一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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ラブレターを貰う*シンヤ


死んで花実が咲くものか:番外編
- 恋文 -


「シンヤさん」

 

ニッコリと笑みを浮かべたジョーイを見てシンヤは眉間に皺を寄せた。

どの地方に行ってもジョーイは嫌い、きっぱりとジョーイ達に言い放つシンヤという男の印象はジョーイ達の中ではすこぶる良い。

仕事も出来る、バトルも強く有名人、愛想はあまり無いが整った顔立ちはわりと万人受けする。

 

「もう眉間に皺、寄せちゃダメですよ」

 

ツン、とシンヤの眉間に指を当てたジョーイの行動にシンヤはえも言われぬ気味の悪さを感じた。

 

「なんなんだ…見ろ、この私の鳥肌を…」

 

こんなに拒絶反応が出るくらい不気味です、というのを態度で見せようと服の袖を捲って見せたシンヤ。

それを見てジョーイは「ふふふ」と笑みを浮かべた。

 

「すべすべの肌にたくましい腕ですね」

「気持ち悪い!!」

 

とうとう本音が口から出たシンヤはジョーイから数歩後ろに下がる。

彼らしくもないが口から「ひぃぃー」なんて悲鳴が出ても可笑しくないほどシンヤは目の前に立つジョーイが不気味でならなかった。

 

「今日は、シンヤさんにこれを受け取って欲しくて…」

「……」

 

すっと差し出された白い封筒。

眉間に深く皺を寄せたシンヤはその手紙を睨み付ける。出来るなら受け取りたくない…、否、絶対に受け取りたくない。

シンヤは差し出された手紙を睨み付けるだけでなかなかその手紙に手を伸ばそうとはしなかった。

 

「私の気持ちなんです、受け取って下さいシンヤさん…」

「……」

「シンヤさんの事だけを思って…書いたんです…」

 

少し恥ずかしがるように目線を逸らしたジョーイを見てシンヤは「うげ」と言葉には出さなかったが口を台形にして顔を歪めた。

 

「これがなんなのか聞いても…?」

「そんなこと乙女の口から言わせるんですか!もう、シンヤさんったら…!」

「……」

 

頬を膨らませたジョーイを見てシンヤは更に顔を歪める。

"気持ち悪い"

その言葉だけがシンヤの脳内を埋め尽くしていたので差し出されたその手紙がなんなのかなんて分からないし、分かりたくもなかった。

 

「はい、どうぞ」

「……」

「はい!どうぞ!」

「…どうも」

 

二度目の強い口調で渋々手を出したシンヤ。

シンヤが手紙を受け取った事を確認するとジョーイはにっこりと笑みを浮かべた。

 

「私からのラブレターです」

「…そうか」

 

死刑宣告か…。

 

*

 

ジョーイからの手紙を持って家に帰って来たシンヤは深く溜息を吐いた。

ソファに座り込んで手紙に視線を落とす。

ご丁寧にハートのシールを貼って閉じられている手紙、それはもう綺麗にハートが半分に切れるように開けてやろうとシンヤは密かに思った。

 

「ご主人様、おかえりなさいませ」

「ああ、ただいま」

「そのお手紙は?」

「…ラブレター」

「ラブレター!?」

 

ポ、と頬を赤らめたチルタリスを見てからシンヤはハートのシールの貼られた手紙へと視線を戻す。

ジョーイ以外からのラブレターだったらそれなりに喜べたのに、とは口には出さないが苦々しく顔には出してシンヤは溜息を吐く。

 

「部屋で仕事をするから何かあったら呼んでくれ」

「は、はい!お飲み物はどうされます?」

「…いや、要らん」

「かしこまりました」

 

頭を下げたチルタリスから視線を外し、手紙を片手にふらふらとおぼつかない足取りで部屋へと行くシンヤ。

そんなシンヤの様子を気にした様子もなくチルタリスは口元に手を当てる。

 

「ラブレターかー…ご主人様はやはり女性におモテになるのですねぇ…」

 

ポソリと呟いたチルタリスの独り言。

ご主人様スゴイ、ご主人様カッコイイ、脳内でその言葉を反芻していたチルタリスはドサッという音でビクリと肩を揺らした。

音の方へと視線をやれば買い物に行っていたらしいミロカロスがスーパーの袋を床に落としてチルタリスを凝視していた。

 

「…?ミロカロスさん?おかえりなさいませー…、どうかなさいましたか?」

「ラブレターって何!?」

「え!?え、えっと…」

「シンヤがラブレター貰ったの!?なんで!?誰に!?」

 

ぐわっとチルタリスに飛びついたミロカロス。

飛びつかれたチルタリスは慌てながらもミロカロスを何とか受け止める。

 

「だ、誰に貰ったのかは分かりませんがラブレターを貰ったというのだけお聞きしまして…」

「やぁあだぁああ!!」

 

何が嫌なのか、首をブンブンと横に振って駄々を捏ねるミロカロス。

困ったどうしよう、とうろたえるチルタリスの肩をポンとエーフィが押さえた。

 

「放って置きなさい、いつもの癇癪です」

 

手慣れた反応だった。

ミロカロスの声を聞き付けて他の連中もぞろぞろと集まって来る、泣きわめくミロカロスに「うるせぇ!!」とミミロップが蹴りを入れた。

 

「うぎゃぁあ!!」

「今日も今日とてうるせぇぞ!!」

「だぁってぇええ!!シンヤがぁあ!!」

「まぁーた、今日の"シンヤがー!"が始まった!今日のシンヤはなんだ!昨日に増してイケメンだったのか!!」

 

ええ、こら言ってみろ。とミロカロスの顔を覗き込んだミミロップ。

まあまあ、と二人の間に立ってトゲキッスがやんわりと二人を宥める。

 

「シンヤが、シンヤがラブレター貰ったって!!」

「…あ?」

「へー、シンヤがラブレター貰ったの?誰から?」

 

ねえ、誰から?とブラッキーが他の連中に視線をやったが誰も知らないのか小さく首を横に振る。

シンヤがラブレターを貰った、というよりシンヤがラブレターを女から受け取って来た!という事が彼らにとっては衝撃だった。

 

「ラブレターもどきのファンレターが届いても完全スルーのシンヤが…ラブレターを直接受け取って来た…?」

「やぁああだぁぁああ!!」

「お待ちなさい!」

 

びしっと手を上げたサーナイトに周りの視線が集まる。

視線が集まったのを確認したサーナイトが口元に手を当ててニヤリと笑って見せた。

 

「シンヤがラブレターを受け取った、即ち…今なら受け取ってくれるという事ですわ!」

「「「…は?」」」

 

なにそれ意味分かんない、ミミロップがぼそりと呟いたがサーナイトはチッチッチ、と指を振って見せる。

それがムカついたのかミミロップが「あぁん?」と言葉を漏らし顔を歪ませたが素早くサマヨールがミミロップの肩を掴んで制した。

 

「シンヤが貰ったラブレターよりも素敵なラブレターを送れば何処ぞの女の事なんてシンヤはすっかり忘れてしまいますわ!書きましょう、そしてシンヤにラブレターを渡すのは今がチャーンス!」

「お前、仕事出来るけど言動が本当に馬鹿だよな。ワタシ、ミロカロスの次にお前嫌いだから。っていうか今はダントツにお前嫌い」

「いやぁーん…ミミロップ先輩、酷いですわぁー…」

 

酷い酷いー、と言いつつも顔が笑顔なのは何故なのか。ニコニコと笑うサーナイトを見てミミロップは顔を歪めた。

 

「良いんじゃないか?」

「え?」

 

黙って見ていたサマヨールがまさかサーナイトに賛同するような言葉を発するとは思いもしなかった面々が目を見開いてサマヨールに視線をやった。

 

「主に手紙を送るのは良いと思う」

「ああ、ラブレターじゃなくて普通の手紙ね…びっくりさせんなよ…」

「別に自分は主にラブレターを送っても良いが…」

「え…何書くの…?」

「それは勿論、主への気持ちを素直に綴る…」

「キモイ!!」

「そんなことはない」

「キーモーイー!」

 

サマヨールの髪の毛を引っ張って喚くミミロップ。

溜息を吐いたエーフィがパンと手を叩いた。

 

「分かりました、みんなで書きましょうか」

「エーフィが言ってるからオレも書くよーん」

「では、チルも!」

「じゃあ、俺もシンヤにお手紙を書きます」

「俺様も書くー!!」

「素敵なラブレターを書きますわ!」

「お母さんの言う事は素直に聞かないとー」

 

チラリとサマヨールに視線をやられたミミロップが「う…」と言葉を漏らしたが渋々と言った様子で頷いた。

 

「今、お母さんって言ったの誰です!?」

「ブラッキーさんでした」

「チルタリスー!!言っちゃダメー!!」

「ブラッキー!!ちょっとこっちに来なさい!!」

「ギャー!!ごめんってー!!」

 

*

 

ゴツン、とテーブルに頭を打ち付けた。

目の前をボールペンが転がっていく…、どうやら仕事をしながら寝てしまっていたらしい。

小さく欠伸を漏らしてテーブルの上を見れば少し皺になった書類とジョーイから貰ったラブレター…。

ラブレターなんて可愛いものじゃなかった。

パッカリとハートを割って中を確認すれば手書きで"シンヤさんにやって欲しい仕事リスト"がズラズラと書かれていた。

やっぱり死刑宣告だった。

戦時中に赤札が届いた気分だ。戦争なんて経験したことはないが、それぐらいの衝撃は受けた…気がする。

喉が渇いた、

キッチンに行こうと立ち上がった時に丁度コンコンと部屋の扉をノックされた。

返事をすればトレーにコーヒーを乗せたチルタリスが部屋へと入って来た。

 

「そろそろお疲れなんじゃないかと思いまして、コーヒーをお持ちしました」

 

なんて良いタイミングなんだ。

チルタリスからコーヒーを受け取って口に運ぶ。こちらチョコレートです、と珍しく甘い物も添えてくれていた。

女に生まれていればいつでも嫁に出せるのに…と思いつつもお礼を言えばチルタリスはニコリと笑う。

 

「?」

「あの、これを…」

「なんだ?」

 

スッと差し出された手紙の束。

また郵便受けに入ってた奴かと思ったが宛名が書いていない。

 

「チル達から、です」

「…へ?」

「で、では、失礼致しますー!」

 

手紙を受け取ればチルタリスはそそくさと部屋から出て行ってしまった。

チル達、から?

チルタリス達が手紙を書いたのか?私に…?

今日は手紙を送る日として何かあるのだろうか…、ジョーイはいつも急に何でもしてくる連中だけどな…。

カップをテーブルに置いてチョコレートをひとつ摘まむ。もぐもぐと口を動かしながら差出人の名前も書いていない手紙の一枚の封を切った。

中を見れば差出人、というかあの連中の中の誰かが書いたか分かるだろう…。

封筒の中には手紙というよりメッセージカード。拙いながら書かれた文字は歪で読みにくかった。

 

『だいすきなシンヤへ

あしたはユウガタからでかけます。バンゴハンはおいといてね。かえってくるのはおそくなるとおもうけどかえってきたらたべるよ

ブラッキーより』

 

…手紙というより伝言なんだな。

一応、分かったけど…。お前、次に朝帰りしたらエーフィに玄関先に吊るすって言われてなかったか…。

なるべく早く帰るように言っておこう…、と思いつつ次の手紙を手に取った。

 

『シンヤへ

こんな手紙なんて書きたくなかったんだけど、他の奴らが言い出して書かなきゃいけなくなったから書きます。

毎日会ってるのに今更手紙とかすっげぇ馬鹿らしいよな。

シンヤもあんまり気にしないで良いから、なんかその場の流れで書くことになってさ本当に意味分かんないよね。

特に言いたい事とか無いし、書くこともないから終わります。

PS.あんまり無理しないでね

ミミロップより』

 

…ミミロップ、お前…いや何でもない…。

でも、まあミミロップのおかげで手紙を貰った理由は分かった。特に理由という理由は無かったわけだ、手紙を送る日では無いというのが分かっただけ良い。

手紙を送る日だったら私も実家に手紙を送った方が良いのかとか考えないといけなくなるからな…。

よし、次。

 

『シンヤへ

言葉としてはなかなか言い出せなかったのでこの機会に手紙としてシンヤに送ります。

俺はシンヤが消えてしまった日のことをたまに夢に見ます、辛そうなシンヤが消えてしまうのを夢に見てとても不安になります。

この世界は前の世界とは全然違うからシンヤも不安に思っているんじゃないかと思う時があります。

俺はみんなが居てシンヤも居る今を幸せだと思えるようになりました。シンヤは大丈夫ですか?今も幸せですか?

またシンヤが一人苦しんでいるんじゃないかと不安になる時も無いわけじゃありません、またシンヤが消えてしまうんじゃないかと思った事もあります。

もしも、またそんな気持ちになったらいつでも言って下さい。俺たちはずっとシンヤと一緒に居ます。だから、あまり一人で無理をしないで下さいね。

大好きなシンヤにたくさんの幸せが訪れますように。

トゲキッスより』

「…ッ…、」

 

本当に、良い子に育ったな…トゲキッス…ッ!!

ティッシュが手元に無いんだが…ああ、もうタオルで良いか…。

ミミロップの方にも書いてたが私はそんなに無理をしてるように見えるのだろうか…、黙って消えたという前科があるからかもしれないが…。

…鼻の奥がツンとした……。

スン、と鼻を啜って次の手紙を開けた。

あまり泣くと目が赤くなって後で笑われる気がする…。

 

『シンヤへ

土曜日の夜はブラッキーさんは遊びに出掛けますしエーフィさんとミミロップ先輩がボールに入って寝るのは前々から確認済み!

ガッツリ攻めるなら土曜の夜ですわ!

大きな声が聞こえてもワタクシは聞こえないフリ出来ますから、あとシンヤなら分かってると思いますけど男同士でも避妊具は…』

「フンッ!!!」

 

ベシンとテーブルに手紙を叩きつけてコーヒーを一気に飲み干した

長ったらしく手紙が書いてあるが続きはもう良いだろう。おかげで涙が引っ込んだのはむしろ礼を言わねばならんな、覚えてろよサーナイトめ…!!

舌打ちをして次の手紙の封を切る。もう変な手紙を書きそうな奴は居ないだろう…。

あとはエーフィ、チルタリス、サマヨールに、…ああ、ミロカロスが居たか…。

まあ素直な奴だから"変なこと"は書かないから大丈夫だな…。

 

『ご主人様へ

いつもお仕事お疲れ様です。

チルはいつでもご主人様のお役に立てるように日々精進致します、先日はサーナイトさんにマッサージの仕方を教わりました。

今度、ご主人様がお疲れの際にチルがやってさしあげますね!

チルタリスより』

 

サーナイトから教わったのか……。

ちょっと…いや、まあ、良いだろう…今度やってもらおう…。

私が少し考え過ぎてるだけかもしれないしな…うん、大丈夫だよな…。でも教わるならミミロップに…いや、もう良いか…。

 

『未来永劫、主を敬いお慕い申し候。

サマヨール』

 

未来永劫…!?そんなに!?

いや、サマヨールらしいけどな…。

そこまで慕ってくれなくても良いんだが…まあ、嬉しい事には違いないか…。

 

『シンヤさんへ

美味しいケーキが食べたいので今度よろしくお願いします。

エーフィより』

 

買いに行けと!?

お前、ブラッキーより酷いぞ…。

別の意味で涙が出そうだった…本気で…。

 

小さく溜息を吐いて、後はミロカロスだけか…と残った手紙を手に取る。

本音を言うとトゲキッスの手紙を最後に読みたかったな…、もう一回最後に読むけど…。

 

シンヤ へ

スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ

スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ

スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ

スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ

スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ

ミロカロス ヨリ

「…ッ!?…ッ、ミロカロスーッ!!!」

 

 

- 恋文 -

 

 

部屋から飛び出してミロカロスの所へと行けばミロカロスは嬉しそうに頬を赤らめて笑った。

 

「俺様の手紙見た!?」

「み、見た…」

「これからも手紙書いて良い!?」

「いや、直接言ってくれた方が嬉しい…」

「…!?うんっ、分かった!!」

 

笑うミロカロスを見て、へなへなとその場にしゃがみ込む。

小さく溜息を吐けば「どうしたの?」と近寄って来たミミロップ、そのミミロップにミロカロスの手紙を渡せばミミロップは涙目で悲鳴をあげていた。

 

「おわぁああ!!!?ゆゆゆゆゆ夢に見そうぅうう!!!!」

「…?」

 

ミロカロスは"赤色"が好き。

 

*

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