旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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第37夜 【巻き起こせ嵐!】

 

『やったでシュラ!これでウルトラマンナハトも…』

『ワシらのコレクションになったイン!』

『兄貴達!仇は取ったジャジャ!!』

 

 怨敵ウルトラマンの打倒という悲願を達成したジャシュラインは喜びに打ち震えていた。

 

ズゥン ズズゥン! ズゥン ズズゥン!

 

『ジャーッジャジャジャジャジャ〜ン!』

『シュラシュラァ〜!』

『イン!!』

 

 大地を揺らしながら、珍妙な勝利の舞を踊るジャシュライン。 それを邪魔する者は誰一人としていない。いや、邪魔することすら出来ない…というのが正しいか。

 ナハトが負けた。この事実だけで民衆を黙らせるのには充分であった。しかも完封負けである。

 一切の攻撃、戦法が通用せず、向こう側の攻撃を許し最後は銀の像へと変えられてしまったのだ。

 新しくコレクションにできた銀像のナハトの周りを時計回りにぐるぐると踊るジャシュライン。

 

「ウルトラマンが…負けちゃった……」

「信じられない…」

「信じられるか!俺は認めない、認めないぞ!!」

「でも、現にあんな姿になってるじゃないか!」

 

 街頭でも、エリカ達のいる店内でも上記のようなやりとりが散見された。

 ナハト敗北の報は、現地メディアや一般のSNSによって一斉かつ瞬時に拡散され、全国の人々を震撼させる。その波は大きく波及し、昼のワイドショーを放送していた各テレビ局は緊急速報を流すことになり、垂水内閣もこれには動揺せざるを得なかった。

 日本国内や世界で見ても怪獣や凶悪異星人と真っ正面から対峙できるのは現状はウルトラマンや非敵性怪獣だけである。その一角が突然やられてしまったとなれば、冗談では済まされない。現在、日本の自衛隊の対特殊生物戦の作戦立案には今ではウルトラマンの出現を前提にしたものまで上がってくるようになっていたからだ。

 

バタバタバタバタバタ!!

 

『ウルトラマンナハト………沈黙!!』

『アキアカネよりヤンマ。地上部隊が間もなく展開を完了するとのこと』

『ヤンマ01了解。…CP、こちらヤンマ01。ウルトラマンナハトは戦闘不能に陥ったと思われる。原理は不明だが、怪光線を受け金属化してしまったように見受けられる。今後の指示を乞う。送れ』

 

『こちらCP。ヤンマはオブジェクト並びに人型存在、ジャシュラインから距離を取り、引き続き待機せよ。こちらから不要な刺激を与えた場合、都心内の民間人に危害が及ぶ可能性がある。待機せよ』

 

『ヤンマ01了解。待機する…。事態が急変した場合、独自判断により防衛行動に移る。送れ』

 

『……許可する。その際は地上部隊と共に行動を開始せよ』

 

 自衛隊側…陸自・特自地上部隊、対戦車ヘリ部隊、そして空自のスクランブル機が新都心周辺に展開したものの、先のジャシュラインの反応を考慮した結果、遺憾ながら民間人救助並びにジャシュライン撃退は中止、待機となった。

 この判断はあながち間違いではないと思われる。何故なら、ウルトラマンですら敵わなかった相手である。懸命かつ、一番取りたくなかった選択だろう。

 今ここで闇雲に攻撃し、反撃を貰ってしまえば、投入した戦力の無意味な損失となるだろう。また、それがキッカケとなり国民に犠牲が出てしまえばそれこそ本末転倒である。

 

「……これで、打つ手が無くなっちゃったって言うの…?」

 

「エリカさん…」

 

「まさか、あんなに強いなんて」

 

「俺達これからどうなるんだ?」

 

「きっと自衛隊が__」

 

「ナハトを倒した化け物だぞ?人間が敵うわけないだろ…」

 

「万事休す…」

 

 エクレール店内から出て外の様子を改めて目にしたエリカ達、そして都心内に閉じ込められている人々の様子を一言で表すならば、お通夜であった。

 星間同盟のババルウ襲来時もそうであったように、ヒトの信じていた、頼りにしていた、縋っていたものを壊された際の衝撃の重さは推して知るべしである。

 

ズゥン ズズゥン! ズゥン ズズゥン!

 

『ジャーッジャジャジャジャジャ〜ン!』

『シュラシュラァ〜!』

『イン!!』

 

 そんな地球人の心情を察することをジャシュラインはしない。今はただ怨敵の打倒と新たなコレクションが出来たことへの喜びを見せびらかすのみだ。

 敗者を応援していた存在への配慮など、微塵も必要ないのだから。

 完封勝ちを祝して、あとどのくらいこの場で踊ってやろうか? そう考えながら舞い踊っていると、ジャシュラインは白銀の像に成り果てたナハトを見て違和感を覚えた。

 

『ジャーッジャジャ……あ? 何故ジャジャ!!』

『なんで"ここ(ライフゲージ)"だけ銀になってないシュラ!!』

『完璧なはずのシルバジャシュラーが…!?』

 

 ナハトの頭部のランプは銀になっているのに、胸部のライフゲージのみ、元のままの状態を保っていたのだ。

 

「急に踊るのをやめたみたいだけど…」

 

「アイツら、何をそんなに慌ててんだ?」

 

「あ!ナハトの胸のクリスタルが、銀になってないわ!」

 

 明るい声色で、ナハトの様子を指摘したのはエリカだった。

 

「まだ…ナハトは生きてる。絶対死んでなんかない!」

 

 エリカが発した言葉が聞こえたのかは分からないが、ジャシュラインがそれを否定するかのように、事実を認めないとして更なる暴挙に移る。

 

『かくなる上はァ!』

『潰してェ!』

『完全なコレクションに手直ししてやるイン!』

 

ドドォオン!!

 

「きゃっ!」

 

「うおおっ!?」

 

「今度は急に暴れて、なんなのよぉ!!」

 

 再び地響きが起こり、エリカ達は立つことがままならなくなる。地響きの原因はジャシュラインが両手で、銀の像となり動けないナハトを突き倒したことによるものである。

 再開発地区の土砂や野晒しの建築資材を巻き込みながらナハトが倒れ込む。辺りは舞い上がった土煙で視界が悪化する。

 土煙は勢いが強く、エリカ達のいる市街地まで到達し、人々は目を塞ぎ咳き込む。

 

『ジャジャーッ!!』ブゥン!!

 

ガギィイイイイイイイン!!!

 

「うあああ!!!」

 

「耳が壊れる…っ!!」

 

「アイツ…ナハトの胸の結晶を」

 

「割ろうとして…ますね…!」

 

 市街地にまで舞ってきた土煙が晴れると思われた頃合いに、ジャシュラインがブーメランを使ってナハトのライフゲージを叩き割りだした。

 ジャシュラインがブーメランを叩きつける度に地は大きく揺れ、耳鳴りを引き起こす残響が都市内で発生する。

 

ガギィイイイイイイイン!!! ___ズズズウウウウン!!

 

「うう…頭が、痛いよぉ」

 

「みほ、しっかりしろ!」

 

「くっ!このままだと、ナハトが本当に…」

 

 エリカの懸念は最もである。他の人々も、ナハトをライフゲージをジャシュラインが破壊し終えたら何もかも終わることを理解していた。

 だから、なのかもしれない。人々は絶望こそすれど、希望を捨てきってはいなかった。

 声を上げなていなくとも分かる。

 新都心にいる人々から、次々と赤橙黄緑青…鮮やかな光の粒子が、心の太陽の輝きが空へと上がっていく。

 エリカ達、黒森峰・大洗メンバー達は回数は違えど見たことのある光景であった。

 

「これって、マジノや隊長、みほと駒凪の時と同じ光…」

 

「暖かな光が…街の人から…」

 

「人それぞれ、大きかったり、小さかったり…」

 

「僕らからは出てないけど…」

 

「なんでだろ…?」

 

「街にいる皆さんは諦めてないんですよ!きっとそうに違いありません!」

 

 そう言っていた優花里やまほ達からも光が溢れてくる。

 しかし、エリカは自分から心の太陽の輝きも暖かさも明るさも感じられないでいた。周囲の人間と同じようになれない。

 

「…それじゃあ、私はもう諦めてるってことになるじゃないの……」

 

 エリカの言葉を他所に、無数の心の太陽の光は複雑に絡み合い、巨大な螺旋を描きつつ白雲の中に昇っていき、完全に見えなくなった。

 

 

ビシ…ッ!!!

 

 

 嫌な音が響き渡った。なにかに亀裂が入ったと、すぐに分かるような音。心の太陽の光が空高く昇っていったが、何も起こらない。

 エリカたちもその音を聞き、ハッとする。

 

『ハア……。やっと、ヒビが入ったジャジャ』

『くたばってから抵抗しやがってでシュラ…』

『しかし今度こそこれで……』

 

 ナハトの命の象徴でもある__ライフゲージが割られる。

 そう思われた。ジャシュラインがブーメランを先程と同じように再び振り上げる。

 そしてナハトに最後の一撃が振り下ろされる…誰もがそう思い、息を呑んだ。

 

 

『___終わりジャジャァアーーッ!!』

 

 

「ああっ!!」

 

 エリカが思わず叫ぶ。目を逸らしたいが、逸らせない。目を瞑ったらそれこそ一瞬で終わってしまう。それに、自分から光が出ないことなど、構う時間も無いからと。

 

(神様…っ!!)

 

 気づけば、心の中で祈っていた。いつもなら縋らない神に、情けないくらい縋りついていた。

 エリカはふと思う。なぜここまで必死なんだろうかと。ウルトラマンの命が懸かってるから? ここでナハトがやられたら人類の危機だから? 

 多分違う。なにか、ナハトからアイツ(ハジメ)と同じモノを感じるから?

 しかし、そんなことを悠長に考察している暇も無い。ジャシュラインが最後の一撃をナハトへ加えようとする。自分達は止めることは叶わない。ブーメランが時折見える太陽の光を反射してチラリと光る。

 

_________カッ!!!

 

 凶器が、ナハトに振り下ろされる刹那、雲掛かった空が発光したかと思えば、そこから連続した青い光___光弾が、ジャシュライン目掛けて降り注いできた。

 それらは正確にブーメランを捉えており、命中後すぐにナハトに振り下ろされかけていた凶器を爆散させた。

 これには武器を壊されたジャシュラインだけでなく、人々も突然の出来事に驚く他なかった。

 

「光線が、空から…?」

 

「なに?一体何が来たの?」

 

「空から光が降ってきたような…」

 

 

『ヤンマ08。上空から、光波熱線らしきものの照射を確認!』

『地上部隊と空自も確認したらしいです』

『ナハトを…助けたのか? 別個のウルトラマンか、若しくは異星人か…』

『こちらアキアカネ。レーダーにはそれらしき反応が確認できるが、正確な位置と出力を把握することができない!』

『霞がかったように不明瞭に映るぞ、どうなっている…』

 

 二度目の攻撃が空の彼方から飛んでくることを警戒してか、ジャシュラインは銀像のナハトから距離を取った。そして空にいるだろう、自分達の邪魔をした謎の存在に問い掛ける。

 

『邪魔をしやがって…!! 何者ジャジャ!?』

 

 天空から来たる者はその問いに答えない。

 空を覆う白雲のところどころから、段々と光が溢れていく。その光景は巷では天使の梯子___エンジェル・ラダーと呼ばれるものだ。

 それが今、発現しているのは、ただの偶然ではないだろう。

 

「う…空の、光の中心に…人、人が見える」

 

「太陽の光じゃ、ない?」

 

「あのシルエットは…」

 

「ウルトラマン…」

 

 雲の合間から差す眩しい光の中に、僅かに人のような――巨人の、ウルトラマンの姿が見える。巨人はゆっくりと地上へと降りているらしく、姿形は段々と鮮明になってくる。

 その者の登場の仕方は最早天使、そしてその降臨であった。

 大勢の人々がその光景に目を奪われ、釘付けにされている。無論、ジャシュラインも動けずにただかの者を見ていることしかできない。

 

「綺麗な光…」

 

 …空から舞い降りし巨人は、"光"そのものである。

 あらゆる場所、あらゆる時間、あらゆる世界に存在する光であり、希望。そして人の光の具現化。

 数多の時空で光を継ぎ、光を繋いだ救世主。

 新都心の人々の勇気が奇跡を呼び起こした。

 

 

 "どんな絶望の中でも、人の心から光が消え去ることはない。"

 

 

 かの名は――――

 

 

 

 

【♪登場BGM】第十一楽章『TIGA』

 

 

 

 

 遥か昔、こことは違う地にて大いなる邪悪を払った光の戦士___ウルトラマンティガ。

 スマートな顔立ちに、体は銀、そこに赤と青紫の色鮮やかなラインの入った神秘的な雰囲気を醸し出している巨人である。

 

「あのウルトラマンは…」

 

 ティガは地上__ナハトとジャシュラインのいる再開発地区へと静かに降り立つと、ジャシュラインを一瞥し、倒れているナハトに近寄る。

 人々は呆気に取られ息を呑み、ティガの一挙手一投足を注視するのみ。

 ジャシュラインは未知のウルトラマンから発される神聖な光のオーラを見てしまったことにより、格の違いを悟ったのか、身じろぎすることもできずに立ったままティガの方を向いていることしかできない。

 

『お、おい!あのウルトラマン、何モンジャジャ!!』

『そんこと知らんでシュラ!!』

『今手を出したら、間違いなくやられるイン…!』

『じゃ、じゃが、ここでヤツに仕掛けなかったら、俺様達のコレクションが奪われるジャジャ!!行くジャジャア!!』

 

 ジャシュラインの長男坊である怒の顔が、ナハト復活がティガの目的であることを察した。

 こちらのコレクションに手出しさせるものかと、破壊を免れていたもう一つの腕盾___バックラーをブーメランに変形させ、振り回しつつティガに向かって駆け出す。

 

「ウルトラマン、危ない!!」

 

…!! ジャァアッ!!

 

――キイイイイン…!!

 

 しかしティガも相手の動きに気づかないほど鈍重ではなかった。誰かの叫びが聞こえるか聞こえないかの間にティガは動き出していた。

 ティガはすぐさまジャシュラインに体を向け片膝立ちの状態へ移ると、両腕を体へと引き込み、両腕を胸の前で交差させる。すると眩い白い光が周囲に拡散する。

 

―――ハァァアアッ!

 

――パァァアアアッ!!!

 

 伸ばした腕を左右に素早く開く。周囲から、ティガに光が集まってゆく。

 そしてその光のエネルギーを胴の中心に収束させる。

 

―――タアッ!!

 

 光が満ちた瞬間、ティガは開いていた両腕を瞬時にL字に組む。あらゆる魔を払う強力無比の白妙の光撃___"ゼペリオン光線"を放つ構えだ。

 

―――カッッ!!!

 

『ギャァアアア!?!?』

 

 しかしティガの出力が少々足りなかったのか、ゼペリオン光線でジャシュラインを消滅させることは叶わなかった。それでも直撃はしたらしく、ジャシュラインにかなりのダメージを与え、後方へ大きく吹き飛ばした。

 ジャシュラインはあまりの苦痛に耐えかねて身悶えし、苦しげな声を上げている。その体のあちこちには、痛々しい大きな傷が出来上がっていた。

 ティガはそれに構わず、倒れているナハトに向けて回復蘇生光線__"クリスタルパワー"を照射しはじめた。

 

 

 

―――

――

―――

――

―――

 

 

 俺は…負けた……。必死に抗ったつもりだったけれど、何も得られないまま、敗北した。

 

 守らなければならない人がいた。守りたい人がいた。

 果たしていない約束があった。破れない約束があった。

 

 結局、戦って、負けて、死ぬことすら許されずに、今こうして精神だけは残っている。

 悔しくないのかと聞かれれば、もちろん悔しい。

 だって、あの子の笑顔をもう見れないから。守れないから。

 

 こんなのが、本当にヒーローなのか? 声援に応えて、立ち向かって、やられてって…違うだろ、こんなの。

 応援してくれた人たちの努力とか、感情とか、そういったのが足りないからとか、絶対に違う。

 

 俺が、弱いんだ。弱いから、みっともないことになってるんだ、きっと。

 想いと、実力は比例しない。信じたくはない。けど、現にこうなってるってことは、そうなんだと思う。

 

 危ないって思った時は、たまたま…運良く別のウルトラマンが、宇宙人が、ガメラが、モスラが俺を助けてくれた。助けてほしいとか、望んだわけじゃないとか、そんな生意気は言わない。

 実際に助かってた。あの時に来てくれなかったらと考えると、ゾッとする場面が多い。

 今回も…って情けないと少し考えてしまってた俺を殴りたい。後悔先に立たずってこういうことを言うんだろう。

 ……もう悪寒が走ることも無いけど。

 

 …今まで戦ってきて思ったのは、まるでRPGゲームみたいだなってこと。自分のレベルに合わせて、同レベル、若しくは少し背伸びしたぐらいの強さの敵が現れてくれてたなんて馬鹿なことを考えてしまう。

 まるで誰かが、俺の強さを見て送る相手を考えているとか…そういう感じだ。でも急に、今回はいくら背伸びしたって、逆立ちしたってどうにもならないほど強い相手がやって来た…。

 逆に今までが奇跡だったんだと思う。ナハトである自分と、地球の人、ガメラ達で倒せるレベルの怪獣、異星人が偶然現れるのが続いていただけだったんだと、そう思う。

 

 

《……ちくしょう》

 

 

 悔しい。ただもうここで永遠に無念だって言うことしか、出来ない…ってのか。

 

 

 

 

 ___キミはそれでいいのかい?___

 

 

《えっ?》

 

 

 諦めかけ悪態を吐いたハジメは、誰かから問いかけられた。その声は青年男性のものだと思われる。

 おかしいとハジメは思った。ここは自分の精神的な空間である。他の何者かが気軽に入れるような場所では無いはず。

 

《誰なんだ、俺はもう戦えない…戦いたくても、戦えないんだよ!!》

 

《キミ自身は、まだ諦めていないんだろう? 状況の打開策を見出せていないだけで》

 

《っ!?》

 

 若い男性だった。ハジメの目の前には、かつてティガと一心同体となり、地球を闇から救った人物___"マドカ・ダイゴ"その人がいた。

 

《光となり、ティガ…ウルトラマンティガとして戦った者の一人である彼…ダイゴの姿を、今は光の記憶を用いて借りている》

 

《ティガ…ダイゴ……。そ、それじゃあ、あなたは?》

 

《人の光そのもの。すべての並行世界の…希望を捨てず、勇気を持つ人々の光の集合意識だ》

 

《光……そのもの……?》

 

 信じられない。自分が今こうして会話を交わしているのが生命ある者でなく、もはや概念に近いまったく別の存在であるとは、ハジメは驚愕していた。

 そんな存在が、どうして自分なんかに声を掛けるのだろう?

 

《この世界の、今のキミの戦いを間近で見ていた、応援していた人々の祈り…願いが、僕らを呼んでくれた。キミの、おかげなんだ》

 

《俺の? どうして…俺は話を聞く限り、助けられた側なのに》

 

《キミがいなかったら、この世界の人々は"ウルトラマン"という希望を知ることはできず、祈ることも願うこともすることはなかった。理不尽になすがまま蹂躙されていただろう。

キミがこれまで積み重ねてきたものが、今の状況を生み出している》

 

《あなたは、俺がまだ諦めていないと言った。だけど、俺が諦めてないとして、これから俺に何ができる…んですか…?》

 

 ダイゴの姿をした光の集合意識は、朗らかな笑みを浮かべ、その問いに答える。

 

《人々の光によって、この世界にティガが現れた。今、ティガはキミを助けている最中なんだ。だから、間もなくキミはティガと共に再び戦うことになる。僕らがキミの精神世界に接続したのは、キミを呼び起こすため》

 

《俺にチャンスをくれる…?》

 

《チャンス…とは、違うと思う。そんな慈悲や救済みたいなものじゃない》

 

 ハジメはここで一考する。光の集合意識なるものが自分にこうして接触して、なぜここまでするのだろうと。

 

《どうして、俺にそこまで…?》

 

《キミの、ナハトの復活を人々が心の底から望んでいるから。誰もまだ諦めてないから。

…だが、それを抜きにしても、僕らはこう言う。人を助けるのに理由はいらないだろう、と。キミの考えているヒーローの形も、本質はそうなんじゃないかな。

キミを今まで突き動かしてきたモノは何だ? 正義か、大義か、責任か、それとも義務か? 違うだろう、大切な誰か守りたいという祈り、願いじゃないのか?》

 

 遥か昔にテレビの画面に映っていたヒーローも言っていた。そして、自分もそれを信条にしているヒーローに憧れ、なりたいと望んだのだ。

 ……何故、こんな当たり前のようなことが頭から抜け落ちていたのだろうか。誰かからのお返しが欲しくてとか、自分自身の正義感を満たすために人助けなんかしない。そんな下心などが全く無いと言えば嘘になるかもしれないが、それが全てではない。

 

《つまづいてばっかりだな…俺……》

 

《………》

 

 助けたいから、助ける。利益もへったくれも無い、非論理的な思考と行動。

 そこに幼い頃のあの子の顔が過ぎる。

 ヒーローに最も近いと思われる存在――ウルトラマンとなってから…時が経ってから忘れてしまった何かがまだあると、ハジメは感じた。

 それらを見つけるためにも、ここで燻って足踏みしたままではいられない。ハジメは、再び立ち上がる理由を掴んだ。

 

《……俺、行きます。もう一度戦います。みんなが、みんながいるから!!》

 

《分かった。行こう、アラシ・ハジメ君…ウルトラマンナハト。キミは一人じゃない。

キミにも、覚醒する刻が来た》

 

 ダイゴのその言葉を聞いた途端、ハジメの意識は光に包まれた。

 

______

____

__

 

 

 ティガがナハトにクリスタルパワーを当ててから十数秒。

 銀の像と化していたナハトに変化が訪れた。冷たい金属となっていたナハトの体は次第に光出し、丸い光の玉へと姿形を変えていく。

 

「ナハトが光って……!」

 

「これからどうなるんだ」

 

「ナハトが、変わる…?」

 

 それは空中に浮き、ある一定の高度を保つと静止した。瞬間、光球が爆ぜる。

 

 パァァアアアアーーーッ!!!

 

______カッッッ!!!!

 

 爆ぜた光球は、周囲に光を散らせる。そして散った光が光球があった空間を中心にして再び集まる。

 集結する光は、組み合わさる毎に、ヒトの形を形成していく。加えて、空間に熱い鼓動が響き出す。

 遂にナハトと思われる形になると、今度は街、空、川、動植物……あらゆるモノからまた光が飛び出してくる。それらはナハトを中心に渦巻き、激しさを増していく。

 

「すごい…何が起こってるのか、全然分からない……けど」

 

「ナハトがまた、立ち上がってくれるんだ!」

 

「ナハトの周りに光が……まるで…光の、嵐みたい」

 

 エリカが形容した通りの現象が、目の前で繰り広げられていた。

 

 

 

 

【♪シーンBGM】『希望の絆』

 

 

 

 

――シュワッ!!!!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 光の粒子が輝くナハトの周りで一層眩しく輝いたかと思うと、人々が眩しさから閉じていた瞼を開けた次の瞬間には、ナハトの姿を完全に形取っていた。

 ナハトの復活である。

 

「少し見た目が、変わった?」

 

「前よりも強そうだ…!」

 

「肩になんかゴツいのが付いたし、これって強化形態ってやつなのか!?」

 

 以前とは姿に僅かながら相違がある。新たな力…ティガの光と人々の心の太陽の光を受け取った、ナハトの新しい姿である。

 

『ナハト、復活!』

『よし!』

『頼むぞ…!!』

 

 これまで灰色に近かった箇所はさらに黒みを増し、白と黒のラインが一層際立つようになった。そして、全身の筋肉が以前よりも頑強になり、両肩には巨大なクリスタルが埋め込まれたアーマー___"ストームショルダー"が装着された。

 

 ナハトの周囲には、未だにナハトを守るように七色の光の粒子が旋風の如く吹き荒れている。

 

 光と闇…人の心の両面を宿し、それら全てを包み巻き込む嵐となって力に変えたウルトラマンナハトの新たな姿――ビギニング・ストームである。

 

――シュア……ッ!!!

 

《……これが、みんなの光。なら俺は、光と、希望、それを信じてくれたみんなのために、この力を使う!!》

 

《行こう、ナハト!!》

 

シュワッ!! タアッ!!

 

 ナハト、ティガ、二人のウルトラマンの揃い踏みである。

 それぞれが戦闘態勢になり、痛みを抑えてようやく立ち上がったジャシュラインと対峙する。

 

グォオオオオオオオオ!!!!

 

 人格の切り替えと制御を司っていた三つの頭部ランプを、先程のティガのゼペリオン光線によって破壊されたジャシュラインは、もはや獣のような咆哮を上げるのみである。どうやら精神の混濁が進んでいるらしい。

 

ハアッ! ――トアッ!!

 

ドガアッ!!

 

 がむしゃらに向かってくるジャシュラインを、ティガが受け流し、ナハトが本丸の一撃をお見舞いする。見事なタッグプレーである。

 しかしそんな攻撃を受けてもジャシュラインは攻勢を緩めない。

 食らいついてくるジャシュラインに、ティガとナハトは左右に分かれて連続側転で回避すると、両サイドから牽制光弾を放って動きを止める。

 二方向からの同時攻撃で判断を鈍らせつつ、同じタイミングでジャシュラインにナハトとティガが跳躍。ティガはスラップショット、ナハトはショルダータックルを繰り出す。

 前後からの攻撃を受けて、よろけるジャシュラインに、間髪を入れずに二人は渾身のパンチ、キック、チョップを繰り出し圧倒。ラッシュでジャシュラインを追い込む。

 

グォオオオオオオオオ……!!

 

『『『オノレェエエエエ、コロス!!コロシテヤルゾオオオオオオ!!!』』』

 

 三つの人格が同時に発現した影響で、聞くに堪えない叫びを轟かせる。

 ナハトを白銀の像に変えていた頃の余裕は無くなっているようだ。

 その証拠に、今まで新都心を囲んでリングの役割を担っていた円柱オブジェクトを念力で引き抜いて操っており、それらを宙に浮かせて、自分を守らせるように周辺に配置させた。空飛ぶ盾と剣と言ったところである。

 

『電磁バリアが消えた!各自、行動開始!!民間人を救出しろ!!』

『77特戦が突入!』

『普通科も続け!我々が先行し盾になる!!』

『時間との勝負だ。急げ!』

 

 また、オブジェクトが地上から引き抜かれたため、さいたま新都心は包囲網を解かれた。これを好機と見た自衛隊地上部隊が市街地へ突入を敢行。決死の救出劇が始まった。

 だがウルトラマン達の戦いはその間も進む。

 

 

『『『クラエエエ!!!』』』

 

――ゴォオオオ!!

 

 四本の円柱が意思を持ったかのように一斉にティガとナハトへと殺到する。

 しかし二人は避けない。避ける必要がないからである。

 

ダァアッ!! ハァアッ!!

 

 ナハト、ティガは胸部のライフゲージ、カラータイマーに力を溜め、一気に放出する。

 ナハト…ビギニングストームの"ライフラッシュスペシャル"と、ティガの"タイマーフラッシュスペシャル"だ。

 二人の放った強力な光の塊が、四本の円柱に衝突。円柱を消滅させる。ジャシュラインがその光景を目にしたじろぐ。

 

『『『ナゼ…、ドコカラソノヨウナツヨサガァアア!!!』』』

 

 最後の頼みの綱だっただろう飛び道具を失ったジャシュラインは現実を突きつけられ狼狽えることしかできなかった。

 

《お前には分からないだろう!!これは、みんなの想いなんだ!!それを分からないお前に、俺はもう負けない!!後ろにいる…信じてくれているみんながいる限り!!》

 

『『『ダマレ、ダマレダマレェエ!! コウナレバマタオマエヲ、オマエタチヲマトメテコレクションニ!!』』』

 

 シルバジャシュラーを放つ体勢に移ったジャシュライン。それを見てナハトとティガは顔を合わせ頷く。

 光線には光線を…決着をつけるのだ。

 ナハトはティガのゼペリオン光線と酷似した準備動作を経て、両腕を十字にしエネルギーをスパークさせる。必殺光線…スペシウム・オーバー・レイをも超える、超必殺光線――"スペシウム・イグニッション"が放たれた。

 それと同時に、ティガも最大出力のゼペリオン光線を放つ。

 二本の猛烈な光線は、螺旋状に組み合わさり、合体光線"NTスペシャル"となってさらに勢いを増す。

 

 

ズォオオオオオオオオッッッ!!!!――カッッッ!!!!!

 

 合体光線は、ジャシュラインのど真ん中を捉え直撃。光線を全身で受け切ったジャシュラインは体内に蓄積させられた光エネルギーが飽和状態になり内側から膨張していく。

 

『『『バ、バカナァ…ワイガ、ワシガ、オレガァ… マケルゥ……!? バカナァアアアーーーーーッ!?!?』』』

 

バババババッ! ドガァアアアアン!!!!!

 

 内側から食い破るように放出する光を抑える術を持ち合わせていないジャシュラインは、盛大に爆散したのだった。

 

「ジャシュラインを…倒した?」

 

「そうだよお姉ちゃん!ウルトラマンがやっつけたんだよ!」

 

「勝った、勝てたんだ。ウルトラマンが!」

 

「「「やったぁあーー!!」」」

 

「ナハトと、もう一人のウルトラマン、やってくれましたね!」

 

「あの紫の新顔の方、とても神秘的ですね」

 

「もぉ〜、何言ってるのよ華ぁ〜!」

 

「エリカさん、やりましたね!」

 

「え、ええ……そうね、やったわね」

 

 新都心でナハトとティガの戦いを見守っていた人々が歓声を上げて喜んでいる中で、エリカはウルトラマンが勝利したことへの喜びの感情より、なぜ自分から光が出なかったのか、出せなかったのかという戸惑いの感情が押し勝っていた。そのため、小梅から話を振られた際、感情のこもった言葉を返すことができなかったのだ。

 

(なんで…?なんでなの…、私だって信じてた。諦めてなかったのに…。足りなかったっていうの?)

 

 エリカがひとり悩んでいる中、丁度今エリカ達がいる喫茶店エクレールの前まで自衛隊の普通科部隊が到着したところであった。

 また、駆けつけた自衛官らは、身体的な異常の有無や死傷者の確認等をエリカ達に尋ねてまわり、負傷して人手が必要な人らに対しては輸送車輌を手配してくれている。

 そして再開発地区には、お互いの健闘を讃え合い握手を交わすナハトとティガがいる。

 

《人の正と負、その両側面を認め受け入れる…。僕らがここに来る前にも辛く苦しい出来事を経験したんだね。キミは、強いんだ》

 

《心が強くても、外側がやわだったら…きっとまた俺は…!》

 

《ほら、また弱気になってしまっている。キミはそれを克服できたんじゃないのか? キミのあの叫びは本物だ。それを成し遂げられる力もある》

 

《……はいっ》

 

《キミ自身が、そしてこの"地球"が諦めないかぎり、信じ続けるかぎり、光り射す未来は潰えない。

だから、突き進んでほしい。立ち向かってほしい。一歩前へ、一段上へと…》

 

 ティガ……光の集合意識の化身は、そう言い終えると握手を解くと同時に身体を光の粒子に変えて空へと昇っていく。

 

《さようなら、ティガ。そして、ありがとう》

 

 ハジメ___ナハトは空を仰ぎティガであった光を見送る。

 ウルトラマンティガ…それは、光の象徴。

 人々を勇気づける言葉。諦めない人々の最後の希望。

 太陽に照らされ、青い空、白い雲の中へと消えていく光はまた何処かへと――危機に瀕している者の元へと行くのだろう。それは終わりの見えない戦いであることは想像に難くない。

 しかし、希望を捨てず光抱く人々がいるかぎり、ティガは不滅であり、どこにでも在り続ける。

 

……シュワッチ!!

 

 完全に光が空へと昇り去っていったことを確認したナハトも、空へと飛び去るのだった。

 

「ナハトも帰ってったわね…………あら?何か忘れてる……いや、誰かいないような……」

 

「――あ、エリさーん!ここにいたんだ、よかっ…」

 

 毎度のことながら、どこからかふらりと姿を現したハジメ。

 それをエリカは許さなかった。ハジメが周りに対しての気遣いを口にしようとする前に、エリカはツカツカと早足で彼の目の前まで詰め寄る。

 

「ハ〜ジ〜メ〜?」グィ~~~ッ!!

 

 ゼロ距離からの恨めしい声色と足して、エリカはハジメの右耳たぶを力の限り指でつねる。

 もちろん、ハジメからは声になっていない悲鳴と、痛いと訴える顔が認められるが、そんな些細なことでエリカは指の力と、不機嫌な顔を形成している表情筋を緩めることはない。

 

「え、えりひゃん!いはい!いはいっへば!」

 

「うるさいわね!また近くまで行ってたんでしょ!? また自分の命ほっぽり出して、人助けとかやってたんでしょ!?」

 

「ご、ごめんなさい!ホントに、許してエリさん!」

 

「いいえ、誰がそう簡単に許すもんですか!」

 

「エリひゃぁん……」

 

 寸刻前まで死に体同然になりかけ、そこから奇跡の復活を遂げたヒーローも、これでは形なしである。

 エリカとて単純では無い。これまで何度も口頭での注意を促してきたが、それが効いた試しが無いのは把握している。だから体に直接教えてやるのである。

 若干目に涙を浮かべているハジメを見て、そろそろやめてやろうかと思ったが、ここで情けや容赦を掛けてしまうと、この馬鹿は学習しない。これも演技なのだと自分に言い聞かせて踏み留まる。

 

「アンタ、前に痛い目見たのにまだ分からないの!?」

 

「え、エリカさん…それ以上はハジメ君のほっぺが…」

 

「みほ…そこに気を遣うのか」

 

「それに…私や隊長も、前に言ったわよね?もっと自分の命を大事にしろって!」

 

「は、はい……その通りです……」

 

「ストームリーダー……」

 

「ハジメぇ……」

 

 しおらしくなってしまうハジメを目にして、ヒカルやマモルは苦笑いすることしかできない。明日は我が身なんて言った日には後ろに栗毛頭の刺客達が現れるかもしれないのだから。

 そんな高校生達の様子を、自衛官たちも引き攣った笑顔で見ることしかできない。彼らの預かり知らぬところであるから、何がどうしてああなっているのかを問うこともしない。それがきっと最善なのである。

 

『アキアカネよりCP。各地の部隊からの報告を統計した結果、ジャシュラインとオブジェクトによる死者はゼロとのこと。最終的な重軽傷者は凡そ四十名弱であると判明。これより負傷者搬送用のヘリに座標を指示、誘導する。送れ』

『CP了解。引き続き現場にて情報の収集・報告を行え』

『こちら第77特殊戦車大隊、第1メーサー小隊マック01。担当区域の民間人の収容が間もなく完了する』

『装甲車をこちらにも回してもらいたい』

 

 今回の戦闘は、限りられた場所でのものであったため、これまでと比較して死傷者の発生、建造物や私有財産への損害は結果的に少なくなった。

 明日には付近のインフラも復旧し、人々はまた日常に戻れるだろう。

 

「――現着。」

「これよりサンプルの回収、清掃作業に移る。」

「有害物質は検知できず。各数値も正常です。」

「寸分の変化も見逃すな。今後変化する可能性もある。」

 

 戦場となった再開発地区には、ジャシュラインを構成していた破片並びに砂状粒子が山を成しており、それの回収と除染のために、陸自陸上総隊直轄の部隊である特殊武器防護隊――化学科部隊も駆けつけたところだ。

 

『はい!こちらは、さいたま新都心上空です!10分ほど前までは、ここ再開発地区を中心にして、ウルトラマンナハトと未確認のウルトラマン、そしてジャシュラインと自称した怪獣が戦っていました!

今は、自衛隊の化学科部隊が当地区で任務に当たっており、付近の道路は交通規制がなされています!

詳細はまた後ほど説明致します!増子美代でしたー!』

 

 報道関係のヘリや車両が新都心内へと殺到し始めていた。マスコミも今回のドラマ的なウルトラマンの復活と勝利というネタを逃したくないのだと思われる。

 そんな新都心内を、ハジメやエリカ達はインタビュー等を振り切りなんとか脱出し、大洗と黒森峰に別れて帰路に着くことができたのだった。なお、西住姉妹には母親であるしほから菊代を介して、安否を問う連絡が来ていたという。

 

 ハプニングに見舞われた抽選日ではあったものの、何はともあれ最後は無事に終わった。

 少年少女たちの、これまで積み重ねてきたものをぶつけ合う日が、近づく。それに併せて一度動きを止めていた、運命の歯車が人知れず恐ろしい速さで再び回りだす。

 そして、ナハトの……ハジメの戦いも、さらに激しさが増していくのは、必然なのであった。

 

 

_________

 

 

同国関東地方 東京都新宿区 防衛省庁舎

 

 

 

 

「ウルトラマンが、敵性存在に敗北した…」

 

「ですが、その後は新たなウルトラマン…コードネーム"アポストロⅡ"の出現もあり…」

 

「日本を守る我々が、今直視しなければならない事実は、最終的な勝利ではない…ウルトラマンナハトの敗北ではないのか…!」

 

「も、申し訳ありません!」

 

 東京の街並みを一望できる庁舎の一室で、珍しく声を張り上げているのは、防衛大臣という役職に就く戸崎である。

 彼は埼玉県でのジャシュライン戦に思うところがあるのだろう。

 

「……この日本に何度も現れては、怪獣・異星人を撃退してきたナハトが、正面から敵に挑んで負けたんだ…!

ウルトラマンでさえ、負けたんだ!」

 

 そう。結果的にはナハトはティガによって蘇りジャシュラインを撃滅した。だが、その過程で一度ナハトは敗北しているのだ。

 

「我々も感覚が麻痺していたのはあるかもしれない…。ウルトラマンも生物だ…神では無い。万能ではないさ。負けることもあることぐらい、予想していてもなんらデメリットは無かったはずだった。

……と言うことは、だ。我々は今回の案件を下地にまた新たな防衛計画を練らなければならない…!この国を、国民を守るために…!前回の法改正ですら手温かったということだ!!」

 

 戸崎の言っていることは、このまま日本の防衛を、ウルトラマンに頼り切ってしまうというのは、自衛隊のメンツ云々よりも守る力___防衛力の不足の方が余程深刻であり憂慮すべき事案であるという発言なのだろう。

 現にこの日本、地球を守っているナハトが一人で未知なる怪獣と戦い、負けた。あの時ティガが現れなければ、地球側の最高戦力の一角が消え去っていたに違いないのは誰もが分かることである。

 故にその事実を理解している者は焦るわけである。

 

「ゲッター……アドバンスは最低でも春先、だったか。生総研の方に尋ねろ。ここからの建造の短縮は可能かどうかを。無理を言っているのは分かってはいる」

 

「はっ!」

 

 こちらの備えを上回るレベルの脅威がもう来ないという保証はどこにも無い。今ある戦力で日本を守れるとは、戸崎に到底考えられなかったのだ。

 

「そもそも、今までがおかしかったに違いない…。地球人類や非敵性特殊生物、ウルトラマンが撃滅できるレベルの個体群であったこと、そして毎回出現する特殊生物が一、二体程度であることも…。いつからそうであると錯覚していたんだ…!浅はかだった…我々は、いや、私は…!

……今後、ウルトラマンが行動不能に陥ったタイミングで、一斉に十数体の大型特殊生物が日本各地に来襲したらどうなる…?方面隊単位の迎撃ですら悲惨な結果になるだろう。そうなった時…この東京は、日本は……」

 

「……か、各地の工場はフル稼働で、12式、20式などの生産を続けています。蒼天やヘッジホッグと言った航空機も同様です」

 

「星間同盟なる組織や特殊生物が、次に狙う…若しくは現れる場所が工業地帯やエネルギー関連施設、首都圏にならないという保証はどこにもない……。仮に通常兵器の数を揃えられたとしても、奴らに効果が無ければ抵抗することすらできん。

くそッ!何もかも、今の我々には足りないのか…。"やまと"も、最短で八月末…今すぐ対特殊生物超兵器の一つでも、使用できるようになれば…!」

 

 力無き人々の盾となるべき人間達の焦りは、並の人間では押し測れないだろう。

 戸崎は、一国の防衛を指揮する人間として、あらゆる角度で問題に切り込む。日本に迫る危機は、何も怪獣だけではないのだから。

 

「それに特殊生物だけじゃあない。グレゴール人の一件で、豪州連合が我が国をどのようにしたいのかも、硫黄島と東シナ海での動きを見たら分かる。N2投下期間の無断切り上げ、事前通告無しの領空侵犯未遂…」

 

 しかし、嘆くだけでは終わらない。終われないのだ。

 日本に迫る悪意を振り払う役割__守護者であるのは自衛隊である。その誇りを胸に、この日までやってきた。

 自分達の手で、平和と未来を掴み取らねばならない。血を流すことも覚悟はしている。

 

「……ここで悪態吐きを晒している時間は無いか。今の手札で最善を尽くさなければならないほど、我々は追い込まれている…だが、やらねばなるまい。

もっと柔軟な対応はできる。……おい、各幕僚長を呼んできてくれ。それと、戦車道連盟の児玉先生と、文科省の辻局長もだ。彼らと戦車道大会期間中の防衛プランについて調整を行なう」

 

「はっ!分かりました!」

 

 戸崎はネガティブな心境に陥った自分を奮起させながら、自分のやれることを為すために動く。

 この国の大人たちも、まだ諦めてはいなかった。

 

「……しかし、あの戦車道・学園艦関係のトップ二人に通達のなかった戦車道大会開催と茨城県の学園艦解体の最終決定の所在……。

なにやらきな臭い。各方面に探りを入れてみるか。決まってしまったものはしょうがないからな」

 

 

_________

 

 

同国関東地方 相模湾

大洗学園艦 高等部校舎 戦車ガレージ

 

 

 

「あちゃあ……これは派手に空けたねぇ…」

 

「角谷会長、ピイ助が…すいません!」

 

 ガレージ内には、大洗の戦車道履修生である少女たちが集っていた。

 その中心には生徒会メンバーと、彼女らにひたすら謝罪しているみほがいた。

 

「いいよいいよ。西住ちゃんは悪くないし。まさか、シャッターが溶けて脱走しちゃうなんてねぇ…」

 

 杏たちの目線の先には、明るい夕焼けの陽光をガレージの中に迎え入れている、大きな風穴を空けてもはや仕事をしていていないシャッターの姿があった。

 貫通したシャッターは、高温の炎を浴びたらしくドロドロに溶解した跡が残っている。ピイ助をよく知っているみほ達は、なぜこのような脱走の仕方ができるのかに心当たりがあるため、青ざめた顔をしながら冷や汗をかいている。

 

「中から火を使って、何者かが手助けした…ってのはちょっと考えられないよねぇ。鍵を壊して開け放ってやればそれで終わるもんだからね」

 

「と、なりますと…」

 

「ピイ助ちゃんが自力でガレージから出たってことですか会長?」

 

「うーん。そうなるかな〜。でも、火なんか吐ける亀なんて……あ!」

 

 揃いすぎている状況証拠。杏ぐらいの人物なら、容易に答えに辿り着く。

 

「ねえ、西住ちゃん」

 

「は、はい!」

 

「あの…もしかして……ピイ助ちゃんってすごく特別な血統だったりした?……例えば〜、ガメラ関連の」

 

 こうも言われたら言い逃れはできまい。

 みほと、あんこうチームの面々がここまで隠していたものと、ピイ助とみほの出会いの経緯をできるだけ分かりやすく、簡潔に杏達に説明した。

 それを聞いた杏らは、何故こうなるまで黙っていたんだ、などと言ったことは口にはせず、妙に納得した様子でうんうんと頷いていた。一年生や他のチームからもなんとなくそうだと思ってたなどの声が上がっていた。

 

「そりゃあ、声も掛けづらいかったよね。ごめんね西住ちゃん。そんなイメージ持たしちゃった私達も悪かったよ」

 

「いえ!角谷会長が謝ることなんて……。こちらが学校の備品と壊してしまってますし…」

 

「そこらへんはどうにでもなるかさ、気負わない気負わない! さて、……ピイ助ちゃんは人懐っこいけど、今回逃げるような理由とかって、その勾玉とかを介してもう分かってたりする?」

 

 ピイ助に関する話の中で、みほはオカルトチックな話…火炎放射や空中飛行といった芸当が、ピイ助にはできたこと、みほの勾玉とガメラの感応についても説明していた。そのため、勾玉伝いでガメラの近縁と思われるピイ助と何かやりとりがなかったか、杏はみほに聞いた。

 

「その、ピイ助からは勾玉を介して話してくれたことも、声を聞いたこともありません…」

 

「うーん……そっか。なら、今から探そっか。みんなでね!」

 

「ふぇっ!? 戦車道チームのみんなでですか?それは、迷惑掛けちゃうかなって…」

 

「人海戦術だよ、西住ちゃん。それに、かわいい後輩であり隊長でもある西住ちゃんが困ってるんだもん。助けたいじゃん? みんなもいーかい?」

 

「「「おー!!」」」

 

「み、みんな…!ありがとう……!!」

 

 杏が全員に、ピイ助捜索協力の是非を取ると、全員が気前良く元気な了解の返事を返してくれた。

 自身の周りの暖かさに触れたみほは、嬉しさのあまり涙を滲ませながら、感謝の言葉を伝える。

 

「よぉ〜っし!それじゃあ、西住ちゃんちのピイ助ちゃんの捜索、開始!!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 こうして大洗女子学園戦車道チームによる艦上捜索が始まった。保有戦車や学園所有の車両も駆り出しての大捜索であった。

 捜索活動は選択科目授業である戦車道の時間から、日没直前の18時半頃まで行われた。

 されど、これほどの努力を注いだのにも関わらず、残念ながらこの日ピイ助は発見・保護されることは叶わなかった。皆が落胆したものの、見つからなかったものは仕方がない。

 定期的にこれからも捜索は行なうことを決めて、彼女達はそれぞれ下校、帰途についたのだった。

 

「ピイ助、どこに行っちゃったのかな……」

 

 帰り道の途中、みほがぽつりと呟いた。だがその答えを持ち合わせているのは、この場に居合わせていないピイ助だけだろう。

 みほは小さな同居人の行方を憂うのであった。

 

 

 

 

___ぼくは、あの人を守りたい。だから、強くなるんだ___

 

 

 




 はい。お久しぶりでございます。魔法少女特殊戦あすかにハマった投稿者の逃げるレッドです。
 投稿者が本格的に触れる初めての魔法少女ものとなります(誰得情報)

 さて、今回はナハトの新形態お披露目回となります。…実はこの回自体は前々からできていたのですが、以前pixivにあげたビギニングストームが軒並み納得がいかず、本日学校のパソコンで描きようやく完成したため、今日公開となりました。本来なら3日前には公開できたものを……。

 そしてジャシュラインとの戦いに駆けつけてくれたウルトラマンは、ティガでしたね。メビウス本編はウルトラの父でしたが、本世界ではティガとなりました。
 ティガに思い入れがあるのもそうなのですが、超8兄弟や超時空の大決戦を観たからでしょうか…"ティガじゃないティガ"が大好きなんですよね。
 そのため、今回はダイゴさんの姿をした光意識と新しいティガを出させていただきました。

 逸見エリカのヒーローが連載開始して大分経ちますが、小説、イラスト共に少しは成長したかなと思いたいです。

 今後もよろしくお願いします。質問、感想、疑問などなど、気軽にどうぞ。
 そして、お気に入り登録が60となりました。本当にありがとうございます!これからも精進していきます故、何卒何卒…!

【2023年版編集】
 ビギニングストームのナハト登場シーンの挿絵を2023年1月に私が描いた新しいものに更新しました。

これは以前までの挿絵となります。

【挿絵表示】


_________

 次回
 予告

 遂に開幕した第63回戦車道全国高校生大会。
 黒森峰の一回戦の相手である、知波単学園との試合に臨むべく、試合会場の港へと向かう黒森峰学園艦。
 それを守る海自艦艇には海上自衛官であるレイラの父、蕪木薫の姿があった。

 しかし、既定の航海ルートのおよそ半分を過ぎた時、学園艦と護衛艦群の前に破壊獣が現れる!
 ハジメは変身しようとするも、それを影法師が妨害。ナハトが現れない中、護衛艦による迎撃が始まるが……!

 次回!ウルトラマンナハト、
【滄海の羅針盤】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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