旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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地獄星人 ネオヒッポリト星人、登場。


第19夜 【地獄の暗躍】

 

 

 

「お姉ちゃん……返事してよ…嘘だよね…?そうだって言ってよ…いつも通り笑顔で私と話してよ………」

 

愛里寿はナハトが消えた後も姉の恵美里の側に座り冷たくなってしまった姉の手を握って姉にはもう届かないと分かっていても話しかけずにはいられず、泣いていた。

 

「…………酷いよね……お姉ちゃんきっと苦しかったはずなのに、私、何も出来なかった……ごめんね…」

 

「______キミが、シマダ・アリスか?」

 

「!! 誰……?」

 

愛里寿は気がつくと自分の目に前に立っていたサングラスに黒い帽子を被った黒服の男に驚きながらも恐るおそる尋ねる。

 

「誰、か……ふむ、キミたち地球人に分かりやすく言えば………私は宇宙人と言うことになる」

 

「宇宙人……! お姉ちゃんには触れさせない!!」

 

目の前で自分を見下ろすように立っている男は、見た目は確かに人間である。しかし愛里寿は宇宙人のワードを聞くなりより一層警戒感を強め、倒れている姉の前に両手を広げて庇うように立つ。

それを見た黒服の男は首と腕を横に振りながら誤解を説こうと説明を始める。

 

「待ちたまえ。そう身構えなくてもいいのだ。私はキミに危害を加えるといったことはしない、むしろキミとそこの彼女を助けたいのだよ……キミの姉をね」

 

「……私のお姉ちゃんを? なんで?」

 

「最近、侵略異星人の登場によって私たちのような善意を持つ種族まで疑いの目で見られるというのは……いやはや、とても世知辛いな……。ああ、すまないね。なぜ私がキミの姉を助けるのか…だったかな? その答えは簡単だ。ただキミを助けたいのだ。私はキミのウルトラマンへの呼び掛けを見ていたが、キミの姉を想う姿に胸を打たれた……これほどまで清らかな心を持った少女が、このような理不尽で、不幸な目に会うのは違うと思ってのことだよ。

そうだった、まだ私の名前を言っていなかったな。私の名は…ヒッポリトだ。もしくは……そうだな…癒し手(ヒール)とでも気軽に呼んでくれ。」

 

自身の目的を伝えた男___ネオヒッポリト星人は、腕時計を触ると姿がボヤけ出し黒服姿から、蒼空の如きマントを羽織った二つ目の赤い宇宙人の姿へと変化した。一瞬の出来事に愛里寿は驚くが、彼なりの誤解の解き方だろうと考えた愛里寿は質問を続ける。

 

「…じゃあなぜ、ヒールはあの時、来てくれなかったの?」

 

「この地球にやってきたすべての宇宙人は今まで侵略目的であっただろう? ウルトラマンナハトはこの星の意思のような物だ。仮にも私は宇宙人であり、本来この星には存在しない異物……もしもウルトラマンの攻撃基準がその異物を基準に判断されるものだとしたら、私も消されるだろう。だからあの時はかなり苦しかったが私は出るのを堪えていたのだ。申し訳ない……」

 

深々と頭を下げる赤き異星人に対して、愛里寿は他に気になったことについて質問する。

 

「それは理解した。でも…さっき言ってた、ウルトラマンナハトは地球の意思ってどう言うこと?」

 

「ウルトラマンは完全無欠な全知全能の存在でも、どんな悲劇の物語をも終わらせられる…機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)でも、ない。かの存在は地球全体の守護者なのだ。小の犠牲を無視して大を救う……守る者の本質とは残酷なものだよ………そしてその犠牲に偶然キミの姉も入っていたわけだ。キミの姉は"見捨てられた"のだ、守ってくれると思っていたヒーローに、もう間に合わない、助ける必要はない命だと、犠牲になる命であると、判断された……実に悲しいものだ………」

 

「お姉ちゃんは……見捨てられた…?助ける必要なんかない命? おかしいよ、ヒーローなら助ける人を選ぶ、そんなこと、絶対にしない……見捨てていい命なんてない…」

 

愛里寿のヒーロー、ウルトラマンへの懐疑心がさらに増長したと判断したヒッポリトは、小さな単眼で器用に笑みを浮かべながらさらに続ける。

 

「そうだとも。そんなことは本来あってはならないのだ。私はそんな理不尽さを宇宙から無くす為に旅をしている者たちの一員だ。だから、キミの姉を、エミリを助けたいのだ……これで納得してくれたか?」

 

「本当に…助けてくれるの?」

 

「ああ。私たちの持つ技術ならば、死者の蘇生が可能だ。…だが思いやり無き善意の押し付けは悪意と変わりない。アリス、キミが選んでくれ。キミはどうしたい?」

 

果てしない喪失感と深く冷たい憎しみを患っていたこの時の愛里寿が、ヒッポリトの甘い言葉に乗ってしまうのは必然であっただろう。

 

「………お願いヒール。お姉ちゃんを生き返らせて!! そのためなら、私、なんでもする!!」

 

 

 

___愛里寿は悪魔の誘いに乗ってしまった。

 

「…分かった。キミのその気持ちは嬉しいが、安心してほしい。私は見返りを求めないよ。…私はありとあらゆる労力を惜しまない。必ずやエミリを救ってみせよう。だからエミリを一時的に私の施設に移送する。

エミリの蘇生を終えたら、私がキミに詳細を伝えに会いに行く。その時にこの装置を押してくれれば、我々の施設に転移することが出来る。施設から出る時は私が送るよ。さあ、持っていてくれ」

 

そう言ってヒッポリトは愛里寿の手にスマートフォンに似た機器を握らせる。愛里寿の目には光が微かに戻っていた。希望を見出した愛里寿は恩人となるヒッポリトに感謝の言葉を伝える。

 

「ありがとうヒール。私、これで救われる……感謝しかないよ…」

 

「任せてほしい。……さて、蘇生は設備のある私の施設で行う。そのため転移装置を使って今からエミリと周辺の瓦礫ごと全て施設に転移させる。アリス、下がってくれ」

 

「うん。」

 

愛里寿が瓦礫の山から降りて退くのを確認すると、ヒッポリトは両腕を恵美里の方に向けて、転移のために必要な処置を始める。すると恵美里の周囲が紫色の膜に包まれたかと思うと、消えてしまった。

 

「………これで、蘇生のための下準備は出来た」

 

「どのくらいでお姉ちゃんに会えるの?」

 

「心配せずとも、リハビリを含めて半年も掛からずにまた共に生活出来るようになるだろう。そう時間は______」

 

 

バタバタバタバタバタバタ!

 

「自衛隊………ウルトラマンやガメラと同じ……助けてくれなかった……」

 

「ニホンの国防組織の…救助隊か……ならば、そろそろ消えるとしようか」

 

愛里寿らの頭上を編隊を組んだ陸上自衛隊のブラックホークが通過していく。恐らくはここ以外の場所にも向かっていっているのだろう。それを見たヒッポリトは愛里寿に別れを告げて何処かへと歩いていく。

 

「直にここにも救助隊が来るだろう。私はここで失礼する。さらばだアリス。エミリの蘇生は私が責任を持って成し遂げることを誓おう」

 

「うん。またねヒール。お姉ちゃんをお願い…」

 

「悩みがあるのならいつでもその端末で私を呼んでくれていい。どんなに些細なことでも私がキミの力になろうじゃないか。 そう……例えそれが、ウルトラマンや怪獣を消したいと言う願いであっても、ね。 …私だけはキミたちの味方であることを、忘れないでほしい。私は常に力無き者の味方だ」

 

ヒッポリトはそう言い残すと先ほどの恵美里を転移させた物と同じテレポート能力で消えた。何も無くなって場所に、愛里寿が一人だけ残された。しかし、彼女は孤独を感じてはいなかった。姉が帰ってくるのなら、これくらいどうと言うことはないと。

 

そしてそこから数分経ったあたりで、ようやく自衛隊の救助がやってきたのだった。

 

「誰かーー!!いませんかー!!!こちらは自衛隊です!!!」

 

「……!! 生存者、一名発見!女の子です!」

 

「キミー!もう大丈夫だ!!よく耐えた……よく耐えてくれた!!」

 

「ここら一帯で見つかったのはこの子一人か……」

 

「ギャオスはガメラとウルトラマンナハトが倒してくれたから、安心しなさい。ほら、寒いだろう、この毛布を羽織っていなさい」

 

「家族の方はいるかな?」

 

 

 

「……いいえ…私一人です」

 

 

 

 

 

 

「96式をこちらにも回してもらえるのか?」

 

「被災者を徒歩で避難所まで行かせるのは酷というものだろう。本当なら自分たちが送ってやりたいが、こちらは東部へも向かわないとならないからな」

 

「ガメラとナハトが来なかったらさらに被害が拡大していたかもしれない。そこは感謝だな……」

 

 

 

「………私は、絶対に許さない…たとえ、お姉ちゃんが戻ってきても…!!」ジッ…

 

「ん?何か言ったかい?」

 

「……いえ、何も…」

 

「そうか……必要なものとか有れば言って欲しいな」

 

「…ありがとうございます……」

 

自分のことを助けに来た自衛官には愛里寿は殆ど反応しなかった。ただ最低限の会話のみである。だが、ナハトという単語を耳にした時、ヒッポリトとの会話時と打って変わって愛里寿は身体から滲み出そうなほど激しい憎悪で一杯の感情を含んだ重い言葉を誰にも聞かれない程の小さな声で、しかしハッキリと呟いたのだった。それは、自分と姉を見捨てて去ったであろうウルトラマンナハトと、日常を壊した怪獣___ギャオス、そして無能な周囲の大人たちへ向けたものであるのは、想像に難くなかった。

 

 

 

____________

 

 

黒森峰学園艦 戦車ガレージ前

 

 

 

 

「あ、ハジメ!お帰り!」

 

「…ん、ああ…イルマ、ありがとな」

 

「うん。でも……ハジメどうしたのさ、いつものキミじゃない…」

 

「………ちょっとな、うん。気にしないでくれ…」

 

「え、あっ………行っちゃった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

私は知っている。

 

「ねえ、アンタ何かあったでしょ」

 

「いや…気にすんな……」

 

ハジメが"気にするな"と言う時は嘘をついていると知っている。いつもの口調ではなく、突き放すような言い方になるからわかる。コイツがガレージに戻って来ないと思っていたら入り口手前のベンチに一人で座っていた。先ほどからずっとこの調子だ。今はみんなガレージ内でテレビをまだ観ているため、気づいているのは私とついて来たシンゴだけだ。

 

「ギャオスのニュース見てて嫌な記憶とか出ちゃったの?」

 

「違う…そんなんじゃない……気にしないでくれ…」

 

「お兄さん、どうしたの?具合が悪いの?」

 

「気にすんなシンゴ、なんでもないから…」

 

コイツがこんな風に何も無いと言う時は、嘘をついて何かをはぐらかしている証拠。私は知っている。小さい時も、しょっちゅうそれはあったから。私が嘘をつくのはやめろと言ってしまってからは聞くことは無くなっていたけれど。それが再発したってことは、コイツに何かあったとしか考えられない。シンゴも心配しているのが分かる。

 

私は知っている。似たような出来事は、過去に何度もあったから。

 

_________

______

___

 

そう、お互い幼かったある日は___

 

「ハジメのバカ!!なんで遅れてきたのよ!」

 

「なんでもない…ただすっころんで泣いてただけだよ。……その、気にすんな」

 

「ふん!バチが当たったのよ!!」

 

 

またとある日は___

 

「どうして約束破ったの!? すぐ私のお家に遊びに来るって言ってたじゃない!!何か嫌なことでもあるの?」

 

「………なんでもない、イッチと会っただけ。気にすんな」

 

「気にすんなは今ハジメの言うセリフじゃないわよ!!バカジメ!!」

 

 

またまたとある日は___

 

「ハジメ、ビショビショな格好でなんで来たのよ!それに、また転んだの?あっちこっち絆創膏なんか貼って」

 

「そんなもんかな…まあ、気にすんな」

 

「そーゆーところがドジなのよ!」

 

 

ハジメが怪我して来たのも、約束の時間にかなり遅れて会いに来たのも、服がびしょ濡れで体のあちこちについた擦り傷に絆創膏を貼っていたのも。その中の絆創膏の一つがなぜかボコのデザインだったのも、それらが全部誰かを助けた証だったことに私が気づくのが、いつもハジメ本人ではなく他の人間によって説明された時であったのは、アイツに対しての申し訳なさと何故自分を頼ってくれないのかと言う憤りが混在していたのは今でも鮮烈に覚えている。

 

「いやぁ〜嵐さん家の長男君がね、儂が麓で落としたケータイを見つけてくれたんだよ!藪に突っ込んだりして切り傷とかも作ってたけんど、颯爽と去っていかれてね〜。いやはや、ホントに助かったんだよ〜」

 

「………」

 

 

「え?ハジメが僕と会って遊んでたって? いや少し違うよ、ハジメが神社の階段を上がっていたお婆さんを見つけて、一緒に助けたんだよ」

 

「そうなの?」

 

「え? エリカちゃんはハジメから聞いてないの?」

 

「………」

 

 

「みほがヒカル君のお家に遊びに行こうとしてたらね、あの時のいじめっ子と会っちゃったの。そしたらあいつが叩きに来て……でもでも、ハジメ君とヒカル君が飛びかかっていって助けてくれたの〜!」

 

「じゃあ、あの絆創膏…」

 

「うん!みほのお気に入りのボコバン、ハジメ君ケガしちゃったからあげたの! もちろんヒカル君にも!」

 

「…………」

 

 

____

______

_________

 

 

今までハジメのしてたことを知らなかった自分が恥ずかしかった。誰かのために動いていたアイツに誤解していたことを謝ることも出来なかった。それでもアイツは私が問いただすとしらばっくれようとしたことには腹が立った。アイツ曰く、褒められるためでも自慢するためにもやっているわけでもないから言う必要はないとのこと。

 

違う、それなら、遅れた本当の理由を私に教えてくれたっていいじゃない。手伝えることだってあるかもしれなかったのにと思う。しかし、幼い頃の私は自分なりにその答えを導き出せたと思う。アイツは私を守らないといけない存在としか認識していないのではないか、共に何かを成し遂げる仲間ではないのではないかということだ。嬉しい半面、それを惨めに感じ、虚しさと不安に駆られた私は、さらにハジメに質問した。しかし、返ってくる答えは___

 

友達だから。

 

エリちゃんのことが好きだから。

 

二人だけの約束をしたから。

 

___であった。必要かどうかじゃなく、私が弱いからと言うわけではないらしい。その答えを聞いた時、またはぐらかされたと思ったが、今思うとアイツなりの正直な答えだったのかもしれない。

いけないいけない、話がかなり逸れてしまったが、つまりアイツの嘘をいろいろあった私はなんとなく察知できる、と言ったところだ。

私を何度も助けてくれたコイツの助けになりたい。私が取り除けるものなら、それをやってやりたい。

 

 

「いや、アンタ、一人で抱え込んでるでしょ」

 

「……………」

 

「エリカお姉さん……」

 

「こうなったらダメね…」

 

コイツは一度黙り込むと意地でも自分からは何も言おうとしない。こうなってしまうと何をどう聞いても無駄だ。だから私は遺憾ながらも今回は引き下がることにする。言いたく無いなら、無理に聞く必要は無い。

 

「分かったわよ。無理はしないで___「もしも、もしもさ…」___うん、聞いてるわよ」

 

「……命を落とした人の命を助けてって言われたら、どうする?」

 

ハジメはいきなり顔を上げて私の目を真っ直ぐに見てきた。誰かに、なにかに縋りつこうとしている必死な目。何が正しいのか迷っている目。そんな瞳で私を見てきた。私は一瞬たじろいでしまった。

 

「えっ、どうするって言ったって……どうも出来ないじゃない。だって……死んだら生き返ることなんて、ありえないんだから……」

 

「……それでも、助けないといけなかったんだ…」ボソッ

 

「えっ?」

 

「………ううん、ありがとうエリさん。少しは落ち着いたかもしれない。二度とあんなこと、起こさせたりしないさ……」

 

「? お兄さん、何のこと?」

 

「いや、気にすることじゃない。さ、業者さんの手伝いをしよう。そうすれば早くシンゴが家に上がれるからな。 エリさん、西住先輩とみんなには伝えといてくれ…」

 

「えっ、あ…………」

 

私はハジメが求めていた答えを言うことができなかったらしい。アイツの言っていることを私は分からなかった。それ以上なにも言うことは出来なかった。ただアイツがシンゴと一緒に先に寮に戻る後ろ姿を見ていることしか出来なかったのだ。

 

「ナハト、消えちまってたな。いつものようにシュワッチって飛ばなかったし」

 

「死んでは……いないよね?」

 

「まさかぁ………ん?ありゃ、ストームリーダー帰ったのか?」

 

「駄目だなぁ…ちゃんと帰宅する時は隊長に___って、どったの逸見さん?もしかしてハジメに嫌なことでも言われた?」

 

「……違うわよ」

 

「ま、そう言うなら深くは聞かないぜ。それにシンゴがいれば大丈夫だろ、あんな良い雰囲気だったんだし。ハジメなら本当にヤバい時は自分から言ってくる人間だしな」

 

「そんなの、アンタに言われなくても分かってんのよ!!」

 

「うわっ!そんな大声で言わなくてもいいだろ…」

 

アイツを一番知っているのは私だと、そう思いたかったんだと思う。でも、本当はアイツが抱えてること、悩んでること、何もかも分からなかった自分がいた。しかし、ずっとこちらがマイナスでいても仕方がない。駒凪の言ったように、待つことも大事かもしれないかもね…。

 

 

この選択は正しかったのか、今の私にはまだ分からない。

 

 

____________

 

太平洋上 大洗女子学園艦 生徒会室

 

 

 

 

 

「____んーーー、廃校…かぁ………いや〜ちっとキツいねぇ〜」

 

「会長、そんな悠長に言ってられませんよ!」

 

「なぜ我が校が廃校になるんだ!!」

 

生徒会室の応接用のテーブルを間に、一方に大洗女子学園の制服を着た生徒三人、もう一方には七三分けのメガネ役員___学園艦教育局長の辻廉太が座っていた。彼らは今、重大な話し合いをしている。学園艦の運命が決まる、そういった話である。

 

「………これはもう固まりつつある話なのです。もう一度言いますよ、今年の12月前には大洗女子学園は廃校の手続きに入っていただきます」

 

「そ、そんなの横暴だぞ!!」

 

「これは正式な取り決めとなるものです」

 

「なぜ私たちの学校が廃校になるんですか?」

 

「ここ数ヶ月で私たちの住む日本だけでなく世界は前代未聞の特殊災害に何度も見舞われています。この情勢を鑑みた一部の上層部の方々が、その大きさから有事の際に真っ先に標的となってしまうであろう学園艦の解体…廃校を試験的に開始するべきだと主張しましてね。取り敢えずは殆ど実績の無い学校から選出することで合意が成されたのです。その選出の第一候補として挙げられ、解体準備を行うよう指示されたのがあなた達の学園艦であっただけです」

 

「そんな……急すぎるぞ…」

 

「今後、我が国の何処に特殊生物や異星人が出現してもおかしくはないのです。急であろうと指示には従ってもらいます」

 

「そこをなんとかねぇ〜、どうしても無理なの?」

 

彼女たちを助けたい辻であるが、あくまでも自分は廃校を通達する役員として来ている。公私混同は危険な行為であることを理解していた。そのため、内心はなんとか彼女たちを励ましてあげようと思ってはいるが、それを押し殺して職務を遂行する。だが辻は彼女たちにとって最後の望みとなるであろうある話をさりげなく持ち出す。

 

「学業での優秀な成績…部活動での功績……例えば、甲子園出場、陸上などのインターハイ出場選手の排出等があれば、一考の余地はあるのですが、どれも不適ですね。………昔、昭和後期までは戦車道で名門黒森峰と並ぶ強豪の一角としてかなり活発な活動をしていたらしいですが……」

 

ここで一時相手、大洗の生徒会長を辻はメガネを片手で掛け直しながら様子を伺う。生徒会長___角谷杏の目は諦めてはいなかった。むしろ不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。暗い表情で下を向いてなどいなかった。

辻はこの子たちならばやってくれると、強く確信した。そしてあの言葉が角谷の口から出る。

 

 

「…じゃあ、戦車道やろっか!」

 

「か、会長!?」

 

やはり辻の予想は合っていた。最後まで諦めない心の強い人間はここにもいたのだ。辻は内から込み上げてくる歓喜を顔には出さず、耐えながらも悟られないよう、相手に疑われないように角谷の本意に対して聞き迫るような演技をする。

 

「ほお…今から、ですか?」

 

「この世の中だけど、もうすぐ夏の全国大会は始まるんでしょ? その優勝校をさ、廃校にはしないよねぇ?」

 

「…………そうですね、仮に優勝校となった場合は、11月の最終選考で再選定がされる可能性がありますね」

 

「いや、ちょっと違うよ。仮に、じゃない、必ず優勝する。絶対に。」

 

「…………分かりました。私の方で手続きの話は少し期限を伸ばしましょう。ですがこれはあくまでも猶予を与えたに過ぎません。そこは留意していてもらいたい」

 

「十分過ぎる猶予だよ」

 

辻は取り敢えず上への報告のために、文科省へと戻るべく席を立つ。

 

「それでは、また近いうちに会いましょう。戦車道活動支援金の申請書はまた後日郵送させていただきます」

 

そう言って退出しようと背中を向けた辻に角谷は疑問に思ったことを問う。突然思い出したかのように敬語で、である。

 

「………少し疑問だったんですけど、なんでわざわざこちらまで来たんですか?こんな話を伝えるなら、私たちを文科省まで呼び出せば良かったのに。なぜそれをしなかったんです?

もしかして……」

 

「ただ私のポリシーに反すると思ったからですよ。………それでは、頑張ってください」

 

角谷の言葉を遮った辻は一礼し今度こそドアを開けて退出していった。

 

 

「行っちゃいましたね……」

 

「会長、戦車道を………本当に復活させるのですか?」

 

「あったりまえよかーしま。だって、私たちの……いや、みんなの思い出がいっぱい詰まったこの学園をさ、なんにも知らない奴らに潰されてたまるかって話だよ」

 

「分かりました。各委員会、教師陣と調整を出来るように準備します」

 

「頼むねー」

 

「杏、出来るかな?私たちが優勝して、廃校阻止って…」

 

「出来るよ。やってみなくちゃ、結果は出てこない。…さ、こうなったら履修生を大々的に募集しなくちゃねぇ〜!忙しくなるよ!」

 

「「はい!!」」

 

 

「………多分あの人は、私たちにチャンスを用意してくれたんだよ。このチャンス、絶対にモノにしてみせる!!廃校になんかさせない!!」

 

 

自分たちの愛する学園艦を守る少女たちの戦いが始まった。

 

 

_________

 

極東アジア 日本国関東地方 東京都千代田区 

永田町 内閣総理大臣官邸

 

日本の代表である総理大臣がいる官邸の3階、南会議室では垂水首相や戸崎防衛大臣をはじめ、各省庁の関係者が今後の日本についての話し合いを行っていた。

 

「奴らが姫神島の生き残りの個体だったのだな…」

 

「現場から得たサンプルを生総研が回収し調べたところ、中東やアフリカで確認されているギャオスとは別の進化を辿っていたことが判明しました。新たにギャオスの細胞内にてサメやクジラ、マグロなどの遺伝子の強制発現へと移行していたのを確認したとのことです」

 

「うぅむ……戸崎君。最近になってオッドアイ、ギャオスなどの特殊生物や敵対性宇宙人…星間同盟と言ったか、そんな奴らに何度も本土侵入を許している。これは防衛省の怠慢ではないのかね?」

 

「ここで改めて確認しますが、アレらの出現地域は規則性が全く無く、完全な予想は不可能です。"(デン)"探知ソフトでの対応にも限界はあります。また、異星人のワームホールが探知不能であった原因は、現在生総研が究明を急いでいます」

 

「………だが、これで九州が戦場になったのは三度目だ……さらにはコッヴ襲来時の倍以上の犠牲者を出してしまった……それに各地の自衛官も…」

 

「連日、対特殊生物兵器の有効性を野党が追及してきているのだ……減らず口は相変わらずだが、自衛隊の防衛力の不足を指摘するなど、ったく…どの口が言っているのやら…」

 

「しかし今回の博多襲撃とほぼ同数の敵性巨大特殊生物が出現した欧州六月災厄と比べれば被害はまだ軽かった方ではないか?」

 

「それとこれとは話が違うのだよ! 福岡は九州の要所だ!インフラや建造物の再建、復旧・復興作業にはとてつもない時間と人員が必要だと理解しているのか!? まったく!ただでさえ臨時の防衛予算が膨れ上がって危ない状況であるのに!!」

 

そう財務省の幹部が紛糾している所に戸崎が割って入る。

 

「間違えないで頂きたいのは、我々も何も準備していないわけではありません。 それに、先の姫神島、中東、北アフリカのギャオス戦で得られたデータを当然皆さんも目に通しておられると思いますが、かの生物は生物学、物理学の常識の枠から大きく逸脱している存在です。 ヤツらは巨大になるほど生体ステルス能力は高くなり、イージス艦や地上の最新レーダー設備などさえ無力となるほどのものを持つようになります。それがどう言うことか、分かりますか?」

 

「なんだね、自分たちの不備を認めるのかね?」

 

「もはや本土防衛は水際で防ぐ事ことが困難になりつつあるのです! 以前国会にて一部議員らが提唱していた"臨界戦"など、不可能でしょう。 ……遺憾ながらも、各地で発見されつつある、太平洋海底、列島の地上遺跡群及びギャオスの研究進展により、奴らが超古代に作られた生物兵器であると言う我が国の生総研を含めた世界の主要研究機関による発表が連日されています。 それらの卵が存在する場所が全世界と言われたならば、これに対する完全な日本への侵入阻止は、出来ません…!」

 

「それならば、どうすればいいのだ?」

 

「我々は今後も、ギャオスだけでなく、宇宙や地下、"穴"からやってくるであろう存在の本土奇襲に、より一層の注意を払わなければなりません。発見後にいかに迅速に処理出来るかがカギになるでしょう。

そして、各地の文献や古文書には未確認の特殊生物であろう存在の記載が多数あります。それらが復活し活動を再開した場合、全てが人類に友好的な生物ではないはずです……。我々防衛省は未知の脅威から日本国と国民を守り抜くために生総研などの研究機関と共に数々の対特殊生物兵器を開発中です」

 

「「「…………」」」

 

「…我々の切り札はどうなっているんだ?」

 

垂水総理が戸崎に問う。

 

「まず、"Z6号計画"の各新型イージス、汎用護衛艦の建造は艤装の搭載も含め間もなく完了する予定です。そして、例の707号……やまと型特殊潜水艦一番艦〈やまと〉は目下、各種メーサー兵器、徹甲誘導弾発射機を搭載し、VTOL運用能力を付与している最中です。 また、特自に管轄を異動させる予定である陸自の首都防衛機動要塞〈ハイパーX〉の開発も順調に進んでいます。

最後に、生総研主導の大型機動ロボット開発計画___もとい"G-F計画"では大型特殊生物及び、敵性異星人と渡り合える40m級可変機動ロボット、〈XM-20 アドバンス〉も開発が始まりました。これらのうち"やまと"だけは早くて二ヶ月も掛からずに投入できる状況です。この兵器群が配備されれば、現状の打開は可能であると、考えています。それまでは現有戦力で対応せざるを得ませんが……」

 

その報告を聞いた垂水総理は歯痒そうな顔をする。

 

「そうか。分かってはいたが……防衛力の向上はやはり一朝一夕では難しいな……だが急務ではあるのだ。引き続き各計画はそのまま続けてほしい」

 

「分かりました」

 

「そして、生総研の話で付け加えますと、やはりガメラは南太平洋から飛翔して福岡までやってきたようです。勾玉を持った子供たちの予知能力というのも、馬鹿にできないかもしれません」

 

「ガメラだけでなく今度は欧州に現れたゴジラやモスラと言った非敵対性特殊生物の扱いについても、整理しなければそろそろいけないか。 ……さて、その話は後だ。次はロシアとの千島・サハリン海底パイプラインの建造再開についてと朝鮮半島への国際緊急援助隊派遣の第二陣の増員についてだな。 ……それと九州の国民地下シェルターの増設についても考えねば…」

 

彼らの国を懸けた会議は夜通しで行われる。

 

 

_________

 

同国 星間同盟秘匿地下施設

 

 

 

「やれやれ、"器"の片割れであり適性が高かっただろう姉の方を殺させてしまったのは失敗だったな…。 異次元人の生命体コントロール技術の使用はこの私でもまだまだ不完全といったところか」

 

星間同盟の先遣隊指揮官であるヒッポリトは一人、自身の薄暗い研究室で、資料端末を読みながら独り言を呟いていた。ツカツカと並の人よりも大きい、生命体収容ポッドの一つの前に立つ。そのポッドの中にいるのは愛里寿の姉、恵美里である。

 

「だが、確実に、これで地球掌握へまた一歩進んだと考えておこう。 エミリ、キミには貴重なサンプル体としてその細胞と遺伝子、使わせてもらうぞ。ククク……我ながらあの演技は良かったな、賞賛に値する。あれで彼女の負の感情も、他者への嫌悪も肥大化しただろう。まあ安心したまえ、聞こえてはいないと思うが、キミの妹にもしっかり役立ってもらうよ、神の器として、な。」

 

そう言って一度ヒッポリトは研究用デスクへと歩んでいき、デスクの上にある花瓶に入れて飾っていた花を持って恵美里のポッドの前に戻ってくる。そしてそれを見せつけるようにポッドの目の前に持っていく。

 

「ああそうだ、エミリ。私は最近、地球の植物に興味を持ちはじめてね……そう、この星に存在するどの花も美しい。地球人のように、それぞれに違った独特の儚さを宿しているところが好きなのだ……」

 

 

ヒッポリトは一拍おいて、声など聞こえないはずの恵美里に向かって問いかける。手に持った真紅の花を、差し出すように、ゆっくりと。それは最早狂気さえ感じる。

 

 

 

 

 

 

「さて……キミは、薔薇の花はお好きかな?」

 

 

 

 




どうも、お久ぶりナス!
間もなく一章後半に入ります。後半は星間同盟の構成員との戦いが中心となります。
防衛省強化パッチの内容をまた少し公表しました。ゲッターとXと大型の特別な潜水艦さえあれば…。


個人的にはヒッポリト君はスーパーの個体デザインでもいいけれど、一応去年描いたイメージイラストです。

【挿絵表示】


ヒッポリト君の最後のあの発言、それは劇場版第二章に回収します。みなさんはどんな展開になるか予想できましたか?

次回もお楽しみに!

________

 次回
 予告

ギャオスの福岡襲撃事件の翌日、エリカたち黒森峰戦車道チームは岡山のBC自由学園との試合のために準備を行なっていた。
そしてその相手、BC自由学園の隊長マリーは、怪我をして地球に迷い込んだベムスターを、湖で副隊長らと共にこっそりと看病しているという秘密を持っており、人類である彼女たちと怪獣の間に不思議な絆が芽生えつつあった。しかし、試合当日怪獣の様子は急変しており……?

迷いを抱えるハジメ。この先キミはどう動く!? 

次回!ウルトラマンナハト、
【迷子のベムスター】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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