旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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残忍宇宙人 エイダシク星人

登場





第12夜 【宇宙(そら)からの逃亡者】

 

 

 

アナザーM78スペース

第4銀河系 γ(ガンマ)レラトーニ星系

遊星間小惑星帯(アステロイドベルト)

 

 

 

 巨大な大陸型緑色惑星γレラトーニと、地球よりもややサイズのある海洋型青色惑星α(アルファ)レラトーニの間にある小惑星帯宙域。

 そこでは現在、光弾や光線が激しく飛び交い、時折軌道を逸れたそれらが小惑星に命中し粉々に粉砕する。

 

 空間戦闘の光景である。

 

――セヤァアッ!

 

 この宙域で交戦しているのは、赤と銀色の体躯の巨人…当世界にあるM78星雲・光の国が擁する宇宙警備隊所属のウルトラ戦士と、両腕にハサミ状の装具を纏っているのが特徴的なヒューマノイド型異星人だ。

 

《待て!エイダシク星人!! レラトーニ星系生物の食用乱獲、違法武器の密造密売、次元跳躍(ワームホール・ジャンプ)システムの悪用……これ以上罪を重ねるんじゃない!!》

 

 ウルトラ戦士が、相手している異星人__エイダシク星人__からの光撃を素早い身のこなしで捌きつつ、それに投降を促していた。

 彼と対峙しているエイダシク星人は、星間交配によって誕生した新たな知的種族の一個体である。同種族はセミ若しくはザリガニのような頭部が特徴で、高度かつ独創的な科学技術___「エイダシク科学」___を保有していることでも広く知られる。しかし人口の大半が非常に攻撃的かつ利己的な性格の個体で占められており、宇宙犯罪者や無法傭兵となる者があとを絶たず、指名手配者を排出し続ける要注意種族として多数の宇宙組織や国家からマークされている。…「残忍宇宙人」の別称の由来も、そういった種族柄や重大な星間問題を引き起こした個体の存在が大きく影響していたりする。

 レラトーニの宙域でウルトラ戦士に応戦している本個体もまた、例に漏れず凶悪な宇宙犯罪者であった。

 

『ボクが他の星でオイシイ生き物食べたってボクの勝手デショ。邪魔をするナ!ウルトラマン!!』

 

 惑星γレラトーニ及びαレラトーニは、星全体が穏やかな気候に恵まれ、宇宙蛾スペース・モスや大蜘蛛クーモン、怪奇植物スフラン、怪魚アクアフィッシュなどを筆頭とした小型怪獣の惑星固有進化種が織りなす豊かな生態系を形成している、宇宙全体を見ても非常に稀とされる生命の星だ。地球やL77星と同様に「宇宙に浮かぶ宝石」と評されているほどである。

 

 その内包する多様かつ豊富な生物生態系や惑星資源に目をつけられ、レラトーニ星系も異星人同士の星間侵略戦争等で制圧目標に指定されるなどして戦火に幾度も巻き込まれた過去を持つ。

 現在は、第4銀河系を統べる宇宙文明連合政府により、過去の過ちを繰り返さぬよう「保護対象星系」なるものに制定され知的種族の侵入や植民といった介入行動を全面的に禁止している。故に当星系には管理者的立場の銀河系政府さえも宇宙軍基地の建造はおろか艦隊戦力すら駐留させておらず、無人監視衛星数機が星系外縁に配置されている程度に留まっていた。

 

 エイダシク星人はその緩めざるを得なかった監視網の穴を突く形で星系内への侵入を成功させていた。第4銀河系政府がそれに気づいたのはやや遅れてのことで、最寄りの宇宙軍を派遣しようにも僻地も僻地なこの星系への到着には更なる時間を要し即応は事実上不可能だった。そこで同じ“銀河連邦”(名称の通り、銀河規模の多目的国際機関)加盟組織の宇宙警備隊が隊員を派遣し助力することとなり現在に至る。

 

バババババッ!

 

 エイダシク星人は両腕に装着しているハサミ状の電磁兵器、“伸縮式プラズマ・ガン”をウルトラ戦士に向けて大して照準も定めずばら撒くように乱射する。

 

 グァアッ!

 

 狙い定めた射撃ではなかった。それがウルトラ戦士にとっては逆に読み辛い攻撃となったのかもしれない。

 乱射されたプラズマ光弾の数発が直撃した。彼は大きく後方へと吹き飛ばされ、浮かんでいた巨大小惑星の表面に激突してしまった。

 

『ボクはお前らナンカの相手をしてる暇は無いんだよ!“星間同盟”に入るには他のヤツらを超えたドデカイ手柄がイル!だからもっともっとモット食べて強くならなくちゃいけないんダヨォオ!!』

 

 エイダシク星人はヒステリックに喚き散らしながら、カプセル型のアイテム___“次元跳躍装置”(ワームホール・ジャンプ・システム)___を取り出し起動させる。

 

 ―――ヴゥゥン……ッ!

 

 すると独特な点火音と共に、エイダシク星人の背後に紫色の大穴…ワームホールが生成された。

 

 ワームホール越しに、両手で掬ってやらねば今にも零れ落ちてしまいそうな程に美しく透き通った蒼い惑星が見える。

 ウルトラ戦士もその星には覚えがあった。世界が違えど、彼にとって、光の国の者達にとって、とてもとても大切な星。小さき仲間達との思い出の数々…片時も忘れたり色褪せたこともない、かけがえのない星…だった。

 

『イヒヒヒヒッ!この別宇宙(向こう側)でもっとモットオイシイ獲物を見つけてやる!! 特にあの青い星なんかサ、絶対うまい食い物がウジャウジャいるダロ!!』

 

 思考が一瞬止まっていた。気づいた時にはエイダシク星人がワームホールに自身の半身を投げ入れていた。

 

《よせ!》

 

 制止の言葉を出すのが関の山だった。ワームホールはエイダシク星人が進入してから僅かな間で急激に収縮していき、他者の追跡を拒否する。

 

『ふひひひ、バイバーイ』

 

 最後にエイダシク星人はヒラヒラと腕だけを出してふざけた別れの挨拶を残してワームホールの縮小と共にその姿を消したのだった。

 

 特A級宇宙犯罪者として手配されていたエイダシク星人の一個体を取り逃がしてしまったウルトラ戦士は頭を抱える。その姿には焦燥が滲んでいた。

 

《あれは確かに地球だった……!エイダシク星人を追わなければあの地球に住んでいる大勢の人たちが苦しむことになる!!》

 

 辛うじて別次元の太陽系が所在する空間座標を算出できていたウルトラ戦士は、宇宙警備隊が直轄管理している固定式のワームホール・ジャンプシステムを有する、隣接星系に建造されている星系基地へと向かわんとする。

 

 ウルトラ戦士がレラトーニ星系外縁部に到達した直後―――

 

 ゴォオオオオオオ……!!

 

チカチカチカッ!――チカッチカチカッ!

 

《――ワレ、第4銀河連合宇宙軍609艦隊(フリート)旗艦(フラッグ)リッター・ツルギ。貴官ノ所属並ビニ任務概要ハ照合・確認済ミデアル。至急、貴官ニ現状ノ共有ヲ求ム》

 

 ―――50mの体躯を持つ光の巨人さえも圧倒する、全高全幅100m、全長400mは優に超える巨大な、先進的デザインの宇宙艦艇群…星系救援部隊である第4銀河系文明連合宇宙軍の辺境快速艦隊(軽巡、駆逐、重コルベット合計十数隻からなる文字通りスピード重視のパトロール艦隊)が星系外縁に単横陣を形成し転移(ワープ)してきた。

 そして上記の発光信号を発しながらウルトラ戦士と接触した。

 

――チカチカチカッ!

 

《――貴官ノ奮戦ト協力ニ深ク感謝ス。此レヨリ、当艦隊ガ本宙域ノ治安維持ヲ引キ継グ。貴官ノ武運長久ヲ切ニ祈ル》

 

 ここで彼は事の顛末を同艦隊へ簡潔に説明・報告し、星系の宙域哨戒警備を任せてエイダシク星人追跡のため急ぐのだった。

 

 

 

_________

 

 

 

ナハトスペース

太陽系 第三番惑星(地球)衛星“月”軌道上

 

 

 

『ふぅ………宇宙警備隊は中々しつこかったナ。さて、新しい食事場へ行こうカ!…アノ星をボクが占領して“星間同盟”に渡せばボクも星間同盟の一員になれる!!ボクの腹も膨れて、星の制圧すれば星間同盟構成員…一石二鳥ってやつダ!!』

 

 エイダシク星人はワームホール・ジャンプシステムで並行宇宙(ナハトスペース)の太陽系内惑星の一つ…地球の衛星()の軌道上に次元跳躍を成功させ追手の追撃を振り切ることに成功した。

 

 そして眼前には、真っ青な海と深い緑の大地、大気と白雲を纏った惑星…地球が浮かんでいる。

 エイダシク星人はほくそ笑みながら、地球へと針路を取った。

 偶然にも、それが目指した降下地点は、アジアライン・ニホンエリア…惑星地域国家、日本国四国地方の高知県。エイダシク星人の地球降下__ファンタス星人に次ぐ侵略(敵性)異星人の襲来__は各国の軍事衛星並び観測衛星、レーダー等で構成された索敵監視網を以ってしても察知出来ず、不幸にも標的(餌場)とされた日本国は地上への降下侵入を許してしまう形となった。

 

 これは、姫神島でのガメラ・ナハト出現の当日深夜のことである。

 

 

 

_________

 

 

 

“海伏作戦”終了より二日後

 

 

極東アジア 日本国四国地方 高知県高知市

北部地区市街地某所

 

 

「―――()()姿()になるのも、随分と久しぶりだ………でも今はその余韻に浸っている場合じゃない。エイダシク星人を追わないと!!」

 

 ナハトスペースの地球時間で二日後には僅かなエイダシク星人の痕跡を辿り次元を越え、かのウルトラ戦士も同地球へ来訪。彼は僅かに残っていたエイダシク星人の反応を追って、地球の対宇宙監視網を潜り抜けて高知県高知市へと降りたっていた。彼は地球人の青年の姿となってエイダシク星人の捜索に着手する。

 

 

 

『捜索範囲の拡大を具申する』

『マル被は依然として、高知市の何処かに潜伏しているものと思われる。捜査は続行』

『先ほど新たな目撃情報が挙がった』

 

 三日前より、ここ、四国の高知県高知市では猟奇的な連続殺人事件が立て続けに起こっていた。

 被害にあった人物らに全く繋がりは無く、下は児童、上は高齢者まで…老若男女問わず犠牲になっていた。どの遺体も腹に穴を開けられて一部の内臓が欠損しているもの、口から吐血が認められ体内の血液量が3分の1にも満たなくなって失血しているものと、大半の遺体の状態が常軌を逸していた。

 現在、高知県警が確認出来ているだけでも24名が犠牲となっている。そこに行方不明者を足せば犠牲者はさらに増えて二倍近くになるだろうとされている。又、直近の行方不明者の中には拳銃を所持していた現職の警察官も混じっており深刻性は増しつつあった。同県警は快楽殺人を好む異常な人物若しくはテロリストによる単独ないし複数人の犯行であると見て被害件数の多い夜間には市内をパトカーや警官による巡回を増強させ、市内の小中学校、高等学校には集団下校と授業終了時刻の前倒しを自治体と共に要請を続けていた。今では機動隊の警備車両が前からそうであったと言うように街中を走っているのが日常になりつつあった。

 

『――特自14連隊選抜小隊並びに強襲制圧隊、香南市現着。送れ』

『高知了解。これよりこちらで誘導を行なう』

『――陸自14旅団、50普連第1及び第2普通科中隊、呼集完了』

 

 そして、その異常かつ奇怪な殺害方法や相次ぐ不審者情報を自衛隊も防衛省情報本部(DIH)を通じて本連続殺人事件の内容を把握。こちらではテロ以外の可能性として、高度な知能や特異な能力を有した未確認の小型特殊生物、または異星人による犯行であると睨み、自衛隊は本件を“K(高知)事案”と呼称。

 陸自中部方面隊直轄の第14機動旅団は同事案の()()の行動を抑制するために動き、これに善通寺駐屯地(四国・香川県)所属の第15即応機動連隊より二個中隊、そして同陸自駐屯地所在の__四国での対敵性存在戦闘を担う__特自“第14連隊”から抽出した一個自動車化普通科小隊及び強襲制圧隊一個分隊で編成された陸特合同部隊が呼応。高知市へは既に「特殊防衛出動準備行動」の一環として派遣されていた。尚、派遣時点で自衛隊は高知県警には()()()()として警察の支援へ回るとのみ通達した。

 又、同市所在の高知駐屯地には、“K事案”司令部が設置され、密かに現地での情報収集と捜索活動が開始されていた。

 

 ここで話はやや転じるが、特生自衛隊の部隊編成単位はその構成具合から陸上自衛隊や他国の陸軍に倣っている。今現在、基本的に各方面隊の師団・旅団から抽出した陸上戦力のみを運用しているためにその名残りが色濃く出ている。今後の展望として、空自海自からも部隊の抽出を行ない、それを特自直轄の飛行隊・護衛隊群として編成すると言った動きがあるらしい。

 

『―――日本側の示威的軍事行動は、太平洋の安全保障を根底から揺るがすものであり国際社会の世界融和路線を真っ向から否定する、法治国家としてあるまじき極めて悪質な行為である』

 

 …そしてこの四国内での自衛隊の動きにまず反応したのは、元凶たるエイダシク星人ではなく、光学偵察衛星より自衛隊のイレギュラーな動きをキャッチした隣国…“豪州連合”加盟諸国であった。中国や北朝鮮よりも先に、豪州連合議会が日本に対して非難声明を大々的に発信し、それに呼応する形で日本周辺の加盟国__フィリピン共和国、インドネシア共和国の二国__からは豪州連合海軍隷下の上記二国の海軍艦艇…コルベットや哨戒艇数隻からなる一個分艦隊が北上し日本の排他的経済水域(EEZ)近海を航行するなどの威嚇行為を実施した。これに日本側は海上自衛隊の他、国土交通省・海上保安庁第五管区の巡視船並びに巡視艇を派遣し対応すると共に、豪州の的外れな声明に強く抗議、反発する姿勢を示した。

 太平洋では海保海自による物理的な航行阻止活動が展開され――

 

『向こうは軍船ですよ!?排水量なんかこっちの何倍あるかって――』

『馬鹿野郎!ここで通したら終わりだろうが!! 進路そのまま!相手さんの鼻っ面抑えろ、意地でも止めるんだ!!』

『総員、耐ショック姿勢!!何かに掴まれえっ!!』

『来る、来るぞっ!ぶつかるぞおおお!!!!!!』

 

 ――北上せんとするオセアニアの軍艦相手に苛烈な体当たりを実施した海保第五管区の巡視艇と巡視船の多数がドック入りとなり、同管区の艦船稼働率の低下を招いた。

 ……この一連の出来事により栗山(クリヤマ)国交大臣はこの週、ストレス性胃炎と夜通し格闘することになったのだと言う。

 

 

 閑話休題。

 

 

 姫神島関連事案の影響で、高知市に隣接する学園艦停泊可能港“新高知港”には三日前の夜間から航行スケジュールを変更した大型学園艦__黒森峰学園__が寄港・停泊している。同学園艦が接舷している学園艦用の超大型埠頭には、ガントリークレーンがびっしりと張り付いてコンテナの荷揚げ荷降ろし作業を休み無く行ない、乗艦塔や巨大可動橋(ゲートブリッジ)は学園艦と接合してヒトやモノを(おか)(ふね)の間で途切れなく行き来させているのが見える。

 そして連絡船が複数、艦底部の両舷大型ハッチと陸地を往復して工員を艦内にピストン輸送で招き入れている。出港日が明日なのもあって仕上げに掛かっているのだろう。補足として、両舷にある艦底部大型スライドハッチは、現代の強襲揚陸艦にある艦尾門扉のような構造となっている。海保巡視艇や漁船程度の船舶であれば両舷合わせて最大十数隻を一度に収容可能。内部は簡易的な修理ドッグも併設されており、遭難した民間船の救助と収容、修復までできる。平時には両舷に数隻ずつ小型中型の連絡船兼牽引船を格納している。また、有事の際にはここから艦内の救命ボートや救命艇を射出し艦尾側の艦上都市住民を迅速に離艦させる役割も持つ。なおこれらの諸機能は艦によってはあったりなかったり、規模が大きかったり小さかったりする。

 

「――いやぁ…昨日一昨日も言ったけどさ、まさかこんなに早く陸地に上がれるとは思ってなかったなぁ。怪獣怪獣異星人って、最近の世界の様子すんごいよね」

 

 さて、そんな黒森峰学園が遠目からでもよく見える高知市某所の一角、緑豊かな自然公園に場面を移す。

 そこには同校高等部にて数少ない()()()男子生徒の一員たるハジメとタクミ、整備科の野郎二人がいた。

 他の生徒らと同じように、寄港最終日の振替休日を満喫するため高知市に上陸して街中へ散策しに来ていた。自然公園にいる理由は市内散策の休憩のためだったりする。

 なお今回ハジメは「いつもくっついてんな」と周囲から言われている幼馴染…エリカとは別行動だ。そのエリカは小梅と共に学園艦では供給されていない日用品の買い出しで同じように高知市内の何処かに繰り出している。

 

「まあなぁ…今年入ってから悪い意味で話題に尽きないのは確かだよな。それに、昨日の…ニュース見た?対ギャオス連合軍の方じゃないやつ」

 

 時刻は昼過ぎ。昼食は商業施設で摂り終え、近場だったこの公園のベンチで二人は雑談混じりの一服をしている。

 

「うん見た見た!『全国各地の沿岸部に大量の勾玉が同時多発的に漂着! 勾玉拾った子供たち“ガメラとゴジラは敵じゃない!”』…でしょ?」

「それそれ」

 

 二人が話しているニュースとは、垂水首相の記者会見のあった翌日の昼頃から全国報道されたもので、海から流れ着いたと思われる“不思議な勾玉”とそれを海岸に拾いに行った沿岸部在住の子ども達の言動についてである。

 

 内容を詳しく説明すると、二日前の日本時間にして13時過ぎに全国の沿岸部、特に太平洋側に住んでいる少年少女達(4、5〜14歳。年齢が低ければ低いほど割合が増す)が突然学校や保育園、幼稚園から飛び出し最寄りの海岸砂浜に向かった。子供達の海岸への全力疾走を見ていた地元住民や教師らは「まるで誰かに呼ばれていたかのような動きだった。こちらの声も聞こえていなかったらしく、一心不乱に走っていった」と供述している。そして子供達が集まった海岸には、これまた偶然(・・)流れ着いていた大量の勾玉状物体が漂着していた。子供達はそれぞれ一つずつ勾玉を拾うと、何かと交信しているかのような奇妙な振る舞いを一斉に見せた。

 

 以下の会話は現地報道陣の一人が海岸に集まった子ども達にインタビューした際のものである。

 

『ガメラやゴジラは地球を守ってくれる優しい怪獣さんなんだよ〜!!だから倒さないで!!』

 『ウルトラマンと一緒に戦ってくれるんだって!!』

  『まだ起きてない怪獣さんもいるんだ!』

 

 テレビ記者とカメラマンは子供達の輪に入るとすぐに元気の塊である彼らに囲まれる。

 

『どうしてガメラやゴジラは味方なのかな?』

 

 子供達の視線に合わせてマイクを持った記者が片膝立ちで分かりやすい疑問符を付けて尋ねる。

 

『この石をね、拾ったらね?分かったのー!』

 『すごいんだぜこの石!ボクらが握ると光るし、あったかくなって()()()()()()()んだ!!』

  『ガメラの声はお爺ちゃんみたいなんだよ〜』

 

 聞けば聞くほど勾玉の効能はそんなのアリかよと思うほどには荒唐無稽なてんこ盛りぶりであった。

 

『へぇ、あのガメラと話せるんだ!? ええと、その石…?勾玉……かな? お兄さんもすこし触ってもいいかい?』

 

『じゃあ、あたしの貸してあげるー!』

 

 一人の女の子が報道官に翡翠色の透き通った勾玉を渡す。記者は受け取った勾玉を手の中で転がしてみる。見る角度によっては黄色、オレンジ色、赤色…明色や暖色と呼ばれる色にコロコロと変わることが分かった。この特徴だけならば物珍しい宝石(いしころ)の類いだろう。

 だがしかし…否、予想通りと言うか、お約束とも言うべきか…記者は数分間勾玉を握ってみたが子ども達が言っている念話らしきものはおろか、他の周囲の何人かがやってみせている発光発熱現象は自身の手の中では微塵も起こらない。やはり大人には知覚できない子供だけに許されたオカルトパワーなるものなのか。

 

『うーん…何も起きないなぁ…』

 

 手の平にある勾玉と睨めっこしながら、首を傾げる記者。どうやら本心から残念そうにしている。

 

『貸して!こうやるんだよー!』

 

 ぼくらはこんな簡単にできるのに…と、もどかしく思っていたのだろう。いてもたってもいられなくなった子供の一人が記者から有無も言わせずに勾玉をひったくった。

 幼さの残る説明をしながら数人で()()してみせるようだ。輪の形になって、その中心に勾玉とそれぞれの手を幾重にも当てる。

 

『お目々を閉じて…』

 『お星様にお祈りするように…』

  『心の中で喋るんだ〜』

 

『誰に?』

 

『『『ガメラ!』』』

 

 記者とカメラマンは一瞬だけ顔を見合わせた。されどもすぐに彼らは視線を儀式めいたものを続ける少年少女のグループに戻す。

 子供達が閉眼し沈黙すること3分弱。即席麺が出来上がるか否かの時間が経過したところで、明確な変化が起こった。

 

『こ、これは!!』

 

 グループの手中にあった件の勾玉が綺麗な琥珀色の、暖かみある光を発したのである。それも、ただの光ではなかった。周囲の子供達が散発的にやって見せていたものの光量や勢いと言った諸要素を線香花火程度のかわいらしい灯火と評するならば、この眼前で為された瞬間発光は、空の色を塗り潰す夕時の太陽のそれと同等の閃光であった。

 

『やった、やった!できたできた!!』

 『ね!光ったでしょ!』

  『ほら触って触って!あったかいよ!』

 

 儀式を行なったグループがポカンと始終を見守っていた記者の下へと走り寄ってくる。子供達が嬉々としてこちらに差し出してきた手の平の上にある勾玉を見れば、先の爆発とも見紛うレベルの閃光を発してはいないものの、まだほんのりと光を宿していた。それを記者は再び受け取り、自身で握ってみる。

 

『………本当だ。暖かい…とても、心地いいですね』

 

 体感では鬱陶しいと感じるぐらいには依然として発光している。そして人の体温よりやや高いぐらいに発熱していた。

 しかし、それらを嫌だとか目障りだとか、そういった不快な感情は不思議と湧いてこない。寧ろ懐かしい思い出に浸った際のような、仄かに、じんわりと来る感覚を記者とカメラマンは憶えていた。

 それはテレビでこの生中継を見ている全国のお茶の間の視聴者たちもそうであった。

 

 ―――このような出来事が昼間の全国各地の沿岸部で起こったため…と言うよりもそれの前日にギャオス・ガメラの島嶼特殊生物災害があったこともあり、これとの関連や新たな特殊生物災害の前触れだと危惧した日本政府や生総研が動いた。一部地域では各都道府県警や陸上自衛隊の対NBC部隊が派遣されるなど、日本本土では大きく騒がれるニュースとなった。そして日本が世界に勾玉を複数提供し、各国から挙げられた調査結果が丁度昨日発表され、その内容は日本…引いては世界を驚嘆させるものとなった。

 現時点で判明している"琥珀の勾玉"に関する情報は下記を参照してもらいたい。

 

◯“琥珀の勾玉”は一般的に勾玉と呼称される代物とほぼ同一のデザインで、純度100%の未知の金属で構成されており、それらは全てダイヤモンドを遥かに超えるモース硬度20、ヌープ硬度12000という驚異の数値を叩き出し、現代人類科学に裏打ちされたあらゆるサンプル採取手段を通さなかった。更に、表面構造を解析したところそこから自然物ではなく人工物…鋳造された物体であると判明し、各地に漂着した計測不能と判断されたその膨大な個数から、何らかの目的や用途で大量生産されたモノと考察された。

◯又、勾玉に使われているこの新金属を、日本の生総研が世界を代表して、それらの特異性などから神話伝説上の架空金属から名を取り“オリハルコン”と命名。

◯そして、“琥珀の勾玉”もといオリハルコンの勾玉に付着していた土砂、粘土等から極めて正確な地質年代が計測され、紀元前3万年前…凡そ3万2千年前…旧石器時代突入期に作成された超古代の遺物(オーパーツ)であると判明。しかし、ここまでで判明している事実の数々から、勾玉を生み出した存在は、知能や文化レベルがサルのそれに等しかった旧石器時代人類…我々の祖先達ではなく、まったく別かつ未知の()()()()()であると言う説が主流となる。これに触発されて超古代先史文明人の遺物や遺跡の捜索が世界各地で行われることになった。

◯どの勾玉にも例外無く裏にあたる部分には“古代ルーン文字”に()()()()()()が彫られていることが判明し、翻訳した結果『ガメラと(とも)に…』と刻まれていると分かった。

◯勾玉の謎の発光・発熱現象、そして証言が多数ある特殊生物ガメラとの対話…テレパシーを意図的に起こせると分かっているのは今のところ人種や国籍を問わず中高生以下の男子女子のみである。なお、勾玉使用後に悪性の副作用等が発生した事例はゼロで、人体への危険性が内在している確率は極めて低いとされている。

 

 ――――依然として、解析が進むのと並行して新たな仮説考察が世界中で今も続々と挙げられている。一部では、相互性の有無はどうであれガメラとの交信が出来るオーパーツという観点から、「超古代文明が作り上げた、特殊生物との意思疎通を仲介する通信端末」や「特殊生物を使役し命令を与える軍事用装備」であると論ずる者もいる。

 誰の何が正答であるのか、現時点では誰も辿り着くことは出来ないだろう。

 …人類最高峰の頭脳を持つ世界の学者達による一刻も早い全容の解明が待たれるところだ。

 

「――勾玉持ちの子たちによると、ガメラは傷を癒すために南太平洋海底にある未知の海底古代都市に潜伏してるんだとか。今度それを確かめるのに生総研とかが調査船出すんだってさ。………ねえ、ハジメはガメラが味方だと思う?」

 

「おうよ。だって報道ヘリも守ったらしいし、ナハトが庇ったからなぁ。少なくとも敵じゃないだろ」

 

 タクミとハジメは二人してブランコに揺られながら、琥珀の勾玉とそれに関係するガメラについての話を続けていた。ハジメは座り漕ぎ、タクミは立ち漕ぎである。

 

「ふーん、そっか。…ま、僕も敵じゃ無いとは思ってたけどね!」

 

「なんだその如何にも裏切りそうな味方が口走りそうなセリフは」

 

 ハジメ少年は光の超人(ウルトラマン)として、ガメラと対話した存在である。相手側の事情を聞けているわけで、今の地球人類の中で、一番のガメラの理解者と言える。

 対するタクミ少年は、顔面と頭脳の偏差値がかなり高く、黒森峰高等部男子勢トップの俊足を誇り、中学時代には陸上トラック競技の全国記録(トップレコード)を遺したイケメン韋駄天マンとしてそれなりに九州では有名で、文武両道容姿端麗を地で行くことがあったかもしれないちょこっとお色気モノと性欲に正直な、どこにでもいる普通の助兵衛(スケベ)男子高校生の一員である。尚、ダイト・ユウ・赤星小梅とは同じ小学校の出身であり、ハジメ・ヒカル・マモルとは中学で知り合った仲だったりする。………やや説明がズレたが、彼も姫神島の生中継を最初から最後まで見ていた人物の一人であり、「取り敢えず全部殺そうよ」と心無くのたまう輩ではなかった。

 

 ガメラを排すべき有害な怪獣だとは思わない。二人の共通意見はこれに尽きた。

 

「……あっと、タクミ。話ぶったぎってスマンけど…さっき予備のデッキブラシと整備用のタオルは定数買ったじゃん?あと何か買うものあったっけか?」

「うーん。他には無いはずだけど、僕は…小梅ちゃんにプレゼント渡したくてさ。ハジメ、もう少し付き合ってくれない?」

「あ?俺は男に興味ないぞ?」

「僕の個人的な買い物について来てくれないって聞いてんの!そこでボケないでよ!」

「ははは!………悪い、悪かった。だからアイアシェッケをゲットトマホークみたいに持ってにじり寄ってくるな!!それ俺の金で買ったやつだぞ!?」

 

 アイアシェッケ。ドイツのザクセンに伝わる地方菓子だ。日本でも知る人ぞ知る非常に美味なジャガイモのチーズケーキである。

 ハジメが整備科の後輩達にと買っていた、まだ切り分けられていないロング型の一つを、タクミは買い物用保冷バッグから武士の如く抜刀。ハジメに唐竹割りをしてやろうと近づいたところでサッとバッグに納刀…否、優しく戻した。

 

「食べ物を粗末にしたらバチが当たるからね、今回は許してあげるよ。それで、行くの?行かないの?……ハジメも折角だから逸見さんに何かプレゼントあげたらいいんじゃないかな。いつも逸見さんを心配させてるんだから」

 

 ほぼほぼ正論である。あくまで()()の体を装っているが、タクミの言い方のニュアンスは間違いなく承諾への()()だった。

 

「……うぐ…分かった。俺も行くよ」

 

 こう言われてしまえば何も言えないのがハジメだ。本人にも幼馴染に迷惑や心配を掛けてしまっていると認識しているし、それに罪悪感や良心の呵責もあるので効果てきめんである。選択肢なぞ最初から用意されていないようなものだった。

 

「うんうん。ハジメならそう言ってくれると思ったよ。 普通にハジメからのプレゼントなら逸見さんすごい喜ぶだろうし、買って損は無いと思うな」

「ええ?そうかぁ?」

「そうだよ」

「そんなもん、か…?」

「だからそうだって」

 

 二人は上のようなたわいもない押し問答をしつつ、市内最大級の大手複合商業施設(ショッピングモール)EION(エイオン)・BIG」に徒歩で向かった。

 

 

 

 

 

 

 十数分後、何事もなくハジメとタクミはショッピングモールに到着。それぞれ相手へのプレゼントに合いそうな物品を探すべく屋内の専門店街に入っていた。

 

「――小梅ちゃんなら…下着かなぁ…」

 

「真剣な顔して女性用の下着コーナーにぬるっと入ろうとするな」

 

 推理する探偵の如く顎に手を当てがい、さも当たり前のように何の躊躇も恥じらいも無く女性下着の専門コーナーに足を運ぼうとする友人をハジメはツッコミを入れつつ後ろから肩を掴んで止めた。

 

「サイズは大きくなったって聞いたからなぁ……前はCだったらしいから……うーん………Dか!!」ポンッ!

 

「クイズ番組じゃないんだから!……てかなんでタクミは赤星さんのサイズが分かる!?」

 

 ハッキリ言えば個人の、プライバシーに抵触する極秘情報の一種である。…言い方はかなり無礼になるが、小梅が隠れ痴女でもない限りは本人から大っぴらに公開されることは無い筈。

 それなら何故、ハジメ少年の目の前にいるこの無駄に顔のいい工口メガネはそれを知り得ているのだろうか。

 もしや、法外な行為で掴んだとでも言うのか。いいや、仮にも中学から共に苦楽の学業に励んできた友人である。流石にそんなことは――

 

「……女子の身体検査の時に、ちょっこと…ね! なんなら去年はナギさんと、今年の春はユウ君と一緒に行ったよ!」

 

 ――割とブラック寄りのグレーゾーン行為で把握に走っていた。なんなら何処までも続く地雷原でタップダンスしてた。日本が世界に誇る法と秩序はどこへ行ったのだろう。ハワイあたりにでも旅行して羽を伸ばしているのか。

 若しくは、男子高校生は青春と語れば何してもいい免罪符を与えられていると勘違いしている節も考えられる。

 又、ついで感覚で伝えられた別の友人二人関連の、新たな爆弾情報による追い打ちも深手となった。ショックの上塗りになっちゃったのである。

 

「ナギ、ユウ……お前らもか……」

 

 目に手をぴしゃっと当ててハジメ少年はがっくし肩を落とす。彼の予想と期待と信頼は儚く見事に裏切られたのだ。

 親友達が想像以上に破廉恥なことに首を突っ込んでいたことにハジメは古代ヨーロッパで腹心に裏切られた某独裁官が発したものと似た呟きをしながら溜め息を吐いた。

 補足だが、黒森峰高等部の身体検査は毎年四月下旬…新学期早々に行われている。つまるところ、ここで覗き等が発覚すれば即お亡くなりになるのだ。これをハジメ少年の親友達が少なくて一回、多くて二回成功させてるあたり、マジモンの命知らずとも言えるかもしれない。

 

「一応、二年全員と今の三年の戦車道履修部の先輩達のやつは大体覚えてるし……今マモル(イッチ)から西住隊長の情報せがまれてるけど、お金取った方いいよね?」

 

「無駄な報告と確認をありがとう」

 

 ハジメはまたしても投下された爆弾発言に対して、今度は非常に穏やかな顔つきで臨んだ。最早達観…いや諦観の模様を呈している。

 

「……そうだ、ハジメも知りたいよね!」

 

 そしてタクミの話題の矛先はハジメ…とその幼馴染に向けられた。

 当のハジメは嫌な予感がした。だが、問わずにはいられなかった。好奇心が勝ったのだ。

 

「なにが?」

 

「逸見さんの胸囲(サイズ)

 

 ピシッ!___と、体が石化する音が聞こえた気がした。

 その一言でハジメは瞬時に理解していた。これは今の自分に必要のない情報であると。すぐに正気に戻り、タクミからの魅力的な提案へ拒否の意思を伝えつつ次に来るだろう情報を遮断すべく耳を塞ごうとした。

 

「や、やめろ! 本人の知らないところでそんなん知ったら罪悪感とか頭がすごいことになる! てかしれっと共犯にしようとしてないか!?」

 

 しかし悲しいかな。タクミが口を開く方が幾分か早かった。

 

「――Eカップ」

 

 たらればになるが、ハジメ少年がやるべきだったのは、喚き散らしながら自身の耳を閉ざすのではなく、しのごの言わずに対面の変態の口を最速で塞ぎに行けば良かったのだ。

 

「」バタッ!

 

 結果。ハジメは仰向けにバッタリ逝った。ブシュッ!__と鼻血を噴き出す…或いは、ガフッ!__と吐血して勢いよく卒倒したかと錯覚するレベルで、だ。

 

「は、ハジメぇえええ!!どうしてこんなことに…!」

 

  いきなり友人が絶句しながら床に倒れたものだから、タクミが駆け寄って抱き起こそうと素早く近寄った。

 

「……お前のせいだろ!」ピシパシッバチンッビタッ!

 

「あうっ!ごめん、ごめんってあう!!」

 

 それを見計らったかのように、ハジメはむくりと無言で起き上がった。するとタクミに二往復の容赦の無い友情ビンタをお見舞いした。謝罪の言葉も無視しての二回行動である。

 だが少し得した気分になってしまったのは内緒である。

 

 二人は気を取り直してプレゼントを探すことに専念するのだった。

 

 そして結局、タクミがプレゼントとして選んだのは、色情を掻き立てる下着…などではなく、そこそこ値段のするブランド香水セットを包んだプレゼントボックスであった。

 一方でハジメはと言えば………

 

「――うーん…………こっちか? それともこっち? ……どれが良いんだろう…」

 

 ディスカウントショップのアクセサリーコーナーの一角にて、候補選出で迷いに迷って思考の海に一人溺れかけていた。手に持って吟味しているモノの尽くが女子向けの可愛い系であったためか、周囲の他客(高校生、大学生ぐらいの女子の方々)からの「ああ〜彼女さんへの贈り物選んでるのかな? 一生懸命そうで可愛い〜」と温かい目で見守れていたのだが、本人はそれを知らない。…知ったら知ったらで赤面しそうだからこれが幸せなのかもしれない。

 

 尚、物珍しいモノ(プレゼント)を買うこと選ぶこと自体にハジメ少年は嫌悪感や抵抗感は無い。寧ろ新しい何かを発見することや扱ってみることには彼の内の旺盛な好奇心が後押ししてかなり積極的だ。あまり他人に触れ回らないだけで。

 ただ、「果たして彼女が喜んでくれるモノを自分は用意できるのだろうか、選べるのだろうか…」と思っている。それが足枷となって自分が「良いな」と感じてモノに伸ばす手をいつの間にか重くしているのである。

 

「予想よりも長く悩んでるね。整備科とは別に機甲科へのケーキは買ったんだしさぁ、ずっと遺るものを選んだら?」

 

 会計を終えホクホク顔のタクミがハジメの所に戻ってきた。気を利かせて恋愛達者な人間としてのアドバイスも添えて。

 

「の、遺るもの…か。うーん……」

 

「……思いつかないなら生活で実用的な……文具とか、持ってても邪魔にならないようなやつ……あとは、逸見さんの好きそう物とかはどうかな?」

 

 ある程度割り切ってもいいんだよと付け加えるもハジメはイマイチ決めきれないようである。

 

「シュツルム・ティーガーか?」

 

「あのさぁ…」

 

 〈シュツルム・ティーガー自走臼砲〉。

 第二次大戦時にドイツ陸軍が〈ティーガーⅠ(Ⅵ号戦車)〉の車体を流用し開発した装軌式重ロケット臼砲である。それの擁する主砲は戦艦の主砲レベル(実際は海軍の爆雷投射機を元にしている)に匹敵する、陸戦兵器にとっては破格の38cm。そしてロケット砲弾を使用しているため火力は折り紙付きだ。

 現在、少数が各国の戦車道博物館などに置かれるに留まり、その設計と生産・運用コストから競技用車輌としての新規生産の注文数は世界全体で超重戦車マウスと比較しても遥かに少ない。因みに日本では九州地方にある西住流傘下の戦車道博物館にドイツから寄贈された国内で稼働が可能な唯一無二の一輌が展示されている。

 …と言うように実物にしろ、競技用にしろ、一般家庭の少年が背伸びしたり逆立ちして鼻でスパゲッティを食べたとしても手に入れることは不可能な代物…車輌なのである。要するに、常識的に、金銭的に考えれば少年一人がシュツルムティーガー本体なぞプレゼントできるわけ無いのだ。

 

 たしかにエリカの()()()戦車はシュツルムティーガーである。

 だが、それ故に…「それ、ハジメが一人で用意できるの?」__と言う至極真っ当な疑問と解答への呆れが混ざった言葉をタクミが投げかけた。

 

「そうだよなぁ…実物は無理にして、かと言ってプラモとか模型渡すのもなぁ……ううーーーん…………あっ!!――」

 

 その時、ハジメに電流走る。

 

 「――エリさんの()()()()()って……確かワニだったっけ」

 

 幼馴染は何がどうしてワニが好きなのか、好きになったのか、実はハジメもその詳細は知らなかったりする。ただ、憶えていた。

 だから、丁度目に留まった、勇ましく口を開けた緑のワニが描かれたブローチ・キーホルダーを手に取った。

 堂々と開口し牙を見せているこのワニの顔が、不意に得意げそうに思えた。それが何故か幼馴染(エリカ)っぽいなと思えてしまい、一人小さく苦笑する。

 事ある毎に噛み付いてくるところ、戦車道で獰猛かつ好戦的な笑顔を見せるところ、何かを成してドヤ顔するところ…何と重ねたのかはハジメしか知らないのだろう。

 

「うん。いいんじゃないかな。それじゃ早く会計にいったいった!」

 

「お、おう!」

 

 タクミが後ろからペシっと叩いて背中を押してやる。

 それを足掛かりにして、ハジメがレジカウンターに向かう。そんなハジメを見ながらタクミが一言。

 

「……ちゃんと覚えてるじゃんか。これならちょこっと安心だね」

 

 そうタクミが微笑を浮かべていると、レジで店員と対面している筈のハジメが此方に振り向いていた。どうやらタクミに何か伝えるつもりらしい。

 ハジメが両手をパンと合わせる。合掌…謝罪の簡易ポーズであった。

 

「タクミ! ごめん、小銭貸してくれ! 足りなかった!」

 

「……これじゃあ締まらないなぁ」

 

 やれやれとタクミは溜め息を吐きつつ、そこがまた彼の良いところでもあると片付けるのであった。

 まあ、彼も彼で人のことはあまり言えないはずなのだが。

 

 ハジメ側のレジ会計が終わった。

 

「さて、向こうにも連絡したし、合流してプレゼント渡しちゃおう!」

 

「了解。…さっきスマホでニュース見たんだけど、直近にここらで不審者出没の報告も挙がってるらしい。学校でも言ってた市内連続殺人犯ってヤツかも」

 

「その可能性もあるね。ならちょっと早足で集合場所向かう?」

 

「ああ。先に着いててもバチは当たらんだろうし……心配になってきたから少し急ごう」

 

 ハジメ達、高知市に上陸した黒森峰学園の生徒らは事前に高知で発生している連続殺人事件の犯人が依然として捕まっていないこともあって今次艦外外出に関する注意喚起を教師陣から受けており、寄港期間中に陸へ上がった生徒は防犯上の観点から当日夕方手前には学園艦に戻っているようにとも言われていた。それを思い出したハジメはエリカたちを心配しつつ待ち合わせ場所にやや速度を上げて向かうのだった。

 

 

 

_____

 

 

 

同時刻

 

 

高知市同地区 某所

 

 

 

「待てっ!」

 

「待てって言われて待つバカはいねぇヨ! バァカ!」

 

 男が二人。連なる三、四階建てビルの屋上を次々と飛び越えて、追う追われるのチェイスをしていた。

 追う側は、青色のジャケットにジーパンで、人の良さそうな印象を与える青年だった。されど今はその顔に穏やかさは無い。

 そしてもう一方、追われる側は、警察官の制服()()()()()男。こちらは目の瞳孔が開ききっており、走り方も乱れがあるところから正気ではなさそうだ。

 明らかに後者の男が不審である。

 

 普通の人間が見れば奇妙な光景だと認識できた。治安を維持する立場にある公人たる()()()()追われているのだから。

 地上の人々の中には物珍しさから、スマホを取り出して通報…ではなく、撮影している者も見受けられる。

 

「なにあれ?パルクール?」

「ドラマとかの撮影?」

「てかあの人たちすげー上手いじゃん! ビル飛び越えてくのめっちゃはええ!」

 

 一般の人々にとって、異常といえば結局それだけである。警官が追われてるだけ、だ。

 ドラマや映画のワンシーンをぶっつけ本番…近年見られなくなった市民巻き込み型の撮影をしているのだろうと勝手に脳内で変換処理してしまう。カメラマンは見当たらないが、何処からかドローンや設置式カメラで撮影しているんだろうと深く考えない。

 

 自分達の上で行われている追跡劇が、実はノンフィクションで、どちらの男も非地球人…異星人であるなどとはどうやっても思い至らないのである。

 

 人々がその光景を何気無く見続けていると、チェイス中だった件の男二人が90度方向を転換し跳躍…ビルの屋上から飛び降りた。ここまで彼らを見ていた何人かが、これからの展開を予期し甲高い悲鳴を上げる。地表との高低差は最低でも10〜12m。足から着地できたとしても無事で済むことはまず無い。…常人であれば。

 人々の予想とは裏腹に、男らはスタッと華麗な着地を決めると、何事もなかったかのように地上で追跡劇を再開した。

 

「………すっげぇわ…」パシャパシャ

 

 男達のスタントマン越えの一部始終を見ていた通行人の殆どは暫くの間スマホを持ったまま呆けていることしかできなかった。

 

 

 

 そして追跡劇の舞台は路地裏に移った。

 

「……オマエ、あの時のウルトラマン…ダロ?」

 

 警官の男は逃走を止め、追跡者の青年の方へクルリと身体を向けた。やや片言が混じった、地球の言語…日本語で青年に問い掛ける。

 その傍ら、警察制服の右上腕部分を引き裂いて破り捨てる。するとそこからはSF映画に出てくるようなデザインの、二本のトンファーをくくりつけかのような、鋏状の射撃武器…伸縮式プラズマ・ガンを展開させた。それと同時に、警官の男の顔が徐々に歪んでいき、正体を現した。

 残忍なる宇宙の狩人…エイダシク星人である。

 

「ちょっとバッカシ遅かったナァ…ボク、もう結構食べちゃったヨ? 地球人って結構美味しんダナ。特にちっこいヤツらはスゲー新鮮だったゼ」

 

 あからさまな挑発に青年…ウルトラ戦士は乗らない。

 腰に隠し取り付けていたガンホルスターから、素早く獲物(拳銃)を引き抜き構える。その銃はこの地球よりも遥かに先進・未来的意匠と構造であった。

 彼の銃を持つ手は震えてはおらず、警官の男…エイダシク星人の急所を狙い撃つ用意は整っていた。

 

「警備隊からは最終処分の許可が出ている!ここでお前を止める!!」

 

 最後の通告だった。

 だがエイダシク星人にその脅し文句は通用しない。それがどうしたと右腕を青年へゆらりと向けた。

 

「あっそ。んジャアサ、死ねば?」ジャコンッ!

 

――ババババババッ!

 

 エイダシク星人のプラズマ・ガンから、短機関銃(サブマシンガン)に匹敵するレートで電磁弾丸が激しい閃光と共に次々に放たれる。狙いは無論青年である。

 彼はすぐさま建物に取り付けられているエアコンの室外機の陰へ飛び込んだ。そしてそれに隣接している__室外機よりも耐久性のある__コンクリートの円柱へ身を寄せる。

 躊躇なくガリガリガリと電磁弾丸が室外機と円柱を徐々に削り取っていく。

 

「っ! 違法武器をここでも使って!!」

 

 歯噛みしつつも黙ってやられているつもりは青年には無かった。握っている小型銃__GUYS(ガイズ)携行式光線拳銃(レーザービームハンドガン)“トライガーショット”__と顔だけを出し被弾面積を最小に抑えながら、エイダシク星人に向けてその引き金を引き応射する。

 

ビィイーー!! ビィイーー!!

 

 銃口からは橙色のレーザーが数度、放たれた。その内の一閃がエイダシク星人の額を掠る。射撃の精度は高い。ここからさらに数発撃てば鎮圧できると青年は踏んでいた。

 だが――

 

「おい! なんかこっちですげーことやってんぞ!」

「あれ、もしかして異星人ってやつ!?」

「そこのアンタ! 大丈夫かぁ! いま警察と自衛隊さん呼ぶがらなぁ!」

 

 ――思わぬ第三者達がやってきた。表の通りから、裏路地の騒ぎを察知した市民数名が足を踏み入れてきたのである。プラズマ・ガンの発砲音と発砲炎が注意を引いたのだろう。

 

「みなさんダメです! ここから離れて!!」

 

 青年が市民に退避を促していると、部外者の参入にエイダシク星人は苛立ち、声を荒げる。

 ウルトラ戦士である青年は別として、いまここで市民に替えの利かない異星人としての顔と姿が露見してしまうのは都合が悪いと帰結したのだろう。

 

「チッ! 面倒くさくなってきたナァ! オラァア!」カチッ

 

ボンッ!

 

 撹乱と再度の逃走をエイダシク星人は選択した。

 空いていた左腕から私製のスモークグレネードを起動させ、自身と青年の丁度間に転がす。そして間を置かずに炸裂し、路地裏の狭い空間を白い煙幕が一瞬で埋め尽くした。

 

「これは……煙幕か! 逃がしはしない!!」

 

「アバヨ、ウルトラマン!!」

 

 牽制射撃をすることもなく、先ほどの威勢とは裏腹に潔くエイダシク星人は速やかに撤退の動きに入った。

 白煙越しながらもその姿を見失っていなかった青年も追うべく、エイダシク星人に続いて路地裏から出たものの、それと思われる警官の姿はもう無かった。

 

「にいちゃん、怪我はしてないか?」

 

 一部始終を目撃していた市民の一人が青年に声を掛けた。

 

「は、はい。僕は大丈夫です…」

 

「危なかったなぁ…もしかしたらアイツがここらで起きてる連続殺人事件の犯人かもな」

「とりあえず、交番には若いやつが走っていったし、一応、自衛隊にも電話したから一安心だ」

「あんたもビックリしただろ、ヤバそうな奴に絡まれて……ありゃ?」

「いなくなってら……」

 

 市民達は先程まで目の前にいた青年が消えたことに首を傾げた。

 

 

 

____

 

 

 

市内での詳細不明の発砲事件発生より30分後

 

 

 

同市工業地区 某所

 

 

 

 一方、買い出しを終えていたエリカと小梅は、中小の町工房や企業の大型工場が立ち並ぶ工業団地を歩いていた。

 ハジメ、タクミ二人との待ち合わせ場所に指定した公園への最短ルートを選んだ結果である。

 

「……昼間なのにホントに人がいないわね。向こうだとまだまだ人がいたのに」

 

 陽が傾くまで、まだまだ時間はある。見上げれば相変わらず、初夏の青空が広がっている。セミ達によるコーラスも、艦上都市にいる時の比ではない。

 それでもエリカの言った通り、平日であるとはいえ、真昼間であるにもかかわらず表に出ている近隣住民や工場の作業員とさえすれ違っていなかった。

 工業団地でもここまで閑散としているものだろうか、とエリカは思う。

 

「恐らくだけれど…高知で少し前から起きてる殺人事件のせいだったりするんじゃないのかな?」

 

 それに小梅が返す。

 

「そうだとは思うけど……それでも、さっきからすれ違う人って言ったら警官、警官、時々自衛官、そしてまた警官……何も悪いことしてないけど、心臓に悪すぎるわよ!!」

 

「あはは、それ分かるかも。私も街中歩いてて、巡回してるパトカー見た時ってビクってしちゃうし」

 

「あるあるね〜」

 

「ですねぇ」

 

 日常的に警官も自衛官も見慣れてるわけではない、そわそわする側の若者として共感できるものがあったのだろう、苦笑混じりで小梅が同意した。

 

「……でもちょっと気味が悪いのも確かなのよね。公園までペース上げようかと思うけど、小梅は大丈夫?」

 

「まだ体力は残ってるから行けますよ。早くタクミさんたちと合流して学園艦に戻りましょう!」

 

 買い物籠と鞄を持ったまま、小梅がえいえいおー、と腕を軽々と難なく掲げ上げた。最低でもそれぞれに4kg超の中身が入っているのだが。

 再度言わせてもらうが、この少女見た目で侮るべからず。小梅は現役の戦車道高校女子の中でも上から数えた方が早いぐらいには腕力がパワフルの部類に入る。…しかもこれで持久力(スタミナ)ではやや劣るものの機動力(フットワーク)はエリカに匹敵する、見た目文系な体育会系JKであるのだから世の中分からない。

 

 

 

「―――ちょっとキミたち!」

 

 

 

 エリカがそれに返そうとしたところだった。

 背後から突然声を掛けられた。エリカたちは驚いた拍子に肩がビクッ!と跳ね上がったが、恐るおそる声の方向に振り向く。

 

「驚かせてしまったようだね」

 

 すると、そこには夏服の制服を着た警察官が立っていた。夏の日差しで苦しいのか短い半袖をさらに捲り上げておりランニングシャツのような風貌となっている。

 警官は右頬をポリポリと爪で掻き、もう一方の腕で額を伝う汗を拭いながら、申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「私達になんの用よ?」

 

 噂していた連続殺人犯ではないと思ったエリカは内心安堵する。先ほど、治安維持関係の公務員を見ると緊張がーなどと言っていたが、いつもの調子で警官にややつっけんどんに尋ねた。

 

「何かあったんでしょうか…?」

 

 警官に捕まるような言動をした覚えは無い二人。頭の上には「?」のマークがふよふよと浮かんでいる。

 

「あー……キミらと同じ格好をした子が、ここら辺にいるはずのキミたちを探してほしいって言われて…外見とかは聞いていたから、もしやと思って声を掛けさせてもらったんだ」

 

 日差しも大して厳しくない昼から、こんなに汗だくびっしょりだったのはそのためか…と納得してしまった。ああ、このお巡りさんは何事にも一生懸命なタイプなのだと。

 

「携帯の不通とか、バッテリー切れなどのトラブルに遭ってしまったり? 私達に伝手を当たるってことは…アンナちゃんか、マチさんあたりでしょうか?」

 

 直に今日の予定を話した友人は多数おり、エリカと小梅は警官の言った同じ格好をした子(黒校生)が誰なのか絞り込めず質問を続ける。

 

「これだけじゃあ分からないわね。取り敢えずその子を拾いに行きましょう。すいません、私達を探してるって子は今何処に?」

 

「ああ……そうだ、ね。うん。…実はその子、足を怪我してるんだ。昼からはどんどん暑くなっていくからね…一つ奥の道にある倉庫の影に座らせている。すぐそこだよ」

 

 あまりに()()()()()()()

 だが、ここまでで多数の公務員とすれ違っていたこと、今目の前の男性が警察官の姿であったこと、「凶悪な連続殺人犯」への注意を事前に促されていたこと、そしてそこから飛躍して…不自然さよりも同じ学校の生徒を助けようとする考えが優ったことで、その違和感に二人は辿り着けなかった。

 

「あの。名前…その子の名前は?」

 

「あ、すまない。名前はまだ聞いていなかった…すぐにここら一帯を走り回ってしまっていたから……」

 

 この警官、新人か? はたまたポンコツなのか?

 エリカは若干の苛立ちを覚え掛けた時だった。

 

「……出来れば早くキミたちにあの子をここから連れて行ってほしい。先程、無線で報告があったんだけど…。あ、これ本当は秘密だからね? この区の近くで、凶暴な()()()が出たって連絡が来てるんだ。ソイツが例の殺人犯かもしれない」

 

「「!!」」

 

 それが事実なら一刻も早く、その黒森峰生徒を保護してハジメ・タクミと合流し学園艦へ戻らなければと二人は思った。ただの殺人犯ではなく、得体の知らない異星人が出たと言われれば、行く行かないの選択肢がそもそも無くなるのは必然であった。

 

「ボクはここらの警備を担当しなくちゃいけないから…案内した後は頼めるかい?」

 

 エリカは小梅に目配せをし、返しの頷きを確認するとすぐに承諾した。

 

「……分かりました。案内をお願いします」

 

 警官はニコリと人懐っこそうな笑みを静かに見せ、こっちだよと先導を始めた。

 

 

 

 

 

 

 警官の道案内もあって、件の空き倉庫前に二人はやってきた。

 

「ここですか…」

「如何にも、何か出てきそうな所に…」

「や、やめてくださいよエリカさん!」

 

 この倉庫は所有者無しの放置状態にあり、トタン製の屋根は所々穴が空いていたり、壁や扉、窓枠、屋外階段とその手すりに至るまで錆びついていたりと、刑事ドラマ等でよく舞台となる「廃倉庫」のような様相を呈していた。

 尚、警官によればここが現在()()であることは確かで、前には近くの学童の子供たちが「秘密基地」と評して勝手ながら出入り()()()()ぐらいらしい。

 

 エリカは辺りを見回すが、少女の姿が見当たらず警官に問いかける。

 

「それで、その子がいないようだけれど」

 

「あれおかしいなぁ……あ、扉が少し開いてる。多分中にいると思うよ。入ってみよう」

 

 そう言って警官は倉庫正面の見上げるほどある大型のスライドドアをギギギと力一杯押して開けていく。

 

「……真夏で、しかも冷房もついてなさそうな放置倉庫に入ろうとするものでしょうか?」

 

「さあ、そこはなんとも…」

 

 小梅の疑問に、それはボクにも分からないねと、なんとか人が一人入り込めるぐらいのスペースを空けた警官は呟く。

 

「中に入って確認するわよ、小梅!」

 

「は、はい!」

 

 警官の横をすり抜けて、エリカが真っ先に倉庫へと足を踏み入れ、それに小梅がオドオドと言った様子で続いた。

 

 

 

「………」ニタァ…

 

 警官の男の変化に気づくことなく。

 

 

 

 エリカは小梅、警官と共に倉庫へと入った。

 内部に入ってから十数秒。突如、鼻を突き刺すような鉄の匂いと鋭い腐敗臭がエリカと小梅の鼻腔を襲った。

 

「うっ!? これは!?」

「ひ、ヒドイ匂い…!」

 

 そのあまりの()()に、口元を抑える二人。それの拍子に、手に持っていた荷物の殆どを地面に落としてしまい、少なくない中身が周囲に散乱した。だが、彼女らは拾い直そうとはしなかった。

 意識は()()()()()へ向けられたのである。……その臭気の根源は、間を置かずにすぐ見つけられた。否、見つけてしまった。

 

「「えっ……?」」

 

 長年放置されていた保管物品__ドラム缶やペンキ缶、スプレー缶など__を納めた横長のラックが規則正しく綺麗に並ぶ倉庫の中央部。そこには筆舌し難い、衝撃的な光景が広がっていた。

 驚愕の表情で彼女達はフリーズせざるを得なかった。

 

「ひ、人の…うっ…! おぇえええ…」

 

 薄暗い倉庫の中心、天井のガラス張りになっている真下の空間に、物言わぬヒトが重ねられて出来上がった山……死体の山が在ったのである。死後数日以上経ったモノも混じっているのだろう、凄まじい量の虫が集っている。

 そんなあまりにも凄惨な光景を直視してしまった小梅は、驚愕による緊張から解放されると今度は猛烈な吐き気に襲われた。精神がガリガリと削られ、急速に疲弊していくのが分かる。

 エリカの方は茫然自失といった具合だった。未だ衝撃から抜け出せておらず、眼前の光景を処理することを脳が拒否しているようであった。

 

 

 

 思考が鈍化した脳をフル回転させて、ここでようやく二人は気づく。

 

 

 

 警官が言っていた、自分たちを探しているという女子生徒は見当たらない。それの代わりだと言うように、人の死体の山が在る。

 

 何故。その答えはすぐに出た。

 

 

 嵌められたのだ。

 

 

 誰に?

 

 

 そんなの、思い当たるのは一人しかいない。

 

 

 

ギギギギィ………ガチャン!!

 

 

 

 背後で扉が閉まる音、そしてご丁寧にも鍵を掛ける音まで聞こえた。

 立ち尽くすエリカの横に、小梅はへたり込んでいる。一番最後にこの倉庫に入ったのは…いま倉庫の正面扉を閉められるのは――

 

 

 

「イヒヒヒヒ!二匹も釣れタァ〜しかも新ッ鮮ッなヤツガァ! ドッキリ大成功〜……なんつって!アハハハハ!!」

 

 

 

 ――()()姿()の男である。

 

 先ほどまで柔和な顔をしていたその男の顔は酷く歪んでおり、身体を変にくねらせながら奇声を上げていた。

 

 それは最早、警察官…人間の姿ではなく、ただ水色のシャツにグレーのズボンを履いている醜悪な怪人であった。

 この怪人こそが、この倉庫内の惨状を作り上げた張本人である。

 

「あ、あ……エリカさん……アレ、人じゃ…ない……!」

「大丈夫、大丈夫だから……………アンタ…何者よ!女の子はどこなの!」

 

 特徴的な一対の球状の複眼をギョロギョロと動かし、異形の怪人は狂ったように喋り出す。

 複眼は時折不気味な黄光を発していた。これと視線が合ってしまった二人は恐怖から金縛りにあったかのように動けなくなっている。

 

「アア? そんなもんいねぇよバーカ! こんな簡単なウソに引っかかるなんて……ちきゅーじんはホントに低脳ナンダなァ……イヒヒヒヒッ! ボクのこと知りたい?知りたいよネェ!?知りたくないワケないよネェ!?」

 

 

 

 外界へのアクセスが封じられた密室で、狡猾な異星人と対峙するエリカと小梅。

 手元に有用な武器になるようなモノは無し。されど相手は詳細不明の獲物を持っている。

 不利を軽く通り越して、覆りようの無い絶望的な状況。

 

 

 

「教えてやルヨ。ボクハァ…怖いコワァイ宇宙人ダァ」

 

 

 

 倉庫内に、不愉快な笑い声が響き渡る。

 

 





 あと
 がき

【2024年1月版編集】

 大修正した第11夜を乗り越え、第12夜を読んでくださった読者の兄貴姉貴の皆様、ありがとうございます。
 ガルパンTV本編初見時のまほ姉のイメージがどう足掻いても初代ゼットンだった投稿者の逃げるレッドです。

 今回の敵枠は『ULTRAMAN』よりエイダシク星人でした。正直言うと個人的には軽いトラウマ星人。…投稿者のウルトラシリーズでの重いトラウマは円盤生物とスペースビーストです。

 さて、今回も単語用語説明を挟ませていただきます。

・γレラトーニ星系と第4銀河系
 携帯ゲーム機ニンテンドーDSにて発売された怪獣討伐ゲーム「怪獣バスターズ」“無印”、“パワード”で登場したマップ…「緑の惑星 レラトーニ」から名前を拝借した。なおαレラトーニのイメージは「水の惑星 ワッカ」。投稿者はアシルが一番好きだけど、マップギミック“コンビナート破壊・公害”に立ち会ったことが無いです。
 第4銀河系の文明連合については特に細かい設定は考えてなかったり。時間が溶ける戦略ゲーこと「ステラリス」で言うところの、開始直後に遭遇したりする国力相対評価“圧倒”の星間国家ぐらいには強いと思う。(プレイ難易度は鉄血ハードの感覚)
 PS5かSwitchでの続編待ってます。ファイエボも出していいんだよ。

・銀河連邦 【円谷特撮シリーズ】
 ミラーマンとかレッドマンと言った、銀河各地の知的種族達が集まって作った銀河の平和と安寧を願いしっかり実力行使も惜しまないクソデカ宇宙組織。公式設定を見るに普通に光の国も加盟してるらしいし、連邦議会とか言う話し合いの場もちゃんとある。


 小梅ちゃんのイメージソングは、
ゆず『夏色』です。


____

 次回
 予告

 エイダシク星人がエリカと小梅に迫る。絶体絶命の危機!

 戦え、ハジメ!
 走れ、タクミ!!
 二人を守れ!!!

次回!ウルトラマンナハト、
『無限の衛士』!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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