一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「なんだこのカルテの書き方は!!」

「私もラッキーもちゃんと把握してるから大丈夫なんです!!」

「他の奴は分からないだろうが!!」

「他のジョーイも分かりますー、シンヤさんの理解力が足りないだけじゃないのかしらー」

「…あー、はいはい、私が悪かった。頭の出来が宜しくない出来そこないジョーイに完璧なカルテを求めた私が悪いんだ。他のジョーイはまだ有能なのに全くズイと来たら…」

「……オホホホホホ、言ってくれるじゃないですか~」

「ははは、どうしたんだ今の顔、凄く美人だぞジョーイ。般若みたいで」

「いやん、お世辞なんて良いのよぉ……」

「私は素直な男だから世辞なんて言わないぞジョーイ」

「「……」」

 

ガッ、とお互いの胸倉を掴みあったシンヤとジョーイを観察していたミュウツーがふむふむと頷いた。

慌ててラッキーが二人の間に割って入る。

それでもシンヤとジョーイは普段見れないような形相で睨み合っている。ミュウツーはこんなシンヤは貴重だな、と読みかけの本を閉じて腕を組んだ。

ことの始まりは、宿泊部屋でサーナイト達があまりにもうるさいのでミュウツーに続いてシンヤも部屋を出たことだった。

部屋ではいまだギャーギャーと言い争いが続いている。主にブラッキーVSミロカロスだが、それに野次を飛ばすサーナイトとミミロップもうるさい。

やれやれと部屋を出たシンヤは外でばったりとジョーイと遭遇。

ポケモンセンター内なので当然と言えば当然。ニッコリと笑みを浮かべたズイのジョーイが仕事を手伝えとシンヤの肩を痛いくらい掴んだ。

渋々手伝いを了承し、仕事を片付けていればシンヤはシンヤでジョーイの仕事に姑のごとくケチを付け始める。それにジョーイが言い返せば誰もが視線を逸らしてポケモンセンターから逃げだして行く。

ポケモンセンターで殴り合いになりそうな勢いをラッキーが数匹掛かりで止めた。

そんな光景をミュウツーはただ腕を組んで眺めていたのだった。ミュウツーはとても愉快な気分である。

 

「今日という今日はそのムカツク綺麗な顔面をブーバー面にしてやるぅうううう!!」

「誰か―助けてー、メスのドゴームが襲い掛かって来たー」

「コノヤロォオオオ!!!」

 

ジョーイがシンヤに殴りかかる。

ラッキーが慌ててジョーイの腕を掴んだ時、ポケモンセンターにトレーナーが一人駆け込んできた。

 

「ジョーイさん!!助けてください!!」

 

急患だ。

ぐったりとしたパチリスを抱えたトレーナーを見てジョーイはすぐにラッキーに担架をと指示を出す。

シンヤはトレーナーからパチリスを受け取り、小さく頷いた。

 

「あれだな」

「あれですね、すぐに用意します」

 

あれ、とはなんだ。

シンヤとジョーイは目を合わせ、あれだのそれだのと言葉を交わしていた。

 

「ジョーイ」

「はい、分かりました」

「あと、あれもな」

「はい」

 

数十分後、元気になったらしいパチリスはトレーナーと共にポケモンセンターを出て行った。

 

「シンヤさん、あれ何処に置いたんです?」

「あのさっきのやつと一緒に置いてる」

「ああ、はいはい…」

 

後片付けも二人でテキパキとこなしている姿を見てミュウツーはふむふむとまた一人頷いた。

 

「これ洗っとけって言っただろ!!」

「今、こっちやってるんです!!」

「仕事が遅い!!」

「私の手は二本しか無いんです!!」

 

*

 

仕事を終わらせソファで本を読むミュウツーの所へシンヤがやって来た。

ああ、疲れた。とソファへ座ったシンヤを見てミュウツーが言う。

 

「ジョーイと仲が良いな」

「……何処がだ」

「あそこまでお前と息が合う人間なんて他に居ないんじゃないのか?」

「…は?」

 

何処が、何が、と嫌そうに顔を歪めたシンヤを見てミュウツーは笑った。

 

「喧嘩するほど仲が良い、という言葉を実際に見たのは初めてだった」

「私はジョーイが嫌いだ。それもズイのジョーイが特にな!!」

 

ぷんぷん!とても不愉快だ!と言わんばかりに怒るシンヤを見てミュウツーは「ぶふっ」と思わず噴き出した。

シンヤは急に笑い出したミュウツーに驚いて固まる。

 

「な、何が可笑しい…」

「別に」

 

肩を震わせているミュウツーを見てシンヤは眉間に皺を寄せた。

何なんだ、とシンヤが首を傾げた所で後ろから大きな声で名前を呼ばれた。その声に「あぁん!?」と普段出ないような返事をしたシンヤにミュウツーは更に笑う。

 

「シンヤさーん!!」

「もう私の仕事は終わりだ!!」

「そんなの誰が決めたんですか、これ片付けといてください」

 

ドサドサとテーブルに置かれた紙の束を見てシンヤが顔を歪める。

あとよろしく、とジョーイは冷ややかな声で告げて去って行った。

 

「ミミローを呼んでこないと駄目だ…、でも部屋に戻れば余計な連中もついて来る…」

「何をぶつぶつ言ってる」

「…あ!!………ツー、お前は出来る子だよな?」

「……は?」

「な!!」

「……は?」

 

*

 

ツーが出来る子で良かった。

生まれて来てくれてありがとう、ミュウの遺伝子万歳!!

シンヤが両手をあげて喜んでいる横でミュウツーはパパパッと積み重なった書類を片付けていく。

一度覚えれば後は速い。

手は二本、その両手が塞がっていてもサイコキネシスで書類は空中を移動し、ポンポンとリズミカルに押すべき場所に判子が押されていく。

その書類をシンヤが確認してサインを入れていく、完璧だった。

ものの数十分でジョーイに押し付けられた仕事を終えたシンヤはミュウツーの頭をよしよしと撫でる。

 

「やめろ」

「ミミロー3人分くらいの働きを数分でマスターするなんてお前は本当に凄い!!」

「見たままを実行したまでだ」

 

良い子良い子と頭を撫でられミュウツーは「やめろ」と口を尖らせるもののシンヤの手を振り払うことをしない辺り、ミュウツーもかなりのシンヤ馬鹿になりつつあった。

 

「おやつ作ってやろうか?」

「子供扱いするな」

「いや、うちの連中のご褒美は基本おやつだ」

「………幼児の集まりだな…」

「いや、むしろお前はまだ幼児の部類だろ」

「幼児じゃない」

「世間知らずの癖に」

「……」

 

昔の私みたいだ、とシンヤはミュウツーの頭を撫でた。

不満気に口を尖らせたミュウツーは黙り込む。

 

「ミロカロスなんて私より大分年上だからな」

「老体か?」

「ポケモンの寿命はまだ解明されてないからなんとも言えないが…、ディアルガとパルキアは更に年上でまだまだ若いぞ」

「私はどれくらい生きられるだろうな…」

「……長生きしてくれ」

「……」

「私が寂しくなるだろ」

「…努力しよう」

 

努力してどうにかなるのか、とシンヤが笑えばミュウツーも笑った。

 

ミュウツーと二人でのんびりと読書をしているとボロボロと泣きながらミロカロスがやって来た。

それを見てシンヤは顔を歪ませる。

 

「かたい~」

 

なにが?と問うたミュウツーにシンヤがブラッキーかなと返事を返す。

 

「半端なくかたい~…ありえない~」

「まあ、そう育ててあるからな」

 

お前もそこそこだぞ、とは言わずにシンヤは苦笑いを浮かべた。

 

「隣座れ、おやつやるから」

「ん、」

 

はい、とシンヤに手渡されたクッキーを齧るミロカロスを見てミュウツーが「幼児か」と吐き捨てた。

がりがりとミロカロスがクッキーを齧っていると「シンヤ!!」と怒鳴り声。

 

「オレにもくれよ!!」

「ツキ、お前も良いから座れ」

「おやつ!!!」

「やるから」

「よぉっしゃぁあああああ!!おやつぅううう!!」

 

口いっぱいにクッキーを頬張るブラッキーを見てミュウツーが口元を引き攣らせた。

 

「仲直りしたか?」

「…」

「むーお、ほぉおー」

 

何言ってるか分からん。

 

「お前たち普段は仲良いだろ、もう喧嘩するな」

「でもぉ!!」

「んーむぐっ、だってさぁ!!」

「まだ喧嘩するなら私は二人とも嫌いになる」

「「ごめんなさい」」

 

すみませんでした、と揃って頭を下げるミロカロスとブラッキーを見てミュウツーが「幼稚園か」と吐き捨てた。

 

「うちの連中はみんな素直な良い子なんだ」

「保父か貴様は」

 

*

 

手持ちの連中を全員ボールに戻して一息。

狭く感じていた部屋はミュウツーと二人になったので随分と広い。

 

「…モンスターボールの中って意外と快適らしいな」

「なんだ急に」

「いや、言ってたから」

 

ミミローなんてゴージャスボールだから居心地良いよって笑ってたからな。

私も一人きりの空間でのんびりしたい。

 

「私もボールの中に入って楽に運ばれたい」

「そのボールを開けてくれる人間が居ないと密室に閉じ込められたままになると思うがな」

「…ああ」

 

そういえばそうだな、とぼんやりとルカリオの事を思い出した。勇者アーロンとルカリオはどうなったんだろう、そもそもあの時のルカリオは……。

 

――ゴン、

 

「……」

「……」

「……痛い」

「ポケモンが入れて人間が入れないこの仕組みに今更ながら疑問を抱いた」

 

ゴツゴツとモンスターボールを私の頭に押し付けてくるミュウツー。真剣な顔でそんな事言われても私が知るか。

お前、変なモンスターボール作ってただろうが。

 

「人型になったポケモンもボールに戻せない、というのもな…」

「どうでもいい」

 

ミュウツーの手からボールをひったくってカバンに戻す。

必要な物は全部入れた、補充する分の医療道具も補充した、よしと大きく膨らむカバンを叩いて頷いた。

明日、ちゃんとギラティナの所まで行けるだろうか…。

ギラティナと会った後、私はちゃんと説明出来るだろうか…。いや、そもそもちゃんと聞いてくれるかの方が問題だが…。

はあ、と小さく溜息を吐いた所で部屋の扉が勢いよく開いた。

 

「シンヤ!!」

「…」

「…」

「酷いよ!!一人で逃げるなんて!!」

 

ヤマトだった。

半泣きで部屋に入ってくるなり私達の前で泣き崩れた。

 

「なんで僕がシンヤの結婚を心配しなきゃいけないのさ!!そんなの自分の結婚の心配したいよ!!」

「…」

 

またうるさいのが、と思ったのかミュウツーが腕を組んで壁にもたれかかった。

 

「シンヤのアホー!!」

「適当に逃げれば良いだろ」

「お母さんにそんな冷たい態度取れない」

 

いつミロちゃんと付き合っただのとうるさく聞いてくるヤマトを無視して、本を開く。

 

「無視すんな!!」

「うるさい。私に根掘り葉掘り聞くな」

「シンヤに聞かなきゃ誰が教えてくれるのさ!」

「知らなくていい」

「幼馴染だろ!親友だろ!」

「聞かないでくれるなら今度、珍しいポケモンを紹介してやる」

「え、ほんとぉ?じゃあ、良いけどさー!」

 

えへへ、と笑ったヤマト。

ミュウツーがポカンと口を開けてヤマトを凝視している姿は滑稽である。まあ、こういう単純な奴なんだ。

 

「そっちの人、シンヤの友達?初めて見るね」

「ツーだ」

「ツーさん?ツーくん?」

 

にこにことミュウツーに寄っていったヤマト。もうミロカロスとか母さんの事はいいらしい。

 

「僕、ヤマト。ポケモンレンジャーやってます。よろしくねー」

「…ああ」

「ツーさん、なんかシンヤに似てる」

「…そうか?」

「うん」

 

ミュウツーの手を握ってぶんぶんと無理やり握手をしたヤマト。今度、紹介しようと思った珍しいのがまさにソイツなんだけどな。まあ、今は黙っていよう。

 

「暫く遠出する予定で連絡付かないぞ」

「え!?め、珍しいポケモンの所に…!?」

「まあな」

「紹介してくれるんだよね!?楽しみにしてるからね!?」

「(向こうはヤマトの事知ってるけど…)わかった」

「やっほーい!!!」

 

両手をあげて喜ぶヤマトを物珍しそうに観察するミュウツー。

さて、予定通り何事もなくギラティナに会えるだろうか…。

ディアルガとパルキアの奴ら、まだ喧嘩してて…また倒れるなんて事にならないといいけどな…。影響って怖い。

 

「ツーさん、シンヤと何処で知り合ったの?」

「……その辺で」

「適当な返しだなー!シンヤの友達っぽいー!」

 

ヤマトは私の知り合いが人の姿をしたポケモンだって疑わないよな。やっぱり頭が悪いのだろうか…。

 

*

 

 

侵入者が居る…!

ちょろちょろと鬱陶しい人間が…!

シンヤの家を隠さないと、あの家だけは調べさせるわけにはいかない…。

 

ああ、でも、ディアルガとパルキアの奴らが暴れたせいで反転世界ぐっちゃぐちゃだし…。

なにやってんだよアイツら!

つーか、シンヤはなんともねぇのか?

無理やりねじ込まれたシンヤも少なからず影響受けてんじゃねぇかな…。

そこはディアルガとパルキアに任せるしかねぇからオレには分からない。

シンヤが無事なら良い。

 

無事なら良いんだけど…、

とりあえず、ディアルガの野郎とっ捕まえて話付けないと腹の虫が納まらねぇ。

あの爺!年甲斐もなく何暴れてんだ畜生!

 

「ギラァアア!!!」

 

*

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