7月9日日本時間21時頃
東アジア 日本国関東地方 茨城県つくば市
研究学園地区 日本生類総合研究所
本部 特能精神開発室
開発室にいる子ども達は予知夢による痛みに苦しんでいた。
「違うの…ナハトで、ナハトじゃない……」
「ウルトラマンの姿が…燃える町の中に見えてます…!」
「ゴジラもモスラもダメみたい…」
「みんな、何が見えているの?」
「ごめんね先生、分からない…うぅ……」
「なんかゴチャゴチャしてるの……」
開発室責任者である心理学者の敦子には、彼ら彼女らが何を見て何を感じているのか、その詳細まで辿り着くことはできなかった。
ナハトについて言及する子ども達。放たれる言葉すべてが真実である。ナハトの何を示しているのか…それを知るにはまだ僅かに時間が必要なのであった。
_________
ナハト熊本襲撃より二日後、7月11日
同国九州地方 熊本県熊本市
熊本港 黒森峰学園艦 学園寮
「上陸して中央区に行く?」
「うん。ちょっと一人で」
寮玄関には、エリカと、屈んで外履の靴紐を結びながら、今ちょうど外出するところであるとを彼女に伝えるハジメがいた。
ハジメは珍しくカジュアル私服で身を包んでおり、ハジメをよく知る人間が見たら驚くだろう。それは今のエリカも例外ではなかった。
普段通りならば、こちらが止めなかった場合、ジャージを着て何気ない顔で街に出る__ファッションセンスゼロな__男である。気にならないわけがなかった。しかも今日は先日のナハトの件もあり学校側が大事をとって臨時休校日となっていた。ただの用事、買い物ではない。
「……中央区に買い物?」
なんとなく、違和感があった。大した用事ではないと雰囲気でやんわりと伝えてるつもりのようだが、本人から発されている雰囲気は違った。それに、日用品などであれば、艦内でほとんど揃えられる。特に特殊災害が発生し出した今年からは、日本の全学園艦には各種生活用品、食糧等の追加備蓄を日本政府が指示している。黒森峰の商店街や商業施設で買おうと思えば買えるのである。
私服を着込んでいるが、私服で向かう用事だと思えない。まるで、今から喧嘩に行くような、所々ピリピリとした感じである。
「うん。夜の前にまでは多分戻ってくるから。寮母さんにも一応伝えてる」
「買い物なら、港のある西区でいいじゃない。私も買い物なら手伝うけど……」
「いや、大丈夫。今日は俺一人でいいよ」
出た、まただ__とエリカは思った。やはりコイツはまた何か一人で抱えて込んでいる。
しかし、それと今日のハジメの動きに関連があるのか、結びつけて良いのか戸惑われた。
「……分かったわ。気をつけて行ってきて」
「ありがとう」
「………。」
その声色からは何とも形容し難い感情が滲み出ているように感じた。
結局エリカはハジメを止めることはしなかった。しかし、またしても一歩踏み込んで聞く勇気を出せなかった自分に憤りを感じるのと同時に、いつの日からか心の何処かに刺さっているトゲがまた痛みだしたのだった。
――――
――――
――――
数時間後、正午手前。
同県 中央区 某市街地
「ねえねえ、今日どこ行く?」
「ゲーセンいこーよ」
「カラオケ行きてぇ〜」
「…はい、はい。すぐにそちらへ伺いますので、はい、よろしくお願いします…」
「えぇ!?今日は無理ってお前……!今日ダメだったらアレどうするんだよ!お前いないと発表できねえんだって!!」
街はハジメの予想とは裏腹に、隣の区が先日特殊災害に巻き込まれたとは思えないほどの活気があった。
平日授業をサボって抜け出してきたのだろう本土の学生は仲間達とつるんで街中で遊んでいるし、ビジネスマンは移動の側で取引先への電話に四苦八苦しており、大学生風の男は論文発表などがあるのだろう__電話先の知人に怒鳴りながら__頭を抱えて彷徨いている。
(アイツはどう仕掛けてくる…?)
それぞれの何気ない日常が街で再生されていた。所詮、隣町で何が起ころうと自分の身に同じ事象が降りかからない限り、いつも通りの"普通"を謳歌しようとする……それが今の人間の特徴である。
そんな人々が地上を埋め尽くしている中、ハジメだけが眉間に皺を寄せた深刻な表情をして、人っ気の無いテナント募集中と貼られたビルの屋上に立っていた。
光の力を得た副産物である並外れた身体能力を使い人知れず登ったのだ。普段ならば使わない力を使う…いつもの調子にはなれていない証拠でもある。
ハジメはスマホのホーム画面に映る時刻を見る。その後、間を置かず今度は腕時計を見る。落ち着きがない。
正午の時刻になるまで、1分を切っていた。
「……ここで…!!」バッ!!
正午キッカリ、ハジメはアルファカプセルを掲げて光となる。
昼の市街地に黒き巨人が現れた。
市民は、ナハトの姿を確認するや否や蜘蛛の子を散らすように悲鳴をあげながら我先にと逃げ出した。
シュッ……
現出したナハトは周囲を見渡し出したのと同時に、熊本市全域に避難勧告を含んだJアラートが響き渡る。
それ以外に、ヘリのローター音が増えてきた。遠巻きにジェットエンジンの轟音も近づいてきているようだ。
《どこだ!姿を現せ!!》
相手…もう一人のナハトが現れる気配は微塵も無い。その代わりと言ってはあれだが、街の至る所から、徐々に自衛隊車両が現れ始めた。そして空には偵察・観測ヘリの他に対戦車攻撃ヘリの〈AH-64D アパッチ・ロングボウ〉や、最新鋭の攻撃ヘリである〈AH-2 ヘッジホッグ〉が舞っている。
『CP、こちらヤタガラス。時間通り、対象の出現を確認した。送れ』
平時ではありえない展開の速さである。まるで、それは待ち伏せのようで……。市内の街角各所に被せられたグリーンシートからは〈高機動車〉や〈96式装輪装甲車〉などが出てくる。そしてそれに完全武装の普通科部隊が続く。
キュラキュラキュラキュラ……
大通りからは反対方向に向かい走り逃げる市民と入れ替わるように、〈16式機動戦闘車〉を先頭にして先のゴルザ・メルバ迎撃戦で機甲師団が壊滅し保有台数が激減していた〈10式戦車改〉、〈12式自走電磁砲〉や、〈89式装甲戦闘車〉、そして対特殊生物戦闘車両である〈20式メーサー戦車〉が車列を形成してやって来る。
田所浩二一佐が指揮する、再編された陸自の新生第8師団である。
『…標的、ウルトラマンナハト確認!』
『作戦区域内の避難活動、間もなく完了するとのこと!!』
『ウルトラマンに砲を向けることになるなんて』
『だが奴は熊本を攻撃した。……容赦するな!』
第8師団の隊員達の反応もまた、国民同様に様々ではあった。しかし、当該師団に所属する隊員の殆どは九州__特に熊本の__出身である。自分の住む地と守るべき人々を傷つけられたことから、彼らは闘志に燃えていたのであった。
「……ダイバー01よりダイバー各車へ!状況開始!!ビルとビルの合間を利用し、既定ポイントを周回し走行間射撃を実施せよ!!
的はデカイぞ!外すなよ!!」
田所一佐も、リベンジ相手がウルトラマンであることに戸惑いはあったが、敵は敵であると、過った感情を払拭し街中に立つナハトを車上から見据える。
「…いや、迷うな。例え相手が昨日の友であっても、敵になったのならば戦う道以外は……ない!
やるぞ、攻撃開始!!」
ウルトラマンナハトに対しての、自衛隊の攻撃が始まった。
ドゥン!ドゥン!ドゥン!!
ズガァン!!ズガァン!!
ドパパパパパパッ!! シュパ!シュパパ!!
電磁投射砲の砲弾、120ミリの滑腔砲弾、ヘルファイア対戦車ミサイル、NATO規格の5.56ミリ銃弾、さらにトドメとばかりにメーサー砲がナハトに向けて一斉にあらゆる角度、方位から襲いかかった。
《っ!!?》
ハジメ___ナハトは自身に向けられた攻撃一瞬戸惑うが、当然だろう。先日の件もある。こうなることも予想できたはずだ。ヤツに嵌められたのだ。
ハジメは己の愚かさに唇を噛む思いであったが、そうも言ってられない。なんとかしてこの状況を打開しなかれば。
______が、避けられない。
なぜなら、仮に避けたなら自分に向けられた攻撃の一部が市街地、そして誰かに当たる…傷つくかもしれないからだ。
今まで取ることの無かっただろう策を取り、動いてきた自衛隊をハジメは今ばかりは恨まずにはいられなかった。しかし第8師団側も必死である。なんせ相手は自分たちの前任らを塵も残さずに消し飛ばした怪物らを幾度も単身で葬っている存在だ。当然だろう。
ドドドガァアアーーーーン!!!!
グァアッ!!!
取れる選択肢などありはしなかった。
ナハトは身一つで自衛隊の投射した火力を受ける。着弾時の爆煙と爆風がナハトをすっぽりと包む。
『命中!!ヤタガラスからの攻撃効果の確認報告が来ます!!』
『これだけの効力射を浴びれば、ウルトラマンでも……!』
「続けろ!!火力を投射し続けろ!!
砲身が焼け付くまで撃ち続けるんだ!このまま押し切るぞ!反撃の隙を与えるな!!」
統率の取れた容赦のない攻撃がナハトを襲い続ける。ハジメの精神はとうに疲弊しきっていた。正しく言うならば、あの日からとっくに疲れていた。
自分の姿を利用され、ヒーロー像を汚され、守るべき人々からは疑い…そして敵意を向けられ、そして今日こうして刃を振り下ろされた。心身ともにボロボロの一歩手前である。
シュア……!
《ぐぅ……!俺は、俺はどうしたら……!》
…………シュアッ!! バッ!
『!?!?、ナハトに動きあり!!』
それは、"拒絶"であった。
ナハトは円状障壁__ストーム・バリアを応用したドーム状のバリアを展開した。言わば全てを遮断する壁、外の喧騒や介入を一切許さない頑固なシャッターである。
殻に閉じこもったと言った方が良いのだろうか?
『光子バリア…ってやつか?』
『初めて取った行動だ!確実に追い詰めている証拠に違いない! 田所隊長、攻撃を続行しましょう!!』
『今ここで奴を倒さねば、また多くの人々が!!』
「…………攻撃継続!!畳みかけろ!!トレノ隊も間もなく到着する!ここが踏ん張りどころだぞ!!」
ゴォオオオオオオオオーーー!!!!
地上部隊による総攻撃から暫し遅れて、航空自衛隊春日基地からは怪獣や異星人との戦闘経験が豊富な、秋津一等空佐率いる精鋭部隊第506飛行隊―トレノ隊―が到着した。隊の機体である〈F-35JA ライトニングⅡ〉すべてに、
「我々の任務は、地上に展開している第9師団の航空支援だ。相手は人型…それも過去に何度も我々と共に戦ったウルトラマンだ。それぞれ思うことはあるだろうが、今はそれを抑えて任務に臨め」
『『『了!!』』』
秋津もまた内心戸惑っている人物の一人であった。彼やバディであり部下である神隼人一尉、そしてトレノ隊は、過去に幾度もナハトに窮地を救われている者たちである。
そんな彼らに、引き金を引く順番が回ってきた。
(……彼は二度も熊本を、そして俺を救ってくれた恩人だ…。証拠も何もかも揃ってはいるが、どうも俺は納得できない…)
秋津は、バリアを張りつつも狼狽えているように見えるナハトを見ながら、違和感を抱きつつ引き金を絞り始める。
(…だが俺は軍人だ。人を、そして国を守る自衛官だ。例えこれから取る行動が後悔に繋がるとしても、俺に残されている選択肢は引き金を引く以外には存在しない…!)
腹を括り引き金を引く覚悟を決めた秋津。
秋津の駆るライトニングからミサイルが放たれようとしたその時、バリアを張るナハト目掛け遥か上空から明色の光線が降り注いだ。
ズババババ!! バリンッ!!
「何だ!?」
光線の威力は申し分なかったらしく、いとも容易くナハトのバリアを破った。
バリアを破られた際に生まれた衝撃により、ナハトが背後のビルに激突し座り込んでしまう。
秋津達はすぐに機を翻す。上方への宙返りを行い一時的に距離を取った秋津はその際横目で光線を撃っただろう主を見た。
「インフィニティー…!?」
明色光線を撃った主が空から降り立つ。
それは自衛隊の付けた識別名にならうなら"インフィニティー"…ウルトラマンメビウスのように見えた。メビウスがナハトに対して攻撃をしたことで、一時的に地上と上空からの攻撃は止んでいた。イレギュラーの出現は自衛隊側にも混乱をもたらしたようである。
『攻撃待て!攻撃待て!!』
『なんだ!?巨人同士で争うつもりか!?』
『あれは、四国の…!!』
「どうなっている……」
事態はまた別の方向へと向かう。
突如現れた第三者、ウルトラマンメビウス。彼は何をしに来たのか……それは彼自身に問いかける他は無い。
_________
黒森峰学園艦 学園食堂
「遂に街のど真ん中でドンパチ始めちまったと思ったら今度は違うウルトラマンかよ…」
「あの攻撃……ロケット弾まで弾き飛ばしてたバリアをああもあっさりと」
「あっちの赤い方が、私たちの味方なのかな?」
「いや、分かんないよ?また裏切ったり…」
食堂に設置されたテレビの前に食事を摂りに来たはずの生徒が集っていた。
メビウスの出現によって、食堂内がまた盛り上がる。そんな食堂の様子を尻目に、エリカは食堂前の通路で親友のレイラ、小梅やまほに付き添ってもらいながらハジメに何度も連絡を試みていた。
「……っ、駄目。やっぱりアイツと繋がんない…」
「ハジメさんは黒森峰から降りて市内に行ったんですよね?」
「エリカちゃん落ち着いて!きっとハジメ君なら……」
「アイツはっ!危ない所に首を突っ込む奴なの!! きっとまた、どっかで知らない誰かを助けようとして、それで……!! 自分は死なないとか思ってないとできそうにないことをいつも平然とするから……!!」
「エリカ、今はどうしようもない。エリカの気持ちは痛いほど分かる。分かるが…どうかここは耐えて、今は冷静になってくれ」
「…すいません隊長、みんな。取り乱したわ…」
まほの言葉のおかげもあり、声を荒げてしまっていたエリカはなんとか落ち着きを一時的だが取り戻せた。しかし依然としてハジメの身が心配であることに変わりはない。
焦る気持ちは今生徒達が集っているテレビへと向けられる。
『__また別のウルトラマンが現れました!高知県で宇宙人と対峙したウルトラマンでしょうか!? ナハトに対して攻撃を加えたようですが、仲間割れかは分かりません!!』
テレビ画面には、ビルに沈むナハトの前に、仁王立ちで堂々と立つメビウスの姿があった。それをエリカ達は複雑な感情を持ちつつ見守る。
食堂に転がり込んできた教員による緊急出港云々の話も、頭に入ってこなかった。
エリカにはどうしても、ナハトとハジメを結びつけずにはいられなかった。いつも自分たちがいるところに、必ず駆けつける存在。テレビで映るそれを、エリカはハジメに重ねていた。
「どこにいったのよ…ハジメ…」
_________
同県 中央区 自衛隊作戦区域内
《み、ミライさん!? どうして……っ!?》
しかしハジメの声はメビウス…には届いていないようだった。というよりも耳を傾ける気はないのだろう。既に攻撃されていることから、交渉や相談という一連の非戦闘行為は一蹴される可能性が極めて高い。
セアァッ!! ___ダンッ! ゲシッ!!
グアッ!?
立ち上がって呆然としていたナハトにメビウスは勢いよく切り揉みキックを繰り出した。またしてもナハトは先程激突したビルに倒れ込む。完全にビルは倒壊した。
もしやメビウス、他のウルトラマンたちも自分が街を壊したのだと考えてしまっているのかと、ハジメの頭に嫌なものが過ぎる。
《ミライさん!俺は何もしていないんです!!攻撃を止めてください!!》
仰向けに倒れているナハトはメビウスの踏み付けを両手で受け止め防ぐ。やはり話す気は無いらしい。
それに違和感もあった。あの時の…エイダシク星人との対決の際とは全く戦い方が違ったからだ。メビウスは地球の建造物を壊さないように慎重かつ軽やかに戦う戦士であったはずだと、ハジメは思った。
……ハァァァアッ!___シャキン!!
メビウスは有無も言わさないほどのテンポで次の攻撃に入る。左腕の"メビウスブレス"から光剣__メビュームブレード__を出して構える。
これにはナハトも応じざるを得ない。ナハトセイバーを出して応戦する。
セヤァア! フンッ! ハアッ!!
ガキッ!!ガギィイン!!!
激しく鍔迫り合いを起こす二本の光剣。早すぎる両者の動きに周囲に展開する自衛隊は一対一の勝負に手出しができない。
メビウスがナハトの胴体目掛けて斜め上から力強く振り下ろした光剣は、ナハトが咄嗟に取った剣での受け身を崩す。斬撃を受けきれなかったナハトセイバーは根本からポッキリと折れ、ナハトは左肩から右横腹に掛かる負傷を許してしまう。
グアアアーーーッ!!!!
(もろに食らった…!! 意識が持ってかれそうに……!)
ナハトの傷口は浅くはなかったようで、光の粒子が傷から鮮血のように溢れ出した。
あまりの痛さに耐えられなかったのか、ナハトは手を傷口に添い当てる。ライフゲージの点滅はいつの間にか始まっていた。活動限界が迫っていることを教えるタイマー音と赤色の明滅がハジメを焦らせる。
『…ダイバー01より各車!我々の攻撃目標はナハトだ!!インフィニティーを援護せよ!!攻撃再開!!』
ズガァアン!! ズガァアン!! ズガァアン!!
ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!!!
地上部隊は司令部からの指示によりナハトへの攻撃を再開した。それに合わせてメビウスが退き、それと入れ替わるように砲弾やミサイルがナハトに殺到した。
ナハトはウルトラ戦士の中でもタフであるかと言われればお世辞にもそうとは言えない。音速で飛来してくる砲弾や対生物に特化したミサイルを一斉に浴びれば、大ダメージを受けるのは必至である。それに加え、身体に蓄積していたダメージも災いした。
急激に劣勢になっていくナハト。自衛隊は攻撃をやめない。それをメビウスはただ見ている。
《ミライさん……どうして俺を……》
ナハト…ハジメはヨロヨロとした様子で、迫る苦痛から逃れるために空に活路を求めて飛び逃げる。
しかし、自衛隊もナハトを逃す気はさらさら無く、空対空ミサイルを搭載した攻撃ヘリ―アパッチやヘッジホッグ、コブラ、そしてライトニングを駆るトレノ隊などが撃ち落とさんと殺到する。そして地上からは、ドイツの"ゲパルト自走対空砲"の流れを汲む〈87式自走高射機関砲〉の放つ機関砲弾と、"ツインメーサー"の愛称で知られる〈20式自走高射メーサー砲〉による指向性放電砲の弾幕が襲い来る。
ダタタタタタタッ!! シュバッ! バシュンッ!!
『ここで決着をつける!!攻撃の手を緩めるな!!』
『カバー頼む!!行くぞ!!』
『誤射に気をつけろよ!』
『航空部隊との連携を密にせよ!!』
機銃に砲弾、高電圧のプラズマ、そして誘導弾と、人類の攻撃の苛烈さは収まる気配は無い。苦心しながらも、なんとかナハトはナハトショットを駆使し撃墜できるミサイルなどを退け続ける。
しかし着々と近づいていた限界が迫ってくると、そうもいかない。それにメビウスもまたこちらへ、空へと上がってきた。うかうかしていては落とされる。
《何故…!何でなんだよ…!! クソ!!》
……ッ!ジュワッ!!
ハジメは心の中に怒り・葛藤、その他諸々の感情を抱えつつ、遺憾ながら撤退の択を取った。
ナハトが腕を胸の前でバツの字に組む。すると額のランプクリスタルが白く輝くと同時に、ナハトの身体が一瞬で光の粒子になり霧散していった。
瞬時に自身を別の空間、座標へと転移する、"テレポーテーション"である。
『何っ!?』
『ナハト、
『瞬間移動か!?』
『攻撃中止!攻撃中止っ!!』
「逃げたか……」
秋津らの前から唐突に消えたナハト。追跡、追撃に移ることは不可能であろう。飛翔していたインフィニティー___メビウス__がナハトを追いに行くのだろうか、同じようにテレポーテーションの動作に入ったところを横目に今後への思索を巡らす。
『インフィニティー、ナハトと同様の動きを取っています』
『!! インフィニティー、探知不可能になりました!』
メビウスも空中から完全に姿を消し、空に確認できるものは自衛隊のヘリと戦闘機のみとなった。自衛隊の作戦司令部は、熊本から"脅威"の排除に成功したと判断し、作戦終了を出動したすべての部隊に通達。作戦参加部隊は撤収を開始したのだった。
今回のウルトラマンナハト撃退は国内外で大きく報道され、反応と対応は様々となる。 アメリカ合衆国は在日米軍の増強に関してのみ発言し、ロシア連邦は日本への資源提供や強固な新同盟の締結を視野に入れた条約についての会談を設けるため、日本にコンタクトを取ってきた。 中国・豪州連合は対応の甘さを指摘すると共に日本国にに面する海岸地域の軍備増強がのちに確認されることとなる。アフリカや欧州、中東に南米といった国は特殊生物の対処と後始末に追われそれどころではなかった。
日本政府は熊本の再復興や自衛隊の今後の運用方針の説明、全学園艦の湾内待機指示、そして一連の事件の火消しに回ることになる。また、メビウスに関しては、あくまでも攻撃対象はナハトのみであるとして、現時点でのウルトラマンの同族に対する防衛行動の拡大はしないとした。
そして日本が非敵性特殊生物、各国が"益獣"と呼称している怪獣___ゴジラ等に関しては殆どの国が今回の件とは別物として処理した。
実際、ナハトとメビウスが日本の熊本で交戦している際、ゴジラはモスラと共に北大西洋からイギリスへと飛来せんとしたギャオスの群れと、度々同領域で国籍問わず船舶を襲い最近になって存在を確認された
_________
ナハト、メビウス交戦からおよそ二時間後
黒森峰学園艦 車輌・貨物ブロック
「力が、入らない……」
ハジメはあの戦いに敗れ、逃げた後、なんとか黒森峰に戻ることができていた。しかし転移する予定であった座標が体へのダメージが原因でズレてしまい、艦上の市街地でなく艦内の貨物の積荷や一般車輌が駐車されている区画に飛んできてしまっていた。この区画は偶然にも普段ハジメたちが学園艦を乗り降りする際に世話になっているゲートブリッジが格納されている場所でもあったため、エリカ達に見つかってもある程度は言い訳できる状況であった。
「まさか…ミライさんまで、俺を…殺しにくるなんて…」
学園艦とは、基本は巨大なブロックを組み合わせる方式で建造される途方もなく巨大な船である。その構造上、ブロックとブロックの間に通路は設けられておらず、ブロックからブロックへと移動する際には一度地上…生活空間である艦上へと上がり、そこから専用の昇降機や長大なスロープを介さなければならない。
これが、学園艦の一般的な居住区がすべて艦の上にある諸々の理由の大部分をしめている。なお、一説によれば艦内は太陽が浴びれないから、などという話もあったりする。
「足が……どこか折れたのか、打ったのか……」
さて、中々に話が脱線してしまったが、そうした理由から、艦内…地下にあたる区画は格納庫や農林水産業の施設として割り当てられている。
ここはそんなものの一部である。警備員や艦内警察が巡回している空間ではあるものの、短いスパンで見回っているわけではないため、ハジメは誰とも会うことなく隔壁に背中を預けていた。スマホを握ることすら出来ないほど疲弊しているようだった。
「うぐ…っ!! あちこち痛い…い、イルマに……」
胸に付けた流星マークのバッジを手に取ろうとするも、やはり腕すら上がらない。
先ほど、言い訳できる状況などと言ったが、ハジメの全身は無数の切り傷と打撲痕で覆われており、本人視点であればこの状態に重度の倦怠感と筋肉痛、骨折に近い鋭い痛みが動く度に走るのが加わるらしい。
動こうとする意識をまだ持っているだけでも大したものと言える。意識を投げ出さずに保っていることすらストレスであろうに。
「……ぐっ、動け…」
「ククク、無様だなぁ。ヒーローさんよぉ」
「!!」
目の前には気付かぬうちに人間大のメビウスがハジメを見下ろすように立っていた。
その声は聞いた事がある。嘲笑うような言葉を発したメビウスの声は、あの夜に会ったナハトと同じ声だった。
ハジメは怒りが込み上げてくるが、体を力ませると全身に痛みが走り、声にならない低い唸り声を出しながらうずくまってしまう。
「……お…前は、メビウス、ミライさんじゃ、ないな…うぐっ!」
「ほお。ご名答だ、俺はメビウスでも、ナハトでも、お前自身でも、ない」
メビウスだったそれは、ナハトに姿を変え、そして赤い瞳の黒い二本角の悪鬼のような影へと変わり、最後はまたナハトへと戻る。
「……星間同盟…か!汚い手を……」
「おいおい!これは勝負じゃねぇよ戦争だ。勝つための手段を取って何が悪い? 綺麗事でまかり通る世界なんて、どこにもないんだよ」
目の前のナハトが言うことは正しいとは感じる。だが、それを簡単に容認することはできなかった。いや違うと反論しようと顔を上げたハジメの首をナハトが掴み上げる。足が地面から離れた首吊り状態だ。
「ぐ、お前は、お前は……!」
「クズだ、許さないってか。誰も許してくれなんて頼んでないんだよなあ!!」ブン!
ドガァ!
「かは…っ!!」
ハジメは壁に投げられコンクリートに激突する。コンクリート壁に叩きつけられたハジメは、全身…特に頭部を強く打ったためか、流血が認められた。また、それで意識を持っていかれかけたらしく、肩で息をするレベルまで疲弊しきっていた。
「…………」
「おーおー!もう息引き取りかけてるじゃないか。ヒーローもこれじゃあ形なしだなあ!!ええ!!」ゲシッ!
「ぐぅ!……つ、……!」
ハジメは何度もサッカーボールの如く足で蹴られ続けゴロゴロと地面を転がる。背中を、脇腹を、腹を蹴られ何もできない。
ひんやりとしているはずのコンクリートの冷たさが感じられない。体中が内出血しているからだろう。逆に焼けるように熱く感じる。
「痛めつけるのもここまでにしといてやるか…」
「ゲホッ!……お前の、好きには…させない」
「まだ口をきけるのか。その粘りは褒めてやる。だがそれだけだなあ!!」ドン!!
「う"っ!?」
___ドサッ……
四つん這いになって立ちあがろうとしていたハジメの鳩尾へ拳が入る。意識が消えガクッと項垂れうつ伏せに倒れ込んだ。それにナハトが悪態をつきながら右腕からナハトセイバーを出し、切っ先をハジメの頭に突きつけた。ハジメは意識を失っているため動かない。
「気が変わりそうだ。何も出来ずに指を咥え、絶望している瞬間に殺すのはやめて、ここでバッサリと切って楽に死なせて――」
「__そこに誰かいるの!?」
「チッ、迎えが早かったな。しょうがない、予定通り引き下がってやるさ」
「……!! ハジメ!アンタどうしてそんな……、ウルトラマンナハト!?なんでここに…まさか!!」
ナハトが聞いた声はエリカのものであった。他の人間の声や、多数の足音が聞こえることから、さらにこの場に駆けつけてくるだろう。
エリカがハジメのもとに駆け寄るのと、そこからナハトが一歩退いたのは同時であった。
「ヒロインが助けに来てくれたぞ、よかったなぁ」
「あなた、ハジメに何したのよ!!」
「痛めつけてやったのさ。現実を突きつけるためにな。そいつはお前に返してやる。安心しろ。まだ死んではいない」
そう言うとあっさりナハトは引き下がり、空間の闇に溶け込むように退散した。消える最後までボーッと薄く見えていた目と、胸のライフゲージの光が無くなると、辺りを覆っていたプレッシャーもどこかへと散っていく。
エリカはハッとしてハジメに目を向ける。彼の外傷が凄まじいものであることは火を見るよりも明らかであった。
「ハジメ!しっかりしなさいよハジメ…ッ!! う、うう……!」
痛々しく、弱りきったハジメを見て、エリカは彼を抱き寄せた後に啜り泣いていた。こんな仕打ちはあまりにも彼には過酷ではないかと。ヒーローに憧れていた者が、その憧れのヒーローに痛めつけられるのはショック以外の何物でもないに違いない。なぜ人一倍頑張っていた人間がこうも傷つかなければならないのだろうか。
「エリカ!見つけたか……っ!? エリカ、ハジメ君のその怪我は!」
「酷いキズ…早く艦内病院に連れていかないと…!」
遅れてまほやレイラ、小梅達が到着した。男子勢も同じタイミングで駆けつけ、状況を確認した後は即座に役割を分担し、ヒカルとマモルがハジメを二人がかりで運び出した。
エリカはそれに付き添う形で艦上に待機していた艦内消防の救急車に同乗して学園艦病院へ。ハジメはこの間も命に別状は無いと分かったものの、意識を取り戻すことはなかった。
ハジメは病院に搬送後、政府が出した全学園艦出港中止措置等の外的な要因、骨折や打撲等の容態確認や、現場医師らの判断もあり、当該の病院よりも設備が整っている本土の県立・市立病院での治療をするということで、ハジメは学園艦から離れて熊本市の中央病院に意識不明のまま移送されることとなる。
はい、どうもです。バトオペ2にてガーベラ・テトラを操ってレートに潜ったり、ステラリスで企業国家を運営している投稿者の逃げるレッドです。久しぶりにやったらステラリスにハマってしまいました。楽しいっすね。
お気に入りや感想、いつもありがとうございます。
メビウス兄さん(大嘘)、登場です。ここまでやったら、おそらく皆さんは大方相手の正体分かるんじゃないでしょうか。
自分、"ニセモノ"の定義の中では、非侵略目的の擬態、本人とはまったく繋がりのない他人、本人と繋がりのある表裏一体善と悪の存在…の三つが特に好きですね。
あと少し小ネタなのですが、前回のサブタイは怪獣バスターズのミッション名より、今回のサブタイはゴジラ作品のタイトルから引っ張ってちょこっと変えて出しました。サブタイを考えている時が一番生きてるって感じがして、自分は好きです。
最後に、ここで投稿者がガルパン沼に突き落としたウルトラヲタクのリア友の(未投稿)作品宣伝を勝手にさせていただきます。
連載開始時期は未定とのことらしいのですが、投稿者と現在シェアハウスしているリア友が、SSSS.ユニバースとウルトラマンのクロスを準備しております。
ウルトラマンの名前は、レイド。ウルトラマンレイドとのことです。
これからもよろしくお願いします。次回も楽しみに。
_________
次回
予告
ボロボロになったハジメが意識を失っている間も、ニセナハトは日本各地に出現し、暴虐の限りを尽くしていた。
自衛隊、在日米軍、ロシア連邦極東軍がニセナハトを迎え撃つも決定打を与えれておらず、ゴジラ・モスラも蹴散らされた。そして遂には中国・豪州連合を中心に国連にて強引に戦術核と窒素爆弾__N2の日本国内使用が決定される。
一方的な大量破壊兵器投入のタイムリミットが迫る中、再びニセナハトがハジメの前に現れる。まだ動けないハジメの命をニセナハトは奪おうとするも、それを阻む戦士が現れた!
目覚めたハジメは、憧れを追い続ける孤高の戦士と共に、ラストリベンジを挑む!
次回!ウルトラマンナハト、
【憧れは久遠に】!
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
-
紗希のトモダチ
-
ミチビキさん サンダース編
-
ミライVSマホ カレー対決
-
ハジメ、迷い家にて