7月19日日曜日
東アジア 日本国関東地方 埼玉県さいたま市
さいたま新都心 さいたまスーパーアリーナ前
今日は63回目の戦車道全国高校生大会の抽選会がある日である。抽選会場であるここ、さいたま新都心の中央近くに位置している、さいたまスーパーアリーナの周りには祭りの如く様々な屋台が並んでいる。一見すると街行事と見間違うほどの騒っぷりであり、七月の暑さを吹き飛ばすぐらいの盛況具合であった。ちなみに、よく探せばアンツィオ高校の出張屋台を見つけることができる。貧乏校の戦車道の費用稼ぎとは全く難儀なものである。
なお、ババルウ星人撃破から五日間、日本国内はニセウルトマンの衝撃を受け各方面で様々な動きがあった。
日本政府も国内外に新たにウルトラマンナハトへの対応と、豪州連合の領空侵犯未遂等に対する遺憾の意の表明を記者会見で行ない、新聞会社やテレビ局では一部を除いて凄まじい勢いの掌返しをしてみせていた。そんな大人達の様子を許して見ていた、当のウルトラマンであるハジメは豪胆というか、芯が強いと言うべきか。
垂水総理らは会見後、防衛計画の練り直しとババルウ星人との戦闘によって損害を受けた各方面隊の再編成と補填、そして戦場となった各地の復興に力を注ぎ始めた。
さて、それらはさておきアリーナの陰にある自販機置き場にたむろしている男が三人。
「ストームリーダーさんよぉ、ここに来てから聞くのもなんだが、お前ホントに大丈夫かよ?」
「うん?何が?」
「そうだよ。ナギさんの言う通り、退院してから一週間も経ってないし、そもそも復帰速度が異常なレベルなんだ、無理とかしてない?」
自販機でそれぞれ砂糖入りの炭酸飲料、ミネラル豊富な麦茶、シンプルな天然水を購入しているのは、黒森峰戦車道整備科のハジメ・ヒカル・マモルである。
どうでもいい話題の深堀りにあたることであるのは重々承知してはいるが、一応ハジメがサイダー、ヒカルが麦茶、マモルが天然水を買ったとだけ言っておこう。
三人はペットボトルのキャップを開けつつ飲む前後で話を繰り出し合う。
「俺は大丈夫だって。てか、ナギだって他人の心配より、自分のこともっと心配した方が良いんじゃないか? またいきなり黒い霧を体から出したらそれこそダメだと思うけども?」
「うっさいぞ、ハジメに一番言われたくねぇなぁ〜その言葉ぁ〜」ジリジリ…
「な、なんで近づいてきてるんだよ…?」
高校戦車道関係者である彼ら三人がなぜ、抽選会開始の時刻が過ぎていてもなお、このように駄弁っているのか。
その理由は単純明快である。抽選会場内に足を踏み入れることが出来るのは戦車道選手である女子だけであるからだ。まほ、エリカ、小梅の三人が抽選に参加している間、こうして暇を…時間を潰しているのだ。
「まあまあ、二人ともそこら辺にしといた方が…」
「こら男ども!なーにいちゃついてんのよ!!」
「げっ、逸見さん…」
「え、エリさん…」
マモルが仲裁に入ったところで、抽選組のまほとエリカが戻ってきていた。
エリカの声にハジメとヒカルが肩をビクッと震わせて声の主人であるエリカの方に振り向く。まほはやれやれ…というように目を閉じて小さく溜め息を吐いていた。
「自販機のまん前でたむろして…周りへの迷惑とか考えなさいよね!」
「「ごめんなさい」」
ここは素直に謝る整備科の二人。マモルはこの場をエリカが収めてくれたため、安堵しているようだった。エリカの後ろには愛想笑いの小梅が。
そして、少しばかり呆れていたまほが、顔を上げいつもの凛とした表情で全員に言って聞かせる。
「エリカと小梅は同伴していたから分かると思うが、一回戦の対戦相手が決まった。知波単学園だ」
「日本戦車を主力とし突撃戦法を得意とする、あの学校ですか?」
「そうだ。……というよりも、先ほど会場から出る前に機甲科整備科共通のグループに詳細を送ったはずなんだが?」ジロッ
「「うぐっ…」」
まほから遠回しに、ちゃんと目を通してくれないか、と言われたハジメとヒカル。隊長と副隊長から続けて叱責に近いものを連続で受けた二人は自分達が悪かったと分かっているが、若干ナイーブ気味になっていた。
「まあ、今日ここには機甲科と整備科の代表が集まっているんだ。近くに戦車道喫茶があるらしい。そこで今後の方針について話しつつ、甘いものでも食べてから帰らないか? それに、みほ達もそこに行くらしいんだ」
さっき確認した、とドヤ顔で自身の成果だと言わんばかりにまほは言う。
それに反応したのはみほの親友であるエリカと小梅、そして大洗では一悶着あったものの、幼馴染であるヒカルである。彼らはそれほど顔に出てはいないと思っているだろうが、実際顔に喜色が出ているのは丸わかりだ。なお、小梅だけは素直に喜んでいる。
「流石に私は全員の分を奢れるお金は持ち合わせていないが…」
「行きましょうまほさん。お財布の心配は無用ですから」
「右に同じく」
「俺も問題ないですよ」
「私も全然大丈夫です隊長」
「お財布には余裕ありますし、私も行きたいです」
「全員行けるか。よし、それなら行こう」
誰からも反対の声は上がらなかったため、一同は新都心区域内に構えている戦車道喫茶__ルクレールへと歩みを進める。
「…こんな情勢なのに、結局戦車道大会は例年通り始まりましたね」
「マモル君の言いたいことは私も何となく分かるけれど、決まったことは決まったこと。それに私たちはこの日のために努力を重ねてきた。私たちがやりたいことができるなら、存分にやらせてもらおうじゃないか」
そう。今年の戦車道全国高校生大会は、直近のニセウルトラマン騒動やトライリベンジャーの大洗出現なども相まって開催されるかは疑問視されていた。前者はともかく、トライリベンジャーの件に至っては、熊本のコッヴ襲来時等と同様に学園艦の目と鼻の先で戦闘が起こっていたからだ。
デカくて目立つからなのか、なんの因果なのかは不明ではあるが、学園艦が狙われている…若しくは停泊地自体を狙って怪獣や異星人が現れているとも取れる事案が何度も起きているのは事実である。
しかしそんな中、まほが言うように、大会の開始は決定されたのである。文部科学省や日本戦車道連盟の上層部が何やら絡んでいるとのことだが、真相は定かではない。どうであれ、小中高大のあらゆるスポーツの集大成を披露するはずの夏季大会中止発表が相次いでいる中で、戦車道のみが大会を実行というのは、異例であり異常…そして不気味さまでもが感じられた。
「い、いざって時は僕がまほさんを守りますよ!」
「ふふっ、ありがとう。頼もしいよマモル君」
「おーおー…先頭の二人の周辺だけほのぼのしてやがる…」
「微笑ましいですね」
ヒカルや小梅が、まほとマモルのやりとりを見守っている中、ハジメがふと思ったことをまほとエリカに投げかける。
「あの〜、なんで俺たち整備科が今回抽選会に同行することになったんでしょうか…? 試合の作戦立案とかの話し合いをするとして、それは俺たちよりもレイラちゃん、小島さん達の方が適任だったりしたのかなって」
「アンタ、それはあれよ。荷物持ちってやつ」
「えっ!?嘘でしょ!?」
「……冗談よ」
エリカの戯れに振り回されているハジメをまほが見かねてか、こちらに振り向いて説明する。
「それは、整備科からの意見が欲しい…と言うのが第一だ。エリカや小梅は何も言ってないと思うけれど、二人もこれに賛成してくれた。
私達は普段から戦車を操ってるが、修練した者ほど慢心、雑念などが生まれ足元をすくわれることがある。それか、選手としての視点からでしか見れなくなって気づくべき点に気づかないこともある。主観的ではなく客観的な視点で、戦車と試合会場の相性、特徴を評価してくれる人間が欲しかったんだ」
「なるほど…」
まほの本音は恐らくもっと別のところにあるとは思われるが、そこまで掘り下げるのは野暮である。
彼女から丁寧に説明されてはぇ〜とした顔で納得しているハジメをエリカが小突く。
「だから言ったでしょ?アンタたちは黒森峰に必要なんだって」
「うん。ありがとう。えっと、なんか…エリさんからそんな言葉掛けてもらえるなんて思ってもみなかったから、その…ちょっと照れる…かな?」
「ちょっと!それどういう意味よ!? 私だって、そういったことを言う時は言うわよ!!」
「あっ、皆さん。ルクレール見えてきましたよ」
いつも通りのコントのようなエリカとハジメの会話に一同は苦笑する。こうして、新都心内の街並みを賑やかに歩いていた黒森峰一同は、小梅の指摘もあり気づけば件の喫茶店___ルクレールの前に到着していた。
さすがにここまでの喧騒を店内に持っていくことは憚れる。さらに言えば店は喫茶、マナーを弁えて静かに寛ぐ店__と言ってもどこもそれは同じである__だ。
しかもこちらは天下の黒森峰。こんなところでそのブランドに傷を付けるのは許されない。言語道断である。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか?」
「六人です」
「かしこまりました、六名様ですね! 最奥のテーブル席にどうぞ!」
女性店員に促されたように、黒森峰一同は指定されたテーブルへと向かう。
席に向かう途中のテーブルに、見覚えのある制服を着た五人の少女が座っていることが確認できた。それは大洗女子学園の戦車道チーム…あんこうチームであるみほ達であった。
向こうより先頭を歩いていたまほがみほ達を先に発見していたため、まほがそのまま大洗のメンバーに声を掛ける。小さく手を振りながら。
「みほ、早いな。遅れてすまない」
「あ!お姉ちゃん!」
「みぽりんのお姉さん…」
「…いつも妹のみほによく接してくれてありがとう。これからもみほをよろしく頼む」
他者から見れば堅苦しいが、まほの、あんこうチームへの言葉からは家族である姉としての妹に対する暖かな思いやりが感じられた。
それに続いて黒森峰の面々が、あんこうチームのメンバーに挨拶や会釈をしつつ、みほに声を掛ける。
「「西住さん、久しぶり」」
「マモル君、ハジメ君、久しぶり。元気そうでよかった」
「久しぶり、だね。みほさん。前は心配掛けてごめん」
「もう気にしなくていいんだよナギさん?今こうして話せてるから私は嬉しいよ!」
「みほさん、お久しぶりです。戦車道、続けていてくれてたんですね…。 私、いつか絶対みほさんに直接、あの時のお礼の言葉、言いたかったんです…!」
「ありがとう小梅さん。そう言ってくれて、私も嬉しい。あの時やったこと、やって良かったって思えるから」
それぞれがみほとの再会で話に花を咲かせる中、エリカが一度待ったを掛ける。
「みほ、久しぶり。…隊長、取り敢えず席について荷物を置いてからにしませんか?」
「む…エリカの言う通りだな」
たしかにグループで店内の通路を封鎖状態にするのはよろしくない。ここはひとまず黒森峰メンバーが指定されたテーブルへと一度向かうことでこの場の問題は解決した。
その後、店側の厚意で黒森峰の席を大洗の横にしてもらったのだった。これによってテーブル間を往復したり、鮨詰めの如く無理な相席等は回避されたわけである。
「__みほの方…大洗の相手はサンダースだったな。抽選が終わったばかりだが、作戦などはもうあらかた組み立ているのか?」
「うん。でもやっぱり情報が足りなくて…」
「そうか…そちらもそちらで、大変なのは変わりないか」
「…大変って言えば、お姉ちゃんやエリカさん達こそ、ニセウルトラマンが現れた時は本当に心配したんだよ?」
「そうなのよ!こっちはハジメがどっかでポカやらかして病院に入院して…それに続いてニセモノが病院の目の前に現れるんですもの。あの時は流石に死を覚悟したわ」
「三日間意識不明だったもんね」
「え?ハジメ君、怪我してたの?」
「そうだよみほさん。コイツ、全身青痣や傷、骨折だらけだったのに、今日までにはもう完治しちゃったんだよ。並の人間なら全長一月二月掛かるようなもんを、だよ?」
「す、すごいね…たしかに今のハジメ君見たって、大怪我してたなんて思えないもん」
「あはは…頑丈な体に育ったっぽくて…」
「そこはアンタの母さんと父さんに感謝しないとね」
その時間は姉妹、幼馴染の久方ぶりの団欒。
「あの、はじめまして…になります。赤星小梅です…」
「はい!存じております!! 私、秋山優花里と申します!!どうぞ、よろしくお願いします!!」
「こうして見てると、ゆかりんと赤星さんってちょっと似通ってるよね」
「姉妹みたいですよね〜」
「赤星優花里…、もしくは秋山小梅…か。意外にしっくりとくる」
その時間は新たな友人たちの交流。
「――とにかく、お互い頑張ろう。私達と、みほ達がぶつかるとしたら……決勝戦か」
「私なりに頑張ってみるよお姉ちゃん。………ここにいるみんなと、大洗のみんなと一緒に」
「うん。相手になった時は、全力で挑ませてもらう」
みほとまほの二人が決意と誓いを新たにしたところで、沙織が彼女達も巻き込んで話しはじめた。
沙織はここを交流の場にしようと考えたらしい。それは彼女らしい心遣いが見えた瞬間でもある。
「はいはい!踏み行ったこと聞くかもしれないけど、もっとみぽりんやお姉さんたちの話聞きたいです!」
「例えば、どんなものでありますか?」
「中学時代とか、もっと前…小学生の頃の話とか!」
「そうですねぇ…小学生の頃についてなら、いくつか面白い話、僕持ってます」
「あらあら、是非お話してくださいませんか?」
普段は自身からは話題を切り出したりしないマモルが思い出話を語り出した。ここでの会話が余程面白かったのだろう。マモルの目は生き生きとしていた。
「たしか…ハジメだったかな? 小学二年生の時。えっと、僕らとエリカさんが知り合ったあたりの話なんですけど――」
お互いをもっとよく知ろうとすれば、会話は弾み時間を忘れるほど没頭するものである。
一人が語り終えたら、次は私、次は自分、次は俺が…と終わる気配は無くなっていた。
意外なことにより乗り気だったのは黒森峰側だった。胸に留めていたことなどを話す機会というものが最近少なかった…というより全く無かったからかもしれない。
「――それで、ハジメも逸見さんも言ってたんですよ。神社で黒森峰のお姉さんと話したって。でも、僕らの地区に黒森峰に行ってた人なんて当時はいなかったんです。しかも暑い夏の夕方にパンツァージャケット着てたなんて」
「あー、それ俺もリーダーから直に聞いた覚えあるぞ」
「え? そんな話、したことあるっけ?」
「私も、そんなこと言ってたかしら?」
「エリカさんもハジメ君も覚えてないの? お姉ちゃんがそれ聞いて目を輝かせて神社に行ったけど徒労に終わって落胆してたやつだよ?」
「な…っ!?みほ、それは言わないでくれないか…?て言うか、なぜ覚えている…!?」
「んー……でも覚えてないもんは覚えてないし……」
「まあガキの頃の話だもんなぁ。わかんないことの一つや二つあるか____」
ズズゥウーーーーーーン!!!!!
「うおっ!?」
「なになに!!何なの!?」
「縦揺れか、デカイぞ!!」
「怪獣?地震?」
「警報すら出なかったけど!」
思い出話が盛り上がってきた矢先、大地を大きく揺らす振動がルクレール店内だけでなく、新都心全体を襲った。
自然災害であれば発生直前にスマホから緊急通知のけたたましいアラームが鳴り響くはずなのだが、それはなく。振動が収まった数十秒後に思い出したかのようにさいたま市から国民保護サイレンとJアラートが発令された。
アラートの内容、緊急メールの内容を統合すれば、さいたま新都心内の再開発地区に謎の人型物体、そして新都心区域を囲むように四本の謎の筒状物体が出現したとのこと。
「おい!見てみろよ、トーテムポールの親玉みたいなやつが開発地区に立ってるぞ!」
「それに、新都心を包囲するように巨大なトーテムポールが四本、突き刺さったらしいね…」
「何しに来たんだよ」
「こっから逃げないとマズイんじゃないか?」
それを聞いたハジメ以外の黒森峰・大洗メンバー、店内の人々は再開発地区が見える店の窓に実物を見るために避難そっちのけで殺到する。その混乱に紛れてハジメは店内から抜け出し再開発地区に走り向かっていた。
街の中を駆けていくハジメは、再開発地区に立つ人型の不動の物体を睨む。トーテムポールの魔神のような存在には、顔が三つついており、一番上は"怒"の顔、真ん中は"楽"の顔、その下は"無"の顔と縦に連なっていた。
不気味な静寂を出現からおよそ数分間保ち続けていた人型の物体――ジャシュラインBr.がついにその沈黙破り周囲に電子音を響かせながら動き出した。
パパパパパパパパ! ―ピピピピピピピピ!
『俺様たちは三人合わせて、ジャシュライン
『宇宙でひとつ上の兄者たちの次に強いファイターでシュラ!!』
『ワシらがこの星に来た理由はただ一つ!!ウルトラマンナハトとの決闘のためだイン!!』
ジャシュラインが右手の指を器用にバチンと鳴らす。
バチジジジジジジジッ!!!!
すると、それが合図だったようで、さいたま新都心を囲んでいた四本の巨大なトーテムポール型の柱から紫色の閃光が走る。高電圧の放電である。
「きゃっ!」
「なんだ、雷か!?」
「新都心が囲まれた…!!」
「おいおい、あんなふざけた連中?奴?……は、正気か…?」
「ナハトに決闘を?どうして?」
強力な電気は四本の柱を駆け巡る。まるでデスマッチのリングのような構図である。これはナハトとの決闘のために準備したものだと考えられる。
また、電磁リングは新都心内の人々を封じ込める陸の孤島として役割もあるに違いない。エリカ達は人質に取られたのと同義であった。
どうやらジャシュラインは本気のようだ。現れる様子を見せないナハトに苛立ったらしく、我慢ならんと口調が荒くなる。
『俺様たちの兄貴たちは、以前別のウルトラマンによって殺されたジャジャ…!!』
『ワイらの兄者たちの仇をこの星にいるウルトラマンでとるでシュラ!!』
『どうする?ウルトラマンナハト!このトーテムリングは、地球人の檻としても使えるイン!』
「えぇ……完っ全に八つ当たりじゃないの、あのトーテムポール!馬っ鹿じゃないの!?」
「たしかに…あれは誰がどう聞いても八つ当たり、ですね…」
まったくもってエリカと小梅の言う通りである。
例えここでナハトを倒したとしても、それは復讐…敵討ちになるのだろうか? いや、ならないだろう。
物事の本質を理解していない厄介者ほど、手強く面倒なものは無い。
そんな厄介者の人質と化してしまったことを理解したエリカが大きく溜め息を吐いた。どうせこのトーテムリングとやらが起動し続けている限り新都心から脱出できないのだ。どこに逃げ隠れしようが内部で戦闘が始まれば安全な場所なんて存在しなくなることはエリカ以外の人間も理解していた。
ジャシュラインの様子を、ただただ店の中から見ることしか彼女たちに出来ることはない。
バタバタバタバタバタ!!
空を見上げてみれば、朝霞駐屯地より出動した対戦車ヘリ__
全国で対特殊生物戦を想定した__20式パルス・メーサー装備の__AH-2の実戦配備が進められてはいるものの、生産が追いついていないのが現状であり、それを物語っているのが、このヘリコプター部隊の構成具合からでも分かる。
『ヤンマ01よりCP、作戦空域に現着した。現在当空域を旋回中。また、新都心は謎の円柱型オブジェクトに囲まれており、何らかの障壁と思われるものが張られている。都心内には人型巨大ロボット…若しくは異星人に該当する存在を確認。指示を請う』
『ヤンマ、こちらCP。アキアカネの報告より、都心内の市民が閉じ込められた状態であるとのこと。静岡や熊本とは状況が違う。現地部隊による攻撃の可否判断は待たれたし。現在空自の百里、小松両基地よりスクランブル機が発進・急行中との通達を受けた。ヤンマは空自到着まで対象の行動に注意しつつ空中待機せよ』
『…ヤンマ01了解。待機する』
『間もなく陸自31普連並びに特自77特戦が市民救出のため新都心内部へ突入を試みる。それに合わせ突入直前にこちらは空自と連携し空から陽動を掛ける。新しい指示を待て』
自衛隊側も市民やさいたま市からの通報等を受け、動き出していた。即時攻撃が可能ではあったものの、今回は状況が状況である。
人質として囚われている国民のいる場所を戦場にしてしまえば今後の自衛隊の存続が危ぶまれるからである。今更そんなこと言ってどうすると思うものもいるだろうが、それは自衛隊の即時攻撃の大義名分である避難中の民間人を守るため…という文句が通じないからだ。避難もへったくれもないのである。
現状の打開策として、トーテムリング内に陸自の普通科連隊と戦機隊に参加している枢木が指揮していた__特自へと編入された__第77特殊戦車大隊が突入する作戦を立てていた。しかしリング内への侵入が可能なのかすら怪しいところであった。
『ぐぬぬぬ…!! どうしたジャジャ!ウルトラマンナハト!!お前が現れなければ、リング内の地球人をどんどん殺していくジャジャア!!』
ジャシュラインBr.の長男坊が放った言葉により、都心内の人々から悲鳴が上がる。
これには現地の部隊も黙っていられない。
『隊長、射撃許可を!!』
『待機だ…!ここは踏ん張るんだ!!』
『一刻も早く、オブジェクトの一部でも破壊しなければ!』
『おおっとぉ!? 地球人も動いたらどうなるか分かってるインね!上でも下でも妙な動きをしたら、ぶっ殺すイン!!』
勘だけは一流であるらしいジャシュラインの末弟が、自衛隊の動きに釘を刺し警告する。
手出しをしたら、中の人間の命も、こちらの命も保障はしないと言うことだ。そしていつでもお前達は潰せるぞ、という宣言に等しかった。
皆が唇を噛みジャシュラインを睨むことしかできない中、遂にナハトが開発区に光の柱を出現させて登場した。ジャシュラインの姿を認めるなり、すぐさまファイティングポーズを取るナハト。
シュアッ!!
《俺が目的なんだろう!》
『ジャーッジャッジャッジャ!!遂に現れたな、ウルトラマンナハト!!』
『お前もボクチンたちのコレクションに加えてやるでシュラ!!』
《こ、コレクション…?なにを意味の分からないことを!》
『ワシらの力、その身で思い知るイン!!』
ジャシュラインの言葉を皮切りに、戦闘が始まった。
再開発地区で両者が激突。その衝撃で土砂が巻き上がり、大地が揺れる。
ジャシュラインは一度距離をとると、腕部に装着されている盾を手に取る。すると盾が瞬時にV字の巨大なブーメランへと変わったではないか。ジリジリと距離を詰めるジャシュライン。
ナハトもそれに応じてナハトセイバーを。そしてパワー不足を察して剛力の戦士、紅のガッツスタイルへとチェンジし再び真っ向からジャシュラインを相手どる。
ハアッ!!
『パワーで俺様に敵うと思うなジャジャ!!』
ガキィイイン!! ガッキィイイイーーン!!
火花を散らし相対する。刹那、怒の顔の額に付いたランプが消失した。
驚くナハトを他所にジャシュラインの動きは止まらない。
ドガアッッ!!
グウウッ…ッ!?
《蹴り…か!》
ナハトの右横腹に衝撃が走った。横腹から感じる痛みからバランスを崩してしまいナハトがよろける。
『今度はボクチンが相手になってやるでシュラ〜!』
グッ!
《疾い…っ!!》
ジャシュラインの方を見れば、中央についている楽の顔の緑にあるランプに光が灯っていた。そして左足は鋭いローキックを放った後らしく、宙に上げたまま絶妙なバランス感覚で微塵も揺れずに片足で立っていた。
怒の顔が真正面から叩き潰す力押しの形態なら、楽の顔は俊敏な格闘戦が主体の形態らしい。
「ナハト、押されてないか?」
「見た目はアレだが、かなりのやり手らしいな…」
「なんだアイツ!?いきなり動きが変わったぞ!」
「力押しじゃダメよ!」
『ホイホイ!もっと食らうでシュラァ!!』
ドゴン! シュバッ!! ドスッ!!
ジャシュラインの連続格闘攻撃にナハトは防戦一方になっていた。ガッツスタイルでは、動きが見切れても対応が追いつかないのだ。
向こうは鈍重そうなその見た目とは裏腹に、軽快に動きナハトを撹乱してきている。攻撃の一手先が非常に読みづらい…恐ろしくトリッキーな動きである。
《くっ、これじゃあ埒が開かない! チェンジッ!スピリット!!》
フン……ハアッ!!
ナハトはローリングでジャシュラインの攻撃範囲からすぐに抜け出すと、鋭敏なる紺碧の戦士であるスピリットスタイルへと姿を変える。
スタイルチェンジ後を悠長に待ってやるほどジャシュラインは甘くは無い。ナハトがチェンジを終えた時にはすぐ目の前まで距離を詰めていた。それの気づいたナハトはバク転し回避を取る。その後はすぐに態勢を立て直し、格闘戦に再び転じる。
ハアッ! トァッ!! セアッ!!
『フゥン、動きは速くなったでシュラね。だがしかし!パワー不足、出直してこいでシュラ!!』
バゴォン!!
グアアアアッ!!
《スピリットで対応出来てないのか!?》
先ほど地に膝をつけさせられたものとは逆の、右脚による強烈なキックを受けたナハトは再開発地区の端まで吹き飛ばされる。
「ああっ……!!」
「またナハトが!」
「今度はパワー負け、してるのか?」
「だけどウルトラマンは…負けない。きっと、大丈夫」
「エリカさん…」
スピード重視の攻めは、パワー面がおざなりなってしまう遠因を作り出してしまっていた。
ここまで終始押されているナハト――ハジメは、結局スタンダードスタイルへと姿を戻し、ジャシュラインへ駆け出す。
シュアッ!! ハアッ!!
《俺だって、いつまでも弱い俺じゃない!!》
ジャシュラインに拳を握って飛び掛かろうとしたナハト。しかしハジメはふと浮遊感を感じた。
自身の下に広がる地面を見ると、そこについているはずの両足が…いや、身体が浮いていたのだ。
ナハト___ハジメも、エリカ達も驚いた。この現象のどこにタネがあるのだろうか? 答えはジャシュラインが知っている。
『ワシの念力で捻り潰してやるイン!!』
《グッ、体の自由が!》
ジャシュラインの三面顔の一番下…末弟の無の顔のランプに光が灯っていた。どうやら超常的な能力を得意とする形態であるらしい。
しかも、ただただナハトを宙に浮かせているだけではなく、ジャシュラインは念力――サイコキネシスを用いてナハトを締め上げ始めたのだ。
苦悶の声を上げるナハトを民衆も、自衛隊も、見ていることしか出来ない。そしてとうとうライフゲージが赤く点滅し出してしまったではないか。
ギリギリギリッ!!
ピコンピコンピコンピコンピコン!!
《う、おお……!かはっ…!?》
なんとか、どうにかして念力による拘束から抜け出そうとナハトはもがくが、体の自由が利かず時間だけが過ぎていく。
そしてジャシュラインが、そろそろ頃合いだとでも言うように念力の強度を弱めたのだ。これで拘束が解かれる…とハジメが思った矢先、今度は思い切り地面に放られ叩きつけられた。
ズズゥウウウウウウウン………!!
アアアッ!?
《がっ!!……い、いってぇ…》
ナハトが叩きつけられた影響で街が大きく揺れる。
ライフゲージが依然として警告を発しているが、ハジメは、ナハトは引く気は無かった。いくら力量に差があろうと、何度叩き潰されようと、もう諦めないし、絶望もしない。
立ちあがろうと両手両足に力を入れる。ジャシュラインはその姿を見て嘲笑う。
『ジャジャジャジャ!もう終わりか、ウルトラマンナハト!!』
『拍子抜けでシュラ!!』
『まだ向かって来るか、諦めの悪い奴イン!!』
立ち向かう者としての意地である。それは悪く言えば諦められないただの頑固持ちとしてもとれる。そしてそんなナハトを見ている人々も諦めていなかった。ジャシュラインの強さに気押されながらも、声を上げたのだ。
「言いたい奴には言わせておけー!!俺らは諦めてないぞ!!」
「が、頑張れー!!ウルトラマーン!!!」
「アイツを倒してくれ〜!!」
「頑張って…ナハト!!」
「まだだ!まだ終わってねえよ!!」
声援を背に受け、ハジメ__ナハトがなんとか膝に手を当てつつ、よろよろとではあるが立ち上がり、構え直す。
自身の体力の消耗具合から、これ以上の戦闘の継続は難しいとハジメは察していた。故に短期決戦を仕掛ける。
《終わらせる!!》
………ハアーーーッ!!!!
『ジャジャッ!?』
ナハトブレスを装着している右腕を天に掲げるナハト。ブレスを中心にモノクロの稲妻が何本も発生する。
その様子に驚き、ジャシュラインがたじろいだところを、ナハトは好機と見た。
《ナハトォォオオオオオ……ッ》
稲妻のエネルギーがすべてナハトブレスに集まり、一層輝きが増したところで、空に掲げていた右腕を胸元まで引き寄せる。そしてジャシュラインに向けて手の甲を突き出す。
《スパァアアーーーク!!!!》
ゴォオオオオオオオオー!!!!
見る者全てを圧倒する白黒の電撃光線は、ジャシュラインに直撃した…………が、爆散することも、跡形も無く消滅することもなかった。
ジャシュラインは盾を取り付けてある両腕で、過去最高峰の威力だったろうナハトスパークを防ぎ切ったのだ。それも、擦り傷一つ付けずに、である。
ウッ…!?
《ナハトスパークで、無傷…なのか…!!》
『今のは筋の通った良い攻撃だったジャジャ』
『しかぁし!ボクチン達相手にはちと弱かったでシュラね』
『要するに、お前はまだまだ、未熟ということだイン!!』
「あのトーテムポール野郎、ナハトのこと好き勝手言いやがって!」
「けど、あのビームだって弾かれちゃったのは事実だし…」
「まだ負けてないって!」
「そうだよ。終わってないよ!!」
街の人々がそうナハトに向けて激励するが、明らかに劣勢であることは誰から見ても分かっていた。
自分の攻撃を完全に防いで見せたジャシュラインに危機感は感じたものの、ナハトの戦意は揺らがなかった。
守らねばならない人々が見えるところにいる。ここで倒れたら誰が奴を止めるのか?
使命感と一言で済ませばすぐに終わってしまうかもしれない。
しかし、巨大な敵に真っ正面から立ち向かえるのは自分だけ。やるしかない。やるかやらないかなどと言う選択肢はとうに消えている。
《戦うんだ…!!みんなのために、みんなの分まで!!》
『充分お前との戦いは楽しんだジャジャ。これで終わらせてやるジャジャァ!!』
『くらえ!これがボクチンたちの!!』
『必殺光線だイン!!』
今度はこちらの番だとでも言うように、ジャシュラインがナハトに向けて銀色の光線___"シルバジャシュラー"を放った。
ナハトは場所が場所であるため、回避という択を取らずにストームバリアを張り防ぐという考えに至り、その通りに円形にバリアを張る。
銀の光線はバリアに接触し、霧散すると思われた___が、しかし…である。なんと光線はバリアをすり抜けるように貫通し、ナハト本体に到達してしまったのだ。
ウッ、…ッ!? グッ、ガァアアアア!!
「ナハトが…苦しんでる…」
「あ!体がっ!!」
「銀色に染まっていく!」
「なんだ…あれ」
「だめ、ダメ!それは…!!」
ナハトが形容し難い苦しげな叫びを上げる。
誰かが言ったように、ナハトは手足といった体の末端部分から銀色に変色し出していた。その原因は体の金属化である。
ナハトが立ったままもがいているが、その苦しみから解放されるのは恐らく体が白銀で覆われてからだろう。
《ここで…終わりなのかぁっ……!!》
視界が銀色に染まり閉ざされる直前、ハジメ__ナハトは悔しがるように、手を上へ伸ばし、空を見上げた。
そして直後、完全に白銀の像へと変わってしまったのだった。
「嘘よ…こんなの、こんなの…」
エリカの視線の先には、白銀の巨人の像がそびえ立っていた。
はい。お久しぶりです。就職活動期に突入した投稿者の逃げるレッドです。
説明会等のエントリー、参加、そしてウォーサンダーのおかげで多忙な日々を送らせてもらっております。
さて、今回の敵はメビウスきっての強豪怪獣の一体、ジャシュラインです。投稿者の世代がネクサス、マックス、メビウスというのもあり、本作にマックスとメビウスのオマージュ回や登場怪獣が多数あるのも、そう言った理由と自己満にあります。
…ぶっちゃけると、ジャシュラインとコダイゴンジアザーが歳を重ねるに連れて好きの度合いが増加している気がする。
また、執筆中に気づいたことなんですが、グレゴール人登場回の次に決闘場…リング内戦闘しとるやないかとなりましたが、結局GOサインを自ら出していきました。
投稿ペースがまた低下するとは思いますが、これからもよろしくお願いします。感想、質問、気軽にどうぞ。
次回も、お楽しみに!!
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次回
予告
ジャシュラインBr.との決闘に、ナハトが敗れてしまった…。
白銀の像へと変えられてしまったナハト。しかし、そんな状況でも人々は諦めていなかった!
変わっていたのは、ハジメ__ウルトラマンだけではない。
人々の希望を糧に、心の太陽は一層輝く。その光が集まった時、奇跡が起こり可能性への扉が開かれる!!
希望と絆の光を抱き、立ち上がれ、駆け上がれ。振り返れば、みんながいる。
次回!ウルトラマンナハト、
【巻き起こせ嵐!】!
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