一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「はぁぁぁぁ…、泣いたらスッキリした!」

「……」

 

目を腫らしてゴクゴクと水を飲んだヤマトの一言。

さっきまでの感動返せ。なんか悔しい。

 

< ヤマトー、元気出たかー? >

「うん、ありがとうアグノム」

 

ユキワラシとアグノムを両手に抱えて笑うヤマト。

まあ、元気に笑ってくれてるなら良いかと私もテーブルの上に置いたコーヒーに手を伸ばした時、「あ!」とヤマトが大きな声を出した。

 

「シンヤに相談あったんだ!!」

「めんどくさい事なら嫌だ」

「えぇっ!?今の流れで断る!?親友の頼みなら何でも聞いてやるぜ!みたいなノリじゃないの!?」

「そういうの私はやってない」

「そうだった!!僕の親友そういう奴だった!!」

 

コーヒーを飲んで小さく息を吐く。

 

「シンヤの薄情者ー!」

「とりあえず内容を言え、話はそれからだ」

「うん!まあ、凄く面倒な事なんだけど、実は…」

「凄く面倒な事なら嫌だ」

「とりあえず言わせてよ!!」

 

前置きに面倒な事って言うお前が悪い。と本題に入る前に口論になった。

そして本題が気になっていたらしいミュウツーにいい加減にしろと怒られた。面倒事を押し付けようとするヤマトが悪いんだ。

 

「じゃあ、言うからね」

「さっさと言え」

「…なんだよ偉そうに」

「こっちは聞いてやるって言ってるんだ」

「もうちょっと親身になって聞いてくれても…」

「お前達、本当にいい加減にしろ!!!」

 

また怒られた。

 

*

 

そして、

ミュウツーに怒られつつ話したヤマトの内容はこうだ。

街中で見掛けたブニャットを撫でようと近寄ったがそれは実はポチエナで、そのポチエナにはトレーナーが居たのだがそのトレーナーが全く話を聞いてくれない…。

 

「は?」

 

私が首を傾げればヤマトは「だよね…」と肩を落とした。

 

「どういうことだ?」

「あのね、ブニャット並に大きいの!!ポチエナが!!」

「太ってるな」

「そう!!太ってるの!!」

「で?」

「それで!トレーナーの女の人だったんだけど、その人にポチエナちょっと太り過ぎだから健康管理はちゃんとしてあげた方が良いよーみたいに言うでしょ!?」

「うん」

「そしたら!!私、ご飯を作るのが大好きなの。ポチちゃんも私の作るご飯大好きなの。って言うんだよ」

「…うん?」

「あの人、頭可笑しい!!」

 

ダンとテーブルを叩いたヤマト。急に叩くからテーブルの上に座っていたエムリットがビクリと跳ねた。

 

「可愛い可愛いポチエナが!!必要以上にご飯を食べさせられてブクブク太って!!ぽってぽってと歩く姿はそりゃもう可愛かったけども!!!」

 

コイツ、何を言っているんだ。

 

「あんな太ってちゃ体壊しちゃうよ!!可哀想だよ!!シンヤ、なんとかしてよ!!」

「まあ、過度な肥満は病気だしな…」

「治してあげて!!」

「ダイエットするしかないだろ。それもトレーナーが居るならそのトレーナーの協力は必要不可欠だ」

「あの人、頭可笑しいから絶対に無理だね」

「いや…人のポケモンを勝手に連れ出して治療するわけにはいかないだろ…」

 

そもそも、私は野生専門だし。

とりあえず会って話をしてくれ、家はちゃんと聞いておいたから、なんとかしてくれ、ポチエナの為に!!とヤマトに押し切られて渋々頷いた。

肥満はそのまま放置しておくと他の病気も引き起こす原因になるから、トレーナーに注意はしておかないと…。近くのポケモンセンターのジョーイにも伝えておいて来診してもらっても良いかもな。

 

「出掛けるか…」

「よし、行こう!!すぐ行こう!!」

 

*

 

ヤマトと共に頭の可笑しいらしいトレーナーの家へとやって来た。

あいにく、チルタリスとミロカロス以外は外出していたのでミロカロスだけ連れて来た。ミュウツーは聞きたがったわりに内容がつまらなかったのか書庫に引き籠ってしまった。

 

「じゃあ、ピンポン押すよ!?」

「良いから押せ」

「ひいいいい…!!お、押すからね!?」

 

何なんだ。早く押せ。

指先を震わせながらインターフォンの前で固まるヤマト。見兼ねたミロカロスが代わりに押した。

 

―ピンポーン…

 

「ぅううううわあああああ、押したぁああ!!」

「…?」

「うるさいな…」

 

少し待てばガチャリと玄関が開いた。

顔を覗かせたのは普通の女性だ。

 

「こんにちは、少し話をしたいんだが構わないか?」

「大丈夫、丁度ホットケーキが焼けたの」

「ホットケーキ…?」

「どうぞ、入って入って」

「あ、ああ…。お邪魔します」

 

理由も何も説明していないのに友好的に迎え入れられた。

黙ったままのヤマトが後ろをついて来るのを確認して家の中へ入る。家の中も普通、小物が多くて女性らしい部屋だ。

座って待ってて、と言われ大きなテーブルの前に座る。隣に座ったヤマトがずっと憂鬱そうな感じなのが気味悪い。

 

「シンヤ、ポチエナ居たよ」

 

ミロカロスの言葉に後ろを振り向く。

ほら、とミロカロスの指差した先には尻尾を振ってこちらを見るポチエナ。

 

「丸いっ!!」

 

ガタンと立ち上がってポチエナの体を触る。贅肉に指が沈むんだが…。なんだこれ。

 

「お待たせしました、たんと召し上がれ」

 

戻って来た女がテーブルにホットケーキを置いた。その量に隣に居たミロカロスが「うわぁ…」と声を漏らす。

おそらく三人分。大皿に高々と積み上げられたホットケーキ。

来る事を事前に言っていたわけじゃないのに焼けたそのホットケーキはどういうことなのだろうか…。何人の客が来る予定だったんだ…?

 

「さあ、ポチちゃんにもおやつですよ」

 

どん、と床に置かれた皿。

その皿の上はテーブルの上に置かれたものと同じ。高く積まれたホットケーキにミツたっぷり、アイスクリームとクッキーとフルーツがたっぷりトッピングされている。

おい待て。それ本気か。

 

「良い子はお残しせず食べるのですよ」

「がうっ!」

 

マジか!!!

 

「さあ、お客様も召し上がれ。おかわりはドンドン焼きますから」

「いや…、話をしよう!まず話だ!」

「美味しい美味しいホットケーキが冷めてしまいます、出来たてが美味しいんです、アイスクリームも溶けてしまいますよ、さあ召し上がれ」

 

さあ、椅子に座ってホットケーキを食べろ。と目で訴えて来る女。

 

「ま、まず自己紹介しないか…?」

「では食べながらしましょう。召し上がれ」

 

どうしても食べさせたいのか。

じゃあ、もう座るよ、食べるよ。

椅子に座ってフォークを握る。口に運んだホットケーキは…。

 

「うん、美味い」

 

私が頷いて言えば向かいに座った女はそこでやっと、にこりと笑った。

 

*

 

「私はシンヤ、ポケモンドクターだ」

「モモです、近くのスーパーで働いています」

 

どうぞ、とお茶を出されたのでありがたく頂戴する。横でミロカロスが黙々とホットケーキを食べていた。

 

「こっちの男は覚えているか?」

「ヤマトさん、ポケモンレンジャーの方ですよね。家を聞かれて、少し怖かったです」

 

えぇぇぇ…とヤマトが言葉を漏らしていたが放っておこう。

 

「率直に医者として言わせてもらう、モモ…、キミのポチエナは太り過ぎだ。ポチエナの食事を見直して肥満を改善する処置を取らなければポチエナはこのままだと死んでしまう」

「……ポチちゃんは、私の作るご飯が好きなの」

「作る量を減らす、もっとカロリーを控えて作る、ポケモンにはポケモンにあった食事…それを考慮して作ってやるのが愛情だろう。作りたいものを沢山作って、喜ぶからと作った分だけ与えていては自分の手でポチエナを殺してしまうぞ…」

「……ポチちゃん、死んでしまうの?」

「死なせない為に食事を変えよう。今このテーブルの上にあるホットケーキの山は体に良くない」

「でも、とても美味しいのに…」

「美味しくて体に良いものを作れば良い、モモなら出来る」

「私、出来る?」

「出来る。一から教えるから、ちゃんと覚えるんだ」

「はい。私、覚えます」

 

モモは頷いた。

真っ直ぐ私を見るモモを見て、私も頷き返す。

食事の改善、ポチエナにあったダイエットメニューを考えることにしよう。

 

「このホットケーキは、召し上がらない?」

「……ヤマト、食べろ」

「ぼ、僕…そんなに食べる方じゃないんだけど…」

「召し上がらない?」

「え!?いや、いただきます…」

「召し上がれ」

 

黙々とホットケーキを食べ始めたヤマト。

足元ではポチエナがホットケーキを食べきってお腹を更に膨らませていた。

 

「俺様、もう入らない…。お腹いっぱい!!」

「モモ、捨ててしまうのは勿体ないから焼いた分は持ち帰れるようにしてくれ。家に居る連中への土産にする」

「嬉しい、沢山持ち帰って召し上がれ」

 

基本、食べて欲しいんだな。そして自分は食べないんだな…。

キッチンへと小走りで行ったモモを見送ってカバンからメモ帳を引っ張り出す。

 

「運動もさせたいが、骨に負担が掛かるから軽いものからだな…」

「…もぐもぐ、シンヤ、説得上手だね。僕、全く話にならなかったのに」

「どうせ、お前の説明の仕方が悪かったんだろ」

「そんなことないよ!ぶくぶく太らせたらポチエナの体に悪いから沢山食べさせちゃ駄目って言ったんだよ!?」

「……」

 

そういうことを言われても食べさせてしまう人間だから、モモはポチエナをここまで太らせたんだろう…。

食べさせてはいけない、じゃなくて、食べさせても良い前提で話をしないと。食事を過剰摂取させたがる人間には意味がない。

モモは納得してくれてまだ良かった。人によっては何がいけないのかと逆ギレされるところだからな。

 

「ヤマト、お前…ポケモンに悪影響だからポケモンに近寄るなって急に言われたらどう思う?」

「意味が分からない、って思う」

「モモだってそう思った、それだけの事だ」

「……そういうものなのかな」

 

急に怒鳴って悪かったかな…と呟いて落ち込みだしたヤマトを放って置くとして…。

ダイエットをするにはモモの協力とポチエナのやる気が必要だ。

お腹を膨らませて横になっているポチエナの前に屈めばポチエナは視線だけこちらに向けた。

 

「ポチエナ、痩せよう」

「がーう」

「うん、痩せるからには今みたいな食べ物を沢山食べれなくなるぞ」

「がう!?」

「痩せる為には仕方ないことなんだ、頑張れるか?」

「きゃうん…」

 

弱気な返事だった。

えー、でもー、いっぱい食べたいーみたいな事をぶつぶつと零している。ポチエナの意思は弱そうだ。

 

「ダイエットメニューの他に特別なおやつも用意するから、頑張ろう」

「きゃう?がうがうっ!!」

「よしよし」

 

とりあえず、その気にはなった。

キッチンから戻ってきたモモからホットケーキを受け取り、モモにメモを渡す。

 

「これが今日の晩のメニュー。とりあえずカロリーを抑えてある、与えて良い量はそのメモの分量通りのものだから増して与えないように。他の間食も我慢してくれ」

「もっと減らして作れって言われると思ってたのに…、そこまで少なくないですね」

「最初の内はな、急に減らすとストレスの原因になるから時間を掛けて減らしていく。ダイエット用の料理、おやつに関しては明日また来て教えるから」

「はい」

「また、明日な」

「はい、よろしくおねがいします」

 

モモが頭を下げた。

じゃあ、と帰ろうと思った時に横に立っていたヤマトがモモと同じように頭を下げた。

 

「ごめんなさい、モモちゃん」

「…?」

「モモちゃんの気持ちを考えないまま、不躾に説教まがいの事して…怖がらせちゃってごめんなさい」

「…ヤマトさん」

「本当にごめん…」

「良いんです。ヤマトさんがポチちゃんのことを思って言ってくれたことですから、それにヤマトさんがシンヤさんを連れて来てくれなかったらポチちゃんを自己満足で苦しめているって気付けなかった…。

ヤマトさんは優しいです、良い人です、怖いなんて言って私もごめんなさい」

「モモちゃん…っ」

 

ヤマトはヤマトで反省して、モモはモモで反省してお互い分かり合えたようだ。

握手を交わした二人を見守った後、反転世界へと帰る為にモモの家を後にした。

 

 

「はぁー…モモちゃん、普通に良い子だった…」

「……」

 

いや、私が言うのもなんだが少し変わった子だと思うぞ。普通ではない。

 

「頭が可笑しいなんて言って悪かったなぁ…」

 

お前も大概だしな。

 

「……僕、モモちゃんのこと好きになったかも…!」

「は!?」

「だってさ!!あんな良い子、他に居ないよ!?」

 

いや、居るだろ。

 

「ポチエナのこと凄く大事にしてるし、料理好きで凄く可愛いしー…、僕のこと優しいとか言ってくれたし!!」

「…」

「明日も行くんだよね!?僕も一緒に行って良いよね!?」

「…あ、ああ…」

「レンジャー服以外の着て行こうかな~」

「…」

 

ヤマトが惚れっぽいのは知っていたつもりだが…。

単純で簡単な奴だな…、悪い女に騙されないと良いけど…。

 

「~♪」

「(不安だ…)」

 

*

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