宇宙格闘士 グレゴール人、
ニセウルトラマンダイナ、登場。
熊本でのナハト撃退から三日後の7月14日の朝
東アジア 日本国九州地方 熊本県熊本市
中央区 熊本中央病院
『ウルトラマンナハトは、11日熊本で自衛隊による攻撃を受け姿を消した翌日から、石川、兵庫、岩手に連続して出現し、各地では復旧、救助活動が難航しています。また、ウルトラマン当人から発された日本並びに地球降伏のメッセージも依然として続いており、全国的に混乱が広がっています』
テレビニュースは連日、ナハトばかりである。それも当然のことだろう。
今ニュースキャスターが語っているように、ニセナハトは一日毎に襲撃場所を変えて日本に出現していた。
日本政府や自衛隊も黙って傍観している訳ではなかった。しかし、戦闘能力は雲泥の差であることは歴然であった。各地の駐屯地や基地から部隊が出動したが、それらのことごとくは一蹴され、焦った在日米軍も自衛隊への後方支援から一転しメルバ戦以来の戦闘に突入したが、やはり敵わない。
そして昨日13日、岩手県花巻市に出現したニセナハトは、自衛隊と交戦し同市に被害をもたらした後、太平洋へと飛行し逃走を図った。その際、岩手県沖合上空にてモスラと、海上ではゴジラ、ロシア連邦海軍より派遣された一個艦隊が迎撃に赴くも損害を出し、敢えなく突破されていた。こうした動きがありながら、非敵性特殊生物群とナハトの同士撃ちがそれでも示唆されたが、それは少数意見に留まった。
ガメラは豪州連合軍に撃墜された以来、行方が掴めておらず、ニセナハトへの対抗策というのは尽きかけていた。友好怪獣、そして世界トップの実力組織が三つ蹴散らされればそうも考えざるを得ないだろう。
こうした日本での動きに業を煮やしたのは豪州連合と中華人民共和国である。13日の日本時間19時に事態は急変する。
『日本国で現在発生している特殊災害の元凶たるウルトラマンナハトに対しての日本政府の対応は杜撰であり、これに代わり我々豪州連合は国連有志連合軍を招集・編成し核、窒素爆弾を用いたウルトラマンの完全撃滅と治安維持活動を行い日本国内の混乱を収拾する必要があると考える。
既に日本には、自国の軍事組織である自衛隊にウルトラマンを撃滅する力は無いに等しく、これ以上の事態の悪化を看過したならば、被害は世界に拡散すると考える。故に本件を国連憲章第7章第39条並びに第42条に関わるものとし、ここ、国連総会決議にて多国籍軍派遣の是非を取る次第である』
……以上の声明を豪州連合が国連総会で発表。中国や周辺諸国もこれに迎合し、同日20時にウルトラマンナハトに関する茶番のような国連総会決議が、始まった。
同日、日本時間22時、決議にて幾らかの反対票、無投票があったものの、豪州連合主導の実力行使プランが賛成多数で可決。作戦を迅速に実行するとし、それに向けての準備に動き出した。
国連での半ば強引な決議後、豪州連合各地の軍港での動きが活発化し、およそ二個艦隊規模の艦艇群が動き出したことが確認された。恐ろしいほどの用意周到さである。
また、多国籍軍は核・N2によるナハト攻撃のタイムリミットを、一週間後に制定。日本政府への通達が行われるも、具体的な作戦地域の決定はなされなかったため、日本政府は国民の避難・疎開計画を練ることが出来ず、各方面に混乱の拍車が掛かった。
……ここまでが現在までに起こった日本国内外の出来事である。
『__また、例の国連からの一方的な通達に対して、日本政府は強く抗議を行ない続けていますが、有志連合に参加予定の国々は今のところ沈黙を保ったままであり___』ブツッ!
病室のテレビがエリカがチャンネルを握ったことによって消される。延々と下向きな話しかしないニュースに嫌気がさしたのだろう。今、寝ているハジメに対する心遣いもあったのかもしれない。
「ハジメお兄さん、まだ目開けないね…」
「……あれから三日、アンタは一向に起きないわね」
「逸見さん……」
「イルマも悪いわね、佐世保から足を運んでもらって…」
「い、いや僕は友達が__ハジメが心配で…!」
ハジメの入院先の病室には、ハジメの弟であるシンゴと人間態のイルマ、そしてエリカがいた。
エリカは、特災臨時休校を利用し、ハジメの代わりにシンゴの側にここ数日はついており、イルマはシンゴ伝手にハジメの入院場所を聞き駆けつけている。
意識は戻ってはいないが、身体の方は順調に回復に向かっているというのが、担当の医師の見解である。
「失礼します。回診ですよ」
「あ、看護師さん」
「嵐さん、すごいですよね。先生も仰ってたんですけど、回復が…傷の治癒が一般の人と比べ物にならないレベルで早いんです。意識が戻ってこのままいけば、今週末には退院できるかもと」
「傷の癒え方が…ですか…?」
朝の回診に来た看護師が、ハジメを診た医師との会話について話しながらもテキパキと診察を進めながらエリカに応える。
「ええ。だって腓骨や鎖骨にヒビが入ったり、完全に折れてた箇所がここ二日でもう綺麗に接着が始まってるの。まるで漫画とか、アニメに出てくるスーパーヒーローみたい。食事も点滴経由の栄養摂取しかしていないのに」
「そうなんですね…」
「心当たりとか、逸見さんはあったりする?」
「いえ、特には……ないと思います……」
エリカの脳裏には、怪獣―コッヴ―が出現した日を境にしたように食事の量が増え、何か起こる度に体に傷を作ってくるようになったりしたハジメがちらついていた。
「そう…それなら良いんだけれど。……でも世の中もひどいことになってきたわよね、他所の国のことだと思って核撃つぞ〜爆弾落とすぞ〜とか言う国なんか出てきちゃって」
「そうですね…」
エリカはどこか上の空で、看護師の会話が頭に入らなかった。
その後も特段何も起こらず、看護師による回診は終わった。
エリカはシンゴやイルマと言葉を交わして時間を過ごしていた。やることが見つからない…というよりは身が入らないといった方がいいだろう。実際、臨時休校期間も戦車道の練習はあった。しかしエリカは隊長のまほに断りを入れて毎日病棟に通っていたのである。
「エリカお姉さん…ハジメお兄さんはいつ起きるの?」
「…そうね。いつになるのかしらね…」
アンタを心配してくれてるやつはいっぱいいんのよ、とエリカは心の中でハジメに語る。
……すると、その声が通じたのかハジメの顔に変化があった。
「……う、……ここは?」
「ハジメ!!気がついたのね!!」
「ハジメお兄さんが起きたぁ!!」
「良かったぁ…目を覚ましてくれて」
ハジメが意識を取り戻したことにエリカ達は安堵する。
当のハジメは、自身が今いる場所が病院であり、運び込まれていたことは察することはできたらしいが、意識を失った際の記憶や、時間の感覚が混濁しているようだ。
「俺は、あの後……はっ!エリさん、俺はどのくらい眠って―――っ!? …うぅ……」
「ちょっと!まだアンタは怪我あるんだから、体起こそうとしないで!!」
「僕、看護師さん呼んでくるよ!」
「ボクもイルマお兄さんと一緒に行ってくる!」
イルマとシンゴが医師を呼ぶべく、病室から出て大急ぎでスタッフステーションのフロアへと慌てて走る。それによって、回診していた別の看護師に発見され、病棟内を走るなと怒られながら。
「とにかく良かった……意識が戻ってくれて」
「ねえ、エリさん。俺、どのくらい寝てたんだ?俺が寝てる間に、何か起こらなかった?」
「………」
「…エリさん、教えてよ」
「……ナハトが、あの後も色んなとこに現れて、街を壊して自衛隊とも、ゴジラやモスラとも戦ったわ。今じゃ、ナハトが地球は降伏しろって言うようになってて…」
「なっ…!!」
「それだけじゃないの。国連で、一部の国がウルトラマンを消すために核、窒素爆弾を日本国内で使うって言ってて……。タイムリミットはあと七日か六日、ナハトの出る場所は分からないから、政府も国民の避難計画をまとめられてない状況なの」
「日本に、核を…!?」
「私もみんなもごちゃごちゃになっててよく分からないけど、色んな悪いことが重なってるのだけはたしか。今はみんな落ち着いて過ごしてるけど、いつ崩れるかもう分からないの…」
「あの…アイツが…!! アイツのせいで…!!」
「アンタはとにかくゆっくり休んで。今は自分のことに気を遣いなさい」
「……分かったよ」
このやりとりを終えた直後に担当医師と数人の看護師がハジメの病室にやってきた。
ハジメが意識を取り戻したという事で、暫くの時間検査が続いた。その間、エリカはシンゴやイルマと共に検査の結果を院内で待っていた。
(ホントは色々アイツに聞きたいことがいっぱいあったのに…。どうしてそんなに命を投げ出すような行動を取るのって、どうして全部自分一人で頑張ろうとするのって、どうして私を…みんなを頼ってくれないのって……前に聞くって決意したはずだったのに…)
目を覚ました直後のあのハジメの雰囲気は、エリカからナハトのここ三日間の動向を聞いた時の彼の感情には、明らかな敵意やそれに近いものが感じられた。
エリカは無理もないだろうと思った。自分の憧れ、指標としていた存在があのような暴挙を働いたのだ。ハジメの怒りは最もだとエリカは考える。
(ヒーローが本当は悪役だったなんて…しかも、それの暴力の矛先が自分に向けられたりしたら……ああいう風にもなってしまうわね……)
しかし、エリカは知らない。知ることができない。ハジメのその感情がどこから来ているのかを。源は何なのかを。お互いを理解し合う、伝え合う努力も機会も足りなかったから。
ヒーローがハジメ自身であることは、今までの数少ないヒントを結びつければエリカは辿り着けたかもしれない。だが、今はそこまで考えが及ばなかった。
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同国 星間同盟秘匿地下施設
「ほう。ナハトは速やかに消さないのかい?」
『ああ…。最後の最後まで後悔と絶望を見せつけてから、俺の手で潰す。あのヒーロー様は今戦えない。 それぞれのプランとシナリオは、担当の取り分だろう?手出しは例え隊長のお前であっても許さん』
「なっ!?ヒッポリト様に大して無礼だぞ!ババルウ!!」
「私は気にしてはいないよ、リフレクト君」
星間同盟の地下前線基地。そしてヒッポリト__ヒールとその右腕である部下、リフレクトがいるのはその司令室である。
彼らが通信している相手は金髪の頭に二本のツノと、赤く大きな一対の目が特徴であるネオババルウ星人。あらゆる分野に長けた、戦闘種族である。
『当然この功績は、俺に下りてくるんだろうな』
「勿論だとも。それは保証しよう。先ほど言われた通り、我々は今回のシナリオとキミの動きに手出しはしない。思う存分、やってくれたまえよ」
『その言葉、忘れるなよ?』
「分かっているとも」
ズラリと並ぶモニター群を有するこの区画は、モニターから発されるライトのみが光源となっており、薄暗い雰囲気で満たされている。その中でモニター越しにやり取りをしているヒッポリトらは、いかにも悪役といった絵になる。
「…ババルウ君、キミのシナリオのプランを教えてくれないかい? 私はね、キミのやり方がダメだった場合に、次のシナリオとプランを練って進めなければならない。どの行為が妨害に当たり、支障を来さないのか、分からないからね。それに地球産怪獣の存在もあるけれど…」
『フンッ!俺のやる事は単純明快だ。 お前達の指示通り、俺は能力を駆使してナハトの地球人評判を地に落とした。地球時間でおよそ7日後には惑星規模の放射能大戦が始まるだろうな。そうなれば地球人は敵味方の区別なぞせずに争い合う。怪獣にも手を出してさらに滅亡へと加速する。…その引き金になるのが、再度のナハト出現だ。俺はここで最後の働きとしてその滅亡の針を進めてやるのさ』
「ああ〜、オセアニア国とチャイナ国の動きに期待するのか。なるほどねぇ。"
『…核を開発した発展途上文明が突然滅びるのは珍しいことでもないだろう? 宇宙進出に差し掛かった惑星文明の消滅要因の八割は核絡みだ』
「そうだね。生物は適応進化を持っている。核汚染後に新しいサンプルだって確保できるかもね。キミがそこまで考えていたのなら、心配いらないか。頑張っておくれよ?」
『司令官様に言われずとも、与えられた役割は全うしてやるさ。そろそろ俺は動かせてもらう。ナハトの動きはオセアニア国に予めリークしておいた。奴らも動き出すだろう』
ババルウがヒッポリト側の返事を待たずして、一方的に通信を切断した。そんなババルウの態度にリフレクトが呆れかえっている横で、ヒッポリトは小さく溜め息を吐く。
「ふぅ…優秀でも、反抗的な駒は動かすのは一苦労だねぇ。煽てるのにも一苦労だ」
「しかし本当によろしいのですか? 核汚染はソリチュラの同化とは別物ですよ?」
「大して変わらないよ。地球と、少しの生物さえ手に入れられればいいんだから。さてさて、これからババルウ君の勇姿をじっくり見ようじゃないか。今回もダメそうだから椅子にゆったり座ってでも」
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熊本中央病院 一般病棟
一通り検査を終えたハジメの、何か思い悩んでいる様子を見て、エリカは何と声を掛けてやれば良いか分からなかった。そして、ハジメのことならば他の人間よりも知ってるはずである自分のそんなところに怒りを感じていた。
「お兄さんが目を覚ましてくれて、僕嬉しかったよ。そうじゃなかったら…」
「ごめんなシンゴ。心配掛けて」
ハジメが病室に看護師の手を借りつつ、松葉杖を用いて病床に戻ってきてからも、エリカはハジメとの接し方に戸惑いがあった。今、ハジメはシンゴの相手をしながら、イルマとも会話している。エリカはといえば、少し距離を置いてパイプ椅子に深く背中を預けて座ってうんともすんとも言わない。
そんなエリカを見ていたハジメは、何か居たたまれなくなり、声を掛ける。それはハジメなりの気遣いの表れであった。
「…エリさんも、ごめんね。俺のこと見つけてくれたの、エリさんだったんだよね?迷惑掛けて…本当にごめん!」
両手を合わせてこちらにできる限り頭を下げるハジメ。そんなことしたら腹回りの傷と骨が痛むだろうに…。
だがここでもやはりエリカは思った。ワタシの心配よりも、もっと自分を心配しなさいよ、と。だが、心身共に傷ついているだろうハジメに強い言葉をぶつけることは戸惑われた。それは違うと思ったのだ。
それでも、なんらかの反応を返さねば厚意を蔑ろにしたに等しい。
「気にしないで頂戴。それよりも、早くケガ治しなさいよ?黒森峰には、アンタが必要なんだから」
「分かった。すぐに治して復帰してみせるよ」
「その気概はありがたいけど、それはそれで心配ね…。それに、勉強の方だって……」
ハジメが無意識に出した助け舟にエリカは助けられた。話は変わるけど、と言いハジメは続ける。
「あのウルトラマンナハトは、偽物だと思うんだ」
ハジメが持ち込んだ話題は、巷ではもはや侵略者と同義として使われている黒き巨人についてであった。
話題が話題だ。エリカはハジメを傷つけないように、言葉を選びながら、寄り添う形で聞き返す。
「どうしてそう思うの?」
「いや…それは……」
言い淀むハジメ。しまった、この聞き方も不味かったか…とエリカは心の中で頭に手を当てる。
正直に言ってしまえば、エリカは半分ハジメを憐れんでもいた。
自分が信じていたヒーローであるウルトラマンが暴虐の限りを尽くす極悪人に変わってしまったのだ。
アレは偽物で、本物は別にいるという妄言が幼馴染の口から出たとしても、それを真っ向から否定はしなかった。逃げ道を潰された人間は、あっという間に壊れてしまうことを、一年前のあの時(決勝戦後)にエリカは学んだ。
「ごめんなさい。聞き方が意地悪だったわね…」
自分の心の支えがチームメイトであるならば、今のハジメの心の支えはヒーローだろう。たとえ根拠のない戯言だと思っても、それを受け止めてこそ自分だとエリカは言い聞かせる。
「いや…俺の方こそごめん。変なこと言っちゃって。そうだよな……こんな話ぶっ飛んでるかぁ…」
どこか悲しそうな目をしながら、近くで見なければ分からないほどの涙を少し流し、震えそうになる声を抑えつけるハジメ。
エリカもこれ以上の詮索はしない方が良いと感じ、話を切る。
それは側から見た人間からしたならば、以前より両者の間にあった理解の溝が深くなっているのではと感じるだろう。
「……あ。私、花の水取り替えてくるわね」
話が続かなかったエリカはそう言うとそれとなくシンゴを呼んで二人で病室から出ていく。愚痴に近い独り言を吐き出せるのは、同い年かつあまり接点の無いイルマよりも、日頃から顔を合わせており、ハジメという共通の身近な人物がいるシンゴであると考えたのだろう。
それは、ハジメ側にとってもありがたい動きだった。協力者であるイルマとの情報交換ができるためだ。
「なあ、イルマ……アイツは、何なんだ?アイツは悪のウルトラマンなのか?」
「いいや、ハジメの見た姿を聞くに…憶測は危険だけれどもそれは暗黒宇宙にいるババルウ星人だと思う」
「ババルウ…星人? そいつが今回の……」
イルマは深刻な表情で頷く。ババルウ星人の話は、ザラブ星人や他のM78スペースの宇宙人にとってはあまりにも有名であるらしい。 聞けば、過去にはその驚異的な変身能力を用いてウルトラマンの同胞になりすまし、宇宙警備隊__ウルトラマンの母星、光の国に単身で堂々と乗り込んで警備を総括するコントロールセンターを破壊した個体や、光の国と地球を共倒れさせようとした個体もいたと言う。
「彼らは強い。戦闘能力に個々の差はあっても、メカニズムは僕にも分からないけれど彼らの変身能力は僕らザラブ星人とは違って、変身した存在そのものになることができるんだ」
「完全なコピーができるってことか?」
「うん。そうだね。ウルトラマンに擬態したら、その身体的スペックはもちろん、スペシウムを筆頭にあらゆる光波熱線や各種能力を力の限り使える」
「…誤解を解くことは難しいし、おまけに強いってことだな…。現に俺がこんな風になってるからな…」
「ごめんよ。僕には何もできなかった…」
「イルマが謝る必要はないって。ただ、単に俺にまだまだ足りないとこ、浅はかなところがあるからで…」
俯き加減でハジメは言う。次第に声は小さくなっていく。
__でも。とハジメはイルマの目を見て自分のやらねばならぬことを伝える。
「――このままアイツの好きにさせちゃ駄目なんだ、絶対に。ヒーローだ何だとか関係なく、やり始めたことは終いまでやらないといけないんだ」
父さんがよく言っていた言葉だけど、と付け足して。
身体は傷だらけだったが、ハジメの心は根本から折れてはいなかった。必ずババルウには今まで人を騙したツケを払わせると、そう怒りを燃やしながら。
ハジメがその怒りを激らせる所以は、今回の一連の出来事で亡くなった人々と、その遺族を思ってのことであった。彼らはババルウがウルトラマンに化けていることなど知らない。"ウルトラマンに殺された"という事実を押し付けられて死んでいった者が大勢いるだろう。
死んでしまった人々に対して誤解を解く方法を、ハジメは持ち合わせてはいない。できることはババルウの化けの皮を剥ぎ、今を生きる人々にそれを伝えることだ。間違いを間違いのまま終わらせてはいけない。正さなければならない。
「だけど……いまアイツが現れたら…」
今ババルウと対面したとしても、傷だらけの自分はたちまち蹴散らされてしまうという恐怖がハジメの中に渦巻いていた。ハジメも人間である。怖いという感情はウルトラマンとして戦いはじめてから無くなったわけではない。
自分のやるべきことが分かっているからこそ、それが満足にできない今の状態に苦虫を噛み潰したように顔をしかめるハジメ。
「とにかく、ハジメは安静にして、傷を癒すことに____」
ズズウウウーーーーーーンッ!!!!!!
ジュアアッ!!!!
「っ!! ナハト…いや、ババルウか!!」
「これは…っ! ハジメ、逃げよう!ババルウはキミを狙って現れたんだ!!」
病室から見える街並みに異質なモノが映っている。
巨人___ナハトだ。ババルウが人々を騙すための、偽りのヒーロー。
イルマはハジメが太刀打ち出来ないと悟ったのか、ここは苦しいが逃げの択を取るように促す。
その間にも、ババルウ__ニセナハトはゆっくりと、確実に地を踏みしめながら病院に真っ直ぐ向かってきている。
「俺を狙ってるなら、尚更逃げたらダメだろ。……イルマ、寄越してくれ」
「! ………本当に、良いのかい?」
ハジメは、イルマがアルファカプセルを持っていることを察していた。これもウルトラマンの力の賜物か…第六感に近いものが研ぎ澄まされてきたと言うべきか。
イルマは変身アイテムをハジメに渡すことを躊躇した。その行為は、友人を死地に送るのと同義であると解釈していたからだ。
「理屈じゃないんだ。俺は、ここでアイツに立ち向かわなくちゃ…リベンジしなくちゃいけないんだ」
「…………っ、気をつけて」
「ありがとう」
ハジメの言葉と、目から決意を汲み取ったイルマは、アルファカプセルをハジメに手渡す。
カプセルを受け取るハジメ。手に握る夢のアイテムは、暫く握っていなかったからか、ズッシリとした重みを感じた。これまで感じたことの無かった、重みが。
「逸見さんと、シンゴ君が来る。ハジメはベッドの下に!僕が入れ替わる!」
「分かった」
まだ傷が痛む体をよじらせながらハジメはベッドの下の空間に自身をねじ込む。足が綺麗に病床の陰に隠れたのと同時に、数人の看護師とエリカ、シンゴが室内に転がり込んできた。
「ハジメ!!」
「お兄さん!!」
開きっぱなしの扉の向こうにある廊下を見れば、患者や医師、看護師に見舞いに来た人々が我先にと逃げ出していた。エリカたちは自分のことを逃げるために連れ出しに来たのだと、ハジメは直感した。
「ウルトラマンが来てるんだよね。分かってる」
「ああもう、肩貸すわよ!急いで!」
「逸見さん、嵐さん、シンゴ君、こっちです!非常口は大勢詰め掛けて使えません!」
「エリカお姉さん、お兄さん早く!」
松葉杖を使おうとしたハジメ__イルマをエリカが焦ったく思い、肩を貸して看護師に誘導されながらシンゴと共に病室を後にする。
部屋の喧騒が消え、エリカ達がいなくなったことを確認したハジメはすぐにベッド下から這い出し、立ち上がる。
「見えてるんだろう!俺はここだ!!」
病院周辺や院内のスピーカーから立て続けに流れている避難誘導と、サイレンに負けじと声を張り上げ、窓の向こうにいるニセナハトを睨みつける。
手に握っているカプセルが普段より一層強く輝いている。
「俺は!お前を____」
フゥン!!!―――ズズン!!!
「うわっ!!」
ハジメの不意をつく形で、ニセナハトはその場で地団駄を踏んだのだ。地面を踏むことで起こる揺れで、ハジメはカプセルを手放してしまう。カプセルは床に無情にも転がる。
どうやら、変身もさせずにハジメを殺すつもりらしい。想定より早く回復していたハジメを見たニセナハトが焦ったらしい。
クククク………ハァアア…ッ!!!
ハジメが態勢を崩し、変身がすぐにできない状況になったことを確かめたニセナハトは、スペシウム・オーバー・レイの構えに入っていた。
「……くっ!!」
絶対絶命。
ハジメがそう思った。
病院からまだ避難できていないエリカ達と、その他大勢の人々もそう思った。
しかしその予想は、病院の陰に立つ一人の黒衣の男が壊した。
「…その姿での悪行、目に余る!!」バッ!
男が右腕を斜め上に掲げると、その手から光が溢れ出し、彼の周りを光の柱が包み込んだ。
キィィイイイイイイーーーン!! ―カッッ!!!
ヌウ!?
ハアッ!!
空中から現れたのは、黒いマントを翻す巨人だった。その巨人は、挨拶がわりのドロップキックをニセナハトにかました。
ニセナハトは二、三歩咄嗟に下がり紙一重で巨人の攻撃を避ける。避けられた巨人の方も、ドロップキック後はすぐさま立ち上がり、病院を背にしてニセナハトに立ち塞がる。
《お前は……!》
《星間同盟と言ったか。私はヘラクレス座のグレゴール人。他者を貶めるその愚行、許さん!!》
《グレゴール人…その戦闘能力の高さから宇宙格闘士を名乗る武闘家だったな。我々の呼びかけにも応じなかったクズだと聞いている!》
《貴様のような者が、かの者たちの姿を使うことはあってはならんことだ!ここで私が貴様を討つ!!》
巨人___グレゴール人は独特のファイティングポーズを取ると、手始めにハイキックを繰り出す。
フン!! ハアッ!!
交差する蹴りと蹴り。火花が激しく散る。
本来ならば、病院側に立つハズのウルトラ戦士が逆に立ち、誰も知らないような異星人がそれを守る側に立っている異様さは、今はゼロに等しかった。
そして、戦闘に動きがあった。グレゴール人が纏っていた黒いマントをニセナハトに投げつけ、相手の目を奪う。ついでにと腹に蹴りを入れてやり、押し戻すことに成功する。
その時グレゴール人は病院の一室__ハジメの方に首だけ振り向く。
《今だ!若き戦士よ》
「!!」コクッ
ハジメには分かった。目の前の巨人は、見た目こそ奇妙であれ、その心の中に在るモノに嘘偽りがない戦士のそれである事を悟った。ああ、彼も何かを探す為に戦っているのだと…そして自分と同じように、許せないことがあるのだと。
テレパシーを受け取ったハジメは傷が痛み言うことを聞かない体を鞭打ってカプセルが転がる床まで這う。
《お前ぇええええ!!! 俺をナメてるのかあ!!!》
いいように翻弄されたニセナハトが腹を押さえながら叫ぶ。
グレゴール人はそれには応えてはやらず、両腕を頭の前でクロスさせる。
《……もう一度だけ、姿を借りるぞ》
クロスさせていた腕を素早く下ろすと、グレゴール人の体全体に円形の光が広がっていき、その姿は光の巨人の姿をかたどっていく。
____ヘアアッ!!
グレゴール人が写した姿は、別宇宙にて数多の壮絶な戦いを潜り抜け、様々な世界を救った、いまや生ける伝説と言われる戦士___"ウルトラマンダイナ"であった。
宇宙人が未知のウルトラマンになったことに驚いたのは地上の人々である。
「宇宙人が、ウルトラマンになった…?」
「もう何がなんだか分かんないぞ!」
「アレは、ニセモノなのか!?」
「いったい、何が起こってるっていうのよ…!」
未来の光を受け継ぐ戦士、ダイナ。
グレゴール人が過去に強さを求めて対局を求めた"真の強さ"を持つ者である。
人からの声援に応え、諦めず、何度も立ち上がり向かっていく、熱いヒーロー。彼は今も光の彼方…その先を旅しているという。
《私も知った。真の強さを、その強さの根源がなんたるかを!》
《ええい!なにを訳の分からんことを!!細切れにしてやる!!消えされい!!》
ニセナハトが光剣ナハトセイバーを抜刀。横一閃に斬りつけようと踏み込んだ。
しかしその時閃光が走る。
グレゴール人__ニセダイナは再度輝き、光が収まった時には白銀の体__フラッシュタイプは、燃え上がっているかのような真紅の体___ストロングタイプへと変わり、ニセナハトの斬撃を体を屈めて避けた途端、ニセナハトの顎下にボクサーの如き強烈なアッパーカットを入れた。
ズガァアッ!
グァアアッ!!??
ニセナハトが大きくよろける。その隙をニセダイナは見逃さなかった。
筋骨隆々の姿をしているニセダイナからは想像がつかないほどの俊敏さで動く。
《…これ以上、
バギン!!
グワアッ!!
ニセナハトが後方へと大きく吹き飛ばされた。ニセダイナが放った渾身の右ストレートによるものである。あの時、"彼"から食らった重い拳と同等の、強き意志を持った一撃。
吹き飛んだニセナハトは仰向けの状態から、ニセダイナとその背後にある病院に向け腕を十字に組み、スペシウム光線を放った。彼ごとまとめて吹き飛ばそうという算段らしい。
ク…ッ!!
咄嗟に円形状のバリアを張るべく、防御姿勢を取るニセダイナ。間に合うかどうか彼にもわからない。
迫る光線が彼に直撃するかと思われた瞬間であった。ニセダイナとスペシウム光線の間に食い込むように、新たな光の柱が現れ、大地に衝撃が走り、光線を打ち消した。
ドドォオオオーーーン!!!
シュワッ!!
『くそが!お前まで相手しなきゃいけねえのかよ!!』
ここで初めて、ニセナハト__ババルウが異種間テレパシーではなく、品位も何も無い荒々しい口語によって悪態をついた。
ハジメの変身する、本物のナハト…ウルトラマンナハトが現れた苛立ちと焦りによるものからである。先ほどの新たな光の柱は彼の出現によるものだ。
「おい!ナハトがもう一人来たぞ!?」
「どういうことだ? あっちはニセモノなのか?それともこっちが?」
「いや、元から二人いたのか?」
「分からん…瓜二つだぞ…」
『いったい、いったい何が起こっているのでしょうか!! 突然現れた三人目の巨人は、ナハト!またしてもウルトラマンナハトです!!』
『宇宙人がウルトラマンになったことも驚きですが、この場にナハトが二人存在していることが未だに信じられません!! 我々は夢を見ているのでしょうか!?』
『皆さん!来ましたよ、来たんですよ!!あれがきっとホンモノのナハトです!! ヒーローはいなくなったわけではなかったんです!!』
同時に、病院周辺のみならず、市内全体、そして地上から生中継を行う笑顔テレビの美代達を筆頭に、各局報道カメラを通して目にしている全国の人々が驚愕した。
ナハト___と言ってもニセナハトである___が人語を喋ったこともそうではあるが、何より、ナハトが二人いること…そんな異常の塊のような事態に驚いたのだ。
それは空の上にいる人間達__トレノ隊も同じであった。
『現場に来てみれば、この状況は…』
『ナハトが二人も…!』
『赤いウルトラマンと一緒のナハトが味方、本物なんでしょうか?』
「待て。早合点だけはするな。今暫く様子を伺い機を見て我々は作戦行動をとる」
『『『了!』』』
(…やはり、あの時の違和感は気のせいではなかったか……。この戦いで、恐らく真実が明るみに出るだろう)
まさかの事態に現場の映像を見ている垂水政権や自衛隊・防衛省でも混乱が広がっており、熊本市に出動した部隊は命令が止まったことで、ほぼ膠着していた。
しかしそれらのことを巨人達は気にしない。戦闘は続く。
《今化けの皮を剥いでやる。ウルトラマンナハト、私に合わせろ!》
《は、はい!》
ニセナハトから距離を取った両者は、素早くそれぞれの牽制光弾、牽制光線をニセナハトの頭部目掛けて放つ。
____シュワッ! シュバッ!!
____デュアッ! シュバッ!!
グワァアアアア!!!!!
【♪FT BGM】『IMAGINARY LIKE THE JUSTICE』
二人の放った光撃がニセナハトの頭部に殺到。綺麗にクリーンヒットした。
顔面を負傷したニセナハトは、その強烈な痛みの余り顔を押さえて、獣のような慟哭とも、唸り声とも分からない声を上げる。
……グ、グォオオオオオ……!!!
「な、なんだあれ!?」
「見た目がブレてる!?」
「何なんだよ!」
するとどうだろうか。ニセナハト……ババルウの姿が何重にもブレて不安定になっていくではないか。
ババルウがヨロヨロと立っている間、様々な姿へと変わっていく。
それは、メビウスになり、ナハトになり、最後は変身が完全に解けて本来の悪鬼のような姿へと戻ってゆく。
「「「あっ!!」」」
これに再び人々は驚愕した。テレビの前で観ていた者も、現場で見ている者も、全員が呆気に取られた。
ゥウウウ……、……ムッ!?
『ぎ、擬態が…!』
ナハト、ニセダイナにより、遂に本来の姿を明かされたババルウ。
市内の人々の声は、驚きから怒りへと変わっていく。欺かれていた者たちも真実に気づいたのだ。正しいものが何なのかを、本当のことは何なのかを。
「見ろ!ニセモノだ!!アイツ、ウルトラマンに化けてたんだ!!」
「俺たちは騙されてたってことか……」
「あの宇宙人が私たちを騙してたのね!!」
「じゃあ前に中央に現れた赤いヤツも…?」
「こいつだったのか!?」
「……やっぱり、ババルウ星人だった」
「…ん?お兄さん、今なんて…?」
「……もしかして…今までのナハトは、あの宇宙人だったって言うの……? そんな、そんなのって…!!」
エリカ達、地上にいる者らがどよめいている中、空の上で舞う秋津が率いるトレノ隊は、これまでの分をぶつけようとすべく、いよいよ反撃に転じようとしていた。
『片方のナハトのフォルムが…!!』
『インフィニティーにも見えたぞ!』
『あれがニセモノか!!』
『俺たちはあの時、本物にミサイルを撃ち込んでたのか…』
『………秋津二佐、行きましょう』
過ちは正し、直さねばならない。それが出来るのが人間である。見なかったフリをしてはいけない。
今、秋津に迷いは無い。引き金を引く相手は鮮明に自身の目に映っている。そしてあの時の自分の勘は正しかったのだと、これで確信できた。
「ああ。…トレノ1からトレノチームへ。ナハトらを援護するぞ!真上から仕掛ける!!全機、私に続け!!
今までの分、挽回するぞ!!」
『『『了!!!』』』
ゴォオオオオオオオオーーーーー!!!!
十数羽の鋼鉄の鳥達は、力強く舞い上がる。アレを、ババルウをナハトと思い散っていってしまった同胞たちの敵討ちのために。それに、これまで共に戦ってきた大きな戦友の姿を騙っていたことが許せなかった。
「こちらに釘付けにしろ!!」
バシュッ!! ババッシュ!! バシュウン!!
ヌゥウウ!!
『矮小なる地球人どもめぇ!煩わしい!!』
ババルウは腕に仕込んでいる飛び分銅を、フルメタル・ミサイルをこちらに向け発射しているトレノ隊のライトニングに対し放とうとする。しかしそれは、距離を詰めてきていたナハトとニセダイナのダブルキックを受けその行動をキャンセルされた。
一方で、その後もロックオンし続けているミサイルは重力による落下とブースターによる加速によってさらに速度は上昇。誘導システムは誤差を修正しつつ的確にババルウを捉え、それらは全て命中。
逃げ場のない、文字通りの鋼鉄の雨が降り注いだ。
ズドドォオオオオオーーーーーンッ!!!!
ギャアアアアアー!!!!!
地球人側の、これまでの分の報復を体に目一杯受けたババルウの表皮は着弾の度に抉られ、爆発。次第に痛々しい姿へと変わっていく。
ゼーッ…ゼーッ…ゼーッ……
『貴様らァ…俺の体に傷をつけやがってェ…!』
もはや何者かに擬態する余力も消え、戦闘能力の大半を失ったに等しいババルウは、怨嗟の声を上げながらも、なお戦おうとする。そのおどろおどろしく無残な姿は正に悪鬼の類いである。
『許さん!許さん許さぁあああん!!!!死ねえええい!!!!』
手のつけられないレベルまでババルウの怒りのボルテージは上昇していた。
ほぼ半狂乱になり、全身に仕込んでいる武器の一つである刺股を取り出し、それを振り回しながらナハトとニセダイナへと向かう。
すでに決着がついていたに近かった。敵であるババルウの動きは真っ正面からの突撃という単調なものに成り下がっていた。それを捌くことは二人の巨人にとって難しいことではない。
《……これで、終わりだあああああ!!!!》
《死した者たちの悲しみと怒りを、この一撃に全て乗せる!!!!》
バッ!!――シェアアッ!! バッ!!――デュアアッ!!
ナハトはナハトスパークを、ニセダイナはダークソルジェント光線を放つ。
『グァアアッ!!お…の……れぇえええええ……!!!』
白と黒、そして青紫の光線がババルウに炸裂。
光線に対して防御動作も行わずに直当ての状態となり、それを食らった対象であるババルウは光の粒子となって風に吹かれ消え去ったのだった。
「…ふむ。またしても、こうなるか…。さっさと片付けてしまえば良かったものを」
「ニセモノを、倒した…?」
「やった!勝ったんだ!!」
残ったのは、ウルトラマンナハトとニセダイナ___グレゴール人である。
街の至る所から、人々からの歓声、そして謝罪の念などが含まれている声が上がっていた。それはナハトの潔白が証明された証でもある。
陽が落ちはじめる。茜色の空の下、ナハトと擬態を解いたグレゴール人が向かい合う。
《この宇宙に訪れる機会があって良かった》
《あなたは、すごく強いんですね…》
《この強さはタダで手に入ったわけではない。私も何度も戦い、経験を重ね、己を磨いて今に至る。
…そして何より、私は強さとはなんたるかを、とあるウルトラマンから教わった者だ》
《ウルトラマンに?》
ナハト___ハジメの疑問にグレゴール人はゆっくりと首を縦に振り、答える。
《私は彼のおかげで目を醒ますことができたのだ。私は戦う理由と求める強さの手がかりを掴めた。キミはどうだ、ウルトラマンナハト》
今度は逆にグレゴール人が問うた。ハジメは、一瞬迷ったがその後すぐに答えた。
《……俺は、まだはっきりと見えてないです。考えられてないです。
……でも、決めたことはあります。俺はこれから、絶対に眼前に映るものから、目を逸らしたりしない。それが自分へのケジメだと思います》
《……そうか。キミは心が打ちひしがれるような、途方もない高さの壁を見たかもしれない。そして理不尽な悪意をぶつけられただろう。
しかしキミはそれを乗り越え、こうして再び戦場に立ち、
《……はい!》
《さて…私にはあと一つやらねばならないことがある》
そう言ってグレゴール人は地上の人々の方に向き、報道陣のカメラ群を確認すると、彼は人々に語り出した。
『……私は別宇宙に存在する、ヘラクレス座M-16グレゴール星からやってきたグレゴール人である。諸君らは知っておかなければならぬことがある。
それは、この宇宙には、多かれ少なかれ私やあのナハトの偽者のように他種族の姿を模倣できる種族が存在することだ。
目に見えるものだけが全てではない……どうか、できるのならば、そのことを胸の内に留めておいてほしい。私からは以上だ』
グレゴール人は語り終えると、頭上に黒いワームホールを出現させ、ナハトスペースの地球から去ってゆく。熊本市の人々は彼を静かに見送る。
彼はこれからも様々な銀河を旅するだろう。
自分の憧れを追い求めて。久遠にいる憧れに、少しでも近づくために。
「ワームホールが…」
「あの宇宙人、グレゴール人は帰っちゃったの?」
「そうらしいわね。見た目に反して、親切なこと言うじゃないの」
周囲の人が街の復興作業や、病院の復旧に向けて動き出す中、エリカはシンゴと共にハジメ__イルマを病棟へと連れて行った。
――――――
およそ日本時間30分前
西太平洋 ミクロネシア近海
硫黄島沖450km地点上空
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオーー!!!
「エインジェル1から基地へ。当機、およびエインジェル2は間もなく暫定日本領内へ侵入する」
数機の護衛機――〈F/A-18E スーパーホーネット〉に守られながら、オーストラリア国防空軍戦略爆撃隊隷下の戦略爆撃機〈B-52 ストラトフォートレス〉二機は、腹に10発の
このままの飛行ルートを維持するならば、数十分もしないうちに彼らは日本国の排他的経済水域__EEZに留まらず、領空をも侵犯するだろう。
『把握した。直掩の、サイパン以南の基地より飛行しているバベルチームは帰投せよ。総員仕上げに掛かれ。日本側で何らかの動きがあったようだが、本土司令部から何ら通達が無いため作戦の第一段階は当初の予定通り続行とする』
この時、九州熊本ではニセナハト、ナハト、ニセダイナが戦っている最中であった。
『バベル1よりバベルチーム!二グループに別れ、散開後フォーメーションを再編せよ!』
『バベル9了解!あの悪魔に太陽を落としてくれ、エインジェル。バベル1、あとの護衛は頼む!』
半数の護衛機のホーネットが続々とB-52中心の編隊を崩して現在の侵攻方向と真反対の方向___豪州連合サイパン空軍基地へと帰投してゆく。
B-52の搭乗員、バベルチームの第1グループは、彼らを見送ると意識を再び任務へと戻す。
戦略爆撃隊の任務は、ウルトラマンナハトに対するN2攻撃である。そしてN2による爆撃の成功が確認され次第、連合傘下の東南アジアに集結させた上陸部隊を満載させた艦隊を九州へ。その後日本制圧の橋頭堡として確保するというのが、豪州連合の今回の作戦である。
無論、日本国側への通達は一切無い。
日本国の排他的経済水域内上空に差し掛かれば、史実よりも増強された"硫黄島航空自衛隊基地"からは〈F-2〉や〈F-3J 蒼天〉、〈F-35JA ライトニングⅡ〉等のスクランブル機がじきに上がってくるだろう。
しかしそれだけでは豪州連合は手を引かない。いざとなればベテランパイロットが多く所属しているバベルチーム――護衛部隊をぶつければいい。さらに言えば、日本は外的脅威である
「間もなく無線封鎖を実施する。自衛隊機が現れても気にせず我々はこのまま九州へのコースを取るぞ」
「対空火器、準備!いざとなれば迎撃する!」
『エインジェル2からエインジェル1へ、編隊後方に反応複数確認。そちらのレーダーはどうだ?』
「6時方向から未確認機…?」
自衛隊機との接触に備えていた爆撃隊は、飛行場などが存在しない太平洋から迫る謎の反応群に困惑した。
「なんだ、いったい……?」
『こちらバベル1、先手必勝だ。迎撃行動に移る!!』
しかし未確認の反応の正体は程なくして判明する。向こう側から通信が入ってきたためである。それも、聞き慣れた訛りの少ない英語であった。
ゴォオオオオオオオオオーーー!!!!
『こちらは、アメリカ合衆国海軍、第一艦隊所属機である。豪州連合機に告ぐ。ただちに当空域からUターンし離脱せよ。貴機は我が国の同盟国日本の領域に侵犯しつつある。
この警告に従わなければ、即時撃墜する!繰り返す。即時撃墜する!!』
『なっ!?』
未確認機の正体は、訓練を切り上げ日本支援のために太平洋に展開していた米海軍太平洋艦隊の第一艦隊空母艦載機〈F-35C ライトニング〉と、有人機追従仕様の無人機〈MQ-77 ブルーバード〉で構成された航空部隊であった。
『べ、米軍機!? それに…ナンバーズ・フリートだなんて…!!広域レーダーには何も映ってないぞ…!!哨戒機は何をしているんだ!!』
「慌てるな。我々は特別仕様のN2を持っている。撃墜しようものなら、彼らもタダではすまないだろう。それにこちらにはバベルチームもいる。ここは――」
『――我々は貴機らの積荷の中身を把握している。こちらは犠牲を厭わない。我々の撃墜の意志は揺らがないぞ』
こちらの思惑を見透かされていると感じた豪州連合側。B-52のパイロットらは脂汗が滲んでいた。米軍機の最優先攻撃目標は疑いの余地なく、破壊兵器を積んでいる自分の乗る機体であることは明白であったからだ。そして向こうは命を惜しまずに全力で掛かるぞと、そう宣言してきた。
自分たちがやられれば豪州連合は日米に対しての大義名分は出来上がるのだが、それが自分の命を生贄としてのものであればどうだろうか。大した気概もない人間ならばそれでも死にたくないと思うに違いない。
豪州連合側に動揺が広がる中、米軍機はその間も確実に距離を詰めてきていた。迎撃に赴いたバベル隊と、米軍機が戦闘に突入しようとした時、豪州連合軍司令部からの直接命令が彼らに下った。
『――司令部より作戦第一段階に参加している部隊すべてに通達する。本作戦は中止、繰り返す。本作戦は中止。
戦闘行為を行わず、直ちに撤収せよ。なお、これはバスク元帥の最高判断である。本命令に背いた部隊は反逆罪を適用し処分する。周知を徹底せよ――』
唐突な司令部の方針転換。司令部からの言葉に、実働部隊たる彼らは困惑する他なかった。彼らは知らないが、本物のナハトが現れたという確定情報が世界に広がった時点で豪州連合軍司令部は国際世論を味方につけることは難しいとし作戦中止を決定していたのだ。
「くっ……。サイパン基地へ引き返すぞ。各機、離脱開始」
命令は命令である。爆撃隊の中にこの空域から一刻も早く離脱したいと考えていた者達が多かったのもあり、戦闘に発展する直前で豪州連合側は恐ろしいほど素直に撤退を開始。サイパン空軍基地に帰投したのだった。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオーー!!!
『豪州連合機の全機離脱を確認した。
『『『
こうして日本本土N2攻撃は、米海軍太平洋艦隊第一艦隊によって水際で防がれていたのだった。
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時は今に戻り…
熊本中央病院
あのあと棟内に入った際、ハジメがトイレに寄った後は売店で生活雑貨と果物をいくつかエリカが購入し、別の場所に逃げていたと言うイルマは顔を見せた後一度家に戻ることを告げ病院を後にした。
病室へと戻るその間、エリカとハジメは言葉を交わさなかった。シンゴも、場の雰囲気を察してか、一言喋らなかった。
そして病室のベッドにハジメが着いた後、エリカが口を開いた。
「ハジメ、ごめんなさい。アンタの言う通りだったわ…あのナハトは偽者だった。本物は別にいたのに、私は…」
「ううん、気にしなくていいよエリさん。あれは俺の証拠もないただの妄言だったよ。今回はただ偶然本物のナハトがいただけで__」
「それでも!私がアンタを信用してなかったのはたしかじゃない。いいのよ、こんな時は怒ったって!怒る時は怒っていいの!!」
「そう言われたって…過ぎたことだし、俺は本当に何も感じてなんか…」
「嘘。だって私が質問したあの時、ハジメは悲しそうな顔してた。なんにも感じなかったなんて嘘よ」
「………。」
エリカの謝罪から始まったこの会話。ハジメが黙ったことで、続きが止まる。
エリカは病人を虐げているような感覚に陥り、自己嫌悪になる。ハジメは彼自身が言うように、エリカに対する怒りなどは微塵も感じていないのだろう。だがそれが苦痛だった。
自分はどこかで彼を傷つけるようなことを言ったのに、こちらには何も返そうとしない。優しすぎる。エリカは以前にみほにも似たような印象を持ったことがあったため、この虚しいやりとりを繰り返している感覚を覚えるのだ。
「………ごめんなさい。さっきのは無しってことで、いい?」
「あ、うん。大丈夫」
嘘だ。ほら、また"大丈夫"って言っている。
エリカは口から出かけた言葉をなんとか飲み込む。彼にこれ以上の心配も迷惑も掛けたくないから。それと同時に、思っていることと真逆のことをしている自分がまた嫌になる。悪循環であった。
しかしここの雰囲気を一新して後腐れなく今日は帰ろうとエリカは思った。
「……ふぅ、いいこと?ここでしっかり養生して、元気になって黒森峰に戻ってきなさい。オッケー?」
「ああ、うん。オッケー」
「なら良し。それじゃあ、また顔出しに来るから。ほらシンゴ、寮に帰るわよ」
「うん。またねお兄さん」
「すぐにそっちに戻るから。帰りに気をつけて」
エリカとシンゴは病室を後にする。二人の背中を見送ったハジメは、静かに拳を震えるほど握りしめていた。
手のひらからは爪が食い込んだことで出血が始まったが、ハジメが手をパッと広げると、すぐに傷が消えていき、勝手に止血された。
「…また、エリさんを心配させてる…。俺が弱いから、弱いところを見せるからなんだ…!」
先ほどまでの穏やかで優しげな顔はどこへやら、悲痛に塗れた表情で天井の一点を見つめる。
「グレゴール人からの、強さについての問いに俺は答えられなかった…。見つけないと、俺は、今度こそエリさんを、みんなを守れなくなるかもしれない…」
今回は偶然グレゴール人がこの宇宙にやってきていたため、助太刀してもらえたのだ。あの時彼が駆けつけてくれていなければ、変身を待たずして敗北していたに違いない。
ただただ、今はラッキーが続いているだけだ。いざとなれば誰かがまた助けてくれるなどという考えはハジメにはなかった。故に焦るのだ。
想いの強さと、戦うための強さは比例しない。この事実にハジメは歯噛みした。だが、今は傷を癒すことが先決であり、エリカ達の言葉に従って早く黒森峰に戻るために過ごそうと思う。
「……よし。まずは退院してからだ。退院までに出来ることはいっぱいある。勉強も、トレーニングも、全部やってやる…!!」
この三日後、七月17日にハジメは驚くほどの短期間で退院する。そして19日日曜日に開かれる、第63回戦車道全国高校生大会の抽選会に、エリカの付き添いとして共に埼玉県のさいたま新都心へと向かうこととなる。
「…むむ、…うーん……」
___ピッポッパッポッ!
「…………あ、もしもし。エリさん? あの、英語と独語の課題、スクショしてもらえないでしょうか…?」
はい。どうもです。漫画版亜人で大好きなキャラクターは、佐藤さんの投稿者逃げるレッドです。
グレゴール人は投稿者がウルトラシリーズの中でもかなり好きな登場人物でございます。次作のウルトラシリーズ、デッカーでグレゴール人は出てきそうですね。二年前からこの回の台本を書いていたので、上げられて良かった…!
フィニッシュタイムBGMは、ウルトラヲタクの友人から勧められてハマったものです。形成逆転からの畳み掛けてくる曲は最高やな!
一ヶ月前に描いた、ハジメ君とナハトです。
【挿絵表示】
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次回
予告
ババルウとの戦いから五日。まほ、エリカ達は遂に始まる第63回戦車道全国高校生大会の抽選会が開かれるさいたま市に行く。
抽選会後、エリカ達はまたみほ達と再会し、穏やかな時間が流れる。
しかし、さいたま新都心に謎の魔像が襲来。ウルトラマンナハトに対して勝負を求めてきた!
次回!ウルトラマンナハト、
【招かれざる挑戦者】!
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
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紗希のトモダチ
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ミチビキさん サンダース編
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ミライVSマホ カレー対決
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ハジメ、迷い家にて