旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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第31夜 【キミが歩く道】

 

 

 

《俺はオーブ!闇を照らして悪を撃つ!!》

 

 

 

「ウルトラマン…オーブ…」

 

目の前の男が光に包まれ消えたかと思えば、気づけば上空から何十倍もの大きさの、光の巨人___ウルトラマンとなって現れたことに、ハジメは目を白黒させていた。

またしても知らないウルトラマンだった。

ウルトラマンとしての力を得た人間特有のテレパシーによるものか、ハジメは脳内に浮かび上がってきた単語、名前を無意識に口にしていた。その後すぐ我に帰り、自分が今やるべきこと、そして現在の周囲の情報を即座に叩き込む。

 

「ハジメ!シンゴと一緒にここから離れるわよ!あのウルトラマンが怪獣を海に引き離してるうちに!」

 

そう言われて海の方に目をやれば、オーブがトライリベンジャーと取っ組み合いの状態となって押し相撲の様相を呈していた。

人間に当てはめるなら中背中肉の体型として印象を持たれるだろうオーブは、その見た目に反して非常に機敏かつ剛力であった。それは今も沖合の方向にトライリベンジャーを押し返しているところからも察することができる。

 

「で、でもナギは___」

 

「駒凪なら副隊ちょ、みほとあのカメが行ってくれたから、こっちも早く行くわよ!!」

 

エリカに無理やり腕を掴まれてその場から、海浜公園から離れるために動き出した時にヒカルが倒れている場所に目を向けると、みほとピイ助が駆け寄っており、みほが肩を貸そうとしている様子が伺えた。ヒカルは意識が戻りつつあるようである。自力で立っていた。

 

「そうか…そうだね…」

 

まほはあんこうチームのメンバーの誘導に尽力しているようだ。たしかにエリカの言う通りである。ここで自分が変な動きをすればエリカ達の足を引っ張ることになるだけでなく、命の危険に晒してしまうだろう。そうなることはハジメの本意ではない。大人しく従うことにしようと考えるのに時間はいらなかった。

 

(ここはあのウルトラマン、オーブに任せるしかないか……俺もあとで絶対に行く!どうか、それまでは…!)

 

 

ジィィアッ!!

 

シュバッ!

 

グゥォォオオオオオ!!!

 

オーブは牽制光線__"スペリオンスラッシュ"と投擲切断技__"スペリオン光輪"を間髪入れず、交互にトライリベンジャーに対し当て続ける。

トライリベンジャーは当初は押され気味であったが、次第に足を前に動かして進撃を再開。海上をずんずんと進み、海岸部___大洗上陸を目論む。

 

《意外にタフだな…いや、怨念と亡霊の集合体だ、このレベルで当然ってことか。…このままだとジリ貧、この世界のウルトラマンが駆けつける気配は……今のところは無い、らしいな》

 

援軍が期待できない状況下で、オーブは冷静に思考していた。目の前の敵との拮抗を打開するためのカギを、自分自身が持っていることにも気付いている。

 

 

グォオオオオ!!

 

ジュアッ!!!

 

 

《なら、こちらからまた仕掛ける!!》

 

 

 

 

「ティガさん!」

 

『ウルトラマンティガ!』

 

ジュアッ!

 

 

「マックスさん!」

 

『ウルトラマンマックス!』

 

ジュゥワッ!

 

 

「疾風迅雷、飛ばします!!」

 

『フュージョンアップ!』

 

タアッ! ジュワッ!

 

『ウルトラマンオーブ!スカイダッシュマックス!!』

 

 

 

ハァアッ!

 

《マックストールはためく雄姿!輝く光は疾風の如し!!》

 

ならばスピードで翻弄してやろうとオーブは考えたのか、高速戦闘を主眼に置く、蒼い衣を纏った神速の形態__スカイダッシュマックスへとフュージョンアップした。

オーブの姿が著しく変化したのをエリカ達は目撃し驚いていたが、すぐにまた海浜公園内からの避難を始めた。

 

「みほ!駒凪は動けるの!?」

 

「ピイ助もいるから大丈夫。エリカさんはハジメ君達と先に行って!」

 

意識はあっても、ヒカルはまだ完全に正常な容体になっているわけではなく、誰かに…みほに支えられる形でやっと歩けるといった様子だった。

 

「……分かったわ。早く来るのよ!!」

 

エリカが手を貸そうと声を掛けたが、みほはそれを断って各々の避難を優先するように促した。それにエリカは僅かな時間葛藤したが、従うという選択をした。

そんな事情など、怪獣は考えてはくれない。こうしている間にも、巨人と怪獣の戦闘は続いていた。

 

ジュゥアッ!

 

ギャァオオオオオ!!! 

 

《このスピードについて来れるか!!》

 

ハァアアーーーッ!!

 

オーブは目にも止まらぬ神速の連撃をお見舞いしては距離を取り、蹴り殴りの一撃離脱戦法を何度も繰り出し圧倒していた。

しかしながら、トライリベンジャーも馬鹿ではない。次第に姿勢を低くし防御を固めはじめた。超古代怪獣由来の強固な背部の外皮が、甲羅のような役割を果たすことでダメージを低下させることに成功する。

 

《歩みを止めたか。ここで畳み掛ける!!》

 

防御に徹し動かなくなったトライリベンジャーを見たオーブは、さらに"マクバルトアタック"を続け猛撃。押し切れると判断したようだ。

 

グルァア!!

 

ウッ!?

 

《なんだ!?》

 

先ほどまで文字通り亀の如く身を固めていたトライリベンジャーが突如として動いたのだ。素早く体を目一杯ひっくり返し仰反る___場合によっては急所にもなる腹部を天に晒すような___姿勢を取り、コッヴの顔が浮き出ている腹から黄色の拡散光線を発射した。

 

___カッ!!

 

辺り一面が閃光に包まれる。それと同時に空へ海へ無数の光線が撃ち出された。面制圧である。

光線の弾幕は濃密であり、オーブの神速を誇る形態…スカイダッシュマックスを叩き落とすことは造作もなかった。さらに、黄金の光槍が次々と、間髪入れずに襲いかかってくる。

 

グアアッ!!

 

《ぐっ…やるな!》

 

そしてトライリベンジャーが放った光槍の射程範囲は、想像以上のものであった。

オーブが海岸から引き離し沖合で戦っていたにも関わらず、数発の光線は海浜公園内にまで到達。着弾した。

 

着弾後は爆発。土、砂、岩石、コンクリート片…様々なモノを巻き上げ周辺の被害をさらに広げていく。無論、その弊害を海浜公園からまだ離れていなかったエリカ達が受けてしまうのは必然であった。

 

「まだ上から降ってくる!伏せて!!」

 

「なんでこんな目に遭うのよぉ〜!!」

 

「……みほは!?」

 

光線の着弾や瓦礫の落下が収まり、周囲の景色がクリアなものになっていく中、先ほどまで階段を上がりきる所であったみほとヒカルの姿が消えていた。

エリカはあたりを見渡すが、二人は現れない。

 

「みほ!駒凪!」

 

___あの衝撃と振動で階段から落ちたのか?有り得ない話ではない。

踵を返してエリカは階段手前まで走る。後ろからはまほやハジメの声が聞こえた気がした。だが脇目を振らずにみほがいるだろう場所へと向かった。

 

「みほ!……あっ!!」

 

エリカは階段の下を覗いた。思わず声を上げてしまった。

そこには、血の水溜りの中に倒れているヒカルと、彼に寄り添って必死に呼び掛けているみほが……。

エリカは反射的にすぐさま階段を駆け降りる。

 

「……ぅ………」

 

「ナギさん!だめ、死なないで…!」

 

「みほ!どういう状況!? どうして駒凪が…」

 

ヒカルとみほの下に辿り着いたエリカは、ヒカルの様子を改めて確認する。声の調子からエリカも気が動転していることが分かる。

ヒカルを中心にして今も広がっている血の池の出元はすぐに分かった。彼の頭部からどくどくと血が止めどなく流れていたからだ。

 

「血が止まらないの!いや…やだよ…ナギさん!」

 

素人が見ても多量出血に当て嵌まるだろうと分かる状態だった。即ちこのままでは死ぬ…そういうことだ。

みほの悲痛な叫びが響く。そしてそれを掻き消すように上空から爆音が轟いてきた。自衛隊機…空自のスクランブル発進した四機のF-2戦闘機である。彼らもオーブを援護すべく、トライリベンジャーに対して奮戦しているようだが、足止めにすらなっていなかった。

 

「落ち着きなさい!これは、こんな時は…」

 

「落ち着くことなんかできっこないよ!!エリカさんなら何かできるの?!」

 

「そ、それは…」

 

みほはいつもは見せないような剣幕でエリカに迫った。

中学、高校戦車道を経験する者達は、砲弾の着弾による負傷などに対応できるようになるために、応急手当て等の救命処置について学ぶ必修学科が存在しており、幼少期・小学生の部とはレベルは明らかに違ってくるので中高での初実戦練習前、そして定期的に必ず受けることになっている。

 

ズゥーン……ズゥーーン…

 

そんな経験があったから…と言うよりも死に繋がっている量の出血であると、誰が見ても分かるほど明らかなものであったからだろう。みほは今横になって冷たくなりつつある幼馴染が助からないことを嫌でも認識しなければならなかった。

怪獣の足音、波のぶつかる音、死を意味する音が近づいてきていた。だが逃げない。

そんなみほとエリカの横にどうやって来たのか、ピイ助も戻ってきていた。先ほどまで階段の上にいたと思ったのに。

 

「おい!エリカ、みほ!! 何があった…ん…」

 

「ナギが…!」

 

ヒカルとみほに続いてエリカの姿も見えなくなっていたからだろう。まほやあんこうチーム、ハジメとシンゴ、マモルが階段の最上部に立っていた。全員が戻ってきていたのだ。

まほとマモル、シンゴが階段上の瓦礫を退かしながら降りていく。それにあんこうチームのメンバーも続く。

 

「ナギ……ごめん。行ってくる」

 

ハジメは全員が階段を降りだし、意識がヒカルとみほに向いたことを確認して助けを呼ぶ体でその場から離れる。ウルトラマンナハトに変身するためだ。

その際、親友であるヒカルの下に駆けつけれないことを静かに謝罪しながら。ここでオーブが倒れれば、さらに多くの命が危険に晒されるという判断からである。ハジメは渋々友の命とそれを天秤に掛けたのだ。客観的に見れば賢明な判断ではあるだろう。

 

 

 

ズズゥウウーーーーン……!!

 

シュワッ!

 

《俺も戦います!》

 

ジュアッ!

 

《お前がこの世界のウルトラマン…ナハトか。分かった、アイツを倒すぞ!》

 

ハァアッ! オオオオオーーッ!!

 

海上でトライリベンジャーと取っ組み合いをしていたオーブの横に加わる形でナハトが参戦。トライリベンジャーの侵攻を再び押し返す。

だがしかし、やはりトライリベンジャーの腹部から放たれる黄色の拡散光線は脅威であった。正面から力尽くで押し切ろうとすれば当然その光線をモロに食らってしまうことになる。

 

グォオオオオオ!! 

 

ズババババッ!!!

 

オーブもナハトも光線による痛手を受けることは重々理解していた。背面や側面から掛かっていっても問題は無い…と言うよりそちらの方が遥かに効率が良いのは事実。

だが、上記のような戦闘に持ち込めないのだ。なぜなら彼らの後ろには、身動きの取れないエリカ達が___守るべき命があるからである。

 

ピコンピコンピコンピコン__!

 

カコンカコンカコンカコン__!

 

怪獣は、自我を持つにしろ持たないにしろ、何をするかは分からない。怨念と本能に従って動く異形……目の前から敵がいなくなったとしても、無闇矢鱈に光線を撃ち続ける可能性もある。それがもしもみほや、エリカ達に降り掛かったとしたら……考えたくもない。

 

《やらせるか……後ろには、みんながいるんだ!!》

 

それ以前にハジメは、ナハトは、弱気な選択肢など選ぶ気はさらさらなかった。ライフゲージが窮地に陥っていることを伝えてくるが、関係ない。

 

 

「ナギに何があったんだ…?」

 

「あの怪獣の光線で地面が揺れた時、ナギさん、意識は殆ど無かったはずなのにバランスを崩した私を…庇ってくれて、階段で…」

 

「華、この人のそっち持って。せーのでいくよ」

 

「わかりました」

 

エリカ達も戦っている。直面している困難に対して、果敢に立ち向かっていた。

応急処置では足りないことぐらい、全員が分かっていたが、やらないよりはマシである。

だが出血は止まらない。

 

「ナギさん…死んじゃうの……」

 

「……ナギ兄さんは死なないよ。ガメラも言ってるもん」

 

「シンゴ…くん?」

 

みほが泣き崩れかけたその時、シンゴがヒカルを挟んだみほの向かい側に座り、ヒカルの頭に両手を当て、何か念仏のような呟きをしだしたのだ。

両手の内側には、鈍く琥珀色に輝く勾玉がチラリと見えた。

 

「お姉さんも、勾玉を持って両手を当てて!ボクの手に重ねるように!」

 

「え?なんで勾玉のこと…」

 

「いいから、早く!」

 

小学生とは思えないほどの剣幕を張るシンゴに驚いたのか、言う通りに勾玉を両手で持ち、ヒカルの頭に当てているシンゴの両手に、自身の両手を重ねる。

気付かぬうちに、みほの陰陽玉状の勾玉も琥珀色に熱を感じるほど光っていた。すぐ側にいるピイ助も紅く発光していた。

 

「___!!」

 

「___っ、この光は…!」

 

「うっ!?眩しい…!」

 

「何が起こって…!?」

 

何かを呟いていたシンゴは、突然顔を上げ、目を開く。それと同時に、ヒカルに置いていた二人の手と勾玉が放っていた輝きが一層増した。

黄金の光は、勾玉から徐々に広がっていき三人の身体に、オーラのように纏わりついていく。ピイ助から発されている光も自然と混ざってさらに眩しく輝く。

それは、拒絶する気にはなれない、親しみのある光。そして黄金の光はその後は空へと続く太い柱となり、空に昇ると二つに分かれ、二人の巨人へと向かうと、彼らに力を与えた。それよりもメンバー達は目の前で起こった光景に目を奪われていたが。

 

「なっ!」

 

「傷が…消えて、治っていく…」

 

「なにが起こって…!?」

 

ヒカルの頭部や他の傷口は信じられない治癒力で修復され、傷口からの新しく出血が止まった。

眼前に広がる奇跡は起こるべくして起こった必然か、はたまた偶然か。

 

「………う…お、俺は…」

 

「ナギさん!!」

 

出血が止み、傷が消えたヒカルの意識が戻り、薄らと目が開いたことを確かめたみほは、先ほどのヒカルの負傷は頭から抜け落ちているらしく、勢いよく抱き寄せる。

 

「み、みほさん…? それに、みんな…」

 

それにヒカルは状況が飲み込めていないようで、目を白黒させていた。

ヒカルの状況把握中に間髪を入れず他のメンバーがこの場からの避難を促す。

 

「いつの間に怪獣なんて…。………いや、俺は…みほさんに酷いことを…」

 

「今はいいの。立てるナギさん?」

 

「あ、ああ…なんとか」

 

息を吹き返したヒカルの様子に、一同は安堵したが、置かれている状況は変わらず切迫している。

思い出したかのように、この場から離れるために再び行動する。

一方、二体の巨人と強大なる怪獣の戦闘に動きがあった。ヒカル復活の前後でナハトはガッツスタイル、オーブはサンダーブレスターとなって真っ正面からもう一度激突。なんとしても食い止めるという気概を持って戦っている。

そして、生物としては不完全な復活を果たした亡霊の実体は、生と死の狭間に漂うことから逃れられないのは必然であった。

 

グゥウウ…グォオォォ……!

 

トライリベンジャーの本来ならば疲れを感じない驚異的な耐久力を持った身体は、影法師によってつぎはぎかつ中途半端な融合をされたことで、普通の生物のように疲労を感じるようになっていた。

およそ十数分、短くも長かった戦いに終局が見えてきた。

 

《アイツの様子が…?》

 

《今なら………よし!二人の力で、奴を倒すぞ!》

 

《はい!!》

 

 

 

「ティガさん!」

 

『ウルトラマンティガ!』

 

ジュアッ!

 

 

「ダイナさん!」

 

『ウルトラマンダイナ!』

 

デュワッ!

 

 

「古代の力、お借りします!!」

 

『フュージョンアップ!』

 

タァッ! デュワッ!

 

『ウルトラマンオーブ!ゼペリオンソルジェント!!』

 

 

 

デュァアッ!!

 

《もっと高く!光の輝きと共に!!》

 

古代の力を携えた閃光の戦士___ウルトラマンオーブ ゼペリオンソルジェントと、通常形態であるスタンダードスタイルへとスタイルチェンジしたナハトは、よろけて満足に動くことすらもままならなくなっているトライリベンジャーと対面し、必殺の一撃を放つべく力を溜める。

 

タァアッ!!

 

《マルチフラッシュスライサー!!》

 

シュワッ!

 

《スペシウム・オーバー・レイッ!》

 

オーブは水上から飛び上がると、両腕に溜めた光の力を解放する。両腕を素早くトライリベンジャーへ向けると、そこから強力な二本の光刃が飛び出した。

それとほぼ同じタイミングでナハトも両腕を十字にクロスし、必殺光線を放つ。

 

グゥウオオオオオオオ____

 

それらは見事トライリベンジャーの胴体ど真ん中に命中。まずはオーブの二つの光刃がX字に切り裂き、その後間髪を入れずに虹色の光線が救われぬ亡霊を飲み込んだ。

トライリベンジャーは、最後まで怨嗟を含んだ咆哮を光の濁流の中に消え去るまで上げ続けた。

奴は救われたのだろうか…だがそれは分からない、そしてこちらが知り得ることではないだろう。二人のウルトラマンが空の彼方へと帰っていく。

空では帰投する空自戦闘機群と入れ替わるように観測ヘリや輸送ヘリが大洗市街地各所、海浜公園周辺に着陸のため展開を始めているのをエリカ達は確認できた。停泊している大洗女子の学園艦の方を見れば、被害を被った様子は見受けられないようで、一安心と言えば一安心である。

そこにしれっとハジメが合流。遅れて全員の目の前でウルトラマンに変身したラムネの男も戻ってきていた。

 

「また、ウルトラマンに助けられた……貴方は?いったい何者なんだ?いろいろと聞きたいことがある」

 

「ミホのお姉さん、か。俺は銀河の流れ星、ただの風来坊さ。今も何処かで大変なことが恐らく起きてる。だから俺は旅を続ける。

また会えたら、その時に答える」

 

「……ねえ、ウルトラマンってなんなの?なんで人がウルトラマンになれるの?」

 

まほ達から背を向けようとしたガイの動きが、エリカから発された問いかけによってピタッと止まる。

 

「その質問は難しいな。だが、質問の答えは案外身近な所に転がってるかもしれないな。それを見つけて気づくのがいつになるかはわからない。

良いことがあれば、悪いこともある。それが人生ってやつだろ?何がどんな結果を生むのかはそいつ次第だ」

 

ガイはハジメの方に視線を送りながら、また踵を返して立ち去っていく。目線を送られたハジメの方は内心ヒヤヒヤしながら見送る。

ハジメは今回の一件で、男とは戦闘中に言葉を交わした程度ではあったが、僅かながら何かを掴めた気がしたのだった。

 

「地球は丸いんだ、またいつか会えるさ。あばよ!」

 

カウボーイハットを被り直し、オーブニカを吹きながら、沈み出している夕陽を横目にどこかへと風来坊の男___クレナイ・ガイは歩き去っていく。

彼の奏でる音色はどこかに懐古の念を感じさせ、哀愁も漂う不思議なものであった。

 

 

「ナギさん?大丈夫?」

 

「ああ。ごめん。俺は…俺のせいで……みんなに迷惑を…」

 

ガイが去った後、影法師とトライリベンジャーによって中断されていた邂逅の続きが再開された。

さまざまな偶然が重なったとはいえ、影法師に自身の心の闇を利用され、さらにはそれを図らずも想い人に曝け出してしまったヒカルは、申し訳なさで心がいっぱいなのだろう、その声色と調子にはいつもの面影はなく目線も謝らなくてはならないと感じている人物のみほにすら満足に合わせられていなかった。

 

「ナギさん、こっち向いて?私は大丈夫だし、ナギさんを責める人はいないよ」

 

「でも…それでも、俺はみほさんに言っちゃいけないこと、沢山言ったんだよ?」

 

やっと目を合わせた今にも泣き出しそうなヒカルと、みほの穏やかな目が合う。みほは優しく、それは違うと言う様にゆっくりと首を横に振る。

周りの、大洗・黒森峰両メンバーは少し離れた場所て話の行く末を見守る。

 

「ううん、私はナギさんの気持ちが分かって良かった。過程がどうであれ包み隠さずに話してくれて、嬉しかった」

 

「なんで……」

 

「私、決めつけてたんだ……黒森峰から何も言わないで私は大洗に来たけど、きっとみんな怒ってるだろうなって、勝手に決めてビクビクしてた。

でもね、お姉ちゃん、ナギさん達と今日会った時、みんな心配してくれてた。私の予想と真逆だった。すごく、嬉しかったの」

 

「…でも俺はその予想通りだったろ?」

 

「そんなことない。私は、信じたいの」

 

「信じたい…?」

 

「たとえ時間が人を変えるとしても、無駄だった時間や想い出なんて、無いんだよ!

変わらないものだって、きっとあるんだって。だって、ちっちゃい頃にナギさんがくれた言葉、今も私の心の中にあるもん!私の背中を何度も押してくれたものだから!!」

 

――キミは、強い人だ。――

 

「!!」

 

それはほぼ告白に近い独白であった。

また目を背けようとしたヒカルの様子が変わった。みほの言う言葉がなんなのか、ヒカルには心当たりがあった。

 

「俺が、言ってたんだっけ……」

 

ああ、あの時のこと、まだ覚えてくれていたのかと、ヒカルはそう思っていると不意に自分の目から涙が流れ出していることに気づいた。

走馬灯のように頭の中をこれまでの記憶が物凄いスピードで次々と過ぎていく。

 

――

――――

――――――

 

「ねえねえ、お名前は?」

 

「ぼ、僕は、えっと……!」

 

「あはは!そんなに慌てなくもいいよ〜!」

 

それは幼き頃の邂逅の記憶。

 

「へぇ、みほちゃんは戦車に乗れるんだ」

 

「えっへん!すごいでしょ?おねーちゃんが乗ってるとこ、見てたら楽しそうだったから!」

 

「じゃあ、将来の夢は何?自衛隊?」

 

「ううん、まだわかんない。だけどね、戦車道を楽しくやりたいの!ヒカル君も、一緒にやらない?お父さんが言ってたよ?」

 

「僕も戦車触っていいの!?」

 

それは、たわいもない会話の一部の記憶。

 

「みほちゃん、今日遊ぼうよ!」

 

「ごめんね、ヒカル君…今日は戦車道のお稽古あるから…」

 

「あ……そっか、うん、分かった!頑張って!」

 

それは互いの事情が浮き彫りになり始めた頃の記憶。

 

「私、お姉ちゃんが入った黒森峰に行くんだ」

 

「……そっか」

 

「ヒカル君は?サンダース?アンツィオ?」

 

「俺は本土の中学。なんか海はね…」

 

「でも、機械系の学校に行くんでしょ?」

 

「いいや?市立の普通科。俺、野球やるんだ。そこの野球部の部長さんがさ、スポ少の頃に何回も声掛けてくれたから、そこにした。イッチもハジメもそこだし」

 

「あ……そうなんだ…。その、戦車道とか…」

 

「ん?ごめん、聞こえなかった」

 

「ううん!なんでもないよ。野球、頑張ってね」

 

それはすれ違いを加速させた時期の記憶。

 

「あ、ナギさん久しぶり!神社で自主練?」

 

「みほさん?ああ、本土に戻ってきたんだね」

 

「どう?野球の方」

 

「んー…ぼちぼちかな…」ブン!

 

「そうなんだ」

 

「みほさんのことはニュースとか新聞で活躍観てるよ。やっぱすごいや、みほさんは。流石天下の西住姉妹!」

 

「……ねえ、ナギさん。あの時の話、覚えてる?」

 

「…あーと……ギリギリ覚えてる」

 

「あの、ウチの学校…来年から共学になるらしいんだ!中等部と高等部両方。だから、ナギさんが良いなら、黒森峰に来てほしいなって」

 

「……俺に?」

 

「うん。あの時みたいに、これからもずっと笑顔でいたい。みんなでしか見れない景色を見たいの。急いで答えなくていいからね、今度でいいから聞かせてほしいんだ」

 

「…」

 

それは過去を振り払い、自分が選んだ道を進み、そして何もかも上手くいってなかった中学時代、突然差し伸べられた救いの手を取った時の記憶。

 

「すごいねナギさん!まだ一年生の一学期なのに、もう戦車の整備一人で全部できるんだ!」

 

「すごいことなの?」

 

「だって普通ならこのレベルに来るまでは半年掛かるんだよ?すごいことなんだって!ほら、胸張ろうよ!」

 

「そ、そんなもんか?」

 

それは彼女のおかげで何も無いと思っていた自分に再び自信を持てるようになった記憶。

 

「なんで、なんでみほさんが学校からいなくならなくちゃいけなかったんだよ!!おい!!」

 

「落ち着けナギ!ぐっ、一年生、寮からユウとダイトも呼んできてくれ!!」

 

「ナギさん、落ち着きなよっ!」

 

「落ち着けだあ!?できるわけねぇだろお!!」

 

それは彼女が去った後、感情の整理が不可能になっていた時の記憶。

 

――――――

――――

――

 

「大丈夫。ナギさんが優しくて、人のために泣くことができる人だって、私は知ってる」

 

気づいたら、抱擁されていた。みほの胸の中で泣いていた。

自分が明確な拒絶をわざとではないにしろ、先程見せてしまったのに、それでも自分の言葉を大切にしてくれていたことへの嬉しさと、みほの慈悲深さからきたものがごちゃごちゃと混ざり合っている。なんて声を掛ければいいかヒカルは分からず、戸惑っていた。頭に浮かんだ、言わなければ、口にしなくてはいけないと思った言葉を途切れ途切れに伝えようとする。

 

「ごめん、ごめんみほさん……ぅ、俺、涙が止まらない……こんな奴に、ありがとう……」

 

「私にとって、あなたはとっても大切な人だから……」

 

男泣き、である。

物心がついてから、大きな声を上げて、それも人前でわんわん泣くのはいつ振りだろうか…。

みほの言葉によって、ヒカルの心の中に今までつっかえて堰き止められていた何かが川の中にあるかのように何処かへと流れていく。

やがては落ち着き、ヒカルは自分の言動を冷静に振り返る時間が出来たのだろう。今度は徐々に顔を紅潮させていく。

 

「あ、えっと……恥ずかしいとこ見せちまったなぁ…」

 

そう言ってヒカルはメンバーの方に向き直って頭を思い切り下げた。責める人物も、咎める人物もここにはいなかった。

 

「向き合えたじゃないか、ナギ」

 

「めでたしめでたし、かな」

 

「あの人がみぽりんの初恋の人…なの?」

 

「あ、そうですそうです。よくナギはみほさんに手を引っ張られて遊んだりしてるとこ、よく見てましたね」

 

「へぇ〜今の西住殿からは想像が尽きませんね」

 

遠巻きにみほとヒカルを見ていると、二人は最後に小さく何か言葉を交わしてそれぞれのグループに戻ってくる。

 

「最後に西住さんと何話したんだ?」

 

「聞くな聞くな!それは秘密だ!」

 

「……それなら帰るか、黒森峰に」

 

「「「はい!」」」

 

「エリカ、疲労が溜まっているだろうが、帰りも頼めるか?」

 

「私は大丈夫です。心配はいりません!」

 

「心強いな。……みほ!」

 

まほが妹の名前を呼ぶと、大洗のグループに戻って談合していたみほがこちらに振り向く。

 

「また今度会おう。もし、戦車道で矛を交える時が訪れたら、その時は全力で相手をする」

 

「うん。分かったよ、お姉ちゃん」

 

「……それと最後に。これからは定期的に連絡を私達に寄越すこと。お母様も心配しているんだからな」

 

「お姉ちゃん…!」

 

「身体に気をつけて」

 

誰の顔にも、悲哀は微塵も無かった。笑顔で別れるメンバー達。

こうして、黒森峰と大洗の生徒がそれぞれの居場所へと帰っていく。

ハジメ達はヘリに乗り、母校へと戻る。場面はその帰りの空。

 

「ハジメお兄さん」

 

「ん?どうした?」

 

「あの、大洗のみほお姉さん。あの人もね、僕と同じガメラと繋がってる人だった」

 

「……そうだな。あの光景を見てたら、俺たちでも分かるよ」

 

「あら?その時ハジメ、アンタ近くから見てたっけ?」

 

「あっ…とぉ、少し離れた所から見ても分かるほどの眩しさだったから…」

 

「ふぅーん……まあいいわ。そんなことより!また人が知らないウルトラマンになったってことは、やっぱりナハトも誰かが変身してるんじゃないかしら」

 

「そ、そうなのかなぁ」

 

「だってそう思わない?今までナハトが現れた場所は、アメリカのファンタス星人の例外を除けば全部日本よ。

それも、私達、黒森峰学園艦が停泊、航行してる所で怪獣や宇宙人が出た時に駆けつけてるのよ?

私は確信してるわ。ナハトはこの学園艦と、そこに住んでる私達の前にずっと現れてる。ここの関係者がもしかしたらって可能性も…」

 

「そこらへんにしておけエリカ。ながら操縦はほどほどにな」

 

「あ、失礼しました……隊長…。私、ナハトと喋れたのなら、何個か、言ってやりたいことがあったので…」

 

エリカの憶測に少なからず動揺を見せるハジメであったが、まほが落ち着けと言うようにこの話題を終わらせる。

今回もなんとか勘繰られずに済んだらしい。

だがしかし、ハジメの胸には、エリカが言った"言ってやりたいこと"というのが引っ掛かるのだった。

 

 




 お久しぶりです。投稿者の逃げるレッドです。
 オーブ共闘回はこれにて幕を閉じます。そして抽選会までおよそ数話となりました。原作抽選会から、エリカのヒーローは第一章第2クールへと突入していきます。
 まだまだハジメくんのウルトラマンとしての激闘は続きます。

 追記としてここでも書かせていただきますが、投稿者の前二作品をどちらも休載状態にしました。エリカのヒーローを集中的に進めたいから、というのが理由になりますかね…。本当に身勝手な決定をしてしまい申し訳ありません。

 坊主___ヒカルのイメージソングは、ファンモンの『Always』だったりします。

 これからもよろしくお願いします。


_________

 次回
 予告

 それは、彼方の世界から流れ着いた遺物。
 それは、過去の人々が託した伝説。
 それは、今を生きる者たちが磨いた大剣。
 それは、悪意ある者達からの新たなる刺客。

 この地球は、人々は、これからどのような未来を辿っていくのか……。

次回!ウルトラマンナハト、
【何処(いずこ)より…】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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