旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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宇宙植物怪人 ソリチュラン、登場。


第23夜 【孤独への招待状】

 

___これは欧州や日本の東北の一件があった三日前の夜の出来事である。

 

 

 

 

 

 

日本国静岡県 焼津市 森林地帯深部

 

 

 

 

都市部から少し離れているこの森林地帯は、近くに民家などは一軒も無く、月明かりが静かに深緑の世界を照らすだけである。

そんな鬱蒼とした、薄暗い木々の下の茂みを掻き分けて森のさらに奥底へと足を踏み入れている中年男性がいた。

 

 

ガサガサ……ガサッ

 

「おそらく、ここの奥らへんに落ちたかな?」

 

彼は所謂隕石マニアと呼ばれている界隈の人種であった。小一時間前に星空を眺めていたところ、流星が二つ、燃え尽きずに輝きながらこの森林地帯に落下したのを目撃していたのだ。

明らかに隕石が地上に落下したはずなのに、着弾の衝撃波なるものや、閃光、衝突音すら無かった。そのため彼は自身の長年の勘を頼らずとも、これまでお目にかかれなかった隕石だろうことは想像出来た。

そこからの行動は早かった。深夜の…それも手元の灯りしか頼りに出来ない状態で森林の奥地へと行くのは、大変危険な行為であることは重々承知はしていた。だが好奇心には勝てなかった。彼は妻に万一のためのメールを打ち、人気など全く無い獣道に入っていったのだ。

 

「さてさて鬼が出るか蛇が出るか……楽しみだなあ…」

 

望遠鏡など、天体観測のための道具を仕舞い込んでいる大型のバックパックを、今一度背負い直して道なき道へ、まだ見ぬ未知の隕石への膨らみ続ける好奇心に後押しされてさらに歩みを進めていた。

 

 

しかし、彼の到着を待っていたのは、白煙を上げ、クレーターの中に鎮座する隕石ではなかった。

いや、厳密に言えば隕石の落下した付近にまで到着していなかった。

 

「足元まで視界が悪いか。……今日はここら一帯は濃霧だとは言ってはいなかったがなぁ」

 

そこには、彼の進路を塞ぐ壁のように、白く濃い霧が立ち込めていたのだ。彼は今日の昼間に見た天気のニュースの内容を思い出しながら目の前の状況への答えを探していた。

それでも、天気予報は、その名の通りあくまでも予想の域を出ないもの。アメダスなどから弾き出す降水確率と理屈は同じだ。例えその地域が90%雨が降るとされても、実際になってその残りの10%、つまり雨以外の天気となることだってある。

予想は予想。外れる時もばっちり当たる時もある。絶対と言うものは無いのだ。なってしまったものはしょうがない。

彼はそう自分に言い聞かせ、今後の動きについて考える。

 

「せっかく体力を使ってここまで来たが……何も見ずせずで引き返すのもなぁ……うぅむ……」

 

ガサガサ!!

 

「? なんだ、タヌキか、キツネか?」

 

一見、濃霧の壁にめり込んでいるように見える茂み。そこから何かが動く音が聞こえた。夜行性の小動物だろうか? 彼はそう思った。

 

……可愛らしい小動物なら、どれほど良かっただろうか。

茂みから音を出して"飛んで"きたのは、蠢くポリープのようなものが幾つも集合し、その下には無数の触手が垂れている存在だった。以前、卓上遊戯にハマった友人から見せてもらった、架空の怪物の一つと彼は照らし合わせていた。

 

「な、なんだこれは…!!」

 

そもそも生き物とも判別し難いソレは、男性の頭部目掛けて飛びついてくる。当然、彼も捕まったら何をされるか分からないと言う恐怖から必死にソレの執拗な攻撃と思われる動作を、時にバックパックを盾にしたりすることで、なんとか避けていた。

だがいつまでも同じことを続けて森から脱出し、助けを求めることなど出来るとは思えなかった。

それでも逃げる!ここから逃げなければならない!この霧の中には、何か恐ろしいものが潜んでいるに違いないのだから!

そうと決まればすぐに離れなければならない。

 

「くっ!…ひい、もうやめてくれ!私はただ、隕石を! やめろ!」

 

本当にゆっくりではあるが、飛行するポリープのようなモノからの攻撃を受け流しながら霧の壁から離れていく。

すると、月光を反射する真っ白な霧の中から、何本もの触手……ツタが突出してきた。

 

「!? あ、あぁぁあああああ!!!!」

 

浮遊する怪異への対応で手一杯だった男性の胴体に巻き付くと、そのまま霧の中へと彼を引き摺り込んだ。夜の森に響いた彼の悲鳴は、霧中に入ってから短い時間で止んだ。

 

 

 

 

「ほう……自ら足を運んできてくれた地球人が……ありがたくキミの心身両方を使わせてもらおう。……私のこの計画、必ず成功させ、この星を手中に収めてあの方に認めてもらおうじゃないか。ヒッポリトよ…私に番を譲ってくれたことに感謝する」

 

______この日の夜を境に、焼津市に不審者の出没と夜間の行方不明者が目に見えるほど急激に増加した。それも、日落ちから深夜に掛けて照明が無く、防犯カメラの無い場所、そして濃霧が発生しだした森林地帯付近で年齢性別関係なく行方不明となっていた。静岡県警はこれを連続誘拐事件と見て動き出した。

 

「ねえねえ、知ってる? 夜になってもずっと遊んでる子がいると、白い服の人に連れ去られちゃうんだって〜!」

 

「私、それ緑色の肌をした人って聞いたよ?」

 

「僕は頭が植物になってる怪人だって兄さんから聞いた!」

 

「寂しそうにしてる人を食べるんだっけ?」

 

「なんかね なんかね!夜、森の方で誰かが泣いてる声が聞こえるらしいんだ〜!」

 

そして市民…特に子供達の間で植物人間の噂が出始めていたのだった。

 

『これより、我々は静岡県警との協力体制を敷いて調査活動を開始する。同一、もしくは新たな異星人によるテロ活動であることも十分留意せよ。また万一の事態が発生した場合、即座に戦闘に発展することも予想される。各々の迅速かつ冷静な判断と対応を望む。以上だ』

 

自衛隊は今回の事件が、以前の高知県高知市での異星人事件と状況が酷似していたことから、規模と言う点で展開能力にまだ難がある特生自衛隊とそれを補強する各地からの陸上自衛隊選抜部隊を派遣するために特殊防衛出動の規約に則って準備態勢に入った。

また、地理的にも気候的にも濃霧が発生することがないはずの焼津市森林地帯の異変と、当地域への数日前の隕石落下を察知。さらには、そこに足を踏み入れた市民やそれの捜索しに向かった警官、そして森林周辺の住民らがことごとく姿を消したことから、上記の事件との関連性を疑い、最新の対NBC装備をさせた陸自第一師団と選抜派遣隊の混成普通科部隊による偵察、そして救助を計画し、編成・派遣の準備も始めた。

 

ここまでが大まかな流れである。

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

__孤独とは、なんだろうか。

 

 

 

 

 

時を現在の焼津市に戻せば、日が落ちた夜。まだまだ深夜帯でもないほどの時間。

傾斜地の住宅街、コンクリートで舗装された坂道を早足で歩く人影が一つあった。

それは黒森峰の生徒であり戦車道チーム隊長、西住まほだった。

 

「いけない いけない…まさかこんなに時間を掛けてしまうとは…」

 

どうして日が傾ききった時間まで外出をしているのだろうか?

ただ自分は陸でしか買えないような備品を揃えるために買い物をしに、学園艦を降りただけだ。しかも、それほど品薄になりそうな商品だったわけでもなかった。

 

「外泊許可願書も提出してはいないし……ブリッジ閉鎖時刻までに間に合うとは思うけれど…」

 

魔が差したのだろうか。友人との付き合いに。

戦車道の練習が休みだった今日、実はエリカやマモルと言った履修生の後輩たちから一緒に外出しないかと誘われていた。だがそれを断ってこうしている。エリカは最後まで付き合うと言っていたが、一人にしてほしいと言ったら大人しく下がってくれた。

 

「……………私は、どうしてほしかったのだろう」

 

足を止め、ふと出た一言。

あの時、こちらの意図を完璧に把握してみろと言う答えの無い意地悪を言ったも同然だった。

どうせ、戦車道以外での私を本当に理解してくれてる人間は、血の通っている妹のみほぐらいではなかろうか。

……いや、妹も幼馴染の後輩達も、きっと分かっていない。きっと実の親さえも……分かってくれない。

 

「素直にファッションやらに自信が無いとエリカに言えれば良かったのか…?」

 

だが、これも全て自分のせいなのだ。必要以上の交流を自分はしようとしなかったし、相手がそれ以上関わることを無意識の内に拒否するようになっていた。

……みほがいなくなってからだろうか、さらに自身の殻に深く閉じこもって、新しい物を受け入れることもやめたのは。停滞という変化の無い平穏を自ら選んだのは。

 

人は生まれた時には、もう人生の大部分は決まっているものだと思う。

国、地域、家族、家柄、性別……そう言った構成要素で殆ど決まる。

他国に生まれた子供達に比べれば、自分は自由かつ幸福な人生、遥かにマシな人生を送ってるのかもしれない。

 

「っ……………」

 

___本当にそうだろうか? いや真に自由で幸福な人生など、私は送ってなどいない。そう断言できる。

私は偶然日本に生まれ、さらに偶然、戦車道という武道の流派の直系である母のいる家族の下に、長女として生まれた。

理不尽だとすら思う。そこの家にさえ生まれなければ、普通の家庭に生まれていれば戦車道以外の、楽しいこと好きなことに出会えたかもしれない。女として生まれなければ、戦車道をやることにもならなかったし、きっと今の家に生まれてきても今より大分自由な生活を送れていただろう。

ただ、西住家に生まれず、他の家に妹と一緒に生まれれば良かったと思うのは欲張りすぎだろうか。そう思ってしまうことがあるのは自分だけだろうか。

 

西住流の者として、戦車道をする………勝利は必然のこととして戦う………当たり前のようにそれらを続ける。延々と。好きでやってたものが、変わってしまった。

色が無い。自分でもそう思う。自分だけだそう思うのは。私以外でそっくり同じ立場にある人間など、この世にいないから。

 

西住流の人間として、戦車道の隊長として、黒森峰の生徒としての自分以外を知ってる者はいるか? 夜な夜な、さまざまな物に押し潰されかけて涙を流していること、それを堪えているのを知っている者はいるか?

恐らく…いない。そう言った話を自分から切り出すこともそんな勇気もほぼ無かったから。

私の感じている苦痛を、重圧を、不安を、理解してくれてる者はいるだろうか。

いない。他者の心情を汲むことは出来ても、それは完璧ではない。

私の心を理解してる者、心に穴が空いていると分かってくれている者はいるだろうか。

絶対にいない。分かってくれているのなら、当に声を掛けているはず。そしてそんな機会を潰してきたのだから。

 

一人もいない? 冗談だろう?

 

「私は………」

 

ひとりぼっち、なのだろうか。

 

「………はっ、柄じゃない。意味の分からない、答えなど無いような自問自答を繰り返す……ほんとうに、今の私はどうなってるんだか……こんなので本当に戦車道で……」

 

ああ、また言っている……。もう先のことを考えるのをやめたい。人生、九割苦しいことであっても残りの一割で頑張れると言う者もいる。私には到底出来そうもない。

……一度は思ったことはないだろうか? キツいことや面倒なことをする時は意識が消え、もう一人の自分が勝手にやってくれて、楽しいことなどをやる時のみ自分に意識が戻ってくるといった、なんとも都合の良い……物事を自分の代わりに誰かが肩代わりしてやってくれるという妄想を。

 

「小さいころ、それも夏休みの時はいつもそう思ったりした気がする…」

 

しかし現実はそう甘くはない。自分でやらなければならないことは自分がやらない限り、何も進まない。意識を手放して、気づいたら片付いていたなど、そんなことは起こらない。

 

「ああ、そうか………」

 

今分かった。どうして今日、自分はこんなことをしているのか。

 

何も考えずに一人でいたかった……ただそれだけだった。正直、夜が来なければずっとそれが続いてほしいと思っていた。今一度考えてみればおかしなものだ。独り身になってしまうことを恐れておきながら、一人にさせてほしいと願っているなんて。……しかし残念ながら、明日は授業も戦車道の練習もある。いつまでもこうしているのは許されない。

 

「……………」

 

そう思うと憂鬱だった。何も考えずにいれる時間は、もう終わったのだから。

寮の自室に戻ったら夕飯、洗濯、風呂、勉強、作戦立案、就寝………頭の中で並べただけで目眩がしそうだ。逆に考えれば、よく今までやってこれたものだと思う。

 

遠くの海の方を見れば、黒森峰の学園艦が見える。

急がなくてはいけないのに、足取りが重くなる。自分の空間である、帰るべき場所に帰るのが嫌なのだろうか。それすらも苦痛なのか。

自分ですら自分の把握が出来ない……。一人にしないでほしい、寄り添ってほしい…だけれど本当に理解してない人間には近づいてほしくない………自分の中で思考がグルグルと渦巻く。頭が痛い、苦しい…。

 

 

まほは悩みを溜め込みすぎていた。処理できずに飽和状態になるほどに、である。

吐き出す機会も吐き出せる場所も人物も無かった、頼れなかった。まほもまた、自分で自分を追い詰めていた。他人が気づくこともないほど上手く隠して。

 

そんな彼女は、運悪く標的とされてしまう。

 

「______あなたは、孤独ではありませんか?」

 

「え?」

 

ふいに背後から声をかけられたまほは、驚きながらもすぐに振り向いて確認する。今の質問が本当に自分に向けられていたものなのかを確かめるために。

振り向けば、そこには白いフードを被った自分と同じほどの背丈の少年が立っていた。心なしか、後輩のマモルに似ている気がしなくもなかった。怪しいと思う反面、妙な安心感を漂わせている。

 

「誰だ?」

 

「辛いですよね。苦しいですよね。悩ましいですよね。切ないですよね。生きている限り苦痛からは逃れられません」

 

「な、なんなんだ…?」

 

少年はゆっくりとこちらへと歩み寄ってくる。

 

新手の宗教勧誘だろうか? そう思いたい。目の前の存在がヒトとは違うモノだとなんとなく感じたから。

 

心の中では警鐘が鳴り出した。アレとは関わるなと。持ち物をほっぽり出して、踵を返して逃げろと。

しかし、そう思う一方で、自分のことを理解してくれている人物なのではと意味の分からない期待をしてしまっている自分もいた。

動けない。どうすればいい?

 

「楽園に連れていってあげます」

 

「ひっ……!」

 

気がつけば彼は自分の真前に立っていた。こちらを覗く瞳には小さな一筋の光も無い。ずっと見ていたら吸い込まれていきそうな深緑の眼差し。

 

「もう心配はいりません。心も身体も一つになれば、何も気にすることも考える必要も消えます。大いなる一つの意識という揺り籠の中でずっと生きていけるんです」

 

「な、何を言って___」

 

ブシュッ!!

 

「うっ!?」

 

突然目の前が黄色い粒子でいっぱいになり、視界が悪化した。驚いたまほはそれを勢いよく吸い込んでしまう。

 

「けほっ!ゲホッゲホッ! あ"、あぁ………」

 

最初は咽せて苦しかったが、しばらくすると楽になりだし、意識が朦朧とする。

 

「……み………な…」

 

ドサッ!

 

まほは遂に意識を失い、力なく倒れる。買い物カゴからはあらゆる物が飛散する。

 

「………おやすみなさい」

 

意識が途切れる前の最後にまほが見た光景は、自分のことを見下げる、大きな黄色い花であった。

 

 

 

 

____________

 

 

翌日

 

 

黒森峰学園艦 校舎

 

 

 

 

 

「西住先輩が失踪だぁ!?」

 

「声が大きい駒凪!……さっき私、呼ばれたのよ。副隊長なら、何か通達とかあったんじゃないかって。でも、西住隊長なら先に学校側に話してるはずじゃない?」

 

男子三人と女子一人が一つの机を囲み、顔を近づけてなになら話していた。

その女子とはエリカだった。エリカは先ほど素っ頓狂な声を上げた駒凪に周囲への声量の加減を口に人差し指を当てながら注意する。

改めて、エリカは真剣な表情で今のところ自分の持っている情報を、ハジメとヒカル、そしてまほの乗る"Ⅴ号戦車 パンター"の整備班長でよく彼女と接することがあったマモルに話す。

 

「そうだね…じ、じゃあ他の情報とかって…」

 

まほに想いを寄せているマモルは出来る限りまほの状況の把握をしたいようだ。

 

「………住宅街で、隊長の財布と買い物カゴが落ちていたらしいの。カゴの中身は飛び出していたらしくて状況的にも、失踪というより、個人的に誘拐されたんじゃないかって思ってるわ…。それに、学校はまだ家元にこの話をしてないらしいの」

 

「おいおい…それはマズイんじゃないか?」

 

「なんで、なんでまほさんが誘拐されなくちゃいけないんだ…!」

 

「…イッチ、言い方はアレだけどな、誘拐の目的はいくらでもあると思うぞ」

 

「ああ。例を上げるなら、才色兼備の西住流の令嬢…名門黒森峰の生徒…しかも夜間一人での帰路。これだけでも狙われる理由としては十分だと思う」

 

ヒカルと意見が同じらしいハジメが続けて喋る。

 

「ナギ、ハジメまで…」

 

「どうやって西住先輩の位置を把握して実行したかってのは知らんけどな…だけどなイッチ、俺らだって同じ心持ちだぜ」

 

「うん、ごめん…」

 

会話が途切れると、今度はエリカが俯きながら、拳を作り手を微かに震わせ、絞り出すような声で話しだす。

 

「…私のせいよ………あの時、半ば強引でもいいから、隊長を誘っていれば………こんなことには…」

 

「エリさんのせいじゃないよ…」

 

「いいえ、私のせいよきっと。………まだ、私は一人じゃやってけない……隊長が帰ってこなかったら、私……私……!」

 

堪え切れず涙を流しそうになるエリカ。ハジメやマモルが声をどう掛ければいいのか戸惑ってしまう中、ヒカルがある話題を切り出した。

 

「今日、午前授業だったよな。」

 

「あ、ああ。そうだけど、ナギ、どうしたんだ?」

 

「………みんな、西住先輩を助けに行く覚悟はあるか。ヤバい奴らと対峙する覚悟はあるか」

 

「「「!!」」」

 

静かに、いつもの調子づいた口調では話さないヒカルが発したその言葉に一同は驚く。

 

「それって、どういうこと!?」

 

涙を拭ったエリカが勢いよくヒカルの方に身体を傾け真意を問う。それは他二人の心情の代弁でもあった。

 

「………笑い飛ばすなら笑え、冗談じゃないと言うならすぐに教材纏めて移動教室の準備をしたっていいからな。いいか?」

 

「「「…………」」」コクッ

 

三人はヒカルに頷く。

 

「………ここらで数日前から流行ってる、植物人間の都市伝説の噂、知ってるか?」

 

「あ、それ俺もシンゴから聞いた。児童教室で陸に遊びに行った他の子達から耳にしたって…」

 

「齧った程度なら…」

 

「僕も知ってるよそのウワサ。……もしかして?」

 

一拍置いてから、ヒカルが説明する。

 

「その噂に出てくる、植物怪人ってのがな、ホントにいるらしいんだ。恐らく怪獣だって。

さっきもその手の掲示板のスレちょこっと見てみたんだけども、どうやら、少し前から厳しい濃霧に曝されてる森林がきな臭いって話で、自衛隊も動いてるらしい…」

 

「え、ナギそれってつまり…」

 

「イッチの予想通りだと思うが、一応言うぞ。みんなで、この後、その林中に行かないか。俺は賢くねえから、西住先輩の消息を確かめるにはこれしか思いつかないんだ。なあ、どうする?」

 

ヒカルが神妙な顔つきで三人を順番に見つめる。彼は覚悟を決めているようだ。冗談として片付けれるものじゃないことは明白である。

高校生であるハジメ達に残された唯一の捜索作戦の提案。必ずしもそこにまほがいるとは限らない。だが、そこにいる…そういった確信に近いものが一同の中にはあった。ヒカルの提案を蹴る人物はいなかった。

 

「………全会一致だな」

 

「ハジメ、アンタも行くのね?」

 

「ここまで聞いておいて自分だけ降りるのは無いでしょ。それに、チームメイト云々の前に、西住隊長は小さい頃から知ってる友達だから」

 

「僕も、このまま何もしなかったら、ずっと後悔することになりそうだと思うんだ。僕はもう一度、まほさんに会いたい。絶対に見つけてみせる…!」

 

ハジメとマモルも覚悟は決めている。道中で、例の怪人会うかもしれない…だがやめる気はさらさら無かった。

 

「…そうよね。私も、行く」

 

「作戦はこのメンツでやる。かなり危険だが少数精鋭だ」

 

「ああ。人数は限りなく少ない方がいい。自衛隊や警察にも見つかっちゃダメだ。見つかっていいのは、最低でも西住隊長を見つけて、連れ帰る時……」

 

「やろう。みんなにとっても、僕にとっても西住さんは、大切な人なんだ。一人になんて、させない…!!」

 

こうして、四人による隊長捜索作戦は準備段階を終えた。彼らは午前の授業が終わると、各自下宿先の寮へと帰り、必要な装備を整えた。

陸地に足をつけ再び合流後、なんとか自衛隊や警察の目を掻い潜り、前日よりも広範囲に拡大しつつある濃霧に包まれた森林の中へと、踏み込んだ。

 

「スコップ、持ってきてるわよ」

 

「僕はペンチを…」

 

「俺の武器は金属バットだ。マモル、西住先輩を助けるんだろ」

 

「うん…僕が、西住さんを、助ける…!!」

 

「………さあ、いこう……!」

 

 

____________

 

 

 

関東地方 静岡県焼津市 森林地帯中枢

 

 

 

昼下がり、本格的な夏に入る前のこの時期、軽く汗が流れ出るほどの陽気になる。

しかしながら、誰もが汗を流しはじめる暖かさに包まれた森の中を突き進む緑人の集団があった。

 

ザッザッザッザッ…チャキッ

 

「霧の中に入ってから、かれこれ400メートル弱か…いや、拡大してからだと450か…? たしかに、これくらい濃い霧が立ち込めてるなら、ヘリは無理だな…」

 

「隊長、今のところ、例の植物人間と浮遊肉塊との遭遇はナシ、ですね」

 

緑色、森林迷彩の"00式個人防護用装備・改"で全身を包んで暑さによって汗を流しながらも進むのは、特生・陸上自衛隊の各方面隊から選抜派遣された隊員たちで編成された合同普通科小隊である。

 

上からの指令では行方不明者の捜索と発見後の即救助とされているが、彼らの、特に特生自衛隊員の武装はとても救助を念頭に置いたものには見えなかった。陸自隊員と同様の89式小銃やMINIMI軽機関銃、鉄帽に取り付けた〈個人用暗視装置〉といった装備だけでなく、今年から調達が開始された〈20式小銃〉や自衛隊でも元は施設科装備として調達された火炎放射器である"携帯放射器"を、森林地帯などでの局所的運用を想定して改良を加えられた〈携帯放射器2型】、多目的装備として運用されている〈84mm無反動砲〉を担いでいる隊員が多々見受けられる。それらはこれまでの証言や情報から考え出された、"いざ"という時のための装備であることは明白であった。

 

「夜間の市街地郊外に現れ警官隊に射殺された、植物人間からは、強力な睡眠作用を有する花粉を放出する器官と思われるモノが解剖で発見されたと言ってましたけど…」

 

「仕事が早いなぁ………だが浮遊する肉塊の情報は依然として謎だし、植物人間の方も、すべて調べがついたわけじゃぁない。各員、油断するなよ。特に倉田、お前のことだからな。特自の人の足を引っ張るようなことすんなよ」

 

「伊丹隊長ぉ〜、自分は油断なんかしないっすよ!!」

 

陸上自衛隊駒門駐屯地、第1師団隷下、第35普通科連隊第3普通科中隊から派遣された伊丹耀司(イタミ・ヨウジ)二等陸尉、倉田武雄(クラタ・タケオ)三等陸曹、WACの栗林志乃(クリバヤシ・シノ)二等陸曹らも選抜部隊の一員であった。

彼らが上述のような話していると、横からフルフェイスヘルメットと黒色の独特な戦闘服を着込んだ二人の特生自衛官が会話に入ってきた。

 

「ちょっといいですか、伊丹二尉」

 

「ん、おたくらは…?」

 

「特自中部方面隊第5師団、第7普通科連隊所属、永井圭(ナガイ・ケイ)三等特尉です。こっちは___」

 

「同じく、特自第5師団第7普連所属!中野攻(ナカノ・コウ)三等特尉です、よろしくお願いします。伊丹二尉」

 

話しかけてきた特自隊員達は、以前四国に出現した異星人事変で現場にいた、ハジメ達と接触したあの二人だった。彼らも、特殊生物・敵性異星人との戦闘を経験したためか、派遣部隊の一員とし寄越されていたのだ。

 

「バイザー越しで話されても顔が見えないな……まあいいか、伊丹だ、よろしくお二人さん。いやぁ第5って聞くとなぁ、北海道の陸自機甲師団の方が出てきてごっちゃになるな…」

 

「ははは……特自の上層部も第14旅団に名称を変えようとしなかったので」

 

「こんな話をしたくてきたわけじゃないだろ? 何か気になることでもあるのか? 周辺警戒を怠らないように索敵を続けながらでもいいなら、話を聞くぞ」

 

「伊丹二尉…ですよね、コッヴ・アルファ・ベータ襲来後の特殊防衛出動の迅速な草案作りに一役買い、小型特殊生物や異星人との局地的戦闘の発生を誰よりも早く予見して それを発表していたという自衛官は。他にもいろんなとこで何かしてるって」

 

「こっちにまでしっかり知れ渡ってますよ、伊丹二尉の活躍は全部」

 

「活躍とか、そんな大それたものじゃないさ。特撮・アニメヲタク全開の話を、公の場で真面目な顔して話したあの苦労は酷いものだった…」

 

「ですが、今回の作戦に参加してるってことは、そういうことですよね? 伊丹二尉、あなたに会えて自分は光栄ですよ」

 

「伊丹隊長、こっちに来る前の話、してくれなかっすもんね」

 

「別に教える必要性はないと判断した、それだけだからな。そろそろ話は切り上げて……おい、あそこ、あれ見てみろ」

 

自身の話題に対して応えながら、伊丹は自分の目が捉えたモノの方へ顎を指して他の隊員達にその存在を知らせる。

その視線の先には、大きく開けた土地があった。しかしその開けた箇所は自然と出来たものではなく、中心にはクレーターが出来ていることから、何らかの落下物が激突して木々を薙ぎ払って形成された空間であることが見てとれた。

 

ドクン…ドクン…ドクン…!

 

「アレは……」

 

伊丹が見つけたモノとは、そのクレーターの中心で脈打つ軽自動車大の大きさの、ゴツゴツとした黒い隕石だった。暗視装置越しでその隕石を見ると、熱を大量に放出してることが分かる。

伊丹ら普通科部隊は、周囲に敵性存在がいないかとクリアリングしつつ、クレーター跡地へと足を踏み入れる。

 

「これは生きた隕石……いや卵か…?」

 

「周囲に放出してるのは、熱以外だと微弱なプラズマのみっすね…計測器には放射線、その他人体に有害な物質は探知出来ず。まあ、でっかいバッテリーと考えれば簡単かなと思います」

 

「バッテリーねぇ……なんらかの目的で電力を溜め込んでいる隕石…人工物か? まさか…これが行方不明者の末路なわけないよな」

 

「倉田ぁ、まだ触るなよ。ビリビリと感電して生でコンガリなんて俺は見たくないからな」

 

「わ、分かってますって!」

 

「これ、上海のオッドアイ隕石体と似てる気がしなくもないな…」

 

不気味な隕石から一定の距離を取って観察するに留める伊丹達。永井は落下物であろうこの隕石の見た目が、上海に以前出現し、朝鮮半島と日本山梨県にて暴れたオッドアイ___ガンQと僅かに似ているように感じた。

 

「……なあ、永井」

 

「なんだ、中野」

 

何らかの事象に気づいた中野が、永井を呼ぶ。話の内容を聞いた永井は伊丹や他の隊員達数人を呼び説明する。

中野が言うことには、"ここのクレーターは一つではない。二つある"……とのことだった。確かに、よく見れば禿げ上がった地面にある衝突痕は、一つの衝突痕の横に、それを上書きするかのようにまた違う衝突痕があった。

それが示す意味は、ここに降ってきたものは、目の前の黒い塊以外に最低でもあと一つあると言うことである。生き物か、物言わぬ非生物かはまだ分からない。

 

「……しかし、それっぽいもんはないな…」

 

「降ってきた片割れが宇宙生物で、どこかに逃げたって線もあると思いますよ。隊長の思考を元にさせてもらうと」

 

「調査目標が一つ増えたか……」

 

ガサガサガサッ!!

 

「「「!!」」」

 

「……中野、どうやらそうも言ってられないぞ…」

 

「ツイてないな…全く…」

 

「…各自射撃準備。」

 

中野が気怠げにぼやいた時、普通科部隊の人間らはこちらの周りを囲みはじめた多数の影を見る。

それらの存在を認めた伊丹は普段のお気楽な雰囲気とは明らかに違う、低く冷徹な声色で周りにすぐさま攻撃態勢を取るように指令する。それに従い普通科部隊の各隊員は陣形を組み出す。

その間にも、包囲する影は増えていく。

 

「これだけの数、どこから湧いてきやがった?」

 

「ようやくお出ましか……植物人間…!」

 

「でも、アレ 人に見えますよ」

 

「倉田さん、あれは擬態だよ 四国の時もやられた手だ」

 

「攻撃対象だ。狙いを定めて迷わず撃て。」

 

 

「やれやれ…厄介な訪問者が50人ほど、ですか。"腫れ物"と"主人"は休んでいるところですが…私達だけでも、あなた方を導きましょう」

 

草木の切れ目を境にぐるっと普通科部隊を囲んだのは、白いコートを身に纏い、微笑を浮かべる少年少女達であった。

彼らの表情もさることながら、完璧な一定の間隔で規則正しく並んでいる光景は、とても不気味に感じるものがあった。

 

伊丹達は姿形が人間である白衣の集団に小銃や火炎放射器を向ける。

しかし他国の軍人でも異形の怪物でもない存在に銃を向ける異様さに戸惑いと違和感、罪悪感を覚える隊員も少なくなかった。

それをよそに、銃を向けられているのにも関わらず、白衣の集団が普通科部隊に歩み寄りだした。

 

「あなた方も、共に行きましょう」

 

 

「行くって…どこへ…?」

 

「おい!向こうの姿は人間だが、戸惑う必要はない!!」

 

「で、でも、それでも人ですよ…?」

 

「構うな、奴らの言葉に耳を傾けるな。射撃用意!!」

 

 

「この世の楽園です。なぁに、あなた方もすぐに馴染めますよ。さあこちらへ…サァ、オイデ」

 

そう言って白衣の集団の一人だった少年が草木の切れ目に足を踏み入れると、その姿は蔦と花に覆われた植物人間___ソリチュラン にみるみる変わっていき、本性を現した。

 

「うぁ、顔が……!」

 

「なかなかグロテスクじゃないか」

 

「これでもう決まりですね。」

 

明確な敵性存在と対峙したことを確認した伊丹が、改めて接敵したことを声を張り上げて知らせる。

 

 

 

「コンタクトッ!!!」

 

 

 

真夏の昼…白霧に閉ざされた森林の中で、激しい破裂音が連続で響き始めたのが、戦闘開始を告げる合図となった。

 





お久しぶりです。投稿者の逃げるレッドであります。
大変間を開けてしまってすいませんでした。下宿先での生活と、定期テストなどが重なり、投稿用のストックが3話分まで減少していたため、ストックが一定数に戻るまで投稿を勝手ながら停止していました。
失踪はしないので、これからもどうぞよろしくお願いします。

________

 次回
 予告

焼津市森林地帯深部にて伊丹ら自衛隊がソリチュランの軍団と戦闘に突入した。腫れ物や主人と呼ばれる存在は何なのか?
一方、森の中へと歩みを進めていたハジメやマモル達。遂にまほを見つけることに成功するが、そこに広がるある光景を目の当たりにした彼らは、何を思い、何を感じるのか?

次回!ウルトラマンナハト、
【深緑の楽園】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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