一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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電話が掛かって来た。

はい、もしもし。と出れば画面にはゲンが映っていた。

 

<「やあ」>

「おー」

 

そういえば連絡先を渡したな、と思いながら会話をして時間があったらご飯でもと誘われたので了承する。

今日は外で食事して来るとチルタリスに伝えて医療道具の入ったカバンだけ持って出掛けた。

一人でお出掛け?とギラティナに聞かれたので頷いて、デートと返事を返しておく。

 

「じゃ、行って来る」

「見張ってるからな!!」

「うん、見張っててくれ、帰る時に入口作ってもらわないと駄目だからな」

「…あ、そんなノリか…おっけー」

 

*

 

『カフェやまごや』の前でホットミルク片手に空を見上げる。ここで待ち合わせしてると言ったら中の店員さんがくれた。

ホットミルクをこくこくと飲み干して、やって来た青い影に手を振った。

 

「やあ、シンヤ」

「相変わらず青いな」

「シンヤも黒っぽいじゃないか」

「たまにちゃんと白衣着るぞ」

「正装は大事だよ」

「……じゃあ、なるべく着るようにする」

 

良い子良い子と頭を撫でる振りをしてゲンが笑った。

 

「さてと、食事をするにしては少し早いし…何処か行こうか」

「そうだな」

「行きたいところはある?」

「バトルしない所」

「……なんでそんなにチクチクした言い方なんだい?」

「言っておかないと連れて行かれるから」

「何故だろう、罪悪感が沸き起こるこの気持ち…。覚えがあるような無いような…」

 

ううん、と唸りながら頭を抑えたゲン。

そのゲンの背中にでもぶら下がっていたのか肩からひょっこりと顔を出したリオルと目が合った。

 

「がぅがぅ!」

「…!コラ、リオル!」

 

誰だお前!と威嚇して来たリオル、手を伸ばして頭を撫でてやれば目を瞑ってきゃっきゃっと笑いだした。可愛い。

 

「シンヤだ、よろしくな」

「がーぅ」

 

可愛い可愛いと撫でくり回しているとゲンが笑った。

 

「ポケモンを前にすると波動が優しくなるんだね」

 

そんなこと言われても知らない。

 

*

 

街の方に行こうか、なんて言っていたがリオルに引っ張られ、草むらの中をガサガサと走りまわるリオルを眺めた。

ポケモンは街中を歩くより草むらを走る方が良いんだな…。

 

「なんかごめん、シンヤ…」

「いや、こういうのんびり出来る日も悪くない」

 

家に引き籠もりがちだったし。

地べたに座ってリオルを眺めていると何処かへ走って行ってしまったリオル。

ゲンが慌ててルカリオを出して一緒に探しに行く、その背を見送ってからごろりと寝転がった。

服が汚れるなぁとは思いつつも、土と草の香りに包まれて気持ちいい。

寝転がる私の傍を通りがかった野生のロゼリアと目が合ったのでお腹をつついてやった。仕返しにとロゼリアが私の頭に両手の花をわさわさと押し付けてくる。

やめろ、お前それ毒あるだろ。

 

「お前、香りが強いから元気だな」

「ロゼー」

 

良い香り…落ち着く。

家に一匹、ロゼリアが居ても良いかもしれない…。

私の腹の上に座ったロゼリアが体を動かす度に甘い良い香りが漂う。

 

「ロゼー」

「ロゼー」

「…」

 

あ、ロゼリア増えた。

 

*

 

勝手に走って行ってしまったリオルを捕まえてシンヤの所へと戻るがシンヤの姿が見えない。

辺りを見渡すとルカリオが草を掻き分けた。

 

「ガゥ」

「「「ロゼー!」」」

 

シンヤに群がっていたロゼリアが慌てて逃げて行く。

その場に残ったシンヤはすやすやと眠っていた。

 

「がーぅ!」

 

リオルがシンヤの隣に寝転んだのでどうせだから私も便乗させてもらおう。

シンヤの傍に寝転がれば甘い香りがした。ロゼリア達の香りだろう…、それがまた落ち着く。この状態ではつい寝てしまうのも頷ける。

 

「少し休むよ」

 

私がそう言えばルカリオは頷いた。

 

少しだけ…少しだけ…、

浅く眠りについた私は夢を見た。

今とは違う波導をまとったシンヤが居て、そんなシンヤを見て自分の波導が震える夢を…。

 

愛しいと切ないと震える波導……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲン」

「…!」

 

目を開ければシンヤの両目とパチリと目が合う。

黒と赤のオッドアイ。

会った瞬間に気付いたがその赤い目はどうしたのかと問うのはやめた。聞いて答えてくれたとしても私の中に残るのは少しの嫉妬心だけだろう。

知らなくて良い。シンヤの体の一部として生きる赤い目の存在なんて。

 

「どうした?」

「…」

 

私はどうしてシンヤに愛おしいという感情を持つのだろう。

どうしてシンヤの笑みに波導がこうも乱されるのだろう。

 

「シンヤ、私はキミを知っているのだろうか…?」

「…!」

「言葉としてどう表現して良いか分からない、自分であって自分じゃないような…私の中にあるこの感情は…」

「気にするな、魂が同じなだけだ」

「え…物凄く気になるんだけど…」

「気にしたってどうにもならないから、気にするなって言ってるんだ」

「…」

「でも…、覚えていてくれて嬉しいよ」

 

ゲンは何も変わらないな、と笑ったシンヤの言っている意味は全く分からないけれど。

私の頬を伝った涙は「嬉しい」という感情が込められていた。

 

*

 

「がぅー!」

「ロゼリア、はなびらのまい」

 

ごろごろと転がっていったリオルはロゼリアの攻撃をくらって目を回して倒れた。

やったやった、と喜ぶロゼリア。勿論、その辺で声をかけた野生のロゼリアだ。

 

「負けちゃったね、リオル」

「がーぅぅ…!」

「昼食代はゲン持ちだぞ」

 

リオルの特訓にと野生ポケモンとバトルをしていたのだが、

成り行きでリオルが勝ったら昼食代を私が全て払うということになった。まあ、別に構わないのだけれどあっさりと負けてしまうのは悔しいし、と野生のロゼリアに声を掛けた。

そして、勝った。

 

「ローゼ!ローゼ!」

 

ロゼリアにポケモンフードを渡し、手を振って別れた。

 

「何、食べたい?」

「うーん……」

 

*

 

シンヤが出掛けた少し後、少し遅く起きたミロカロスがリビングを見渡す。

キッチンへ行くとチルタリスが「おはようございます」と声を掛けた。

 

「シンヤは?」

「ご主人様はお出掛けされましたよ、外で食事をしてくるとのことでした」

「えー…ヤマト?俺様、また寝坊した…?」

「誰とご一緒かは存じませんが。少しお寝坊さん、ですね…」

「ちぇー」

 

困ったように笑ったチルタリスにミロカロスは口を尖らせる。

しょんぼりと落ち込んだ様子のミロカロスを見てチルタリスが提案した。

 

「ミロさん!お願いがあります!」

「え?」

 

たまご、だいこん、はんぺん、がんもどき…を買って来てください!

そう言ったチルタリスのお使いでスーパーまでやって来たミロカロス。

今日はおでんかー、とカゴにだいこんを入れながら思った。

 

「あれ、ミロちゃん?」

「…あ、ヤマト」

「シンヤと買い物?」

「一人。ヤマトがシンヤと一緒だったんじゃないのか…」

 

じゃあ、ツバキの所…?とミロカロスは首を傾げながら歩き出す。そのミロカロスの後を慌ててヤマトが追いかけた。

 

「ちょ、ミロちゃん!なんで置いてくの!?」

「俺様、買い物あるし」

「良いじゃん、僕と一緒でも!」

「うざーい」

「酷い!」

 

しくしくと泣き真似をするヤマトを連れてミロカロスはカゴにはんぺんとがんもどきを入れた。

あ、今日はおでんなんだと隣に居たヤマトが笑った。

 

「ヤマト、買い物しないの?」

「僕はモモちゃんに会いに来たから」

「あー、ストーカーって奴か」

「違う!!モモちゃんの仕事中にポチちゃんの運動を兼ねて一緒に遊んでたの!」

「ふ~~~ん」

「フィーくんとサナちゃんも一緒だから…」

「なーんだ」

「スーパーの裏に居るよ」

 

買い物したら一緒に行こうね、と笑ったヤマトにミロカロスは買い物カゴを押し付けた。

分かった。じゃあ、お前が持て。という事だろう。

 

「…後は何を買うの?」

「たまご!」

 

おでんのたまご、美味しいよね。と言うヤマトに頷き返したミロカロス。そんなミロカロスの腕をがしと誰かが掴んだ。

 

「!?」

「?」

「ミ、ミロちゃん…!」

 

エプロンを付けた男はこのスーパーの店員なんだろう。腕を掴まれたミロカロスは見知った顔の男を見て、首を傾げて聞いた。

 

「何か用?」

「ミロちゃんの友達?」

「ここのスーパーで働いてる奴、たまに会う。名前はタモツって言うんだって」

「へー、タモツくんかー」

 

こんにちは、と笑ったヤマトを見てタモツは口をへの字にした。

 

「(な、何故、睨まれるんだろう…)」

「たまご買いたいから放して?」

「あ、ご、ごめんね…!」

 

うん、と頷いたミロカロスは目に付いたたまごをヤマトの持つカゴの中に入れた。

これでチルタリスに頼まれた物は入れた。

 

「ヤマト、レジ行こう」

「あ、向こう!モモちゃんのレジなんだ!並ぼう!」

「空いてるとこが良いのになー」

「せっかくだから!ね!」

「待って!」

「「?」」

 

タモツの言葉にミロカロスとヤマトは後ろを振り返る。

 

「ミロちゃん…その人、か、彼氏なの…!?」

「え!?これの事!?」

「これ扱い!?」

 

酷い!と喚くヤマトを睨んでからミロカロスはタモツに視線をやる。

 

「俺様の彼氏はこれの何百倍もカッコイイ!!」

「せめて、倍くらいにしてくれても良いのに!何百倍とか酷いよ!」

「嘘吐いてない!」

「否定出来ない自分が嫌!」

 

なにこの扱いーと泣くヤマトを無視してタモツが眉を寄せた。

 

「彼氏、居るの…?」

「居るよ、世界一カッコイイ!」

「な、何タイプなの!?」

 

え、何その質問と思ったヤマトの隣でミロカロスは「人間だからタイプ無いよ」と答える。

ミロカロスの答えを聞いてタモツが笑った。

 

「人間なんてボクの敵じゃない!キミに相応しいのはボクだ!」

「えぇぇえ!?」

「うざいっ」

「必ずキミをその人間の男から奪ってやる!」

 

言い放ったタモツは走って行ってしまった。所謂、言い逃げである。

そんなタモツを見送ったヤマトはミロカロスに視線をやった。

 

「あんなこと言われちゃったけど…?」

「シンヤに近づいたらぶっ殺す」

「え、それ違うよ!答えとして違う!」

「俺様は勝てる!」

「いや、勝てるだろうけど…っていうか、タモツくんもポケモンなの?」

「見たら分かるだろ!」

「シンヤじゃないから分からない!」

 

ちゃんと教えて!と怒るヤマトにミロカロスは鬱陶しそうに顔を歪めながら答えた。

 

「メタモンだよ」

「なーるーほーどー!」

 

確かに相応しいね!と言って笑ったヤマトはミロカロスから結構な勢いで腹パンを食らった。

 

「ぉげふっ!」

 

*

 

「もう一度、仰ってごらんなさいなぁああ!」

「え、え、え…、ミロちゃんがタモツくんに略奪愛宣言された…」

「なんて羨ましい!」

「えぇぇぇぇ…」

 

ヤマトの胸ぐらを掴んだままサーナイトが涙ぐむ。

 

「夢がありますわ!一度で良いから言われてみたい!」

「タモツってあの売り場に出てるメタモンですよね」

「…ああ、あの冴えない感じの…、まあこの際、贅沢は言ってはいけませんのよ!ワタクシ的には完全に無しな部類ですけども!」

「確か、一緒の売り場にトレーナー居ましたよね。そっちの方にメタモン引っ込ませろって言いに行きましょう。ミロカロスの事云々はどうでも良いとしても、シンヤさんを下に見るなんて…片腹痛いです。原型無くなるまで殴るしかありませんね」

「物理で行きますわー!」

 

特殊技の方が得意ですが、あえて物理ですわー!とサーナイトが拳を握った。

ブラッキー呼んで来て、くろいまなざしをさせましょう。と言いながら立ち上がったエーフィをヤマトが止める。

 

「平和的に!平和的に行こう!」

「俺様はいつでも殺れる!」

「ミロちゃん!やめてあげて!」

 

キミ達の思考はシンヤに傾き過ぎてるよ!良くないよ!とヤマトが言えば「何が悪い」とエーフィがヤマトを睨む。

 

「主人の安全第一ですよ」

「ですわね」

「タモツくんの気持ちも考えてあげよう!シンヤなら大丈夫だから!タモツくんにちゃんと説明して和解してくれるから!」

「シンヤさんの手を煩わせる程じゃありませんよ」

「シンヤの敵はワタクシ達の敵ですわ!」

「本当にやめてぇえええ!」

 

*

 

「くしゅんっ!」

 

すん、と鼻を啜ったシンヤを見てゲンが首を傾げる。

 

「大丈夫かい?」

「すまん、食事の席で…」

「いや、それは構わないけど」

 

ずずず、とコーヒーを飲んだシンヤが小さく息を吐く。

 

「なんか急に出た」

「風邪っていうより、噂の方かな?」

「悪口だな」

「噂は悪いものだけとは限らないよ」

 

そうだろうか、と思いながらシンヤはもぐもぐと口を動かす。

 

「…シンヤ、美味しい?」

「普通だな」

「遠慮せずレストランでも良かったのに」

「面倒だったから近くで良い」

 

早いしな、と付け足したシンヤにゲンは苦笑いを返す。

ハンバーガーを頬張るシンヤなんて少し珍しいんじゃないだろうかと思いながらゲンはコーヒーを啜った。

 

「文句を言うならコーヒーが美味くないな」

「同感」

 

 

今度、美味しいコーヒーを飲みに行こう。

そう言えばシンヤは笑って頷いた。

 

 

*

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