オレ、藤木大地の通っている駒王学園高等部は元女子校である。
元々女学園だったこの高校はその歴史から未だ女子生徒が多く、男子は肩身が狭い思いをしている。
しかしそんな中にも己が欲望に忠実に従う、獣のような男子生徒もいるには居る。
それが……
「待ちなさいあんたらーー!!!!!」
「「「逃げろーーーーー!!!」」」
兵藤、元浜、松田という同学年の男子生徒3人組である。
何故いまだに退学処分を受けていないのか不思議なくらいの実行犯的ど変態3人組であり、入学理由も至ってシンプルなハーレムを築けるかもしれないというシンプル過ぎて昨今ではいまだ聞かないような理由である。原初に帰りすぎでは?
今もなお校庭で女子生徒に追いかけ回されている。今日の被害者は服装から見るに剣道部か。可哀想に。
あの3人が立ち去らない限りこの学園に平穏は訪れないと言ってもいいだろう。
それは即ち、俺ら男組は彼らの風評被害によって二次災害を被る結果につながるのだ。
「ハァ〜ア……平穏が恋しいな」
オレのその呟きは校庭で響いた獣三匹の逃げる際の雄叫びで掻き消された。
オレは校庭で女子たちに追い掛け回されている変態三人組を特に何も思うことなく見た後に、廊下を当てもなく歩く。すると向かい側から赤毛を腰まで艶やかに伸ばした高校生とは思えない様なプロポーションの女子生徒が歩いてきた。ほんと年一つしか変わんないのかっていっつも思うな。
「あら藤木君。こんにちわ」
「どうもグレモリー先輩」
この人、リアス・グレモリー先輩は入学当初からなぜか俺に話しかけてくる先輩だ。認識はないはずだが、美人さんと知り合いになれるなら特に気にすることも無いので、俺は気にせずにグレモリー先輩と適当な関係を続けている。
「あらあら。リアスには挨拶をして私には無いなんてひどいわね藤木君?」
「あ、やっぱいたんですね。姫島先輩」
グレモリー先輩に気を取られ、その後ろからこれまた美人な年不相応のわがままボディを持った先輩が出てくる。黒髪を一つに束ね中々に様になっている。美人は得だな。この黒髪ポニーテールの先輩はほぼ俺の中ではグレモリー先輩とセットだ。メックのハンバーガーセットについてくるポテトレベルで、まぁいったら失礼だから決して言わないけど。
「ひどいわ藤木君ったら……リアスの事は直ぐにわかるのに私の事は地味で分からないっていうんですから」
「解釈が酷すぎますよ?大丈夫ですよ。姫島先輩に魅力を感じないっていう人は世界に何人もいないですから。いたとしたらB専かD専、あるいは同性愛者ですよ」
「あら?という事は藤木君はそのどちらかという事?」
「あいにく俺の趣味はノーマルですよ。姫島先輩の予想に反して申し訳ないですけど」
「そう、それはよかったわ。もし予想通りだったら付き合い方を変える必要があったのですし」
オレは姫島先輩と軽い会話のジャブをしあう。ほんと姫島先輩は口が達者だ。喋るこっちの舌もそれに応じて回る回る。そうして姫島先輩の会話を続けようと思ったが、ふと横から刺激が来る。
「ちょっと」
「んお?なんすか?グレモリー先輩?」
「私を無視しないでよ」
グレモリー先輩だった。先輩は可愛げに頬を膨らませ、俺の袖をつまんでた。何この可愛い生き物。ほんとに年上?
「すいませんグレモリー先輩」
「……別にいいわよ」
ありゃりゃ拗ねちゃった。俺も学習しないなー。姫島先輩とオレが話を続けると高確率、というかほぼ確定でグレモリー先輩は拗ねる。それもかわいく。これが計算じゃないあたりが怖いんだよな。
「そう拗ねないでくださいよ先輩。別に先輩を蔑ろにしてるわけじゃないですから」
「……許して欲しい?」
「へあ?ま、まぁ」
「…………じゃあ、後で何かおごって」
「そんなんでいいなら」
「そう♪ならいいわ♪それじゃあまたね、藤木君」
そう言ってグレモリー先輩は拗ねた態度から一変、スキップでもしそうなくらいにルンルン気分でその場を去っていった。取り残されたオレと姫島先輩は去っていくグレモリー先輩の後ろ姿をしばらく眺めていた。
「よかったの?あんな約束をして?」
「あんなって奢るだけでしょ?余裕ですよ。自分お金そこまで使わないんで貯金はありますから」
「あら、だったら心配はなさそうね?」
「へ?」
「リアスが
「…………ん?」
「リアスは『奢って』って言っただけであって『何を奢って』とは明確には言ってないわよ?」
「……………………だ、大丈夫でしょ」
「ふふ?だといいわね?」
「「「ぎぃああああああああ!!!!!!」」」
姫島先輩の笑みと共に遠くで遂に捕まったのか、野獣三匹の断末魔が響いた。何とも場違いなBGMだなと見当違いな考えが浮かんだ。
「いや、そんな事グレモリー先輩はしないだろうけど……可能性はゼロではないよな?」
「どうした藤木?随分と思い悩んでいるようだが?」
「ああ、すいません。そこまで重い悩みでもないんで気にしないでください」
「…………そうか」
その日、オレはバイト先で皿洗いをしながらまたしてもため息をついていた。そのため息に反応したバイト先の上司でこの店の店長のキリアさんが何事か訪ねてくるが、オレはそれを雑にいなす。
オレのバイト先は個人経営のカレー専門店であり、キリアさんはその店の店長だ。何種類もあるそのカレーはどれも絶品の一言で、ハズレが存在しない。オレがガキの頃から働かせてもらっているバイト先であり、幼い頃からここに勤めているからか常連に顔も覚えられた。
そんなことを考えながら本日30枚目のお皿を磨いているとカレー屋のドアベルが鳴った。
「どうもお久しぶりです。キリアさん」
「あ、クリストさん」
「クリスト、どうしたんだ?お前が人間界にいるなんて珍しいな?」
ドアの方に目を向けると、当然だがお客さんいた。緑色の髪を背中の上程まで伸ばした眼鏡の男性、一見すると女性の様にも見えなくない華奢な中世的な風貌の優男のクリストさんである。この人はこの店の常連であり、たまにオレの勉強を見てくれる人である。見た目通り頭がキレて、どんな頭脳勝負でも勝てた試しがない。常連の中では比較的話を聞いてくれる人でもある。
この店の売り上げは主に常連が割りを占めており、そこで長年働いている自分も先ほど言った様に結構な常連に顔と名前を覚えられた。そして常連の人たちはそんなオレにいろんなことを教えてくれたりした為、働き始めた頃よりも色々なことが出来るようになったり、知識を増やしたりできた。常連に感謝感謝である。
俺はそんな感謝の念を改めて思い起こしてクリストさんとの話に戻る。
「しっかし確かに珍しいですね?普段クリストさん多忙な身じゃないですか?」
「ええ、まぁ……苦労は絶えませんが、以前に比べればだいぶマシになってきたので。まぁその辺は追々。今の僕はただの客です。いつもの頼みます」
「はーい。んじゃクリストさん、適当なとこ座っててください」
「美味しいのを期待してますよ」
クリストさんの声をバックに俺は厨房へ戻る。クリストさんの注文はいつも決まっているので料理の手も淀みなく作れる。あれ、待てよ?そういえばなんでクリストさん多忙な身なのにあんな時間かかる料理注文するんだろう?ま、いっか。ちゃっちゃとつーくろ。
「……行きましたか?」
「ああ、お前の料理を作りに厨房に入っていった。暫くは来ない筈だ」
「そうですか……」
藤木を厨房に行かせた後、クリストは深刻そうな顔で俺と向き合った。どうやらよっぽど深刻な問題のようだな。
「それで、一体何なんだ?お前が出向くという事はそれほど大事なのか?」
「いえ、問題自体はそこまでいうほど難しくはないんですが、事後処理が面倒そうだという判断で、僕が派遣されましてね」
「面倒?……まさか、あの事実がバレたのか?」
「いえ、それならもっと上の、それこそ
「じゃあ……」
「堕天使がこの町に入り込みました」
「……なるほど」
クリストのその一言でオレは大きくため息をついた。確かに問題自体はシンプルだが、バレたら処理が面倒だ。クリストも随分と難儀な問題を抱え込まれたものだ。
「それは確かに、
「ええ、しかも聞いた話によると、なんでも追放された聖女も近々この町に来るらしく」
「十中八九関係があるな」
堕天使の潜入と、追放された聖女の来訪。同時期に来るのは偶然にしてはでき過ぎている。そうオレが考えているとクリストはニコニコと朗らかな笑みを浮かべながら水を飲んで話を続ける。
「話が早くて助かります。そこでなんですがキリアさん。あなたには聖女の捜索をお願いしたいんですよ」
「聖女の方をか?てっきりオレが出向いて始末を願ってくるものだと」
「それもいいですが、そっちは僕が担当なので。天界の始末は天界が蹴りをつけなくては示しがつきません」
「そういうものか」
クリストの言い分に俺はただ頷くしかなかった。力が全ての魔界ではそう言った部分はあまり重要視されていなかったからな。クリストは続けた。
「一応それだけが理由ではないんですよ?キリアさんは忘れているかもしれませんけど、あなたはまだ過去の存在なんです。無闇矢鱈と他の勢力と邂逅してしまったらあなたの存在がバレてしまう可能性は十分にあり得る」
「セラフィーヌやレッドマグナスは今も魔界で活動しているだろ?」
「あなたの場合は立場が違います。あの戦争に介入したから冥界や天界からは脅威として顔が知られているんですから」
「……そうか」
言われてみればそうかもしれない。そう考えると天使とは関わりが薄い聖女の方と出会うのが他の勢力にバレる可能性が低いか。
「分かった、聖女の方はなんとかしよう。それで見た目は……」
「クリストさーん。カレーできましたよー」
ちょうどここで藤木の料理が完成した。
「まぁ、今じゃなくてもいいでしょう……ありがとうございます藤木くん。うん、今日も美味しそうですね」
「そりゃどうも」
「しかし藤木君も成長しましたね。前までは包丁の握り方すら危うかったのに」
「いつの話ですかそれ?もう十年も前の話ですよ?」
「僕からしてみたらまだ十年です」
「クリストさんオッサンみたいですよ?」
「おっさ、まぁいいです……フーフー……はむ」
「ゆっくり召し上がって下さーい」
クリストは楽し気に藤木と話を続けた。そうか……十年も月日が流れているのか。早いものだ。
そんな風に呆けていると、肩をゆすられる。その方角に振り向くと藤木が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
「なにしてんですかキリアさん?ボーっとして」
「いや、ちょっとばかりこの店を始めたばかりの頃を思い出しただけだ」
「キリアさんもですか?どうしたんですホント?爺臭いですよ」
「ふ……そうだな、お前から見るとそうかもしれないな」
「え?」
オレは不思議がる藤木をそのままに新作カレーの試作に取り掛かる。
「お疲れ様でしたー」
そう言って俺は店から出る。辺りは夕方ごろで、夕日が見え隠れしている。なんてロマンチックな事を考えてみるが、こんな光景はもう何回も見たのでそろそろ飽きてきた。
「ん?あれ兵藤じゃね?」
そこには例の問題児である兵藤がいた。向かい側には中々の美人さん。うちの二大お姉さまといい勝負かも知れん。
「お願いです!!付き合ってください!!!!」
ちょっとずつですが、ディスガイア要素は出していきたいと思います