ミサイル超獣 ベロクロン、登場。
7月24日金曜日 日本時間深夜01:25
東アジア 日本国関東地方 茨城県小美玉市
航空自衛隊百里基地
ゴォオオオオーーーッ!!!
『管制、こちらシエル1。基地への着陸許可を求む』
『シエル1、基地滑走路への着陸を許可する』
関東地方、ひいては首都圏防衛の要である航空自衛隊基地の一つ__百里基地。これまで幾度も特殊生物出現の度に戦闘機を空に上げてきた。
当基地は中部航空方面隊隷下の第7航空団とその航空団所属であるF-2戦闘機部隊__第3飛行隊と第309飛行隊の二個飛行隊を有している。
現在、この基地の飛行隊のもっぱらの任務は茨城、千葉の上空警戒である。ワームホール…"
「……お、バイパーがまた帰ってきましたよ先輩」
「そーだなぁ。パイロットの士官さん達は大変だろうな」
基地格納庫横にて待機しているのは、基地業務群施設隊の消防小隊である。滑走路、若しくは基地敷地内での火災が発生した際に動く部隊である。つまるところ、自衛隊お抱えの専用消防隊なのだ。
火災等は滅多に起こるものではないため、彼らの仕事は今のところ無い。逆に仕事…消火作業が多ければ喜ぶのかと言えば勿論そうではない。
「もう戦車道も夏季大会やめましょうって。防衛力の分散は愚の骨頂じゃないすか。現に陸自はまた死者出してますし」
「逆に毎回毎回タイミングと場所が悪すぎるだけだ。そう言ってやるな」
「この24時間交代の警戒飛行なんて、もう…。怪獣出たって即攻撃は今だってまだ難しいのに…」
「そうは言ってもだな、飛ばさなくちゃいけない姿勢と理由があるんだよ」
彼ら消防隊も、飛行隊の24時間の警戒飛行体制に伴い、数時間毎に離着陸する戦闘機のいざという場面に備えて長い時間待機していた。
上のようなボヤきが出るのも必然なのかもしれない。
「だいたいこっち側の兵器が通用してるのかも分からないじゃないですか。自分、同期の友人がいるんすよ陸自の方に……そいつのこと考えると、一刻も早く現場の問題やら不備やらを無くしてほしいって思うんす」
「そうか……」
数台の〈II型救難消防車〉が並ぶ場所で深夜の眠気を吹き飛ばすための缶コーヒーを片手に会話する消防小隊員。
話の途中で若い隊員が空を見上げて深呼吸していたら、
――――ピシッ…!
「はぁ………………ん?」
「どうした?」
「先輩…美島サン、あれ、あそこの空、変じゃないすか?」
「?……空がか?」
若い隊員が指差している空のある一点を、目を細めて探す先輩の美島。
半信半疑だったが、わけの分からないことを放置するのも気分が良くなかったのか、なんとか見つけることに成功する。たしかに若年隊員が言っているように、空の一点に何か違和感を感じた。
「まるでヒビだな……」
「ですよね!ありますよね!なんなんすか、アレ」
「分からん…取り敢えず見間違いでもいいから、管制と司令部に連絡を――」
美島が肩に付いている無線機を手にしようとした時、件の空に明らかな異変が起こった。
ピシピシッ!……ピキッ! ガッシャァアーーーーン!!!!
そして、ひび割れた空の中には、星空は無く、その代わりに綺麗さのカケラも無い真紅の歪な空間…裂け目が広がっているらしかった。
「なんだあれは…!?新しい未確認の"穴"なのか!?」
「美島サン!ここから退避しましょう!ここはアレとの距離が近すぎます!!これまでの経験上、アレから出てくるのは怪獣やら宇宙人じゃないですか!!」
管制塔や基地の各区画でも同様に滑走路上空の異変を察知できていたようで、すぐに非常事態を知らせるサイレンが基地内に響き出した。スクランブル指令も出たようで、交代のために待機していたF-2のパイロット達が続々と格納庫へと走っているのが遠目からでも分かった。
そして、その真紅の空間からは赤い煙が妖しく漂っており、一種のスモッグのようであった。そんな不透明なスモッグの中に、緑色の一対の眼が数瞬、垣間見えた。
「こっちを覗いてる……覗いてますよ!アレ!」
「特殊生物なのか…!」
詳細不明のゲートより現れる存在はこれまで怪獣や宇宙人だった。
しかし、今回先陣を切って真紅の向こう側から顔を出してきたのは、大量の
ヒュゥウーーーーー!!!!
「誘導弾……ッ!!」
「お前ら、伏せろォオオ!!!」
ドォオオオオオオーーーーンッ!!!
美島が消防小隊の隊員らが伏せるよう動こうした時には、ミサイルは基地内の至る所に着弾した。
爆発とそれにより発生する轟音と閃光。基地全体がミサイルの波状攻撃を受けているようだった。
ヒュゥウーーーーーン……ドドドォオオン…!!
ヒュゥウーーーーーン……ドドドォオオン…!!
「こいつぁいったい…!?」
「ミサイル…すけど、特殊生物の仕業っすよね…?」
隊員二人がコンクリートの地面に伏せ、顔を上げて基地全体の様子を確認した。
基地のあちらこちらから火の手が上がっており、至る所が赤橙に照らされていた。
基地の管制塔はガラスが割れ倒壊寸前。格納庫の上層には大きく穴が空き、そこから炎が絶えず揺らめいている。燃料区画にも満遍なくミサイルが降り注いだようで、物凄い勢いで火の手が増していた。そして格納庫の内外、滑走路前を問わず駐機されていた航空機の殆どが軒並み誘導弾による空爆によって破壊し尽くされていた。
消防隊である彼らには、どこから手をつけなければいけないのか分からなかった。今の状況が想定されている被害の規模を軽く超えているのだ。
「おい、そこの二人!!無事か!!」
「地下に退避するぞ!」
「攻撃の詳細は!?――ドォオオン!!――っ、ミサイルが降ってきているが何が起こっている!?」
「空に"穴"があるんだから、豪州連合じゃないっすよね!?」
勢いは衰えてきてはいるが未だ付近にミサイルが着弾している中、掻き消されないよう大声で事の詳細を訪ねる隊員。二人の下に来た他の隊員らも状況をイマイチ把握できていないらしい。
「分からない!敵は基地全体にミサイル攻撃を加えてきている!!基地の上空は見ての通り"穴"で囲まれていて、駐機中の機体も殆どやられた!!」
「街への被害は!!」
「確認されていない!」
「滑走路が潰され、高射隊も沈黙してる。地上でやれることは無い!!ここも更地にされる前に退避しよう!!」
「攻撃に晒されている中での消火活動は危険すぎる!」
「これから、特殊生物の来襲もあるかもしれない!」
「今はそうするしかないのか…っ!!」
「防空指揮所を含めた、地下施設群は生きている!急げ!!」
攻撃を掻い潜り、なんとか動ける基地内の人間は地下施設への一時退避と、他の基地への連絡を取るという二つの行動をとるのであった。
正体不明の敵の攻撃を受けた百里基地。しかし、奇襲攻撃を受けたのは、ここだけではなかった。
_________
同時刻
同県土浦市 航空自衛隊霞ヶ浦分屯基地
陸上自衛隊霞ヶ浦駐屯地
上空
バラバラバラバラッ!!
『こ、こちらは笑顔テレビ現地報道斑の増子美代です!現在、土浦市上空より生中継でお送りしておりますが…これはヒドイ様相です……自衛隊基地が突如このような状態に、まるで襲撃されたかのように基地敷地内で爆発、炎上していて……立ち昇っている煙もすごい量です!』
霞ヶ浦上空にはマスコミの報道ヘリが集まっていた。如何なる勢力にせよ、自衛隊の基地・駐屯地が直接的な攻撃を受けたのは自衛隊結成から初めてのことである。それも敵の姿が判明していないことも重なり、さらに事態の全貌が掴み辛くなっていた。
『……これが事故なわけありません…!一旦、中継はここで切ります!現場より、増子美代でした!!』
百里と霞ヶ浦の自衛隊拠点が深夜に同時攻撃を受け、その運用能力をほぼ無くしたという事実は日本政府と自衛隊、そして関東に住む国民を震撼させるには十分であった。深夜に起こったそれは正に人々にとって寝耳に水のような出来事だったのである。見えない敵による侵略行為に他ならない。
「クククク……フハハハハハ!これで下準備は終わった。今度こそ如何に己が無力か、味わうといい…ウルトラマンナハト…!!」
霞ヶ浦から少し外れの空の上。黒紫の装束を纏い、フードを羽織っている者…影法師が浮いていた。
この自衛隊の拠点襲撃にどうやら噛んでいるようだ。
「人類も我らの力を恐れるだろう…ハハハハハ!!」
眼下の惨状を見て笑う影法師。影法師は気づいていなかった。
こちらの存在を許さず斬り伏せんとする"影"が飛び交っていることを。
――シュバッ!! ――バッ!――ババ!
「む…!?何者だ貴様ら!!我らに楯突く気か!!」
影法師が異変に気づいた頃には、無数の影達が影法師を取り囲んでいた。
影達には、闇夜を照らし映す一対の目があり、そのすべてが影法師を睨みつけていた。
「…ウルトラマンではないな……。その力、もしや怪獣か……?」
「――我らは"ハザマ"。世界のため、命を散らす覚悟を持つシノビの軍団なり」
他の影と比べて二回り程大きい影が、自分らの存在を語った。
"ハザマ"と名乗った影達…シノビ軍団は、各々が刀を抜刀、若しくは巻物等を取り出し、影法師に襲いかかる。
「シノビ……ハザマ…?知らぬな。お前達は邪魔だ、消えろ!」
「ここで其方を牢獄へ封じさせてもらう!……怒流牙忍法!次元隠しの術!!」
「むぅっ!?」
頭領格の影が、自身と同サイズの巻物を取り出し大技を繰り出した。白い稲妻が影法師に直撃……したかに思えた。
影法師は先ほどまでは強気ではあったものの、状況が自身に不利であると悟っていたらしい。夜空に稲妻が駆け登っていった後、影法師は姿を消していた。
「……逃してしまったか…。ならば炙り出すまで。シノビ達よ、散れ!紫坊の捜索に掛かるのだ!見つけ次第斬り伏せて構わん!!行け!!」
「「「御意!!」」」
頭領格の影の命により、他の影達が地上へと四方八方に散らばり、人目につかないように素早く降下を始めた。
「奴はなんとしてでも打ち倒さねば…!
頭領格の影も、疾風の如くすぐさま姿を消す。
その際ほんの刹那、風貌が明らかになる。
その影…シノビは、深緑の肉体を持ち、紅色の襟巻きをたなびかせていた。
_________
茨城県内自衛隊拠点並びに施設奇襲より数十分後
関東地方 東京都新宿区 市ヶ谷
防衛省
「――少なくともF-2が26機、その他の航空機も8割強が大破、若しくは完全に破壊されました……。また、土浦の陸自駐屯地も機甲戦力を筆頭に、大幅に減らされたとのことで…現在救助・消火活動を進めつつ、詳しい情報を収集している最中です」
「中部方面の各基地、
「…庁舎等にも空爆があったようで、非番の隊員らからもかなりの死傷者が出ています」
「マスコミもヘリを出して騒いでいます」
「施設…特に土浦に新設されていたレーダサイト群が潰されたのも痛いです。東部方面の索敵網の範囲が大幅に縮小を余儀なくされましたので…」
「そうか……。東北方面の部隊も組み入れて構わない。百里基地は今後数週間沈黙する。特殊生物もそうだが、太平洋でまた騒ぎ出した豪州連合軍のこともある。入間と横田のテコ入れが今は必要だ。最大限の警戒を持って頼むぞ」
「「っは!!」」
防衛省内は蜂の巣を突いたような騒ぎとなっていた。
関東の防衛網にポッカリと、いきなり穴が空くというのはあってはならない。防衛大臣である戸崎はこれらの襲撃事件に関する記者会見を設けるよりも先に関係各所に連絡を入れ、各部隊の臨時配置等を指示し、関東__首都圏防衛の空白を埋めるよう努めることとした。
「千葉の次は茨城か…。東日本太平洋側の広域をカバーする第7航空団が軒並みやられたのは痛恨の極みだ…二個飛行隊も壊滅……そしてなによりこれ以上の殉職者が出ることは許せん…!」
翌日早朝、襲撃を受けた二拠点の現場検証が防衛省の技研と、日本生類総合研究所__生総研によって行われることとなる。
しかし、今回の奇襲攻撃に使われたミサイルの残骸のみが唯一のカギであり、精々判明したことと言えば、あらゆる国家、企業の規格の__さらには一部のものは全く未知の材質でどこのものとも照合できない不気味な代物も混じっていた___ミサイルが使用されていて仮に仕掛けた勢力が豪州や中国といった敵対的国家であるとしても犯人の断定は不可能であることのみだった。
新型の"穴"の目撃により襲撃犯の正体が、特殊生物もしくは異星人だとする可能性が高くなりはしたが、何分奇襲前後に"穴"の発生を各地のレーダーサイトが探知・捕捉できていなかったがためにまだ推測の域を出なかった。
自衛隊は生総研と協力し、多角的な調査に乗り出す必要があった。
_________
7月25日土曜日 日本時間10:06
関東地方 茨城県大洗町 大洗海岸病院 正門前
「この病院にあの娘の、冷泉さんのお婆様がいるんだな」
「そうですね。ここの二階の206号室らしいです。……でもいいんですか?冷たいこと言うのもあれですけど知波単戦、一回戦からまだ二日しか経ってないですよ?またあんなことがあったのに……」
自衛隊拠点の襲撃があった日の翌日、ハジメとエリカ、まほの三人は大洗にいた。最寄りの学園艦停泊地である茨城港には黒森峰の学園艦は見当たらない。
今回、大洗にはエリカの操縦する
「二回戦は一回戦から七日後だから、日程の変更がなければ29ね。整備の方はアンタ達が頑張ってくれたから間に合うわよ」
「そこじゃなくてさぁ…この中だとエリさんが一番心配だよ…黒いウルトラマンの、シュピーゲル?…とかいうやつのあんな近くにいたんだから」
なぜ三人が大洗にいるのか。それは昨日のみほ率いる大洗女子とケイ率いるサンダース大附属の試合後の話にまで遡ることになる。
サンダースとの試合を終えたみほ達は帰路に就くのみであったのだが、試合会場で迎えの連絡船等を待っている間に、みほの指揮するⅣ号戦車――あんこうチームの一人、操縦手の冷泉麻子の身内…唯一の家族である祖母の久子が倒れたとの連絡が本土病院__地元の大洗海岸病院より受けた。祖母久子の病状を案じた麻子が泳いででも大洗に行くと言うほどに追い込まれ焦っていた。
「アンタも毎度毎度おんなじくらい危険な目に遭ってるでしょーが。私は大丈夫よ。レイラの方も安定してるって。昨日から熊本の方でお父さんのお墓参りにユウと一緒に行ってるわ。私も……なんていうか、その、慣れちゃったっていうのかしら…?」
「そっか。……精神が図太いんだね、エリさんは…」
「はぁ?何が太いですってぇ?それに人のこと言えた立場じゃないでしょうがこのバカジメ〜!!」グリグリ~!
「うぁああああ!?!?」
「やれやれだな…」
そこに現れたのが試合を観戦しに来ていたまほとエリカであった。まほとしては、妹であるみほが目指していた戦車道と、彼女の背中が重なったこと、そしてその妹の友人が困っているのが分かると放ってはおけなかったのだ。あんこうチームに声を掛けたまほはエリカに無理を通して頼み__しかしエリカも手助けに賛同していたためここでもまた史実より穏便に__ドラッヘを用いて空路で麻子を海岸病院まで送り届けたのだ。
送り届けた後、久子本人から孫の我儘に付き合ってくれた人間にしっかり顔を合わせて礼を言いたいとたっての願いもあり、二人がそれを快諾し本日大洗に赴いた次第である。
「イテテ……ていうか、なんで俺も連れてきたの?俺、直接的にも間接的にも何もしてないし関わってないんだけど…」
「もう毎度のことでしょ、ハジメが無茶するの。アンタ、放っとくと安心できないから。特に最近はね」
「う……何も言い返せない」
痛いところを突かれたハジメは、苦しい顔でエリカを見る。右横腹を無意識に摩りながら。
そこで甘く接しないのがエリカだ。さらに彼女は続ける。
「そこまでやらないといけないレベルに来てんのよ!アンタ、知波単の時もまた傷だらけで戻ってきて…!何をどうしたらあんな風になるんだか!」
「(あれだけ激しい戦いがあったらね…)」ボソッ…
「……? 私達も十分あれだが、ハジメ君は私達以上に危ない橋を渡っていると私は思う。今日は午後からオフであったのに、申し訳ない。そこは謝ろう」
病院の正門近くで立ち話を続けてもなんだと、まほは玄関口にそろそろ向かうよう二人にも促した。
「……!、今の少年、
「ああ。この次元に存在するとされる、星の戦士…"うるとらまん"と言う者なのだろう…。"ユキムラ"様に言伝せねば」
病院の正門の陰にいた不明瞭なモノ達。彼らはハジメを認知すると、その姿まで看破していた。
ハジメがウルトラマンナハトであることを確認した彼らは、すぐ周囲の物体より生まれている影の中に消えた。
「俺はどんな顔で部屋に入ればいいんだろうか」
「エリカの同伴者です、と言ったりすればいいんじゃないか?」
「ちょっ!?隊長、それは…!」
「ん、二人とも満更でもなさそうだが?」
この会話の後、一同は総合受付にてアポの確認をとってもらい通されると、階段を登って久子のいる206号室を目指す。
二階に到着し、一本の廊下を進み206号室前に立つ三人。中からは小さいが会話が途切れ途切れに聞こえる。部屋番号の下のパネルに、名前の記された札は一枚のみであり、"冷泉久子"とあることから、部屋の間違いはないようだ。
意を決して、エリカが代表して横開きのドアをノックする。
コンコンコン!
「――どうぞ!」
年配の女性の声で返事が返ってきた。それを確認したエリカがゆっくりと扉を開ける。
病室内には、目の前…扉側にみほ、華、沙織、優花里が立っており、部屋の最奥である窓際の病床には久子だろう女性が長座している。そしてその横には麻子が寄り添っていた。
「失礼します。黒森峰学園から来ました、逸見エリカです」
「同じく、西住まほです」
「えっと…二人と同じ黒森峰の嵐 初です…失礼します」
三人は入室しつつ、久子に自己紹介をしてそれぞれ会釈した。
久子はそんな風に畏まる必要も無いと言う。孫である麻子の我儘に巻き込んでしまったから、お礼を言わなくちゃならないのはこちら側だと。
「あんたら、熊本の学生さんだろう?遠路はるばるありがとうね。こんな老いぼれのところに来てもらって」
「いえ。そんなことはありません。私達は自分の心に恥じない行動を、目指した戦車道だと思う行動をとった結果です」
そう話したまほは、みほの方へ視線を移しながら穏やかな笑みを浮かべていた。目の合ったみほも、それにはにかんで応える。エリカとハジメを二人の無言のやりとりを見て大層安心したように笑顔になる。もうこの姉妹…引いてはエリカ達幼馴染間での軋轢と呼べるものが徐々に取り除かれつつある証でもあるのだろう。
「そうかい。そう言ってもらえるとこっちの肩の荷も少しは軽くなるよ。ほら、あんたも礼言いな!こっちの友達だけじゃなく他校の友達にも迷惑掛けたんだろう!?」
「ゔ…分かってるから、おばぁは落ち着いて…。またそんな風に大声で話してると血圧上がる…」
「うっさいねえ!礼を言うのが先だろ!」
「……その…ありがとう、ございました…」
麻子から搾り出されるように出た礼の言葉は、たしかに二人…いや、三人には伝わったようだ。この話題に関わっていないハジメはどんな風な顔をしたらいいか半ば分からなかったのだが。
「私達のことは気にしなくていい。とにかく、そちらのお婆様が元気そうで良かった」
「そうですね。……でも友達判定で、いいのかしら…?前回大洗に来た時と抽選会・喫茶店での交流はあったけれど…」
「いいんだよ?だってお姉ちゃんは私のお姉ちゃんだし、エリカさんとハジメ君は私の友達なんだから、ここにいる皆んなとはとっくに友達だよ!ねぇ、みんな?」
「そうですね!」
「私もそう思います」
「私も私も!!」
「…うん」
「あっとぉ…俺はどこらへんから話入れたりするのかな…?」
「ん?そういや、あんたはなんでここに来たんだい?」
適度に笑いもある空間だった。史実とは違う、久子に顔を出したのは麻子にとって恩人とも言える二人、黒森峰のまほとエリカ、そしてハジメがいる病室は違和感がまったくなかった。
それほどまで、大洗陣営と黒森峰陣営の和解…というより誤解や相違が史実より早く緩和されていたのだろう。仮に黒森峰陣営、特にエリカがまだみほに良くない感情をこの時点で持っていたならば、この場は地獄のように嫌な空間になっていたはずである。
「なるほどねぇ。やんちゃし過ぎて幼馴染のその娘に手綱を握られているわけだ。やんちゃするのは勝手だけどね、女を心配させるのは感心しないね!」
「…そ、そうかもしれないですね……スイマセン……」
「おばぁがそれを言うのか…?」
ハジメが同行している理由を知った久子は、半分説教半分恋話を説いた。ハジメにとっては耳が痛い話であった。他人に心配させる、迷惑をかける行為をしていることは、ハジメも理解しているからだ。女性から、女性の本音を聞いたから、というのもあるかもしれない。
「――そこの、まほちゃんはみほちゃんの姉なんだろう?あの西住の娘らとこうして話すことになるとは思わなかったよ」
「私は……この娘の姉として振る舞えているのか、分かりません…」
「…あのね、家族は役回りじゃないよ。振る舞うとか見せるとか、ズレてるねぇ。あんたがあんたなりに頑張ってるなら、それを続ければいいんだ。ありのままに進むといいよ。老い先短い老人の戯言だけどね」
「そんな……ありがたいお言葉です。ありがとうございます」
「……それに、こっからの主役は、あんた達若者だ。何も出来ず、遺してやれなかった老人のあたしらにぺこぺこと頭下げたり、顔色伺わなくたっていいんだよ。余計な苦労はしなくたっていいのさ」
久子の口から述べられるものは、関心するものが多かった。まほとエリカ、ハジメ、あんこうの各メンバーも相槌を打ちながら熱心に久子の話を聞いていた。分からないこと、悩み事などがあればそれを打ち明け、久子が自分が思う答えを教えてくれる、談話会場と病室内は化していた。
久子の先人としての言葉がそれほどまでに説得力があり、ありがたいもので、知見を広げる助けになるものだったのだろう。
「――
「おばぁ、その話はいいから…。事故を起こした相手もその事故のせいでもうこの世にいないんだから」
「わたしゃなにも死人を捌け口にしようとしてるわけでもないさね。あれは、事故じゃない。ただそれだけ。それだけは分かるんだよ」
久子の目の色、雰囲気が明らかに変わっていた。
麻子の両親も、この場にいないレイラ……の母親と同じように交通事故によって他界していた。
ハジメ、エリカ達――今の高校生達は中学生の頃、日本全国で交通安全教育を例年よりも多く実施していたためもあり、他の世代よりも交通事故に敏感である。
「"関東交通事故頻出期"の……。冷泉さ…麻子さんのお父さんとお母さんも、巻き込まれていたんだ…それも中学の時に……」
「私は麻子と付き合いは長いけど、やっぱり麻子の一人暮らしを見てると危なっかしいっていうかね?だからおばあちゃんには、退院したら本土のおうちじゃなくて学園艦で麻子と一緒に過ごしてほしいって言ってるんだけどね」
およそ4、5年前の当時に何故、各自治体が交通安全教育にそれほどまでに力を入れていたのか?
それは関東圏での異常なまでの人身事故発生数から来たものだった。どの事故の証言や現場検証でも、必ずオカルト染みたもの――紫色の強烈な突風や、事故現場に立つローブを羽織った怪しげな老人の話――に行き着き、さらには容疑者は皆、事故の後遺症等によってすぐに必ず死亡する…といったことが続いた。事故防止策をいくら警察庁や関東地方自治体が打ち出し実行しようとも、夏季の交通事故の発生件数は右上がりに上昇……逆効果だとでも言うかのように収まりがつかなかった。
「へん!あたしは地に足つけて生活する方がいいんだよ!大体、学園艦に移住するのは大洗の家を捨てるのと同義だろう?海里生まれの人達のように学園艦が廃校になった時の面倒事を抱えるのは嫌だねあたしは。最近なんかは宇宙人やら怪獣やらよく分からん化け物が海からも空からも出るようになってきたしね。沈められて海の藻屑になるのはまっぴらさ。それこそあたしはアンタ達の方が心配だと思っとるよ」
「だけど、私はおばぁが心配だ…。おばぁの気持ちも分かるけど、また倒れたりして、今度人が見つけてくれなかったら…だから、一緒に過ごそう?」
しかしながら、秋季に入ると最初から何も無かったかのように事故の発生がめっきり減り落ち着いたのである。その次の年の夏季もまた事故の再増加が懸念されたが、杞憂に終わった。結局、関東圏で発生した連続交通事故は何がどうして起こったものなのか、起こるべくして起こったのか、何も分からないまま一連の出来事は終息し、次第に人々の記憶から薄れていったのである。
「馬鹿言ってんじゃないよ!あんたはもう16で、独り立ちの準備をする歳だろう!こんな老い先短いババアのことなんて放って、もっと自分の将来のこと考えないかい!?」
「おばぁ!声を抑えて…また血圧上がる……。あとそんなこと言わないでほしい…それにみんなの前だから……」
麻子が久子を穏やかに諭そうするも、逆にそれを跳ね除けて説教を説く久子。このやりとりが何回か続く。麻子が物心ついてから、何百、何千とやってきたやりとりに違いない。なんだかんだ言って、久子は満更でもなさそうだった。眉間に皺を寄せた嫌そうな顔の中に、孫のことを想っての小さな微笑みの片鱗が垣間見えるのは気のせいではないと思われる。
「――あとね、そこの綺麗な銀髪の…エリカちゃんだったかい?」
「は、はい!そうです!」
突然話を、自分について振られたエリカは、若干声を上擦らせながらも返事をした。目と目が合った瞬間、エリカは久子の鋭い視線に晒され、緊張で肩に力が入る。
しかしすぐに久子の眼力は緩んだ。目頭に皺が集まり、優しげな笑顔になる。何かを咎めようということではないようだ。
「自分の想い人は離さないようにしてやんな。そこの子は特にあんたが見てやんないと、本当にどこかにぶら〜っと行っちまいそうだからね」
「えっ……あ、わ、分かりました!!」
久子からの、エリカへの応援…激励であった。言葉の真意を知ったエリカは赤面しながらもお礼を言い、まほやみほは暖かく見守り、恋愛についてだと理解した沙織はエリカ以上に顔を真っ赤にして額からは湯気が立っていた。一人、ハジメだけはキョトンとしていたが…。
「そっちの坊やも、可愛い幼馴染は大切にしなよ!」
「! は、はいっ!!」
「……ふう。ま、若いうちは何事も経験と失敗をたくさんしな!最近じゃあんたたちみたいなのを"あおはる"っていうんだろう?」
「おばぁ?どうやってそんな言葉知ったんだ…?」
「いつも家ん中でボケてると思ったら大間違いだよ」
老人の知恵の蓄積、恐るべし。ただただ年をとっているだけではないのだ。
病室内にいる何人かからは、クスクスと笑い声が聞こえてくる。
大洗側の人間ではない、エリカ達にとってもこの空間の雰囲気はまったく苦では無かった。話にまた花が咲くかと思えた。
紫色の突風が病室内に吹き荒れるまでは。
ビュゥウオオオオオオ!!!
「きゃーっ!!」
「うおっ!?」
「なに?なんで屋内に風が!?」
「そんなに外の風は強くなかったよ!?」
「クククク……ハハハハハ!ハハハハハ!!」
「…………なっ!!お前は……影法師ッ!!」
部屋の端に、影法師は立っていた。不気味な笑みを浮かべ、笑いながら。
目を見開くハジメ達。なぜ、こんなところに影法師が来たのか。それは影法師自身に聞かねば分かるまい。
「あなたは……」
「あー!前に見た紫幽霊!!」
「西住殿と駒凪殿の時に悪事を働いていた方ですね!?」
「あまりは状況はよくないようですね…」
みほ達あんこうチームも、一度影法師に遭遇している。大洗にてヒカルとみほが再会した時だ。
当時、影法師はヒカルの抱えていた負の感情の力__マイナスエネルギーを悪用し、トライリベンジャーを生み出した。
悪者であることはとうに知っているためか、全員の目が険しくなり、影法師の一挙手一投足に警戒する。
「なぜ影法師がここに…」
「今回は何の用だ!」
「なんでアンタが――」
影法師と何度も出くわし、その都度命の危機に陥ってきた――因縁浅からぬ――黒森峰側の三人は、麻子と久子、あんこうチームの前に庇うように立つ。
エリカが、影法師に対して振り絞って出した問いが途中で何者かに遮られる。それは久子だった。
「お前、今度は何するつもりだい!」
「お、おばぁ…?」
影法師を目の敵にしている凄まじい剣幕だった。
さきに麻子から血圧云々で宥められたとは思えないほど敵意剥き出しで目を見開き、影法師に今にも噛み付かんとする勢いである。それほどまでに、恨みか何かを久子は影法師に持っているのだろう。
麻子は目の前の怪異よりも、自分を叱る時以上の祖母の怒声に困惑していた。
「久子さん!奴を知ってるんですか!?」
「ああ知ってるともさ…!!あの怪僧のことなぞ忘れるものかい!!あいつはね、
「「「えっ!?」」」
「お、お父さんと、お母さんを…?でもおばぁ、事故を起こしたのは、トラックの……」
「違うよ麻子!!罪のない人間を殺しの道具として無理やり差し向けたんだよ!あたしゃ見たんだ。他の人間には見えなかったらしいけどね、こいつが二人の葬式の日に家の前で嘲笑っているのを!!」
「!?」
久子の口からは衝撃的な事実が飛び出した。これまで麻子は、両親の事故死と関わりのある話を何一つ久子からはされていなかったことが驚きに拍車を掛けた。
当然かもしれない。側から聞けば、突拍子もないおかしな話にも聞こえるからだ。それに、幼い麻子のことを考えてだろう。久子は長年この事実を打ち明けなかったのだ。
周りのメンバーも、話の飛躍に追いつけていないようだが、それでも久子は続ける。
「みんなみんなアレは本当に不運な事故だったと言っていた。だが違う!麻子、あんたにも黙っていたけれどね、さっきあたしが言ったことは真実だよ。こいつは、葬式の日、あんたすらも狙っていたのさ!」
交通事故により他界した麻子の両親の葬式。その日、玄関先に立ち家に上がってくる参列者に挨拶をしていた久子は見たのである。フード越しにでも分かる、葬式を執り行う家の前ではしないような不気味な笑みを浮かべる存在を。
「これ以上、麻子から何も奪わせないよ!!あたしの命に代えても!!」
数年の時を経て、再び久子の前に現れた影法師の悪意から、病床からヨロヨロとではあるが立ち、麻子を守ろうとする久子。
体こそ万全ではないものの、その目は死んではいなかった。意地でも麻子にだけは触れさせない。そんな意志が伝わってくる。
「老いぼれが……愚かだな。此度、我らがこの場に訪れた目的はその哀れな小娘の命を得るためではない。お前だ!」
影法師が久子に向けて指を差す。それがどうしたと一蹴する態度で久子が返す。
「あたしかい?馬鹿言ってんのはあんたの方だね。こんな老いぼれを狙ったって意味なんかないよ!!」
「それはお前が決めることではない。クククク…お前を骸に変えれば、その小娘から膨大な負の力を得ることができるだろう……だからこの時機に来たのだ。見積もりに少々の誤算はあったが、お前が碌に身動きの取れないこの時を狙った」
「ここで直接やるのかい?ただでは死なないよ、私は」
「だから愚かだと行っている。我らは直接手は下さない。絶望に突き落とすのは、超獣たちだ!!出でよ、バキシム!ベロクロン!!」
ハジメやエリカが久子と麻子、そしてあんこうチームにゆっくりと病室から避難するよう促そうとしていたその時だった。影法師が"
「エリカ、ハジメ君、これは嫌な予感がする」
「私も同じ意見です…」
「麻子さん達は、早く病室から…いや病院から出るんだ!!」
「あんた達もだよ!」
「おばあちゃんと麻子さんが狙いなら、まずは二人と付き添いのみんなが先に!」
――ピシッ! ピキピシ…ビシッ!!
「空が…!」
病院内には不穏な空気が漂いだし、外に広がる空にもそれが伝播したのか、赤黒いヒビが入り出した。
「空にヒビが入っとるぞ!?」
「ねぇ、あれなんなの?」
「おい!市や自衛隊からあの現象について連絡は来てないのか!」
それに伴い、空に異変を感じ、院内の患者や医療従事者達によって病院のあちこちが騒がしくなる。
ポロポロと亀裂の入った部分から
外の異様な光景に気を取られることなく、久子はあんこうチームに支えられながらすぐさま病室をあとにする。その時、みほの首から下げられていた翡翠色の円形の勾玉は、琥珀色に輝いていたのだった。
「クククク……!間もなく、この土地は阿鼻叫喚の生き地獄と化すのだ…!!」
「エリカさん、西住隊長、早く二人も!!」
幸い、影法師は狙いを冷泉家だと言っておきながら、この場で手を出すことはしそうになかった。
言動が一致しないことは腑に落ちなかったハジメだが、これは好機だ。まだ自分と共に残ってくれているエリカとまほを病室の外、廊下へ出るよう急がせる。
「アンタはどうすんのよ!!一人で、どうするつもり!?」
「大丈夫!俺もすぐに病院から出るから!」
「そんなこと言ったって…!!」
「エリカ、行こう。ハジメ君はちゃんと戻ってくるはずだ」
「隊長……。っ、早く来なさいよ!!何かあったらタダじゃおかないからっ!!」
「……うん。分かってる!」
エリカは退こうとはしなかったが、ハジメの意思を汲み取ったまほに腕を掴まれ、半ば強引にではあったが病室をあとにする。最後に遠回しな心配りを含ませた言葉を掛けて。本来なら引っ叩いてでも連れていきたいのだろう感情を押し殺していると思われる。
しかしそれはエリカの信頼の証でもあった。裏を返せば、どんなことがあっても、最後はひょっこりと顔を出して帰ってきてくれるハジメを信じているからこその行動だった。…恐らく、すべてが解決した後に説教が待ってるだろうが。
「エリさん達は、行ったか……冷泉さんと、お婆さんを追わせはしない!お前の企み、今回も叩き潰す!!」
「ほざいていろ。超獣は苦痛を感じぬ最高の駒…此度の戦いで、お前を苦しめるだろう。他者を救えぬ無念さをまた噛み締めるがいい!!フハハハハハハ!!!」
ハジメは影法師と対峙し、出現を予告した超獣共々相手しようとしていたが、影法師は室内に紫色の辻風を巻き起こして姿をくらませた。
室内の強風に目を塞いでいたハジメは、辺りを見回した後、影法師がいないことを悟ると窓から身を乗り出さん勢いで外に顔を覗かせる。二階から地上を見るが、影法師の姿はない。あるのは空に広がり続けている赤いヒビのみだった。
大洗の空に広がっていた不気味なひび割れは、次第に枝分かれを繰り返して大洗の空の一角に巨大な円を描いた。
――ビシ……ッ!! バキャッ!!バキン!! ……ガッシャアアーーーン!!!
描かれた円の内側が、大きく不快な音を立てて崩れた。青空は透き通るほど透明なガラスのような破片を撒き散らしてその姿を豹変させる。
最後は陶器を割ったかのような甲高い音を立て、大洗の空に血のようにどす黒く真っ赤で巨大な円状の穴が空いた。
ウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーー!!!!!
必然ではあったが、危険を知らせるには遅すぎるサイレンと、町内市民に対する避難勧告が発令された。
異変を感じていた院内の人々も、サイレンと目の前に広がるぽっかり空いた赤い空を見て確信に変わった。
「身動きの取れない、重篤患者と子供、老人を優先してくれ!」
「エレベーターは彼らに使わせるんだ!他の者は焦らず階段で一階まで!」
「まだ怪獣は出ていない!落ち着いて!!」
「転ぶな転ぶな、ドミノで倒れたら洒落になんねぇぞ」
「お母さんボクがいるからね、大丈夫だよ」
「ありがとうね。勇気出たわ」
院内の医療関係者達や患者である人々の動きは迅速だった。
すぐに病院の至る所で非常ベルが鳴りだし非常事態を知った人々が別の人々に、知らせ、避難誘導を始める。点滴を腕に繋いでいる患者、寝たきりの患者、体の一部を満足に動かせない患者……そういった人々に看護師や医師、その家族らが肩を貸したり、ストレッチャーに担架を用いて独自判断に則り、避難を始めていた。
『どうなっている!?この事態に対する指示を乞う!どうぞッ!?』
『県警の航空隊はどうした?』
『百里基地にある機体は全部飛べなくなってるんだ。いくら呼んでも来ないぞ!』
『
『水戸署からは!?誘導の増援はどうした!上とも繋がらない!』
『あの赤い空を見て分からないのか。交機をもっと寄越してくれ、人手が足りないんだ!大洗周辺の一般道の通行禁止措置を実施させてほしい!』
街の治安を維持する組織たる警察も無線での混乱がピークに達しようとしていた。
見たことのない、新たに空いた宙に浮かぶ穴。その中から怪獣や異星人が出てこようと出てこくとも、その穴__異次元空間の出入り口を警察にはどうこうする力はないのである。
『東茨城郡、大洗町に異常事態発生!新型"
『"第62普通科連隊"各員は装備点検後、トラックに即乗車!選抜された隊員は、空路で一足早く作戦展開区域へ向かう』
『
『特自は既に偵察ドローンと武装偵察班を現地へ向かわせている。例の部隊…"トッキョー"も混じっているかもしれん。彼らとの連携も意識しておけ』
『ポーター01よりポーターズ。我が隊はこれより安全を保証しかねる赤色の裂け目と思しきものが発生している空域を飛行し、普通科部隊を降下させる。不測の事態が発生することは十二分に有り得る。気を引き締めろ』
『横田、入間、両基地より偵察機、並びに飛行小隊がそれぞれスクランブル!米軍も動きます!』
自衛隊も遅いと感じると思われるが、空自入間基地、陸自勝田駐屯地がようやく出動態勢に入るところであった。理由としては、レーダーに内蔵されている"
「怯えろ、すくめ、逃げ惑うのだ…!そして絶望しろ!!負の側面を曝け出せ……」
再び影法師は性懲りも無く病院の屋上、転落防止用の鉄柵の上に立ち、人々の戸惑い具合を眺めていた。
まだ大洗の街、そして人々には何も危害は加わっていない。空が割れ、赤色のヒビが入ったのみではあるが、不気味なことには変わりない。
大洗町の各所では避難関連の放送が始まり、消防、救急、警察等の車両から発されるサイレンが一帯に響き渡っていた。時折市民のものと思われる怒号や悲鳴も聞こえてくる。
「…俺は繰り返さない。繰り返させない!」バッ!
――カッ!! カァァアアーーッ!!!
久子のいた病室の窓から、外の異常を見ていた。ハジメ。影法師が姿を消したこと、そしてあの赤色の空に対するこれ以上の看過をするのに我慢ならなかったハジメは、右手にアルファカプセルを持ち、掲げ、スイッチを押す。
瞬時にハジメの肉体は真っ白な光に包まれる。
海岸病院の背後…大洗海岸に光の柱が天から突き刺さった。
シュワッ!!
《まずはあの空、裂け目をどうにかしないと…》
光柱が消え去り、その中からナハトが姿を現す。これ以上、自分と周りの人間の大切な何かを奪わせないために。
大地を踏みしめ、空を見上げるナハト。ファイテングポーズを構えたはいいが、どのようにして目前の異変を収束させるべきなのか、そしてそれが自分には可能であるのかと一考する。
この赤い空を元の青色に戻さなければならないのは勿論承知しているし、通常の空間に割り込むようにできるワームホール等からは敵対的存在が襲来してくるのは毎度のことだ。事態を解決しないという選択肢はハジメ――ナハトには毛頭なかった。
《………!、来る!》
ナハトが歪な赤色の空に広がる裂け目__異次元空間から、何かの気配を複数察知した。
こちら側に敵が飛び出してくるのを予想し、ナハトボウガンを左腕に出し弓を弾き空に構える。
――――バシュン!! シュババババッ!! バシュッ! バシュン!!
デュッ!?
《な…っ!!》
異次元に繋がる赤い空間の裂け目から飛び出してきたのは、異形の怪物…ではなく高速で飛翔する無機物__ミサイルであった。
それも一発、二発ではなかった。数十、下手をすれば三桁に届かんほどの量、そして空を覆うほどの密度のミサイルが突如として出現した。
ミサイルは目標を定められているわけではないらしく、大洗の市街地に満遍なく降り注ぐように放たれていた。
なぜミサイルが裂け目から…?
その謎を解き明かすよりも先に、ナハトはやるべきことはミサイルの市街地到達の阻止…すなわち撃墜であった。
《うおおおおお!!》
――ザンッッッッ!!!
引いていたナハトボウガンで一発__発射後に数十発に分裂する光の矢を__放つと、右腕のブレスより光剣ナハトセイバーを抜剣。
そのまま居合斬りの要領で、巨大な横一文字の光の斬撃をミサイル目掛け飛ばす。
――スパ!! ドドドドォオオン!!!―ドカアアーン!!!
先発のミサイル群はボウガンの矢に迎撃され、全弾爆発、撃墜。
続いて斬撃が残りのミサイル群を真っ二つに切り裂く。斬撃が通過した際の余波も加わり、直撃を免れたミサイルも無事では済まず、ひしゃげて爆散。結果として誘爆に次ぐ誘爆を引き起こして空中を飛翔していた正体不明のミサイル群はナハトによって全弾迎撃されたのである。
地上…大洗町は無傷。ことなきを得たと言っていいだろう。
《来る…!》
しかし、件のミサイルを裂け目より放ってきた張本人らをどうにかしなければ、再度猛烈なミサイルの雨が大洗を襲うだろう。
またしてもミサイルという飛び道具が来るかと思われたが、どうやら"本体"がお出ましになるらしい。
ハジメ――ナハトは覚醒した第六感で勘付いていた。本命のお出ましに身構える。
ウォーーーーッ!!
キイイイッ!ギギィイイイ!!
影法師の特異な術式によって呼び寄せられ、現世と隣接させられた異次元空間。空にできたその赤い裂け目からは、ヤプールと呼ばれる異次元人がかつて創造した怪獣よりも優れた存在とされる"超獣"が二体、顔を出し目下の大洗町を見下ろしていた。当然、それらはナハトを知覚していた。
芋虫と宇宙生物を組み合わせ生み出された緑に怪しく光る眼を持つ一角の怪物バキシムと、珊瑚と宇宙生物を合成して誕生した赤黒の体表を持つ怪物ベロクロンであった。異次元を彷徨っていたヤプールの忘れ形見、負の遺産でもある超獣達は、自身の力を存分に奮える新しい土地に降りんとする。
バキャッ! バキンッ!! バリィィン!!
―――ズズゥウーーーーン!!
二体の超獣は脚を使って裂け目を更に破り、広げる。十分な大きさを確保したとするや否や裂け目から二体は飛び出し、コンクリートを巻き返しながら地上に着地した。車道脇に放置されていた車がミニカーの如く地面を跳ね回る。
「怪獣が出たぞー!それも二匹だぁーっ!!」
「落ち着いてください!避難を続けて!」
「後ろをみるなよ、前だけ見てるんだぞ」
「大丈夫。ウルトラマンが来てくれたからな」
「早く反対側の海岸に降りるんだ!急げ!」
『無人機の航空偵察より、二体の大型特殊生物出現を確認!』
『急行中の普通科を避難が遅れている、屋内等に取り残されている人々の救助に回す。特殊生物の対処・陽動は特自に担当させる』
『第1師団の機甲戦力の集結は間に合わんだろう…』
『アパッチ、コブラ、ヘッジホッグ、対戦車ヘリも満足に揃えられない状況で、大型クラスが二体か…』
『それも、敵はミサイルを放つときた。……百里と土浦をやったのはコイツらか』
『即応機動連隊も回せ!』
『横須賀第1護衛隊、大洗沖へ航行中!』
人口密集地である市街地。そこに怪獣が現れたことに自衛隊は頭を抱えていた。
いくら特措法の改正があったとはいえ、簡単に割り切ることは不可能だ。それに加え、戦力の結集が難しい状況、場所といった要素も加わり、今回はナハトのみで二体の超獣を相手取らねばならないだろう。
「行くのだ!超獣達よぉッ!!蹂躙せよ。さすれば世界は絶望に包まれる…!」
影法師がそう高らかに宣言すると、ベロクロンとバキシムの二体は腕を大きく振り上げ一吠えすると前進を開始した。
バラバラバラバラバラッ!!
『降下地点まではあとどのくらいだ?』
『数分だ。装備の最終確認をしておいた方がいい』
『恐ろしい数の誘導弾の反応が一瞬映ったが…町の方の爆発が何か関係してるのか…』
『特自からはまだ何も通達は来てないぞ』
『横田、入間の飛行隊も間もなく現着する!我が隊は彼らの支援を受けて赤色空域下に取り残された人々の捜索、救助に掛かる!各班は降下用意!間もなくへリボーンに入る!!』
病院まで凡そ600メートル強。エリカや麻子達、そして避難中の病院の人々はまだ海岸病院周辺、もしくは院内にまだいる。
大洗町領域内に差し掛かる空域には、陸上自衛隊の輸送ヘリ〈CH-47JA チヌーク〉、多用途ヘリ〈UH-60JA ブラックホーク〉が三機ずつ飛んでいた。
上記のように、空路を頼って陸自の普通科連隊で編成された救助隊が向かってきてはいるが、間に合うまい。
短すぎる
――シュアアッ!
《もう誰からも、何も奪わせはしない!!》
ハジメも心の中で、自分を奮い立たせるように、言い聞かせるように自身の決意を叫ぶ。
ファイティングポーズを取るナハトの背から滲み出る重い気迫は、周囲の空気を変える。
その変化を感じ取った超獣達は足を止め一瞬怯む様子を見せた。しかし、超獣は闘争本能と残虐性を極限まで高めた暴力装置であり凶悪な生物兵器である。怯んでいたのも束の間、前進を再開し、今度は口や手から数え切れない量のミサイルを発射してきた。
《やらせない!!!》
今回は距離が短い。ミサイルをすべて落とし切れるのか?そんな考えがハジメの脳裏を過ぎる。
できることを全力で。為せることはそれだけだった。再びセイバーを抜剣して大きく振るい、斬撃を幾本も打ち出す。
それでも叩き落とせるミサイルの数はたかが知れていた。なんとか二、三割は片付けることができたが、残りのミサイルがナハトと背後の海岸病院目掛けて襲い掛かる。
《くそおっ!止まれええええ!!!!》
しかし、ミサイルを捌ききれない。斬撃をすり抜けてきたミサイルが、ナハトの頭上を通過し海岸病院に到達しよくとする。
《ああっ!!》
焦燥のこもった悲鳴を上げるハジメ。病院の二階部分に殺到するミサイル。
エリカや麻子、久子達はまだ院内にいる確信があったハジメ。
世界がスローモーションになった錯覚を覚える。知覚領域が極限まで広がっているのだろう。手を伸ばすナハトだがその手すらも酷くゆっくりと動く。
届かない。自分の目の前でまた命が散っていく。
《やめろ。やめろぉおお!!!》
「超次元!ガード・ホールッ!!」
その刹那だった。病院へと降り注いでいたミサイルが突如として空間に出現した黄金の水晶の中に閉じ込められ霧散した。
ビュォオオオオオオオオ!!!
「泰平の世は、我らが守る」
そして、琥珀色の透き通った風が大洗の町に吹き荒んだ。
はい。お久しぶりです。面接と定期試験に追われていた投稿者の逃げるレッドでございます。
突然ですが、投稿者は19歳にしてようやくONE PIECEにハマりました。film REDをイラスト友達の子に誘われて観に行ったのですが、ウタちゃんに惹かれまして、劇場に三回足を運ぶほどには熱中しております。
アニメ版はエニエスロビー編が終わったところまで見ましたがこれでも全体の三割なのか………
あと海軍好き。ちなみに投稿者の推しキャラはウタちゃんとスモーカーさんです。
あとは試験期間前などには地球防衛軍6も買ってプレイしていたり……いま購入からおよそ一週間ですが、ようやくミッション127まで来ました。蒼い地球はわしらが護る。
…ということで、今回の投稿期間の空きは私的な理由と公的な理由のハイブリッドでした。
志望企業さんから内定をいただけたら、投稿ペースも回復すると思うので、今後もよろしくお願いします。
____
次回
予告
二大超獣バキシム、ベロクロンが大洗町に襲来し、ナハトが迎え撃つ。
劣勢のナハトを救ったのは次元を超えてやってきたシノビの軍団"ハザマ"の頭領、ドルゲユキムラだった。
ユキムラはナハトと共に、影法師の悪意を打ち砕くために超獣と戦う!
そして、激しい戦闘の中で、大洗町に飛来する未確認の"小型"ガメラ。
小さき勇者は大切な人を守るべく、戦いに加わる。
__お母さん、ぼくを育ててくれてありがとう__
手の中にあったちっぽけな勇気が、大きな希望を生み出した。
次回!ウルトラマンナハト、
【小さき勇者、大地に立つ!】
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
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紗希のトモダチ
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ミチビキさん サンダース編
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ミライVSマホ カレー対決
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ハジメ、迷い家にて