一年後、春。
「ま、大丈夫だと思ってたけど…合格、おめでと」
エリカが祝福の言葉を幼馴染へと掛けた。
幼馴染男子勢三人__ハジメ、マモル、ヒカルの黒森峰高等部入学試験の合格獲得に対する祝福であった。
「ありがとう!改めて…これからもよろしく!」
幼馴染__ハジメがその祝福を素直に受け取る。
「やったぁ!ハジメ君もナギさんもマモル君も黒森峰に来てくれた!!打ち上げやろうよ、ね!お姉ちゃん!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを最大限に表現しているのは、西住家の元わんぱく次女__みほである。中等部に上がった頃には彼女からは幼少期のやんちゃ属性が消え、おっとり__と言うよりもどちらかといえばドジっ娘__具合が代わりに増していた。
今回もその例に漏れず、何度か飛び跳ねたのちにクルクルと回っていたところ、勢い余って頭から転びかけ危うく地球とキスをする手前で
妹、若しくは親友のはしゃぎっぷりに、二人は溜め息を一つ小さく溢す。
「みほは少し落ち着いてほしい………んん。三人とも、合格おめでとう。そして、ようこそ、黒森峰へ。みほの言う通り、合格祝いに六人みんなでどこかへ食べに行かないか?」
みほの提案を汲み取り、咳払いを挟んでからまほが三人の合格と入学祝いとして打ち上げをしないかと持ち出した。
「いいんすか!?」
「うんうん。ナギは絶対メシしか頭にないな」
「まほさんと…ご飯を一緒に……」
男子勢で「No!」という人間はおらず、女子勢も賛成の意を示す頷きを見せているので、打ち上げ…もとい歓迎会の開催はこれで確定した。
「あ、ちなみにだけど、整備科は男子で構成されるから、一年生のハジメを筆頭にしたアンタら三馬鹿が車輌別の暫定整備班長になるわね。ハジメはそれと整備科隊長にも就任することになるから、そこんとこよろしく〜」
唐突な重大発表にハジメはギョッとした表情でエリカの方へ振り向いた。
他二人は、「まあ…班長ならいいか…。ハジメはドンマイ」と言う感じで、ダメージは軽微であった。
「うぇ!?なんで俺は確定してるんだ!?」
当然、ここにいる機甲科女子らの
決定事項とも取れるエリカの言い方にハジメが何故だ何故だと頭を抱えて呻き声を上げていた。
「それはぁ…あの二人が西住隊長とみ…副隊長も推薦したからよ」
醜態を現在進行形で晒しているハジメを見ていられなくなったのか、事の詳細の一部をエリカが打ち明けた。それを聞いた当のハジメは、最早お通夜状態に突入していた。
今の一言がトドメになったらしかった。
「ハジメ!おいハジメェ!!」
「ダメだ…息してる…」
「いいことじゃねえか!!」
親友の
なんとも器用かつ
「まあ聞いてくれ、ハジメ君。私達はキミが一番男子の中で整備が上手いと思っている。よく、マモル君とヒカル君とウチでⅡ号をお父様と一緒に直してくれた腕を見込んでだ。…どうだろう、頼んでもいいか?」
魂が口から出ているようにも思えるハジメに、助け舟…遅れに遅れての補足をまほがすると同時に間髪を入れずに整備科隊長就任の了承を頼み込む。
「え、あっ、西住先輩…!あ、頭上げてください!そんな頼まれ方したら……」
ここに来て散々無理無理と粘っていたハジメが揺らいだ。相手は幼少から今日まで交流のある幼馴染の一人でありながら、戦車道の名門流派の長女であり、同じ学園の先輩である。そんな人物に頭を下げられて頼まれでもしたら、横に首を振るなどという芸当なぞできまい。
それに、まほはエリカが敬愛してやまない人物でもある。彼女を無下にしたらハジメに明日はあるのだろうか。いや、無い。断れない。断りでもしたら現在彼の横にいる銀髪の少女が般若の顔で彼にすぐさま地獄を見せ血祭りに上げることだろう。
「うっ…わ、分かりました…。やらせていただきます…」
結果として、ハジメはまほからの頼みを断り切れずに承諾する形で収まった。
ひしひしと横から感じていたら
「これで決まったわね!」
静かにプレッシャーを放っていたとは思えないほど笑顔で喜ぶエリカ。
女子の声と心の切り替えの速さ恐るべし。
「安心しろハジメ君。黒森峰が外でどう言われてるのかは知らないが、ウチのチームメイトは皆優しいし教え上手な子達ばかりだからな…それに先輩方も面白い人ばっかりだぞ? …皆が皆、殺人マシーンみたいな冷酷人間ではないからな、そこは安心してほしい」
それを聞いたハジメ達、男子トリオもとい三馬鹿は緊張が幾分か解けたらしい。自分達が周りから聞き及んでいた情報__その半分は偏見と根も歯もない噂で構成されている__とはあまりにも違ったため、最初は疑ってしまっていたのは内緒である。
蛇足になるが、上記のまほのセリフ「殺人マシーンみたいな冷酷人間」を聞いてハジメは、何を思ったのかチラッとエリカの方を見てしまったことで、この話の後に凄惨なお仕置きを彼女から直接貰うことになる。
「これからはまたこの六人で頑張ろう。誰一人かけることなく…な!」
まほの言葉に皆が強く頷く。ハジメ達は春の空…桜吹雪止まぬ青空を見上げる。六人揃えばきっと、あの時のようになんでも出来る、あの夏の日々のようにどこまでも、と____
___
______
_________
____その日は、ひどい土砂降りだった。空は憂鬱を誘う灰色一色で、良くない何かが起こる…そう思わせるに足る不吉な景色がそこには広がっていた。
『………く、黒森峰学園フラッグ車、行動不能…よってプラウダ高校の勝利!』
___あらゆるモノが乱暴に流された。
合格発表から凡そ半年後の夏。
第62回戦車道全国高校生大会、その決勝戦。
黒森峰学園の夏季10連覇と言う前人未到の偉業を成し遂げる試合…のハズであった。
「ごめんなさい…ごめんなさい……私が…私が………」
_____努力、友情、信頼、勝利、栄冠、そして輝かしい理想の未来。その尽くが等しく濁流に流された。
プラウダとの優勝をかけたあの試合が終わった後、みほは何回も、何回も生気の無い目をしてひたすら謝罪の言葉を壊れた機械の如く言い続けていた。見ている人間も参るほどの悲壮さが滲んでいた。
日本戦車道史上、類を見ない悪天候下での試合。
黒森峰学園のⅢ号戦車の滑落…そして豪雨により増水した河川への落水。
同車からの悲痛な浸水報告。
フラッグ車から駆け出し、河川へと飛び込んだ副隊長。
残されたのは身動きの取れぬ車長不在のフラッグ車と、ガラ空きとなったフラッグ車への射線を必死に遮ろうとする随伴車群。
一発の、無慈悲なサヨナラ決勝弾。
今まで見ることの無かった
全て終わったと悟り、天を仰ぐ一人の少女。
___本史世界も、
「副隊長は謝らなくていいよ!あれは正しいことだったんだからさ」
「西住妹、新聞やテレビでほざいてる内容気にしちゃダメだぞ?」
「周りが変に騒いでるだけ。連盟側がすぐに救助班を出そうとしてなかったってニュースで言ってたし」
「10連覇が出来なかったのは悔かったけどさ…
「あの時、副隊長が行ってくれていなかったら…小梅ちゃんたちはここにいなかったかも知れない……」
「来年の黒森峰、頼んだよ」
戦車道もまた
集団スポーツとは、皆が一丸となって臨み、勝利を掴み取り、喜びを得ることのできる尊いモノ。そして、たった一人の些細な
みほ自身、自分の取った一連の行動に、疑いは持っていなかった。
だが許せなかった。
彼女は自分を許せなかったのである。
自分の行動が招いた結果が、大勢の仲間の夢を砕いたことに繋がってしまったという思考に至ってしまったからだ。
全ては、この夏のために。
全ては、この大会のために。
全ては、この決勝のために。
全ては、この一戦のために。
寝食を共にし、肩を並べて競い合い、高め合い、支え合い、時に泣いて時に笑って、苦楽を分かち合ってきた。
そんな仲間達の夢、目標、努力、想いの尽くを壊してしまった。
代償がこれなのかと。人の命と秤にかけての代償がこれなのかと、思わずにはいられない。
これでは、誰も救われないじゃないかと。報われないじゃないかと。
運命なのか。これが運命なのかと、嘆かずにはいられなかった。
何が正しかったのか。何が最善であったのか。何を他に為すべきであったのか。分からなかった。全てがぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。
仮に…仮にの話だが、黒森峰の勝利で終わっていたならば、「王者黒森峰、"仲間は一人も見捨てない"。執念、そして念願の十連覇」などと謳われ、みほの行動も結果的には日本高校戦車道界で語り継がれる美談となっていたのかもしれない。
…だが、正史世界と同じ歴史を辿ったこの世界ではそうはいかなかった。
「西住みほがチームメイトの救助に向かい、指揮系統の麻痺を引き起こした黒森峰がプラウダの砲撃にさらされ敗北し十連覇を逃す。そして彼女は心に深い傷を___トラウマを負う」。
所謂、世界の修正作用というモノなのか。
されど、みほの行動については三年生と試合に出場した選手達は咎めなかった。
これまで一年生でありながら自分達のことを第一に考えて隊長と共に作戦を立て、試合では全員に的確な指示を飛ばす頼れる副隊長であったと誰もが感じていたからである。機甲科内は、みほの味方をして庇おうとする者が多数を占めていた。
しかしみほにとっては逆に辛く、切なかったのだったのだろう。それが彼女を苦しめた。
さらには、黒森峰の一部OGや同校の十連覇を期待していた校内の人間ら__戦車道やみほ本人との接点が無い、何も知らない他者からの異常な糾弾が悪い追い風となった。
「__アンタはアンタが後悔しない選択をした……それを責める気なんかないわ。だから…早く戻ってきなさいよ」
「みほ、あの時のことは…あまり気にするな。お母様も西住流師範として、高校戦車道理事長として、可能な限り事態の沈静化に尽力している。お前は一人じゃない。各方面への対応は私に任せろ」
「みほさんは…副隊長は誰も出来なかったことをやったんだ。…それはみんながみんな当たり前のように出来ることなんかじゃない。勇気が、仲間を想う気持ちがあったからだと思う。だから__」
「みほさんがあの時助けてくれなかったら……水が入ってきた時はもうダメだと思って___」
自分のことを気遣って接してくれる先輩、同級生、チームメイト…そして幼馴染達に申し訳ないと思っていた節があった。
彼ら彼女らには謝っても謝りきれず、顔向けなんてとてもできないと思っていた節があった。
「___ごめんね……みんな…」
しかし悲しいことに、自身の姉や友人達、そして自分が助けた乗員の一人にして友人の小梅からの言葉はみほの耳には届かなかった。
みほは凡そ半年という長期間寮に引き籠もり、そして春を迎えかとなった時期には転校手続き、若しくは自主退学の届出を出したのだろう。
みほは黒森峰から姿を消した。
_____その年の夏はあまりに空虚なものだった。
______
_________
____________
「おいハジメ!聞いてるのか"ストームリーダー"!」
誰かが自分を呼んでいた。
「んあ…?」
気づけば戦車道用ガレージの一角に立っていた。
どうやらハジメはガレージの中で立ったまま意識を手放し一年前の出来事を追体験していたようである。十連覇の夢が潰え、悲壮の秋を過ごし、忍耐の冬を越え、新たな仲間達を迎えて皆が前を向き出した春が終わり…今は2020年の6月。勝負の夏は間近に迫ってきている。
脳内に流れた去年の決勝戦の映像があまりにもリアルなものであったからか、それとも夏季に入ったガレージ内の暑さによるものか、首筋にはいつの間にか大粒の汗が伝っている。
西住みほが黒森峰から去って凡そ数ヶ月になろうとしていた。
「なにボケーっとしてるんだよ。他のみんなはもう帰ってったぞ!逸見さんのティーガーⅡ担当はハジメだろ?早く整備やらないと逸見さんからのお優しい
整備科は、機甲科の練習が無い曜日__オフの日にメンバーが週一交代で放課後に戦車の居残り整備を行なっている。今週はハジメがその担当の一人だった。同じ週担当のヒカルが自分に声を掛けてくれていたらしい。
完全な余談だが"ストームリーダー"とは、高等部に上がってからのハジメのあだ名__ニックネームの一つだ。主に苗字の"嵐"が由来となっており、発案者は親友のヒカルとマモルの二人である。ヒカルはノリノリで呼び続けているのだが、発案者の片割れであるはずのマモルは名前呼びに戻っていたりする。
さらには、あの常時クールフェイスな現機甲科隊長__西住まほからもそう呼ばれたりすることが多々あったりするのだ。ただ整備隊長や班長だと物足りないとその上記親友二人が言ったことが始まりで、一部の整備科生徒曰く、こちらの方が頼り甲斐のある呼び方なのだとか。本人__ハジメは特に思うところは無いらしい。なお、他にも派生名が数個存在したりする。
「お、おう。ごめんごめん。ちょこっとボーッとしてた」
何度もヒカルはハジメを呼んでいたと思われる。ヒカルは自身の三白眼をさらに細めてジト目でハジメを見ていた。どこか抜けた声色の親友にどでかい溜め息を一つ吐いた。
「それにお前さぁ…整備が終わったら艦から降りて今日はその逸見さんと一緒に地元、熊本に降りてのデートだろ?せっかく地元帰港週間なんだから、早くいってやれって」
やや言い方は荒いが彼なりの気遣いなのだろう。
ハジメは今日、放課後にエリカと本土に上陸して街を歩く予定である。呆けている暇は無いのだからさっさと目の前のやるべきことを片付けろとヒカルは言いたいのだと思われる。
「デートって…エリさんは彼女じゃないよ…幼馴染だって__」
親友の言った自分とエリカの関係性に誤りがあることをハジメは指摘する。
「___うるせぇ。俺だってなぁ、みほさんが今も黒森峰にいたらだな……いや、これ以上は言わねえ。たらればは、良くないからな…」
ヒカルのたらればには、ハジメも心当たりがあった。
去年の夏、第62回大会の決勝戦。あそこで未来は分かたれた。あの時ああしていれば…あの時こうしておけば…現在が、今がまた違ったものになったのかもしれないと思うのは、仕方の無いことである。後悔は前に立つ事は無い。
溢れ掛けた
あの時のことを、ハジメは先ほどのように今でもフラッシュバックすることがある。「傍観者も当事者であり加害者である」…この言葉が頭から離れない。他人事で片付けたらダメなのだ。
「………」
それに、あの後に男子勢の中で一番の喪失感を味わったのは対面の親友__ヒカルである。想いを募らせていた幼馴染が、引き篭もりがちになったかと思えば声を掛ける間もなく学び舎から姿を消した。その際に生じた諸々の感情は推して知るべし、だ。
ヒカルに掛ける言葉を、今のハジメは用意できなかった。ただ、重い沈黙を返すのみだった。
「…ま、兎に角だ!早く正確に点検・整備やってから帰れよストームリーダー!俺は先に実家に顔出しに行ってくる!じゃ、またな!!」
そう言って駒凪は何かを振り切るように、脇目も降らず__ハジメに振り向かず___手を振りながら一足先にガレージから飛び出していった。
親友の後ろ姿が遠く、朧げになっていく。親友の顔は見えなかった。
「………ごめん」
鉄のひんやりとした空気の漂うガレージに、一人残されたハジメはただそう一言、呟いた。
その言葉が親友のヒカルへの謝罪だったのか、はたまた自分があの時に何もできず無力であったことへの贖罪代わりだったのか、或いはもっと別の意味のものだったのかを知っているのは当人__ハジメ自身だけである。
_________
_________
_________
数十分後…
熊本市 某市街地
___ここから視点は暫しの間、ハジメのものとなる。
「ごめん!遅れた!」
あの娘への開口一番の言葉が、これだった。
両手を合わせて謝意と誠意を精一杯伝える。
「まったく、待ち合わせに7分も遅れて来るなんていい度胸してるじゃない」
そう俺に言ってきたのは黒森峰の制服を着たエリさんだった。
これはもしかして…もしかしなくともやはりナギの言ってた通り、で、デートになるのか…?それだと、しかも制服デートってことに…?
……だがしかし、俺が遅れてきた事実は消えない。改めて素直に謝るしかないのだ。
「本当に申し訳ない…」
エリさんの発する言葉がいつもよりトゲがあると感じる…自分の仕事で遅れたのは自己責任だし、言い訳はカッコ悪い。そう言われて仕方がないよな。
頭を下げて俺は謝った。
「もう!そんな顔しない!…私の戦車、整備してきてくれたんでしょ?ありがとね?」
お、おや?優しい…エリさんが優しい…。いつもならここから更に追撃が来るんだけど。
いつもその顔でみんなに接すればいいのにね。無論これは口には絶対に出さない。出した日には拳骨や何やらがきっと猛烈なスピードで飛んでくるだろうから。
「俺の役割だし、戦車はもともと好きだからね。苦痛ではないよ」
これは本心からの言葉。
「そう、なら良かったわ。さて…今回はどこのハンバーグ食べに行くの?」
「あ、ハンバーグは確定なんだね〜」
「……何よ?いやなの?」
「いや!そうじゃないよ!」
エリさんって、本当にハンバーグ好きだよなぁ。
ちっさい頃はいつも俺の学校給食のハンバーグ、7割強持ってかれたし…でもハンバーグ食べてる時のエリさんは…なんて言うかな……いい顔してると思う。異論は認めない。あの笑顔、もっと見せてほしいんだけどなぁ。
「ふーん……なら早く行きましょ♪」
「あ!ちょっと待ってよエリさぁん!」
俺は上機嫌になったエリさんに置いてかれないように後を追う。
__その時ハジメは気づいていなかった。背負っているリュックに付けていた『
___
____
_____
あれから凡そ一時間後。
「あー食べた食べた!美味しかったなぁ!」
「ええ、また新しく美味しいお店を見つけれて良かったわ♪」
今は二人で熊本市内を歩いている。
俺達は待ち合わせ後に街中でまだ行ったことのなかったハンバーグ専門店に入り、そこで案の定になるけどハンバーグを食べてきた。あのチーズハンバーグは母さんが作ってくれてたものにも負けてない気がする…そのくらい美味しかった。中学の頃は、帰省してきたエリさんが作ってくれたこともあったっけか。最近は口にして無いな…今度思い切って頼んでみようか。
…ちなみに食べてる時のエリさんはずっと笑顔だったな。可愛かった。
「これからどこか行く?ハジメは行きたいとことかないの?」
「うーん…そうだなぁ……ん?」
ふと、空に違和感を…感じた。
まるで、心身が押し潰されるような、そんな錯覚を覚えた。
「どうしたの?空なんか見て固まって……なにあれ、隕石?」
つられてエリさんも空を見上げる。
違和感は実体を持って現実になった。エリさんも気づいたようだった。
違和感の正体…黒くて巨大な隕石が、いきなり空に現れて、降ってきた。そう、今までそこには無かったはずのものが、突然。
______ズズゥウウウウウウウウウン…………!!!!
それは日常の幕を下ろす出来事の前兆であった。
黒色の隕石はそのまま熊本市西区、西松尾町付近に轟音と共に落下した。しばらくしてから衝撃波が市内まで到達した。
しかしそれは不自然なもので、周辺建造物の窓ガラスが割れたり、風圧によって何かが吹き飛ばされるようなこともない、異様な衝撃波であった。
「なんだあ!隕石かぁ!?」
「ちょっとあれヤバくない?」
「西区の方に落ちちゃった…」
「おいおい…警報すら鳴らなかったぞ?」
そう、あまりにも不自然すぎた。だが誰もそんなことには気づかない。
隕石という非日常のオブジェクトが立っているのだから。隕石に内包されたその不自然さを気にすることもできなかったに違いない。
ハジメの周りの人々も、皆同じように、物珍しさからか混乱からすぐに立ち直って、今では手元のスマホなどを取り出して非日常の記録と拡散に力を注いでいるように見受けられる。
これもまた、日本人に特に多いとされる正常性バイアスなるものが作用しているからなのだろうか。
「隕石…なの?」
エリカも薄々ではあるがその違和感…不自然さを察していた。
拭えない不安が膨れ上がっていく中で、隣の
「うん。でも、何かがおかしい…」
隣にいる彼女を一時でも安心させられるような優しい嘘は吐けなかった。
ハジメの研ぎ澄まされた勘__平時であれば発現することも無かった、第六感に近いモノが囁くのである。
「おかしいって…何が…?」
そしてその違和感の大元__件の隕石は、地上…西区に落着した後、ものの数分で原理は不明なれど落下地点周囲に全高60メートルに達する巨大な黒い水晶体を生成。水晶体はその大きさから西区外からでもその異様さを容易に確認できる。
また、結晶体は一定の間隔でまるで脈打っているように発光していた。
ここまで目に見える変化があれば、人はまた別のアクションを取る。違いは多少あれど、であるが。
「あの黒い水晶みたいなの、綺麗だねお母さん!」
「めっ!そんなこと今は言っちゃだめよ!」
「水晶の隕石か…高く売れそうだな」
「マジ!?俺近くまで行ってくるわ!」
「俺も俺も!」
無謀な行動、危険な行為に走らんとする者や、未だに
「エリさん、アレはやっぱりおかしいよ。…急いで学園艦に戻ろう。嫌な予感がする」
「え?えぇ…それなら一応隊長達にも連絡しておくわ」
幾らか状況に適応してきたエリカが、放課後に学園艦を降りた他のメンバーに安否の連絡を取るのであった。
____視点は再びハジメに戻る。
俺とエリさんは黒森峰の学園艦が停泊している港に向けて走り出した。まだ周りはそれほどパニックにはなっていないらしく、みんなあのでっかい黒水晶の写真を撮ったり、それらをSNSにあげている人もいるぐらいだった。
「さっき聞きそびれたけど、結局あの隕石の何がおかしいの?」
見知らぬ人たちに逃げろとかやめろなんて大声で叫ぶことも出来なかったから、俺はエリさんだけは学園艦まで送り届けようと決心した。やれること、できることをやるだけだった。
「ごめんエリさん。それは俺も上手く言えない」
あとでこの行動が杞憂のものだったと言われてもいい。それならそれで良いじゃないか。
パタパタパタ!
ゴォオオオーー!!
何かを叩く音が上から聞こえてきた。走りながら空を見ると報道のヘリが数機ほど、あの水晶の方へ向かって飛んでいくのを確認できる。きっと、あの隕石を上空から生中継でカメラに収めたいんだ。
そしてやや少し遅れて、ジェットエンジンの爆音も聞こえてくる。
「自衛隊……空自の偵察イーグルか…」
ジェット機の両翼には
「落下地点周辺ではもう警察と消防が救助活動と交通規制を始めているらしいわ」
エリさんは片手でスマホから情報を集めてくれていたようだった。
今いる場所はかなり隕石からは離れているけれど、早めに動いていて良かったのかもしれない。警察消防が動いてるってことは、少なくともこれは何らかの撮影やドッキリでも何でもないことはわかった。
だとしたら余計に、分からなかった。あの隕石はなんで今日、あの場所に…。
「いったいあれはなんなんだ…」
____ハジメの言葉に対する答えは、間もなく
ゴォオオオオオオオーーッ!!!
「ダッグ2より春日基地へ。現在、当機は隕石落着地点上空を旋回中。指示を請う。送れ」
黒の隕石が熊本市西区に落下し、謎の大型結晶体を形成したことにより、航空自衛隊は春日基地からは
"ダッグ2"と識別・呼称されているRF-15に搭乗しているのは
『基地よりダッグ2へ。貴機は大型結晶体の監視及び偵察撮影を実施せよ。熊本市内への地上部隊展開が完了し次第、同空域より離脱、春日基地へ帰投せよ』
その主たる理由としては国内での大規模自然災害を筆頭に、21世紀初頭のオセアニア州での広域国家連合組織の誕生、昨今の中国軍との尖閣諸島沖での武力衝突__もとい局地紛争未遂事件…通称"いぶき事件"等が関係している。ここではこれらに関する詳細を伝えることを省くが、そういった事案の発生によって安全保障に直結する憲法並びに法の改正は史実世界よりも進んでおり、政府や官民の国防意識は上昇傾向にある。
このような背景があり本世界の政府と防衛省・自衛隊の、未曾有の有事__後に"特殊生物災害"と呼称される__への初動対応が迅速なものとなったのである。
「ダッグ2了解。これより、警戒を厳として対象__大型水晶体の監視、撮影を行う」
基地司令部より与えられた任務を遂行するべく航空撮影を実施するイーグル。
「……秋津空佐」
「どうした?緊張してるのか?」
秋津と共にRF-15に搭乗している部下、隼人は彼に何か言いたげであった。
「いえ…あの結晶体、何て言えばいいか分かりませんが……おかしくないですか?」
得体の知れない隕石…それから滲む違和感を、防人の一人である隼人も察知していた。軍人特有の勘なのだろう。
「………お前もそう思うか。恐らく、あれはただの隕石じゃない。もし、もしもだ。アレから
秋津も同じ感覚を覚えていたらしく、憶測ではあるもののこれからの変化に注視するよう隼人に、そして自分自身に言い聞かせる。
「了か…け、結晶体に亀裂が!!」
状況の変化は思っていたよりもすぐに訪れた。
「……来るか」
西区にそびえる黒い水晶体に亀裂が走ったかと思った次の瞬間、一気に水晶体の上半分が崩壊し、そこからは___
______怪獣が現れた。
【♪襲撃BGM】『怪獣出現』
キィィイイーーー!!!
異界よりやってきた怪獣__宇宙戦闘獣は、金属同士を擦りつけたかの如き不気味な咆哮を熊本市に響き渡らせた。それと同時に南東方向にある熊本市高層ビル群へ向けて黄色の光弾を連続で発射した。
発射された光弾は着弾する度に爆発、直撃した建物を木っ端微塵に吹き飛ばしていく。社会人にとって今の時間帯は午後の小休憩である。被弾したビル内のオフィスにてくつろいでいた会社員らが生涯見ることは無かっただろう眩い閃光に包まれその多くがこの世を去る。
光弾の直撃による蒸発から辛うじて免れた屋外の人々にも安息の時間は無かった。建物の一部であった瓦礫やガラス片が人々に容赦なく降り注いできたのである。犠牲者は加速度的に増加していく。
大衆がパニックになるのは必至であった。
「うわぁあああぁあ!!」
「何あれ!ホントに何あれ!?」
「ビルが爆発したぞ!!」
「あ"ああああ!!!いでぇ!!足がぁああ!!!」
「こっちに来る!逃げろ逃げろ逃げろ!!」
「ちょ、押すなよぉ!?」
周りで隕石の野次馬をしていた市民らが怪獣から背を向けて我先にと逃げ惑い始めた。
学園艦へと向かう道を歩いていたエリカの足は止まっていた。彼女は眼前に横たわる光景にただ愕然としていた。
「何よ……アレ………本物の怪獣? 私たち、夢でも見てるの?」
エリさんは走るのを止めてしまった。呆然としてると言った方が正しいのかなんてのは、今はどうでもいい。
早く、ここから少しでも遠くに、学園艦に逃げないといけない。
頭の中にあったのはそれだけだった。
「エリさん!エリさん!!これは夢じゃない!紛れもない現実だ!足を止めちゃダメだ、もう少しで港に……うぉ!」ドサッ!
エリさんに足を止めるなと言った矢先に、俺は足が縺れて盛大に転んでしまった。
「いつつ……! これは…?」
その時、リュックにつけていた『
何故かカプセルの上部__クリスタル型ランプ部分が爛々と光り輝いていた。
おかしい…もう電池すら交換していなかったのに。手を加えなければ、光ることなんて、もう無いものだと思ってたのに。
……ここまで、俺が好きな特撮の
「これはお守りだけどおもちゃでしかない…俺に出来ることは……!!」
乱暴に、カプセルを拾う。
すると、掴んだ途端に長いこと忘れていたあの日の記憶が俺の頭の中に流れ込んできた。
__ぼくがエリちゃんを、みんなを守るヒーローになる!!__
__うん、いいよ!ぼくが地球を守るヒーローになる!__
__キミに、託す。大切なものを守る、光の力を__
そうだ。俺はこの光を知っている。
いや知っていた。
これは、約束。
これは、運命。
そう思った。
「それなら…!」
やれることは………ある!!
あの怪獣を、止める。俺が、止めるんだ。
みんなを、エリさんを……守る。
「……エリさん。俺、ちょっと行ってくる」
唐突に発したセリフ。エリさんはとても驚いていた。
特撮なら、ありきたりでちょっと気恥ずかしい筈のセリフ。でも、今は、今だけは違ったのかもしれない。
「…は!?アンタ何言ってるの!!あのバケモノがこっちに向かってきてるのにどこに行くつもりなの!?」
当然の反応だった。現実的なのは、背を向けて必死に逃げることな筈なんだ。
だけど、右手にあるアルファカプセルが、心の中のヒーローが叫んでる気がするんだ。
ここで逃げちゃダメなんだって。
ここで立ち向かわなくちゃいけないんだって。
「さっき、転んでいたおばあちゃんがいたんだ。今から助けて戻ってくる」
咄嗟に吐いた嘘。この嘘は果たして許されるのか?
例え今は許されなくとも、行かなくちゃいけないんだ。
「アンタ死ぬかもしれないのよ!?」
こんな状況で思っちゃいけないことかもしれないけど、心配してくれるのが嬉しかった。
だから、決心できたんだ。
「……苦しんでる人がいるのに見て見ぬふりをするのはヒーローじゃない!俺、行ってくる!!」ダッ!
後ろからエリさんの声が聞こえてくる。戻ってこいバカって。
だけど、俺は怪獣の方へ真っ直ぐに…人の波を掻き分けて必死に走る。
俺は急ぐ。
迫る
「あ、ちょっと!待ちなさい!!」
「__エリカ!!無事だったか……良かった…」
「逸見さんも早く学園艦に!もうすぐだから、急ごう!」
「で、でもハジメが……!」
エリカはハジメを追おうとしたが、丁度のタイミングで、別の方向からまほとマモルが来たことで足止めを食らってしまい、追うことが出来なかった。
いつの間にか、追わんとしていた幼馴染の背中は視界から消えていた。
ズゥーン…ズゥーン…ズゥーン…
怪獣の足音と、進むごとに発生する振動が街を揺らす。
怪獣の周りには動く者はもう一人もいない。
否、無人と化した街の一角を一人の少年__ハジメは走っていた。
「……お前、人ん星に来てなんてことしてくれてんだ!!」
届くことも、伝わることも無いと分かっていても、叫ばずにいられなかった。
周囲に広がる惨状を作り出した根源を見上げ睨む。
ゴォオオオオオ!
直後、上空を通過した自衛隊機に向けて、怪獣が市街地に発射したモノと同様の黄色光弾を再び発射した。
黄色の光弾は機体の右主翼を抉る。自衛隊機はそのまま機体の安定を取り戻せずに黒い尾を引きながら墜落していく。
「……させない!!」
ハジメは
___すると少年は眩く、烈しい光に包まれた。
来たぞ、我らの____
___ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!
「くっ!墜落する!!…隼人!ベイルアウトしろ!」
秋津はどんどんと下がっていく高度と、機体の異変を報せる
どう足掻いても高度が回復する見込みはなかった。
「はい!……あれ!? 脱出装置、動作しません!!」
後部操縦席__隼人から悲鳴に近い声が上がる。戦闘機乗りにとって最後の命綱が絶たれたのである。
「…!! ………もはやここまでか。すまない、亜美さん……」
秋津は死の予感から目を瞑った。愛する人への謝罪をしながら。
…だがしかし、いつまで経っても何も起きなかった。
身体が吹き飛ばされる感覚も、視界が真っ白に変わるなどと言うこともなかった。まだ空を飛んでいるのだと分かる。
一体何が?
秋津は目を開け、上を無意識に見上げると、そこには黒き巨人が存在していた。
「___巨人…?」
巨人は、秋津らの乗る機体を抱え込むように持ち、墜落を防いでくれたようだった。
「助けて…くれたのか?」
隼人の問いが聞こえたのか、巨人は肯定と取れる小さな頷きを返した。
そしてゆっくりと、秋津達の乗るRF-15を地上__市内の幹線道路上に下ろし、すぐさま怪獣のもとへと再び飛翔していった。
「あれが…
「え?あの巨人のことですか?」
「いや分からない…しかし、彼は我々の味方だと、確信した」
秋津はふと自分の頭の中に現れた単語を呟いてみたのだった。まるで昔、目を輝かせて観ていた特撮ヒーローの名前を呼んでいた気持ちと同じものを秋津は感じた。
何故、かの巨人が「ウルトラマン」なるものなのか。それは分からない。強いて言うならば、それは人の意思が介在できない
怪獣__コッヴは次の目標を自身よりも圧倒的な存在感を放つ、海に浮かぶ鋼鉄の巨大人工物__学園艦、黒森峰学園に定めた。
道中の邪魔な障害物や先程の相手…ジェット機よりも鈍く空を飛ぶ存在…報道ヘリを光弾と両腕の鎌__"コッヴシッケル"で破壊しながら学園艦が停泊する大型港へ向かう。
時はやや前に遡り、場面はエリカ達に移る。
「___ねえ、もしかしてアイツ…こっちに向かってきてない?」
なんとか港の端場前までやってきていたエリカ達。しかし目下の問題は市街地を縦断して臨海部にまで侵攻しつつある怪獣であった。怪獣の侵攻ルート上に彼女らはいる。
これでは仮に学園艦に乗り込めたとしてもその後に待っている結末は決して良いものではないのは確かである。
エリカは自身の予想が当たらないことを切に願っていたが、怪獣は彼女の予想通りこちら…学園艦の停泊している熊本港にしっかりと向かってきているのが確認できた。残り十分も経つか経たないかで港湾区域に到達するだろう。
「エリカ、マモル君!早くこちらに!」
「ハジメ…いったい何処に行ったんだよ…」
逃避行を共にしたまほとマモルの他にも、港湾区域には精神的支柱であり残ったセーフハウスでもある学園艦へと避難しようと、学園艦の住民と熊本市民が入り乱れて港内に多数ある"乗艦塔"__人員及びコンテナ等の輸送するための巨大
海上からではなく地上から学園艦に乗るならばそれらのどちらかを必ず経由しなければならない。上記のような混雑具合から、エリカ達が黒森峰へと戻ることは難しいとしか言えなかった。
…怪獣が学園艦に攻撃する可能性は高い。明らかにあの怪獣は学園艦を目指している。仮に混雑が改善され艦に乗り込めたとしても、それは最早巨大な棺桶に過ぎない。だが人々の選べる選択肢は学園艦へ向かうことしか残されていなかった。
「……やっぱり私が探してくるわ!」
いてもたってもいられなくなったエリカが、ハジメを連れ戻してくると言い出した。
「エリカ!今向こうに行ったらただ死にに行くだけだ。今は、耐えてくれ…」
エリカ達は人混みを避け、港湾区域のコンテナ積込区画の外縁に沿って避難していた。
付近にはコンテナや作業機械が多数放置されていることもあり、怪獣から身を隠すのには絶好の場所であった。退路を塞がれたことから隠れてやり過ごすという判断をした彼女達がとった選択がこれだった。
その矢先にエリカがここから動くのだと言えば、まほがそれを制止するのは当然であった。
「で、ですが隊長!」
食い下がるエリカだったが、背後より迫ってきていた怪獣の動きに変化があった。
港湾区域に進撃した怪獣の頭部、胸部の結晶体が一斉に光り出したのである。どうやらまたあの黄色光弾を撃つつもりだ。
しかも、発光の頻度や明度から先ほどよりも派手なもの。
「!! 不味い…アレが来る!みんな伏せるんだ!」
咄嗟のまほの指示によりエリカとマモルは素早くコンクリの大地に身を伏せた。
もう逃げられない。自分達はもうダメだろうと思っていた刹那、怪獣に劣らない巨大な人型の影が自分達と怪獣の間に空から割って入り、放たれた全ての光弾を打ち消した。
「……な、何?…巨大な……黒い、巨人なのか…?」
突然現れた、三人の窮地を救った存在__
「まるで…ヒーローみたいだ…」
幼い頃に観ていた、巨大特撮ヒーローの出立ちであった。
…それは"怪獣退治の専門家"。
…それは"人類の救世主"。
…それは"正義の使者"。
…それは"光の化身"。
…それは"希望の象徴"。
時空を超えて存在する不滅のヒーロー。
この世界で誕生した、新たなる
「私達を、守ってくれた?」
黒きウルトラマンは一度、背後足元に立ち尽くしているエリカ達を一瞥してから、すぐに怪獣の方に向き直る。
キィィ……
怪獣の鳴き声が先ほどよりも明らかに弱々しいものになっていた。その咆哮には驚き、怯えの色が見え隠れしていた。
怪獣にも野生の勘に通ずるものがあるらしい。突然現れた巨大存在、ウルトラマンが脅威である__こちらの命が危機に瀕するほどの力を有している危険な存在__と認識しているようだ。
巨人の佇まいとそこから滲み出るオーラといった諸々の要素を踏まえて、目の前の巨人を"天敵"だと怪獣の本能が警鐘を鳴らしているのだと思われる。
シュア!!
そんな怪獣に対して、三人の危機に駆けつけた巨人__鉄黒のウルトラマンが雄々しい掛け声を発し、構える。左手を開き相手に突き出し、右手には拳を作る構え…所謂、ファイティングポーズである。
不意に胸の蒼玉がきらりと輝く。
「あなたは…誰?」
エリカには黒い巨人の背中がどこか懐かしいように感じた。アツく、頼もしかった。望みはあると、思わせてくれる、そんな背中だった。
ふと、巨人__ウルトラマンがこう喋ったような感覚を覚える。
《ここから先は、行かせない!》
……と。それは思念のようなもの。巨人なりの決意表明にも取れた。
巨人の目は、怪獣を真っ直ぐ見据えている。
「………もしかして…学園艦を、守ろうとしてるの…?」
あと
がき
【2023年版編集】
逸見エリカのヒーロー、第2夜を読んでくださりありがとうございます。
さて、ウルトラマンと対戦する怪獣第一号は、本作では宇宙戦闘獣コッヴが務めることとなりました。候補としてはベムラー、怪生物アーケルス、その他大型のクトゥルフ神話生物などがありましたが、サイズ感やデザインといった諸々の要素から最終的にコッヴに落ち着きました。
TDGの設定や怪獣・異星人、音楽はどれも素晴らしいものばかりですね。ちなみに、BGMとして挙げた『怪獣出現』…投稿者がよくトイレで苦戦している際に脳内で流れたりするとかしないとか。
ハジメ君達、整備科のパンツァージャケットにあたるツナギですが、デザインのイメージは『ウルトラマンZ』の対怪獣特殊空挺機甲隊__ストレイジの隊員服です。
ハジメ君の苦手な教科は英語・数学全般と黒森峰特別科目の独語です。
ちなみに授業自体は真面目に取り組んでますが、実力と理解がそれについてこれていないという状況です。また、よく予習プリントや自学ノートをエリカさんから写させてもらってたりもします。
※これより下はハジメ君たちの所属している整備科とはなんぞやと言う話となります※
『黒森峰高等部整備科』。
それは、去年…ハジメ達が入学した年に設立された、黒森峰高等部の戦車道履修部に属する新たな集団__ エリカ達の“機甲科”が所有し運用する競技戦車の整備を学び実践する男子オンリーの活動チーム__である。無論、ハジメ、マモル、ヒカル達がここに所属している。
昨今の黒森峰高等部戦車道チームの快進撃(九連覇)や大学戦車道の躍進といった出来事によって、日本戦車道界隈は戦後最大の隆盛を迎えていた。そのため黒森峰戦車道OGは、十連覇を控えた母校の強化と戦車道に関わる人材の増加と確保を狙って、「戦車道の門は男子にも開かれるべき」、「率先して改革を行ない、日本戦車道を牽引する義務が強豪校にはある」と言う建前の元、上記の男子整備科が誕生するに至った。
いくつかのスポンサーや共学化以前…女学園時代OGらからは難色を示されたものの、結論としては、様々な思惑が混じりつつ行われた黒森峰高等部戦車道履修部への整備科導入は大成功と言って差し支えないものであった。
この日本の(大学・社会人・草戦車道を抜きにして)中学・高校戦車道初の試み…「男子の公式戦車整備チームの発足」は文部科学省と日本戦車道連盟に大きく評価された。
実際どんなものかと見てみれば___
・これまで外部業者に委託するか、機甲科の女子生徒がしていた戦車整備を同科男子生徒が担当したことで、業者に対する経費の削減や機甲科生徒の負担軽減に繋がった。
・恋バナ好きの少女達にとってモチベーションアップの根本要素となっていたり、整備科男子が戦車道、学校生活関係なく相談相手(カウンセラー)に自然となっていたりと、チームの精神的支柱の役割を持つようになった。女学園時代OGの諸先輩方曰く、「羨まけしからん。ふざけやがって(意訳)」とのこと。
・「戦車に触りたくても、地元校や元志望校の学園艦の戦車道チームでは男子の受け入れをやっていないから、黒森峰高等部の男子整備科を選んだ」というハジメの次の代…整備士の卵である男子達__北は北海道、南は沖縄まで__が集まることとなり、男子高校生整備士の育成ノウハウと人材獲得のイニシアチブを得ることとなった。この差を埋めるべく、プラウダ、サンダース、アンツィオ、知波単、継続と言った他共学校が、男子整備士の募集と、戦車道男子整備チーム等を遅れて数年後に行なっていくこととなる。
___などなど…蓋を開けてみれば良いこと尽くしであった。
そういったこともあり、異色であった男子整備科は難なく黒森峰に受け入れられ、今日も整備科は機甲科を支えるチームとして活躍している。
黒森峰戦車道履修部整備科の説明としては大体こんな風になります。
次回も、お楽しみに。
※2022/11/11 挿絵を変更、更新しました。
________
次回
予告
エリカ達の前に突然現れた鉄黒の巨人__ウルトラマン。
かの巨人と怪獣__コッヴの出現に呼応するかのように、世界各地でも怪獣が姿を見せ始めた。
しかしこれは日本を、世界を懸けた戦いの序章でしかなかった!
次回!ウルトラマンナハト、
【壊れゆく日常】!
サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)
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ミライVSマホ カレー対決
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ハジメ、迷い家にて