旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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熱核青龍 バーニングゴジラ、登場。


第43夜 【人生の舵取り】

 

 

 

 

 

『また新たなウルトラマンか!?』

『ナハトに酷似している…熊本のようなニセモノかもしれないぞ』

『見た限りだと、現れ方や所作から決して友好的に接触はできそうにありませんね…』

『各自、射撃は待て』

 

 

《ウルトラ…マン……?ニセモノなのか…?》

 

 ベーゼウルトラマンシュピーゲルがナハトの前に姿を現した。ナハト__ハジメはこの正体不明のウルトラマンを前にして恐怖や不安よりも正体に関する疑念が勝っていた。

 

――シュアッ!!

 

――ダァアッ!!

 

 空の黒い渦…ワームホール由来の存在であるため、敵対する者であることだけは分かる。油断せずにファイティングポーズで構え、相手の出方を窺うナハト。

 同じタイミングでシュピーゲルも即座に構えた。

 

《構えも、動きも同じ…?》

 

 掛け声のタイミングも、ポーズも、動作も、全て同じ。そして何より驚くべきことは、シュピーゲルの動きに一切の誤差が無いことである。

 ナハトは、まるで鏡に映る自分、光に照らされた自分の影を見ているように錯覚していた。

 

「何よ…ウルトラマンシュピーゲルって!?」

 

「人間の負の感情から生まれる闇、あらゆるモノから滲み出てくる悪意、そしてこれまで我らが呼び出しウルトラマンナハトに敗れ去った怪獣共の記憶、それらすべてを縫合、混成させた融合体だ。ウルトラマンナハトの力を理解したアレは、もはやもう一体のナハトと言っても過言ではない」

 

「…所詮はナハトのコピーってことじゃない。ナハトはあんな奴には負けない!」

 

「――いや、負けるよ。エリカちゃん」

 

 エリカの宣言に待ったを掛けて否定したのはレイラだった。その顔には笑みがあり、影の巨人__シュピーゲルの勝利を確信していた。

 

「勝たないとおかしいよ?だって、あのシュピーゲルには、私の感情も使ってるんだから」

 

 レイラの指す感情とは、恐らくは捻じ曲げられたナハトへの憎悪や敵意、そして殺意だろう。シュピーゲルは最早自分の一部でもあるのだと言っているに等しかった。レイラの肩入れは本心ではないだろうとしても、エリカからすれば怖かった。心を弄られれば親友でもこうまで変わってしまうのかと。これがもし自分だったら……。

 

「孤りだから。私はもう一人だから。それなら死ぬ前に、恨み晴らしたっていいよね」

 

「レイラ……!」

 

「ほら!行きなよ、シュピーゲル。アイツを、ナハトを倒してよ!!」

 

ア"ァ"ァアアアアアアッッ!!!!

 

__ヒュン!! ドガァアアン!!!!!

 

《ッ!?!?》

 

 レイラの声に反応したのか、シュピーゲルが手元に光弾__"シュピーゲルブリット"を形成し、手刀を出す要領でナハトへ向けスライドさせ光弾を放った。

 それはナハトが回避運動を取るという予測をした上での狙撃であった。まるで次にナハトが取る行動を把握しているかのように。

 

ウアアッ!!

 

《!!、避けたのに……!》

 

 高出力の光弾を、回避に徹していた無防備な体に浴びたことでナハトは後方へ大きく吹き飛ぶと同時に、予測できなかったが故の少なくないダメージを受けた。

 受け身も能力も使わずに食らった光弾由来の痛みから、ナハトは倒れたままもがく。シュピーゲルはそれを見るだけでは済ましてはくれない。

 ダッシュで距離を詰め、倒れているナハトに全力の踵落としを繰り出す。

 

クッッ!!

 

《疾い…!!》

 

 体をくねらせて踵落としを回避し、そこから頭跳ね起きで立ち直す。

 ホッと呼吸を一時整え、今度はナハトが攻める番となった。こちらの出方を窺い、構えを取っているシュピーゲルにナハトが正面から連続鉄拳。

 これをシュピーゲルもまた正面から連続鉄拳で返す。繰り出した拳の連打がすべてぶつかり合う。

 

シュワッ!!

 

ジュアッ!!

 

 そして次は回し蹴り。互いの脚が衝突し、力の拮抗が生じ辺りには衝撃波が走った。

 素早く脚を引く両者は、互いに一歩分ステップし後退。再び睨み合いに入る。

 

ジリ……ッ

 

……シュアッ!!――バッ!

 

……ガアアッ!!――バッ!

 

 無駄の無い動作を経て最速でナハトはスペシウム光線の構えを取りシュピーゲルへ照射……したのだが、やはりシュピーゲルも同じ瞬間にスペシウム光線を照射する。

 

バリバリバリバリバリッ!!!

 

 光撃と光撃の激突により周囲に溢れたプラズマが飛び散る。

 空中に拡散したプラズマの一部が、陸自航空部隊へと降り掛かった。

 

『ミズナギ下がれ!戦闘の余波に巻き込まれる!』

『ッ……了解。後退する』

『格闘だけでなく、光波熱線のレベルすらナハトと互角か…』

『あの戦いは自分達の入る余地がない…格が違う…!』

 

 そう。違いすぎた。巨人対巨人、ナハトとシュピーゲルの戦いは、他の者が立ち入ることすらできないほどのものだった。気づけば戦場を取り巻いていた空気が一変していた。

 

「やっちゃえシュピーゲル!!アハハハハハ!!」

 

「レイラ!もう止めて!目を覚ましなさいよ!!」

 

 ナハトとシュピーゲルの戦いを観戦するレイラは、とっくに狂気に染まっていた。

 目を見開き高笑いを上げるレイラ。そんな彼女に異変が起きる。

 

「――アハハハハ……ゔっ!?何……、痛い…胸が痛い……!あぅ……」グラッ…

 

「レイラ!?」

 

 突然、レイラが胸に手を当てて苦しみ出し、力無く倒れる。それをエリカが駆け寄り倒れる前に抱きかかえ、レイラの名を何度も呼び掛けながら揺さぶるが、目を閉じてレイラはうなされているようだ。

 

「うう……うぅん……」

 

「これもアンタの仕業!?レイラの心に漬け込んで、今度は何をしたの!?」

 

「違うな。引き出してやった心の闇をシュピーゲルにすべて持っていかれただけ。クククク……もう用済みと言うことよ」

 

「とことん救いようのないヤツ……!!」

 

 しかし、この影法師の言う通りならば、ナハトを憎むように仕向ける支配の糸のようなモノが切れたということになる。

 事実であればエリカは安堵できる話だ。親友が正気に戻った可能性が高いという事実は重荷がいくらか降りる。残る問題は、暴れているシュピーゲルと、それの戦いぶりを観ている影法師だ。

 

グァアッ!!

 

ズズゥウウウウウーーーン……!

 

「くううっ…!……あ!ナハトが!!」

 

 ナハトの声が聞こえたかと思えば、今度は大地が揺れ、土煙が降り掛かった。エリカが何事かと、土煙が落ち着いた後に自身の前の光景を目に入れる。

 目の前には…エリカ達の立つ丘の麓には、吹き飛ばされてしまっただろうナハトが倒れていた。

 

グッ……!!

 

《こっちの技、全部網羅してるっていうのか…!?なんとか、態勢を………っ!?エリさん、レイラちゃん!!それに、影法師まで…!!どうしてここに…!!》

 

ハアッ!!トア"ッ!!

 

 シュピーゲルが距離を詰めつつ、再び光弾を連発してきた。ナハトは上半身を起こしナハトセイバーを出しすべて弾く。

 

デュッ!!

 

《くそっ!!二人を巻き込んだら目も当てられない!!ここで食い止めるしか!!》

 

 全身に走る痛みに耐えながら素早く立ち上がり、シュピーゲルにセイバーを構えるナハト。

 シュピーゲルもそれに合わせ、自身のブレスから同じように光剣__"シュピーゲルセイバー"を抜刀。切っ先をナハトに真っ直ぐ向ける。

 踏み込む両者。光剣を振り切り、交差。

 

ブシュゥウウーーーーーーッッ!!!

 

グゥゥッ!!!――ズズゥン!

 

《ッ…!!》

 

 白い光の粒子が、ナハトの右横腹から止め処なく噴出しだした。

 呻くナハトは、横腹に手を当て屈み込んでしまう。先ほどの反動のせいか、いつの間にか光剣も消えている。

 ナハトが負傷したが、対してのシュピーゲルは全くの無傷。ナハトが肩で息をし始めており、シュピーゲルは息遣い等に乱れはなかった。

 

バラバラバラバラバラ…!!

 

『……このままでは……!各機ナハトを援護!!』

 

『了!!』

『…了か…!?敵、前――』

 

――グシャッ!! ドォオオオン!!!

 

『なっ!?上から!?』

 

 劣勢のナハトを援護すべく、機を翻して射撃準備に入ろうしていたモーニング隊。

 直後、3番機が原型を留めずに爆散した。それはナハトと対峙していたはずのシュピーゲルが、モーニング隊より遥か上空から急降下しての回転蹴りをしたためであった。レーダーにはなんら反応が無い。

 シュピーゲルは自身へ危害を加えようとする存在を予め察知していた。ナハトを無視し超速で大空へ舞い上がり、そこからモーニング隊に奇襲を仕掛けたのだ。その後シュピーゲルは地上落下していく。

 

『やられたのは03か!!』

 

『はい。蹴りで一撃で――ブレイク!ブレイク!!』

『下から光弾が来てるぞ!?』

 

『いかん!!』

 

 シュピーゲルは地面に到達する前に身を翻し、超低空を飛行。モーニング隊の真下を潜りながら手に光弾を形成し撃ち出す。

 上下へのブレイク…回避行動のみであったモーニング隊に、容赦なく光弾が激突し炸裂…空中に赤と黒の花が三つ咲いた。

 

『ヘッジホッグが全機落とされた!?』

『ミズナギより地上部隊。一時後退!繰り返す!一時後退せよ!!現有戦力では敵性ウルトラマンに太刀打ちできない!!後退を開始せよ!!』

 

キュラキュラキュラ……

ブロロロロロロ……

 

 陸自の無線状態は正しく、混乱であった。

 ウルトラマンナハトの劣勢、陸戦にて無類の強さを誇る対戦車ヘリ一個飛行小隊の全滅…状況は切迫しているのは明らかだ。

 山梨でのオッドアイ(ガンQ)戦のように、またしても自分達は手も足も出すことができず撤退しなければならないのかと、歯噛みする隊員もいた。

 

『うわっ……!』

 

――ドォオオオン!!!

 

『ミズナギ、反応が途絶えました!』

『なんて機動だ…あんな直角に飛んで動けるのか!?』

『普連第一中隊並びに機動戦闘中隊、負傷者を収容し後退』

『ウルトラマンがあんな風になってんのに、撤退しないといけないのかよ…』

『やるにしても、残弾ゼロだ。後退するぞ!急げ!』

『……指揮所より、通達…千葉南部より()()が北上中……?移動、してるのか?震源が……』

 

 そうこうしているうちに、ミズナギ__上空からの観測支援役であったOH-1すらも撃墜され、空からの目を潰される陸自部隊。

 辛うじて現場の彼らは込み上げてきていたものをなんとか飲み込み、態勢の立て直しと航空優勢確保まで後退するべく動き出した。

 地上部隊と入れ替わるように、遥か上空には空自百里基地より離陸したF-2戦闘機一個飛行中隊が現着したものの、上空待機の命が司令部より下ったため、地上のナハト援護は叶わなかった。

 

《う……アイツ…!好き勝手やってぇ…!!》

 

へアッ!!……フン!!

 

 ナハト__ハジメは片膝をつき三日月光輪を三度放ち、左腕のナハトアームズより光弓__ナハトボウガンを出し一回り巨大な光の矢をシュピーゲル目掛けて発射。

 シュピーゲルは迫り来る三日月光輪を全てシュピーゲルセイバーで切り裂き、光の矢は必要最小限の動きで回避。

 お返しとばかりに、シュピーゲルはソーサー状の__完全な円形の光輪である__"新月光輪"を形成しナハト同様に三度投擲。そして左腕の"シュピーゲルアームズ"に光弓__"シュピーゲルボウガン"を現出させ黒い光の矢を放った。

 

《狙いが甘い。これは――》

 

――避けられる…とナハトは確信していた。

 

ドスッ!!

 

《カハッ!?矢が、曲がって来た…!?》

 

 咄嗟にナハトは片膝をついた状態から小さく横に飛んだ。

 しかし、である。

 狙いが外れナハトの横に大きく逸れていくと思われた黒矢は、突如軌道を変え__傷の癒えていない__ナハトの右横腹に深く突き刺さった。

 そして間髪を入れず、三枚の光輪がナハトを斬る。

 光輪も腕や足、胴体を狙っていたようで、浅い傷で済んだが、胴体に刺さった黒の矢から滲み出る闇によって、ナハトはダメージを蓄積させられていた。

 

――ピコン ピコン ピコン ピコン ピコン !

 

 ライフゲージが赤く点滅し、けたたましくタイマー音が鳴り出した。

 なんとか体内の光エネルギーを右横腹の被弾箇所に集中し、闇と中和させるという処置をしたが、やはりダメージは大きかった。拒絶反応が出るような異物である悪意を含んだ闇が直接ナハトにジワジワと侵入したのだ。それを排除するために回す分のエネルギーが多すぎたわけである。

 

《……ここで決着をつけるつもりなのか》

 

 地上へ静かに降り立つシュピーゲル。口角を上げ、せせら笑うシュピーゲルの両腕は鈍く虹色に光っている。スペシウム・オーバー・レイか、はたまたスペシウム・イグニッションか……どちらであるにせよ、ここでシュピーゲルは満身創痍手前のナハトを討ち取るつもりのようだ。

 それに加えて、ナハトの背後にある丘…エリカ、レイラ達もまとめて葬ろうとしている。影法師はさっさと姿を消しており、巻き添えを受ける前に離脱したと思われる。エリカ達も、今から走ったとしても間に合わないことはわかっていた。

 

「ナハト……」

 

「……う…、あれ…?エリカ……ちゃん?」

 

 うなされていたレイラが目覚めた。

 どうやら状況が上手く飲み込めていないようだった。

 

「レイラ?意識が戻ったのね…!良かった……」

 

「あの……私、私……エリカちゃんや、みんなに、ヒドイこと……言った」

 

 ナハトを強く憎むように仕向けられ別人とかしていた時の記憶もレイラは持っているらしく、罪悪感と別人格への怯えからか、声も途切れ途切れで震えていた。

 

「アンタは何も悪くない。気にしないで。…だから今は――」

 

 今はレイラの謝罪を聞くよりも、エリカにはやるべきことがあった。シュピーゲルの攻撃範囲からの離脱……ではなく、身を挺してレイラを庇うことだ。

 自分が壁になれば、この娘(レイラ)一人くらいはと。

 

《やらないといけないのか!?ここで……!!》

 

 ナハトも両腕に光のエネルギーを宿しはじめ、虹色に輝く。

 対面のシュピーゲルは待っているようだった。ナハトは自身と対を成す存在であると、シュピーゲルが理解していたが故か。必殺光線をぶつけ合い、白黒つけようとしているようにもとれる。圧倒的な力量差を見せつけながらナハトを絶望の中に突き落としつつ倒す…そう考えているのかもしれない。

 

「この丘から降りて逃げないと――」

 

「ううん……。エリカちゃん、私は行けない」

 

「!? なんで!?」

 

「名前も知らない多くの人の死を澄ました顔して笑って見てたから…それに、私はナハトを……!私のせいで、あのウルトラマンが現れたから…!」

 

「だからそれはアンタのせいじゃないの!!」

 

「アレも私だったよ!!独りになったからって、あんなこと、許されないのは分かってたのに、楽な方に流されて…」

 

 エリカはレイラの手を引っ張るものの、レイラ本人が立ち上がろうとせずにへたり込んでいるために丘の上から動くことができないでいた。

 ここで罪を償うのだと言って座り込むレイラをエリカは諦めず説得を試みる。

 レイラの顔をエリカは両手でパシン!と小気味のいい音をたてながら叩き掴んだ。そしてエリカはレイラの顔を真っ直ぐ見て思いの丈をぶつける。

 

「レイラ!アンタは私の自慢の親友!!アンタはおっちょこちょいだけど、いいとこがいっぱいあるヤツ!!アンタは独りじゃない、周りには私も、みんなもいるじゃない!!履き違えるな!!私達がアンタを支える!!頼れ!!」

 

 レイラは泣いていた。エリカも泣いていた。

 互いの想いを吐き出したこと、そして互いが何を考えていたのか、考えていてくれたのか、分かったから。

 この場で感傷に浸っている場合ではないことは承知しているが、抑えられなかった。

 

「エリカ……ちゃん。ありがとう……ありがとうね、でも私――」

 

ブゥゥウン!! ブロロロ!!

 

「っ!レイラちゃん!逸見さん!!早く!こっちだ!」

 

「ユウ君!?」

 「ユウ!なんで!?」

 

 人の足ならばこの場からの迅速な退避は難しい。しかし、車両__四駆があるのなら?そうであるのなら幾分かマシである。

 その移動手段を携え現れたのはレイラの車輌を担当する整備科のユウであった。

 

「友達を置いて逃げるわけにはいかない!他のみんなは多分避難できてる!だから二人も早く!!」

 

 ユウが四駆から降り丘の上向かってくる。

 レイラとエリカの二人は危険だからこちらに来るなと言うが、ユウは一目散に二人の方へと走る。

 そのタイミングで、ナハトとシュピーゲルの光線対決が始まった。

 

シュアッ!!――バッ!!

 

《頼むぞ……イグニッション!!》

 

ガァ"アッ!!――バッ!!

 

――――カッッッ!!! バリバリバリバリ!! バチバチバチバチバチ!!

 

 激しい閃光、プラズマ、衝撃波が続け様に発生し、三人は吹き飛ばされるそうになるが、なんとか足に全体重を掛けて踏ん張りを効かせており、辛うじて地面から剥がされてはいなかった。

 

「くぅ……!」

 

「もういいの…行って!エリカちゃん!」

 

「逸見さん、レイラちゃん!」

 

「ユウ、手伝って!レイラを連れ出さなくちゃ!!」

 

「ああ!分かった!」

 

 二人の前に滑り込んできたユウはレイラに肩を貸そうとするが、レイラがユウの腕を払う。それでもとユウはレイラを半ば強引となるが横抱きで持ち上げ、エリカと共に四駆へと急ぎ引き返す。

 

「ユウ君!私の事はいいんだよ!?ユウ君と、エリカちゃんが危ないのに!!」

 

「俺は!……レイラちゃんから貰った優しさを、まだ返せてない!!だから、生きてほしい!俺がその優しさを返しきるまで!!」

 

「……!!」

 

 レイラは先ほどのような抵抗をやめた。エリカの言葉をうけ、そしてユウの告白に近い言葉が決定打となり、レイラの心の内を変えたのだ。眩しい閃光に照らされながら三人は駆ける。

 三人の後ろではナハトが粘り続けている。だがここで限界に近づいてきたようだ。

 

グッ…………!!

 

《光が……足りない……!!!》

 

 ライフゲージの明滅が激しくなっているナハト。体力が底を尽きそうになっており光のエネルギーの放出が不安定となりつつあり、光線対決で徐々に押され気味となる。

 そして、一瞬の緊張の緩みから、一気に圧倒されナハトにシュピーゲルのスペシウム・イグニッションが直撃。丘の頂上に叩きつけられた。

 

ウァアアッ!!――ズズゥウウン!!!!

 

《くっ……そぉ…!》

 

 地面の土を握りしめ拳を作りなんとか踏ん張り意識を繋いでいるナハト――ハジメは歯噛みする。

 光が足りない…ストームとなった今の自分でも、目の前の闇の巨人相手では力不足であることを痛感していた。

 今回ばかりは状況の打破は難しかった。相手は今の自分の鏡であり影のような存在。表裏一体、自身を網羅している存在だ。あと何か一つ…何らかの要因が加われば或いは、とナハトは思う。

 それに…辛うじて動かせる首を斜め後方に向ければ、ハジメの仲間達三人が未だにいた。

 

《こ、今度こそ…万事休す……いや、まだだ!動け、動けよ!ナハト!!俺は諦めてないんだ!動いてくれ!!》

 

 こうなれば、あの三人だけでも助ける、自分を犠牲にしてでも。ハジメはそう決意するが、身体は満身創痍で動かず無防備。相手…シュピーゲルは再び両腕にエネルギーを収束させている。

 

《はああ"あ"ああああああああっ!!!!!!!》

 

 心の中で叫ぶハジメ。まだ抗うのだと、まだ護るのだと、まだ戦うのだと、そんな思いが駆け巡る。

 ここで終わったら、後ろの三人は、学園の仲間達は、家族は、日本は、地球はどうなる?

 体を奮い立たせて巨悪に立ち向かわねば、自身の大切な人々が消えてしまう。

 

ハハハハハ……!

 

「これでお前も終わりだ。ウルトラマンナハト…!!」

 

 闇の巨人と、その横に浮かぶ影法師が嘲笑う。

 シュピーゲルが腕を十字に組み、エネルギーをスパークさせた。

 だがその時、絶望の一歩手前であっても希望への道筋を求め渇望するハジメの叫びに、応える者がいた。

 

――ブォン! ヴォンヴォンヴォンヴォン…!!

 

ガァアアーーーッ!!!

 

――ゴォオッ!!!

 

 極大のファンを回転させるような轟音と共に、青と赤が混ざり合った回転__スパイラル熱線が仰向け状態のナハトの真上ギリギリを通った。狙いはナハトではない。シュピーゲルである。

 その熱線はシュピーゲルのスペシウム・イグニッションと正面からぶつかり、相殺。

 シュピーゲルが一、二歩後退し妨害を加えてきた存在を見定める。

 演習場の最南端…市街地__生実町一丁目側の森林丘陵地に、熱線を撃った張本人が立っていた。

 

ギャォオオオオオオオオン!!!!

 

 空間を振動させるほどの雄叫びを上げ、シュピーゲルを睨み返しているのは、真紅に光る黒い体表を持つ巨木の如き二本の脚で立つ巨龍__バーニングゴジラであった。

 

ゴォオオオオオオーーーーッッ!!

 

『ランス1より司令部!ゴジラ出現を確認!!しかし資料と容姿の差異を確認したため、詳細な観測が必要だと思われる!偵察機の出動を要請する!!』

 

『了解。横田、百里にRF-15MJ(スカウトイーグル)のスクランブルを指令した。ランスチームは上空待機。黒のウルトラマンからの攻撃に注意せよ』

 

 影法師やシュピーゲルも気づけなかったゴジラは、地底からやってきたのだろう。日本列島にも存在している地底空洞や大規模な地下水脈、そして体内炉心の過剰稼働によって生まれる膨大な熱エネルギーを用いた地底掘削潜航法を利用したと思われる。その証拠に、ゴジラの背後には蟻塚のように大きく盛り上がった大地がある。

 

「……アレは、ゴジラ?でもあんな風に赤かったかしら……」

 

「今、あの黒いウルトラマンの光線、防いでくれたんだ…よな?」

 

グルルルルル……ッ!!

 

 なぜゴジラがバーニング形態へと成っているのか。

 それは同じ護国聖獣であるガメラから力を貰い受けたからである。故にこのバーニング形態は暴走状態ではなく、短期的な強化状態なのである。

 …ニセナハト(ババルウ)戦で受けた傷を癒すべく棲家である日本海溝にゴジラは身を潜めていた。先日、そこにオセアニア州より北上してきたガメラが進入し、ゴジラと接触していた。その際にガメラは自身の保有するマナを託し、ゴジラを起こしたのだ。

 星の戦士を手助けしてほしい。そのガメラの頼みに応えて、ゴジラはこうして姿を現した。地球の霊的自然エネルギー__マナを心臓である体内炉心に宿し体を赤焔に包んだ守護神として。

 

「青龍…地の守護者か。構わん!やれシュピーゲル!」

 

……ハアッ!!

 

ギャォオオオーーーーオオオン!!!!

 

 ライフゲージを点滅させ、立ち上がることのできないナハトを尻目に、ゴジラとシュピーゲルの戦いが勃発した。

 光剣と鋭爪によるかち合い。キックと尻尾による打撃の応酬。ここにきてシュピーゲル優位のバランスが崩れたように見えた。

 シュピーゲルは戸惑っていた。シュピーゲルはナハトの力を元に造られた巨人だ。故にハジメ――ナハトが戦った経験のないゴジラに対する情報はゼロであった。要するに敵の動きが読みづらい……ということである。

 

グルルァアッ!!!!

 

グッ……ダアッ!!――ズバッ! ズバッ!!

 

 苛立ちを募らせたシュピーゲルが、一歩踏み込みゴジラに肉薄。ゴジラの腹に×印の痛々しい傷をつける。そこに光弾シュピーゲルブリットを連続で十数発、捻じ込むように命中させ、ゴジラを唸らせる。

 ゴジラには懐に飛び込んできたシュピーゲルを一蹴することが可能な技__"体内放射(インサイドディフュージョン)"があったのだが、付近にはナハト達がいる。辺り構わず、それもバーニング形態で強化された力を使えば、同じ地球を護る者とそこに住まう者達ごと薙ぎ払ってしまうと、ゴジラは察したのだろう。体内放射を繰り出すことはしなかった。

 残された選択肢は体内炉心とマナのエネルギーを融合させ螺旋にして放つ強力無比なスパイラル熱線だった。

 

ゴォオオオ……

 

――ブォン! ヴォンヴォンヴォンヴォン!!!――ゴオウ!!

 

 二度目の熱線発射。その余りにも高いエネルギー投射は、空間を振動させ、更にはプラズマを発生させた。

 これにシュピーゲルは空かさず灰色の光の円壁"シャドーグローリー"を展開し、スパイラル熱線をそのままゴジラへ向け反射させた。

 灼熱の奔流はゴジラの体の中心を捉えた。ゴジラは両の脚で最大限の踏ん張るのだが、先ほど受けたダメージによるものか、それともまだババルウ戦の傷が癒え切ってなかったのか、数秒は耐えたものの敢えなく大地を激震させながら悲痛な咆哮と共に倒れてしまった。

 

グゥゥゥゥ…………

 

「フハハハハ!どうだ、ベーゼウルトラマンの圧倒的な暴力は!!お前たちは絶望の中で生命を捧げる以外に為せることはないのだ!!!」

 

 声高らかに勝利宣言をする影法師。地上で打ちひしがれているだろう人間、巨人、怪獣を見下ろして嘲笑う。

 もう何もできないのだと、不可能なのだというかのように。

 

「ゴジラまでやられた……」

 

「あれが影法師か…!アイツがレイラちゃんを!!くそっ!!」

 

「………まだ。まだ負けてない!あんなヤツにウルトラマンは負けないよ!!」

 

 沈鬱な空気が三人の辺りを支配していた。しかし、レイラが口を開いた時、その空気が一掃された。

 レイラの張りのある声__先ほどのような自暴自棄のそれとは違う、いつも仲間を鼓舞する明るい声だった。レイラの顔にはもう曇りはなかった。

 

「れ、レイラちゃん…?それは……」

 

「アンタまで、隊長やみほみたいに…」

 

 ユウとエリカはレイラを方を見れば、彼女の体全体が金色の光のオーラが宿っておりあらゆるものを照らしている。そう、心の太陽の輝きである。

 

「諦めない……やっと分かったんだ。光、どんなことがあっても絶えない光。悲しいこと、楽しいこと、嫌なこと、嬉しいこと、それはどんな時でも無くならない大切なモノ!!」

 

___そうだ。レイラ。俺も信じた。お前達と共に歩む希望を。信じるから、託す。託すから、信じる……人の本質はそれだ。繋がりの輪廻は、絶対に途切れない――

 

 レイラ、そして彼女から発されている光に当てられているユウとレイラにも、不意に声が聞こえた。穏やかで暖かい男の声が。レイラの父親、薫の声が。

 

「レイラのお父さんの声?」

 

――憎んだり、怒りを覚えるのはいい、だがそれらに囚われるな、己を乗っ取られるな。自分を貫け。お前は一人じゃない。周りには頼りなる仲間がいるじゃないか。だから、頑張れ――

 

 亡き父からの激励の言葉を胸に、レイラは右腕を空へ掲げる。

 

「私はもう引き摺らない!背負っていく!!元気に足を上げて!!だから諦めない!!お願い…ナハト、立って!!!」バッ!

 

 激しい光の稲妻がレイラから飛び出して空へと昇った。それはその勢いのままにナハトへと降り注ぐ。

 そこに、倒れ伏していたバーニングゴジラも手を貸した。ガメラから預かっていたマナから来る地球の熱…真っ赤に燃えるエネルギーを背鰭から放出し、ナハトへと送ったのだ。

 

グゥゥゥ……!

 

 力を出し切り絶命こそしなかったものの、ゴジラの体からは恒常的に輝いていた真紅の光は消え去り元の姿に戻っていた。

 ナハトにゴジラは託した。ガメラの熱血の光と僅かながらも自身の原始の青き光の二つを。

 

「なんだと!?まだこんなにも忌々しい光を残していたのか!!」

 

 狼狽える影法師。シュピーゲルも目の前で繰り広げられている光景を前に指一本動かすことができず、状況の処理を止めてしまっていた。

 

…………ッ!

 

《熱い、光。優しい、光……力がみなぎる。また、戦える…俺は変われる!!》

 

――――カッ!!

 

 

【♪BGM】WANIMA『GONG』

 

 

 ナハトが眩しい光に包まれたかと思えば、さいたま新都心の際と同様に巨大な光球へと変化していた。

 

「馬鹿な。なぜ進化を、覚醒をすることができる!?枝分かれの時点で、不可能になったはず……!なぜお前達は絶望に包まれぬのだ、なぜ闇を恐れぬのだ」

 

「レイラの悲しみはレイラのものだ!!それはアンタのものじゃない!!それに触れようとすることなんて、誰も、誰にもできないのよ!!あの光は、レイラが出したもの。レイラはもう克服した!絶望から逃げることを!絶望と向き合って、希望を見つけて強くなる!こうなったレイラは、無敵なんだから!!」

 

 エリカの言葉に、レイラとユウが強く頷き、影法師を真っ直ぐに見た。エリカ達の揺るぎない気迫に押された影法師がたじろぐ。

 それに合わせるかのように、白く輝いていた光球は、青い稲妻と赤い焔、そして金色の光のオーラを取り込み白球に三色が加わった。絵の具の如く、ぐるぐるとそれらは混ざり合い、輝きが一層増す。

 鮮やかな光の球の輝きは衰えることなく、徐々に鮮やかな光球は人の形を…ナハトの姿へと再び戻った。

 

……………バッ!! ―シュワッ!!

 

《この炎は、生命(いのち)の灯火……これを燃やすから、俺たちは生きていける!!生命の灯火はちょっとやそっとの風では簡単には消せない!!誰にも、この炎は奪えない!!俺が、奪わせない!!》

 

 ナハトは自身を包んでいた光の膜を両腕で振り払うと、その姿を露わにした。

 あたりに火の粉に酷似した爛々とした赤い光の粒子が束となって嵐のようの吹き荒れる。

 

「ナハトがまた、変わった…!」

 

「すごい……」

 

「優しい光だね…」

 

 情熱の炎の力と更なる希望の光を受け取ったナハト。ボディのカラーリングはより一層白と黒、それらの中間色である灰色の境が明確になり、ボディのライン部分には金と赤、青の三色が加わっていた。

 漲る熱い闘志を全面に押し出した、新たな嵐を巻き起こす戦士………ウルトラマンナハト__"バーニングストーム"である。

 

「更なる覚醒を呼び覚ましてしまったとでも言うのか…!ええい…、シュピーゲル、何をやっている!ナハトを叩き潰すのだ!!」

 

 影法師の命に従いシュピーゲルが先手必勝とばかりに空中移動でナハトに掴みかかろうと動く。

 しかしナハトはその動きを理解しているように身を翻してから電光石火の早業でカウンターのゼロ距離光弾をお見舞いした。

 

《視える……シュピーゲルの動きが、悪意の流れが分かる!》

 

 燃え盛る炎を纏った烈火の如き一撃を食らい、シュピーゲルが膝をつく。シュピーゲルは明らかに動揺していた。ゴジラと対面した際よりも。

 ナハトの動きが読めない…と言うよりも理解できないのだ。シュピーゲルが記憶しものにしているのは過去の、これまでのナハトだ。今のナハト、これからのナハトの情報も力を持ち合わせていないわけである。

 

ゼー……ゼーッ……ガァ……!!

 

ピーコンピーコンピーコンピーコン…!

 

 シュピーゲルの胸部にあるライフゲージが赤色から紫色に変わり点滅を開始した。

 光に特効能力を持つ闇も光と表裏一体。ならばその逆も然り。闇のエネルギーが巡るシュピーゲルの体内に原始の火と地球の霊魂と少女の心の太陽から生み出された光が打ち込まれたことによって力を乱されたシュピーゲルが大幅に弱体化したのである。

 

――そうか…身近に希望は在ったんだな。……ウルトラマン…俺の宝物(おもいで)も、使ってくれ――

 

 不意に空から一筋の光が降り、ナハトの右腕__ナハトブレスに宿った。

 その光は亡き薫の願いと祈りであった。薫の声にナハト――ハジメは静かに頷く。

 ナハトは右腕を天高く掲げる。ブレスにあらゆる場所から飛び出してきた光の筋が集まってゆく。

 ブレスのクリスタルが一際強く瞬いた。

 

《ナハトォ、ホーリィー………!》

 

 光を溜め終えたナハトは右腕を体に引き込んだ後に強く前に腕を突き出す。

 

《――スパァァアーーーーク!!!!》

 

――カッ!!

 

 それと同時に、ブレスのクリスタルが煌めき、白黒のプラズマを伴いながらシルバーグレーの光線が発射された。

 シュピーゲルも光線を当てられるまで何もしないといったことはせずに、急ぎスペシウム・イグニッションを放ち対抗する。

 

 

グガァ……ハア"ッ!!

 

 

《影も、闇も包み込んで燃やし尽くす!!…いっけええええええええ!!!!!!》

 

――ハァァァァアーーーーッ!!……ジュアッ!!!

 

 再び光線の激突が始まった。が、しかし、決着はすぐに訪れることとなる。

 ナハトの放った"ナハトホーリースパーク"はシュピーゲルのスペシウム・イグニッションの中心を食い破りながら勢いを減衰させ無効化していく。

 そうして遂にナハトの光線がシュピーゲルに到達した。

 

グァアアアーーーーーッ!?ガアッ!!!

 

――バババババッ! …ドッガァアーーーン!!!

 

「ぐっ、覚えておくのだな…!!ウルトラマンナハト…!!」

 

 様々な想いが加わった光を身に浴び、身体の内外から光を放出し、膨張後爆散した。

 シュピーゲルの破片も、最後は光に還り、この世界から完全に闇の巨人は消え去り、影法師の姿も無くなっていた。

 

ピコンピコンピコンピコンピコン……

 

《みんなのおかげで…シュピーゲルを倒せた》

 

グゥゥ……

 

《ゴジラ…ありがとう。キミから受け取った光の中に、ガメラの力もあった。託しに来てくれたんだろう。キミ達の力が、俺を変えてくれた。救ってくれた。本当にありがとう》

 

 ナハト__ハジメはゴジラに礼を述べ、回復治癒光線のハイレーンガイストを浴びせるのと同時に、ゴジラから受け取った力の一部を返還した。

 受け取った力で動ける活力を再び得ることができたゴジラは、のそりと立ち上がり小さくナハトに吠えた後、自身が地上に出る際の足掛かりとして掘ってきた蟻塚の如き巨大な穴へと消えた。ゴジラが地中へと入るとどういう原理かは不明だが、穴は埋まり地形も綺麗に元通りとなった。

 

ゴォオオオオオオーーーッ!!

 

『――ゴジラ、地中に消失。上空からの追跡は不可能』

 

『了解した。作戦行動は終了。百里の航空隊は帰投せよ。横田のライトニングと入れ替われ。間もなく地上部隊も戦闘後の処理を開始する』

 

『本当に、これで戦闘は終わったのか…』

 

 

 現地の作戦指揮所からは各部隊に撤収命令が発令されていた。航空部隊は引き上げ、地上部隊は負傷、若しくは殉職した隊員らの運搬や処理を開始していた。演習場駐車場区域には陸自衛生科の〈野外救急車〉と〈野外手術システム〉を筆頭に各非戦闘車輌が駆けつけていた。また、演習場出入り口付近には自衛隊、消防、警察車両、避難していた民間人でごった返しており、関係者達はその対応に追われることだろう。

 そして、ゴジラや自衛隊の動きを見ながら、ナハトは空へと発とうとしていた。しかしナハトを呼び止める声が足下からした。ナハトは視線を下に向けると、その声の主が判明した。レイラだった。

 

《!、レイラちゃん》

 

「ナハト!……ごめんね!私が誤解して、ひどいことも言った…本当にごめんなさい!!」

 

《よかった…レイラちゃんも無事だったんだ……。みんなが無事なら、無事だったなら、いいんだ》

 

「ありがとう!!ウルトラマンナハト!!!」

 

 レイラが精一杯大きな声でナハトに礼を言って頭を深く下げた。

 それにナハト__ハジメはゆっくりとサムズアップで応え、背を向けて空へと飛び立った。

 

――シュワッチ!!

 

 その後はエリカ、レイラ、ユウの三人は演習場内を巡回し民間人回収の任に就いていた普通科部隊に保護され、黒森峰の機甲科や整備科が避難している演習場駐車場区域の一角まで運んでもらった。なお、輸送途中にハジメも保護された。無論エリカから拳骨を食らったことは言うまでも無かった。

 

 避難場所で無事レイラ達はまほ達と合流できた。結局、レイラは命令不遵守や危険行動等のお咎めはなしとなったのだが、レイラのパンターG型の乗員である後輩達にたかられ泣きつかれた。元の先輩に戻ったと泣きながら喜んでいる後輩達にも、レイラはナハトに対してしたのと同じように真っ直ぐ謝り、抱擁した。

 

 数時間後、怪獣関連のほとぼりが取り敢えず収まったと大会運営と蝶野教官ら審判団は判断し、夕焼けに染まる演習場前広場にて両チームによる試合終了の挨拶が執り行われた。

 こうして、黒森峰の勝利で波乱の一回戦は終わったのである。

 

 

――――――

 

後日 黒森峰学園艦 艦上市街地 学園寮玄関前

 

 

 

「おばさん、お疲れ様でーす!!」

 

「ああレイラちゃん。ありがとうね、お疲れ様。貴女宛てにお手紙届いてるわよ」

 

「え?私に?」

 

 戦車道の履修時間が無く、学校での授業を終えて寮に戻ってきたレイラ。玄関前で箒を持って掃き出しをしている寮母に挨拶をして、中に入ろうとした際に呼び止められた。

 自分に手紙、というより郵便物は珍しい…とレイラは感じた。それも若干の警戒心を持ちながら自身の名前が貼られたポストを恐る恐る開いた。警戒するのは無理もない。レイラには影法師との接触という前例があるのだ、当然の反応と言える。

 

「……ん、封筒?…紙以外に…何か入ってる…?」

 

 ポストの中には小さな、白い小綺麗な封筒が投函されていた。達筆な字で自分の名前が書かれていた。封筒裏に目をやれば、そこにはレイラの知らない男の名前があった。"栗田 健太郎"…横には海上自衛隊と、佐世保基地の住所が記されていた。

 

(もしかして…パパのことかな?)

 

 手に取り、その場で中身を確かめようと開くレイラ。

 中から引っ張り出したのは一枚の、栗田からレイラに宛てた手紙であった。手書きのそれを読み始めると、栗田という自衛官がレイラの父――薫の部下であると分かった。

 内容としては薫の行動を止めることも、代わってやることのできなかった己に対する不甲斐なさと、残されてしまった側の家族であるレイラへの謝罪から始まり、自衛隊で任務就いている間の薫の…レイラの知らない父親の顔についてを書かれていた。彼が薫をどう思っていたのか、他のクルーから慕われていた、模範となる海自の人間だった、などなどそういった内容まで事細かに書かれていた。栗田なりの誠実さもあったのだろう。レイラには父親である薫のことを知る権利があるのだと。

 

 そして、手紙の最後は下のように締められていた。

 

――艦長の、蕪木二佐が仰っていたお言葉を拝借させていただくならば、『人生は果ての見えない不可視の海であり、不可知の航路だ。』……時に穏やかな海原に入ることもあれば、行手を塞ぐ高い荒波に阻まれることもあるでしょう。

 最後に、これだけはどうか覚えておいてください。あなたの側には、自衛官として、そして父親としても気高き勇気と深い優しさに満ち溢れた方がいつも見守っていることを。

 蕪木レイラさん。あなたのこれからの人生が幸多いことを心から願います。

 

追記 封筒内に蕪木二佐が息女であるあなたに渡そうとし私に託したものが入っております。大事になさってください。――

 

「……託したもの…あっ!」

 

 手紙を読み終えたレイラは、封筒を逆さにして何度か上下させると、中からこぼれてきたのは、小さなキーホルダーであった。

 赤い方針が上__空を真っ直ぐ向き差している、極小で球状の羅針盤だった。

 

 

――羅針盤はな、いつも進むべき道を指し示してくれる、船乗りを導く御守りという側面もあったんだ――

 

 

 空を指すこの小さな羅針盤は、自分の未来と今後の姿勢を示してくれる、大切なものであるとレイラは確信した。薫が最期の時までレイラのことを忘れないでいたことも分かった。

 

「あら…レイラちゃん、泣いてるの?もしかして何か変な手紙でも来たの?」

 

「……うぅ…違う、違うの……これは、そんな涙じゃなくて……」

 

 学園艦の片隅で、レイラは静かに泣いていた。

 …以前と違うのは、彼女が今流している涙はきっと、前へと進むための活力になるものであるという点だろう。

 命ある限り、生きていれば掴めるモノもあるはずだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……微量ながらゴジラがいた地点から放射線が検知されました。人体や環境に有害なレベルまでには至ってはいませんが、これはやはり…』

『以前の推測通り、ゴジラは生きた核融合炉ということね。他には、何かあった?』

『生総研の開発室の千葉先生から連絡が。今回の件は子供たちは予期できなかったとのことですが、今後に起こる新しい事象の予知が始まったそうです』

『どんな予知夢を、子供たちは見ているのか、分かるかしら…?』

 

 

『ワームホールらしき穴から飛び出す緑の巨人と、空を割って現れる怪獣のイラストがいまのところ多いらしいです。……それと子供達の口からは、新たな勇者が大地に立つと…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 どうも。夏の暑さと豪雨と戦う投稿者のレッドです。
 これでレイラちゃん関連の連続回は終わりです。うちんとこのゴジラさんは加減が上手いので放射熱線による汚染はかなり低減してくれます。
 これでハジメ君は三大護国聖獣とすべてと対面しましたね。
 
 原作アニメ編もおよほ残り二十数話となり、本作の1期の終わりが見えて参りました。これからもどうか逸見エリカのヒーローをよろしくお願いします。

海に関する歌っていったら…コレですよねってことで、今回の選曲はこうなりました。実は「ともに」にするか迷ったりしました。

 最近描いたシュピーゲル君です。よければ見てください。
ベーゼウルトラマンシュピーゲル イメージ

【挿絵表示】


_________

 次回
 予告

 みほ率いる大洗女子学園が大会一回戦、サンダースを下した翌日の夜。
 茨城県内の航空自衛隊霞ヶ浦分屯基地、そして首都防空の要とも言われる百里基地が正体不明の敵対的勢力から放たれたミサイル攻撃による奇襲を受けた!
 謎の勢力による攻撃の調査は難航する中、そこには何やら動く影があった…。

 話は変わり、さらにその翌日、エリカやハジメ達は件の茨城県の大洗町に立っていた。大洗の一回戦後のドタバタ__冷泉麻子の祖母、おばぁこと久子が倒れた際に麻子を助けたことから、呼ばれたのであった。

 しかし、久子と対面し雑談を交えるエリカ達の前に、なんと影法師が現れる!!

「お前、今度は何するつもりだい!」

 なにやら、おばぁは影法師を知っており…?


 次回!ウルトラマンナハト、
【おばぁは強し】!



 
 

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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