その言葉はかなりの衝撃を俺に与えた。
変態三人組として知られている兵藤の悪評は他校にも知れ渡っている。少なくとも同年代で兵藤の味方、特に女子は確実にいないと言ってもいいだろう。同クラスの桐生は別。アイツはどっちかというと面白がって突っかかってくるような感じだから味方というより傍観者に近い。
そんな兵藤に告白する猛者が現れたのだ。しかも見てみた感じかなり本気感。罰ゲームではないかもしれない。そんな現場を見てしまった俺の選択肢は唯一つ。
傍観だ。
「え、えっと……俺に言ってるんですよね?」
「は、はい!……お返事……いただけますか?」
突然の出来事に兵藤も困惑していた。
ま、そりゃそうだ。今まで女子に白い目か怒号しか貰ったことのない筈の兵藤にとってこんな経験は初めてだ。そして硬直している兵藤を見て相手の女子は申し訳なさげに兵藤に尋ねた。
「もしかして……、迷惑でしたか?」
「い、いえいえいえ!全く!これっぽっちも迷惑なんかじゃないです!むしろウェルカムです!喜んでお付き合いさせていただきます!!」
「本当ですか!?有難うございます!」
怯える様な女子の視線に兵藤は急いで返事を開始、OKの意を伝える。それに安堵したのか女子は一転して華の様な笑みを浮かべ、兵藤の手を取った。お?中々にあざといな。案の定兵藤の奴は顔真っ赤にして動揺してるぞ。
「私、天野夕麻って言います!これからよろしくお願いしますね!兵藤さん!」
「お、おう!!よろしくな!夕麻ちゃん!!」
「はい!それじゃあ、明日一緒に学校行きませんか?登下校のルートが途中まで一緒なんです!交際したら一度やってみたくって……駄目ですか?」
交際相手、天野さんは中々に距離を詰めるスピードが速いらしい。もう登校デートの約束を取り付けた。
「い、いいよいいよ!全然いい!なんだったらオレが夕麻ちゃんの家に行くけど」
「いえ、大丈夫ですよ。私が登校するルートに兵藤さんの家がありますから」
「そ、そう?なら、いいけど」
あっけなく兵藤の意見は却下された。哀れ兵藤。つーか何時まであそこいんだ?そろそろ通りてーんだが。
「それじゃあ、また明日!受け入れてくれてありがとうございました!兵藤さん!!」
「おーう!また明日ね!夕麻ちゃーん!」
そう言ってお互いが手を振って別れを告げた。ふー、やっと通れる。
「………………んーーーーーーー!やったーーーー!!おれも遂に彼女もちのリア充に仲間入りだー!!!」
と思ったらなんか兵藤がハイになってた……通りずれぇ。その後兵藤は何分かその喜びの表現を一通りした後にすっきりした顔でその場を去っていった。なんかスキップでもしそうな、というかスキップしながら帰っていった。おれはそれを見つめながら、天野さんの見た目を思い返す。いや、何度思い返しても美人であった。うちの周りには何故美人がああも多いのだろうか?バイト先の常連の女性も軒並み美人・可愛い系で揃っているし、うちの高校も美女揃いで有名だ。この町なんか仕掛けられてんじゃねぇのかな?
天野さんもうちの高校の制服じゃなかったし、他校もあのレベルの美人揃いなんだとしたらこの町の顔面偏差値がとんでもないことに……あれ?
「近所にあんなタイプの制服の高校あったっけ?」
その疑問に答える人はいる筈もなかったが、口にせずにはいられなかった。代わりに何かが飛んで行く羽音が聞こえた。
翌日の金曜日、案の定うちの高校ではちょっとした騒ぎが発生していた。
変態三人衆の内の一人の兵藤に彼女が出来たというのだ。当然、誰も信じやしない。
いつもつるんでいるメガネの元浜、元運動部員の松田も当然その話題に突っ込んだ。
「おい!どういうこった兵藤!登校の時に一緒にいたあの子とは一体どういう関係だよ!?最初から最後まで説明しろ!!」
「お前、俺たちを裏切ってあんな可愛い子と関係を……!いつからだ!いつからそんなうらやまけしからん状況に!!」
「まーまー落ち着けよ二人とも♪たかが彼女が出来ただけだろ?」
「「うるせぇよ!!」」
決死の形相で兵藤に詰め寄る二人を当の本人は軽くいなし続ける。その余裕な態度が癪に障るのか、二人の怒気がかなり上がっていった。背後に鬼が見える。相当なプレッシャー与えられてるはずなのになんて余裕だ。
「くそがー!もうオメェとは絶交だよ!今日の上映会には呼んでやんねーからな!」
「おい!もうこれ以上裏切り者と話す必要はない!俺たちは俺たちでさっさと行こうぜ!」
そう言って元浜、松田の二人は去って行った。三下感が滲み出てたな。そして兵藤の方を見ると余裕な笑みを浮かべて携帯を弄っていた。
「へへへ、早速デートのプランでも考えるか♪夕麻ちゃんどんなところが好きなのかな〜?」
ルンルン気分でそんな事をおっぴろげに語っていた。おそらく調べてるページはデートコースの候補一覧とかだな。気楽なもんだ。
「…………で、今日一日その二人が煩いのなんのって。恨みつらみをずーっとグチグチグチグチ言い続けてたんですよ?参っちゃいますよホント」
「………………そうか、それは難儀だったな」
その日の放課後も自分はバイト先の厨房でキリアさんと今日の出来事について報告していた。キリアさんは非常に聞き上手でこっちも自然と悩みを相談しやすいのだ。そしておれは食材の補充をしながら今日の日の事を思い返し、愚痴を言っていった。
「あんだけ彼女が欲しい欲しい言ってんだったらもっと紳士的になったほうが良いんじゃないですかね?まぁ彼女いないオレが言うのもなんですけど」
「なんだ?その兵藤という奴が羨ましかったのか?」
俺の愚痴にキリアさんは寸胴鍋のカレーをかき混ぜ続けながら疑問を投げかけた。それを聞いて俺は全力で首を横に振る。
「まさか!?今は彼氏彼女の関係でいられますけど、行動を変えないと直ぐに愛想つかされますよ。今はまだ恋愛フィルターで誤魔化せてるかもしれませんけど、その内痛い目見ますよ」
これはほぼ偏見に近いかもしれない。恋は盲目というがそれは一時的な効果しかない。一目ぼれだとすれば尚更だ。そのフィルターのかかっている内に兵藤がどれだけ日頃の行いを悔い改めるかで結果は変わるが、今日一日の行動を見たら改心する気はなさそうだ。そうなったら後は破局まっしぐら。最終的にあいつは友達と彼女を失って誰も残らないのである。
「そうか。なら俺も気を付けなければいけないな」
「キリアさんは結構人出来てますから大丈夫ですよ。それに、リーゼロッテさんがキリアさんに愛想つかされるとか考えられませんし。それとも何ですか?キリアさんはリーゼロッテさん以外の人を好きになったりしちゃうんですか?」
俺の自論を真に受けたのか、キリアさんが寸胴鍋をかき混ぜる手を少し緩める。それに俺は別段問題は無いと切り捨てた。キリアさんは既婚者であり、綺麗な奥さんを持っている。しかも性格が非常に優しく、自己主張の激しい常連を相手に物怖じしない豪胆な性格であり、口の少ないキリアさんと違って社交性もある良妻賢母を絵にかいたような素敵な女性でした。オレが見た限りじゃキリアさんと奥さんは今でもラブラブで兵藤のような懸念は一切ないと断言できる。そしてオレが投げかけた質問に、キリアさんは間を挟むことなく、こちらを見ずにひとこと言った。
「それはない」
「だったらオレ視点でしか言えませんけど大丈夫じゃないんですかね?年下なんで説得力ないですけど」
凛々しい目だった。あんなこと言える様な大人になりたい。俺とキリアさんはその後特に何の支障もなく営業を続けた。
翌週の月曜日。オレはいつも通り教室に入った。オレの予想では兵藤が二人にデートの感想を嬉しげに話してそれにまた二人が切れるといった展開だろうと予想して教室を開ける。
「だから夕麻ちゃんだって!天野夕麻ちゃん!!なんで憶えてねぇんだよ!?」
しかし帰ってきた言葉は意外にも二人の叫び声ではなく兵藤の叫び声だった。見てみると兵藤が懸命に二人に何かを訴えかけていた。しかしそんな必死の訴えも彼らは特に気にする事無くキョトンとした顔で対応していた。
「夕麻ちゃんって誰だよ?お前に女子の知り合いなんていないだろ?」
「そう言ってやるな元浜。ここは素直に従ってやるのが大人って奴だ……ああ、確かにいたなゆうまちゃん。仲睦まじくてホント羨ましかったよ、うん」
「だから本当なんだっての!!」
兵藤はそれでも訴え続けた。何とも必死過ぎて涙が出てくる。しかし、どうしたんだ急に?この前はあんなに羨んでたのに今じゃ寧ろ兵藤をかわいそうなものを見る目で暖かく見守ってるし、兵藤は兵藤でなにをそんな焦ってんだ?
「夕麻ちゃんがデートの最後で、背中からバサッて!羽が生えて、そんで俺の腹にグサーッて!何言ってるか分かんねぇかもしんねぇけど、本当なんだって!」
「はいはい分かった分かった、チャイムなるから席つけよ」
「だーかーらー!!」
???
なんとも奇想天外な話をしているもんだな。しかも兵藤の奴も興奮してんのか語彙力が著しく低下してる。二人の目が完全に小さい子供のごっこ遊び見てる両親の目だぞ?気付け兵藤。
その後も兵藤の意味不明な話は続き、放課後になると兵藤も諦めたのか、猥談に花を咲かせていた。だけどまだ引っかかるような顔を浮かべたままだった。
オレは放課後の下校する三人の後ろ姿をボーッと眺めていた。
「覚えてねぇ二人が変なのかな?それとも変な言動繰り返してる兵藤が変なのか?ひょっとして兵藤がおかしいと見えてる俺の方が異常?」
一人そんな事を夕焼け空に向かって呟く。
「あら?藤木くん、まだ此処にいるなんて珍しいわね?普段はちゃっちゃと帰るのに?」
「あ、グレモリー先輩」
すると後ろから声が掛かる。そこにはグレモリー先輩がいた。珍しく姫島先輩はいない。
「姫島先輩は?」
「ちょっと、女の子がいる前でいない女子の話を持ち出すなんて感心しないわよ?」
「あ、すんません」
俺の言葉が気に食わなかったのか、グレモリー先輩はふくれっ面で注意する。また何ともあざとい表情だ。オレは気を取り直してグレモリー先輩に話をする。
「いや、なんか気になることがあってそれが解消されないでモヤモヤするんですよ」
「そう、どんな話題?」
グレモリー先輩が俺の傍に立った。先輩のファンなら狂喜乱舞の状況だ。
しかし俺はあくまで平静を装って先輩と会話を続ける。先輩は何とも距離の詰め方が早い。知り合ったのは一年前だが、男女の友人の距離感だったらまだ少し離れていても、壁があってもいいはずだが、先輩はそれが感じない。そこがいいところだ。
『ねぇねぇ、あれってグレモリー先輩と藤木君じゃない?』
『やだー!あんなに親し気な風にして!!ひょっとして付き合ってるのかしら?』
『違うわよ!知らないのあんた達?二人は入学して知り合った当初からああいう雰囲気なのよ』
『きゃー!それって友達以上恋人未満って言う関係!?素敵ー!!』
……まぁ、弊害がないかと言われれば断言はできないが。俺は遠くの方から聞こえてくる同級生の声を無視しながらグレモリー先輩の質問に答えた。
「実は兵藤っていうあの悪ガキ三人組の比較的顔がいい方が何か変な事叫んでましてね?簡単に言うと『友人が自分の彼女を憶えてない』っていうんですよ。けど、その友人の方は『兵藤に彼女は元からいない』って言ってて、どっちも嘘ついてるようには感じなくて……現に俺は彼女に浮かれてる兵藤の事を憶えてるし、あいつが正しいんだろうと思ってるんですけど、段々俺と兵藤の方が違う気がしてならないんですよね…………すいません。変な話しちゃって。忘れて…………先輩?」
俺は自分の中の疑問を先輩にぶつけた。訳の分からない悩みに呆れ顔にでもなっているのだろうと推測してグレモリー先輩の方を見ると、そこには呆れ顔のグレモリー先輩はいなかった。
「どうして…………あなたがそれを憶えて……」
「グレモリー先輩?」
その表情は驚きだった。目を大きく見開き、こちらをじっと見つめて聞こえないほどに小さな声で何かをつぶやくグレモリー先輩は俺の声が届かないのか、そのまま独り言を囁き続ける。
やがてなにかに納得したのか、先輩は急に俺と目を合わせる。
「ねぇ藤木君?次に放課後空いてる日っていつ?」
「へあ?」
急なお誘いである。美人なグレモリー先輩の顔が目の前にあるので心臓に悪い。俺は情けない声を上げてしまいそれ以外の声が出なかった。
「いつが空いてる?」
「え、えっと…………ちょっと待ってください?」
真剣な目で訴えかけてくるグレモリー先輩にたじろぎながら俺はスマホでスケジュールを確認した。丁度明日はバイトが休みである。
「明日ならスケジュール空いてますけど?」
「じゃ、明日ちょっと一緒に寄って欲しい場所があるんだけど来てくれないかしら?」
「は、はい…………」
「ありがと。それじゃあね」
俺の返事に満足してかグレモリー先輩はくるりとその場でターンして去っていった。
振り返る際に髪が俺の目の前を遮って夕日を反射して実に綺麗だった。
「………………場所ってどこ?」
重要な事を聞きそびれて声が漏れ出た。
「………………ここで五つ目か」
「なんだキサマはぁ?ここに誰がいると分かってきたんだとしたら、相当なバカだねぇ?」
ある廃工場の跡地にて、金の目をしたやややせ型の筋肉質な青年がいた。その男の目の前には上半身は全裸で、下半身は異形の姿をした女がいた。女は異形の足を使い天井にぶら下がり男を見下していた。しかし男の顔は冷静そのものだった。一目見ただけで生理的嫌悪感を憶えるその姿を目にしても臆することなく目を開き、冷静に状況を観察していた。
「どうやらまたはずれか。教会以外の魔力を感じる場所を当たれば出会えると思ったんだが……」
男は依然女を無視して観察を続ける。その態度にいよいよ女がキレた。
「キサマぁぁぁぁ!私を馬鹿にするのもいい加減にし…………」
「三連激」
「ろ…………」
女が金切り声を上げるのと同時に男は拳を握り女に近づく。女はその声を聞いたと同時に、意識を失った。
「せめてもの情けだ。苦しまずに死んでくれ」
男は何も答えなくなった女を目の前にして静かに頭を下げた後にその場を去る。
「どうでした?キリアさん」
「クリスト」
金色の目の男、キリアの前に一人の青年がいた。緑のロングヘアーの青年、クリストはキリアに向かって用件を聞きに来る。
「いや、今回も外れだった。はぐれの悪魔だ」
「そうですか…………すいませんキリアさん。まさかここまではぐれ悪魔が往来しているとは思わず」
「構わない。それに、仕方のない事だ。ここのはぐれは恐らくだが大半が魔界生まれの悪魔だ。この世界の悪魔が見つけ出せなかったとしても、性質上仕方のない事でもある」
「冥界の悪魔とは質が違いますからね。すべてを見つけ出して管理しろとは中々に酷な話です」
「管理者に会ったとしても責めてやらないでくれ。これは魔界の失態だからな」
「分かっていますよ。僕はそこまで器は小さくないです」
「助かる」
キリアとクリストは淡々と話を続ける。キリアに先ほどの戦闘での疲れはないらしい。
「しかし、中々見つからないものですね。堕天使の情報ではもう着いている筈なんですが」
「何か事情があるのかもな。もしくは魔力を感知できないほどに量が少ないか」
「神器を持っていますから、その可能性は低いと思いますけど……ありえなくはないですね」
キリアの示した可能性にクリストは一見の価値ありと判断し、ずれたメガネを直す。
「しかし、これはチャンスです。堕天使も知りえていないという事は僕らが堕天使よりも先に聖女を見つけられる可能性があるという事ですから」
「……なるほど。よし、明日も出来る限り探してみる」
「よろしくお願いします。けど、無理をしては駄目ですよ?僕のお願いはあくまで可能な範囲で構いませんので」
「分かっている……」
クリストの念押しにキリアは呆れ気にため息交じりに返事を返す。親し気な空気を醸し出す二人の背中を三日月が青白く照らしていた。
「Oh……Where is a church in this city?According to the map,it should be here……」
《あう……教会は一体どこでしょう?地図によるとこの辺なんですが……》
駒王町のある場所にて、一人の少女がぽつんと寂し気に立っていた。少女は今にも泣きそうな顔で地図をじっと眺めていた。その少女の髪は金髪で癖毛のないサラサラヘアーを腰まで伸ばしている。涙で潤んだ瞳は太陽の光を存分に浴びて育った樹木の葉を思わせる緑で、庇護欲をそそられる。そして特に特徴的なのはその服装であり、洋画でゴスペルを歌う修道女が着る様な黒い服に身を包んでいた。その服との対比で金の髪がよく映える。
「Don't cry!This is god's trail!Lord,……Please guide me」
《泣いちゃだめです!これも神の試練の筈です!主よ……どうかお導き下さい》
少女は頬を何度かぺちぺちと叩いた後、祈りをささげる姿勢を取る。そして心が落ち着いたのか、再び地図と向き合う。が……
「あれ?君可愛いね?ひょっとして一人?なんか困りごと?」
「What?」
《へ?》
ふと、声が掛かる。少女が振り返るといかにもチャラそうな金髪黒肌の男がいた。男はじゃらじゃらと金細工の音を響かせて少女に近寄る。少女は急に詰め寄ってくる男に不気味さを感じて一歩後ずさる。
「こんな時間に君みたいなかわいい子一人じゃ危ないよ?オレで良かったら、助けちゃうけど?」
「a……ah」
《え、えっと》
少女が一歩下がると男も一歩詰め寄る。それを繰り返していくうちに、少女と男の間合いが無くなった。
「それで?何で悩んでんのかなー?」
「a……um……」
男の威圧感に少女は完全に黙り込む。それ良い事に、男は無遠慮に手を少女の腰に回す。
「どりゃああああああーーーー!!!」
「ぐへあ!?」
「!?」
しかしそれは叶わなかった。突如として横から飛んできた足が男の顔面を捕え、男はそのまま5mほどすっ飛んでそのまま意識を失う。
「ったく。いまだにこんな古典的なナンパしてるやつとかいんのかよ時代遅れだな?今やナンパもネットの時代。可愛い子とにゃんにゃんしたいなら出会い系登録しろばーか」
蹴り飛ばしたのは藤木であった。藤木はドロップキックをして汚れてしまった衣服のほこりを払う。
「うっげ!誰だガム捨ててってる奴!?ちゃんと紙に包めよ!非常識な奴だな!ま、オレが言えた義理じゃねぇけど。っと、大丈夫だった?」
「………………!!」
藤木はズボンのすそをはたきながら少女と向き合う。少女は先ほどまでの恐怖感が一気に込み上げ、安堵したのか、涙腺が崩壊しボロボロと泣き始めた。
「うえ!?ちょっとまって!?俺そんなに怖かった?ごめんごめんごめん!どうしたら泣き止んでくれる!?ってうおぁあ!!」
少女は感極まって藤木に抱き着く。美少女と関係はあってもボディタッチの経験は皆無であった藤木にとっては硬直する以外に対応策は思いつかなかった。
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