旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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奇怪生命体 ディーンツ

登場





第11夜 【災影拡散】

 

 

 

ガァアアアアアーーーーー!!!

 

ギャァアッギャアギャアッ!!

 

 人が消えた絶海の孤島_姫神島_に異形…怪獣達の咆哮が響き合う。

 ギャオス群残党を滅すべく、ガメラが同島漁港へ上陸。それにギャオスらが迎え撃つ構図になろうとしていた。

 

『こちらスパロウリーダー!すまない、"アンノウンⅡ"は姫神島に到達。上陸を許してしまった!通常弾による攻撃は効果無し!また、各機残弾僅かだ!!』

 

 人類そっちのけで、彼らは闘争を繰り広げる。

 ガメラはギャオスを見上げ、ギャオスはガメラの上を舞う。

 

『―――"いぶき"からスパロウ。対特生B兵装に換装する。急ぎ帰投せよ』

 

 対特殊生物用の兵装へと切り換えるため、"いぶき"航空管制がスパロウ隊に燃料弾薬の補給のため一時帰投の命令を出した。

 

 余談だが、ここで対特殊生物用兵装なるものの説明を寡少ながら挟ませていただく。

 対特殊生物用兵装とは、既存の対地・対艦・対空用兵装と同じように、文字通り敵性存在を相手にするために生まれた航空機用の武装パッケージを指すものである。

 現在、3種の同パッケージが実装されており、概要は下記の通り。

 A兵装は、各種誘導弾並びにフルメタル・ミサイル混合の汎用装備。

 B兵装は、持て得る限りの…ハードポイント、ウェポンベイ内をフルメタル・ミサイルのみにした重装備。

 C兵装は、フルメタル・ミサイルと各種航空爆弾の対地装備。

 ――のような具合となっている。これらは、今後対特殊生物武装が誕生する毎に種類や派生が増えていくことだろう。

 また、フルメタル・ミサイルが実戦配備されている規格は今次作戦発動時点では戦闘機用のみであるが、間も無く誘導弾運用車輌や艦艇に搭載可能なモノも同様に量産配備される予定だ。

 

『スパロウリーダー了解!これより帰投し、換装と補給を受け再出撃する!!』

 

 姫神島へと向かっていたスパロウ隊を示すレーダー上に映る友軍表示の8つの光点が遠ざかっていくのをアルバトロスリーダーは確認していた。

 

「……アルバトロスリーダーから"いぶき"へ。そちらでも把握している筈だが、現在大型特殊生物…"アンノウンⅡ"と()()()()()()()残存の鳥型9体が交戦中。鳥型にはレーダーに反応しない個体が多数紛れている。今後の指示を乞う」

 

――ゴオオオオオオオ!!!

 

 島上空で編隊を組み、大きく旋回して巨大存在の戦闘の推移をアルバトロス隊は注視していた。

 先のギャオス一掃で、少なく無い弾薬を同隊は消費している。指示次第で残りの弾薬を有意義に使うか、即座に帰投できるよう、機を狙っていた。

 

『―――"いぶき"管制よりアルバトロス。今後我が国が被る被害を考慮した結果、梅津郡司令は優先攻撃目標を"アンノウンⅡ"とすることを決定した。鳥型は数を減らしている。優先目標はあくまでも“アンノウンⅡ”だが、撃滅目標は鳥型も例外ではない。支援目標であった上陸部隊は海岸より離脱を完了しており、民間ヘリも作戦指定空域から距離を取りつつある。遠慮は無用だ、やってくれ』

 

「アルバトロスリーダー了解。…各機、今聞いた通りだ。我々はこれより最優先攻撃目標、"アンノウンⅡ"に対して攻撃を敢行する! 徹甲誘導弾発射用意(スタンバイ)!!」

 

『ターゲット……ロック!!』

 『ロックオン!』

  『ロックオン!』

 

 アルバトロス隊のF-35全機が上空での旋回を止め、バレルロールからの急降下機動をとって滑り込むように海面上空を超低空飛行。視界内に姫神島と、そこに立つガメラを捉えた。

 

ピピピピ __ピー!

 

 ヘルメットのバイザーディスプレイ上で、ガメラが「(ボックス)」に収まり、甲高い間延びした電子音と共にバッテン印が付けられた。

 

「…発射!!」

 

バシュウゥウウウン!!

 

 アルバトロス隊8機のF-35より、ウェポンベイ内にあった残りのフルメタル・ミサイルが全て吐き出された。

 それらはマッハ4の豪速で海原を駆けガメラへと向かっていく。

 

 

 

グルルルルルゥゥウウ……!!

 

 ガメラは自身の周りを飛び回る目障りなギャオスたちを睨みながら、ある一団に狙いを定めると口内に再度"プラズマ火球"を生成し始めていた。

 そして火球の充填を完了し、憎き敵…ギャオスに射出せんとした瞬間だった。

 

ズガガガガッ! ドゴォオオオオオーーン!!

 

 背部の甲羅に()()が幾つか深く突き刺さった感覚、衝撃を覚えたと思った矢先、そこから間髪入れずに破裂と閃光、爆発と轟音、そして猛烈な振動がガメラの身体全体を襲った。

 

ドパァン! ドドパァンッ!

 

 銀の槍…フルメタル・ミサイルがガメラの背部甲羅状外殻を突き破り炸裂したのだ。

 夥しい量の緑血が外に飛び出し、背部に空いた多数の穴からはシュウシュウと煙が猛烈な勢いで吐き出される。

 

ガァアアアアアーーー!?!?

 

 人類の攻撃を背部に貰ったガメラはそのまま大きく体勢を崩し、ミサイル着弾後僅かの時間で発射したプラズマ火球は目標のギャオス群から大幅に逸れ、姫神島の北方山岳部の頂部を軽く抉って空の彼方へと消えていった。

 ガメラはうつ伏せになる形で港町に瓦礫を巻き上げ派手に倒れ込む。そこにギャオスたちは温存していた"超音波メス"を甲羅を損傷したガメラの背部へと次々撃ち込んでいく。

 

ガァアアアァァ……!

 

 傷口を狙っての的確な攻撃はガメラにはかなり効いているようで、立ち上がることも反撃に移ることも出来ず唸り声を上げながらギャオスの攻撃を許すのみであった。

 

『“アンノウンⅡ”に対し徹甲誘導弾、効果絶大!』

『徹甲誘導弾による第二次攻撃の要を認む!』

『鳥型捕捉!FOX4!!』

 

 ガメラの付近を旋回しつつ、こちらにも手を出してくるギャオスに対してアルバトロス隊のF-35がマニューバでそれらを捌き、お返しとばかりにバルカン砲を浴びせ風穴を空けていく。

 

「各機距離を取りつつ大型及び鳥型への攻撃を継続せよ。こちらの隙を見せるな。エレメントを組み、互いにカバーしろ」

 

『『『了!』』』

 

 再度人類の攻撃がガメラに加えられた。

 アルバトロス隊はギャオスを片付け、倒れ込んでいるガメラに対してバルカン砲の掃射と通常誘導弾による途切れのない攻撃を浴びせ続けていく。

 彼らの攻撃は外殻が捲れ上がり、大気に表面を晒している体組織を正確に射抜いていき、ガメラを地上に縛りつける。

 

『―――目標、"アンノウンⅡ"。各艦、艦砲及び誘導弾、撃ち方はじめ!!』

『主砲、撃ちぃ方、始めッ!!』

90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)斉射(サルボー)!!』

『〈SH-60K(シーホーク)〉発艦作業急げ!』

 

 そして護衛艦"あしがら"、"はるさめ"の二隻による、射程延長砲弾__"ボルカノ誘導砲弾"を使っての長距離艦砲射撃と"いせ"を加えての艦対艦誘導弾を掛け合わせた多重攻撃も加わり、攻撃の苛烈さは更に増していった。

 

グゥウウゥゥ…………

 

 ガメラは着実に弱っていた。

 

 

 

____

 

 

 

学園艦 大洗女子学園 学生寮

 

 

 

『――カメ型怪獣と鳥型怪獣に対して自衛隊がミサイル攻撃を行ない、鳥型は殲滅された模様です! 一方、カメ型怪獣の背中…甲羅部分からおびただしい量の体液を流しつつも生きている様子が確認できます…自衛隊の攻撃が効いているようです…!』

 

 テレビの液晶画面に映るガメラは、無視出来ない量の緑血を流していた。見ていて気分の良い絵面ではない。

 自衛隊の攻撃が背部に命中し、肉を抉られる度にガメラが悲鳴とも取れる悲しげな咆哮を上げる。みほはその光景を前にして、困惑が滲む曇った表情をしていた。

 

「……どうしてあんな酷いことするの? ガメラは、私達の敵じゃないのに……」

 

 みほは見るに耐えないガメラの傷ついた姿を見てふと呟く。隣では今まで静かに画面を見ていたピイ助が鳴いている。同胞が劣勢…いや、苦しんでいる姿を見て嘆いているのだろうか。

 

「ピイッ!ピィイッ!」

 

 なぜみほが「ガメラ」を知っており、味方であると認識しているのか。それは彼女が以前拾ってきた不思議な陰陽玉状の勾玉が()()()してくれたからだ。先ほど、姫神島にガメラが現れた直後にその勾玉が熱を持ち琥珀色に輝いた際、彼女の脳内にガメラからの思念が送られてきたのである。現生人類…人間とは争う気は無く、全ての地球生命を等しく守りたいこと、そして災いの影_「ギャオス」を倒すことを使命としている旨を勾玉を介して訴えてきたのである。

 ガメラは人類の味方で、ウルトラマンと同じく地球を守る存在なのだと、みほは理解するに至った。それ故に出た言葉だった。

 だがそれ故に分かるのだ。自分と、ある物を持たざるその他大勢との思考の()()が分かってしまうのだ。

 

「そっか…他の人たちにはガメラの声が聞こえないんだ。この勾玉を持ってないんだ……だから――」

 

 ――凶悪に見える巨大なガメラを攻撃する。

 自分達人間とは明らかに違う異種族…怪獣だから、解ける誤解も解けなければ、認識の違いを是正する対話すらも出来ない。

 更に言えば、今の日本国民の大半は、「怪獣」と言う単語を聞けば、幼児達がテレビで歓声を上げて見入る空想の存在ではなく、現実で実際に猛威を振るう恐るべき動く厄災という意味へ即座に変換して捉えるようになっている。

 先のアメリカ合衆国での異星人武力侵攻もそれとまた同様で、あれ以降、世界的に「異星人」もまた人類にとっての脅威を指す単語、存在となりつつある。そう、これはどうしようもない…意識の問題なのだ。

 

 画面の向こうでは今も空自の戦闘機からミサイルが発射され白い尾を引きガメラへと飛翔、着弾。その度にまた悲痛な叫びが響く。画面外からミサイルが再び姿を見せた。それも例外なくガメラに命中していく。

 

「それでも…これはあんまりだよ……」

 

 画面から視線を外して俯き、両の手をキュッと握るみほ。

 彼女にガメラへと飛ぶミサイルや砲弾を止めたり、撃ち落としたりするような力は無い。

 

「ピィー……」

 

「ごめんね、辛いよねピイ助…」

 

 みほはピイ助と共に、どうかガメラが死なないよう祈りながらテレビ画面を見つめる。

 

「誰か…誰か、ガメラを助けて……」

 

 今の自分にはこれぐらいしかできないのだから、と…()()がこの祈りを聞き届けてくれるかもしれないと言う一縷の望みに懸けて、勾玉を両手で再び強く握り、目を閉じ祈るのである。

 

 

 

____

 

 

 

学園艦 黒森峰学園

高等部学園校舎艦内第2シェルター 待機所

 

 

 

 ――改めて…学園艦とは、超巨大海上都市(ギガフロート)の側面を持つ、独立した都市機能、各種産業・エネルギー関連施設、そして学園を有する民間巨大船舶の総称である。その起源は古く、正式な記録では大航海時代には祖となる木造艦船が書物にて確認されており、今や人口爆発、地球温暖化、食糧需給の問題解決の糸口として世界各国にとって無くてはならない主要インフラの一つともなっている。

 「学園艦の建造能力と保有数を見れば、その国の工業力と豊かさが分かる」と言われるぐらいには途方も無い資材と労力によって作られており、小国であれば一隻の建造計画を打ち立てるだけで失業者問題が解決する国家事業に成り得る。

 第二次大戦後には、学園艦の建造とそれに伴う港湾施設及び都市の再開発ラッシュは世界経済の根底を支え、産業再生の礎となる一大事業となった。1970年代の日本では戦後の本格的な学園艦運用再開に際して、全国の港湾都市の新設、再開発による建設ラッシュを土台にした経済成長があった。史実世界よりも遥かに高い成長率を叩き出したこれを"学び舎特需"と呼ぶ。なお、この特需により、史実世界で発生したバブル経済とバブル崩壊を本史世界の日本は経験していない。

  ………そんな現実世界顔負けの特需景気を経ながらも、やはり時代の流れと言うべきか、膨大な初期投資費と莫大な維持費が発生する学園艦のデメリットが現代になってから表面化してきており、2020年現在…学園艦を多数所有している先進国では保有数削減…統廃合計画や、発展途上国や友好国へ中古艦として払い下げの検討案が挙げられている。日本もそれらに加えて、国産学園艦の新造…かつてこの国を支えた一大産業たる重造船業が縮小の一途を辿りつつあると言う事態に陥ってしまっている。

 

 補足となるが、学園艦の巨大な船体は一から作るのではなく、300m四方の巨大なコンテナ型浮体ブロックを幾つも接合して建造していく。近代以降に建造された各国の学園艦はその上述のブロック工法による建造の弊害で地上で言う所の地下…船体内部でのブロックエリア間の通行が不可能となっている。そのため、エリア間を移動する際は地上…甲板上の艦上都市区画を行き来する必要がある。が、このブロックの気密性と耐久性に目をつけた人間達によって発案されたものが学園艦内部緊急避難施設__艦内シェルターである。

 元より学園艦と言う建造物自体、あらゆる自然災害や外部からの()()に強い設計となっているが、地上…艦上都市区画は()からの脅威に弱かった。そのため、同シェルターは学園艦の住民を保護する最後の砦として作られることとなったのである。これは艦内で利用されないブロック区画の有効活用案としてすぐに各国で採用された。

 ちなみに本案の発案、そした実行に移した最初の国は、災害大国である日本であったりする。日本が運用している全ての現存学園艦は、艦上都市の真下…艦内ブロックに必ず相応数の艦内シェルター、そしてそれを繋ぐゲート、ハッチ、エレベーターを完備している。

 

 

 閑話休題。

 

 

 黒森峰の艦上都市区画の避難活動は迅速に行われ、ガメラ離脱後ではあったものの、各ブロックのシェルターや避難指定地域への学園艦全住民の退避はトラブル無く完了していた。

 今次非常事態でも、件の艦内シェルターは遺憾無くその実力を発揮したのである。シェルターの隔壁、諸設備は問題無く動作し、非常用食糧や緊急物資の備蓄も満遍なく放出することが出来た。それらが短時間ながらもシェルター滞在を余儀無くされた避難住民達の心身を安定させることに大きく寄与した。

 

「鳥の方は殆ど片付けたらしいな」

「いや、デッカいのが何匹か、海ん中に飛び込んだじゃんか」

「なんで空自は追わないんだ!?」

「あれ鳥だろ?もう海の底に沈んで溺死なんじゃね」

「そんな簡単に死ぬもんかよ?」

「俺に聞くなっての」

 

 ここは高等部校舎下に置かれているシェルターの一つだ。そのため、機甲科(エリカ達)整備科(ハジメ達)以外に普通科や特進科などの男女生徒、そして校舎近隣の艦上都市住民の方々も多数避難している。

 上の会話はハジメが学園で普段交流しない同級生の普通科男子達のものであった。

 

「うっわぁ…これは、グロいな……」

「カメ怪獣の血は緑色か」

「なんで普通科の男子はそんなもの平気で見れるんだろ…」

「うっせーな、気になるもんは気になるだろ!てか普通科付けるな普通科を!」

 

 どの艦内シェルターでも、外の情報を得るためにテレビモニターが電源を入れられ、姫神島の決死中継を殆ど全員が見ていた。

 

『……カメ型怪獣が動かなくなりました。死んでしまった、のでしょうか? ………いえ、まだ頭が動いています!辛うじて生きているようです!!』

 

 先のギャオス急接近を受けて、笑顔テレビ報道ヘリは姫神島沖合からの、カメラを最大望遠にしての中継にシフトしていた。

 

「しつこいなぁ…早く死ねって」

「ライトニングが最初に撃った銀色のやつって新型ミサイルだろ、あれ」

「もうすぐで倒せそうだ」

 

 周りの生徒達の大半は、ガメラ撃滅に賛同しているらしく自衛隊による更なる攻撃を望んでいた。画面に映る自衛隊の戦闘機に向かって早く倒せと叫ぶ男子生徒もいる。

 

 しかしそれを見ていて良い顔をしていない人間がいた。ハジメである。

 あのガメラからの念話と、今テレビモニターに映るガメラの傷つき様が交互に頭の中で過ぎるのだ。彼はウルトラマンとして、自分が何もせずに傍観していることを良しとしなかった。

 

(手を出すなとは言われたけれど……これ以上は見過ごせない……俺は…ガメラを助ける!!)

 

 ガメラ救援の意思は彼の中で固まった。

 思い立ったハジメはすぐに戦車道履修生で座っていたベンチから一人すくっと立ち上がる。

 そして待機所とシェルター通路を隔てる防護扉へと早足で向かおうとした。

 

「ねえハジメ。アンタ、どこいくつもり?」

 

 それを呼び止める声が後ろから聞こえてきた。エリカだった。

 いつもの腕組みをして、こちらをジトっと見つめている。

 

「……あー、ちょっとばかしお手洗いにと。今のうちに急いで済ましてこようかなって」

 

 努めて自然体で。それとなく、尿意が背後からにじり寄って来ている旨を彼女に伝える。嘘であるが。

 

「その時にまた警報が鳴ったらどうするのよ」

 

 事前予告無しの避難訓練等ではよくある事象への懸念がエリカの口から出た。

 不足の事態発生の際に「大きいお花と小さなお花を摘んでいる最中ですわ。暫くお時間を頂きます」は割と洒落にならない。エリカの懸念はごもっともだ。

 

「すぐにトイレから出て戻ってくるよ」

 

 ホントに、可及的速やかに。と付け加えて返答した。

 それを聞いていたエリカのさらに目は細くジトっとしたものに変わる。「ああ?それ本当かぁ?」と言い出しそうな、そんな目つきだった。なんならもう半分ガン飛ばし気味である。それに組んでいる両腕をキツく組み直し、信用するのは難しいわねのポーズに入っていた。

 

「ふーん………でもアンタ、()()あるから私が途中まで一緒に行くわ。またどっかに突っ込んで行かないようにね。安心なさい流石に個室までは入らないわよ。出入り口で待ってるから」

 

 納得もしたし、許可しよう、ただし条件があるとエリカは拒否権の無い提案をハジメに出した。

 

「ぜ、前科って……言い方ぁ…」

 

 あんまりな肩書きじゃないかとハジメは言い掛けたが、これまでのことを思い返してみればそう言われると反論も言い訳もできない。言い返せば正論でブン殴られた挙句、お説教タイムがセットで付いてくるのは目に見えていたため、口から出るギリギリのところで言葉を飲み込んだ。

 

「なに立ち止まってんの? 早く行きましょう」

 

 何故かエリカに促されてトイレへと向かう形となったハジメ。不思議そうな目をして彼女はこちらを見ていた。

 

「あ、うん」

 

 これって連れションに当て嵌まったりするものなのかな?

 …なんてバカな疑問が頭に一瞬浮かんだりもしたが、ハジメは見張り役(エリカ)と共に待機所を出て最寄りのトイレへと足を運んだ。

 

 

 

 ハジメは男子トイレの洋式個室に入ると、すぐに右胸の流星じるしのバッジを握った。

 

 するとそれに応えて、事前に擬態状態のイルマが現れる。

 …トイレの個室で互いに抱き合う形で、だ。はたから見れば、密室(トイレ)にて真っ赤な薔薇の花畑が咲き誇る手前の光景となってしまっている。場所と人物とタイミングが捩れると、こうもなるものなのか。

 恐らく男子(ハジメ)同士が抱き合っているシーンを見て喜ぶのはエリカと黒森峰にも巣食っている腐女子(夢乙女)の方々ぐらいだろう。この話題に関連して心底どうでもいい…多分、いや絶対に生きていく上で必要の無い豆知識(トリビア)だが、BLを指す表現や言葉で「薔薇」が多用されるようになったのは、男性同性愛者向け雑誌の名称が由来と言う説があったりする。

 

 話を戻そう。

 

 「せ、せまい……トイレで呼び出すのは今後は控えてよ?」

 

 個室でおしくらまんじゅう状態のまま、イルマが口を開いた。

 

「ご、ごめんな。エリさんがついて来てたからここしかなかった」

 

 ここしか無かったと言うハジメであるが、イルマは疑わしいと指摘する。

 

「……しかも、ここが男子トイレなら、逸見さんは中まで入ってこれないよね? 別に個室じゃなくても良かったよね?」

 

 冷静に考えればそうだ。エリカだって「流石に個室までは入らない」と言っていたし、会話でなく入れ替わりがメインであるならば、男子トイレ内の空間でイルマを呼び出してもなんら問題なかった。

 

「いや…それは……そうだな……それもごめん」

 

 今回ので懲りたらしいハジメが重ね重ね謝罪しながら個室の取手に手を掛け開錠する。二人は窮屈さから解放され、新鮮な()()()の空気を吸う事ができるようになった。

 開けた空間で改めて、息を整えてからイルマが今回の呼び出し…変身の理由について尋ねた。

 

「…で、どうするのさ? あの大亀怪獣を倒すのかい?」

 

 イルマ少年にとって、そして前回のロボフォー戦時点のハジメ少年にとっても、ウルトラマンへの変身は、敵性存在との戦いのためにするもの…と言う認識が主であった。

 そのため彼は尋ねたのである。今回もそれに当て嵌めるのならば、一択しかなかったからだ。ギャオスの群れは自衛隊によって壊滅しており、あの島で立っている存在はもう傷つき弱っているガメラしかいない。

 

「いや。その怪獣…ガメラを助ける」

 

 怪獣の命を護るための変身。これまでとは正反対で、かつ初めての事由での、変身だ。

 相当な覚悟と決心、そして確証を持ってのことだと、イルマは深く聞かなくとも分かっていた。

 

「ガメラ………そっか、詳しいことは後で聞く。僕は行くよ。ハジメも頑張って」

 

 イルマ少年も、無差別に破壊・殺戮を繰り返す敵対的な怪獣だけでなく、宇宙には他種生命体に友好的、或いは中立的な思考や立場を持つ怪獣が数多くいることを知っている。

 ガメラもきっと()()()()()と、自然と理解できたのだ。

 

「……頼んだ」

 

 イルマは任せてと強く頷き、出入り口へと向かっていき、待機していたエリカと合流したようだ。

 二人の話声は段々と遠ざかっていくのを確認し、ハジメも男子便所から出る。そこからは待機所とは反対側にある外…艦上へと繋がっている、物資搬入用の大型斜向エレベーターがある区画へと急いだ。

 

 

タッタッタッタッ……

 

 

「……ん?」

 

 トイレ方面を背にして待機所へと向かっていたエリカとハジメ(イルマ)。不意にエリカが背後に振り向いた。

 

「どうしたの?逸m…エリさん?」

 

 突然のことだったものだから、イルマが怪訝そうに__逆方向へと走っていっただろう本物(ハジメ)に気づいたのかとハラハラしながら__エリカに聞いた。

 

「えっと……向こうで誰かが走って行った音が聞こえた気がして……」

 

「他のシェルターのとこからも人が来てたんだよ」

 

「あ、そうだったのね」

 

 上手く誤魔化すことができたのだった。

 

 

 

 一方でハジメは先のエレベーター区画に到着していた。

 直に青空が見える場所で、ツナギの懐から変身装具_アルファカプセルを取り出す。

 

「ここなら………行くぞ!!」バッ!

 

 ハジメがカプセルを掲げたのと同時に、空から降り注いできた真っ白な光の柱が、彼を包んだ。

 

 

 

_____

 

 

 

五島列島 姫神島

 

 

 

 ゴオオオオオオオーーーー!!!

 

『スパロウリーダーよりアルバトロス!これより我が隊も"アンノウンⅡ"に対しての攻撃に加わる!!』

 

 母艦、空護"いぶき"にて燃料補給と武装換装を終え徹甲誘導弾を満載したスパロウ隊が、島上空でガメラに攻撃を続けていたアルバトロス隊と合流した。

 その総勢16機の’’稲妻(F-35)‘‘は、四個飛行小隊を編成。それぞれが即席でフィンガー・フォー編隊を組み、ガメラへの第二次攻撃の準備を終える。

 各機がガメラを捕捉。機体下部のウェポンベイが開かれ、中の誘導弾たちが顔を覗かせる。

 

『"アンノウンⅡ"、ロック!!』

『いつでも撃てます。命令を…!』

『捉えた。逃さん』

 

 

 

グゥウウゥゥ…

 

《………不覚。……()()すら倒せず此処で朽ち果てるか………すまない、"星の声"よ。約束は果たせそうにない……》

 

 自身と「約束」を交わした上位存在への謝罪と、不甲斐なさを吐露するガメラ。

 

ゴォォオオオオオーーー‼︎

 

 ガメラは近づいてくる戦闘機の爆音を聞きながら目を閉じ、もうすぐ訪れる己の死期を待つことに決めた。

 

『第二次攻撃、開始!!!』

 

 アルバトロスリーダーの攻撃開始の号令。

 

『『『了ッ!』』』

 

 16機のF-35による誘導弾の全力発射が遂に為された。

 

バシュッ! バババシュッ! シュバッ!――

 

 通常の空対空誘導弾、そして特殊生物特効の徹甲誘導弾が入り混じりその全てがガメラに殺到する。

 海面を這いつくばるように飛翔し向かってくる数十本の寸分の狂いも生み出さない必中の光槍。

 

《……残りの守護戦士たちよ。あとは頼む……》

 

 次なる者達に後を託し、ガメラは命を落とすかに思われた。

 

 

 

 ―――だが、光の巨人(ウルトラマン)はそれを許さなかった。

 

 

 

《やらせるかぁあああーー!!!!》

 

 ――――ズドォオン!!!

 

 銀色に瞬く巨大な光球が、倒れ伏しているガメラの前に割って入るかの如く、何の前触れも無く落着した。それと同時にかの球体は、瞬く間に巨人の姿を形取ってにいき実体化…鉄紺の巨人__ウルトラマンナハトとなった。

 

 ハアッ!!

 

 光子円壁(ストーム・バリア)を挟む余裕も無いと察していたナハトは、球体時の落着の衝撃で舞う土砂を振り払う様にそのまま両腕を目一杯に広げた。

 

ドォオーン! ドドドドォオオオオオン!!

 

――グァアアッ!!

 

 そして、身体前面に体内のエネルギーを可能な限り回し、ガメラに迫っていた全てのフルメタル・ミサイルをその身一つで受けたのだった。

 

『『『!?』』』

 

 ミサイルの着弾、炸裂と同時に爆炎に包まれるナハト。

 ナハトとガメラがいる漁港区画にて、入道雲に匹敵する規模の黒煙がもうもうと立ち昇る。

 ミサイル斉射に踏み切った現地上空のアルバトロス、スパロウの両隊は驚愕で目を見開き、誰も言葉を発することができなかった。

 

 ――バタバタバタバタ!!

 

 飛行隊、笑顔テレビヘリ以外に、漁港沖合を飛ぶ機影がもう一つある。

 それはヘリコプター搭載型護衛艦の"いせ"より飛ばされていた無人偵察回転翼機〈MQ-10(カモメ)〉である。当機は空自のRQ-4(グローバルホーク)と同時期に海上自衛隊が配備を開始した国産UAVで、攻撃能力を有さずリソースを全て哨戒・偵察能力に振っている純粋な非攻撃型無人機だ。海自では艦艇に搭載する洋上哨戒型と基地配備の施設監視型の2種類を採用し運用中である。

 そんなMQ-10の機体前面下部に備えている高感度カメラが、ナハトの一連の不可解な行動をリアルタイムで捉え、"海伏作戦"艦隊にその映像を包み隠さず黙して送っていた。

 

『なっ!?』

『両飛行隊斉射の全誘導弾、目標に着弾せず!!ウルトラマンナハトに全弾命中した模様!!』

『何故、よりにもよってそこに現れた!?ナハト!!』

『出現と同時にミサイル攻撃を妨害したのか!?なんだってそんなことを!!』

 

 報道ヘリの姫神島上空生中継の時よりも、大きなインパクトがあった。その衝撃、動揺によるざわつき具合は"いぶき"内に留まらず、各随伴艦艇にも伝播していた。

 

『"いぶき"から両隊へ! 至急現状の報告を求む!!』

 

 こちらはMQ-10が回してくる映像で何が起こったのかは分かっている。だが現場で、それを直に見ている者達だけにしか分からない何かがある違いない。新波艦長は、姫神島の空を飛ぶ飛行隊に問い質す。

 

『ウルトラマンが着弾直前のミサイルの前に“アンノウンⅡ”を守るように出現、全誘導弾を受け止められた。……自分の所感だが、ウルトラマンが同目標を庇ったように見えた』

 

 件のナハトはと言うと、ミサイルを受けたダメージにより、片膝を着いて倒れる寸前である。辛うじて意識と体力はあるようだ。

 満身創痍の出立ちながらも、ガメラの方に顔を向け、気遣っているようにも見受けられる所作を取っている。

 

『――ウルトラマンが取っている行動から察するに……“アンノウンⅡ”は我々の敵ではない、と思われる。これもあくまで自分個人の意見だが』

 

『信じられん…いや、映像を見た通りならば、実際そうしたのか…だが……』

 

 怪獣を庇う意味が、新波以下全“いぶき”クルー、そして“海伏作戦”艦隊の人員の全員には分からなかった。

 怪獣__特殊生物は敵味方の二元論では無く、選択の余地も介在しない「国民の生命と財産を無秩序に奪う新たな災害であり早急に駆除しなければならない巨大な害獣」と認識し、今日まで戦って来た自衛官は多くいる。

 それ故に、何の考えがあって、何の確証があって、「暫定人類の味方」であったナハトが怪獣に肩を持つような動きをしたのか理解に苦しんだ。

 

『“いぶき”、こちらスパロウリーダー。アルバトロス…迫水(サコミズ)の意見に関連するものとして、海自の前原一佐が提出した()()()()()()に気になる記述があった。確認してほしい』

 

 例のレポート。

 それは日本の経済水域内で勃発したパワードペスター(“ジーズラ”)ゴジラ(“アンノウン”)の戦闘とその結果、そして「非敵性(友好的)特殊生物」の存在可能性を指摘した、海自将官が作成したレポート…“前原(マエハラ)レポート”を指している。

 スパロウリーダーは、このレポート内容の大半を占める非敵性特殊生物と言う枠組みに、ガメラ_“アンノウンⅡ”が当て嵌まる存在なのではないかと指摘していた。

 

『……現在もウルトラマンが同目標を庇うように立っている。そのため攻撃が出来ない。指示を乞う』

 

 ナハトの胸部水晶__ライフゲージは青から赤へと変わっており点滅している。さらに、胸部辺りからは光の粒子が溢れていた。先ほどの攻撃でナハトの身体に相当なダメージが入ったことが分かる。

 何故そこまでして…と誰かがポツンと呟いた。

 

___これまで撃滅してきた特殊生物(ヤツら)とは――()()()は違うとでも言うのか!? ナハトよ!!___

 

 作戦参加艦艇のクルー全員がスクリーンに映る__上空を飛行してるだろうF-35を何もせずに目で追っている__ナハトへの心の叫びであった。

 

『………了解した。映像は一足早く官邸や統合任務部隊司令部に届いているはずだ。現場から得られたこれらの情報を精査し報告する。アルバトロス並びにスパロウは空中待機、攻撃を中断せよ。なお、特殊生物がそちらへ迎撃行動を取った場合に限り再攻撃を許可する』

 

 新波艦長が一考を挟んだ後、新たな命令を両飛行隊に出し、艦隊による艦砲及び誘導弾攻撃を中止させたのだった。

 

『アルバトロスリーダー、了解。待機する』

『スパロウリーダー了解! 同じく待機する!!』

 

 ゴォオオオオオオーーッ!!!!

 

 

 ガメラは攻撃せずにこちらから距離を取り始めた人類軍の動きを見て目を見開き驚愕していた。

 そしてその人類軍の攻撃をやめさせた意外なる恩人に対して、なぜ自分を助けたのかと問う。

 

《星の戦士!! なぜやってきた!?》

 

 目の前には、フラフラとしながらも立つ光の巨人。先の人類軍の攻撃によってその姿はボロボロで、依然として身体の各所からは流光(流血)が見受けられる。ガメラもそうだが、かの巨人もまた、あまりに痛々しい姿であった。

 

ピコンピコンピコン…

 

《ま、間に合った……ようで……よかった…》

 

 ナハトのライフゲージはこれまでで一番速いペースでの点滅を繰り返している。これ以上、巨人の姿を保とうとすれば何が起こるか分からないほどに。

 そんな状態にあるにも関わらず、第一に発した言葉は、ガメラが一命を取り留めていることを確認できた安堵だった。

 

《手出しは無用と…言ったはずだ…!私のことは…!》

 

 地面に伏しながらガメラは唸る。

 

ゼーー…ゼーー……

 

《………助けたいと、思ったから》

 

 ただそれだけなのだと星の戦士…ウルトラマンは言う。

 

《私を庇えば、お前も人類に攻撃されるかもしれないんだぞ!?》

 

 後先考えずにもほどがあるとガメラは言った。しかも、それが自分を庇ったことが発端となればどんな悲惨な結末を迎えることか、と思っていたからだ。

 

《……だから…説得しに来たんだ…》

 

 これ以上のすれ違いを無くすために、ナハトは再び動く。

 

 そうガメラにナハトは伝え終えると、ミサイルを受け止めた時と同じようにガメラの前に立ち、今度はゆっくりと腕を大きく横に広げた。

 そして島沖合にて空中待機し、旋回しているF-35のパイロットに目線を合わせて、穏やかに首を横に振る。

 

 その様子を笑顔テレビのカメラもまたしっかりと捉えていた。

 

「――皆様、見えていますか!? 光の巨人、ウルトラマンが、ウルトラマンナハトが腕を広げながらこちらに訴えるかのように首を大きく横に振っています!! 自衛隊の、カメ型怪獣への攻撃中止を求めているかのような動きです!!」

 

 

 

___

 

 

 

学園艦 大洗女子学園 学園寮

 

 

 

『―――やはり、我々を助けたあのカメ型怪獣は人類の敵ではないと言うことなのでしょうか!? ウルトラマンが怪獣を庇う……あの怪獣の正体は一体何なのでしょう!!』

 

 テレビ画面に映るのは、辛うじて生きているうつ伏せのガメラ。そしてそれを庇うように立つ黒き巨人__ナハトであった。

 

「ウルトラマンが来た時はガメラを倒しちゃうのかと思ったけれど…ウルトラマンはガメラの味方をしてくれるんだね…」

 

 開口一番に安堵の言葉が飛び出たみほ。自身の強張っていた険しめの顔とガチガチに固まっていた肩から力がへなへなと抜けて緩んでいくのが分かった。

 ナハト登場の時、それこそ「もうお仕舞いだ」と彼女は青ざめて死んだ目をしていたのだが、自衛隊のミサイル攻撃を自らの命を顧みず防ぎ止めガメラを守る動きを…考えていたものとは真逆の行動を取ったナハトの姿に目を丸くした後に「ナハトもきっとガメラが敵じゃないと分かってるんだ」と悟っていた。

 

「本っ当に、良かったぁ……ピイ助、ガメラが助かったね!」

 

「ぴいっ!」

 

 みほはガメラの生命の危機が去ったのだと、胸を撫で下ろしながらピイ助に語り掛けた。ここで初めて小さな同居人もみほの言葉に返事をした。

 ガメラを救うも殺すも出来るであろう同等の存在たるウルトラマンが味方をした事実は、彼女と小亀を大いに勇気づけたのだ。

 

 そして、弱々しくも依然として脈動と点滅を繰り返す、目の前の琥珀の勾玉をみほは再び握りしめてみる。

 

「――うん。勾玉は暖かい……ガメラも大丈夫そう…ありがとう、ウルトラマン……」

 

 みほはガメラを庇ってくれたナハトに心の中で感謝をしつつ彼らを、ピイ助と共にただ静かに見守るのであった。

 

 

 

___

 

 

 

学園艦 黒森峰学園 

高等部学園校舎艦内第2シェルター 待機所

 

 

 

 高等部校舎直下の黒森峰艦内シェルターの待機所にて、ガメラを倒せと、押せ押せの雰囲気になっていた生徒達に動揺が走っていた。

 それもそのはず。倒すべき存在であるはずの怪獣をウルトラマンが庇っているからだ。

 事態の急展開を目の当たりにした一部の生徒達が騒いでいた。

 

「な、おい!どけよウルトラマン!」

「なんでそいつ庇うんだ!自衛隊と手ぇ組んで倒してくれよ!!」

「怪獣の味方なんかすんな!!」

「そうだ!邪魔しないでくれ!」

 

 そのモニター前での様子を少し距離を置いて、画面に映る姫神島での出来事を見ているのは機甲科の四人…エリカ、まほ、レイラ、小梅であった。

 なお、いつも男子メンバー__擬態しているイルマも含む__は皆で各待機所への物資運搬を手伝っているため不在である。ちなみに、善良かつ積極的・模範的なボランティアとして整備科の一年生達も巻き添えを食らって全員動員中である。

 

「…隊長、あれは? なんでナハトがあの怪獣を…?」

「私も少し驚いた。ウルトラマンが怪獣を庇うなんて。テレビで言っているように、あの巨大怪獣…学園の上を飛行した“フルー1”は何か他のものと違う存在なのだろうか」

「もしかしたら、あの怪獣はウルトラマンのパートナーなのかもね!」

「うん、確かにそれなら納得がいきますね。仲間を傷つけられたら誰だって守ろうと……」

 

 「怪獣は例外なく徹底的に排除すべし」とする他生徒達と反して、ガメラに対してそこまで過剰な敵意を抱いていない彼女達。

 無抵抗の姿勢で力無く地に沈んでいる…あまりにも潔すぎるガメラの姿に対して四人は、このままなし崩し的にこれまで通り倒してしまって良いのだろうかと言う困惑半分、同情半分の心持ちであった。

 

「あ、でもそれなら…今のウルトラマンはどう思ってるのかな……?」

 

「「「あ……」」」

 

 ふと出たレイラの一言に一同はある一つの答えに行き着き固まった。

 

「私達はウルトラマンのことを全く知らない。もしかすれば……」

 

 そうなのだ。人類は、変身者であるハジメ本人を抜きにすれば、あまりに光の巨人(ウルトラマン)のことを知らな過ぎる。やれ「人類の味方」だの、「正義の巨人」だのとのたまってかの存在が怪獣や異星人を何故倒すのか…倒しているのかさえハッキリ分からないまま「やっぱりヒーローだ!」と歓声を上げて深くも考えず喜んでいるだけなのだ。上述のようなウルトラマンと言う巨大存在への認識はこうであってほしい、こうであるに違いないと言う漠然とした人類側の希望的観測が生み出した不確かで不鮮明な偶像に他ならない。

 現に、ウルトラマンの国内出現と共闘を経験していない諸外国…特に中国や北朝鮮、豪州連合、南・西アジア・アラブ諸国の光の巨人に対する反応は芳しいものではなく、前述列挙した各国の軍ではウルトラマンを「潜在的脅威」という位置付けに据え、動向を逐次監視・警戒している。

 なお、欧州やアフリカ、南米諸国ではウルトラマンをどう扱うべきかという戸惑いの方が優っている。

 

 大切なモノが傷つけられそうになったら、奪われそうになったら、そうしようと動いた元凶は十中八九、激情を滾らせた被害者によって完膚なきまでに駆逐ないし排除される。

 自分がされて嫌なことは大抵他者にとってもそうであるように、知性と理性を持つ霊長類のヒト、そして哺乳類に留まらず地球生命の大部分がそういった行動を取るならば…ヒトのそれに近い感性を持つ知性体たるウルトラマンナハトも同様の行動を取る可能性は極めて高いハズだ。

 図らずもそれを人類はやってしまったのかもしれない。そんな考えが四人の脳裏に過ぎっていた。

 人類はただでさえ怪獣で苦労しているのにそれらをいとも容易くあっさりと倒してしまうウルトラマンが地球人類と敵対したらこちら側に勝ち目が無いのは口に出さずとも皆が理解していた。ただ、口に出して指摘する勇気が無かったのである。

 

 

 

____

 

 

 

五島列島 姫神島

 

 

 

 アルバトロスリーダーの報告から時間にして凡そ十数分ほどが経過したところで空護“いぶき”より通信が届く。

 どうやらガメラ、ウルトラマンに対する、自衛隊の今後の方針が決まったようだった。

 

『―――“いぶき”より両飛行隊へ。……統合任務部隊司令部及び首相官邸で行われた緊急審議の結果、これまで日本に出現した特殊生物を幾度となく撃破してきたウルトラマンとの敵対は我が国が修復不可能かつ極めて甚大な損失を将来的に被る可能性があると判断し、ウルトラマンが固守し続ける“アンノウンⅡ”を優先攻撃目標から警戒監視目標へ変更することが決定された。……よって、攻撃は中止。繰り返す、攻撃は中止。今後一切、同目標への攻撃は許されない。飛行隊全機は速やかに“いぶき”に帰投せよ』

 

 自衛隊、そして日本政府が最終的に下した判断は「ガメラ撃滅の中止」…であった。

 

『――了解した。これよりアルバトロス隊、スパロウ隊は“いぶき”へ帰投する』

 

ゴォオオオオオオーー!!

 

 “海伏作戦”艦隊は、ナハトを無視しての更なるガメラへの追撃をせず、当初の目標であったギャオス群の駆除に目処が着いたと判断し飛行隊並びに上陸部隊を収容する動きに入ったのだった。

 

 姫神島上空を旋回していた16機のF-35が母艦への帰路に就く。

 それを黙って見送っているのはナハトだ。

 

《………やってみるもんだなぁ》

 

《信じられん……勾玉を介しての念話も使わずに異種間の意思疎通を為し得るとは………》

 

 ガメラは、ナハトが言葉も交わすことなくほぼ身振り手振り(ボディ・ランゲージ)で人類と意思交換をし兵を引かせたことにただ驚嘆していた。

 

《その傷のままだと、まともに動けないんだろ?》

 

 そうガメラに語り掛けるナハトもまた、身体にあった裂傷は治癒を終えて体内の光エネルギーの流出は止まっているものの、ライフゲージは速いペースで赤点滅を続けている。同じような状態と言えた。

 

《………うむ…このままでは使命の全うも出来まい。一度住処へと戻り、傷を癒す必要がある。今のままでは、遺憾だが時の牢獄から破り始めたアレら……災影(ギャオス)を倒すことは難しい。覚醒が早すぎたか…?》

 

 立ち上がる気力と体力が戻ってきたガメラが、うつ伏せから片膝立ちへ体勢を変える。ガメラの方も背部装甲(甲羅)内部の出血は止まっていた。

 ただ、今回の姫神島に現れたギャオスの群れは、地球に眠るごくごく一部…氷山の一角にしか過ぎないと言う。「次がある」ことをガメラは把握しており、今の自分の容態を憂いていた。

 

 ギャオスの再襲来の危惧も大事だが、ナハト__ハジメはウルトラマンとしてでなく、一人の人間としてガメラに尋ねたいことがあった。

 

《……俺達、人間がしたことに怒りは無いのか?》

 

 ここより離れた黒森峰で四人の少女達が考えていたことと同じ疑問を偶然ハジメは口にした。

 しかし、ガメラの返答は意外なものであった。

 

《――現生地球人類もまた、()()が守護する生態系の一部だ。それに、いかんせん時が経ちすぎた。私の姿を見ればああもなるだろう。あれは不可抗力だったのだ。責めはせん。………私を助けてくれたことに感謝する、星の戦士。この恩はいつか必ず返す》

 

 人類の所業に怒りは無いと、達観した様子で論ずるガメラ。

 また会おう、と別れの言葉をナハトに告げると、頭部と手足を甲羅内部へと瞬時に()()し両手脚をジェット機構化させ、激しく煌めく水色の閃光を伴いながら垂直離陸。その後は四つの噴射ノズル化した手脚を用いて縦軸回転…激しく回るコマ若しくは未確認飛行物体(UFO)を想起させる姿で東南の空、太平洋方面を目指して飛び去っていった。

 

 自衛隊、そしてガメラが島から去り、残るはナハトのみとなる。

 ガメラとギャオスによる特殊生物間戦闘によって、同島漁港と港町は荒れに荒れていたが、戦闘の余波を免れた箇所がちらほらとある。それらは良くも悪くもギャオス夜襲当時の様子を保っていた。

 

 自分が呑気に日常を過ごしていて気付かぬ間に、非日常の中で凄惨な最期を押し付けられ命を落とした顔も名も知らぬ人々…減らせたかもしれない犠牲者達の形跡がウルトラマンの横目に映る。戦場と化してしまった島には、これまで彼が本能的無意識で見るのを避けてきた、見ないようにしてきた生々しい死の光景が点在していた。

 

………シュワッチ!!

 

 彼を擁護するとすれば、光の巨人として駆け付けた頃には…起床してから朝練習に参加し、あのガレージで艦内放送を聴いていた時点で、どう足掻こうとこの島の住民は救えなかった。彼はまだ()()()()()()()()()()()を知らない。されど「だが」、「でも」、「だけれど」…と思ってしまうのは、ハジメ少年の人間味故である。

 何処からか押し寄せてくるやるせなさと不甲斐なさを心の片隅に抱えながら、それらを無理矢理振り払うようにして朝日が昇り続けている青空へと飛び去った。

 

――バタバタバタバタ!

 

 ガメラとウルトラマンの姫神島離脱を沖合を飛行していた無人機(カモメ)は“海伏作戦”艦隊へ映像を途切れることなく終始送信し続けていた。

 

『――ガルアイ3を“いせ”に帰投させろ』

 

『了解』

 

 護衛艦“いせ”のMQ-10操縦士の操作によって殿となった同機も母艦へと帰投してゆく。

 

『………もしもあそこで、“アンノウンⅡ”を駆除していたら、ウルトラマンとの全面戦争になっていたのだろうか…』

 

 MQ-10操縦士の隊員が“いせ”の艦内で、起こり得たかもしれない最悪の事態を想像し、身震いしながらポツリとそう呟いたのだった。

 

 

 

____

 

 

 

学園艦 黒森峰学園

高等部校舎第2シェルター 待機所

 

 

 

 ガメラ・ウルトラマンの離脱と、自衛隊の姫神島完全撤収をテレビモニターで映していた待機所内は騒めきで包まれていた。

 特に、ガメラどころか、それを庇っていたウルトラマンにも敵愾心を持ち始め「まとめて倒せ」コールを上げていた人物達の狼狽具合は顕著だった。現在、それらは黙り込み、意気消沈…お通夜と大差無い塩梅となっている。

 

「これは、首相から説明があるんじゃないか?」

「今回の対応はあれだが……詳しい説明は会見でぶちまけてくれりゃいい」

「いつかの会見で非敵性特殊生物…友好怪獣がどーたらって言ってたもんなぁ」

「そこも掘り下げんだろ」

「ウチの学園艦には被害も無かったし、とにかく命があることに感謝だわ」

「昼過ぎからはオレんとこも店開くことにするよ」

 

 艦内住民である大人達が、腕を組みテレビに視線を向けながら、今後の怪獣関連の日本の動きに関する雑談や感想を交わしていた。子持ち世帯の住民らが、スマホで別のシェルター待機所に避難している家族と連絡を取っていたり、早くとも今日の午後からは日常を再開したいと考えている商業関係や主婦層の住民も多々見受けられた。

 

 一方で、機甲科の例の四人はと言えば。

 

「自衛隊がトドメを刺さなかった……と言う認識で、合ってるだろうか?」

 

 まず最初に口を開いたのはまほであった。

 疑問符を含む聞き方ではあるが、口元には安堵が滲んでいる。周囲の肯定を待っているのだろう。

 

「恐らくは。私もそう思います」

 

 努めて冷静な口調で副隊長が肯定と同意を示す。

 そんな彼女の表情も、まほと似たものになっている。

 

「よ、良かったぁ……私、ウルトラマンもまとめて倒そうとするかと思ってたよぉ……」

「同感でした…」

 

 いつからそうなってたのかと指摘したくなるが、レイラと小梅が抱き合いながら上のように溢していた。

 事態の収拾に際して、彼女達に、そして待機所内の人々に、日常の笑みが戻りつつあった。

 

バシュゥウン…

 

 その時だった。待機所の出入り口の防護扉が左右に開き、向こう側から物資運搬ボランティアを終えた整備科の男どもが戻ってきた。

 

「あ、タクミさん達、お手伝い終わったみたいですね」

 

 小梅が整備科の帰還を他の三人に伝えた。

 

 彼らの手には教職員か、艦内シェルター運用関係者の方から手伝いのお礼として受け取ったのだろう、水滴の垂れている冷たそうなスポーツドリンクが一本握られていた。二年生の六人はすごく晴れ渡った…「一仕事終わったなぁ」といういかにもな爽やかさがあるのだが、一方でその後ろに続く大勢の一年生達は「僕にも帰れる場所があるんだ」と涙か汗か分からないものを流しながら空いている席やブルーシートが敷かれた床に倒れ込んでいた。

 

「なんか即席で一年生くん達の小山が出来上がっちゃってるよ…?」

「戦車整備とはまた違う勝手の力仕事で疲れたんだろう……だが、アレはひどいな…まるでゾンビみたいに……」

「サンダースとの試合前食事会でカレーに飢えていた隊長がそれ言っちゃダメです」

 

 肉体労働から来た疲労にやられた一年生達によって出来上がった死体の山を横目に、さらにその後ろから半袖ネクタイ姿のメガネ男性…高等部第二学年担当の数学教師と、黒スーツ姿の黒森峰“学園艦自治体”___文字通り、本土の飛び地にあたる学園艦の行政機関であり、主に艦上都市の運営を担当する。また、都道府県の各市区町村と同等の権限を持ち、文部科学省、防衛省、国土交通省以外で唯一船舶科の学園艦航行計画や運用への発言権を有する組織でもある___の職員が続いて入室してきた。

 どうやら姫神島の一件が終わり、今後の学園艦の航行等についての説明をするためのようである。先に、自治体職員を先導してきた数学教師…甘利田幸雄(アマリダ・ユキオ)があからさまな咳払いを一つ挟んだ後、口を開いた。

 

「あー全員注目。一旦会話をやめろ。学園艦自治体の方より、今後の黒森峰の航海日程等の説明がある」

 

 蛇足となるがこの甘利田という教師、どのような人物かと問われれば彼を知る高等部生徒達は口を揃えて次のように言う。

 「見た目はまんま俗に言う冗談の通じない理詰めの()()先生だけど、実際接してると意外と感情的だし私たち(生徒)のことをよく見ているしで、若くて優しい()()先生」…とのことである。ちなみに彼を象徴するモノ__先の()()の要素に紐付く内容__として、「学生食堂の学食愛好家(母親が出す家での料理が壊滅的に不味いことがキッカケ)」である点が挙げられる。彼は食事に一切の妥協を許さず、食事のこととなれば人が変わるとまで言われ、教師用に配布された食券を握りしめて配膳の列に並び、食堂で生徒達の中に混じって学食を摂る姿を毎日見られることからそう認識されるようになったのだ。

 

「…そこの整備科の…倒れ伏してる一年生達。その状態のままで良いからしっかり話は聞いておけ」

 

「「「は、はい〜……」」」

 

 故にこの先生の黒森峰内での知名度はかなり高かったりする。また、数年前から黒森峰に配属となった若手新米教師の一人でもあるため、他の古参教師陣とは違って比較的融通の効く大人であることから、知名度だけでなく生徒からの好感度も高い。なお既婚者である。

 

「皆んなも知っていると思うが、先の大型特殊生物(“フルー1”)による急接近及び上空通過を受けて、接触未遂であったものの船舶科が非常時体制に移行している。艦内、艦上で全域放送がされていないのはそのためだ」

 

 要は自治体の職員が口頭で報告しに来たのは手が離せない総出状態の船舶科生徒達の代役、助っ人としてである旨を甘利田が補足した。

 

 そして甘利田が一通り簡潔に説明できたとし、職員に視線でここからの詳細な説明を促した。

 

「えー、学園艦自治体黒森峰職員の矢部と申します。この高等部校舎の第2艦内シェルター待機所内にいらっしゃる皆さんには、先ほど黒森峰船舶科・学園教師陣・学園艦自治体・文部科学省・防衛省によるリモート協議にて決定された、黒森峰学園の航海計画の変更並びに今後の運用に関する説明をさせていただきます」

 

 一礼し、職員は続ける。

 

「本艦は特殊生物による直接的被害を被ることはありませんでしたが、万一を想定し艦内外の本格的かつ専門的な検査とメンテナンスが早急に必要であるとして、佐世保出港時の航海計画を一部変更し――」

 

 自治体職員の説明内容をざっとまとめればこうであった。

 

 現在艦内の学園艦運用要員と整備要員だけでは、技術的にも、人数的にも行き届かない箇所・設備等の細かな確認を本土側の人員と港湾設備を持ってして実施すると決定。

 そのため、当初の静岡県田子の浦港へ真っ直ぐ向かうと言う航路ではなく、放出した各種物資の補充、学園艦護衛艦艇の補給等も兼ねて最寄りの学園艦停泊可能港である四国地方の高知県高知港へ寄港・経由する航路に変更した。よって田子の浦港到着は予定の3日後ではなく、10日後に延期となる。

 また、再度の特殊生物来襲が無ければ、学園艦の非常時体制は数時間後には解除され、艦内住民への避難指示も間も無く解かれてシェルターから艦上都市へ戻ることが可能となり、生命線である艦上都市機能は本日13時より完全復旧する旨が伝えられた。

 

「――今回の航海計画の変更に伴い、住民の皆様に多大なご負担をお掛けすることになりますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い致します」

 

 深い一礼で職員は締め括った。

 そして横に立っている甘利田に会釈をしてから一歩後ろへと下がり、そのまま待機所から退出した。

 

「…と言うわけで、矢部さんが仰っていたように、田子の浦港への寄港自体は10日後へと後ろに倒れる。また、高知港への寄港は明日となるため先週各クラスで配布した寄港・停泊時の時間割と日程は2日分前倒しで使うこととなる。間違えないように」

 

 ああ、それと…と言いながら甘利田が待機所の奥にいる高等部機甲科の代表者、まほを見つけると次のように続けた。

 

「戦車道履修部に通達しておく。そちらが3日後に予定していたマジノ女学院との練習試合だが、寄港の10日後に併せて延期となった。こちらから先方の顧問には連絡を既に取っている。頭に入れておいてくれ。……明日のSHRに改めて話すが、予め部内の方での周知をしてもらえると助かる」

 

 分かりました、ありがとうございますとまほが気持ち大きめの返事をし了承の意を示した。

 それを確認した甘利田が頷き、生徒達を見回しながら「もう一度言うが、明日は停泊期間中の時間割だぞ」と最後に言って待機所をあとにした。教師同士、そして船舶科との更なる話し合いがあるのだろう。多忙で難儀なものだとエリカ達は思う。

 

 そうこうしていると、ハジメ達二年生整備科男子勢がエリカ達のスペースへと戻ってきた。

 ハジメとヒカルの手にあるスポドリペットボトルの中身は既に空となっている。他の二年生メンツ…ユウとダイトは三割、タクミとマモルは七割ほど残っていたりする。

 

「物資運搬作業の補助、完了したでござる!」

 

 エリカの前でビシィッ!!っと見事な挙手敬礼をしニッと笑顔で報告するハジメ。取ってつけたような口調と敬礼にはそれぞれツッコんだ方が良いのか、スルーすべきか、それともノリに乗ってやるべきなのか…エリカが選んだのは前者よりの真ん中…無難な択であった。

 

「ござるじゃないわよこのバカジメ。どさくさに紛れてまた勝手に出て行って……」

 

 それにエリカは呆れ混じりのため息を一つ吐いてから噛みついた。身長差で彼女がハジメ少年を下から覗き込むようにして、である。

 

「ううーん…トイレやら何やらで待機所の外行くためにいちいちエリさんに言うのはさぁ…」

 

 眉間に皺を作り本意じゃないと唸る幼馴染の少年。

 

 小学校の先生と低学年の児童のそれと変わらないんじゃないかと、お馴染みの「先生トイレっ!!」「先生はトイレじゃありませんよ!」までがフルセットなのではとこの少年は思ってしまうのである。

 

 この高校生二人でそのやり取りをやってしまうと絵面的にあらゆる意味でマズイ。特定層にとっては垂涎モノなのだろうが…。

 なおエリカはそこまで考えていなかったりする。よくて「子供っぽくて恥ずかしい」と言いたいのだろうかと思うぐらいだった。

 

「アンタねー、いくらマモルヒカルが一緒でも一言ぐらい言ってから向かったってバチは当たらないでしょ。連絡取れない〜合流できない〜はい、死にました〜…じゃ目もあてられないんだから!」

 

 今回のイルマとの変身解除のバトンタッチであるが、待機所に戻る途中でシェルター通路の死角を用いて誰にも気付かれること無く入れ替わりを果たしていた。

 

「あー……うん。気をつけます」

 

 ()()()()であると言う自覚はありますよと言う旨をハジメは短く伝える。ここで変に食い下がると余計拗れるので認めなくてはならないところは素直に認めるのだ。

 

「ったく…」

 

「あははは……」

 

 再度エリカに呆れられたハジメが乾いた笑いをして後ろ頭を掻く。

 すると、近くでタクミと談笑していたはずの小梅が何かを察してハジメの横に寄ってきた。お世話焼くのが生き甲斐なんですと言わんばかりの、善意十割のにこにこ菩薩笑顔付きでだ。

 誰が言ったか「三代目黒森峰の良心」。初代はハジメの母親、アオバであり…二代目は当代元機甲科副隊長、西住みほであることを書き記しておく。何処か軍隊気質な黒森峰で一見怖そうな隊員や近寄り難い雰囲気を醸し出している先輩との間をそれとなくとりなしてくれて、しかも柔和な笑みを投げ掛けてくれる存在と言うのは、目に見える所に立っているだけで精神安定剤、清涼剤たり得るのである。

 

「ハジメさんハジメさん。エリカさんの一番の幼馴染であるハジメさんにとってはご存知であることかもしれませんが、エリカさんのトゲのある言葉はですね…愛情の裏返しなんですよ?」

 

 眼鏡或いは知的キャラがよく用いる、皆さんご存知の…と相違無い、ある種の前置きフラグ発言と共に小梅が双方にとってある種の致命傷となり得る__片やセンサー式、片や時限式の__高性能爆弾を放出した。

 

 それを聞いてエリカは顔が真っ赤に、ハジメは「えっ、はっ? 自分それ初耳ですが?」と宇宙化猫状態になる。

 いや、ハジメ少年とてエリカがただ心無い言葉を他人に浴びせ掛けるような人間では無いことは先の小梅が言ったように、幼馴染という旧知の仲であるから誰よりも知っていると言う自負はあるし、トゲのある言葉なるモノが、相手への気遣い心遣いのなんやらがちっとばかし複雑機構化しての産物であるのは理解していた。

 しかし、その「愛情」については情報が限りなくゼロであった。故に上で書いたようになる。一歩違えば「FXで有り金溶かしたような」虚無顔と指を刺されゲラゲラと友人達に笑われることだろう。

 

「ちょ、小梅!!」

 

 何かの図星を突かれたエリカがそれ以上小梅が喋らないように両肩を掴んでぐわんぐわんと前後に彼女の上半身を揺らす。何処とは言わないが小梅のがばるんばるんしている。

 目を太めの横線にしてあ〜れ〜とされるがままとなる赤星小梅。しかしそこからクルリと肩の拘束を器用に脱して、先ほどとは反対側のハジメの横に移動して親友の「愛情の裏返し」に関する説明の続きを話そうとする。それを予知したエリカが小梅の口をなんとしてでも塞ごうと飛びかかるも、普段は元副隊長(西住みほ)に勝るとも劣らないほえほえおっとり族な彼女が珍しく機敏な動きを持ってしてそれをするりするりと避けていく。その光景はさながら、とある大怪盗の孫とその一味、そして国際刑事警察機構(ICPO)のとっつぁんによる愉快なチェイスアクションのワンシーンのようである。

 まほやマモルと言った戦車道メンバーだけでなく、先ほどまで雑談していた周囲の一般生徒や地域住民の方々まで見入っている。……ヒーローショーかなと首を傾げたのはハジメだけではないだろう。

 

 目の前でアグレッシブな回避術を披露しつつ、小梅の力説は続く。

 

「――エリカさんはですね、自分が心配した分だけ相手にその分一気にぶつけるので、トゲのある言葉で責め立てられてるとよく皆んなに誤解されちゃってますけど…つまりそれは本心ではめちゃくちゃ心配してる証拠です。あんまりエリカさんを困らせたら、めっですよハジメさん?」

 

 最後に、中等部からの同性の親友として、機甲科副隊長を支える隊員として、ハジメに念押しする。

 小梅もまた、エリカの傍にいる者…友人の一人として、彼女が苦しむ姿は見たくないのだ。その一心から出た言葉は、しっかりハジメにも伝わったはず。

 

「小梅っ!大人しくお縄につきなさい!!」

「いやです〜。ハジメさんにはエリカさんを想う同志になってもらうんです!」

「何をワケの分からない戯言を!」

「とにかくですよ、ハジメさん。さっき言ったことは覚えておいてくださいね!」

 

「は、はい。分かりました…」チラッ

 

 彼女をとっ捕まえようと躍起になっているエリカをさりげなく一瞥しながら、頭の内に留めておきますとその念押しの念押しに答える。

 通常の三倍の機動力(スピード)で翻弄する小梅の捕獲に躍起となっているためか、エリカはハジメの視線どころか、小梅宛ての返事も耳に入っていなかった。

 

「こんのっ……避けるな!!」

「避けます!」

「小梅ァ!!」

「――ゲルマン・ニンポ、身代わりハジメ=サンのジツ!!」

 

 追撃を危なげなく躱してきた小梅であったが、流石にそのアグレッシブ・ムーブを繰り返していると日頃鍛えている戦車道少女由来の体力でも消耗はするらしい。そこで彼女は再度ハジメに近づき、「忍殺」のマスクと赤のシノビ装束が似合いそうなノリで秘技を躊躇なく発動した。

 離脱のための時間稼ぎと、相手(エリカ)の動揺と混乱を誘うために行なった秘技なるものは至極簡単。ハジメを肉壁に使ったのである。どこからか「ワザマエッ!!」と称賛の声が聞こえた気もするが気のせいだ。

 

「ハジメ!? ちょっと、そこ退きなさい!私は小梅を――」

「そんなこと言われても…!」

 

 それでいてササッと自分は大盾(ハジメ)の背後に隠れ、その後どうやったかは不明であるが、エリカとハジメが至近距離で相対しアタフタしてる間に、向こう側にいるタクミの横に戻っていた。もう何がなんだか分からない。小梅…否、赤星仮面の中に隠されていたスーパーフィジカルが披露されたという事実と、「あの人もはっちゃける時は思い切りはっちゃけるタイプの人なんだ」と言う強烈な印象のみが残った。

 

「ぜー……ぜー……あんのほえほえ2号め…今日の午後の紅白戦と持久走、覚えておきなさい…!」

 

 エリカは小梅の捕縛を断念したらしく、ハジメのすぐ横で両膝に手を置き乱れた呼吸を整えていた。恨み節に近い悪態を吐きつつ。

 そして、二人による一連の高度なじゃれあいを終始見ていたハジメ少年が横の幼馴染に一言。

 

「……エリさんも大概だけどさ、赤星さんも運動神経すごいよね…戦車道やると女の子は皆んなあんな風に動けるようになるの?」

 

 聞く者によっては中々に失礼極まりない発言である。

 少年のこの発言はただただ純粋な()()の念から来てるものなのだが。彼からしてみれば、光の巨人の力を持っていない女子達が人体由来のフィジカルのみであんだけ動けるのおかしくないですかと言う言い分だった。しれっとエリカに留まらず小梅まで()()()に巻き込んでいるあたり、逆に潔い。

 そして、朝練の太る太らないに続く本日二回目の言葉足らずによる半分自業自得な悲劇がハジメ少年を襲う。

 

()()()()って何よ、あんな風って!!それに、誰が大概よ!?」―ペチンッ!

 

 変に腰の入った平手打ちである。イメージ的には、野球の打者(バッター)のフルスイングのそれだ。

 その軽く、可愛らしさすら感じられる快音と反比例する威力の面攻撃がハジメ少年の顔面に炸裂した。

 

「ペプシッ!!」

 

 ハジメ少年が先ほど溢したように、エリカも戦車道少女としての身体能力は同年代の少女達…そして一般男子らと比べても抜きん出ている。それは佐世保にて繰り出された殺人ヘッドバットで証明済みだ。今回も前例に漏れず、ハジメが回避できないのであれば会心の一撃となるのは必然だった。……そして、直前のウルトラマンへの変身と、自衛隊の攻撃を身体を張って受け止めたダメージが蓄積していたことも重なり___

 

「あ、あら? ひょっとして…ちょっと強すぎたかしら?」

 

 ___某清涼飲料水(ソフトドリンク)のブランド名に酷似した断末魔を上げてハジメ少年は、ビンタの反動でぐりんと一回転した後、うつ伏せで床に倒れたのだった。頬に真っ赤なホカホカ紅葉を作っての即気絶である。

 事情を知らない者が見れば痴漢魔撃退直後なのではと錯覚してしまうかもしれない光景が、待機所の一角で生成されていた。

 

「は、ハジメ…? ごめんなさいね? あの、ここまで強く入るとは思ってなくって……その……」

 

 あの飛び付きヘッドバットを耐え抜いた幼馴染が、小ビンタ(エリカ視点)で沈み、ぶっ倒れてからうんともすんとも言わないものだから、これはやらかしたやつね…と思い至るまでに秒も掛からず。つい数分前まで自身が照れ隠しで憤りをぶつけていた口下手な幼馴染に謝罪をしつつ介抱することになったのだった。

 

 エリカに膝枕してもらえると言う激レア体験を現在進行形でハジメは堪能しているはずなのだが、当人は気絶し意識不明なためその幸福に気づけない。

 そこに彼の親友達がお見舞いにやってきた。徒歩数秒の道のりである。

 

「これは…逝ったなぁ……ストームリーダーでも今回ばっかしは…」

「ちょ、ナギさん!死亡判定はまだ早過ぎるよ!?手を合わせて念仏唱え始めないで!?」

「筋肉が足りんかったようだな…ハジメ。墓には鳥ササミを添えておこう…」

「おいおいまだ殺すな。で、何がどうしてこうなった?――いや、またいつも通りのやつだな…これ」

「大丈夫だよね? これ、洒落で収まってるよね?」

 

 男子勢__上からヒカル、マモル、ダイト、ユウ、そして小梅と談笑していたタクミ__からの言葉もまあ散々なモノで――

 

「うわ〜………エリカ、今回は嵐に何やったのさ…?」

「将来の旦那に盛大なビンタかましたって聞いたぞ?」

「嵐の顔、紅葉がベッタリだ。痛そー」

「あはは…これはこれは……ええ?」

「エリカちゃん、力加減は考えてあげた方が良かったと私は思うなぁ…」

 

 ――同待機所内の別スペースにて固まっていた機甲科少女達__上から順に小島エミ、足文ランコ(ゲシ子)鼠屋マチ(マウ子)勝矢メグ(アヒャ子)、レイラ__も何事かと野次馬根性に動かされて見物に来た。なお、こちらはエリカに「それはやりすぎじゃんね」と咎める言葉が多数を占めていた。大方、目の前で力無く仰向けとなっているハジメの姿に不憫さを覚えて同情してのものだろう。

 チームメイトの同級生友人らから飛んできた言葉にエリカは幼馴染の失言に過剰反応してしまったことによる恥ずかしさから赤面するのみで、反論することは無かった。なんとも言えぬ罪悪感が彼女の中で徐々に大きくなり始めていた。それに今は膝上に絶賛気絶中のハジメを寝かせている。変に動いたりも出来ないこともあり、彼女達の口を物理的に塞ぎに行くことも憚られた。

 

「あの、エリカさん。私も責任の一端はあるかもしれませんが……ちょっとこれはカバーできないかなって…」

 

「う…それは……」

 

 私もハメを外しすぎましたと反省の色が濃い小梅であるが流石に「過剰反応照れ隠し八つ当たりビンタ」の件までは擁護できないし自分の範疇ではないと言う。実際、小梅による暴露で頭に血が昇っていたとはいえ、朝と比べてもまだマシな失言をしたハジメ少年に過敏な反応を返してクリティカルヒットを与えたのはエリカだから当然と言えば当然だ。

 

「エリカ……流石にこれは酷すぎないか……?」

 

「そ…そうですね……本当に申し訳ありませんでした……」

 

 最後に、ここまで無言で趨勢を見守っていたまほが口を開いた。

 常日頃からハジメとエリカの夫婦漫才(痴話喧嘩)を微笑みながら見ている旧友の一人であり、母親…現西住流師範(西住しほ)譲りのクールポーカーフェイス持ちのまほであるが、今回ばっかりは衝撃具合が半端なかったらしく、目に見えるほど顔を青くしており、口元もやや引き攣っているのが確認できる。

 

「謝罪の言葉は、私じゃなくてストームリーダーにしてやってくれ…」

 

「………はい」

 

 今にも消え入りそうな声でエリカは返す他無かった。

 

 そして、見ているだけでは忍びないなと「物資配給所からタオルを貰ってくる」と言い残して、気絶のハジメと羞恥心で真っ赤のエリカを一瞥し、待機所の防護扉…出入り口へとまほは消えていった。

 

 

 

 校内第2シェルターの待機所は絶妙な静けさで満たされている。

 

 

 

 ハジメを膝枕介抱しているエリカは、周囲からの好奇半分畏怖半分の視線をその身一つで受けており、心の中で幼馴染に早く意識を取り戻しなさいよと叫んでいた。

 

 なお、ハジメ少年が目覚めるのはそこから凡そ30分弱の時間を要するのだった。

 

 

 

 

 

 

「――む。ここはさっき通ったかな…」

 

 ……一方、まほは配給所にてタオルを受け取ってから途方に暮れていた。待機所までの道のりをド忘れしていたのだ。

 

「……西住流に逃げると言う文字は無い。前進あるのみ」

 

 彼女の行方が心配になったマモルが探しに来るまで、首をコテンと定期的に傾げながらシェルター内の連絡通路を彷徨った。

 

 

 

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姫神島住民捜索救出・飛行型特殊生物(ギャオス)群駆除作戦__“海伏作戦”__終了より約5時間後

 

 

極東 日本国関東地方 東京都千代田区 永田町

首相官邸 記者会見室

 

 

 

 この日の夜、首相官邸にて、鳥型特殊生物ギャオスが引き起こした今回の…国内4例目にあたる姫神島特殊生物災害とそれへの対処として行なわれた陸海空特共同軍事行動“海伏作戦”、そして“アンノウンⅡ”…ガメラ及びウルトラマンナハトへの対応に関する記者会見が開かれた。

 

 特殊生物…怪獣によって生存者一名(詳細情報は伏せられている)を除いて離島住民が一晩で捕食され全滅したという前代未聞の大惨事は日本全国のみならず、世界各国を震撼させた。故に世間の関心は非常に高く、会見の生中継特番が各テレビ局にて組まれた。

 

 既に日本政府によって、鳥型特殊生物は“ギャオス”、カメ型特殊生物は“ガメラ”と命名されている。由来は国内にて数年前発掘され今も国内の各研究機関にて解読作業の只中である古文書__“護国聖獣伝説”にあり、今回出現した両者は奇しくもそれぞれ「海の護国聖獣・玄武」、「黒翼の災影」として描き記されていた存在と姿形が酷似しており、名称はそこに付随されていたものから引用されている。

 特殊生物の命名が報道機関に発表されてから凡そ数時間。会見を前にして主要SNSの日本国内、海外総合トレンドを「姫神島」「ギャオス」「ガメラ」「非敵性特殊生物(友好怪獣)」と言ったワードが首位を独占し、憶測やデマ…悪質なフェイクニュースまで上がっている具合だった。また、“いっちゃんねる”をはじめとした匿名掲示板などでは政府・自衛隊・怪獣・ウルトラマン関係のスレッドが既にいくつか上限に達していたり、上記題材の各()にて「内閣のベテラン官僚の秘書」や「防衛省の情報部員」などと名乗るタチの悪い自称関係者が多数降臨しお祭り状態となっており、佐世保のクモンガ・カマキラス出現やニューヨークのファンタス星人来訪時に並ぶ__不謹慎であることこの上ないが__盛況具合を呈していた。

 

 そんな国内外の反応を他所に、官邸での記者会見は予定通り開始されていた。

 

『――それではここからは、姫神島に出現した鳥型特殊生物…ギャオス、そしてカメ型特殊生物…ガメラに関する質疑応答へ移らせていただきます』

 

『旭日新聞です!! 総理!なぜ自衛隊はガメラへの攻撃を中止したのですか!!』

 

 与党叩きの記事を作ることを生業としている新聞社の男性記者が挙手と質問を同時に繰り出す。周りの記者らが疎ましそうな目線を彼に向けるがどこ吹く風のようである。

 しかも、質問の内容は事前に話した内容…既に判明している事実を再度問うというものであったため、周囲は声に出してはいないものの「政府が細かく説明したとこをもう一回尋ねんでもいい」「もう皆んな知ってるもんを出して質疑の時間削るんじゃねえ」というオーラが幾人から発されていた。…大きめの貧乏ゆすりや、聞こえやすい鋭い舌打ちもチラホラと。

 精神が図太いのか、それともただ気づかぬだけなのか、旭日の記者は壇上の垂水総理にのみフォーカスしている。

 

 件の記者のルール違反に対して司会進行役が咎めようとするが、垂水総理はそれを手で制し、嫌な顔一つせずその質問に真摯に答える。

 

『――それは会見前に公表した事前情報の通りです。我が国に出現した()()特殊生物を幾度も撃破してきたウルトラマンナハトが今回初めて、統合任務部隊による攻撃から特殊生物を…ガメラを庇い保護する動きをし、意思を伴うジェスチャーを“いぶき”航空隊に送ってきたためです。

 事実、ガメラは自衛隊に対して明確な敵対行為を取ってはおらず、終始ギャオス攻撃に固執していたことが確認されており、ガメラ由来の直接的被害はゼロなのであります。故に、ガメラへの攻撃は中止し撃滅対象ではなく警戒監視対象として扱うことが最善であると言う結論に至った次第です。

 また、現在の自衛隊による駆除能力を大きく上回る…短時間かつ単独での特殊生物撃破を成すウルトラマンの諸能力は特筆すべきものであり、同時にその桁外れの戦闘力は我が国…引いては人類にとって脅威でもあります。もしもウルトラマンが守ろうとしている存在を我々が攻撃を加え殺傷するに至ったしまった場合、彼らが人類に対して敵意を持ってしまうかもしれない。そうなれば我が国、そして世界各国が壊滅的な打撃を被るのは避けられないでしょう』

 

『そ、それでは!海中へ消えたギャオスまで逃したのは何故ですか!レーダーやらソナーやらなんやらで見つけることもできたはずでは!?』

 

 ガメラ関係ではこれ以上踏み込めないと察した記者は、ギャオスに対する自衛隊の動きを槍玉に挙げた。

 あからさまな質問内容の変更に会見会場は苦笑で包まれる。この質問に対する答えも、事前に内閣広報側が公式ホームページで説明してあるのを知っているからだ。

 …その前に一つ質問したのだからさっさと座れ、また質問するんじゃない、と言った視線が同記者に突き刺さる。

 

 されどもそんな記者の質問にも先ほどと変わらず垂水総理は真摯に答える。

 

『間違えないでいただきたいのは我々がギャオスをガメラと同様に警戒監視目標としたわけではありません。ギャオスの一部個体群は、驚異的な生体ステルス能力を保持しており、我が国も保有している最新鋭のステルス戦闘機、F-35(ライトニングⅡ)と比べてもレーダーに映る面積が極めて小さく、それに伴い捕捉が困難であり同ステルス能力が高いとされる個体に関しては誘導弾の追尾機能から逃れるほどのものでありました。つまりはレーダー誘導方式の誘導弾がほとんど無効化されるということです。現在自衛隊と"生総研"の合同調査チームがギャオスの生態研究のため護衛を伴って姫神島へ向かう準備を行なっています。

 なお、その行方の掴めぬギャオスに関してでありますが、現在、陸海空の各索敵装備を用いて目下追跡中です』

 

『レーダーが無効化されると言うのならば、後ろをとって機銃で撃ち落とせば良かったのではないですか!』

 

 周囲の記者達が「お前さあ…」という呆れと哀れみと落胆の溜め息を吐き出す。

 言うは易しであるが、いざやってみると思うように物事は行かないのが現実である。しかも言い方が言い方だった。空戦とは、戦闘とはなんたるかも知らないズブの素人がよくもまあ、たらればで好き勝手に言ってくれると会見場の誰もが思ったに違いない。

 

 温厚な垂水総理もこれには少し思う所があったのか、かの記者に向ける視線がやや鋭さを増した。

 

『いいですか、相手は戦闘機ではなく生物…特殊生物です。ギャオスは一般的な鳥類と同様に滞空飛行(ホバリング)によるその場での停止も可能であり、それが出来ないF-35の背後を容易に取ってきたとの報告があります。また、かの生物はただの巨大で凶暴な鳥ではなく、口内から装甲車の外部装甲を切断するほどの威力を有する光線を放つことは先の中継映像の通りです。無闇な接近戦は撃墜に直結する恐れがあり、数的不利も祟り“いぶき”飛行隊の苦戦はやむを得なかったと認識しています』

 

 

 

 ちなみにこのやり取りに対してネット掲示板のとあるスレッドでは___

『いやいやいや、あの戦闘機部隊バケモンみたいに強かったわ(震え声)』

『普通に善戦してなかったっけ?』

『我が方の損失機 ゼロ 』

『「数的不利も〜」ってタルミンは言うてたが、最初のミサイルぶっぱで大半削り飛ばしてドッグファイトでバタバタ叩き落としてギャオス激減してたような…』

『後ろをとってれば← や っ て た 』

『↑なんなら空戦機動で捌いてバルカンぶち当ててる』

『初見の怪獣の群れ相手にようやっとんなぁ』

『てかレーダー無効(多分ソナーも)とかチート生物すぎるぞギャオス。ナーフしろ』

『空護のライトニング乗り皆んなバケモンやろ…』

『オイ!言葉を謹んでください!』

『↑さてはオメー、全国学園艦ランキング53位で有名な“トリニティ総合学園”の生徒だな?』

『そんな数の学園艦日本には無いし、知らん名前の学校定期』

『ブリティッシュ…(国籍の指摘)』

『生徒間の三枚舌内ゲバ闘争と紅茶狂いで有名なえげれすのお嬢様学校じゃん。なお戦車道のタンカスとレーシングではバッチバチに強い模様』

『英国かよ!?脈絡も無く出てきたからビックリしたわ。肝臓止まったぞ弁償しろ』

『なんやその聖グロみたいな学校』

『みたいなってーよりそれの元の一つになってる世界的に見ても古参の学園艦やぞ。そしてしっかり聖グロと姉妹校提携してる』

『はえ〜会見とは何一つ掠りもしないクッソどうでもいい情報しかないっすね…』

『脱線はスレ民の十八番やが、今はスカンポンタン記者様の大喜利に集中して差し上げろ』

 ___上記のような脱線気味のやり取りが続き、スレッドの空きが一気に埋まりつつあった。他のスレッドでも同じような盛り上がりを見せている。

 

 

 

 そんなネット上の喧騒を他所に、記者会見は続く。

 

『それならば事前に予測して戦闘機を多く載せられる空母を派遣するなりすれば…』

 

 依然として席に座ることなく食い下がっていた件の記者が諦め悪くボソリとたらればの口を開いた。

 これに反応したのは垂水総理の後ろに座り控えていた官僚の一人、鳥山重吉(トリヤマ・ジュウキチ)内閣官房長官だ。巷では長官としての実力とお茶目さのギャップから「トリピー長官」と呼ばれ親しまれている政治家だったりする。…現内閣の栗山(クリヤマ)国土交通大臣と勝るとも劣らない胃薬常備側の人間であることは世間ではあまり知られていない。

 

『現在我が国が保有している航空護衛艦は“いぶき”型3隻のみであることを忘れてもらっては困る!!それに元から搭載機数の少ない防御型軽空母レベルの艦艇なら建造を許してやるとか言っていたのはどこの野党とマスコミだ!!アンタんとこもその一部だろう!!先程からあーすればこーすればと何度も何度も…事前予測もクソもあるものかっ!!』

 

 この時ネット上では、『トリピー、キレた…ッッ!!!』『トリピーがブチギレるって相当だぞ』などなど、珍しく声を荒げて烈火の如き怒りを見せた鳥山長官への反応で埋め尽くされていった。

 

『す、すいません…』

 

 補足しておくと、鳥山官房長官の横に座っている___白いスーツが特徴的な___戸崎(トサキ)防衛大臣からの無言の鋭い眼差しも追撃として加わっていた。それには現地で死と隣り合わせの戦いを経験した自衛官達に対する放言をした記者への静かな怒りが篭っていた。

 

『――他に質問等はございますか?』

 

『………いえ、もうありません…』

 

 鳥山官房長官の気迫と檄、そして戸崎防衛大臣の氷点下の視線に晒されてか記者はこれ以上の質問と追及をやめ、謝罪して座ろうとする。

 

『一般に開示されてる情報についての質問をして時間を潰すのは今後はやめていただきたい』

 

 垂水総理のこの言葉で旭日新聞記者とのやり取りは締め括られた。

 

 鳥山官房長官は意気消沈した記者を確認すると不機嫌顔で席にドカンと座り直し、そのまた横に座る戸崎防衛大臣は自身のメガネを手で掛け直す。その瞳の眼光は依然鋭かった。

 それを直視した例の記者は目を逸らし汗を滝のように流しながら俯いてしのぐ他無かった。

 

 垂水総理は司会進行役に促して質疑応答を再開した。

 

『……次に質問のある方は? そちらの方、どうぞ』

 

『笑顔テレビの増子美代と申します! ガメラ、ゴジラなど…政府が指定した非敵性特殊生物への今後の対応をケース別でお聞きしたいです』

 

 次に指名されたのは、姫神島での決死中継を報道し良くも悪くも大きく注目を集めた笑顔テレビの看板キャスター…増子美代である。

 話題の人物の声を聞いた会場内の記者達の目が、自然と彼女に集まる。

 ちなみに、記者会見前に笑顔テレビ本社の方へ日本政府側から“海伏作戦”戦闘空域からの退避勧告の無視をはじめとした各種違反行為に関する厳重注意を告げられていることを記しておく。

 

『…一部が防衛機密にあたる内容なので全てをお伝えすることは差し控えさせていただきますが……自衛隊による今後出現が確認される非敵性特殊生物群への先制攻撃は原則禁止としました。しかし、同対象群が関わる何らかの事象で市街地などへの被害が予測される際には国民の皆様を守るために全力で迎撃することを取り決め、現在は防衛省、各関係省庁と調整をしている最中です。…前例の無い線引きの難しい題目ですが特殊生物・異星人案件に柔軟な対応を取れるよう不断の努力をしていくことを日本政府は約束します』

 

『なるほど。ありがとうございました!』

 

『次の___』

 

 今回の記者会見の質疑応答は凡そ3時間半に及んだ。

 

 

 

 3時間半後。

 

 

 

 首相官邸のある通路を歩く影が二つあった。

 一人は制服姿の海上自衛官、もう一人は白スーツの男である。

 

「――それで、“Z六号計画”の進行具合は?」

 

 白スーツの男…もとい、戸崎防衛大臣が横の自衛官に訊ねた。

 “特殊生物情勢”勃発により発案された、戦後最大規模となる海自艦艇の急速増勢計画についてであった。

 

「はい。現在、各新型護衛艦…〈"もがみ"型ミサイル(イージス)護衛艦〉4隻、〈"いなづま"型汎用護衛艦〉6隻、〈“きい”型航空護衛艦〉4隻、“いぶき”四番艦、そして……〈“やまと”型特殊潜水艦(707号)〉3隻……が全国の学園艦ドッグにて急ピッチで建造中です。“もがみ”型と“いなづま”型数隻は間も無く就役する予定となっております」

 

 本計画Z六号は、汎用護衛艦(DD)ミサイル護衛艦(DDG)、二種の航空護衛艦…戦闘機搭載護衛艦(DDA)特殊潜水艦(SOSS)、そしてその他補助艦艇の建造が盛り込まれている。建造には全国各地の学園艦停泊港に併設されている超大型ドックを使用しているため、工期の大幅短縮が実現した。さらには学園艦保有数の調整に伴い建造が中止された国産学園艦用の建造物資の利用も文科省より許可されたため、学園艦のコンテナ型浮体ブロックを加工し装甲防御力に優れる新規大型護衛艦用船体の確保まで行なっていた。

 また、上記計画に巻き込まれる形で、既存の防衛計画内にあったミサイル艇(PG)ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)などの建造数にも追加修正が掛かっている。

 

「…"やまと"はいつ出せる?」

 

 特殊生物、そして異星人に対する自衛隊の切り札の一つ、戦略級の巨大潜水艦…“やまと”型の就役は防人達の悲願である。

 大型特殊生物の国内来襲が立て続けに起こっている現状、一刻も早い建造完了が待ち望まれていた。

 

「“きい”型と“やまと”型は学園艦用浮体ブロックを加工した専用船体となりますので、早くとも今年の夏…8月の下旬ならば優先中の“やまと”は間に合います」

 

 強い語気をもって、自衛官は戸崎大臣に応えた。

 

「そうか。頼むぞ」

 

「はい…!」

 

 日ノ本の守りを盤石なものとすべく、彼らはあらゆる思索を巡らせながら官邸の奥へと消えた。

 

 

 

_________

 

 

 

翌日

 

 

太平洋 日本国領海

四国地方 高知県沖合50km海域

学園艦 黒森峰学園 市街地某所

 

 

 

 この日の朝、高知沖の空は快晴に恵まれた。

 そんな晴天の下に広がる大海を割いて進むのは、日本が誇る大型学園艦の一つ、黒森峰学園である。

 今日もその甲板部分…艦上都市では人々のモーニングルーティンが再生されている。

 

「ほら、そんな歩調(ペース)じゃ普通に学校間に合わないわよ!」

 

「は〜い」

 

 いつもよりも体感ゆっくりめに寮を出て登校している最中なのはハジメとエリカだ。

 両者にとってこの組み合わせは珍しいものだった。最近は互いに同性の友人らと共に別々に登校することが殆どであったからだ。

 されど、それとは裏腹に上のエリカの声は喜色が見え隠れしていた。彼女的には、久々の幼馴染二人っきりでの登校である。気分は上々だ。恐らく、昨日のビンタ撃沈事件など綺麗さっぱり脳からデリートしているに違いない。

 

「……エリさん?」

 

 逆に先行しているエリカのやや斜め後方を歩くハジメはそんな彼女の様子を見て怪訝そうな様子。

 

「なによ…」

 

 普段ならば「男どものことなぞ知らん!!」と言わんぐらいに早めに登校するエリカが何故、今日は自分と一緒に学校へ続く道を歩いているのか、どうしても釈然としないのである。

 

「いっつもならとっくに学校にいるのになんで今日は俺に合わせて待っててくれたの?」

 

 見るに見兼ねて付き添ってくれたのか、それとも昨日の件でサシのお話があってなのか、ただ単に一緒に登校してくれたのか、あらゆる可能性をハジメは頭の中で考察していた。

 朝からやたらと脳への糖分供給量が多い少年、嵐ハジメ。無駄に難しく考え、答えを得られなければ一人で勝手に袋小路に陥ってしまうのは彼の数少ない短所である。ネガティブ思考は危険察知能力やリスク管理がうんたらとよく言うが、ここまで来ると単にマイナス要素でしかない。

 

「気分よ気分!寝坊したわけじゃないからね!!」

 

 …ここまで模範的なツンデレ解答があろうか。

 嬉しさを悟られるまいとフンと腕組みをして、いつもの鋭い吊り目をハジメに向ける。

 

「気分と寝坊ね………あ…」

 

「? どうしたの?」

 

 ハジメは制服ズボンのポケットから振動を感じたので、中を弄り振動の根源であるスマホを取り出した。液晶画面には着信画面が映っている。

 着信相手の名前欄には「母さん」と表示されていた。

 

「母さんから電話だ。朝からなんて珍しいな……エリさん、ちょっと話すね」

 

 直近のものも含めればこれまで四度も(アメリカのロボフォー案件は例外)特殊生物災害に巻き込まれているハジメだが、母親のアオバから安否確認の電話が来たのは熊本市のコッヴ襲来時に一度のみである。それ以降はSNSでの個人チャットでちょこちょこ近況報告をし合っている程度だった。

 これに関しては、アオバが冷たい母親というわけでは勿論無く、自分の息子と周りにいる仲間達へ全幅の信頼を寄せているからである。無関心だとか、嫌いであるとかで電話を入れてないワケではないのだ。

 

「ええ。別にいいけど…」

 

 エリカはハジメとアオバの会話の内容が気になったので、少し横からこっそり聞いてみることにした。

 

「………もしもし。はいはいハジメだよ。で、どうしたんだよ母さん?朝っぱらからなんかあったの?」

『―――、――――?――――――?』

「え? うん。元気元気、エリさんも一緒。うん、うん……え?違うよエリさんは幼馴染だから!彼女じゃないって!!」

 

 彼の中では幼馴染と彼女若しくはそれに近しい間柄という属性は併存させれないものであるらしい。エリカはややショックであった。内心ずっこけて吐血気味である。

 

『――――、――――――?』

 

 エリカとしては彼女判定はやぶさかでないし満更でもない。なんならそう認識してくれてたら最高ですねといった具合だった。それ故にハジメ少年が放った何気ない否定の言葉が思いの外突き刺さった。

 

「……は? ごめん、もっかい言って?」

『―――――』

 

 まあいつまでも落胆してては何も良いことは無い。意識を嵐家のやり取りへとエリカは戻す。

 ハジメは怪訝そうな顔つきで空を見ながら通話相手…アオバに聞き返している。何かあったのだろうか。

 

「…………母さんさぁ、無理すんなよ…いきなり弟欲しいかとか聞かないでくれ……」

 

 数秒の沈黙の後、かの少年の口から驚愕のワードが飛び出した。

 

(!?)

 

 内容が内容だった。「赤ちゃんはどうやって生まれるの?」に対する解答をしっかり理解している多感な年頃の高校生にとっては赤面ものの話である。彼らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()系のトンデモプロセスを純粋に信じる年齢ではもうなくなったのだ。

 ハジメは目頭を指で押しながら呻くように、懇願するように溢した。

 聞いていたエリカはと言えば「ボンッ!」と一瞬で真っ赤っかになっている。ハジメ以上に狼狽えている。危なく朝から素っ頓狂な声を上げるところであったエリカだったがすんでのところで耐え切った。

 

「ていうか母さん…父さんは中学ん時に亡くなってるのに、どうやって弟こさえるんだよ…? 俺だってそこらへんは学校で保健体育習ってんだから、母さんの言ってる意味が分からないって……」

 

 ハジメの父親…嵐広希(アラシ・ヒロキ)は凡そ4年ほど前、ハジメ少年が中学二年生の頃に亡くなっている。

 地元熊本の土木建築系株式会社で働いていた。なお、日本各地に飛び回っての仕事であったため、エリカはヒロキとは幼少期に数度しか顔を合わせたことがなかったりする。

 当時のエリカから見たヒロキの印象は「あんまり喋んないけどアイスくれる優しいクマみたくおっきい人」である。筋トレの極地に至り控えめな無精髭を生やして大人になったハジメかもと彼女は朧げな記憶を頼りにしてかなり詳細に思い返してみていた。

 

 さて、ここまでの情報を整理すると、どうあがいてもアオバが第二子を自力でもうけることは天地がひっくり返ってもありえないことが分かるだろう。…某Z戦士の丸型宇宙船(アタックボール)が降ってきてそれを保護したなどとなれば話は別かもしれないが。

 

『――――、――!』

 

 ……しかしながら子供をゼロからではなく、1ないし2あたりの段階で引っ張ってくる正規の手段は世の中にはちゃんとある。それは先に有り得ない例として挙げたキャベツやZ戦士と別のところ…引き取りや保護といった側面で地味に紐つくものだ。

 

「………え? 養子?」

 

 養子縁組。血縁とは関係ない者__ 例えそれが流れ星とキャベツとコウノトリの三者の間に生まれた複雑な事情の子供であれ、母星の戦乱から遠ざけるためにZ戦士が宇宙へ逃した子供であれ__と親子関係を結べる制度である。諸々の手続きと話し合いをパスできれば「今日からお前もオレの家族だ」となるわけだ。

 尚、類似するややこしいものに里親制度と言うのがあるが、こちらは今回の件ではほぼ空気となるので説明解説は割愛する。

 

(そっちだったかぁ……)

 

 エリカはエリカで目をそっと閉じて天を仰いでいた。ハジメと同じように(?)邪な推測をしていた己を深く恥ながら。

 

『――――、――――――、――』

「姫神島……あ、昨日のギャオスとガメラの……それなら、うん。分かった。俺は良いと思うよ」

『――――!! ――、――――』

「そうだね。母さんは昔っからジッとしてられない人だもん」

『――――。――――!――?』

「りょーかい。母さんも、身体に気をつけてね。じゃまあ今度。……ごめんエリさん、少し長引いちゃったね」

 

 そうこうしていると母親との話を終えたハジメが長電話の謝罪をしてきた。長引いた、待たせてしまったと彼は言うが、歩きつつの通話であったので時間的ロスは微々たるものであった。

 

「別にそこまで気遣わなくたっていいのよ。それに私も話、少し聞いちゃってたし」

 

 盗み聞きに近い所業をしたこちらの方が悪いまである。エリカの返答を受けたハジメは、ならお互い様と言うことで朗らかに笑った。

 

「母さんがさ、姫神島の特災孤児を引き取りたいけどいいかって」

 

 特災孤児。“特殊生物災害被災者”の中に含まれる孤児のことである。

 初の特殊生物出現(“クモンガ・ショック”)を経験したブラジル連邦共和国が初出で、特殊生物(現在では異星人も含む)による影響で身寄りを無くした子供達がこれに類別されている。ブラジル、中国、インド、アメリカ合衆国、そして日本で同被災者の確認がされており、あまり知られていない話だが5カ国の中で特災被災者並びに特災孤児の数が一番多いのは日本だ。先の姫神島の件も含めて週単位で大型特殊生物の来襲が続いている国家ということもあり被災者と関連死傷者の総数は増加の一途を辿っている。

 

「やっぱりアンタのお母さん、アオバさんも変わってないわね。真心の塊って言うか……その、すごい良い人」

 

 ハジメの父ヒロキとは違い、エリカはアオバとはかなり交流があり、互いの連絡先を交換している。幼少期のハジメが初めて自分の意思で(西住姉妹は大体アポ無し凸であった)家に連れてきた女の子であったので、アオバからは実の娘のように可愛がられていた。親子世代二人の仲の良さは彼女(エリカ)の実母が嫉妬して頬を膨らませながらぽかぽかとアオバを涙目で叩いたほど。

 

「うん。まあ…ウチの母さんだからなぁ…」

 

 ハジメの西住みほや赤星小梅に劣らぬのほほんとした穏やかな気性はそんなアオバから引き継いだものだと彼女は確信している。

 

「……それに、家族がいなくなって独りのままなんて、寂しいなんてもんじゃないと思う。俺だったら嫌だしきっと耐えられない。だから俺は母さんの提案には賛成だよ。向こうの子も養子については前向きらしいしね」

 

「へぇ…昨日今日の話なのに、その子もアオバさんもたくましいというか…親だけならともかく、アンタがいるはずなのに大丈夫なのね」

 

「エリさん言い方ぁ!」

 

 ハジメが兄になると初耳の時点で信じて受け取る友人は少ないだろう。実際、付き合いの長い自分でさえ、このように横で把握してなければ一笑に付す側になっていたとエリカは思う。

 

「さ、行きましょうか。今日のSHR、英単テストだし」

 

「え、あっ今日だっけ英単!? うっそぉ…単語帳忘れてきちゃった……」

 

「はあ!?朝からバカジメやってんじゃないわよ!! あぁーもう!なら急いで教室まで行く!英単ノート貸すからそれ使いなさい!!」

 

 今日のハジメは朝からやらかしていた。

 エリカは胸の内で、まったく世話の掛かる幼馴染なんだから、と溜め息を吐く。

 

 二人は学び舎への道を…日常の道をドタバタと駆けていくのだった。

 

「――あだっ!!」

 

「ちょっと!なんでそこでコケるのよ!!」

 

 ………エリカの機転やカバーも虚しく、ハジメは後日再テストを昼休みに受けることとなる。

 

 

 

____

 

 

 

同日 現地時間早朝

 

 

西ヨーロッパ ドイツ連邦共和国 ベルリン州

首都ベルリン

 

 

 

 欧州随一の経済大国、技術大国であり、“戦車道の本場(戦車道先進国)”でもあるドイツ。それに加えて、本史世界では永世中立国スイスを除く完全な国家連合として存在する“ヨーロッパ連合(EU)”の擁する超国家軍事機関“ヨーロッパ連合軍(EUF)”(各加盟国の軍から三割ずつ抽出した戦力で編成している。ロシア連邦は欧州方面軍が抽出対象)の陸海主力の一角を務める軍事大国という側面もある。

 

 その日、ドイツ首都ベルリンに住む市民は朝から異様な光景を目撃することになった。

 

 空を見上げると____

 

「な、なんだろう、この雨は?」

「これも怪獣のせい?それとも異星人?」

「浴びるとなんかあるんじゃないか!?」

 

____"緑色の雨"が降っていたのだ。

 

「不気味だ…明日は何も起こらなければ良いが………」

「微生物とかウィルスとか混ざってないよな、この雨」

「中東でもヒメガミ島のギャオスの同種が出たって話だろ?いよいよヨーロッパも危なくなってきたか」

「アフリカとオセアニアでも出たって聞いたぞ」

 

 これは()()()()()()。そんな予感と不安を抱かせるには十分な緑色の怪雨は丸半日続いた。これの影響でベルリン市内の主要公共交通機関は一部運行を見合わせないし停止し、各教育機関もそれに付随するように臨時休校を選択、市内に立地する多くの企業は従業員に特別休業と自宅待機を通達した。

 同州消防、警察が怪雨により生じた市内の混乱に歯止めを掛けるべく早朝より治安維持に奔走した。

 

 古来より世界各地で“ケーララの赤い雨”や“ファフロツキーズ現象”のような突出した異常降雨は度々確認されてきた。怪獣や異星人が姿を見せる前であったら、そういった事象群の一つとして捉え今よりも騒ぎにはならなかったろうが……度重なる特殊生物災害から「怪獣なら…或いは異星人ならしでかすかもしれない」と考えるベルリン市民が大多数となっていた。

 

 この事態に衛生保健当局と連邦国防省は、同日正午手前に異例の共同声明を発表した。

 市民には憶測やデマに踊らされることなくいつも通りの生活を続けることを促し、異常降雨の現象と原因の解明に全力を注ぐことを約束した。また、ヨーロッパ最大の研究機関“欧州連合科学技術研究所”__通称“欧技研”__と本件の調査を進めていくこと、連邦陸軍NBC防護部隊を主体とした徹底的な除染作業を行なう旨を伝えた。

 これにフランス、イギリス、ベルギー、ポーランドといった近隣諸国政府が呼応し、援助と協力を申し出た。

 

 

 

 後日、ベルリン市各地の病院より廃棄予定であった人工臓器の紛失事件が多発した。紛失した臓器群はどれも屋外で回収待ちであったのが殆どだった。

 そしてその日以降から夜間のベルリン市街地の道路、路地裏数箇所にて腐敗臭を伴う謎のシミの発生が相次ぎ……それに加えて、不気味な笑い声や人間大の()()()()を目撃したとの通報が多数寄せられることとなる。

 

「またこのシミか…全く、いったい誰の悪戯だ? 一晩でこんなベットベトのガムみたいなものつけて……」

「ここも清掃業者呼んでパトロールに戻ろうぜ? 意味不明な通報とそのシミについて悩むよりもあそこのベンチでぐっすりの爺さんに注意入れる方がよっぽどいいぞ」

 

 “シミ”発見の通報を受け、現場の確認にやってきた警察官二人は途方に暮れていた。時間帯が明け方だったこともあって片方の警官は眠そうな様子であくびを噛み殺していた。

 

 …相次ぐ()()()の通報から州警察は当然動いたが、証拠という証拠は現場に残る()()のみであり、詳しい事情を確認しようにも、どの通報者も名乗り出ることもなく行方が掴めずと肝心なことが分からず仕舞いという有り様であった。

 ピンポンダッシュのそれに近い悪質なイタズラだと勘繰る警官もいたが、緑雨の件もあり警察内では扱いに困る事案となりつつあった。裏では連邦警察や連邦陸軍も動き出しているとの噂もあるが噂の域を出ておらず、暫くの間は州警察単独での対応を余儀なくされた。

 

「……そうだな。やれやれ、あの爺さんこの週で3回目だぞ?」

「朝から酒飲んで酔っ払いやがって、どう言うつもりだ? しかも最近のイかれたやつらは人類滅亡の序章だなんだって騒いでやがる…それで仕事が増えてよぉ…俺もたまには休みてぇんだけどな」

 

 不可解な事象が続くベルリン市内の公園では終末論者による演説も目立ってきていた。これを馬鹿真面目に聞き入っている人間は極めて少数だが、今後どうなるかは分からない。

 

「モンスターにエイリアンだって出る世の中になって、そこに緑の雨が降ったんだ。誰だって不安になるし酒だって無性に呷りたくなるだろうさ。さぁ爺さんとこに行くぞ」

「へいへい。分かったぜ相棒」

 

 

 

____

 

 

 

垂水内閣による記者会見の翌日

 

 

東アジア 日本国九州地方 鹿児島県

五島列島姫神島

 

 

 

 ギャオス・ガメラ出現から一日が経過した姫神島には、特殊災害派遣隊として本土からやってきた消防隊員や自衛隊員、警察官が機械、人力問わずで瓦礫の撤去作業等に尽力していた。作業の途中で発見・回収された腐敗の激しいギャオスの肉片は島内の数カ所に集められ焼却処分が為されている。

 なお、姫神島は特殊生物災害を受けて、数少ないライフラインの寸断や島内産業の壊滅、住民の蒸発が重なったことにより、最低限の復旧作業と通信施設、海底ケーブルの設置を行ない今後は鹿児島県と日本政府…国土交通省、防衛省の共同管理地区として五島列島から編入される計画が挙げられている。

 

「いやぁテレビで見てたけど、この荒れ方はすごいね…」

「………生物の可能性とは恐ろしいものよ…」

「くそっ…なんで俺が早乙女の爺さんとここに?俺は物理学者だぞ!来る必要無かっただろ!」

  

 何らかの研究者もしくは専門家と思われる風貌の男女比3:2の一団が特生自衛官__対特殊生物強襲制圧隊員__数名からなる護衛を伴いながら、瓦礫が大地一面に広がる元居住区を通り、島北部の山岳地帯に続く山路を進んでいた。

 彼らは日本最大の官民合同研究機関、"日本生類総合研究所"から派遣された調査隊のメンツであった。略称はこれまで何度か触れてきた際や先日の総理の会見時に出ていた"生総研"である。

 

「まあまあ、倫太郎さん♪ せっかくの調査なんですから楽しまないと!」

「そうですよ!何事もポジティブに、ですよ岡部さん!」

「ええい!桃髪に緑髪、俺の名前を分けて呼ぶな!!」

「明石君と夕張君は元気だなぁ。今時の若い女の子はたくましい」

「ふふふ!リケジョをナメてはいけませんよ!!」

 

 日本生類総合研究所は、()()と付けていながらもあらゆる分野の学問に精通した者たちが集まっている、所謂「変態(天才)集団」で、生物学以外にも高エネルギー、宇宙物理学や地球惑星科学、電子工学などを筆頭に国を代表する人材が多数所属している。その歴史は古く、江戸中期に前身組織“機巧創出院”の立ち上げが記録されており、明治初期には現在の生総研の原型が出来上がったとされ、第二次大戦では戦略超重爆撃機“富嶽”、局地戦闘機“震電”、重戦艦“改大和”型・“超大和”型、“五式中戦車”をはじめとする数々の未完試作決戦兵器群の発案、開発に携わっていた。

 その技術力や発想力は脈々と受け継がれ現代に至っても健在。これまで度々名前が登場した、西暦2000年より各国の戦車道競技車両や主力戦車の装甲に採用されている炭化繊維素材“複合(コンバイン)カーボン”__非公式愛称は「ミレニアム・カーボン」__や、革新的動力機関“超小型プラズマ・バッテリー”を生み出している。それ故に同機関の国際的な影響力並びに発言力は強い。

 

 そんな生総研から姫神島に派遣されたのが以下のメンバーである。

 

 白髪白髭が印象的な老齢の考古学者、早乙女将吾(サオトメ・ショウゴ)

 高エネルギー物理学を専攻している、炎天下の中でも白衣を纏う変わり者な青年学者、岡部倫太郎(オカベ・リンタロウ)

 緑髪ポニーテールが目を惹く遺伝学の秀才少女、夕張菊花(ユウバリ・キッカ)

 切り揃えられた桃色のロングヘアーが際立つ、夕張と同い年の有機化学専門の女性学者、明石春子(アカシ・ハルコ)

 如何にも喫煙家な渋面の男性生物物理学者、小倉育也(オグラ・イクヤ)

 

 ――以上の5名全員がその道のプロかつ、博士号を取得している日本を代表する非常に優秀な研究者達である。

 

 彼らは強襲制圧隊員らに護衛され、島外縁の舗装道路より外れて島北部山岳地帯へと続く急勾配の山道へと入る。

 ギャオスの飛翔が確認された山中にて発見された洞窟…(ハイブ)の跡地と目される地点へ向かうためである。

 

「上陸して暫く経ってから言うのもなんじゃが、本当に安全なのかのぉ? ギャオスと鉢合わせになれば真っ先に喰われる自信があるぞ」

 

 派遣隊の中で最高齢の男性学者である早乙女博士が青天を見上げながら一抹の不安を口にした。

 しかし、派遣隊の数メートル先を歩く護衛の隊員が黒塗りされた小銃(SCAR)を構えながらもチラッと派遣隊の方に顔を向け穏やかな声色で答えた。フルフェイスヘルメットでその顔を見ることは叶わないが。

 

「ご安心ください。昨日より島内全域を陸と空からくまなく捜索し、島内におけるギャオスの全滅確認を完了しております」

 

 丁度その時、彼らの上空を偵察ヘリ〈OH-1〉が通過していった。

 空からの目である彼らは、姫神島近海洋上に待機している“いぶき”と“いせ”を中継基地として、数機でのローテーションを組み島上空の警戒を常時している。

 

 …昨日、自衛隊は鹿児島入りした習志野の陸自第1空挺団と特自強襲制圧隊第二陣を中核とした一個大隊規模の戦闘偵察部隊を本土にて編成し、これを輸送ヘリ並びにLCAC(ホバークラフト)で姫神島へ輸送。同島到着後はそこに三自の哨戒機、偵察機を加えての大掛かりかつ入念な捜索活動を実施していた。

 この結果を踏まえて、三組織による島内での災害派遣活動への従事や、生総研の調査チーム派遣にGOサインを出している。また、その全域捜索活動から“巣”(ハイブ)の場所が判明した。

 

「ギャオスを鳥類が異常変異した特殊生物と仮定すると、帰巣本能も備わってる可能性がありますよね…? 第一報の前後で既に拡散した未把握の個体がいたとしたら、島に戻ってくることも……そこらへんは大丈夫なんです?」

 

 生総研本部では、生物関連部門の人員を召集し、ギャオスをいずれかの既存若しくは未発見の日本固有種が何らかの外因で変異を遂げた元鳥類の特殊生物として、生態の予想をいくつか立てていた。その一つがツバメやツルといった渡り鳥に多く見られる「帰巣本能」の有無である。

 その夕張の質問に一団を誘導している先頭のもう一人の隊員がギャオスの飛来時の対応策をヘルメット越しでハキハキと答えた。

 

「ええ、それへの用意は勿論あります。皆さんも港町からここまで来る間にチラっと見たかもしれませんが、新たなギャオスの飛来に備えて本土から多数の87式を引っ張り出してきました。また、ヘリ以外にも"いぶき"所属のスパロウ隊(902飛)が姫神島の周辺空域を早期警戒機(ホークアイ)と連携しカバーしてくれています」

 

 万一の別個ギャオス出現への迎撃体制は確立済みであると隊員は言った。

 たしかに、言われてみればと皆が思い返す。砂丘海岸や漁港、港町内外、島外縁道路などには、「スカイシューター」の愛称で知られる陸自の対空車輌〈87式自走高射機関砲〉計十数両が、自走電探〈対空レーダ装置 JTPS-P25〉の補助を受けて、砲身を空へと向けて警戒にあたっていた。そしてそれに付随するように、長い鉄筒の形をした装備…携行式対空誘導弾(91式)を担いだ陸自普通科隊員が立っていた気もする。

 

「なるほどな。レーダーが効かないってことなら手動(マニュアル)しかねえってことで自走機関砲って判断か……赤外線誘導のミサイル以外がほぼほぼただのロケット弾になるってことだもんな」

 

 生総研と防衛省は、“海伏作戦”上陸部隊や“いぶき”飛行隊の戦闘報告から、ギャオスが第五世代ステルス戦闘機の最高峰クラスのステルス性を有していると数度の実験による検証から導き出した。そこでギャオスもまた生物…「()()()()()存在である」とし、同生物への有効的な攻撃手法として赤外線誘導・画像誘導方式の誘導弾攻撃を挙げていた。

 

「はい。その通りです。現在、全自衛隊での赤外線誘導式誘導弾の保有数自体が少ないこともあり、機関砲弾による撃墜の択を採るに至りました」

 

 それは逆に、泣く泣くその択を採るしかなかったとも取れる。

 防衛装備庁と生総研が共同で新たな赤外線誘導システムの開発に心血を注いでいるらしいが、()に間に合うかどうかは不透明なのが現状だ。

 

「生体ステルスとかやばいわよ? 何をどうしたらそんな生き物ができるのかしら? 遺伝子でも操作しないと………操作……うーん……?」

「それを調べるためにここに来たんだから今この場でそんなに頭を悩ます必要は無いだろう。…っとそういや岡部君、キミが作ってるって言う"怪獣レーダー"って代物、どうなってるんだ?」

 

 夕張が眉間に皺を寄せて唸りながら思考の海に溺れかけていた。しかしそれを小倉が彼女の肩に手をポンと置いて一言掛けた。「むっ!子供扱いしないでください!」とぷりぷりと抗議する夕張から小倉は目を逸らし、「ウチの息子とおんなじぐらいなんだよなぁ」と溢しながら、ジャケットの胸ポケットにしまっていたライターと煙草__今年で製造75周年を迎えた銘柄“マイルドセブンFK”__一本を取り出し一服する。

 そしてついでとばかりに話題を自身の横を歩いている岡部に振った。純粋に興味があったのかもしれない。

 

「それは厳密に言うとレーダーじゃあない。直接特殊生物を捕捉するわけじゃなくてな、既存のレーダーに奴らの発生源の一つ…ワームホール、自衛隊の呼称は“(デン)”だったか?……の発生を感知するシステムを追加するソフトウェアだ。レーダー自体は作ってないぞ。ちなみにもうとっくに実物は出来上がってる。稼働試験パスしたもんを自衛隊に納入始めてるはずなんだが……」

 

 特自隊員が岡部の話に頷いた。聞くところによれば、空自航空警戒管制団の全国の防空施設(レーダーサイト)への導入が始まっているらしい。優先的に配備が進められているのは東部、西部、南西…三つの航空方面隊である。

 

「ねえねえ岡部さん、それって、どうやってワームホールを見つけるんです?仕組みは?気になります!」

 

 明石がずいっと岡部に顔を近づける。それを岡部は軽くスルーして説明する。

 

「それはだな…まず、ワームホールからやって来る特殊生物は()()()()()()()()()()()()と巷では認識されてる。これは誤解で、正しくはワームホールの向こう側にある未知なる世界・次元・宇宙からやってくる跳躍者(ジャンパー)だってのはここにいるメンバー全員が知ってる話だな?」

 

 これに対して他四人はそれぞれ頷く。

 前方と後方で警戒に当たっている護衛役の特自隊員達は納得したように同じく頷いていた。

 

 自衛隊・防衛省はワームホール…“(デン)”の調査研究を生総研と合同で複数回行なってきた。その際の意見交換の場で「ワームホール(“穴”)は我々の世界とは差異のあるまた別の世界と不規則に繋げる、一種の扉である」……“(デン)”が多次元宇宙(マルチバース)並行世界(パラレルワールド)と深い関わりがあるという推測の話が挙がっていた。当時の会議に参加した自衛官や防衛省職員の一部は「そんなSF染みた話…にわかには信じられない」という旨を示したが、超常存在群の出現を何度も目の当たりにしている彼らはその提唱を真っ向から否定しようとはせず、最終的には受け止めた。同会議を通じて、“(デン)”に関する話は省内、そして各方面隊、各基地及び駐屯地に広がっていった。

 そのため、護衛の自衛官達もある程度この話にはついていけるし、理解もできるわけなのだ。

 

「ワームホールを介して、こっちと向こう側の空間が一瞬でもガッチャンコするんだ。ワームホールは最初に空間の磁場を掻き乱して渦状の歪な力場を形成する。それがあの紫色だ。そして本命(怪獣)を送り込んでくる前に、向こう側の()()を少量吐き出して()()()を行なう。組成の違う大気や、波線とかを試しに送り込むんだ。本命を投入する時にトラブルが起こらんようにな」

 

 全員が、はぁ〜そうなのかと相槌の頷きを見せる。

 

「俺のソフトはワームホールが発生する前に必ず出すその予兆…磁場の著しい波長変化と、慣らしとして送り込んでくる一部のエネルギーを識別・探知するシステムをレーダーに付与するのが俺の作ったソフトの役割ってことになる」

「お話が長いですよぉ…まあでも、ワームホール発生の兆候は見つけてあげるけど残りは自力で頑張ってねってことですよね?」

「そうなるな。夕張の指摘の通りだ」

「ふむ、そうなれば自衛隊を予めワームホール及びそこから襲来する怪物共が発生するポイントに展開させて有利な状況で戦闘を始められるのか。今までのように確認、通報、出動、といった動きではなくなるということじゃの。これならば、避難誘導もかなり早期に出来る。犠牲者も減るじゃろうて」

「だが、こいつにも弱点はある。あくまでも()()()()()()()()()()()()()のソフトだからな。そのため、夕張が言ったように奴らの出現後に奴らを捕捉するのはソフトを搭載しているレーダーの仕事だ。相手がギャオスのようにレーダー、その他の索敵装置を掻い潜る存在、若しくはそもそも地球に存在している、或いはワームホールを使わずに自力で地球外から侵入した存在の場合、コイツは無力だ」

 

 もっと何かできたかもしれないとやや項垂れる岡部の肩を、小倉が手をポンと置き励ますように一言。

 

「それでも…だ、岡部君。出現座標の予測とある程度の割り出しが出来るだけでもかなり助かる。特に土地の狭い島国である日本がそれを使える意味はデカいぞ」

 

 

 

 怪獣レーダーもとい、“(デン)”探知ソフトの話が終わり、それから暫くして一同は山道の奥へと足を進めていた。

 

 

 

「ふぅ…まだ洞窟までは着かんのか? そろそろこの老いぼれの足にもガタが来始めたわい」

 

 草木をかき分け、勾配のある道とも言えぬ獣道を歩くこと数十分。

 調査チーム内最高齢の早乙女博士が上のように呟いた。しかも無駄に足をガクガクさせてのアピール付きである。隊員達は苦笑いだ。

 

「そろそろ着きますよ。……ほら、あそこに軽機(ミニミ)を持った歩哨の陸自隊員がいますよね? ここからでは見えませんが、彼の後ろにある洞窟が目的地です」

 

「おお! ついにギャオスの生態を知ることが出来るぞぉ!!ほれ、みなワシについて来い!!」

 

 早乙女博士の目の色が変わった。探究心溢れる、ギラギラとした学者の眼差しのそれである。

 

「ちょ、早乙女博士!急に歩くペースを上げないでくださいよぉ!」

「まだまだ元気におじいちゃんじゃないですかぁ!」

 

「はっはっは!!まだ若いもんには負けんぞぉ!!」

 

 先ほどまでの弱々しさはどこへやら。

 目的地まで残り僅かだと把握した早乙女博士はずんずんと力強く歩いていく。先導していた隊員たちをも抜き去って洞窟前に一番で到着したのだった。

 

「おい爺さん!はしゃぎすぎだ! 発作起きてポックリ逝っても俺は知らんぞ!!」

「キミは少し落ち着きたまえ……ほれ、吸うか?これ、絶版になった初期生産の箱なんだが」

「小倉先生、生憎俺は電子派なんでね、煙いのは断っておくよ。気持ちだけ受け取っておく」

「そうか…美味いんだがなぁ………おーい!早乙女さんも吸うかい?」

 

 小倉はシュボッ!と咥えた煙草に火をつけ、半分ほど吸ってから上まで登り終えた早乙女博士に一服しないかと誘う。

 

「こらぁ!」

「お年寄りに喫煙を勧めないでください小倉さん!!」

 

 早乙女博士からの返答を待たずして、夕張と明石が小倉に鬼気迫る顔で迫った。

 青少年への喫煙推奨は違法と定められており、喫煙可能条件を満たしている老人もまた健康上の観点から止められるのが常である。世間一般側のモラルを持つ彼女らが怒るのも尤もと言える。

 

「タバコは絶対悪の存在ではないんだがなぁ…」

 

 小倉の戯言はさておき、一同はギャオスの“(ハイブ)”__繁殖及び産卵場__となっていた洞窟の前に辿り着いた。道中よりも虫…特に蠅が増えてきた気がする。

 

 皆より一足早く洞窟内に足を踏み入れていた早乙女博士の横顔が見えた。顔にガスマスク__自衛隊から供与された“防護マスク4型”__を装着している。独特の排気音を出しながら、ギャオスの幼体と思われる死骸の一部をピンセットを器用に扱いサンプルとして採取していた。

 彼らも早乙女博士に続こうと洞窟に入ろうとする。しかし入り口に入った途端、激臭物質として有名なアンモニアや硫黄などを優に超える形容し難い腐臭が彼らの先鋒…岡部の鼻を容赦無く襲った。

 

「うぅ!? なんだこの臭いは?」

 

 岡部はダイレクトにこの異臭を吸い込んでしまったらしく、前屈みになって涙目で咽せることとなった。

 察しの良い小倉、夕張、明石の後続三人は早乙女博士の姿を視認した時点で懐にしまっていたガスマスクを取り出していたため、ニの轍は踏まなかった。

 

「なんじゃ、お主らも早くマスクを付けた方がいいぞ。鼻が腐り落ちるわい」

 

 洞窟内へと踏み込めば、そこはギャオスの遺骸で溢れていた。地面に出来ている穴には等しくそれらの体液や未孵化卵の中身が流れ込んでおりおどろおどろしい腐池を形作っている。

 死が蔓延している空間だった。防護装備を何一つ持たない常人が場所へ来たならば、吐き気を催す凄まじい臭気と未知の生物の腐乱死体によってたちまち身体と精神に異常をきたしただろう。

 

「それにしても一晩二晩でここまで酷いことになるもんかねぇ……そこんとこどうなんだ明石君、夕張君」

 

 小倉が自身よりも()()()()関係に明るい女性研究者二人に尋ねた。

 

「………ここらの卵全部、孵化から一月も経ってないですよ…」

 

 明石が自身の目算を小さく答えた。彼女の言葉に嘘偽りは無い。その声は震えている。

 目算と言えども、その道のプロが導き出した極めて正確な答えである。ミスや誤差は有り得そうもない。

 

「一ヶ月そこらでアレらの赤ん坊は20mの大怪鳥に成長したって言うのか?

「……しかも殻自体は遥か昔、紀元前三万年も前の代物じゃな。計器は壊れとらん。これが事実ならば、此奴らは一万年もの間、地中で()()()()()のだ。つまり、既存鳥類の変異存在という仮説はたった今消し飛んだことになるのぉ」

 

 歴史的大発見だ、希少性の高い野鳥だなどと喜ぶ者は誰一人いなかった。

 

「先天性のステルス能力を持つ太古の飛行生物……いったいなんなの…」

「元から、この姿だったなんて…。なんで特殊生物は揃ってこうも攻撃的な進化を遂げてるのかしら…?」

 

 一同が黙り込む中、何かに気づいた小倉は一人洞窟の奥に歩き、また戻ってきた。

 腕を組んで一考した後、採取活動を黙々と行なっている陸自の化学科隊員の一人を掴まえてあることを尋ねる。

 

「しかしここに残ってる死骸……どれも損傷が激しいな。なんだ、ここでも撃ち合いしたのかい?」

 

 小倉が顎で指した先は調査チームがいる洞窟の入り口付近ではなく、自分が見てきた洞窟の奥の方である。

 そこには卵、雛、幼体の夥しい数の死骸が発酵気味の粘着質の体液に塗れて転がっていた。洞窟入り口の比ではなかった。これらが洞窟内の激臭の根源と思われた。

 

「いえ。我々がここに到着した時には、既にこのような状態でして……何が何やら。先日の上陸部隊もこの下にある山村付近までの進出で止まっていたと聞いていますが――」

 

 夕張が口を開いた。

 

「――食べたのよ」

 

 可能性の一つだった。目の前にそれを裏付ける証拠が無数に転がっている。

 共食い。習性等によるもの、何もかも偶然で起こるもの関係なく、自然界では珍しい行動・事象では無い。

 

「きっと互いに殺し合いをして食い合ったんです……」

 

 ギャオスに限らず、特殊生物の生態は依然として殆どが謎に包まれている。

 しかしながら、常軌を逸しているのは確かだった。これは普通の共食いじゃないと。

 卵は割って中身を吸い、雛は潰して舐めとり、幼体は切り裂き貪ったのだろう。想像するだけで惨い。惨すぎた。

 

「そして生き残った個体は異常な成長速度で飛行能力を短期間で獲得するに至り、島民や既存生物の尽くを捕食。ガメラと自衛隊と交戦して、残る個体数体は逃走…というよりも海中へと飛び込み行方知れず、と」

 

 小倉の呟きに、皆が身震いした。

 

 

 

_________

 

 

 

後日

 

 

同国関東地方 茨城県つくば市 研究学園地区

日本生類総合研究所 本部

 

 

 

 姫神島でギャオスのサンプルを採集し、筑波の本部ラボに戻った調査チームの面々はそれぞれの分野でかの大怪鳥の研究を進めていた。

 そして、更なる驚愕の事実を知ることとなる。

 

「な、なによこれ……こんなの遺伝子操作なんて言うレベルじゃない……」

 

 超古代の生物…生きた化石であると言う話だけでも既に研究所内は大騒ぎである。

 上のように呟いたのは、ギャオスの遺伝子検査に関する報告書を読んだ夕張だった。あまりに斜め上過ぎる、人類にとっては直視し難い検査結果が目の前のパソコンの液晶画面に映っている。虚空を見上げるしかなかった。横でアシスタントをしていた明石もまた同様だ。

 

「一対の染色体、完璧な遺伝子配列…絶滅種も含めたあらゆる生物のDNA…………まんま生物兵器っていうか…それ以上の、モノホンの化け物じゃないこんなの…」

「成長速度が早くて、自然と世代交代のサイクルも短くなってるから、故意的偶発的かは置いておいて突然変異の頻度と確率は他の生物と比べて圧倒的に上……もし、もしも選択的適応進化か何かで、単性生殖の多卵性にでもなったら……」

 

 明石と夕張が顔を見合わせる。

 

「そんな個体が既に一匹でもいればそこから爆発的に増殖して……これは早く発表しないと手遅れになる…!」

「現代兵器が通用しない大型飛行生物の大量発生とか洒落にならないわ!!」

 

 パソコンに齧り付き、二人は自国政府への報告資料の作成と並行して、世界各国の研究機関に所属する学者の友人知人と独自のコンタクトを取ることに奔走することになる。

 

「アメリカの“国立衛生研究所(NIH)”のコーウェンさんとスティンガーさんに、それと欧技研のアンジェラ姉さん、あと豪州のアイナちゃんには私が連絡入れるね!」

アフリカ共同体(ACU)はニルス君がいて……えーと、中国には留美(リューミン)さんがいるから……インド、ロシア、ブラジルは――」

 

 ―――生総研のラボから発された報告はその日に官邸まで届き、垂水総理が緊急会見にて国内外にギャオスの発見と殲滅の必要性を強く訴えた。

 実は姫神島での生総研と自衛隊が調査を進めていた段階で、地球各地…特にアフリカ大陸と西アジアでギャオスの出現、飛翔が次々と報告が上がり始めていたのだ。

 

 海外諸国に対し日本国がギャオスの研究結果の即開示(生総研の一部職員の独断も含む)をしていたことによって、各国並びに各地域の研究機関への迅速な情報共有が実現しギャオスの脅威は正しく世界に伝わった。

 

『ギャオスを野放しにしてしまえば、人類は遠からず滅びる』。

 日本の垂水総理の会見と研究者達の警鐘の声を受けて、国連が動き出したのである。

 対ギャオス有志連合の結成が提案され、国家間の軋轢等を無視して多数の国が参加を表明した。北米諸国、英独仏伊露の欧州主要国家群、豪州連合、アフリカ共同体、ブラジル、イスラエル、インド、韓国が国境を越えて怪物との戦いに身を投じる決意をそれぞれ表明した。また、初のギャオス襲来を経験した日本は積極的防衛行動を自国領内のみとし、他国での活動は人道支援、戦闘部隊の後方支援に絞り徹する旨を宣言し同連合に加入した。

 

『――諸君らは、広大な砂漠の土地で生きる友人達を苦しめる災いの影…ギャオスを打ち払う光だ。力を持つ者が立たねばならない。これは我々に課せられた義務なのだ』

 

 有志連合は多国籍軍を即日編成し、地域単位でのギャオス殲滅を掲げ、まずは確認個体数が群を抜いていたアフリカ北部、西アジアに米英軍を中心とした統合任務部隊を派遣することを決定する。

 

『只今を以って、“砂漠の光作戦(オペレーション・デザートライト)”の開始を宣言する!!』

 

 統合任務部隊司令官に任命された米陸軍将官マクドネル・ミラーの訓示は、同時間に出陣式を執り行なっていた各国軍基地にリモート中継され、派遣部隊の一員として母国を発たんとしている兵士達の士気を大いに引き上げた。

 後日、派遣部隊が前述地域に展開を開始し、威力偵察の航空部隊が複数の空域で接敵。

 ギャオス殲滅の幕が切って落とされた。

 

 

 





 あと
 がき

【2023年版編集】

 凡そ3.5話分の内容となってしまった第11夜を読んでくださりありがとうございます。この後書き編集時点でマイゴジを観てきた投稿者の逃げるレッドです。

 今回は(説明がいるかなと自分が勝手に選抜した)用語単語人物の補足をここに載せておきます。
 ※くっそ長いです。すいません。最悪読まなくても大丈夫です

・学園艦の立ち位置や管轄
 種別は大雑把にすると超巨大民間船舶。「艦上都市」はそのまま甲板部に広がる市街地のことを指している。
 本史世界では、本土の「飛び地」に当たる船であるからと言うことで他国の排他的経済水域(EEZ)や領海への航行は国際法上明確に禁じられている。そして艦が友好国に寄港・停泊時、艦上都市には治外法権が適用される。また、「学園艦の軍事運用」はタブーとなっている。WW1、WW2では共に準小型…町村レベルの500m〜1km未満級学園艦(“大型工作艦”として判別され、海上農水産施設や海上工場として戦時は運用されていた)が国籍関係なく戦災に巻き込まれ多数沈んでいる。当時の世界では現役の中型、大型学園艦の数は少なく、そこの住民も大半が母国本土に疎開し、どこの同級学園艦も港に無期限停泊状態になっていたので、海の底に沈められることは無かった。
 現在、本史世界で運用されている学園艦の殆どが戦後に新造された代物となっている。また、中国・北朝鮮・豪州連合の陣営と日本・アメリカ・欧州(ロシア込み)の陣営による「航空母艦化の是非」に関する激しい応酬が行われている。武装化は先述の通りタブーではあるが、どこの国も災害等の非常時に備えて空軍・海軍の索敵・哨戒部隊を少数駐在させており(この武装化、軍隊駐留の限度のラインが曖昧化・形骸化していることから国家間の認識の摩擦発生の原因が生まれている)一部の滑走路を借用している。
 日本も陸自の“第2輸送ヘリコプター群”飛行隊と空自海自の監視部隊を各学園艦に「学園艦分遣隊」として常駐させている。日本では、文科省が全学園艦の手綱を握っているが、学園艦は「海上」都市であり、民間「艦船」であることから、管轄的に防衛省や国交省が運用に関して(致し方無く)干渉することもある。なお過去の度重なる自然災害等を経て担当部署間の調整や動きのノウハウは得ているのであまり軋轢は生じたりしない。

・甘利田先生 【おいしい給食】
 本史世界2020年時点では黒森峰学園に配属となった若手教師で給食学食大好き人間。給食学食好きを本人は隠し通しているつもりだが、黒森峰の生徒達にはバレバレ。
 なお、本土での教育実習生時代に「給食マスター」こと神野(カミノ)ゴウ少年と出会い給食対決をしている。世界線が変わっても彼らは“究食道”を極める運命にあるらしい。
 本史世界で生きる甘利田先生は、あちらの原作season1に登場したヒロイン女性教師…御園(ミソノ)ひとみ(本土学校勤務)と結婚している。どこぞのゴリパーティフィジカルJKを想像してはいけない。

鼠屋(ネズヤ) マチ 【原作ガルパン:飛騨(ヒダ) エマ】
 我々ガルおじの間では「マウ子」でお馴染みだった超重戦車マウスの元車長名無しモブ娘ちゃん。最終章第4話で公式な名前が判明した。おめでとうまうまう。
 本史世界の「マウ子」は「ゲシ子」(公式スピンオフ、リボンの武者では「バウアー」)と同じく、公式の飛騨エマではなく上記の投稿者オリジナルの名前となる。この名前の経緯は、例の“夢の国”と“パレードのマーチ”をいい感じに切ったり貼ったりしてぼやかしてたらできた。
 千葉県浦安市にある超大型テーマパーク“カントー・モモフレンズ・ランド”の年間パスを持っている。

・ギャオスへの日本政府の姿勢と対応
 島民からの明確なSOS、自衛隊の即応及び上陸・戦闘の発生と、そしてギャオス出現以前より小型中型の「怪獣」が多数出現していた例があったことから、平成ガメラ世界のような捕獲・保護なんて生優しい対応を取ることは無かった。
 ……と言うよりも後述するナハトスペース地球の日本政府の覚悟と判断がキマり過ぎていたからっていうのもある。
 また、もしも覚醒直後のガメラに対する攻撃に電磁加速砲(レールガン)まで投入していたら(離島という立地等の諸々の要素でありえなかったが)、ガメラの死は確実だった。

・垂水内閣(魔改造)
 本史世界2020年時点で発足から凡そ10年を突破した与党…“自由守権党”の長期政権。内閣発足から一年足らずという時期に韓国及びロシアとの領土問題を解決し、竹島と千島列島の返還と帰属を実現させた実力派政権であることで知られる。また閣僚の約半数が40代以下であることも大きな特徴である。
 国内産業や諸外国への援助、育成、投資、交流等に積極的で、安全保障に関する理解も深く、純国産ステルス戦闘機や電磁加速砲搭載車輌の調達、海自初の空母建造を謳った“ペガソス計画”…〈“いぶき”型航空護衛艦〉就役に大きく関わった。…2014年尖閣諸島沖での日中空母艦載機による武力衝突事案“いぶき事件”の発生という最大の窮地にも遭ったが、立て直しに成功し今日まで日本の国家運営を担っている。

 主要閣僚は以下の通り。【※元作品】

○内閣総理大臣
 垂水 慶一郎(タルミ・ケイイチロウ) 【空母いぶき】
 中国、北朝鮮、豪州連合を念頭に置いた防衛力の整備や学園艦の防衛体制の強化に尽力した。
 “特殊生物情勢”の勃発とコッヴの日本襲来を受けてからは、各方面に働きかけ“対特殊生物特別措置法”をごく短期間での公布・施行まで導いた。

○官房長官兼副総理
 鳥山 重吉(トリヤマ・ジュウキチ) 【ウルトラマンメビウス】
 ナハトスペース地球の日本では垂水総理のベテラン快刀…敏腕()()()として頑張っている。やる時はやるおじいちゃんという印象を持たれている国民からの愛称は「トリピー」や「トリちゃん」。…断ち切れぬ巡り合いつるむ運命でもあるからなのか、しっかり(マル)さんがこの世界線でも長官秘書を務めている。
 官房長官という肩書きなため広報(メディア)への対応を多く担当しているのでよく記事を刷られることから、自身への声に対して敏感なのがたまにキズである。このように良くも悪くも人からの評価を気にしてしまうので、後述する栗山大臣とは「胃薬常備組」として政権内では知られており、本人曰く「なぜか気が合う」栗山大臣とは丸秘書官を交えた三人で晩酌をしたり家族間で食事をする仲であるとか。
 
○防衛大臣
 戸崎 優(トサキ・ユウ) 【亜人】
 本史世界では厚生労働省の人間ではなく、政治家である。30代になったばかりで与党内では中堅の位置に立つ。大臣の中では、三番目に若い人物。白スーツとメガネがトレードマーク。
 論理的思考も相まって性格はややキツめだが、決して血の通っていない非道寄りの人間ではなく、しっかり感情はある。なんなら、原作世界では死に別れてしまった婚約者…(アイ)は本史世界では存命で、彼女と結婚までしていて幸せを掴んでいる。そのため、「日常」を誰よりも愛し尊ぶべきものだと思っており、日本を…彼女が生きる国を守るために日夜職務に取り組んでいる。
 後述する最年少大臣である三角や年が近い入江大臣とは公私で交流を持つ。

○文部科学大臣
 新門 辰郎(シンモン・タツロウ) 【史上最強の内閣】
 後述する敷島大臣と同じぐらいの老齢大臣。実は戦後間も無く創設された与党内の一大古参派閥の代表でもあり、現代にまで続く「来たるべき国際化社会ために広い視野を持ち大きく世界に羽ばたく人材の育成と、生徒の自主独立心を養い高度な学生自治を行なう」と言う“日本学園艦の在り方”とそこでの教育とは何たるかを固めた人物の一人である。また、ガルおじ達の間では「役人メガネ」の名で知られる辻廉太(ツジ・レンタ)が所属する“学園艦教育局”の前任者でもある。本史世界では「学園艦統廃合計画」は横の組織である“学園艦管理局”が推し進めており、それの動きには懐疑的な反応を示している。
 
○財務大臣
 万丈目 胤舟(マンジョウメ・インシュウ) 【20世紀少年】
 本史世界では胡散臭い露天商や興行師であった過去は無く、「ともだち」の仲間ではないし、“友達民主党”の党首でもない。ごくごく普通の与党ベテラン議員の一人。
 大学生、大学院生、そして駆け出し議員時代に作り上げた人脈と、各業界とのパイプを独自に持つ。“特殊生物情勢”下での自衛隊の防衛力増強が迅速に行なえたのも彼の力のおかげである。内閣の縁の下の力持ち的存在。
 悪気は無いがネチネチとした、胡散臭い喋り方をするので、与党内やマスコミからの反応はイマイチ。
 趣味は投資と昼寝。独身。
 
○農林水産大臣
 三角 青照(ミスミ・アオテル) 【日本三國】
 内閣最年少…30代前半のルーキー大臣。髪型は七三分けでキッチリと揃えている。既婚者。
 幼い頃より本の虫で、高校まで地元の図書館に毎日入り浸っていた。文学と地理学に秀でており、地図設計技能はコンピュータ並みの正確さを誇る。
 地元の公立大学を出てすぐに現与党へ入党。地元への恩返しをするべく、自前の農林水産と地理の知識を結びつけた画期的な政策を多数発案し何度も採用され、日本の食料自給率上昇に大きく貢献する。最近では学園艦での養殖水産物に漁業関連の住民の要望に応えウニ、ホタテの追加を提言している。
 戸崎大臣以上の理屈屋として知られ、その若齢に見合わない説き伏せ方でベテラン議員達を黙らせることがしょっちゅうある。前述の戸崎大臣とは、年が近いこと、似た性格から馬が合うとのことでよく話す。また、どちらも喫煙者なので互いの銘柄を交換して吸うこともあるとか。
 
○経済産業大臣兼資源エネルギー庁長官
 敷島 勝治(シキシマ・カツヂ) 【真ゲッターロボ 世界最後の日】
 エネルギー関連の科学者としての側面を持つ理知的な風貌の老大臣。エネルギー庁の長官も兼任している。後述する征陸公安委員長や新門大臣、万丈目大臣とは公私で交流がある。日本最大の研究機関“日本生類総合研究所”との太いパイプを持ち、“複合(コンバイン)カーボン”や“プラズマ・バッテリー”といった、新素材や新動力の国内普及に尽力した。
 よく前述の“生総研”や防衛省の技術研究本部に顔を出しており、研究開発を()()()()()している。…人類に有益な宇宙線の研究を独自に行なっているという噂も。
 
○国土交通大臣
 栗山 三郎(クリヤマ・サブロウ) 【ウルトラマンZ】
 鳥山官房長官と共に「胃薬常備組」の閣僚として有名な64歳のベテラン大臣。ストレス性の胃痛に毎日悩まされている。鳥山長官や万丈目大臣からはよく酒の席で励ましてもらっているらしい。
 国内のインフラや輸送網をぶっ壊してくる相手が基本的に天変地異(最近では怪獣・異星人の襲来もある)であるため、怒りを燃やして振り上げた拳を何処にも振り下ろせない。いつも被害総額で顔を青くさせ復興予算の捻出で頭を抱えている。しかもここに隣国…中国の海警船、北朝鮮の違法漁船、豪州連合加盟国のコルベットによる挑発行為への対応も加わるので輪を掛けて不憫。踏んだり蹴ったりである。しかし優秀な人物なのでなんやかんやで毎回なんとかする。口癖はヤダモー武部さんと親和性があるかもしれない「なにやってるんだよぉ、もお!」。…近々隠居しようかなと考え始めている。
 
○外務大臣
 乱馬 羅流(ランバ・ラル) 【ガンダム ビルドファイターズ】
 40代前半でありながら垂水総理の与党内派閥では古参に入る議員で、極東情勢に収まらず、世界六大州すべての情勢に精通している傑物である。
 交渉能力に秀でており、外交における攻め時と引き際を熟知している。また、勘の当たり方が尋常じゃない。
 妻からプレゼントされた青いネクタイを付けて毎日の公務に取り組んでいる。がっしりとした図体、武人の如き揺るぎない精神性、そのシンボルカラーから、誰が言ったか「青い巨星」。
 
○厚生労働大臣
 入江 京介(イリエ・キョウスケ) 【ひぐらしのなく頃に】
 内閣で二番目に若い大臣。医師免許を持っており、並みの医師よりも博識で、流行病や感染症の総理・大臣レクの際には識者を呼ばずに入江大臣に話をさせた方が早いと言われている。
 印象は二つ分けのストレートにメガネと整った容姿をしているのだが、中身はドが付くヲタク。その黄金の精神を見たアキバの兄ちゃん達からは絶大な支持を受けている。そんな彼らからは敬意を込められ「監督」とも呼ばれている(なんの監督かは依然不明)。

○ 国家公安委員長
 征陸 智巳(マサオカ・トモミ) 【PSYCHO-PASS】
 警察庁からの叩き上げで、下積み(現場)時代に培った警察内部の人脈は広く、勤勉実直な性格から現場を退き役人側に立った今でも多くの刑事・警官から慕われている人物。54歳で警察官の息子がいる。
 柔軟な思考の持ち主で、サイバー対策、テロ・ゲリラ対策にも意識を強く持っており、特殊生物(怪獣)・異星人の国内襲来が確認されてからは避難計画や現場対応の立案に尽力した。特殊生物対策として一般警官や機動隊員の銃器装備の強化と拡充を指示している。

・Z六号計画
 大型特殊生物の国内来襲を受けて、既存の艦艇数では学園艦や本土、島嶼間の防衛は極めて困難であると認識した海上自衛隊が発案し実行に移された海上戦力の増強計画。
 符号の“Z”には、「究極の国防艦隊を生み出す」、「未曾有かつ最大最悪の災厄より日本を守り抜く」と言う二重の誓いの意味が込められているとのこと。逆に“六”の意味は判明してはいないが、“第5護衛隊群”に次ぐ「第六の艦隊」に組み込まれる艦艇を指しているのではと考えられている。
 本計画最大の特徴は、全国の学園艦停泊港に隣接している同艦用の大型多目的ドッグを用いた集中高速建造による短期間での艦艇配備と、上記施設設備で加工した学園艦浮体ブロックを船体に日本史上初の採用をする__“いずも”型、“いぶき”型を優に凌ぐ_ “きい”型超弩級航空護衛艦と、巨大戦略潜水艦…“やまと”型の建造を目指している点であったりする。
 …これに加えて通常の建造計画も継続してるから、多分全自衛隊で海自が一番調達費高いしめっちゃ予算分けてもらってると思う。絶対国産学園艦新規建造中止で出た物資以外にもお金やらなんやら掻っ攫ってリソースにぶちこんでる。建造ペースについては本史世界日本のバケモノ染みた造船関連の諸技術やノウハウをフル活用してるという考え。

・トリニティ総合学園
 元ネタは、学園×青春×物語RPG「ブルーアーカイブ」に登場する学園都市“キヴォトス”の三大学園の一つとして数えられる同名の学校。
 ナハトスペース地球では艦齢が半世紀を超えようとしている15km級の大型学園艦である。中高一貫の女子校で、英国の誇る由緒正しい淑女育成学校として国内外にて非常に有名。日本の聖グロリアーナ女学院とは姉妹校提携を交わしており、交換留学制度を導入しているためか、毎年トリニティに入学する生徒の1割半ほどは日本出身或いは日系イギリス人である。
 戦車道では英国内に留まらず、高校戦車レースリーグ、高校戦車道、そして非公式競技“強襲戦車競技(タンカスロン)”の欧州大会出場を幾度も経験している強豪の顔を持つ。
 とある垂水総理の記者会見実況スレ板にていきなりその校名が飛び出してきた。スレ民達も実はあの話の流れについていけておらず良く分かっていない。ちなみに「言葉を慎め」の書き込みをしたのは聖グロに留学中のトリニティ日系生徒__ヒフミ・アジタニちゃんだったので、スレ民の推理は的中してた。彼女が何故実況スレに入っていたのかは謎。ヒフミちゃんの書き込み前後のやり取りの元ネタは「53位ユウナのガード、ワッカ」。恐らく本史世界でも似たようなネットミームがあるのだと思われる。

・ナハトスペースの天才科学者達
 生総研の姫神島調査隊を構成するメンバーというか、世界各国の研究機関に所属しているメンバーの殆どが色んな意味でヤバい人達。それぞれの原作…原典並行世界での活躍を知っていればいかにこの地球がネームド理系キャラドリームチームを作ってるか分かる。多分アルケミースターズ以上の地球産カウンターウェポンだと思う。

____

 次回
 予告


 2日前のガメラ、ギャオスの出現もあり、黒森峰学園は江ノ島港へ向かう前に一度四国の高知港へ寄港していた。
 しかし高知市内では数日前から惨殺遺体の発見が相次いでおり、警察のみならず特生自衛隊まで動き出していた。

 そして市内へ買い物に向かっていたエリカと小梅に、残虐な異星人の魔の手が迫る!

次回!ウルトラマンナハト、
【宇宙(そら)からの逃亡者】!


サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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