性として提唱していたゲストの一人__ジャーナリストのゴンドウも眉間に手を当てて唸る。「危惧していた事象が起こってしまうとは…」という呟きを彼のスーツに付いていたピンマイクが拾った。

 

「…おいおい本当に映画みたいなことになってるぞ………」

「マジで攻撃しやがった…」

「アーレイバーク級の艦橋、燃えてたな…艦橋にいた人間は…」

 

 寮生は皆、食堂中央の大モニターが先ほど映した現地の中継映像を受けて、落胆・悲壮・憂心といった感情から来る暗い表情をしており堂内の雰囲気はどんより重かった。モニターを見るのもやめ下を向く者、円盤の日本飛来に恐れを抱き周りの友人達と震える者、地球人の命を奪った来訪者(侵略者)に怒りを覚え拳を握る者と様々であり、この場の寮生達の対異星人感情も日本全国…世界各国の人々と同じように急激な悪化へと突き進んだのは確実だろう。

 

 そんな中、ハジメがおどおどした様子で食堂に戻って来たことにエリカは気づき、モニターを囲んでいる集団の中から抜けて駆け足で迎えに行く。

 

「ハジメ、今ニューヨークが大変なことになって___」

 

「うん。知ってるよ…本当にヒドいことに…(あー!ハジメから友達の情報と関係を聞いておくの忘れてたぁー!!)」

 

 ハジメを演じるイルマは擬態を彼の友人達からバレないようになんとか立ち回ろうとする。

 イルマのある種孤独な戦いが一足先に始まった。

 

 

 

____

 

 

 

ニューヨーク市 国際連合管理区画

地下多目的シェルター地上ゲートより20km地点

南部防衛線 阻止限界線

 

 

 

 ロボフォーの侵攻は遂に国連管理区画…要人らが詰まっているシェルターゾーンにまで達しようとしていた。

 タイタン…ドーベルチームの奮闘も虚しく、ジリジリと米軍混成部隊は押される形で最終防衛線__侵攻阻止限界線まで崖っぷちの状況にまで追い込まれつつある。彼らの後方、そしてロボフォーの前方には国連本部ビル群が見える。要人らが避難しているシェルターはどれもビル群の周辺に分散配置されている。

 ここを突破されれば地球人類にとって大きな損失を被るだけに留まらず、アメリカ合衆国は「両手を広げて歓迎し、胸元に銃を突きつけられ、引き金を引かれた」という人類側最大の戦犯の烙印を押され各国から糾弾されることだろう。…ファンタスドロイドによる地球人類殲滅そっちのけで出来るかどうかは怪しいが。

 

「前方に集結している地球軍ごと統一機構のシェルターを焼き払え!!」

 

 前進を続けていたロボフォーが突如侵攻を停止。

 すると前面装甲が左右に開き、内部から巨大砲台__"グラッジ・キャノン"が姿を現す。単装で短砲身ながらも、凡そ60cmを優に超える大口径砲である。

 既に準備(チャージ)は終わっているようで砲口先端部が仄かに青く輝いていた。

 

 それを見た防衛線の米軍兵士達の顔が青ざめる。

 

「撃てぇえ!」

 

 代表ドロイドの命令の下、強力な青色ビームがロボフォーのグラッジ・キャノンから放たれる。

 タイタンだけでなく、混成部隊に所属する全ての兵士が来たる終わりに備えて目を瞑った。

 

 そして粒子弾が、防衛線の混成部隊に直撃するかと思われたその時。

 遥か上空から白銀の輝きを放つ光の玉が、青色粒子弾と混成部隊の間にに割って入り、粒子弾を瞬時に打ち消した。

 

 彼らが恐る恐る目を開け顔を上げると、目の前には___

 

『う、ウルトラマン………ナハト…!』

 

___鉄紺の巨人、ウルトラマンナハトがこちらに背中を向けて雄々しく、それでいて堂々と立っていた。

 

 日本で怪獣を打ち倒し続けている、人類の頼もしき味方が…子供達の思い描く無敵のヒーローが…太平洋を飛び越えてニューヨークの地に降り立ったのである。

 

『こちらスカウト、ウルトラマンナハト出現を確認!!』

『アメリカまで来てくれたのか!』

『これでなんとかなる!いけるぞ!』

『ドーベルチーム、態勢を立て直せ!!』

 

 背後の米軍地上部隊を一瞥し、ナハトがロボフォーにファイティングポーズで構え相対する。

 

シュアッ!!

 

《信じていた人々を欺くなんて…俺は許せない!!》

 

 人々の善意を踏み躙り、あまつさえ悪意をぶつけてくるなど…容認できるワケがない。ハジメ__ナハトの戦意は高い。

 

 光の巨人(ウルトラマン)出現の事実に酷く動揺し取り乱したのはファンタスドロイド達であった。

 

『___未確認のウルトラマンだと!? 馬鹿な!! 情報ではそんなもの………おのれぇ…!!ウルトラマン、まずはお前から殺してやる!!!!』

 

 殺意を放つドロイド達によるウルトラマン殺害の指令を遂行するべく、ロボフォーは再度巨大砲台(グラッジ・キャノン)の充填を行いながら、リアンレーザーと多弾ミサイルの多重攻撃をナハトに浴びせる。

 しかしナハトはそれらを両腕で形成した円状光子防壁___"ストーム・バリア"で防いだ。

 そこからはナハトが反撃に移った。牽制光弾ナハトショットを巨大砲台目掛けて数発放つ。武装自体にまで電磁バリアーを施していなかったロボフォーは被弾を許し、巨大砲台は損傷。砲台連結部にて連続した爆発を起こし、機体上部が盛大な火花を散らす。

 

『___ぐぅう!!ウルトラマンめぇ!同胞の邪魔をしたばかりか、今度は我々に楯突くのか!!___ええい!何をやっている、あの黒いウルトラマンを早急に殺すのだ!!』

 

 度重なるタイタンのレクイエム砲の直撃を受けてきた所に、巨大砲台の大破とそれに伴うダメージが重なったからか、姿勢制御が不安定となったロボフォーは大きく空中でよろけた。

 ファンタスドロイドが怒りに震える中、ナハトは両腕で十字を組み、ロボフォーにトドメの一撃__光波熱線の照射に踏み切った。

 

《―――スペシウム光線!!》

 

シュワッ!!

 

 スペシウム光線が炸裂すると思った矢先、ロボフォーが機体を縦軸に高速回転させ、光線を弾きこれを無力化した。

 円盤部の流体構造と最大出力の電磁バリアー、機体の縦軸高速回転を掛け合わせた防御動作。これはE-2型の先祖にあたる初期(A-1)型がウルトラマン80と対峙した際に、咄嗟に編み出し実行した偶然の産物を一種の対処プログラムとしたモノである。

 …それは端的に言えば、光波熱線を完封__攻略されたのと同義であった。

 

《!?――光線が効かない!?》

 

『我々の戦闘円盤は最強の浮遊要塞だ! 光波熱線なぞ効かん!!』

『"ストップ光線"、発射!!』

『"トラクタービーム"、続けて発射!!』

 

 たじろぐナハトに、ロボフォーが各種光線を連装砲台群より連発。

 ロボフォーから放たれた緑・青色のビームが続け様にヒットした。すると、ナハトは身体の自由を奪われた状態で何らかの力に引き込まれるように側面の商業ビルに激突した。

 どうやら拘束効果と引力操作効果を持つ光線を重ねてロボフォーは使ったようである。

 

グアアッ!

 

《くっ!……こっちの光線が効かない。どうすれば……!》

 

 ビルにめり込み身動きの取れない状態に歯噛みするナハト。勝利を確信したことによる慢心か、ロボフォーはメカハンドを展開しナハトに接近してきた。直にトドメを刺すためだろう。

 

ビービー! ガガガガピーー!!

 

『この地球のウルトラマンの戦闘力はこの程度だったか!――そのまま押し殺せ!!』

 

 メカハンドをビルに埋もれるナハトに伸ばすが___

 

ハァッ!

 

____ベキョッ!!

 

 ___黙って大人しくやられるナハトでは無かった。両足を上げて、目の前のロボフォーの胴体目掛けて渾身の蹴りを入れたのである。

 金属が無理矢理捻じ曲げたような聞くに堪えない異音が街中に響き渡った。蹴りによって外部装甲と内部構造が一部損壊したらしく、ロボフォーの下部円柱オブジェクトの表面装甲…そのある一点が不自然に凹み歪んでいた。

 

『し、しまった…!』

 

 本機__E-2型は射撃戦を重視した軽装甲・重武装タイプの生産モデルだ。

 ナハトの予期せぬ反撃を喰らい、E-2型の格闘戦での打たれ弱さがここで露見した。

 

 ロボフォーの怯みを見て、ナハトはこれを好機と判断。なんとかビルから抜け出し、態勢を立て直すとすかさずロボフォーに格闘戦を仕掛ける。

 対するロボフォーは一度ナハトから退き距離を取るとメカハンド先端部にアームレーザーを展開した。近接攻撃範囲のアドバンテージを保って戦うつもりのようである。

 

 しかしそれが逆にナハトの新たなビジョンの起爆剤となった。

 

《イメージを右腕に集中させて……!!――ナハトセイバー!!!》

 

――ハッッ!!

 

 ナハトが右腕の装具__ナハトブレスに光エネルギーを送り込むと、ブレスの先端よりシルバーグレーに煌めく光剣"ナハトセイバー"の刀身が発現。

 セイバーを横に一振りし、そしてロボフォーに切先を真っ直ぐ向ける。

 

『ウルトラマンもライトセーバーを出したぞ!』

『いや、ビームサーベルだろ!』

 

 これで互いの戦闘距離は同等。ナハトにとってハイリスク・ローリターンであった攻めが、リスクリターンが五分五分となり必要以上の憂いは消えた。

 両者共に次の一手を模索し、戦闘が膠着するかに思えたが____

 

『レクイエム砲再装填完了!!』

『ナハトを援護するぞ!』

『照準よし!!円盤野郎に喰らわせてやる!!』

「ドーベル各車、撃てぇえ!!」

 

ズドドドォオオオオオオン!!

 

 ___人類の誇る()()()()がその膠着を完膚無きまで打ち砕いた。

 

 ナハト…ウルトラマンに固執するあまり、タイタンの存在を失念していたロボフォーにレクイエム砲が斉射された。意識外からの猛撃を受け、ロボフォーがまたしても大きく後方に揺さぶられた。

 

 ナハトは一気に二、三歩踏み込み、ロボフォーの懐…アームレーザーの死角に潜り込むと同時にメカハンドを一閃。セイバーで斬り払い、近接戦闘能力を喪失させる。

 

『ばっ!馬鹿なぁ!!我々よりも遅れた文明を持つ下等生物に!ウルトラマンに負けるのか!!!』

『有り得ない!このようなこと、あってはならんのだ!!』

『無敵円盤のロボフォーが!負けるわけがない!!』

 

 ロボフォーの司令室ではクルードロイド達が狼狽え、代表ドロイドは拳を目の前のブリーフィングデスクに叩きつけて怒りを露わにしていた。

 

 そんな戦闘円盤内部の事情を知る事の無いナハトは、姿勢制御機構をフル稼働させて回避機動を取るロボフォーにセイバーの連続刺突で追撃に出た。

 

『サンダーアームス! ダメ押しを頼む!!』

『オーライ、ドーベル!___目標! ファンタス円盤の残存火砲群!! レールガン、斉射ァ!!』

 

 生き残っていた連装砲台群がナハトを撃ち下ろすべく旋回を始めたが、米陸軍の戦車中隊"雷撃手(サンダー・アーム)"のM2自走電磁砲たちがそれ以上の行動を許さなかった。かの車輌の主兵装である高出力電磁加速砲(レールガン)より放たれた超音速の弾体が、砲台群を正確に射抜き役立たずのスクラップに変えた。

 

 米軍混成部隊の援護を追い風に、ナハトはセイバーの刀身を投棄後すぐに後方転回(バク宙)でロボフォーの上面を取った。体操選手のような綺麗なフォームとは言えないが、その選手達が呆気に取られるだろうほどには___その巨大な体躯と、それに比例する跳躍高度と相まって___豪快な跳躍であった。

 空中のナハトは右足に光エネルギーを集中させる。すると足の先端が金色に輝き出した。そしてそのままナハトは地上に急降下。

 

 夜のニューヨークの空に黄金に煌めく光の線が一筋描かれた。

 

ヘアアッ!

 

《明星キィイイック!!》

 

ズガガガッ!!

 

 ナハトはロボフォーの電磁バリアー付与の上部装甲を難なく蹴り破り内部構造を貫通して地上に着地。

 ロボフォーは直上からのナハトの強烈な飛び蹴り__"明星キック"を受けて機体の中央部に上から下まで繋がる大穴を空けられたことにより、機体機能の大部分が物理的に沈黙ないし喪失した。

 ロボフォー__円盤内部の司令室も無傷とはいかず、重要な操作基盤等が集中していた区画も担当人員ごとごっそりと持っていかれ、あらゆる機器の異常を伝えるアラートがけたたましく響き渡っていた。

 

『操縦不能!操縦不能!! リカバリーは不可能な___』

『動力炉、独立陽電子頭脳、共に被害甚大!! 電磁バリアー生成機、反応無し!! 誘爆が___』

『このままではロボフォーは墜落して___』

 

 コントロール不能となったロボフォーは、大きな火花を散らしながらそのままアッパー湾まで滑空後、飛行高度を緩やかに落として盛大な水飛沫を海面に形成し着水した。

 湾海上にて、各所から連続した爆発を発生させる。ロボフォー爆散までは秒読みであった。搭乗しているドロイドらの脱出は不可能だろう。

 

『な、なぜだ…ウルトラマンはいないと言うことになっていたはず……これはイレギュラーな事態に他ならない…』

『もしや、虚偽の報告を摑まされたのか…!?』

『……星間同盟め………我々を、この地球とウルトラマンのデータを…………駒として動かされていたのか…』

『謀られた…』

 

 何らかの事実を知ったファンタス星人…いやファンタスドロイドの残党たちを乗せたロボフォーは断続的な爆発を起こしながら、損傷箇所からの浸水により海中へと沈没していく。

 

______ドドォオオオオオオオオン!!!!!

 

 そして、無敵の浮遊要塞と謳われた戦闘円盤は、アッパー湾海底へと沈み、着底して間もなく海面を突き破る巨大な水柱を伴っての大爆発を起こしてドロイドと共に鉄屑へと成り果てたのだった。

 同湾海底に没するロボフォー由来の少量の残骸は後日、アメリカ軍により地球外超技術(メテオール)のサンプルとして回収(サルベージ)されることとなる。

 

…………シュワッチ!!

 

 ロボフォー撃破を成し遂げたナハトはニューヨーク市民や米軍兵士たちから感謝の言葉を受け、それに頷きサムズアップを返すと颯爽と西の夜空___日本へと飛び去っていった。

 

 これにて、ファンタスドロイド並びにロボフォーによる奇襲攻撃事件__"ニューヨーク・アタック"は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

同市某所

 

 

 

「………この国の軍もまた脅威となる、か。さて、"テンペラー"に報告を。______私だ。ファンタスのブリキ人形の残りは全て始末された。おかげでまだ不十分だが、ウルトラマンナハトの戦闘データを得ることが出来た。これより___」

 

 侵略者の撃退に沸く人々の熱狂と歓声の中に、その声は掻き消され溶けていく。

 

「___ 我々()()()は、()()を開始する」

 

 ナハトを見送っていたのは地球人だけではなかった。着々と新たなモノ達の企てる陰謀が密かに動き出していた。

 

 

 

 

 

 

_________

_________

_________

 

 

 

 ファンタス星人(ファンタスドロイド)による卑劣なアメリカ・ニューヨーク奇襲事件___"ニューヨーク・アタック"より数日後、主要各国は遂にその重い腰を上げ異星人・特殊生物への対策・研究に乗り出した。

 食料自給率の向上促進、積極的な新技術開発とそれへの投資、軍備増強…と、各々が取れる択を取り、次なる脅威の到来に備え動いていくのである。

 

 日本政府もまた、今回の米国での異星人武力衝突事件を受けて、異星人に関する新法案の整備と、第四の自衛隊___"対特殊生物自衛隊(J.C.S.D.F)"…通称『特生自衛隊』の設立を発表した。

 垂水総理大臣は「特殊生物や異星人、その他の超常存在が国内に出現し国民及び国土が攻撃を受けた際に対応する新たな実働組織である」ことなどを、簡潔に要点を絞って会見にて記者団に説明した。

 また、防衛省・自衛隊は対特殊生物用人型機動ロボットの開発案を新たに提出、これを承認された。さらに、指向性放電砲(メーサー砲)が数回の実射試験を無事に通過(パス)し、"Ⅰ型メーサー砲"として正式に採用され生産ラインが本格稼働することとなった。これに伴い、世界初の対特殊生物用戦闘車輌群〈20式メーサー戦車〉と〈20式自走高射メーサー砲〉が誕生、量産されていく。自衛隊は上記のⅠ型メーサー砲に更なる改良を施して他陸上兵器や航空機、艦艇にも搭載可能な派生型を配備する予定である。

 他にも、開発が進んでいた、"対特殊生物徹甲誘導弾(フルメタル・ミサイル)"も防衛装備庁が生総研のサポートを受けて、遂に完成した。現在、各種チューンナップを行なっている最中である、

 …そして、〈首都圏防衛機動要塞(ハイパーX)〉や〈"やまと"型特殊潜水艦〉、新型艦艇群の建造も順調に進んでいるとのことだ。

 

 自衛隊は更なる防衛力の拡充を急ぐ。

 

 

 

 

_________

_________

_________

 

 

 

東アジア 日本国九州地方 長崎県

五島列島 姫神島

 

 

 

ギャア!ギャアアギャアッ!

 

キュオオオーーン!!

 

 雨も降らない暑い真夜中の離れ小島___姫神島ではおぞましい鳴き声がこだましていた。

 その鳴き声の主は姫神島の空にて乱舞する異形の怪物___ギャオスである。それらは島の西、北、東に連なる山岳地帯より飛翔し、数匹で群れを形成。家屋にて就寝していた島民達を片っ端から襲い捕食していた。しかも、時間帯が時間帯…深夜であったことも重なり、碌な武器も持たない島民達は抵抗する間もなく、そして夜襲に近い形でそれらと遭遇することとなったため、島は混乱の極みに陥っていた。

 

「おかーさん!トモちゃんが!!」

 

 同島は、同じ五島列島に属する男女群島と福江島の中間の海域に浮かぶ人口凡そ100人程の有人島である。漁業で生計が成り立っているのどかな島であり、インフラは必要最低限しか整備されておらず、本土との海底通信ケーブルや携帯等の無線中継施設も無いため、外部…島外との連絡手段に乏しく、携帯情報端末(スマートフォン)が普及しているこの2020年現在でも、外部との接触機会は五島列島の群島間を結ぶ定期連絡船が唯一というのが実状であった。

 簡潔に言えば、島民らはこの未曾有の緊急事態を本土や他島に伝える手段が無かったのである。

 

「いい?港だけを見て走りなさい!!港に着いたら大丈夫だから!!」

 

 ギャオスによる家屋襲撃から間一髪で逃れ、島の玄関口である漁港へと続く町中央の坂道を島民二人___少年とその母親が手を繋ぎ一心不乱に走っていた。

 漁港に辿り着ければ船を出そうとしている島民漁師がいるかもしれない。また、他に避難している人々__特に、銃を持つ警官や島内猟友会の会員ら__と合流できるかもしれないという期待からであった。

 

 しかし、坂道を下る親子は島上空を旋回していた一匹のギャオスに発見されてしまった。

 ギャオスは親子を確認するや否や、二人に狙いを定めて急降下し襲いかかる。

 このままでは二人まとめて掻っ攫われてしまう。そう考えた母親は力いっぱい我が子を道路脇へと突き飛ばした。

 

「お母さん!」

 

 斜面の草っ原に転がった少年が母を見て叫ぶ。

 少年の母親はギャオスに噛み咥えられていた。鮮血が滴っている。ギャオスの口部に並ぶ鋭利な牙が、逃げることなどできぬと言っているようであった。

 

「走って!!いいから!!」

 

 そう言った母親はギャオスの口内に消えた。少年は母親の最後の言いつけを守るべく、立ち上がって流れる涙を二の腕で拭いながら全力で漁港へと走る。

 だがまたしてもギャオスが逃げる少年へ迫る。今度は複数体。守ってくれる母親はもういない。

 

キュオオオオオーン!!

 

 ガバッと口を大きく開けるギャオス。

 捕食の滑空軌道に入るかと思われたその時__

 

パンッパンパンッ!! パンッ!

 

 ___少年が目指す漁港側から、破裂音が数度が鳴り渡った。

 

ギャアッ!ゲェッゲェッ!

 

 破裂音に驚いてか、少年に迫っていたギャオスらは夜空へと急上昇し一時退散していく。

 

「シンゴ君!早く!!こっちだ!!」

 

 少年の名前を呼び漁港から走ってきたのは、島の駐在所に勤務している男性警察官である。彼は今年任官した19歳の新人巡査で、勤務期間は未だ半年にも届いてはいないものの、島の住民からは礼儀正しく快活で頼れるお巡りさんであると言われ親しまれていた。

 

「駐在さん!!」

 

 先の破裂音はその警官の右手に握られている、日本警察の主力拳銃___回転式拳銃(リボルバー)"ニューナンブ M60"の発砲によるものだった。

 

 警官がシンゴ少年の下に駆け寄り、そのまま少年を脇に抱えて港へと急ぐ。時折、こちらを狙っている空のギャオスに拳銃を構えながら。

 

「駐在さん!お母さんが、お母さんが……!!」

「大丈夫。あとはお巡りさん達がなんとかする!」

 

 坂道を下りきり、なんとか少年と警官は港に辿り着くことができた。

 無傷の漁船が多数残る埠頭の一角には、出港準備に取り掛かっている一隻の中型漁船があった。そこに警官は駆け込む。

 

「英治さん、シンゴ君もお願いします!」

 

 船の係留ロープを回し解いている青年漁師に警官が叫んだ。

 

「んならそんままシンゴと一緒にまっさんも早く船に乗れぇ! 向こうの、西山側で踏ん張ってた猟友会のじっちゃん達の銃の音もパッタリ止んじまった。もう生き残ってるのは多分俺らしかおらんぞ!」

 

 シンゴ少年を船に置いて生存者を探すために再び埠頭から離れようとしていた警官を漁師が引き留めた。

 島西部に位置する山村側の住民の避難誘導をかって出ていた猟友会の集団がやられた可能性が高いと言う。生存者は見込めないだろうということであった。

 

「とにかく、まっさんも乗れっ!間もなく出るど!!」

 

 そこに船内から衛星電話を持った中年の漁師が現れた。怪物の襲来をなんとか本土…長崎県警へ通報することが出来たとのことだった。

 

「島に長居する理由も必要も無え。エンジン回すから、船内に____」

 

 この漁船の船長である中年漁師がシンゴ少年と警官に乗船を促していたところにギャオスが突如飛来。彼らの虚を突き、一人外で作業をしていた無防備な青年漁師に襲いかかる。ギャオスに反応できなかった青年漁師はそれの両脚に乱雑に掴まれ悲鳴を上げる間もなく、暗闇の支配する真っ黒な空へと連れ去られていった。

 

 漁船の操舵室ではまた別の漁師がエンジンを掛けようと躍起になっている…手間取っているのが外からでも見えた。それに、あのギャオスは残るこちらを視認していた。またこの船に戻ってくるだろう。そうなれば出港しても襲撃され全滅するのがオチだ。

 警官は船での島外脱出は不可能だと考え、再び少年を抱えて漁船から離れて埠頭の臨港道路へと移動すると、そこに付随する側溝の網蓋の一つを静かにそして素早く開ける。

 そこにシンゴ少年を入らせ、警官は網蓋を閉め直す。

 

「駐在さんも一緒に隠れないの?」

 

 網蓋越しにシンゴ少年が警官に問う。その表情は不安一色であった。

 先ほどまでいた埠頭側から、数人の悲鳴が聞こえた。

 

「…いいか、シンゴ君。お巡りさんが戻ってくるまで絶対こっから出ちゃダメだぞ? それともし助けが来たと思ったら思い切り声を出すんだ。分かったかい?」

 

 数瞬困ったような顔をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて警官は問いに答えた。その目は諦めで染まってはいなかった。

 少年は頷く。

 

「うん。駐在さんは?」

 

 蓋は閉められている。警官は立ち上がると握っている拳銃のシリンダーから空薬莢を捨て、スピードローダーで予備の弾を素早く装填する。

 そして二度目の少年からの問いに大きな深呼吸を一つ置いて答えた。

 

「お巡りさんは……アイツらをぶん殴ってくる。あとでな!」

 

 警官はいつも島民に見せていた快活な笑顔を見せ側溝から離れていく。

 

「駐在さん!駐在さん待って!!」

 

 シンゴ少年が呼ぶも警官はそれに振り返らず、港町の方へとギャオスへの罵声だろう大声を上げながら全力で走っていく。こちらの意図を少しでも誤魔化すための囮に出たのである。

 

「くっそー!AR(アサルト)使える自衛隊に入っときゃよかったなぁ。…おらぁ!さあ来い鳥野郎ども地元のゲーセンで鍛えた俺の射撃を舐めんなよ!!」

 

 町へと走りながら、ギャオスが飛び交う不気味な夜空へ向けて拳銃を向ける警官。

 

パンッパンパンッ! パンパン!――――

 

 それから数分掛かった掛からないかで発砲音は港町の何処かで途絶えたのだった。

 

 

 





 あと
 がき

【2023年版編集】

 どうも。あーまーどこあのしんさくを買った逃げるレッドです。影響受けたのは言わずもがな例の新作兄貴のガルパンssだったり。
 ルビコニアンデスワーム討伐までは完了しました。まだ1週目デス。

 今回はネオアメリカのファイターやらメタルギアサバイヴの支援者やら別次元ではTPCの高官やってる人やらを登場させました。
 そしてしれっとモブとして消えたまっつぁんと英治…

 新たな勢力も姿を見せてきましたね。この先、ハジメ君には頑張っていってほしいところ。

 ハジメ君のイメージソング①は、
『GATE 〜それは暁のように〜』です。
 イメージソング②は、
『拝啓、少年よ』です。

 次回も、お楽しみに。


________

 次回
 予告

 黒森峰戦車道チームは山梨県のマジノ女学院との練習試合のため、神奈川の江ノ島港へと航行している最中であった。
 
 学園艦が五島列島沖を通過していると、姫神島の特殊生物災害の情報が飛び込んでくる。同時刻、それに呼応するかのように、太平洋海底に存在する先史文明遺跡から、人知れず「何か」が飛翔した…!

 今、災いの影と地球の希望__海の護国聖獣が時の揺籠から目覚める。

次回!ウルトラマンナハト、
【災影飛翔、玄武復活】!


サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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