もうそろそろズイに着くところだが、さすがの長距離の移動にトゲキッスも限界を迎えたらしい。
何度も休憩はしたがここは一度ポケモンセンターにトゲキッスを預けようと一番近いポケモンセンターへと寄ることにした。
ヨスガまで行ければ良かったが…まだまだ遠いな。
「シンヤさんじゃないですか!」
「シンヤさんだから何だ」
「もー、里帰りするなら前もって言ってくれれば良いのに…。連絡しておきますね、ズイのジョーイに」
「やめろ!!ズイでポケモンセンターに寄る気は無い!」
ケラケラと笑うジョーイ
ズイのジョーイに連絡されると困る!こっちは目的があって帰って来てるんだから。ジョーイに扱き使われてる場合じゃない。
「仕事しろ仕事!」
「あら、宿泊ですか?」
「一泊。それとトゲキッスを預かってくれ」
「はーい。…シンヤさんが泊まって行ってくれるなら何をお願いしちゃおうかなぁ~」
「オイ…」
「冗談ですって」
笑いながらトゲキッスの入ったボールを受け取ったジョーイ。
これがズイのジョーイなら冗談で済まないんだよな…。本当に連絡するの止めてくれないかな…。困る。
カウンターに手を付いて背後を振り返れば何やら人がざわざわしている気がする。
ここに来る途中も珍しく声を掛けられなかったし…。
「シンヤさん、ご両親に会いに帰って来たんですか?」
「んー…、いや、それはついでみたいなもんだな」
「親不孝者」
「否定はしない」
「ふふ、でもそれだと何か別の用事で帰って来たんですね」
「ああ」
「用事の内容によってはズイのジョーイに黙っておいてあげても良いですよ」
「本当か…!!」
「わぁ、そんなシンヤさんの嬉しそうな顔を見たの初めてー」
「私は旧友に会いに来たんだ。だが何処に居るか分からなくてなその旧友を探しにシンオウに戻って来た。」
「ヤマトさんじゃない旧友?そんな人がシンヤさんに居たんですね」
「…オイ、どういう意味だ…」
えへ、と笑ったジョーイが睨む私から視線を逸らした。
「まあ、その用事なら仕事にかかりっきりになるのは困りますよね」
「非常に困る」
「分かりました。黙っておいてあげます」
「お前は出来るジョーイだ!ジョーイの中で一番の美人だと思うぞ!!」
「もー、シンヤさんってばー…、ジョーイの見分け付かないでしょ」
「…え、見分けられる奴居るのか?」
「…」
「…」
「……」
「…すまん、泊まってる間は仕事を手伝う」
「じゃあ、さっさと白衣着て診察室入って下さい」
「はい…」
なんか凄い怒らせた。
ズイのジョーイに連絡されると困るので何とか機嫌を取っておこうと思う…。
*
ラッキーから受け取った白衣を着たところでやっぱり人のざわざわした感じが気になってジョーイに聞いてみた。
「今日は何かあったのか?やけに騒がしいよな?」
「シロナさんが来てるのよ」
「…え?」
「シロナさんが来てるのよ」
「いや、聞こえてた。すまん」
騒ぎの原因は分かったが…。
出来るなら会いたくない…。いや、随分と会ってないし向こうも覚えてないだろう。
ポケモンセンターに来ないように願っておこう。というか、来ないだろうな。特に用事も無いだろうし、そのままアイスでも食べて帰ってくれるだろう。
そう思っていたのに…。
「シンヤさーん!!久しぶりー!!」
「…」
ドーンと背中に飛び付かれた。
「まさかシンヤさんに会えるなんて思ってもみなかった!!」
「帰れ」
「え、酷い!!久しぶりに会った第一声が帰れとか酷い!!相変わらずの鬼畜っぷりね!!昔より丸くなったってみんな言ってたけど相変わらずなの?ねえねえ!」
「うるさい」
私の…というより、トレーナーのシンヤと面識のあるシロナはトレーナーの奴の性格のことを言っているんだろう。
「でも、シンヤさんの事を思い出してたら…。まさかの本人登場って、運命?」
「意味が分からん」
「だって昔のねシンヤさんみたいな子とバトルしたのよ!!あ、向こうに居る子なんだけど」
シロナが指差した先を見ればサトシ達が居た。
サトシは私の昔の要素は何一つ持ってないぞ。凄く良い子だぞサトシ達。
「シンジくんっていう子」
知らん。
シロナがサトシ達の方へ駆けて行ったのでそれを見送った。
サトシ達に声を掛けたシロナが私の方を指差したかと思うと、私に気付いたサトシが笑顔で手を振ってくれる。
「シンヤさーん!!」
はいはい。
サトシ達の傍へと移動して来て挨拶をしてくれたピカチュウの頭を撫でる。
シロナが見知らぬ少年の背を押して笑った。
「この子!」
「シンジくんとやらか?」
「そうよ、昔のシンヤさんそっくり!!でも、シンヤさんより大分マシよ」
「ほっとけ」
アハハと笑うシロナを睨んでからシンジくんとやらへと視線を向ける。
口を一の字にしたシンジは私から視線を逸らした。
「?」
「シンヤさんって!!シンヤさんってあの美しき新星のシンヤさんですよね!!嬉しい!こんなところで会えるなんて!!」
前へと出て来たのはヒカリだ。
おお、久しぶり…と思ったがそういえば以前に会ったのはセレビィに連れて行かれた未来の世界でだ…。
今、初対面だな私たち。
「はじめまして」
「はじめまして!!ヒカリって言います!トップコーディネーターになるのが夢です!!」
興奮冷めやらぬとはまさに、凄い勢いで喋りきったヒカリにサトシとタケシが苦笑いを浮かべる。
ハルカとマサトの二人とは何処かで別れたんだろうな。会うたびに久しぶりだから仕方ないことだが。
ヒカリと握手をすればブンブンと手を振られる。落ち付けヒカリ…。
「有名人は大変ね、シンヤさん!」
「お前が言うな、チャンピオン」
「うーん、でもシンヤさんはチャンピオンの座を辞退してるわけだし…。私とシンヤさんってどっちが強いと思う?」
ねぇ、と聞かれたサトシ達は慌てている。
変なこと聞いてやるなよ。どっちの知り合いでもある子供はわりと気を遣うんだぞ…。
「よし、バトルで決めましょう!!」
「は!?」
「シンジくん、見ておきなさい!!貴方の先輩のバトルを!!」
「…」
「なんだと!?待て、バトルしないぞ!?」
チャンピオンのシロナとのバトルで私の中に居るトレーナーのシンヤが騒いでるが、嫌だ!!
バトルしたくない!!
「ポケモンセンターに治療に来たんじゃないのか!」
「もう終わったの」
「じゃあ帰れ」
「泊まるのよ私。シンジくんもだけど」
「…バトルはしない」
「するのよ、これからね!!」
強引な女は嫌いだ!!
「私が勝ったらアイスを買ってもらうわ」
「なら私が勝ったらお前だけポケモンセンターに泊まるの禁止だ。私も一泊するんだから、帰れ」
「え、酷い!!」
「ポケモンの回復だけ許可してやる」
「まあ良いわ。私が負けたら、ね」
ニヤニヤと笑うシロナとポケモンセンターの外で対峙する。
周りのギャラリーの多さにはうんざりするがここは大人げなくとも良い、勝つ。
そしてシロナをポケモンセンターから追い出してやる。アイスは買ってやるが追い出す。私がゆっくり休む為に!!
「ドクターのシンヤさんには負けないわよ」
ああ、私だと負けるかもしれないからトレーナーのシンヤと代わる。
ポケモンが同じでも指示する人間が違えばポケモンは強くも弱くもなる。勿論、ポケモン本来の強さも関わって来るが……。
「いけるか…」
いつでもイケるぜ、とトレーナーのシンヤが笑った。
ミロカロスにはまた無茶をさせることになりそうだが…、体調が回復してから一度もポケモンの姿で技も使ってなかったから丁度良い。
ミロカロスの様子を診るのも兼ねて…私は見学だ。
*
「天空に舞え!ガブリアス!」
「やれ、ミロカロス!!」
私がガブリアスを出せばシンヤさんが出して来たのはミロカロス。
うーん、やっぱりミロカロスかー。でも相手にとって不足無しね。
「一対一。この勝負で勝った方が勝ちの交代無しよ、良い?」
「ああ」
返事を返したシンヤさんは不敵に表情を子供みたいに歪めて笑ってみせた。
さっきまでとは別人…、まるで昔に戻ったみたい…。
「楽しくなって来たわ…!!」
「ミロカロス…、分かってるよなァ!!」
「ミロー」
声を荒げたシンヤさんにミロカロスが困ったように返事を返した。
そこからはもう、一瞬だったようにも感じるしとても長い時間戦っていたようにも感じる。その圧倒的差にどうしようもなかった。
*
ガブリアスが倒れたのを見てシロナがガクと膝を付く。
完全に復活した元気なミロカロスが寄って来たのでミロカロスの頭を撫でる。
「交代制にしとけば良かった…!!」
「アイス買ってやるから泣くな」
「泣いてません!!」
フンとそっぽを向いたシロナを見て溜息を吐く。
まさか圧倒的に勝利を収めるとは思いもしなかった。相性が勝っていたのが更に決め手になったな。
チャンピオンをボコボコにして満足気なトレーナーのシンヤは放って置くとして…。
「私の放った暴言の全ては忘れろ!」
「絶対に忘れてあげない。ミロカロス、テメェ○○○!!×××ー!!とか言ってたもんね」
「口に出すな!」
トレーナーのシンヤは…、本当にアイツはどうしようもないんだ…!!
ミロカロスごめんな、と謝って頭を撫でてやればミロカロスは大丈夫ーと笑って私の手に頬を擦り寄せて来る。
「前から思ってたけど、シンヤさんのとこのポケモン達ってマゾい」
「マ、マゾい…!?何語だ!!」
「ねー、そう思うわよねーガブリアスー?」
「ガブゥ…」
「ほら、ガブリアスも言ってる」
ミロカロスに負けて地面に座り込んでいたガブリアスはシロナに「そんな事聞かれても…」的な事を返していたのだが、シロナは分からなかったのだろう…。
ぐりぐりとガブリアスの頭を撫でるシロナ、少しイラッとしたのでガブリアスに声を掛ける。
「ガブリアス、噛め」
「がぶぅ…」
「いたたたたっ!!」
甘噛みだったが、私の指示に従いシロナの手を噛んだガブリアス。ざまぁみろ、と笑ってやれば手を擦りながらシロナが私を睨む。
「うちの子になんてことを言うのよ!!」
「フン!」
「ミロカロス!!!頭突きよ!!頭突き!!その男のわき腹に頭突きかましてやって!!」
「…」
ミロカロスはシロナの指示を無視した。
シロナは「キー!!」と猿の様に声をあげた。もうアイス買ってやるから帰れ。
「ポケモンって賢いよな、従うべき人間に従える良い子ばっかりだ」
「ああいう大人になっちゃ駄目よ、シンジくん聞いてる!?」
軽く引いた目で見ていたサトシ達。
私の暴言にか、私とシロナの馬鹿みたいなやりとりにか…。どっちもかもしれないが…。
シンジくんを巻き込んでやるな…。
「俺は…」
「うん、何?」
「シンヤさんみたいなトレーナーになりたいです」
「駄目だってば!!」
「言葉遣いには気を付けるようにな…」
「はい」
「だーかーらー!!」
結局、サトシ達とはポケモンセンターで別れ、シロナとシンジがポケモンセンターに泊まる事になったので次の日まで賑やかだった。
「アイスは奢ってね!」
「なんでだ」
*