7月29日水曜日 現地時間01:45頃
南極大陸 ロス海
中国人民解放軍海軍北海艦隊旗艦
航空母艦〈広東〉
「こんな極寒の地に果たして今の祖国が欲するものがあるというのか…?そもそも、なぜ我が艦隊が護衛なのだ。ここは南極だ。時世と場所を考えれば南海艦隊の方が余程適任だと思うが」
「
「なんだそれは。解せんな…」
「小官もそう思います」
南極大陸の極寒の海に浮かんでいる灰色の船影群は、中国海軍の三大艦隊の内の一つ__北海艦隊だ。
彼らは数少ない友好国…オーストラリア連邦が盟主の豪州連合の領内を経由するルートで南下してきた。
北半球に位置する国家である中国の艦隊が何故こんな南半球の僻地へと赴いてきたのか。
それは軍部の息が掛かった民間研究所__表向きはそうだが構成員はすべて陸軍のNBC部隊__の調査隊の護衛任務並びに調査活動協力のためである。
「艦隊の半数を率いての局地調査など前代未聞だ。それに、甲殻類型特殊生物の発生源…親玉の発見には至っていない。そちらの調査が本格的始動に至る前にこうしてまた別途の、南極に行けとの任務を与えられた…上は正気か。艦長、貴官はどう思う。忌憚の無い意見を聞きたい」
北海艦隊は調査隊の移動手段として、輸送ヘリを提供し、艦隊が待機する海域を哨戒するぐらいだった。
艦隊の5割のみとはいえ大部隊だ。護衛部隊としては過剰な戦力ではないかと艦隊司令の劉大校は思いに耽っていた。この任務自体に彼は懐疑的であった。
「はっきりと言わせてもらうと…司令、これは常軌を逸しています。先の甲殻類型…ガンザ、ガニメの師団規模の群れへの対処は偵察衛星による事前把握と、海警局と我が艦隊、並びに随伴の潜水艦隊の総力を結集し万全を機してのものでした。同様かそれ以上の勢力が再び黄海沖に突如襲来した場合、現在本国に駐留させている残りの艦隊のみでは対処不能に陥ると愚行します」
「その通りだ。上は恐らくガンザ、ガニメの大侵攻はあれが最初で最後、とっくに収束したと思っているに違い無い。甘いのだ、彼らは」
依然として残るリスクに対しての備えができていない現状で行われる局地調査活動の護衛任務…劉大校と〈広東〉艦長らは危機感を覚えていた。それは言葉や態度に現れていなくとも、末端の兵士たちも同様の心持ちだ。
しかし、同じ艦隊の人間とはいえ、不特定多数に聞かれるのはやはり避けるべきと考えた二人は艦長室のソファに向き合って腰掛け談義していたのである。
「超古代の先史文明…エフタルと言いましたか。それ由来の遺跡が我が国でも発見、発掘されつつあります。かの文明が遺した文献は未知なる情報の塊と言えるモノ…是が非にでも中央政府は手に入れたいのでしょう」
「そこで南極か。新たに出現したであろう手つかずの遺跡群を漁ろうという魂胆か」
「……はい。そうでなくとも、南極にも古い逸話から、ごく最近のもの、ブラフも含めれば…"ジンメン"や"ヒトガタ"といった
実際に現れた神話生物と言えば、ゴジラとモスラが欧州で討伐した大海蛇__マンダが最も近い存在として当て嵌まるだろう。
伝説、伝承といったものは、一定の事実に基づいて誕生するものらしい。つまり、遥か昔に生きた人々は真実を記し遺していたのは紛れもない事実であったわけなのである。
「全く上は呑気なものだ……たしかに我が国は特災被害は
劉大校の言葉に艦長も黙って頷いた。
現在、中国海軍を中心とした当国三軍内部では北京中央政府並びに軍上層部の例年に見ない__豪州に続けと言うかのような__超強硬姿勢に懐疑心を抱く軍人が一定数存在していた。北海艦隊の彼らもまたその一部なのだ。
「第一、なぜ本国周辺から飛んで南極なのだ?他国はギャオスや昆虫型の駆除で手一杯で、南極に意識が向く前に調査…というのはまだ分かるが、その前に南極である必要が果たしてあるのか?なぜそこまでこの氷の大地に拘る…?」
当然の疑問であった。連日、中国本土の沿岸部・内陸部にて先史文明エフタルの古代遺跡発掘されている中で、本国から遠く飛んで離れた南極圏であるのか。ただの遺跡、新種の特殊生物の調査ではないように思える。
中国本土に点在する遺跡群の発見並びに解析完了率は、中国の
上層部の強行姿勢もそうだが、それらを抜きにして不審に思うのも無理はない。疑念の材料は至る所に転がっていた。
「…司令は、"ショゴス"なる超生物をご存知ですか。所謂、UMAのような架空生物…御伽話に出てくるのみのはずだった存在です」
一拍置いてから放たれた艦長の問いに劉大校は怪訝な顔をした。
「…はずだった…だと?」
眉がピクリと動いた。
艦長のワンフレーズに違和感を覚える。
劉大校は思わず聞き返した。
「…陸軍の同期、諜報部に所属している友人から聞いた話なのですが、今回の南極での活動は、ショゴス本体…若しくはサンプルの発見、捕獲とのことで、我々北海艦隊はショゴスが調査隊並びに本艦隊に攻撃してきた際の万一の
「保険…だと?」
「ここでの話、艦長以外の我が艦隊の人員で知っている者はいるか?」
「いいえ。おりません。小官と、司令以外の人物で把握している兵はゼロです。他の者らは皆、表向きの指令通りにこれが官民共同の新事業の一環として考えております」
劉大校は自分の耳を疑った。
彼の指揮下にある北海艦隊に伝えられていた調査隊と艦隊の任務内容とは明らかに違っていたのもそうだが、艦隊全体に任務の偽装までするのかという上層部への懐疑心がさらに増長したからだ。
そして何より自身が受け持つ艦隊が得体の知れない存在に対する保険として、体のいい駒のように上の人間らから考えられていたと知り、怒りが湧いてきた。
「ショゴスこそが祖国を救う切り札となり得るとして、最初から調査隊…陸軍のNBC部隊はショゴス確保のみに重点を置くよう指令が出されているとも」
「それほどまでの力を有しているのか、ショゴスとやらは」
ショゴスなるモノについて、劉大校は一切の情報を持ち合わせていなかった。そのためある程度本任務の裏の事情を知り得ている艦長にまず件の超生物__ショゴスとは何かを聞く。
〈広東〉艦長曰く、まとめればショゴスとは超古代に栄えた本地球の先史文明__エフタルか、あるいはそれとはまったく別の未確認文明が創造した奉仕種族…肉体労働等を肩代わりするために作られた奴隷生物である、とのことであった。
ショゴスとは、無数の眼球を内部に宿した漆黒に光る玉虫色の粘液状生物…である。
アメーバ、スライムのような不定形で形態変化を自在に行うことができ、必要に応じ様々な生体器官を体内に発現することが可能。そういった性質から、あらゆる環境に適応し活動できると言う。
一説ではショゴスこそが現生地球生命の始祖となった存在として語られているらしい。
生き残りは現在南極圏にしかおらず、積極的な活動はせずに休眠に近い状態にあるという。
……と上述したものを艦長は劉大校に説明した。
劉大校は両腕を組み瞳を閉じて思考する。
艦長の説明は続く。
「――そして、ショゴスが生息しているとされる地点が、黒色山脈…"狂気山脈"とも呼ばれる山嶺に囲まれている場所であり…今回の調査地点です」
「原因不明の異常磁場に阻まれ、偵察衛星ですら全容を掴むことができていない、今の今まで存在自体が幻…無いものであった山…か。艦隊のヘリ乗員らは降下地点しか知らされていなかった……ところからしても、そういうことなんだろう」
"狂気山脈''……南極大陸内に存在すると実しやかに囁かれてきたおぞましい山嶺だ。最高峰は10kmを優に超えておりエベレスト以上である。また、6km地点より上方は積雪が確認されず、固く鋭利な黒い岩肌のみしか無いらしい。
…その名を口にすることさえ憚られると言う未知と邪悪に塗られた山脈に、現代人類が足を踏み入れてしまったのである。
この話の1時間ほど前に、調査隊はヘリによる移動を終えて、狂気山脈に囲まれた内側__公式には特異なモノは何一つ存在していない、そこそこ高い山々があるとされている__地点だろう場所に入った連絡を受けている。その後は強力な異常磁場によって通信が不可能となったために以降は連絡を取れていなかった。
また、隊の登山・侵入ルートは予め決まっていたらしく、どこからそのような情報を得たのか、事前にいくつか準備を整えてきたとしか言えない迅速な行動であった。
「それで、そのショゴスの存在をどうやって北京のお偉いさんや軍上層部が掴んだのかは知っているのか」
「魔導書…"ネクロノミコン"なる書物からだと、友人からは聞いています。」
またしても知らない単語だった。それもやけにファンタジックなものに感じた。
「魔導書?ここまで来ると完全なオカルトだな」
「小官も未だに信じられんのです。…なんでも、神話や御伽話を特殊生物の情報源として活用しようと日本に次いでどこの国より早い段階で動き出していた英国からという話です。パリ国立図書館に現存していた件の魔導書の不完全な写本…断章となったものの存在をどさくさに紛れて奪取できた…と」
「よくもまあそんなピンポイントに抜き出してこれたものだ。この一連の動き……どんな奴かは知らんが、ソイツらの明確な意思を感じる…」
「意思…ですか?」
「ああ。まるで我が祖国を底知れぬ悪意に触れさせているかのような……とにかく、今回の任務のあらゆるモノが解せん。艦長、危ない橋であるのは承知しているが、引き続きその友人との交流を続けてほしい。可能か」
「可能です。任せてください」
劉大校は、心の内に燻っていた何かを留めておくことはやめた。
こうなれば組織の裏側を信頼に足る部下と共に洗い出し、真に護らなければないないモノ、自分たちの力を何者に行使しなければならず、改めて自分らの存在意義とはなんたるかを考え直すしかない。彼の決断は早かった。
艦長は室内につけてあるコーヒーブレイカーから、二人分のブラックコーヒーを淹れた。
ステンレス製のコップに注がれた嗜好飲料の片方を劉大校に渡し、自身もソファに座り直す。
コンコン!
艦長室の扉を誰かが叩いた。
要件は何かと扉越しに艦長が問うと、報告役の通信員だと分かった。
艦長が彼を部屋に通し調査隊の連絡報告なるものを言うよう促した。
「調査隊より、『既定地点での観測・調査活動を終え、目標とされていた任務も達成した。これより撤収し下山に入る。迎えのヘリをランディングポイントへ求む。』…と」
「分かった。飛行隊長を主軸にして彼らの迎えの便の調整をさせろ」
通信員の報告を聞くと彼を下がらせた。
劉大校の顔は険しかった。艦長の顔も同様だった。
「任務完了…ということは――」
「――ショゴスと思われる存在を確保できた、と言うことだな…」
劉大校は艦長から受け取っていた、湯気を立たせている注ぎたての熱いコーヒーをグイッと一気に喉へと流し込んだ。
今だけは眠気と何処からか這ってくる悪寒を一時的にでも吹き飛ばしたかった。
中国の南極調査隊が南極奥地にて発見した
"狂気山脈"より下山した調査隊を無事収容した北海艦隊は、豪州連合勢力圏経由のルートを再び使用し本国へ帰還する。
これ以降、中国は豪州連合を後ろ盾とし、"狂気山脈"が存在する地点の周辺に観測施設群を新たに建造していくこととなる。そして"狂気山脈"についての全ての情報を軍上層部と北京中央政府は秘匿、隠蔽に走る。
また、ショゴスの生体サンプルが、中国海軍北海艦隊の寄港した豪州連合の軍港にて一部が当局研究チーム経由で横流しされたと言う噂も立ったりした。
本一件のあらゆる真相は闇の中へと打ち捨てられた。
それだけでは飽き足らず、傲慢にも深淵の入り口に人類は悪びれもなく異物を立てた…これもまた、大きなツケという形で近い将来、人類に厄災となって降り掛かるのである。
――――――
同日 日本時間13:00頃
東アジア 日本国東北地方 青森県つがる市
津軽戦車道特別演習場
日本海側に位置する盆地にある当市には、東北地方でも広大な面積を有する官民問わずの戦車道用にも利用される一風変わった演習場が存在する。
その演習場は他の国内演習場には無い特徴がある。
演習場内に居住区が一定間隔で配置されており、実際に人が住んでいるのである。特別というように、平時…演習場として使われない期間や、有事の際に戦場へとならない限りは通常の市町村区と同じ扱いを受けられる地域ということだ。
この特別演習場が誕生した背景には、二つの事由があった。
まず一つ目としては、国防組織(自衛隊)がより実戦的な訓練・演習を経験できる広大な訓練場ならびに演習場が確保できていなかった点である。
当特別演習場が開いたのは1990年…丁度冷戦期の終盤。この世界も史実と同様にアメリカ対ソ連の東西冷戦は勿論あったのである。
ブロロロロロロ!!
「現地指揮所への機材搬入急げ。試合開始まで間もなくだ」
「
「準々決勝の各試合は何事もなかったんだ。これが続けばいいんだが…」
肝心な二つ目の理由がそれだった。当時日本の仮想敵国であったソビエト連邦の北海道侵攻…本格的南進を陸上自衛隊は抑止する必要があった。抑止力保持の努力をするにあたって、装備やら何やらを抜きにして何が一番手っ取り早いかと言ったのなら、隊員の練度向上をすれば良いの結論に行き着いたわけだ。しかし、当時は今と比べて自衛隊の使用可能な演習場は少なかった。
そして上述のような状況が続くことを良しとしなかった当時の防衛省…防衛庁が腰を上げて当演習場が生まれたのである。
「三日ほど前に継続高校に異星人が出現したとか――」
「演習場区域内の住民移動が完了しました」
「分かった。関係各所にも伝達を頼む」
最初こそはただの演習場になる予定であったのだが、自衛隊の市街地想定の訓練促進と、
さらに付け足すと、演習場建設開始当時、港湾都市の新設・再開発ラッシュによる経済成長の只中であった。学園艦関係の労働者のための居住地がひっ迫していた問題の解決案の一つとして、青森県の自治体と津軽平野の市民側から防衛省に演習場内の市街地区画を居住地とさせてほしい旨を防衛庁側に提案したのである。当初は呆気に取られていた防衛庁だったが、この申し出を快く承諾。
こうして住民が当地域に定着し民間人が住居を構える特殊な演習場が誕生した。この頃には戦車道の試合で一般家屋が損壊した場合に戦車道連盟が補填費用を出すシステムが出来上がっていたため、冷戦終結後__2000年以降から自衛隊の訓練場としてだけでなく戦車道の試合会場として頻繁に利用されるようになり名称も変更されるに至る………これが当演習場の歴史だ。
「今日の分も含めれば、あと三試合やればこの大会も終わる」
「ここまで大会日程は進んだんだ。これ以上は
「そのための即応態勢の警備だろう?今回はメーサーだって来てる」
「こちらの兵器が効いてくれるといいんだが」
そのような経緯があるためか、今でも居住区画の建築物は一世代ほど前の北欧やロシア風のレンガ・木造建築が多々見られる。流れ弾で家が吹き飛ばされるのならば、家自体のコストは低く削りに削り、家電等のアイテムにコストを割り振ることを住民達が選んだ結果だと思われる。
ごく稀に場内のイベント関係で住む家が消し飛んだり、風穴が空いてしまうことはあれど、それらを抜きにすれば他の一般家庭と大差ない生活が送れる場所でもある。そういったのもあって、故郷として愛着を持つ人間がしっかりいるのも事実だ。
「湾には大湊の"第17護衛隊"が常時待機か…」
「新型のイージスに汎用、〈あきづき型〉の最新モデルの編成だったな。護衛艦が就いてくれるのなら頼もしい」
「いざとなれば海自と空自がやってくれるわけだ。それを抜きにしても、これが本当に競技会場の警備かよ豪勢すぎるのにも程があるぞ…」
「茨城のアレがまた起きんとも限らん。寧ろこれでも心許ないと思うぞ、俺は」
さて、今回も当演習場は高校戦車道大会の準決勝の会場として利用されるわけである。
警備には陸上自衛隊第9師団隷下__弘前駐屯地所属__の機甲部隊、普通科部隊が演習場内に。東北以北にも配備が始まった特自所属の対特殊生物用兵器たるメーサー車輌の姿もちらほら見える。一周回って駐屯地祭にも見えなくも無い様相を呈していた。
場内上空は毎度の例に漏れず、偵察ヘリと対戦車ヘリ群が飛んで哨戒飛行にあたっている。
そして場内からの目視では確認することは叶わないのだが、青森湾には大湊基地より航行してきた新鋭の第5護衛隊群第17護衛隊__新型ミサイル護衛艦"みくま"、"すずや"、新型汎用護衛艦"いなづま"、"いかづち"、そしてあきづき型の末っ子"みかづき"の計5隻__が展開している。
その他にも、津軽海峡に目を光らせている海自__松前警備所、竜飛警備所の警戒レベルが一段階引き上げられており、つがる市に所在する空自__車力分屯基地では第21並びに第22高射隊が〈
さらに、有事の際には試合会場の警備任務に就いている部隊のバックアップとして、小松・松島・三沢の各空自基地より戦闘機部隊がスクランブルする手筈となっている。
上記の内容に目を通せば分かるように、自衛隊によるこれまでの戦車道公式試合の警備態勢と比べると最大規模のものだった。
「……今一番に気になるのは、この
「まったくですね…今は
……何より今、現場の自衛官らが頭を抱えているのは、冬場と見誤るほどの量の降雪であった。辺り一面は銀世界であり七月とは思えない環境が広がっていた。
積雪は優に10cmを超えている。数年前から日本各地で続いている異常気象だ。ハジメ達が中学生であった頃にも一度、夏季大豪雪によって自衛隊は北日本に災害派遣を行なっている。
それに近いものがまた今日起きたのである。
「北海道でも雪降るのは秋からだってのに…」
「もう季節外れの大雪ってやつぐらいじゃ一々驚きはしませんって」
「施設科も難儀な仕事を押し付けられたな。この時期に除雪とは」
「あとでコーヒーでも渡しに行ってやりましょう」
現在、演習場ゲート周辺と、場内に設置された仮設観戦会場、それらを繋ぐ臨時駐車場までの道を陸上自衛隊施設科部隊所有のバケットローダや油圧ショベル、大型ドーザなどの施設機材を用いて積もった雪の除去活動に尽力している。
これもまた戦車道の試合準備の一環であった。
『――ザザッ――予定通り、
本日の試合は、戦車道全国大会準決勝第二戦…破竹の勢いで勝利を重ね続ける期待の新星__大洗女子学園と、昨年大会で10連覇を目標としていた強豪黒森峰を打ち倒したロシアモデルの学園__プラウダ高校の対決だ。
場所は仮設観戦会場の一角。しんしんと降る雪が肩に積もるのを片手で払いながら、試合開始時刻まで静かに待ち席に座っている人物が計三人。
内一人はスーツ姿。他二人は黒森峰の制服を身につけている。
「季節外れの降雪で延期はありえるかと思ったけれど、この調子なら試合は間もなく始まるわね」
「はい。お母様」
西住流師範であり高校戦車道連盟理事長という肩書きを持つしほが直々に大洗…みほ率いる戦車道チームの戦いを観に来ていた。それも二人の付き添い__黒森峰の隊長まほと副隊長エリカを連れて。
「エリカもよく観ておけ。事前にこれまでの試合を視聴してると思うが、今のみほの戦い方は
「それは承知してます。…副隊長…みほの動きは、今の黒森峰には脅威ですから」
「…そうだな。プラウダが勝っても、大洗(みほ)が勝っても、心の準備だけは万端にしておこう」
この試合で勝った相手が、黒森峰が決勝に進んだ際の栄冠を賭けて争う相手になるのである。本試合が、
西住家の家族事情を抜きにしても観にこなれければならない大事な試合であることを意味している。
(……あの日のこと、結局聞きそびれちゃったわね…)
しかし、エリカには今日の試合の行く末の他に、もう一つ気掛かりなことがあった。
あの時はうやむやになったが、継続でハジメも異星人…ウィードと接触していた経緯を知りたかったのだ。
(良くも悪くも…
ハジメは今回、観戦には同行していない。
福島県沖を航行中の黒森峰学園艦で留守番…もとい待機組に属している。他の機甲科と整備科メンバーは今の時間は通常授業を受けている最中だろう。
変なことに首を突っ込まず、大人しく勉学に励んでくれていればいいのだがと、エリカはつい考えてしまう。
一旦、ハジメのことを気にしてしまうと、どうにも落ち着かない。
(ああ…駄目ね。思考が散漫になってる)
落ち着きなく視線をあらゆるところに移しているエリカ。
…その視線は一瞬ながら、演習場内にいくつか生成されている防雪林__その中でもある一帯だけ不自然に
もっともエリカがその些細にも思える異変に気づいたところでどうこうできる話ではなかったが…。
(こっからは集中。集中よ、逸見エリカ…!)
エリカはまほ、しほと共に試合開始時間を黙って待つことに徹するのであった。
――――――
同刻
極東 ロシア連邦 マガダン州オホーツク
シベリア・オホーツク統合基地
欧州連合科学技術研究所ロシア極東支部施設区画
地下大型格納庫 "
クナトがオホーツク海沿岸部に位置している当統合基地に移送されてから、およそ3週間の時が過ぎようとしていた。
「クナト、喜ばしい報せが日本から…ミス・コウヅキから来ているよ。キミをヒントに、難航状態から研究の息を吹き返した"自立型多用途AI"の試作モデルが…いや違うな……キミの弟分達が無事に完成したらしい」
『それは本当ですかDr.ライト』
世界でも珍しく、ロシア連邦は広大な国土を有しているにも関わらず、その領内に特殊生物や異星人の出現はおろか侵攻さえも受けたことがないことから、安全地帯…既存の単語を捩り"
そういったことからも、ロシアの地がクナトの収容先として採用されたわけである。
「ああ。本当だとも。先ほどツクバから直通で受け取った話だからね」
『そうですか…。何と言えば良いのでしょうか…感慨深いと言うのですか、こういった感覚を……』
「感覚…か。キミとこうして対話していると、つくづくキミがAIだと言うことを忘れるよ」
この50m級の自立人型ロボット__六式戦闘"機人"57番機のクナトは、現在では世界で唯一発見・発掘された
『……私は同世代の中の最終生産機だった機体です。謂わば、末っ子というモノなのでしょう。そのような自分が、作り出してくれた
クナト…いや、
彼はたった一人、この時代に目覚めた。
上記にある"自立型多用途AI"とは、クナト発掘以前よりつくば市にある日本生類総合研究所本部にて開発が進められていた、日本初・世界初の新世代では留まらない新時代の超高度AIである。
クナト発掘後は、彼と生総研の香月、そして日米露の国際合同研究チームがコミニュケーションを重ねていく課程で、当人工知能は彼から供与されたデータを元に改良が加えられた。
「そのクナトの弟分たちの実地試験は一週間後だそうだ。今ランチに行ってるメンバー達にも伝えてきた」
『待ち遠しく思います。香月博士も携わっているとも聞いたので』
「今は中継地であるアオモリに向かっているらしい。明日にはここに戻るとのことだ」
人命を第一とする信条をプログラムした、真に人々の命を守り助ける新たな人類のパートナーになると期待される、現人類が生み出した革新的AI。
それが生総研で計三機、誕生した。それらは"スオウ"、"ロクショウ"、"コハク"の名称を与えられた。
50m級のクナトと同様の巨大人型か、それとも超高性能な新型無人戦闘機の形か、はたまたヒトと変わらない見た目をしたアンドロイド型のボディを与えられるのかは未だに決められていないが、どのような姿であれ人の命に関わる大役を担う存在となる予定だ。
クナトら"六式機人"は記述せずとも分かるくらいに高度なAIであり人格をも有する。見た目は違えどヒトともとれる存在だ。彼らの、同胞間でのやりとりは少なくなかったはずである。思うこともあっただろう。
所詮はヒトが創り出した電子頭脳…では片付けられるワケがない。
死地へと赴く兄弟達を見たであろうクナトは何を思っていたのか…それを考えれば、彼がこの時代で自身の模倣に近いモノとはいえ、同レベルのAIが誕生することには嬉しさを滲ませるのは当然ではなかろうか。
『…Dr.ライト、それが私用に作られた義足ですか』
「ああ、今は左脚用の義足だけだが、近い間に右腕用の義手も建造する予定だ。まずは歩けるように…ということでだね。五体満足にはまだ程遠いが、辛抱してほしい」
『ありがとうございます。足だけでも、私は十分です』
「負荷予想テストが通れば、義足の装着までにそう時間は空かないよ」
米国籍の博士が説明した、自分の横に仮置きされている巨大な__ヒトと比べれば規格外の__自身のボディと同じ白銀に塗装された義足を見やる。
彼が本基地へ移送された時点で、左脚部と肘から下の右腕部は失われていた。そのための義手義足である。
クナトは、この義足を取り付けられれば、もっと多くの人々の助けになれるのではないかと、思考していたのであった。
――――
――――
――――
同統合基地
欧州連合科学技術研究所ロシア極東支部施設区画
地上ゲート付近
『――定時連絡。ゲート前の状況を寄越してくれ』
「こちら車輌ゲート警備所。付近のセンサー並びにカメラ等に異常無し。来客はゼロ。静かなものだ」
『了解。くれぐれも任務時間中に飲酒だけはしないよう留意せよ』
統合基地敷地内に存在する、欧州科学研の施設区画の地上施設群へとアクセスできるエリアの出入り口。
そこの警備にあたっている人員は、監視装置の管理役、ゲートの通行制御役、交代要員の計三名。全員、士気旺盛なロシア連邦陸軍の兵士である。
彼らは日夜警備所に駐在し、警備・監視任務に就いている。
「なあ、昼飯まだだったよな。カップ麺のストックはあとどれくらいある?」
「あー、ニホンのシーフードのやつか。待ってろ。俺が倉庫行ってくる。恐らくまだ箱の半分はあった気がするが」
警備所室内で暖を取っていた交代要員として待機していた兵士が、極寒の地での数少ない娯楽かつ生命線でもある、昼食の在庫確認をするために裏側の出入り口へと向かう。
警備所の外に出てから、すぐ横にある小さな地下倉庫があるのだ。見に行って戻るまでなら数分も掛からない。
「頼む」
「任せてくれ。すぐにストーブに戻ってくるよ」
兵士が壁に立てかけていた、イズマッシュ社製の自動小銃__連邦陸軍内でもその量産・配備数からレア物扱いされている__"AN-94 アバカン"アサルトライフルを手に取り警備所裏側のドアノブを回すために手を伸ばした。
ガチャ――
「――っな…!」
――バキャッ!!!
「「!?」」
何かが勢いよく叩きつけられたような音が聞こえた。それは兵士が開けたドアからだった。
日常で聞くような音ではなかった。室内に残っていた一人は腰の拳銃を手に、もう一人は自動小銃"AK-12"を持ってドアの前に急いだ。
「どうしたガロニト!」
「ガロ二…っ!貴様、どこから侵入したきた!!」
外に出たはずの兵士の名を呼びながら駆けつけた二人の兵士は、目の前に広がる凄惨な光景を目にすることになる。
ガロニトと呼ばれている兵士の返事は返ってこない。当然である。何故ならば、ドアに叩きつけられ原型の分からないほどに頭部が潰され、首から下の体は力なく床に斃れ伏していたからだ。
「なんだコイツは…!」
『……………』
彼の不幸な死を二人は悲しむ余裕と暇は無かった。目の前に兵士をそのような無惨な姿へと変えただろう犯人が不気味な沈黙を保ちながらドアの前に立っていたからだ。
その犯人の腕…と思われる部位には赤い血が滴っていた。
「異星人…なのか!」
『……………』
だんまりを決める犯人の正体は、兵士の一人が溢した通り、異星人だった。
全身が黒色で、頭部には不気味な赤色に発光する器官を有する…星間同盟所属の敵性異星人__ネオワロガである。
『………死ね』
シュパッ!!――
「かはっ!?」
「う"っ……!」
…ドサッ!
兵士による発砲が為される前に、ワロガはドア前に立っていた兵士二人の首…頸動脈が通う箇所に斬り込み瞬時に無力化した。
室内が血の海で染まる中、警備所の壁に貼られた基地の見取り図を静かに見る。
『……まず警備を統括しているエリアの制圧からか』
ワロガはそう呟くと、自分に課せられた事を成すべく何処かへとテレポートするのだった…。
――――――
東アジア 日本国 星間同盟秘匿地下施設
敵性異星人らの作り上げた、地球侵略の前線基地。
地下数百メートルに存在する基地の司令室には、ヒッポリトが椅子に腰掛け、室内にあるモニター群には世界各地の中継映像__無人型秘匿円盤や超小型監視装置を介してのもの__が映し出されている。
そして表示面積の多い大型モニターには、南極の狂気山脈内にある古代遺跡を探索する中国の調査隊の様子や、日本の青森…雪を溶かし湯気を立たせている津軽の演習場山間部、一見変化のないロシア極東のシベリア・オホーツク統合基地の映像が確認できた。
「"マリオネットシナリオ"…ワロガ君はちゃんと動いてくれてるかな…?」
「3分ほど前に当人から任務開始の連絡を受けました」
「そうかい。なら良いんだ」
満足そうに頷くヒッポリト。
「しかしよろしかったのですか?例の山脈に地球人類を入れて探索をさせて」
南極のショゴスの件だろう。横に控えているリフレクトが憂慮した様子でヒッポリトに訊ねた。
それに対して、杞憂だと言いながらヒッポリトが答えた。
「あそこに価値のあるものは無いよ。それにこの宇宙では"
自身がどこで手を加え、暗躍の糸を引いていたのかを教える。後半は自身の苦労話で、気怠そうな口調で言っているのだが、声色自体は明るかった。
「ならば、南極にヒッポリト様が置かれたモノ…アレは何なのですか」
「フフフ……私の作った検体L-1103さ。アレがショゴスだって?馬鹿だよねぇ、アレは――」
ショゴスでなければ、中国の調査隊が南極で捕獲したあの特殊生物は何なのか。
ヒッポリトはドス黒い笑みを浮かべて答え合わせをする。
「――"ヘドラ"だよ」
遂に今年も終わりますね。どうも、投稿者の逃げるレッドでございます。
やっとこさプラウダ戦手前まで来ることができました。星間同盟、再び!という回となります。
以前にもお話ししたとは思いますが、投稿者はクトゥルフ神話TRPGとそれに登場する生物が大好きです。また、ハーメルンにもいくつかありますが、ガールズ&クトゥルーも好物です。なので、そういった内容を絡めた回にしようと思いこうなりました。
あとは、小ネタや本編とは関わりの無い内容とか入れたりするの、やっぱり楽しいですね。
ヘドラ…自分は好きですよ?ちなみに検体云々につきましては、ベムスターの回でちらっと触れてたりします。他にも今後検体シリーズが出てくるかも?
下記は今回の登場した架空護衛艦に関する注釈と説明となります。
※この世界ではオリジナルイージス艦として〈もがみ型ミサイル護衛艦〉を登場させてます。また、史実世界のむらさめ型の姉妹艦にあたる"いなづま"、"いかづち"もまたオリジナルの新型艦群である〈いなづま型汎用護衛艦〉として組み込まれております。よろしくお願いします。
こうした説明をするに至った理由としましては、投稿者がこうして更新にあたふたしてるうちに、こちらが勝手に使用していた同じ艦名がリアルで正式に採用されてしまったためであります。wiki等で設定漁ってた時に「あれ!?架空艦として出してた名前の護衛艦が進水・就役しちゃってる!?」って感じでした。バカだよね、投稿者。
という感じになります。
さて、来年も投稿者と逸見エリカのヒーローを、よろしくお願い致します。
それでは、良いお年を!
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次回
予告
ワロガ、欧州連合科学技術研究所シベリア支部を奇襲!
ワロガの狙いは地下施設最下層の機人__クナトだった。施設守備隊はこの非常事態に対応すべく、防衛線を敷きクナト、ひいては施設を守るために迎え撃つ。
星間同盟はいったい何を企てているのか………?
次回!ウルトラマンナハト、
【歪められた使命】!
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
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