旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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凶虫怪獣 クモンガ

超遺伝子獣 ギャオス

登場





第3夜 【壊れゆく日常】

 

 

 

 

 

《コイツは…絶対学園艦には、エリさん達のところへは行かせない!》

 

ヘアッ!

 

 巨人___黒きウルトラマンは怪獣___コッヴへ猛ダッシュで迫ると、前傾姿勢で牽制光弾、光球型(ブリット)"ナハトショット"を手から手刀の要領で撃ち出す。

 

キィイィイイアア!!

 

 光撃は見事にコッヴの胴体に命中。火花が散った。

 その一撃により怒ったのかコッヴは雄叫びをあげながら、こちらに肉薄する巨人に向けて腕の凶鎌"コッヴ・シッケル"を無造作に振り下ろす。

 中学高校と、ケンカらしいケンカをしてこなければ、何らかの武道・武芸に打ち込んでいたわけでもないハジメ。その戦闘経験と身体能力は良くも悪くもそのまま光の巨人__ウルトラマンとしての肉体の動きに大きく反映される。

 

ズガアッ!

 

グアッ!

 

 鎌の振り下ろしによる打撃を防御する形で、右腕に食らった巨人はその痛みに呻いた。負傷した右腕を左手で抑えて膝をついてしまう。

 戦い方…それも化け物相手となれば、余計に経験不足であるのは明らかだった。光の巨人(ウルトラマン)側の記憶が時折アシストしてくれることはあれど、それはあくまでもウルトラマン側が経験したビジョンを()()()()()

 実際に身体を動かすのはハジメ本人である以上、それは言わばアドバイスのようなモノとしか言えず、それ以上でもそれ以下のモノでもなかった。

 巨人__ウルトラマンとしての戦い方に、ハジメは四苦八苦していた。

 

《痛い…けど、ここでやられたら!》

 

 痛みを気合いで乗り切り、立ち上がらんとした。

 しかし先ほどの巨人の硬直をコッヴは見逃してはいなかった。

 

キィィイ!!

 

バシュッ! バシュッ! バシュッ! ドドドォオオン!

 

…グアッ!

 

 接近していたコッヴが追撃とばかりにほぼゼロ距離からの光弾連射を行なったのである。二発、三発四発と、続け様に放たれた破壊光弾は回避も出来ない巨人に全て命中した。

 それにより、吹き飛ばされた巨人は背後のビルに激突。ビルは上部構造が破壊し尽くされ半壊状態となってしまった。

 

ガラガラガラッ!__ドシャア!!

 

 あの光弾の攻撃を掻い潜り、両腕の大鎌をなんとかしなければ、コッヴの攻略は難しい。

 だが攻めあぐねていれば、自分だけでなく、熊本市とそこに住まう人々に更なる危害が及ぶだろう。

 

《このままだともっと被害が…》

 

 そう思った巨人__ハジメはすぐに立ち上がりコッヴから後方へのサイドステップを数回挟み、距離をとった。

 巨人の後退を好機と捉えたコッヴ。巨人が不利を悟り逃げ出したと思ったのだろう。再び腕鎌による攻撃を仕掛けるべく飛び道具(黄色光弾)を発射することなく自ら距離を詰めてきた。

 対するハジメはその動きを狙っていたらしく、接近してきたコッヴを跳び箱に見立てて大きく跳躍。

 鎌による横方向への薙ぎ払いを空中で避けつつ着地。

 瞬時にコッヴの背後に回った。

 

フッ!

 

ガシッ!

 

 コッヴの尻尾根本部分を巨人が両腕でホールドし素早く掴み上げる。

 

キィィイ!?

 

《人のいないところへ…!》

 

ハァアア!!

 

 そしてジャイアントスイングの要領で、近辺にあった白川河川敷下流域めがけて巨人はコッヴを勢いよく投げ飛ばした。空に綺麗な放物線が描かれる。

 

___ズズゥウウウーン!!

 

 コッヴが地面に落着したことにより、川水を含んだ土砂が空高く舞い上がる。

 頭部から大地に激突したコッヴのもがきは目に見えるほど鈍くなっていた。

 

《自然とイメージが湧いてくる…よし、これで決める!》

 

 この戦いを終わらせる。ハジメの脳内に、先程よりも明確かつ鮮明なビジョンが駆け巡る。

 そこからは光の巨人(ウルトラマン)の肉体が自然と()()()()を取らんとする。ハジメはその()()に従う。

 巨人の両腕はいつの間にか爛々としたシアンの輝きを放っていた。体内の光エネルギーを一挙に腕部に集約しているのだ。それは、必殺技の準備動作なのだと、勘の良い者はすぐに気がついた。

 

______シュワッ!!

 

 そして…体勢を立て直して起き上がろうとしていたコッヴに向けて、巨人は素早く腕を十字にクロスさせた。そう…それは、幾多の悪しき存在を葬ったあの必殺光線の構えである。

 

《___"スペシウム光線"!!》

 

キィィイ……イイィイ………!

 

 両腕が激しくスパークし、空色の光波熱線___"スペシウム光線"が発射された。

 猛烈なエネルギーの照射。光線(それ)は閃光の発生とほぼ同時に着弾する。逃れようは無い。

 

キィ………ギィイヤァ!

 

 怪獣のおどろおどろしい断末魔。

 光線が直撃し、数秒間の連続照射を受けたコッヴの肉体は、その負荷に耐えられずにすべて光の粒子へと変換され、晴れ渡った青空の彼方へと消えていったのだった。

 

《……なんとか倒せた…そうだ、エリさん達は!?》

 

 辛勝だった。初の変身、初の実戦…何もかもが初めての経験だった。戦闘が終わった今頃になって、ハジメの両肩には例え用の無い疲労がずしりと、重くのしかかってきた。

 それでもハジメは光の巨人の姿のまま、エリカ達が無事かどうか学園艦の方へ…港の方へと目を向ける。自身のことよりも、幼馴染達のことが気がかりだったのだ。

 港にはこちらを見上げているエリカ、まほやマモル、その他大勢の黒森峰生徒、そして市民達が立っていた。彼ら彼女らの目に絶望の色はこれっぽっちも無かった。

 かなり遠くにいるはずなのだが、しっかりハジメには生徒みんなの声が聞こえてくる。

 

「助かったな…」

「すごい……あの怪獣を倒しちゃった…」

「何者なんだ…?」

「投げ技からのトドメの光線って…かっけぇ…」

「ここから今度はあの巨人が暴れたらどうしよう…」

 

 皆の言うこと__ウルトラマンに対する心持ちは千差万別であった。巨人の活躍を賞賛する者がいれば、絶望は無くとも、怯えや恐れを含んだ声、視線を投げる者達もたしかにいた。

 

「何言ってるの!あの黒い巨人は私たちと学園艦を守ってくれたじゃない!」

 

 そう真っ先に一喝したのはエリカであった。

 

「現に、私達…学園艦から怪獣を遠ざけて、怪獣を倒してくれた。()には、明確な意思があるって、そうは思わないわけ!?」

 

 彼女が巨人と言葉を交わしたワケでは無いが、たしかにあの窮地の際、黒目の無い光り輝く目が、自分達の身を案じてくれていたのだと、彼女は確信していた。

 

「で、でも…それだけじゃ…なんとも……」

 

 尚も食い下がり不安を吐露する生徒。エリカの不鮮明かつ直感的な説明だけでは、納得できるものも納得はできない。上のように言われてしまえば、エリカも閉口せざるを得なかった。

 張本人__巨人が人語で対話できないのならばそれは尚のこと。「突然現れた巨人が、怪物を原理不明の光波熱線で撃滅しました。これは人類の味方です」とはならないのである。

 

「あの巨人は……ウルトラマンはそんなことしない!」

 

 意を決してエリカが再び放った言葉に含まれていた単語(ワンフレーズ)が、その場の空気を変えた。

 

「えっと…ウルトラマンって何?あの巨人のこと?」

 

 ざわざわと、周囲の生徒・市民達が"ウルトラマン"と言う単語を口々に、確かめるように繰り返し呟き始めた。

 

「わからない…けど、そんな気がする」

 

 ウルトラマン…ウルトラマン、ウルトラマン。皆がそう口にする。かの巨人…ヒーローの名前が、人々へと波及していく。

 

「ワタシもなんとなく、なんとなくだけど、分かる…気がする」

 

 先ほどまでエリカの物言いに懐疑的であった生徒達も、彼女の考えに理解を示し始めたのである。

 

 その単語…名称には、一種の神秘性があった。その語呂由来のものなのか、横文字(カタカナ)の並び方にあるのか、はたまたその意味合いにあるのかは分からなかったが。

 ただ一つ確信を持って言えることは、()()が人々に平静を取り戻させるための十分な力を与えたということである。

 

「ウルトラマン…。うん、ウルトラマン、か」

 

 エリカの言った黒き巨人の名前を、まほも感慨深くそして満足そうに呟いていた。

 

《……ウルトラマン…俺の、この姿の名前か?》

 

 十数キロ弱もの距離に佇むハジメ__光の巨人(ウルトラマン)にも、港での会話は聞こえていた。

 疑問符混じりではありながらも、ハジメも抵抗無くその名前を受け入れられた。

 しかし、名前云々の前に行われていた会話もハジメは一通り聞いている。次の問題はそれだった。いかにして自身が敵対的存在でないと伝えるか…である。

 

《まあ、当然だよなぁ…俺自身、この体になってビックリしてるし、どうやって敵じゃないって………そうだ!》

 

 誤解やすれ違いを起こさないような…いい案が無いものかと考えていた時、ハジメは頭の上にピコーン!と豆電球が出るような閃きが走る。

 そして彼はそれを一か八か、当たって砕けろの精神でやってみることにした。…ここで砕けてしまったらそれこそ終わりであると言うのは野暮なものである。

 

ヘアッ!___グッ!!

 

 ハジメ__ウルトラマンは右手を前に出し、親指を立てる。

 それは所謂、サムズアップであった。「ビシッ!」っと擬音が聞こえてきそうなほどの見事なものだ。

 そしてサムズアップに加えて、ゆっくりと穏やかに頷いてみせた。

 

「! 見ろ、ウルトラマンが何かしてるぞ!」

「あれは…グッジョブ!ってことかな?」

「やっぱり正義の味方なんだよ!」

「私たちを守ってくれてありがとう!ウルトラマン!」

「俺達の学園艦を救ってくれてありがとな!」

「助かりましたぁ!ありがとーーー!」

 

 ハジメの試みは成功であった。意思の疎通がジェスチャーとはいえ、人々が理解できるものを示したウルトラマンに、彼ら彼女らはコミニケーションを取れる相手だと好意的に認識してくれたのである。

 

「ありがとう。ウルトラマン…」

 

………シュワッチ!

 

 それを確認した光の巨人は満足したように再度頷いた後、空に両手を広げて飛び去っていく。

 自分に手を振って見送るエリカ達の姿が見えたハジメは、言い表せれないほどの達成感と安心感に包まれていた。

 

 

 

 

 

______

______

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「はっ!…そう言えばハジメは!? まさかあの怪獣に踏み潰されたなんてないわよね…?」

 

 一連の騒動が幕を閉じ、心に幾分かの余裕ができたエリカはハジメの安否のみが気掛かりであった。

 周囲に港に集まった人々の中に、それらしい人影は見受けられなかった。

 彼女の顔に焦りの色が見える。

 

「い、逸見さん落ち着いて…」

 

 マモルがなだめようとしたが、それではエリカの心配は治まらなかった。

 

「落ち着いていられるわけないじゃない!マモル、一緒にハジメを探すの手伝いなさい!」

 

 マモルの肩をビクつかせるほどの剣幕を彼女は見せた。両肩を掴まれ前後に激しく揺さぶられ、マモルは返事すらままならなかった。

 エリカの必死の形相、勢い…それらはひとえにハジメを想っているが故にである。

 マモルも、そして側にいるまほも、その気持ちは痛いほど分かっていた。

 

「……! エリカ、向こうからハジメ君が走ってきたぞ!」

 

 が、ここで吉報が訪れる。

 まほが港の市街地側からこちらへと向かってきている件のハジメの姿を発見したのである。

 エリカはまほの言葉を聞くなり、彼女が指差した方向に素早く目を向けると、元気に手を振りながら走ってくる、見慣れた幼馴染の姿があった。

 

「おーい!みんなぁー!」

 

 こちらの心配を他所に、少年は屈託のない笑顔で走ってくる。

 

「!! ハジメ!」ダッ!

 

 エリカもまた、ハジメの下へと走っていき____

 

「良かった、エリさんも無事だブヘッ!?」ベチィン!!!

 

 _____思い切り平手打ちをかましてやったのだった。感動の再会を想像していた方々には申し訳ない限りである。ハジメは変な声を上げて盛大に転倒、若干涙目である。

 

「「うわぁ………」」

 

 感動の再会…になるはずであった二人の様子を見守っていたまほとマモルの顔は「あーあ、やっちゃったよ」と言いたげな顔になっていた。マモルは見るのも辛いと目を瞑っており、まほに至っては両目に手を当てていた。

 しかし、平手打ち(ビンタ)にふみきった彼女__エリカの心内も察してやってほしい。

 

「アンタね、人がどのくらい心配したと思ってるの!?、他人の命の前にまず自分の命を大切にしなさいよ!!」

 

 痛そうに頬を摩るハジメの両肩を掴み、ブンブンと振るエリカ。その目尻には小さな()が溜まっていた。

 

「う…ごめん…ごめんって。…いてて、初めてエリさんに強めに引っ叩かれた…」

 

 ビンタによる心身両方の痛みと、現在進行形でされている両方への揺さぶりによるものからか、ハジメの反応はやや鈍っていた。

 それでも、罪悪感等が無いかと言われたら否である。みんなを守るためだったとはいえ、幼馴染のエリカには嘘をついたし、途轍もない危険に自ら飛び込みもした。結果良ければ…では片付けてはいけないと、ハジメも理解していた。

 

「もしあの時、怪獣がハジメに目をつけてたらどうなってたか!」

 

 怪獣__コッヴは見境なく動くモノに向けて執拗に攻撃を加えていた。

 コッヴに向かうように走った__現にそうした__ハジメが狙われてもおかしくなかったのはたしかなのである。

 そのハジメがウルトラマンになったことなど知らないエリカからしたら、と言うよりも脅威に晒された側の人間としては当然の言い分だ。

 ハジメに反論等の余地は無かった。…元より言い返したりするような気も無かったが。

 

「そ、それは…ごめん…」

 

 ハジメはあの姿__光の巨人、ウルトラマンについては秘密にしておこうと決意していた。

 なお、自分があの黒い巨人本人だったんですよなんて到底言える気概も時間もなく、エリカの説教を聞かねければならなかった。

 そこから十数分、立ちっぱなしでハジメは彼女の説教を受けた。

 

「まったくもう!」

 

 説教がひと段落したハズであるのに、未だ憤りの只中にエリカはいた。

 彼女の目はまだ彼を許してないという思念を感じる。それは最早、意地に近いものであった。自分がどれだけ心配したのか分かってくれ、もっと反省してくれという意思表示とも取れた。

 

「い、逸見さん、一回落ち着こう? ね?」

「まあまあエリカ、そこらへんでやめておけ。ハジメ君のそう言う熱いところはお前が一番分かっているだろ? そんなに責めてやるな。取り敢えず、今はハジメ君が戻ってきて良かったじゃないか」

 

「う…すいません、言い過ぎました隊長…」

 

 見兼ねたまほの仲裁によってエリカは頭を冷やせたらしく、一つ小さな短い溜め息を挟んで素直に彼女は引き下がった。

 

「…ハジメが全て悪いわけじゃないけど、ハジメはハジメで、いきなり怪獣の方に向かって走ってったって聞いた時はビックリしたからね!あと、逸見さんをこんなに心配させたら駄目だよ!」

 

「それに関しても、ホントにすまん…」

 

 いつもは物静かで声も荒げない筈の親友のマモルからも、やや厳しめの叱責をいただくハジメ。

 すると、ションボリとした様子のハジメをエリカは自分に引き寄せて抱きしめた。

 

「……でも、無事で本当に良かった…」

 

「………うん」

 

 エリカはハジメが無事戻ってきたことに安堵したのだった。

 しばらくすると気持ちの整理ができたのかエリカはハジメから離れた。

 思い出したかのように、ハジメはポツリと呟く。

 

「……結局、あの巨人は一体なんだったんだろ?」

 

「「「違う!」」」

 

 唐突な否定を三人から貰ったハジメ。

 

「え?」

 

 困惑するハジメに対して三人がその否定の意味を教える。

 

「あれはただの巨人じゃないわ。ウルトラマン、ウルトラマンナハト…よ!」

 

 エリカは自信満々にそう言った。ウルトラマンとして聞いていた際の会話には無かった、ある単語に、ハジメは首を傾げた。

 

「ウルトラマン……"ナハト"?」

 

「そうだな…。"ナハト"とは独語で"夜"と言う意味なのはハジメ君も分かるな?」

 

「は、はあ…まあ、はい」

 

 ドイツと所縁のある黒森味故に独単語を採用したのだろう。誰かが、あのウルトラマンの姿から、連想できるものの中でそれが選ばれたのだなとハジメは一人勝手に考察していた。

 

「どうだい?かっこいいだろう?逸見さんが考えたんだよ?」

 

「え?エリさんが名付け親なの?」

 

 純粋にハジメは驚く。

 マモルの余計な一言を掻き消すようにエリカが割って入る。

 

「ちょっ!マモル、あんたは黙りなさい!」

 

 気恥ずかしからか、暫定名付け親のエリカの顔は赤かった。

 

「いいじゃないかエリカ。他の生徒たちも皆その呼び名を気に入っていたようだぞ?」

 

「そ、それはぁ…」

 

 まほからの何とも言えないフォローを受けて、しどろもどろな様子である。相手が相手であるため、下手に突っ込むことも、噛みつくこともできなかったがためだろう。

 

「ウルトラマン、ナハト……それが___」

 

___自分の名前…自分が変身した黒い巨人の名前であるのだと、三人のやりとりを他所にハジメはその名前を噛み締めていたのだった。

 余韻に浸っているハジメ___

 

「…あら?」

 

 ___その様子を見ていたエリカが、彼の身体のある異変に気づき、それを指摘する。

 

「ハジメ、アンタ右の二の腕、青くなってるじゃない!」

 

「え? あ、ホントだ。内出血してる…」

 

 ハジメもエリカに指摘されるまでは負傷にまったく気づかなかったようで、腕に打撲の青い痣ができてることに心底驚いていた。

 その打撲痕の原因が、コッヴの大鎌を受けた際のダメージが反映されたものなのだと本人が理解するのはここから数分後である。

 

「打撲してるなら早く言いなさいよ! ほら、ボーッとしてないで、艦内病院行くわよ!一応言っとくけど、拒否権は無いから!」グィッ!

 

 エリカは有無も言わさず、幼馴染の右腕を強引気味に掴むと、黒森峰の艦内病院___学園艦の居住区域である艦上都市に必ず一つはある医療施設___でハジメの怪我を診せるために、混乱が収拾したことで混雑具合が改善した乗艦塔へと一目散に向かう。

 

「(変身ん時の怪我って自分に返ってくるのか…これで皆んなにバレるのは避けないと…)」

 

 そう考えながらエリカに手を引かれて学園艦に戻るハジメなのであった。

 

 

 

______

 

 

 

凡そ1時間後_

 

 

『___今流れている映像は実際に、本日午後3時過ぎに熊本市で撮られた映像です。画面中央に映っているのが、同市に、そして日本に初めて現れた大型特殊生物、通称"怪獣"となります。政府がC.O.V. …コッヴと命名したこの怪獣は、画面左側に映っている黒い巨人と交戦し、撃破されました。怪獣を撃破した黒い巨人は、戦闘後に市上空へと飛翔し現在までその行方の一切が掴めていません』

 

 熊本市内の定点カメラや、市民から提供された動画を交えて今日起こった九州での異常事態を、テレビのニュースキャスターは説明している。

 

『___コッヴは突如市上空より隕石体で飛来し西区に落着後、破壊活動を行ないました。これにより熊本市西部、北部及び臨海部が甚大な被害を受け、さらに航空自衛隊の偵察機RF-15MJ(イーグル)が一機と現場上空にいた各報道機関の民間ヘリが多数撃墜されました。なお、自衛隊機のパイロット2名は無事とのことです。有識者の間では、現在南米ブラジルやラテンアメリカ諸国で大量発生している大蜘蛛、日本名"クモンガ"も怪獣なのではないかという意見が複数挙がっています。今回の怪獣災害…特殊生物災害での死傷者数は5千人を超えており、今後更に増えると予想されます。現在、市内で消防や自衛隊、警察による懸命の行方不明者の捜索、救助活動が続いています』

 

 モニター画面にはいくつかの数字が説明付きで次々と映る。

 それらの数が意味しているのは、今日消えた人の命の数であったり、安否の把握できない…今も被災地域の瓦礫の下で救助を待つ人の数であった。

 明るい意味を持つような数字は何一つ無かった。

 

『また、熊本市民の間では怪獣を撃退した黒い巨人のことを"ウルトラマン"と呼んでいるようで、熊本に寄港していた黒森峰学園の生徒たちからは"ウルトラマンナハト"とも呼ばれているとのことです』

 

 最後に、謎の巨人関連の話題を一つ挟み、画面はCMに切り替わった。

 

「今回ので5千人もの人たちが…」

 

 命を落とした人の数…日常の中でそれは日本から遠く離れた発展途上国での大規模災害や地域紛争のニュースで見るものだった。

 だが、今は違う。その数字に数えられる側になった実感があった。

 

「ウチの学校の生徒は死者負傷者ともにゼロだったらしいわ」

 

 ハジメはエリカに付き添われ、丁度病院での診察が終わったところであった。

 現在は受付からの呼び出しがかかってくるまで、待合席の柱に取り付けられたモニターで流されているテレビニュースを二人は見ているわけである。

 

『先ほど、官邸にて垂水総理は全閣僚を非常招集し緊急閣僚会議を開きました。会議の内容としては、今回のような警察力によるカバーが不可能な怪獣災害が発生した場合に、自衛隊による迅速な展開と迎撃を可能とする"特殊防衛出動"や海上自衛隊の護衛艦による学園艦の護衛、怪獣に対する戦車道履修生による自衛行動の一部容認などを盛り込んだ"対特殊生物特別措置法"、いわゆる怪獣特措法案を国会に提出することを閣議決定し___』

 

 日本政府も今回の未曾有の事態を受けて、今後の対策に動き出しているようであった。

 

「日本は、これからどうなるんだろう…」

 

 ハジメの呟きを拾ってくれるのは、エリカだけである。

 

「そんなの、誰にも分からないわよ」

 

 そんな彼女も、この先自分達にまた降りかかるであろう特殊生物__怪獣の恐怖に顔を曇らせながらテレビを観ていた。

 

 

 

 この数日後、国会に提出された"対特殊生物特別措置法案"の成立への反対が2割ほど__一部野党議員の投票があったが、それ以外の与野党議員が全員賛成したことにより即可決となり、近年稀に見ない早さでそこからさらに数日後、対特殊生物特別措置法が公布されたのだった。

 

『これは、日本国国民の皆様の生命、財産、権利を今後も起こるであろう未曾有の特殊生物災害から守るための法律であります!まず、海上保安庁と合同で今後は海上自衛隊の艦艇も学園艦の護衛を行うこととなり___』

 

 連日、テレビでは垂水内閣総理大臣の会見が続けて流れており、画面に映る総理は国民に対して今回の法律公布についての説明とその必要性を話していた。それをまた、ニュース・ワイドショーのいつもの人間と専門家なるゲストを招いてあれやこれやと騒いでいる。

 

『__また、巷でウルトラマンと呼称されている巨大人型存在に関してですが、現在空海両自衛隊が在日米軍と共同で捜索を行なっております。かの存在が我が国、そして人類に敵対的であるのか、友好的であるのかは今の段階では結論づけることは不可能ではありますが、我々からのコンタクトはとるべきだとし___』

 

 ブラジルのクモンガ発生、熊本のコッヴ襲来を皮切りにして、世界各地で小型の特殊生物が出現し始めた。主にカマキリ、ハチ、シロアリなどの虫の突然変異種である。しかしながら日本以外では依然として50メートルを超えるような大型特殊生物は出現しておらず、各国軍の歩兵装備で十分に対応可能であり、現に一部の国では戦車道履修生がなんと自身の搭乗戦車で駆除した例もあった。

 そのため、各国首脳も特殊生物の撃退など、容易にできると楽観的に考えてしまう要因を生み出した。もしもの時はニホンを助けたあの巨人、ウルトラマンが我が国にもきっとやってくると。それがダメだったなら、人類の叡智の炎__核を使えば良いと。そのような安直かつ愚鈍な考えを、人類は依然として捨てることが出来ないでいた。

 

 世界の情勢を鑑みて、今後も日本に出現すると思われる特殊生物への対抗策として、防衛装備庁では冷戦時代に構想されていたものの技術力の不足などにより頓挫し、凍結されていた日米合同の新型兵器"指向性放電砲"開発計画___通称『Lプロジェクト』を日本単独で再始動することを決定。

 海上自衛隊からは"いぶき"などに次ぐ新たな航空護衛艦や汎用護衛艦、極秘裏の特殊潜水艦などを全国の学園艦用大型ドッグを利用して、短期間で建造を行うことなどを記した___『Z六号計画』が。

 陸上自衛隊からは〈12式自走電磁砲〉の追加生産及び配備と、"首都防衛移動要塞"の開発を含む___『新本土防衛構想』が提出されることとなる。

 防衛省・自衛隊は、防衛力の拡充を急ぐのであった。

 

 

 

_________

 

 

 

日本国九州地方 長崎県 姫神島

 

 

 

 姫神島中央に茂る山林…その最奥にある天然の洞窟の中、その岩肌に体積の半分ほどがめり込んでいる__鶏のものよりも一回り大きい__卵がいくつかあった。

 その卵は恐らく地殻変動によって地表に現れた太古の卵の化石のような見た目でありお世辞にも市場で出回るような、食用の綺麗で艶のあるものとは言えなかった。

 

 

パキッ!……パキャパキ………

 

 

___ギャア!ギャア!

 

 

 しかし、それらの卵は()()()()()。化石ではなかったのだ。

 いくつかある卵のうちの一つから、黒い鳥のようなモノが孵化した。それに続いて他の卵からも同じようなモノが孵化を始める。

 ……これは、のちに災いの影となる。

 

 

_________

 

 

 

南米 ブラジル連邦共和国 アマゾナス州 ジャウー国立公園

 

 

 

バババババッ! バババババッ!

 

「50メーターのバケモノに、銃なんか効くわけないだろ!早く逃げろ!」

「退避、退避ぃ!急げぇ!」

「洞窟内の掃討を担当していた第8分隊、戻ってきません!」

「嘘だろ!?コマンドー隊員も一緒だったハズだぞ!?」

「応答する部隊をかき集めろ!今はあの化け物をどうにかして潰すんだ!」

 

 あるアマゾン軍の歩兵分隊は、部隊の合流ポイントまで後退しようと行動していた。

 彼らはブラジル国内で再び活動の活発化並びに個体数の上昇を確認したクモンガ駆除のために編成された対クモンガ部隊の一つであり、その第二次駆除作戦に従事していた。

 彼らは必死に走っていた。これまでに遭遇した中でも最大級の__50メートル強のクモンガと相対したらしい。現有の歩兵火力での駆除は出来ないとして、彼らは全速力で後退していたわけである。

 

パタパタパタパタッ!

 

 そんな分隊の上空を6機の武装ヘリコプターが通り過ぎていく。ブラジル陸軍__アマゾン軍の対戦車ヘリ〈AS.555 フェニック2〉である。

 彼らの救援要請に呼応した増援部隊であった。

 

「フェニックが現着!」

 

 夥しい数の犠牲から、ブラジル政府はクモンガの脅威を認知するに至った。

 この怪物の出現の要因が何であれ、人間を喰らい版図を広げるという前代未聞の敵性生物がこれ以上のさばるのを、彼らは許さなかった。

 しかしながら、クモンガも駆除されるまで大人しくしているわけでは無かった。

 生存域を脅かす人類を相手するべく、特定の一個体が更なる巨大化を行ない、打って出たのである。

 

「よし!対戦車ヘリと攻撃タイミングを合わせる!」

 

「「「了解!!」」」

 

「大型クモンガ、来ます!」

 

キシャアアアーー!!

 

 おぞましい鳴き声と共に密林を薙ぎ倒しつつ姿を見せたのは、件のクモンガの急成熟体__大型個体であった。

 

『あのモンスパイダーを倒すぞ!』

『こちらサンバ1。これより、地上部隊への近接航空支援を行う』

『対戦車ミサイル、ファイア!』

 

 先手必勝。ヘリからは対地ミサイルが絶え間なく吐き出された。

 

バシュウン! バシュウン! バシュウン!

 

ドドカァアアーーン!!

 

「ミサイル命中!全弾当たりました!」

 

 爆炎にクモンガは包まれた…が、黒煙の中より再びその姿を五体満足で現した。

 

「おい、あんなに食らってもピンピンしてるぞ…」

「まさか……効いて…いないのか?」

 

 クモンガは自身へ攻撃してきたヘリ部隊を認識すると、すぐさま網状の酸糸を放出して捕える。そしてそのままヘリを捕えた糸の塊を大地へと叩きつけ、周囲一帯に大爆発が起こした。

 アマゾン熱帯雨林内に轟轟と赤橙に揺らめく炎が上がる。

 

「っ、フェニック…全滅!」

「こっち向いたぞ!」

「た、退避…だ!!」

 

 ものの数秒で航空戦力が無力化された満身創痍の地上部隊。最早クモンガにとれる対抗手段は消え去っていた。

 

ミシャアァアアアーーー!!

 

 再び咆哮を上げたクモンガは、地上に残る分隊に向けて酸の糸の束を発射した。それに絡めとられた分隊員達はたちまち体を強酸に溶かされ、物言わぬ亡骸と化す。

 

 その後、この大型クモンガは残党の小型、中型種を率いて今時駆除作戦に参加していたアマゾン軍陸上部隊と航空戦力を瓦解させ、その姿を眩ました。

 同作戦より帰還した部隊は出動前の二割にも満たなかったという。

 事態がより深刻な方向へと動いていることを重く受け止めたブラジル政府は、各国へこの情報を開示し日本の熊本コッヴ襲来と同様…もしくはそれ以上の脅威が訪れるだろうことを警告した。しかし、同じ特殊生物災害を経験した日本以外の主要国の意識は依然として薄かった。

 

 

_______

 

 

 

中東 ペルシャ湾 石油プラットフォーム

 

 

 

 世界有数の石油産出地帯でもある同湾内に昨今新たに建設された石油プラットフォームがあった。

 そこでは、ある問題が発生していた。

 プラットフォーム内に仮設された住居フロアの一室ではそのとある問題で頭を抱えている責任者がいる。

 

「ううむ……なぜだ?海底油田は確かにそこにあるのに、最近になってから石油が全くと言っていいほど採掘できない……。頻繁に輸送ポンプもへし折れて穴が空いたりでもうお手上げだ…。赤字だ…ウチはもう赤字だぁ…どうしてこんなことに……」

 

 責任者は困り果てているようで、打つ手無しだと一人愚痴を室内で溢していた。

 そんな彼に追い討ちを掛けるかのごとく、石油タンカーやここのプラットフォームで雇っている作業員らが書いた報告書を見てさらに頭を抱える。

 

「…さらには大量発生した茶色の大ヒトデの群れが作業の邪魔になっていると…はぁ…駆除にも金が掛かる…。これでは大赤字じゃないか」

 

 さらにここから数日後、謎の海底地震による地盤沈下によって彼と彼の所有するこのプラットフォームは赤字の原因究明を待たずして崩壊することとなる。

 

 

 

ゴボゴボォ………

 

 

 

 ペルシャ湾の海底には、石油パイプの中身を吸血鬼のごとく啜る大きな影が横たわっていた。

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

おまけ 『趣味嗜好』

 

 

 

 ハジメ少年は、とある日の放課後下校時。

 学園玄関口にて友人に一つ問われた。

 

__エリカさんに着てほしい服とかコスってあるの?__

 

 ハジメ少年は、自然に、そして素早く答えたと言う。

 

「ディアンドル一択。そして一強」

 

 ただそう答えたらしい。

 ちなみに、ディアンドルとはドイツの女性用民族衣装であり、胸元と背中がパックリと開いている、見る者が見れば劣情を抱えてしまうほどには攻めたデザインのものだ。

 黒森峰はドイツ風の学園。学園祭での出し物等で他の女子生徒が着ていたのを目にする機会があったために、それを幼馴染が着たら似合うんじゃないか…と思うのは自然な思考(?)であっただろう。

 

「__ふーん。アンタの趣向って、そんな感じなのね」

 

 噂をすれば何とやら…

 幼馴染__噂の逸見エリカが後ろにいたとは露知らず。

 

「へ?」

 

 生徒玄関で話してれいれば本人と遭遇する確率も当然高い。

 失念していた、不覚をとったとは、正にこのようなことを言うのかもしれない。

 某ずんだの妖精を彷彿とさせる素っ頓狂な声を上げ思考を停止したハジメを他所に、幼馴染__逸見エリカは顔一つ変えず、艦上商店街にある洋服店へ足を進めたと言う。

 

 __ハジメに質問を投げた整備科所属の某男子は、エリカの通報によって小梅から正座説教を後日たっぷり受けたらしい。

 そして、そこから更に数日後、機甲科のグループチャット及び整備科の個人チャット__ハジメと某須藤何某に、エリカと小梅のディアンドル姿の写真が()()した。

 

 





 あと
 がき

【2023年版編集】
 逸見エリカのヒーロー、第3夜__ここまで読んでくださりありがとうございます。

 この回もまた、加筆・修正を加えました。特に自分で驚いたのが、実家に戻ると言って離脱していたヒカル君が避難中になぜかまほさんといたことですね…編集でしっかりマモル君に訂正しました。これに今まで気づかなかったのか…申し訳ありませんでした。
 現在の投稿・執筆スタイルになった第33夜までの回を不定期に再編集を施していくので、よろしくお願いします。

 ちなみにこの世界の自衛隊は規模が倍になっております。そのため、保有兵器や人員が多いです。まあ学園艦とか言う巨大な海上都市をいくつも抱えてるわけですから、そりゃあねということで。
 また、後に登場する兵器の型式で分かると思いますが、ガルパン本編開始の年は西暦2020年となっております。そのため、原作とは違いスマホはかなり普及してたりします。ガルパン本編を見返してみる毎に新しい発見がありますよね。…ガラケーってもう絶滅危惧種かぁ。時間は流れるの早いですなぁ……。

 ハジメ君はエリカさんの前だと声のトーンが通常より一段階上がり、声色もやや明るくなります。
 あと、ハジメ君は本編内で「はじめて強めに引っ叩かれた」とか言ってますが、実は本編開始前…一年生の時にラッキーなトラブルが原因でエリカさんからそれ以上のビンタを喰らってたりします。ハジメ君的には、体感今回の方がダメージが大きかったんですね。こちらのお話はもしかしたら本編で今後触れたりするかも…?

 改めて、今後も逸見エリカのヒーローをよろしくお願いします。

_________

 次回
 予告


 怪獣と謎の巨人__ウルトラマンナハトの出現により、黒森峰学園艦は熊本からの出港を見合わせており、未だハジメ達は熊本に滞在していた。
 みんなの気持ちの整理がついていないそんな中、今度は二体の怪獣が現れる。
 光の記憶より手繰り寄せた、新たな二つの力を使い、ハジメは戦う!

次回!ウルトラマンナハト、
【スタイルチェンジ】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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