一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

112 / 221
シンヤ


働くお兄さんはお好きですか?

トゲキッスとブラッキーとエーフィを連れて少し遠出をしてみた。

その辺をフラフラ歩き回って木の実を採取したり、野生ポケモンの健康状態をチェックしたりしながらの散歩…兼、仕事だ。

足元をちょこちょこと歩くブラッキーとエーフィを連れて森の中を歩いて行く。

野生ポケモン同士の喧嘩で怪我をしていたり、毒状態になっていたりするポケモンを主に治療する。

日常的に重傷のポケモンはほぼ居ない。

天災などの影響、心無いトレーナーからの攻撃などが重傷になりうる原因が多いが基本的には暇だ。

 

「ブラァ…」

「ああ、その辺で休憩でもするか」

 

昼寝したいー、なんて漏らしたブラッキーの言葉に相槌を打つ。

この天気だと昼寝がしたくなるのは同感だ。

手頃な大木の下に座り空を見上げれば風で木々の葉が揺れる。…良い天気だ。

今頃、家でチルタリスが洗濯でもしてるんだろうなと思いながらぼんやりしているとゴォオオと大きな音を立てながら火柱があがるのが見えた。

隣で寝転がっていたブラッキーが飛び跳ねるように起き上がった。

 

「フィー!!」

「…行くか」

 

何が起こったのか確認しておかないとな。

エーフィとブラッキーが先に走って行くのを追いかけて火柱のあがった場所へと向かう。

辿り着いてみれば、思わず目が点になる。

ぐったりなワカシャモの傍に座り込むハルカに火傷状態で瀕死なピカチュウを治療しているタケシとピカチュウに声を掛けるサトシ…。

うろたえるマサトの肩を叩けば、目を見開いて驚かれた。

 

「シンヤさん!!!」

「奇遇だな、こんなところで会うなんて」

 

わぁぁん、と飛び付いて来たマサトを受け止めてサトシ達の方へと視線をやる。

 

「シンヤさん!!ピカチュウが!!」

「見れば分かる、タケシ代わろう」

「お願いします…!!」

 

タケシの隣に座りピカチュウの様子を見てみる。

やっぱり火傷だな、大火傷も良い所だがポケモンなら薬ですぐによくなる。

薬を全身に塗って火傷が擦れないように包帯をくるくると巻く。

体力の回復薬、電気タイプ用の栄養剤を甘めに味を付けた水に溶かしてピカチュウに飲ませる。

 

「ん、今日はこのまま大人しく寝ておけ。明日には元気になるぞ」

「ピカ…」

「良かった…!!」

 

ピカチュウを抱きかかえたサトシを見てから次はハルカの方へと移動する。

ワカシャモに寄り添うハルカの向かいに座ればハルカは涙目で私に視線をやった。

 

「シンヤさん…、ワカシャモが…私のワカシャモが…!!」

「……」

 

ぐったりするワカシャモの腕をツンと突けばワカシャモが目を開ける。

 

「どうした?」

「シャモ…」

「だるい…、他には?」

「シャモシャモォ…」

 

「炎を上手く調整出来なかった、か…。ふむ」

 

ワカシャモの言葉に頷いて返せばハルカが不安げに私を見た。

 

「風邪だな」

「風邪…?」

「今は熱は無いみたいだが、放っておくと高熱が出るかもしれない。炎タイプは熱が出ると面倒だ…」

 

主に治療が。

もの凄く熱くて触れなくなる…。

 

「炎タイプ用の風邪薬を処方しておくから必ず食後に飲ませて、水分を普段より多く取らせるように…。それと薬を飲ませると一時的に調子は回復して元気になると思うが炎技は使わせないようにしてくれ、回復する為に体内に溜めた熱を放出してしまうと治りが遅くなるうえに余計に体調を崩しかねない」

「は、はいっ」

「あと、今日は薬は飲ませなくて良い。ただし今から発火作用を促す薬を注射するから今夜から明日の朝に掛けてはワカシャモの体に触るな。高熱を放つだろうから触ると火傷するぞ」

「発火作用を促すというのは何ですか?」

 

カバンから注射器を取り出したところでタケシが首を傾げた。

注射器で薬を吸いあげながらタケシの質問に答えを返す。

 

「炎タイプは体調を崩すと発火能力が混乱状態になって炎が強まるか弱まるかの二つに分かれる。炎が強まる場合は体から煙が出るほど常に発火し続けて体力を消耗していくんだ、その場合は発火作用を抑える薬を打つ。

そして炎が弱まる場合は体内で発火能力がほぼ出来なくなる。普段通りに技を放とうとするとなかなか上手く技が出なくて力が入り予想以上に炎を放出してしまったりする。ワカシャモは今その状態だな。

予想以上の炎を放出してしまえば、発火能力が上手く出来ない状態では疲れだけが体に残り体内から熱が奪われる。そのまま放置しておくと体が勝手に発熱し出すが空焚きのような状態になる」

「空焚きって?」

「水を淹れないでヤカンを火にかけてるみたいな状態だな…。中が空っぽの状態なんだ、自分の発火能力で体内を守っている炎タイプでも空焚き状態になると体の中、内臓などに影響が出て最悪は死に至る」

「!?」

「だから、今のワカシャモの発火能力を助ける為に発火作用を促す薬を注射するというわけだ」

 

打つぞ?とハルカに聞けばハルカはコクコクと頷いた。

ワカシャモの首元に注射を打つ。

 

「暫くすると体中が熱くなって魘されると思うが薬が効いてる証拠だ。ボールに戻して明日の朝まで寝かせておいてやると良い」

「はい、ありがとうございました!!」

「コンテストに向けて練習するのは良いがポケモンの体調を気に掛けてやることも大事だぞ…。しっかり休ませてストレスを解消させてやらないと強力な技を放つポケモンは人間よりも色々と溜め込みやすいからな」

「…はぃ」

 

俯いたハルカの頭を撫でる。

コーディネーターとして腕を磨いていけば自然とポケモンの調子も分かって来るだろう。

 

「ポケモンセンターに立ち寄った時、ジョーイにポケモンの様子を見て貰うのも良いぞ。健康状態のチェックは多くのポケモンを診てないとなかなか分かり難いものだからな」

 

私の場合は直接、聞くけど。とは言わずにカバンから薬をハルカに渡す。

 

「三日分だ。あいにく手持ちにはこれだけしかない、三日経つ間にはポケモンセンターにも着くだろうから…、その時に一度ジョーイに診てもらってくれ。

ポケモンセンターに炎タイプ用の風邪薬があるかは微妙だが…。まあ、無ければジョーイが私の方に連絡して来るだろうから大丈夫だ。後から薬をポケモンセンターに送る」

 

トゲキッス便で。

ピカチュウの薬と包帯も渡して置くぞ、とタケシに薬を手渡してカバンを肩に掛け直す。

 

「シンヤさん、ありがとうございました!!」

「どういたしまして」

 

ぐりぐりとハルカの頭を撫でればハルカは照れたように笑ってみせた。

 

「やっぱりシンヤさんは凄いなぁ…、ボクもシンヤさんみたいな大人になりたいや!!」

「フィ~…」

「ブラー」

「……」

 

マサトの言葉にエーフィが首を横に振り、ブラッキーがコクコクと頷いた。

「シンヤさんみたいな大人になるのはやめておくのが賢明です」、「うんうん、やめとくべきだ」って…言ったよな?

 

「お前ら覚えとけよ…」

「「!?」」

 

 

【働くお兄さんはお好きですか?】

 

 

三日後、ポケモンセンターに到着したサトシ達。

ハルカのワカシャモはこの三日ですっかり元気に回復していた。

 

「うん、もう大丈夫ね。ワカシャモは元気いっぱいよ」

「良かったぁ、ありがとうございますジョーイさん!」

 

ワカシャモを抱きかかえて喜ぶハルカにジョーイがふふふと微笑む。

 

「シンヤさんと知り合いなら会った時にポケモンを診てもらうようにすると良いわよ」

「え?」

「それとなーく、シンヤさんの前でポケモン達を出しておけば良いの。あの人、勝手にポケモンとお喋りして体調チェックしちゃうから」

 

クスクス笑うジョーイを見てハルカ達はキョトンとした表情を浮かべ顔を見合わせた。

 

「ピカチュウもシンヤさんと喋ったりすんのか?」

「ピッカァ!!」

「やっぱりシンヤさんって凄いかも…」

「だね…」

「次、会った時に自分も勉強させてもらおう…」

 

*

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告