一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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反転世界を狙う男、ゼロ。

男はギラティナの力をコピーして反転世界を自由に出入りし、反転世界を我が物にしようとしていた。

そこに居合わせたサトシ達の強力でゼロの野望を阻止する事は出来たが…。

捕えられたギラティナは一時、瀕死になり。

反転世界から現実世界を攻撃するという暴挙に出たゼロの行動にどちらの世界も大きな被害を受けた。

 

ギラティナの受けた痛み、苦しみ。

世界の受けた痛手。

 

離れた場所に居るシンヤにその反動が起こっている事をギラティナは知らなかった。

ディアルガの気配を察知して、空高く飛んだギラティナはディアルガの姿を見付けて怒りを込めて睨み付ける。

お前のせいで余計な事に巻き込まれた。

 

「ギラティナ、ついて来い」

「あぁん?その前に言うことあるだろうが!時間ループさせやがってクソが!」

「シンヤのことだ」

「!!!、…なんかあったのか!?」

 

*

 

一方、ギラティナが捕えられサトシ達がまだ奮闘している頃。

パルキアの空間内に移動したシンヤとミュウツー。

とても自分だけの手には負えないとシンヤのカバンからボールを取り出してミュウツーは他のポケモン達を外に出す。

 

「反転世界、着いた?」

「いや、マズイ事になった…」

「何かありましたの?」

「人間の治療は出来るか?」

 

ミュウツーの言葉にサーナイトは首を横に振る。

 

「ワタシは大体診れるけど…、治療はシンヤが専門だからそこまで出来ない」

「大体診れるなら診てくれ。私は医療知識はほぼ無い」

「人間を診るって…、まさかだよな?」

「そのまさかだ」

 

え?え?とミロカロスがキョロキョロと辺りを見渡した。

真っ白な空間、パルキアの傍で横になっているシンヤを見てミロカロス達は慌ててシンヤの傍へ駆け寄った。

 

「シンヤ!!シンヤ、なんで!シンヤ!!」

 

脂汗を浮かべ、荒く呼吸をするシンヤ。

 

「気を失う前に頭痛が酷かったのか嘔吐した…」

「頭痛?偏頭痛持ちなんて聞いたことないけど…。サナ、シンヤのカバン持って来て!」

「分かりましたわ!」

 

テキパキと指示を出すミミロップ。

えーっと、シンヤなら次はどうする。とぶつぶつと呟きながらも手はしっかりと動かしている。

 

「シンヤどうしたの!?なんでしんどそうなの!!」

 

ねえ、とパルキアに詰め寄ったミロカロス。

パルキアはもごもごと口籠る。

 

「この状況では仕方が無い。シンヤは自分で説明すると言っていたが私達の方で説明しよう…」

「そうだな…仕方無いよな…」

「落ち着いて聞いてくれ」

 

ミュウツーの言葉にミミロップが頷いた。

シンヤがこの世界に馴染み過ぎた事、人として生きられなくなった事、世界で起きた物事の影響を受けてしまう事、そしてシンヤが死んだ時この世界に大きな歪みが起こるであろう事をミュウツーとパルキアは説明した。

説明を受けたミミロップはポカンと放心状態。

言ってる意味が分からないとボソリと呟いた。

 

「全て事実!ノンフィクション!」

「黙れ、バカ!」

 

ビシリと指差されたパルキアがガクンと項垂れた。

 

「そんなのシンヤに負担掛かりすぎじゃん!このバカは責任取ってくれんの!?」

「取らせるからそこは問題無い」

「え…、取るけど…、なんか…いや、取るけど…」

 

元はと言えばお前らがやれって言ったんじゃん…とぶつぶつと文句を言うパルキア。ミロカロスが居る手前、大きな声では言わない。

 

「っ、ぅ、がはっ…!」

「血ぃ吐いたぁあああ!!!」

 

いやぁああああ!と横に座っていたらしいブラッキーが悲鳴をあげる。

ごほごほ、と咽るシンヤを見てミミロップが慌ててシンヤの体を横に寝かせる。

 

「ヨル!すぐに毛布で全身包んで!氷嚢欲しいからミロカロス!水をすぐにふぶきで凍らせろ!」

 

胸部冷やして、気道確保して…。ぶつぶつと再び呟きだしたミミロップの表情に余裕は無い。

シンヤの背を擦るトゲキッスは半泣きでそれを見ているチルタリスも今にも泣き出しそうだ。

 

「今のこの状況をどうにか出来ないんですか!?」

 

エーフィにそう言われたパルキアが「無理!」と即答した。エーフィは容赦なくパルキアにビンタを食らわせた。

 

「おおう…、うちのフィーちゃんがごめん…」

「役立たず!!」

「オレが何したってんだよ畜生ー!!」

「何もしてないから怒ってるんですよ!!」

「…っ!?…気の強い子も良いな…ぐっとキタ…!!」

「~~~~っ!!」

 

エーフィのグーパンチがパルキアに飛ぶ。

不安で苛立つのは分かるけど!グーはやめてあげて!とブラッキーが必死にエーフィを止めるもパルキアは容赦なく殴られる。

 

「シンヤさんが死んでしまったらっ、どうしてくれるんですか!!」

「それはこっちも困るんだよなぁ…。かといってどうすれば状況が良くなるかも分からない…」

 

だって、オレはギラティナみたいに世界の状況把握出来ないんだもん。と頬を膨らませたパルキアにエーフィは再び殴りかかる。

ブラッキーがエーフィを羽交い締めにして止めた時、サマヨールが焦ったようにミミロップを呼んだ。

 

「ミミロー…!!」

「な、何!?」

「主が左目を押さえてる…」

「え、何!?シンヤ?目、痛いの?どうした!?」

「ギラティナ…が、…」

 

苦しげにシンヤがそう呟いた時。ミミロップ達には把握出来ないがギラティナは瀕死の状態であった。

シンヤの左目にはまるで反転世界から様子を見るようにギラティナの倒れる姿、集まるポケモン達にサトシ達の姿を確認していた。

ディアルガもパルキアもギラティナも普通のポケモンとは違う世界の一部。世界を安定させる役割りを担うポケモン。

その一体、ギラティナの瀕死はシンヤに影響を与えるものだった。

 

苦しい、痛い、死にたくない。

 

ギラティナの声が聞こえる、シンヤ、シンヤと自分の名前を呼ぶギラティナの声にシンヤは涙を流した。

勿論、そのシンヤの心情が分かるわけもないミミロップは涙が出るほど痛いのだと思って慌てだす。

 

今すぐそこに行って、助けてやりたい。

ギラティナ、死ぬな…。

 

頭痛が酷過ぎて吐き気もする中でシンヤは思った。涙を流しながら願った、死ぬなギラティナ。

この時、シンヤは死がとても恐ろしいものだと実感した。

自らも体験して、今まで治療に携わったポケモンを全て助けられたわけじゃかった。そして一生、死ぬ事が出来ないかもしれない恐怖に震えたが……。

親しい者の死を目の当たりにするのはそれ以上に恐ろしかった。

 

見たくない、もう見たくない。助けられないのなら見たくない!

 

 

――パン、と弾ける音がした。

 

 

*

 

結果的にギラティナは助かった。

シェイミが咄嗟に放った技、アロマセラピーでギラティナが回復したとサトシ達は喜んだ。

……だが、ギラティナを回復させるのに払った代償は違った…。

アロマセラピーは状態異常を治す技で回復技ではない。

 

パルキアの空間内でパンと弾ける音が聞こえた。

驚いたミミロップがシンヤを見れば、シンヤの左目が破裂して血が溢れ出している。

 

「!?!?」

 

シンヤは左目を代償に支払った。無意識での行動だが、技で言うと「いやしのねがい」に近いものがあった。

自分の主人であるシンヤの左目が潰れている、その状況にミミロップは酷くうろたえ涙を流し震えたがシンヤは小さく笑みを浮かべそのまま気を失った。

 

*

 

シンヤの意識が再び無くなった。

左目が潰れているという事に気付き一番慌てたのはパルキアだった。

 

「ヤバイ!シンヤのこの怪我で歪みが起きるかもしれない!五体満足、健康状態で居てもらわないと…ヤバイって!!」

「そ、そんな事言われたって…!!完全に潰れてるんじゃどうしようも…!!」

 

「俺様の目をシンヤにあげて!!」

 

ミミロップの震える腕を掴んだのはミロカロス。

ミロカロスにはパルキアが言う世界の歪みだとかそんなことはどうでもいい。ただシンヤの身体の一部が欠ける、それだけが嫌だった。

シンヤが良ければそれでいい、シンヤが無事ならそれでいいから。

 

「俺様の目をシンヤにあげて!!」

「でも、そんなの…」

「移植手術をここでしろって言うんですの!?」

「抉っても良いから!!」

「良いわけあるかぁ!!それにお前、隻眼になるぞ!?」

「ヨルとお揃いだろ!!分かってるよ!!早く!!」

 

いや、確かに結果的にはそうだろうけど…と口籠るミミロップの肩を揺する。はやくはやく、と。

 

「む、無理!!ワタシにそんな技術無い!!視神経繋ぐなんて真似出来ねぇ!!下手に繋げて腐らせるなんて余計リスク高いし…」

「俺様がアクアリングで回復させるから!!」

「……」

 

なるほど、とミミロップは思った。

無理やりな馬鹿発想でも通せば筋になるかもしれない、ミミロップは一瞬血迷った。

普段ならここで冷静になって切り捨てるがミミロップは錯乱していたし、他の奴ならどうでもいいがシンヤが片目で生活することになるのは嫌だった。

シンヤは、自分の主人は何に置いても完璧でなくてはならないのだ。理想を押し付けてはいるがシンヤはこれを裏切ったことは無い。これからも裏切って欲しくない。

 

「やろう…」

「しょ、正気ですの!?」

「ツー…お前、医療知識無くても人体構造の把握は出来てるよな?緻密な作業はワタシより上手いはずだろ…」

「……ああ」

「よし、ワタシが指示出す。ワタシは震えてメス握れないからツーが執刀しろ」

 

ミミロップの手はガクガクと震えていた。でもその本気の目にサーナイトは言葉を飲み込んだ。

 

「パルキア、シンヤの周りを無菌室にしたいから別の空間創って」

「ああ、任せろ!」

「ミロのアクアリングだけじゃ不安だから、フィーとツキも回復技で補助して…。

チルはしんぴのまもり、キッスはにほんばれで補助な…。ヨルとサナにはワタシとツーについて手伝ってもらう。

もし、最悪の場合があったら…。ワタシがいやしのねがい使ってぶっ倒れるからよろしく」

 

よし、やるぞ…と呟いたミミロップに皆が頷いて返した。

ワタシは出来る、よく思い出せ、今まで読んだ本の数々、シンヤが執刀した手術は全部見て手伝って来た。ツーは知識は無いが腕はある、ワタシが的確に指示を出せればやってくれる…。

大きく息を吐いたミミロップはキッとシンヤを見据えた。

 

「ミロの左目に麻酔を打って効いてくる間、シンヤの左目の処置を行う!」

 

*

 

ハッキリ言って一か八かだった。

シンヤが左目を失った事について世界に歪みが起こるのかも定かではない、それでも、シンヤを隻眼にするわけにはいかないという主人へのポケモンたちの愛ゆえだった。

自分達は傷付いても良い、何処が欠けたって良い、でも主人であるシンヤだけはそうであってほしくない。

メスを握るミュウツーの額の汗をサーナイトが拭った。

見落としてなるものかと大きな目でミュウツーの手元を見るミミロップが的確に細かく指示を出す。

 

「よし、そこを繋ぐ。ヨル、ライトこっち」

「わかった」

「大丈夫だ…。上手くいってる…、回復も間に合ってる、視神経もちゃんと繋がって機能するはずだ…」

 

シンヤの左目にはミロカロスの左目が移植された。

ミロカロスの左目はぽっかりと穴が開いたがそこには後日、ミミロップが義眼を入れることになる。

そしてシンヤの左目はミロカロスの右目と同じ色になった。同じ赤色。

麻酔でぼんやりするミロカロスにミミロップは泣きそうな顔で笑った。

 

「出来たよ。これで視力があれば完璧」

「大丈夫だと良いなぁ…」

「そうだな」

 

へらりと笑ったミロカロスの頭を撫でたミミロップは堪え切れず泣きだした。

緊張の糸が切れたのかぼろぼろと、

ミミロップが泣きだした事に釣られて、耐えていた連中もぼろぼろと泣きだした。

 

「シンヤ、元気になると良いなぁ…」

「そぅだな、っ」

 

パルキアもミュウツーも泣きだした面々を見て安心して泣いているのだと微笑んだが、それは違う。

この涙は安堵でもあったが敬意を含んだ畏怖の念を抱いたものから出た涙であった。

 

コイツは、ミロカロスは凄い。と…。

 

ここに居る連中でシンヤの左目が潰れたという事実に恐怖を抱かなかった者は居ないだろう。恐れ、絶望した。

でも、咄嗟に自分の目を、と言葉が出たかと言うとそれは出なかった。実際、ミミロップの脳裏には本物と違わない義眼を用意する事が過っていた。

 

きっとミロカロスはシンヤの欠けた部位が何処であれ一番に躊躇なく発言しただろう。

そのミロカロスの行動にミミロップは涙を流した。そして心から尊敬した。

 

*

 

暫く経った頃、ディアルガがギラティナを連れて戻ってきた。

左目に包帯を巻いたミロカロスとシンヤを見てギラティナは泣きそうに顔を歪めた。

道中、ディアルガから説明を受けたギラティナは眠るシンヤの手を握って俯いた。

 

「シンヤ…っ」

 

死ぬんだ、と思った時によぎった唯一の人。

シンヤの声が聞こえた気がした、と思っていたが気のせいなんかじゃなかった。

オレの代わりに…左目を潰したんだ…!!

長く生きたギラティナの直感だった。そして、その左目が欠けていない事が震えるほど嬉しくて堪らなくなった。

 

「ごめんな…シンヤっ、オレがこの世界に生まれて来る案を出さなかったらこんな事に巻き込まなかった…!!本当にごめんな…、それは謝る。でも、間違ったことはしてない。これで良かった…。結果的にシンヤを苦しめる事になるかもしれないけど、オレは後悔してない!!

必ずお前を、守るから…っ」

 

永久にこの世界を見守り、安定させ続けるから…。

ぎゅ、とギラティナがシンヤの手を握った時。シンヤの右目がゆっくりと開く。

 

「シンヤ…!」

「ギラティナ…、無事で良かった…」

「…っ、!!」

 

世界が安定してシンヤの体調もすっかり良くなった。回復技を受けていたことによって痛みも損傷も無い。

体を起こしたシンヤは左目が塞がれていることに首を傾げた。

 

「なんだこれは?」

「あー…うん、びっくりすると思うけど、シンヤの左目が潰れてさ」

「…ああ、」

 

あの音、潰れた音か。とシンヤは一人納得した。

 

「ミロの左目を移植したんだ」

「…は?」

「俺様の目、シンヤにあげといたよ!」

 

へらへらと笑うミロカロスもまた左目に包帯を巻いていた。

驚き過ぎて言葉が出て来ない。こういう時、何を言えば良いのかと考えるがやっぱり言葉は浮かんで来なかった。

 

「緊急事態だったからな、事情も私達で説明した」

「…そう、か」

 

やっと出た言葉。

知ってしまったのか、驚いただろうな。何を思っただろう。

 

「シンヤは大丈夫なの…?ワタシは、まだ信じられない…」

「…」

「俺様、別に良いよ!!シンヤ、ずっとここに居るし!!」

「…っだぁ!!お前は分かってねぇんだよ!!事の重大さが!!」

「なんで?シンヤもう消えたりしないんだろ?」

「それはそうだけど、そういう問題じゃなくなったの!!」

「なんで?」

 

ミミロップの言葉にミロカロスは首を傾げる。

シンヤが何処にも行かないなら良いじゃん、とミロカロスは笑った。

 

「私は大丈夫だ」

「シンヤ…」

「もう逃げない、頑張るって決めたからな」

 

大丈夫だ、ともう一度言って笑ったシンヤを見てミミロップは眉を寄せた。

でも、と呟いた言葉の続きはぐっと飲み込んだ。

ワタシ達が死んだ後、どうするの?そんな言葉はとても口に出せなかった。

きっと寂しい。

みんな、死んで…一人になってしまう。バカでも分かる、それがどんなに辛くて寂しいことなのか。

普通には生きられない。年を取らない人間が平凡に生きていけるわけがない。

ディアルガ、パルキア、ギラティナは約束通りシンヤを守り続けるだろう。世界を安定させる為、シンヤを苦しめないように世界を見守りシンヤを生かし続ける。

ワタシ達は違うんだよ、という言葉が出そうになりミミロップは唇を噛み締めた。

 

「シンヤが、それを受け入れるなら俺も受け入れます…。俺の命尽きるまでシンヤの傍に居ます…!」

 

トゲキッスが泣きながら言った。

それにシンヤは「ありがとう」と笑って返した。

あまりにも痛々しい。

自分達が尽くせば尽くす程、シンヤは孤独になるんじゃないか。シンヤは一人で本当に耐え切れるのだろうか。

なんと言葉を掛ければシンヤは安心するのか、考えてみたって答えは出て来ない。

自分達も永久に生きさせて、と言ったってディアルガは首を縦に振らないだろう。そんなこと分かってる。そんなこと当然だ。自分がディアルガの立場なら頷かない。

不可能なものは不可能なのだ。

ぼろぼろと泣く自分達を見てシンヤは何と思うだろう。悔しい、悔しい、と誰もが口を閉ざした。

でも…、

ミロカロスだけは笑ってシンヤの手を握った。

 

「シンヤ!!ずっとここに居てね!!約束だからね!!」

「…ああ、約束したもんな」

「うん。した!!俺様、死んじゃった後もシンヤと一緒に居たいなぁって思う!!」

「…嬉しいよ」

「ほんと!?じゃあ、俺様が死んじゃった後に寂しくなったら鏡を見てね!!俺様、シンヤの左目にずっと居るからね!!!」

「!」

「寂しくないよ!!」

 

ずっと一緒だよ、とシンヤに抱き付いたミロカロスをシンヤが震える手で抱きしめ返した。

ぽろり、とシンヤの目から涙が零れ落ちる。

 

 

「ありがとう、ミロカロス…っ、」

 

 

やっぱりコイツにだけは敵わない、ミミロップ達は笑みを浮かべた。

 

 

*

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