キュオオオオオーン!!!
突如昼の博多の街の賑わいを消しとばす咆哮が響き渡った。生物であるが故の性なのか街を歩いていた人々は未知なる恐怖から自然と空を見上げた。
「あれは……?」
「か、怪獣だ…………」
「……愛里寿、しっかり手を繋いでてね…」
「お姉様…?」
蒼空の一点にソレは、太古の翼竜の如き赤黒く禍々しい巨翼を広げ飛んでいた。福岡市内にいる人々が逃げようと走り出し、悲鳴も上がろうかとした時、災いの化身___ギャオス・ハイパーが口内から超音波メスを眼下の街に向けて発射したのはほぼ同じタイミングであった。
「来るぞーー!!!」
ズガァアアアアアーーーン!!!!
「きゃああああっ!!」
「ビルが….崩れるぞ!離れろ!!」
「あれギャオスだろ!? 空自はなにやってんだ!」
「ステルスがうんたらかんたら言ってただろ!多分それのせいだ!」
「お姉様!どこに逃げるの?」
「最寄りの地下鉄! あそこなら強度もバッチリなはずだから!!」
逃げ惑う人々の波に呑まれないように愛里寿の手を強く握り、恵美里は人をかけ分けながら走る。遠くからは遅すぎる避難警報が鳴っており、それの誘導に従う者など一人もいなかった。
キュオオオオオーン!!
ギャォォオオオオオオオオオオ!!
「おい!上を見ろ、まだ来るぞ!!」
「ギャオスが降りてくる!逃げろぉお!」
「どけよ死にたくねぇんだ!!」
「前よりも大きくなってないか!?」
いつの間にか博多上空には四匹のギャオス・ハイパーが飛んでおり、その内の一体が博多区市街地に着地。手当たり次第に街を破壊しつつ、逃げ惑う人々を捕まえては貪ると言った行為を繰り返す。残りの個体もすべて地上へと降りはじめ、それにより運悪く包囲されることになった人々は逃げ場を失う。
「っ!! 地下鉄までの最短ルートを塞がれた……愛里寿、こっちに!!」
「お姉様…私怖いよ……」
「大丈夫、私が愛里寿のこと絶対に守るから!」
キィイイイイイイイイン!!!
ギャオスは破壊の限りを尽くすため、再度超音波メスを繰り出せるよう口内にエネルギーを溜める。それによって周囲には耳障りな金属音に近いノイズが響き渡る。それにより聴覚を攻撃された市民たちは堪らず意味がないが耳を手で抑えてなんとか耳に入る雑音を和らげようとする。
「う、がぁあああ!!頭がおかしくなりそうだ!!」
「誰か止めてくれぇ!」
「は、吐きそうだ…うおえ…」
しかしノイズは一向に緩む気配はなく、耐えきれずに膝をついてしまう者もいた。
「うぅぅ……耳が痛い…気持ち悪いよ…」
「愛里寿!今は耐えて!」
ズバッ!!
「!! 愛里寿!」
ドンッ!
ノイズが消えたかと思った束の間、今度は何かが切れる音が聞こえた。恵美里はすぐに周りを確認すると、その音の正体を理解した。そしてすぐさま妹を守るために思い切り横に突っぱねた。
「えっ?」
雑音から解放された直後にいきなり姉に突き飛ばされた愛里寿は状況を理解することが出来なかった。
しかし恵美里がこちらを見て優しく笑い掛けてきたかと思うと、彼女の周りに崩壊したビルの瓦礫が降り注いだ。
ズガガガッ! ガシャァアアアン!!!!
「お姉様ぁ!!!」
愛里寿の必死の呼びかけも瓦礫の落下による騒音で掻き消されたのだった。
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福岡県 春日市 航空自衛隊春日基地
福岡市でギャオス出現の報を受けて、春日基地のトレノ飛行中隊はスクランブル発進のためにファイターパイロットたちは続々と格納庫へと走っていた。
『___対特殊生物A兵装で出撃! 博多にギャオス大型新種が4体飛来、現在博多区を中心に被害が拡大している!監視レーダーには反応がない。恐らくはこれらの個体も生体ステルスを有していると思われる!注意されたし!! 繰り返す!!』
「総員急げ! 上がれる奴から上がっていくんだ!」
「ギャオスめ、すぐに叩き落としてやる…!!」
「秋津二佐ァ!先に行きますよ!」
「分かった!俺もすぐに行くからな!」
「トレノ7が出るぞぉ!誘導員以外は下がれ!」
「秋津さん機体の方はバッチシですよ! …俺たちの街を、頼みます…!!」
「任せろ。ヤツらには日本を襲ったツケを払ってもらうつもりだ」
「ご武運を!!」
秋津もライトニングのコクピットに乗り込み、滑走路へと機体を走らせる。格納庫から出るとトレノ隊機が次々と離陸していた。
「ギャオスを街から離す。…地上にはまだ市民が残っているはずだ……急がなくては!」
____________
太平洋上 茨城県立大洗学園艦 校内
『こちらからは突如博多区に飛来した大型のギャオス四体が見えています! 既に市街地内の一部建物が倒壊しており、至る所から煙が上がっているため詳しい様子は分かりません!しかし、博多区には依然として逃げ遅れた市民が多数いるという情報も入っています!! 自衛隊や福岡県警も動いているとのことですが、状況は好転していません!
現場の我々笑顔テレビ報道班は、これより移動して中継を続行します!!』
『___はい。引き続き現場の美代さん達も気をつけて報道をよろしくお願いします。…いやぁ、これで何度目ですかね、怪獣の日本襲来は。ガンQ襲来からまだ日も浅く、今度は九州にまたやってくるなんて、怖いですね』
『美代さん達が移動を終え次第、再度中継に繋げます』
今は昼時であるため多くの生徒が食堂で昼食を摂っており、食事の片手間でテレビの中継を見ている者が大半であった。
「ギャオスねぇ……最近またニュースで見るようになったね〜」
「同じニュースばっかりで嫌なっちゃうよね」
「これ本当に今日本で起こってるやつ?」
「ギャオスって、アレなんでしょ? なんかテレビで偉い人が言ってたけど、すっっごい昔に人が作った可能性のある怪獣なんでしょ?」
「そうなの? 怖い〜!」
大勢の生徒たちが好き勝手言っている中、みほは昼前に自身に声を掛けてくれた新しい友人二人と昼食を黙々と摂っていた。それでも、ずっとだんまりとしているわけではなく質問されたらそれに答え、自分からも当たりざわりの無い質問を定期的にするなどはしている。しかしみほの意識はテレビのニュースの方へ向いていた。
「えぇ〜!! みぽりんも好きな男子がいるのぉ!?」
「た、武部さん…声を小さく……」
「そうですよ沙織さん、あまり大きな声で聞くことじゃないですよ〜。でも私も気になってるんですけどね〜」
「ごめんごめん! やっぱりみぽりんみたいな子はそこら辺もしっかりしてるんだね……で!どんな男子なの!? 幼馴染?イケメン?一目惚れ?」
「えっと……うん、ちっちゃい頃から一緒に遊んだりしてて…」
友人の一人である武部の質問に答えながらもニュースの内容を聞き漏らさないようにしているため、言葉が途切れ途切れになりながら沙織に応える。そんなみほの様子を察した五十鈴がみほに問う。
「………みほさん…テレビが気になってるんですか?」
「えっ…」
「みぽりん、もしかしてニュース見たかった?」
「あ、その…ちょっと聞いておきたいな〜…なんて…」
みほはそう言って答えを濁すが、本当はただギャオス関連のニュースが気になっていたわけでなく、首にかけている勾玉を介してガメラの意識を受け取っていたからであった。ガメラはギャオス撃破のために向かっているところであることも把握していた。それ故にみほは福岡の中継映像が気になっていたわけである。勾玉は今も光って熱を帯びているが、幸い制服によって隠れているため武部たちには気づかれていないようだった。
(だんだん勾玉に熱が出てきた…ガメラ、もうすぐ来るのかな? ………なんだろう…? 何か嫌な予感もする……。でも私が出来ることなんて、ないよね…)
_________
岡山県 玉野市 第二岡山港
黒森峰学園艦 戦車道ガレージ
ハジメたちもガレージの柱に取り付けられているモニターからニュースを介して福岡の惨状を見ていた。
「これは………ひでぇな……」
「あの復興前の熊本を思い出すね……」
「今までコイツらどこに隠れてたんだ?」
「よくアップした所を見ろよ。ヒレとかエラがあるぞ、進化してたんだ…きっと海中で息を潜めていたに違いない」
「四体のギャオスが一気に現れるとか、ヨーロッパの六月災厄と変わらないじゃない」
「もしかしたら六月災厄の続きなのかも…」
「あ…ギャオスだ……」
「大丈夫だぞシンゴ。リーダーや俺ら整備科がお前のこと、絶対に守ってやるからな!」
「………ちょっとトイレ…」
ギャオスの襲来というニュースに各々が様々な反応を示し、全員が不安に駆られていた。このテレビに映っているギャオスが日本国内にいる以上、どこにやってくるかも分からないのだ。最悪ここから数時間の間に岡山にやって来て学園艦が戦場になる可能性もゼロではない。
ハジメはメンバーの___特にエリカの目を盗んでガレージ裏にやってくると、流星のバッジを掴む。するとイルマが現れた。勿論イルマの姿はハジメを模した人間体である。
「またギャオスか…今回も数が多いからハジメも油断しないでね」
「忠告ありがとな。行ってくるぞ、今度はエリさんの説教持ってくるのは勘弁な。あとさっきメッセ送ったけどシンゴのことも頼む」
「わ、分かってるさ!同じヘマはしないよ!」
「……ホントに頼むからな……ハッ!」カチッ!
ハジメは勢いよく手に持っていたアルファカプセルを空に掲げてボタンを押した。そして集まった光に包まれて福岡市の方向へと消えていった。
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福岡県 福岡市 博多区
ズゥウウン……ズゥウウン………
キュオオオ…!
博多の街はものの十数分で四体のギャオスによって壊滅させられていた。背の高いビル群は超音波メスによってまるで木の伐採の如く切断され倒壊し、文明の証は瓦礫の山と化していた。さらには瓦礫などの落下物によって死傷した者たちが潰されて飛び出した赤い血液で道路や瓦礫の所々に赤黒いシミが広がっている。
博多は過去の佐世保や熊本よりも被害が甚大なものになっており、福岡駐屯地から出動した陸上自衛隊第4戦闘偵察大隊や西普連、特生自衛隊が現在急行・展開中であるが、市民の避難も禄に出来ていない中での戦闘はかなりの制限が掛かるものとなるだろう。避難状況の詳細確認をしようにもヘリを飛ばそうものならギャオスに撃墜される恐れもあり難しいのだ。そのため、彼らは本格的な作戦行動に入れないでいた。
自衛隊の救助活動や怪獣の迎撃が一向に進まない中、愛里寿は来ないはずの救援を待っていた。あの後愛里寿を突き飛ばして庇った恵美里は、落下してきたコンクリート片などによって身動きが取れないでいたのだった。姉の下半身を挟んでいる瓦礫をなんとか手で退かそうとしてもそれは出来なかった。愛里寿は自身の非力さから無力感に襲われながらも、決して泣かず、諦めずに姉を助けようとする。しかし姉はそんな苦しい状態であるにもかかわらず、笑顔であった。その笑顔には諦めの感情も含まれていた。
「愛里寿…私は大丈夫だから。あなただけでも逃げて。もうすぐ自衛隊や消防の人がきっと来てくれるはずだから…」
「いやだ!お姉様と一緒に行く!! 行けないのなら私も残る!!」
「お願い…逃げて。お姉ちゃんの最後のお願いだから…」
「最後なんて言わないで!まだこれからもずっと一緒だって、お姉様言ってたじゃん!!」
姉の言葉に耳を貸さず、意地でも姉を連れ帰ろうと、助けようと愛里寿は必死だった。そんな姉妹のいる道路から見て交差点奥の建物の角から、口元を赤く濡らしたギャオスが顔を出した。姉妹の姿を見つけるなり咆哮を上げてからゆっくりとした足取りで近づいてくる。
キュオオオオ!!
「あ、あ………あぅ…………」
「逃げて愛里寿! お願い、逃げて!!」
「……いやだ!!」
そう答えた時にはギャオスが翼を広げてこちらへ走ってきていた。このまま動かなければ噛み殺されてしまうだろう。しかし愛里寿は動かなかった。確固たる意思を持って姉を守るように前に立つ。そしてギャオスが目前に来たその時、空から水色の光線が降り注ぎギャオスを一瞬で蒸発させた。
シュアッ!!
「ウルトラマンナハト!!」
ギャオスが存在していた場所と島田姉妹の間にナハトが降り立った。一度愛里寿の方を向き、手を差し伸べようとするが側面から残りのギャオスによる超音波メスを受けてよろけたところで体当たりを食らい、愛里寿たちから大きく離れてしまった。
シュッ………!
《あそこにまだ女の子が! でもその前にギャオスをなんとかしないと…!》
ギャオオオオオオ!!!
キシャアアアーー!!
《邪魔だ!…ナハトセイバー!!》
ズドォオン! ズドドォオオン!!
ゲェッゲェエッ!?
シュアッ!?
《この火炎弾は…!》
三匹のギャオスとナハトが対峙していると、今度は空から巨大な火球が数発ギャオスの周りに着弾。これには堪らずギャオスたちは空へと一時退散を始める。そこに今駆けつけたであろう自衛隊の戦闘機群が市街地から飛び立ったギャオス1体を誘導弾による飽和攻撃で撃破し、爆散させる。
火球を放った主は、後ろ足をジェット機構化し、高速飛行形態となって空中を旋回しているガメラであった。ガメラは回転飛行形態へと移行し、ナハトの横に着地。ギャオスとの戦闘に加わったのだった。
グルルルゥッ!!
《傷が癒えた今こそ、災いの影は私が倒す!星の戦士、行くぞ!!》
ショアッ!!
《ああ!あの子を助けるためにも、行こうガメラ!!》
ギャオス・ハイパーをなんとか1体撃破した戦闘機群はスクランブル発進したトレノ隊である。秋津は眼下に広がる博多の惨状を見て唇を噛む。
『大型種撃墜!! 1体はウルトラマンナハトが撃破したとのことなので、残りはあの2体です!!』
『赤外線誘導型なら精密な攻撃が可能です!水平射撃による斉射で片付けましょう!!』
「ダメだ!避けられたら未確認の生存者や市街地への被害が拡大する恐れがある! 真上から鶴瓶撃ちにするぞ!!いいか、絶対に当てろ!!」
『『『了!!』』』
愛里寿はナハトやガメラがこちらを助けられない状況になったことを理解し焦っていた。
握ってるお姉ちゃんの手が冷たくなってきた…。嘘だ、だってさっきからずっと笑顔で…笑顔で……。恵美里お姉ちゃんが死んじゃうなんてこと、ありえないよ!血なんか流れてる様には見えないし、ただ挟まれてるだけ、きっとお姉ちゃんも怖いだけなんだ…
「お姉ちゃん! もう少しで、もう少しでナハトが助けてくれるからね!!ガメラだって来てくれたよ!!」
「うん……そうだね。安心だね………」
「だから死なないよ!お姉ちゃんは絶対に死なない!!」
「あはは……愛里寿…ちゃん呼びに戻ってるよ……そんなに、悲しそうに…しなくても…いい……よ?」
お願いナハト…早くお姉ちゃんを助けに来て……!
「……愛里寿。あのね、私……愛里寿のお姉ちゃんとして生まれて………ほんとう…に、嬉しい……」
何言ってるのお姉ちゃん?そんな言い方、やめてよ、もうすぐお別れって言ってるような言い方、やめてよ!
「私もお姉ちゃんがお姉ちゃんだったこと、嬉しいから!楽しいから!! だから、頑張ってよお姉ちゃん!」
「ゲホッ! ……あらら…血、出て…きちゃったかぁ………」
「やだ、やだよ!! お姉ちゃんは死なないもん!! だってまだ一緒にたくさん遊んでないもん!戦車乗ってないもん!ねえ、お姉ちゃん死なないで!!」
「だいじょぶ…だいじょうぶ……愛里寿は心配屋さんだね……」
愛里寿は知らなかった。
実は恵美里にはもう下半身が無く、それによって動けないことを。恵美里は落下してきた瓦礫によって腰下を潰されていることを。今恵美里が生きているのはほぼ奇跡であり、それを支えているのは妹への強い想いだろう。生を繋ぎ止めているのは強い心だったのだ。
「愛里寿のこと、守れたから…もうお姉ちゃん…悔いは…無いかな………」
「やだやだやだ!! お姉ちゃん、しっかりして!!」
しかし、精神だけで人は動けるわけではない。無情であると思えてしまうが、それは生物として宿命であり当たり前のことである。当然、生命活動を維持するのに必要な量の体液が外部へ流れ出したり、司令塔である脳や活動を支える心臓が潰されたりすると死亡してしまう。これは人間である以上、生物である以上仕方の無いことである。ただそのタイムリミットが近づいているだけなのだ。
だんだんと姉の手の握力が弱まってきた。目も虚ろになり、命が尽きるのも残り僅かであることは愛里寿は嫌でも理解してしまう。しかし愛里寿を心配させまいともう片方の手で愛里寿の頭を撫でる。その手は何故か暖かく愛里寿は感じる、さきほどから握っている手はこんなに冷たいのに。
「ごめんね…愛里寿……ごめんね?……私ももっと一緒に愛里寿といたいよ……でも……もう………」
ここで初めて恵美里が涙を流した。今まで笑顔で語りかけてきた姉が泣いている。
「嘘だよ、ダメ!ダメダメ!! もう無理じゃない、まだ……死なないで!!お姉ちゃん!!!!」
「……元気でね…スマイル、スマイル………だよ。あ…………り…す………」
愛里寿の言葉も虚しく、姉は涙を流しながらも小さな笑顔で愛里寿を見ると静かに目を閉じた。ふっ、と愛里寿を撫でていた恵美里の手も、ゆっくりと、地面に倒れた。
「あ、あぁ………おねえ……ちゃん?」
「フッ……遂に"器"を手に入れることが出来る……!」
_________
《堕ちろ!生命の紛い物!!》
ガァアアアアアーーーーー!!!
バヒュゥン! バヒュゥウウン!!バヒュゥウウン!!
ガメラは空を舞い、追撃を振り切ろうともがく様に逃げるギャオスに背後からプラズマ火球を連射する。火球自体がかなりの体積を持っているため、それに翼の先端が掠り、被弾してしまったギャオスは姿勢を崩してしまい失速する。
ギャァアアアッ!!!
《終わりだ!!》
ゴォオオオオオッ___ズドォオオオ!!!
グエッ______
その隙をガメラは見逃すことはなく、通常のプラズマ火球よりも出力が向上した、"ハイ・プラズマ"を即座に撃ち出した。渾身の火球は見事にギャオスの中心を捉え命中し、爆散した。トレノ隊の援護もあったが、それでも一体ではあったものの、ギャオスの上位個体であるハイパーと空戦に入ってからたったの数分で倒してしまえたのは、ガメラの戦闘能力の高さも起因しているだろう。
『ギャオス撃破!』
『すごいな……ガメラは……」
『地上のナハトと戦偵の援護に回るぞ!続け!!』
《うむ、見事な連携であった。新たな人類も成長しているということか…。星の戦士の方は……》
セアアッ!!
《三日月光輪・連!!》
地上では果敢にも地上戦を仕掛けるギャオスとナハトが争っていた。ナハトは手を合わせ、ゆっくりと開いていき、その手の間に黄色く輝く何枚もの小さな"三日月光輪"を生み出す。ナハトが腕を左右にスライドさせると、それらは大きく半円を描くようにギャオスへと飛びすべてが両翼に命中し、ギャオスの翼は根元から切断され致命的な損傷を受ける。傷口から夥しい量の血を噴水のように飛び散らせながら悲痛な悲鳴を上げるも、ナハトは容赦はしない。
ナハトは胸の前で腕をクロスさせ勢いよく後ろへ引くと、頭部ランプとライフゲージが輝く。
ハァアアッ、ジュワッ!!!
《チェンジッ!スピリット!!》
瞬時に全身が紺碧色である俊速の戦士、スピリットスタイルとなる。その後、左腕に装着されてあるナハトアームズから光弓___ナハトボウガンを出現させ、光の矢を連射する。それらは寸分違わずに全ての矢がギャオスの胴体に突き刺さった。
ギャオオオオオオオオオ!!!! ギャァアア!!
《お前たちは、この世界にいてはいけない奴なんだ!! 明日を生きようとする人たちの未来を、お前らに邪魔されてたまるかぁああっ!!!》
…………シュアッッ!!
《三日月光輪・斬!!》
ナハトは素早く両手を斜めに広げる。するとそこからは巨大な三日月状の光のカッターが作り出されギャオスに叩きつけられた。ギャオスは自身に何が起こったのかを認識する前に半身が斜めにずれ落ち、破片を周囲に撒き散らしながら爆散した。
ズゥウウゥン……‼︎
ピコンピコンピコンピコンピコン___
《くっ…やっぱり光線と光輪の連続使用は体力の消耗が激しいか…気をつけないと……》
ナハトは力が抜けたように地面に膝を着く。そして遅れてライフゲージが赤く点滅を始めた。空にいるガメラはギャオスの全滅を確認すると、空高く飛び去っていく。
《さらばだ星の戦士。私は目覚め出したギャオスどもをあの黒龍たちと共に片付ける。また会おう。…そしてあの少年を頼むぞ》
《ああ。シンゴのことは任せてくれ。俺たちが守っていくから…。そうだ、あの子は……?》
『ギャオスの殲滅を確認した。これより我が隊は地上部隊に任せて春日基地に帰投する』
『これは…熊本を彷彿とさせるほどの……』
「また多くの人が亡くなった。彼らの分も精一杯我々は生きていかなければならないだろう。今回の犠牲を決して無駄にしてはいけない」
『間もなく地上部隊が救助を開始するようですね』
「なんとか我々も一つの苦難を乗り切ったと思いたいな……」
ギャオス・ハイパーは全て倒し切ったものの、平穏はそうすぐに戻ってくるわけではない。響かなくなった怪獣の咆哮の代わりのように、街はすぐに緊急車両のサイレンで満たされた。怪獣は退けたが恐らく博多区が以前と同じ景観と日常に戻ることは二度と無いだろう。街と人の心の復興には、途方もなく長い年月が掛かるのだ。
今回の犠牲者は政府がのちに把握する際の統計でも軽く5桁は超えており、そこに行方不明者も足せば馬鹿にならない数字となる。それらの数字も時間が経てば今後も増えていくはずだ。日本は、九州は、今までで最大の特殊災害に見舞われたのだった。
そして、この何とも言えない虚しい雰囲気に拍車を掛けるように、いつの間にか空は濁った灰色の雨雲に覆われていた。
ポツポツ…ポツ………ザァーーー!
______博多を包むように降り出したその雨は、とても重く、冷たく感じるものであった。
ハジメがガメラとの思念による会話を終えた時、ナハトの足元から声が聞こえてきた。それは愛里寿からの叫びに近い呼び声であった。
「ナハト!お姉ちゃんを助けてよ!!」
《!!》
「お姉ちゃんが目を覚さないの…ナハトなら助けれるよね? ねえ助けてよ!!ナハトはどんな時も諦めないヒーローだから!助けれるでしょ!!」
《…あの女の人が、この子のお姉さんなのか…?》
ナハトも瓦礫に挟まれた愛里寿の姉、恵美里の存在を把握した。しかし、それと同時に恵美里の生命反応が消失していることにも気づいてしまう。
《………ごめんよ…一度消えた命を…甦らせるような能力は……俺は持ってないんだ……》
何一つ動きを見せないナハトを前に、愛里寿は声を荒げる。その目元は赤く、顔を流れている水滴は決して雨水だけではない。
愛里寿は知っている。薄々姉は生きてはいないと知ってはいるが、その事実はまだ幼い少女には耐えがたいものであったのだろう、そう。認めたくないのだ、最愛の人がいなくなったと言うとことは。認めたら、心の支えが消えて崩れてしまうから。
「ねえ、なんで何もしないの!? 助けてよ!早くしないとお姉ちゃんが…お姉ちゃんがぁ………」
《…………》
ナハトは、ハジメは自問自答を繰り返していた。今の自分に目の前で泣き崩れそうになっている少女に一体なにが出来るのだろうかと。
そしてナハトは取り敢えず瓦礫を取り除き、恵美里を愛里寿へと返そうと考え、片膝をつき恵美里の方へと手を伸ばす。
「………助けてくれるの?」
《せめて……俺に出来るのは…これくら___あっ!!》
ハジメは瓦礫を退かそうと恵美里の真上にあったコンクリートの塊を掴んでわずかに上へと上げた時に気づいた。恵美里の腰から下が潰れて原型を留めていない___ それを見てしまったハジメは絶句し、震える手で持ち上げようとしていたコンクリートを元の場所に戻す。その行為を見ていた愛里寿は混乱する。なぜ姉を助けるのをやめるのか、それが分からなかった。もしや、諦めろとでも言っているのかと愛里寿は思った。
「なんで!?なんで途中でやめるの!? お姉ちゃんはきっと苦しいはずなんだよ、早くそこから出してあげてよ…………なんか言ってよ!!ナハト!!」
《…………ごめん…》
愛里寿の叫びにナハトは俯いて拳を握り耐えることしか出来なかった。ナハトの額を流れる大粒の雨水は、まるでウルトラマンが泣いているようにも見える。ハジメは悔しいが愛里寿にこれ以上のショックを与えてはいけないと思ってこのような動きをしてしまった。
ナハトは、愛里寿に対して何も言わない。それが愛里寿のヒーローに対しての憧れが失望と憎悪に変えさせるのには十分なものだった。
「……私、どんな時も諦めないで、果敢に立ち向かっていくナハトが好きで…ウルトラマンが好きで………好きだったのに……こんな、こんなヒーローなんかいらない!!私の大切な人を守ってくれなかったヒーローなんて、いなくなっちゃえ!!」
《違う…。俺は…助けようと……》
「ヒーローなんか…大っ嫌い!!!……壊す、絶対にいつかアナタを私が壊す。怪獣も、ウルトラマンも、私を不幸にしたものを必ずいつか全部私が壊す!!」
愛里寿の目はもう澄んだ光は灯っていなかった。ただ自分が憎悪している相手を睨む瞳はあらゆるものを燃やし尽くすようなドス黒い焔で、熱く強く燃えていた。
《……俺は………違う、違うんだ…俺は…俺は………》
初めて人から巨大で明確な憎悪を向けられたハジメは、整理出来ない感情を持ったまま、エネルギー切れ寸前になっていることに気づかず、ナハトとしての姿を保てず霧散していく。
そして愛里寿へと手を伸ばそうとして光の粒子となって全て消えていった。
ザァーーーーーーー!!
ハジメの声は降り続ける冷たい雨に遮られ、愛里寿に届くことは無かった。
………はい。愛里寿嬢には堪えていただきたいところです。
この二人が次章、原作で劇場版にあたる第二章でのキーパーソンとなります。
マイナス感情を利用するのは影法師だけではありません。
恵美里お姉さんのイメージはブルアカの一之瀬アスナです。
※主人公設定の挿絵に、ガルシアさんのイラストを新しく貼りました。
リクエストを送ってくれたエメトリウムさんと、イラストを描いてくれたガルシアさんには頭が上がりません。本当にありがとうございました。
_________
次回
予告
一人の少女を救うことが出来なかったハジメは初めて味わった罪悪感に囚われながらもシンゴと共に静かに帰路に着く。
そして惨劇の中心にいた少女___島田愛里寿の心の闇を利用しようと星間同盟が静かに手を伸ばしていた!
「___私は、絶対に許さない…」
次回!ウルトラマンナハト、
【地獄の暗躍】!
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
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ハジメ、迷い家にて