これは、秋山家の四人目の家族のお話。
約10年前 日本本土 秋山理髪店地下
ジジーッ! バチバチバチッ!
薄暗い地下にあるガレージの中で、何かを弄っているのはここ、秋山理髪店の店主である秋山淳五郎だ。彼は今、とあるものを作り終わるところであった。
そんな彼を近くの椅子に座って見守っているのは、淳五郎の妻の好子とまだ幼い愛娘である優花里の二人だ。
「よぉし!出来たよ母さん、優花里!!」
「お疲れ様。でも、本当に安全なの?暴れたりしないかしら?」
「大丈夫さ!コイツには"良心"を与えた。ただの機械じゃなくぼくらの家族になる存在だよ」
「そう…それなら良かった」
「家族? お父さん!家族が増えるの!?」
優花里が目を輝かせながら淳五郎とその隣に立っている人型のロボットを交互に見ながらに聞いてくる。相当嬉しいようだ。
それに淳五郎はしゃがんで目線を合わせ頭を撫でてやりながら笑顔で答える。
「ああそうだよ。こいつは優花里のお兄さんになるかもな!」
淳五郎は立ち上がってロボットの横に来ると肩の装甲部分をポンポンと叩く。
「そうなの!? 名前、名前は?お兄ちゃんの名前は!?」
優花里はロボットの足元まで走っていきその右足に抱きつき頬擦りをしながら、新しい家族の名前を早く聞かせてくれというのが子どもである故か、よく表情に表れている。
「こいつの名前は………」
そのロボットは白、青、赤、黄の四色で鮮やかにカラーリングされており、頭部はバイザー、駆動部分には青いゴムカバーが為されており見る人間によればそれは某機動戦士の地球側の量産機を少し弄ったような見た目である。
淳五郎はロボットを起動すべくすぐ横にある回路基板が取り付けられている机に向かい、ロボットの動力炉を起動させるスイッチを力強く押しこんだ。
ヴゥゥウン……‼︎
稼働音を響かせると同時にバイザーに光が灯り空のように青く輝き俯いていた頭部が起き上がった。その様子を見て淳五郎はロボットの名前を教えた。
「ジャガー……ジェットジャガーAだ!」
「ジェット、ジャガー!!」
ピピピピピピ…!
ジャガーは電子音を発しながら額の緑色のランプと青いバイザーの光を点滅させて周囲の状況を確認しているようだ。そこに優花里がジャガーの脚に飛びつく。ジャガーは脚部に違和感を感じたため下を見る。
「ジャガー、はじめまして!!私、秋山優花里!6才!!よろしくね!!」
ピピピピッ!
ジャガーはそれに答えるように頷き、少女の頭を撫でてやる。とてもモジャモジャしていて少し腕に絡みつきそうなため慎重に優しく撫でるのだ。もうそれは人間と同じ所作であった。
「優花里、ジャガーと仲良くなれてよかったな!」
「うん!ジャガー優しい!」
「あらあら、すっかりジャガーさんに懐いたわね」
「この子が将来自分に合った友達が出来るまでは、友達として家族として兄妹として、ジャガーに側にいてもらおう……」
ジャガーは淳五郎の言葉を初の命令として受け取っていた。
ピピピピピ‼︎
《………家族ヲ検索。………了解。命令ヲ遂行…》
発音機能を持っていないジャガーは電子頭脳内で命令の復唱を行い、今後の優花里への接し方を模索、実行に移そうと準備を始めたのだった。
「さて、まずは家事と散髪のプログラムだな!お母さん、ジャガーに家事を教えてやって。こいつは教えられたらすぐに学習するから!」
「そうなの? それじゃあ、これからよろしくねジャガーさん」
ピピピ!
ジャガーは好子から御辞儀をされると、挨拶をするように電子音を発しながら自分も頭を下げて返した。
「あら!とっても礼儀正しいのね!それじゃあ、いきましょうか」
「私もジャガーと一緒にやる!!」
「そうかい、一緒に仲良くするんだぞ」
「うん! いこうジャガー!」ギュッ!
母の好子を追うために優花里がジャガーの手を握って引っ張って階段を登っていく。
それを後ろから見ている淳五郎は安堵の溜息を吐いていた。
「………どうやらしっかり温厚な人格が形成されたようだ。良かったぁ…!」
秋山優花里がかなり鮮明に覚えているジェットジャガーとの思い出の一つに、ジャガーが秋山家に来て5ヶ月ほど、理髪店の仕事や家事手伝いが板につくようになったころ、初めて迎えた夏休み中の花火大会の出来事がある。この頃には学園艦に店を移しており、自立稼働して家事手伝い、さらには散髪まで出来る人型ロボットがいる学園艦内理髪店として新聞やテレビに取り上げられ店が繁盛するようになってきた時期だった。
「ジャガーの嘘つき!! 一緒に花火見るって約束したのに!!」
優花里は瞳に涙を溜めて椅子に座って動かないジャガーに叫ぶ。ジャガーは市販の充電器とコンセントさえあればどこにいても本体とコードを繋ぎバッテリーに電力を流し込んで補充できるのだが、電力補給中は殆どの機能を停止しなければならず全く動けなくなるのだ。しかも補給時間は最大で3時間掛かる。これだと優花里が約束していたと言う花火大会には間に合わず、文字通り後の祭となる。
いつもならば就寝時間中に充電状態に入り、日中はずっと動ける。しかし今日は花火大会もあってか予約無しの散髪客が多く訪れたため必然的にジャガーの仕事も増加した。それにより稼働時間が大幅に短縮してしまったのだ。
「優花里、ジャガーはお父さんと一緒にお客さんのために動いていたんだよ。だから休ませてあげよう、な?」
「ジャガーちゃんの分まで三人で楽しんできましょ?」
「やだ!ジャガーも一緒に見に行く!!」
「優花里、ジャガーは今日頑張ってくれたんだ。休ませてあげよう?」
「………もういい!花火大会なんかしらない!!」ダッ!
そう言って優花里は店の玄関戸を勢いよく開けて出て行く。
「優花里っ!!」
「どこに行くの!!」
二人の声も走っていく優花里には届かず、ただ遠ざかっていく小さな背中を見ることしか出来なかった。淳五郎と好子は頭を抱える。
「ああ、またやってしまった…」
「外はもう暗いから心配だわ…でも今から予約のお客さんも来るし……」
「母さんは予約のお客さんの相手をお願い。僕が探して……」
………………ピピピッッ!
二人が困っているとジャガーが突然再起動し、肩と背中に繋がっている充電コードを"自らの意思"で引き抜いて椅子から立ち上がった。まだ完全には充電が完了していないのにである。これに驚いたのはジャガーの開発者でもあった淳五郎である。好子は淳五郎が何に驚いているのか理解出来ていないらしい。
「な! 自分でコードを引き抜くなんて…」
「え?」
ピピピピ…!
淳五郎はなぜジャガーがこのような行動を取ったのか理解した。自分の予想した考えを確認するためジャガーに尋ねる。
「……優花里を探すのを手伝ってくれるのか?」
その問いにジャガーはバイザーを光らせ深く頷く。この行動もまた、良心回路による産物なのだろう。
「ありがとう……頼む。」
ピピピピ‼︎
ジャガーは電子音を響かせて返事をした後、すぐに店から出て走っていく。それに淳五郎もついていく。
「母さん、少しの間店の方頼んだよ!」
「ええ!優花里のこと、お願いします!」
「うう…グスッ……お母さんもお父さんもジャガーもみんな大っ嫌い!!」
ヒュ~~~~ドドォオオン!!
優花里は目から出る涙を腕でゴシゴシと拭いながら学園艦右舷の艦上公園を歩いていた。辺りは真っ暗で、陸地では花火の打ち上げが始まっていた。
「花火………始まっちゃった………グスッ…」
ピピピピ……!
「うん?」
優花里は後ろから聞き慣れた電子音を耳にした。ジャガーが優花里を見つけたのだ。ジャガーは優花里に手を差し伸ばしてもう片方の手で、帰ろうと言うように家のある方角へ指 指差す。
しかし優花里はブンブンと首を横に振ってからバチッと差し伸べられていたジャガーの手を弾き、走って距離を取ってから突き放すように言い放った。
「あっち行ってよ!ジャガーなんか嫌い!どっか行っちゃえ!!」
ピーーーーー………
ジャガーはヘッドランプとバイザーの光を点滅させながら心悲しげな電子音を上げ、項垂れる動作をする。そしてジャガーが今度は規則性を持たせてヘッドランプとバイザーを発光させる。それは優花里には見覚えがあるものだった。
チカッ! チカチカッ!
「……モールス信号?」
そう、ジャガーの行なっているそれはモールス符号の発光信号の発信であった。優花里は夏休みの自由研究でちょうどやっていたものだったためすぐに分かった。
ジャガーは喋れない。秋山家で意思表示、コミニケーションを取る際は代わりにスケッチブックに文章を書いてそれを見せるか、淳五郎か好子のケータイに電子メールを送っていた。そんな中、優花里が夏休み課題の自由研究でモールス信号を調べていたため、いつも優花里の近くにいたジャガーは新たな意思伝達の手段としてそれを覚えていたのだ。
チカッチカチカ チカッ チカチカッ__
『SAYONARA YUKARI』
短いながらも発光信号でそう優花里に伝えるとジャガーは後ろを向いて優花里かは離れていく。その背中はロボットとは思えないほどの悲しみに包まれたものだった。
内容を理解した優花里は一気に不安に襲われた。ここで止めないとジャガーが何処かへと消えてしまうのではないかと思った。
「待って!ジャガー行かないで!!行かないで!!」
優花里は追いつくとジャガーの前に立つと初めて会った時と同じように足にしがみつく。
そうするとジャガーは歩みを止めて、優花里の頭を撫でる。
「うぇっ…ぐすっ…ごめ、ごめんねジャガー。ジャガーがひとりぼっちなのは可愛そうだったから…えぐっ…」
優花里がジャガーに謝ると、また発光信号で伝えてきた。
"アリガトウ"
その言葉はきっと自分を家族と見てくれている優花里への感謝、ロボットであるはずの自分を気遣ってくれた優花里の優しさへの感謝、などの全てを引っ括めたものだろう。
仲直りした"兄妹"は、手を繋いで歩いていく。この後、無事に淳五郎と合流し、花火を見ながら帰ったのだった。
____
10年後 秋山理髪店
ジャガーは今日も店の手伝いをしていた。今は客もおらず、カウンターにマスコットのように休息をとるように座っている。
カランカラン!
店のドアベルが鳴り、外からは優花里を先頭に緑と白の制服を着た女子高生の一団が入ってきた。
「ただいまであります!」
「おかえりー!あら、可愛い子たちね!」
「いらっしゃーい!……ん?キミ達は?」
「優花里さんの友達です!!」
しばしの間を開けて、淳五郎たちが飛び上がる。その中にはジャガーも入っていた。
「ゆ、優花里の友達ーー!?」
「まあ!こんなに友達ができたの!?」
「うぅ……良かった、優花里の友達を見ることが出来て………お嬢さん方、良かったらここで髪を切っていかないかい?特別サービスでお代は無し!!」
「あなた!それはダメよ!!」
「二人とも、恥ずかしいからやめてください〜!!」
「優花里さんのお父さんとお母さん、とても良い方ですね」
「いい両親だな……羨ましい」
「あ…あそこに座ってるのが噂のロボットさんですか?」
「本当だ!新聞でしか見たことなかったけど、実物を見れるなんて!!」
………ピピピッ!
自分のことを話題にしていると理解したジャガーはゆっくりと左腕を上げ、手を振った。その動きに橙色のロングヘアーの友人とカチューシャを付けた黒髪の小柄な友人が感動したようで、目を輝かせながらジャガーを見ている。少し嬉しい。
「名前はなんですか?」
優花里の友人の一人である、栗毛のショートヘアーで大人しそうな少女がジャガーの名前を聞いてきた。優花里は座っているジャガーの方へと歩いていき、後ろに回って肩に両手を置くといままで見たことのないほどの朗らかな笑顔で友人の質問に答える。
「ジェットジャガーです!」
「私の………とっっても、大切な家族であります!!」
その場いる全員は気づかなかった。
本来落涙するような機能を備えていないはずのジャガーが、俯いて大粒の涙を流していたことに。
「これからも、ずっとずっと一緒でありますよ!!」
クオリティーが元から低いのにさらに低くなってしまった………頭の中で考えてることを物語にするのってやっぱ難しいっすね…
本編でもジャガーはしっかり出ます。大きな戦いで、で、出ますよ…
画力が低いですが、少し弄り連邦軍が使いそうなデザインにしてみました。エプロンしてるとこいいっすよね^〜。淳五郎さんすげぇ…
ちなみにジャガーのAは秋山のAです。
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
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ミライVSマホ カレー対決
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ハジメ、迷い家にて