旧:逸見エリカのヒーロー   作:逃げるレッド五号 5式

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超古代怪獣 ゴルザ

超古代竜 メルバ

油獣 パワードペスター

怪獣王 ゴジラ

登場





第4夜 【スタイルチェンジ】

 

 

 

東アジア 日本国九州地方 熊本県熊本市 某市街地

 

 

 

「黒森峰から降りて買い出しかぁ」

 

「ハジメ!次の出港っていつか聞いた?」

 

「いや?聞いてないぞ?」

 

「こっちが聞いた話だと佐世保の海自の護衛艦が準備できるまでらしい」

「早く買い出し行ってきて、プラモ買いに行こうぜ!」

「おうよ、1/144魔神闘士マジンファイターの全国販売も始まったことだしな!」

 

 ハジメたち黒森峰戦車道整備科の二年生メンバーは、学園艦を降りて__上陸して整備に使う備品の発注の為、数日前の特殊生物災害からの復興に向けて歩み始めている熊本市内を歩いていた。

 

「ハジメ、西住隊長たちは?」

 

 今回、まほやエリカ達__機甲科メンバーはこの場にいない。

 男子だけの、なんともまあむさ苦しいメンツである。ただただ華が無かった。

 

「ん?機甲科の女子グループは学園で練習だってさ」

 

「少し前に怪獣災害(あんなこと)が起きたのにすげぇな…いや俺達も大概か」

「どうしたイッチ?西住隊長が心配なのかぁ?」

「ち、違うよ!」

「ヒューヒュー!」

 

 整備科のメンバー___ヒカル、ユウ、ダイト、タクミの四人がマモルを弄っている。口笛を吹いてやったり、指や肘でツンツンと小突いてやったりと忙しなかった。

 蛇足になるが、マモルと機甲科隊長であるまほが親密な仲であることは機甲科整備科ではよく知られている話である。

 

「おいおい、あんまりふざけながら歩くな〜!怪我するぞ!」

 

 整備科隊長としての責任感故なのかは別として、ハジメが度の超えつつあった弄りを見兼ねて四人に珍しく強めの喝を入れていた。

 

「マジンファイターのスピードタイプとパワータイプが値上がりとかふざけてるのか?」

「絶妙に会話が噛み合ってないな…」

「ま、まあ落ち着けよナギ、物流も一時的にストップしてたんだ。そこらへんは許してやれよ」

 

 実際、怪獣(コッヴ)を端に発生した情勢不安及び特殊生物災害により、被災地となった熊本市…熊本県のみに留まらず、九州地方全体であらゆる産業が少なくない打撃を受けた。

 その余波を受けて、交通や物流の麻痺もまた発生していた。それらの影響がハジメ達の日常にも、プラモデルの販売ストップとその遅れに伴う既存品の値上がりという形で現れてきていた。

 

「むぅ……」

 

 このメンバー内でも、商品の流通の遅れで最も精神的ダメージを受けたのはヒカルであった。日課…趣味の一つが一時的ではあれど取りあげられたのと同義なのだ、彼の憤りも察することができる。

 

「あ!そう言えばさ!動画サイトに上がってたんだけど、50メートルのばかでかいクモンガがブラジルに出たんだってよ!」

 

 特殊生物関連の話と言えばと、ダイトが別の話題を持ってきた。コッヴ出現前までは、世界的に()()()とは何かと聞かれたら揃ってその名を口にした特殊生物の代表格__クモンガについての話だった。

 

「あー?それホントかぁ?」

「ちゃんと動画あったんだって!」

「専門家のご表明としては、何を根拠にって話だが蜘蛛型の怪獣はそんなに大きくならないから駆除は容易〜とか言ってなかったか?」

「CG映像とかだったんじゃ…?」

 

 特殊生物もとい怪獣の話とはいえ、地球の反対側のことだからかその実感はコッヴよりも少なかった。

 ダイトの語った()を他メンバーは眉を顰め半信半疑で聞いていた。

 

「__もう着いたぞ、イデさんの店」

 

 ハジメ達がそんな会話をしつつ歩いていると、気づけば戦車道ショップ "まるす133"__ハジメ達、黒森峰戦車道整備科の本土での取引先となっている市内戦車道個人店舗の一つ__の前まで着いていた。

 

「すいませーん!イデさんいますかー!!」

 

 先頭のハジメが店のドアに手をかけ、中に入る。

 

カランカラーン!

 

 小気味の良い洒落たドアベルの音が店内に響く。

 

「えーと、点検用の油と砲塔旋回装置を……」

「イデおじさん!こんちは!」

「久しぶりっす!」

 

 商品棚を整理していた中年の男性がハジメ達に気づき、仕事を止めて近寄ってくる。

 

「おお!キミたち!無事だったんだね!ニュースでは死傷者の統計発表のみだったからね…心配してたんだよ」

 

 愛想の良い笑顔でハジメ達を出迎えたのは戦車道ショップ___まるす133の店長、井出光弘(イデ・ミツヒロ)その人であった。

 彼の店のお得意様であるハジメ達__黒森峰戦車道チーム整備科は、店に顔を出しに行けばサービスをしてくれるほど彼によく可愛がられているのである。

 

「心配をかけたようで、すいません…」

 

「いやいや!キミ達は特段何も悪くないだろう? それに、あの巨人…ウルトラマン…だったかい? …が怪獣をやっつけてくれたじゃないか!それで、今日は何を買いに来たんだい?今日もいつも通りサービスするよ!」

 

 市中央区寄りに位置するこの店は、先のコッヴ襲来に伴う被害は被っていなかったために、通常営業を難なく再開させることができていた。

 戦車道関連のツールやパーツ…品揃えに不足は見当たらない。なんなら、よく店内を見渡せば、強襲戦車競技(タンカスロン)や草戦車道__草野球のような社会人向けのマイナースポーツ__関連の商品もある。

 勿論、ハジメ達の欲する物もしっかりと不足なく並べられていた。

 

「いつもありがとうございます」

 

 ここで余談になってしまうが、まるすの店長…イデの過去は謎のベールに包まれていたりする。ハジメを筆頭にした店の常連でさえ、イデ本人に関する情報、経歴と言ったモノは何一つ知らない。そもそもとして、彼が自ら過去を語ろうとはしないため、そしてそう言った話題を誰も振らないために現在までイデの過去は霧がかっているのである。

 本人は「30過ぎてから戦車道の沼にハマって店開いちゃった物好きなおじさん」だと公言しているのだが、出所不明の噂も複数あったりする。例えば、「国家組織__警察庁や防衛省勤務の国家公務員…それも公にはできない秘密部署、若しくは特殊部隊か極秘裏の特捜チーム等にいた」というものや、「防衛省の技術開発本部か、日本生類総合研究所で技術開発に携わっていた」こともある…噂まであった。

 

「いやいや、若い子応援できるのがこの仕事のやりがいだからね。お安い御用さ。さて、それに今日の発注品がまとめてあるのかな?」

 

 気前の良い店主であることは間違い無いのだが、「店主とは仮の姿でね…」などと一度イデ本人から言われたら皆信じるくらいには()()()()()雰囲気を漂わせているのだとか。

 

「はい!えっと…まずはこの部品と同じ規格の代替品を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、代金は丁度だね。今渡さないモノは連絡船経由で四日後には殆ど黒森峰(そっち)に届くかな。……いやぁ!いつもこんな店に来てくれるキミ達には感謝に絶えないよ!」

 

 購入代金をハジメから受け取りつつ、自店舗でのみ利用可能な三割引クーポンを二、三枚、気前のいい店主が彼の手に握らせる。

 ハジメだけでなく、メンバー全員がそれに会釈して感謝を伝える。

 

「いえいえ!イデさんが仕入れてくれる備品はどれも扱いやすいですから!」

 

 ハジメの言葉に、メンバーもうんうんと頷く。

 

「ははは!そう言ってくれると嬉しいね!また来ておくれよ?」

 

 少年らの反応が嬉しかったらしく、イデがさらに気を良くしていた。

 

「はい!今日はありがとうございました!」

 

 整備科隊長___代表のハジメの号令で、全員が一糸乱れぬ礼をイデに返した。

 

「イデおじさん!今度来た時、月刊戦車道だけじゃなくて週刊タンクロードも、お願いします!」

 

 下げていた頭を勢いよく上げてまず口を開いたのは珍しくヒカルやダイトではなくマモルであった。

 

「うん分かった。最新号、どっちも仕入れておくよ。気をつけて帰るんだぞ!」

 

「またよろしくお願いします!」

 

「はいよ!」

 

 店長は店の外まで出て少年達を笑顔で手を振り見送る。

 こうしてハジメ達はイデの店__まるす133を後にした。

 

 

 

「よぉし!発注もしたし、これで自由時間だあ!!」

 

 大きく背伸びをしつつ上のように喜んでいるのはダイトであった。

 

「ゲットファイターGもそろそろ買わなくちゃあなぁ…初代ゲットファイターのベータ、ガンマも1/144プラモやっと出たし……」

 

 そして自分のスマホで特撮ヒーロー__ファイターシリーズ関連の新情報等を漁りながらぶつぶつと独り言を呟いているのはヒカルである。

 

「スピードタイプとかパワータイプやらあるのか…最近のファイターシリーズはタイプチェンジもできるんだ…。追わなくなってから随分と出たんだな、新ファイターたち」

 

 その斜め後ろからハジメがヒカルのスマホ画面を覗き込む。

 

「他にも図体と質量のトップファイター、合体とドリルのガオファイターとか、オカルト能力持ちのギアスファイターっていうのも出てるからさ」

「ちなみにササキーズの二人はヨロイファイターだっけ」

「タクミは冥王闘士…ゼオファイターよな?お前もクセ強えの好きだよな〜」

「ハジメも時間ある時にシリーズ見ておけよ?遅れるからな!今アツいのは前作の鋼鉄闘士バレルファイターってヤツでな___」

 

 ハジメがファイターシリーズの話題に触れたのはかなり久しかったらしく、一同が驚きつつも興味をまた持ってくれたハジメに___上からマモル、タクミ、ユウ、ヒカルの順番で___あれやこれやとシリーズの近況について説明したり、自分の推しを自由に語り出した。

 相変わらず()()()()()、和気藹々とした日常の光景であった。

 

「うーん最近時間が…ん?」

 

 されど、またしても平和な日常は終わり告げようとしていた。

 ハジメは頭上に違和感を覚える。

 それはコッヴ出現時と同様の、嫌な感覚だった。

 まさかと思い、空を見上げる。

 

「っ!!」

 

 ハジメは絶句した。

 頭上…熊本市上空には、いつの間にか黒紫色の渦を巻いている巨大な穴が青い青空の中にぽっかりと口を開いていたのだから。

 

 

 

 

 

 

「並行世界の…ウルトラマンは………全て抹殺……絶望に屈せよ…人間達よ…」

 

 とあるビルの屋上には黒いローブマントを羽織った怪しげな人型存在が空に開いた穴__ワームホールを見て不快な、そして不気味な笑みを浮かべていた。

 その笑みは、今から起こる新たな惨劇を知っているからこそできるものであった。

 

 

 

 

 

 空を見上げたまま固まっているハジメを不審に思ったメンバーも釣られて空に顔を向けた。

 彼らにもハッキリとワームホールは認識できるらしく、ハジメほどでは無いにしろ、皆が驚愕一色であった。

 

「なんだあれ?」

「ブラックホールみたいな穴がぽっかりと…」

「これってよ……また怪獣が出るってことなのか…?」

 

 非日常を彼らは一度経験している。直近の出来事と今眼前の空で起こっている事象を結びつけずにはいられなかった。

 だが、その考えは残念ながら当たることとなる。

 

「あ、熊本県に自衛隊が特殊防衛出動…」

「ネットニュースにもう挙がってる…早いな」

「おーい、スマホいじってないで早う学園艦に戻るぞ!」

 

 ヒカルの一声を受けて、整備科メンバーはすぐに避難行動を開始した。

 

 

 

 

 場面はハジメ達から少しの間外れる。

 

 

 

 

新熊本港 学園艦停泊地 

学園艦 黒森峰学園 戦車道艦上演習場

 

 

 

 エリカ達機甲科選手らは、開催の方向で向かっている夏の戦車道全国大会に万全の用意で臨むため、特殊生物災害発生より2日後にあたる今日から通常練習を再開していた。

 

「エリカ、次の練習メニューについてなんだが」

 

 エリカは隊長のまほより、訓練に関する相談を受けているところであった。

 

「はい。高所奪還の動きの確認ですね___」

 

 まほが持ってきたバインダーを受け取り、それに留められている訓練内容について自身の考えを口に出そうとしたその時だった。

 

ズズゥウウウーン………

 

 不意に陸地側__本土から、腹の底まで響くほどの途轍もない重音が轟いたのである。それは巨大な何かが連続で激突したようなものにも思われた。

 当然、この異常事態の発生によりエリカの言葉は遮られるわけである。

 

「な、なんだ?地震か?」

 

 まほが思わず地震だと思ったのも無理は無かった。

 

「ですが黒森峰(ここ)(フネ)…海の上ですよ」

 

 しかしまほの仮説は、エリカによってすぐ覆された。学園艦に住む者としての()()と現在の事象を照らし合わせれば自ずと分かるものである。

 そう。津波ならばいざ知らず、海上を航行する巨大艦船である学園艦は接地していないのだから、滅多なことでは揺れない。揺れないのである。

 まほが上のような錯覚を覚えたほどには、先の轟音のインパクトは相当大きかった。

 そして、日常では聞くことも無かった異音の正体をエリカは難なく見つけることができた。

 

「あ! 隊長、アレを見てください!」

 

 エリカが熊本市の方向に指を指す。

 彼女の指摘を受けてまほも陸の方へ目をやると、微かに__黒森峰が停泊している新熊本港から阿蘇山までの距離は約35km強__であるが、赤と青の二つの球体が阿蘇山に鎮座しているのが確認できた。どうやらアレが異音を轟かせた犯人であり原因だと二人は察し、地震や津波といった自然災害の類のものではなかったのだと理解した。

 球体の周辺からは黄土色の土煙が積乱雲の如く舞い上がっており、アレらが先ほどの激突音__異音の主らであることを赤裸々に物語っている。

 

 

ウゥウウウウゥゥウウウーーー!!

 

 

 少し遅れてどこからともなく甲高いサイレンが聞こえてきた。日本史の授業で、名前ならば聞いた覚えのある__空襲警報が頭を過ぎる。

 たしか、今では国民保護サイレンだったか…。

 それが流れたと認識した後、ハジメ達__戦車道整備科の二年生メンバーが買い出しへ向かっていたことをエリカは思い出した。

 しかし、彼らを探しに行こうと行動に移す前にそれを察したまほがここにいるよう促した。

 

「エリカ、私達の学園艦も避難所に設定されている。ハジメ君達もこちらに戻って来るハズだから、気持ちは分かるが落ち着いてほしい。…大丈夫、緊急出航の前に彼らは戻ってこれる。あっちにはエリカと同じくらい頼りになるストームリーダーだっている。そうだろう?」

 

「ッ…! そうでした。すいません、隊長」

 

 まほからの言葉でいつもの冷静さを取り戻したエリカ。

 隊長に気を配らせてしまったことに対して謝罪しようとするが、それを彼女は止める。

 

「いや、いい。…それに、恐らくアレは十中八九前回と同じ、怪獣か何かだと私は思う。熊本の第8師団も出動するはずだから、陸地側の避難誘導は問題ないだろう。それに今回はアレらとは距離もある。ハジメ君達を信じよう。エリカ、今は機甲科の子達を校舎へ避難させる。手伝って」

 

「分かりました」

 

 「直下の問題はこれから如何なる行動をするか」なのだと、まほは現状を未だに把握できていない__パニックになりかけている周囲の機甲科生徒達の下に走っていく。

 

「………レイラ!」

 

 情緒を切り替えたエリカは、近くにいるだろう親友の名前を叫んだ。

 

「エリカちゃんに呼ばれてレイラ来ました!!」

 

 親友__同級生のレイラがどこからともなく素早く彼女の横に駆けつける。

 

「あっちにまだ固まってる一年生の避難誘導を手伝って。あと整備科の方もね。あの子達、みほみたいにとろいから。引っ叩いてでも校内シェルターまで連れてくわよ!!」

 

「がってんだよー!」

 

 

 

 

 

 再びハジメ達へと場面を戻そう。

 

 

 

 

 

『___繰り返します。阿蘇山中岳付近に正体不明の球体群が落着しました。この球体群は、特殊生物である可能性が非常に高いとのことです。先ほど、熊本市に対しても避難警報が発令されました。市民の皆様は最寄りの避難所にパニックにならず、冷静に移動してください___』

 

 熊本市内に設置されているスピーカーは避難誘導を市民に伝える役に徹していた。

 ハジメ達も警察の誘導に従いながら新熊本港へと向かっている。

 スピーカー越しの市職員の声は緊張からかやや上擦っている箇所もあり、定型文の割合が少ないことから、本当に切羽詰まっていることが窺えた。

 二度目といえど、未曾有の事態への対処能力など一日二日で身につくわけではないのだ。

 

「アレから怪獣が出てくるってこと…?」

「イデさん…大丈夫かな…」

「おいおい今度は二体分かよ。どうして熊本ばっかり…」

「だあぁああー!!1/144マジンファイターがぁ!!」

「今は人命優先だ!またの機会に買えばいい!命は買い戻せんからな!!」

 

 少年の友人達は慌てふためきの只中であった。

 

「とりあえず今は避難指示に従おう。走ればここから10分も掛からない。黒森峰まではすぐだ!」

 

 兎にも角にも、迅速な避難が今後の行動の選択肢を広げることに繋がるだろう。取れる選択肢が多ければ生存率も引き上がるに違いないとハジメは思っていたが故に、友人達にも聞こえるよう普段よりも五倍増しの声で話す。

 ハジメらは現在、市内の主要道路脇__歩道を駆け足で進んでいる最中である。

 横目で見れば、車輌用道路は迅速に片側が熊本県警(交通機動隊)のパトカーにより規制が為されていた。

 他にも、消防士や警官が路肩に誘導された車の運転手に降りて避難をするよう促しているのも見受けられる。

 人々の動きは想像よりも理性的であった。物理的にも、精神的にも、異常存在との距離が前回と比べて遥かに余裕があることが一因になっているかもしれない。

 

「あっ!! おい、アレ見ろよ!」

 

 先ほどまで嘆いていたはずのヒカルが向かいの道路を通る何かを見たらしく、興奮した様子でそれが見えた方向…前方奥の一般道に指をしきりに指していた。

 

キュラキュラキュラキュラ…

 

 奥の道路から何かが近づいてくる音が聞こえてきた。それが無限軌道(キャタピラ)による走行音であると、いつも()()()を触っているハジメ達にはすぐ分かった。

 

「陸自の"12式"だ!第8師団、"第103戦車連隊"だぞっ!」

 

 ()()()の正体は、陸上自衛隊第8師団__史実とは大きく差異のある、新設・増強された機甲部隊__所属の装甲車輌群であった。

 

「頑張ってくれよー!戦えるってとこ見せてやれ!」

「陸自にとっちゃ本格的な初の実戦か」

「続々と後ろからも……」

 

 交通規制がかかっている都市の一般道を、森林迷彩の施された陸上自衛隊の最新鋭戦闘車輌__〈12式自走電磁砲〉数台を先頭に据えて、主力戦車(MBT)__〈10式戦車改〉とMCV__〈16式機動戦闘車〉が続いて何十輌もやってきた。いずれの車輌にも、「103」と描かれたボードを持った()()()()()()()()のエンブレムが施されている。

 正体不明の球体が落ちた阿蘇山方面へ向かうべく、機甲部隊__第103戦車連隊の車列がハジメ達の前を通り過ぎてゆく。

 ちなみに、こことは別の市内一般道も同様に交通規制が為されており、"第104戦車連隊"と"第105戦車連隊"もまた作戦区域に向けて移動中である。なお、これらの戦車連隊は健軍・熊本・北熊本の各陸自駐屯地より出動している。

 

 市民達は自衛隊へ激励の言葉を思い思いに送っていた。それに答えるように、彼らは雄々しく進む。

 

『こちら103、パッチワーカー1。全戦車連隊に通達。コンディションを整えられたし。送れ』

 

___バババババババッ!!!

 

『スカイスコープより対戦車ヘリ(バロム)中隊。速度そのまま、編隊を維持しつつ本機に続け。間もなく作戦空域だ』

 

『バロム1(ヘッド)了解。貴機に追従する』

 

 さらに、米国生まれの対戦車ヘリ〈AH-64D アパッチ・ロングボウ〉 一個飛行中隊が偵察ヘリ〈OH-1〉を中心に編隊を組んで、市街地の真上を通過していく。

 

 三個戦車連隊、そして対戦車ヘリ一個飛行中隊からなる混成部隊が、阿蘇山に我が物顔で居座る二つの巨球を排除するべく、熊本市東部にて合流後阿蘇山__さらに東へと移動を開始。

 

 自衛隊による謎の球体群への一斉攻撃の時間は刻々と近づく。

 ここから凡そ30分後、事態は新たな局面を迎える。

 

 

 

_________

 

 

 

同時刻 太平洋 フィリピン海北部海底

 

 

 

 海中には哨戒任務___隣国、中国の人民海軍や豪州連合海軍を念頭に置いたもの___に従事している海上自衛隊__佐世保基地に司令部を置いている"第3潜水隊群"、"第8潜水隊"所属の__〈"そうりゅう"型潜水艦〉姉妹艦"しんりゅう"、"ひりゅう"、"こうりゅう"の3隻が航行していた。

 

「熊本県西部に正体不明の二つの球体が落下したとのことです!」

「なお、本潜水隊は引き続き哨戒任務を続行せよ、と」

 

「……立て続けに未知なる存在が九州に来るか…。分かった。任務を続行する」

 

 第8潜水隊旗艦"しんりゅう"の艦長、前原一征(マエハラ・イッセイ)一等海佐は熊本にて正体不明の物体落下の報を聞いて憂いていた。

 その時、艦の目であり耳…パッシブソナーが未知の反応を探知する。

 

「!! 艦長!1時方向、距離4500、深度400より日本本土関東沖へ向け約9ノットの速さで航行している未確認大型物体を感知!」

 

 ソナー長からの報告に前原は驚く…が、すぐに持ち直し彼に詳細を求めた。

 

「大型物体…?こんな時に中国の原潜……いや、違うな。アクティブソナーにはどう映っている?」

 

「………全長約50メートルの、星型の…ヒトデのような形状です。なんだコイツは…」

「それに、地面…海底を這うような音、そしてクジラやイルカといった既存の海洋生物のものとは思えない不可解なエコーが聞こえてます。信じられないですが、この大型物体は極めて生物的な動きをとっているとしか…」

 

「……うむ。"ひりゅう"の海江田(カイエダ)艦長に連絡」

 

 通信チャンネルを開き、前原は"ひりゅう"艦長___海江田と連絡を取る。

 

『___ええ。こちらのソナーでも例の反応を確認しています。深町(フカマチ)艦長と協議した結果、これほど奇怪な潜水艦は存在しないとして、全く新しい…未知の大型特殊生物である…と、意見が一致しました』

 

 暫定大型特殊生物(怪獣)と目される不明大型存在の反応に関して、他二隻の最高指揮官…艦長達も前原と同じ結論に至っていた。

 

「やはりか…。さて、目標は依然として、本土領海に向かっている。これより我々は同目標の追跡を開始する。そして、こちらの警告に応じず、日本本土への航行を続けた場合、同目標を敵性存在と判断し…撃沈(駆除)する。また、警告に反応して、目標が反転しこちらに向かってくる可能性もある。その際の迎撃用意をしてほしい。深町艦長の方にも伝えてくれ」

 

『っは!』

 

 海底で探知された__日本本土へと向かっているとされる__謎の大型物体発見の報はすぐに防衛大臣を通じて官邸まで送られた。垂水総理は、この報告を受け対象を未確認の特殊生物であると判断。

 熊本の謎の球体群に続き、前原率いる第8潜水隊にも大型未確認航行物体への対処___特殊防衛行動を開始するよう指示した。

 

 政府の迅速なる判断によって、潜水隊は作戦行動に移ることが叶った。

 

 同潜水隊は、駆除対象__未確認大型物体の日本本土到達の阻止を掲げ、潜水隊側へ対象の()()を逸らし誘導するべく動き出した。

 作戦の第一段階…その一番槍を担ったのは"こうりゅう"だった。

 

「"こうりゅう"、目標に対してピンガー射出。目標への警告・誘引を開始。………!! 針路を日本本土よりこちら…本艦隊へと変更!向かってきます!」

 

 作戦第一段階、未確認大型物体の誘導は成功した。

 想定通りの動きを取る相手に、そこからの潜水隊の行動はもう決まっていた。

 

「ソナーの反応に変化あり!目標の外形がヒトデ型から二枚貝のようなモノに…()()しました!」

 

 誘導の成功と、ヒトの作る(フネ)に非ざる挙動を取った対象の報告を受けて、前原達は相手が完全に潜水艦ではないと確信。全艦が迎撃態勢に入る。

 作戦は第二段階へ移行する。それは有線誘導の魚雷による飽和攻撃で、未確認大型物体__敵性存在を無力化ないし撃滅するというものであった。

 

「これで中国艦でも豪州艦でもないと確証を得た。よし、目標に対しての迎撃行動を開始する。……魚雷戦闘開始!魚雷発射管一番から四番外扉開口!発射用意ーーー!!目標との距離3500で発射する!!いいか、存分にやるぞ!!」

 

「目標さらに増速!……目標との距離3600、まもなくです!!」

 

 常識の通じない未知なる敵が迫っているのを、クルー全員が理解していた。

 相手は十中八九、怪獣だ。彼らがこれまで戦闘を想定し訓練してきた仮想敵(軍用艦船)ではない。

 彼らは座学、訓練で化け物退治の仕方などを教わることは無かった。まさか空想の存在と相対するなぞ誰も予想していなかったし、できなかったからである。

 故に、彼らクルーは艦の耐圧装甲越しにいるだろう怪獣以外に、体感したことの無い緊張感とも戦っていた。

 だが彼らとて海上自衛官…国の大洋を守る軍人である。伊達に訓練はしていない。日頃からやってきたことを、今もまたやるだけだ。

 

「魚雷、発射!!」

 

『魚雷一番から四番、発射!』

 

ボシュゥ! ボシュウン! ボシュ! ボシュゥウン!

 

 3隻の潜水艦から計12本の89式魚雷が一斉に目標__パワードペスターへ向けて発射された。有線誘導が組み合わさった誘導魚雷は海の魔物に喰らい付かんと海中を走る。魚雷群は寸分の狂い無く、必中の軌道を取って向かう。

 

「魚雷航走ーー!!」

「有線誘導、異常無し。目標、正面に捉えています!!」

 

「よし、全艦全速後退!!次弾装填急げ!五番、六番発射準備!」

 

 世界最強の通常動力潜水艦と水棲怪獣。

 雌雄を決するのは果たしてどちらか。

 

キュォオ!キュオオ!!

 

 全幅100メートル越えの巨躯を持つ海洋性怪獣__油獣パワードペスターは自身へと向かって来ている複数の存在__魚雷に対して威嚇する。

 しかし、そんなことなどお構いなしに高速で接近してきたそれらは自身に体当たりを敢行し、そのまま自爆していく。

 

ドドドドドォオオドオーーン!

 

 海中で炸裂した魚雷群によって、パワードペスターは膨大な気泡に包み込まれる。

 しかし、二桁数の魚雷の直撃___小型の学園艦ですら中大破に追い込む飽和攻撃であってのにも関わらず、かの怪獣、パワードペスターへ致命的なダメージを与えるまでには至らなかった。

 

キュオオオォオーー!

 

 雷撃を受けたパワードペスターは怒り狂い、先ほどの存在を送り出してきた"黒い親玉(潜水艦)"へさらに速度を上げて接近。

 全身のタコのような吸盤を伸縮させる動作(威嚇)をしながら、潜水隊へとがむしゃらに向かい出した。

 

「…目標に魚雷、全弾命中しました!」

 

「どうだ?目標の反応は?」

 

 水中爆発によるエコーとソナーの乱れから、捕捉及び聴音可能となるまで数秒掛かった。

 

「………!! も、目標健在!速度20ノットでなおも接近!」

 

 再び探知が可能となった矢先、ソナー長が叫んだ。

 

「は、速いっ!!」

 

 海中でありながら、驚くべきスピード。

 前原達が、人類の常識を軽く超える存在が現実にやってきた事実を改めて突きつけられた瞬間であった。

 

「ふむ…12本の魚雷を食らって沈まぬとは。…まさに怪獣だな。現実ではやりあいたくなかった! 再度、魚雷発射!全弾ありったけ打ち込んでやれ!」

 

『了解!一番から六番、魚雷発射!』

 

 だが彼らは驚愕こそすれども、怖気付くことは無い。

 "しんりゅう"は続けてさらに魚雷を発射する。

 それから少し遅れて残りの2隻も同様に魚雷を吐き出した。

 

「聴音不能!魚雷は命中したようですが___」

 

 魚雷は再び全弾命中するも、パワードペスターは接近を続け、残る距離は200となっていた。

 

「っ!!」

 

 距離を伝える間も無かった。

 回避は不能、撃沈は必至。

 恐らく我々は水底に沈められる…と前原達、潜水艦クルーは思っていた。

 

 ___だがその時、"しんりゅう"ソナー長は艦の後方に突如として出現したパワードペスターと同等の反応を感知した。

 

「___か、艦長!後方に目標と同サイズの反応を探知!」

 

「なに!? その反応との距離は!!」

 

 唐突かつ喫緊の内容に、前原はすぐにソナー長に問うた。

 

「たった今……ほ、本艦と"こうりゅう"の右側面を通過……前方の目標と接触しました」

 

 新たな存在は、ソナー長が前原に報告しようとしていた間に潜水隊の真横を通過していた。

 どうやらパワードペスター以外は眼中に無いらしかった。このイレギュラーな事態によって潜水隊は全滅を免れたのである。

 

「こちらを襲ってこなかった……」

 

 潜水隊後方より現れた新たな大型物体__もとい怪獣は、パワードペスターとの戦闘に突入する。

 

「前方で打撃音。奴ら…取っ組み合っている…?」

「どうなってるんだ?」

 

「……"ひりゅう"、"こうりゅう"に通達!目標が未確認の存在と交戦している間に後退!!向こうと距離を取り態勢を立て直す!」

 

 第8潜水隊は後退を開始し、下手にこちらからは攻撃せず、戦闘の行方を静観することを決定した。

 

 

 

_________

 

 

 

日本国九州地方 熊本県 南阿蘇村 

 

 

 

 場面は地上__熊本へ。

 

 陸上自衛隊第8師団、混成戦闘部隊は南阿蘇村を、人口密集地であり未だ避難する人々で溢れている熊本市を防衛するための防御陣地とし、同村内に三重の防衛網を敷いた。

 なお、同村に住んでいる民間人の避難は既に終わっており、無人街の様相を呈している。

 そんな村内の道路、田畑には機甲部隊が、そしてその上空には対戦車ヘリ部隊が展開を完了させていた。

 

「田所隊長!全部隊、攻撃準備が完了しました!」

 

「よし、分かった。これより、球体群への一斉射を行う!射撃用意!」

 

 南阿蘇村混成部隊展開地より凡そ5キロメートル後方地点に、移動指揮所としての役割を持つ〈82式指揮通信車〉が中心となり、簡易的ながらも現地本部を形成。

 混成戦闘部隊の指揮官をつとめる__田所浩二(タドコロ・コウジ)一等陸佐の命令の下、地上各車輌の砲塔が阿蘇山方面に旋回。対戦車ヘリの各射撃要員も武装の安全装置を解除し、トリガーに指を掛ける。

 斉射の準備は万端であった。

 

「各隊、射撃よ…!! きゅ、球体が消えていきます!」

 

 しかし、いざ攻撃!…とした時に、異変が発生した。

 阿蘇山に落下し、ここまで特筆すべき動きを見せてこなかった二つの球体…その表面とも膜とも言えるものがフッと消え、中からは二体の邪悪な怪獣___メルバとゴルザが咆哮と共に現れたのだ。

 

「二体の大型特殊生物を確認!」

 

 警戒車より身を乗り出していた搭乗員の一人が叫ぶ。

 

「なんだって!? くそっ!遅かったか!」

 

 田所が上部ハッチから上半身を出し、手持ちの双眼鏡で搭乗員の報告の真偽を自分の目で確かめる。

 レンズ越しに、空想の産物__巨大存在、怪獣が確かに視認できた。

 

「デカい…デカすぎるぞ…!」

 

 双眼鏡を持つ彼の両手は僅かに震えていた。

 

 …かの二体は、並行世界の地球で人類に猛威を奮った闇の軍勢の尖兵とも言える凶悪な怪獣である。

 だがそれをこの世界の人々が知る由も無い。

 しかしながら、陸自混成部隊のやるべきことは変わらない。攻撃対象が巨球からその中身に変わっただけのこと。

 

「見た目は翼竜と二足歩行のゴツい肉食恐竜か…? 翼が生えているヤツを"アルファ"、もう一体を"ベータ"と呼称する!!」

 

 怯えを振り払うように、田所が宣言した。

 

「"アルファ"、"ベータ"、阿蘇山を降り、熊本市方面へ侵攻を開始!」

 

 二大怪獣は、何かに誘われるように熊本市市街地へ歩み始めた。

 

「ヤツらを市の方へ行かせるな!春日(空自)のライトニングに空爆要請!各地上部隊並びにAH-64D(アパッチ)、射撃開始!」

 

 自衛隊による攻撃。

 その号令が田所より発せられた。

 

「了解。各隊、射撃開始!!」

 

 指揮官田所の命令を通信要員が復唱。

 村内に進出・展開していた各機甲部隊並びに攻撃ヘリ部隊にその命令が伝播していく。

 そこから凡そ数秒後、混成戦闘部隊は持て得る全ての火力の投射を開始。

 明色の火線が幾本もゴルザ、メルバに殺到する。

 

ズドォン! ズドォン! ズドォン!

 

ズガァアアアーン!

 

バシュバシュゥッ! ババシュッ!

 

 火力演習のそれを軽く超える凄まじさであった。見る者が見れば、かの湾岸戦争時の対空砲火の映像が過ぎったかもしれない。

 

 陸自混成部隊より放たれた火砲・誘導弾の着弾と同時に、阿蘇山山麓一帯が吹き飛ぶ。爆炎と共に、周辺の土砂が高く舞い上がり、それは土色のカーテンの如きものを形成した。

 あまりに激しい攻撃により爆風の余波が防衛陣地にまで届くほどであった。

 

「頼むぞ…」

 

 田所は誰にも拾われることのない呟きを、小さく発した。

 ここ、南阿蘇村を突破されれば、熊本市までは一直線。ほぼ平坦な地が続くのみである。

 道中に市町村が一つ二つあるが、巨大存在たる怪獣にとってそれは大した障害にはならないだろう。逆に熊本市侵攻の前後の怪獣の動きで巻き添えを喰らう可能性も十二分にあった。

 怪獣の行動原理や侵攻目的が判明しないものの、予想される被害を最小に抑えるべく陸自部隊は相手に反撃の余地を与えぬよう、火力投射を継続する。

 

 

 

熊本市 某市街地

 

 

 

『たった今、球体から姿を現した二体の怪獣に対して、陸上自衛隊による総攻撃が始まりました!猛烈な爆発によりどちらの怪獣の姿も確認できません!』

 

 報道機関の__ドローンを用いた後方からの無人航空撮影による__中継映像とその実況を黒森峰整備科メンバーはスマホで観ながら、避難を続けていた。

 

「「「おぉ〜!!」」」

 

 ハジメ以外のメンバー全員が、自衛隊の怪獣に対する圧巻かつ圧倒的な総攻撃を画面越しに見て歓声を上げていた。

 

「すげぇ!なんつー火力だ!」

「焼き鳥と焼き蜥蜴が出来上がったな」

「ざまぁないぜ!さっすが自衛隊!!」

「おーい、ハジメももっと観ろよ!これなら、怪獣もメッタメタだぜ?」

 

 ヒカルがスマホの中継映像を、どこを見てるとも分からないハジメの顔の前まで持ってくる。

 

「あ、ああ……」

 

 ハジメは心ここに在らずな半端な返事をするだけだった。

 ヒカルはそれを怪訝に思いながらも深く追求することはしない。ただただ、この映像をリアルタイムで見れるのに勿体無いと愚痴るのみに留まる。

 

「……これ見逃しちまったら、損だと思うんだがなぁ…」

 

 ハジメが周囲を、同じく避難中の人々の様子を見てみれば、あちこちから歓声が聞こえてくる。周囲の人々もまた数人単位で集まって報道の中継映像を観ていた。

 

 しかしその後もハジメは同調して喜ぶことも、スマホの画面を見ることも出来なかった。たしかに自衛隊の攻撃は目を見張るほどの凄まじいものだ。

 それでも、一度ウルトラマンとして怪獣と戦っているハジメは、一種の予感を抱いていた。「きっとやつらには()()()()まだ足りない」と。

 

「………」

 

 ただ一人だけ、ハジメは中継そっちのけで、自衛隊と怪獣の戦闘が未だ続く阿蘇山__南阿蘇村の空を静かに睨みつけていた。

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

南阿蘇村 第105戦車連隊第3中隊第一防衛陣地

 

 

 

『射撃中止!状況確認!』

 

「撃ち方やめ!」

 

「撃ち方やめ!」

 

 田所の命令により、各戦車連隊車輌が砲撃を一時中断する。

 

「どうだ!レールガンの味は!」

「これで倒れていれば……」

「あの集中砲火を生き残れるなら正真正銘の化け物さ」

 

 阿蘇山の麓部分は、未だに火薬由来の膨大な黒煙と舞い上がった砂煙によってその全容を把握できない状態であった。

 電磁加速砲、滑腔砲にライフル砲、そして対地誘導弾からなる集中射撃を十数分の間、二体の怪獣は受けたのだ。現代兵器の火力を集中運用したのだから、無傷で済むわけがなかった。

 搭乗員達が上の如く口々に喋っていると、偵察ヘリ(OH-1)から、観測情報に関する無線が入ってくる。

 

『___こちらスカイスコープ。現在、状況確認中……。 なっ!! アルファ、ベータ、共に健在!射撃による効果は見受けられず!繰り返す___』

 

 ヘリ観測員よりもたらされたのは、華々しい自衛隊初の戦果…ではなく、目標健在という凶報であった。

 

「なっ!!」

 

 現場の彼らは驚愕する他なかった。

 混成戦闘部隊は急ごしらえ感は拭えないものの、仮にも機甲・航空戦力を有する陸戦部隊である。同部隊の集中砲火を耐えるなど…傷一つ付けられないなど考えられなかったからだ。

 現代兵器の攻撃を立て続けに受けてぴんぴんしているような生物がいるなど何の冗談だと。

 

『か、各隊全速後退!後方第二陣地に急げ!』

 

 何かを察した田所が全部隊に距離を取るよう命令した。

 

「っ! 後退開始!」

 

 それに従い、他部隊と同様に第3中隊もまた陣地転換のために動く。

 同中隊は新概念兵器__レールガンを搭載した戦闘車輌〈12式自走電磁砲〉が多数を占める部隊である。

 当車輌は最新技術の塊とも言える代物であるが、無論弱点や改善点は当然あるわけで、その一つが走破性…機動力だ。通常の主力戦車__10式や90式と比べると、整地不整地共にそれらの戦車より凡そ10数km/h分遅かった。

 

『『『了解!!』』』

 

 後退命令を受けてから、実行に移すまでのコンマ数秒が、第3中隊の命運を分けた。

 ゴルザは頭部を紫色に発光させ、()()を第3中隊に定めていた。

 

『べ、"ベータ"の頭部発光を確認!』

『アレはマズイ…マズいぞ!!』

『何をする気なんだ!?』

 

 偵察ヘリの観測員が悲鳴に近い報告が上がる。

 各隊の無線では相手__ゴルザの未知なる攻撃の予感を口にしている。

 

『それは恐らく光弾発射の準備動作だ!第3中隊後退急げ!狙われてるぞ!』

 

___ゴァアアッ!!!

 

 しかし、無線越しの田所の叫びと同時にゴルザは後退に手間取っていた第3中隊に向けて、紫色の怪光線____"超音波光線"を横薙ぎに放った。

 

「うわぁ!!」

「やめろぉお!!」

「06がやられた!たい___」

 

 光線が直撃した第3中隊の最新鋭戦車___12式自走電磁砲は乗員諸共例外なく次々と砂のように分解され、サラサラと爆散することなく崩壊していく。

 

バタバタバタバタバタ…!

 

『複合カーボンの特殊装甲だぞ!あんなアッサリと___』

 

 続いて今度は、OH-1___偵察ヘリが空中に()()()

 ゴルザは砲撃を再開していた第103、第104戦車連隊とヘリ部隊に向け、先程と同様の攻撃…超音波光線を連続発射して次々と文字通り塵へと変えていった。光線の命中率は極めて高く、寸分の狂いもなく射抜いていく。

 

 ゴルザによる蹂躙劇は続いた。

 

 十数分後。

 ゴルザは気が済んだのか、メルバを引き連れて、残存している混成戦闘部隊の車輌・航空機群を放置し進撃を再開。形骸化した第二、第三防衛陣地を破り、熊本市に迫る。

 

 

 

 

 

 

南阿蘇村 現地仮設本部

 

 

 

「第104、第105連隊、第103及びアパッチと同様に通信途絶…。全滅の可能性大、です………」

 

 田所が部下より報告と共に手渡されたタブレットの画面を見やる。

 液晶画面の、小型無人偵察機が映す光景__防衛陣地の惨状が全てを物語っていた。

 混成戦闘部隊が正面から叩きのめされた。その事実のみが横たわっている。

 

「くっ!………春日の航空隊はどうなっている?」

 

 苦しげな面持ちで、残された怪獣侵攻阻止の切り札について尋ねた。

 

「はい。現在、岩国の在日米海軍の第102戦闘攻撃飛行隊と合流し、残り3分で阿蘇山上空に到着します。___なっ!"アルファ"の飛翔を確認!北西へと針路を取ったとのこと!!」

 

 新たな報告だった。

 "アルファ"もといメルバの北西へ向けての飛翔。その方向より急行中の空自航空隊を察知したとでも言うような動きだった。

 

「くそ!!………あとは頼みます…秋津先輩…!」

 

 田所は82式指揮通信車の上、キューポラ上に立ち、九州北部へと飛び去るメルバを睨みつけていた。

 そして彼は自分の恩師とも言える空自のとある隊員に託した。日本最強と謳われるファイターパイロットである彼率いる航空隊が、自分達では止められなかったゴルザ、メルバをも倒してくれると。

 

「……生存者の捜索、救助の準備急げ!!」

 

 戦力の半分以上が消失し、防衛部隊としての機能を喪失した第8師団混成戦闘部隊は、誰からの邪魔をされることもなく熊本市へ悠然と向かうゴルザを見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

_________

 

 

 

熊本市 某市街地

 

 

 

 「第8師団壊滅」と言う事実は、熊本市民をパニックに陥れるのには十分過ぎるものだった。

 市内の人々は、先ほどまでは誰もが警察と消防の指示に従っていたのだが、今はもう我先に逃げようと各々が西へ西へと走っている状態である。

 

 そんな人々の濁流に逆らって怪獣___ゴルザへと向かう少年がいた。

 そう、ハジメ少年である。マモルやヒカル達と混乱のどさくさに紛れて別れたのだ。恐らく彼らはあのまま人々の流れによって学園艦まで避難できるだろう。

 

「どこか人目につかない場所に行かないと…うん?」

 

ヴーヴー! ヴーヴー!

 

 ハジメは変身することができる場所を全力で探していると、ズボンのポケットに入れていたスマホが振動していることに気付く。

 すぐに取り出してみると画面はエリカからの連絡だと示していた。

 ハジメは走りながらスマホ画面を横にスライドして耳に当てて通話を始める。

 

「もしも__『アンタいまどこにいんの!?』__」

 

 通話相手のあまりに大きい声量により、ハジメは思わずスマホを一瞬耳から離す。

 

「熊本市西区!もう少しで学園艦に着くよ!」

 

嘘である。

 

『マモルとヒカルがアンタとはぐれたって泣きながら電話してきたわ!アンタまた無茶なことしてないでしょうね!!』

 

「みんなとはぐれたけど、警察の人が今誘導してくれてるからそれに従ってる!」

 

 大嘘である。

 

『…分かったわ。とにかく急いで学園艦まで来なさい!今、自衛隊がやられたって大騒ぎで、緊急出港の準備に入ってるの!絶対よ!来なかったら前の二倍引っ叩くわよ!』

 

「……了解」

 

 そう言ってハジメはエリカとの通話を切る。そして小さく呟いた。

 

「ごめんエリさん……。多分、引っ叩かれると思う」

 

 ハジメはαカプセルを取り出し掲げると、そのボタンを迷いなく押した。

 

 

 

 

 

 

グルルルル………

 

 ゴルザは遂に熊本市東部に到達し、眼前に広がる都市を破壊せんと陸自戦車部隊を葬ったかの光撃__超音波光線を発射しようとしていた。

 

 その時だった。黒き乱入者が現れ、ゴルザの頭上から蹴りを入れた。

 乱入者は蹴りを当てると、そのまま街を背にして華麗に着地した。

 

ヘアッ!

 

《熊本復興の火は消させやしない!!》

 

 突然現れた乱入者は光の巨人__ウルトラマンナハトであった。

 

 

 

「ウルトラマンナハト!」

「おお!来てくれたのか!」

「また助けに来てくれるんですか…ありがとう!」

「私、リアルで初めて見た!」

 

 それは、黒森峰(学園艦)で事の行く末を見ている少女達の声。

 

「が、がんばれー!ナハトー!」

「いけ!ウルトラマン!怪獣を倒してくれ!」

「勝ってくれぇ!!」

「頼んだぞーー!」

 

 それは、熊本に住まう人々の声。

 

 

 

 皆の声援を背中で受け、ナハトの闘志にさらなる火がついた。

 

シュアッ!

 

ゴアアアァアアーー!!

 

 ゴルザは自身の邪魔をした黒き乱入者に対して怒りの咆哮をあげ、体当たりを仕掛ける。しかしナハトは華麗にバックジャンプをすることでそれを避けた。

 

ヘアッ!

 

ゴァアアー!

 

 そこからナハトは勢いのままゴルザに掴みかかろうと正面から飛びかかるも、ゴルザの怪力により捻じ伏せられてしまい失敗。地面に叩きつけられ、さらに踏みつけられてしまった。

 

グアッ!

 

《力が…違いすぎる!どうすれば……あ!》

 

 劣勢の中、ハジメ__ナハトの脳裏にビジョンが過ぎる。

 

__スピードタイプとかパワータイプやらあるのか…最近のファイターシリーズはタイプチェンジもできるんだ…__

 

 ハジメは午前の買い出し前後の、ヒカルとの会話を思い出した。

 その()()()()()にかけることを彼は決意する。

 

《いけるか?フォームチェンジ…。いや、やるんだ!…イメージは………あった!!よぉし!》

 

 脳内にあの時と同様に疾った追憶(ビジョン)__イメージを明確に掴み、それを形作ったナハトは、自身を踏みつけているゴルザの足を持ち上げる。

 渾身の力でゴルザの足を退かすことに成功したナハトは脱出。ローリングで距離を取ったのち素早く立ち上がった。

 

《いくぞ!スタイル…チェンジ!ガッツ!!》

 

セアッ!

 

 ナハトの頭部ランプが眩く光り、その光が全身を包み込んだかと思うと、そこには燃えるような紅色のナハトが立っていた。

 その筋骨隆々の姿は見る者に頼もしさと力強さを感じさせる。

 

「色が………変わった…?」

「鮮やかな紅色…綺麗…」

「筋肉が増した…姿を変えて対応したというのか?」

「頑張って!ウルトラマン!」

 

 ナハトが見せた新たな姿__紅の剛力戦士、ウルトラマンナハト ガッツスタイル。それにはエリカ達も驚嘆する他なかった。

 

ゴァアア……

 

 ゴルザも明らかに相手の()()が内側より変わったことを悟っていた。

 力勝負での格が数段階上がったと分かったのか、萎縮していた。

 だが戦意までは喪失していないようで、今度は尻尾でナハトを周囲のビルごと薙ぎ払わんと動く。

 

 "大地を揺るがす怪獣(ゴルザ)"との第二ラウンドが開始された。

 

フンッ! ハアッ!

 

 ゴルザの尻尾による横薙ぎの打撃がナハトに迫った。

 しかしそれをガッチリと掴み、ゴルザを振り向かせるとナハトは強烈な拳をお見舞いする。

 

ゼイアアッ!!

 

《リボルバァアー!フィストォオオ!!》

 

ズガァアアアーン!!

 

 鉄拳がゴルザの腹部に炸裂した。

 

ゴァアアァアア!?

 

 ナハトの放った重い一撃__"リボルバーフィスト"はゴルザの土手っ腹に決まった瞬間、その技名通りの…回転式拳銃の如き轟音が街中に響き渡った。

 この拳は効いたのか、ゴルザは苦しげに腹を押さえて一歩退く。

 分厚い外皮から、内部組織に到達した衝撃によるダメージは大きかったらしい。ゴルザの口からは唾液が垂れ流しになっており、攻撃に移ることが出来なくなっているようだった。

 

 ナハトはこの状況を好機と見て、体内の光エネルギーを右手に一挙に集約させる。

 そしてエネルギーの充填を終えたナハトは必殺光線を放つ!

 

《___"プロミネンス光流"!!》

 

ハァアアアーー!!ハッ!

 

 マグマの如き真っ赤な光の濁流が的確にゴルザの中央部を捉えていた。

 

ゴァアア……ゴガァア!!

 

 ゴルザは光流を耐え続けていたものの、最後は身体が粉々になるほどの大爆発を起こして絶命したのだった。

 

《片方は倒した…後はもう片方!》

 

……シュワッチ!

 

 ナハトはゴルザの最期を見届けると、すぐさま熊本市街地より飛び立ち、メルバの向かった北の空へと消えていった。

 

 

「倒してくれたな…」

「そうですね…良かったぁ」

 

 目の前の脅威…ゴルザが撃破されたことで、一時とはいえ安堵するエリカ達。

 

「ねえエリカちゃん、ナハトはなんであっちに飛んでったんだろうね…?」

「もう一体のドラゴンみたいなヤツを倒しに行くんでしょう?」

「あ!なるほど!」

「……ハジメ達、そろそろ帰ってこれてるかしら?」

「そうだな、今のうちに艦上ゲートの方へ行こう。ハジメ君達を迎えに行くために、な」

 

「「「はい!隊長!」」」

 

 少女達に迫っていた悪意を退けることに成功したナハト。彼女達に見送られつつ、彼は残る片割れを倒すため、空を翔ける。

 

 空と海、二つの戦場は目まぐるしく動き始める。

 

 

 

 





 あと
 がき

【2023年版編集】

 えー、例のアレ方面で有名なあの方が陸自隊員やってるのには、投稿者が某動画投稿ソフトでゴジラMMD系の動画を上げている方の没作品の印象が強く残っていたためでした…(半分ネタ成分も含まれてはいますが)
 しかし彼…田所隊長は今後も登場する人物ではあるので、よろしくやってもらえると幸いです(・・;)

 ファイターシリーズはスパロボネタです。初代ファイターがゲッターロボ、次作ファイターはマジンガーZ…といった感じとなっております。そこからの後続作品の順番は特に決めてたりはしてないので、皆さんの中で補完してくださると嬉しいです。

 まるす店長のイデさんはウルトラ時空からのゲストキャラとなります。本編ではチラッとまた登場する…かは未定です。
 一応、超8兄弟の時空みたく、何らかの出来事に巻き込まれたら並行世界の記憶が流れ込んでくるかも。
 
 ハジメ君の得意教科は国語全般と体育です。なお保健は普通とのこと。
 体育のペア体操ではよくエリカさんが誘ってくれるのですが、入学以来彼は頑なにそれをひたすら断っており、ヒカルやマモルと組んでます。本人曰くエリカさんとペアになった日には「前屈みになりそうだから」らしいです。ハジメ君も男の子なので、これは不可抗力。

 次回も、お楽しみに。

________

 次回
 予告


 ゴルザを見事撃破したハジメ__ナハトはメルバを追って空へ飛ぶ!
 日米連合航空隊は一足早くメルバとの空中戦に突入するが、徐々にその数を減らしていく…ナハトは間に合うのか!?

 ゴジラ、パワードペスター、二体の怪獣による海中決戦の行方は!?

 そして、姫神島で起こり始めている異変とは!?

 次回!ウルトラマンナハト、
【連鎖する恐怖】!

サイドストーリー アンケート(基本ほのぼの)

  • 紗希のトモダチ
  • ミチビキさん サンダース編
  • ミライVSマホ カレー対決
  • ハジメ、迷い家にて
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