一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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エンペラー


僕には僕なりの理由がある

- ピンポーン -

 

誰か来た…。

そう思ったシンヤはドアの方へと視線をやったが座ったまま動かない。

誰か出るだろう、そう思ったシンヤが再び本へと視線を戻す。

 

- ピンポーン -

 

「…」

 

誰も出ない…。

チルタリスはどうした、と思った所でそういえばさっき買い物に行って参りますとかなんとか言われた事を思い出した。

いつもうるさいくせにこんな日に限って誰も居ないらしい。

 

- ピンポーン -

 

三度目のチャイムが鳴ってシンヤは本に栞を挿み渋々椅子から立ち上がった。

せっかくの静かな時間を邪魔されたシンヤは少し不機嫌になりながらも玄関へと向かう。

 

- ピンポーン -

 

はいはい、そう何度も押さなくても分かってる。むしろこんなに鳴らして出ないなら諦めて帰れば良いのに…。

小さく舌打ちをすれば再びチャイムが鳴る。

 

-ピンポーンピポピポピポピンポーン -

 

しつけぇええ!!!

シンヤは走って玄関の扉を勢いよく開けた。

 

「誰だ!!」

「やーっと出た。僕をどれだけ待たせるのシンヤさん」

「エンペラー?」

「見たら分かるでしょ」

 

見たら分かるには分かるが違和感が拭いきれないこの感じ。

呆然とするシンヤを押しどけてエンペラーはズカズカと勝手に中に入って来る。

リビングのソファに座ったエンペラーは「お茶が飲みたいな」とシンヤを見て言葉を発した。

 

「私に淹れろと…」

「だってほら、シンヤさんの家じゃない?僕が勝手にキッチンを使うわけにはいかないでしょ?」

 

勝手に家に入ってきておいて何を言っているんだコイツは…。

色々と文句はあるがシンヤはキッチンへと行きエンペラーと自分の分のお茶を淹れてリビングへと戻る。

シンヤはエンペラーの前にお茶を置いてエンペラーの向かいのソファに座った。

 

「ありがと」

「…何か用なのか?」

「え、別に?」

「…」

「…」

 

お茶を飲むエンペラーを見てからシンヤもお茶に手を伸ばした。

シンヤの以前の記憶ではエンペラーはツバキのポケモン"エンペルト"だった。しかし今のシンヤの記憶ではエンペラーはツバキの研究所で働く研究員でエンペラーという名の"人間"である。

技も使えない、勿論、ポケモンの姿にもなれない普通の人間。

 

「…何かあったのか?」

「うん、もう許せない」

「…」

「僕、ツバキの所で働くの辞める」

「そうか…」

「他の研究所紹介して」

「オーキド博士とか?」

「出世だね!」

 

嬉しいらしいエンペラーがニッコリと笑う。

また喧嘩したのか、とシンヤは深い溜息を吐く。

くだらない理由で度々喧嘩をするツバキとエンペラー。博士と助手という関係だが仕事が出来るのはエンペラーで顔が広いのはツバキ。

どういった経緯でこの二人が一緒に居るのかはシンヤも知らないが、ツバキはエンペラーが居ないと仕事が出来ないだろう。

カントーに行くのも良い、ともうすでにオーキド博士の所に行く気満々のエンペラー。

しかしシンヤの今の記憶が正確であればそろそろツバキがやって来る。

 

「お邪魔しますぅうう!!シンヤさぁああん!!エンペラーが家出したぁあ!!一緒に探して下さいぃいい!!」

「…」

「…」

 

リビングへと駆け込んできたツバキはソファに座りお茶を飲むエンペラーを見て一瞬固まったがすぐに復活した。

 

「エンペラー!!ごめんね、あたしが悪かったです!本当にごめんね!!だから考え直して帰って来てよぉお!!」

「嫌だよ。今日という今日はもう絶対に許さないから」

「ごめんってばぁああ!!」

「絶対に嫌だから」

 

床に膝を付き泣きじゃくるツバキに視線も向けないエンペラー。

二人を見ながらお茶を啜ったシンヤは心から思った。

よそでやれ。

お願いお願い、と土下座までして許しをこうツバキにエンペラーは冷たい視線を向ける。

 

「絶対に嫌、僕はシンヤさんの家から出ない」

「あたしよりシンヤさんが良いって言うのかああ!!」

「月とスッポンって言葉を知らないの?比べるまでも無いでしょ」

「な!!?エンペラー!!シンヤさんをスッポンだなんてさすがにそりゃ失礼でしょうが!!」

「ツバキがスッポンだよ」

「そんな事ないよ!!」

「じゃあ、月とスッポンの類義語を言ってみなよ」

「…?」

 

少し考えた後にツバキがシンヤの方に向いた。

もしかして一つも思い浮かばないのかこの女は…と思いながらシンヤは眉間に皺を寄せる。

 

「雲泥の差、提灯に釣り鐘などが類義語になるが…」

「それだよ!!」

「そう、そういう事を答えらないからツバキはシンヤさんとは月とスッポンなんだよね」

 

ちなみに月とスッポンは月と朱盆が訛ってそう言われてるだけなんだけどな。月とスッポンってあんまり似てない…。

っていうかこの世界にスッポンって居たか…?と思いつつシンヤは庭の様子を眺めた

ギャーギャーと言い争う二人など視界に入れたくないらしい。

 

「だから、僕は戻らないよ」

 

シンヤの隣にエンペラーが座った。

話はいつ終わるんだ、と思いながらシンヤはエンペラーへと視線を向ける。

目が合ったエンペラーはニコリと笑ってからシンヤの腕に自分の腕を絡ませた。

 

「帰らないからね」

「なら!!あたしもここに住む!!」

 

エンペラーとは反対のシンヤの隣に座ったツバキがシンヤの腕に自分の腕を絡ませた。

うわぁ、挟まれたぁ…。二人の間に座りながらシンヤは両耳を塞ぎたい衝動に駆られたが両腕を掴まれているのでどうしようもない。

 

「今更なんだが…」

「「なに?」」

「喧嘩の原因は何だ…」

「ツバキが…僕のゼリーを食べた」

「…は?」

「冷蔵庫に入れておいたやつ、名前までちゃんと書いてたのにこの女は僕のゼリーを食べたんだよ!!しかもイチゴ味!!」

「お腹空いてたんだもん!!徹夜して眠たかったからちゃんと見てなかったの!!」

「前にオレンジ味のゼリー食べたのは許したけど今回はもう許さないから!!」

「また買えばいいだけじゃんかー!!」

「シンヤさん、この女どう思う!?信じられないでしょ!?謝ってすぐに買いに行くとかしないんだよ!!

「分かったよ!買いに行けば言いんでしょ!!」

「そういう言い方されるとムカつく」

「なんだよー!!このバカー!!」

 

なんかもう、怒る気力さえ奪われた……。

ソファに凭れかかって天井を仰ぐシンヤ、そのシンヤの口から深く重い溜息が零れたのは言うまでもない。

 

 

 【僕には僕なりの理由がある】

 

 

「ご主人様、ただいま帰りまし、た…」

「おかえり」

「何をやってらっしゃるんです?」

「イチゴゼリーを作ってる」

「イチゴゼリーですか…」

 

チラリとリビングに居るツバキとエンペラーを見るチルタリス。二人は仲良く研究談義に花を咲かせていた。

 

「仲が良いですね!」

「…そうだな」

 

*

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