〈摩上〉「……?」
摩上は背後に現れた女に、正体を知られたことより先に、女の仮面を装着した顔に目をつけて首をひねった。
〈摩上〉「お前……仮面つけてるが、どっかで見たような面構えだな。どこだったか……」
訝しむ摩上相手に、女は淡々と調子を崩さずに名乗る。
〈夜叉〉「あたしは夜叉。上級降魔に属する」
〈摩上〉「!!」
途端に摩上は、夜叉と名乗った女から距離を離して身構えた。宇宙寄生生物と共謀する関係になったとはいえ、降魔が人間の敵というのは帝都の常識。摩上も降魔に対する警戒心は強く持っていた。
〈夜叉〉「警戒することはない。こちらに攻撃の意思はない」
〈摩上〉「あん?」
〈夜叉〉「あたしは我が主からの言いつけにより、お前を招きに来た。我が主の下へ」
そう言われても、摩上は警戒を解かずにライザーを取り出す。
〈摩上〉「主だぁ? そいつも降魔なんだろ? 俺を取って食おうってのかぁ? そうは行くかよ! ここでひねり潰して……」
〈ロソス〉『待て、兄弟……』
血気に逸る摩上を、ロソスが制止した。
〈摩上〉「何だよ兄弟。ぼやぼやしてたらこっちがやられちまうぜ」
〈ロソス〉『少し落ち着け……俺たちを殺るつもりなら、初めから声を掛けてなどこないさ……』
〈摩上〉「む……まぁ確かに……」
夜叉はロソスのことまでは把握していないのか、傍から見るとブツブツ独り言を唱えているような摩上を訝しげに注視していた。
〈ロソス〉『俺たちの敵は、ウルトラマンと人間の組織……対するこっちは、あくまで単体だ……。こちらも味方は作っておくべきだ……』
〈摩上〉「するってぇと……」
〈ロソス〉『話くらいは聞く価値はある……。なぁに、いざとなったら変身すればいい……俺がついてるんだ、滅多なこともないさ……安心しろ……』
〈摩上〉「そうか……よし、分かったぜ……」
説得された摩上は、夜叉に向き直って返答した。
〈摩上〉「会うだけ会ってみようじゃねぇか」
(OP:ご唱和ください 我の名を!)
第
神 五
ゼ 工 話
ッ 鬼
ト 斧
ラ !
ン
ス
ア
ロ
|
〈さくら〉「は……は……はっくちっ!!」
帝劇のサロンで、さくらが可愛らしいくしゃみを発した。
〈さくら〉「う~……今日は何だかいやに冷えるね……」
〈初穂〉「ほんとだな。真冬並みの気温だぜ。何でこんな冷え込むんだ?」
〈クラリス〉「原因はまだ分かってないみたいです」
サロンに集っている花組の面々は、タンスから引っ張り出してきた冬着を着込んでいた。現在帝都は、季節外れも猛烈な寒波に襲われているのだ。
〈アナスタシア〉「アラスカで日本の調査隊が発掘した古代石器が運び込まれた矢先にこの事態なんて……何か関係があるのかしら」
〈神山〉「どうだろうか。ただの偶然ならいいんだが……」
神山が読んでいる朝刊の一面には、『三万年前の氷河期の石器、大帝国劇場に輸送』の文字が大きく載っていた。
防寒具を纏っているのは花組だけではない。宇宙人の彗星組も寒さには堪え切れていなかった。
〈ナシルマ〉「う~寒ッ! これから分析作業あるってのに、勘弁してほしいよ」
〈あざみ〉「……ミースアは着込まなくてもいいんじゃ? カラクリなんだから」
〈ミースア〉「こういうのは気分ですー」
〈さくら〉「ところで、何で石器が大発見なんでしたっけ。わたしには、特に変わったところがあるように見えませんでしたけど」
さくらの質問に、ナシルマがしたり顔で答える。
〈ナシルマ〉「地球の現在発見されてる最古の文明は五千年前。それより六倍も昔の時代に、あんな複雑な形の石器はあり得ないって訳。しかも軽く調べたところ、未知のエネルギー反応があった! これが大発見と言わずに何と言う!」
〈さくら〉「そうなんですか……!」
〈クラリス〉「そんなものを、では誰が作ったんでしょうか」
クラリスの問い返しには、ツカツカと歩いてきたデュエスが回答する。
〈デュエス〉「未発見のいわば超古代文明の産物か、そうじゃなかったら地球外文明の古代地球人との遭遇の痕跡だな。どっちにせよ文明史を塗り替える歴史的発見になるのは違いねぇ」
〈神山〉「浪漫がある話だな……!」
神山が興奮する一方、ナシルマはデュエスの足元に目を落とした。上は厚手の冬服だが、足はいつも通りのサンダル。
〈ナシルマ〉「……ちょっと、それ寒くないの? せめて靴下くらい履きなよ」
〈デュエス〉「何!? このスタイルはルパーツ星人たる大事な証だ! どんな時だろうと曲げられるかッ!」
〈ナシルマ〉「見てるこっちが寒いんだよ! やめてよ!」
〈デュエス〉「見なきゃいいだろ足下なんか!!」
〈ナシルマ〉「ええ……!?」
宇宙人二人がギャアギャア言い争っているところに、二人分の人影がサロンにやってくる。
「おいおい、こんな日に随分と元気があり余ってる奴らがいるみたいだな。帝国華撃団の劇場はいつも落ち着かねぇな」
〈神山〉「あッ、あんたたちは!」
振り向いた神山たちが、中華服姿の二人組を目にして声をそろえる。
〈花組〉「「「上海華撃団!」」」
〈ユイ〉「やっほー、さくら」
〈シャオロン〉「久しぶりだな、お前ら」
彼らは特空機完成以前に、弱体化していた帝国華撃団に代わって帝都を防衛していた上海華撃団のメンバーであった。
〈シャオロン〉「そこにいるのが例の彗星組か」
〈ミースア〉「初めましてー。ミースアですー」
〈モフロ〉「わしは彗星組の責任者のモフロです」
〈ユイ〉「わっ! 人なのにすっごいモコモコの毛皮! 今日みたいな日には羨ましいかも!」
〈モフロ〉「はは、代わりに夏の日は大変ですぞ」
〈さくら〉「ところで、どうして帝劇に? 華撃団大戦にはまだ早いですよね」
モフロたちと会話する上海華撃団に、さくらが問いかけた。
〈シャオロン〉「ああ。実は今そっちが預かってるっていう古代石器を見学しに行くって、ウチの司令官がな」
〈神山〉「えッ、上海華撃団の司令官?」
ちょうど良く、すみれがその司令官なる人物をサロンに通してきた。
〈すみれ〉「どうぞ。こちらにいるのが、我が帝国華撃団の花組と彗星組の隊員たちですわ」
「これはこれは。初めましてだな、帝国華撃団の諸君」
神山たちの面前に、黒いスーツで全身をビシッと固めた、ある意味プレジデントGとは正反対の服装の男がかかとをそろえた。
〈蛇倉〉「俺が上海華撃団司令の、
〈神山〉「これはどうも。花組の隊長、神山誠十郎です」
〈ミースア〉「お兄ちゃんたち、もうやめるです。お客さんですよ」
ミースアに注意されたナシルマとデュエスは我に返って、上海華撃団に振り向いた。
〈ナシルマ〉「いや~、お見苦しいところを失礼しました。サーリン星人ナシルマです」
ナシルマは低頭して挨拶したが、デュエスは蛇倉をひと目見て、ギョッ! と目を剥いた。
〈デュエス〉「あッ!? お、お前!!」
〈ナシルマ〉「ん? どうしたの?」
〈デュエス〉「お、おい分からねぇのか!? あいつは……!!」
何か言いかけたデュエスだったが、その臀部がギュウッ! と強く握り潰された。
〈デュエス〉「いッ!?」
〈蛇倉〉「どうもぉ」
その肩口からねっとりと顔を出したのは、いつの間にか回り込んでいた蛇倉。
〈蛇倉〉「はぁじめましてだな、若いの。生まれた星の違いはあるが……宇宙人と、地ィ球人でぇ、仲良くやろうや。ん?」
〈デュエス〉「……あ、ああ、はじめまして……」
低気温なのに、ツゥー……と汗が垂れるデュエス。蛇倉の挙動には、神山たちが驚愕していた。
〈さくら〉「あ、あれ!? さっきまでそこにいたのに!」
〈アナスタシア〉「いつの間に……!」
〈あざみ〉「出来る……!」
〈シャオロン〉「ふッ……司令の功夫はすさまじいんだぜ。俺ですら及ばねぇほどだ」
〈ユイ〉「これくらいで驚いてるようじゃ、ウチの司令とはつき合えないよ」
自分たちの上司だからか、シャオロンとユイが誇らしげであった。
〈蛇倉〉「それで神崎女士、そろそろ例の石器を拝見させていただきたく存じます」
〈すみれ〉「ええ。それでは保管庫にご案内を……」
すみれが案内を続けようとしたその時、降魔出現の警報が鳴り響いた!
〈初穂〉「あッ! 降魔が出やがった!」
〈すみれ〉「……蛇倉司令、残念ですが……」
〈蛇倉〉「承知しておりますとも。いつ如何なる時も、防衛任務を優先するのが華撃団の使命」
〈すみれ〉「助かりますわ。総員、直ちに指令室へ!」
〈花組〉「「「了解!!」」」
ひと言礼を述べてから、すみれはその場の隊員たちを指令室に向かわせた。
銀座上空に黒雲が急速に渦巻き、地上に雪を降り注がせる。帝都の人々は何事かと足を止めて空を見上げる。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
渦巻く黒雲の中心から、突如巨大生物が落下! 同時に口から猛烈な勢いで冷凍ガスを放出し、瞬く間に地上を凍りつかせていく。
「きゃあ―――――!?」
「うわぁぁ――――――――!!」
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
帝都の人間たちの悲鳴もかき消すほどの、海棲哺乳類のような顔貌でありながらペンギンに似た翼を生やした怪物の咆哮。怪物の発する冷凍ガスによって、急激な温度差の変化で破裂した蒸気供給管から漏れ出る蒸気が凍り、帝都の各地で氷の壁が発生し、交通網はズタズタに引き裂かれていた。
指令室のモニターで怪獣を確認したデュエスが告げる。
〈デュエス〉「冷凍怪獣ペギラだ! 一都市を丸々凍らせるほどの冷却能力を持つ。またやばい奴が出てきたもんだ……」
〈カオル〉「既に被害は甚大です。すみれ様!」
カオルが振り向くと、すみれが大きくうなずき返した。
〈すみれ〉「花組は直ちに出動よ!」
〈神山〉「は、はい……! 帝国華撃団・花組、出動せよ!」
〈さくらたち〉「「「「「了解!!」」」」」
いつものように指示を出す神山であるが、今日は腰の辺りを隠すように手をやって、挙動不審気味だ。
〈ナシルマ〉「……隊長さん、どうしたのさ?」
ナシルマが気に掛けてヒソヒソ呼び掛ける。
〈神山〉「いや……今回は上海華撃団がいるだろ? さっき気づいたんだが、これを怪しまれるんじゃないかって……」
神山が気にしているのは、ベルトに取りつけているメダルホルダーだ。
〈ナシルマ〉「だーい丈夫。それは地球人の視覚には映らないよう出来てるんだから。さくらちゃんたちだって、見えてはなかったでしょ?」
〈神山〉「そ、そうだったな」
〈ナシルマ〉「堂々としてたら平気だって! そんなそわそわしてたら逆に怪しまれるよ?」
〈神山〉「ああ……」
助言をもらい、神山がホルダーから手を離した。
〈蛇倉〉「シャオロンとユイも出撃だ。お前たちは逃げ遅れてる市民の救助を優先しろ」
〈シャオロン・ユイ〉「「了解!!」」
上海華撃団も蛇倉の指令によって出撃準備に移る。
二人が離れていくと、蛇倉は背を向けて格納庫に向かっていく神山の腰の辺りを一瞥して、ニヤリと密かに笑みを浮かべた。
既に発進ゲートの真下に用意されたウインダムに乗り込んでいくのはさくら。コックピットに身を躍らせ、霊子機関と接続して霊子水晶を起動させる。
〈さくら〉『ウインダム、起動完了!』
右腕が神山・さくら用の高周波ブレードをスリットに仕込んだ物に換装され、頭上のゲートがスライドして開いていく。
『フォースゲートオープン! フォースゲートオープン!』
『特空機が発進致します! 駐車場利用のお客様はご協力願います!』
ミースアが誘導灯を大きく振る中、ウインダムがゲートを抜けて地上にせり上がっていった。
『防火壁閉鎖! 離陸準備完了!』
「グワアアアアアアア!」
〈さくら〉『特空機二号ウインダム、離陸!』
ウインダムの上腕と足裏のブースターが点火し、ロケット噴射で上昇。現場に向かって発進していった。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
銀座の街並みを凍らせながら進撃するペギラの周りを、ウインダムに先んじて到着した花組の無限五機が取り囲んだ。
〈花組〉『『『『帝国華撃団・参上!!』』』』
〈神山〉『これ以上の被害を許すな! 奴の足を止めるんだ!』
神山の指示で、無限が一斉にペギラへの攻撃を開始しようとする。
〈初穂〉『うおおぉぉっ!』
〈あざみ〉『やぁっ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
しかしペギラがグルリと一周するように冷凍ガスをまき散らすと、全機体が宙に浮き上がって跳ね返された。
〈クラリス〉『きゃああっ!?』
〈アナスタシア〉『くぅっ……!』
纏めて路面に叩きつけられる神山たち。
〈初穂〉『何つぅ威力だよ……! まだ距離あるってのに、あの位置から全員吹っ飛ばしやがった……!』
すぐ起き上がろうとするが、その時に神山たちは異常に気づいた。
〈神山〉『な、何だ……!? 無限が、思うように動かない……! 出力が低すぎる……!』
〈クラリス〉『こ、こちらもです……!』
〈アナスタシア〉『私も……起き上がるのがやっと……!』
〈あざみ〉『機体が重すぎる……!』
全員の無限がガクガクと痙攣し、動作不良を起こしていた。
〈初穂〉『何が起きやがったんだ……!? 全員分が同時に故障……!?』
〈司馬〉『みんな! 大変だ!』
通信回線に、司馬の血相を抱えた声が混じった。
〈司馬〉『無限の蒸気管が凍りついてる! 原因はそれだ!』
〈神山〉『何だって!?』
ペギラの発するブレスが強力すぎるために、無限内部を巡る蒸気、つまり水が知らず知らずの内に凍ってしまい、急激な出力不足に陥ってしまったのである。
〈司馬〉『このままだとハッチも凍りつく! 閉じ込められたら一巻の終わりだぞ! 早く脱出するんだ!』
〈神山〉『くッ、やむを得ないか……みんな、脱出だ!』
神山たちはすぐにハッチを開いて、その場に無限を乗り捨てる。直後に無限の可動部が全て凍りついてしまった。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
大暴れするペギラ。だがその前方に、ウインダムが着地してくる。
「グワアアアアアアア!」
〈さくら〉『そこまでだっ!』
ウインダムの右腕のスリットから高周波ブレードが伸び、猛然とペギラに斬りかかっていく。
〈さくら〉『やぁーっ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ウインダムの敏捷性はセブンガーよりもずっと高く、それ故実現する剣さばきで、ペギラの体表に裂傷を刻み込んだ。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ペギラが冷凍ブレスを吐いて反撃してくるが、蒸気噴射を活かしたスライド移動で回避する。
だが、しかし、
〈さくら〉『っ……動きが徐々に鈍っていってる……!』
さくらの思い描く挙動に対して、ウインダムの動作とのずれが大きくなりつつある。ウインダムの機体表面にも霜が降り、凍結はこの大質量をも蝕みつつあるのだ。
指令室で、彗星組がペギラの分析と情報収集を進める。
〈ミースア〉「ペギラに妖力反応はないですー! 降魔怪獣ではないみたいですー!」
〈ナシルマ〉「ちょっとこれ見て!」
ナシルマがモニター上に、アラスカの凍土に突如発生した巨大クレバスと、その間にそびえ立つ、翼を生やした巨影の写真を表示した。
〈ナシルマ〉「このシルエット、ペギラじゃない!?」
〈モフロ〉「アラスカの地下から出現したのか」
〈すみれ〉「デビルスプリンターとは関係ない怪獣ということですか? しかし、何故わざわざアラスカから帝都へ……」
その理由を考えたすみれが、ハッと思い至った。
〈すみれ〉「まさか、あの石器と関係が……!」
デュエスが情報収集の結果を伝える。
〈デュエス〉「イヌイットの伝承を纏めた文献に、ペギラと思しき怪物が出てくる話がある。“天より降りたる光の槍、我らの祈りに応え、魔物どもを時の狭間に眠らしめん”。この光の槍ってのが、石器の正体とするなら……!」
〈ナシルマ〉「ペギラは二度と封印されないよう、石器を追ってきたのか! 逆に言えば、石器がペギラを倒す手段でもある……」
〈カオル〉「こまちさん、石器を持ってきて下さい!」
カオルが石器を管理しているこまちに通信した。そしてこまちが石器を抱え、指令室に駆け込んでくる。
〈こまち〉「お待ちどおさん! これやな?」
〈すみれ〉「これをどう使うかが分かれば……!」
〈こまち〉「上海華撃団の司令はんは、これ見たかったんよな?」
何気なく蛇倉の方へ首を向けたこまちだが――確かにいたはずの蛇倉の姿が、いつの間にか忽然となくなっていた。
〈こまち〉「あれ? こんな時にどこ行ったんや?」
「グワアアアアアアア!」
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ペギラの胸部にレーザーショットを食らわせてひるませるウインダム。これ以上の被害者を増やすまいと懸命な奮闘ぶりだ。しかし、
「いやぁぁぁ――――――!」
「助けてぇぇぇぇぇ――――――――!」
民間人の悲鳴が、周辺のあちこちから上がっており、耳にしたさくらは絶句した。
〈さくら〉『まだこんなに逃げ遅れてる人が!?』
ユイとシャオロンは上海華撃団の格闘戦特化型霊子戦闘機、王龍で凍てついた帝都を駆け巡り、氷の壁を破壊して逃げ道を作っていた。
〈シャオロン〉『さぁ、早く逃げろッ!』
〈帝都民〉「あ、ありがとうございます!」
〈シャオロン〉『ユイ、あとどれだけ残ってる!?』
〈ユイ〉『まだまだ何十人も……ううん、もっと多いかも……!』
帝都内は、各地で破裂した蒸気管から漏出した蒸気が凍ることで氷の障害物が出来てしまっており、それが市民の避難を阻害していた。蒸気文明が仇となってしまったのである。
〈シャオロン〉『くそッ! これじゃ追っつかねぇぞ!』
その間、ウインダムは懸命にペギラと戦っていたが、とうとう動きが鈍った隙を突かれて冷凍ブレスをまともに食らってしまった!
〈さくら〉『きゃあああああ――――――っ!!』
〈初穂〉「さくら!!」
仲間たちが激しく動揺する。
〈ミースア〉『このままじゃウインダムまでカチンカチンになっちゃうですー!!』
〈モフロ〉『それ以上は危険じゃ! さくらちゃん、退避せい!』
逃げるよう促すモフロだが……。
〈さくら〉『こ、ここで逃げる訳にはいきません……!』
〈すみれ〉『天宮さん!』
〈さくら〉『今退いたら、逃げ遅れてる人たちが危険です……! 一秒でも怪獣の気を引きつけて、一人でも多く助けないと……!』
己の身に最大の危機が迫ってなお、さくらは逃げ出そうとはしなかった。
〈さくら〉『わたしは、最後まであきらめませんっ!!』
〈神山〉「さくら……!」
神山はさくらを救おうと、ゼットライザーを取り出した。
『よう、元気?』
その背後から何の前触れもなく、異形の魔人が顔を出した。
〈神山〉「誰だ!?」
見たこともない姿の魔人に驚愕して振り向いた神山から、魔人は目にも留まらぬ速さでゼットライザーをひったくった。
〈神山〉「なッ!?」
『面白そうな玩具だな。俺にも遊ばせてくれよ』
胸に赤い三日月形の古傷が刻まれている魔人からライザーを取り返そうとする神山。
〈神山〉「新手の上級降魔か!? 返せッ!!」
飛びかかるがヒラリとかわされ、足を引っかけられて転倒した。
〈神山〉「ぐッ!」
すぐ身を起こすが、魔人の姿はその一瞬で消え失せていた。
〈神山〉「どこ行った!? ゼットライザーを返せぇッ!!」
神山がゼットライザーを奪われた間に、ペギラがとどめの冷凍ブレスを放つ。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
ウインダムはとうとう限界を超えて、その場にしりもちを突いて完全に凍りついてしまった。
〈神山〉「さくらぁぁぁッ!!」
コックピット内も気温が氷点下30度を下回り、さくらは力を失ってしまっていた。
神山は必死に消えた魔人を追いかけ、辺りを駆け回る。
〈神山〉「ゼットライザーを返せぇッ! 今必要なんだッ! ゼット、返事をしてくれぇーッ!」
しかし全く見つけられず、手掛かりもない。絶望感に苛まれた神山ががっくり膝を突く。
〈神山〉「無限も動かない……ゼットにもなれない……俺は、何も出来ないのか……?」
悲嘆に暮れた目で、氷漬けのウインダムを見上げる。
〈神山〉「……いや……!!」
その中のさくらを想った神山の顔に、生気が戻っていく。
〈神山〉「隊長の俺が、何を勝手にあきらめてるんだ……! さくらは、最後まであきらめずに戦ったじゃないか……! あの時だって……!」
花組に入隊してからの、最初の戦いを思い出す。あの時もさくらは、限界寸前の三式光武を動かし続け、最後の最後まで戦い抜いて帝都を救った。
ウルトラマンゼットと一体になってから、彼を頼り、いつの間にかあの時にさくらからもらった勇気を忘れていたのかもしれない。
〈神山〉「俺にはまだ、出来ることがあるッ!」
活力を取り戻した神山は踵を返して、大帝国劇場へと駆け戻っていく。
〈ミースア〉「あわわ……さくらちゃんが!」
〈ナシルマ〉「どうにかならないのこれ!? 早くしないとさくらちゃんがッ!」
〈デュエス〉「喚いてねぇでお前も何か考えろッ!」
危篤状態に陥ったさくらの状況に、指令室は大パニックになっていた。
そこに、モフロへ神山からの通信が入る。
〈モフロ〉「こちらモフロじゃ。神山くん、どうした? ……何と!」
何らかの指示を受けたモフロが、ナシルマたちに振り返って告げる。
〈モフロ〉「みんな、今すぐセブンガーの出撃準備じゃ!」
〈ナシルマ〉「えッ、セブンガーを!?」
狼狽していたナシルマらが、ギョッとして立ち止まった。