一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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シンヤ


優しさ≠彼の優しさ

 

「シンヤはポケモンたちを何だと思ってるの」

「…ポケモンだと思ってる」

「違うっ!!!」

 

急に家に来てポケモンの姿のチルタリスを撫で回してると思っていたら突然投げ掛けられた質問。

全く意味が分からん。

ポケモンたちを何だと思ってる?ポケモンをポケモンと思わないで何と思えば良いんだ。

 

「僕、思ったんだよね」

「…」

「シンヤにはポケモンたちに対して優しさが足りない」

「そんなことはないだろ」

「絶対に足りてない」

「わりと可愛がってる」

 

書類に目を通しつつ返事を返せば隣で「はぁぁぁ…」となんとも深い溜息を吐かれた。

やめろ、腹立つ。

 

「さっきだってトゲキッスに買い物頼んでたでしょ!!」

「何か問題でもあるのか?」

「可愛い可愛いトゲキッスに雑用を押し付けるとは何事だ!!」

 

えぇぇぇー…。

何を言い出すんだコイツは…。

 

「それにチルタリスにお皿洗いさせてるし!!」

「だから何だって言うんだ…」

「チルタリスの!!ミロカロスのような綺麗な手が荒れたらどうすんの!?」

「は?なんだって?」

 

「だーかーらー、ミロカロスのような綺麗な手がね荒れちゃったら可哀想でしょ!!チルタリス!!」

「チルタリスかミロカロスかハッキリしろ」

「例えだよバカ!!」

 

お前がバカだ。

ポケモンバトルでとんでもない攻撃くらっても死なない連中が皿洗いごときで手が荒れるわけないだろ。

というか、お前の例えだとミロカロスの手はどうなるんだ。

 

「ミロカロスって世界一美しいポケモンでしょ、その美しい表現を手に見立てたの!!分かる!?」

 

そんな事は分かってる。

 

「じゃあ、うちのミロカロスの手はどうなる」

「…え、美し過ぎて美しいって言葉で表現出来ない。なんて言うかな、もう頂点?スーパーエクセレントスペシャルビューティフォー!!ミロカロス美人だよ超美人ー!!イエーイ!!!」

「帰れバカ」

 

バカの相手はしてられない。

書類をテーブルに置くとそのテーブルをヤマトがバン!!と勢いよく叩いた。

なんだ、コイツ…。

私に喧嘩を売ってるのか、顔面腫れて原型無くなるまで本気で殴るぞ…。

 

「まだ話は終わってない!!」

「……」

 

――バンッ!!!

 

「うわっ!?ちょ、びっくりするでしょ!!」

 

テーブルを両手で叩き椅子から立ち上がる。

そのままヤマトを睨みつければヤマトは顔を引き攣らせた。

 

「表に出ろ」

「落ち着いてシンヤ、話せば分かるよ」

「表に、出ろ」

「なんでそんなコワい顔すんの…!?本当に待って!!」

「表に出ろと言っている!!!」

「暴力反対だってばぁあああ!!!」

 

胸倉を引っ掴んだところでリビングにブラッキーが入って来た。

私とヤマトを見て目を丸くしたブラッキーは少し考える仕草をした後に近付いてきて両手を振った。

 

「バトル、ファイトッ!!!」

「しないしないしない!!!」

「歯抜けになりたくなかったら歯を食いしばれ…!!」

「えぇええええ!?!?」

「エーフィー!!こっち来てー!!シンヤがマジ切れしてて面白ぇー!!」

 

*

 

「優しさが足りない…!!」

 

頬を腫らしたヤマトが言った。

その頬にわざわざ湿布を貼ってやるチルタリスは天使だな。良かったな大好きなチルタリスに優しくされて。

 

「さっさと帰れ」

「優しさが足りない!!!」

 

バン、と床を叩いたヤマト。

睨み付けてやれば崩していた足を再び正座に戻した。

(現在、ヤマトはフローリングの床の上で正座中)

 

「シンヤ、もっと人として優しくなろうよ…」

「失礼な奴だな」

「みんなはシンヤの優しさを求めてる!!」

「私は優しい男だ、聞いてみろ」

「え…、じゃあ…チルタリス」

「はい」

 

隣にヤマトと同じように正座をしていたチルタリスが首を傾げた。

 

「シンヤって優しい?」

「ご主人様はとっても優しくて素敵な人です!!」

 

素晴らしく良い子だ!!

不満気なヤマトの視線にフフンと笑みを返してやる。

チルタリスの返答が不満だったのかヤマトはソファに座ってテレビを見ていたブラッキーとエーフィの傍へと近寄って行った。ちなみにブラッキーはヤマトが殴られている様子に早々に飽きた。

 

「ブラッキー、エーフィ、ちょっと良い?」

「なに?」

「なんですか?」

「シンヤって普段、優しい?」

「え?うん。超優しいぜ!(っていうか、やりとり聞こえてたし)」

「そうですね、普段からとても優しいですよ(ここで否定したら後がこわいです)」

「えぇー…」

 

ブラッキーとエーフィの答えにヤマトが頬を膨らませた。

この同じ室内で今までの会話が聞こえて無いわけがない。ブラッキーとエーフィは賢い子なので馬鹿な発言はしないぞ。

ブラッキーはその辺、凄く頭の働く奴だからな。今日のデザートは奮発してやろう。

 

「まだだ…、まだ僕は納得しない!!っていうか、同じ部屋に居たんだから話を合わせてるだけかもしれない!!」

「「(合わせたけど…)」」

 

合わせただろうな。

普段からの私の教育の賜物だろうが…。

 

「サマヨールー!!ちょっとこっち来てー!!」

 

リビングの扉から顔を出してヤマトがサマヨールを呼んだ。

すぐにサマヨールがリビングへとやって来る。

 

「……用件は」

「ちょっと聞きたいんだけど、シンヤって普段サマヨールに対して優しい?」

「主…?主は…自分にとても優しい…、常日頃よくしてくれる最高のトレーナーで敬愛してやまない…」

「…ぐっ…!!」

 

模範解答だな。

悔しげなヤマトがこちらを睨んだので必死に笑いを堪えた。そんなヤマトを見てサマヨールは首を傾げる。

 

「ま、まだまだぁ!!!ミミロップー!!ちょっとー!!!」

 

首を傾げたサマヨールがブラッキーに手招きされるままソファへと座った。

サマヨールがソファに座ったと同時にミミロップがだるそうにリビングへと入って来た。

 

「あぁ?何?デカイ声、うるさすぎ…」

「聞きたい事があるんだよ!!」

「何だよ」

「シンヤって優しいと思う?」

「はぁ?シンヤを優しいと思うか…って、そんなの…超、優しいに決まってんじゃん…」

 

頬を染めて照れながら言うミミロップ。

そんなミミロップを見てブラッキーが微笑ましげにしていた。

 

「そ、そういうの改めて聞くなよな!!はずい!!バカ!!」

 

うざい、ヤマト、死ね!!とヤマトに暴言を吐きながらミミロップは顔を赤くしたままサマヨールの隣へと座った。

クッションを抱きかかえたまま顔をクッションに埋めてしまったが耳はいまだに真っ赤である。

 

「シンヤ…ミミロップが可愛いからっていかがわしい事してないよね…、してたら許さないよ僕は」

「してるわけないだろ。お前のいかがわしい頭を私は許さないぞ」

「ごほんっ…!!…まだ、残ってる!!」

 

しつこい男だなコイツは。

「サーナイトー!!ちょっとー!!」と再びリビングの扉から顔を出して呼ぶヤマト。それに「はぁーい」なんて返事を返してるサーナイトもサーナイトだ。

 

「今度はワタクシをお呼びかしら?というより、さっきから何をしてるんですの?」

「ちょっと質問してるんだよ、サーナイトもちゃんと本音で答えてね!!」

「…、言い難いことは聞かないで欲しいですわ…」

 

ぽ、と頬を染めたサーナイトにさすがのヤマトも笑みを引き攣らせた。

こいつの頭も大概いかがわしいからな。

 

「えーっと…、サーナイトに対してシンヤって優しい?」

「シンヤ?ええ、そりゃまあ…優しいですわよ?」

 

それが何か?と首を傾げたサーナイト。

ヤマトがガクンと頭を垂れた。

俯いてるかと思うと開いた手を指折り数えていく。

 

「あと残ってるのは、トゲキッスとミロカロス……。くっ…!!!」

 

期待出来そうにないと思っているのだろう。

トゲキッスは誰かに対して優しくないとかそういうことを思う奴じゃないからな。良い子代表みたいな奴だから。

 

「あ、トゲキッスは今、買い物だったよね」

「ああ、そうだな」

 

ざーんねん、と笑って言ったヤマト。

後でトゲキッスだけはシンヤのこと優しいなんて言ってませんでしたーって言う気だな。姑息な真似を…!!

嬉しそうなヤマトを睨んだ時、ガチャリとリビングの扉が開いた。

 

「ただいま戻りました!」

「…!?」

「おかえり、トゲキッス」

 

丁度、帰って来たトゲキッス。

ぐああああ!!と悲鳴をあげるヤマトを見てトゲキッスが首を傾げた。

 

「いや、でもまだ…まだ分からない、万が一の可能性がある…」

「何がですか?」

「トゲキッス!!」

「はい?」

「シンヤって優しいと思う?」

「はい!!とっても優しいです!!」

「ですよねー!!」

 

にこにこ笑うトゲキッスに笑みを返したヤマトはダンと悔しげに床を叩いた。

即答だったな。私も少し驚くくらい即答だった…。

ヤマトの様子に首を傾げながらも買って来たものを片付けにキッチンへと向かうトゲキッスを見送ってからヤマトへと視線を戻す。

 

「ヤマト…お前、もう帰れ」

「ミロカロスが居る。まだ僕にはミロカロスが残ってる!!」

「残ってない、帰れ」

「僕のミロカロスは望む答えをくれるはず!!」

「私のだ。帰れ」

 

帰れと言っているのにヤマトは再びリビングの扉から顔を出してミロカロスを呼んだ。

呼んだがミロカロスは来ない。

 

「…あ、あれ?ミロカロス出掛けてる?」

「いや、居るだろ」

「来ないんだけど…」

「そうだな」

「…ミロカロスー!!おーい!!」

 

再度、呼びかけてみるがミロカロスは来ない。

寝てるんじゃないか…?また勝手に私の部屋で…。

 

「全く応答が無いんだけど…」

「…」

 

リビングの扉を開けてヤマトと同じように廊下へと顔を出す。

そのままミロカロスの名前を呼ぶ。

 

「ミロカロスー」

「なーにー?」

「!?」

「お前、今、何処に居るんだ?」

「二階に居るよー」

「ちょっと降りてこい!!」

「分かったー」

 

トントン、と音を立てながらミロカロスが二階から降りて来た。

すぐにミロカロスがリビングに顔を出す。

 

「なにー?」

「なんで呼ばれたのに来なかったんだ?」

「え?ヤマトが呼んでたから別に良いと思って」

「え!?僕だからシカトしてたの!?なんで!?嘘!!なんで!?」

「…?、別に良いと思って!」

 

にこっと笑ったミロカロスにヤマトが衝撃を受けたかのように固まった。

まあ、実際、凄い衝撃だったのかもしれんが…。

 

「いや、…僕が呼んでもすぐに来て欲しいな…」

「テレビ見てる途中だったし!!」

「シンヤが呼んだらすぐに来たじゃん!!」

「それはシンヤだから!!」

「僕が呼んでも来てよ!!」

「え…、ヤマトなのに?」

「なんなのその明らかな差!!!ミロカロスの中での僕って何!?」

「…俺様の中で?ヤマト?特に何も…」

「心が…、心が痛い…っ」

 

首を傾げるミロカロス。

ヤマトは床に膝を付いて心臓を押さえていた。相当のダメージだ、ヤマトがポケモンだったら確実に"こうかばつぐん"の技をくらって"瀕死"だな。

 

「もういい、とりあえず…ミロカロス…」

「なに?」

「シンヤって優しいと思う?」

「シンヤ?シンヤは意地悪!!」

「え!!ホントに!?」

 

ヤマトの表情が一転して明るくなった。

ミロカロスのまさかの答えに私も若干焦る…。私…そんな断言されるくらい優しくなかったか…?

 

「シンヤはすぐに噛む!!意地悪する!!」

「噛…」

「俺様が抱きついても噛む!!グラエナより噛む!!」

「うーわー…幼馴染の性癖とか別に知りたくなかった…」

「ミロカロス…!!!」

 

しっ、と口元に人差し指を立てて見せるとミロカロスも私の真似をして口の前で人差し指を立てた。

 

「し?これ、し?」

「ハッ…でも、これでシンヤが優しくないことが証明されたね。シンヤは優しくないんだよ!!」

「シンヤ、優しいよ!!意地悪だけど優しいよ!!」

「意地悪な奴は優しいって言いませんー。ミロカロスが言ったんでしょ、優しくないんだよあの男は」

「優しいもん!!良い子良い子してくれるし!!噛むけど、あんまり痛くないように噛むようにしてくれるもん!!たまに血、出るけど!!!」

 

頼む、それ以上もう何も言わないでくれ…!!

 

「ミロカロス…優しい男は噛んだりしなんだよ」

「…ッ、…ッ、優しい、もん…っ!!シンヤ、優しいもん…!!…ッぅ、ヤマト優しくない!!嫌な奴!!バカ!!シンヤのこと悪く言う!!」

「えぇええええ!?僕!?」

 

僕!?と自分を指差してこちらを見たヤマトから視線を逸らす。今、目合わせるの嫌だ。気まずい。

 

「僕!?僕が悪いの!?」

「オレらのご主人様の悪口言うからー」

「酷い人ですねぇ…」

「主の事を悪く言われて気分の良いポケモンは居ない…」

「マジうぜぇ」

「ミロカロスさんが可哀想ですわ…」

「えええええええ!?」

 

ヤマトが慌てて私の方へとやって来た。

こっちくんな。

 

「どうしよう!!シンヤ!!僕、みんなに嫌われちゃう!!」

「…」

「ご、ごめんね!!ごめんねシンヤ!!許して!!」

「ああ、全然良いぞ。私は全く怒ってないしな、お互い今日の争いは全て忘れよう。親友だろ」

 

ぽん、とヤマトの肩に手を置けばヤマトは目を輝かせた。

 

「ありがとうシンヤー!!やっぱ持つべきものは親友だよぉおお!!」

「ああ、うん、そうだな…」

 

もう、本当に今日のこと全部忘れてくれ…。

特に後半。ミロカロスの失言を全て。

 

*

 

「じゃあ、僕そろそろ帰るね」

「ああ、気を付けて帰れよ」

「うん」

 

日が暮れた頃、ヤマトが帰るそうなので玄関まで見送った。

隣で手を振るミロカロスにヤマトが手を振り返す。こんな近くで手を振る必要はあるのか…?

 

「あ、思い出した」

「なんだ?」

「噛むのは良いけどあんまり怪我させないようにね、ポケモンだからすぐ治るっていうのもあるけど痛いものは痛いんだから!!」

「…!?」

 

畜生!!余計なことを思い出しやがって!!

 

「でも、噛みつくなんてポケモンみたいだね」

「うるさい」

「噛まれるの痛いー」

「痛いよねー、可哀想に…、よしよし」

「触んなっ」

「痛っ!!」

 

ミロカロスの頭を撫でたヤマトの手がミロカロスによって払い落された。

 

「ま、まあ…シンヤがミロカロスを噛むのは愛情表現だから。好きだから噛むって人も居るらしいからね…」

「そうなの?意地悪じゃないの?」

「好きだから噛むんだよ~」

「お前もう帰れ」

「そうなの?シンヤ、俺様のこと好きだから噛むの?」

「今度、グラエナ用の骨ガムでも買って来てあげるよ」

「持って来たら許さん」

 

じゃあね~なんて言って手を振って帰って行ったヤマトを見送って溜息を吐く。

疲れた。どっと疲れた…。

 

「ねえねえ、シンヤ」

「…」

「俺様のこと好きなの?好きだから噛むの?」

「……だったら何だ」

「なら、噛んで良いよ!!いっぱい噛んで良いよ!!」

 

はい!と目の前に手が差し出された。

真っ白な自分より細い手を取った私は…。

 

――ガブ、

 

「いっ、ったぁあああああい!!!」

 

綺麗に付いた歯型を見てミロカロスが笑った。

 

「あはは、綺麗に付いた!」

「…そうだな」

 

 

【優しさ≠彼の優しさ】

 

 

「俺様も噛んで良い?」

「するのは好きだが、されるのは嫌いだ」

「分かった!!じゃあやめとく!!」

 

わりと自分が過剰気味なのは自覚してるんだがな…。

 

*

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