逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 4式

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奇怪星獣 ブロブガンQ [ブレイク]、登場。


第16夜 【狂いだした歯車】

演習場の一角ではウルトラマンカラレスとネオレギュラン星人が対峙していた。

 

『ウルトラマンカラレス……炎の戦士か。だが、ネオとなった我々は既に貴様らを超えているのだ!! 死ねええ!!』

 

《お前のその腐った心を私が燃やし尽くす!! サイクルバリア!!》

 

レギュラン星人は強力な電撃を放ってカラレスを襲うが、それに対してカラレスはバリアを一切無駄のない最小限の動きで展開し、電撃がレギュラン星人の元へと跳ね返るようにバリアを湾曲させる。電撃は全てバリアに跳ね返されレギュラン星人に直撃する。

 

『ぐううう……!! 許さんぞ!貴様だけは、許さんぞおお!!』

 

《攻撃が単調すぎる。感情にすべてを任せるのはあまりにも幼稚だ。今楽にしてやる、ハッ!!》

 

スパッ!

 

『う、ぎゃあああああ!?!? 俺の腕がああああ!!!』

 

カラレスは手先から光の鞭を放ち、それをレギュラン星人の右腕に巻きつけると縛り上げてそのまま切断した。彼の得意技である"スラッシュバインド"だ。もしこれが首などの急所に巻きつけられた場合、相手は即死となることが確定する恐ろしい技でもある。

カラレスはさらに接近戦を仕掛ける。隙を見つけたら再度スラッシュバインドを使う腹づもりだ。しかしレギュラン星人も必死に抗う。死にたくない、その一心で動いているのだ。結局は志などは重要ではなく、自身の命が惜しいと言うことである。

 

『なぜ、なぜ貴様らがこのタイミングで地球に来るのだ!! 貴様らさえいなければ、我々だけでナハト討伐を成し、恒久的幹部となれたものをおお!!』

 

《そのようなことをさせない為に私たちは来た!敵とはいえ、規律を守らず権力に眩む者は、弱い!!お前たちは功を焦り、上の命令を待たずに独断で来たのだろう?しかしそのおかげで同盟の戦力を減らせる!》

 

『黙れ黙れ黙れえ!!絶対に貴様も殺してやる!!』

 

 

 

 

 

 

ガキィン! ドカアッ! ガガガガアァ!!

 

 

そしてウルトラマンドリューもネオサーペント星人と激しい格闘戦を繰り広げていた。先ほどから聞こえる金属を思い切り叩いているような音は、ドリューがサーペント星人の鎧甲冑型の強固な外殻に何度も強烈な一撃を与えていることによるものだ。

しかし、そんな攻撃を受けてもサーペント星人は弱る様子を見せない。それは彼らが軟体動物のそれと酷似した生命体であり、甲冑のような強靭な外殻の中身が水分を含んでいるスライムのようなものだからである。そのため、いくら外部にダメージを与えても致命傷となる衝撃を吸収して無効化してしまっているのだ。

 

『かなり内側まで響いているぞ、貴様の拳は。流石武勇の戦士といったところか。だが、足りないな…』

 

《その装甲、やはり厄介だな。だが相手にとって不足なし! ハアッ!》

 

ガキイイイイン………!!

 

『フンッ!……むっ!?』バッ!

 

サーペント星人はドリューの蹴りに蹴りで返すと、自身の足に異変を感じてすぐさまドリューから距離を取る。よく足を観察すると、大気中の水素を取り込んで硬度を保つはずの外殻装甲にヒビが入っていたのだ。そして破損した箇所から本体である中身の青い粘体の一部が流れ出る。

 

『修復が出来ていない…?馬鹿な……先ほどより僅かに威力のある蹴りであっただけのはず…』

 

《私の拳と蹴りは大気をも焼き焦がす!それが当たったお前の生体装甲に、もう修復能力はない!! このまま、お前を外殻ごと塵も残さず蒸発させる!》

 

 

 

 

 

 

二人の戦士が戦う中、ナハトもパワーアップしたガンQ___ブロブガンQからエリカとエクレールたちを守るために戦っていた。そのガンQは先ほどの攻勢はどこへやら、動きも鈍っており、弱っているようだった。それを好機と捉えナハトは格闘戦を挑み、攻勢に入ったことで押していた。ナハトはライフゲージが点滅してはいるが、気力を振り絞って耐えている。

 

「ナハトが押してる!」

 

「……………だめ、ウルトラマン!早くアレを光線で倒してください!!」

 

「はあっ!?アンタ何言ってるの!さっき光線が吸われてたのをアンタも見てたでしょ!?」

 

「ですが、今は大丈夫なんです!本当です、信じてください!」

 

 

それを聞いていたナハトは悩んだ。

 

《確かにスペシウムは強力だ…。だけど、エリさんの言う通り光線は取り込まれたし、また同じことをされたらエネルギーが保たない……。早く倒してってことは、何かあるはず…それなら!!》

 

ナハトは左腕のナハトアームズから光の弓、"ナハトボウガン"を創造する。そして弓を引く動作をすると、光の矢が現れた。

 

《疾風の如き光の矢なら!》

 

ナハトは狙いを頭部の巨大な眼球に定めてさらに弓を引き絞る。あとは離すのみとなった瞬間にガンQから巨大な数本の触手が飛び出した。ナハトは弓から手を離す前に迫ってきた触手に突き飛ばされる。

 

《ううっ……なんだ!?》

 

《ガンQが…!》

 

《むっ!?》

 

それらはナハトやエリカでも、エクレールでもなく、二人のウルトラ戦士と戦っていた異星人たちへと伸びていきがんじがらめに拘束すると、ガンQ本体へと引き寄せていく。

 

『なぜ私が!?くそ、離せ!離さんか!!』

 

『下等生命体がっ…こんなことをしてタダで済むとでも………やめろ、何をするつもりだ?やめてくれ!がああああああ!!!!』

 

『取り込まれるっ…!? くそ!なぜ切れんのだ!!うわああああああ!!!』

 

ガンQは触手で引き寄せた2体の異星人を体全体を使って飲み込み始めた。取り込まれている時も意識はしっかりあるようで、悲鳴を上げながらみるみるうちに彼らはガンQの中へと消えてしまった。

そしてガンQの体に変化が生じ始める。それは徐々に肥大化していき……

 

 

「70メートル以上だと…………」

 

「おいおい、特大型特殊生物なんて生総研の奴らが言ってただけだろ!? なんで実物が出てきちまうんだ!!予測の世界から出てくんなよ!!」

 

『お、オッドアイ、巨大な触手を展開! 数は…計測不能!なおも増大中です!!』

 

『こちらメーサー8号車、攻撃を続けますか!?』

 

『レールガン、いつでも撃てます!』

 

「これは、大隊規模でどうにもならないぞ……各車後退開始!下がりながら撃ち続けろ!」

 

「おい枢木!あそこにいるガキ共は助けねぇのかよ!!」

 

「悔しいですが、救助は中止です……!! 自分だって助けたいんです!しかし、今接近して攻撃を受ければ救助どころの話じゃなくなりますよ!」

 

エクレールが言いたかったのはこの事である。新たに別の存在をガンQが取り込む前に片付けてほしかったのだ。スペース・ビーストの次に今度は異星人を取り込んだガンQはさらに巨大化、肉体は度重なる融合に追いつけなくなってきたのか腐食し至る所から黒色の液体を垂れ流しており、元の姿とは程遠い、ガンQの原型を残さない異形の存在へと変わった。

 

 

ボォオオオオオオォォオォオオオオン……!!

 

 

《こ、これは……デカすぎる!》

 

《だがコイツは自重や過度な成長によって負荷がかかっているはず!倒す手立ては必ずある!!》

 

《さらなる進化をする前に…ぐあっ!!》ドカッ!

 

《ドリュー!! ガアッ!?》バキッ!

 

《ううっ!!》ドゴォン!

 

三人のウルトラマンは視覚外からの触手による打攻撃によって飛ばされてしまう。

 

『メーサー3号車、通信途絶!! こっちにも来てるぞ!機関砲を浴びせろ!! ぐっ、うわあああ!!!______」ブツッ!

 

『4号車、圧壊!! 我々も回避行動を取りつつ後退します!』

 

『こちらヒトマル1、後退支援を行う!!』

 

「くっ!足の遅い20式がここでもやられるか……!」

 

「あの目玉野郎め!俺のレイザー隊にもちょっかいかけやがって!! あっ!6番が………くそっ、だからもっとロールの練習をしろって言ったんだ俺は!死んだら意味ねえじゃねえか斉木!!くそっ!くそっ!」

 

 

ガンQは陸空自衛隊にも攻撃しているようで、空や陸の所々で爆発が連続で起こっていた。被害の拡大により自衛隊は生存者救出とガンQ攻撃を中止、部隊再編のため一時的撤退を余儀なくされる。しかし、後続の第1師団と百里の航空隊が到着したとしても戦況は変わらないだろう。

 

ウルトラマンたちが弾き飛ばされた衝撃で身動きが取れない間に、ガンQはエリカとエクレールの前まで来ると膝を曲げて屈み、触手を伸ばし始める。それを身動きが取れず傍観しか出来ないハジメが叫ぶ。

 

《え、エリさん!!みんな…!!》

 

 

 

 

____________

 

 

私の前には、生物と言っていいのか分からないおぞましい存在が立っている。そしてソレは今まさに私一人に向けてグロテスクな触手を差し出してきました。

 

ナハ……ト…マッサツ………融合…タリナ…ィ……ユウゴウ………セヨ……ユウゴウ……ナ……ト………

 

途切れ途切れに小さく囁くようら声が私の頭に響いてくる。それは夢の中で聞いた声と比べると可哀想に思えるほど弱々しい声でした。触手は私に近づくほど震え、動きも鈍くなっていく。私にすがりつこうと必死に。それに私はアレからの呼びかけに無言を貫く。

 

ユ……ゴ……ヨ………セヨ……ナハト……マッ…サツゥ………

 

今までの私なら、その手を取ってしまったかもしれない。

 

でも、

 

もう私は、一人じゃ……ないっ!!

 

「………!!」

 

パシンッ!!

 

 

 

【♪BGM】『Radiance』

 

 

 

《あっ!》

 

「えっ!?」

 

《……あの子は、強い心を持っているな》

 

《強大な力を前に屈しないとは…》

 

エクレールは自身の目の前に来た触手を平手打ちして拒んだのだ。自身がエリカからされたような目の覚める一撃を、ガンQに加えたのだ。当のガンQは大変困惑し焦っていた。吸収速度を大幅に超過した融合を続けたことにより肉体の急速な崩壊というタイムリミットが迫っているなか、自身との融合を望んでいたはずのエクレールに拒否されたからだ。ガンQは崩壊を融合により上書きしなければならない。なんとしてもエクレールを取り込みたかった。しかし、何故か強引に行うことはなく、同意を求める融合するべく拒否の理由をすぐに尋ねる。

 

!……ナゼ…拒………ム……?

 

「私は、確かに人の目は怖い…憎しみを向けられるのは、耐えることは辛いと感じている心の弱い女ですわ………でもっ!そんな私にも楽しめることがあるから!そんなもの忘れられて夢中になれるものがあるから!!毎日辛いこと嫌なこと怖いことが沢山あったとしても、楽しいこと嬉しいことが一欠片でもあれば、それでいい!!

私は信じることにしました!私のことを信じてくれてる仲間を、信じること、私自身を信じることを!! だから、私は融合なんてしませんわ!この先にもっと楽しいことが待っているはずですもの!!」

 

「アンタ…身体から、光が……」

 

「エクレール様……」

 

「エクレール隊長………!」

 

「貴女たち、起きていたの!?」

 

いつの間にかマジノの生徒たちが目覚めており、どうやらエクレールの言葉も聞いていたようだ。彼女たちの目には恐怖の色は無く、むしろ感動による涙を流しながらまるで光り輝いているよう見える隊長のエクレールを写していた。だが、それは幻ではなく、本物だった。実際にエクレールは光を纏っていた。何かの決意に満ち溢れた、あたたかく眩しい光が。

 

《あの光は、まさか"心の太陽"…か…》

 

《すごい……あれの輝きは……》

 

《心の、太陽……?マジノの隊長にいったい何が…?》

 

エクレールから発されている光を受けてガンQはもがき苦しみだし、さらに肉体の崩壊が早まりボトボトと肉片や身体を構成するために用いていた人工物などが落ち出していた。それにガンQは怒り狂い、触手をハエ叩きのように平たくするとエクレールたちに叩きつけようとする。

 

ボォオオオオオオォォオォオオオオ!!!

 

ハアアアッ!!

 

 

ドパアアンッ!!

 

迫る触手はエクレールたちを潰す前に消滅した。触手が存在していた空中にはドリューが飛んでいた。彼の脚から放たれた燃える竜巻"ストームファイヤー"によって燃やし尽くされたのだ。

ドリューは続けて巨大なガンQの膨張した頭部に、ひと蹴り浴びせ大きく退け反らせる。ドリューの大気を摩擦で焼き焦がすほどの蹴りによってガンQの蹴られた部位の細胞が焼き払われ固まってしまい、サーペント星人と同様に自己再生が不可能となっていく。

 

《あの少女が勇気を出した。ならば今度は私たちが、ヤツと戦う番だ!!ガンQは度重なる無茶な融合と彼女の光の影響で、現在これ以上取り込むことも、吐き出すことも出来ない飽和崩壊状態に陥っている!やるなら今だ!!》

 

《ああ!こいつを生かしておけば、これを乗り越えてさらにとんでもない化け物になる!! いくぞ、ウルトラマンナハト!!なんとしても止めよう!!》

 

《はいっ!!》

 

 

エクレールは目を瞑り手を合わせて祈る。

 

「不思議ですわ…私、今は全然お腹が痛くないんです。……私は、みんなともっと楽しい戦車道がしたいです!だから、あの心に巣食う悪夢を、倒してください!!ウルトラマンナハト!!」

 

すると、エクレールが纏っていた光が空に打ち上がり、ナハトへと降り注いだ。その光を受けたナハトは力がみなぎり、ライフゲージが赤から青へと戻っていき全快状態となった。

 

カァァアアーーーーーッ!!

 

《すごい、これが、心の太陽の光…!》

 

回復したナハトの左右にカラレスとドリューが並び立つ。

 

《いいか、ヤツの欠片を一つも残さず消すんだ!三人の攻撃を合わせる!》

 

《一気に片付けなければ、残って欠片でガンQは再び復活する!息を合わせろ!!》

 

《はい!……このイメージは………この技なら…!》

 

突然ハジメの脳裏に電撃のような高速のビジョンが走ってきた。これならばガンQを完全に撃破できると確信したらしい。すぐにナハトは両腕を広げる。すると周囲の生物、植物、空や大地といったあらゆるものから光が飛び出し、それらが束となってナハトの腕に殺到して集まる。それは鮮やかな虹色の光のオーラを纏っているようにも見えた。力を溜め終えたナハトは腕を十字に組む。ドリューとカラレスも合わせて必殺技をガンQへと叩き込む。

 

《はああああああっっ!!  スペシウム・オーバー・レイッ!!!》

 

シュワァアッ!!

 

 

ナハトはすべてを消し去る究極の七色破壊光線、"スペシウム・オーバー・レイ"を放つ。 

ドリューは飛び上がると腕を大きく振りかぶり、相手へ渾身の力を何十倍もの大きさの光熱エネルギーへと変化させ螺旋状に回転させて拳から撃ち出す、強力な貫通力を誇る大技の一つ、"ヴォルテックトルネード"を繰り出す。

そしてカラレスは拳を握って腕をX型に組むと、太陽にも負けず劣らずの輝きを放つ明色の熱線、"ストリウムブレイズ"を発射した。

 

三人の放った光線は合体しドリューのヴォルテックトルネードを中心にして巨大な虹色の螺旋を形成。それはガンQを覆い隠すほどの大きさであった。光の中にガンQは消え、断末魔も上げることなく静かに霧散していく。その光景は浄化されていると言う方が正しいかもしれない。

 

ア……ァ…………マッ………サ……ッ………

 

 

《あれほどの光線を受けてまだ生きているのか!?》

 

《いや、あれは虫の息だ。何かを吸収して元に戻れる欠片になったわけではない。自壊に入った証拠だ》

 

《だが彼女たちを襲おうとするのならば、燃やし尽くすまで》

 

しかし光に包まれ消えていく中でも、僅かにエクレールの方へとまた触手を伸ばして縋り付こうとする。それを見たエリカや目覚めたマジノの生徒たちが前に立ち塞がるが、エクレールは彼女たちを止めて前に出る。

 

「もう、いいのですよ。あなたはもう独りじゃないですわ。私には、あなたが私に語りかけてきた時、黒い感情の中にほんとうに小さい光が、願いが確かに見えました。あなたはもう休んでいいの」

 

『ァ………ァ……ぅ……………ウ……』

 

「あなたは私に手を差し伸べようとしてくれたのですよね?塞ぎ込みかけていた私の心を…」

 

『……………』

 

「だから、これだけ言わせてください。………ありがとう。おやすみなさい」

 

エクレールの感謝の言葉を聞いたガンQは完全に消滅した。その場にいる全員が光の中に無垢な瞳が笑っているのが見えたのだった。

 

 

 

 

「アンタ、すごいじゃない……」

 

「いえこれは……私だけのものではありませんでした。まだ現実だと思えないほどですわ…。貴女のおかげです」

 

「私はただアンタのこと引っ叩いちゃっただけよ?」

 

「それが助けになったのですわ。ありがとうございますわ………んっ!」

 

「えっ、ちょっ!なにすんのよ!?」

 

「これはほんのお礼です」

 

エクレールはエリカの頬にキスをかましたのだった。………試合後盛大に嘔吐した後の唇で。それよりもガンQが出現したことの方がインパクトがあった、と言うよりはエリカが嘔吐現場を見ていなかったからこれほどで済んでいるのだろうか。

 

「ううっ…?ここは…演習場か……?あの目は……いなくなっている…それに… ナハトの横に知らないウルトラマンが二人もいるな…もしかしてあれを倒してくれたのか?」

 

「西住隊長!怪我はありませんか!?」

 

「エリカ……。ああ、私は大丈夫だ。そうだ……気を失っている間、何かすごく温かい太陽のような光を浴びていた気がするんだ。とても心地良かった…いったいなんだったんだろう」

 

「本当にそれは、太陽だったのかも知れないですね」

 

「なに?どういうことだエリカ?」

 

「いえ、気にしないでください」

 

「?」

 

 

一方ナハトもエリカたちのいる場所から距離を取った所でドリュー、カラレスと話していた。側から見ればとてつもなくシュールではあるが、彼らの話の内容は以下の通りである。

 

《ガンQの中の数ある意識の中に新たに善の心が生まれていた……か、結果として倒さねばならなかったが………。しかし間に合って良かった。ガンQを討伐…いや浄化し、同盟の戦力も減らすことが出来た。ウルトラマンナハト、ありがとう》

 

《いや、俺はドリューさんとカラレスさんが来てくれたから…もしもあの時…》

 

《そう言うな、キミにも力はある。自分を卑下しすぎてもダメだぞ。あの時の気合はどうした?………言うのが遅れたが私たちが、セブンの言っていた派遣隊員だ。だが新たに本部から私たちはこの宇宙の異常調査を早急に行うよう通達されたため、この地球から離れる。もしかしたらこの地球の異常な出来事の一部原因も分かるかもしれない。すまないな、一回の戦闘で抜けてしまうのは。》

 

《いえ!そんなことはないです! さっきはあんなこと言ってしまったけれど、俺たちの住む地球は、俺が守るって…あの人と、星の声と約束しましたから》

 

《ほう…星の声に選ばれた少年だったか……》

 

《セブンやゾフィーの言っていた仮説は正しいかったな。それならば…そうか。ナハト、キミにこの地球を任せる》

 

《きっとキミが星の声に選ばれたのは偶然ではない。光と共に、あの少女のように、仲間を信じて大切なものを守っていけ。そうすれば、キミの中の心の太陽も輝き、新たな力を与えてくれる。心の太陽は誰もが持っている、だがそれを輝かすことが出来るのは、強い心を、想いを持っている者だけだ。頑張れよ…!》

 

《今回現れた星間同盟の連中は、自分たちのことをネオスペーシーズと名乗っていた。私たちもはじめて戦って分かったが、どうやら彼らは自身の能力…身体面、精神面のなんらかが強化された者たちで構成されているエリート集団であるようだ。彼らの仲間は恐らく近いうちにまたやってくるはずだ。

ナハト、キミが大切なものを守ろうとする限り、厳しい戦いが続くだろう。辛い時や、苦しい時、諦めたい時がこれからはもっと訪れるかもしれない。だが、これだけは忘れないでいてほしい。キミも苦悩する者たちの明日を照らす、光の超人、ウルトラマンだということを》

 

《はい!!》

 

 

……シュワッチ!!

 

ナハトへの激励を終えると光の国の戦士二人はとびさる。それを見送ったナハトは光の粒子となって消え、ハジメは元に戻るとエリカたちの所へと一目散に走っていく。エリカを見つけると肩を掴んでまっすぐエリカを見て訊ねる。これにはエリカもビックリしたらしい。顔が紅くなってるのは…まあ、そう言うことだろう。

 

「エリさん!!」

 

「ハジメっ!?」

 

「大丈夫!?怪我はしてない!?」

 

「ちょっ/// 近い!近いから///!! てかなんでアンタがここにいるのよ!!」

 

「……コホン!二人とも、熱いのは大変結構だが公衆の面前でやるとは感心しないぞ?マジノの生徒もいるんだ。今は抑えてくれ、ハジメ君がエリカのことを心配しているのは分かるが…」

 

「た、隊長!私はコイツとはまだ付き合ってませんから!!」

 

「そうですよ!まだ付き合ってないですよ西住先輩!」

 

「ほお…"まだ"か、フフッ。まだ、かぁ〜♪」

 

「あの…黒森峰のみなさん、自衛隊が駆けつけてくれたので、こちらに…」

 

「了解した。エリカ、ハジメ君、くっついたままでもいいからついて来い」キリッ!

 

「………アンタ、艦に戻ったらハンバーグにしてやるから」

 

「え……」

 

ハジメはこの後はお咎め無しで済んだ。だがしかし、心配のボルテージが最高潮まで高まっていた整備科メンバー、特に二年生からタコ殴りにされたらしい。

 

……これにより黒森峰学園とマジノ女学院の練習試合後に起きた怪獣・異星人事変は幕を閉じたのだった。

結果としては正史よりもマジノ女学院がかなり早期にチームが団結し、さらには自身にコンプレックスを抱いていたエクレールの人間的成長を大きく助けたのである。これからも彼女たちは全員で真っ直ぐ前へと進んでいくだろう。

 

 

 

 

 

 

「またもやこちらの敗北……か。まあいい、次の糧にすればいいのだから」

 

誰もいない演習場を見渡せる丘の上に、"それ"はいた。それは手に持っている、SF小説に登場するような近未来的外見のタブレットを操作し終わり収納すると、溜息を一つ吐く。

 

「……今回は第二次ネオ進化施術にも、欠点があることが分かったのがせめてもの収穫か…。感情が先鋭化することには注意しなければ。しかしサーペントのような更なる身体強化が可能であることは期待できる。施術自体はかなり使える、さらなる改良を加えるとしよう。

まったく……命令を聞かない駒は駒ではないと言うのに…テンペラーは数さえ揃えればいいと思ってはいないだろうな。使う前に潰れられたらこちらも困るのだよ」

 

我々の邪魔を…するな……

 

「ん? ああ、地球の悪意か。安心しろ、貴様らなど眼中にはない」

 

ウルトラマンは我々が倒し、全ての並行世界の地球を絶望で覆い尽くす…それが我らの使命…

 

「そうかそうか。だが、最後に笑うのは、私だけだよ。器を手に入れ、地球の神にさえなれば貴様らを消すことなど造作もないのだからな」

 

覚えていろ……

 

そう言って影法師は、低く恨めしい声を出しながら霧散するように溶け消えていった。一時撤退をしたようである。

影法師が去ったことを確認した存在は独り言を呟く。

 

「フフフッ。地球は、私の物だ。精神集合体風情が調子に乗るなよ。

……あの石碑によれば、器の血統を持つ、現在その子孫にあたる地球人は…………フッ、楽しい仕事が増えそうだ」

 

 

_________

 

西ヨーロッパ ドイツ連邦共和国 ベルリン

 

 

 

 

『お、大型カイロポットに"ブラッカー"のレールガンが効いていないぞ!!』

 

『おいバカ!デカイのばっかに目を向けるな!!取り巻きを前に進めさせるなよ!!』

 

『だめだ、近接航空支援を要請する!!』

 

『ベルギー新型種の分隊規模群と第2対戦車小隊が戦闘に突入!ベルリン前での遅滞作戦は不可能です!!市街地内の三次警戒線まで後退しましょう!!』

 

『……っ、沿岸警備隊より緊急通達!!ゴジラ上陸!!』

 

日本でガンQと星間同盟の刺客が出現し、撃破される前後で、戦禍に包まれつつあるヨーロッパでも大きな動きがあった。ヨーロッパ連合海軍の対潜網を潜り抜けてドイツ沿岸にゴジラが上陸したのだ。

 

ゴジラはベルリンへと真っ直ぐに向かうと、道中の市民や建造物、攻撃してくるドイツ連邦陸海空軍を無視してディーンツの暴れる市街地に辿り着いた。また、ベルギーから侵入した新種の特殊生物、ファルクスベールも進路上に存在するすべてを破壊してベルリンに到達。そしてベルギー王立陸軍の防衛戦を突破したフランスのカイロポットの一団も地中に潜ることによりヨーロッパ連合陸軍の機甲師団の攻撃を回避してドイツ首都、ベルリンまで進撃し、マザーディーンツとゴジラの戦いに割り込んだ。

 

さらには、これ以上欧州をやらせるものかと言うように、小笠原諸島沖から飛翔し大気圏外を航行していた発光体もベルリン上空に飛来していた。それは蝶もしくは蛾の姿をした美しくも巨大で威厳ある存在、怪獣へと姿を変えていた。日本の天の護国聖獣である、モスラもやってきたのだ。だがどの怪獣が味方で敵であるか、そもそも味方かすら分からないヨーロッパ連合軍とドイツ連邦軍の指揮系統は混乱しバラバラにすべての怪獣を攻撃することしか出来なかった。

 

 

『くそっ!これじゃあ首都じゃなくて魔都だ!!』

 

『ナチスの忘れ形見とかだったら冗談じゃないぞ!!』

 

『司令部との通信が取れない!情報が錯綜している!!』

 

『気にするな!今はモスクワの連中が手こずっているあの緑頭を叩くぞ!いいか、市民を巻き込むなよ。航空隊、かかれぇーーっ!!』

 

 

 

ボォオオオオオ!!!

 

『こちら第16"バゼラート(AH-24)"対戦車ヘリ中隊!格納直前のシェルター前に新型種を確認、これより掃討する!!』

 

『ん?あの個体、ビルをよじ登ってるぞ…何を……』

 

 

ボァアアアッ!!!

 

スパッ!!

 

ドドオオオオオーーーン…………!!

 

 

『……っ、うわあっ!なんて跳躍だ!ベルギーの新型種が近接支援の"エウロス(EF-2017)"を叩き切ったぞ!!』

 

『全機、地上の新型種から距離を取れ!!』

 

『音速で飛ぶ戦闘機がやられたんだぞ!足の遅いヘリじゃ…!! もう真下にいるぞ、ブレイク!ブレイク!!』

 

『機関砲で弾幕形成!!ここら一帯は避難が完了している!ありったけやれ!』

 

ベルリン上空には各国の戦闘機や攻撃機、ヘリコプターがひっきりなしに飛んでおり、市街地内は装甲車や戦車が歩兵を随伴させ、誤射に注意しつつ怪獣の足止めに徹していた。ファルクスベールの小型種やカイロポットの中型種を地上部隊、航空隊は少なくない被害を出しながらも、なんとか撃破し続けているが、依然として大型種が残っており、それらがゴジラとモスラだけでなく人間も標的として捉え襲いかかってきている状態なため、戦況は依然として余談を許さない状況である。

 

ベルリンに総勢5体もの大型特殊生物と無数の特殊生物群が集結したことにより、連邦陸軍や警察は怪獣との戦闘に対処しながら、混乱により暴徒と化すであろう市民とも衝突することを覚悟していた。 しかし、予想していた事態は起こらなかった。ほとんどの市民が軍や警察の誘導に素直に従ってシェルターへと避難を開始しているのだ。避難誘導を担当していた地元の警察官二人も不思議に思いながらその光景を見ていた。

 

「おい、見ろよ。いっつも昼から呑んだくれているあの爺さんまで列に並んでるぞ……」

 

「すごいな…あの"バタフライ"が現れてから急にみんなが落ち着きを取り戻した。この降ってくる金の粉が原因なのか?」

 

「ガキのころにファーブルを読んだが、そりゃ鱗粉って言うヤツだぜ? たしかに、あの蛾…いや蝶のおかげかもしれねぇな。あれを見てるとよ、落ち着くんだ。まるで婆ちゃんと会う時のような、そんな気分になる」

 

「そうだな。……あの怪獣は味方なのかもしれない」

 

空を舞ってファルクスベール大型変異種を相手しているモスラを見て、どこか勇気づけられた彼らは持ち場に怪獣が現れるかもしれない恐怖に怖気付くことなく避難誘導を続ける。

 

「キャアアアァアア!!!」

 

「「!!」」

 

『こちらP-5!周辺のパトロール隊へ!避難誘導中に中型種のカイロポット3体と遭遇!現在機動隊が食い止めてくれているが___ババババババッ!!___やられるのも時間の問題だ!避難に手間取っている市民の手助けを頼む!! 人手が足りない!!___バババババッ!!___ くそっ!装甲車を持ち上げたぞ!退避だ!退避しろっ!!』

 

「……どうするよ」

 

「行こう、一人でも多くの人を助けるために!」

 

「へっ!分かった。どこまでもついてくぜ、相棒」

 

 

ヨーロッパ連合軍並びにドイツ連邦軍によるカイロポット、ファルクスベールに対しての攻撃は決して十分とは言えず、一部地域では避難中の市民と鉢合わせる事態も少なからず起こり、市街地での戦闘は過酷なものとなっていった。

 

 

____

________

___________

 

 

 

「うっ……あれ?死んでないぞ」

 

「なんだこれ…?黒い尻尾?」

 

「……こ、コイツが日本の潜水艦を助けたっていう…ゴジラ……」

 

「でけえ…こりゃ砲弾も効かないわけだ……」

 

ベルリン内での戦闘が開始してから2時間、各国軍並びに欧州連合軍は戦力を大幅に減らされ疲弊しており瓦解寸前だった。怪獣たちは互角の戦いを繰り広げており、それに割って入れる余力はもはや無いように見える。

展開中のヨーロッパ連合軍が撤退を考えていた頃、このとあるドイツ陸軍歩兵部隊のとる行動が奇跡を起こす。

 

「俺たちを、守ってくれたのか?」

 

「きっとそうだ。コイツもきっとヤツらを許せないのさ」

 

「いや、歩兵の俺たちなんて眼中にないだろ」

 

「じゃあなにかい?偶然俺たちの前に置いた尻尾が破壊光線を防いだってか? カイロポットの狙いは俺たちだったんだ。そんなことしなくてもゴジラにはダメージはいかなかった筈なのに、なぜ尻尾を俺たちの前に出す必要があった? 答えは簡単だ!ゴジラは俺たちと争う気はない、一緒にベルリンを守ろうとしてるんだ!!」

 

「そ、それはあまりにも常識から剥離してないか…?」

 

「怪獣が出たいまさらになって常識とか抜かすなよ!しかもバタフライだって市民や俺たち軍のことを守りながら励ますように飛び回って緑の悪魔と戦ってる!いるんだよ、敵じゃない怪獣が本当に!」

 

「「「………」」」

 

「賭けてみようぜ。このデッカい仲間によ!!」

 

 

グルルルルルル……!

 

ゴジラは足元のドイツ軍を守りながらマザーディーンツとカイロポットの2体を相手していた。しかし、対面の2体には互いに仲間という意識はなく、既にカイロポットはディーンツへと襲いかかり、ディーンツを絶命させるとその肉塊を貪りながら、次の獲物を人間とゴジラに定めていた。そしてカイロポットが動き出した瞬間、一人の隊員により奮起した足元のドイツ軍歩兵部隊が一斉に武器の射程範囲内にカイロポットが収まる場所へと駆け出し、発砲。戦車や装甲車もない中で自動小銃、機関銃、携行誘導弾とさまざま武器を担いで全力で背丈の何倍もあるカイロポットへと果敢に向かっていく。ゴジラは彼らの意思を汲み取って彼らを踏み潰さないように自身も前進する。

 

「ほら見ろ!ゴジラは俺たちのやろうとしてることが分かってるぞ!!」

 

「まさか怪獣と一緒に戦うなんて!」

 

「これに賭けてみるか…乗ったぜ!死んじまったらしょうがねえ!!」

 

「俺たちのベルリンを取り戻せ!!」

 

「「「うおおおおおお!!!!」」」

 

 

そして、ゴジラと共に動き出した歩兵隊の通信を聞いていた各地の部隊もこれに呼応した。ドイツ、ロシア、フランスなどといったベルリン内に展開している全ての正規軍が自然にゴジラ、モスラを中心として共に破壊獣群に対して反撃に移ったのだ。この時兵士たちは気づいていなかったが、ベルリン中から金色の光が溢れていた。その光の正体はエクレールが発したものと同じであった。それはゴジラとモスラを信じた人々の想いの結晶であり輝きであったことは間違いない。

 

『ゴジラとあのバタフライが俺たちの仲間ってのは本当か!?』

 

『あの怪獣たちが仲間なら勝てるぞ!!』

 

『ロシアのT-90だ!Mk-2もいる!!すごい、すごいぞ、みんなどんどん集まってきてる!!』

 

『へへっ!不思議だな、なんか体の奥底から力がどんどん湧いてきてるぜ!!』

 

『あの気色悪いモンスターどもをヨーロッパから叩き出せ!!』

 

『バタフライの羽が切られたぞ!』

 

『やりやがったな!やられた分は鉛玉で倍にして返してやれ!!』

 

『彼らを援護しろっ!!』

 

態勢を立て直した現地のヨーロッパ連合軍は独断でゴジラ、モスラを援護し、カイロポットとファルクスベール、マザーディーンツの欧州大侵攻という未曾有の災害を日本のガンQ討伐からおよそ1時間弱で達成するという奇跡を起こすことに成功した。戦いが終わると、大型ファルクスベールとの戦闘で右翅を丸々切断されたモスラは、長距離の飛行が不可能となっていたためか、ゴジラの背鰭に掴まって共に大西洋へと去っていった。また、ヨーロッパ連合軍作戦司令部はその追跡を認めなかった。彼らの戦いを見守っていた市民は笑顔で手を振って見送り、共に戦った欧州連合軍とドイツ連邦軍は彼らを戦友として一糸乱れぬ敬礼をして見送ったということを付け加えておこう。

これはヨーロッパ全土だけではなく世界中に拡散し、非敵性特殊生物の存在をさらに後押しするための材料にもなったのだった。

 

 

一時的な平穏を取り戻したアメリカ合衆国、極東アジアや西ヨーロッパの国々及び組織は、今回のたった数時間で被った同時多発的特殊災害の被害を鑑みて、ファンタス星人襲来時よりも大規模な防衛計画の訂正、追加が為されることとなっただけでなく、EUはベルリンや各地の復興に全力を注ぐことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『我々豪州連合は!本日18時、旧ソロモン、トモス島に形成されていたギャオスの巣である"ギャオスハイブ"に新型特殊爆弾を使用!これを消滅させることに成功した!』

 

 

そしてこの日、国連にてオセアニア・東南アジア諸国機構"豪州連合"がオセアニアにおけるギャオス殲滅に成功したという発表が成された。しかし、その発表は今回の世界初の大規模特殊災害である通称、"欧州六月災厄"をヨーロッパが一丸となって乗り越えたという発表よりも喜ばれることはなかった。それを賞賛し拍手する者と言えば、発表会場に同行し出席していた豪州連合軍若手将校数人のみであった。

 

____________

 

約5時間前

 

オセアニア オーストラリア連邦 キャンベラ

豪州連合本部 

 

 

 

「司令、ご決断を。オーストラリア空軍、並びに豪州連合軍はいつでも動かせます。今こそあの汚らわしい鳥モドキどもをオセアニアから抹消するべきなのです!"オペレーション・メギド"の発動を!」

 

豪州連合軍の総司令官は重大な決断を連合空軍参謀長に迫られていた。

 

「しかし、だ。バスク君。キミはあの恐ろしい破壊兵器を使うことに戸惑いなどはないのか?私は恐ろしい…あのような兵器を使い始めればどうなってしまうかと……。それにメギドは最終手段ではなかったのか?」

 

総司令官の言葉を強引に遮り、参謀長のバスク・オム大将は自身の掛けている丸型ゴーグルをかけ直しながら自論を展開する。

 

「破壊兵器…と言いましてもこの"N2"は違います。コイツは環境を汚染して悪影響を与えるといったことはまったく無く、目標のみを殲滅することに重点をおいた、我がオセアニアが実用化した希望の象徴であります!! 

史上最も"クリーンな破壊兵器"で、核などと言う死の灰を撒き散らすような邪悪と比べるなど言語道断でありますぞ!…たしかに周辺地域には爆発による多少の被害が現れましょう。しかし、それだけならばのちに環境団体やらなんやらを向かわせて島を復興させるように金を与えてやればいいのです。どの道、世論が文句を言える立場はどこにもありますまい。

ゴホン!…ギャオスハイブは緻密な地下構造を有しており、今や島中に広がっていると思われます!もはや地中貫通爆弾(バンカーバスター)をいちいち使っている時間などありません!!現に中東での米英有志連合軍はハイブ内での戦闘により、殲滅作戦ではそれが全被害の約4割を占める結果となっているのは、司令もご存知の通りでありましょう?」

 

「それもそうだが………」

 

「ここで通常戦力を投入し、無駄な犠牲を出したとなれば他国に示しがつきません」

 

「キミは…メンツを気にしているのかね?」

 

「いえ、戦線に赴く兵士たちのことを思っての発言であります。さらに言えばギャオスは短期で突然変異を誘発する恐ろしい生物です。仮にトモス島上陸部隊を派遣した際に、彼らとの戦闘に適応しようとして異常進化を遂げるやもしれません」

 

「他にもやり方はあるはずだ…」

 

「失礼ながら、このような事態に陥ってしまったのは、各国の碌な知識を持たない多数の楽観論者と公民、既存兵器の性能に慢心した軍将校が招いたものであります。現在のギャオス大量発生や朝鮮半島のガンQ再出現、過去に遡ればクモンガの中米拡散はその具体的一例に過ぎません! 近年我々の地球は、オセアニアは絶えず、様々な危機に晒されているのです!地球……我々の愛する故郷の平和を揺るがせない為にも、我々はN2を生み出したのです。そしてそれが使われる時が来ただけのこと。司令、ご理解ください」

 

「…………」

 

「最早一刻の猶予もありません。現に、オセアニア地域はワームホール形成の一因であると言われている大気内の異常磁場が極東、ニホン列島に次いで強力であり、今この時間にも新たな脅威が芽吹いてるやもしれません。ここでN2の力を証明し、オセアニアからギャオスの脅威を消しさり次に来たる脅威に備えなければ、我々のオセアニアが将来被るであろう被害は計り知れないものとなるでしょう。オセアニアだけでなく、世界を救うためにも、今動くべきなのです。我ら空軍の戦略爆撃隊は準備を完了しております。オペレーション・メギドの承認をお願いしますッ!司令!!」

 

「だが………しかし……」

 

「………既にトモス島を領有しているソロモン政府、オーストラリア政府や連合議長からも承認を得ています」

 

「なっ!? このタイミングで彼らがあれの使用に肯定しただと!! …これもキミたちが温めていた計画の内か……バスク大将…?」

 

「フッ……あとは連合総軍を指揮する司令長官殿の許可さえあれば……」

 

バスク大将の強硬的な主張に対しての具体的な反論を持ち合わせてはおらず、また自身が政府や軍から既に切られた状態にあると理解した総司令官は遂に折れ、新型破壊兵器___N2投入の形だけの承認してしまったのだった。

 

「それならば私はもうお飾りだろう。……大変遺憾であるが………N2の使用を…許可する…。オペレーション・メギドを開始せよ」

 

「ありがとうございます!! …総司令からの命令を受諾!これより、オーストラリア、豪州連合空軍戦略爆撃隊にオペレーション・メギドの発動を通達、必ずやギャオス撃滅を完遂致しますッ!!」

 

「バスク大将、これは、N2は…遠からぬ未来に必ず人類を…地球を破滅に導く引き金になるぞ…それでも使うのか?」

 

「…ええ。力の使い方は、心得ておりますとも」

 

豪州連合空軍参謀長であるバスク大将は総司令の部屋から退出する際、隠すことなく堂々と笑みを浮かべていた。バスク大将も一軍人としてオーストラリアを、オセアニア諸国を守りたいという思いは本物であったはずである。 しかし、その根幹にあるのは旧白豪主義が変質した現在若手将校や官僚に蔓延っている"新オセアニア・オーストラリア主義"から来ていたものであった。彼が守ろうとしているものが、権益か、国の持つ理念なのか、そこに住む国民か、或いは………それはもはや分からない。

彼や大多数の人間の思想がこうなってしまったのは、オーストラリアが、オセアニアがこの世界の数々の軍拡競争について行けず置いて行かれたことも今回の事態の遠因となっているのかもしれない。先進国、軍事大国とまともにやり合えるような強力な兵器を手に入れること、作り出すことが難しかった彼らは焦っていたのだ。

 

 

「バスク大将、遂にあれを使うのですね?」

 

「勿論だムスカ君。各所に通達してくれたまえ。くれぐれも出し惜しみはするなよ」

 

「っは!!……」

 

「我々は一刻も早いオセアニアの平和を願っている。それを実現する強靭な豪州連合に、無能な老ぼれどもなど必要ないのだ。これが終わったら各省の人事を一掃する必要がありそうだな」

 

こうして豪州連合が新型破壊兵器を投入する独自のギャオス殲滅作戦、オペレーション・メギドが発動された。

 

___

______

__________

 

ソロモン領 トモス島上空

 

 

オーストラリア空軍の所属である6機の制空戦闘機"F/A-18E スーパーホーネット"を護衛として従えているのは、米軍が"B-100 コスモフォートレス"超大型戦略爆撃機を新たに採用した結果、周辺の同盟国へと払い下げられることとなった機体……東西冷戦にベトナム戦争と長く前線に立ち、合衆国にて愛用されたベテラン機体であった。オーストラリアが豪州連合を結成する以前、英連邦から離脱し米豪同盟を破棄する前にアメリカ合衆国から購入していた___戦略爆撃機"B-52 ストラトフォートレス"一機が腹に4発の"N2航空爆雷"を携えてバース島付近の高高度上空を飛行していた。

 

「エインジェル1から基地へ。当機は爆撃コースに入った。これより、N2航空爆雷を投下する」

 

『こちらもレーダーで確認している。いいぞ、やってくれ』

 

「了解した。奴らの皮膚の一つも残さず焼き殺してやる。………………投下地点座標の最終確認、軌道修正、ウェポンベイの稼働完了。爆撃態勢に入る。カバーを頼む」

 

『バベル1了解! 現在目視確認による索敵を継続しているものの、ギャオスを視認できず!やはり高高度までは飛べないか?』

 

『しかし、万が一もあります。気を引き締めていきましょう』

 

そして爆雷投下のタイミングを測っていたB-52の爆弾投下員は遂に投下ボタンのカバーを外し、ボタンを押した。

 

「______5…4…3…2……投下…!」カチッ!

 

ガチャンッ! ヒュゥウウウウウウー!! ヒュゥウウウウウウー!!

 

 

「N2投下!全四発の投下完了を確認!!」

 

「これより当空域から反転離脱を開始する。爆雷炸裂後の衝撃に備えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

N2航空爆雷が投下された十数秒後、トモス島は閃光に包まれた。

 

 

巨大な四つの火球は島全体を包み込み、投下された爆雷を迎え撃とうとハイブ内から出たギャオス諸共、跡形もなく消し去ったのだった。これの撮影を担当した偵察機のパイロットは、作戦に参加した他のパイロットたちや司令部の将校らが歓声を上げるなか、島から遥か空の上へと昇っていく見事な極大のキノコ雲を見てただ一人戦慄したと言う。

 

「これでは……核と変わらないじゃないか……」

 

次第にトモス島を覆っていた爆発による煙は晴れていき、島の変わり果てた姿がそこにはあった。本来生物多様性に恵まれた生態系を有していたこの島は、一瞬で中心部に巨大な穴を空けられ、緑の無い死の島へと変わった。消滅を免れた数少ない木も炭化し死の柱となり、ギャオスはおろか生物は蟻一匹すら生存を確認できない無の大地へと変わってしまっていた。

 

島の変容とギャオスハイブ地下構造の完全破壊、及びギャオス全滅を確認した豪州連合軍総司令部は、オペレーション・メギドの成功による終了を全部隊に通達した。

 

 

 

 

 

 

トモス島と呼ばれていた場所には、もう何も残っていなかった。

 

…………いや新たに現れたモノはあった。それは恐らく核よりも恐ろしい存在。

 

それは、"時空の歪み"。

 

ワームホールとはまた違う、何処かと繋がっている気まぐれな空間の通り道の一つである。そんなものが死の島と化したトモス島のクレーターの中心に現れたのは、偶然ではないだろう。

たしかに、ギャオスという脅威は爆雷が炸裂した瞬間にオセアニアから消え去った。 

しかし、新たな脅威になるであろう時空の歪みが、自然界では決して生まれることのない強大なエネルギーを放出してしまったがために現れてしまったのだ。それの発現には、オセアニア地域広域に影響を与えている異常磁場の存在も災いしていた。

 

近い将来、豪州連合はこの大きすぎるツケを払うことになる。そして、これは地球を、人類を滅亡の危機へと陥れるものだと分かっている者は、今はまだこの世界のどこにもいなかった。

ウルトラマンや怪獣の出現と言った、正史とは大きく違う歴史へと分岐した本世界では、たしかに正史には無かった、若しくは早い段階に起こった良い変化はあった。ただしそれらと同様に、正史ならば起こるはずのなかった、起こしてはならなかった事象や変化も決して少なくはない。

 

迫っていた脅威を排除し、それによりまた別の脅威を呼び寄せてしまったというのは、この世界の人類への皮肉か、それとも憐れみか。それは神のみぞ知る。

 

 

 

 

____________

 

北米 アメリカ合衆国 ワシントンD.C.

ホワイトハウス 大統領執務室

 

 

執務室には、アメリカ大統領クロケットや他閣僚が集まっていた。

 

「ハハハ…いやぁ、ノーフォークのスライムモンスターがニホンにワープしていたとは……しかも三人のウルトラマンがそれを倒したと……ニホンには本当に感謝しかないぜ。結果として面倒ごとを押し付けてしまったようなものだからな。…それにしても欧州ではゴジラやバタフライと言ったガメラ以外にも人類と共に戦う怪獣まで出るなんて誰が予想できたんだ? だがそれ以上にオセアニアのN2投入は冗談だと思いたかったが」

 

「ニホンが以前公表した古文書にはバタフライがモスラとして記述されてましたよ、大統領」

 

「ベルリンの大規模特殊災害……六月災厄と言いましたかな?あれの主戦場がベルリンだと聞いた時は流石に肝が冷えましたよ。あの時ほど、欧州全域から基地を思い切って撤去したことを後悔した時はありませんでした。もしキールからゴジラが上陸していたら、"U計画(ユニオンプロジェクト)"の一部が破綻していたかもしれませんからね」

 

「そうだ、そのU計画について聞きたかった。ヘイ、国防長官。我が合衆国とカナダ、ヨーロッパの一大プロジェクトであるU計画の進捗はどうだい?」

 

クロケット大統領に訊ねられた国防長官は、手元の資料を見ながら淡々と報告する。

 

「はい。2000年代にスタートした本計画は、今後カイジュウやエイリアンと言った未知なる脅威に妨害されることがなければ、当初の予定通り21年には計画の全内容をほぼ完遂できます」

 

「まさか冷戦終結によって中止されかけた計画をなんとか存続させていたことが、ここで身を結ぶとは…誰も考えられなかったでしょうな」

 

「グッジョブだ。その調子で続きもどんどん言ってってくれ」

 

「分かりました。…兼ねてよりU計画のシンボルでもある艦、フィラデルフィアで建造中であった"スクールシップ(学園艦)級要塞空母"一番艦、デスピナが間もなく艤装搭載に入ります」

 

「合衆国海軍は遂に小型学園艦に迫る5000メートル級空母を持つことができるようになるのか……」

 

「また豪州と中国の連中が騒ぐぞ、これは」

 

「たしかに学園艦の軍事拠点化は禁止されているが、これは元から戦闘艦として建造されたものだからね。もっとも、そう言ってくるだろう連中が学園艦に戦闘機を載っけてる時点でお前が言うかと跳ね返せるが…」

 

「何を言おうと我が国の学園艦に護衛として随伴できる十分な性能を一艦に詰め込んだ多目的空母を作っただけだぜ? たしかに艦砲や巡航ミサイルも搭載する予定だと聞いてはいるが、その矛先が必ずしもどこかの国に向けるわけないだろう? もし見当違いなことを言ってきたヤローがいたら、この俺、大統領必殺のバーニングパンチが火を噴くぜ! ……まあ、デスピナももうすぐで投入できるってことは良い話だ。これは太平洋艦隊に配備しよう。新パナマ運河は学園艦も通れる大きさだろ?小型学園艦サイズのデスピナならいけるはずだ」

 

「それは恐らく可能ですが、なぜ太平洋に?先のファンタス星人襲撃によって大西洋艦隊の稼働率が低下しているので……」

 

「ノンノン!俺の勘が言ってるのサ。太平洋の方で何か起こるぞってね。ここのところ、きな臭い。あのスーパーボムを使ってからオセアニアの連中、東太平洋にまでちょっかい出しはじめたからな。ハワイの"フェニックス"の連続稼働時間を15時間から限界ギリギリの18時間にして太平洋の監視を強化させてくれ。戦略爆撃隊はまだ出すな、少しばっかし動かすとこだけ見せておけ。こちらから仕掛ける必要は無い。奴らがやる気になったらだ。」

 

「了解しました。戦略軍と太平洋方面軍に指示を出します。……えー、引き続き説明を続けますと、2番艦"ドゴスギア"、3番艦"アートデッセイ"もフィラデルフィアでの建造が完了し次第、順次配備していきますが、これらは完成と就役まであと数年、短くても3年はかかります。また、NATOとの共同開発である〈原子力潜水攻撃母艦〉は欧州連合のイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、そして北米の我が合衆国と盟友カナダの各海軍工廠にて、計7隻が建造中ですが、その中でもフランスとイタリアは若干船体の建造ペースが遅いですね。」

 

「こればかりはしょうがないな。もともとU計画は北米独自で進めていた計画だ。カナダはともかく、先のファンタス星人襲来後にヨーロッパ諸国は我々が誘って入れただけ。こちらは技術提供のみしか行っていないのだから、各国の建造スピードの違いは設備の問題もあるから当然だな。こちらは気長に待っていることにしよう。これだけを聞くとニホンが単独で新型多目的潜水艦を建造していることには驚きしかないな。さて、国防長官、そろそろ本命の話をしてくれ。それが楽しみなんだ」

 

「申し訳ありません大統領。あと本命の前にもう一つ報告が。手元の資料とタブレットを見て欲しいのですが、兼ねてより開発を進めていた、世界初の人型機動兵器〈コンバットローダー・ベガルタ〉が順調に稼働実験をクリアしていると言っておきます。これは実験が完了し次第、順次生産ラインに加えていきます」

 

資料には歩行動作を行なっているところであろう二足歩行の人型兵器___ベガルタの写真が、そしてタブレット画面に映っているのはベガルタが搭載する予定の各種兵装の威力を確かめる射撃映像だった。端末の画面には大口径のチェーンガンや小型ロケットポッドから放たれる弾丸や砲弾などが標的である的に命中すると次々に破裂していく映像が映る。

それを見る閣僚達は驚きながらも感嘆している。クロケット大統領は少し興味なさげではあるが。その様子に気づいた国防長官はベガルタの説明を切り上げて話を変える。すると彼の顔も明るくなったのが分かる。

 

「……そして、大統領が楽しみにしていた本命である、〈対特殊生物用50m級機動ロボット〉…こちらも順調です。NASAの優秀な技術者たちの全面協力もあり、おそらくは来年の春前には動かせるようになるでしょう。本機はファンタス星人のUFOからサルベージした地球外超技術(メテオール)も盛り込んだ言わば究極の対怪獣超兵器です!また、ニホンには武装の一部とする予定のメーサー技術の供与を要請しています。合衆国ではもうLプロジェクトの資料すら消去してしまっていたので。ああ、そう言えば、そのニホンでも40mサイズの機動ロボットの開発が行われていると聞きましたね」

 

「ハハハ!スーパーロボットをアメリカが作り出す、これほどのロマンはないだろう? ………待て…先ほどからニホン関連でツッコミたいことが多々あるが、俺も相当な親日家である自信がある。だがやはりそういう話を聞くと、ニホンはそう……あれだ………ああ、思い出した、ヘンタイだ、そうドヘンタイだ。まったく、なんであの国はなんでもひとりででかしてしまうんだ? ロボットのネームをニホンにならって"MOGERA"と名付けてしまった自分を引っ叩いてやりたいぜ…」

 

「どんな文化からならったんですか…」

 

クロケット大統領は顔に大袈裟な素振りで両手を当てて悲しみを伝えようとしている。かなり堪えているようだ。というよりは参っているようだ。

 

「ま、まあ大統領………しかしその話題関連でしたら、現在ニホンは独自でVTOL技術とメテオールを応用した空中機動要塞をも作っているとか…」

 

「おいやめてくれ、ストップ。もういい。お腹いっぱいだ。ニホンの話題を出すのはもうやめよう。今度から報告の中にニホンの話を入れないように頼む。これだけは守ってくれ。彼らは我が合衆国の良き友人であるが、それと同時にヘンタイでもある……。全く、彼らが作っているものの方が魅力的に見えてきてしまうよ。これ以上見聞きしていたら祖国に自信が持てなくなる。はあ…ニホンにいる姪に会いたいよ、こうなったら会談と偽って訪日してでもサンダースに…」

 

大統領秘書曰く、今日のホワイトハウスでのクロケット大統領の執務ペースはモチベーションやらの関係で週平均を大きく下回ったとかなんとか。なんでも、これも全部ニホンのせいだとか悪態をついていたらしい。そして心にゆとりが欲しいあまり若干職権乱用に走りかけたとか。

 

 

アメリカ合衆国も、彼らなりに世界の警察としての役割を果たすべく、着実に怪獣や異星人に対抗するための力をつけ始めていた。彼らは日本とウルトラマンの心強い味方となるか、それとも、豪州連合のような歪んだ正義を振りかざす存在へとなってしまうのか………それは分からない。

 

 

___________

 

同時刻

 

東ヨーロッパ ロシア連邦 モスクワ

ロシア大統領官邸

 

 

「米国を中心に西側の彼らはU計画なるものを進めているようだが、我々も負けてはいないな。さて、"鉄人計画"はどうなっているかな?」

 

「はい。冷戦期、旧ソコロフ設計局(OKB-754)にて設計されていた未完の二足歩行兵器〈ウォーカー〉にも搭載予定であったと記録されている、電気伸縮式特殊樹脂をはじめとした、我が国の最高技術を余す事無く注ぎ込んだ完全な"人型歩行戦術機"______通称〈カタフラクト〉は現在オイミャコンにて試作1号機サヘラントロプス、試作2号機ピテカントロプスの組み立てを行っています。正式採用が成され、量産された暁には冷戦時の夢であったウォーカーをも超え、米国が世界へアピールしている人モドキのブリキ人形とは一線を画す人型機動兵器となる予定です。しかし………」

 

同じくロシア大統領も執務室で白衣を着た技術者と思われる者たちを集めてミーティングを開いていた。大統領が技術者の一人、頭が禿げあがっているいかにも研究者・技術者といった風貌の中年の男から説明を聞いていたが、突然黙り込んでしまった彼に声を掛ける。

 

「どうした?フラナガン博士、その言い方は兎も角、良い報告じゃないのか? なにか開発環境に不満があるのなら、遠慮せず言いたまえ。私は君たちには最高の環境で研究を続ける権利があると思っている。個人的な問題でも相談に乗ろう」

 

「いえ、大統領の用意してくださった研究開発設備と大規模な予算には我々一同大変感謝しています。

……実はですね、たしかに我々が開発している戦術機は長時間の戦闘継続能力を有した優秀な兵器です。ですが、乗り手をサポートする、そして機体の制御を行うに見合う性能を持ったOSの開発が難航しています……安全面を多少無視すれば配備は予定通りできますが…」

 

「それだけはやっちゃいかんよ!兵士達の命を軽視した兵器を作るなど、それこそ本末転倒なのだから」

 

「その通りです。申し訳ありません」

 

「いやいいのだ。…ふむ、なるほどOSが……………そうだ!それならばフラナガン博士!」

 

「な、なんでしょう…?」

 

声のトーンを上げて、勢いよく椅子から立ち上がった大統領を見たフラナガン博士は、できないのならば自決しろとでも言うのだろうかと、固唾を飲んで大統領の顔色を伺いながら話の続きに耳を傾ける。すると大統領はポケットから取り出した櫛を使って自身の自慢のオールバックをケアしながら提案する。

 

「インドに頼んでみようじゃないか!」

 

「インドですか、たしかにインドはIT産業の先進国であり古来からロシアと親交はありますが、彼らがそう簡単に協力しますかな?」

 

「彼らも強力な兵器を求めているのはご存知だろう?ギャオス討伐、それ以外ならば上海で痛い目を見たにもかかわらず、今も国境をジワジワと侵食している隣国、中国をギャフンと言わせれるような……ね。…あ、白髪が……」

 

「それならば、抑止という観点で豪州の連中が投入したN2を買うのでは?」

 

「フフ。フラナガン博士、キミは科学技術に関しては敵無しみたいだが政治や軍事では私の方が上のようだ。N2は強力な力を持っている…これは紛れもない事実だ。しかし、インドはね、その場しのぎにしかならない、一度使ってしまったらパッと消えてしまうような力を欲してはいないのだよ。それにカイジュウたちには抑止力など無意味な物ではないのかな?」

 

「はい。大統領の言いたいことは、まあ…分かります。ですから話しながら髪を弄るのはやめてください。髪が残り少ない私への当て付けですか?」

 

「いや、そうではないぞ…………ヴウン!彼の国も大量の人口、広大な土地を抱える大国だ。治安維持にも化け物の討伐にも何者かからの侵略に対しても、幅広く、コンパクトに対応できる兵器を欲している。あんな緻密さのかけらも無いおもちゃではダメなのだ。もっとも、インドはとっくに戦術核を持っている。今更、若干の高い火力と微妙な抑止力しか持ち合わせていない窒素爆弾をわざわざ買うとは思えんがね。豪州連合はそこらの判断がいけなかったな、切り札は最後まで取っておくものだ。そうそうに使って見せびらかすとは愚の骨頂だよ。…以前ならばそんな迂闊なことはしないのがオセアニアでは常識だったが……国連での発表時の会見メンバーを見るに、何かあったな…」

 

「大統領?」

 

「ああ!すまないすまない!ちょっと話をずらしてしまった。戦術機のOSのことについては任せてくれたまえ。私が直接彼らと話してくるよ。日程に無理やり突っ込んででも行こうじゃないか!なにせ白き鉄人たる戦術機はロシアの守護神になるものなのだからね。必ずインドと協力体勢を築けるよう尽力しよう。優秀なOSと機体さえあれば強化人間(ブーステッドマン)による消耗前提の狂気的な戦闘部隊なぞ作る必要もあるまい」

 

「そうですね。強化人間(ブーステッドマン)は作るべきでは無いのです。もし誕生してしまったのなら、それは憎しみの連鎖が待っているはずですから…」

 

「そのためにも私がインドに行く。…"チャンスは最大限に生かす、それが私の主義だ"」

 

 

キャスバル・シオン・アリスタルフ…それが現ロシア大統領の、彼の名前である。この後、インド首相との会談にてアリスタルフ大統領はインドにOS開発の協力を、戦術機の対印輸出検討というカードを使って取り付けることに無事成功した。ロシア、インドによる"新鉄人計画"の始動である。

 

 

 

 

各国がそれぞれの思惑を抱えながらも来たる脅威に備え出した。だが、来たる脅威の前触れはこの後すぐに起きる。人類の準備を待ってくれるほど、甘くはない。

 

 




どうも。春の吹雪()に襲われている逃げるレッドです。本当寒い…。

ウルトラマンが光を受け取って力を得るのは王道だって、はっきりわかんだね! ガンQ君、クモンガよりも長生きしましたね…
BGMはヒカリのテーマソングです。ヒカリ兄貴はほんへに出てはいないけど、歌詞とエクレール姉貴の心情がマッチしてると思って選曲しましたゾ。ヒカリサーガの円盤買おうかな…

米国とロシアの新型兵器の元ネタはEDFとアルドノア ゼロです。補足説明にはメタルギアやマヴラブなどからも引っ張ってきました。米露首脳はガンダム界の方々ですね…カリスマすごそう()。
この世界ではオセアニアにやべーやつらが集結してます。N2怖いなぁ、戸締まりすとこ………。軍事よわよわだから力つけるとか言ってるけどもうムッキムキになってんだよなお前ん国ィ!

学園艦があるのに今更空母保有云々という話は、個人的には他国だって中国や豪州連合といった軍事転用しそうな例外を除けば、学園艦の所属は日本の文科省にあたる部署が管理してるはずなので、よくても搭載されるのは救助用の哨戒ヘリぐらいだと思っています。戦闘機乗っけてハイ解決とはならんだろと。そんなんやったら日本海側に学園艦が航行するだけで問題になる、なりそうじゃない?
原作でも学園艦の国際条約といった詳しい話も無いし、あくまでも空母に似た外見の、学校を載せたでっかい船なので。しかも、建造コストや運用面、国際的観点から見ても、やはり通常サイズの空母の需要はこの世界でもあると考えてるゾ。

次回は姫神島の生存者の少年と黒森峰メンバーの接触回です!

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 次回
 予告

ハジメの弟となった少年、シンゴが黒森峰にやってきた!
ハジメや他のメンバーも歓迎するが、変に物覚えが良く頭のいいシンゴ少年は不思議な勾玉を持っていて………? シンゴが来たことによってさらに賑やかになる黒森峰。これからどうなっていくのか?

次回!ウルトラマンナハト、
【弟によろしく!】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて

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