一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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ぼんやりと天井を眺めるシンヤ。

その傍に付き添う男、ゲンは天井を見詰めたまま動かないシンヤをチラリと見てから窓の外へと視線を向けた。

シンヤが目を覚まして少しすると消えていたアラモスタウンが戻って来たと知らせが入った。

それを聞いたカズキが荷物を抱え、モンスターボール片手にゲンに言った。

 

「妹の無事を確認してくるから!!ゲンさん、兄ちゃん見てて!!」

 

止める間も無くカズキはエアームドに乗ってアラモスタウンへと飛んで行ってしまった。

いや、別に良いんだけど…。と思いつつチラリとシンヤに視線を戻す。

シンヤの波動は穏やかな状態に戻っている。

でも、やっぱりその波動はまるで世界全体と溶け合う形で大きくゆったりと流れている…。

キミは何者なんだい?そう聞いてしまえれば楽になれるだろう。しかし、深い闇を潜めるあの眼と私は向き合えるのか…。

 

「…ぁー、気分はどうだい?」

 

気まずさに耐えかねたゲンがそう聞けばシンヤはゆっくりとゲンと視線を合わせた。

無表情だったシンヤの目が緩やかに細められ、小さく笑みを浮かべて言った。

 

「大丈夫だ」

「~~ッ!!!」

 

どくん、と大きく心臓が跳ねた。

自分の波動が乱れるのが分かる、それぐらい動揺した。

まるで生まれた時から決まっていたかのように心が反応している。テレビや雑誌、色々なところで見たことが会ったし知っていたのに…これでは、

これでは、まるで…、

恋をしているみたいだ。

 

「……」

 

黙り込んだゲンを見てシンヤはゆっくりと上半身を起こしてベッドに座った。

 

「波動使い、か?」

「あ、ああ…」

「そうか、そうだろうな…」

「?」

 

ツバキとヤマトはあんなにも違ったのにお前は変わらないんだな、とシンヤは小さく笑う。

きっと彼はどの世界でも波動使いとして生まれていたのだろう。そう思いつつシンヤはゲンと目を合わせた。

 

「私は今、どうなってる…?」

「どう、って…」

「どう見えてる…?」

「…!」

 

何が、なんて言わずとも分かった。

不安気に揺れる彼の眼。自分が感じていた異質さへの恐怖を更に感じているのは他でもない彼自身。

 

「キミの波動はまるで世界そのものだよ…」

 

そう言えば、彼は俯いた。

 

「アラモスタウンでの異常現象が原因なんだね?」

「多分な」

 

いや、きっとそうに違いないだろう。

彼は世界と同調している、世界の何処かで起きた大きな異変が彼の体を不調にさせた。乱れた波動が証拠だ。

 

「大きな宿命を背負っている、そうだね?」

「とても…背負いきれない…」

 

彼の手が小刻みに震えた。

その手を握れば手を握り返される。

 

「キミの波動が不安に揺れるのはキミに心がある証拠。私には全てを知ることは出来ない、けれどキミの波動が世界と同調していようともキミはここに居るただ一人の人間だ」

「……」

「怯えたって良い、泣いたって良い、でも逃げては駄目だ」

「…逃げたくない…、でも、逃げたい」

 

全てから、と小さく呟いたシンヤの頭をゲンはそっと撫でる。

 

「逃げだせば全てを失うんだ、それでも構わないと本気で思うのかい?」

「……」

「キミの傍には何も無いと言えるのか?」

「……」

「私は何も知らないから横暴な事を言っているかもしれない、それでもキミに逃げだして欲しくないんだ」

「私は…、どうしたら良い…?」

「…頑張れ!!」

「……」

 

とんでもない無茶を言われた、何もしらない癖に頑張れだなんて無茶苦茶なこと…。

それでも、やっと、

 

「、ははは…っ、無茶過ぎる…っ」

「ご、ごめんよ。でも…」

「良い。それで良い、ありがとう…」

 

答えが出た。

 

「ありがとう、ゲン。ここでお前に会えた私はツイてる」

「それなら良かった…。…ん?というより、なんで私の名前を?」

 

内緒だ、と笑ってみせたシンヤを見てゲンは首を傾げた。

 

*

 

過去に逃げだした事がある、とシンヤは言った。

遠くを見つめ自嘲気味に笑ったシンヤは黙ったかと思うと小さく頷いた。

 

「ゲン、…今度は頑張ってみようと思う」

「そう」

「色々と持ってるからな、今の私は」

 

穏やかに微笑むシンヤにゲンはもう一度、「そう」と返事を返した。

そしてシンヤは思い出したかのようにカバンを手繰りよせて大きなカバンをごそごそと漁った。

 

「ん」

「ん?」

 

シンヤが何かを差し出した。無意識に手を出してしまうのは人間の性だろう。

ぽん、と手に乗せられた紙を見てゲンは瞬きを数回繰り返した。

 

「改めて、私の名前はシンヤだ。よろしくな」

「えーっと、うん、私はゲン。こちらこそよろしく」

「それは私の連絡先だ」

「…うん、ありがとう」

 

でも急に何で?と首を傾げたゲン。

カバンを肩に掛けながら立ち上がったシンヤは不敵に笑う。

 

「せっかくだから、今度は私から渡しておこうと思ってな」

「???」

「またな」

 

ひらりと手を振ったシンヤが部屋を出て行く。それを見送ったゲンは「何が?」と小さく言葉を漏らした。

 

*

 

すっかり元に戻っているアラモスタウンへとやって来たシンヤは目当ての人間を探す。

そこで予想外の人間が居る事に驚いたシンヤは「は!?」と大きな声を出した。

 

「え!?あ!!シンヤー!!!」

「ヤマト?お前、なんでここに?」

「ノリコちゃんの応援でツバキちゃんと一緒にアラモスタウンに来てたんだよ!!そしたらね!!アラモスタウンにダークライが現れてね、悪夢が現実になってたりね、凄い事が起こったんだ!!全部、ダークライの仕業だと思ってたんだけど実は原因はアラモスタウンにパルキアが来ててね!!パルキアの強い力で空間が歪んだことによる異常現象だったんだ!!そのパルキアとねダークライが戦いだして、街がまた凄いことになってたらそこにディアルガが」

「もういい!!やめろ!!黙れ!!!」

 

お前、何処で息継ぎしてたんだ今の…と信じられないものを見るようにヤマトを見るシンヤ。

それでもヤマトはまだ喋り足りないのか「聞いて!!ちゃんと聞いて!!」とシンヤに詰め寄る。

 

「お兄ちゃーん!!」

 

そんなヤマトを押し退けてノリコがシンヤに飛び付いた。

シンヤさーん!!とツバキも便乗して飛び付いた。

 

「もう会えないかと思ったぁ…」

「生ダークライ、生パルキア、生ディアルガ見たー!!凄くない!?」

 

ツバキにどうでもいいと返したシンヤはノリコの頭を撫でる。

 

「で、パルキアとディアルガは?」

「なんだー、やっぱり知りたいんじゃーん!!」

 

にやにやと笑うツバキにイラッとしたシンヤはツバキの頬を抓る。

 

「サトシくん達が大活躍したんだよ!!勿論、僕もポケモンレンジャーとして出来る限りのことはしたけどね!!」

「パルキアとディアルガは」

「え?さあ?自分達の住処に戻ったんじゃない?」

「……」

 

捕まえ損ねた。とシンヤは眉間に皺を寄せる。そんなシンヤに「やっぱり生で見たかったんじゃーん」とにやにやしながら言ったツバキは更に頬を抓られた。

そんなツバキを無視してカズキがノリコに話しかける

 

「そういや、コンテストはどうなんの?」

「どうなんだろ?でも、被害的なのはパルキアが直して帰ってくれたからなんとも無いっぽいし…」

「じゃあ、コンテストはするんだな」

「だろうねー…って!!!そうだったらすぐに準備しないと!!お兄ちゃんも来てくれたんだから良い所見せる!!」

 

ポケモンセンターへ走って行く妹を見送ったカズキはやれやれと肩を竦める。

 

「あ、てか、ゲンさん」

「ポケモンセンターで別れたぞ」

「いやいや!!オレ、挨拶してない!!ちょっともう一回行ってくる!!」

 

バタバタと走って行く双子を見てツバキは「忙しないねぇ」と呟いた。

 

*

 

コンテストの準備が着々と進む。

ノリコの応援に来たツバキとカズキがノリコと共に会場へと行った後、ヤマトはふと気付いた。

あれ、シンヤは?

自分の幼馴染の姿を探してポケモンセンターを覗くもその姿は無い。ジョーイに声を掛けても見てないと返される。

何処行った。

色違いのユキワラシと一緒にアラモスタウンをうろうろと探し回っているとユキワラシが見付けた。

細い路地へと入って行くユキワラシを追いかけて、ドンドンと人影が少ない方へ進む。こんな薄暗い街の影になるようなところで何をしているのか、そう思ったヤマトの視界にやっと幼馴染の姿

 

「シンヤ?」

「…ん?」

 

医療道具を広げたシンヤの姿にヤマトは首を傾げつつシンヤの傍に座った。

 

「こんなところで何やってんの?」

「見て分からないのか?」

 

ほら、と示された先には医療道具がズラリ。

カバンの整理でもしてるの。と聞けば、アホか。と返される。

 

「ポケモンセンターに行けない、野生ポケモンの治療が私の仕事だろうが…」

「…それは、そうだけど」

 

そうだけど、と言いつつ周りを見渡すが野生ポケモンなんて見当たらない。

辺りを見渡すヤマトを見てシンヤが「ここだ」と指差した先はシンヤの影。

 

「……え」

「お前が来たからここに引っ込んだ」

「…え!?」

 

シンヤの影の中からギラリと見える光にヤマトは大きく口を開けた。

 

「無事だったんだぁ!!」

「ボロボロだぞ」

「あ、うん、それはまあ、そうなんだけど…」

 

死んじゃったかと思ってたし、とは言わずに口籠るヤマトを無視してシンヤはカバンに医療道具を片付けて行く。

治療は大体終わったらしい。

 

「あ、そろそろ会場の方に行かない?」

「そうだな」

「…なんか、元気無いね」

「私か?」

「うん」

「まあ、パルキアとディアルガに会えなかったからな」

「やっぱり生で見たかったんだね…!!」

「すまん、知り合いだ」

「…ッ!?!?なにそれズルイ!!!」

 

お前も知り合いで、向こうはお前のこと知ってるけどな。心の中でそう思いつつシンヤは悔しがるヤマトを眺めた。

 

「カイオーガと知り合いとかさー、パルキアとディアルガとも知り合いとかさー…シンヤ、ホントに何なのー…他にも知り合い居るんじゃないの!?」

「…居るけど」

「ホントに何なの!?」

「それだけ異質ってことだ」

「誰が!!」

「私が」

「………何処が」

「全てが?」

「…生まれた時からほぼずっと一緒と言っても過言では無い、僕とシンヤの何処がどう違うって言うの…」

「…全て?」

「何、顔なの?顔の造りからして頭の出来とかそういう違い…!?」

「何を意地になってるんだ…」

 

ぶつぶつと文句を言うヤマトを見てシンヤは眉を寄せる。

 

「シンヤはずるい…!!」

「…」

「僕に出来ないこと何でも出来るし、野生ポケモンともすぐ仲良くなれるし…!!」

「…」

「あ!でも、誤解しないでね!?」

「何が」

「文句言ってるけど、僕がシンヤのことを嫌いなわけじゃないからね!!」

 

好きだよ!!と真剣な顔で言ったヤマトに一瞬驚いたシンヤはふるふると肩を震わせた、かと思うと「ぶっ」と耐え切れずに噴き出した。

 

「お前、ホントにバカだな…っ」

「そこまで笑わなくて良いでしょ…」

 

少し恥ずかしくなったらしいヤマトが頬を赤らめながら眉を寄せた。

くすくすと笑いながらもカバンを肩に掛けたシンヤが立ち上がる。

立ち上がったシンヤを目で追ったヤマトは路地裏に射し込む太陽の眩しさに少し目を細めた。

 

 

「ありがとう、ヤマト」

 

 

いつもと変わらない声色だった。

でも、そう言って笑ったシンヤを見てヤマトは思わず息を飲んだ。

シンヤってこんなに、

こんなに無邪気に笑ってたっけ…。

 

「そろそろ戻るぞ」

「あ、うん!」

 

じゃあな、とダークライに声を掛けて先に歩いて行くシンヤの後をヤマトは慌てて追いかけた。

 

*





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(もう私は怖れない)
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