逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 4式

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植物宇宙人/生物X ネオワイアール星人、
宇宙植物怪獣 ソリチュラ、
寄生怪獣 マグニア、登場。


第24夜 【深緑の楽園】

 

ダタタタタタタ! ダタタタタタタ! ゴォォオオオ!

 

霧に覆われた森の中、曳光や閃光と赤い光流が短いスパンで連続で発生している。聞こえてくる破裂音と燃焼音、爆発音から、それらが戦闘の発生により起こっている人為的な事象であることを物語っている。

 

ドシャァ……!

 

「栗林、突出しすぎるな! 可能な限り距離を取れ!」

 

「近すぎるから銃剣で刺突してるんです!」

 

ソリチュランの軍団に包囲攻撃を仕掛けられた普通科部隊は、近接戦を余儀なくされたが、対NBC装備と近代兵器の恩恵により、脱落者はいなかった。

無限に湧いてくると思われたソリチュランの波状攻撃は段々と鳴りを潜めていく。

 

ダタタタタタタ!

 

「永井、マグ!」

 

「お前は無駄な消費が多い!!これでラストだぞ!!」

 

「放射器 前!! 横薙ぎに振るんだ!ここらは草木が生えてないから延焼の心配は無い!やってくれ!」

 

「りょ、了解!」

 

ゴォォオオオ! ゴォォオオオ!

 

襲いかかるソリチュランの群れに、携帯放射器から高温の火炎が放たれ、身につけている白衣ごと焼却し、近づいた者から次々と物言わぬ亡骸と化す。

無事な個体、死に体の個体も関係なく、何度も伊丹たちに意思と肉体の統合を語りかけてくる。それらの仕草・口調がシンクロしており、最早狂気の域を越えていた。

 

「「「共に還ろう、私たちは全てを受け入れる。」」」

 

 

「話を聞いてれば、人としての生を捨てるってことじゃないか! 俺はそんなこと絶対にしない、趣味を楽しむことも出来なくなるからな!!」

 

伊丹達にその誘いは通用しなかった。彼らの意思によって誘いは突っぱねられ、答えとして返してきたのは無数の弾丸と炎の文字通りの雨であった。

 

ダタタタタタタ! ダタタタタタタ! ダタタタタタタ!

 

「お前らと一つなって出来る良い事をあと100個ぐらい言えるようになってから…出直してこい!!」

 

普通科部隊に襲い掛かったソリチュランは現代兵器の前には無力であった。彼らはしぶとく戦ったが、数分後には最後の個体が火炎放射によって焼き払われ、燃え尽きた後、森は一時の静寂に包まれた。

 

「各種弾薬の残りは?」

 

「特自の携帯タンクはどれも三分の一を切ってます。銃の予備弾倉は各員2〜3ほどですね…」

 

「今と同規模の攻撃があったら崩れるな……」

 

「だがさっきの奴らの話を信じるとしたら、親玉が奥にいるってことだろ? それに行方不明者をそこに連れてったこと仄かしていたし、行かない選択肢は無い」

 

伊丹はあくまでも行方不明者の発見と救助に重きを置いているようで、一歩も引く様子はない。

このままでは先へと一人で進みそうな勢いであったため、同じ所属であった倉田、栗林と特自からは火力抽出ということで永井と中野が同行する流れとなった。

視界が満足に確保出来ず、敵側が優勢のフィールド内で少数による行動は致命的であることは伊丹も重々承知していた。しかし行方不明者らの安否を早期に確認するためにも、動くべきであるという意思が勝ったからである。

 

「罠であっても行かなければならない…ですか」

 

「この目で確かめないと事実は分からないからな」

 

よって、計5名の深部進行班以外___残りの普通科部隊の隊員達は黒色隕石の破壊後、一時的に後退するという動きにまとまり、彼らはそれを実行に移した。

 

 

_________

 

 

森林地帯 深奥部

 

 

 

霧に包まれた森の奥地。そこには、樹齢は四桁よりも上だろう巨大な樹木がそびえ立っていた。

だがその樹木は異様な雰囲気を醸し出している。

異様さの原因となっているのは、根本に蔦によって胴や手足を囚われ、頭部には白い花が咲き、首筋にはポリープの塊のような物が取り付いている人々の姿があるからだろう。

それはまるで人間が咲いていると言える光景であった。

 

「……離せ…私は、そんなこと、望んでいない…」

 

「いや、私はキミの心情をソリチュラン達を通して把握している。無理をしなくていい。だからキミも選ばれたのだ」

 

大木の根本から少し離れた場所に、蔦でできている十字架に縛り付けられているまほがいた。束縛状態であるものの、捕らわれている他の人間のように身体に異変は見当たらないのは幸いか。

そしてその前には全身が緑の植物の塊のような人型の異星人___星間同盟地球侵略先発隊の一人、ネオワイアール星人が立っている。

 

「私を……どうするつもりだ…」

 

「キミは特別だ」

 

「と、特別…?」

 

まほが力無く頭を上げ、植物異星人に聞き返す。

それを満足そうにワイアール星人は見ながら、質問に肯定しつつ、こちらからも質問を投げる。

 

「そうだとも。キミは特別なのだ。実際、キミの今の状態がそれを物語っている。

キミは、その蔦に絡まれているが、どんな変化が自分の中で起こっているかは分かるだろう?」

 

「………」

 

まほには嫌でも心当たりがあるようで、沈黙し、答える代わりに視線をワイアール星人から外し横目で囚われている他の人間たちに向ける。

 

「本来なら並の、それも複雑な思考と感情を有する高ストレス性の生命体ならば、その蔦一本と触れただけでも、意識をソリチュラ本体の中に持っていかれるものだ。キミが今見ているあの者達のように」

 

ワイアール星人はそう言いながらまほを正面から見据える。どこに目となる器官が存在するかは不明だが、まほからすれば恐ろしいことに変わりない。

 

「キミは追い込まれてはいるが、とても強い精神力をお持ちのようだ。しかし何度も言うが、無理はしなくて結構なのだ。抵抗せずに受け入れてもいい」

 

「受け入れる?あの怪木を…?」

 

「なぜ躊躇う? ソリチュランはキミの心の中にある孤独という感情を探知して接触した。

他者との軋轢を避けたい、他者との交流を消したい、他者という壁を除き苦痛の無い生活を過ごしたい……キミの、いやキミらの心は痛いほど分かるのだ。知的生命の感情の分別は容易なものではないからね。

出来るなら、キミはここで自由になった方がいい……そうしなければ、きっと私のサンプルになるのだから」

 

 

「っ!?」

 

 

コイツは今、何と言った? 私をサンプルにする?

なぜ、どうしてそうなる?

自分の頭が思考していることによって加熱していってるのが分かる。

 

「キミのような特殊な存在も、潔くソリチュラと共に同化し、深緑の楽園に住まう者になれるようにするためだ。

キミを母体___胚珠にして、そう言った個性を持つ生命体に対する抗体と呼ぶべき物を作り出す新しいソリチュラを生み出したいからね。

今までもそうしてきた。そしてこれからもだ!」

 

宇宙人の手が自分の顔に伸びてくる。

いや…誰か助けて。

その言葉を口から絞り出せない。出せるのは、見苦しい命乞いくらい。

 

「嫌だ、私は、まだ一人になりたくない…そんなのになりたくない……」

 

「はははははは。そう怖がる必要は無い。さあ、二択だ。同化して楽園へと行くか、礎となって楽園自体となるのか! …それとも、侵入者共にソリチュランが数を減らされたから、キミをオリジナルのソリチュランにしてもいい」

 

助けを呼ぶ声が出せない。

孤独を望んで人を突き放した自分が、今度は他人を頼っていいのか? 

そう言った自問に対して詰まってしまう。

助けを求める権利など、とうに失っているのではないかと。

 

「さあ、答えたまえ。どっちなんだ?……それとも、両方選びたいのかな? それでも構わないよ、精神は大きな一つの意思に入り、身体は私がサンプルとして有意義に使わせてもらう……そうだ、これでいこう!」

 

「や、やめろ…嫌、来ないで……誰か……」

 

___助けて。このままだと、私がいなくなる。

 

「はははは…さあ、楽園に…」

 

「「「さあ、共に楽園に…」」」

 

怪木の根本に捕らわれた人々___スーツ姿の中年男性、黄色い帽子を被り身の丈と同じほどのランドセルを背負った小さな女の子、レジャースタイルの老人……目の焦点があっていない虚な笑みを浮かべた者達も語りかけてくる。視線は合っていないのに、顔だけはこっちを見ている。

 

私も、あんな風になるの?

 

嫌だ。絶対に嫌だ。助けて、誰か…。

 

エリカ、マモル君、みほ…みんな……。

 

助けて………。

 

 

私は顔を上に上げ、全力で叫んだ。

 

 

「___助けてッ!!!」

 

 

 

 

 

「まほさんからぁ…離れろぉおおおおお!!!!」

 

 

 

ガツゥン!!

 

 

「あ……」

 

まほとワイアール星人の間に割って入り、まほへと伸ばされていた手を、手に持ったペンチを使って殴ったのはマモルであった。

目には若干の涙を浮かべており、それが未知の脅威に対して手を出したことへの恐怖から来たものかは分からない。

だが、彼は持てる限りの勇気を出して助けに来たのだと一目で分かる。普段は内気で、物静かなイメージの彼が、声を張り上げ異星人に向かっている。

 

「マモル君…!」

 

「マモル、避けろぉ!! ___オラァっ!」

 

ゴォオオン!!

 

「ぐああっ!?」

 

まほの横を素早く低い姿勢で走りすぎていき、金属バットでワイアール星人に唐竹割りを炸裂させたのはヒカルだ。

マモルとの見事な連携から繰り出された渾身の一撃は、ワイアール星人を二、三歩退かせるのに十分な威力だった。

 

「エリさん、スコップ!」

 

「え、ええ!」

 

「よし…どりゃああーっ!!」ブウン!!

 

___ザクッ!!

 

「うぐ、貴様らァア…」

 

間髪を置かずに今度はハジメが、エリカから受け取った折り畳みスコップを槍投げの要領で投擲し、見事ワイアール星人の頭部に突き刺さった。

負傷した箇所からポタポタと緑色の体液が滴り落ちている。

 

「今のうちに西住先輩を!」

 

そう言ったヒカルがバットを持ってワイアール星人の前に立つ。バットを握っている両手は微かに震えている。

 

「ほう……キミも中々の個体のようだ…」

 

「黙ってろ植物人間め!」

 

ヒカルの意図を察したマモルとハジメ、エリカはまほに絡みついている蔦を千切ろうとするが、蔦はシリコンゴムのような弾性と強度を誇っているらしく、マモルのペンチやエリカのスコップを使っても破壊できない。

しかし、他の者達が躍起になっている中、ハジメは人目を盗み、まほを束縛している蔦の分岐元を光の力を手刀に宿して切断する。

 

「…ふっ!!」ズバッ!

 

バサバサバサ…

 

「やった!蔦が枯れていく!」

 

「うぅ……」

 

「まほさん!」

 

「ま、マモル君…みんな……私を?」

 

根本を切ると細かく分かれてまほの胴や手足に絡みついていた蔦が即座に枯れて腐り落ちたことにより、まほの身体に自由が戻った。

うまく足に力が入らず転倒しかけるまほをマモルが受け止め、抱き締める。その目からは涙がとめどなく流れ出していた。

 

 

「まほさん、まほさんは一人じゃないんですよ…!」

 

 

「あ……ああ…」

 

 

まほは様々な感情が一気に溢れてきたのだろう。マモルと同じように涙をとめどなく流し出した。人前であることも気にせず、自身を受け止めてくれたマモルを抱きしめ返し、顔をマモルの肩に埋める。

 

人の温もりを感じる。繋がっているんだ。

それは表面上の暖かさだけではない。先ほどのソリチュラの蔦に絡め取られていた際に感じた充実感とはまた違う、ざらつきの無い純粋な想いが駆け巡る。

 

私のことを心配してくれる人がいた。

 

私のために涙を流してくれる温かい人がいた。

 

 

______私は、孤独じゃなかった。

 

 

私には、私の横に肩を並べて共に進んでくれる者、私を信じてついて来てくれる者達がいる。

人を信頼しようと、理解しようとしなかったのは自分の方だった。人の優しさを押し除けて、ありもしない悪意から逃げていた。隠れていた。

だがもうそれはお終いだ。

 

心の中で、復唱しろ。

 

私は…孤独じゃ、ない!!

 

 

「ありがとう…みんな……私には、まだ寄り添ってくれる仲間がいた……助けてくれて、ありがとう…!」

 

「まほさん…」

 

「隊長…」

 

「だけど、あの木の下にはまだ人が___」

 

 

「ええい!ふざけるのもぉ、大概にしろ!!」ドカッ!

 

「うぐっ!?」

 

マモル達がまほへと意識を向けていた直後、彼らの前にヒカルが吹き飛ばされてきた。

ワイアール星人との肉弾戦でやられたようだ。

額から少ないが出血している。

 

「ナギ!」

 

「感動の場面なのは分かるけどなぁ…さすがに一人は、辛かったぜ…」

 

ハジメが吹き飛ばされたヒカルの下に駆け寄る。

立ち塞がる障害が消えたワイアール星人は、今度はハジメ達をソリチュラに同化させようと近づいてくる。

ヒカルのバットはいつの間にやらへし折られており、先ほど投擲したエリカのスコップも遥か彼方に転がっている。マモルのペンチも使い物にならない。

ほぼ丸ごしだ。ハジメは私服ズボンのポケットからアルファカプセルを取り出す用意をする。

 

 

「ふはははは! その貧弱な肉体と精神を捨て、楽園に行き一つになろうではないか!」

 

「「「そうだ、楽園に行こう…」」」

 

 

「誰が言ってるの?」

 

エリカの疑問の答えはすぐに出た。怪木の根本から同調するような声色の、幾人もの声が聞こえる。

捕らわれている人々が目を見開き、一糸乱れぬ動きでこちらに手招きをして、ピタリと口調も合わせて語りかけてきていたのだ。

 

「みんな捕まっているのか?」

 

ここでまほは改めて思った。

こんなのは人間でもなんでもない。

"心"を持った存在じゃない。

 

「あんなに人が…!」

 

「彼らは私よりも先に捕まっていたらしい…あそこにいる彼らも助けれればいいのだが…」

 

「末恐ろしいわね…そこの宇宙人があんな風にしたの…?」

 

「その前に、その目の前の植物怪人を倒さねえと俺たち多分お陀仏だぞ…」

 

まほとダウンしたヒカルを守るように残りの三人が前に出る。

無論、そんなことをしてもワイアール星人の歩行速度は変わらない。障壁にすらならない。

緑色の異星人はどんどん近づいてくる。

 

「地球人は………全ての個体が違う心、意思、精神を持っているから寂しさや不安を感じ、孤独に陥る。

ならば、元から一つの大きな精神に全ての個体の精神を統合し皆で分かち合えば良いのだ。

貴様らもそう思ってはいないか?私はその手助けがしたいのだよ!」

 

それは違うとまほは誰の支えも借りずに勢いよく立ち上がり、ワイアール星人を睨みつける。

雰囲気が明らかに変わったまほに、ワイアール星人は警戒したのか、足を止める。

 

「なんだ、その態度は…? さあ、戻ってくるといい。我々は寛大だ。何度でも受け入れてやろう」

 

「お前の言っていることは間違っている!」

 

「ま、まほさん…」

 

まほからの強い拒絶を含んだ断言を受けたワイアール星人は不快感を露わにする。

 

「アァ…実に不愉快、不愉快だァ……こちらが手を差し伸ばしているのにもかかわらずその態度……まったくもって、不愉快…………死ねッ!!」

 

証拠に腕と頭部がわなわなと震えている。怒りが頂点に達したのだろう。

ワイアール星人は一時の感情に任せて彼らに襲いかかる。

 

 

タタタッ! タタタッ! タタタッ!

 

ブシュゥーーー!

 

「な、なんだ……いったい…」

 

小気味の良い三点の破裂音が連続して三回。

ワイアール星人の側面を明色の線が何本も貫いた。

身体のあちこちから緑色の鮮血を吹き出しながら、短い呟きを残して地面に倒れ伏す。

 

ドシャァア……

 

緑色の血溜まりが倒れたワイアール星人を中心にジワジワと広がる中、その血溜まりを臆することなく踏みしめて現れたのは緑、黒づくめの集団、自衛隊の伊丹達だった。

 

「救助対象を確認…だな。見たところ意識ありそうな面々は学生さんたちだけ、ねぇ…」

 

「隊長、この巨大な木の根本にいる人達も意識はあるみたいですよ!」

 

「でもこっちの声掛けに応えてくれない…それに、首には変なものが付いてる…」

 

倉田と栗林が他の生存者の現状確認をとっているのを尻目に、ハジメとエリカ二人と思わぬ再開を果たしてしまった永井と中野はそれぞれ違った反応をしている。

若干溜め息混じりだ。

それは聞き覚えのある声を聞いたハジメとエリカも同じ気持ちだと思うが。

 

「………またキミらか…」

 

「えっと、その声は…」

 

「おお…四国での一件ぶりだな。もう会う機会は無いと思ってた。……また異星人絡みで会うとはなぁ…」

 

「は、はぁ…まぁ……助けてくれてありがとうございます…」

 

「キミとそっちの女の子には切っても切れない悪運でもあるんじゃないのか?」

 

「ん?なんだ? 永井三尉とそっちの学生さん達、知り合いかなにか?」

 

「いや伊丹さん、知り合いとかそんなんじゃなくて…」

 

「永井。とりあえずは流血してるこっちの少年と、体調が芳しくない女の子への対応が先だ」

 

永井が小さく舌打ちをしつつ、まほとヒカルの介抱に加わった時、倒れ伏している背後のワイアール星人から…そして倉田と栗林が四苦八苦しながらも救助しようとしている人々の中から声が聞こえてきた。

 

「「「楽園に行こう。楽園に行けば、孤独や孤立もなくなる。一人ではなくなる」」」

 

同時に、周囲の木々が妙にざわめき出す。

 

「これは……どうなってる?」

 

「倉田、栗林!一旦その木から離れろ!」

 

「ですが隊長!」

 

「いいから!これは命令だ!!」

 

倉田と栗林が怪木から距離を取ると同時に、捕らわれている人々の微笑が満面の笑みに変わった。

それに合わせるかのように、地面に伏していたワイアール星人が弱々しく誰に話しているか分からない声量で話し出した。

 

「…まだだ、惑星生物同化シナリオは、まだ終わってはいない…」

 

「生物同化シナリオ…?」

 

「ソリチュラは全てを同化する…この星の生命体はすべてかの怪獣となり、やがては…この星がソリチュラそのものとなる。

……ははは、逃げることに意味は無い。むしろ自らの意思で同化の道を選ぶのが賢明というものだ……」

 

「お前たちの言う同化…それは洗脳だ。大きな意思の濁流を利用して個々の意思を押し潰すことを、俺たちは望まない」

 

「…そうか、残念だよ……。このシナリオには、ソリチュラが惑星同化を進めるために、それを邪魔するあらゆる障害を除去する怪獣も連れてきている。

ソリチュラによって精神を統合され、抜け殻となった生物の身体の生体エネルギーを補給するという共生関係を刷り込ませた寄生怪獣も連れてきた…ソリチュラを守るために、奴も間もなく現れるだろう。

すべて、もう……遅い………」

 

ダアン!!

 

「「「!!」」」

 

ワイアール星人が言い終わる前に、伊丹が〈9ミリ拳銃〉を引き抜き、頭部に銃弾を撃ち込んだことで、話を強制的に終わらせた。

 

 

ドガァアアアーーーン!!

 

それに合わせたかのように、今度は遠くで爆発音が轟いた。選抜普通科部隊が撤退前に例の黒い隕石を爆破処理したものと思われる。

隕石の爆破による破壊が成功したためなのか、それとの因果も不明だが、次第に森林に立ち込めていた濃霧が晴れてきた。

また、無線では霧が晴れたことにより、予め周辺空域に集結させ、待機命令を出していたヘリ部隊による上空からの調査を開始する旨の通達が為されていた。

そのため、伊丹は救助対象の発見と特殊生物の出現に注意するよう無線で各部隊と司令部に伝える。

 

「……向こうもやったみたいだな。とにかく、この学生さん達を連れてかないと……」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

伊丹達が一旦後方の選抜普通科部隊の下にハジメ達を連れて退避しようとした矢先、地震が発生する。

 

そして、なんと形容したらいいか分からない雄叫びと、寂しさを助長させるような悲しい鳴き声が同時に響き渡る。

謎の鳴き声が止んだのと時を同じくして、山林全体がもう一度大きく揺れた。

 

「う、うおっ!」

 

「ハジメ!」

 

その際、ハジメは足を取られたことを装って藪の中に転がり込む。

ガサガサと音を立てて奥にまで転がったハジメは、そこでイルマを呼び出しバトンタッチ。ハジメはそのままエリカ達の元から消える。

探し出そうとしたエリカ達の下に、ハジメに変身したイルマが交代して薮から出てくる。

 

「ハジメ!いまドジやってる場合じゃないわよ! ほら早く立って、逃げるわよ!」

 

「あ、うん…分かってる」

 

「隊長、あそこで捕まってる人達は!?」

 

「今は堪えろ栗林!動ける人間を護衛してここから退避する!!」

 

伊丹達が巨大な怪木から距離を取った時、怪木の周囲の地中から新たな蔦が現れ、巨木に複雑に絡みつき、やがて長い首と二本の長い腕を持つ怪物、宇宙植物怪獣___ソリチュラとしての真の姿を現す。

 

ドドォオオオン!!

 

「今度はなんだ!?」

 

「あ、あれ見てください!!」

 

それに続いて、奥の山間部から地中の土砂を撒き散らしながら、寄生怪獣___マグニアが、相互扶助の関係であるソリチュラを守るべく地上に出現した。

森林地帯での連日続いていた異常な濃霧は、マグニアがソリチュラと、捕らえた人間から奪った生体エネルギーを貯蔵する黒色隕石を隠すために散布していたものが原因であった。

 

「あの樹木、特殊生物の本体だったんすか!」

 

「今は距離を取れ。この場から少しでも遠くに逃げるんだ!」

 

「未確認の大型特殊生物が二体!」

 

「アレが捕まってた人達の首に食いついてた奴の親玉か!?」

 

「まほさん、肩貸します。急ぎますよ!」

 

「ああ、頼む…」

 

迫り来るマグニアと、不気味な沈黙を貫いてこちらの様子を窺っているソリチュラから逃げるエリカ達。エリカ達に手の触手を伸ばすマグニア。

そこに、OH-1偵察ヘリの先導を受けて、駒門駐屯地から駆けつけた陸上自衛隊東部方面航空隊、第4対戦車ヘリコプター隊第3飛行隊が現れる。

〈AH-2 ヘッジホッグ〉8機が、前進していたマグニアに"AGM-114 ヘルファイア"対地ミサイルと、追加されたミサイルポッドからは"空対地徹甲誘導弾"を斉射。

ミサイルの直撃により、マグニアの動きが鈍ったことで、押し留めることに成功。地上の伊丹やエリカ達の窮地を脱することが出来た。

 

「"ハリネズミ"!」

 

「駒門の部隊が間に合ってくれたぁ…」

 

「すげぇ、ヘッジホッグだ」

 

「上ばっか見てないで、足元見て走る!!」

 

 

バタバタバタバタバタ!

 

「スパイク01より各機、植物型にメーサーを使用する。武装のロックを解除!」

 

『___こちら八咫烏!スパイクチーム、植物型への攻撃をすぐに中止せよ!繰り返す!対象への攻撃を中止せよ!! 地上部隊からの通達によれば、対象は地上構造内に民間人を捕縛しているとのこと!!植物型への攻撃を控えられたし!!』

 

「なっ!? …了解。これよりスパイクチームは、"片割れ"に優先目標を変更。植物型の行動に十分注意しつつ、片割れへ集中攻撃を行う。植物型付近並びに退避行動中の地上部隊への誤射は避けろ!」

 

『『『了解。』』』

 

ヘッジホッグの編隊がソリチュラの周囲を大きく旋回した後、マグニアに対して両翼端部に搭載されている正式装備として納入されつつある、指向性放電機銃___"20式パルス・メーサー"を連射する。

 

これには堪らず、形容し難い咆哮を上げたマグニアは、自身の横を通過していくヘッジホッグの背後に、口部から帯電ミストを放ち、撃ち落とそうと躍起になる。

後方の一機のヘッジホッグが帯電ミストに掠った。それによってヘリ内のシステムが一時ダウンする。

 

『システムダウン!! 現在立て直しを図ってます!! なんとか飛行は可能です!』

 

『あの白煙、電気を纏っているのか!?』

 

「ヤツが放射するあの白煙に注意しろ! …まったく…常識の通じない敵がこうも日本に現れ続けるか…!」

 

スパイクチームの隊長が悪態をついた時、地上の一角に光の柱が突き刺さった。

光の柱は徐々に小さくなっていき、やがて光り輝く巨人を形作る。

それは"夜"の名を冠する戦士の出現を表すものである。そしてその漆黒の姿は昼間の森林の中であっても存在を際立たせる。

 

 

シュアッ!

 

 

「ウルトラマン!」

 

誰が叫んだか、森に響いたその声は、確かに希望を含んだものであった。

黒きウルトラマン___ウルトラマンナハトが天に突き上げていた拳を解き、手の先をマグニア、ソリチュラの方へ鋭く突き出し、メビウスを彷彿とさせるファイティングポーズを取る。

 

シュワッ!!

 

《あの宇宙人が言っていたのは、この怪獣のことだったのか!》

 

マグニアがナハトへの威嚇を含んだ咆哮を上げると、今まで沈黙を貫いていたソリチュラが両腕の蔦を地面に勢いよく突き刺し、何やら動き出した。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

マグニア出現時よりも小さい振動が発生し、その震源はソリチュラとマグニアから逃れようと森から脱出するべく走っていたエリカ達とその護衛をしていた伊丹らの真下に移動していた。

大きな横揺れの発生により、うまく走ることが出来ない。

 

「な、なんだ!今度はどんな奴が現れるんだ!?」

 

「だんだん揺れが大きくなって…!」

 

「!! 地面が割れるぞ!!」

 

 

ドドォオオオオオオーー!!

 

エリカ達の周囲を囲むように地面から生えてきたのは硬質化したソリチュラの根と蔦である。

 

「まほさん!大丈夫ですか!?」

 

「ああ…すまない。ありがとう…足は捻ってはいないと思うが…」

 

 

(言ったはず…逃げても意味は無いと。最後の慈悲だ。この戦闘で判断せよ、地球人)

 

 

「今のは…」

 

蔦と根の檻の中に入ってしまったエリカ達に、どこからか声が聞こえてきた。男性とも女性ともとれない多重音声だった。

エリカ達を緑の檻に閉じ込めたソリチュラの集合意識からの呼びかけらしい。

そんな中、倉田や中野が個人装備を駆使してなんとか突破口を開こうとしているが、状況は変わらない。

 

「この蔦と根っこ、硬すぎっすよ!銃剣が欠けるなんて!」

 

「先程の声の主をあの植物怪獣とすると、これはアイツがくたばらないとここからは出られないな…」

 

「ねずみ返しの構造と酷似している…内部からの脱出は無理ですね…」

 

「………ウルトラマンナハト…頑張って…」

 

「ここはウルトラマンと、自衛隊に任せるしかない…」

 

 

 

場面を巨大存在同士の戦いに戻すと、マグニアがナハトに体当たりを食らわせるために突進しようとしていた。当然一歩一歩地面を踏む度に地が揺れる。

ナハトは正面から挑んできたマグニアに対して回し蹴りで応える。

 

シュッ!!

 

《こいつ、案外素早いな! 目測を誤ったら簡単にやられる!》

 

マグニアはナハトの蹴りをもろに食らい、周囲の木々を巻き込みながら横に倒れる。

ナハトが追撃のためにマグニアの上体に馬乗りして拳を振るおうとした時、陸自のスパイク隊に繰り出したものと同様の帯電ミストをナハトにもお見舞いする。

 

バチバチバチバチバチ!!

 

グアッ!?

 

《これはっ、電撃!?》

 

ナハトを包み込むように漂う白霧は、マグニアが自身の生体エネルギーを流すことで高圧電流が流れる空間へと姿を変える。

満遍なくばら撒かれた帯電ミストは、ナハトの視界を奪い、感電によって動きを鈍らせるのには十分な仕事を果たした。

身体の表面を焼かれるような錯覚を覚えたナハトを見て、ソリチュラが隙を突き一対一の戦いに横槍を入れた。無数の蔦と根がナハトの自由を奪う。戦いに横槍を入れられたマグニアは形勢が逆転したと察したようで、攻勢に転じる。一対一でやるつもりは元々無かったと思われるが。

 

《……! 千切れない…!切れろ!切れろっ!!》

 

ハジメが必死にそう念じながら、ソリチュラが絡めてきた蔦を振り解こうとするも、徐々に体の自由が奪われていき、マグニアの帯電ミストを何度も浴びせられ苦境に立たされる。

 

《このままじゃあ…!》

 

窮地に陥ってしまったウルトラマンナハト。

マグニアの電撃とソリチュラの鞭撃、このままではハジメは負けるだろう。

陸自のスパイク隊がメーサーと対地ミサイルによる攻撃をしてなんとかマグニアだけでも引き剥がそうとしているが、肝心のマグニアは多少体表が削れても見向きもせずにナハトに攻撃を続けている。

どうやらソリチュラへの脅威として一番高い存在としてナハトを見ているらしく、人類の兵器に関してはコレを片付けてからでも倒せるという認識を持っているようでもあった。

 

 

正に、絶対絶命の状況。

 

 

 

__風は、まだ吹いています__

 

 

 

その時、青空の彼方から、流星の如き一筋の光芒がマグニアに激突した。

 

 




お久しぶりです。S.H.フィギュアーツのZさんを予約できた逃げるレッドです!
黒森峰は、どの二次創作でもそうですが、負の面が現れやすい子が多いと思います。ここで四国会戦の際に出会った特自隊員らと、伊丹さんに頑張ってほしいところ。
人に漬け込んだり、同化させようとする存在は大好きです。
何度も言いますが、自衛隊の動きについては許してください。

________

 次回
 予告

ナハト絶対絶命のピンチ!
天空からナハトのピンチの前に現れたのは、虹色の風を吹かせ羽ばたく守護戦士だった。
守護獣と共に、人々の自由と意志を守れ!ウルトラマンナハト!!

次回!ウルトラマンナハト、
【虹色の疾風】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて

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