一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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数日後、両目を開ければ片目には見慣れた赤があった。

それを見て満足気に笑うミロカロスの左目にも同じ赤。

完璧な義眼を用意してやるぜ!と言い放ったミミロップの成果でミロカロスの両目は全く違和感の無い普段通りのものとなっていた。アイツ凄いな。

別に私は隻眼になっても良かったのに…なんて言葉をついポロリと口にしたら聞いていた周りから堰を切ったように言葉が飛んできた。

シンヤだけはダメ、こっちが耐えられない。

懐き度マックスのポケモンはこわい。そんな泣きながら説得されたら頷くしかない。

 

「シンヤの目がオレのせいで潰れたとか…、一生片目とか…、オレ、死んで詫びるしかねぇよ…」

 

そして、ギラティナが激しく鬱になった。

普段は普通なのにこの話題を出すと途端に鬱になる。精神的に危険だと判断した為、この話題は二度と出さないと誓った。

私はそこまで気にしてないのに。むしろ、ミロカロスがケロリとしていることに若干引いた。

色々あった。これからも色々な事があるであろう事は予測出来る。

それでも今もこれからも残る限りの日々を今まで通りに過ごすことを、約束して笑いあった。

 

一度諦めた私が戻って来た。ここがスタート地点だ。

 

 

 

――頑張ろう。

 

 

*

 

「あ、ヤマトに連絡するの忘れてる…」

 

なんだとぉ!とアグノムが頭に飛んできたが無視。

遠出するから連絡出来ない。帰って来たら珍しいポケモン紹介してやる、とか言っておいてかなり放置してた。

しかも反転世界の家に引き籠ってポケモンフードとか大量に作ってたから何処の家に電話を掛けても当然繋がらない。

絶対に泣き喚かれる。

 

「よし、アグノム。ユクシーとエムリット呼んで来い」

< なんで~ >

「ヤマトに会わせてやる」

< ぃやっほーい!!!ヤマトだヤマトー!!やったー!!すぐ呼んで来るー! >

 

窓から飛んで行ったアグノムを見送って、そのまま窓から顔を出して庭でごろ寝しているギラティナに声を掛けた

 

「ギラティナ」

「んぁ?」

「ヤマト探せ。まだシンオウに居ると思うから」

「んー…、わかったぁ…ふあぁぁ…」

 

寝惚けながらもフラフラ歩いて行ったので大丈夫だろう。

うちの手持ち連中は各々で反転世界を出て、外を出歩いているようだがまあそのうち帰って来るだろう。

書庫に入り浸っているミュウツーに声を掛ければ本から視線を外さないまま返事が返って来る。

 

「ミュウツー、ヤマトに紹介しても良いだろうか?」

「あのやかましい男になら会った」

「お前がミュウツーだって紹介したいんだ」

 

ミュウツーが私の方へ視線をやった。

 

「そこまで信用の足る男なのか」

「私の親友だからな」

 

フン、とミュウツーが鼻で笑った。

 

「お前がそう言うなら構わない」

「よし、じゃあまた後でな」

「ああ」

 

書庫を出て、ディアルガとパルキアはどうするかと考えてみる。ヤマトに知り合いだと言ってしまっている手前、紹介しないとうるさいか…。まあそこはギラティナと相談してみよう。

問題はツバキだなと腕を組んだところで「シンヤー」と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。リビングへと戻ってみればミロカロスがこっちこっちと手招いている。

 

「なんだ、用件を言え」

「あのねー、俺様、チルと一緒に頑張ったんだー。シンヤがきっと喜ぶと思ってー」

「簡潔に」

「アップルパイ作った!!」

 

お前が食べたかっただけだろう。

どうだ、褒めろ。とでも言いたげな満足顔のミロカロス。これが所謂、ドヤ顔ってやつだろう。多分そうだな。

見て見て、と見せられたアップルパイ。良い感じに焼けてるな、と言ってやればフフンと満足気に笑って返された。

何故かイラッとしたが頭を撫でておいてやった。私は大人な対応が出来る男だからな。

 

「今日のおやつな!」

「一つじゃ足りないぞ?」

「……俺様とシンヤとチル、あとキッスも!!」

「四等分か…、あと四つ焼け」

「……」

 

ミロカロスは肩を落としてキッチンに戻って行った。エムリットは一つくらい丸ごと食べるだろ…。

あと、アップルパイは別に好きじゃない。

 

*

 

ミロカロスが途中で挫折したのでチルタリスとアップルパイを作っているとギラティナが戻って来た。

 

「ヤマト居たけど、どうする?」

「私が直接行って連れて来る」

「わかった、じゃあ近くに出入り口用意する」

 

隣でアップルパイ作りを見てたミロカロスにバトンタッチ。ザクザクとリンゴを大雑把に切り始めたのを見て少し考えたが、まあ…良いだろう。ちょっと気になったけど。

 

「なに?おやつリンゴ?」

「アップルパイだそうだ」

「ミロが食いたかっただけだろ、それ」

「シンヤが喜ぶの!!」

「へぇー、シンヤがアップルパイ好きとか初耳」

 

ああ、私もだ。

いってらっしゃいませ、と声を掛けたチルタリスにギラティナがリンゴを齧りながら片手を振って返した。リンゴ…。

 

「んー、このリンゴ酸っぱ!!」

「さっさと繋げろ」

「はいはい、仰せのままに」

 

いってらっしゃいませ、旦那様~。と人を小馬鹿にしながら道を創ったギラティナに見送られて外へと出る。

ああ、ポケモンセンター内だな。と背後を振り返れば鏡がぐにゃりと歪んでいた。さっさとヤマトを連れて戻ろうか。

 

*

 

どうやらヨスガシティ。

ジョーイに声を掛ければ「手伝いに来てくれたんですかぁ!」なんて猫撫で声を出されたので無視して隣に居たラッキーに聞く。

 

「ラッキー、ヤマト何処だ?」

「ラキラッキー」

「そうか、ありがとう」

 

じゃあ、とラッキーに挨拶して踵を返したところでジョーイに服を掴まれた。やめろ、伸びる。

 

「なんですか!!」

「それはこっちのセリフだ」

「ちょっと手伝ってくれても良いじゃないですか!!」

「私は忙しい」

「けちんぼ!」

 

言い方が可愛いな、ヨスガのジョーイ。

頬を膨らませて起こるジョーイの肩をポンと叩く。

 

「お前はズイのジョーイより可愛げがある。見逃してくれ」

「なんですかそれ、褒めてるつもりなんですか。全くそんなので見逃すと思ったら大間違いなんですからね!!」

 

ぷんぷん、今回だけですよ!!ぷんぷん!!と口でぷんぷん言いながら見逃してくれるらしいジョーイ。良い奴だなお前。

 

「そういえば、探していた旧友さんには会えたんですか?」

「ああ、会えた」

「それは良かったです。あとすっっごく聞きたい事があるんですけど」

「なんだ?」

「左目、真っ赤ですよ?」

「ああ…疲れで充血してな…」

「まあ、お気の毒に……って、なんでやねん!!」

「ナイスツッコミ」

「ふふふっ」

 

シンヤさん、なんか明るくなりましたね。なんて言われて思わず眉間に皺が寄る。

 

「そ、そうか?」

「ええ、少し」

「そうか…」

「シンヤさんの事ですから、色々あったんでしょうね。その目も素敵ですよ」

「…それはどうも」

 

詮索はしません、という意味だろう。ヒラリと手を振ったジョーイが宿泊室の方に片手を向けた。

 

「悪いな、今度手伝いに来る」

「素直なシンヤさんってス・テ・キ!」

 

ズイのジョーイもこれくらい出来る女なら良いのにな。

 

*

 

ラッキーに教えて貰った部屋の扉をノックする。

コンコンコン、と三回ノックすれば「はーい、どうぞー?」と間抜けな声が返ってきたので部屋へと入る

 

「ユキー!!」

「ぉわ!?シンヤ!!!」

 

椅子に座っていたらしいヤマトがガタンと立ち上がる。足元に走って来たユキワラシを抱き上げてヤマトの向かいの椅子に座った。

 

「まあ、座れ」

「あ、はい、失礼します…」

 

椅子に座り直したヤマトが「あれ?」なんて言って首を傾げたが無視だ。

 

「出掛ける準備はすぐ出来るか?」

「まあ、荷物持てばね」

「すぐ持て、そして黙ってついて来い」

「何故に!?」

「珍しいポケモン…」

 

ぼそりと呟けばヤマトはガタンと椅子を倒しながら立ち上がり荷物を持って部屋の外へと出た。

 

「早く!!早く!!早く!!!」

 

こういう時は行動が早いな。

ポケモンセンターを出ようとするヤマトの腕を掴んでそのまま引き摺る。困惑するヤマトを無理やり鏡の中へ放り投げた。

 

「うわぁ!?」

 

鏡の中へ消えたヤマトを確認してから私も鏡へ飛び込む。腕に抱えたユキワラシがオロオロしているのが可愛い。

反転世界へと入れば背後で歪みが消える。ギラティナが出入り口を閉じたのだろう。

足元ではポカンと口を開けて固まるヤマト。

 

「おかえり、シンヤー」

「ほあ?ここどこ?」

「破れた世界、反転世界、ギラティナの世界」

「ギラ、ティナ…」

「おう、よく来たな」

「ギラティナ?」

「なんだ?」

 

呆けるヤマトに視線を合わせる為、ギラティナがその場にしゃがむ。ポカンと間抜け面でギラティナを見上げたヤマトはガシッとギラティナの腕を掴んだ。

 

「ギラティナ!!ほ、本物の!?」

「え、偽物のオレとかいるの?」

「ポ、ポケ、ポケモンの!?」

「だ、大丈夫か、ヤマト…」

「僕の名前を呼んでるよぉおおお!?」

「落ち付けっ!!」

 

きゃああああと悲鳴をあげたヤマトは大興奮だ。そんなヤマトの奇行に驚いたギラティナが慌てだす。

 

「ポケモンの姿に戻ってやれ」

「え?ああ、分かった…」

 

頷いたギラティナが私の前で大きなポケモンの姿へと戻る。隣で見ていたヤマトは発狂した。

 

「ひぃいいいぎゃあああああ!!!!嬉しいぃいいいい!!!」

 

嬉しい悲鳴ってあるんだな。

 

「ありがとう、神様!!ありがとう、シンヤ様!!!」

 

なんかその言葉、嫌だ。

再び人の姿になったギラティナが「満足したか」とヤマトに笑いかける。

ヤマトは無言でコクコクと頷いた。

 

「シンヤ、本当に約束守ってくれたんだね…。僕は感激で涙が出て来た…」

「まだ居るぞ」

「……え!?」

「まだまだ」

「…えぇ!?」

 

なー、ユキワラシ。と腕に抱えたユキワラシにそう言えばユキワラシは分からないまま「ユキー」と返事を返してくれた。

 

「家は向こうだ」

「オレもアップルパイ食おう」

「家!?アップルパイ!?何を言ってるの!?」

 

*

 

家の前で待っていたらしい、アグノムがヤマトを見て嬉しそうにくるくると飛び回った。

そんなアグノムを見てヤマトが両手をわきわきと気持ち悪く動かしている。なんだその動き。

 

< ヤマト!! >

「アグノム!!」

< ヤマト~~!!! >

「アグノムゥウウ!!!」

 

ヤマト、お前…、本当に記憶無いのか?

アグノムを抱きしめたヤマトがハシャいでいる。なんか以前に見てイラッとした記憶があるんだが…気のせいだろうか…。

 

< 我、ヤマトに会いたかった~! >

「ぼ、僕に!?嬉しいよぉおお!!」

< 我も嬉しいぃいい!! >

 

傍で見ていたユクシーとエムリットは苦笑いだ。さすがのエムリットも便乗したくないノリのようだ。

 

< うーん、我はアップルパイ食べる >

< 放って置くんですか >

< どうでも良いしー >

< ……まあ、確かに >

 

エムリットが家へと入って行く。

頬擦りしあうヤマトとアグノムを見ていたギラティナの口も引き攣っている。私は心の準備をしていたから大丈夫だ。

 

「ヤマト、中に入れ」

「あ、うん!」

 

家の中へ入ったヤマトは辺りを見渡してポカンと口を開ける。お前、ずっと口開けてるな。

 

「ここ、住んでるの?」

「ああ」

「反転世界に?」

「ああ」

「シンヤって本当になんか凄い…!」

 

良い思いさせてもらってまーす、グッジョブ!!と親指を立てたヤマト。アグノムが真似して小さな手をあげた。

 

「相変わらずやかましいな…」

「あ、ツーさんも居る!!」

 

お久しぶり、ツーさんとヤマトがにこやかに笑う。そんなヤマトの肩を掴めばヤマトは笑顔のままこちらに顔を向けた。

 

「ヤマト、ミュウツーだ」

「何が?」

「ツーは、ポケモンのミュウツーだ」

「……はい?」

「ここに人間はお前だけだ」

「え…」

 

ヤマトの目の前でミュウツーがポケモンの姿へと戻る。ミュウツーの姿を見てヤマトが固まった。

目の前にはミュウツー、隣にはギラティナ、腕の中にはアグノム。周りにはユクシーとエムリット。

ヤマトの中で色々と制御しきれなかったのか、ヤマトはその場で倒れた。

 

< ヤマトォオオオオ!!!! >

「た、倒れた!!」

「笑ってるぞ…不気味な男だ…」

< アップルパーイ >

< ソファに運びましょうか…? >

 

ヤマトでこれだと…。ツバキ呼ぶの怖いな…。大丈夫なのか…?

 

*

 

暫くして復活したヤマト。

アグノムとアップルパイを楽しく食べている。そのあーん、ってやつをやめてほしい。ミロカロスが指をくわえて羨ましそうに見ているのが…、後々に面倒な事になりそうだからやめてほしい。

 

「いやぁ、僕はシンヤの幼馴染に生まれて良かったなぁって心底思ったね。人生で一番幸せ!!」

 

お前の人生しょぼいな。

 

「そういえばさー」

「なんだ」

「その目、どうしたの?」

「………今更?」

「シンヤの目なんてどうでもよくなる事が多過ぎて、聞くの忘れてた」

 

それは酷い。

 

「色々あったんだ」

「そっかー、色々かー、じゃあしょうがないなー」

「……」

「アグノム、ぷにぷにー」

< くすぐったい! >

 

コイツは心底、私のことがどうでも良いらしい。

そんなんで良いのか!?とギラティナとミュウツーがぎょっとしたようにヤマトを見ていた。

 

「それとな」

「うん」

「私、不老不死になった」

 

不死、ではないが。死んではいけないので不死で違いないだろう。

 

「不老不死かー」

「私は今の状態のまま、ディアルガに時を止められて生き続ける。生き続けなければいけない義務がある」

「はー…、言ってる意味が全く分からない!!」

 

アグノムを膝の上から横の椅子に置いてヤマトがこちらに向き直る。

 

「まあ、しょうがないことなんだ」

「いやいやいや、しょうがなくないよ!!なんで!?」

「色々あって」

「色々で済むわけないだろっ!!!」

 

バン、とヤマトがテーブルを叩いた。

テーブルの上の皿が跳ねる。

 

「そんな…そんなの僕、嫌だよ…!!一緒の年に生まれて、一緒に育って、一緒に同じだけ年を取って来たのに…!!一緒にお爺ちゃんになれないなんて、…っ」

「ヤマト…」

「これからも同じだけ年を取って、よぼよぼのお爺ちゃんになって、一緒に二人で若かった頃の思い出話しながらポケモン達に囲まれて…お茶を飲んでるんだろうなって、そう思ってたのに…!!」

「…」

「シンヤ…っ!!冗談なんでしょ?また僕を驚かせようとしてるんでしょ!?冗談だって、…言ってよ!!シンヤっ」

「…」

「…っぅ…、…生まれた時も一緒なんだから、死ぬ時も一緒だって思ってたのに…!!なんで…っ、なんでシンヤだけ…っ!!」

「ごめんな、ヤマト…」

「なんでそんな…っ、いつも勝手に決めて…!!」

「…」

「シンヤ…っ、シンヤ、の馬鹿野郎…!!ぅ、うああぁああ、わあぁあああああっ、ああああああ…っ!!!」

 

ヤマトはその場で泣き崩れた。

悲鳴のように声を荒げて、わんわんと泣いていた。

ヤマトの声があまりにも苦しそうで、私も苦しくなって息を詰まらせた。

こんな、

こんな反応が返って来るなんて予想してなかった。

苦しくてグッと歯を噛み締めた時、視界の隅にミロカロスの姿が見えた。泣き崩れるヤマトをミロカロスはただただ見つめていた。

そういえば、ミロカロスは一度も泣かなかった。

一番の泣き虫なのにミロカロスだけは泣いていなかった気がする…。

 

「……」

 

ヤマトを見つめていたミロカロスが顔をあげた。ミロカロスを見つめていた私と当然、視線が合う。

目が合った瞬間、ミロカロスは笑った。

にこりとミロカロスが微笑んだ時、苦しかった胸がすっと楽になって。息が出来た。

私は救われている、と実感した。

情けない、覚悟もして頑張ると言った癖に、息が詰まるほど動揺するなんて…。

 

「ヤマト、私は前に進み続ける」

「…っ」

「私は大丈夫だから…、笑って生きてくれ、親友…」

 

永遠に忘れないから、

私の為に尽くしてくれた仲間、私の代わりに泣いてくれた親友、私を愛し支えてくれた恋人を、

ずっと、ずっと…大事に抱えて生きるから。

片手を差し出せば、ヤマトは私の手を取って強く握った。

 

「シンヤ…っ」

「ジラーチにもう一度、会って…元気かどうかヤマトの代わりに見て来てやろう」

「…っ、ぅ…、うん、うんっ、可愛いポケモンが今よりもっと増えてるか、ちゃんと教えてよね…っ!」

「ああ、約束だ」

 

涙でぐしゃぐしゃなヤマトはぎこちない顔で笑った。それに私も笑顔を返す。

強く握りしめたヤマトの手が震えていたことを、私は忘れない。

 

 

ありがとう、親友――

 

 

*

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