一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「兄ちゃん、アラモスタウンが無い…」

「ああ、無いな」

「ノリコォオオオオオ!!!!!」

 

アラモス大会に参加するノリコのコンテストを見に来た私とカズキ。

今日、そのコンテストが開催されるのだが街の姿が無い。

コンテストを見に来た他の観光客も一本道となる橋の先が消えていることに戸惑いを隠せない。

というか、消えているというより空間が歪んでるように見えるのは気のせいだろうか……。

いや、十中八九、あのバカキアだろ。

 

「近くのポケモンセンターまで戻ろう!!」

「電話か?」

「ノリコの応援にってツバキもアラモスタウンに居るはずなんだよ!!」

「…」

 

*

 

アラモスタウン消失の事件の少し前。

コンテストに備え街へとやってきたノリコ。そしてその応援に途中で合流したツバキがアラモスタウンのポケモンセンターに居た。

 

「時空の塔、良いねぇ…。時を司る神ディアルガ…空間を司る神パルキア…!!」

「ツバキ~…、本読んでないでブラッシング手伝ってよ~」

「ばかたれ!!こんな素敵書物が沢山あって読まないでいられるか!!」

「ぶ~」

 

ジョーイに借りた本を抱えてツバキが笑みを浮かべた。

 

「はぁぁぁ…、神々しいであろう姿を一目見れるなら死んでも良い~」

「…死んで来い」

「まー!!シンヤさんみたいな事言っちゃって!!でも死にません~!!見てないから死ねません~」

「うわー、ムカつく。お兄ちゃん、ディアルガとパルキアの連絡先知らないかなー、一目見せて死なせたいのにー」

「シンヤさんそこまで常人離れしてないでしょ」

「いや、お兄ちゃんなら何でも出来る」

「どんだけよ」

 

にひひ、と笑ったノリコはブラシを手に取り、普通とは違うレントラーの毛並みを撫でた。

 

「ね~、レントラー」

「ガゥ」

 

シンヤさん、ポケモン説浮上だわ。と呟きながらツバキが本のページを開いた。

 

「そういえば、カズくんはいつ来るの?」

「カズくん?うーん、そろそろ来てくれるかなー…。それかもうコンテストが始まる直前とかに来るんじゃない?」

「マジかよ。あたしですら前日に来たというのに…だからあの男は二流なんだよ」

「人の片割れを侮辱しないでくださいー」

「だからノリコも二流なのだよ」

「ちょっと、カズくんと一緒にしないで」

「…」

 

自分の片割れ侮辱してるじゃん。と思いつつツバキは口を尖らせた。

そんな二人の間にキョトンとした表情を浮かべた男、ヤマトがジュース両手に首を傾げた。

 

「どうしたの?」

「別に何でもないですー」

 

にこっとノリコが笑みを浮かべたのでヤマトもニコと笑みを返す。

 

「この外面ノリノリコちゃんが…」

「えー?なーにー?のん聞こえなかったー」

「ヤマトくん、ジュースを寄越したまえよ」

「はいはい、博士」

 

ヤマトからジュースを貰ったツバキがふぅと息を吐いた。

 

「全く、ヤマトさんが来てくれてるというのにシンヤさんはどうしてんのよ」

「シンヤ、また連絡付かないんだよね~。出掛けてるんだと思うよ」

「ヤマトさんは基本繋がらないってことないよね」

「僕、基本的に暇な男だからね」

 

あはは、と笑ったヤマトが溜息を吐いた。

ミッションでも何でもない、ノリコの応援に行くと言ったツバキに誘われて暇だったので同行しただけ。

ポケモンレンジャーなのになぁ、とぶつぶつ呟くヤマトを見てツバキが笑った。

 

「二人とも、今すべきこと分かるでしょ」

 

ノリコがツバキとヤマトに視線をやる。

そのノリコにツバキとヤマトは頷いてみせた。

 

「とりあえず、ディアルガとパルキア伝説系の本を読む!」

「時空の塔のてっぺんに昇る!」

「コンテストに出場するノリコに協力する!でしょうが!」

 

何言ってんのもー!と怒るノリコにヤマトはすみませんと頭を下げた。

そんなノリコの怒りなど無視してツバキが読書を再開しようとした時、ざわざわと不自然な騒ぎ。

その異変にノリコとヤマトも辺りを見渡す。

 

「なに?」

「さあ…?」

「ちょっと僕、様子を見に…」

 

ヤマトが立ち上がった時、ポケモンセンターにぐったりとしたポケモンを連れたトレーナーが次々に駆け込んできた。

 

「な、なに!?」

「ダークライだ!!ダークライが出た!!」

 

悪夢に魘され、目を覚まさないポケモンを抱きかかえながら走って来た男の言葉にツバキは立ち上がる。

 

「どこどこどこどこ!?」

「落ち付け!!」

「ダークライ!?それは見たい!!」

「こらこら!ポケモンレンジャー!!」

 

ツバキとヤマトを必死に止めるノリコ。

この二人と居ると不安になってくる、とノリコは冷や汗を流した。こんな時に兄二人が居てくれたら…。

 

「二人はここで待ってて!ポケモンレンジャーの仕事だから!」

「いや、ここはポケモン博士である、あたしに任せて!博士の研究の仕事だから!」

「いや、ツバキちゃんは危ないから…」

「大丈夫!プロだから!これでもポケモンに関してのプロだから!」

「良いから…、二人でさっさと行って来てよ…」

「「あ…、はい」」

 

ノリコに睨まれた二人がポケモンセンターを出る。

アイツ、マジでシンヤさんに似て来たわーと文句を言うツバキにヤマトは苦笑いを返した。

 

*

 

騒がしい外に出てヤマトが近くの人に声を掛ける。

 

「ポケモンレンジャーです!ダークライは何処に?」

「む、向こうです!」

 

指が差された方へツバキが走る。

それを見てヤマトが慌ててツバキを追いかけた。

全速力で走るツバキを追いかけるヤマト、すんなりツバキの隣に追いついたヤマトは空を見上げた。

空はどんよりと曇ってる。

 

「何か街全体が異常だね…」

「この、目でっ、ダークライっ、をっ、見る、までは! 力尽きてなるものかぁああ」

 

大声を出して走っているかと思えばその場でへにゃりと倒れたツバキを見てヤマトは立ち止まる。

 

「ツバキちゃん…」

「インドア派、なめんな…。酸素、酸素くれ…」

 

息も絶え絶え、ポケモンセンターから走り出してまだ数分。全速力で力尽きたらしいツバキが「へぇへぇ」と情けない声を出した。

ヤマトがツバキの肩を支えた時、目の前をビーダルが横切った。

 

「…」

「…」

 

ビーダルが空中に浮いている。

異様な光景を目で追ってからツバキとヤマトは顔を見合わせた。

 

「見た?」

「見た…」

 

いやいや、無い無い。

疲れてるんだよ、あたしたち、あはははは。と笑ったツバキとヤマトが笑っていると「あー!!」と大きな声。

声の方へと視線をやればこちらを指差して驚いた表情のサトシが居た。

 

「あ、サトシくん!」

「ヤマトさん!ツバキ博士も!」

「やあやあ」

 

へらへらと手を振ったツバキにそれどころじゃないとサトシが喚く。

サトシの後ろからはぼよんぼよんと大きな体を揺らしながらベロベルトが歩いて来た。

 

「ツバキ博士!大変なことになったんです!」

「ぶっ!!!ベロベルトが喋ってる!!」

「わたしはアルベルトなんですー!!!」

「えぇええ!?男爵ー!?どうしたの!?オシャレ!?似合う!!」

「嬉しくない!!」

 

ぷりぷりと怒る男爵の体を突くツバキ。

そして取材記者だと思われる三人組がぐったりと眠るベロベルトを担いでいた。

 

「ど、どうなってるの?」

「分かんないけど、今からポケモンセンターに行く途中なんです!」

 

何がどうなってるのかさっぱりなヤマトとツバキを連れてサトシ達はポケモンセンターへと向かった。

少し前に出たポケモンセンターは沢山の人とポケモンで溢れている。

辺りを見渡してヤマトは冷や汗をかいた。

空中にはふわふわとポケモン達が飛び交っている異様な光景にポカンと口を開けるしかない。

 

「夢が現実世界に現れているんだ…」

 

メガネを掛けた男の言葉にツバキが首を傾げた。

 

「夢が現実に…?」

「ブイゼル達はこわいものに追いかけられる夢を見ているんだ」

「じゃあ、わたしは?」

「ベロベルトが男爵になった夢を見ているんだ…」

「なんだと!?」

「この街の空間に何か強い力が働いて異常な状態になっている。全ての異変はその空間の異常から起こっているんだ」

 

強い力ねぇ、とツバキは顎を撫でた。

そんな中で男爵が両手をあげて言った。全ての異常な現象はダークライの仕業だと。

ダークライを倒すと躍起になっている男爵を無視してツバキは拳を握った。

 

「ダークライにそこまでの力は無いと思う!」

「そうなの?」

「うーん、能力的に…。詳しくはもっと研究してみないとなぁ…、捕獲して調べたら分かると思うから…」

 

ね。とツバキがニコリと笑った。

キャプチャしろってことですね、とヤマトは苦笑いを返す。

 

「ツバキ!!ヤマトさん!!」

「あ、ノリコー。何処行ってたの?」

 

ずらずらとトレーナー達を引き連れてノリコがやって来た。

 

「大変なことになってる!」

「どうしたの?」

「街から出られない!!」

「なんですと!?」

 

*

 

街に掛けられた大きな橋の先は霧で覆われていた。

一人のトレーナーがドンカラスで"きりばらい"を試みるも効果は無し。霧の中へと向かって行ってもいつの間にか元の場所に戻って来てしまうらしい。

サトシとピカチュウが果敢にも霧へ向かって走り出したのを見送ったが、すぐにサトシとピカチュウは戻ってきた。

 

「外に繋がってないんだねぇ…」

「こうなったら仕方無い!!ポケモンセンターに戻ってすぐにシンヤさんに電話だ!!電話!!ゴーゴー!!」

 

ツバキが走り出したのでヤマトは慌てて追いかける。

 

「ツバキちゃん!ちょっと待ってー!!」

 

走って行ってしまった幼馴染達を見てノリコは溜息を吐いた。

 

「お兄ちゃんに電話なんて一番にしてるってばー!!ツバキー!!」

 

走って行ったノリコを見送ったサトシ達は顔を見合わせる。

 

 

「「「お兄ちゃん?」」」

 

 

*

 

アラモスタウンに入れない。

近くのポケモンセンターに移動してアラモスタウンのポケモンセンターへ連絡を試みるが電話が繋がらない。

困ったな、と呟いたシンヤは足を組み窓の外を眺めながらコーヒーを啜った。

 

「兄ちゃん、困った人間の行動として間違ってる」

 

何、優雅にコーヒー飲んでんだよ。周りの女子の視線集めてんなこの野郎。とカズキは額に青筋を浮かべた。

 

「私は凄く困ってる」

「オレなんて困り過ぎて水も喉を通らないから」

「脱水症状には気を付けろよ」

「そういうことじゃなくて…」

 

ガクンと項垂れた弟を見てからシンヤは小さく息を吐く。

目的の地、アラモスタウンは異空間へと消えてしまったのか中に入れない。アラモスタウンに居るノリコ達がどうなっているのかも分からない。

原因は空間を司るポケモン、パルキアであろうことは間違いないだろう…。

でも、どうしようもない。

 

「アイツに直接会えたら話は別なんだがな…」

 

物思いに耽るシンヤ。

ポケモンセンタ―内は異常現象にジュンサーも駆け付けて大騒ぎなのだがシンヤは特に気にしていなかった。

 

「ジュンサーさん!!うちの兄貴がこんな時にぼけーっとしてるんです!!叱ってやってください!!」

 

カズキがジュンサーさんに泣き付いた。

シンヤさんに弟くんが居たのねぇ、なんて感心するジュンサーさんにそこには触れなくて良いです!とカズキは首を横に振る。

ぽん、と胸を叩いたジョーイが任せなさいとシンヤの方へと向かって行った。

 

「シンヤさん!」

「……」

「…」

「…」

 

無言で戻ってきたジョーイが照れたように笑った。

 

「憂いを帯びたシンヤさんの横顔が素敵だったわ…!」

「もう!ジョーイさんってば!!」

「ジュンサーさんも見て来ると良いわよ!!今なら無反応だもの!!」

「えー!!でもー…」

「キャッキャッすんな!!!畜生!!」

 

ジョーイとジュンサーに怒るカズキ。

この異常事態に何やってんだ!!と怒鳴る姿は兄の姿によく似ている。

 

「兄ちゃんも真面目に考えてくれよ!!ノリコが危ないかもしれないんだぞ!?」

 

ツバキは良いのか?と内心疑問に思いつつもシンヤは渋々と立ち上がった。

 

――ズキンッ、

 

胸に鈍い痛み。

咄嗟に胸を押さえてシンヤはその場にしゃがみこんだ。

 

「兄ちゃん?」

「…ッ、」

 

――ズキンッ、ズキンッ

 

痛いっ…。

だんだんとシンヤの呼吸が荒くなって来た事にジョーイが慌ててシンヤの傍へと駆け寄った。

 

「シンヤさん!!大丈夫ですか!?」

「胸が、痛い…ッ」

「心臓の辺りですか?奥の部屋まで歩けますか?」

 

ズキン、ズキン、ズキン、胸の痛みにグラリと視界が揺れる。

急に何だ。どうなってる。

痛む胸を押さえながら立ち上がるが嫌な汗が額を伝う。脳がグラグラと揺れていて目の前に居るはずのジョーイの顔もはっきりと確認出来ない。

これは、まずい…。

 

 

「おっと!」

 

倒れかけたシンヤの腕を掴み、そのまま肩に担いだ男を見てカズキは大きく口を開けた。

 

「やあ、久しぶりだね。カズキ」

 

旅先で知り合った男の姿にカズキは笑みを浮かべた。

青い帽子に青いマント、彼の連れたルカリオと熱いバトルを繰り広げたことは今でも鮮明に思い出せる。

 

「ゲンさん!!」

「こんな所で偶然会えたのは嬉しいけど、今はそれどころじゃなさそうだ」

「あ、兄ちゃん!?兄ちゃんしっかりしろ!!」

 

気を失ったシンヤをゲンとカズキが二人掛かりでポケモンセンターの奥の部屋へと運ぶ。

シンヤの顔色は悪い。呼吸も荒く、酷く汗をかいているその姿にカズキはうろたえた。

 

「カズキのお兄さんがあの有名なシンヤさんだとは驚きだよ」

「あー、まあね。兄ちゃんの話しても大体信じてもらえないからあんまり言わないようにしてるんだ」

 

兄の額の汗を拭いつつ苦笑いを浮かべたカズキにゲンは「そう」と小さく言葉を返した。

苦しげに眉を寄せるシンヤの姿にジョーイは困惑する。

 

「ここまで急に体調が悪くなるなんて…、何か発作でもあるのかしら…」

「え!?」

「カズキくん、何も聞いてない?」

「全然…。っていうか、旅に出てからはあんまり兄ちゃんと会わなかったし…」

 

俯いたカズキの肩を叩いたゲンがニコリと笑う。

 

「少し、私が診ても?」

「ええ、構わないわ…。でも、」

「少し生まれつき特殊な力があるもので」

 

苦笑いを浮かべたゲンにジョーイは眉を寄せつつも小さく頷き返した。

そしてシンヤの傍に立ったゲンがシンヤの胸に手を当てる。ゲンの手に光が灯ったことにカズキは「うわ!」と声をあげた。

 

「彼の波動が酷く乱れているんだ。それを少しでも調和出来れば…」

「は、波動…」

 

驚くカズキを見てからゲンはシンヤへと視線を戻した。

兄弟であるはずの二人。

カズキは一般的な人間の波動を持っている、それなのに兄であるシンヤの波動はおかしい…。

人間の放つ波動じゃない、

大きく波打つそれは周りの世界全体と馴染むように広がっている。まるで彼が一個人の人間ではなく、世界の自然の一部であるような…。

 

「…ッ、は…」

「兄ちゃん!?」

 

うっすらと目を開けたシンヤの手をカズキが握る。

上下するシンヤの胸に手を置きつつゲンはシンヤの目を覗き込んだ。

 

「…ぁ」

「…ッ!」

 

ゲンは人知れず息を飲んだ。

瞳の奥に潜む膨大な力、渦巻く波動、深い…闇…。

 

「、ゲン…?」

 

呟かれたその微かな声に大きく鼓動が弾んだのは、何故…?

 

*

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