一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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早く、早く逃げないと!!と慌てるヤマト。

ポケモンレンジャーのくせに情けない男だ。

しかし、

確かに早くこの場から離れないと足元から既に浸水してきている。本当にここが海に沈むのも時間の問題だろう…。

カイオーガの奴め…。

何がマナフィを出迎えるだけの簡単な仕事だ。溺死の危機じゃないか。

ここで私が死んだらどうなる…。

本当にどうなるんだろうか…、ディアルガの言っていた事は本当なのか…、私が死んだら世界も消えるのか…?

ディアルガ達と連絡が取れない状態じゃ、真実か確認する事も出来ないし…。

下手な危険は避けたいんだが…。

 

「シンヤ!!沈む!!ミロカロス出してってば!!」

「ミロカロスは居るには居るんだが…、今のアイツに人間の一人も連れて泳げる体力が無い」

「えぇ!?」

「わりと回復した方だと思うが…、まだガリガリだしな…」

 

私はもっと肉付きの良い方が好きだ!!と言い張ってやると必死に太ろうと食べてたが…。

胃が弱ってて食べ過ぎても吐くから、今は戦力にもならん。

溜息を吐く。

そんな悠長にしている間にも水はすでに腰の辺りまで浸水してしまっている。

 

「私のカバンが…」

「カバンなんてどうでも良いから!!じゃあもう早く走って!!ここから出よう!!」

 

海の王冠のある広場から出て走る。

バシャバシャと水の中を走っているとサトシとハルカが居た。

 

「なっ…!?なんでここに居るの!?」

「マナフィが海の神殿を守りたいって!!」

「マナ!!」

「ダメなんだ!!海の王冠の宝石が一つ足りなくて!!」

「えぇ!?」

「ファントムが持って海に落ちちゃったんだよ…!!」

 

サトシ達の手を掴み走り出したヤマト、そのヤマトの背を追いかけて走っていると視界に光る物体…。

足を止めて水路を覗き込めば海の王冠の宝石…、ファントムとか言う男が持って落ちた奴だよな。繋がった水路を流れてここで引っ掛かってたのか。

宝石を持ち上げてヤマトを呼び止める。

 

「ヤマト!ここにあったぞ!」

「え、なにが!?」

「宝石」

「あ!!!!」

 

それ、それ戻したらまだ間に合う!!と慌てるヤマトがサトシ達の手を掴んだまま走って戻って来た。

手、放してやれ…。振り回されてる。

 

「シンヤ、それ戻して来て!!」

「私は溺死したくない。お前が行け」

「…僕、携帯の酸素ボンベ持ってたかな…」

 

ゴソゴソとポケットを漁るヤマト。

無いな、持って来なかったかな、とか何とか言ってモタついてるヤマトを見てサトシが私の手から宝石を取った。

 

「オレが行って来ます!!ハルカ達をお願いします!!」

「よし、行って来い」

「いやいやいや!!子供に行かせちゃ駄目でしょ!?」

「お前も行って来い」

「行くけど!!」

 

サトシとヤマトが走って行くのを見送ってハルカと顔を見合わせた

 

「シンヤさん…」

「行くぞ」

「は、はい…!」

 

*

 

全身が海に浸かる前に浸水は止まった。

みるみる神殿内の海水が外へと抜けて内部に空気が戻って来る。

上手く宝石を戻せたようだ…。喜ぶマナフィがハルカの腕から飛び降りて床をぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 

「ハルカ!!」

「サトシ!!良かった!!」

 

手を振って戻って来たサトシとヤマト、その姿を確認した時。

海面から男が飛び出してきた。あのファントムとかいう奴だ。

 

「マナフィは貰っていく!!」

「ダメだ」

 

げし、とファントムの顔を蹴り付ける。

ファントムの顔に靴底の跡が付いてるとかそんなことは気にしない。マナフィを連れて行かれるとなんのためにここに居たのか分からん。

 

「ぐぬぬ、貴様…!!」

「ダメなものはダメだ。帰れ」

 

シッシッと手を払えば、海の神殿から光る触手が伸びて来た。

その光はファントムを海へと弾き飛ばす。

非常に気持ち悪い、とは思ったが口には出さなかった。後ろでサトシたちが凄い凄いとハシャいでるから…。

 

「あ、でもファントム逃がしちゃったらダメじゃん!!捕まえなきゃ!!」

「見て、ヤマトさん!!ファントムが!!」

「げ!?本船で来たよあの男!!」

 

大きな船の上で両手を広げ高笑いするファントム。

何か言っているようだが離れてて声がよく聞き取れない…。

 

「フィー!!」

 

マナフィが海へと飛び込んだ。

水ポケモン達に呼びかけるマナフィの声を聞きつつ、海水を吸った上着を絞る。

ブーツの中が気持ち悪いし、海水はべたべたするし、夏と言っても寒がりの私にはずぶ濡れの状態でこの場に居るのは寒い。

すっかり浮上してしまった海の神殿、空を見上げて溜息を吐く。

 

「疲れた…」

「やったー!!」

「凄いわ、マナフィー!!」

「水ポケモンバンザーイ!!」

 

マナフィの活躍でファントムを撃退出来たらしい。

ジャッキーがファントム確保したってー!!なんてハシャぐヤマトに適当に返事を返した。

 

*

 

日暮れ頃、

海の神殿で一頻り遊んだサトシやヤマト達の前で海の神殿は海へと消えて行った。

あの光の触手を纏って泳ぐとは思いもしなかった私はヤマトの誘いを全力で断って逃げた。なんか気持ち悪い。

 

「あーぁ、夢のような時間ってあっという間に終わっちゃうんだね…」

 

お前、ミッションで来てたんじゃなかったのか…?

ポケモンと一緒に泳ぐ体験を出来たヤマトは満足気だ、海の神殿が消えた先を見つめていると「あ」とヤマトが声を漏らした。

 

「カモー!!」

「マナフィ!!」

 

船の二階に居たハルカが慌てて降りて来た。

ハルカに飛び付いたマナフィを見て、ヤマトが顔を蒼くする。

表情がさっきから忙しないな。

 

「…アナタの仲間を守ってあげてね」

「マナ!」

「そして忘れないで、私を…」

「ハ、ル、カ」

「…うんッ、さよなら…マナフィ…!」

「さよな、ら…ハ、ルカ…」

 

隣でボロボロ泣いてるヤマトを無視して。

マナフィの知能、やはりまずまずだな。と私は小さく頷いた。

 

「フィー!!マナマナー!!」

 

マナフィがハルカの腕から離れて海へと飛び込んだ。

 

「うわああああああ!!!僕、やっぱりこういうのダメなんだってぇええええ!!!」

「うるさいっ!!」

 

隣で喚きだしたヤマト。

慌てて耳を塞ぐが、やっぱりうるさい。

というか、ミッション終わったなら帰れ!!

 

「マナー」

 

海面からマナフィが顔を出した。

マナフィが手を振っている、それを見てヤマトがマナフィに手を振り返したが…違う。

 

「シンヤー!!」

「はいはい」

「え?」

「じゃあな、ヤマト」

 

サトシ達にも「またな」と声を掛けてマナフィの居る方へとジャンプで海へと飛び込む。

その瞬間にカイオーガが海面から顔を出した、そのカイオーガの頭の上に乗る。

 

「ミロカロスの調子が悪いから暫く海の神殿で休養する、連絡は当然出来ないからな」

「え、ちょ、なんで最後に夢ぶっ壊すの!?ねえ!!なんで!?」

「最初からそういう約束をしてたんだ」

「カイオーガとか!!カイオーガと約束してたのか!!なんでシンヤばっかり!!ずるい!!」

 

私ばっかり…と言われてもな…。

代わって貰えるなら是非とも代わって頂きたい…、私だって好きでこんな事に巻き込まれてるんじゃないんだぞ…。

チッと舌打ちしつつ酸素ボンベを口に咥える。

 

「それ僕のだし!!」

「…」

 

そういえば、前に貰ったからって言うの忘れてたな。まあ良いか。

 

「支給品なんだぞソレー!!!」

 

また支給して貰え。

 

海の中へと潜って、マナフィの後をカイオーガが続く。

ミロカロスはどれくらいで回復するだろうか…。

なるべく早く回復してもらって、早く家に帰りたいところだ…。

 

*

 

「ありえなくない!?シンヤだけ海の神殿に戻ったとか!!」

「いつまで怒ってんだよ、ヤマト…」

「いつまでも怒るよ!!そういう事、全然教えてくんないんだもん!!酷いと思わないジュディさん!!」

<「まあまあ、良いじゃない。素敵な幼馴染が居て…、っていうか、ヤマト…、シンヤさんのサインいつ貰って来てくれるのかしら?」>

「え゛…いや、だから、幼馴染にサイン頂戴とか言い難いし…」

<「私、待ってるんだけど!!ヤマトこそ私にシンヤさんの事、全然教えてくれないわよねっ!!」>

「だって、そんな…教えるような事ないんだけど…」

<「なに!?聞こえないわ!!」>

「ご、ごめんなさいぃいい!!」

 

隣でケラケラ笑うジャッキーが憎い…!!

っていうか、そのペラップといつ仲良くなったんだよチクショウ!!可愛いよペラップ!!

 

「ファントム逮捕にご協力ありがとうございます!!」

「いえいえ、こちらこそ!」

「ジュンサーさぁああん!!全部、シンヤが悪いんだよー!!シンヤ、逮捕しちゃってよー!!」

 

ジュンサーさんにもクスクス笑われた…。

はあ…、やっぱり有名過ぎる幼馴染なんて…嫌だ。

 

*

 

「マナー!!」

「ダメだ、さっきおやつ食べただろ!!」

「マナー…」

「もう無い!!」

 

ぽい、とマナフィを海に投げて。

ミロカロス用の食事を皿に盛り付ける。

 

「…シンヤー…、シンヤー…」

「なんだ」

「なんかだるい…」

「ちゃんと食べないからだろ」

「食べてるのに…」

 

以前より細くなったミロカロスを見て眉を寄せる。

もともと細身だったのに更に細くなって…、細すぎると逆に気持ち悪い。

 

「ちゃんと食べろ」

「食べてるー」

「エーフィくらい丸くなれ」

「それ、エーフィに言ったら怒られるんだよ」

「アイツ、最近更に丸くなってるからな…」

「言ったら怒られるよ」

「あれくらい丸い方が良い」

「が、頑張る…!!」

 

はぐはぐ、と慌てて食べだしたミロカロス。

動いていた口が止まって、ミロカロスが口の中のものをゴクンと飲み込んだ。

 

「シンヤ…」

「ん?」

「シンヤは大丈夫…?」

「…ああ、大丈夫だ」

 

今のところは、な…。

自分がどうなるのかが、分からないのは確かだ。

現状、今のところは何も無い…。

何も無いが…このまま何も無いままであるわけがない…。

私がディアルガの力で不老不死となりこの世界を永遠に生きることになったら…。

私は…、

 

「シンヤ?」

「ちゃんと食べろ」

「食べてるー…」

 

くしゃくしゃとミロカロスの頭を撫でるとミロカロスはスプーンを咥えたまま笑った。

 

 

私は…、

皆に置いて行かれてしまうのだろうか……。

 

*

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