旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

46 / 59
破壊獣 カイロポットⅡ、
凶虫怪獣 クモンガ・バゥ、
百脚凶巨虫 センチロニア、
超遺伝子両生獣 ギャオス・アクアティリス、登場。


第41夜 【光芒と混沌の天変】

 

 

7月21日火曜日 現地時間早朝

 

西ヨーロッパ フランス共和国 ノール県ダンケルク

ダンケルク海軍工廠

 

 

 黒森峰学園艦が特殊生物___カリュブディスに襲撃された直後から今に至るまで、日本の学園艦航行並びに海自海保による護衛ローテーションの度重なる改訂と、国民的スポーツたる戦車道の季節大会日程の続行の宣言に対しての諸外国の反応は様々だった。

 特に国内外から強い反応があった思われるのは、全国…そして国際レベルの高校戦車道強豪校である黒森峰学園の、特殊生物襲撃を理由にした大会出場棄権の取り消しであった。いくら強豪と言えど、この判断はおかしなものであると素人でさえ分かるだろう。こんな情勢、ご時世の中で大会を開催することすら危険であるのに、被害を受けた学校が出場を続行することなど、考えられない。また、根本的な話にまで遡れば、怪獣や異星人を自衛隊は単独で撃退できる余力があるのかという問題だ。果たして部隊を割いてまで戦車道大会会場の防衛をする必要があるのか、そういった話もある。

 当然、世界各国、そしてスポーツ庁や民間のスポーツ団体等からも疑問の声と反発が多く上がったわけである。

 

 しかし、肝心の"学園艦教育委員会"のトップらはだんまりを決め込むどころか、黒森峰の大会出場続行に賞賛するという奇怪な現象が発生していた。

 また、この取り消し判断と棄権却下を行った大元の組織が、文科省の"学園艦管理局"であったことが混乱に余計な拍車を掛けている。これは辻の所属する学園艦教育局と横の繋がりのある組織である。

 だが補足すれば教育局と横の繋がりがあると言っても、実質的に権限と立場が上であるのは管理局の方である。教育局が主に学園艦の運用や教育への指導が主な役目ならば、管理局は物資や人材、システム、資金、資料等を文字通り管理するのが役目なのだ。

 

 そして不可解な点がまだあるとするならば、それは今回の出場騒動云々に内閣が一切関与していないことであろうか……。いや、関与できなかったと言った方がいいのだろう。

 しかも、当局の言い分としては、――垂水内閣の学園艦関連の運用方針に従ったまでである――とのことだった。それ以外は情報の自主的開示は無く、黙秘を決め込んでいる。

 不透明なやりとりがあやしく交わされているのが不気味ではあるものの、それを覗くことも、止めることも、誰も出来ないというのが、今の現状であった。防衛大臣の戸崎や、文科省内の不審な動きを嗅ぎつけた各省庁・民間の人間が探りを入れ出してはいるが、今のところ何も察知できていない。

 

 

『――これより〈原子力潜水攻撃母艦(ノーチラス級)〉に搭載する、新型原子力機関の稼働実験を開始する。関係各員は所定の位置へ。』

 

 さて、長話はここらで切り上げ、フランス・ダンケルク港湾部に置かれているフランス海軍の工廠での動きに意識を向けてもらいたい。

 当工廠のある区画では、現在、上記の通り新型原子力機関の稼働実験を行おうとしている最中であった。

 各所では原子力機関稼働に伴う注意喚起を促すブザー、アナウンス等が響く中で工廠内の工員らが慌ただしく動き回る。

 

「二番クレーン収容急げーー!!人員も退避だーー!!」

「測定班、配置に着いた」

「各機器正常に動作しています」

 

 原子力機関と言えど、新型の実験ということもあり工廠内の人間――特に実験に参加する、若しくは立ち会う科学者や研究員、工員、海軍軍人といった施設関係者の顔には緊張の色が見てとれた。

 この機関が何に使われるのか、それは先程の実験責任者の発した実験開始の号令に答えが含まれている。〈原子力潜水攻撃母艦〉に搭載する動力源である。

 

「ノーチラス級…、我が国の保有艦は"パンドラ"と名付けられたのだったか」

「はい。"パンドラ"が進水し、就役したならば大西洋の安全は確立されるでしょう」

「この新型原子力機関を動力とすれば全長およそ400メートルの"パンドラ"は、他の追随を許さぬ機動力を獲得することになります!」

「NATOの誇る新たな戦略兵器だな……これは……」

 

 件の〈原子力潜水攻撃母艦〉とは、アメリカ合衆国が友邦カナダと共に進めていた広域国防計画たる"U計画"の一部である戦略兵器だ。

 小規模ながらも航空部隊、電磁投射砲(レールガン)や巡航ミサイルといった打撃力を有し、そして原子力潜水艦最大の強みである無限に近い航続距離並びに小型艦艇レベルの高速航行が可能な機動力を両立させた超兵器の類と言って差し支えないものである。

 本来ならば、太平洋・オセアニア地域――豪州連合――に対する太平洋、インド洋海域監視包囲網を形成する"オーシャンネット構想"なるものを支える北米諸国の特殊戦略艦船になるはずだったのだが、特殊生物情勢の到来により運用方針を大きく転換。陸海空のあらゆる対特殊生物戦を想定した設計に急遽変更されたのである。

 

『炉心点火、開始。』

 

ゴォオオオオオッ……ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン……‼︎

 

 ここ、ダンケルクではそんな〈原子力潜水攻撃母艦〉の四番艦……"パンドラ"が建造されている。他のU計画参加諸国よりも建造ペースは遅いと言われているものの、船体はほぼ出来上がっていると言って差し支えなく、近いうちに艤装も順次搭載予定である。

 そして、この稼働実験が何事もなく終えることができれば、即搭載し各軍港に回航させ洋上訓練を開始するとのこと。…それも、上の人間達がある意味で焦っているからだろう。強力な兵器を配備し自国を守り抜かんとする心意気は正しいだろうし、皆が望んでいることだと言える。

 

「炉心安定しています」

「第一点火、問題なし。第二、第三点火、続けて行うぞ」

「……早いな」

「新型ですから」

「もうこの状態で……十割稼働なのかね?」

「全く新しい設計の機関なので、従来の機関よりも扱いは容易かつ事故率も圧倒的に少ないですよ。……ゆくゆくはこれらの機関が平和利用してもらえるようになるのを願うのみです」

「…………そのための、"パンドラ"だ」

 

 取り敢えずは機関の稼働が問題なく成功したことで、各々から安堵の声や溜息が聞こえる。

 ……しかし、万事上手くいく物事など、聞いたことが無い。

 

ブーーーッ!!! ブーーーッ!!! ブーーーッ!!!

ジリリリリリリリリリッッ!!!!

 

『何事だ!!状況を知らせろ!!!』

 

 忽然と工廠試験区画内……いや、工廠に留まらず、周辺地域全域にて警報がけたたましく鳴り響き出した。

 責任者が慌てた様子で軍関係者に問いただす。

 

「ここより南、ベルグ方面の森林丘陵地帯に、大型二足歩行種のカイロポットが出現しました!!数は1!!」

「侵攻方向は北北西……ここ、ダンケルクです!!」

「単独行動のようです!!小型種、中型成体はレーダー等では確認されていません!!」

第110(クレイユ)空軍基地より"ラファール"がスクランブル!……北西陸軍管区司令部(レンヌ)から通達!!各陸軍管区並びに隣国ベルギーよりヨーロッパ連合陸軍が増援として駆けつけるとのこと!!」

「工廠付近にて警備配置に就いていた第2機甲師団隷下第11機甲旅団第716電磁砲兵連隊が迎撃準備に入ります!!」

 

『作戦参加の全部隊に通達!!ダンケルクを死守せよ!!!ここで欧州の希望を潰されてはならん!!!』

 

 "パンドラ"の新型原子力機関…ダンケルク海軍工廠とダンケルク市街地防衛のため、フランス軍は行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

同国 ノール県クドケルク・ブランシュ 

A16号線沿い

 

 

 

キュラキュラキュラキュラ………

 

 場面は工廠内から、ダンケルク市街地南部に隣接する街――クドルク・ブランシュへ。

 当市街地に接しているフランスの高速道路(オートルート)16号線伝いにフランス軍は防衛線を構築。

 陸軍の〈ブラッカーD4(自走レールガン)〉を等間隔の三列横隊で配置し、それに対戦車部隊の歩兵を分隊ごとに随伴させる形を取っていた。主力戦車(ルクレール)ではなく虎の子たるブラッカーのみで編成された機甲連隊を惜しみなく投入していることから、彼らの必死さが窺える。

 

バラバラバラバラバラ…!!

 

 そして空には各陸軍駐屯地より馳せ参じた攻撃ヘリ__〈EC665 ティーガー〉と〈AFH-80 バゼラート〉の混成部隊が編隊を組み舞っている。地上と空中からの立体的同時攻撃を敢行するためだ。

 

『こちら第716電磁砲兵連隊――エルドラド。戦闘配置に就いた。いつでもやれる』

 

『司令部了解。間もなく、ラファールによる空爆を仕掛ける。その後侵攻してきた対象に対し有効射程に入り次第攻撃を開始せよ、二段構えだ』

 

『……シュバリエ7からシュバリエ1、大佐へ。相手はベルリン災厄戦時の難敵ですよ。このブラッカーでやっとかすり傷だったの、覚えてますか?』

『既に向こうの弱点は頭部眼球群への集中攻撃であることが判明している。それに今回はヘリと空軍の支援を十分に貰える。以前のようにはやらせん……たかが一匹、されど一匹だ。全車、気を引き締めろ』

 

『『『了解』』』

 

 

ゴォオオオオオオオオーーーッ!!!!

――――ズズゥウウウーーーン!!!!!

 

ギョオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

 

 市街地上空を一瞬で跨ぎ南へ…カイロポットⅡへと飛んで行ったのはフランス空軍が擁する、爆装済みの多用途戦闘機"ラファール"の二個飛行中隊24機だ。

 ラファールが陸上部隊の直上を通過し見えなくなったかと思った直後、空爆による爆炎が大きく舞い、耳をつん裂く爆発音が轟いた。

 ヨーロッパ連合空軍の新型制空戦闘機ユーロファイター・エウロスが欧州全土に配備が開始されてから早三年であるが、ラファールはフランス空軍で未だ現役だ。

 そして、先ほどのカイロポットⅡのものと思われる咆哮は、先述のラファール飛行中隊による波状空爆によるものだろう。

 共和国はカイロポットを研究してきて分かったのだ。ヤツらは対空攻撃能力を所持していないことを。先の咆哮は、自身の感じた痛みを和らげるためだけでなく、自身の攻撃が届かない空から一方的に攻撃をくらっている怒りも篭っているに違いない。

 

『観測機より報告!空軍による攻撃は効果アリ。カイロポットは前進を継続してはいますが、侵攻速度が低下している旨が!!』

『間もなくレールガンの有効射程に入る。砲撃準備!』

『ベルリンでは戦力を分散させられたが、航空兵力を集中運用できるなら我々も戦える!!』

 

 最前線からの報告を聞きながら、第716電磁砲兵連隊(エルドラド)のブラッカー達は再度エンジンを吹かし始める。

 

ギョオオオオオオオ……!!!!

 

 そして、いよいよ連隊にもカイロポットⅡがハッキリと見えるようなってきた。特徴的な咆哮も聞こえる。

 対象――カイロポットⅡの外見は、ラファールによる空爆により紫色の上半身はズタズタに裂かれている箇所がいくつもあり、それらの殆どは黒く焼け焦げ変色している。個体差もあるのだろうが表皮が柔な印象を受ける。

 最早満身創痍の出立ちであった。こんなレベルのカイロポットがなぜ自殺に等しい行為である地上への出現を強行したのか……疑問は尽きないがそんなことは今はどうでも良い。

 ギョロギョロと動いていたカイロポットⅡの頭部の眼の一つが、こちらを力無く気だるげに、そして恨みたらしく覗いていた。

 

『…なんて顔してんだ、紫ムカデ。本番はここからだぞ』

 

 シュバリエ1__ブラッカー隊長車の車長である大佐が上のような呟きをした後、A16――オートルート16号線沿いに展開していた部隊が総攻撃を敢行した。

 結果、9度目のレールガン斉射を終えた頃には、連続かつ集中的な攻撃を浴びた頭部はボロボロ、身体への命令を司る器官を喪失したカイロポットⅡは、市街地に到達することなく、郊外農業地区の真ん中で絶命した。

 ダンケルクにて防衛戦を行ったフランス軍は他管区並びにヨーロッパ連合陸軍からの増援到着を待たずして、軍の損害をゼロに抑え特殊生物駆除を完了したのである。

 カイロポットⅡ出現による本防衛線の勃発に関して、欧州連合科学技術研究所の推測によれば"パンドラ"用の新型原子力機関の稼働時に一時的ながらも発生した膨大なエネルギーを感知して、自身の存在を脅かす別の生命体が現れたと錯覚したからなのでは?……といったものが挙げられた。それが事実ならば、今後も稼働実験や超兵器就役によって特殊生物が現れる可能性があるということだが、それらのリスクを加味しても、自国民を守るべく超兵器建造は続行するというのが、欧米軍の意志であった。

 

 

_________

 

 

同日 現地時間12:39

 

南米 ブラジル連邦共和国 トカンティンス州

州都パルマスより北200km地点

 

 

 

 

 

 クモンガ。

 今から凡そ3年前、南米ブラジルに――世界に初めて……いや、この世界に初めて現れた特殊生物(怪獣)の代表格の名であり、この世界で起こり得るはずのなかった非日常を持ち込んできた第一の外なる存在の名でもある。

 南米に見たこともない大蜘蛛が現れて見境なく暴れてから、世界は変わった。空想の産物として嘲笑されていた存在が、現実に現れ牙を剥いた。

 字面だけを見れば滑稽かもしれないが実際にそうだったのだ。最早認める認めないの問題ではなく、もう"そこ(現実)"にいたのだから。

 

バキッ!!バキバキバキッッ!!!!

 

 当然、人類は特殊生物戦と今は呼ばれている戦闘は初めてだった。その先鋒を担ったのは、ブラジル軍だ。

 駆除しなければ、こちらが痛い目を見る。テレビの中の出来事ではないと悟った者達は戦った。歩兵から艦艇、そして歴戦の特殊部隊まで、戦える者たちは駆り出された。

 成長すれば最大で体長60メートル強にもなる体躯。腹部からは人体をも軽く溶かし切り刻む強酸性の糸と、高速飛行中の戦闘ヘリすら捕捉し撃墜できるほどの強力かつ高速な毒針を連発する。さらには巨体に見合わない俊敏な機動力と跳躍力。そして人類顔負けのおぞましい繁殖力。

 そんなSFパニックものの小説のタイトルを飾ってそうなヤツらとブラジル軍と南米諸国軍は今日まで戦っている。

 

ギシャアアアーー!!!!

 

 すべては、日常を取り戻すため。今の当たり前を当たり前にしないため。

 彼らは戦う。例え相手に変化が訪れたとしても、戦うのみである。

 

バババババババッ!!!

ドドドドッ!!ドドドドドンッ!!!

 

「分隊、グスタフ構えーーーっ!!……てぇっ!!!」

対戦車ミサイル(ATM)装備のM113(APC)を扇状に配置!!レオパルトは正面から火力を集中!!この平野部を突破させるわけにはいかないからな、地面に釘付けにしろ!!!」

AH-64(アパッチ)の到着はまだか!?」

 

 彼ら、ブラジル陸軍北部地域軍の前に現れたのは、クモンガ・バゥと呼ばれることとなるクモンガの変異亜種だ。

 当個体……バゥは単なる変異種ではなく、あらゆるスペックが通常体と比較して高くなっている、厄介な相手である。またクモンガを含む昆虫型特殊生物全般の特徴として、爆発と衝撃が伴う攻撃に対する耐性が著しく高い点が挙げられる。ここ数ヶ月の間に新たに現れた、ジョロウグモに酷似した蜘蛛型特殊生物"レタリウス"、"アラネア"に至っては、中型でさえ大型クモンガに迫る爆発物への耐久性を有していると言う驚くべき結果を出している。

 そのため、ミサイルや対戦車地雷、爆弾等の攻撃は効果が薄くなるわけである。これが原因で、長らくの間ブラジル軍は特に蜘蛛型特殊生物相手に手を焼いていた。

 

「負傷兵の収容と退避を急げ!死んじまったやつは後回しだ!!」

「前線の歩兵を下がらせます。ヤツの侵攻の抑止はここが潮時かと」

「……やはり徹甲弾による砲撃でも今ひとつか…!」

 

 ならば貫徹力に物を言わせた総攻撃を実施しろ、と言う人間もいるだろう。しかしながら、ブラジル軍はそのような作戦を採ることが難しかった。それは余裕のある国々が米国を主力とした多国籍軍を結成し、南米の各所で戦ってくれている状況下でも、である。

 

 大型特殊生物、ここでは主にクモンガ等の昆虫型特殊生物であるが、それらに対する有効的な装備は基本的に米国や日本、豪州に欧州、露国といった軍事的先進国が保有している一部兵器だ。

 例えば、米国の大型地中貫通爆弾(MOP)巡航ミサイル(トマホーク)に巨人兵器群、日本の各種メーサー兵器、対特殊生物徹甲誘導弾(フルメタルミサイル)、豪州のN2特殊爆弾などが挙げられる。それに日米欧が保有する電磁加速砲(レールガン)もクモンガに対する有効策の一つとなり得るだろう。

 これらの強力な兵器に共通して言えることは、莫大な調達費用……コストである。ブラジル軍は南米屈指の軍隊ではあるが、お世辞にも軍事費は決して多いとは言えない。有効な兵器の開発・調達の足を引っ張っているのはそういった理由である。

 

「――だが、どうやらここから巻き返せそうだ」

 

 が、しかし……だ。ブラジル政府はアメリカ政府に対してとある要請を博打覚悟で行なっていた。

 

『CL-01P、プロトベガルタ…起動完了』

『こちらベガルタ3、いけるぞ!』

『ベガルタ7。レールガンオプション最適化は終えた』

『蜂の巣にしてやる』

 

「…来たようだな」

 

 それは米国にて開発された人型機動兵器〈コンバットローダー〉――ベガルタ試作機の提供願いである。

 ベガルタの採用国拡大と対特殊生物戦の実戦データ収集、そしてなにより特殊生物に立ち向かっている国家への支援に繋がるとして、米国はこの要請を快く承諾。南米気候に対する簡易的な改良処置を加えた試作ベガルタ20機を無償提供したのだ。

 

『全機、バトルオペレーション!!』

 

 試作機とは言え、小口径ながらも貫徹力、連射性に優れた電磁速射砲"レールライフル"を腕部に装備している強力な対特殊生物兵器である。

 また、対地対空対艦を問わず、電磁砲を保有する国家は軍事力の指数が非保有国と比較して数段階上がると言われている。

 

シュォオオォォ………!

――ズズゥウウウーーン!!!!

 

『クモンガ変異種、沈黙!!!』

『米国は…全く新しい、恐ろしい兵器を作ったようだ』

『戦争が、変わるぞ…これは』

 

 ベガルタの装備するレールライフルはクモンガ・バゥに対して効果的面だった。戦車以上の機動力と火力、歩兵と同等の対応力を両立させた新たな陸戦の覇者の誕生である。

 今までは火砲と航空爆弾、ロケット砲を集中的に運用し、蜘蛛型特殊生物に対しては今ひとつである爆発による圧殺を狙う戦法をブラジル陸軍はなくなく採用していた。強力な貫通兵器を保有していなかったが故にだ。

 しかし現在、ブラジルの保有する電磁砲の数は20門となった。その全てが上で説明したベガルタの兵装であることは分かるだろう。

 

『ベガルタ試験中隊、損失ゼロ。』

『こちら5番機。左腕部のマニュピレーターに不具合を確認』

『帰投後に整備班に見てもらえ。いまだけでいいから保たせろ』

 

「――レールガンがあるだけで、これほど変わるものなのか……。やれる。我々はやれる。特殊生物の完全駆逐も夢ではないかもしれん」

 

 相手は進化と変化を繰り返している。が、それはこちら側…人類にも当て嵌まる。

 人間は工夫ができ、知恵を有する生き物だ。ただただ命を擦り減らして何度も戦ってきたわけではないのである。

 巨大なる存在に対抗でき得る環境を、各国は整え始めた。

 ここからおよそ一週間後、アメリカ合衆国はベガルタの本格的な量産と配備、そして友好国への提供準備を決定しそれに移行した。

 南米の特殊生物情勢は僅かであるが光明が見えたのである。

 

 

_________

 

 

アフリカ エジプト・アラブ共和国 

サハラ砂漠北東部 北回帰線上

 

 

 

ドオゥン! ドオゥン! ドオゥン! ドオゥン!

ドパパパパパパッ!!! パパパパッ!!!

 

 南極を除外すれば、世界最大を誇る砂漠であるサハラ砂漠の北東部、スーダン・リビアとの国境付近にて閃光と破裂音を生み出しているのは、在エジプトアフリカ共同体統合陸軍の主力戦車である〈M1 エイブラムス〉を中核とした機甲部隊の砲撃だ。

 

「隊長、あの大ムカデは本当になんですかい!?何匹やりゃあ顔拝む必要がなくなるんだ!!」

「知らん!!とにかく撃ち込め!!!カイロポット(紫ムカデ)の親戚かどうかは知らんが、こっちの方がよっぽどムカデだ!!」

「というより、もろムカデでは!?」

「なんで榴弾で弾け飛ばねえんだよ!!」

「とにかくっ!!あれは()()単体だ、ダメージを蓄積させる!それに、他の虫共やアフリカ解放団(テロリスト)蟲使い(バグズ・トーカー)が嗅ぎつけていつ来るか分からん!今のうちに片付ける!!!」

 

 彼らが相対しているのは、出現報告が最近上がってきた、全長100メートルを優に超える極大のムカデ型特殊生物――センチロニアである。

 アフリカは南米に次ぐ昆虫型特殊生物発生地域として該当する大陸だ。南米に劣らない特殊生物の多様性に富んでいる、ある意味不名誉な時局の大陸なのである。

 それに加えて、同じアフリカの民であるはずのアフリカ解放団なるテロ組織も大陸に蔓延っており、共同体統合軍は依然として四苦八苦していた。

 それ故にセンチロニアとの戦闘終了を統合陸軍は急いでいた。

 

「装甲の節目を狙え!」

「HEAT弾用意!機関砲も浴びせろ!!」

『来るぞー!酸の雨だあ!!!』

『ライノス5-4、後退する!!』

 

 しかし、センチロニアにはその巨体とは裏腹に俊敏であり、直線走行ならば一般的な世界の主力戦車よりも高速で走ることが可能な生きた弾丸列車。さらには高速移動をしつつ、背部側面からは軽自動車サイズの強酸性緑色球体液を投射する厄介極まりない怪物だった。

 遠距離から仕掛ければ、こちらの攻撃は効き辛く、向こうは戦車の装甲をものの数秒で融解させる酸を真上から浴びせてくる。かと言って安易に距離を詰めればすぐさま接近され、巨体による体当たりをお見舞いされ、車両もその乗員もぐちゃぐちゃにされる未来が待っている。

 

『ら、ライノス1-4!被弾した!!動けないんだ!!誰か、助けてくれ!!!』

『キューポラが開かない!!開かない!!』

『引き付ける!今のうちに……ぐあああっ!?』

 

ドォオオン!!!!

 

『ライノス2-2にアシッドボールが直撃した!!』

『なんてヤツだ…』

 

 人類はこれまで本格的な異種族との戦闘を経験したことがなかった。異種族との戦闘…今までそれは雑草に農薬を散布すること、マタギが熊を猟銃で撃ち殺すこと、害虫をスプレーで撃退することなどなど…有史以来積み重ねてきた科学の叡智に物を言わせた一方的な駆除…虐殺が殆どだった。地球を席巻している支配者の位置に人類は居座っていた。

 たしかに、例えばライオンに素手で掛かっていけば何も用意のないヒトは十中八九死ぬだろう。しかし、銃を……小銃、散弾銃を持ち牙や爪の届かないこちらの必殺距離から使えば、負傷することも死ぬこともない。さらに付け加えれば、言い方は悪くなってしまうが、たとえ数十億人中のたった数人が死んだところでなんとでもなる。

 勿論、蚊やサメといった生物が相手の場合、環境などによっては人類は不利だが、それは力も道具の一つも無い一般的な人々である場合だ。専門的な知識や圧倒的な技術・武力があればその限りでは決して無い。

 人類は今まで、地球上のすべての人間が皆殺しにされるようなことは異種族にはできないと考えていた。超自然的な災害や微生物やウィルスによるパンデミック等を抜きにしてそれができる方法と言えば、同族による核戦争ぐらいだろうと。

 特殊生物が現れるまで、人類を年間最も殺していた存在は、人類だったのだから。

 

「M1による一斉射撃ですら表皮にヒビを一つ入れるのがやっとか……!!」

「……っ!隊長!!」

「どうした!?」

「米軍とヨーロッパ連合軍の爆撃隊が間もなく到着するとのことです!!本部からはそのため、全力で後退せよと!!」

「戦車より速いヤツから全速後退しろだと!?……ええい、歩兵を急いで装甲車に乗せろ!足りないなら戦車の砲塔にでもかまわん!!」

 

 人類が経験してきた戦闘__戦争は先も言った通り殆ど同族とのものである。

 人類同士の争いでは戦闘の概念が固定化し、これを打ち破るために多様な戦法が誕生しては戦闘の概念が変化していった。人間を多く殺すために特化した効率的なものだ。

 知恵のある生物だからこそ生まれた駆け引きである戦法と、保有する兵器と人的資源を組み合わせ戦う…そういったやり方が常識だったのだ、特殊生物が現れるまでは。

 特殊生物には理性が存在しない。ここには地雷原があって危険だ、ここで待ち伏せをされているから回り込もう、ここで囮を立てて引き付けよう、ここで消耗したら全滅が必至だ、そういった発想を持たない本能剥き出しの敵対的集団は正に人類特効の天敵だった。最後の一匹までこちらを殺してこようとする血も涙も無い殺戮マシーン…降伏や停戦と言った交渉にさえ聞く耳を持たない、正面から物量や個々の特異性をぶつけてくる、戦略・戦術といった駆け引きも無く突っ込んでくる化け物共には、これまで人類が編み出してきた作戦の殆どが通用しなかった。

 現在、世界の特殊生物出現は不規則かつ散発的であるが、余裕のある状況だとは言えないだろう。

 

『聞こえるか?こちら合衆国空軍、第309爆撃航空団(BW)所属B-100F第1爆撃中隊――"フォージャーズ(鍛治職人)"。欧州軍はやや遅れると言っていた。我々のみで片付ける』

 

「こちらアフリカ共同体統合陸軍、在エジプト第4機甲旅団だ!!地上にいる我々ごと絨毯爆撃するつもりか!?」

 

『貴官らを傷つけるつもりは一切ない。心配は無用だ』

 

 純粋な暴力に抗うには、こちらがさらに巨大な暴力を持って向かわねばならない。弁論など通じない相手には妥協は一切合切必要無いのだ。

 人類が久しく忘れていた、本能的な恐怖と危機感……それを思い出させたのは特殊生物だったのは、皮肉なものである。

 

『……フォージャー1よりオールフォージャー。MQ-77(ブルーバード)を全機起動、投下せよ。また、無人機投下後、全母機はMOP3爆撃態勢に移行せよ』

『起動確認。投下!!』

 

『『『投下!!』』』

 

 センチロニアとの戦闘に新たな一石を投じる役を担ったのは、アフリカ救援部隊として大陸に派遣された米軍の戦略爆撃隊の一つだ。

 当飛行中隊は〈B-100F コスモフォートレス〉超大型戦略爆撃機を中心に編成されており、この部隊の強みはB-100本体のみの純粋な爆撃能力だけでなく、それぞれの機体両翼下部に搭載している10機の、多用途無人機〈MQ-77 ブルーバード〉護衛機仕様を投入することによる部隊への各種攻撃任務対処能力の付加にある。

 

『ブルーバード、全機投下完了!!自律稼働を確認!!』

 

 高空に舞う"宇宙要塞"からは、次々と鋼鉄の青鳥達が飛び出していた。

 それらはぐんぐんと前方へと加速していき、徐々に高度を下げていく。低空からのミサイルによる飽和攻撃を狙っているからだ。

 そしてそれに続いて母機であるB-100F爆撃機が遅れて作戦空域に進入してくる。下部の爆弾倉に繋がる投下口が口を開ける。中には地中貫通爆弾__MOPが存在しており、大百足にダメージを与える機会を今かいまかと待ち侘びているように思える。

 

『ブルーバード、ミサイル発射を確認。第一波は既に命中。ムカデの動きが衰えた』

『こちらも仕上げに掛かるぞ、各機、外すなよ。オーバー』

 

『『『了解(コピー)』』』

 

ヒューーーーーッ!!! ヒューーーンッ!!! ヒューーーーン!!!

――ドゴォオオオオン!!!! ドゴオン!!!! ドォオオオオオン!!!!!

 

 米軍無人機群のミサイル攻撃により釘付けにさせられたセンチロニアが払った代償は、致命的なダメージであった。辛うじて行った強酸性緑色球体液(アシッドボール)による対空防御はお粗末なものであり、米空軍爆撃隊本体、無人機群まで到達することなく、擦りもしなかった。

 地中貫通爆弾はセンチロニアの頭部と背部……長大な胴体の中心付近に着弾し、容易く貫通した。

 相当のダメージを負ったためか、センチロニアの全ての脚部は歩みを止めた。

 

「まだだ!!アイツは多数の化け物が連結している!!頭を潰しても終わりじゃない、分離する前に攻撃を集中させろ!!!」

 

 米軍による爆撃――圧倒的な火力を目の前で見たことで呆けていた統合陸軍旅団を現実に引き戻したのは旅団指揮官だった。

 旅団指揮官が言っていたように、爆弾の直撃を免れたセンチロニアの各部位が不規則にそれぞれが動き出した。まるで、部位の一つ一つが別個の意識を持っているかのように。

 ハッとした旅団員達は、各々が持つ、若しくは駆る火器兵器で再び熾烈な攻撃をもがき続けているセンチロニアに浴びせかけた。

 

 …センチロニアはただの特殊生物ではない。

 かの生物最大の特徴は、卓越した攻撃・防御・機動力でも巨体でもない。多数の特殊生物が連結・分離することで身体を構成している点にある。言わば特殊生物の集合体なのである。

 外見がムカデであるため、ムカデ型特殊生物と括られているが、頭部や尻尾、腹部、背部等のすべてが独立した別個でまったく未知の昆虫型特殊生物であり、外見以外にムカデと類似する点は一切存在しない……全くの別の生命体だ。

 なぜこのような進化を遂げたのかは不明だが、この特徴を利用してダメージの溜まった箇所を担当している特殊生物をトカゲの尻尾切り……または追加装甲を切り離すが如く分離・射出することも可能だ。全体に奉仕するために特化した、個の死すら歯牙にもかけない進化。用済みになれば容赦なく切り捨てるわけである。

 

「あらかた片付けたか…」

 

「はい。残存する特殊生物は確認できず。戦闘終了ですね」

「死骸の処分はエジプト陸軍も参加するらしく、およそ30分後に来るらしいですぜ」

 

「米軍の爆撃隊には、あとで良い酒でもご馳走してやらねばな…」

 

 そんな特異な特殊生物の群体は人類に対してその能力を今回は発揮することができないまま駆除された。

 しかし、忘れてはならない。今回は人類側の運が良かっただけなのだから。偶然、足止めに徹する者たちがいて、偶然、決定打を与えることが可能な装備を持って来た者たちがいて、偶然、人のいない砂漠地帯に怪物が現れただけなのだから。

 日常を享受できることを、もっと大切にした方が良いのではないだろうか。それがいつ壊れるのか、分からないのだから。これは何も、押し付けがましいことだとは思えない。

 

 

_________

 

 

オセアニア ミクロネシア連邦領海

西太平洋 チャレンジャー海峡上付近

 

 

 豪州連合加盟国の一つ、ミクロネシア連邦。当国は隣国マーシャル諸島共和国と共に豪州連合の太平洋における対日米最前線を張っている、戦略的・地理的、そして現在豪州連合が秘密裏に進めている国家プロジェクト――"天頂計画(ゼニスプラン)"遂行上重要な国家でもある。

 史実とは違い、グアム島とサイパン島を中心に北マリアナ諸島は第二次大戦終戦時に米国が旧日本軍から奪還後、現地民の武装蜂起を発端とした独立運動によって米国から独立。"北マリアナ独立国"が建国された。そして1990年代、来たる"オセアニア広域連合構想"__現在の豪州連合__発足の下準備として、ミクロネシア連邦に編入・統合された。

 それによって、ミクロネシア連邦はグアム、サイパン、西太平洋に存在する他4島を現在まで領有しており、そのグアム・サイパン両島には近代化改修が為された大規模な豪州連合空軍基地が立っている。

 先のババルウ日本襲撃時に硫黄島沖領空侵犯未遂をしたオーストラリア国防空軍B-57戦略爆撃隊__エインジェルもこの両基地の所属だ。

 

 そんな島々の周辺……東から南にかけての海域には人智が未だに及んでいないマリアナ海溝があり、その海溝の中でも最深部に繋がる場所を人々はチャレンジャー海淵と呼ぶ。判明しているだけでも水深約1万メートルを優に超えており、正確な深度の数値は出せていない、世界で一番深い場所だ。

 世界最高峰と謳われるエベレストすらもすっぽり入ってしまうほどの深さ……その冷たく暗い孤独な環境は人類には過酷だ。水中だからと言うのは勿論だが、何より深く潜れば潜るほど強力になる水圧が人類側の調査を妨害していると言っても過言ではなく、長らく海溝の調査は難航し、その環境下に生きる新種の生物等の発見も芳しくなかった。

 ………しかし今日、マリアナ海溝――チャレンジャー海淵の謎に包まれていた全貌の一部が、海上に顔を出したのである。

 

ギャオオオオオオオオオッ!!!!

 

 神秘で満ち溢れている海底の秘密の一部。それは、人類にとっては悪いニュースでしかなかった。

 超古代先史文明の負の遺産――現代人類に仇なす生物兵器、ギャオスが生息する地点であったのだ。

 極東日本国周辺の海底にも新規の古代遺跡が発見されていることから、世界各地に存在する海底、海溝には未知の遺跡が多数存在するだろうことは分かっていた。その中でも、どうやらチャレンジャー海淵に沈んでいたのはギャオスに関連する施設の遺跡群であったらしい。

 

ギャァアアッ!! ギャァアアッ!!!

 

『N2弾頭弾の追尾が追いつかない!!』

『通常ミサイルで動きを止めるんだ!』

『潜航、浮上、飛行を繰り返してやがる……!!ミサイルも当たらんぞ!!機関砲だ、機関砲で叩き落とせ!!』

 

ドドドドドドドッ!!! ――バヒュンッ!! バッシュゥウウウン!!!

 

ギャァアアッ!!

キィイイイン……スパンッ!!!!――ドドォオオオン!!!!

 

『バベル8が食らった!あの野郎め――うおっ!?』ブツッ!!

『コズンもやられた!!』

『チッ!だから油断するなと言った!!』

 

 チャレンジャー海淵から出現したと思われる、四体のギャオスは明らかに新種であった。

 今、ギャオスは海中から姿を現してから、オーストラリア国防海軍所属の空母航空隊――バベル隊による攻撃が為されているが、戦局はあまり芳しくはない様子だ。

 

『各機散開!ハードポイントのN2弾頭に誘爆してみろ、全員まとめてあの世行きになるぞ!!』

 

 水掻きやヒレ、エラなどを備えたギャオス4体は、トビウオの如く海上と海中を高速で行き来して豪州連合空軍の戦闘機部隊からのミサイル攻撃を難なく避けていた。

 さらには向こうが隙を見せれば、すかさず超音波メスを繰り出し被害を与えていた。超音波メスの命中率は高く、耳を揺さぶるノイズが聞こえたかと思えば機体が真っ二つに切断され、気づいた頃には即爆散していると言った流れが後を絶たない。

 

『グレートサンディーよりバベルチームへ。間もなくサイパン及びグアム基地のゴーレムチームが駆けつける』

 

『バベル1了解!最大限の努力をする!!頼むぞ!!』

 

『こちらも第二航空隊(ソーサラーチーム)の発艦を急がせている。耐えてくれ』

 

 海棲生物と陸棲生物の中間にあたる、ギャオスの適応進化形態…アクアティリスは、現在の海洋環境に合わせ最適な既存生物遺伝子の発現を自発的に行った存在だ。地殻変動と海底の隆起によって地表に現れた海底遺跡に封印されていたギャオスの耐久卵が目醒めてしまったのが原因であると考えられる。

 この陸海空のあらゆる環境にて生存できる新たなギャオスは、何も豪州連合だけの脅威ではない。海淵内から現れたアクアティリスが拡散、若しくは各地の個体がそれと同様の遺伝子発現を行った場合、より一層ギャオスとの戦いは厳しさを増していくと思われる。

 

『バベル隊をやらせるな。ゴーレムチーム、エンゲージ!!』

『バベルチーム、援護する!』

『ゴーレム4!FOX2!FOX2!!』

『次に海から顔を出したらありったけ叩き込め!』

 

 20対4の物量差がありながらギャオスを相手にドッグファイトで劣勢に陥っている、ガメラ捜索任務に就くはずであったオーストラリア国防海軍の航空隊__バベル隊を支援するため、グアム・サイパン基地両島を拠点とする豪州連合空軍航空隊__ゴーレム隊〈JF-17 サンダー〉戦闘機総勢14機が戦闘に加わった。

 中国がパキスタンと共同開発した海外輸出用の多用途戦闘機(マルチロールファイター)であるJF-17は、2000年代に開発された機体であるが、F-16の特徴を参考にしていることから小回りが効き格闘戦に強い設計となっており、近中距離での空対空戦闘では現代の最新鋭戦闘機に勝るとも劣らない性能を隠し持っている機体だ。

 しかしその性能はあくまでも、同じ航空兵器相手の場合だ。

 さらに言えばパイロットの技量も機体の性能も上であるバベル隊ですら翻弄されている。一部隊の救援が来たところで状況が一転するわけがないことは結果を見なくとも分かるのだ。

 

『ほぼ30対4だぞ!?なぜ奴らは堕ちないんだ!!』

『!!――またホバリングで回り込まれる!誰かケツをカバーしてくれ、早く!!』

『エレメントを組み直せ!必ず一対多で相手取れ!!』

『バベル1よりバベルチーム。N2弾頭弾は残っているか』

『バベル9より1!全弾撃ち切りました!!残りは通常弾と機関砲のみです!!』

『誘爆を恐れ空中投棄を実施したため、ゼロです……!!』

『残り三発、N2が――――』ブツッ!!

『うわぁあっ!?7番機、友軍を多数巻き込み誘爆!!』

『ピンポイントでバベル7を撃ったのか!?』

 

 ………だが、新種のギャオスとて完全無敵ではなかった。長時間空中を飛行――それも戦闘による激しい運動と体力の消費が伴う飛行を――していたこともあり、徐々に勢いが衰え出したのである。

 バベル隊とゴーレム隊はギャオスの様子の変化に気づき、これを好機と捉え反撃に転じた。途中で第一艦隊の原子力空母__グレートサンディーより発艦してきたソーサラー隊も作戦空域にて合流し、一層強めた数でのゴリ押しを全面に出して追撃。三個飛行中隊分の追撃を掻い潜りチャレンジャー海淵へと潜水逃亡を試みようとした残党のギャオスは第一艦隊のミサイル巡洋艦並びに駆逐艦のN2弾頭搭載の対潜誘導弾(アスロック)の過剰なまでの飽和攻撃を受け海の藻屑となった。

 

『バベル1だ。管制、ウチは四人も食われた。駆けつけてくれたゴーレムとソーサラーも何人かやられている』

 

『こちらグレートサンディー。各飛行隊、よくやってくれた。マックス司令も称賛してくださっていた。…………ギャオスと戦い、豪州を守るために命を捧げた同胞達に、哀悼の意を……』

 

『……クソ以下のヤツらのために、何故あいつらが死なねばならなかった……!!』

 

『……各チーム、一度帰投を――』

 

 少なくない犠牲を払いながらも、災影をなんとか撃破することのできたオーストラリア国防海軍と豪州連合軍であるが、そこに新たな影が海上を突き破り現れんとする。

 

『――そ、ソナーに感あり!!この反応はっ!!!』

 

『どうした管制?新手なのか!?』

 

ザッパァアアアアーーーーーーンッッッ!!!

 

『なっ!?が、ガメラっ!?』

 

 海上より飛翔するは護国聖獣が一柱、大海を守護する玄武――ガメラだった。

 暫く前にギャオス追撃の最中、豪州連合空海軍によるN2攻撃によって撃墜され、消息を絶っていた、地球守護神獣ガメラ。

 撃墜地点はミクロネシア・マーシャル諸島共和国近海であったのだが、ここマリアナ諸島の…それもチャレンジャー海淵付近の海中より現れたということは、あれから豪州連合軍からの執拗な対潜攻撃を避け続け行方を眩まして傷を癒しながら海底を回航してきたのか、それとも巷でまことしやかに噂されている人類未把握未発見の"海底空洞"なる天然のトンネルを介してここまでやってきたか…それはガメラに聞かねば分かるまい。

 そんなガメラが、以前に敵対行動をとった豪州連合軍そっちのけで遥か空高くグングンと飛翔していく。

 航空隊それぞれのレーダーにはまだハッキリとガメラを捉えている。しかし、数秒毎に猛烈な速度で突き放されており、レーダーが示す探知距離から自ずとそれが分かる。ここでミサイルを撃たねばガメラは北上し日本国領海周辺で行方をくらますだろう。

 

『マーシャルでくたばったんじゃなかったのか!!』

『隊長、攻撃しましょう!今なら追跡が可能です!!』

『奴もこちらを知覚しているはず!なぜ何もせずに逃げる!!』

 

『――ガメラ、失探(ロスト)!!』

 

 三個飛行中隊が空中戦闘のための編隊を急ぎ組み直している僅かな時間で、ガメラは彼らを置き去りにして北…日本方面へと飛び去った。

 ギャオスとの戦闘での消耗もあり、豪州連合並びにオーストラリア国防軍はこれ以上の追尾を断念。グアム・サイパンの哨戒部隊を出撃させ、形だけのガメラ捜索と戦闘海域の処理を行なった。

 豪州連合はこの一件から、際限なく進化を続け適応を繰り返しているギャオスの完全殲滅と発生地帯の特定・破壊、ガメラを筆頭とした大型特殊生物の領内からの駆逐を改めて大々的に打ち出し、連合議会にて国防費のさらなる臨時追加が決定された。

 今回の予算は、N2とオーバーテクノロジーの研究、新型兵器群の量産工場設立、離島の要塞化に費やす魂胆であるらしい。

 

 軍事同盟化に拍車が掛かる豪州連合。

 彼らの備えはどこまでを見据えているのか。

 …限度を超えた軍拡は、破滅への近道であることを、誰も理解しようとはしなかった。

 

 

_________

 

 

極東 ロシア連邦 マガダン州オホーツク

シベリア・オホーツク統合基地

欧州連合科学技術研究所ロシア極東支部施設区画

地下大型格納庫

 

 

 

 極東ロシア日本海沿岸部に位置する街、オホーツク。

 その街の郊外には、ロシア連邦軍とヨーロッパ連合軍が共用する陸海空の統合基地が建っている。

 また、基地の敷地内には、ヨーロッパ連合の科学技術研究所も併設されており、ロシア連邦軍による手厚い警備を提供してもらっているのだ。

 そして当基地内には核シェルターとしても機能する大規模な地下格納庫が数カ所に存在する。その格納庫の一つが、今は日本の青森にて発掘された、超古代に造られた50メートル級人型作業機械__〈機人〉の生き残りである"衛人(クナト)"保管のために使われている。

 衛人はと言えば、このシベリア・オホーツク基地に集結した日米露の研究チームの調査に全面協力している最中だった。

 

『――そして、世界統一機構となった超古代先史文明__"エフタル"は、ギャオスによる生存圏の後退を余儀なくされた中でも、文明崩壊後に生き残るだろう子孫のために〈環境浄化人工生物群〉の普及を、ギャオスとの戦争の間も継続していました』

 

 衛人から語られる詳細な紀元前の人類史は驚くべき事実の数々であった。

 

「その環境浄化生物はどうなったかは記録されているかしら?」

 

『環境浄化生物群の大半は、運用されることはありませんでした。残存していた各地の辺境セクターでも起動を試みられましたが、すべて断念されています。これは、起動に取り掛かった頃にはギャオスによって環境を復元不可能なレベルにまで改変されていたからに他なりません。放棄されたものの殆どは、遺骸となり古代のプランクトンと同様に石油化しているか、若しくは大地に還元されたかと思われます』

 

「環境浄化生物か……。正に生物学、遺伝子学の境地だな」

「今の生物学的環境修復(バイオレディメーション)は細菌やバクテリアがやっとだというのに…」

「クナト……彼の言う通りなら、特定の新規の遺跡からサンプルが回収できるかもしれない」

 

 日米露研究チームは、格納庫に座す衛人に対して会話形式による聴取をしていた。

 衛人への質問内容については3カ国が順番に決定し、それを日本生総研の香月を介して行われていた。現状、最も衛人とコミニュケーションをとった人物であるからであるのと、衛人本人からも香月との会話を要求されているからだ。

 

「――なるほどねぇ。さっき大半は起動しなかったと言ったけれど、一部はどうなったかは分かる?」

 

『――()()、文字通り消失したと記録されています。コウヅキ博士らが使っている特殊生物のカテゴライズを用いると、小型から大型までの環境浄化人工生物の一部…生産された全体の7パーセント、合計約1万体ほどが絶滅抵抗戦争中期から末期に掛けて消失しています』

 

「具体的な要因は分からないわけね。答えてくれてありがとう。

さて、ここまでで環境浄化生物について判明したことを大別してまとめると、当生物群は互いが共生・寄生関係にある菌類と"蟲"と総称される動物群から構成されていること、現在世界各地に出現している昆虫型特殊生物とは無関係であること、当生物群が浄化した後の環境は現代人類にも害はないこと、大半の個体は廃棄され、一部の個体群は何らかの事象によって消失し行方は掴めないこと…ぐらいかしら」

 

 今回、研究チームが得たものは環境浄化人工生物群についての詳細な複数の情報であった。

 先日は超古代先史文明(エフタル)の築いたセラミック文明や保有していた軍事力・技術力・財産についての情報を衛人が提供している。

 連日、日米露合同研究チームから質問攻めにあっている衛人であるが、やはりというべきか機械故に疲労にあたるモノは持ち合わせていないらしく、精力的に応対しており、こうした協力は人類を守護する機人としての義務であり現在自身ができる最大限の貢献であると香月達に配慮まで見せていた。

 恐らく衛人の協力が今後も続いてゆけば、超古代の謎の解明やギャオス攻略の糸口、人類の発展のカギを手に入れることに繋がるだろう。

 

「あ、それと……その環境浄化人工生物群って、長いし堅苦しいのよね、名前が。先史文明のエフタルみたいに別称とかあったら、教えてほしいのだけれど」

 

『はい、当生物群にも別称別名はあります。当生物群を、"青き清浄の地"……かつての緑豊かな大地を取り戻してくれる希望であるとエフタルの人々は考えていました。そのため古代エフタルにて聖母と呼ばれていた人物の名も取り入れ―――』

 

 そして、残された疑問や謎は、不穏というつぼみとなって目一杯に膨らんでいく。

 

『―――"ナウシカの随行者達"と呼ばれていました』

 

 そのつぼみは開花の刻を人知れずにゆっくりと待っているのである。

 

 

 

 





 はい。どうも、投稿者の逃げるレッドです。出せる回は出しときましょうと言うことで、今回はハジメ君達の周囲から離れた視点からのお話でした。
 もう気づいた方もいるかもしれませんが、ナハトスペースに存在していた地球産超古代文明は平成ガメラシリーズオンリーではなく、複数の作品から設定を持ち寄り組み合わせたキメラ文明です。今後も古代文明…エフタルについての掘り下げ回や関連回は出す予定なのでよろしくお願いします。

 今回のサブタイは、某TCGのパーフェクト呪文の神イラスト発表記念に、エターナル・多色呪文の名付け方に乗っ取りました。本サブタイがカード化したら読み方はどうなるんやろ…

_________

 次回
 予告

 第63回戦車道全国高校生大会の一回戦、黒森峰学園と知波単学園の試合当日。
 千葉港に降り立ち試合会場へ向かう黒森峰戦車道履修生達。
 会場内外に警察や自衛隊が警備に就き物々しい雰囲気の中で遂に試合が始まる。

 影法師に唆されてしまったレイラは、怪獣出現のタイミングを窺う。
 果たしてウルトラマンナハトへの捻じ曲がった復讐劇が始まってしまうのだろうか?そして、影法師の策とは何なのか!?

 「アレは、言わば影だ…」

 次回!ウルトラマンナハト、
【鉄紺の幻影】!

 人は皆、見えない未来を探している…!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。