一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「ヤマト、オレはサトシくんに協力を頼もうと思う」

「…でも、」

「避けられない別れがやって来るんだ、仕方ないだろ」

「ハルカちゃんは大丈夫だよ、それにマナフィだって…」

「オレにはポケモンに言葉で説得させる方法なんて分からない。これしか無いんだ」

 

ジャッキーが部屋を出ていった。

サトシくんに声を掛けるんだろう、僕は溜息を吐いて椅子に腰掛けた。

そして何度目になるか分からない、シンヤの家の電話番号を押した。

呼び出し音が永遠と続いて誰も出てくれない。

シンヤ…、僕どうしたら良い?

ハルカちゃんのことが大好きなマナフィが、もしも…マナフィが神殿に着いた後、ハルカちゃんと別れるのを拒んだら…。

神殿に住まうポケモン達は自分たちのリーダーを失うことになる。それにマナフィという珍しいポケモンをハルカちゃんが旅に連れ歩くというのも不可能だ…。

別れは避けられない。

ハルカちゃんを言葉で説得するのは簡単だけど、マナフィを説得するのは…無理。

態度で突き放すしかない?でも、マナフィはまだ生まれたばかりの赤ん坊なんだから…。

 

「あぁー!!もう!!なんで出ないんだよ!!シンヤのバカ!!」

 

シンヤが居てくれたら!!シンヤならマナフィを説得出来るのに!!シンヤだったら!!!

 

「あぁ…もう、ホント…僕って駄目だ…」

 

ベッドに寝転がればユキワラシが僕の顔を覗き込んだ。

 

「ユキワラシ…、結局、一番…"有名人のシンヤ"に頼ってるのは僕なんだよね…」

「ユキィ…」

「何かあったらシンヤ…、そうやってすぐに頼って、僕はシンヤの力で何でも解決してきたんだ。シンヤの幼馴染のヤマトって言われるのは当然なんだよ」

「ユキー」

「ユキワラシは今、僕になんて言ってくれてるのかなぁ…。僕には分かんないや…」

 

霞む視界を腕で押さえて鼻を啜った。

良い年して情けない、良い年していまだに幼馴染の後ろを着いて走ってるんだ。

 

「ユキユキィ!!」

「…今の僕に出来ることってなんだろうね…」

「ユキィ…」

 

*

 

今夜が皆既月食の日らしい。

結局、シンヤとは連絡着かずじまいだったな…と思いながらポケギアをカバンへと戻した。

 

「ヤマトさん!!マナフィが!!」

「え?」

 

慌てて部屋へと入って来たマサトくんに腕をひかれて部屋の外へと出る。

 

「ど、どうしたの!?」

「マナフィが居なくなっちゃったんだ!!探しに行くからヤマトさんも来てよ!!」

「えええええ!?」

 

船、ブルーラグーン号に繋がった潜水艇に乗り込んで海底へマナフィを探しに行くことになった。

 

「私が冷たくしたからマナフィは…」

「そんなわけないでしょ」

 

ハルカちゃんとヒロミちゃんの会話を聞きつつ視線を窓の外へとやる。

 

「ピ!?」

「あ、あれ!!」

「マナフィ!!」

 

赤いバンダナを持ったマナフィが潜水艇に近付いて来た。

ハルカちゃんの持ち物だったらしいバンダナを探していたマナフィ。嬉しそうなハルカちゃんを見て僕はどうにも笑顔になれそうになかった…。

こんなに仲が良いのに、絶対にお別れしなきゃいけないなんて…。それに、こんなにハルカちゃんの事が好きなマナフィが本当に神殿に残ることが出来るの…?

小さく溜息を吐いた時、ガクンと潜水艇が揺れた。

大きな海流に巻き込まれたらしい潜水艇。

舵が利かなくなった潜水艇は海流の流れに飲み込まれ流される。

 

「ッ…、まずいよ!大分、流されてる!!」

「ケーブルが切れちゃったみたい…!!」

「マナー!!カモー!!」

 

赤いバンダナを持ったマナフィが潜水艇から離れ、海流の先へと行ってしまう。

 

「マナフィが呼んでる…!!」

「ヒロミさん!!」

「任せて!!」

 

マナフィが導く先は…ひとつだ…。

マナフィをライトで照らしつつ潜水艇で海流の中を進む。

激しく潜水艇は揺れていたけどすぐに海流の外への脱出に成功した。

そろそろ、皆既月食が始まる時間だと思った時…僕らの前に海の神殿は現れた…。

 

海の神殿へとやって来た僕はただただ呆然とするばかりだった。

幻想的な造形物、細かく彩色された道…なにより神殿内部は海の中にも関わらず酸素があって四方を見渡せば周りは海。

 

「凄い…!!」

 

生きている間にこんな素晴らしい場所を見れるなんて僕って最高にツイてる!!

ありがとうマナフィ!!!

マナフィと合流したハルカちゃんがマナフィを抱きしめる。

その目には涙が浮かんでいて、僕の高揚していたテンションは一気に下がった…。

そうだった、ここは凄く素敵なところだけど…ここに来てしまったって事は…。

 

*

 

歌が聞こえる…。

共鳴する神殿を見上げて、ゆっくりと足を組み直した。

やっと来た…。

小さく息を吐いてからコーヒーを啜る。

跳ねるような足音とこちらへ向かって来る水の音。小さなテーブルにカップを置いて、読みかけの本に栞を挟んだ。

 

「マナー!!」

「よく来たな」

「「「えぇ!?」」」

「は?」

 

*

 

マナフィの先導で海の神殿の階段を昇ってドンドンと上へ進むと、小さなテーブルにコーヒーカップと本を置いて、椅子に座って足を組んだシンヤが居た。

え、ちょ、なんで僕の幼馴染がここに居るの!?

 

「マナフィと一緒に来る人間が居るかも、とは聞いてたが…まさかお前達だとは…」

「いや、シンヤ!?ここ何処だか分かってる!?」

「海の神殿、アクーシャだが?」

「皆既月食の時しか人の目には見えないの!!マナフィしかここに辿り着けないはずなのになんでここに!!しかも先に居るの!?」

 

僕の発言がもっともだったのかサトシくん達もうんうんと頷いていた。

それを見てシンヤはめんどくさそうに溜息を吐いてから椅子から立ち上がった。

 

「私はカイオーガに頼まれてここでマナフィを待ってたんだ。マナフィの健康状態を確認後、マナフィを神殿の主として迎え入れる…、カイオーガの代理だ」

 

ええぇぇぇぇええ!?

 

「僕が…、僕がここに来る事にどれだけ悩んだと…!!っていうか、めちゃくちゃ電話したのに出ないし…!!」

「ここで随分と待機してたから家の事は知らん」

「生活してたの!?ここで!?」

「いや、わりと生活出来るぞ?奥に風呂とか、この椅子と机も別のところにあったのを…」

「いらない!!そういう夢を壊す情報いらない!!」

 

神殿なんだから生活感とか要らないし!!

さっきまでの僕のシリアスな感じを返して欲しい!!と叫べば「意味が分からん」と返された。まあそりゃそうかもしれないけど!!

 

「シンヤさんって本当に謎かも…」

「カモー」

 

ハルカちゃんの言葉に僕も賛同したい。

幼馴染だけど本当に謎。カイオーガに頼まれたって…頼まれたってなんなの…。

 

「さて、私はさっさと頼まれ事を済ませたいからな…。マナフィ、こっち来い」

 

シンヤが手招きをした。

ハルカちゃんに抱っこされていたマナフィがハルカちゃんを一度見上げてから、ハルカちゃんの腕から飛び降りてシンヤの傍まで走って行く。

 

「ぁ…」

「ん、お前、プニプニしてるな」

「マナ!!」

 

マナフィを抱きかかえたシンヤがマナフィの頬っぺたを触る。

そのままマナフィの口を開けさせて口の中を覗き込んでいた。それで何が分かるのか分からないけど。

けど…やっぱり、シンヤってどんなポケモンとでもすぐ仲良くなれるよね…。僕、まだマナフィに触っても居ないのに…。

 

「お姉ちゃん以外が抱っこするとあんなに泣いてたのにね…」

「うん…」

 

ホントに、今は僕が泣きたい。

どういう診察なのかは分からないけど、シンヤはマナフィに「ジャンプしろ」とか「このボールを投げるから取って来い」とかよく分からないことをやらせていた。

 

「よし、お前の名前は?」

「マナフィー!!」

「良いだろう。健康状態良好だな」

「フィー?」

「私か?私はシンヤだ、よろしくな」

「マナー!!シンヤ!!」

「知能、まずまず…だな」

「シンヤ、スキー!!」

「うざい」

 

飛び付いたマナフィをぺしんと手で跳ね飛ばしたシンヤ。

その行動にハルカちゃんたちが声をあげた。

 

「シンヤさん!!なんてことするんですか!!」

「大丈夫だ、ポケモンはそれくらいじゃ怪我はしない」

「マナ!!スキー!!」

 

全然気にした様子のないマナフィが両手を上げた。

どうでも良いようにカルテか何かに書き込むシンヤを見て、僕は溜息を吐いた。

 

*

 

「海の王冠はここか!!」

「ッ…ファントム!!!」

 

現れた男に僕達は慌てて距離を取った。

まさかこんな所にまで執念深くついて来るなんて…!!

 

「ここまでよく案内をしてくれた」

「貴様…!!」

「やめとけ!!お前達が束になって掛かっても俺様には敵わん」

「カナワーン」

 

ファントムの肩に乗ったペラップがファントムの言葉を繰り返す、凄まじく可愛い。

ペラップの可愛さに感動している僕に気付かず、何をぉ!!と言い返すサトシくん。

そのサトシくんを止めたヒロミちゃんが前へ出た。

 

「ここは水の民の神殿、アナタにはどうすることも出来ないわ」

「フッフッフ、水の民のことは全て調べ上げてあるんだ」

「アルンダー」

 

ファントムは不敵な笑みを浮かべてシンヤの近くにあった石碑へと近付いて行った。

 

「『水の民の印によって扉は開き、扉の先に王冠は眠る。海の王冠を抱きし者、真の海の王者とならん』…フッフッフッ!!

案内をしてくれた礼にお前達にも海の王冠を見せてやろう!!」

 

ファントムはそう言ってポケットから水の民の印を取り出した。

ボロボロのそれをどう手に入れたのか…。

ファントムが水の民の印を石碑へと翳すと、水の民の印が輝き石碑が動いた。

石碑の背後にあった壁が消えて、隠されていた通路が現れた。

そこでカルテを書き終わったらしいシンヤが「海の神殿、わりとハイテクだな」なんて言って笑った。

ハイテクとかそういう問題じゃないし…!!

 

「おぉ!!ファンタスティック!!」

「ファンタスティーック!!」

 

ファントムが通路を走って行く。それに続いてヒロミちゃんやサトシくん達が走って行ってしまう。

 

「シンヤ…!!海の王冠が奪われちゃうよ!!」

「海の王冠って何だ」

「その辺ちゃんとカイオーガから聞いといてよ!?」

 

首を傾げるシンヤの腕を掴んで僕らも通路を走る。

大きな広場に出たかと思うとファントムの大きな声が響いた。

 

「世の中には二種類の男が居る、宝が似合う男とそうじゃない男だ!!

この俺様こそが海の王冠を持つのにふさわしい男…!!ワッハッハッハッハッ!!!」

「世の中にはその二種類の男しか居ないんだったら…、私はどっちだ…」

「今はそこにツッコミ入れてる場合じゃないよ…シンヤ…!!ファントムに海の王冠を奪われると色々とまずい!!」

 

水の中にある海の王冠は石の土台に結晶石を差し込み王冠の形を成しているものだった、それを見てマナフィが水の中へと飛び込んだ。

そんなマナフィを鼻で笑い、ファントムは海の王冠を成す一つの結晶へと手を伸ばした。

その結晶を奪われないようマナフィが阻止しようとするがファントムは力尽くで結晶を引き抜いた。

マナフィが水の外へと弾き飛ばされる。

 

「なんてことを!!」

「やめろ!!ファントム!!」

「これを見付ける為に俺は全てを賭けて来た!!これは全部、俺様の物だ!!」

 

そうファントムが言い切った時、海の王冠の周りを纏っていた水が弾け流れ切ってしまった。

辺りからたちまちと水が流れ込んでくる。

海の王冠がこの神殿内に海水が入り込まないようにしてたんだ…!!!この神殿が人の目に見えないように出来ていたのもこの海の王冠の力…。

 

「ファントム!!その宝石を台座に戻せ!!」

「ヤマトさん!!」

 

このままじゃこの神殿は海水で溢れて海に沈んでしまう!!

ファントムに飛び付けば凄い力で振り解かれ投げ飛ばされた。

 

「ぐっ…!!ヒロミちゃん!!サトシくん達を連れて早くここから離れて!!」

「…分かったわ!!」

「でも、ヒロミさん!!」

「行きましょう!!」

 

ヒロミちゃんが先導して潜水艇へと向かい走って行く。一度振り返ったサトシくんに僕が笑顔で頷くとサトシくんも小さく頷いてヒロミちゃんの後を追って走って行った。

 

「邪魔をするな!!」

「アンタの邪魔をするのもミッションの内でしょ!!」

 

再びファントムに飛び掛かってファントムの体にしがみ付くが力じゃ勝てそうにない。

べりっとすぐに引き剥がされて放り投げられた。

カション、カション、と不思議な音がして痛む背中を押さえつつ顔を上げるとシンヤが黙々とファントムの引っこ抜いた宝石を戻して行っている。

 

「ぬぁ!?貴様!!!」

「シンヤナイス!!そのままお願い!!」

「させるか!!」

「おーっと、それはこっちのセリフだぜ!!」

「ジャッキー!!」

 

ファントムの頭を踏みつけたジャッキーが僕にパチンとウインクしてみせる。

そのままヒラリとファントムから宝石を奪い取ったジャッキー。さすが運動神経抜群、僕には真似出来ない芸当だ…、エイパムみたい。

 

「おのれ、ポケモンレンジャー!!何処までも邪魔しおって!!」

「邪魔してんのはそっちだろ!!」

「ジャッキー!!そこ危ない!!落ちる…って、ああああああああ!!!」

 

ドボーン!!と音を立ててファントムとジャッキーが落ちた。

カション、と宝石を台座に戻していたシンヤが「ん?」と声を漏らす。

 

「シンヤ!!ジャッキーが落ちた!!」

「宝石が一つ足りないぞ?」

「ファントムが持って落ちたんだってぇえええ!!しぃいいずぅううむぅううう!!!」

「…私って溺死とかするのか?」

「はぁ!?」

「いや、こっちの話だ」

 

*

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