東アジア 日本国九州地方 熊本県熊本市
西区市街地
『七月に入り、いよいよ本格的な夏へと突入しそうです。今年は例年に続き異常気象だけでなく、特殊生物…怪獣や宇宙人の出現が気がかりではありますが、今年の夏も我々笑顔テレビは全力でいかせてもらいます!』
東京レベルの立派なものではないが、とあるビルの大型ディスプレイには、笑顔テレビの看板キャスターの増子美代が、市内建造物の屋上からの風景をカメラに映してもらいながら話している。
『さて、見えますでしょうか? 建機が稼働し作業している場所が何箇所か見えると思います。あれらは今年六月より突然地球に姿を現し、私達の住む日本に初めて襲来した巨大怪獣C.O.V.___通称コッヴの攻撃によって破壊された場所です』
美代がそう説明すると、カメラはゆっくりと横に回していく。たしかにところどころに暖色の重機やクレーンが動いている場所が見える。
『西松尾町を中心に熊本市は少なくない被害を受けました。しかし、今では怪獣災害から立ち直りの状態に入っている復興都市となりつつあります。熊本は、過去に震災等様々な経験をしてきました。このまま復興が進んでいけば、熊本は特災復興の新たな指標となると思われます』
美代の語彙からは、これからの熊本に対する期待の色が出ていると分かるだろう。
彼女だけではないはずだ。一度は壊された街がゆっくりとではあるが、確実に良い方向に進んでいるのだと考えられる人々は。それは今熊本に、九州に住む人々の心の代弁に違いない。
『先日、垂水内閣が例の怪獣特措法を改定、国会ではその内容…特殊生物に対しての自衛隊による迅速な反撃を可能とする文章を足したことで各野党が紛糾しましたが、これと合わせるかのように、来週からは怪獣の標的となる可能性があると一部の議員から言われていた、学園艦の航行ローテーションが大幅に変更されるようです。
変更点は主に各学園艦の停泊期間の延長、航海時の海保・海自艦艇の追加であり、この後それらに関する詳しい解説をします。
…怪獣対策に揺れる日本。これから先はどうなっていくのでしょうか?
さて!CMの後は学園艦関連の話題と、ゴジラやガメラ、モスラに関する話題です!それでは、スマイルスマイル!』
大型ディスプレイはCMを映し始めた。それをボーッと歩道に立ち尽くして見ている人物が一人。ハジメである。
また、それに声を掛ける人物が一人。
「ちょっと!そんなとこでボーッとしてたら日が暮れるわよ!!聞いてる?ハジメ!」
「……あ、そうだね。ごめんごめん」
「もうしっかりしなさいよ、アンタがやられたら、誰が私のティーガー見るのよ?」
私服姿のエリカである。水色の生地のワンピースにかわいらしい真紅の靴。今回の同行者に対して魅せるために選んだものであるのは内緒である。
「今日は文科省のお陰で寄港期間が伸びたんだから、陸で買えるもの買うって話だったでしょ。ほら、意識を取り戻したら兎に角歩く!」
「お、おう」
……一応、ハジメの方も私服だ。下は何でもないただのジーンズだが、上は……黒森峰の学校ジャージを私服として数えるなら、それは私服なのだろう。まあ、そこらへんの感覚はかの男子高校生本人に委ねられるわけであるのだが。
ハジメにはファッションに関する知識が致命的に不足している。以前のような、ここで記述する必要の無いレベルの格好は、奇跡のようなものだ。
「こうしてアンタと街を歩くのって、前に熊本に来た時……怪獣が出た時以来じゃない?」
「え?あー、そうだなぁ…色々ゴタゴタがあったし、何か振り回されるようなことなく……振り回されることなく……?」
「なによ!そこでなんで疑問持つのよ!」
「……だって、その続き言ったら叩くか蹴るでしょ、エリさん」
ゲシッ!
「あ"いたっ!?」
「へぇ、そんなこと言える元気はあるんじゃない」
たわいもない、いつも通りの日常の会話。
凶暴な怪獣も攻撃的な侵略者も一切いない、いつからか失われていた当たり前の時間。
非現実が今の今まで現実となっていたことを忘れさせてくれるほどの穏やかな時間。
そう感じる時ほど、その時間が崩れる時が来るのは早いものである。
カッ!!
「うっ!?」
「眩しっ!」
いきなりであった。熊本市西区の一帯が数瞬閃光に包まれたのだ。街のあちこちで短い悲鳴とどよめきが上がる。少なからず車同士の衝突事故も起きたようである。
閃光が収まり、街中の歩行者達が不意に地区の一角に目を向けた。そしてそこには、非日常が静かに立っていた。
「ウルトラマンナハト…?」
なぜ、ウルトラマンが熊本に?
その疑問の答えを、誰も持ち合わせてはいなかった。ウルトラマンが現れた……だが相手がいない。姿が見えない。
これまで、ウルトラマンが現れた場所には、何か悪さをしている怪獣や宇宙人がいたものである。当然の疑問だった。
そして誰よりもこの状況に対し理解できずにいたのはハジメだった。
「は………どうして…?だって……だって、ナハトは…!」
それに続く言葉をハジメは飲み込む…というより押し殺したと言った方が正しいか。まさかもう一人、自分のように光の力を得た少年…いや、少年ではなく青年・中年ぐらいの男がいるのだろうか、はたまた少女なのだろうかと、思考を巡らせ心を落ちつかせることにハジメは尽力する。でなければ、そうしなければ、口に出してしまいそうだったから。
『こ、これは……!見てください皆さん!!
突如熊本市西区内に、幾度も私達を守ってくれたウルトラマンが、ウルトラマンナハトが現れました!怪獣や宇宙人は見当たりませんが……この復興に向けて歩みを進めている熊本を激励に来たのでしょうか!?』
熊本に降り立ったナハトは、静かに街を見回す。
熊本市の人々が歓声や、コッヴやゴルザ・メルバ戦への感謝の言葉を口々に叫んでいる。子供とその父親が一緒に手を振ったり、両手を合わせて合掌している老夫婦らもいた。人それぞれが違う反応を見せている中で、ナハトは不気味な沈黙を見せていた。
フン……!
ナハトが鼻で笑ったように見えた。
「……!まさか___」
ハァッ!!________シュバッ!!
なんと、ナハトは手刀を放つ構えを素早く取ると、向いている先にあったとある商業ビルに向けて光弾__ナハトショットを一発打ち込んだのだ。
ドガァアアーーン!!!!!
光弾が吸い込まれるようにビルに穴を開ける。光弾がビル内に消えてから刹那遅れ、爆発と轟音が。さらに遅れて今起きた現象を理解した人々が悲鳴を上げる。
「キャーーッ!!」
「なんだ、どうしたんだよいきなり!!」
「見てわかんねえのか!?ウルトラマンがビルをぶっ壊したんだよ!!」
「逃げて逃げて、巻き込まれるって!!」
街に響く声は歓声から悲鳴へと変わり、着弾後爆発したビルは轟音を立て、煙を上げながらゆっくりと倒壊。地上付近にコンクリートやガラス片といった凶器を空から撒き散らす。
「なっ……!!」
ハジメが呆気に取られている中、さらにナハトは光弾をまた別の高層ビルの中階層に撃ち込んだ。同じ光景がまた繰り返される。
「嘘、でしょ…。どうして…ナハトが、熊本を……」
「くそぉっ!!!」
「あ、ハジメ、待って!!そっちは逆の___あ!戻ってきなさい!!ハジメーーーっ!!!」
パニックに陥った人々の波の中に、ハジメは消えていく。あのコッヴが現れた時と全く同じように見える。
「アンタ、そうやって、また消えるの!?今度こそ、ホントに死んじゃうかもしれないのに!!ハジメ!!!」
エリカは追いかけてハジメを捕まえ、一緒に逃げようとしたのだが、またしてもあの時と同じように、人の濁流に呑まれてハジメを追いかけることは出来なかった。
フフフフ……ハァッ!!フンッ!!
『……今目の前で起こっていることが、信じられません…ウルトラマンが、ナハトが熊本市を、攻撃しています……いったい何故…どうして…』
ハッハッハッハッ!!
人々の問い掛けにナハトは答えない。ただ、破壊を楽しむかのような高笑いを上げるだけ。
そして一つ、また一つとビルが閃光を走らせた後崩れていく。
「美代さんマズイって!早くこのビルから降りないと!!他のとこと同じように吹き飛ばされちゃうって!!」
「そうっすよ、みんな纏めてお陀仏になっちゃいますよ!!」
しかしナハトは、自分のことをよく映しておけよと言わんばかりに美代達報道陣が残っているビルだけは破壊せず、放置していた。ナハトならば、高層ビルの一つや二つ、先程の行動を見ればいとも簡単に破壊できることは明白である。
それを、敢えてしない……美代は何らかの意思を感じたが、できることと言えば気力を振り絞ってナハトの行いを実況するだけであった。
「くそっ!くそ!!お前は何者なんだ!!なんでこんなことを、俺達の熊本にこんなことするんだよ!!!!!」
誰もいない裏路地を走りながら、時折建物の隙間から見える巨人に問い叫ぶ。
なぜ自分と同じ姿で、惨いことをするのか、それが快楽のためと言われればそれまでである。
破壊活動をやめない黒き光の巨人は、人々からすれば正義の天人から悪魔の使徒へと変わってしまったと、そう感じるだろう。だがそれをハジメは否定する。
「俺はお前を…!、……!!」
アルファカプセルを掲げ変身しようとした瞬間、ナハトがこちらを向いた。目が合った……たしかにハジメはそう感じた。
そしてナハトは満足げに両手を空に広げ、勝ち誇りながら高笑いと共に光の粒子となり霧散して消えていったのだった。
「アイツ……最後にまた笑ってやがった……!!!」
"どうだ?面白かっただろう?"と言われたような気がする。
こちらがヤツを倒そうとする前に、ヤツはこちらを察知し、変身するベストタイミングでわざと撤退したに違いない。それが一番の屈辱と怒りを感じさせる行為であると、向こうは知っていたのだ。心理を理解している存在でなければ、こんなことはしない。
許せない。だが、この感情の矛先を向ける相手はもうここにはいない。
「……もしかして、アイツもウルトラマンの一人なのか…?ならなんで、人の命を奪う?なんで、あんな風に楽しげに躊躇なくやれるんだ?」
ハジメは力なく掲げていたアルファカプセルを持った腕を下ろした。いや、下ろすしかなかった。
「――いた!!ハジメ見つけたわよ!!今度という今度は…………アンタ、泣いてるの?」
「えっ?」
振り向けばエリカがいた。あの後、人波の中を踏ん張って必死にかき分けここに来たのだろう。若干息が上がっている。
ハジメはエリカに指摘され、自分の目から涙が出ていることに改めて気づいた。
「俺、泣いてたのか…」
「……言いたいことは山ほどあるし、引っ叩いてもやりたいけど兎に角学園艦に戻るわよ。諸々のことはその後にしといてあげるから。さっき学校の方から一斉メール来てたのよ。ほら、早く!」
なんで泣いていたのか……自分のヒーロー像への憧れを、踏み躙られたからなのか……。エリカに手を引かれながら、おぼつかない足取りで学園艦への帰路につく。
ハジメはナハトが暴れていた、まだ黒煙が上がっている街の方を見続けていた。目を離すことができなかった。
(……何がしたいんだ、アイツは…俺は…!)
心の中での叫びは、空へと消えていく。薄汚れた青空は、答えを示してはくれない。
_________
ウルトラマンは人類の味方、善の存在であるという人々の概念は今回の件で急速に瓦解し出していた。
"ウルトラマン、熊本を襲撃!"
"ヒーローはいないのか?"
"東京、防衛省と首相官邸前で大規模デモ"
"在日米軍、独自の臨戦体制へ 極東露軍にも動き"
"広がる波紋 甲子園、戦車道大会は中止濃厚か"
夕刊やテレビ、ネットニュースの見出しはさまざまであった。
『死ぬかと思ったよ!僕ね、あの水鳥商業のビル前にいたんだよあの時。ウルトラマンを見つける前にビルが吹っ飛んでね…怒りとか不幸とか感じる前に頭ん中真っ白になって逃げたよ!』
『電話相手…高校の友人だったんですが、電話越しに爆発音が聞こえた後連絡が切れちゃって……まだ行方不明ってカタチらしいですけど……もう……』
『だからやめといた方が良いって思ってたんだ俺は!どこから来たかも分からない巨人の味方なんか勝手にやって、勝手に裏切られた!みんな馬鹿だよ、大馬鹿だ!!あんなヤツ、さっさとミサイルか大砲でやっちまえばいいんだ!!』
『ウルトラマンがこうして九州を襲ったってことはぁ、モスラとかゴジラ、ガメラだって危ないんじゃないの?本当は。だって、現に友好的だって政府が言ってたウルトラマンにこうして街ぶっ壊されてんだもん』
『元々悪そうな色合いやら見た目してたからな〜。いかにも悪役!…ってやつ』
テレビの街道インタビューは九州から北海道と、幅広い人々の声を拾っている。どれもナハト……ウルトラマンへの戸惑いと批判的な意見が大半であった。
さらに、批判は光の巨人のみには収まらず友好的__非敵対性特殊生物、そしてそれを指定した垂水政権や自衛隊の対応の甘さを責めるものもあった。
兎にも角にも、ウルトラマンの存在が大きく揺らいだことだけは火を見るよりも明らかである。
――――――
同国 関東地方東京都 千代田区永田町
首相官邸 会議室
「いまだに信じられんよ……ウルトラマンが熊本を攻撃したと言うのは……。しかし、そうも言ってられないか…現に映像も被害も出ている」
室内には垂水総理と、内閣の主要官僚全員が集められており、日本が直面した緊急の課題についての話し合いが行われている。
「垂水総理。航空自衛隊春日基地の監視レーダーに搭載されている探知ソフトによる結果によれば、今回ウルトラマンナハトが熊本に出現した際の反応が、星間同盟…敵性宇宙人出現時のワームホール反応とほぼ同じ周波数であったとのことです。これまで、探知できなかったウルトラマンの出現が、今回それで分かったのです」
淡々と報告を述べるのは、戸崎防衛大臣である。その眉間に皺を寄せた顔は、身につけている眼鏡も相まってさらに固い印象を持たれるだろう。
それもそのはず。彼は日本の防衛を担う自衛隊をまとめる文民である。
「何だと!?それは確かなのかね!?」
「ということは……もしや、ウルトラマンが星間同盟に入った…のか?」
「それなら何故…ッ!何故このタイミングなのだ!今までも我々を出し抜くタイミングはあったはず!」
「偽物だ、と言いたいのか?しかし残念だが、現に実物が街に現れ、破壊された。死者だって出ている。私だってその可能性にすがりたい。それでも現実は、現実なのだ」
「他所の国の反応もそうだ。豪州や中国はこれまで散々ウルトラマンは日本が建造した生体兵器であるなどと言っておったものを、突然手の平を返しおって!」
会議の収拾がつく目処が消えつつあったが、ここで戸崎がまた口を開く。
「今判明している事実は、偽物であれ、本物であれ、熊本…我が国に対し明確な敵意を持って攻撃を加えたのが"ウルトラマンナハト"であるということです。我々は黙って静観することはできません。今回も例外無く特殊防衛出動の適用範囲です。今後、首都やインフラ施設、原子炉を叩かれない保障はどこにもありません」
「……このままだんまりも世論は許すまい。下手をすれば非敵性特殊生物という枠組みも白紙に戻ってしまう。それが全てであるわけではないが、やることはやらなければいけないだろう……。
戸崎君、対策はあるのか?」
「これまでナハトは九州、関東地方に多く出現しています。出現する場所や移動手段に何らかの制限があるのか、断言するのは危険ではありますが、先ほど挙げた両地方のどちらかに再度出現する可能性が高い、と我々は予想しています。
現在、陸自空自の集中運用を容易にするため、方面隊ごとの統合任務部隊を編成中です。そして……実はおよそ一時間半前に防衛省宛に、何者かは不明でありますがナハトの出現場所を提示するメッセージが来ておりました。場所は熊本市と、そして出現日時すら明確に伝えてきたため、私自身も半信半疑ではありましたが、無視できるただのイタズラではないと考えています」
「ならばいつだ、次にウルトラマンナハトが現れる時間というのは」
「二日後、7月11日の正午…とのことです。情報の正否は判明していませんが、既に西部方面隊は出動待機状態に入っています」
垂水総理は目を閉じ、一つ深呼吸をしてから瞼を開ける。腹は決まったらしい。その目は一国の長の目として決断した目だった。
「祈りで砲弾やミサイルは撃ち落とせない。……ウルトラマンと、ナハトと戦うしかない、か…。分かった。戸崎君、頼む。やってくれるか」
「はい。我々が完遂します」
_________
時は進み………
同日夜
同国九州地方 熊本県熊本市
熊本港 黒森峰学園艦 学園寮食堂
集団寮の食堂には黒森峰の生徒で溢れかえっているが、そこに賑やかさは無い。ただ黙々と食事を摂るのみである。
「……」
「……」
『___大湊の海上自衛隊第5護衛隊群は、オホーツク海でのロシア連邦海軍との交流イベントを繰り上げ帰港するという情報が___』
「…おい、誰かテレビ消してくれないか」
静まり返る食堂内では淡々とした調子でニュースキャスターの声のみが響いている。
この状況を構成するに至った原因はウルトラマンナハトの一件だ。皆が口に出さなくともそれは分かる。
黒森峰学園艦に住む人々のショックは相当なものだろう。これまで初陣のコッヴ戦、続いてのゴルザ・メルバ戦に際して二度もウルトラマンナハトに自分達とその故郷を守ってくれた恩人であると思っており、彼の戦いを間近で見た者が殆どであったからだ。
そんな守護神のような活躍をしていたウルトラマンが…………無理もない。
『垂水総理は緊急記者会見で、今回の件でこれまで共闘関係としていたウルトラマンナハトに対しても、特措法を適用し自衛権を行使する旨を発表しましたが、国民の反応は様々です』
ガタ…
「……先にあがる」
「ハジメ…」
ハジメはこの場から離れたかったのかもしれない。誰かが次に口を開く前に、ニュースの心無い言葉を聞く前に、食事を済ませて表情を出さずに席を立つ。
食堂から出て行くハジメの背中を、エリカは心配しながら見送る。自分でも何をどうしたら良いか整理できていなかったからだ。脳裏にはあの時のハジメが涙を流している光景が過ぎっていた。自分は過去にも一度の光景を、どこかで見ていたような気もしていた。しかし結局呼び止めることは、エリカには出来なかった。
「くそぉっ!!!…………なんだ、なんなんだよ……!!!」
ハジメは食堂から出た後、外にいた。部屋で待っているだろうシンゴには悪いとは思ったが、寮に大人しくそのまま戻る気にはなれなかった。
食堂の、あの空間にいたくなかった。いつ自分に言葉の刃物が向くか分からなかったからだ。そしてそれを悠長に待つことにも耐えたくなかったし、耐える必要もなかった。
他者がやった悪行を自分がやったものだと決めつけられ、後ろ指をさされるのはどんな人間にとっても気分が良いものではないはずである。
仮に今本人であるハジメがいない食堂ではウルトラマンをニュースの街道インタビューの市民よろしく非難している生徒がいるかもしれない。しかしそれはあくまでも可能性であるし、仮に実際言われていたとして、ハジメは目の前で言われるよりも自分が居合わせていない所で言われている方がマシであると思っているから、ここに来たのだろう。
「あのナハトを、倒さないと…」
そうじゃないと、俺は___
「お前はどうなるんだ?」
「っ!?」バッ!
背後から低い男の声が聞こえた。今の話を聞かれて、というよりは言いようのない不気味さを感じてハジメはそれから距離を取る。
「ここにきてお前はメンツとか、立場の心配をしてるのかぁ? 随分と利己的なんだな、ヒーローってやつは。クククク………!」
「お、お前、その姿は…!」
背後に感じた気配の正体は、なんと人間大のウルトラマンナハトだった。しかもウルトラマン特有のテレパシーなどを介せずに直接話してきた。
「姿ァ?当たり前だろ。俺はお前の影だからなぁ」
「影…?」
「俺はお前、お前は俺。表裏一体、俺はお前の心の影から生まれたのさ」
「そんなこと、あるはずない!!じゃあなんだ!俺が本当は街を壊して、人を殺したいと思ってると言いたいのか!!」
「その通り!!」
対面のナハトにハジメがたじろいだ。
「言っただろう。俺はお前の影、心の闇の具現化だ。お前が死なない限り俺はこれからも暴虐の限りを尽くすぞ。今日のはほんのデモンストレーションだ」
「お…俺は認めない!お前が俺だなんてことは!!」
「認める認めないの問題じゃない。お前ももう見ただろう?人間の掌返しを。人間の信頼なんてものは薄っぺらいんだよ。まァ、その信頼を壊したのは俺だけどな。へへへ……」
「お前ッ……!!」
ハジメは向かって殴ろうと拳を出すが、ナハトはひらりとそれを避け、一歩後ろに下がりハジメに制止を促す。
「やめておけ。人間体のお前じゃあ俺に傷一つつけられない。逆に一撃でお前があの世逝きになるだけだ」
「そんなこと言われて、はい、そうですかって引き下がると思ってるのか!!」
今度は高速の回し蹴りをハジメはお見舞いする。しかしまたしてもナハトはひらりとそれをかわす。
「おお、怖い怖い……ククク。そうだなァ……それなら、正々堂々と決着をつけようじゃないか?」
「何……?」
「11日……二日後の正午、クマモトの中央地区に光の巨人の姿で来い。そこで相手をしてやる。じゃあな、これが最初で最後のチャンスだ。大事にしろよ」
「なっ!待て!!」
ナハトは夜の暗闇に混ざり込むように姿を消した。それを止めるハジメであったが、無論相手は待ってはくれなかった。
玄関先の蛍光灯の頼りない光がハジメの足元だけを照らす。静寂が戻る。そして虫の音も遅れて再び聞こえ出してきた。
先ほどまで握っていた拳を、握り返す。ハジメの瞳には火がついていた。
「二日後……二日後か。あいつは、俺が止める…!」
ハジメは寮へと足を運ぶのだった。
お久しぶりです。期末テストの山場を通り越し、一息ついている投稿者の逃げるレッドです。
課題研究とテストが終われば実質無双開始ですかね。以前と違い今の投稿スタイルは、ストックが3〜4話になったら順次投下するという形にしておりますので。
さて、ウルトラマンなどのヒーローではよくある、ニセモノ回に突入しました。こういった回は好物でございます。
これからもよろしくお願いします。
_________
次回
予告
決闘場として、もう一人のナハトに指定された熊本市にハジメは姿を見せ、雌雄を決するべく変身する。
『___攻撃開始!!』
一向に相手が現れない中、ハジメ___ナハトに対し自衛隊西部方面隊による総攻撃が始まった!反撃に転じられないハジメは追い込まれてしまう。
そしてそんな時、例のナハトではなくウルトラマンメビウスが現れる。様子がおかしい…と思えば、メビウスがナハトに仕掛けてきた!
多対一に持ち込まれるハジメの運命は!?
メビウスがなぜ地球に?もう一人のナハトはなぜ来ない?
地球人類とウルトラマンが矛を交えることになってしまうのか!?
次回!ウルトラマンナハト、
【ウルトラマン攻撃命令】!
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
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紗希のトモダチ
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ミチビキさん サンダース編
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ミライVSマホ カレー対決
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ハジメ、迷い家にて