旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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凶虫怪獣 クモンガ

邪心集合体 影法師

登場





第1夜 【動き出す世界】

 

 

『______から日本海側の東北並びに東海地方では4日連続の大規模な降雪が確認され、季節外れの豪雪により各地のインフラが麻痺しているとのことです。これに対して陸上自衛隊は全国の志願隊員で構成された応援部隊を東北方面に送ることと、東海の離島救援のため、水陸機動団を中心とした部隊を新潟県佐渡ヶ島及び粟島に派遣することを______』

 

 

 

「こっちはこんなに蒸し暑いのに…向こうは雪降ってんのか…大変そうだ」

 

 熊本県のとある一軒家の和風居間には、朝のテレビニュース番組を観ながら一人で朝食を摂っている少年がいた。

 そう、この少年こそが凡そ7年前、一人の少女を助け、"星の声"から光を託された少年___アラシ・ハジメであった。

 今は8月の上旬、ちょうど中学最後の夏休みが半分過ぎたところである。

 

「まだセミがうるさく鳴いてるのに雪が降るとかなぁ…先生が言ってた通り、氷河期が近づいてるのかな?」

 

 今年に入ってから日本各地で異常気象が相次いでいた。

 現在、世界各国でも同様の異常自然現象が多発しており、有識者を集めての会議や調査を行なっても原因は未だに分からずじまいであった。

 

 一説では、人類による度重なる環境破壊が引き金となっており、異常極まる気候変動の発生は、訪れる地球の凍結化__氷河期突入に対する自然からの警鐘だとするものもあった。

 それでも各国の根底を揺るがすような大災害などには発展することは無かったために、多くの人間がこの問題を気に留めることもなかった。ただ環境保護団体や一部の活動家がこの異常な自然現象を憂いデモを起こすぐらいで収まっていた。

 

『____次のニュースです。日本の歴史解明に繋がる新たな出来事です。先日、群馬県の榛名山山中から江戸時代以前に記されたと推測される書物が発見されました!この書物の題名は『護国聖獣伝説』で、"生総研"調査チームによりますと、日本の守り神伝説の祖となるものであり歴史的大発見となるようです。今も解読が進められており、現在判明しているのは『光ノ人』と言う外伝書物が存在すること、"護国聖獣"と記された架空の生き物が三体描かれていること、書物の端に"時の揺り籠に託す"と書かれた紙が挟まっていたこと…以上三点となっています。このメモ書きのようなものについては____』

 

 テレビの画面には『護国聖獣伝説』に描かれていたとされる聖獣の絵が映し出されていた。

 

「黒っぽい恐竜、蛾と蝶を足して2で割った感じの虫、そしてデッカい亀って感じかぁ。ゲットファイターに出てた御三家怪獣染みた見た目だ…」

 

 上記の感想をポツリと呟いてから、ハジメはニュースから意識を逸らして朝食を食べ切ることに専念した。

 今日は母親のアオバは仕事で夜勤帰りになるため、ハジメは朝から一人である。

 

 彼の今日の予定に外出は無く、一日中家でゴロゴロしつつ夏休みの課題と一行日記を少しずつ消化しようと考えている程度であった。

 ハジメは朝食を食べ終わるなり食器を洗い場に置き、すぐに自室からノートとワークの束を持って居間に戻ってくる。

 

『_____また、関東地区を中心に交通事故が多発しており、ここ1ヶ月で例年の3分の1の件数にまで達しようとしています。事故直後の現場周辺には黒いフードとマントを羽織った不審者を見かけたと言う情報も入っており、警察は事故との関連性について調べています。事故の発生時、監視カメラは紫色の竜巻が____』

 

「紫色の竜巻ってなんだよ紫色って…オカルトか?」

 

 そう言いながらドサッ!っと机の上に課題の塊を置き、テレビを消して座布団を敷き、いざやろうかと思った矢先だった。

 丁度、ピンポーン!と家のインターホンが鳴ったのである。

 突然の来客登場に気だるげに、ジト目で玄関方向へ顔を向けた。

 

「ん?誰だよ…まだ8時過ぎだぞ?ナギか、イッチか…どっちだろ…」

 

 珍しく朝からやる気になれたと思っていたのに。

 珍しく宿題を始めようとしたのに。

 一日のスタートは上出来だ、なんだやれる時はやれるじゃないか自分…と思っていた矢先に呼び出しを喰らったのである。

 当然、ハジメの機嫌はやや下向きに下がっていた。何処からか湧いていた万能感も霧散していた。

 

 もし呼び出したのが親友のどちらか…或いは両方だったら一度ビンタしてもバチは当たるまいと考えながらサンダルを履いて玄関のドアを開ける。

 最高の出だしを台無しにした犯人とのご対面である。

 

ガチャッ…!

 

「は〜い!どなたですか……?」

 

 そこには…

 

「……久しぶりね。一年ぶり、かしら?合ってるわよね?」

 

 黒とグレーを基調とした__黒森峰学園の制服を着た幼馴染み___逸見エリカが腕を組んで立っていた。

 彼女の表情には友人との再会ができたことでの嬉しさと安堵の色があった。

 

 対するハジメの方も、「エリさんだった…なら良いかな」と先ほどまで纏っていた不機嫌オーラを戸惑うこと無く投げ捨てており、エリカを迎えいれた彼の顔は喜色に満ちていた。

 疑っていた親友二人への謝罪は心の中でしておいた。

 

「エリさん!久しぶりだね」

 

 今は夏真っ盛りの昼間。

 エリカはジリジリとした外の暑さからか、手を団扇(うちわ)代わりにしてパタパタと顔を仰いでいる。

 仰がないよりかはマシなのだろう。

 

「ねぇ、その呼び方やめてくれない? さん付けはちょっと…嫌だわ」

 

 互いに記憶はしていないのだが、いつからかハジメのエリカの呼び方は変わっていた。

 

「いやでも女子にはさん付けしないといけない気がして…」

 

 右と左の人差し指をツンツンとしながら、申し訳なさそうにするハジメ。

 

「アンタは私と付き合い長いんだからさん付けはしなくていいの!去年も言ったでしょ?」

 

 それがエリカにはよそよそしく感じるらしく、今のように訂正するよう求めるのが中学に上がってから二人が会った際に行われる恒例のやりとりになっている。

 

「…ごめんエリさん、やっぱさん付けは多分今後も抜けないと思う…」

 

 心底申し訳なさそうに謝るハジメを見て、エリカはやれやれと言いたそうな顔で__

 

「はぁ…仕方ないわね。…まあいいわ」

 

 __苦笑しつつ許してやったのだった。

 実際、呼び方が変わって何か支障が出るわけでもない。

 エリカがそこまで変に拘ることもなかったので、この話はすぐに終わった。

 

「あ、とりあえずどうぞ、中に入って」

 

 ハジメはエリカを家の中に通して居間まで案内した後、台所の冷蔵庫から飲み物を二人分持ってきた。

 

「ほい、オレンジジュース」

 

 オレンジジュースがなみなみ注がれたコップをエリカに手渡す。

 

「ありがとう……ねえハジメ、アンタその手に持ってる容器ってもしかしてプロテイン? 朝からなんてもん飲んでるのよ…」

 

 ハジメが自分用に持ってきた飲料…灰色の特徴的なタンブラー型容器(プロテイン・シェイカー)を指差してエリカが問う。

 

「人生、何が起こるか分からない!だから身体は鍛えとかないと、ね!」

 

 サムズアップをして、白い歯を見せニッコリと笑顔で返してきたハジメ。

 意味不明な回答に対してエリカはジト目になりつつ__

 

「いや意味分からないわよ」

 

 _冷静かつ迅速にツッコミ役へと回った。

 今この空間には二人しかいない。

 ここで自分さえもボケに回ってしまうと収拾ががつかなくなると判断したのだろう。そもそも、エリカがボケに回る必要は無いが。

 

「てかなんでエリさんはウチに来たの?」

 

 先ほどの迷言を他所に、アポ__と言ってもそこまで大層なモノではなく、ここでは電話やメールアプリでの事前連絡のことを指す__を取らずにいきなり顔を出しに来てくれたエリカに対する、至極真っ当な質問を今度はハジメが繰り出した。

 

「学園艦が熊本に寄港したから、アンタが元気かどうかも兼ねてこっちに来てみたのよ」

 

 返ってきたのは、手のかかる子供を持つ保護者のような言い分だった。

 

 エリカが現在通っているのは全校生徒が千人を超える、黒森峰学園__熊本県に籍を置く、九州で最も規模と船体の大きい学園艦の中等部である。

 所謂、マンモス校と言われる大所帯な学園の生徒なのだ。

 殆どの中学校は本土にあるのに対して、黒森峰は珍しく学園艦に高等部と共に中等部が設置されているタイプの学校である。

 そのため本土の友人との交流というのは軒並み電話やSNS頼りとなるのである。故に学園艦に住む生徒達が直に本土の友人や家族の顔を見たい、顔を合わせたいという場合は、長期休暇を利用したりしなければならなかったりする。

 エリカのような例が稀有なわけではないが、どちらかと言えばそこまで見慣れたパターンでないことには違いないので、彼女がどれほど幼馴染に世話を焼いている人物なのかは分かるだろう。

 

 …ちなみにハジメが通っているのは本土__地元である熊本市内にある公立一般校だ。

 

「ほーん。……それで…長袖の制服で来たけどさ、それ暑くないの?」

 

 改めてエリカの服装を確認すれば、黒・灰色を基調とした長袖制服__冬服である。

 ハジメの指摘に対する答えは決まっていた。

 

「……実はかなり後悔してる」

 

 当然と言えば当然の答えであった。冷房が効いてる筈の室内に移動したというのに、げんなり気味の顔で__先ほどまでの外の暑さを思い出したのかもしれない__エリカが言うということは、相当堪えたに違いない。

 彼女曰く、連日の猛暑で半袖のストックが無くなったから、らしい。

 

 余談だが、黒森峰学園は、制服や体操服だけでなく部活動等のユニフォームに至るまで黒及び灰色を基調としたもので服装を統一している。

 暗色は日光を吸収し易いため、前述のカラーを採用している黒森峰では、毎年夏場になると生徒達が地獄を見るという悪しき風物詩があったのだが、数年前にクールビズ制度を黒森峰が採用したことによりその問題は改善された。それに伴い、学園内でのクールビズ制度推進の動きに合わせて、ついにエリカ達の代の入学タイミングで生徒達念願の夏服がリリースされたのである。彼女を含め、夏服に助けられている生徒は膨大な数に上る…らしい。

 

 なお、蛇足となるのだが、夏服導入時に黒森峰周りでは「伝統ある我が学園に新しい制服は不要」と論ずる女学園時代のOGや「自分はあの制服を身につけたくて入学したのであって、夏服は正直いらない」と言う一部の、所謂逆張り生徒からの声もあったりしたとのこと。

 無論、その前者に関しては「あなた方の時とは事情や情勢が違うから黙っててくれ」というのが率直な話であるし、後者に至っては「必要なもんは必要なもんだし、それって一個人の感想ですよね」ということで、そういった否定的意見は多数の現役生徒らからの大バッシングを受けて自然消滅し、夏服導入は予定通り滞りなく行われた。

 

「こんな時ぐらい私服で来ればいいのに…変なとこまで真面目なのは変わらないなぁ」

 

「それはお互い様よ」

 

 頬杖をつきつつエリカが、居間のガラス棚に飾ってあるヒーローや怪獣、怪人のソフビ人形・フィギュアに視線を移していた。

 棚は"ファイターシリーズ"なるもの__ハジメが追っていたヒーロー番組のキャラクター__が多数を占めていた。

 パッと見ではヒーロー系がやや割合が多いぐらいだろうか。

 

「…アンタだって特撮ヒーロー、今でも大好きなんでしょ? 見ればそこの学生鞄に昔のヒーローグッズとかぶら下げてるし」

 

 掃除が隅々にまで行き届いているガラス棚に置かれてある、どの人形、フィギュアにも傷がついていたり色褪せていたりと、相当の年季が入っていた。

 ただ年月が経っただけと言うものは一つも無く、上記の劣化は、何度も手に取って遊んだことで出来た使い込みによるものだ。

 そこからは、どれほど()()がハジメの心の支えになっていたのか、ハジメの今の人格を形成するまでの手助けをしてきたのかが分かる。それらがどれほど多大な影響を与えたのか、如実に物語っていた。

 

「特に…それ、いつまで持ってるのよ。変身アイテムの奴、もう電灯も光らないし…捨てるまではしなくてもいいから、中古ショップとかに買い取ってもらっても、良いんじゃない?」

 

 エリカが幼馴染の学生鞄に繋がれている、「変身アイテムのやつ」と指したグッズ__『αカプセル』を手に取って言った。

 

「これは…全部俺の、俺にとって大切な思い出だよ。手放したりなんか、しない。できないよ」

 

 ハジメはエリカからαカプセルを受け取ると、グッズ棚の前に行く。

 一体のヒーローソフビ__"はじまりのヒーロー"合神闘士ゲットファイターアルファ__に視線を投げかけた。

 その様子を見つつエリカが、「そう言うと思った。ハジメらしいわ」とボソッと呟く。

 

「そこは譲れない、か。ほんと…昔から全然変わってないわね。アンタの部屋も、アンタ自身も。ある意味安心したっていうか。…ところでハジメ、アンタ高校どこに入るかいい加減決めたの?」

 

 今年高校受験を控えているハジメへの質問であった。

 ちなみにエリカはと言えば、中等部からエスカレーター式で高等部に上がるため、進級に関する書面手続きと面談のみであり受験勉強は不要である。

 

「うっ…いや、まだ決めてない…」

 

 痛いところを突かれてしまったようだった。

 幼馴染は苦虫を噛み潰したような顔をして呻くように苦しげに答える。

 エリカに、無計画な自分を晒すことに対する面目なさと恥ずかしさと、この先のやりとりを見越しての気怠さの入り混じった顔と声色であった。

 

「はあ?受験生のくせしてまだ決めてないの!?…ハジメ、アンタ将来は戦車の整備士になるんじゃなかった?」

 

 予想通りと言うべきか、母親のような厳しめの叱責が容赦無く、ガツンと飛んできた。

 恐る恐ると言った様子で、叱責と共に飛んできていた問いの方に小さく答える。

 

「…うん。整備士になろうとは、思ってるよ」

 

「じゃあなおのこと黒森峰に来なさいよ!ウチは去年から男女共学校になったんだから、アンタだって入れるわ。レベルの高いとこで技術を身に付ければ絶対将来に役立つはずよ!」

 

 有無は言わせぬと言う勢いでエリカがなんとしてでも黒森峰にハジメを()()するべく言いくるめに入った。

 

「えぇでも女子が多いじゃん。…それに高等部から入る人間…特に男子への試験が他より難しいって言ってたし…」

 

 黒森峰が共学化したと言ってもたった一年前のことで、黒森峰がお嬢様学校であったイメージが強いためか、去年の男子新入生はゼロであった。

 また、黒森峰は中高一貫校であるため、外部から入る受験者の合格枠が必然的に狭まるのだ。

 どこの馬の骨かも知れない奴らをあまり採用はしたくないと言う理由もあるのかもしれない。

 

「…ハジメ、アンタ確かドイツ戦車…特にティーガー好きだったわよね?いいの?生のドイツ戦車を整備できるのよ?」

 

 幼馴染をモノで釣る作戦にエリカは移った。

 

「うぅ…でもなぁ…」

 

 ここでハジメの意思が揺らぐ。

 

「いつもの熱血はどこにいったのよ!大丈夫よ!ウチの試験はしっかり基礎と応用出来てればどの教科もいけるわ!……あの戦車バカコンビも黒森峰に行くってまほさんとみほに言ったらしいわよ?」

 

 今度はヒトで釣る作戦を展開。

 バカコンビとはマモル少年とヒカル少年のことである。

 中学ではハジメと三人で戦車談義をするほど戦車好きなのだ。

 ちなみに三人揃うと"三馬鹿"とまとめて呼ばれることが多くなっていたりする。

 

 三人とも熊本出身であり、地元である熊本の学園艦__黒森峰の高校戦車道チームが夏の全国大会を連覇中であるためか、ドイツ戦車が一大トレンドなのである。

 親友達が黒森峰に行くと言ったと聞き、ハジメの志望校選択は固まりつつあった。

 

「あいつらもなら……うーん…分かった。俺も黒森峰に入るよ。そういう方向で勉強に専念していく」

 

 幼馴染が大勢いて、戦車を触れる高校…という条件に釣られて、黒森峰学園入学を念頭に置いて受験勉強を進めることになったのである。

 

「!! そう♪じゃあ黒森峰で待ってるわよ♪…落ちたりしたら引っ叩きにくるから」

 

 エリカの弾けんばかりの笑顔と、そこからの真顔+低いボイスの温度差は凄まじかった。

 頷かなければどうなるか分からなかった。

 取り敢えずハジメは首を縦に振るしか取れる択は無かったとだけ言っておこう。

 

「お、おう…(エリさんのビンタは結構痛そうだな…)」

 

 エリカはそう幼馴染に伝えた後、彼の家をあとにした。

 

 …学園艦へ戻る道中のエリカの足取りは軽快で…それも鼻歌を歌っていたほどだった。

 寮に帰ってきた彼女を見た__中等部で戦車道機甲科に所属している友人であり幼馴染のチームメイト__西住みほ曰く、「いままで見たことないほど上機嫌なエリカさん」とのことだった。

 

 黒森峰に戻ってから一週間は、このご機嫌モードが続いた。

 機甲科の後輩や同級生達からは"大天使イツミエル"などと言われたり言われなかったりしたとか。

 

 後に、黒森峰高等部に入学したハジメがこの日の"天使降臨"イベントを引き起こしてくれた聖人であると機甲科女子生徒に知られ、彼女達から入学半月の期間崇められることになるのはまた別の話。

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

南米 ブラジル連邦共和国 アマゾン川流域

 

 

 

 アマゾンの熱帯雨林には本来文明の光などは少なく、夜の静かな暗闇に覆われている…はずのだが、その熱帯気候の森林の中では散発的に連続した閃光が走り、その数に伴う破裂音が響き渡っていた。

 

パパパパパッ!

 

バンバンッ!

 

「2時の方向!サーマルに反応多数!!」

 

 森林に溶け込む装束__迷彩服に身を包んだ者達が数人。彼らは皆、顔に迷彩顔料(ドーラン)を塗っており、時折月光を反射する目の光は鈍く、されど鋭かった。

 

「くそが!まだうじゃうじゃ出てきやがる!」

 

 彼らの装いとやり取りは自然を愛する探検家のそれでは無論ない。

 明らかに戦闘集団__職業軍人…所謂、正規兵のみで構成された部隊だった。

 

「アイツら、糸だけじゃなくて毒針まで撃ってくるぞ!」

 

パパパパッ!

 

 軍隊とは、他国の軍またはそれに準ずる特徴・戦力を有する集団__テロリスト等といったものに対抗するための組織であり、人類対人類の戦闘を専門にした国家機関である。

 しかし、彼らが現在対峙している存在は、同じ人間__他国の軍や工作員、テロリスト…それらの枠組みにも当て嵌まらない()()であった。

 

「キシャア!」バシュッ!

 

 軍隊は上述の通り、活動内容はヒトに対する行動が主に挙げられる。即ちそれは、目の前の異形(イレギュラー)への対応が満足にできないということである。

 

「ぐあぁ!!痛え!ぼ、ボディアーマーが溶けてる!!」

 

 眼前の異形なる存在は、たしかに()()()()()()()()()

 しかし()()には猟銃が効かなかった。()()によって、ブラジル森林地帯にあった一つの集落が全滅した。

 集落に駆けつけた警察の機動部隊と軍の歩兵部隊の有する自動小銃や短機関銃を持ってしてようやく仕留めることができた。そんな異形達が、この密林で群れをなしていたのである。

 

「サルガ落ち着くんだ!衛生!こっちに来てくれサルガがやられた!」

 

バンッ! バンバンッ! パパパパ!

 

「ただの糸じゃない!これは酸だ、酸の糸だ!気を付けろ!」

 

 夜間の熱帯雨林で行動する戦闘集団の正体はこの地を守るブラジル陸軍アマゾン軍の歩兵部隊であった。

 彼らの正式装備である"インベルIA2"自動小銃による発砲で、暗闇に包まれた新緑の世界に橙色の閃光が幾度も疾る。

 彼らアマゾン軍はブラジル内陸部に突如出現した3メートル級の異形(大蜘蛛)__後にクモンガと呼称される怪物__発生の大元が、アマゾン川の中流地帯であることを掴んだ陸軍参謀本部からの捜索駆除命令を受けて、ブラジル陸軍虎の子の第1コマンドー大隊との合同駆除作戦を決行していたのだった。

 現在、クモンガの分隊規模の群れと激しい戦闘が行われている。

 

「キシャアアアーー!!」

 

「うるせぇ!鉛弾でも食らってやがれ!」

 

パパパパッ! パパパパッ!

 

「こちら第3分隊!敵の数が多すぎる!誰でもいいからすぐに来てくれ!」

「無線にばっか意識を向けるな!どこも手を貸せるほど余裕なんかないぞ!」

「ぐっ!奴らを纏めて吹っ飛ばすぞ!グレネード用意!」

 

「「「了解!」」」

 

 分隊員達はすぐさまライフルの銃身下部オプションである小銃擲弾(アンダーバレル・グレネード)の射撃準備を整え、密林を縦横無尽に跳ね回る異形の大蜘蛛__クモンガに標準を合わせる。

 化け物が地面に着地した瞬間の硬直…その小さな隙を彼らは見逃さない。

 

「撃てッ!」

 

ポンッ! ポンッ! ポンッ!

 

ドガァアーン!!

 

「シャアァ……」ドサッ…

 

「……ここら一帯は全滅させたか…」

 

 対人戦とは全く違う未知なる戦闘を歩兵部隊の彼らは経験し、局地的勝利を掴んだ。

 

「全く…こいつらはどんなもん食ったらこんなに立派になるんだ?」

 

 銃身に取り付けられた銃剣で腫れ物を扱うかの如く異形の亡骸を兵士がつついた。

 体表にある弾痕由来の裂傷からドクドクと止めどなく紫色の体液が流れていた。見たことも無い、通常の生物が流さないだろう血の色…兵士達は気味悪そうにそれを眺めている。

 

「デカイくせに速いとかよ…アメリカの映画にも似たようなヤツ、いたよな?」

 

 こんな相手との戦いはゴメンだね、と兵士の一人が愚痴を溢す。

 

「いや、日本のアニメに出てくるカイジュー…カイジュウってのだろ?」

「隊長、450メートル先の第7分隊が苦戦しているとのことです!」

 

 通信兵からの情報により、兵士達の束の間の休憩時間は終わりを迎えた。

 この異形なる怪物の存在が何であれ、こちらに牙を剥くのならばそれを抜き取り対処するのみ。

 彼らはそれぞれ自らの得物__小銃を握り直し、息を整える。

 

「よし分かった!第3分隊、仲間を助けに行くぞ!」

 

 分隊指揮官の号令の下、危機に瀕している同胞達に加勢するべく走るのである。

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 このアマゾンのジャングルで発生した人類未経験の戦闘は、後に"世界初の対特殊生物戦"として記録されることとなる。

 

 

 

________

 

 

 

東アジア 日本国関東地方 東京都調布市 JAXA本部

 

 

 

 日本が世界に誇る国立の宇宙航空開発機構__JAXA。

 当機構は、宇宙の観測・探査や各種人工衛星の管理、国際宇宙ステーション(ISS)の運用研究などなど…"宇宙"に関連するあらゆる活動に取り組んでいる、誰もが知る国家機関の一つである。

 そこの本部職員二名がとある報告書を見て頭を抱え、唸っていた。

 

「見てください。〈光学7号機〉が捉えたものがこちらのデータとほぼ同じ…一致するんですよ。各大学の研究室からも同様の報告がきてるんです…」

 

 職員らが目を通しているのは、何らかの波長__周波数を計測しまとめた資料である。

 

「しかし信じられないな…地球周辺の空間に説明の出来ない、知覚可能な異常磁場が発生しているとは…筑波の方には回したんだな?」

 

 それは日本各地に留まらず、世界各地にて観測され始めた空間の異常現象、異常磁場の発生に関する資料であった。

 今後、どのような影響を地球と人類文明にに与えるのか解明されるまでに至っていないが、世界規模で発生しつつある天変地異の連鎖発生、動植物の奇形化並びに巨大化、オカルト現象__UMA・UFO・心霊と言った類のモノ__の増加等に上記の異常磁場が関与している可能性が大いにあるというのが、世界中の学者達の意見であった。

 具体的かつ、説得力のある立証はできないが、()()が異常を引き起こしている根源であると誰もが確信していた。

 

「はい。そちらの方は大丈夫です。…その例の磁場が発生しているところでは隕石の落下件数が倍以上なんです。これって、明らかに変ですよね?………実は、これ、もしかしたら空間を歪めて()()を呼んでいるんじゃないかって言われてたり…」

 

 上述の話に続いて、研究者、科学者達の間で今まことしやかに囁かれている噂があった。

 

「それこそ信じられないな。その()()ってなんだ?隕石以外のモノがあるっていうのか?」

 

「さあ?宇宙人とか…またまた宇宙怪獣なんかじゃないですかね?」

 

 空想の産物とされていた怪獣、異星人の出現。

 異常磁場を契機にして、この地球に外なる存在が現れる…そんな憶測が人から人へと伝播していた。

 

「ははは!まさか!」

 

 冗談だろう。

 そう笑い話にして完全に妄想であると否定できる人物は少数派になりつつあった。

 

 人々は期待と不安を携えて、来たる世界の変化を待つ。

 

 

 

________

 

 

 

同国関東地方 茨城県大洗町

 

 

 

 ある親子三人が街中を歩いている。

 母親と父親。そして不機嫌そうな顔をした少女。黒いストレートロングヘアが特徴的であった。

 

「ほら、もう機嫌直しなさい麻子」

「帰りにケーキ買っていくからな」

 

「むぅ……分かった」

 

 どうやら、彼女…麻子と呼ばれた少女は両親と言い争いをした後らしかった。

 父親からの妥協案とも、麻子に対する機嫌取りとも取れるケーキ購入の話。麻子はやや不服そうに、それでいて甘味には逆らえないといった様子で了承の意を父親に伝えた。

 

「じゃあ今日は父さんの奢りで決定ね!」

 

 場の空気を明るいものへと引き寄せるべく、そこに母親が入る。

 

「それはないだろう?」

 

 父親の勘弁してくれと言う困り顔を目にして、麻子がやれやれと肩をすくませ____

 

「……おばあの分も買ってほしい」

 

 自宅にて留守番をしている祖母の分もと麻子はせがんだ。

 

「麻子は本当におばあちゃんが好きだなぁ」

「そうね。おばあちゃんの分も買っていきましょう」

 

 ………家に帰れば、家族みんなで楽しい時間を過ごせると麻子は思っていた。

 それに、たわいもない口論の仲直りはできたが、謝罪の言葉はまだだった。彼女は明日の朝にそれとなく伝えればスッキリするだろうと思っていた。

 

 だがその考えが数分後に後悔一色に塗りつぶされるなど、麻子には考えつかなかった。

 三人が横断歩道を渡ろうとした時、あまりに不吉な物事の前兆が麻子を襲う。信号を無視した暴走トラックが三人の歩く歩道側へと突っ込んできたのである。

 

「「麻子危ない!」」ドンッ!

 

「えっ?」

 

 麻子は両親に押された刹那、何が起こったか理解が出来なかった。

 何故両親が必死の形相で自分を思い切り突き放すように突き飛ばしたのか、分からなかった。

 周りの状況を把握できなかった。流れる時間が、引き延ばされていると錯覚してしまうほどとても長く、そしてゆっくりに感じた。

 

______ガッシャアアアアンッッッ!!!!!!!!

 

「あ…お父さん?お母さん?」

 

 しかしその後すぐに許容し難い轟音が聞こえたかと思えば、両親が自分の前から消えていた。その時の両親の顔は嫌に鮮明に映っていた。

 トラックに両親が轢かれたのだと、脳が理解するまで暫しの時間を要した。

 理解してからは、あらゆる感情が溢れ、情緒が滅茶苦茶になった。

 

「嘘、嘘だ…こんなの嘘だ………」

 

 現実はひどく非情であった。両親のものと思われる血の跡が、遥か後方でようやく停車したトラックまで続いていた。その生々しい血痕の線が、事実を静かに指し示していた。

 麻子は分かっていても認めたくなかった。

 視界が霞み、ぼやけ、歪んだ。

 

 

 

「あぁああああぁぁあぁあ!!!」

 

 

 

 泣き出した麻子の様子を、市街地にあるマンションの一つ__その屋上から眺める怪しげな黒い影があった。

 

 

 

フフフフフフ……人間よ、絶望せよ……恐れよ……憎め……苦しめ……

 

 

 

 麻子の両親が巻き込まれたこの事故は、"関東交通事故頻出期"なる事象の一つとして埋もれていくこととなる。

 

 

 

 人々が知らない間にも、世界変容の歯車はゆっくりと、しかし、確実に回り始めていた…。

 

 

 





 あと
 がき

【2022年版編集】
 実は設定段階の護国聖獣のモスラ枠はラドンだったりしました。理由としては幼少期、投稿者が初めて観たゴジラがVSシリーズのメカゴジラだったので、ゴジラに力を託すファイヤーラドンが印象的でコンビとかタッグなら同じ恐竜タイプのラドンだなっていう気持ちがあったからですね。
 でもやっぱり、人類との意思疎通の面なども考えたりしたら、モスラが適任だなと思い至り、最終的にモスラに落ち着いた経緯があります。

 今回は中学時代のお話となりました。
 公式的には真子さんの両親は小学生の時に事故に遭ってしまっていますが、本世界では中学に引き上げてます。

【2023年版編集】
 のほほんとしたハジメ君と戦闘モードのハジメ君のイラスト(withエリカ)を描いたので貼っておきます。よければどうぞ。

【挿絵表示】

 ちなみに、本当に…ホントーにどうでもいい追加情報ですが、この世界__ナハトスペースのエリカさんはどこがとは言いませんが、原作よりもややムチムチだったりします(暴露)
 …西住姉妹や小梅ちゃんも同様です。はい。他意はありません。

 ハジメ君の好きなプロテインの味はメロンと桃です。上の話とは関係ありません。多分関係ありません。


 次回もお楽しみに。


________

 次回
 予告

 ハジメ・ヒカル・マモルが黒森峰学園高等部に無事合格した。高校生としての甘酸っぱい日常が始まるのだと皆が思って疑わなかった。

 しかし、黒森峰は夏季の高校生戦車道全国大会10連覇を逃してしまう。

 さらに時は流れ、ハジメ達は二年生へと進級し、敗戦の責任を負わされる形で西住みほが去った後の学園艦は久方ぶりに熊本へ帰港する。

 そんな時、遂に本物の怪獣がハジメ達の前に現れた!

次回!ウルトラマンナハト、
【ヒーローが現れた日】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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