第13夜 【無限の衛士】
やや時間は遡り、視点も変わる。
ハジメとタクミは一足早くエリカたちとの集合場所__町内公園__に到着していた。
「小梅ちゃん、まだかな〜」
「もうすぐだと思うぞ〜」
「香水、気に入ってくれるといいなぁ〜!」
「そうだなぁ〜」
二人はかなりガタの来ている木製ベンチをギィギィと言わせながら、時折エリカ達から連絡やらが来ていないかとスマートフォンをいじっていた。
「うーん………おかしいなぁ…さっきまでずっと既読付いてたのに、いきなり付かなくなってるよ」
「それはお前、異常にテンション上がってたからってそんだけスタ爆したらさすがに赤星さんでも怒ったんじゃないか? 俺だったら丸一日通知切って放置してるぞ」
「そんな薄情な!」
「バカな事やる奴が悪い」
つい先ほど、タクミは小梅との個人チャットにて感情の爆発が原因とされるスタンプの
爆撃の密度、速度、数量については、上のハジメの反応と「戦略」付きの表記から察してもらいたい。
そこからハジメはタクミの行動が小梅の未読無視に繋がっているのではないかという推論を挙げた。
「う……確かにやりすぎたとは思う。でもそろそろ着くはずなのに二人の気配はないし、連絡一つも寄越さないのは……。遅れるとかって連絡、ハジメの方には来てないの?」
だが、小梅はああ見えても芯の強い少女であり、口にせねばならない事は口にする性格に
幼馴染としてそれを理解しているが故にタクミはこの未返信無返答は、また別の
ここでエリカからハジメに『いま向かってる最中』などとメッセージが一通でもあれば、やっぱりタクミのスタ爆の所為だったなどと笑えたのだが――
「俺もエリさんからはなんにも…」
――タクミ・小梅と同じく、ハジメ・エリカの個人チャットの既読表示は更新されていなかった。
ハジメは眉間に皺を寄せて小さく唸った。
今頼れる人間として、機甲科隊長のまほに『お疲れ様です。エリさんと赤星さんから何か連絡とか来てますか?』と当たり障りの無いメッセージを送ったところ「特に無いな。」と返信され、エリカの親友であるレイラにも同様のメッセージを送ったが「愛のスタ爆で確認してみたけど全っ然反応なかったよぉ!!」という旨の泣き言が少なくない数の悲しみを伝えるスタンプと共に返ってきた。
後者に関しては何処の誰の横にいる何某かとの強いデジャブを感じたのみで、結局のところ有力な手掛かりは掴めず終いとなってしまった。
「………まさか…市内の連続殺人犯の仕業とか!?」
「おいおい、不穏なこと言うなよ。さすがにそれはタクミの思い過ごしだって――」
だからそんな物騒なこと口にするな、と続けようとした時だった。
「――おい!そこのキミたち!」
背後から声を掛けられた。少しばかりくぐもった男性の声だったので、女性…エリカ達が来たわけではないことはすぐに分かった。
「「!!」」
ちょうど今、殺人犯についてタクミと話をしていたハジメは内心ヒヤヒヤしながらも、ベンチに座ったままその声の主の姿を確認するべく首だけ背後にゆっくりと向けた。
「キミら、もしかして………いま港に停泊してる
「もしそうなら早く学園艦に帰りな。ここから離れるんだ。……ほらな
「……黙ってろ
そこには連続殺人犯…ではなく、スモークガラス製バイザー装備のフルェイスヘルメットで顔を覆い、黒色で統一された戦闘服姿の二人の男が立っていた。彼らの両手には今年陸自で正式採用され各方面隊に配備が進められている新型
只、その姿は初見のハジメたちをベンチから立ち上がらせ、後退りさせるほどの威圧感を放っており、
又、彼らは顔の全容を先述した
「あ、あなた方は?」
「えーっと…?」
「ありゃ? あー、そういえば言ってなかったな。すまんすまん」
「僕らは特自…特生自衛隊って言えば分かる?」
「自衛隊? なんでここに…」
特生自衛隊…やや長ったらしい正式名称で言うならば「対特殊生物自衛隊」。その名の通り、
ハジメが疑問に思うのも当然だ。見た所周辺は先日からニュースとなっている殺人事件を抜きにすれば平穏そのものである。怪獣も何も出ていない街になぜ彼らがいるのか。
更に言えば、テロ相手ならまず警察の銃器対策部隊や各都道府県の特殊部隊、規模によれば機動隊らが初動対応から鎮圧作業まで行なうだろうと言う認識が彼にはあった。
無論、自衛隊も腐っても警察と同じ実力組織である。現行憲法や法律によってその行動は縛られてはいるものの、テロへの対応もれっきとした任務の一つだ。自衛隊が警察と協力している線も考えられる__実際に例の事件が発生した翌日より、陸自中部方面隊は高知県警に“K事案”としてでなく、「テロ対応」の側面で同件への協力を打診し、これを受諾されていた__が……それでも疑問が絶えなかったのは関わっている隊員の所属が「
その特自隊員の片方、声色からして比較的フレンドリーそうだった方…「中野」と呼ばれていた隊員が説明する。
「…一時間前に北部地区で数度の銃撃戦が発生したんだ。既に巻き込まれた負傷者も何人か出ている」
「北区……僕らその時、そこで買い物中だったけど…」
「え……てことはテロとかなんですか? なんで話題にすらなってないんです?」
薄々勘付きつつあったが、ハジメは確認の意も込めて核心となる質問を繰り出した。
すごく嫌な予感がする。
今もなお逃走しているとされる市内の連続殺人犯と、市内に現れた特生自衛隊、そして北区での複数の銃撃事件…偶然にしては出来すぎている。結びつけずにいられなかった。
それに中野が重々しく答える。
「………
彼の顔は見えないが、苦虫を噛み潰したような声色からしてこちらの想像以上に事態は嫌な方向に進んでいるらしい。
まさか……。
残念なことにハジメの懸念と予想は的中することとなる。
「目撃者によれば
「――おい中野、それ以上は止めろ。僕が簡潔に説明する。……ハッキリ言おう。高知市内に異星人が出た。以前にアメリカに現れたヤツとは別口のだ」
「い、異星人が!?」
「………なるほど」
冷静に納得するハジメと、自分でも予想していたとは言え取り乱すタクミは対照的であった。
「そのイセージンがこっち方面に逃走してったって通報があったから、俺達自衛隊はここらを周って会った人らに片っ端から帰宅を促してるってわけだ。ホントは避難してくれるのがベストなんだけどな」
「この周辺に異星人が潜伏してる可能性が高いんだ。分かったなら早く帰ってくれると助かる」
そう特自隊員の二人がハジメとタクミに帰宅を促していると、公園の外から車輌のエンジン音が複数聞こえてきた。普通乗用車のそれらよりも遥かに重厚なものだ。
黒森峰の整備科の人間である二人からすれば、逆に聞き慣れている類のエンジン音であった。
「ん、来たか…」
中野がそう呟きながら、公園の出入り口の方向に顔を向けた。それにつられて永井とハジメ、タクミも同じようにした。
陸自で人員・物資輸送に用いられている汎用トラック…〈
「高知、こちらT-1。特自
『――高知了解。“
「A-1より高知。…対象を発見した際、万一民間人がその場に居合わせた場合の動きを再度問いたい」
『………作戦内容は既定通り、変更は無い。対象と接触した場合、個々による独自の判断での即時発砲を許可する。対象の物理的排除を
「A-1、了解」
『各分隊は潜伏中の対象との遭遇戦に注意せよ。又、複数の個体が存在する可能性もあることに留意されたし。…先程県警より提供された監視カメラ情報を各員へ転送する。送れ』
「了解。有効活用させてもらう。終わり」
停車したトラックから順に、荷台の中から永井や中野と同じような装備に身を包んだ黒づくめの隊員が無線越しのやり取りを挟みながら続々と降車する。
十人で一班、それが七個。
彼らはそれぞれで簡易的な点呼をその場で終わらせると、銃を構えて即座に住宅地の路地へと…工業団地へ続くルートに分散して走っていった。非常に機敏かつ迅速な動きであった。
「見ての通り、こっちの本隊も動き出した。ここらでもういつ戦闘が起こるか分からない」
ここでようやく二人は中野に、実は高知市に上陸した友人二人と連絡がつかないでいると言うことを伝えようとするが…故意ではないにせよ、それを遮る形で永井が口を開いた。
その矢先だった。
「後衛の陸自から君らの護衛を出すようにこちらで要請しておく。港まで送ってやるか___「キャアアアアアアーー!!」___っ!?」
―――ババババッ!
永井の声を上塗りする甲高い女性の悲鳴と、連続した
銃声の方に反応し、即座に永井と中野は小銃を発生源の方向へと向けた。
「……銃声と、悲鳴か」
「だな。――T-1、こちら先行偵察ST-2。たった今、連続した発砲音と思しきモノを確認。そちらはどうか」
『――ST-2、こちらでも確認している。現在、音源に最も近いエリアに展開していた先偵ST-6が
「ST-1…了解。これより合流する」
「ST-2了解。……というわけなんだが――」
陸自の護衛が来るまで
「――タクミ…」
その時、ハジメは隣のタクミに目を合わせて一言、
「うん…」
タクミはこくりと頷く。
何の確認なのか。
二人の挙動に不審なモノを感じた永井が、何を企んでるんだと問い質す前にその答えは判明する。
「………行くぞタクミ!!」ダッ!
「分かってるよ!!」ダッ!
二人は、悲鳴と銃声が聞こえた方角にある工場団地へと向かうべく、公園の出入り口へ脇目も振らずに走り出したのだ。準備動作を見せずの全力疾走である。
それには、今から自分達がやる事に対する障害となる、目の前の自衛官を振り切ろうと言う意思があった。
先の悲鳴が赤星小梅のものであると確信したが故の行動であった。
小梅が危機に晒されている。そして、彼女と共にいるはずのエリカも同じであると。
「あ、おい!待てそっちはダメだ!!」
「チッ!だからガキはいやなんだよ僕は!
永井が分隊や司令部からの返答を待たず、時間が惜しいとばかりに無線を切ると、中野に声を掛け追従を求めた。ハジメたちを追うためだ。
「…あ、ああ!分かった!」
自衛官である彼らからして、少年二人の行動は無謀も良いところであった。とっ捕まえて安全な後方…作戦区域外へと投げこみ、作戦遂行上の不安要素を早急に排除したかった。
「くそっ!アイツら疾い!! 麻酔銃かゴム弾とかくすねてきてないのか中野!!」
「無茶言うな。てか麻酔銃は
「今ほど
さりとて、少年二人との物理的距離は縮まる気配は無い。ハジメは
この時だけは、永井も中野も純粋な追跡劇では足枷にしかならない個人装備を心底恨んだ。又、非殺傷性の捕縛ないし鎮圧用装備等を持ち合わせていなかったことも悔やまれた。
「あの二人、もしや…さっき悲鳴上げたヤツと知り合いなのか?」
「絶対そうだ! ああくそっ!今日は厄日だ!! 止まれ!おい!!」
「間に合うか…永井、もっとペース上げろ!」
「五月蝿い! 僕は走るのは嫌いなんだ!!」
「……お前よく自衛隊に入ったなぁ」
____
場所は変わり、工業団地の一角…そこにある無人と化した古い物流倉庫の内部。不幸にもエイダシク星人の標的とされてしまったエリカと小梅に視点は移る。
――ガランガラーン!!
二人は、まだ物品が収納されている重量スチールラックの陰に身を隠していた。
そのドラム缶はエイダシク星人のプラズマ・ガンから放たれた電磁弾丸に貫かれたことで穴だらけになっていた。
「ひっ……」
「声を出しちゃ駄目…!」
銃痕生々しいドラム缶を自分の頭に置き換えてしまい、悲鳴を上げそうになった小梅の口をエリカが咄嗟に抑えた。怖いのは分かる。自分だってそうだ。出来るならば喉が枯れるまで叫んでいる。
ここで理性を手放してしまえば、それこそ一巻の終わりなのだから。
「オイオーイ…さっきミタイな悲鳴を上げテくれよォ? アレ、スッゲーぞくゾクするンダァ…」
こちらの神経を逆撫でする、悪趣味なことを口にするエイダシク星人。
勝手に喋ってろとエリカは内心吐き捨てながら、小梅を連れてここからどう脱出するか…頭をフル回転させて考えていた。
自分が死ぬのも、友人が目の前で死ぬのも嫌なのだ。見たくないのだ。だからエリカはまだ諦めていなかった。
「え、エリカさん…私たち死んじゃうんですか………」
「諦めないで。私がいるから…私が……」
「アー……もう大人しくしとケヨ?オマエラもこうなるだからナぁ!」
――ズルッ…
だが、その意思はエイダシク星人によって砕かれる。
ヤツは倉庫中央にある死体の山にズボッと手を突っ込むと、そこから
「「え……」」
それは半身が赤血に塗れていた。とっくに事切れているらしく、ピクリとも動かず抵抗する様子も無い。
エイダシク星人は構わずそれを角度を変えて覗いたり、ぶんぶんと振って
「んーーーー。まだ……
小さな影は黄色帽子を被り、赤い背負い鞄を身につけていた。
即ち、女子児童である。
「あ……あれ…ランド、セル……子どもを…」
「あんな子まで……」
陰からエイダシク星人の様子をうかがっていた小梅とエリカにとってはあまりにショッキングな光景であった。
同時に、相手が子供であっても容赦無く命を奪うのだと、標的に例外は無いのだと改めて認識させられた。
あまりに惨すぎる。
小梅は恐怖による身体の震えが止まらないでいる。対してエリカは最早声も満足に出せず、絶句しかできなかった。
しかし、これで終わりでは無かった。
――――ジュル…ジュルジュルジュル……
何かを啜る音が聞こえる。その音源は、エイダシク星人からだ。先の発言からして、碌でも無いことが起こっているのだと分かる。
「あ…」
「見たらダメ!」
もう生きてはいない幼い少女の亡き骸にエイダシク星人は、鋭い先端を持つ管のような器官…口吻を差し込み、音を立てて体液を吸っていたのだ。
エリカは咄嗟に小梅の顔を自分の胸に抱き寄せた。あんなものを直視し続けてしまえば間違いなく正気じゃなくなる。小梅と自身の視線をエイダシク星人から立ったのは、直感的なものだった。
エイダシク星人は体液を吸うのに邪魔になってきたのか、少女の背負っている赤いランドセルを乱雑に放り投げる。エリカと小梅の前にそのランドセルは転がり、金具が落下の衝撃で壊れたのか、中から筆箱や教科書、連絡帳などを吐き出した。
この瞬間、エリカの何かがぐらりと揺らいだ。
―――あ、これ、無理だ。逃げられない。
――――私がいて…どうなるの? 遅かれ早かれ、私達もああなるのに。
「っ……エリカさん…?」
テレビ番組に出てくるような特撮ヒーローや魔法少女になれるわけじゃない。先ほどまでのどこからか湧いてきていた希望も、脱出方法の模索も、何もかもが脳裏でガラガラと音を立てて崩れた気がした。プツンと何かの糸が切れたのだ。辺りが真っ暗になったような錯覚を感じる。
もう動けない。
今は辛うじて抱きしめて守れてはいるものの、小梅のことを庇う余裕も消えつつあった。
「…アーおいしカッタ。アレ? ソコにいたんダ。サッキよりそっちの銀色も大人しくなっタナぁ、まだマダコッからなのに反応薄くなってんジャンカ。シラケるぜぇ、ったくヨォ」
「な、なんで私たちが……」
本当に…何故なんだろう。
危機感が無かったからか?
殺人犯が逃走潜伏している可能性がある都市に来たからか?
それが異星人かもしれないと思えなかったからか?
しかも人間に擬態出来る能力を持っているかもしれないと思い至れなかったからか?
想定外を想定しろとでも言うのか。いや、
「ン? なに言ってんノ? オマエラ、バカカ? 美味そうなヤツが目ノ前にいたら食べるダロ?」
だが事実、二人も数度の特殊生物災害に巻き込まれ、身の危険や日常の唐突な崩壊といった経験をしている人間の一人である。
「そうそう悪いことは続かない」と片付けてしまった末の怠慢だった、と言われれば終いである。
「そんな…」
だが、この無作為な
「アハハハァ!! …アァ、よくいるんだよネェ……どこの星にも、自分ダケは安全だトカって勝手二思ってるバカナヤツラがいるんダァ…オマエラモ、ソレダロ?」
何も言い返せない。いつも通り過ごして、怪獣が近くに現れたとしてもどこか遠い場所の風景を見ているような感覚に陥っているのは否定できなかったからだ。
エイダシク星人はへたり込み動けなくなった二人の前へと歩み出し、ニィッと不気味な笑みを浮かべると___
「まあ安心しナヨ。最初は痛いけどサ、だんだん痛みなんて感じなくなルシ、その時はもうポックリ逝ってるカラ。まず最初は……銀色のオマエカラナ」
___エリカを指差して、次の食事はお前だと言う事実を突きつけた。
瞬間エリカの頭の中は真っ白になった。
「私……? いや、いやぁ……!」
普段の彼女からは想像がつかないほどの取り乱し方だった。弱々しく両手を前に振り回すだけで、大した抵抗にはならなかった。
「エリカさんを殺さないで!!」
親友の危機に、先ほどまでエリカに守られていた小梅が意を決して声を上げた。
「うるせぇナァ…! あとで会わせてやるから安心しとけヨ」
だが、これでどうにかなれば苦労はしない。小梅の言葉も、それに含まれていた勇気も、異星人相手には効かなかった。
エリカはエリカで、現実を素直に受け入れはじめたらしく、小梅に硬い笑顔でなんとか語りかけようとする。その瞳からは雫が頬を伝っていた。
「小梅……私は…大丈夫、だから。大丈夫………から……」
「あ……足がふ、震えて…た、立たないと…助けないと…エリカさんを、助けないと……やだ、エリカさんが….」
「ハハハ! なんだオマエ、そう言ってるけど動けねぇじゃネェカ! 本当は最初は自分じゃなくて良かったって思ってんだヨナ?」
「ち、違う……」
「口だけだってこと、今から証明してやるヨ。オトモダチが食われるトコ見てガクガクしとくんダナ!」
「小梅、アン…タは…裏か……逃げ……私は、いいから……」
エイダシク星人はエリカの首を掴み上げ、捕食態勢に入る。
目の前の恐怖を前にして、死期を悟ったエリカは、自分のことではなく小梅のことを気にかけていた。助けてと泣き叫ぶことは無かった。
自分は無理でも、親友だけなら…どうにかなるかもと、ある意味希望を捨て切ってはいなかった。
「いや、いやだ……嫌ですよ…エリカさん!」
その時、小梅の身体が動いた。すぐ足に力が入った。
そして素早く立ち上がると、視界の端に映っていた消防用設備…“10型粉末消火器”を掴む。
…以前説明した通り、彼女のフィジカルはエリカと同等。上半身…特に腕力ならエリカ以上。重戦車担当の装填手のそれに匹敵する。そして今、これに火事場の馬鹿力と超常存在と対峙する覚悟が加算された。
重量数kgの業務用携行消火器程度を持ち上げることは彼女にとって造作も無かった。自己犠牲の択を選ぼうとしている親友を助けるのだと、凶悪な異星人に向けその赤い鈍器を思い切りそれを躊躇なく、無我夢中で振りかぶった。
繰り出すのは、タクミが雑談で挙げたハンマー投げのモーションと、ヒカルが整備休憩の合間にやっていた
「エリカさんを……エリカさんを離せぇえええええ!!」
ブゥン!! と野太い風切り音と風圧を伴う殴打。
「ハア!?」ガッ!
戦意も脱出の意思も挫いたと思っていた存在からの予期せぬ反撃を、エイダシク星人は反射的に両手で受け止めた。
そのおかげで首を掴まれていたエリカは解放される。しかし首を締められていたためか、呼吸が上手く出来ずにエリカは咳き込んで立ち上がれない様子だ。
「テメェ……いい加減にシロヨォオオオ!!」
消火器を受け止めたエイダシク星人は怒りに震え、掴んでいたそれを両手で力一杯捻り潰そうとする。
――ベキョ…ガシュッ…!
「――ンアァ?」
ブシャァアァアア‼︎
長らく放置され経年劣化していた、そして正規ではない荒々しい手順で中身の解放が行なわれた消火器は、勢いよくその中から白色の粉末消火剤をエイダシク星人に吹き掛けた。
粉末状の消火剤は人体に良いものではない。それは、地球人と似た呼吸器や粘膜組織を持つ知性体も当て嵌まることを意味する。エイダシク星人もまた、複眼であれどそれ以外の眼部構造は地球人と似通っていた。それが予期せぬ一撃…激痛を伴う一時的な失明に繋がる。
「ガァアアア!!テメェラァ!!!何しやがっタァアア!!!」
顔面に満遍なく消化剤が直接掛かったエイダシク星人。目と口の自由を奪われ、やたらめったらに腕を振り回すがその尽くが空を切る。
「エリカさん!今のうちに!!」
「あ……でも、足が……」
「私が支えるので、行きますよ…!」
相手が視界を奪われている間に、小梅はエリカの元へと滑り込んでいた。
足を挫き、上手く立てないエリカに肩を貸してエイダシク星人から少しでもと距離を取る。
「小梅……ありがとう…」
「…友達が目の前からいなくなってしまうなんて、もう沢山ですから」
エイダシク星人はブンブンと頭を振りながら、消火剤を払い視界が回復したところで、獲物二人は姿を消していた。
「………アー……目がイッテェ………ソウカ、オマエラァ…ボクとカクレンボしたいんダナ? イイヨォ!」
この状況でエイダシク星人は激昂するどころか楽しんでいた。この星に来てから、抵抗する“食糧”と出会うことはなかったから。
だが所詮はそれだけだ。悪足掻きをしている…あとが無いのだ。それらの運命は変わらない。捕らえて殺して食べるだけだ。焦らずとも良い。予め倉庫の脱出経路は簡易的ながらも塞いでいる。
「カクレンボ……気を抜いたらコロスヨォ? サッキのは面白カッたケド、イラツキもシタからさ、お返シシテヤる……ダカラ、
久々に面白い狩りができる。
それだけで十分なのだ。
「――ソコカアッ!?」ジャコンッ!
ババババババッ!!
エイダシク星人は、エリカと小梅が隠れていそうな倉庫内のロッカー、機材の下や陰を入念に一つひとつゆっくりと調べていく。時には携行火器を用いて潜んでいると予想した場所へ適当に弾丸をばら撒き風穴を空けていた。
「……サァテ。アト、どれくらい続くカナァ? ボクハ、見つけるのも得意なんダゼぇ?」
____
時はそのままで、視点は少年二人に移る。
「ハジメ、こっち!!」
「なんだ!? 二人を見つけたか!!」
ハジメとタクミは工業団地内を疾走していた。
そんな時、足の速さから先行していたタクミが目の前の十字路の角にある石壁に背中を当てて隠れながら、
タクミは顔をこちらに向けず、ハジメに手でちょいちょいと招いている。
「静かにね…」
「おう……」
曲がり角の奥には大きな倉庫があった。その敷地内のコンクリ製の地面はひび割れを起こしており、その隙間と言う隙間からは雑草が生え放題。倉庫単体も、老朽化が進んでいるのだと一発で分かるぐらいに、至る箇所が錆びれ、燻んでいた。持ち主を失った廃倉庫である。
昼過ぎであるにもかかわらず、如何にも何かある…曰く付きと噂されそうな雰囲気が漂っていた。
ハジメは
「……あれは、自衛隊か?」
そしてその直感の正しさを証明するものが倉庫の正面に在った。
出入り口の大型スライドドア…そこの左右を見れば、重装備の
又、屋外の露天階段や大窓にも数人ずつ__班、若しくは分隊が__張り付いており、屋内の状況によってはスライドドア側の部隊の突入支援だけでなく、こちらが主体となって動くのかもしれない。
「うん。しかも一部は特殊部隊っぽいね…さっきの人たちより格好がちょっとゴツいし…」
「あれか、姫神島の中継でチラッと映ってた極秘部隊かも」
「てことは……やっぱりあの倉庫の中に小梅ちゃんと逸見さんが…!」
「…それに異星人もな……」
――ババババッ!!
倉庫内から銃声と思しき異音が連続で聞こえた。やはりこの倉庫内部には、武器を持ったナニカがいる。
「………タクミ、すぐ裏側に回ろう。これだけ建物自体がボロけりゃ這って入れる場所とかもあるはずだ」
「……うん。そうだね。見つからないように行こう」
倉庫へ乗り込み、異星人の魔の手から中に取り残されているだろう友達を助けに行く。
文にしてみれば簡単だが、これを実行すると言うことは命を危険に晒しに行くのと同義である。
だが、二人の決意は固かった。
「二人を助けるんだ……絶対に!!」
ハジメの言葉に、タクミは黙って頷き肯定した。その目には並々ならぬ覚悟が宿っていた。
二人は特自との接触を避け、屋内へ侵入できる場所を探すのだった。
____
「オーイ! どこにいんダァ?……そろそろ反応も無いから飽きてきたゼェ……チッ、なんか言えヨォオオオオオ!!!」
――バババババババ!
「うっ……もしかして…バレた…?」
「大丈夫、気づかれてない……あれはやけに撃ってるだけ……」
小梅は身を隠すのに使っている機材の隙間から、エイダシク星人の様子を確認していた。
「そろそろ…移動しよう。エリカさん、もう一回匍匐するよ」
相手の適当な射撃による至近弾が増えてきていた。まぐれ当たりを貰わないためにも、至近距離での発見をされないためにも移動の必要を二人は迫られていた。
「ええ……生きてる心地がしないわ……」
なるべく姿を晒さず姿勢を低く、それでいて音を極力出さないで移動するとなれば、匍匐前進が彼女達にとって現状最良の択であった。
戦車道を嗜む…それも強豪校に属する彼女達は、戦車による車上戦闘だけでなく、双眼鏡や欺瞞装備を持っての斥候…
「ここで曲がって……あ、しまった……!!」
…されども、戦車道の試合や訓練とはまた違う、全く別種の極限の緊張状態に晒された続けていたからだろう。先導していた小梅は、匍匐で機材と機材の間を潜り抜けようとした矢先、その横に積まれていたペンキ缶の山と自身の足をぶつけてしまったのだ。
気づいた時にはもう手遅れで、積まれていた缶がぐらりと揺れ、重力に従って落ちていき…床面に衝突したのに伴って物音を立ててしまった。
―――コォオオン!!
エイダシク星人はすぐさま音源に体を向けた。両手の銃器を構えつつ、その音源との距離をジリジリと詰めていく。
「そこカァ…そこだったんダナ……ミィーツケタア!」
ヤツの両眼が見開かれた。それが持つプラズマ・ガンの生体
音源だったペンキ缶の塊に照準を合わせ、手部の動きとリンクした引鉄が絞られていく。
「――小梅! 走るわよ!!」
「はい!」
姿勢を低くして中腰の状態で、弾除けとなる物陰から物陰へと縫うように入り、被弾をなんとか避けようとする少女達。
「ホラホラァッ! 走れ走れェ! 次はオニゴッコダァ!!」
――ババババッ!!
迫る銃撃。すぐ真上…普通に立っていたら首元から胸までの高さを電磁弾丸が次々通り過ぎる。風切り音を耳が拾う度に精神が削られていく。呼吸も更に速くなっていく。
「………次は外さネェ……ソロソロ死ねヨぉ!!」ジャキッ!
エイダシク星人がプラズマ・ガンの電磁弾倉を交換・装填し、こちらに背中を見せてコソコソと走るエリカを捕捉した。
再び弾丸が吐き出され、それがエリカを貫___
「おおおおおおお!!!!」ドンッ!
___くことは無かった。
エイダシク星人の身体の右横から未知の衝撃が加わっていた。それにより軌道がズレた電磁弾丸は明後日の方向に飛び、中空に明色の線を幾つか描いた。
「ウグッ…!?」ヨロッ…
姿勢を崩された原因はいつの間にか倉庫内に入っていたハジメだった。雄叫びと共に彼が行なった決死の
「!?、テメェ!どこから来やガッタ!!」
「どりゃあ!!」ドカァッ!
「ウゲェエ!?」
自身の負傷を顧みないハジメの突撃を受け、よろけるエイダシク星人。声を荒げるそれには何も答えず、ハジメは続けざまにエイダシク星人の顔面と上半身に何度も強烈な蹴りをお見舞いした。
異星人は堪らず仰け反りながら後ずさった。
「小梅ちゃん、逸見さん!」
「タクミさんまで! なんでここに!?」
ハジメがエイダシク星人と対峙している間に、タクミがエリカと小梅の元に素早く駆け寄り合流。
「それは後で話すから! 今はここから逃げるんだ!」
そのままタクミは自分らが侵入に使った通路までのルートを二人に伝える。
「アアアアアーーー!? ボクのプラズマ・ガンガァ!高かったんダゾォオオオオ!!!」
「どうやら武器が壊れたらしい! 今の内に!」
エイダシク星人は両腕の電磁火器がショートして悶えていた。
それを確認したハジメも三人の所へ合流するべく、駆けようとした時だった。
「……フヒヒヒ! デモナァ、
外部からの衝撃で故障したエイダシク星人のプラズマ・ガン。
しかし、あくまでも故障したのは装填機構と射出機であり、形はそのままを保っている。二対のレール部も健在だった。レール部の外側は、カッター状になっており近接武器としても扱える代物であった。
「危ない!ハジメッ!!!」
エイダシク星人が桁外れた脚力を発揮し数歩でハジメとの距離を一気に詰め、斬りつけようとした___
「――撃て!!」
シュパパパパパ!! シュパパパパパ!!
___が、それは無数の5.56mm弾が殺到したことで阻止された。
「イッテェ! コレは…銃弾……軍隊カ!?」
エイダシク星人を撃ったのは、倉庫正面ドアをこじ開けて突入してきた特生自衛隊であった。
先の20式小銃による斉射を合図に、隊員がそれぞれ正面及び裏口、建物側面の窓、天窓などから内部に雪崩れ込み、半包囲の陣形を作った。彼らの構える銃に取り付けられているレーザーサイトから出力される赤の光条がエイダシク星人に殺到する。
「そこまでだ。
隊員の一人…隊長格の者が20式小銃を構えながらそう言った。その身体に震えや怯えは無い。
バイザーメットで隊長格の隊員を含む彼らの表情はシャットアウトされ窺い知れないが、鋭い眼光を伴った睨みを眼前の敵性異星人に向けているはずだ。何せ相手は、罪の無い一般人を襲い、殺しを繰り返す地球外からやって来た侵略者にして無法者…生かさず討たねばならぬ害悪である。
「アア?いいのカァ? 下手にドンパチしたら、ガキどもに当たっちゃうゾオ?」
何より、未来を担う子供たちに外道が刃を向けていること…それを彼らは許容できなかった。
ヘラヘラと嗤うエイダシク星人に対して上のような感情を押し殺しながら、先の隊員__A-1分隊長__が冷たく答える。
「――我々の
「「「!!」」」
「ハ?ウソだろ、チョ、チョット待てヨ!」
まさかの返答にエイダシク星人が狼狽える。一方でハジメ達は自衛隊側の意図を理解し、言われた通りにすぐ頭を両手で覆い守りながら伏せた。少女達は目を瞑り、少年達は彼女らの盾になった。
「
シュパパパ! ――シュパパパッ!
侵略者の制止には耳を貸さず、一斉に全ての銃口が火を吹いた。三点射が何度も繰り返され、一種の合唱を織り成す。
パパパ………カランカラン…!
エイダシク星人には、これでもかと言うぐらいに銃弾が叩き込まれた。A-1分隊長によって「射撃止め」のハンドサインが掲げられ、銃声が止んだ頃には、残忍なる宇宙からの殺人鬼は全身を穴だらけにして、音も無くただ青い体液を垂れ流しながら仰向けに倒れ伏していた。
「……
「し、死んだ…の?」
「あっけねぇ…」
ピクリとも動かず、眼球は白濁し、口部と思われる部位からは多量の吐血が確認できた。見る限りでは、かの異星人は死んでいた。
先ほどまで、こちらを窮地に追い込んで愉悦に浸り、嘲笑っていた悪魔のようなモノであった。だが今は物言わぬ死体へと成り果てている。あまりの呆気なさにハジメ達はなんと表現したらいいか分からない感情に支配されていた。
辛うじて少年二人は口を開けたが、少女達の方はただ肩から力を抜いて大きく呼吸するだけに留まった。まだ命が危機に晒された時の恐怖が勝っているのだ。
「――T-3、T-5は警戒待機を維持。T-1は犠牲者の遺体収容を…T-2は異星人の処理・回収準備にかかれ。回収と輸送は化学科がやる。T-4の
『『『了』』』
一方、敵性異星人を射殺した特自部隊は、安堵の吐息を漏らし休息をとることもせず、次の動きに入っていた。
そんな中、A分隊長が各T分隊へと指示を出しつつ、地面にへばりついていたハジメ達の前までやって来た。
「…キミたち、怪我はないか?」
ハジメとタクミが遭遇した中野と永井と思われる隊員を伴わせて。
「は、はい。私の方は…大丈夫です…」
「そっちの銀髪の子は?」
「私は足を捻ったか、挫いたぐらいで……」
「キミは一応診てもらった方が良さそうだ」
一拍置いてA分隊長は、深々とエリカと小梅に頭を下げる。それに彼女達はとても慌てふためいた。
ハジメとタクミが駆けつけたとは言え…あのままでは決定打に欠け、自衛隊の
「…すまなかった。先程、私が言った通り我々は今回、潜伏している異星人の捕縛、不可能であれば排除するというのが任務だった。我々は、自衛官としてキミ達を含む国民の命は絶対に最後まで見捨てはしない。……しかし相手への
「そんな、頭を上げてください!」
「おかげで私たちは助かったんですから!」
「そう言ってもらえると助かる。……あとは、そこの少年たち」
二人の言葉を受け、彼は頭を上げると今度はハジメとタクミの方に向いた。
スモーク加工のバイザーでその顔を見ることは叶わない…が、なんとなく察することができる。自分達に向けられているだろう険しい視線とこれからされる叱責を想像して、ハジメとタクミは身じろぎした。
「ここにいる事情は後ろの隊員から聞いた。まったく大した行動力だ。……だが、武器も持たない民間人自らが危険な存在に立ち向かっていくのは何処まで行っても無謀だ。いいか、勇気と無謀を履き違えるんじゃない。たった一つしかない自分の命だ。大切にしろ」
「……はい」
「すいませんでした…」
あと最後に一つ、と男は最後に付け加え、ハジメの方に顔を向けた。
「キミのあの時のタックル…あれがあったからこそ相手の隙を突けた。……さて、一旦学園艦まで送ろう。恐らく事件の聴取は明日以降に___」
そうA分隊長がエイダシク星人の死体回収作業を見ながら言っていた時だった。
今の今まで姿を保っていた件の死体が、ガクガクと激しく痙攣し白い泡を発しながら液状化して原型を消した。一同がそれに呆気にとられていると、今度は倉庫中央にある遺体の山の方から嫌な甲高い笑い声が響き渡った。
「同族がいたのか!!」
「化け物め!」
「クソっ…銃が!」
遺体の収容作業をしていた分隊がそれぞれ瞬時に銃器を握ろうとするも、遺体の収容装備を広げていた最中だったのもあって手間取ってしまった。彼らが20式を構える前に異様な影が
影の正体は、銃弾を受けて斃れた筈のエイダシク星人であった。
「へへへへへへ!! 引っかかりやガッタ……そんなヤワな武器でボク
自衛隊が射殺できたのは、予め製造しておいた人間
ここで倉庫内外を警戒していた二個分隊が異常を察知して即座に射撃を開始。倉庫の建材を削り取る音のみが響く。侵略者の断末魔は聞こえない。
「オオットぉ!?危ネェナァ!! …もう通常体への拡張に必要な力は十分集まった!! 今からオモシロイもん見せてヤルヨ!!オマエラも地球にいるヤツラ全員ペシャンコになっチマウゼェ!!」
天井を縦横無尽に這って銃弾の尽くを回避したエイダシク星人は、ここにはもう用はないと言わんばかりに天窓部分から屋外へと消え去った。
そしてその数秒後、信じられないほど巨大な地響きが一帯を襲った。
――ズズゥウウウウウーーン!!!
「きゃあ!!」
「うおっ!」
「なんだっ!?」
「……状況報告! 対象の行方は!!他部隊はどうなっている!?」
―――ドドドドドッ! ガガガガッ!
通信要員が何かを報告する前に、遠方からとても重い銃撃とも砲撃とも判断できない発砲音のようなものを複数、耳が拾った。
「報告! 対象が、きょ…巨大化した模様!全長は凡そ50m、大型特殊生物サイズに該当!! 先ほどの地震は対象の着地によるものです!! ……巨大化した対象は現地点から西、1400の地点に出現!!」
エイダシク科学とは、クローン培養を筆頭としたいくつかの生物工学が
細胞の過大な成長・老化・分裂・増殖運動を促して実現する、身体の自在拡大縮小技術…これもその一つである。この技術はバルタン科学が得意分野とするクローン細胞技術を齧って応用したもので、劣化コピーモノと言えど、宇宙を見渡して見ても非常に高度な
「同区域は民間人の避難が完了していません!」
悲鳴に近い報告を挙げる通信要員。
「“K事案”対象…仮称第二個体は、区域の警戒にあたっていた陸自13即機連と交戦状態に突入。しかし
外の喧騒は、大型級となったエイダシク星人が、警戒態勢を敷き市街地内で待機していた高知駐屯地所属の陸自“第13即応機動連隊”
『“
『第15即応機動連隊第1並びに第2普通科中隊は指定の配備地点へ即座に転進し、13連隊を援護せよ!』
『――こちらミミズク。作戦空域に現着。これより
『松山“第14特科連隊”、出動準備中!』
『
工業地帯周辺に展開中であったその他の陸自バックアップ部隊、隣県の野戦特科部隊、陸空の航空隊がエイダシク星人仮称第二個体…“シカーダ”撃滅のために結集するようである。だが臨時とはいえ、統合任務部隊ばりの混成部隊を束ねるのに必要な時間は短くなかった。
「第5航空団…新田原の305飛行隊は出ないのか!?
「現在、305は第9航空団と共に防空識別圏へ侵入した豪州空軍機に対応中!」
「海の次は空か……ええい豪州め、余計なことを! ……だが今は外に出るのが先決だ! ホトケの回収は一旦中止し、ここから退避する!!」
非戦闘員の民間人であるエリカ達を戦場から可能な限り後方へと退避させねばならない。それに、この場にいる隊員の装備では、大型の敵性存在を相手取ることは自殺に近かった。
A-1分隊長は合理的な判断を下した。
「キミらも早く! 倉庫前のトラックを付けた。乗り込んでくれ!」
「……おい、一人足りないぞ!」
皆が外の様子に気を取られている内にハジメがいなくなっていることに中野が気づきそれを指摘した。
「え!?うそ! ハジメどこ!?」
しかしエリカの焦りとは裏腹に、すぐにハジメは見つかった。どうやら収納棚の向こう側…こちらの死角にいたらしい。
「ハジメ、なにやってんのよ!」
「いや…ちょっと……」
「アンタねぇ…私は人のこと言えないかもしれないけど、アンタもアレに殺されかけたのに…単独でどっかにフラフラ行くなんて…! 帰ったらまた説教よ説教!ほら、早く自衛隊のトラックに乗る!」
「う、うん…ごめん……(ハジメごめんよぉ…ハジメの苦労増やしちゃった…)」
エリカに叱責されているこのハジメ、中身はハジメ本人ではない。そう、エイダシク星人と戦う為にウルトラマンとなるべく離脱したハジメと入れ替わった擬態モードのイルマ少年である。
…しかしその行動が災いし、エリカの説教と言う今後の用事が増えてしまったことに、この場にいないハジメ少年はまだそれを知らない。
イルマは心の中で涙を滝のように流しながら合掌して詫びていた。
___
___
___
エイダシク星人は地上の自衛隊、そして市街地への攻撃を一旦やめると、何かに信号を送った。
するとそれに応えるかのように、工業地帯のあちこちにある倉庫の中の三つから、天井をメキメキと突き破って…計3機の、黒色の円盤型__丸釜状に近い形状とも言える__ドローンが飛び出した。このドローン、エイダシク星人が四国降下後に
『――っ! 高知市上空に飛行物体の反応を感知!識別信号応答無し、数は3!!』
『ミミズクより高知。そちらで察知したと思しき飛行物体を目視で確認した。無人機…ドローン、異星人の操るドローンであると推察する。目視による確認では武装の類いは見受けられない。観測を続ける。送れ』
ドローン群はエイダシク星人の元まで飛翔すると、上空で輪を描くようにして浮遊し待機状態になったようだった。又、異星人のモノと思われる未確認の飛行装備が姿を現したからか、地上の自衛隊からの攻撃はピタリと止んでいた。
それらを確認すると、予め仕込んでおいた仕掛けと3機のドローンを用いてエイダシク星人は四国全域の凡ゆる
『み、民間の各種通信システムがダウンした模様!』
『四国全域のシステムが、権限を剥奪されているようです!!』
『
『狼狽えるな! …宇宙を渡ってきた連中だ。あらゆる面でこちらの技術を優越しているのは分かりきっていたことだ!! 幸い、
今頃、四国各地の公共放送…路上の大型モニターから個人の携帯電話に至るまで、その画面に異星人の顔が映っていることだろう。
『さあテェ…あーあー、聞こえるカナア? ボクはエイダシク星人。早速だけどサ、地球人のミナサンに…イヤ、マズニッポンノ皆サンお願イガありマァス!』
上空を旋回するドローンに取り付けているスピーカー機構も使って、陽気な声色での自己紹介から入り___
『降伏シロ。オマエラの科学レベルハ残念賞ダ…今ボクの下につけば“星間同盟”が来訪シタ時に仲介してヤル。イイカ? 星間同盟ハ文字通り星ト種族ノ垣根を越エテ結成された強力ナ宇宙軍事機構ダ。オマエラみたイな一つの星ノ軍隊ヲカき集めテモ足下にも及バナイ。ココみテェナ星系一ツナンカ軽ク滅ボせる。……話ヲ理解デキタナラ、降伏シトケ』
___冷ややかな声色で降伏勧告を投げ掛けた。
パパパパパッ!
人類への降伏勧告を遮るように、若しくはこれが答えだと返すように、陸自地上部隊から銃砲撃が放たれる。
彼らは、市民が避難するまでの時間を文字通り命懸けで稼ぐべく攻撃を続ける。しかしながら、それらの効果は今一つで、エイダシク星人の外皮に傷を付けることに四苦八苦していた。
『ナンダァ…?まだ続けんノォ? ダカラソレ、効カナイッテ………んジャ死ネ』
――バチン! ドォオオオン!!
エイダシク星人が腕に装着しているプラズマ・ガンを地上へ向け、電磁弾丸を叩き込んだ。着弾した場所は閃光と爆発であらゆるモノが吹き飛び、黒煙を上げた。
すると、それに触発されたのか、市街地各所より無反動砲や誘導弾、車載砲による、先ほどの数倍近い反撃が始まった。されど異星人は前後左右へのステップと携行火器の
『ギャハハハハ!!我慢比べダナ! いいゼェノッてやるヨ!!』
――――バタバタバタバタ!
『ん? 援軍カァ?』
エイダシク星人は背後から近づいてくる羽音に気がついた。
振り向くとそこには陸自の国産対戦車ヘリコプター〈AH-2 ヘッジホッグ〉4機が機首をこちらに指向させて滞空していた。それらは、胴体左右にあるスタブウィングに試製航空機用指向性放電機銃"Ⅰ型プロト・パルス・メーサー"を搭載した実験機体だった。高知駐屯地より緊急出動した一個飛行小隊…アルクス隊である。
『カラダが小セエト難儀ナモンダなァ!?』
陸を這うナメクジの次は、空を漂うハエときた。群れを成して次々と湧いて出て来る様は最早虫ケラそのものだなと侵略者は高らかに嘲笑する。
『――アルクス1より高知、作戦空域に現着。報告にあったドローン3機も確認。送れ』
『高知了解。貴隊の任務は変わらず。“シカーダ”の撃破、及びドローン群の撃墜を実行せよ。送れ』
『了解。これより戦闘に参加、敵集団を我の部隊の全火力を以って撃滅する』
『これがメーサーの、初の実戦投入…!』
『米国に続いて今度は日本に来たか!』
『これ以上はやらせはせん!!』
日本が公式としては初めて経験した異星人との接触事例及び、異星人による武力行使並びに被侵略活動として後に“高知市対異局地戦”と記録される戦い。
これが、
『アルクス1より各機、“シカーダ”随伴の無人機3機に対し
『『『了解!!』』』
『アルクス、射撃開始!!』
___バシュッバシュン!!
様子見のエイダシク星人を置いて、先手を打ったのは人類だ。
アルクス隊1番機の号令と共に、AH-2全機から標的を割り当てられていた防空ミサイルが先陣を切って飛翔した。そこからワンテンポ置いて、次に対地ミサイルが連射された。
『アアッ!? メンドクセーコトすんナヨナァ!!』
異星人はドローンへ攻撃を加えてきたと察したようで、苛立ちを募らせた声色で喚きながら両腕のプラズマ・ガンで迫るミサイル群を迎撃した。
……何故、
エイダシク星人自身が守らねばならないという弱点を生んでいたのだった。
これが無ければ自分の活躍をこの星の人間共に発信できなくなってしまう。…しかも3機のドローンの中には“とっておき”が眠っていた。まだお披露目すらも出来ていないのに出オチ感覚でドローンを壊されては堪らない。ミサイルの撃墜に力が入るのは当然だった。
上のように、ドローン狙いのミサイル第一波にエイダシク星人が集中していると第二波が立て続けにやってきた。だがどうにもおかしい。何せ弾頭は
地球人の航空兵器の狙いがドローンの撃墜だけではないことに気づいた時には、エイダシク星人の胴体が爆炎に包まれた。そして黒煙が晴れぬ内に空色或いは青色の光条が声にならぬ憤りを見せていた異星人に容赦無く突き刺さった。
じゅくじゅくと身体の表面が焼け溶ける不快な音がする。これは知っている。超高熱の…熱線兵器の攻撃が被弾した時の反応だ。
『イッツ……下等種族のくせになんでソンナモン持ってンダヨォォオ! ボクを傷つけやがって!! ぶっころおおおおおおおす!!!!』
腹が立った。それは、宇宙に版図を広げた文明がようやっと手に入れることができるものだ。
なぜ宇宙に上がることすらも満足に出来ない後進惑星文明…それも地域国家に相当する小国だろう奴らの軍隊がそれを実用化しているのか。
理由は知らぬが壊さねば、殺さねば怒りは収まらない。仮にも高等種族である自身の身体に傷を付けた報いを与えねばならないと、かの異星人は怒りを露わにした。そのボルテージは地球降下後最大級のものだった。
4機のAH-2の両翼先端に取り付けられている
『攻撃有効、攻撃有効! メーサーによる射撃を継続する!地上部隊が立て直すまでの間、ヤツを踏みとどまらせろ!!』
『――ウッゼェナァア!!』
___ババババババババッ!
エイダシク星人は両腕をアルクス隊へ真っ直ぐ向け、電磁弾丸を連射した。濃密な対空砲火と相違ない猛烈な弾幕が、4機のAH-2へ容赦なく襲いかかる。
『各機回避機動! 敵の対空射撃だ!!』
『ミミズクは下がれ! 巻き添えを喰らうぞ!』
『ぐっ!なんて弾幕だ!!――っ!?しまった!』
『被弾、ブレード破損! 操縦不能!操縦不能!!』
それぞれが散開し回避行動に移る。
されど、プラズマの弾幕をメインローターに貰ってしまったAH-2が1機、地上へと墜落していく。機体は機動を制御するに足る空力を確保できず、錐揉み状態となっているため、乗員の脱出も難しかった。
『急げアルクス3…! 脱出しろ佐川!』
ほぼ垂直に落下を続ける機体。緊急脱出までの猶予は少なかった。
だがいつまでもその僚機を見てはいられない。三番機の隊員らの無事を確認する前に、エイダシク星人の対空砲火が残る3機へ襲いかかってきた。こうなれば意識も注意も変えざるを得ない。
重攻撃ヘリに匹敵する大型機であるAH-2は、持ち前の大出力エンジンと操縦者の技量を以ってして、その
『クソッなんてヤツだ…メーサーは効いている……せめてもう半数揃ってさえいれば……!』
……それでも長く続くものではない。この高機動が実現出来ているのは、ヘリや人体にかかる負荷、重力を無視してやっているからだ。隊員の体力は有限であり、燃料も又然りである。
つまり、どう足掻いても徐々に
そこから五分も経たぬ間に、反撃に転じることが出来ず3機ともプラズマの弾幕に絡め取られ脱落。増援を迎え態勢を立て直した地上部隊の援護も空しく、実験飛行小隊は全滅した。
同じ時間、また別の某所では。
「お父さーん!!怖いよぉ!!」
「今は頑張って走るんだ!もう少し、もう少しだから!!」
ある親子が、エイダシク星人の無差別攻撃に当たらないよう祈りながら元は建物であった瓦礫の中を走っていた。
「…あっ!」バタッ!
「ハルオ!!」
ズドォオオオン!!
「うおおっ!」
「お父さん!」
父親が転んだ我が子を抱え上げようとしたその時、そのすぐ近くに大の大人と同じサイズのプラズマ弾が着弾し、二人は爆風で地面を転がった。
……エイダシク星人が出現した区域では高知市民が少しでも戦火から遠ざかろうと思いおもいの手段で避難していた。そのため、自家用車や自転車などで逃げようとした人々によって車道、歩道で致命的な渋滞や事故が各所で発生していた。又、異星人の地上無差別攻撃により道路が寸断され、そもそも使い物にならなくなっているという事態も起こっており、プラズマ弾の雨から逃れようとする市民たちの大きな足枷となっていた。
エイダシク星人は獲物の再装填を終えると、再び地上に狙いも付けずに乱射する。プラズマ弾が発射される度にビルが、車が、人が、焼かれ…爆ぜていく。
そしてその内の一発が、親子に向かい襲い掛かってきた。二人は目を瞑り来たる死を覚悟した。
「………っ!…………?」
………が、いつまで経っても自分の身には何も起こらない。不思議に思った少年と父親は恐るおそる頭を上げ、目を開けると、そこには見知らぬ青年が立っていた。
「――早くここから逃げてください!」
なぜ彼は平気なのかは分からない。
青年は呆けている二人に手を貸して立ち上がらせた。
「き、君はいったい…? どうやって…」
「お兄さん…正義の味方ぁ?」
「……いいかい、ぼく。キミもお父さんと早く逃げるんだ」
「いや、君も逃げないとダメだ!一緒に行こう!」
一刻も早く逃げようとしている足をなんとか留まらせ、残った理性で青年に同行するように促した。散らして良い命なんてないのだからと。
「ごめんなさい。僕は…まだ、やらないといけないことがあるんです。僕のことは気にしないで安全な所へ!」
しかし彼は頭を下げて丁重に断ると、クルリと踵を返して異星人の方へと障害物を巧みに捌いて真っ直ぐ走っていく。
「待つんだ…っうお!」
ズズゥウウン!
青年を止めようとしたものの、子供の父親は目の前に降ってきた瓦礫によって行手を阻まれた。人の何倍もある石の塊をどうこう出来るわけもなく、父親は彼への制止と追いかけは不可能だと判断し、少年とすぐにこの場から離れる選択を採って走るのだった。…瓦礫の向こう側に消えた勇気ある青年の無事を祈りながら。
「これ以上は、やらせない!!」バッ!
先の青年…“ヒビノ・ミライ”は、未だに好き勝手しているエイダシク星人を睨みながら、左腕を立て前に突き出した。
すると、彼の左腕にどこからともなく光の粒子が集まって、それらが真紅のブレスレット__“メビウスブレス”__を形取り実体化した。
そしてすぐさま、ブレスの中央にある紅玉…クリスタルサークルに右手をかざし、縦に振り抜くことでクリスタルをスピンさせ内部のエネルギーを解放した。クリスタルサークルは燃えるように爛々と赤く光り輝く。
ミライは左腕を一度大きく後ろに引き込み、そこからメビウスブレスを素早く空へと高く突き上げ、喉が裂けんばかりに叫んだ。
「メビウーース!!!!!」
ミライは「
「――――俺は、お前を討つ!! お前なんかに、地球を渡してやるもんか!!」バッ!
奇しくも同じ時間。異なる場所にて。
倉庫から抜け出していたハジメも、アルファカプセルを空高く掲げ、光に包まれウルトラマンへと変身した。
『ホラホラァ! ドウやってボクを止めるんダァ!?もう秘密兵器みたいなヤツは叩き落としチャッタミタいだケドォ!?』
エイダシク星人は3機のドローンを従わせて、陸自地上部隊を蹴散らしつつ、高知市を南下して新高知港へと進撃せんとしていた。
同港を目標にしたのは、その大きさから圧倒的な存在感を放っている黒森峰学園艦を破壊し、自身の力量と冷酷さを見せつけるパフォーマンスに利用してやろうという魂胆があったからだった。
しかし、その行手を阻むように眩い一本の光の柱と、空から金色の光の粒子が降り注ぎ、中からそれぞれウルトラマンが姿を現した。
___シュアッ!
____セアッ!
この星の守護者である鉄紺の巨人…ウルトラマンナハトと、かつて別世界の地球にて地球人との不朽の絆を育んだ戦士…“絆の勇者”、“不死鳥”、と謳われたウルトラ兄弟の一人、ウルトラマンメビウスだ。
場面は再び地上のエリカ達に移る。
倉庫から特生自衛隊と共に退避した彼女達は、73式トラックで高知市西部方面へと離脱中であった。
荷台の天幕の影から先ほどナハト・メビウス出現を目撃していた。
「ナハトが来た!…それに佐世保の時とは違う赤いウルトラマンもいるわ…」
「顔つきも色合いも全然違いますね」
「不思議だけど、あの二人のウルトラマンを見ていると何か、温かいものを感じる気が…」
「(あれは…ウルトラマンメビウス……?)」
「? ハジメさん、何か言いました?」
「い、いや! 何も!」
「………がんばれ。ウルトラマン…!」
エリカは祈るように、ウルトラマンへの激励の言葉を呟き、彼らの背中が消えるまでその目を離すことはなかった。
『ああ!?宇宙警備隊ダトオ!? オマエしつこいゾォ!!ソレニ、コッチニモウルトラマンがいたノカ!?』
《!…あなたは?》
《――僕はメビウス。細かい話は後にしよう。…今は目の前のエイダシク星人を!》
《…分かりました!!》
自身のすぐ隣にほぼ同じタイミングで現れた真紅と白銀の身体を持つ__ウルトラセブンと似た雰囲気を覚える__ウルトラマンに驚きを隠せないナハトだったが、メビウスの言葉もあって即座に戦闘モードに意識を切り替えた。
ファイテングポーズをとる二人のウルトラマン。
それを前にして、エイダシク星人は目を細めながらニヤついた。先ほどの狼狽えは何処かへと消えたようだ。
『……なるほどナァ…ここのヤツらはウルトラマンがいるから安心してんダァ。ンナラ、ココでウルトラマンを倒セバ地球はボクのモノ、そして星間同盟に入る足掛かりニナル…ってワケダナアっ!?』
《来るぞっ!》
《っ!!》
エイダシク星人がそう言った直後、これまで上空で円を作って浮遊しているのみだったドローン群が一気に動いた。3機のドローンは、ナハトとメビウスの前で横一列き陣取ると、その直下に
これが、エイダシク星人が抱えていた“とっておき”の正体だ。
『――緊急報告! こちらミミズク! “シカーダ”の同種と思しき個体が三体、出現した!!敵の増援だと推定する!!』
『以後、各個体を
それは見間違いの類いでは断じてなかった。どれも確かにそこにいて、地上に立っている。“質量を持った分身”…言わば、クローンであった。
ドローンの本来の役目は、クローン体の隠匿兼移動拠点だったのだ。
人間狩りにヒトサイズのクローンを使っていたと言うことは、
『ハハハハハハ!!これで4対2ダァ! オマエラをぶっ殺してボクの強さを証明スル!!』
しかもその上空には先の円盤型ドローンが隠れるように浮いており、実体を持った分身__クローン体の制御補助を行なっているようだ。
《人を、何人もの人を奪った上に、そんなことを…!!》
《エイダシク星人!“星間同盟”との合流はここでなんとしても阻止する!!》
だが劣勢になれども、二人のウルトラマンは一歩も退かなかった。逆に前へと勢いよく駆け出した。悪しき侵略者を打ち倒すために。
場面は更に移り、高知の空へ。
市上空に鋼の翼が数十、爆音を轟かせながら高速で飛来した。それは熊本・航空自衛隊春日基地よりスクランブルした一個飛行隊…秋津の率いる
同飛行隊は、国内第二次特殊生物災害にて勃発した“北九州航空戦”で減らしていた機数を、複数回に渡る補充と再編を経て、完全に回復させていた。
『トレノリーダーより春日基地へ。トレノ全機、作戦空域に現着。これより、“シカーダ”・ドローン群への攻撃に掛かる』
今回のトレノ隊の役割は、敵
『――基地からトレノリーダー。地上では、残存する機甲戦力を中心にして、二体のウルトラマン援護のため再集結と展開を急いでいる。又、一部地域は避難活動が難航中、完了の報告を受けていない。戦線の拡大に注意されたし』
『トレノ1了解。――全機聞いたな? 隊を四つに分け、まずは空飛ぶ茶釜を叩き落とすぞ。だが、セミ頭どもの対空砲火には十分に気をつけろ。行くぞ、かかれ!!』
『『『了!!』』』
機体下部のウェポンベイが開く。短距離空対空ミサイル“
空の防人たちは、地上のレーダーサイトや偵察用無人機、
音速で青空を切り裂いていく必中の矢は徒党を組んで侵略者の円盤群を目掛けて殺到する。
図体が大きく自衛手段の一切を持たぬ貧弱かつ鈍重なドローンに、オーバーキルとも言える量のミサイルが容赦なく突き刺さり、爆発エネルギーを遺憾無く解放した。
大きな赤炎の花が、青のキャンバスに四つ咲いた。花弁を思わせる黒煙からドローンだったものの大小の残骸が重力に従って地上へと落ちていった。
『――ドローンの全機撃墜を確認。これより“シカーダ”群への攻撃に移行する』
トレノ隊が高知市上空の制空権を握った。
『次カラ次に……ゴミどもガ!!』
エイダシク星人のオリジナルが、ドローンを全て喪失したことを空の様子を見て悟ると、吐き捨てるような悪態を吐いた。
『地球の言葉も履修しているようだが、どうやら補習が必要らしいな』
エイダシク星人はトレノ隊による攻撃を軽く避けつつ、クローン体を用いてメビウスとナハトを分断して有利に立っていた。
『『イヒヒヒヒ!!!どうダァ?手も足も出ねえダロォ?分断された時点でオマエラの負けダ!!さっきまでの威勢はどこに行ったんダァ!?』』
シュッ……!
《くっ!自衛隊のライトニングが援護してくれてはいるが、キツい……》
『時折ちょっかい掛けてくるハエがウゼエけど、これで終いだ!!』
ナハトが相手をしていた2体のエイダシク星人は空中を浮遊して距離を取ると、目にも留まらぬ速さでナハトの周りを回転し始めた。高速回転による残像が無数に生み出され、数十人の相手に囲まれているような錯覚にハジメは襲われる。
《なっ!疾すぎる!!どれが本物なんだ!!》
『『オラオラァ!どうした黒いウルトラマン!?当ててみろヨォ腕を十字に組んでシュワ!!ってサァ!!』』
《…………スペシウムッ!!》
……へアッ!!
ナハトは上半身を大きく反ってスペシウム光線を真上に放った。水色の光の筋が空に伸びていき、空を覆っていた雲を突き破るほどであることから今までで最大の出力で放っていることが分かる。だがそれはナハトのエネルギーの消費量を増大させる諸刃の剣である。そのため早急に相手を片付けなければならない。
「!!」
『上空への強力な光線の投射を確認!!』
『空佐!これはいったい…』
『何をするつもりだ…?』
「これは…………そうか分かったぞ。各機、ウルトラマンナハトと対象から離れろ、急げ!退避だ!!ウルトラマンは大技をかます気らしい!!!」
『りょ、了解!自分は秋津空佐の直感を信じます!!』
『『ア?アハハハハハハハ!!!なんだ最後の抵抗がソレかぁ!?もう諦めてんじゃネェカッ!!イヒヒヒヒ!!』』
《そう………見えるか?》
『『ヒヒヒヒヒヒ………ハ?今なんツッタ?』』
《……うおおおおおおお!!届けええええええええ!!!!》ギュウウン!!
シュアアアッ!!!!
ナハトは自ら体勢を崩したかと思うと転倒直前に片足で踏ん張りながら、その運動エネルギーを使って十字に組んだ腕と身体を傾けることで空高く昇っていたスペシウム光線の筋がまるで巨大な剣のように振り下ろされていく。それをエイダシク星人が飛び回っている高度近くまで持っていくと、今度はそのままスペシウム光線を放ちながら身体を回転させる。
《スペシウム・ストォォオオオーーム!!!》
『は…それは……や』
文字通りの光線の暴風に曝されることにより、エイダシク星人は自ら、迫ってくるスペシウム光線の壁に突っ込むことになった。完全に油断していたところでしっかりとその虚を突かれたのだ。ちなみに、片方の個体は地面に叩きつけるようにスペシウム光線を振り下ろした際に直撃したことにより、数秒も経たず蒸発していた。そして生き残りの片方のクローン体も急な減速は出来ずに自分に向かってくるスペシウムの壁へ激突する瞬間、
『ちょっ、ソレ…反則……』
…そう言いかけると跡形も無く蒸発したのだった。
《自衛隊も意図を察して退避してくれたのは助かった……あのウルトラマンは!!》
先ほどまで目の前の敵を倒すので精一杯で、もう一人のウルトラマンのことまで気を回せていなかったためメビウスの心配をするナハトだったが、杞憂に終わることになる。
セヤァアッ!!
『グゥオオオオオァアアーー!!!』
ズドォオオオオーーン!!
メビウスはメビュームブレードを発生させ、エイダシク星人を切断する際に刃の部分を伸縮させて斬り裂き、『∞』のマークをエイダシク星人は胴体に刻み込まれ爆散していた。こうして残りはオリジナルのみとなる。
『チクショオ!ナンデ、ナンデボクが負けそうになってるンダ!?ドウシテ!?』
《罪のない人たちの命を奪うことは許されない!ここで観念しろ!!》
『ダマレ!生きるために食べて何が悪い!!生き残るために腹を満たして何が悪い!!所詮は弱肉強食なのサ!!地球人はボクの大事なゴハンだったんだよォォオオオオオ!!』
現実を認められないエイダシク星人は自身の行いを正当化しようと声高に叫んでいるが、その隙をメビウスは見逃さなかった。
セアッ!
《ライトニング・カウンター・リング!!》
メビウスが左拳を前に向かって突き出すと黄金色の光の輪が何本も現れ、それらは発狂しかけているエイダシク星人へと向かっていき、頭上にまで飛んでいくと、大きなリングとなってエイダシク星人を縛ったのだ。
『離せっ!離せよぉおお!!!卑怯だぞクソガァアア!!』
《聞けっ!エイダシク星人!!》
『!?』
メビウスはメビュウスブレスをスパークさせ、力を集中させつつ両腕をゆっくりと頭上へと上げていく。ナハトもナハトブレスを付けている右腕を掲げて周囲からプラズマエネルギーを吸収して充填させる。
《いかなる理由があろうと……侵略は許されない!》
《
メビウスは腕を十字に組みメビュームシュートを、ナハトは右腕を前に立てて突き出してナハトスパークを放つ。当然拘束されているエイダシク星人は逃れる術はなく、二つの光線を身体全体で受け止めることになった。熱線に徐々に耐え切れなくなってきたため、身体の原型が無くなりつつあった。
『ガアァアッアアアア!!!!オマエ…ラは、勝……て…ない!…星間同盟に…は…ぜ……な…………』
最後まで言葉を発することは叶わず、エイダシク星人は二人のウルトラ戦士の放った光線によって光となって撃破されたのだった。
………シュワッチ! ………ハッ!
二人のウルトラマンは空へと飛び去っていった。
「……フッ、所詮は純血の劣化種族か。地球制圧を成し得たとしても消えてもらう予定だったが、手間が省けたな。その程度の戦闘レベル、技術レベルなど、我々は欲してはいない………さて、そろそろ"器"の捜索を開始せねば…」
____
高知市 新高知港
変身を解除してエリカたちよりも早く港にいたハジメはウルトラマンメビウスである青年、ミライと波止場に座りこんで話をすることにしていた。自己紹介からここに来た理由までミライはハジメに説明した。
「あの…ありがとうございました!ミライさんが来てくれなかったら…」
「僕にも落ち度はある。僕がヤツを倒し切れていればこの次元の地球に被害が出ることはなかった…」
「………ミライさんは別の地球を守ってたんですよね?」
「ああ。そうだよ」
「俺、地球を守るって言ってもどうしたらいいか、守ればいいか分からないんです…上手く表現できないっすけど……」
「そうだね……僕の考えだけれども、まずは目の前の助けられる命を全力で守ればいい。手が届かない時だってある。それは、僕もあったから」
「ダンさんみたいに強いのにですか?」
その問いにミライは首を横に振る。
「いや、僕の力は最初から備わってた物じゃない。セブン兄さんには足下も及ばないさ。僕もはじめて地球で戦った時は、相手の攻撃を避けることでいっぱいで、ビルを盾にしたんだ。そしたら、リュウさんって人に怒られた。それでもウルトラマンかー!ってね。そこからリュウさんをはじめ、いろんな人たちと出会って、仲間ができて、親友と呼べる人たちもできた。僕がここまでこれたのは地球の人たちの…みんなとの友情のおかげなんだ。」
「友情……」
「そう。友情。…地球の人たちは、僕の正体がM78星雲から来たウルトラマンだって分かった後でも以前と変わらずに接してくれたんだ。僕の強さは、僕一人で手に入れた物じゃない。みんなとの友情があったからこその物だってことを僕は絶対に忘れない。だから、ハジメ君もきっとこれから強くなるよ。大切な人たちを守る力が。最後まで諦めない限り、無限の可能性が転がっている。それを掴むのはキミ次第だ」
「無限の可能性…最後まで諦めない……」
「ただ体を鍛えるだけじゃなくて、強い心も必要になってくるはずだ。……ああ、それとセブン兄さんはね、僕よりもとても強くて、今まで多くの侵略者を倒してきた、光の国でも指折りの武道家なんだ!」
セブンの話をするミライの目は輝いていた。セブンにかなりの尊敬の念を抱いているようで何時間もその内容を話しそうな勢いだ。
「ダンさんってすごい人だったんだ…あれ?兄さんってことはミライさんたちは兄弟か従兄弟なんですか?顔がだいぶ違いますけど…」
「それはね、僕らの故郷がある宇宙の地球を守った歴代のウルトラ戦士はその功績を讃えられてウルトラ兄弟を名乗ることが許されているんだ。僕も光の国に帰還した後に兄弟の仲間入りを果たしたんだよ」
「なるほど…」
「僕はまだまだヒヨッコだけどね。さて、僕はもう行かないといけない。他の星で戦っている隊員たちの応援に行かないと」
そう言ってミライは立ち上がる。ミライはこの地球を狙う存在についてハジメに伝え、激励をする。
「ハジメ君、この次元の地球を狙っている存在、星間同盟と影法師には気をつけるんだ。星間同盟に所属している異星人たちは、強力な個体が殆どだ。情報によれば先発隊はもう地球にいるらしい。そして、様々な並行世界の地球で暗躍している影法師、実際に戦った身としてはアイツらとの戦いは終わりが見えないと思うほどの辛いものになると思う……けれど、諦めない限り勝利の道筋は消えない。ハジメ君の健闘を祈る!地球の人たちと力を合わせて、戦うんだ!キミを含めたこの地球の人たちだって、困難に打ち勝つ力を持っているはずだから。」
「はい!!…あの、ミライさん!」
「ん?なんだい?」
「今度は、熊本に遊びに来てください!俺の知ってるオススメカレーを紹介しますから!カレー、好きだって言ってましたよね?こっちにも、カレーにうるさい人がいるんですよ!」
ハジメの言葉にミライは笑顔で答え、手を振りながらどこからか現れた赤い光の球に入っていく。
「ああ!そうさせてもらうよ!今度は平和な時に絶対に来るからね!また会おう、さようなら!」
ミライが入った光の球は空へと飛んでいき、宇宙へと消えていった。赤い光の尾が消えて見えなくなるまでハジメは手を振り続けていた。そしてハジメの心の中には、ミライの言葉が新たに刻まれていたのだった。
「さて。いいタイミングでイルマと代わってくるか!」
ハジメは知らない。帰ってくるエリカの永い説教が待っていることを。港へ向かっている特自のトラック内で既にイルマがエリカの説教によって満身創痍となっていることを。そして説教のバトンタッチを受けることを。
最後は完璧に終わるものではないのである………
____
西ヨーロッパ ベルギー王国 南部森林地帯
ドイツ、ルクセンブルク両国との国境近くにある森林地帯では、とある大学で天体観測サークルに所属している十数人の学生がテントを張ってキャンプをしていた。
「すごいなぁ…今日は星が綺麗に見えるよ。今までで一番良いかもしれない!」
「夜空を見ていると今世界で起こってることも忘れてしまいそうだ…」
「それは少し不謹慎だぞ?」
学生の一人が天体望遠鏡を使って星空を眺めながら隣にいる友人と話していると、キャンプファイヤーの近くにあるベンチの上に置かれていたラジオがニュースを伝えていた。かなり高い音量設定で流されており、いやでも耳に入ってくる。
『_…一週間前から行われていた中東、イラン及びイラク領内でのアメリカ、イギリスの有志連合によるギャオス殲滅作戦、〈
クロケット大統領は、国内に出現したナメクジ型怪獣に対処しつつ、現在急速にアフリカ、オセアニア地域で勢力を拡大しつつあるギャオスに対してアフリカ、東南アジア諸国と合同の新たな殲滅作戦を計画していることを明らかにしました。また、南米大陸、インド亜大陸で新たにギャオス発見の未確定情報が入っています。…相次ぐ宇宙人や怪獣ギャオスの出現、混迷する世界、これから地球は__』
「おい!ラジオの音量を下げてくれ!俺はあんまりマイナスなニュースは聞かない主義なんだ!!」
「いいじゃないか。話の種があればキャンプも盛り上がるってもんさ」
「へっ!星も見ないで駄弁りやがって……………ん、あれ?見えないぞ…」
望遠鏡で星を見ることに戻った学生は先ほどまで見えていた星が見えず、レンズで見ても真っ暗なことに違和感を覚える。不思議がっている友人が気になり、隣でハンモックを吊るして自分の番が回るまで横になっていたもう一人の学生が声を掛ける。
「なんだ、レンズの調節ミスったのか?」
「いや、そんなことは…あ………」
「………どうし…………あ、なんだ、コイツら…」
いきなり言葉を詰まらせた友人が気になり、ハンモックから起き上がり友人の方を見てみるとそこには、身長3メートルほどで二本の脚で立っている化け物が数匹いたのだ。
「フシューーーッ…フシューーーッ……」
「ボォオ………ボアアッ……」
望遠鏡が見えなくなっていたのは、化け物が望遠鏡の前に立ってその体表を映していたためだった。友人のすぐ前に少なくとも3匹はおり、唸り声や呼吸音が聞こえてくる。月明かりからは体が緑色で無数に目がついており、両腕は鎌のようになっていることが分かった。
「やべっ…ははっ!動けねぇ……」
「おい!逃げろ!コイツら…!!」
ザンッ!! ………ビチャッ!
「え…………」
身動きも取れず立ち尽くしていた友人が、口から上の部分を斬り飛ばされた。脳を失った身体は地面に倒れ、切断面からおびただしい量の血液が流れている。学生は現実離れした光景と存在を目の当たりにして叫ぶ。するとそれを聞いた他の学生が何事かとテント中で寝ていた者、火に当たっていた者たちが学生の叫び声の上がった方に駆けつける。そこには先ほど悲鳴を上げた学生と思われる物体を貪る異形たちがいた。
「おい何かあった……うっ!」
「な、なに、これ……」
「本物のクリーチャーじゃないか!すごいぞ!」パシャッ!パシャッ!
「あれ、死体…だよな……」
「逃げようよぉ…」
「こっち見てるぞ」
「……グウゥ…………ボオオオオオオオオオオ!!!」
それらは、無数に付いている眼球を一斉に駆けつけた学生たちに向け、彼らの存在に気づくと咆哮を上げて襲いかかってきた。月明かりに照らされ、異形の腕の鎌に月光が反射し、そこにはこれから犠牲となる者たちの顔を写し込んでいたのだった。
『フランス首都、パリ市内で確認された怪獣、紫ムカデ…カイロポットは、市の下水道内を巣として相当数まで増殖していることを学者らが示唆しました。市内ではカイロポットによるものと思われる行方不明者が増加しており、フランス政府は警察と軍による下水道内の合同調査並びに駆除を検討しているようです。
数日前からドイツでは、ベルリンで怪事件が多発しており、未確認の新種怪獣が関係している可能性が高いと__』
森の中に悲鳴が響く中、ラジオだけは淡々と、人ではない聴衆に向けて語り続けていた。
翌日、異形の怪物は姿を消し、偶然キャンプに来たとある家族が、荒らされたキャンプ地と多数の血溜まりを見つけ、凶悪事件として警察に通報、世間がこの事件について知ることなった。
___
アフリカ サハラ砂漠
パパパパパパパ!!
ドドドド! ダララララララ!
キュオオオ……グエッ
ズウゥン………!
「………死亡を確認。こいつのサンプル体も採っておけ」
「了解」
「まさかホントにミサイルが完全に無効化されるとは…」
「こっちのギャオスには鱗が付いてるぜ!」
「どうりでソイツだけタフだったわけだ。機関砲をもろに受けても怯まなかった理由が分かった」
アフリカ大陸でも中東と同様にギャオス殲滅作戦が、旧アフリカ連合を母体とした完全な大陸連合組織、アフリカ共同体を中心に遂行されていた。サハラ砂漠のとある区域ではエジプト軍を中核とした部隊が担当しており、丁度いまこの区域内最後の1匹を撃破したところである。
「…HQ、こちらファントムスイープ、チームF。担当区域内で中型相当を7匹片付けた。残敵無し。人員は重軽傷者13、死亡者8、回収を求む」
『HQ了解。迎えのブラックホークを出す。ご苦労だった。』
「防空軍の"
『そうか。ならば車両群はそちらへ向かっている共同体陸軍の第75機械化歩兵大隊に護衛させ、帰還してもらう。』
「了解」
「くそっ!邪魔だ!シッシッ!」
司令部との通信を終えた部隊長はギャオスのサンプルを回収しているであろう隊員たちから怒号に近い声が聞こえてきたため、何があったのか問いただす。
「どうした?現地住民がいたのか?」
「いえ、ギャオスの死体にここらでは見ないはずの大型の白蟻が群がって肉を食べているんです。おかげでサンプルの中に白蟻が…」
「砂漠のど真ん中に白蟻だと?ん?ちらほらとサソリやイナゴも混ざってるな…」
「そんなに美味いんですかね?」
「しかし死骸を嗅ぎつけるのが早すぎやしないか?」
「さあ?そこはなんとも…」
「もしかしたら、肉を食ったコイツらも、デカくなるんですかね?」
____
日本国関東地方 東京都 千代田区
霞ヶ関 中央合同庁舎
「………それは…本当なのですか?」
文部科学省が入居している、霞ヶ関コモンゲート東館内のとある一室にて、黒のスーツに青いネクタイを締め、髪は七三分けで黒いセルフレームメガネを掛けた男が部屋の中を忙しくグルグルと歩きながら電話越しで相手である自身の上司からの用件を伺っていた。
『事実だよ。現在文科省の急進派の連中が無理やり推し進めている。これは何かデカい力が無いと止められそうにない』
「……そうは言いますが…!」
彼の部屋に通じる扉には〈文部科学省学園艦教育局〉と書かれたドアプレートが掛かっている。
『気持ちは分かる……が、だよ。………辻君、キミの役割はなんだい?』
「…学園艦の統括者であります。…ですが学園艦の解体は……我が国の学園艦はまだ建造から90年も経っていません!学園艦は1世紀以上は持つものなんですよ!」
彼の名は辻廉太。日本の全学園艦を管理する部門である学園艦教育局の局長であり、怪獣やウルトラマンの存在しない正史ではかなり重要な立ち位置にいた大人の一人である。
『いいかい辻君。この問題はね、文科省だけのものではなくなってきている。防衛省や財務省、さらには総務省まで絡む事案なんだ。「今後も現れるだろう怪獣も宇宙人もいつ、どこに来るかは分からない…巨大な学園艦は奴らの格好の標的になる、それならば死人が出ないうちに学園艦を解体して被害を減らそう。それならば何も実績の無い学園から試験的にでも早速消していこう」…これが急進派の奴らの主張だ。悔しいが、奴らの主張も一理ある』
「先生もご存知でしょう?確かに人命は何にも代え難い物です。しかし学園艦の廃校による解体、それは艦に住んでいる人間やそこで働いている者の人生を大きく変えるものであると!今の各学園艦には学校にまだ通えない年齢の子たちも含めた"海里生まれ"の子どもたちが1500人以上住んでいます!彼らを路頭に迷わせろと!?なにも援助の計画すら立てていないのにですか!?」
海里生まれ_両親が学園艦に移住した後に出産し、そこで生まれ育った、洋上の学園艦が文字通り故郷にあたる子どもたちのことを指す言葉である。そんな海里世代の子どもたちの学び舎であり家でもある学園艦を解体した場合、親戚などの頼りのない家族と子どもたちは帰る家を失い、路頭に迷うことになると言うことなのだ。今まで前列が無かったことであるため、今現在、学園艦解体後の元住民の扱いに関する法律も無く、元住民らの再就職や移住などに対する援助すら不透明である。
『私もそこまでは言ってはおらん!!……辻君、学園艦とそこに住む人々のことを一番考えているのは間違いなくキミだ。時間があれば自らの足で視察をし、異常があれば迅速に解決する……キミの気持ちはよく分かる…しかし今は耐えてくれ…対象となった学園艦の生徒や住民たちに彼らの一番の理解者であるキミが廃校を伝えるのはかなり堪えるものだと私なりに理解しているつもりだ………申し訳ない…私たちもどうにかして学園艦の廃校解体の阻止、最低でも廃校延期に持ち込めるよう各方面に働きかけてみる。この時期にやるのは何もかも早すぎる』
「……分かりました。私も自分なり動いてみます。私もまだ、諦めたわけではありませんから」
そんな辻の手には〈茨城県立大洗女子学園〉についての書類があった。最後に挨拶を入れて通話を終えると、すぐに辻は自身の机に飛びつき、片っ端から書類を漁り始める。
「絶対に廃校になどさせてたまるか!あれは、人々の想いの結晶なんだ!!……どこだ、何か文科省が一考できる要素になるものは…!」
机上だけでなく、引き出しなどからも書類の束を引っ張り出し、目を通していく。それを続けて数分後、ある書類を遂に見つけた。
「あった………功績が無いならば、掴み取ればいいんだ。あとは、向こうの生徒にやる気があることを祈るしかないか……いや、絶対にいるはずだ!自分の住んでいる家を潰されそうになっていて黙っている人間などいない!!」
辻は廃校が迫っている学園艦を救うべく、様々な場所に奔走することとなる。
___
小笠原諸島沖
海上には一隻の小型漁船が航行していた。
「爺ちゃ〜ん…網が重いよ〜!」
「若いもんがそんなのでへばってどうする!ほれ!こうやって力を入れろ!」
その漁船には、高校生ぐらいの少年と少年の祖父の二人が乗っており、掛けていた漁網を手作業で引き上げていたところである。
「お前は絶対いい漁師になるぞ!だから今がんばれ。たくさん経験を積んで俺を驚かせるほどの奴を釣ってみろ!」
「ははは…いつか絶対見せるよ。…でも、今はちょっとキツイ…」
「はっはっはっ!無理をしすぎると海にやられるからな、今日はここらで帰ろう。帰ってからの飯が楽しみだな!」
「そうだね………ありゃ?爺ちゃん、なんかあそこだけ光ってない?」
「ん?本当だな、光ってるな」
「いやいや!もっと深刻に受け止めようって!絶対やばい奴だよ!!」
船の前方の海面が黄色く発光していることに少年は気づいたが、少年の祖父は妙に落ち着いており、少年は事態の把握を自分の祖父は出来ているのかと疑った。
「爺ちゃんはなんでそんなに落ち着いてるんだよ!!」
「いや、だってお前、ここらの海の底にはだなぁ、昔から守護神"最珠羅"様が眠っておられる場所だからな。お前にも話したはずだが。……最近だと怪獣とかいうバケモンも出てきてるから、もしかしたら戦の備えをしとるのかもなぁ…」
「モスラ様?ああ、あのニュースでやってた…蝶の姿をした怪獣だっけ?」
「最珠羅様は怪獣ではないぞ!守護戦士の一翼を担う存在だ。最近は伝承の語り部をやらなくなってきたからな、そろそろ開くか。お前も聞きに来い」
「いやそれどころじゃないよ爺ちゃん!危ないから早くエンジン回して!!」
しかし、祖父がエンジンを急いで掛けようとする素振りは全く見せず、むしろその光をゆっくり眺めようとしていた。
「だから大丈夫だと言っとるだろう?あの光から温かいものをお前は感じないのか?」
「そんなもの分かんないよ!」
「そうか。…とにかくこちらから何もしなければ最珠羅様ならば襲ってはこないはずだ。海の上で慌てても逃げ場はないぞ、ドンと構えないといけない時もある」
「それが今だってこと?難易度高いぜ……」
少年の祖父が言った通り、結局謎の光を発していた主は姿を見せず、彼らは襲われることもなく無事に母港へと戻ることが出来た。
ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…
小笠原諸島近海の地下には空洞があり、そこには少年の祖父が言っていたように、確かにモスラがいた。今は蛹の状態となっていて、地球を荒らす者たちを倒すその日に向けて力を溜めているようだった。空洞内部には何かが脈打つ音が響いていた。
ドクン…ドクン……ドクン!
空を舞う守護戦士の覚醒は近い。
あと
がき
はい。お久しぶりナス!投稿者には大学受験が迫りつつあるので、短くてこのくらいのペースになりそうです。受験が終わった後は通常の三倍で投下できるよう頑張ります!
投稿者もやっとルビ機能を扱えるようになったので試験的に導入しました。まだまだペーペーですのでこれからもよろしくお願いします。
破壊獣のネーミングはオリジナルです。元ネタのハカイジュウでは特殊生物としか呼ばれてないので。今回登場した破壊獣はゴーヤ君ですね。確か4巻の表紙を飾っていたはず……
前回から姿を見せていた助っ人はメビウスでした。…ウルトラマンゼットを観て、メビウスも「兄さん」と呼ばれるようになっていたのが一番感動してます。
※今回の単語用語設定ちょい解説コーナー
・本史世界の
エリカとみほが幼少から交流のある幼馴染であったことから、中等部入学直後より二人とは良好な関係を築けていたので、
上記のような世界線の変化や影響もあって、みほの優しさとエリカの実直さに強く触れているため、その影響を濃く受けており、メンタルつよつよのほえほえ族(黒森峰原生種)と化している。
本史世界の第62回決勝では、河川へ滑落したⅢ号の装填手と通信手を兼任しての参加だった。同試合の敗戦とその後の西住みほの
タクミとは幼馴染かつ恋人一歩手前の関係。タクミの破廉恥行動に関しては、なんやかんやで許してしまうぐらいにはかなり甘い。
どーでもいいが…身体はエリカやまほよりも、引き締まった「
・特生自衛隊普通科隊員の個人装備(抜粋)
○
○防弾チョッキ4型
○20式小銃(
○9mm拳銃
○
○各種手榴弾
ナハトスペース地球は軍事分野の発展が目覚ましいので、クモンガ出現前から兵士の装備品も新規開発・改良は頻繁に行われており更新スピードはそれはもうはやいはやい。尚、自衛隊は既存装備の延長線的なモノが多い模様。…特自は基本的に黒塗りの“対亜人特戦群”と“
以前本編で少し触れたが、特殊部隊たる強襲制圧隊は防弾チョッキ枠が
次回も、よろしくお願いします。
____
次回
予告
異星人に襲撃されたものの、エリカたちはいつも通りの生活に戻り、マジノ女学院との試合に意識を向けていた。そして試合相手であるマジノ女学院戦車道チームの隊長、エクレールは最近目玉の化け物が出てくる悪夢にうなされていた。試合当日、順調に試合は進んでいくが……?
次回!ウルトラマンナハト、
【嗤う瞳】!
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
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紗希のトモダチ
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ミチビキさん サンダース編
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ミライVSマホ カレー対決
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ハジメ、迷い家にて